海洋表層の水質計測方法、水質計測装置及び水質計測プログラム
【課題】海洋レーダによって得られるデータを用いて海洋表層の塩分及び水温を計測することを可能にする。
【解決手段】基準時間帯の波浪が受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯の波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算し、基準時間帯の波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯の波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算し、電気伝導度変動時間帯の受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯の電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定し、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯の電気伝導度)を用いて計測時間帯の電気伝導度σcの値を推算し、実用塩分を算出するようにした。
【解決手段】基準時間帯の波浪が受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯の波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算し、基準時間帯の波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯の波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算し、電気伝導度変動時間帯の受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯の電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定し、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯の電気伝導度)を用いて計測時間帯の電気伝導度σcの値を推算し、実用塩分を算出するようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋表層の水質計測方法、水質計測装置及び水質計測プログラムに関する。さらに詳述すると、本発明は、海洋レーダの観測結果を用いて海洋表層の塩分及び水温を計測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
数kmから数十km範囲の海域における水質や流動の計測は船上計測や固定点での計測など現地での直接計測が主である。しかしながら、このような直接計測では海洋の広範囲に亘る各種データを同時に計測するためには人手や費用の面で多大なコストを要する。このため、数kmから数十km範囲の海域を対象として面的なデータを得ることは困難である。
【0003】
数kmから数十km範囲の海域を対象として同時計測による面的なデータを得る方法として海洋レーダを用いる方法がある。そして、海洋の面的なデータである流速分布を海洋レーダを用いて計測する従来の方法として、海面に電波を放射して得られる反射波をビデオ信号として処理すると共にこのビデオ信号によって高分解レーダ画像を生成してこの高分解能レーダ画像を基に流速分布の算出を行うものがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−248293号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
海洋の塩分や水温は海水の密度を変化させるので海域の流況に大きな影響を与えると共に生物の生息環境を特徴付ける要因として極めて重要な役割を果たしている。したがって、海洋の広範囲に亘る塩分や水温を把握することは、流況の予測精度の向上に貢献し得るだけでなく、例えば赤潮の発生予測や生物の発生・移動予測などに非常に重要で有益な情報を提供できることになる。
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、海洋レーダによって得られるデータを用いて海洋の流速分布を計測するようにしている一方で、海洋の塩分や水温を計測するようにはしていない。すなわち、海洋レーダによれば数十km範囲の海域を対象として同時計測による面的なデータを得ることができるにも拘わらず、海洋レーダによって得られるデータを用いて海洋の塩分や水温を計測するようにしている従来の技術はない。
【0007】
そこで、本発明は、海洋レーダによって得られるデータを用いて海洋表層の塩分及び水温を計測することができる海洋表層の水質計測方法、水質計測装置及び水質計測プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の海洋表層の塩分計測方法は、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算するステップと、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度に与える影響との変化分Δs'を推算するステップと、電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力の1次散乱強度から変化分Δs'を差し引いた受信電力の1次散乱強度と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定するステップと、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算するステップと、計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出するステップと、水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出するステップと、電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出するステップとを有するようにしている。
【0009】
また、請求項2記載の海洋表層の塩分計測装置は、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段と、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度に与える影響との変化分Δs'を推算する手段と、電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力の1次散乱強度から変化分Δs'を差し引いた受信電力の1次散乱強度と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段と、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段と、計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出する手段と、水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出する手段と、電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出する手段とを有するようにしている。
【0010】
また、請求項3記載の海洋表層の塩分計測プログラムは、水質計測対象の海域において海洋レーダによって観測される受信電力の値を用いて海域の塩分の推算を行う際に、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度に与える影響との変化分Δs'を推算する手段、電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力の1次散乱強度から変化分Δs'を差し引いた受信電力の1次散乱強度と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段、計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出する手段、水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出する手段、電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出する手段としてコンピュータを機能させるようにしている。
【0011】
また、請求項4記載の海洋表層の水温計測方法は、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算するステップと、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算するステップと、電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定するステップと、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算するステップと、σc=σ0{1+α(Tc−T0)}(ただし、T0:基準時間帯における水温,α:温度補正係数)を用いて計測時間帯における水温Tcの値を推算するステップとを有するようにしている。
【0012】
また、請求項5記載の海洋表層の水温計測装置は、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段と、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算する手段と、電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段と、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段と、σc=σ0{1+α(Tc−T0)}(ただし、T0:基準時間帯における水温,α:温度補正係数)を用いて計測時間帯における水温Tcの値を推算する手段とを有するようにしている。
【0013】
また、請求項6記載の海洋表層の水温計測プログラムは、水質計測対象の海域において海洋レーダによって観測される受信電力の値を用いて海域の水温の推算を行う際に、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算する手段、電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段、σc=σ0{1+α(Tc−T0)}(ただし、T0:基準時間帯における水温,α:温度補正係数)を用いて計測時間帯における水温Tcの値を推算する手段としてコンピュータを機能させるようにしている。
【0014】
また、請求項7記載の海洋表層の水温計測方法は、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算するステップと、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算するステップと、電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定するステップと、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算するステップと、K15=σc/[σKCl(15){1+α(Tc−15)}] と PS=0.008−0.1692K150.5+25.3851K15+14.0941K151.5−7.0261K152+2.7081K152.5(ただし、σKCl(15):15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度,α:温度補正係数,PS:計測時間帯における塩分)とを用いて計測時間帯における水温Tcの値を推算するステップとを有するようにしている。
【0015】
また、請求項8記載の海洋表層の水温計測装置は、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段と、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算する手段と、電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段と、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段と、K15=σc/[σKCl(15){1+α(Tc−15)}] と PS=0.008−0.1692K150.5+25.3851K15+14.0941K151.5−7.0261K152+2.7081K152.5(ただし、σKCl(15):15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度,α:温度補正係数,PS:計測時間帯における塩分)とを用いて計測時間帯における水温Tcの値を推算する手段とを有するようにしている。
【0016】
また、請求項9記載の海洋表層の水温計測プログラムは、水質計測対象の海域において海洋レーダによって観測される受信電力の値を用いて海域の水温の推算を行う際に、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算する手段、電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段、K15=σc/[σKCl(15){1+α(Tc−15)}] と PS=0.008−0.1692K150.5+25.3851K15+14.0941K151.5−7.0261K152+2.7081K152.5(ただし、σKCl(15):15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度,α:温度補正係数,PS:計測時間帯における塩分)とを用いて計測時間帯における水温Tcの値を推算する手段としてコンピュータを機能させるようにしている。
【0017】
また、請求項10記載の海洋表層の塩分計測方法は、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度に与える影響との変化分Δs'を推算するステップと、電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力の1次散乱強度から変化分Δs'を差し引いた受信電力の1次散乱強度と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定するステップと、海水の水質の計測を行う計測時間帯における受信電力のノイズフロアRSInm'とRSI0'−RSInm'=f(σ0)−f(σc)(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)とを用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算するステップと、計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出するステップと、水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出するステップと、電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出するステップとを有するようにしている。
【0018】
また、請求項11記載の海洋表層の塩分計測装置は、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度に与える影響との変化分Δs'を推算する手段と、電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力の1次散乱強度から変化分Δs'を差し引いた受信電力の1次散乱強度と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段と、海水の水質の計測を行う計測時間帯における受信電力のノイズフロアRSInm'とRSI0'−RSInm'=f(σ0)−f(σc)(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)とを用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段と、計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出する手段と、水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出する手段と、電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出する手段とを有するようにしている。
【0019】
また、請求項12記載の海洋表層の塩分計測プログラムは、水質計測対象の海域において海洋レーダによって観測される受信電力の値を用いて海域の水温の推算を行う際に、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度に与える影響との変化分Δs'を推算する手段、電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力の1次散乱強度から変化分Δs'を差し引いた受信電力の1次散乱強度と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段、海水の水質の計測を行う計測時間帯における受信電力のノイズフロアRSInm'とRSI0'−RSInm'=f(σ0)−f(σc)(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)とを用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段、計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出する手段、水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出する手段、電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出する手段としてコンピュータを機能させるようにしている。
【0020】
これらの海洋表層の水質計測方法、水質計測装置及び水質計測プログラムによると、下記の理論と本発明者らの検討による知見とに基づいて海洋レーダによって観測される受信電力の値を用いて海洋表層の塩分と水温とを求めることができる。
【0021】
(1)海洋レーダ観測の概要
海洋レーダは、海面に電波を発信すると共に海面によって散乱された電波を受信する装置である。海面に照射された電波は海面において散乱される。散乱とは、電磁波が散乱帯に照射された場合に生じた分極及び電流が振動することによって新たに電磁波が発生する現象である(岡本謙一:地球環境計測,1999年)。
【0022】
送信した電波波長の半分の波長を有する海面波によって散乱される場合は、散乱された電波の強度が電波の干渉によって増大する特徴を持つ。この現象はブラッグ散乱と呼ばれる(Crombie, D.D.:Doppler Spectrum of Sea Echo at - 13.56 Mc/s,Nature,Vol.175,pp.681-682,1955年)。そして、このブラッグ散乱による電波を受信し、受信された電波から海域の表層流速等の情報を抽出することができる。
【0023】
海洋レーダにおいては、海面でブラッグ散乱が常に発生するように、海面で発達し易い風波の2倍に相当する波長の電波が用いられる。なお、国内外で主に使用されているのはHF帯の電波(具体的には3〜30MHz)及びVHF帯の電波(具体的には30〜300MHz)である。
【0024】
送信局から送信された電波は送信方向における海域の様々な地点で散乱されて観測局で受信される(なお、送信局と観測局とは一般的には同じ地点である)。受信された電波は各距離まで電波が往復する時間が異なることを利用して距離方向に分解することができるので電波の送信方向における空間的な分布を把握することができる。
【0025】
海洋レーダによって観測される受信電波の例を図3に示す。図3の横軸は受信した電波の周波数から送信した電波の周波数を引いたドップラー周波数であり、受信電力をドップラー周波数に対してプロットしたものはドップラースペクトルと呼ばれる。図3から、ドップラースペクトルは0Hz周辺及びその両側に受信電波のピークが現れていることが分かる。0Hz周辺の受信電力のピークは陸地などの動かない目標物から反射されたものであると考えられている。
【0026】
0Hzの両側のピークが海面でのブラッグ散乱による電波であり、1次散乱と呼ばれる(図3中記号●,○)。二つの1次散乱が現れるのは観測局から遠ざかる波と近付く波との両方の波でブラッグ散乱が発生するためである。なお、表層流速は、1次散乱が生じるドップラー周波数から算出される波速と深海波の理論から求められる波速との差分として算出される。
【0027】
本発明では、受信電力として、受信電波における1次散乱強度(図3中記号●)を基本的には用い、海水の水質の計測を行う計測時間帯において1次散乱強度を明確に判別できない場合(即ち欠測の場合)に受信電波におけるノイズ値の平均値を用いる。以降の説明においては、特に断りがない限り、単に受信電力という場合には1次散乱強度であることを前提とするが、海水の水質の計測を行う計測時間帯の受信電力として1次散乱強度に代えてノイズ値の平均値を用いても本発明は成立する。
【0028】
上述の通り、ノイズ値の平均値を用いるのは、海水の水質の計測を行う計測時間帯において受信電力の1次散乱が欠測となってしまった場合であり、具体的には1次散乱強度がノイズ値以下であるために測定できない場合である。そして、この場合に、ノイズ値の平均値としては、0Hz周辺に現れるピーク(図3中記号▼)部分及び1次散乱周辺の部分を除外した受信電力の平均値として算出される値を用いる。なお、0Hz周辺のピーク部分及び1次散乱周辺の部分を除いた受信電力の平均値をノイズフロアと定義する。この値は時間帯によって変化することが確認されている(吉井匠 他:VHF帯を用いたDBF海洋レーダにおけるデータ取得率に及ぼす要因に関する考察,水工学論文集,第52巻,2008年 ; 吉井匠 他:VHF帯DBF海洋レーダにおけるデータ取得に与える要因に関する考察,電力中央研究所研究報告,V07017,2008年)。
【0029】
(2)1次散乱強度
海洋レーダで用いられる周波数帯の電波は地表波若しくは空間波として伝搬する。地表波は地表若しくは水面近くを伝搬するモードである。空間波は電波を電離層で反射させる方式であり、数百km以上に亘るより広範囲の観測が可能である。本発明では、通常の海洋レーダで用いられている地表波を対象とし、空間波は対象としない。
【0030】
水質の観測・計測の対象とする海域(以下、観測海域と呼ぶ)の大気及び海水の電気特性が一様であり、電波が水面上を地表波モードで伝搬するとする。この場合、観測局から距離Rだけ離れた場所で散乱された電波による海洋レーダの受信電力Srecは送信電力をPtとして数式1で表される。ここで、減衰係数Aは電波の伝搬損失の度合いを示すものである。なお、伝搬損失とは、電波が送受信局と散乱箇所とを往復する間に失われる電力量のことである。また、散乱断面積とは、送信された電波の海面での散乱度合いを表す値のことである。
【0031】
【数1】
ここに、Bsurface:散乱断面積,
Arec:レーダの受信断面積,
Gt:レーダアンテナの利得,
A:減衰係数
をそれぞれ表す。
【0032】
なお、送信電力Ptとレーダの受信断面積Arecとレーダアンテナの利得Gtとは時間的に変化しないと考えられるので定数として扱う。したがって、受信電力Srecを変化させる要因は散乱断面積Bsurfaceの変化及び減衰係数Aの変化になる。
【0033】
(2−1)散乱断面積
数式1において1次散乱を発生させる1次散乱断面積Bは数式2によって表される(Barrick, D.E.:First-order theory and analysis of MF/HF/VHF scatter from the sea,IEEE Transactions on Antennas and Propagation,vol.AP-20,pp.2-10,1972年)。
【0034】
【数2】
【0035】
数式2のS(±2mk0)(kには→が付く)は、1次散乱断面積Bが電波と同じ方向に進行する、若しくは逆行する送信電波の、2倍の波数をもつ海面波の波浪スペクトルに比例することを示している。本発明では、この送信電波の2倍の波数を有する波浪を観測対象波と呼ぶ。
【0036】
数式2は海面が完全導体であるとして導かれた式であるために実際の海水の電気特性を式中に反映していない。発明者らの結果は、海水の塩分により散乱断面積が変化している可能性を示唆しており、その影響は後述する伝搬損失と同程度である可能性がある(吉井匠 他:海洋レーダ観測における表層塩分の影響,電力中央研究所研究報告,V09003,2009年)。海面を一般導体とみなした場合の1次散乱断面積Bは数式3で表される(井口俊夫:短波海洋レーダ 2.短波海洋レーダの原理,通信総合研究所季報,Vol.37,No.3,pp.345-360,1991年)。
【0037】
【数3】
ここに、θ:海面に対する垂線を基準とした電波の海面への入射角,
κ:下部媒質の複素比誘電率
をそれぞれ表す。
なお、海面への入射角θは地表波の場合はほぼ90度である。
【0038】
数式3の下部媒質の複素比誘電率κは数式4で与えられる。
【数4】
ここに、ε*:比誘電率,
ω:電波の角周波数,
σ:電波を散乱させる媒質の電気伝導度,
ε0:真空中の誘電率,
j:虚数単位
をそれぞれ表す。
なお、ω=2πf(f:送信電波の周波数)で与えられる。
【0039】
数式3及び数式4から、1次散乱断面積に散乱媒質の電気特性が影響を与えていることが明らかである。ただし、数式3は入射角θ=90度が特異点になっているので、地表波における1次散乱断面積Bの算出には適用できない。
【0040】
(2−2)伝搬損失
次に、電波の伝搬損失について説明する。具体的には、数式1において伝搬損失の度合いを表す減衰係数Aについて説明する。
【0041】
空気中を地表波モードで伝搬する電波は、下部媒質における電気伝導度及び誘電率によって減衰係数が大きく変化する。減衰係数Aに、Nortonの補正式を広範囲の位相定数に適用できるように修正した Knight and Robson(Knight, P. and J. Robson:Empirical Formula for Groundwave Field-Strength Calculation,Electronics Letters,vol.20,No.18,pp.740-742,1984年)式を用いると、減衰係数Aは数式5で表される。
【0042】
【数5】
ここに、λ:電波波長,
R:観測局からの距離,
σ:伝搬経路における下部媒質の電気伝導度,
ε:伝搬経路における下部媒質の誘電率
をそれぞれ表す。
【0043】
水における誘電率εは水質に拘わらずほとんど変化しない。このため、減衰係数Aの値に影響を与えるのは電気伝導度σの変化のみである。
