説明

海洋生物付着防止用塗料

【課題】フジツボ類その他の海洋生物の付着を防止することができるような塗料の提供。
【解決手段】船底塗料中に、濃度500〜1000ppmの二酸化塩素水溶液を、船底塗料10リットルに対して100〜150ml添加して混合し、この海洋生物付着防止用塗料4を船舶やボートの船底部、海洋構築物、海中設備などの表面に塗布することによって、フジツボ類8、ムラサキイガイ類、コケムシ類、藻類その他の海洋生物の付着を効果的に防止することができる海洋生物の付着を防止することができる塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶やボートの船底部、海洋構築物、海中設備等にフジツボ類やイガイ類、藻類等の海洋生物が付着するのを防止するための海洋生物付着防止用塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
海水中にある船舶やボートの船底部、海洋構築物、海中設備などの表面部には、海洋生物としてフジツボ類、ムラサキイガイ類、コケムシ類、藻類等が付着する。特に、船舶やボートの船底部に海洋生物の貝類等が付着すると、船底部における抵抗が増大し、航行速度の低下と、燃料消費の増大を招くこととなる。
【0003】
従来、海洋生物の付着を防止する対策としては、塗料中に有機スズ化合物を含有させたものが使用され、効果を挙げていたが、魚類に対する悪影響カが問題となり、結局、10年程前から使用が禁止されている。
そこで、海洋構築物などの表面を覆う被覆材の中に水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、水酸化ランタン等の塩基性物質を担持させ、これらの塩基性物質により被覆材の表面部の水の塩基性を高めることによって、海中生物の付着を防止する提案が為されたりしている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−255897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ヒトや魚にとって害が少なく、フジツボ類、ムラサキイガイ類、コケムシ類、藻類その他の海洋生物に対しては効果的に付着を防止することができるような塗料を得ようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、船舶やボートの船底部、海洋構築物、海中設備などの表面部に塗布される船底塗料に、二酸化塩素水溶液を添加して混合したものでは、二酸化塩素水溶液を含まないものに比べて、フジツボ類、ムラサキイガイ類、コケムシ類、藻類等が付着することが少ないことを見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成したものである。
本発明は、船底塗料中に、濃度500〜1000ppmの二酸化塩素水溶液を、船底塗料10リットルに対して100〜150ml添加して混合することにより、海洋生物の付着を防止することができる塗料とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、上記のように、船底塗料として用いられるものに、二酸化塩素水溶液を添加し、混合したものを、船底や海洋構築物などの表面に塗布することによって、フジツボ類、ムラサキイガイ類、コケムシ類、藻類その他の海洋生物の付着を防止することができ、また、ヒトや魚類に対して悪影響を与えることがなく、安心して使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】試験に供したFRP板の表面側に、船底塗料に二酸化塩素水溶液を混合した実施例の塗料を塗布した状態を示す吊紐の一部を省略した説明図である。
【図2】図1に示すものを海面下3mの位置に一定期間浸漬した後の状態を示す説明図である。
【図3】図2において塗料を塗布しない裏面側の状態を示す説明図である。
【図4】図1に示すものと同様にして、表面側に比較例の船底塗料のみを塗布したものを海面下3mの位置に図2と同じ期間浸漬した後の状態を示す説明図である。
【図5】図4において塗料を塗布しない裏面側の状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
船底塗料としては、一般に船底等に塗布するために提供されている各種の船底塗料を使用することができるが、特に、塗布した後の塗料が表面から経時的に微量づつ溶けて行くような自己研磨型船底塗料と言われているものを使用すると好ましいことがある。
【0010】
二酸化塩素は、各種の方法で得られるが、例えば、亜塩素酸ナトリウムに塩素ガスを反応させて作ることができる。この二酸化塩素は非常に水に溶けやすく、強力な酸化作用があるが、低濃度で使用すれば安全であり、こうしたことから浄水場における水道水用の消毒剤などとしても広く用いられているものである。
【0011】
この二酸化塩素は、通常、濃度50,000ppmとか60,000ppmとかの安定化した水溶液で提供されており、これを利用すると便利である。
こうした高濃度の二酸化塩素水溶液を水で稀釈することにより、濃度500〜1000ppmの水溶液を得ることができる。好ましくは、濃度600〜900ppmの水溶液にすると良く、更に好ましくは濃度700〜800ppmの水溶液にするとよい。
