説明

海洋深層水を利用したレトルトごぼう水煮の製造方法

【課題】海洋深層水をレトルトごぼう水煮の製造工程に利用することにより、乳酸カルシウムや塩化カルシウムなどの食品添加物を使用することなしに、レトルト殺菌後のごぼうの軟化を抑制する製法を提供する。
海洋深層水は、海洋深層水の原水、海洋深層水の脱塩ミネラル水、海洋深層水の濃縮水、海洋深層水のミネラル濃縮水、海洋深層水塩のいずれか一種類または、その組み合わせで利用することができる。
【解決手段】ごぼう水煮の充填液に海洋深層水を使用することにより、レトルト加熱殺菌後のごぼうの軟化を抑制するレトルトごぼう水煮の製造方法を確立する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトルトごぼう水煮の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ごぼう水煮は、例えば、図1に示す工程に沿って製造されている。すなわち、まず原料となるごぼうを流水で洗浄する(洗浄工程)。ついで、皮むき機を使用してごぼうの皮をむき(皮むき工程)、千切り、笹切り等にカット(カット工程)する。カットしたごぼうはクエン酸等のpH調整剤を含む溶液に浸漬して、pHを4.0〜4.5に調整する(pH調整工程)。pH調整したごぼうの一定量とpH調整剤を含む充填液を計量し、自動包装機で包装(充填・包装工程)した後、80〜90℃で加熱殺菌(加熱殺菌工程)を行い、ごぼう水煮商品が製造される。
【0003】
上記の工程で製造されたごぼう水煮は、炒め物や煮物などの具材として使用されているが、製造後常温で長期間保存・流通するには、充填液にpH調整剤などの食品添加物を使用して酸性(pH4.0〜4.5)にしているため、酸味を与えごぼう本来の味と香りが損なわれている。一方、pH調整剤を使用せず常温で長期間保存する方法として120℃前後でレトルト殺菌する方法があるが、高温処理によりごぼうが軟化して食感が低下する。
【0004】
野菜類を加熱殺菌する場合の野菜の軟化を抑制する方法として、乳酸カルシウムや塩化カルシウムなど二価の金属イオンを添加することにより、野菜に含まれるペクチン分子を架橋して硬さを保持することが報告されている。さらに、野菜を50〜60℃で予備加熱することにより、組織中のペクチンエステラーゼによってペクチン質が脱メチル化し、カルシウムやマグネシウムを結合させやすくして、不溶性のペクチン質を形成することにより軟化を抑制する方法が報告されている。しかし、本発明のように、海洋深層水中に含まれるマグネシウムやカルシウムを利用して加熱による野菜の軟化を抑制する方法は報告されていない。
【非特許文献1】日本食品工業学会誌第39巻733-737(1992)
【非特許文献2】日本家政学会誌第40巻995-1002(1989)
【非特許文献3】日本家政学会誌第40巻1003-1009(1989)
【非特許文献4】Journal of Food Science 52,1317-1320 (1987)
【非特許文献5】家政学雑誌第37巻1029-1038(1986)
【非特許文献6】日本食品工業学会誌第28巻653-659(1981)
【非特許文献7】日本食品工業学会誌第27巻183-187(1980)
【非特許文献8】日本食品工業学会誌第27巻234-239(1980)
【非特許文献9】家政学雑誌第20巻235-238(1969)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ごぼう水煮商品は図1に示す工程に沿って製造され、常温で長期間(約4ヶ月間)保存するためにクエン酸等のpH調整剤を使用している。しかしながら、クエン酸等のpH調整剤を使用した場合、味に酸味が生じることが問題である。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑み、ごぼうの味に影響を及ぼすことなく、レトルト殺菌後の軟化抑制が可能であるレトルトごぼう水煮の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明のレトルトごぼう水煮の製造方法は、海洋深層水に含まれるマグネシウムやカルシウムなど二価の金属イオンを利用してごぼうのペクチン分子を架橋することにより、ごぼうが本来有する味、食感を損なうことなく、適度な硬さを有するごぼう水煮を製造する。
【0008】
すなわち、本発明はごぼう水煮の製造においてマグネシウムやカルシウムを含む海洋深層水、海洋深層水の脱塩ミネラル水、海洋深層水の濃縮水、海洋深層水のミネラル濃縮水、海洋深層水塩の水溶液をごぼう水煮商品の充填液に使用することにより、レトルト殺菌による軟化を抑制する。
【発明の効果】
【0009】