【0044】
図4に、海洋レーダで一般的に用いられている電波波長12.2m(電波周波数25MHz)及び電波波長7.2m(電波周波数41.9MHz)の場合に数式1及び数式5によって算出される受信電力Srecの変化を示す。なお、図4に示す受信電力は、電気伝導度σ=4Sm-1の場合の観測局から距離R=1km地点の受信電力を用いて正規化を行っている。また、図4中の受信電力はデシベル(dB)単位であり、電気伝導度の単位はSm-1である。
【0045】
図4から、受信電力Srecは観測局からの距離Rに応じて低下する傾向が見られる。これが電波の伝搬損失であり、その低下度合いは電気伝導度が低下するほど大きくなる。さらに、観測局から約10km以上距離が離れると、電気伝導度の変化による受信電力の変化は距離に関係なくほぼ一定値(即ちグラフの傾きがほぼ同じ)になることが知見される。この傾向は短波帯の電波に共通して見られる。
【0046】
(3)本発明の理論的根拠となる知見のまとめ
上述の本発明者らの検討により、本発明の理論的根拠となるものとして次のことが知見される。まず、海洋レーダ観測における受信電力は散乱断面積及び伝搬損失の2つの関数で表される。前者は散乱箇所における観測対象波の波浪スペクトルと電気伝導度との関数で表され、後者は伝搬経路における海水の電気伝導度の関数になる。
【0047】
(4)本発明における電気伝導度推算の基本的考え方
上述の検討によって得られた独自の知見に基づいて本発明者らが新たに構築した、観測海域における電気伝導度が海洋レーダの受信電力に及ぼす影響を利用して海洋レーダの受信電力から電気伝導度を推算する方法を説明する。なお、本発明では、レーダ観測局が汀線に十分近い位置に設置されており、電波は水面上のみを伝搬すると仮定する。また、観測海域における誘電率ε=80であるとする。
【0048】
海洋レーダの受信電力RSI(Receiving Signal Intensity の略)は、数式1及び数式3より、電波の伝搬損失及び海面での散乱(具体的には散乱断面積)の関数になる。数式1と数式3とをまとめ、受信電力RSIを数式6で表す。
【0049】
(数6) RSI(σ,R)=B1S(±2k)X(σ)A(σ,R)
ここに、S:波浪スペクトル,
X:電気伝導度による散乱断面積への関数,
A:伝搬中の減衰を表す関数
B1:距離,電気伝導度,誘電率,波浪スペクトル以外の、システムに
起因する電波の損失などをまとめた項
をそれぞれ表す。
なお、kは波数ベクトルである。
また、伝搬中の減衰を表す関数Aは、観測局からの距離R,電気伝導度σ,
誘電率εによって求められる。
【0050】
数式6の両辺の10log10をとると共に受信電力をデシベル単位にまとめると数式6は数式7のようになる。なお、数式7においては、デシベル単位の値には '(ダッシュ)を付している。数式7から、デシベル単位における受信電力は各項の和として表される。
【0051】
(数7) RSI'(σ,R)=B1'+S'(±2k)+X'(σ)+A'(σ,R)
【0052】
ここで、レーダの受信電力がアンテナパターンなどによる機械的な要因などにも影響を受けるためにB1項の値を正確に見積もることは難しいので、数式7を用いて受信電力を直接求めるのは一般的に困難である。
【0053】
そこで、本発明では、塩分,水温,波浪スペクトルが既知である時間帯の平均受信電力と計測を行った時間の受信電力との差分ΔRSI'を用いて電気伝導度の推算を行う。この方法特有の特徴は、B1項は電気伝導度や波浪スペクトルに関する項を含んでおらず、時間の経過に伴う変化もないと考えられるので、二時点の受信電力の差分を取ることでB1項を消去することができることである。以下においては、平均の対象とした時間帯を基準時間とすると共に得られた平均受信電力を基準電力とする。また、電気伝導度の推算を行う時間帯を計測時間と呼ぶ。
【0054】
受信電力の差分ΔRSI'は、観測局から同じ方位の同じ距離における受信電力から求める。受信電力の差分ΔRSI'は具体的には数式8のように表される。
【0055】
(数8)ΔRSI'(σ,R)=S'1+X'(σ1)+A'(σ1,R)
−S'0−X'(σ0)−A'(σ0,R)
ここに、下付の0:基準時間,
下付の1:計測時間
をそれぞれ表す。
【0056】
ここで、図4から、電気伝導度の変化による受信電力の変化は、観測局から10km程度以上離れた場所では、距離Rによらずほぼ一定になる。このことから、伝搬損失A'は塩分の影響分A1と距離による影響分A2とを用いて数式9のように関数を分けることができると仮定する。
【0057】
(数9) A'(σ,R)=A1(σ)+A2(R)
【0058】
数式8に数式9を代入して整理すると、伝搬損失における距離の寄与分A2が基準時間と計測時間とで相殺されて数式10が得られる。
【0059】
(数10)ΔRSI'(σ)=(S1'−S0')+X'(σ1)+A1(σ1)
−X'(σ0)−A1(σ0)
=(S1'−S0')+(Z(σ1)−Z(σ0))
=ΔS'+ΔZ
ここに、Z:電気伝導度が散乱断面積に及ぼす影響項X'と伝搬損失に及ぼす
影響項A1'とをまとめた項
を表す。
【0060】
数式10において未知の項は、波浪スペクトル項Sの変化分ΔS'と電気伝導度σが受信電力に与える影響項Zの変化分ΔZとである。すなわち、受信電力の差分ΔRSI'から電気伝導度σを求めるためにはこれらの項を算出する必要がある。伝搬損失A1については既に説明しているので、波浪スペクトル項S'について以下に説明する。
【0061】
(5)水質(塩分,水温)が電気伝導度に及ぼす影響
海水の場合、電気伝導度は主に塩分と水温と圧力との関数として表される。ここで、地表波モードの電波においては表層の海水のみが影響するので圧力が電気伝導度に及ぼす影響は小さい。このため、圧力の変化が電気伝導度に与える影響は無視する。
【0062】
ここで、海水の電気伝導度を用いて塩分を表す方法(実用塩分と呼ばれる)が知られている。この実用塩分PS(Practical Salinity の略)は数式11によって定義される(Background papers and supporting data on the Practical Salinity Scale 1978,UNESCO Technical Paper of Marine Science,1981年)。
【0063】
(数11)PS=0.008−0.1692K150.5+25.3851K15
+14.0941K151.5−7.0261K152+2.7081K152.5
ここに、K15:水温15℃且つ1気圧の状態で計測された塩化カリウムの標準液の
電気伝導度ECkに対する、海水を同状態にした場合の
電気伝導度EC15の比EC15/ECk
を表す。
なお、数式11は、実用塩分PSが2〜42の範囲で適用され得る。
【0064】
海水の電気伝導度は塩分の影響によって大きく変動する。淡水の電気伝導度は0.001Sm-1程度といわれ、海水が約4Sm-1であるのに対して3オーダーほど値が低下する。
【0065】
また、海水の電気伝導度σは水温Tによっても変化する。両者の間の関係は数式12によって表される。
【0066】
(数12)σ(T)=σ(Tref){1+α(T−Tref)}
ここに、T:水温,
Tref:基準となる水温,
α:温度補正係数(一般的には0.01〜0.03程度)
をそれぞれ表す。
【0067】
数式11より、電気伝導度は塩分の四次関数であり、水温が既知である場合、電気伝導度から塩分が一意に決まる。また、数式12より、電気伝導度は水温の一次関数となるため、塩分が既知であれば、電気伝導度から水温が一意に決まる。
【0068】
図5は、塩化カリウム標準液の水温15℃且つ1気圧の状態における電気伝導度ECk=4Sm-1,温度補正係数α=0.02とした場合の電気伝導度σ,塩分PS,水温Tの関係を示すものである。図5から、水温が固定された場合は、塩分に対する電気伝導度の勾配は、水温が高いほど大きくなる傾向があるものの、0℃から40℃までで大きくは変化しない。一方、塩分が固定されたは、塩分が0〜40までで電気伝導度の水温に対する勾配は、水温が0℃から40℃までの電気伝導度の変化に比べて小さい。このため、水温の推算精度は塩分に比べて小さいと考えられる。また、塩分の値によって変化幅は大きく変化する。特に塩分が低い場合においては、水温に対する電気伝導度の変化が小さくなるため、電気伝導度による水温の推算は難しい。
【0069】
(6)電気伝導度を用いた塩分・水温の推算方法
電気伝導度から塩分,水温を推算するために必要となる情報は、水温15℃且つ1気圧の状態で計測された塩化カリウムの標準液の電気伝導度ECk及び温度補正係数αである。
【0070】
電気伝導度から塩分を求める場合は、さらに、水温が既知である必要がある。海洋レーダから推算される海域の電気伝導度を数式12に用いて水温15℃の電気伝導度EC15に変換し、数式11に代入することで塩分が得られる。
【0071】
一方、電気伝導度から水温を求める場合は、海域の塩分が既知である必要がある。数式12を変形し、EC15との比を取ると、K15に関する数式13が得られる。数式13を数式6に代入すると、未知数は水温だけになるので、表層水温を推算することができる。
【0072】
【数13】
【0073】
また、基準時間と計測時間とにおいて塩分の変動がないと仮定できる場合については、数式12を変形して数式14が得られる。
【数14】
ここに、下付の0:基準時間,
下付の1:計測時間
をそれぞれ表す。
【0074】
(7)波浪スペクトル項の影響の考慮
海洋レーダの受信電力には、海洋レーダの電波の方向であって観測方向である視線方向に沿って進行する、電波の波長の半分の波長をもつ海面波の波浪スペクトル成分のみが寄与する。したがって、波浪スペクトルSの観測値があれば、その値を数式3に直接用いることが可能である。しかしながら、海洋レーダの観測範囲は数km以上の広範囲に亘ることに加え、海域においては計測機材の設置が困難であるので、波浪スペクトルを各地点で計測することは容易ではない。その場合には、波浪スペクトルに比べて簡易に計測することができる風速を用いて波浪スペクトルを推算するという方法を導入する。
【0075】
平面2次元波浪場の波浪スペクトルS(f,θ)は、周波数スペクトルS(f)と方向分布関数G(f,θ)を用いて数式15によって表される。そして、この数式15を用いるためには、観測対象波の波浪、及び、その進行方向への割合を見積もる必要がある。
【0076】
(数15) S(f,θ)=S(f)G(f,θ)
ここに、f:波浪の周波数,
θ:波向
をそれぞれ表す。
【0077】
ここで、海域における風速,風向は時々刻々と変化するものであるので、風向の変化による波の方向分布について特定の方向に大きく偏った分布が生じる可能性は小さいと考えられる。また、本発明者らの検討において、方向分布の影響よりも、風速が低下する場合の波浪スペクトルの変化の方がはるかに大きいことが知見されている。以上を踏まえ、本発明においては、受信電力に与える波浪スペクトル項の影響としては方向分布の影響よりもフーリエ周波数スペクトルS(f)の影響の方が大きく支配的である。そこで、本発明においては、波浪スペクトル項の周波数スペクトルS(f)が受信電力に与える影響を以下の方法によって考慮する。なお、本明細書では波浪スペクトル項としてフーリエ周波数スペクトルS(f)のみを考慮した場合について説明するが、波浪スペクトル項の方向分布の影響を考慮する場合には、波浪の方向分布を計測したり、方向分布関数G(f,θ)に関する周知の方法を用いて考慮したりすれば良い(例えば、Longuet-Higgins, M.S.:Observations of the directional spectrum of sea waves using the motion of floating buoy,In Ocean Wave Spectra,pp.11-132,1961年 ; Mitsuyasu, H. et al.:Observations of the directional spectrum of ocean waves using a cloverleaf buoy,Journal of Physical Oceanography,Vol.5,pp.750-760,1975年)。
【0078】
海洋レーダでは、観測対象波が風波の領域に属する、送信電波の周波数帯が選定される。ここで、無限吹送距離で発達した風波の代表的なスペクトル形状であるPierson-Moskowitsスペクトル(Pierson.W and L.Moskowits:A proposed spectral form for fully developed wind seas based on the similarity theory of s.a. kitaigorodskii,Journal of geophysical research,vol.69,pp.5181-5190,1964年)(以下、PMスペクトルと表記する)は数式16のように表される。
【0079】
【数16】
ここに、f:波浪の周波数,
αPM:定数(=8.10×10-3),
U19.5:海上19.5m高度の風速,
g:重力加速度(=9.8ms-2)
をそれぞれ表す。
【0080】
波浪に微小振幅波理論を用いると共に深海波であると仮定すると、波浪波長LWは数式17によって求められる。
【0081】
(数17)LW=gT2/2π
ここに、LW:波浪波長,
T:波浪周期,
g:重力加速度(=9.8ms-2)
をそれぞれ表す。
【0082】
波浪周期Tを波浪波長Lwに変換し、さらに電波の波長をLRとして整理すると、数式18が得られる。
【0083】
【数18】
ここに、fb:ブラッグ散乱を起こす波の周波数
を表す。
【0084】
受信電力はブラッグ散乱を起こす波の波浪スペクトルのみが問題であるから、数式16及び数式18を整理すると数式19になる。
【0085】
【数19】
【0086】
単位をデシベルにすると共に、式中の風速以外の項をまとめると観測対象波による波浪スペクトルS'は数式20で表される。
【0087】
(数20)S'(LR)=B2(LR)−19.0U19.5-4
ここに、B2:風速や水質に無関係であって電波波長LRによって決定される項
を表す。
【0088】
数式20を用いて、海洋レーダでよく用いられるVHF帯の41.9MHz(電波波長7.2m)及びHF帯の25MHz(電波波長12.2m)の観測対象波の波浪スペクトルを求めると図6が得られる。なお、図中の波浪スペクトルはデシベル単位で整理している。
【0089】
図6より、VHF帯の41.9MHzの電波を観測に用いた場合には風速が約3ms-1以上のときに観測対象波の波浪スペクトルが飽和し、HF帯の25MHzの電波を観測に用いた場合には風速が4ms-1以上のときに波浪スペクトルがほぼ飽和する。また、風速がそれ以下の場合には波浪スペクトルは急激に低下する。
【0090】
このことから、海洋レーダに用いられるVHF帯及びHF帯のレーダにおいては、波浪スペクトルが受信電力に与える影響は、この風速が低下した時間帯のみを考慮すれば良いことが知見される。
【0091】
以上より、海洋レーダの受信電力の相対差(すなわち、計測時間における受信電力から塩分,水温が既知である基準時間における受信電力を引いた値)を用いて海水の電気伝導度を算出する方法が理論的な知見と共に検証され、さらに、当該算出方法に用いられる波浪スペクトル項については風速U19.5が3ms-1程度以下になったときに波浪のフーリエスペクトルの減少の影響が顕著になるためにこの影響を考慮することの有用性が検証される。
【0092】
したがって、請求項1から9に記載の海洋表層の水質計測方法、水質計測装置及び水質計測プログラムによると、海洋レーダによって観測される受信電力の差分と波浪が受信電力に与える影響の変化分(言い換えると、波浪スペクトルの変化分)と電気伝導度が受信電力に与える影響の変化分との間の関係に基づいて電気伝導度を算出し、当該電気伝導度を用いて観測海域の塩分或いは水温が推算される。
【0093】
また、請求項10から12に記載の海洋表層の水質計測方法、水質計測装置及び水質計測プログラムによると、受信電力のノイズ値の平均値であるノイズフロアを受信電力として用いて観測海域の塩分が推算される。ここで、ノイズフロアは受信電力の0Hz周辺のピーク部分及び1次散乱周辺の部分を除いた平均値であるので、海域の塩分はノイズフロアを受信電力として用いて推算した塩分よりも低いと考えられる。したがって、請求項10から12に記載の海洋表層の水質計測方法、水質計測装置及び水質計測プログラムの場合には、観測海域の塩分の最大値が推算される。
【発明の効果】
【0094】
本発明の海洋表層の水質計測方法、水質計測装置及び水質計測プログラムによれば、海洋レーダによって観測される受信電力を用いて電気伝導度を算出し、当該電気伝導度を用いて観測海域の海水の塩分或いは水温を推算することができるので、海洋レーダによって得られるレーダの有効活用を図ると共に数十km範囲の海域を対象とする海水の塩分や水温の計測にかかる手間や費用を縮減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】第一の実施形態の海洋表層の塩分計測方法を説明するフローチャートである。
【図2】第一の実施形態の海洋表層の塩分計測方法をプログラムを用いて実施する場合の水質計測装置の機能ブロック図である。
【図3】海洋レーダによって観測される受信電波の例を示す図である。
【図4】電気伝導度の違いと観測局からの距離の変化とによる受信電力の変化の傾向を説明する図である。
【図5】水温と塩分と電気伝導度との間の関係を説明する図である。
【図6】電波波長別に風速の変化に伴う波浪スペクトルの変化を示す図である。
【図7】第二及び第三の実施形態の海洋表層の水温計測方法を説明するフローチャートである。
【図8】第二及び第三の実施形態の海洋表層の水温計測方法をプログラムを用いて実施する場合の水質計測装置の機能ブロック図である。
【図9】実施例1の海洋レーダの設置位置及び観測方向を説明する図である。
【図10】実施例1の風速と受信電力との組み合わせデータのプロット図である。
【図11】実施例1の電気伝導度と受信電力との組み合わせデータのプロット図である。
【図12】実施例1における筑後川流量と雨量との変動を示す図である。
【図13】実施例1の表層塩分の推算の日平均の結果を示す図である。
【図14】実施例1の表層塩分の推算の日平均の結果を示す図である。
【図15】実施例1の最大表層塩分の推算の日平均の結果を示す図である。
【図16】実施例1の最大表層塩分の推算の日平均の結果を示す図である。
【図17】実施例2の海洋レーダの設置位置及び観測方向を説明する図である。
【図18】実施例2の表層水温の推算結果と実測値との比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0096】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0097】
図1及び図2に、本発明の第一の実施形態として、海洋表層の塩分を計測する場合の本発明の海洋表層の水質計測方法、水質計測装置及び水質計測プログラムの実施形態の一例を示す。本実施形態の海洋表層の塩分計測方法は、図1に示すように、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算するステップ(S1)と、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算すると共に電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定するステップ(S2)と、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算するステップ(S3)と、計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出するステップ(S4)と、水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出するステップ(S5)と、電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出するステップ(S6)とを有するようにしている。
【0098】
上記海洋表層の塩分計測方法は、海洋表層の塩分計測装置として実現される。本実施形態の塩分計測装置は、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段と、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算すると共に電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段と、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段と、計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出する手段と、水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出する手段と、電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出する手段とを備える。
【0099】
上述の海洋表層の塩分計測装置は、海洋表層の塩分計測プログラムをコンピュータ上で実行することによっても実現される。本実施形態では、海洋表層の塩分計測プログラムをコンピュータ上で実行する場合を例に挙げて説明する。
【0100】
海洋表層の塩分計測プログラム17を実行するための本実施形態の塩分計測装置としての水質計測装置10の全体構成を図2に示す。この水質計測装置10は、制御部11、記憶部12、入力部13、表示部14及びメモリ15を備え相互にバス等の信号回線により接続されている。また、水質計測装置10にはデータサーバ16がバス等の信号回線により接続されており、その信号回線を介して相互にデータや制御指令等の信号の送受信(即ち出入力)が行われる。
【0101】
制御部11は記憶部12に記憶されている海洋表層の塩分計測プログラム17によって水質計測装置10全体の制御並びに水質の計測に係る演算を行うものであり、例えばCPU(即ち中央演算処理装置)である。記憶部12は少なくともデータやプログラムを記憶可能な記憶手段であり、例えばハードディスクである。メモリ15は制御部11が各種の制御や演算を実行する際の作業領域であるメモリ空間となるものであり、例えばRAM(Random Access Memory の略)である。
【0102】
入力部13は少なくとも作業者の命令を制御部11に与えるためのインターフェイスであり、例えばキーボードである。
【0103】
表示部14は制御部11の制御により文字や図形等の描画・表示を行うものであり、例えばディスプレイである。
【0104】
そして、海洋表層の塩分計測プログラム17を実行することによって水質計測装置10の制御部11には、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段としての波浪スペクトル推算部11aと、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算すると共に電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段としての電気伝導度影響推算部11bと、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段としての電気伝導度推算部11cと、計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出する手段としての温度補正部11dと、水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出する手段としての電気伝導度比算出部11eと、電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出する手段としての塩分推算部11fとが構成される。
【0105】
本実施形態の実施にあたっては、予め、観測海域における観測・計測を行い、電気伝導度が変化しない(言い換えると、地点毎に一定である)と共に観測対象波が十分に発達している時間帯(言い換えると、観測海域における風速が十分に得られている時間帯)における海洋レーダ受信電力と電気伝導度(当該時間帯中変化せず一定)と波浪若しくは風速とが、同時刻に観測・計測されたもの同士の組み合わせデータとして整備される。なお、本発明においては、本実施形態の実施にあたっての予めの観測・計測が行われる時間帯であって電気伝導度が変化しないと共に観測対象波が十分に発達している時間帯のことを基準時間帯と呼ぶ。
【0106】
本発明では、海洋レーダを用いて海域の表層流を観測する場合の従来の方法と同様の方法によって受信電力を観測する。具体的には例えば、1本の送信アンテナと複数本の受信アンテナとを有する海洋レーダを観測海域の沿岸に設置し、定期的に電波の送受信を行うことによって観測を実施する。
【0107】
海洋レーダによる観測における電波の送受信方法や受信された電波の複数の方向への分解も従来と同様の方法が用いられる。なお、受信電波が分解される方向が海洋レーダの観測方向であって視線方向になる。
【0108】
また、本発明においては、電気伝導度は、観測海域において例えばCTD(Conductivity−Temperature−Depth profiler の略:電気伝導度水温水深計)によって直接計測するようにしても良いし、水温と実用塩分PSとを計測して図5に示される関係を用いて決定するようにしても良い。
【0109】
本発明における電気伝導度の計測は、観測海域の観測を行う海洋レーダの視線方向上若しくは視線方向に近い地点で行うことが望ましい。
【0110】
さらに、本発明における波浪の計測は、波浪スペクトルを計測することができる従来から用いられている種々の計測方法のうちのいずれかによって行う。また、本発明における風速の計測は、従来から用いられている風速計を設置して行う。風速の計測高さは、計測中一定であれば特定の高さに限定されるものではなく、例えば地上19.5mにしても良いし、その他の高さにしても良い。
【0111】
本発明における波浪若しくは風速の計測は、観測海域の観測を行う海洋レーダの視線方向上若しくは視線方向に近い地点で行うことが望ましい。また、波浪若しくは風速の計測は、観測海域及びその周辺の地形の影響などによって観測海域における平均的な状況と比べて主に波浪若しくは風速の増減について特殊な傾向を示す地点は避けることが望ましい。
【0112】
基準時間帯における電気伝導度並びに波浪若しくは風速の計測は、観測海域内若しくはその周辺の複数地点で行うことが望ましく、また、両者の計測を同一地点若しくは近い地点で行うことが望ましい。
【0113】
本実施形態の実施にあたっては、さらに、予め、観測海域における観測・計測を行い、電気伝導度が変化する時間帯における海洋レーダ受信電力と電気伝導度と波浪若しくは風速とが、同時刻に観測・計測されたもの同士の組み合わせデータとして整備される。なお、本発明においては、本実施形態の実施にあたっての予めの観測・計測が行われる時間帯であって電気伝導度が変化する時間帯のことを電気伝導度変動時間帯と呼ぶ。
【0114】
海洋レーダによる受信電力の観測については、基準時間帯における観測と電気伝導度変動時間帯における観測とで、海洋レーダの観測機器が同じ地点に設置されると共に同じ視線方向について観測することが望ましい。