【0012】
上記稀釈した二酸化塩素の水溶液は、上記船底塗料10リットルに対して、100〜150ml添加して、良く撹拌し、均一な状態に混合して使用する。好ましくは、上記船底塗料10リットルに対して、110〜140ml添加し、更に好ましくは120〜130ml添加するとよい。
【0013】
こうした海洋生物付着防止用塗料は、船舶やボートの船底部、海洋構築物、海中設備などの表面部に塗布するようにして使用する。表面部に塗布する場合、一度塗布した後で乾かしてから更に塗布するという塗り重ねすると良いことが多い。何層に塗り重ねるかは、二酸化塩素水溶液が混ぜられた船底塗料及び塗布する対象物によるが、少なくとも2層に塗り重ねるとよい。
また、この海洋生物付着防止用塗料を塗布する場合、予めプライマー処理をしてから塗布するとよいことがある。
【0014】
こうして船底部などに海洋生物付着防止用塗料が塗布された船舶などが海水に漬かると、上記海洋生物付着防止用塗料から微量の二酸化塩素が放出され、この二酸化塩素の作用によって、フジツボ類、ムラサキイガイ類、コケムシ類、藻類その他の海洋生物が船底等の塗料面に付着することが妨げられ、船底などをきれいな状態に保つことができる。
船底塗料として、上記自己研磨型船底塗料を使用した場合には、塗料膜の表面が微量づつ減少して行くので、それにつれて二酸化塩素も継続的に放出されるから、効果的に海洋生物の付着を防止することができる。
【0015】
本発明の作用効果を見るために、下記の実施例及び比較例を用意し、下記する試験を行った。
実施例・・・船底塗料として、自己研磨型船底塗料(シージェット033;中国塗料株式会社製)2リットルを用意し、これに750ppmの二酸化塩素水溶液を25ml加えてよく撹拌し、均一な混合物とすることによって、海洋生物付着防止用塗料としたものである。
比較例・・・船底塗料として、上記自己研磨型船底塗料(シージェット033;中国塗料株式会社製)のみで、二酸化塩素水溶液を加えないものである。
【0016】
(試験の内容)
実施例品・・・横27cm、縦15cmの横長の船舶に使用されるのと同様のFRP板(強化ポリエステル板)1を用意し、両側上部に係止孔2を設ける。このFRP板1をよく洗浄した後で表面3にプライマー剤(シージェット015;中国塗料株式会社製)を刷け塗りして乾燥させ、その上に実施例の海洋生物付着防止用塗料4を一度刷け塗りし、これを3時間放置して乾燥し、更にその上に二度目の刷け塗りを行って、乾燥させる。FRP板の裏面6には何も塗布せず、上記係止孔2に吊紐7を取り付ける(図1)。こうしたものを、静岡県伊豆三津浜に設置したポンツーンに固定し、上記FRP板が海面下3mに位置するように設置した。設置時期は平成22年6月20日であり、途中経過を見つつ、平成23年5月19日に引上げて、フジツボ類8などの海洋生物の付着状況を観察した。
比較例品・・・実施例の海洋生物付着防止用塗料に替えて、比較例の船底塗料9を使用した他は上記実施例品と同様にした。
【0017】
(試験の結果)
実施例品の結果の表面側の状態を図2に示し、裏面側の状態を図3に示す。
比較例品の結果の表面側の状態を図4に示し、裏面側の状態を図5に示す。
【0018】
(考察)
実施例品では、FRP板に海洋生物付着防止用塗料を塗布した表面側にはフジツボ類の付着は見られない。これに対して、比較例品の表面側には、余り多くはないがフジツボ類の付着がみられた。また、吊紐には塗料が塗布されていないが、実施例品の吊紐よりも比較例品の吊紐の方に多くのフジツボ類の付着が見られた。そして、上記実施例品及び比較例品の各裏面側には、同程度に多数のフジツボ類の付着が見られた。このように、比較例品の表面側においてもフジツボ類の付着を防止する一定の効果が見られるが、実施例品では比較例品に比べて更に付着防止効果が高いことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の海洋生物付着防止用塗料は、上記した船舶やボートの船底部、海洋構築物、海中設備として、発電所の冷却水路などにも使用することによって冷却水路の有効断面を大きく維持することができ、養殖の生簀装置などにも広く使用することができる。
【符号の説明】
【0020】
1 FRP板
2 係止孔
3 FRP板の表面
4 本発明の塗料
6 FRP板の裏面
7 吊紐
8 フジツボ類

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃度500〜1000ppmの二酸化塩素水溶液を、船底塗料10リットルに対して100〜150ml添加して混合した海洋生物付着防止用塗料。
【請求項2】
濃度750ppmの二酸化塩素水溶液を、船底塗料10リットルに対して125ml添加して混合した請求項1に記載の海洋生物付着防止用塗料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−251075(P2012−251075A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124877(P2011−124877)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(594023537)
【出願人】(511135880)
【出願人】(500439331)
【Fターム(参考)】