本発明はごぼう水煮の製造工程において海洋深層水を利用することにより、乳酸カルシウムや塩化カルシウムなどの食品添加物を使用することなくレトルト殺菌によるごぼうの軟化を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のレトルトごぼう水煮の製造方法は、例えば、図2に示す工程に沿って行なわれる。すなわち、まず原料となるごぼうを流水で洗浄する(洗浄工程)。ついで、皮むき機を使用してごぼうの皮をむき(皮むき工程)、千切り、笹切り等にカット(カット工程)する。カットしたごぼうを、40〜60℃のビタミンCを含む溶液に1〜4時間浸漬(温水処理工程)した後、90℃以上で2〜5分間加熱する(ブランチング工程)。流水冷却(冷却工程)したごぼうと充填液を計量し、自動包装機で包装(充填・包装工程)する。上記充填・包装工程における充填液に使用する海洋深層水の量は、ごぼう100gに対して50〜150gの範囲に設定されていることが好ましい。また、海洋深層水の濃度は5%〜20%の範囲に設定されていることが好ましい。最後に、海洋深層水を含む充填液を充填し包装したごぼうを120℃以上で10〜30分間加熱殺菌(加圧加熱殺菌工程)を行うことにより、レトルトごぼう水煮商品が得られる。
【0011】
なお、上記の充填液として使用する海洋深層水は、海洋深層水の原水およびその希釈水、また、海洋深層水から塩分を脱塩した脱塩ミネラル海洋深層水、海洋深層水を濃縮した濃縮海洋深層水、海洋深層水のミネラル成分を濃縮したミネラル濃縮海洋深層水、海洋深層水から製塩された海洋深層水塩の水溶液などが使用できる。
【0012】
このようにして得られたレトルトごぼう水煮商品は、乳酸カルシウムや塩化カルシウムなどの食品添加物を使用することなく、レトルト殺菌後のごぼうの軟化を抑制することができる。
【実施例1】
【0013】
洗浄、皮むきしたごぼう50kgを長さ10cmのスティック状にカットし、蒸気二重釜で60℃に加熱した0.2%のビタミンC溶液100Lに浸漬し、40〜60℃で2時間温水処理を行った。その後、90℃まで加温して2分間保持した後、流水で冷却した。流水冷却したごぼう200gを計量し、海洋深層水10%を含む充填液100gといっしょに包装材(180mm×230mm)に入れ真空包装後、120℃、15分間の加圧加熱殺菌を行なった。同様に海洋深層水の脱塩ミネラル水を充填液に使用したレトルトごぼう水煮も調製した。海洋深層水は富山県滑川市の取水施設において富山湾の水深約300mから汲み上げた海洋深層水を使用した。また、海洋深層水の脱塩ミネラル水は、海洋深層水を富山県滑川市の取水施設において電気透析して製造したものを使用した。使用した海洋深層水に含まれる主なミネラルの含有量を表1に示した。レトルト殺菌後のごぼうの硬さは、クリープメーターRHEONER RE−3305、(株)山電)を使用して各サンプル20本の破断荷重を測定し平均値を、結果を図3に示した。海洋深層水を充填液に使用したごぼうは無添加のものと比べ破断荷重が約1.5倍になり軟化が抑制された。また、海洋深層水の脱塩ミネラル水を充填液に使用したごぼうも同様に軟化が抑制された。
【0014】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0015】
レトルトごぼう水煮を製造するにあたり、軟化抑制を目的に乳酸カルシウムや塩化カルシウムなどの食品添加物を使用するかわりに海洋深層水を使用するため、従来の製造設備をそのまま使用して製造することが可能である。また、原料コストも従来とほとんど変わらないため適切な価格で提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ごぼう水煮製造の手順を示すフローシートである。
【図2】レトルトごぼう水煮製造の手順を示すフローシートである。
【図3】海洋深層水で処理したレトルトごぼう水煮の破断荷重を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋深層水をごぼう水煮の製造工程に利用することを特徴とするレトルトごぼう水煮の製造方法。
【請求項2】
海洋深層水をごぼう水煮の充填液に使用することにより、レトルト殺菌後のごぼうの軟化を抑制することを特徴とするレトルトごぼう水煮の製造方法。
【請求項3】
海洋深層水に代え、海洋深層水の脱塩ミネラル水、海洋深層水の濃縮水、海洋深層水のミネラル濃縮水、海洋深層水塩のいずれか一種類または、複数を用いることを特徴とする、請求項1又は2に記載のレトルトごぼう水煮の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−27927(P2009−27927A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191836(P2007−191836)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(500426353)ヤマサン食品工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】