【0115】
電気伝導度変動時間帯における電気伝導度並びに波浪若しくは風速の計測は、両者の計測を同一地点若しくは近い地点で行うことが望ましく、さらに、基準時間帯における電気伝導度並びに波浪若しくは風速の計測地点と同じ若しくは近い地点で行うことが望ましい。
【0116】
そして、本実施形態では、基準時間帯において観測・計測されたデータは、観測・計測時刻の情報と対応付けられて受信電力の値と電気伝導度の値と波浪(具体的には波浪スペクトル)若しくは風速の値との組み合わせデータとして、基準時間帯データベース16aとしてデータサーバ16に蓄積される。なお、受信電力のデータには視線方向及び距離の情報が更に対応付けられる。また、電気伝導度のデータ及び波浪若しくは風速のデータには、計測位置の情報として、これらの計測地点に最も近い視線方向及び海洋レーダからの距離の情報が更に対応付けられる。
【0117】
本実施形態では、また、電気伝導度変動時間帯において観測・計測されたデータは、観測・計測時刻の情報と対応付けられて受信電力の値と電気伝導度の値と波浪(具体的には波浪スペクトル)若しくは風速の値との組み合わせデータとして、電気伝導度変動時間帯データベース16bとしてデータサーバ16に蓄積される。なお、受信電力のデータには視線方向及び距離の情報が更に対応付けられる。また、電気伝導度のデータ及び波浪若しくは風速のデータには、計測位置の情報として、これらの計測地点に最も近い視線方向及び海洋レーダからの距離の情報が更に対応付けられる。
【0118】
観測海域についての上述の基準時間帯に関するデータの整備及び電気伝導度変動時間帯に関するデータの整備をした後に、観測海域における水質の計測を行う。なお、本発明においては、水質の計測を行う時間(言い換えれば、計測の対象とする時間)のことを計測時間帯と呼ぶ。また、以下においては、データベースをDBと表記する。
【0119】
計測時間帯に関する本実施形態の処理の実行にあたっては、まず、観測海域において海洋レーダによる受信電力の観測,波浪若しくは風速の計測,水温の計測を行う(S0)。
【0120】
海洋レーダによる受信電力の観測については、基準時間帯における観測と計測時間帯における観測とで、海洋レーダの観測機器が同じ地点に設置されると共に同じ視線方向について観測することが望ましく、また、同じ電波波長が用いられる。
【0121】
また、観測海域における波浪若しくは風速の計測を同時に行う。風速の計測については、基準時間帯における計測と計測時間帯における計測とで計測高さを同じにする。
【0122】
計測時間帯における波浪若しくは風速の計測は、観測海域内若しくはその周辺の複数地点で行うことが望ましく、また、基準時間帯や電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速の計測地点と同じ若しくは近い地点で行うことが望ましい。
【0123】
さらに、観測海域の水温の計測を同時に行う。水温の計測は、従来から用いられている水温計を設置して海洋表層の水温を計測するように行う。
【0124】
計測時間帯における水温の計測は、観測海域の観測を行う海洋レーダの視線方向上若しくは視線方向に近い地点で行うことが望ましく、また、観測海域内の複数地点で行うことが望ましく、さらに、基準時間帯や電気伝導度変動時間帯や計測時間帯における波浪若しくは風速の計測地点と同じ若しくは近い地点で行うことが望ましい。
【0125】
また、観測海域における上述の受信電力の観測と波浪若しくは風速の計測と水温の計測とは、継続して連続的に行う場合も一定の間隔をおいて行う場合も観測・計測の時刻を揃えて行う。
【0126】
本実施形態では、計測時間帯において観測・計測されたデータは、観測・計測日時の情報と対応付けられて受信電力の値と波浪(具体的には波浪スペクトル)若しくは風速の値と水温の値との組み合わせデータとして、計測時間帯DB16cとしてデータサーバ16に蓄積される。なお、受信電力のデータには視線方向及び距離の情報が更に対応付けられる。また、波浪若しくは風速のデータ及び水温のデータには、計測位置の情報として、これらの計測地点に最も近い視線方向及び海洋レーダからの距離の情報が更に対応付けられる。
【0127】
そして、本実施形態では、基準時間帯DB16aに整備された基準時間帯におけるデータと電気伝導度変動時間帯DB16bに整備された電気伝導度変動時間帯におけるデータと計測時間帯DB16cに蓄積された計測時間帯におけるデータとを用いて以下のS1からS6までの処理を行う。
【0128】
まず、制御部11の波浪スペクトル推算部11aは、基準時間帯における波浪が海洋レーダの受信電力に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分、言い換えると波浪スペクトルの変化分の推算を行う(S1)。
【0129】
本発明における波浪スペクトルの変化分は、基準時間帯と計測時間帯とにおいて波浪が計測され波浪スペクトルが得られている場合には当該データを用いて算出し、両時間帯において波浪ではなく風速が計測されている場合には風速のデータを用いて算出する。
【0130】
(1)波浪が計測されている場合
まず、波浪が計測され波浪スペクトルが得られている場合には、具体的には、波浪スペクトル推算部11aは、データサーバ16に格納されている基準時間帯DB16aから基準時間帯における時刻別の波浪スペクトルを読み込むと共に当該時刻別の波浪スペクトルを用いて基準時間帯における波浪スペクトルの平均S0'を計算する。
【0131】
波浪スペクトル推算部11aは、さらに、データサーバ16に格納されている計測時間帯DB16cから計測時間帯における波浪スペクトルS1'を読み込み、S0'−S1'を計算して計測時間帯における変化分波浪スペクトルΔS'を算出する。
【0132】
S0'−S1'の計算は、計測時間帯の日時別に、計測時間帯DB16cに記録されている波浪のデータ毎に行う(言い換えると、波浪のデータに対応付けられている視線方向別で海洋レーダからの距離別に行う)。すなわち、波浪の計測が観測海域内の一地点のみで行われている場合には観測海域の全域に亘って(即ちあらゆる地点に対して)共通に適用される一つの値を計算するものとして行い、波浪の計測が複数地点で行われている場合には当該地点毎に行う。なお、基準時間帯と計測時間帯とにおいて計測地点が異なる場合には、両時間帯の各計測地点を対比し対応させて観測海域を適当に分割して当該分割した領域毎にS0'−S1'の計算を行う。
【0133】
そして、波浪スペクトル推算部11aは、算出した変化分波浪スペクトルΔS'の値を、日時,ΔS'を算出した地点若しくは領域に最も近い視線方向,海洋レーダからの距離の情報と対応付けてメモリ15に記憶させる。
【0134】
(2)風速が計測されている場合
次に、風速が計測されている場合には、波浪スペクトルの変化による受信電力の変化分を、風速を用いて算出する。本発明において、基準時間帯における波浪スペクトルが海洋レーダの受信電力に与える影響と計測時間帯における波浪スペクトルが受信電力に与える影響との変化分を風速を用いて推算する方法には以下の二つがある。
【0135】
2−1)数式20を用いる方法
波浪スペクトル推算部11aは、まず、基準時間帯における観測に用いられた海洋レーダの電波波長LRと基準時間帯に観測海域において計測された風速U19.5とを数式20に代入して波浪スペクトルS'(LR)を推算する。
【0136】
海洋レーダの電波波長LRの値は、例えば、S1からS6までの処理に用いる種々の設定値などが規定されたデータファイルを記憶部12に格納しておくようにすると共に当該データファイル中に規定しておいて波浪スペクトル推算部11aが当該データファイルから読み込むようにしても良いし、S1の処理の際に電波波長LRの値の指定を要求する内容のメッセージを表示部14に表示すると共に入力部13を介して入力された作業者の指定の値を波浪スペクトル推算部11aが読み込むようにしても良い。
【0137】
そして、波浪スペクトル推算部11aは、データサーバ16に格納されている基準時間帯DB16aから時刻別の風速U19.5の値を読み込み、当該値を数式20に代入して基準時間帯における時刻別の波浪スペクトルS'(LR)を推算する。
【0138】
波浪スペクトル推算部11aは、さらに、上述の処理によって推算した時刻別の波浪スペクトルS'(LR)を用いて基準時間帯における波浪スペクトルの平均S0'(LR)を計算する。
【0139】
そして、波浪スペクトル推算部11aは、基準時間帯における波浪スペクトルの平均S0'(LR)の値を基準時間波浪スペクトルS0'(LR)としてメモリ15に記憶させる。
【0140】
波浪スペクトル推算部11aは、また、計測時間帯における観測に用いられた海洋レーダの電波波長LRと計測時間帯に観測海域において計測された風速U19.5とを数式20に代入して波浪スペクトルS1'(LR)を推算する。
【0141】
波浪スペクトル推算部11aは、具体的には、前述と同様にして海洋レーダの電波波長LRの値を読み込むと共にデータサーバ16に格納されている計測時間帯DB16cから風速U19.5の値を読み込み、当該値を数式20に代入して計測時間帯における波浪スペクトルS1'(LR)を推算する。
【0142】
波浪スペクトル推算部11aは、さらに、前述の処理によってメモリ15に記憶させた基準時間波浪スペクトルS0'(LR)の値を読み込み、S0'(LR)−S1'(LR)を計算して計測時間帯における変化分波浪スペクトルΔS'を算出する。
【0143】
変化分波浪スペクトルΔS'の算出にまつわる処理は、計測時間帯の日時別に、計測時間帯DB16cに記録されている風速のデータ毎に行う(言い換えると、風速のデータに対応付けられている視線方向別で海洋レーダからの距離別に行う)。すなわち、風速の計測が観測海域内の一地点のみで行われている場合には観測海域の全域に亘って(即ちあらゆる地点に対して)共通に適用される一つの値を計算するものとして行い、風速の計測が複数地点で行われている場合には当該地点毎に行う。なお、基準時間帯と計測時間帯とにおいて計測地点が異なる場合には、両時間帯の各計測地点を対比し対応させて観測海域を適当に分割して当該分割した領域毎にS0'−S1'の計算を行う。
【0144】
そして、波浪スペクトル推算部11aは、算出した変化分波浪スペクトルΔS'の値を、日時,ΔS'を算出した地点若しくは領域に最も近い視線方向,海洋レーダからの距離の情報と対応付けてメモリ15に記憶させる。
【0145】
2−2)風速回帰関数を用いる方法
本発明の適用においては、数式20を用いないで以下の方法によって基準時間帯における波浪スペクトルが海洋レーダの受信電力に与える影響と計測時間帯における波浪スペクトルが受信電力に与える影響との変化分を推算する、言い換えると変化分波浪スペクトルを推算するようにしても良い。例えば、地上19.5mではない高さで風速を計測した場合で基準時間帯や計測時間帯における風速U19.5の値が整備されていない場合などに以下の方法は有効である。
【0146】
数式20を用いないで波浪スペクトルが受信電力に与える影響を推算する場合には、基準時間帯における受信電力の値と風速の値との間の関係の回帰関数を推定し、当該回帰関数(以下、風速回帰関数と呼ぶ)を用いて影響を推算するようにする。
【0147】
受信電力の値と風速の値との間の関係を回帰する際の回帰曲線の関数形(即ち風速回帰関数の関数形)は特定のものに限定されるものではなく、例えば基準時間帯における同時刻の受信電力の値と風速の値との組み合わせデータをグラフ上にプロットして両者の関係を適切に表し得る関数形を作業者が選択すれば良い。具体的には例えば、数式21に示す対数関数を用いることが考えられる。
【0148】
(数21)RSI'=a1 Log(U)+b1
ここに、RSI':受信電力〔dB〕,
U:風速〔ms-1〕,
a1,b1:回帰係数,定数項
をそれぞれ表す。
【0149】
風速回帰関数の推定処理は、基準時間帯における時刻別の、観測海域の一地点において計測された風速、及び、当該風速計測地点に最も近い視線方向・距離における受信電力を用いて行う。なお、風速回帰関数の関数形は、作業者が予め選択して海洋表層の塩分計測プログラム17に規定しておく。
【0150】
ここで、風速の変化による波浪スペクトルの変動は観測海域のどの地点でも同じであると考えられるので、風速回帰関数の関数形として数式21に示す対数関数を用いた場合には、数式21の回帰係数a1は一定であり、a1 Log(U)は観測海域の全域に亘って(即ちあらゆる地点に対して)適用可能である。
【0151】
一方で、数式21の定数項b1は、数式7のB1',X'(σ),A'(σ,R)の和に相当しており、観測海域の電気伝導度が一定の場合には海洋レーダの視線方向及び海洋レーダからの距離によって変化すると考えられる。しかしながら、B1'及び距離による減衰項A2(R)は差分をとるために相殺されるので算出する必要がない。なお、B1'を相殺するためにも、基準時間帯と電気伝導度変動時間帯,計測時間帯との観測における海洋レーダの観測機器は同じ地点に設置されると共同じ視線方向について観測するようにすることが望ましい。Z(σ)(=A1(σ)+X'(σ))についてはS2の処理として説明する方法によって評価する。
【0152】
上述の処理を実行するため、波浪スペクトル推算部11aは、データサーバ16に格納されている基準時間帯DB16aから上記一地点における時刻別の受信電力の値と風速の値との組み合わせデータを読み込み、受信電力の値と風速の値との間の関係を表す回帰関数即ち風速回帰関数を推定し、推定した風速回帰関数の回帰係数(数式21の場合にはa1)の値をメモリ15に記憶させる。なお、回帰関数の推定は例えば最小二乗法を用いて行う。
【0153】
そして、波浪スペクトル推算部11aは、基準時間帯DB16aから時刻別の風速Uの値を読み込むと共に当該値を風速回帰関数に代入して基準時間帯における時刻別の受信電力RSI'(但し、定数項分を除く値)を推算し、さらに、当該時刻別の受信電力RSI'を用いて基準時間帯における受信電力の平均RSI0'(但し、定数項分を除く値)を計算する。
【0154】
そして、波浪スペクトル推算部11aは、基準時間帯における受信電力の平均RSI0'の値を基準時間受信電力RSI0'としてメモリ15に記憶させる。
【0155】
波浪スペクトル推算部11aは、また、計測時間帯に観測海域において計測された風速Uを風速回帰関数に代入して受信電力RSI1'(但し、定数項分を除く値)を推算する。
【0156】
波浪スペクトル推算部11aは、具体的には、データサーバ16に格納されている計測時間帯DB16cから風速Uの値を読み込み、当該値を風速回帰関数に代入して計測時間帯における受信電力RSI1'(但し、定数項分を除く)を推算する。
【0157】
波浪スペクトル推算部11aは、さらに、前述の処理によってメモリ15に記憶させた基準時間受信電力RSI0'の値を読み込み、RSI0'−RSI1'を計算する。
【0158】
風速回帰関数を用いてのRSI0'−RSI1'の計算にまつわる処理は、計測時間帯の日時別に、計測時間帯DB16cに記録されている風速のデータ毎に行う(言い換えると、風速のデータに対応付けられている視線方向別で海洋レーダからの距離別に行う)。すなわち、風速の計測が観測海域内の一地点のみで行われている場合には観測海域の全域に亘って(即ちあらゆる地点に対して)共通に適用される一つの値を計算するものとして行い、風速の計測が複数地点で行われている場合には当該地点毎に行う。なお、基準時間帯と計測時間帯とにおいて計測地点が異なる場合には、両時間帯の各計測地点を対比し対応させて観測海域を適当に分割して当該分割した領域毎にRSI0'−RSI1'の計算を行う。
【0159】
そして、波浪スペクトル推算部11aは、RSI0'−RSI1'の値を計測時間帯における変化分波浪スペクトルΔS'として、日時,ΔS'を算出した地点若しくは領域に最も近い視線方向,海洋レーダからの距離の情報と対応付けてメモリ15に記憶させる。
【0160】
次に、制御部11の電気伝導度影響推算部11bは、計測時間帯における電気伝導度の変化が受信電力に与える影響の推算を行う(S2)。
【0161】
受信電力の差分ΔRSI'と波浪スペクトル項S'の変化分と電気伝導度が受信電力に与える影響の変化分との間の関係の基本式である数式10における Z(σ1)−Z(σ0)(=X'(σ1)+A1(σ1)−X'(σ0)−A1(σ0))について、電気伝導度が散乱強度に及ぼす影響項X'は理論的に算定することができない。そこで、本発明では、数式10の Z(σ1)−Z(σ0) に該当するものを、電気伝導度の変化が受信電力に与える影響として評価する。
【0162】
具体的には、本発明では、電気伝導度変動時間帯における受信電力の値と電気伝導度σの値との間の関係の回帰関数f(σ)を推定し、当該回帰関数(以下、電気伝導度回帰関数と呼ぶ)f(σ)を用いて数式10の Z(σ1)−Z(σ0) を推算する。
【0163】
ここで、電気伝導度回帰関数f(σ)の推定に用いる電気伝導度変動時間帯における受信電力の値については、S1の処理と同様の処理を行った結果を用いて電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響を取り除いたデータを用いる。具体的には、S1の処理においては基準時間帯のデータと計測時間帯のデータとを用いて計測時間帯における変化分波浪スペクトルΔS'を推算するようにしているところ、S2の処理においては基準時間帯のデータと電気伝導度変動時間帯のデータとを用いて電気伝導度変動時間帯における変化分波浪スペクトルΔs'を推算すると共に電気伝導度変動時間帯において実際に観測された受信電力から変化分波浪スペクトルΔs'を差し引いたものを受信電力の値として用いる。
【0164】
電気伝導度変動時間帯における変化分波浪スペクトルΔs'を差し引いた後の受信電力の値と電気伝導度の値との間の関係を回帰する際の回帰曲線の関数形(即ち電気伝導度回帰関数f(σ)の関数形)は特定のものに限定されるものではなく、例えば電気伝導度変動時間帯における同時刻の受信電力の値と電気伝導度の値との組み合わせデータをグラフ上にプロットして両者の関係を適切に表し得る関数形を作業者が選択すれば良い。具体的には例えば、数式22に示す一次関数を用いることが考えられる。
【0165】
(数22)RSI'=f(σ)=a2σ+b2
ここに、RSI':受信電力〔dB〕
(実際の観測値から変化分波浪スペクトルを差し引いたもの),
σ:電気伝導度〔Sm-1〕,
a2,b2:回帰係数,定数項
をそれぞれ表す。
【0166】
電気伝導度回帰関数f(σ)の推定処理は、電気伝導度変動時間帯における時刻別の、観測海域の一地点において計測された電気伝導度、及び、当該電気伝導度計測地点に最も近い視線方向・距離における受信電力を用いて行う。なお、電気伝導度回帰関数f(σ)の関数形は、作業者が予め選択して海洋表層の塩分計測プログラム17に規定しておく。
【0167】
上述の処理を実行するため、電気伝導度影響推算部11bは、まず、データサーバ16に格納されている基準時間帯DB16a及び電気伝導度変動時間帯DB16bに蓄積されているデータを用い、S1の処理として説明した波浪の計測データを用いる方法或いは数式20を用いる方法或いは風速回帰関数を用いる方法によって電気伝導度変動時間帯における変化分波浪スペクトルΔs'を推算する。なお、S2の処理における変化分波浪スペクトルΔs'の推算は、電気伝導度回帰関数f(σ)の推定処理に用いる観測海域の一地点のみについて行えば良い。
【0168】
そして、電気伝導度影響推算部11bは、推算した電気伝導度変動時間帯における変化分波浪スペクトルΔs'の値をメモリ15に記憶させる。
【0169】
さらに、電気伝導度影響推算部11bは、電気伝導度変動時間帯DB16bから上記一地点における時刻別の受信電力の値と電気伝導度の値との組み合わせデータを読み込み、受信電力の値からメモリ15に記憶させた電気伝導度変動時間帯における変化分波浪スペクトルΔs'を差し引いてから、電気伝導度回帰関数f(σ)の推定に用いる受信電力の値と電気伝導度の値との組み合わせデータとしてメモリ15に記憶させる。
【0170】
そして、電気伝導度影響推算部11bは、上述の処理においてメモリ15に記憶させた上記一地点における時刻別の受信電力の値と電気伝導度の値との組み合わせデータを読み込み、受信電力の値と電気伝導度の値との間の関係を表す回帰関数即ち電気伝導度回帰関数f(σ)を推定する。なお、回帰関数の推定は例えば最小二乗法を用いて行う。
【0171】
そして、電気伝導度影響推算部11bは、推定した電気伝導度回帰関数f(σ)の回帰係数及び定数項(数式22の場合にはa2とb2)の値をメモリ15に記憶させる。
【0172】
次に、制御部11の電気伝導度推算部11cは、計測時間帯における電気伝導度の推算を行う(S3)。なお、S3からS6までの処理は、計測時間帯の日時別に、計測時間帯DB16cに記録されている受信電力のデータ毎に行う(言い換えると、海洋レーダの視線方向別で海洋レーダからの距離別に行う)。
【0173】
電気伝導度推算部11cは、S1の処理においてメモリ15に記憶された基準時間受信電力RSI0'の値及び計測時間帯における変化分波浪スペクトルΔS'の値と、S2の処理においてメモリ15に記憶された電気伝導度回帰関数f(σ)の回帰係数及び定数項の値とをメモリ15から読み込むと共に、基準時間帯における電気伝導度σ0の値を基準時間帯DB16aから読み込み、さらに、計測時間帯における受信電力RSIm'の値を計測時間帯DB16cから読み込む。ただし、差分をとるために相殺されるので電気伝導度回帰関数の定数項は無視しても構わない。
【0174】
そして、数式10を書き換えることによって得られる数式23を用いて計測時間帯における電気伝導度σcを推算する。
【0175】
(数23) RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}
【0176】
ここで、S1の処理において計測時間帯における変化分波浪スペクトルΔS'の値には日時と共にΔS'を算出した地点若しくは領域に最も近い視線方向と海洋レーダからの距離との情報が対応付けられているところ、S3における処理は日時別に海洋レーダの視線方向別で海洋レーダからの距離別に行うものである。このため、メモリ15に記憶されている変化分波浪スペクトルΔS'の値の中から、視線方向別・距離別の電気伝導度σcを推算するために計測時間帯DB16cから読み込んだ受信電力RSIm'の値に対応付けられている視線方向並びに計算対象の距離に一番近い視線方向及び距離が対応付けられているものを選択して用いる。
【0177】
さらに、基準時間帯DB16aに蓄積されている基準時間帯における電気伝導度σ0の値には当該電気伝導度の計測地点に最も近い視線方向と海洋レーダからの距離との情報が対応付けられているので、上記と同様に、受信電力RSIm'の値に対応付けられている視線方向並びに計算対象の距離に一番近い視線方向及び距離が対応付けられている電気伝導度σ0の値を選択して用いる。
【0178】
そして、電気伝導度推算部11cは、推算した電気伝導度σcの値を、日時,視線方向,海洋レーダからの距離の情報と対応付けてメモリ15に記憶させる。
【0179】
次に、制御部11の温度補正部11dは、S3の処理において推算された電気伝導度の値について温度補正を行う(S4)。
【0180】
具体的には、温度補正部11dは、S3の処理においてメモリ15に記憶された電気伝導度σcの値をメモリ15から読み込むと共に、計測時間帯における水温Trefを計測時間帯DB16cから読み込む。なお、計測時間帯DB16cに蓄積されている水温Trefの値の中から、温度補正を行うためにメモリ15から読み込んだ電気伝導度σcの値に対応付けられている視線方向及び距離に一番近い視線方向と距離とが対応付けられているものを選択して用いる。
【0181】
そして、温度補正部11dは、S3の処理において推算された電気伝導度について、数式12を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)の値を算出する。ここで、数式12の変数について、S3の処理において推算した電気伝導度σcの値をσ(Tref)にすると共にT=15にする。なお、温度補正係数αの値を含めて数式12は海洋表層の塩分計測プログラム17に規定しておく。
【0182】
そして、温度補正部11dは、算出した電気伝導度σ(15)の値を、日時,視線方向,海洋レーダからの距離の情報と対応付けてメモリ15に記憶させる。
【0183】
次に、制御部11の電気伝導度比算出部11eは、S4の処理において算出された温度補正後の電気伝導度の値を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度の比の算出を行う(S5)。
【0184】
具体的には、電気伝導度比算出部11eは、S4の処理においてメモリ15に記憶された電気伝導度σ(15)の値をメモリ15から読み込み、当該値を数式24に代入して電気伝導度の比K15を算出する。
【0185】
(数24)K15=σ(15)/σKCl(15)
ここに、σKCl(15):15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の
電気伝導度
を表す。
【0186】
そして、電気伝導度比算出部11eは、算出した電気伝導度の比K15の値を、日時,視線方向,海洋レーダからの距離の情報と対応付けてメモリ15に記憶させる。
【0187】
次に、制御部11の塩分推算部11fは、S5の処理において算出された電気伝導度の比の値を用いて塩分の推算を行う(S6)。
【0188】
具体的には、塩分推算部11fは、S5の処理においてメモリ15に記憶された電気伝導度の比K15の値をメモリ15から読み込み、当該値を数式11に代入して実用塩分PSを算出する。
【0189】
そして、塩分推算部11fは、算出した実用塩分PSの値を、日時,視線方向,海洋レーダからの距離の情報と対応付けて塩分推算結果DB16dとしてデータサーバ16に蓄積する。
【0190】
そして、制御部11は、計測時間帯DB16c内の受信電力のデータの全てについて処理を行ったときは当該計測時間帯DB16cについての処理を終了する(END)。
【0191】
ここで、既に述べた通り、本発明では、海水の水質の計測を行う計測時間帯の受信電力として1次散乱強度(RSIm')に代えてノイズ値の平均値(即ちノイズフロア)RSInm'を用いるようにしても良い。そして、受信電力のノイズフロアRSInm'を用いる場合には、ノイズフロアは波浪の影響を受けないので、波浪スペクトル変化分の推算(S1)の処理を行わない。言い換えると、波浪スペクトル項Sの変化分ΔS'をゼロとして扱う。この場合、ノイズフロアは受信電力の0Hz周辺のピーク部分及び1次散乱周辺の部分を除いた平均値であるので、海域の塩分はノイズフロアを受信電力として用いて推算した塩分よりも低いと考えられる。したがって、計測時間帯の受信電力としてノイズフロアを用いた場合には、観測海域の塩分の最大値が推算される。
【0192】
次に、図7及び図8に、本発明の第二の実施形態として、海洋表層の水温を計測する場合の本発明の海洋表層の水質計測方法、水質計測装置及び水質計測プログラムの実施形態の一例を示す。本実施形態の海洋表層の水温計測方法は、図7に示すように、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算するステップ(S1)と、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算すると共に電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定するステップ(S2)と、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算するステップ(S3)と、σc=σ0{1+α(Tc−T0)}(ただし、T0:基準時間帯における水温,α:温度補正係数)を用いて計測時間帯における水温Tcの値を推算するステップ(S4)とを有するようにしている。
【0193】
なお、本発明の第二の実施形態の水温計測方法は、基準時間帯と計測時間帯とにおいて観測海域内における地点毎の海水の塩分が一定で変化しない場合に適用可能である。
【0194】
上記海洋表層の水温計測方法は、海洋表層の水温計測装置として実現される。本実施形態の水温計測装置は、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段と、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算すると共に電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段と、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段と、σc=σ0{1+α(Tc−T0)}(ただし、T0:基準時間帯における水温,α:温度補正係数)を用いて計測時間帯における水温Tcの値を推算する手段とを備える。
【0195】
上述の海洋表層の水温計測装置は、海洋表層の水温計測プログラムをコンピュータ上で実行することによっても実現される。本実施形態では、海洋表層の水温計測プログラムをコンピュータ上で実行する場合を例に挙げて説明する。
【0196】
海洋表層の水温計測プログラム18を実行するための本実施形態の水温計測装置としての水質計測装置10の全体構成を図8に示す。この水質計測装置10に係る制御部11,記憶部12,入力部13,表示部14及びメモリ15、並びに、水質計測装置10に接続されているデータサーバ16は、第一の実施形態におけるものと同様であるので詳細な説明は省略する。
【0197】
そして、海洋表層の水温計測プログラム18を実行することによって水質計測装置10の制御部11には、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段としての波浪スペクトル推算部11aと、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算すると共に電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段としての電気伝導度影響推算部11bと、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段としての電気伝導度推算部11cと、σc=σ0{1+α(Tc−T0)}(ただし、T0:基準時間帯における水温,α:温度補正係数)を用いて計測時間帯における水温Tcの値を推算する手段としての水温推算部11gとが構成される。
【0198】
また、第二の実施形態においても、基準時間帯DB16aと電気伝導度変動時間帯DB16bと計測時間帯DB16cとが整備される。
【0199】
基準時間帯DB16aについては、第一の実施形態と同様のデータに加え、基準時間帯における表層水温の値(当該時間帯中変化せず一定)も組み合わせデータとして整備される。
【0200】
基準時間帯における水温の計測は、観測海域の観測を行う海洋レーダの視線方向上若しくは視線方向に近い地点で行うことが望ましく、また、観測海域内の複数地点で行うことが望ましく、さらに、基準時間帯や電気伝導度変動時間帯や計測時間帯における波浪若しくは風速の計測地点と同じ若しくは近い地点で行うことが望ましい。
【0201】
そして、基準時間帯における表層水温の値は、第一の実施形態で説明した内容に追加しての組み合わせデータとして、水温計測地点に最も近い視線方向及び海洋レーダからの距離の情報が更に対応付けられて基準時間帯DB16aに蓄積される。
【0202】
電気伝導度変動時間帯DB16bについては第一の実施形態と同様に整備される。
【0203】
計測時間帯DB16cについては、水温を除いて第一の実施形態と同様に整備される。
【0204】
そして、本実施形態では、基準時間帯DB16aに整備された基準時間帯におけるデータと電気伝導度変動時間帯DB16bに整備された電気伝導度変動時間帯におけるデータと計測時間帯DB16cに蓄積された計測時間帯におけるデータとを用いてS1からS4までの処理を行う。
【0205】
海洋表層の水温を計測する第二の実施形態におけるS1からS3までの処理は海洋表層の塩分を計測する第一の実施形態におけるS1からS3までの処理と同様であるので、第二の実施形態の説明としてはS1からS3までの処理についての説明は省略してS3の処理に続くS4の処理について説明する。
【0206】
制御部11の水温推算部11gは、S3の処理において推算された電気伝導度の値を用いて水温の推算を行う(S4)。なお、S4の処理は、計測時間帯の日時別に、計測時間帯DB16cに記録されている受信電力のデータ毎に行う(言い換えると、海洋レーダの視線方向別で海洋レーダからの距離別に行う)。
【0207】
具体的には、水温推算部11gは、S3の処理においてメモリ15に記憶された計測時間帯における電気伝導度σcの値をメモリ15から読み込むと共に、基準時間帯における電気伝導度σ0の値と水温T0の値とを基準時間帯DB16aから読み込み、これらの値を数式25に代入して計測時間帯における表層水温Tcを推算する。なお、数式25は数式12から導かれるものである。数式25は温度補正係数αの値も含めて海洋表層の水温計測プログラム17に規定しておく。
【0208】
(数25)σ(Tc)=σ(T0){1+α(Tc−T0)}
ここに、T:水温,
σ:電気伝導度,
α:温度補正係数(0.01〜0.03程度)
をそれぞれ表す。
また、下付の0:基準時間帯における電気伝導度,水温であることを表し、
下付のc:計測時間帯における電気伝導度,水温であることを表す。
なお、σ(Tc)=σc,σ(T0)=σ0 である。
【0209】
なお、基準時間帯DB16aに蓄積されている電気伝導度σ0の値と水温T0の値との中からメモリ15から読み込んだ電気伝導度σcの値に対応付けられている視線方向及び距離に一番近い視線方向と距離とが対応付けられているものを選択して用いる。
【0210】
そして、水温推算部11gは、推算した水温Tcの値を、日時,視線方向,海洋レーダからの距離の情報と対応付けて水温推算結果DB16eとしてデータサーバ16に蓄積する。
【0211】
そして、制御部11は、計測時間帯DB16c内の受信電力のデータの全てについて処理を行ったときは当該計測時間帯DB16cについての処理を終了する(END)。
【0212】
次に、本発明の第三の実施形態として、上述の第二の実施形態とは異なる方法によって海洋表層の水温を計測する場合の本発明の海洋表層の水質計測方法、水質計測装置及び水質計測プログラムの実施形態の一例を示す。なお、第三の実施形態の海洋表層の水温計測方法を説明するフローチャートは第二の実施形態の説明で用いた図7と同様である。
【0213】
本実施形態の海洋表層の水温計測方法は、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算するステップ(S1)と、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算すると共に電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定するステップ(S2)と、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算するステップ(S3)と、K15=σc/[σKCl(15){1+α(Tc−15)}] と PS=0.008−0.1692K150.5+25.3851K15+14.0941K151.5−7.0261K152+2.7081K152.5(ただし、σKCl(15):15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度,α:温度補正係数,PS:計測時間帯における塩分)とを用いて計測時間帯における水温Tcの値を推算するステップ(S4)とを有するようにしている。
【0214】
なお、本発明の第三の実施形態の水温計測方法は、計測時間帯の観測海域内における地点毎の海水の塩分が既知である場合に適用可能である。したがって、観測海域内における海水の塩分が変化する場合には水温の計測において第二の実施形態を用いることはできないが第三の実施形態を用いることはできる。一方、基準時間帯と計測時間帯とにおいて観測海域内における海水の塩分が変化しない場合には第二の実施形態と第三の実施形態とのどちらを用いるようにしても良い。
【0215】
上記海洋表層の水温計測方法は、海洋表層の水温計測装置として実現される。本実施形態の水温計測装置は、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段と、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算すると共に電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段と、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段と、K15=σc/[σKCl(15){1+α(Tc−15)}] と PS=0.008−0.1692K150.5+25.3851K15+14.0941K151.5−7.0261K152+2.7081K152.5(ただし、σKCl(15):15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度,α:温度補正係数,PS:計測時間帯における塩分)とを用いて計測時間帯における水温Tcの値を推算する手段とを備える。
【0216】
上述の海洋表層の水温計測装置は、海洋表層の水温計測プログラムをコンピュータ上で実行することによっても実現される。本実施形態では、海洋表層の水温計測プログラムをコンピュータ上で実行する場合を例に挙げて説明する。なお、第三の実施形態の海洋表層の水温計測プログラムを実行するための水温計測装置としての水質計測装置の全体構成は第二の実施形態の説明で用いた図8と同様であり、水質計測装置に係る制御部11,記憶部12,入力部13,表示部14及びメモリ15、並びに、水質計測装置に接続されているデータサーバ16は、第一及び第二の実施形態におけるものと同様であるので詳細な説明は省略する。
【0217】
そして、第三の実施形態の海洋表層の水温計測プログラムを実行することによって水質計測装置10の制御部11には、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段としての波浪スペクトル推算部11aと、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算すると共に電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段としての電気伝導度影響推算部11bと、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段としての電気伝導度推算部11cと、K15=σc/[σKCl(15){1+α(Tc−15)}] と PS=0.008−0.1692K150.5+25.3851K15+14.0941K151.5−7.0261K152+2.7081K152.5(ただし、σKCl(15):15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度,α:温度補正係数,PS:計測時間帯における塩分)とを用いて計測時間帯における水温Tcの値を推算する手段としての水温推算部11gとが構成される。
【0218】
また、第三の実施形態においても、基準時間帯DB16aと電気伝導度変動時間帯DB16bと計測時間帯DB16cとが整備される。
【0219】
基準時間帯DB16a及び電気伝導度変動時間帯DB16bについては第一の実施形態と同様に整備される。
【0220】
計測時間帯DB16cについては、第一の実施形態における水温の代わりに海水の塩分の値が組み合わせデータとして整備される。
【0221】
計測時間帯における塩分の計測は、観測海域の観測を行う海洋レーダの視線方向上若しくは視線方向に近い地点で行うことが望ましく、また、観測海域内の複数地点で行うことが望ましく、さらに、基準時間帯や電気伝導度変動時間帯や計測時間帯における波浪若しくは風速の計測地点と同じ若しくは近い地点で行うことが望ましい。
【0222】
そして、本実施形態では、基準時間帯DB16aに整備された基準時間帯におけるデータと電気伝導度変動時間帯DB16bに整備された電気伝導度変動時間帯におけるデータと計測時間帯DB16cに蓄積された計測時間帯におけるデータとを用いてS1からS4までの処理を行う。
【0223】
海洋表層の水温を計測する第三の実施形態におけるS1からS3までの処理は海洋表層の塩分を計測する第一の実施形態におけるS1からS3までの処理と同様であるので、第三の実施形態の説明としてはS1からS3までの処理についての説明は省略してS3の処理に続くS4の処理について説明する。
【0224】
制御部11の水温推算部11gは、S3の処理において推算された電気伝導度の値を用いて水温の推算を行う(S4)。なお、S4の処理は、計測時間帯の日時別に、計測時間帯DB16cに記録されている受信電力のデータ毎に行う(言い換えると、海洋レーダの視線方向別で海洋レーダからの距離別に行う)。
【0225】
具体的には、水温推算部11gは、S3の処理においてメモリ15に記憶された計測時間帯における電気伝導度σcの値をメモリ15から読み込むと共に、計測時間帯における海水の塩分PSの値を計測時間帯DB16cから読み込む。
【0226】
そして、水温推算部11gは、電気伝導度σcの値及び塩分PSの値と数式26及び数式11とを用いて計測時間帯における表層水温Tcを推算する。なお、数式26は数式24と数式12とから導かれるものである。数式26は温度補正係数αの値及び15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度σKCl(15)の値も含めて海洋表層の水温計測プログラム17に規定しておく。
【0227】
(数26)K15=σ(Tc)/[σKCl(15){1+α(Tc−15)}]
ここに、K15:15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の
電気伝導度σKCl(15)に対する海水の電気伝導度の比,
σ(Tc):計測時間帯における電気伝導度,
Tc:計測時間帯における水温,
α:温度補正係数(0.01〜0.03程度)
をそれぞれ表す。
なお、σ(Tc)=σc である。
【0228】
なお、計測時間帯DB16cに蓄積されている塩分PSの値の中からメモリ15から読み込んだ電気伝導度σcの値に対応付けられている視線方向及び距離に一番近い視線方向と距離とが対応付けられているものを選択して用いる。
【0229】
そして、水温推算部11gは、推算した水温Tcの値を、日時,視線方向,海洋レーダからの距離の情報と対応付けて水温推算結果DB16eとしてデータサーバ16に蓄積する。
【0230】
そして、制御部11は、計測時間帯DB16c内の受信電力のデータの全てについて処理を行ったときは当該計測時間帯DB16cについての処理を終了する(END)。
【0231】
以上の構成を有する本発明の海洋表層の水質計測方法、水質計測装置及び水質計測プログラムによれば、海洋レーダによって観測される受信電力を用いて電気伝導度を算出し、当該電気伝導度を用いて観測海域の海水の塩分或いは水温を推算することができるので、海洋レーダによって得られるレーダの有効活用を図ると共に数十km範囲の海域を対象とする海水の塩分や水温の計測にかかる手間や費用を縮減することが可能になる。
【0232】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、実用塩分を前提とした処理について説明しているが、これに限られず、絶対塩分〔‰〕を用いるようにしても良い。
【0233】
また、上述の実施形態では、各種DB16a〜16eをデータサーバ16に格納するようにしているが、これに限られず、記憶部12に格納するようにしても良い。
【実施例1】
【0234】
上述の本発明の海洋表層の塩分計測方法による塩分算定結果の妥当性を検証するため、本発明を用いた塩分の算定結果と実測結果との比較を行った。図1に示すフロー図の処理ステップと対応させて以下に説明する。なお、本実施例では、電気伝導度ECk=4.0Sm-1,温度補正係数α=0.02とした。
【0235】
(1)観測海域における観測・計測(S0)
本実施例では、海洋レーダの観測データとして、長崎県雲仙市に設置(図9中 Unzenの表示直上の丸印位置)された海洋レーダを用いて諫早湾湾口部において2006年から2008年にかけて実施された観測の結果を用いた。
【0236】
観測には、財団法人電力中央研究所が開発したVHF帯(電波周波数41.9MHz)の海洋レーダを用いた(坂井伸一 他:広域流動観測のための高性能沿岸海洋レーダの開発,電力中央研究所研究報告,U02056,2003年)。
【0237】
本実施例では、送信アンテナ1本,受信アンテナ8本で構成される海洋レーダを用いた。一回の観測時間は各局12分であり、電波の送受信が4回行われた。両観測地点での電波の混信を避けるために3分のインターバルを挟んだ15分間隔で観測地点を切り換えて観測を行った。送受信方法にはFrequency Modulated, Interrupted Continuous Wave 方式(FMICW方式とも呼ばれる)を用い、掃引周波数幅は300kHzであった。受信された電波はDigital Beam Forming(DBFとも呼ばれる)を用いて8方向へと分解される。以降では、この分解された観測方向を視線方向若しくはビーム方向と呼び、図9に示すように時計回りに1〜8までの番号を定める。
【0238】
ドップラースペクトルにおける1次散乱の検出には、1次散乱の誤算出が少ないという特徴を有する坪野らの手法を用いた(特開2009−75017参照)。そして、本手法を用いて1次散乱が算出できないデータについては欠測として扱った。
【0239】
各観測局には、風速計,雨量計,温度計,湿度計を設置し、10分間隔で観測を行った。
【0240】
(2)風速の影響の変化分の推算(S1)〜波浪スペクトル項の検討
波浪スペクトル項の検討には、2006年12月22日から2007年4月18日まで(以下、対象期間と呼ぶ)の合計5586回分の受信電力の観測データを用いた。対象期間における観測海域周辺の降雨量が少なかったことから、河川水による海域の塩分低下は殆どないと推測されたため、塩分の変動による電気伝導度の変化は少ないと考えられた。また、観測海域における水温は対象期間中で約7℃の変動があった。この水温の変動に伴う電気伝導度の変化が受信電力に影響を与える可能性があった。そのため、水温の変動が受信電力にばらつきとして現れることが考えられた。
【0241】
波浪スペクトル項の検討は、対象期間中の受信電力が十分に得られており、且つ、風速の観測局に近い雲仙局の<ビーム8・3km地点>の受信電力データを用いて行った。
【0242】
対象期間における<ビーム8・3km地点>の受信電力と雲仙局で計測された同時刻の風速とを組み合わせデータとして整理して図10に示す結果が得られた(図中●が組み合わせデータのプロットである)。ここで、図10中の実線は、実測値(即ち、風速と受信電力との組み合わせデータ)に対して対数関数を当てはめた場合の近似式(数式21,数式27)である。また、図10中の破線は、PMスペクトル(数式20)に基づく受信電力である。なお、数式20における切片B2(LR)は、風速が10ms-1の受信電力が前記近似式から求まる値と一致するように調整した。
【0243】
図10より、実測された受信電力には大きなばらつきがあるが、風速が約3ms-1を下回ると受信電力が全体的に低下する傾向が見られた。これは、波浪スペクトルの減少によるものと考えられた。
【0244】
図10において、PMスペクトルは、風速が4ms-1を下回る場合に実測値から大きく外れる結果になった。このことから、本実施例では、PMスペクトルを用いた波浪スペクトル項の推定は困難であると判断された。このため、実測値に対して対数関数を当てはめた近似曲線を波浪スペクトル項の算定式として用いることにした。具体的には、図10に示す風速と受信電力との組み合わせデータを用いて数式21の回帰係数a1及び定数項b1を推定して得られる近似曲線を用いることにした。なお、観測海域が内湾であり外洋からの波浪の伝搬が殆どないことから、風速が0ms-1の時には波浪は発生しないと考えられた。そして、観測対象波が存在しない場合に受信電力は負の無限大になることを再現するために対数関数を用いた近似を行った。また、近似には最小自乗法を用いた。得られた近似式は数式27の通りであった。
【0245】
(数27) RSI'=7.8Log(U)+29
【0246】
図10より、実測値の大まかな傾向を数式27の近似曲線(図中の破線)は捉えていることが確認された。数式27における切片29の値は数式7におけるB1,X',A'の和に相当し、風速の影響は受けない値である。数式10では、各観測場所における受信電力の差分を用いるために切片の値は相殺される。これらのことから、本実施例においては、数式10の波浪スペクトル項として数式28を用いることにした。
【0247】
(数28) ΔS'=7.8(Log(U1)−Log(U0))
【0248】
(3)電気伝導度の変化の影響の推算(S2)〜電気伝導度項の検討
次に、数式10における電気伝導度の影響項Z(σ)を求めた。しかし、Z(σ)に含まれる電気伝導度が散乱断面積に及ぼす影響項X'(σ)は不明であるので、本実施例では、伝搬損失の影響分A1'(σ)も含めてZ(σ)を観測結果から経験的に算出した。
【0249】
具体的には、筑後川の出水を含む2007年7月2日から14日における受信電力と水面下1m地点の塩分との組み合わせデータを用いた(吉井匠 他:海洋レーダ観測における表層塩分の影響,電力中央研究所研究報告,V09003,2009年)。この組み合わせデータを用いて電気伝導度と受信電力との間の関係として図11に示す結果が得られた。図中の受信電力は、塩分の観測地点に最も近い<ビーム8・3km地点>の値である。波浪スペクトル項については、雲仙局の風速を用いて数式28によって補正を行い、風速が十分に得られているときの受信電力に補正した。
【0250】
図11において電気伝導度σと受信電力RSI'との間の関係に最小自乗法を用いて線形の近似直線を当てはめて数式29が求められた。
【0251】
(数29) RSI'(σ)=6.76σ−26.7
【0252】
数式29で表される近似直線を図11中に点線で示す。近似直線の相関係数は0.8、標準偏差は6.38であり、この結果から、近似直線が実測値の傾向を捉えていることが確認された。ここで、数式29の右辺第1項がZ(σ)に相当し、右辺第2項がB1'とS'との和である。
【0253】
以上より、数式29を数式10に代入して整理し、波浪スペクトルの変化分ΔS'及び電気伝導度の変化分Δσを用いて受信電力の差分ΔRSI'を求める式として数式30が得られた。
【0254】
(数30) ΔRSI'(σ)=ΔS'+6.76Δσ
【0255】
(4)電気伝導度の推算(S3)
(4−1)観測の概要
まず、2006年6月14日から7月24日まで(以下、観測期間と呼ぶ)の筑後川流量と雨量との変動を図12に示す。図12から、2006年夏季においては6月24日周辺と7月5日と7月19日から22日との3回、筑後川から大規模な出水が生じていたことが分かった。なお、観測期間における受信電力データを収集した海洋レーダの設置位置及び視線方向は図9と同じであった。
【0256】
また、有明海湾奥部における塩分の既存の観測結果によると、2006年6月26日の時点で湾内が成層化しており、表層の塩分が15程度に低下していたことが分かった。さらに、7月6日と7月20日とには出水によって表層塩分が低下していたことが分かった。特に、7月20日の塩分の低下幅は大きく、表層塩分が5程度まで低下していたことが分かった(濱田孝治 他:有明海奥部における流れと懸濁物質輸送−現地観測と数値モデルによる考察−,佐賀大学有明海総合研究プロジェクト成果報告集,第3巻,pp.87-92,2007年 ; 濱田孝治 他:有明海奥部における貧酸素水塊の形成・解消課程の観測,第54巻,pp.1121-1125,2007年 ; 吉野健児 他:有明海湾奥部における貧酸素水塊がベントス群集に与える影響,佐賀大学有明海総合研究プロジェクト成果報告集,第4巻,pp.15-21,2008年)。
【0257】
また、観測海域における観測の結果から、観測期間中の表層水温の変動は約3℃程度であり、変動は小さかったことが分かった。さらに、表層の水温は中・底層とほぼ同じであることから、温度成層は形成されていなかったと推測された。このことから、観測期間における電気伝導度の変動は主に表層塩分の変動に起因するものと考えられた。
【0258】
(4−2)基準電力の算出
次に、河川流量が少なく且つ降雨がない状態の6月18日から22日(193回分の観測データ)を基準時間として基準電力を求めた。観測海域における観測の結果によると、6月13日の段階では有明海奥部及び諫早湾湾口部の表層塩分は32程度であった。このことから、6月13日時点では湾内で塩分成層は形成されていないと考えられた。図12から、6月13日から22日までは大きな降雨や出水は発生していないので、6月22日までは塩分成層は形成されていなかったと推測された。これらのことも踏まえ、基準時間の平均値は、表層塩分が32で一様な場の値であると仮定した。
【0259】
また、基準時間における風速から、算出された基準電力は風速が約2ms-1程度の受信電力を代表していると考えられた。
【0260】
(4−3)初期値の設定
表層塩分を推定するには、水温が既知である必要がある。本実施例では、観測期間中の表層水温が一定であると仮定した。すなわち、受信電力の変動は塩分の変化に伴う電気伝導度の変動に全て起因するものとし、表層塩分の推定を行った。観測海域における観測の結果から、図12に示す期間(即ち観測期間)の水温の変動は最大で2℃であり、塩分の変動は約17であったことが確認された。図5より、表層塩分が電気伝導度に及ぼす影響が水温に比べて十分に大きいので、観測期間の電気伝導度の変動は塩分が支配的であり、水温の変動は無視できると考えられた。また、波浪スペクトル項の影響も考慮しないことにした。なお、観測期間中の雲仙局及び荒尾局の風速は概ね2ms-1以上の風速が大半を占めていたことが確認され、このことから、波浪スペクトルの極端な低下は少なかったと考えられた。
【0261】
基準時間の表層水温については、観測海域における観測の結果から、観測結果を基に23℃とした。また、基準時間における電気伝導度は、塩分が約32,水温が約23℃であること、及び、2007年のCTDの観測結果を基に、4.6Sm-1とした(吉井匠 他:海洋レーダ観測における表層塩分の影響,電力中央研究所研究報告,V09003,2009年)。
【0262】
これらの値を用いて、基準時間における塩分を推定すると約33.6になり、計測値である約32とほぼ対応することが確認された。このことから、これらの設定値は妥当な値であると判断された。
【0263】
(5)表層塩分の推算(S6)〜1次散乱強度を用いた場合
2006年6月22日から7月14日までについて、受信電力の1次散乱強度を用いて表層塩分を推算すると共に日平均し、図13及び図14に示す結果が得られた。
【0264】
図12から、観測期間中には6月23日から27日、及び7月5日から10日にかけて筑後川の出水があり、それ以外の期間は平水時の流量であったことが確認された。また、前述の通り、6月22日時点では有明海内全域で塩分が高い状態であったことが観測結果から確認されていたので、塩分成層は形成されていなかったと推測された。
【0265】
そして、本発明の推算結果が、6月22日の時点では観測海域内の塩分が高いことを示していることが確認された(図13(a)参照)。本発明の推算結果は、さらに、6月23日から27日にかけての出水時における表層塩分の低下も示していることが確認された(同図(b),(c),(d)参照)。
【0266】
また、平水時になった後については、本発明の推算結果は、6月22日の状態までは表層塩分は回復せず、湾内全体で表層塩分が低い状態が継続したことを示していることが確認された(同図(e),(f)参照)。これは、6月23日からの筑後川の出水によって海域内に塩分成層が形成され、表層の塩分が低下した状態が継続したことを的確に再現しているものであると判断された。
【0267】
そして、同様の傾向は7月5日から10日にかけての出水時にも確認された(図14(a)−(f)参照)。また、河川流量が平水時程度に低下した7月10日以降において、表層塩分はやや回復するものの、6月28日から7月4日までの期間よりも湾内の表層塩分が低下したことを示していることが確認された。これは、出水によって塩分成層が強くなり、表層塩分が更に低下したためと考えられた。
【0268】
また、表層塩分の推算結果が、有明海奥部(即ち、筑後川河口がある北側)に向かうにつれて表層塩分が低下しており、さらに、出水に伴って塩分の低下が南側へと伝播してくる過程も示していることが確認された。これは、海域内の塩分の低下は筑後川の出水が主な原因であると考えられるので、表層塩分が北側から徐々に低下してくることを的確に再現しているものであると判断された。
【0269】
以上より、海洋レーダの観測結果を用いて推算した表層塩分は、少なくとも定性的に海域の塩分成層の形成及び発達過程を捉えていることが確認された。
【0270】
(6)表層塩分の推算(S6)〜ノイズフロアを用いた場合
また、受信電力のノイズフロアを用いて表層塩分を推算すると共に日平均し、図15及び図16に示す結果が得られた。
【0271】
欠測になる場合の1次散乱強度はノイズフロア以下であるので、海域の塩分はノイズフロアを受信電力として用いて推算した塩分よりも低いと考えられる。そこで、ノイズフロアを受信電力として用いた場合の塩分値を最大表層塩分値と呼ぶ。
【0272】
図13及び図14と図15及び図16とで同日の推算結果を南北に連なるものとしてみると、図15,図16に示される北側の推算結果として、図13及び図14に示される南側の推算結果と著しく不連続になることのない結果が得られており、最大表層塩分値として妥当な値が得られていることが確認された。
【0273】
以上の結果から、本発明の海洋表層の塩分計測方法は海域の塩分の推算を的確に行えることが確認された。
【実施例2】
【0274】
上述の本発明の海洋表層の水温計測方法による水温算定結果の妥当性を検証するため、本発明を用いた水温の算定結果と実測結果との比較を行った。なお、本実施例では、電気伝導度ECk=4.0Sm-1,温度補正係数α=0.02とした。
【0275】
本実施例では、海洋レーダの観測データとして、長崎県雲仙市に設置(図17中 雲仙の表示直上の丸印位置)された海洋レーダを用いて諫早湾湾口部において2006年12月から2008年3月(この期間を本実施例の計測時間とする)にかけて実施された観測の結果を用いた。
【0276】
実施例2の海洋レーダの計測範囲は図17に示す通りであった。そして、実施例2では、雲仙局の<ビーム6・10km地点>を対象として水温の推算を行った。なお、観測に用いた海洋レーダや送受信方法や1次散乱の検出等は実施例1と同様であった。
【0277】
基準電力には、2007年6月23日から7月2日まで(この期間を本実施例の基準時間とする)の観測における受信電力の平均値(吉井匠 他:海洋レーダ観測における表層塩分の影響,電力中央研究所研究報告,V09003,2009年)を用いた。この期間の表層塩分及び水温の実測結果を参照すると、表層水温は約24℃,電気伝導度は約4.7Sm-1,塩分は約31であり、基準時間における塩分と水温との変動は殆どないことが確認された。
【0278】
有明海においては、河川からの大規模な出水は夏季に集中しており、夏季以外での海域の表層塩分は約30〜32で殆ど変化がない。このため、基準時間と計測時間とにおいて塩分が31で一定であると仮定し、水温の推算には数式14を用いることとした。
【0279】
一方、実測結果としては、1995年から2000年に亘って観測された有明海の水温データを用いた(川口修 他:有明海熊本沿岸におけるノリ不作年度の水質環境の特徴,海の研究,11(2),pp.543-548,2002年)。
【0280】
受信電力から推算された水温値と実測された水温データとを比較整理して図18に示す結果が得られた(推算値:灰線 / 実測値:記号○,黒線)。
【0281】
図18の比較整理の結果から、海洋レーダの受信電力を用いて推算した表層水温は海水温の季節的な変動を少なくとも定性的に捉えていることが確認された。以上の結果から、本発明の海洋表層の水温計測方法は海域の水温の推算を的確に行えることが確認された。
【符号の説明】
【0282】
10 水質計測装置
11 制御部
12 記憶部
13 入力部
14 表示部
15 メモリ
16 データサーバ
17 海洋表層の塩分計測プログラム
18 海洋表層の水温計測プログラム
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋表層の水質計測方法、水質計測装置及び水質計測プログラムに関する。さらに詳述すると、本発明は、海洋レーダの観測結果を用いて海洋表層の塩分及び水温を計測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
数kmから数十km範囲の海域における水質や流動の計測は船上計測や固定点での計測など現地での直接計測が主である。しかしながら、このような直接計測では海洋の広範囲に亘る各種データを同時に計測するためには人手や費用の面で多大なコストを要する。このため、数kmから数十km範囲の海域を対象として面的なデータを得ることは困難である。
【0003】
数kmから数十km範囲の海域を対象として同時計測による面的なデータを得る方法として海洋レーダを用いる方法がある。そして、海洋の面的なデータである流速分布を海洋レーダを用いて計測する従来の方法として、海面に電波を放射して得られる反射波をビデオ信号として処理すると共にこのビデオ信号によって高分解レーダ画像を生成してこの高分解能レーダ画像を基に流速分布の算出を行うものがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−248293号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
海洋の塩分や水温は海水の密度を変化させるので海域の流況に大きな影響を与えると共に生物の生息環境を特徴付ける要因として極めて重要な役割を果たしている。したがって、海洋の広範囲に亘る塩分や水温を把握することは、流況の予測精度の向上に貢献し得るだけでなく、例えば赤潮の発生予測や生物の発生・移動予測などに非常に重要で有益な情報を提供できることになる。
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、海洋レーダによって得られるデータを用いて海洋の流速分布を計測するようにしている一方で、海洋の塩分や水温を計測するようにはしていない。すなわち、海洋レーダによれば数十km範囲の海域を対象として同時計測による面的なデータを得ることができるにも拘わらず、海洋レーダによって得られるデータを用いて海洋の塩分や水温を計測するようにしている従来の技術はない。
【0007】
そこで、本発明は、海洋レーダによって得られるデータを用いて海洋表層の塩分及び水温を計測することができる海洋表層の水質計測方法、水質計測装置及び水質計測プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の海洋表層の塩分計測方法は、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算するステップと、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度に与える影響との変化分Δs'を推算するステップと、電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力の1次散乱強度から変化分Δs'を差し引いた受信電力の1次散乱強度と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定するステップと、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算するステップと、計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出するステップと、水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出するステップと、電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出するステップとを有するようにしている。
【0009】
また、請求項2記載の海洋表層の塩分計測装置は、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段と、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度に与える影響との変化分Δs'を推算する手段と、電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力の1次散乱強度から変化分Δs'を差し引いた受信電力の1次散乱強度と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段と、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段と、計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出する手段と、水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出する手段と、電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出する手段とを有するようにしている。
【0010】
また、請求項3記載の海洋表層の塩分計測プログラムは、水質計測対象の海域において海洋レーダによって観測される受信電力の値を用いて海域の塩分の推算を行う際に、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度に与える影響との変化分Δs'を推算する手段、電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力の1次散乱強度から変化分Δs'を差し引いた受信電力の1次散乱強度と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段、計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出する手段、水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出する手段、電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出する手段としてコンピュータを機能させるようにしている。
【0011】
また、請求項4記載の海洋表層の水温計測方法は、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算するステップと、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算するステップと、電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定するステップと、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算するステップと、σc=σ0{1+α(Tc−T0)}(ただし、T0:基準時間帯における水温,α:温度補正係数)を用いて計測時間帯における水温Tcの値を推算するステップとを有するようにしている。
【0012】
また、請求項5記載の海洋表層の水温計測装置は、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段と、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算する手段と、電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段と、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段と、σc=σ0{1+α(Tc−T0)}(ただし、T0:基準時間帯における水温,α:温度補正係数)を用いて計測時間帯における水温Tcの値を推算する手段とを有するようにしている。
【0013】
また、請求項6記載の海洋表層の水温計測プログラムは、水質計測対象の海域において海洋レーダによって観測される受信電力の値を用いて海域の水温の推算を行う際に、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算する手段、電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段、σc=σ0{1+α(Tc−T0)}(ただし、T0:基準時間帯における水温,α:温度補正係数)を用いて計測時間帯における水温Tcの値を推算する手段としてコンピュータを機能させるようにしている。
【0014】
また、請求項7記載の海洋表層の水温計測方法は、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算するステップと、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算するステップと、電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定するステップと、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算するステップと、K15=σc/[σKCl(15){1+α(Tc−15)}] と PS=0.008−0.1692K150.5+25.3851K15+14.0941K151.5−7.0261K152+2.7081K152.5(ただし、σKCl(15):15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度,α:温度補正係数,PS:計測時間帯における塩分)とを用いて計測時間帯における水温Tcの値を推算するステップとを有するようにしている。
【0015】
また、請求項8記載の海洋表層の水温計測装置は、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段と、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算する手段と、電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段と、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段と、K15=σc/[σKCl(15){1+α(Tc−15)}] と PS=0.008−0.1692K150.5+25.3851K15+14.0941K151.5−7.0261K152+2.7081K152.5(ただし、σKCl(15):15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度,α:温度補正係数,PS:計測時間帯における塩分)とを用いて計測時間帯における水温Tcの値を推算する手段とを有するようにしている。
【0016】
また、請求項9記載の海洋表層の水温計測プログラムは、水質計測対象の海域において海洋レーダによって観測される受信電力の値を用いて海域の水温の推算を行う際に、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算する手段、電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段、K15=σc/[σKCl(15){1+α(Tc−15)}] と PS=0.008−0.1692K150.5+25.3851K15+14.0941K151.5−7.0261K152+2.7081K152.5(ただし、σKCl(15):15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度,α:温度補正係数,PS:計測時間帯における塩分)とを用いて計測時間帯における水温Tcの値を推算する手段としてコンピュータを機能させるようにしている。
【0017】
また、請求項10記載の海洋表層の塩分計測方法は、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度に与える影響との変化分Δs'を推算するステップと、電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力の1次散乱強度から変化分Δs'を差し引いた受信電力の1次散乱強度と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定するステップと、海水の水質の計測を行う計測時間帯における受信電力のノイズフロアRSInm'とRSI0'−RSInm'=f(σ0)−f(σc)(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)とを用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算するステップと、計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出するステップと、水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出するステップと、電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出するステップとを有するようにしている。
【0018】
また、請求項11記載の海洋表層の塩分計測装置は、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度に与える影響との変化分Δs'を推算する手段と、電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力の1次散乱強度から変化分Δs'を差し引いた受信電力の1次散乱強度と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段と、海水の水質の計測を行う計測時間帯における受信電力のノイズフロアRSInm'とRSI0'−RSInm'=f(σ0)−f(σc)(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)とを用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段と、計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出する手段と、水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出する手段と、電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出する手段とを有するようにしている。
【0019】
また、請求項12記載の海洋表層の塩分計測プログラムは、水質計測対象の海域において海洋レーダによって観測される受信電力の値を用いて海域の水温の推算を行う際に、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度に与える影響との変化分Δs'を推算する手段、電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力の1次散乱強度から変化分Δs'を差し引いた受信電力の1次散乱強度と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段、海水の水質の計測を行う計測時間帯における受信電力のノイズフロアRSInm'とRSI0'−RSInm'=f(σ0)−f(σc)(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)とを用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段、計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出する手段、水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出する手段、電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出する手段としてコンピュータを機能させるようにしている。
【0020】
これらの海洋表層の水質計測方法、水質計測装置及び水質計測プログラムによると、下記の理論と本発明者らの検討による知見とに基づいて海洋レーダによって観測される受信電力の値を用いて海洋表層の塩分と水温とを求めることができる。
【0021】
(1)海洋レーダ観測の概要
海洋レーダは、海面に電波を発信すると共に海面によって散乱された電波を受信する装置である。海面に照射された電波は海面において散乱される。散乱とは、電磁波が散乱帯に照射された場合に生じた分極及び電流が振動することによって新たに電磁波が発生する現象である(岡本謙一:地球環境計測,1999年)。
【0022】
送信した電波波長の半分の波長を有する海面波によって散乱される場合は、散乱された電波の強度が電波の干渉によって増大する特徴を持つ。この現象はブラッグ散乱と呼ばれる(Crombie, D.D.:Doppler Spectrum of Sea Echo at - 13.56 Mc/s,Nature,Vol.175,pp.681-682,1955年)。そして、このブラッグ散乱による電波を受信し、受信された電波から海域の表層流速等の情報を抽出することができる。
【0023】
海洋レーダにおいては、海面でブラッグ散乱が常に発生するように、海面で発達し易い風波の2倍に相当する波長の電波が用いられる。なお、国内外で主に使用されているのはHF帯の電波(具体的には3〜30MHz)及びVHF帯の電波(具体的には30〜300MHz)である。
【0024】
送信局から送信された電波は送信方向における海域の様々な地点で散乱されて観測局で受信される(なお、送信局と観測局とは一般的には同じ地点である)。受信された電波は各距離まで電波が往復する時間が異なることを利用して距離方向に分解することができるので電波の送信方向における空間的な分布を把握することができる。
【0025】
海洋レーダによって観測される受信電波の例を図3に示す。図3の横軸は受信した電波の周波数から送信した電波の周波数を引いたドップラー周波数であり、受信電力をドップラー周波数に対してプロットしたものはドップラースペクトルと呼ばれる。図3から、ドップラースペクトルは0Hz周辺及びその両側に受信電波のピークが現れていることが分かる。0Hz周辺の受信電力のピークは陸地などの動かない目標物から反射されたものであると考えられている。
【0026】
0Hzの両側のピークが海面でのブラッグ散乱による電波であり、1次散乱と呼ばれる(図3中記号●,○)。二つの1次散乱が現れるのは観測局から遠ざかる波と近付く波との両方の波でブラッグ散乱が発生するためである。なお、表層流速は、1次散乱が生じるドップラー周波数から算出される波速と深海波の理論から求められる波速との差分として算出される。
【0027】
本発明では、受信電力として、受信電波における1次散乱強度(図3中記号●)を基本的には用い、海水の水質の計測を行う計測時間帯において1次散乱強度を明確に判別できない場合(即ち欠測の場合)に受信電波におけるノイズ値の平均値を用いる。以降の説明においては、特に断りがない限り、単に受信電力という場合には1次散乱強度であることを前提とするが、海水の水質の計測を行う計測時間帯の受信電力として1次散乱強度に代えてノイズ値の平均値を用いても本発明は成立する。
【0028】
上述の通り、ノイズ値の平均値を用いるのは、海水の水質の計測を行う計測時間帯において受信電力の1次散乱が欠測となってしまった場合であり、具体的には1次散乱強度がノイズ値以下であるために測定できない場合である。そして、この場合に、ノイズ値の平均値としては、0Hz周辺に現れるピーク(図3中記号▼)部分及び1次散乱周辺の部分を除外した受信電力の平均値として算出される値を用いる。なお、0Hz周辺のピーク部分及び1次散乱周辺の部分を除いた受信電力の平均値をノイズフロアと定義する。この値は時間帯によって変化することが確認されている(吉井匠 他:VHF帯を用いたDBF海洋レーダにおけるデータ取得率に及ぼす要因に関する考察,水工学論文集,第52巻,2008年 ; 吉井匠 他:VHF帯DBF海洋レーダにおけるデータ取得に与える要因に関する考察,電力中央研究所研究報告,V07017,2008年)。
【0029】
(2)1次散乱強度
海洋レーダで用いられる周波数帯の電波は地表波若しくは空間波として伝搬する。地表波は地表若しくは水面近くを伝搬するモードである。空間波は電波を電離層で反射させる方式であり、数百km以上に亘るより広範囲の観測が可能である。本発明では、通常の海洋レーダで用いられている地表波を対象とし、空間波は対象としない。
【0030】
水質の観測・計測の対象とする海域(以下、観測海域と呼ぶ)の大気及び海水の電気特性が一様であり、電波が水面上を地表波モードで伝搬するとする。この場合、観測局から距離Rだけ離れた場所で散乱された電波による海洋レーダの受信電力Srecは送信電力をPtとして数式1で表される。ここで、減衰係数Aは電波の伝搬損失の度合いを示すものである。なお、伝搬損失とは、電波が送受信局と散乱箇所とを往復する間に失われる電力量のことである。また、散乱断面積とは、送信された電波の海面での散乱度合いを表す値のことである。
【0031】
【数1】
ここに、Bsurface:散乱断面積,
Arec:レーダの受信断面積,
Gt:レーダアンテナの利得,
A:減衰係数
をそれぞれ表す。
【0032】
なお、送信電力Ptとレーダの受信断面積Arecとレーダアンテナの利得Gtとは時間的に変化しないと考えられるので定数として扱う。したがって、受信電力Srecを変化させる要因は散乱断面積Bsurfaceの変化及び減衰係数Aの変化になる。
【0033】
(2−1)散乱断面積
数式1において1次散乱を発生させる1次散乱断面積Bは数式2によって表される(Barrick, D.E.:First-order theory and analysis of MF/HF/VHF scatter from the sea,IEEE Transactions on Antennas and Propagation,vol.AP-20,pp.2-10,1972年)。
【0034】
【数2】
【0035】
数式2のS(±2mk0)(kには→が付く)は、1次散乱断面積Bが電波と同じ方向に進行する、若しくは逆行する送信電波の、2倍の波数をもつ海面波の波浪スペクトルに比例することを示している。本発明では、この送信電波の2倍の波数を有する波浪を観測対象波と呼ぶ。
【0036】
数式2は海面が完全導体であるとして導かれた式であるために実際の海水の電気特性を式中に反映していない。発明者らの結果は、海水の塩分により散乱断面積が変化している可能性を示唆しており、その影響は後述する伝搬損失と同程度である可能性がある(吉井匠 他:海洋レーダ観測における表層塩分の影響,電力中央研究所研究報告,V09003,2009年)。海面を一般導体とみなした場合の1次散乱断面積Bは数式3で表される(井口俊夫:短波海洋レーダ 2.短波海洋レーダの原理,通信総合研究所季報,Vol.37,No.3,pp.345-360,1991年)。
【0037】
【数3】
ここに、θ:海面に対する垂線を基準とした電波の海面への入射角,
κ:下部媒質の複素比誘電率
をそれぞれ表す。
なお、海面への入射角θは地表波の場合はほぼ90度である。
【0038】
数式3の下部媒質の複素比誘電率κは数式4で与えられる。
【数4】
ここに、ε*:比誘電率,
ω:電波の角周波数,
σ:電波を散乱させる媒質の電気伝導度,
ε0:真空中の誘電率,
j:虚数単位
をそれぞれ表す。
なお、ω=2πf(f:送信電波の周波数)で与えられる。
【0039】
数式3及び数式4から、1次散乱断面積に散乱媒質の電気特性が影響を与えていることが明らかである。ただし、数式3は入射角θ=90度が特異点になっているので、地表波における1次散乱断面積Bの算出には適用できない。
【0040】
(2−2)伝搬損失
次に、電波の伝搬損失について説明する。具体的には、数式1において伝搬損失の度合いを表す減衰係数Aについて説明する。
【0041】
空気中を地表波モードで伝搬する電波は、下部媒質における電気伝導度及び誘電率によって減衰係数が大きく変化する。減衰係数Aに、Nortonの補正式を広範囲の位相定数に適用できるように修正した Knight and Robson(Knight, P. and J. Robson:Empirical Formula for Groundwave Field-Strength Calculation,Electronics Letters,vol.20,No.18,pp.740-742,1984年)式を用いると、減衰係数Aは数式5で表される。
【0042】
【数5】
ここに、λ:電波波長,
R:観測局からの距離,
σ:伝搬経路における下部媒質の電気伝導度,
ε:伝搬経路における下部媒質の誘電率
をそれぞれ表す。
【0043】
水における誘電率εは水質に拘わらずほとんど変化しない。このため、減衰係数Aの値に影響を与えるのは電気伝導度σの変化のみである。
【0044】
図4に、海洋レーダで一般的に用いられている電波波長12.2m(電波周波数25MHz)及び電波波長7.2m(電波周波数41.9MHz)の場合に数式1及び数式5によって算出される受信電力Srecの変化を示す。なお、図4に示す受信電力は、電気伝導度σ=4Sm-1の場合の観測局から距離R=1km地点の受信電力を用いて正規化を行っている。また、図4中の受信電力はデシベル(dB)単位であり、電気伝導度の単位はSm-1である。
【0045】
図4から、受信電力Srecは観測局からの距離Rに応じて低下する傾向が見られる。これが電波の伝搬損失であり、その低下度合いは電気伝導度が低下するほど大きくなる。さらに、観測局から約10km以上距離が離れると、電気伝導度の変化による受信電力の変化は距離に関係なくほぼ一定値(即ちグラフの傾きがほぼ同じ)になることが知見される。この傾向は短波帯の電波に共通して見られる。
【0046】
(3)本発明の理論的根拠となる知見のまとめ
上述の本発明者らの検討により、本発明の理論的根拠となるものとして次のことが知見される。まず、海洋レーダ観測における受信電力は散乱断面積及び伝搬損失の2つの関数で表される。前者は散乱箇所における観測対象波の波浪スペクトルと電気伝導度との関数で表され、後者は伝搬経路における海水の電気伝導度の関数になる。
【0047】
(4)本発明における電気伝導度推算の基本的考え方
上述の検討によって得られた独自の知見に基づいて本発明者らが新たに構築した、観測海域における電気伝導度が海洋レーダの受信電力に及ぼす影響を利用して海洋レーダの受信電力から電気伝導度を推算する方法を説明する。なお、本発明では、レーダ観測局が汀線に十分近い位置に設置されており、電波は水面上のみを伝搬すると仮定する。また、観測海域における誘電率ε=80であるとする。
【0048】
海洋レーダの受信電力RSI(Receiving Signal Intensity の略)は、数式1及び数式3より、電波の伝搬損失及び海面での散乱(具体的には散乱断面積)の関数になる。数式1と数式3とをまとめ、受信電力RSIを数式6で表す。
【0049】
(数6) RSI(σ,R)=B1S(±2k)X(σ)A(σ,R)
ここに、S:波浪スペクトル,
X:電気伝導度による散乱断面積への関数,
A:伝搬中の減衰を表す関数
B1:距離,電気伝導度,誘電率,波浪スペクトル以外の、システムに
起因する電波の損失などをまとめた項
をそれぞれ表す。
なお、kは波数ベクトルである。
また、伝搬中の減衰を表す関数Aは、観測局からの距離R,電気伝導度σ,
誘電率εによって求められる。
【0050】
数式6の両辺の10log10をとると共に受信電力をデシベル単位にまとめると数式6は数式7のようになる。なお、数式7においては、デシベル単位の値には '(ダッシュ)を付している。数式7から、デシベル単位における受信電力は各項の和として表される。
【0051】
(数7) RSI'(σ,R)=B1'+S'(±2k)+X'(σ)+A'(σ,R)
【0052】
ここで、レーダの受信電力がアンテナパターンなどによる機械的な要因などにも影響を受けるためにB1項の値を正確に見積もることは難しいので、数式7を用いて受信電力を直接求めるのは一般的に困難である。
【0053】
そこで、本発明では、塩分,水温,波浪スペクトルが既知である時間帯の平均受信電力と計測を行った時間の受信電力との差分ΔRSI'を用いて電気伝導度の推算を行う。この方法特有の特徴は、B1項は電気伝導度や波浪スペクトルに関する項を含んでおらず、時間の経過に伴う変化もないと考えられるので、二時点の受信電力の差分を取ることでB1項を消去することができることである。以下においては、平均の対象とした時間帯を基準時間とすると共に得られた平均受信電力を基準電力とする。また、電気伝導度の推算を行う時間帯を計測時間と呼ぶ。
【0054】
受信電力の差分ΔRSI'は、観測局から同じ方位の同じ距離における受信電力から求める。受信電力の差分ΔRSI'は具体的には数式8のように表される。
【0055】
(数8)ΔRSI'(σ,R)=S'1+X'(σ1)+A'(σ1,R)
−S'0−X'(σ0)−A'(σ0,R)
ここに、下付の0:基準時間,
下付の1:計測時間
をそれぞれ表す。
【0056】
ここで、図4から、電気伝導度の変化による受信電力の変化は、観測局から10km程度以上離れた場所では、距離Rによらずほぼ一定になる。このことから、伝搬損失A'は塩分の影響分A1と距離による影響分A2とを用いて数式9のように関数を分けることができると仮定する。
【0057】
(数9) A'(σ,R)=A1(σ)+A2(R)
【0058】
数式8に数式9を代入して整理すると、伝搬損失における距離の寄与分A2が基準時間と計測時間とで相殺されて数式10が得られる。
【0059】
(数10)ΔRSI'(σ)=(S1'−S0')+X'(σ1)+A1(σ1)
−X'(σ0)−A1(σ0)
=(S1'−S0')+(Z(σ1)−Z(σ0))
=ΔS'+ΔZ
ここに、Z:電気伝導度が散乱断面積に及ぼす影響項X'と伝搬損失に及ぼす
影響項A1'とをまとめた項
を表す。
【0060】
数式10において未知の項は、波浪スペクトル項Sの変化分ΔS'と電気伝導度σが受信電力に与える影響項Zの変化分ΔZとである。すなわち、受信電力の差分ΔRSI'から電気伝導度σを求めるためにはこれらの項を算出する必要がある。伝搬損失A1については既に説明しているので、波浪スペクトル項S'について以下に説明する。
【0061】
(5)水質(塩分,水温)が電気伝導度に及ぼす影響
海水の場合、電気伝導度は主に塩分と水温と圧力との関数として表される。ここで、地表波モードの電波においては表層の海水のみが影響するので圧力が電気伝導度に及ぼす影響は小さい。このため、圧力の変化が電気伝導度に与える影響は無視する。
【0062】
ここで、海水の電気伝導度を用いて塩分を表す方法(実用塩分と呼ばれる)が知られている。この実用塩分PS(Practical Salinity の略)は数式11によって定義される(Background papers and supporting data on the Practical Salinity Scale 1978,UNESCO Technical Paper of Marine Science,1981年)。
【0063】
(数11)PS=0.008−0.1692K150.5+25.3851K15
+14.0941K151.5−7.0261K152+2.7081K152.5
ここに、K15:水温15℃且つ1気圧の状態で計測された塩化カリウムの標準液の
電気伝導度ECkに対する、海水を同状態にした場合の
電気伝導度EC15の比EC15/ECk
を表す。
なお、数式11は、実用塩分PSが2〜42の範囲で適用され得る。
【0064】
海水の電気伝導度は塩分の影響によって大きく変動する。淡水の電気伝導度は0.001Sm-1程度といわれ、海水が約4Sm-1であるのに対して3オーダーほど値が低下する。
【0065】
また、海水の電気伝導度σは水温Tによっても変化する。両者の間の関係は数式12によって表される。
【0066】
(数12)σ(T)=σ(Tref){1+α(T−Tref)}
ここに、T:水温,
Tref:基準となる水温,
α:温度補正係数(一般的には0.01〜0.03程度)
をそれぞれ表す。
【0067】
数式11より、電気伝導度は塩分の四次関数であり、水温が既知である場合、電気伝導度から塩分が一意に決まる。また、数式12より、電気伝導度は水温の一次関数となるため、塩分が既知であれば、電気伝導度から水温が一意に決まる。
【0068】
図5は、塩化カリウム標準液の水温15℃且つ1気圧の状態における電気伝導度ECk=4Sm-1,温度補正係数α=0.02とした場合の電気伝導度σ,塩分PS,水温Tの関係を示すものである。図5から、水温が固定された場合は、塩分に対する電気伝導度の勾配は、水温が高いほど大きくなる傾向があるものの、0℃から40℃までで大きくは変化しない。一方、塩分が固定されたは、塩分が0〜40までで電気伝導度の水温に対する勾配は、水温が0℃から40℃までの電気伝導度の変化に比べて小さい。このため、水温の推算精度は塩分に比べて小さいと考えられる。また、塩分の値によって変化幅は大きく変化する。特に塩分が低い場合においては、水温に対する電気伝導度の変化が小さくなるため、電気伝導度による水温の推算は難しい。
【0069】
(6)電気伝導度を用いた塩分・水温の推算方法
電気伝導度から塩分,水温を推算するために必要となる情報は、水温15℃且つ1気圧の状態で計測された塩化カリウムの標準液の電気伝導度ECk及び温度補正係数αである。
【0070】
電気伝導度から塩分を求める場合は、さらに、水温が既知である必要がある。海洋レーダから推算される海域の電気伝導度を数式12に用いて水温15℃の電気伝導度EC15に変換し、数式11に代入することで塩分が得られる。
【0071】
一方、電気伝導度から水温を求める場合は、海域の塩分が既知である必要がある。数式12を変形し、EC15との比を取ると、K15に関する数式13が得られる。数式13を数式6に代入すると、未知数は水温だけになるので、表層水温を推算することができる。
【0072】
【数13】
【0073】
また、基準時間と計測時間とにおいて塩分の変動がないと仮定できる場合については、数式12を変形して数式14が得られる。
【数14】
ここに、下付の0:基準時間,
下付の1:計測時間
をそれぞれ表す。
【0074】
(7)波浪スペクトル項の影響の考慮
海洋レーダの受信電力には、海洋レーダの電波の方向であって観測方向である視線方向に沿って進行する、電波の波長の半分の波長をもつ海面波の波浪スペクトル成分のみが寄与する。したがって、波浪スペクトルSの観測値があれば、その値を数式3に直接用いることが可能である。しかしながら、海洋レーダの観測範囲は数km以上の広範囲に亘ることに加え、海域においては計測機材の設置が困難であるので、波浪スペクトルを各地点で計測することは容易ではない。その場合には、波浪スペクトルに比べて簡易に計測することができる風速を用いて波浪スペクトルを推算するという方法を導入する。
【0075】
平面2次元波浪場の波浪スペクトルS(f,θ)は、周波数スペクトルS(f)と方向分布関数G(f,θ)を用いて数式15によって表される。そして、この数式15を用いるためには、観測対象波の波浪、及び、その進行方向への割合を見積もる必要がある。
【0076】
(数15) S(f,θ)=S(f)G(f,θ)
ここに、f:波浪の周波数,
θ:波向
をそれぞれ表す。
【0077】
ここで、海域における風速,風向は時々刻々と変化するものであるので、風向の変化による波の方向分布について特定の方向に大きく偏った分布が生じる可能性は小さいと考えられる。また、本発明者らの検討において、方向分布の影響よりも、風速が低下する場合の波浪スペクトルの変化の方がはるかに大きいことが知見されている。以上を踏まえ、本発明においては、受信電力に与える波浪スペクトル項の影響としては方向分布の影響よりもフーリエ周波数スペクトルS(f)の影響の方が大きく支配的である。そこで、本発明においては、波浪スペクトル項の周波数スペクトルS(f)が受信電力に与える影響を以下の方法によって考慮する。なお、本明細書では波浪スペクトル項としてフーリエ周波数スペクトルS(f)のみを考慮した場合について説明するが、波浪スペクトル項の方向分布の影響を考慮する場合には、波浪の方向分布を計測したり、方向分布関数G(f,θ)に関する周知の方法を用いて考慮したりすれば良い(例えば、Longuet-Higgins, M.S.:Observations of the directional spectrum of sea waves using the motion of floating buoy,In Ocean Wave Spectra,pp.11-132,1961年 ; Mitsuyasu, H. et al.:Observations of the directional spectrum of ocean waves using a cloverleaf buoy,Journal of Physical Oceanography,Vol.5,pp.750-760,1975年)。
【0078】
海洋レーダでは、観測対象波が風波の領域に属する、送信電波の周波数帯が選定される。ここで、無限吹送距離で発達した風波の代表的なスペクトル形状であるPierson-Moskowitsスペクトル(Pierson.W and L.Moskowits:A proposed spectral form for fully developed wind seas based on the similarity theory of s.a. kitaigorodskii,Journal of geophysical research,vol.69,pp.5181-5190,1964年)(以下、PMスペクトルと表記する)は数式16のように表される。
【0079】
【数16】
ここに、f:波浪の周波数,
αPM:定数(=8.10×10-3),
U19.5:海上19.5m高度の風速,
g:重力加速度(=9.8ms-2)
をそれぞれ表す。
【0080】
波浪に微小振幅波理論を用いると共に深海波であると仮定すると、波浪波長LWは数式17によって求められる。
【0081】
(数17)LW=gT2/2π
ここに、LW:波浪波長,
T:波浪周期,
g:重力加速度(=9.8ms-2)
をそれぞれ表す。
【0082】
波浪周期Tを波浪波長Lwに変換し、さらに電波の波長をLRとして整理すると、数式18が得られる。
【0083】
【数18】
ここに、fb:ブラッグ散乱を起こす波の周波数
を表す。
【0084】
受信電力はブラッグ散乱を起こす波の波浪スペクトルのみが問題であるから、数式16及び数式18を整理すると数式19になる。
【0085】
【数19】
【0086】
単位をデシベルにすると共に、式中の風速以外の項をまとめると観測対象波による波浪スペクトルS'は数式20で表される。
【0087】
(数20)S'(LR)=B2(LR)−19.0U19.5-4
ここに、B2:風速や水質に無関係であって電波波長LRによって決定される項
を表す。
【0088】
数式20を用いて、海洋レーダでよく用いられるVHF帯の41.9MHz(電波波長7.2m)及びHF帯の25MHz(電波波長12.2m)の観測対象波の波浪スペクトルを求めると図6が得られる。なお、図中の波浪スペクトルはデシベル単位で整理している。
【0089】
図6より、VHF帯の41.9MHzの電波を観測に用いた場合には風速が約3ms-1以上のときに観測対象波の波浪スペクトルが飽和し、HF帯の25MHzの電波を観測に用いた場合には風速が4ms-1以上のときに波浪スペクトルがほぼ飽和する。また、風速がそれ以下の場合には波浪スペクトルは急激に低下する。
【0090】
このことから、海洋レーダに用いられるVHF帯及びHF帯のレーダにおいては、波浪スペクトルが受信電力に与える影響は、この風速が低下した時間帯のみを考慮すれば良いことが知見される。
【0091】
以上より、海洋レーダの受信電力の相対差(すなわち、計測時間における受信電力から塩分,水温が既知である基準時間における受信電力を引いた値)を用いて海水の電気伝導度を算出する方法が理論的な知見と共に検証され、さらに、当該算出方法に用いられる波浪スペクトル項については風速U19.5が3ms-1程度以下になったときに波浪のフーリエスペクトルの減少の影響が顕著になるためにこの影響を考慮することの有用性が検証される。
【0092】
したがって、請求項1から9に記載の海洋表層の水質計測方法、水質計測装置及び水質計測プログラムによると、海洋レーダによって観測される受信電力の差分と波浪が受信電力に与える影響の変化分(言い換えると、波浪スペクトルの変化分)と電気伝導度が受信電力に与える影響の変化分との間の関係に基づいて電気伝導度を算出し、当該電気伝導度を用いて観測海域の塩分或いは水温が推算される。
【0093】
また、請求項10から12に記載の海洋表層の水質計測方法、水質計測装置及び水質計測プログラムによると、受信電力のノイズ値の平均値であるノイズフロアを受信電力として用いて観測海域の塩分が推算される。ここで、ノイズフロアは受信電力の0Hz周辺のピーク部分及び1次散乱周辺の部分を除いた平均値であるので、海域の塩分はノイズフロアを受信電力として用いて推算した塩分よりも低いと考えられる。したがって、請求項10から12に記載の海洋表層の水質計測方法、水質計測装置及び水質計測プログラムの場合には、観測海域の塩分の最大値が推算される。
【発明の効果】
【0094】
本発明の海洋表層の水質計測方法、水質計測装置及び水質計測プログラムによれば、海洋レーダによって観測される受信電力を用いて電気伝導度を算出し、当該電気伝導度を用いて観測海域の海水の塩分或いは水温を推算することができるので、海洋レーダによって得られるレーダの有効活用を図ると共に数十km範囲の海域を対象とする海水の塩分や水温の計測にかかる手間や費用を縮減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】第一の実施形態の海洋表層の塩分計測方法を説明するフローチャートである。
【図2】第一の実施形態の海洋表層の塩分計測方法をプログラムを用いて実施する場合の水質計測装置の機能ブロック図である。
【図3】海洋レーダによって観測される受信電波の例を示す図である。
【図4】電気伝導度の違いと観測局からの距離の変化とによる受信電力の変化の傾向を説明する図である。
【図5】水温と塩分と電気伝導度との間の関係を説明する図である。
【図6】電波波長別に風速の変化に伴う波浪スペクトルの変化を示す図である。
【図7】第二及び第三の実施形態の海洋表層の水温計測方法を説明するフローチャートである。
【図8】第二及び第三の実施形態の海洋表層の水温計測方法をプログラムを用いて実施する場合の水質計測装置の機能ブロック図である。
【図9】実施例1の海洋レーダの設置位置及び観測方向を説明する図である。
【図10】実施例1の風速と受信電力との組み合わせデータのプロット図である。
【図11】実施例1の電気伝導度と受信電力との組み合わせデータのプロット図である。
【図12】実施例1における筑後川流量と雨量との変動を示す図である。
【図13】実施例1の表層塩分の推算の日平均の結果を示す図である。
【図14】実施例1の表層塩分の推算の日平均の結果を示す図である。
【図15】実施例1の最大表層塩分の推算の日平均の結果を示す図である。
【図16】実施例1の最大表層塩分の推算の日平均の結果を示す図である。
【図17】実施例2の海洋レーダの設置位置及び観測方向を説明する図である。
【図18】実施例2の表層水温の推算結果と実測値との比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0096】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0097】
図1及び図2に、本発明の第一の実施形態として、海洋表層の塩分を計測する場合の本発明の海洋表層の水質計測方法、水質計測装置及び水質計測プログラムの実施形態の一例を示す。本実施形態の海洋表層の塩分計測方法は、図1に示すように、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算するステップ(S1)と、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算すると共に電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定するステップ(S2)と、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算するステップ(S3)と、計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出するステップ(S4)と、水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出するステップ(S5)と、電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出するステップ(S6)とを有するようにしている。
【0098】
上記海洋表層の塩分計測方法は、海洋表層の塩分計測装置として実現される。本実施形態の塩分計測装置は、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段と、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算すると共に電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段と、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段と、計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出する手段と、水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出する手段と、電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出する手段とを備える。
【0099】
上述の海洋表層の塩分計測装置は、海洋表層の塩分計測プログラムをコンピュータ上で実行することによっても実現される。本実施形態では、海洋表層の塩分計測プログラムをコンピュータ上で実行する場合を例に挙げて説明する。
【0100】
海洋表層の塩分計測プログラム17を実行するための本実施形態の塩分計測装置としての水質計測装置10の全体構成を図2に示す。この水質計測装置10は、制御部11、記憶部12、入力部13、表示部14及びメモリ15を備え相互にバス等の信号回線により接続されている。また、水質計測装置10にはデータサーバ16がバス等の信号回線により接続されており、その信号回線を介して相互にデータや制御指令等の信号の送受信(即ち出入力)が行われる。
【0101】
制御部11は記憶部12に記憶されている海洋表層の塩分計測プログラム17によって水質計測装置10全体の制御並びに水質の計測に係る演算を行うものであり、例えばCPU(即ち中央演算処理装置)である。記憶部12は少なくともデータやプログラムを記憶可能な記憶手段であり、例えばハードディスクである。メモリ15は制御部11が各種の制御や演算を実行する際の作業領域であるメモリ空間となるものであり、例えばRAM(Random Access Memory の略)である。
【0102】
入力部13は少なくとも作業者の命令を制御部11に与えるためのインターフェイスであり、例えばキーボードである。
【0103】
表示部14は制御部11の制御により文字や図形等の描画・表示を行うものであり、例えばディスプレイである。
【0104】
そして、海洋表層の塩分計測プログラム17を実行することによって水質計測装置10の制御部11には、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段としての波浪スペクトル推算部11aと、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算すると共に電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段としての電気伝導度影響推算部11bと、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段としての電気伝導度推算部11cと、計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出する手段としての温度補正部11dと、水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出する手段としての電気伝導度比算出部11eと、電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出する手段としての塩分推算部11fとが構成される。
【0105】
本実施形態の実施にあたっては、予め、観測海域における観測・計測を行い、電気伝導度が変化しない(言い換えると、地点毎に一定である)と共に観測対象波が十分に発達している時間帯(言い換えると、観測海域における風速が十分に得られている時間帯)における海洋レーダ受信電力と電気伝導度(当該時間帯中変化せず一定)と波浪若しくは風速とが、同時刻に観測・計測されたもの同士の組み合わせデータとして整備される。なお、本発明においては、本実施形態の実施にあたっての予めの観測・計測が行われる時間帯であって電気伝導度が変化しないと共に観測対象波が十分に発達している時間帯のことを基準時間帯と呼ぶ。
【0106】
本発明では、海洋レーダを用いて海域の表層流を観測する場合の従来の方法と同様の方法によって受信電力を観測する。具体的には例えば、1本の送信アンテナと複数本の受信アンテナとを有する海洋レーダを観測海域の沿岸に設置し、定期的に電波の送受信を行うことによって観測を実施する。
【0107】
海洋レーダによる観測における電波の送受信方法や受信された電波の複数の方向への分解も従来と同様の方法が用いられる。なお、受信電波が分解される方向が海洋レーダの観測方向であって視線方向になる。
【0108】
また、本発明においては、電気伝導度は、観測海域において例えばCTD(Conductivity−Temperature−Depth profiler の略:電気伝導度水温水深計)によって直接計測するようにしても良いし、水温と実用塩分PSとを計測して図5に示される関係を用いて決定するようにしても良い。
【0109】
本発明における電気伝導度の計測は、観測海域の観測を行う海洋レーダの視線方向上若しくは視線方向に近い地点で行うことが望ましい。
【0110】
さらに、本発明における波浪の計測は、波浪スペクトルを計測することができる従来から用いられている種々の計測方法のうちのいずれかによって行う。また、本発明における風速の計測は、従来から用いられている風速計を設置して行う。風速の計測高さは、計測中一定であれば特定の高さに限定されるものではなく、例えば地上19.5mにしても良いし、その他の高さにしても良い。
【0111】
本発明における波浪若しくは風速の計測は、観測海域の観測を行う海洋レーダの視線方向上若しくは視線方向に近い地点で行うことが望ましい。また、波浪若しくは風速の計測は、観測海域及びその周辺の地形の影響などによって観測海域における平均的な状況と比べて主に波浪若しくは風速の増減について特殊な傾向を示す地点は避けることが望ましい。
【0112】
基準時間帯における電気伝導度並びに波浪若しくは風速の計測は、観測海域内若しくはその周辺の複数地点で行うことが望ましく、また、両者の計測を同一地点若しくは近い地点で行うことが望ましい。
【0113】
本実施形態の実施にあたっては、さらに、予め、観測海域における観測・計測を行い、電気伝導度が変化する時間帯における海洋レーダ受信電力と電気伝導度と波浪若しくは風速とが、同時刻に観測・計測されたもの同士の組み合わせデータとして整備される。なお、本発明においては、本実施形態の実施にあたっての予めの観測・計測が行われる時間帯であって電気伝導度が変化する時間帯のことを電気伝導度変動時間帯と呼ぶ。
【0114】
海洋レーダによる受信電力の観測については、基準時間帯における観測と電気伝導度変動時間帯における観測とで、海洋レーダの観測機器が同じ地点に設置されると共に同じ視線方向について観測することが望ましい。
【0115】
電気伝導度変動時間帯における電気伝導度並びに波浪若しくは風速の計測は、両者の計測を同一地点若しくは近い地点で行うことが望ましく、さらに、基準時間帯における電気伝導度並びに波浪若しくは風速の計測地点と同じ若しくは近い地点で行うことが望ましい。
【0116】
そして、本実施形態では、基準時間帯において観測・計測されたデータは、観測・計測時刻の情報と対応付けられて受信電力の値と電気伝導度の値と波浪(具体的には波浪スペクトル)若しくは風速の値との組み合わせデータとして、基準時間帯データベース16aとしてデータサーバ16に蓄積される。なお、受信電力のデータには視線方向及び距離の情報が更に対応付けられる。また、電気伝導度のデータ及び波浪若しくは風速のデータには、計測位置の情報として、これらの計測地点に最も近い視線方向及び海洋レーダからの距離の情報が更に対応付けられる。
【0117】
本実施形態では、また、電気伝導度変動時間帯において観測・計測されたデータは、観測・計測時刻の情報と対応付けられて受信電力の値と電気伝導度の値と波浪(具体的には波浪スペクトル)若しくは風速の値との組み合わせデータとして、電気伝導度変動時間帯データベース16bとしてデータサーバ16に蓄積される。なお、受信電力のデータには視線方向及び距離の情報が更に対応付けられる。また、電気伝導度のデータ及び波浪若しくは風速のデータには、計測位置の情報として、これらの計測地点に最も近い視線方向及び海洋レーダからの距離の情報が更に対応付けられる。
【0118】
観測海域についての上述の基準時間帯に関するデータの整備及び電気伝導度変動時間帯に関するデータの整備をした後に、観測海域における水質の計測を行う。なお、本発明においては、水質の計測を行う時間(言い換えれば、計測の対象とする時間)のことを計測時間帯と呼ぶ。また、以下においては、データベースをDBと表記する。
【0119】
計測時間帯に関する本実施形態の処理の実行にあたっては、まず、観測海域において海洋レーダによる受信電力の観測,波浪若しくは風速の計測,水温の計測を行う(S0)。
【0120】
海洋レーダによる受信電力の観測については、基準時間帯における観測と計測時間帯における観測とで、海洋レーダの観測機器が同じ地点に設置されると共に同じ視線方向について観測することが望ましく、また、同じ電波波長が用いられる。
【0121】
また、観測海域における波浪若しくは風速の計測を同時に行う。風速の計測については、基準時間帯における計測と計測時間帯における計測とで計測高さを同じにする。
【0122】
計測時間帯における波浪若しくは風速の計測は、観測海域内若しくはその周辺の複数地点で行うことが望ましく、また、基準時間帯や電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速の計測地点と同じ若しくは近い地点で行うことが望ましい。
【0123】
さらに、観測海域の水温の計測を同時に行う。水温の計測は、従来から用いられている水温計を設置して海洋表層の水温を計測するように行う。
【0124】
計測時間帯における水温の計測は、観測海域の観測を行う海洋レーダの視線方向上若しくは視線方向に近い地点で行うことが望ましく、また、観測海域内の複数地点で行うことが望ましく、さらに、基準時間帯や電気伝導度変動時間帯や計測時間帯における波浪若しくは風速の計測地点と同じ若しくは近い地点で行うことが望ましい。
【0125】
また、観測海域における上述の受信電力の観測と波浪若しくは風速の計測と水温の計測とは、継続して連続的に行う場合も一定の間隔をおいて行う場合も観測・計測の時刻を揃えて行う。
【0126】
本実施形態では、計測時間帯において観測・計測されたデータは、観測・計測日時の情報と対応付けられて受信電力の値と波浪(具体的には波浪スペクトル)若しくは風速の値と水温の値との組み合わせデータとして、計測時間帯DB16cとしてデータサーバ16に蓄積される。なお、受信電力のデータには視線方向及び距離の情報が更に対応付けられる。また、波浪若しくは風速のデータ及び水温のデータには、計測位置の情報として、これらの計測地点に最も近い視線方向及び海洋レーダからの距離の情報が更に対応付けられる。
【0127】
そして、本実施形態では、基準時間帯DB16aに整備された基準時間帯におけるデータと電気伝導度変動時間帯DB16bに整備された電気伝導度変動時間帯におけるデータと計測時間帯DB16cに蓄積された計測時間帯におけるデータとを用いて以下のS1からS6までの処理を行う。
【0128】
まず、制御部11の波浪スペクトル推算部11aは、基準時間帯における波浪が海洋レーダの受信電力に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分、言い換えると波浪スペクトルの変化分の推算を行う(S1)。
【0129】
本発明における波浪スペクトルの変化分は、基準時間帯と計測時間帯とにおいて波浪が計測され波浪スペクトルが得られている場合には当該データを用いて算出し、両時間帯において波浪ではなく風速が計測されている場合には風速のデータを用いて算出する。
【0130】
(1)波浪が計測されている場合
まず、波浪が計測され波浪スペクトルが得られている場合には、具体的には、波浪スペクトル推算部11aは、データサーバ16に格納されている基準時間帯DB16aから基準時間帯における時刻別の波浪スペクトルを読み込むと共に当該時刻別の波浪スペクトルを用いて基準時間帯における波浪スペクトルの平均S0'を計算する。
【0131】
波浪スペクトル推算部11aは、さらに、データサーバ16に格納されている計測時間帯DB16cから計測時間帯における波浪スペクトルS1'を読み込み、S0'−S1'を計算して計測時間帯における変化分波浪スペクトルΔS'を算出する。
【0132】
S0'−S1'の計算は、計測時間帯の日時別に、計測時間帯DB16cに記録されている波浪のデータ毎に行う(言い換えると、波浪のデータに対応付けられている視線方向別で海洋レーダからの距離別に行う)。すなわち、波浪の計測が観測海域内の一地点のみで行われている場合には観測海域の全域に亘って(即ちあらゆる地点に対して)共通に適用される一つの値を計算するものとして行い、波浪の計測が複数地点で行われている場合には当該地点毎に行う。なお、基準時間帯と計測時間帯とにおいて計測地点が異なる場合には、両時間帯の各計測地点を対比し対応させて観測海域を適当に分割して当該分割した領域毎にS0'−S1'の計算を行う。
【0133】
そして、波浪スペクトル推算部11aは、算出した変化分波浪スペクトルΔS'の値を、日時,ΔS'を算出した地点若しくは領域に最も近い視線方向,海洋レーダからの距離の情報と対応付けてメモリ15に記憶させる。
【0134】
(2)風速が計測されている場合
次に、風速が計測されている場合には、波浪スペクトルの変化による受信電力の変化分を、風速を用いて算出する。本発明において、基準時間帯における波浪スペクトルが海洋レーダの受信電力に与える影響と計測時間帯における波浪スペクトルが受信電力に与える影響との変化分を風速を用いて推算する方法には以下の二つがある。
【0135】
2−1)数式20を用いる方法
波浪スペクトル推算部11aは、まず、基準時間帯における観測に用いられた海洋レーダの電波波長LRと基準時間帯に観測海域において計測された風速U19.5とを数式20に代入して波浪スペクトルS'(LR)を推算する。
【0136】
海洋レーダの電波波長LRの値は、例えば、S1からS6までの処理に用いる種々の設定値などが規定されたデータファイルを記憶部12に格納しておくようにすると共に当該データファイル中に規定しておいて波浪スペクトル推算部11aが当該データファイルから読み込むようにしても良いし、S1の処理の際に電波波長LRの値の指定を要求する内容のメッセージを表示部14に表示すると共に入力部13を介して入力された作業者の指定の値を波浪スペクトル推算部11aが読み込むようにしても良い。
【0137】
そして、波浪スペクトル推算部11aは、データサーバ16に格納されている基準時間帯DB16aから時刻別の風速U19.5の値を読み込み、当該値を数式20に代入して基準時間帯における時刻別の波浪スペクトルS'(LR)を推算する。
【0138】
波浪スペクトル推算部11aは、さらに、上述の処理によって推算した時刻別の波浪スペクトルS'(LR)を用いて基準時間帯における波浪スペクトルの平均S0'(LR)を計算する。
【0139】
そして、波浪スペクトル推算部11aは、基準時間帯における波浪スペクトルの平均S0'(LR)の値を基準時間波浪スペクトルS0'(LR)としてメモリ15に記憶させる。
【0140】
波浪スペクトル推算部11aは、また、計測時間帯における観測に用いられた海洋レーダの電波波長LRと計測時間帯に観測海域において計測された風速U19.5とを数式20に代入して波浪スペクトルS1'(LR)を推算する。
【0141】
波浪スペクトル推算部11aは、具体的には、前述と同様にして海洋レーダの電波波長LRの値を読み込むと共にデータサーバ16に格納されている計測時間帯DB16cから風速U19.5の値を読み込み、当該値を数式20に代入して計測時間帯における波浪スペクトルS1'(LR)を推算する。
【0142】
波浪スペクトル推算部11aは、さらに、前述の処理によってメモリ15に記憶させた基準時間波浪スペクトルS0'(LR)の値を読み込み、S0'(LR)−S1'(LR)を計算して計測時間帯における変化分波浪スペクトルΔS'を算出する。
【0143】
変化分波浪スペクトルΔS'の算出にまつわる処理は、計測時間帯の日時別に、計測時間帯DB16cに記録されている風速のデータ毎に行う(言い換えると、風速のデータに対応付けられている視線方向別で海洋レーダからの距離別に行う)。すなわち、風速の計測が観測海域内の一地点のみで行われている場合には観測海域の全域に亘って(即ちあらゆる地点に対して)共通に適用される一つの値を計算するものとして行い、風速の計測が複数地点で行われている場合には当該地点毎に行う。なお、基準時間帯と計測時間帯とにおいて計測地点が異なる場合には、両時間帯の各計測地点を対比し対応させて観測海域を適当に分割して当該分割した領域毎にS0'−S1'の計算を行う。
【0144】
そして、波浪スペクトル推算部11aは、算出した変化分波浪スペクトルΔS'の値を、日時,ΔS'を算出した地点若しくは領域に最も近い視線方向,海洋レーダからの距離の情報と対応付けてメモリ15に記憶させる。
【0145】
2−2)風速回帰関数を用いる方法
本発明の適用においては、数式20を用いないで以下の方法によって基準時間帯における波浪スペクトルが海洋レーダの受信電力に与える影響と計測時間帯における波浪スペクトルが受信電力に与える影響との変化分を推算する、言い換えると変化分波浪スペクトルを推算するようにしても良い。例えば、地上19.5mではない高さで風速を計測した場合で基準時間帯や計測時間帯における風速U19.5の値が整備されていない場合などに以下の方法は有効である。
【0146】
数式20を用いないで波浪スペクトルが受信電力に与える影響を推算する場合には、基準時間帯における受信電力の値と風速の値との間の関係の回帰関数を推定し、当該回帰関数(以下、風速回帰関数と呼ぶ)を用いて影響を推算するようにする。
【0147】
受信電力の値と風速の値との間の関係を回帰する際の回帰曲線の関数形(即ち風速回帰関数の関数形)は特定のものに限定されるものではなく、例えば基準時間帯における同時刻の受信電力の値と風速の値との組み合わせデータをグラフ上にプロットして両者の関係を適切に表し得る関数形を作業者が選択すれば良い。具体的には例えば、数式21に示す対数関数を用いることが考えられる。
【0148】
(数21)RSI'=a1 Log(U)+b1
ここに、RSI':受信電力〔dB〕,
U:風速〔ms-1〕,
a1,b1:回帰係数,定数項
をそれぞれ表す。
【0149】
風速回帰関数の推定処理は、基準時間帯における時刻別の、観測海域の一地点において計測された風速、及び、当該風速計測地点に最も近い視線方向・距離における受信電力を用いて行う。なお、風速回帰関数の関数形は、作業者が予め選択して海洋表層の塩分計測プログラム17に規定しておく。
【0150】
ここで、風速の変化による波浪スペクトルの変動は観測海域のどの地点でも同じであると考えられるので、風速回帰関数の関数形として数式21に示す対数関数を用いた場合には、数式21の回帰係数a1は一定であり、a1 Log(U)は観測海域の全域に亘って(即ちあらゆる地点に対して)適用可能である。
【0151】
一方で、数式21の定数項b1は、数式7のB1',X'(σ),A'(σ,R)の和に相当しており、観測海域の電気伝導度が一定の場合には海洋レーダの視線方向及び海洋レーダからの距離によって変化すると考えられる。しかしながら、B1'及び距離による減衰項A2(R)は差分をとるために相殺されるので算出する必要がない。なお、B1'を相殺するためにも、基準時間帯と電気伝導度変動時間帯,計測時間帯との観測における海洋レーダの観測機器は同じ地点に設置されると共同じ視線方向について観測するようにすることが望ましい。Z(σ)(=A1(σ)+X'(σ))についてはS2の処理として説明する方法によって評価する。
【0152】
上述の処理を実行するため、波浪スペクトル推算部11aは、データサーバ16に格納されている基準時間帯DB16aから上記一地点における時刻別の受信電力の値と風速の値との組み合わせデータを読み込み、受信電力の値と風速の値との間の関係を表す回帰関数即ち風速回帰関数を推定し、推定した風速回帰関数の回帰係数(数式21の場合にはa1)の値をメモリ15に記憶させる。なお、回帰関数の推定は例えば最小二乗法を用いて行う。
【0153】
そして、波浪スペクトル推算部11aは、基準時間帯DB16aから時刻別の風速Uの値を読み込むと共に当該値を風速回帰関数に代入して基準時間帯における時刻別の受信電力RSI'(但し、定数項分を除く値)を推算し、さらに、当該時刻別の受信電力RSI'を用いて基準時間帯における受信電力の平均RSI0'(但し、定数項分を除く値)を計算する。
【0154】
そして、波浪スペクトル推算部11aは、基準時間帯における受信電力の平均RSI0'の値を基準時間受信電力RSI0'としてメモリ15に記憶させる。
【0155】
波浪スペクトル推算部11aは、また、計測時間帯に観測海域において計測された風速Uを風速回帰関数に代入して受信電力RSI1'(但し、定数項分を除く値)を推算する。
【0156】
波浪スペクトル推算部11aは、具体的には、データサーバ16に格納されている計測時間帯DB16cから風速Uの値を読み込み、当該値を風速回帰関数に代入して計測時間帯における受信電力RSI1'(但し、定数項分を除く)を推算する。
【0157】
波浪スペクトル推算部11aは、さらに、前述の処理によってメモリ15に記憶させた基準時間受信電力RSI0'の値を読み込み、RSI0'−RSI1'を計算する。
【0158】
風速回帰関数を用いてのRSI0'−RSI1'の計算にまつわる処理は、計測時間帯の日時別に、計測時間帯DB16cに記録されている風速のデータ毎に行う(言い換えると、風速のデータに対応付けられている視線方向別で海洋レーダからの距離別に行う)。すなわち、風速の計測が観測海域内の一地点のみで行われている場合には観測海域の全域に亘って(即ちあらゆる地点に対して)共通に適用される一つの値を計算するものとして行い、風速の計測が複数地点で行われている場合には当該地点毎に行う。なお、基準時間帯と計測時間帯とにおいて計測地点が異なる場合には、両時間帯の各計測地点を対比し対応させて観測海域を適当に分割して当該分割した領域毎にRSI0'−RSI1'の計算を行う。
【0159】
そして、波浪スペクトル推算部11aは、RSI0'−RSI1'の値を計測時間帯における変化分波浪スペクトルΔS'として、日時,ΔS'を算出した地点若しくは領域に最も近い視線方向,海洋レーダからの距離の情報と対応付けてメモリ15に記憶させる。
【0160】
次に、制御部11の電気伝導度影響推算部11bは、計測時間帯における電気伝導度の変化が受信電力に与える影響の推算を行う(S2)。
【0161】
受信電力の差分ΔRSI'と波浪スペクトル項S'の変化分と電気伝導度が受信電力に与える影響の変化分との間の関係の基本式である数式10における Z(σ1)−Z(σ0)(=X'(σ1)+A1(σ1)−X'(σ0)−A1(σ0))について、電気伝導度が散乱強度に及ぼす影響項X'は理論的に算定することができない。そこで、本発明では、数式10の Z(σ1)−Z(σ0) に該当するものを、電気伝導度の変化が受信電力に与える影響として評価する。
【0162】
具体的には、本発明では、電気伝導度変動時間帯における受信電力の値と電気伝導度σの値との間の関係の回帰関数f(σ)を推定し、当該回帰関数(以下、電気伝導度回帰関数と呼ぶ)f(σ)を用いて数式10の Z(σ1)−Z(σ0) を推算する。
【0163】
ここで、電気伝導度回帰関数f(σ)の推定に用いる電気伝導度変動時間帯における受信電力の値については、S1の処理と同様の処理を行った結果を用いて電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響を取り除いたデータを用いる。具体的には、S1の処理においては基準時間帯のデータと計測時間帯のデータとを用いて計測時間帯における変化分波浪スペクトルΔS'を推算するようにしているところ、S2の処理においては基準時間帯のデータと電気伝導度変動時間帯のデータとを用いて電気伝導度変動時間帯における変化分波浪スペクトルΔs'を推算すると共に電気伝導度変動時間帯において実際に観測された受信電力から変化分波浪スペクトルΔs'を差し引いたものを受信電力の値として用いる。
【0164】
電気伝導度変動時間帯における変化分波浪スペクトルΔs'を差し引いた後の受信電力の値と電気伝導度の値との間の関係を回帰する際の回帰曲線の関数形(即ち電気伝導度回帰関数f(σ)の関数形)は特定のものに限定されるものではなく、例えば電気伝導度変動時間帯における同時刻の受信電力の値と電気伝導度の値との組み合わせデータをグラフ上にプロットして両者の関係を適切に表し得る関数形を作業者が選択すれば良い。具体的には例えば、数式22に示す一次関数を用いることが考えられる。
【0165】
(数22)RSI'=f(σ)=a2σ+b2
ここに、RSI':受信電力〔dB〕
(実際の観測値から変化分波浪スペクトルを差し引いたもの),
σ:電気伝導度〔Sm-1〕,
a2,b2:回帰係数,定数項
をそれぞれ表す。
【0166】
電気伝導度回帰関数f(σ)の推定処理は、電気伝導度変動時間帯における時刻別の、観測海域の一地点において計測された電気伝導度、及び、当該電気伝導度計測地点に最も近い視線方向・距離における受信電力を用いて行う。なお、電気伝導度回帰関数f(σ)の関数形は、作業者が予め選択して海洋表層の塩分計測プログラム17に規定しておく。
【0167】
上述の処理を実行するため、電気伝導度影響推算部11bは、まず、データサーバ16に格納されている基準時間帯DB16a及び電気伝導度変動時間帯DB16bに蓄積されているデータを用い、S1の処理として説明した波浪の計測データを用いる方法或いは数式20を用いる方法或いは風速回帰関数を用いる方法によって電気伝導度変動時間帯における変化分波浪スペクトルΔs'を推算する。なお、S2の処理における変化分波浪スペクトルΔs'の推算は、電気伝導度回帰関数f(σ)の推定処理に用いる観測海域の一地点のみについて行えば良い。
【0168】
そして、電気伝導度影響推算部11bは、推算した電気伝導度変動時間帯における変化分波浪スペクトルΔs'の値をメモリ15に記憶させる。
【0169】
さらに、電気伝導度影響推算部11bは、電気伝導度変動時間帯DB16bから上記一地点における時刻別の受信電力の値と電気伝導度の値との組み合わせデータを読み込み、受信電力の値からメモリ15に記憶させた電気伝導度変動時間帯における変化分波浪スペクトルΔs'を差し引いてから、電気伝導度回帰関数f(σ)の推定に用いる受信電力の値と電気伝導度の値との組み合わせデータとしてメモリ15に記憶させる。
【0170】
そして、電気伝導度影響推算部11bは、上述の処理においてメモリ15に記憶させた上記一地点における時刻別の受信電力の値と電気伝導度の値との組み合わせデータを読み込み、受信電力の値と電気伝導度の値との間の関係を表す回帰関数即ち電気伝導度回帰関数f(σ)を推定する。なお、回帰関数の推定は例えば最小二乗法を用いて行う。
【0171】
そして、電気伝導度影響推算部11bは、推定した電気伝導度回帰関数f(σ)の回帰係数及び定数項(数式22の場合にはa2とb2)の値をメモリ15に記憶させる。
【0172】
次に、制御部11の電気伝導度推算部11cは、計測時間帯における電気伝導度の推算を行う(S3)。なお、S3からS6までの処理は、計測時間帯の日時別に、計測時間帯DB16cに記録されている受信電力のデータ毎に行う(言い換えると、海洋レーダの視線方向別で海洋レーダからの距離別に行う)。
【0173】
電気伝導度推算部11cは、S1の処理においてメモリ15に記憶された基準時間受信電力RSI0'の値及び計測時間帯における変化分波浪スペクトルΔS'の値と、S2の処理においてメモリ15に記憶された電気伝導度回帰関数f(σ)の回帰係数及び定数項の値とをメモリ15から読み込むと共に、基準時間帯における電気伝導度σ0の値を基準時間帯DB16aから読み込み、さらに、計測時間帯における受信電力RSIm'の値を計測時間帯DB16cから読み込む。ただし、差分をとるために相殺されるので電気伝導度回帰関数の定数項は無視しても構わない。
【0174】
そして、数式10を書き換えることによって得られる数式23を用いて計測時間帯における電気伝導度σcを推算する。
【0175】
(数23) RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}
【0176】
ここで、S1の処理において計測時間帯における変化分波浪スペクトルΔS'の値には日時と共にΔS'を算出した地点若しくは領域に最も近い視線方向と海洋レーダからの距離との情報が対応付けられているところ、S3における処理は日時別に海洋レーダの視線方向別で海洋レーダからの距離別に行うものである。このため、メモリ15に記憶されている変化分波浪スペクトルΔS'の値の中から、視線方向別・距離別の電気伝導度σcを推算するために計測時間帯DB16cから読み込んだ受信電力RSIm'の値に対応付けられている視線方向並びに計算対象の距離に一番近い視線方向及び距離が対応付けられているものを選択して用いる。
【0177】
さらに、基準時間帯DB16aに蓄積されている基準時間帯における電気伝導度σ0の値には当該電気伝導度の計測地点に最も近い視線方向と海洋レーダからの距離との情報が対応付けられているので、上記と同様に、受信電力RSIm'の値に対応付けられている視線方向並びに計算対象の距離に一番近い視線方向及び距離が対応付けられている電気伝導度σ0の値を選択して用いる。
【0178】
そして、電気伝導度推算部11cは、推算した電気伝導度σcの値を、日時,視線方向,海洋レーダからの距離の情報と対応付けてメモリ15に記憶させる。
【0179】
次に、制御部11の温度補正部11dは、S3の処理において推算された電気伝導度の値について温度補正を行う(S4)。
【0180】
具体的には、温度補正部11dは、S3の処理においてメモリ15に記憶された電気伝導度σcの値をメモリ15から読み込むと共に、計測時間帯における水温Trefを計測時間帯DB16cから読み込む。なお、計測時間帯DB16cに蓄積されている水温Trefの値の中から、温度補正を行うためにメモリ15から読み込んだ電気伝導度σcの値に対応付けられている視線方向及び距離に一番近い視線方向と距離とが対応付けられているものを選択して用いる。
【0181】
そして、温度補正部11dは、S3の処理において推算された電気伝導度について、数式12を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)の値を算出する。ここで、数式12の変数について、S3の処理において推算した電気伝導度σcの値をσ(Tref)にすると共にT=15にする。なお、温度補正係数αの値を含めて数式12は海洋表層の塩分計測プログラム17に規定しておく。
【0182】
そして、温度補正部11dは、算出した電気伝導度σ(15)の値を、日時,視線方向,海洋レーダからの距離の情報と対応付けてメモリ15に記憶させる。
【0183】
次に、制御部11の電気伝導度比算出部11eは、S4の処理において算出された温度補正後の電気伝導度の値を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度の比の算出を行う(S5)。
【0184】
具体的には、電気伝導度比算出部11eは、S4の処理においてメモリ15に記憶された電気伝導度σ(15)の値をメモリ15から読み込み、当該値を数式24に代入して電気伝導度の比K15を算出する。
【0185】
(数24)K15=σ(15)/σKCl(15)
ここに、σKCl(15):15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の
電気伝導度
を表す。
【0186】
そして、電気伝導度比算出部11eは、算出した電気伝導度の比K15の値を、日時,視線方向,海洋レーダからの距離の情報と対応付けてメモリ15に記憶させる。
【0187】
次に、制御部11の塩分推算部11fは、S5の処理において算出された電気伝導度の比の値を用いて塩分の推算を行う(S6)。
【0188】
具体的には、塩分推算部11fは、S5の処理においてメモリ15に記憶された電気伝導度の比K15の値をメモリ15から読み込み、当該値を数式11に代入して実用塩分PSを算出する。
【0189】
そして、塩分推算部11fは、算出した実用塩分PSの値を、日時,視線方向,海洋レーダからの距離の情報と対応付けて塩分推算結果DB16dとしてデータサーバ16に蓄積する。
【0190】
そして、制御部11は、計測時間帯DB16c内の受信電力のデータの全てについて処理を行ったときは当該計測時間帯DB16cについての処理を終了する(END)。
【0191】
ここで、既に述べた通り、本発明では、海水の水質の計測を行う計測時間帯の受信電力として1次散乱強度(RSIm')に代えてノイズ値の平均値(即ちノイズフロア)RSInm'を用いるようにしても良い。そして、受信電力のノイズフロアRSInm'を用いる場合には、ノイズフロアは波浪の影響を受けないので、波浪スペクトル変化分の推算(S1)の処理を行わない。言い換えると、波浪スペクトル項Sの変化分ΔS'をゼロとして扱う。この場合、ノイズフロアは受信電力の0Hz周辺のピーク部分及び1次散乱周辺の部分を除いた平均値であるので、海域の塩分はノイズフロアを受信電力として用いて推算した塩分よりも低いと考えられる。したがって、計測時間帯の受信電力としてノイズフロアを用いた場合には、観測海域の塩分の最大値が推算される。
【0192】
次に、図7及び図8に、本発明の第二の実施形態として、海洋表層の水温を計測する場合の本発明の海洋表層の水質計測方法、水質計測装置及び水質計測プログラムの実施形態の一例を示す。本実施形態の海洋表層の水温計測方法は、図7に示すように、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算するステップ(S1)と、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算すると共に電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定するステップ(S2)と、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算するステップ(S3)と、σc=σ0{1+α(Tc−T0)}(ただし、T0:基準時間帯における水温,α:温度補正係数)を用いて計測時間帯における水温Tcの値を推算するステップ(S4)とを有するようにしている。
【0193】
なお、本発明の第二の実施形態の水温計測方法は、基準時間帯と計測時間帯とにおいて観測海域内における地点毎の海水の塩分が一定で変化しない場合に適用可能である。
【0194】
上記海洋表層の水温計測方法は、海洋表層の水温計測装置として実現される。本実施形態の水温計測装置は、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段と、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算すると共に電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段と、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段と、σc=σ0{1+α(Tc−T0)}(ただし、T0:基準時間帯における水温,α:温度補正係数)を用いて計測時間帯における水温Tcの値を推算する手段とを備える。
【0195】
上述の海洋表層の水温計測装置は、海洋表層の水温計測プログラムをコンピュータ上で実行することによっても実現される。本実施形態では、海洋表層の水温計測プログラムをコンピュータ上で実行する場合を例に挙げて説明する。
【0196】
海洋表層の水温計測プログラム18を実行するための本実施形態の水温計測装置としての水質計測装置10の全体構成を図8に示す。この水質計測装置10に係る制御部11,記憶部12,入力部13,表示部14及びメモリ15、並びに、水質計測装置10に接続されているデータサーバ16は、第一の実施形態におけるものと同様であるので詳細な説明は省略する。
【0197】
そして、海洋表層の水温計測プログラム18を実行することによって水質計測装置10の制御部11には、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段としての波浪スペクトル推算部11aと、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算すると共に電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段としての電気伝導度影響推算部11bと、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段としての電気伝導度推算部11cと、σc=σ0{1+α(Tc−T0)}(ただし、T0:基準時間帯における水温,α:温度補正係数)を用いて計測時間帯における水温Tcの値を推算する手段としての水温推算部11gとが構成される。
【0198】
また、第二の実施形態においても、基準時間帯DB16aと電気伝導度変動時間帯DB16bと計測時間帯DB16cとが整備される。
【0199】
基準時間帯DB16aについては、第一の実施形態と同様のデータに加え、基準時間帯における表層水温の値(当該時間帯中変化せず一定)も組み合わせデータとして整備される。
【0200】
基準時間帯における水温の計測は、観測海域の観測を行う海洋レーダの視線方向上若しくは視線方向に近い地点で行うことが望ましく、また、観測海域内の複数地点で行うことが望ましく、さらに、基準時間帯や電気伝導度変動時間帯や計測時間帯における波浪若しくは風速の計測地点と同じ若しくは近い地点で行うことが望ましい。
【0201】
そして、基準時間帯における表層水温の値は、第一の実施形態で説明した内容に追加しての組み合わせデータとして、水温計測地点に最も近い視線方向及び海洋レーダからの距離の情報が更に対応付けられて基準時間帯DB16aに蓄積される。
【0202】
電気伝導度変動時間帯DB16bについては第一の実施形態と同様に整備される。
【0203】
計測時間帯DB16cについては、水温を除いて第一の実施形態と同様に整備される。
【0204】
そして、本実施形態では、基準時間帯DB16aに整備された基準時間帯におけるデータと電気伝導度変動時間帯DB16bに整備された電気伝導度変動時間帯におけるデータと計測時間帯DB16cに蓄積された計測時間帯におけるデータとを用いてS1からS4までの処理を行う。
【0205】
海洋表層の水温を計測する第二の実施形態におけるS1からS3までの処理は海洋表層の塩分を計測する第一の実施形態におけるS1からS3までの処理と同様であるので、第二の実施形態の説明としてはS1からS3までの処理についての説明は省略してS3の処理に続くS4の処理について説明する。
【0206】
制御部11の水温推算部11gは、S3の処理において推算された電気伝導度の値を用いて水温の推算を行う(S4)。なお、S4の処理は、計測時間帯の日時別に、計測時間帯DB16cに記録されている受信電力のデータ毎に行う(言い換えると、海洋レーダの視線方向別で海洋レーダからの距離別に行う)。
【0207】
具体的には、水温推算部11gは、S3の処理においてメモリ15に記憶された計測時間帯における電気伝導度σcの値をメモリ15から読み込むと共に、基準時間帯における電気伝導度σ0の値と水温T0の値とを基準時間帯DB16aから読み込み、これらの値を数式25に代入して計測時間帯における表層水温Tcを推算する。なお、数式25は数式12から導かれるものである。数式25は温度補正係数αの値も含めて海洋表層の水温計測プログラム17に規定しておく。
【0208】
(数25)σ(Tc)=σ(T0){1+α(Tc−T0)}
ここに、T:水温,
σ:電気伝導度,
α:温度補正係数(0.01〜0.03程度)
をそれぞれ表す。
また、下付の0:基準時間帯における電気伝導度,水温であることを表し、
下付のc:計測時間帯における電気伝導度,水温であることを表す。
なお、σ(Tc)=σc,σ(T0)=σ0 である。
【0209】
なお、基準時間帯DB16aに蓄積されている電気伝導度σ0の値と水温T0の値との中からメモリ15から読み込んだ電気伝導度σcの値に対応付けられている視線方向及び距離に一番近い視線方向と距離とが対応付けられているものを選択して用いる。
【0210】
そして、水温推算部11gは、推算した水温Tcの値を、日時,視線方向,海洋レーダからの距離の情報と対応付けて水温推算結果DB16eとしてデータサーバ16に蓄積する。
【0211】
そして、制御部11は、計測時間帯DB16c内の受信電力のデータの全てについて処理を行ったときは当該計測時間帯DB16cについての処理を終了する(END)。
【0212】
次に、本発明の第三の実施形態として、上述の第二の実施形態とは異なる方法によって海洋表層の水温を計測する場合の本発明の海洋表層の水質計測方法、水質計測装置及び水質計測プログラムの実施形態の一例を示す。なお、第三の実施形態の海洋表層の水温計測方法を説明するフローチャートは第二の実施形態の説明で用いた図7と同様である。
【0213】
本実施形態の海洋表層の水温計測方法は、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算するステップ(S1)と、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算すると共に電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定するステップ(S2)と、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算するステップ(S3)と、K15=σc/[σKCl(15){1+α(Tc−15)}] と PS=0.008−0.1692K150.5+25.3851K15+14.0941K151.5−7.0261K152+2.7081K152.5(ただし、σKCl(15):15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度,α:温度補正係数,PS:計測時間帯における塩分)とを用いて計測時間帯における水温Tcの値を推算するステップ(S4)とを有するようにしている。
【0214】
なお、本発明の第三の実施形態の水温計測方法は、計測時間帯の観測海域内における地点毎の海水の塩分が既知である場合に適用可能である。したがって、観測海域内における海水の塩分が変化する場合には水温の計測において第二の実施形態を用いることはできないが第三の実施形態を用いることはできる。一方、基準時間帯と計測時間帯とにおいて観測海域内における海水の塩分が変化しない場合には第二の実施形態と第三の実施形態とのどちらを用いるようにしても良い。
【0215】
上記海洋表層の水温計測方法は、海洋表層の水温計測装置として実現される。本実施形態の水温計測装置は、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段と、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算すると共に電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段と、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段と、K15=σc/[σKCl(15){1+α(Tc−15)}] と PS=0.008−0.1692K150.5+25.3851K15+14.0941K151.5−7.0261K152+2.7081K152.5(ただし、σKCl(15):15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度,α:温度補正係数,PS:計測時間帯における塩分)とを用いて計測時間帯における水温Tcの値を推算する手段とを備える。
【0216】
上述の海洋表層の水温計測装置は、海洋表層の水温計測プログラムをコンピュータ上で実行することによっても実現される。本実施形態では、海洋表層の水温計測プログラムをコンピュータ上で実行する場合を例に挙げて説明する。なお、第三の実施形態の海洋表層の水温計測プログラムを実行するための水温計測装置としての水質計測装置の全体構成は第二の実施形態の説明で用いた図8と同様であり、水質計測装置に係る制御部11,記憶部12,入力部13,表示部14及びメモリ15、並びに、水質計測装置に接続されているデータサーバ16は、第一及び第二の実施形態におけるものと同様であるので詳細な説明は省略する。
【0217】
そして、第三の実施形態の海洋表層の水温計測プログラムを実行することによって水質計測装置10の制御部11には、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段としての波浪スペクトル推算部11aと、基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算すると共に電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から変化分Δs'を差し引いた受信電力と電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段としての電気伝導度影響推算部11bと、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:基準時間帯における電気伝導度)を用いて計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段としての電気伝導度推算部11cと、K15=σc/[σKCl(15){1+α(Tc−15)}] と PS=0.008−0.1692K150.5+25.3851K15+14.0941K151.5−7.0261K152+2.7081K152.5(ただし、σKCl(15):15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度,α:温度補正係数,PS:計測時間帯における塩分)とを用いて計測時間帯における水温Tcの値を推算する手段としての水温推算部11gとが構成される。
【0218】
また、第三の実施形態においても、基準時間帯DB16aと電気伝導度変動時間帯DB16bと計測時間帯DB16cとが整備される。
【0219】
基準時間帯DB16a及び電気伝導度変動時間帯DB16bについては第一の実施形態と同様に整備される。
【0220】
計測時間帯DB16cについては、第一の実施形態における水温の代わりに海水の塩分の値が組み合わせデータとして整備される。
【0221】
計測時間帯における塩分の計測は、観測海域の観測を行う海洋レーダの視線方向上若しくは視線方向に近い地点で行うことが望ましく、また、観測海域内の複数地点で行うことが望ましく、さらに、基準時間帯や電気伝導度変動時間帯や計測時間帯における波浪若しくは風速の計測地点と同じ若しくは近い地点で行うことが望ましい。
【0222】
そして、本実施形態では、基準時間帯DB16aに整備された基準時間帯におけるデータと電気伝導度変動時間帯DB16bに整備された電気伝導度変動時間帯におけるデータと計測時間帯DB16cに蓄積された計測時間帯におけるデータとを用いてS1からS4までの処理を行う。
【0223】
海洋表層の水温を計測する第三の実施形態におけるS1からS3までの処理は海洋表層の塩分を計測する第一の実施形態におけるS1からS3までの処理と同様であるので、第三の実施形態の説明としてはS1からS3までの処理についての説明は省略してS3の処理に続くS4の処理について説明する。
【0224】
制御部11の水温推算部11gは、S3の処理において推算された電気伝導度の値を用いて水温の推算を行う(S4)。なお、S4の処理は、計測時間帯の日時別に、計測時間帯DB16cに記録されている受信電力のデータ毎に行う(言い換えると、海洋レーダの視線方向別で海洋レーダからの距離別に行う)。
【0225】
具体的には、水温推算部11gは、S3の処理においてメモリ15に記憶された計測時間帯における電気伝導度σcの値をメモリ15から読み込むと共に、計測時間帯における海水の塩分PSの値を計測時間帯DB16cから読み込む。
【0226】
そして、水温推算部11gは、電気伝導度σcの値及び塩分PSの値と数式26及び数式11とを用いて計測時間帯における表層水温Tcを推算する。なお、数式26は数式24と数式12とから導かれるものである。数式26は温度補正係数αの値及び15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度σKCl(15)の値も含めて海洋表層の水温計測プログラム17に規定しておく。
【0227】
(数26)K15=σ(Tc)/[σKCl(15){1+α(Tc−15)}]
ここに、K15:15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の
電気伝導度σKCl(15)に対する海水の電気伝導度の比,
σ(Tc):計測時間帯における電気伝導度,
Tc:計測時間帯における水温,
α:温度補正係数(0.01〜0.03程度)
をそれぞれ表す。
なお、σ(Tc)=σc である。
【0228】
なお、計測時間帯DB16cに蓄積されている塩分PSの値の中からメモリ15から読み込んだ電気伝導度σcの値に対応付けられている視線方向及び距離に一番近い視線方向と距離とが対応付けられているものを選択して用いる。
【0229】
そして、水温推算部11gは、推算した水温Tcの値を、日時,視線方向,海洋レーダからの距離の情報と対応付けて水温推算結果DB16eとしてデータサーバ16に蓄積する。
【0230】
そして、制御部11は、計測時間帯DB16c内の受信電力のデータの全てについて処理を行ったときは当該計測時間帯DB16cについての処理を終了する(END)。
【0231】
以上の構成を有する本発明の海洋表層の水質計測方法、水質計測装置及び水質計測プログラムによれば、海洋レーダによって観測される受信電力を用いて電気伝導度を算出し、当該電気伝導度を用いて観測海域の海水の塩分或いは水温を推算することができるので、海洋レーダによって得られるレーダの有効活用を図ると共に数十km範囲の海域を対象とする海水の塩分や水温の計測にかかる手間や費用を縮減することが可能になる。
【0232】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、実用塩分を前提とした処理について説明しているが、これに限られず、絶対塩分〔‰〕を用いるようにしても良い。
【0233】
また、上述の実施形態では、各種DB16a〜16eをデータサーバ16に格納するようにしているが、これに限られず、記憶部12に格納するようにしても良い。
【実施例1】
【0234】
上述の本発明の海洋表層の塩分計測方法による塩分算定結果の妥当性を検証するため、本発明を用いた塩分の算定結果と実測結果との比較を行った。図1に示すフロー図の処理ステップと対応させて以下に説明する。なお、本実施例では、電気伝導度ECk=4.0Sm-1,温度補正係数α=0.02とした。
【0235】
(1)観測海域における観測・計測(S0)
本実施例では、海洋レーダの観測データとして、長崎県雲仙市に設置(図9中 Unzenの表示直上の丸印位置)された海洋レーダを用いて諫早湾湾口部において2006年から2008年にかけて実施された観測の結果を用いた。
【0236】
観測には、財団法人電力中央研究所が開発したVHF帯(電波周波数41.9MHz)の海洋レーダを用いた(坂井伸一 他:広域流動観測のための高性能沿岸海洋レーダの開発,電力中央研究所研究報告,U02056,2003年)。
【0237】
本実施例では、送信アンテナ1本,受信アンテナ8本で構成される海洋レーダを用いた。一回の観測時間は各局12分であり、電波の送受信が4回行われた。両観測地点での電波の混信を避けるために3分のインターバルを挟んだ15分間隔で観測地点を切り換えて観測を行った。送受信方法にはFrequency Modulated, Interrupted Continuous Wave 方式(FMICW方式とも呼ばれる)を用い、掃引周波数幅は300kHzであった。受信された電波はDigital Beam Forming(DBFとも呼ばれる)を用いて8方向へと分解される。以降では、この分解された観測方向を視線方向若しくはビーム方向と呼び、図9に示すように時計回りに1〜8までの番号を定める。
【0238】
ドップラースペクトルにおける1次散乱の検出には、1次散乱の誤算出が少ないという特徴を有する坪野らの手法を用いた(特開2009−75017参照)。そして、本手法を用いて1次散乱が算出できないデータについては欠測として扱った。
【0239】
各観測局には、風速計,雨量計,温度計,湿度計を設置し、10分間隔で観測を行った。
【0240】
(2)風速の影響の変化分の推算(S1)〜波浪スペクトル項の検討
波浪スペクトル項の検討には、2006年12月22日から2007年4月18日まで(以下、対象期間と呼ぶ)の合計5586回分の受信電力の観測データを用いた。対象期間における観測海域周辺の降雨量が少なかったことから、河川水による海域の塩分低下は殆どないと推測されたため、塩分の変動による電気伝導度の変化は少ないと考えられた。また、観測海域における水温は対象期間中で約7℃の変動があった。この水温の変動に伴う電気伝導度の変化が受信電力に影響を与える可能性があった。そのため、水温の変動が受信電力にばらつきとして現れることが考えられた。
【0241】
波浪スペクトル項の検討は、対象期間中の受信電力が十分に得られており、且つ、風速の観測局に近い雲仙局の<ビーム8・3km地点>の受信電力データを用いて行った。
【0242】
対象期間における<ビーム8・3km地点>の受信電力と雲仙局で計測された同時刻の風速とを組み合わせデータとして整理して図10に示す結果が得られた(図中●が組み合わせデータのプロットである)。ここで、図10中の実線は、実測値(即ち、風速と受信電力との組み合わせデータ)に対して対数関数を当てはめた場合の近似式(数式21,数式27)である。また、図10中の破線は、PMスペクトル(数式20)に基づく受信電力である。なお、数式20における切片B2(LR)は、風速が10ms-1の受信電力が前記近似式から求まる値と一致するように調整した。
【0243】
図10より、実測された受信電力には大きなばらつきがあるが、風速が約3ms-1を下回ると受信電力が全体的に低下する傾向が見られた。これは、波浪スペクトルの減少によるものと考えられた。
【0244】
図10において、PMスペクトルは、風速が4ms-1を下回る場合に実測値から大きく外れる結果になった。このことから、本実施例では、PMスペクトルを用いた波浪スペクトル項の推定は困難であると判断された。このため、実測値に対して対数関数を当てはめた近似曲線を波浪スペクトル項の算定式として用いることにした。具体的には、図10に示す風速と受信電力との組み合わせデータを用いて数式21の回帰係数a1及び定数項b1を推定して得られる近似曲線を用いることにした。なお、観測海域が内湾であり外洋からの波浪の伝搬が殆どないことから、風速が0ms-1の時には波浪は発生しないと考えられた。そして、観測対象波が存在しない場合に受信電力は負の無限大になることを再現するために対数関数を用いた近似を行った。また、近似には最小自乗法を用いた。得られた近似式は数式27の通りであった。
【0245】
(数27) RSI'=7.8Log(U)+29
【0246】
図10より、実測値の大まかな傾向を数式27の近似曲線(図中の破線)は捉えていることが確認された。数式27における切片29の値は数式7におけるB1,X',A'の和に相当し、風速の影響は受けない値である。数式10では、各観測場所における受信電力の差分を用いるために切片の値は相殺される。これらのことから、本実施例においては、数式10の波浪スペクトル項として数式28を用いることにした。
【0247】
(数28) ΔS'=7.8(Log(U1)−Log(U0))
【0248】
(3)電気伝導度の変化の影響の推算(S2)〜電気伝導度項の検討
次に、数式10における電気伝導度の影響項Z(σ)を求めた。しかし、Z(σ)に含まれる電気伝導度が散乱断面積に及ぼす影響項X'(σ)は不明であるので、本実施例では、伝搬損失の影響分A1'(σ)も含めてZ(σ)を観測結果から経験的に算出した。
【0249】
具体的には、筑後川の出水を含む2007年7月2日から14日における受信電力と水面下1m地点の塩分との組み合わせデータを用いた(吉井匠 他:海洋レーダ観測における表層塩分の影響,電力中央研究所研究報告,V09003,2009年)。この組み合わせデータを用いて電気伝導度と受信電力との間の関係として図11に示す結果が得られた。図中の受信電力は、塩分の観測地点に最も近い<ビーム8・3km地点>の値である。波浪スペクトル項については、雲仙局の風速を用いて数式28によって補正を行い、風速が十分に得られているときの受信電力に補正した。
【0250】
図11において電気伝導度σと受信電力RSI'との間の関係に最小自乗法を用いて線形の近似直線を当てはめて数式29が求められた。
【0251】
(数29) RSI'(σ)=6.76σ−26.7
【0252】
数式29で表される近似直線を図11中に点線で示す。近似直線の相関係数は0.8、標準偏差は6.38であり、この結果から、近似直線が実測値の傾向を捉えていることが確認された。ここで、数式29の右辺第1項がZ(σ)に相当し、右辺第2項がB1'とS'との和である。
【0253】
以上より、数式29を数式10に代入して整理し、波浪スペクトルの変化分ΔS'及び電気伝導度の変化分Δσを用いて受信電力の差分ΔRSI'を求める式として数式30が得られた。
【0254】
(数30) ΔRSI'(σ)=ΔS'+6.76Δσ
【0255】
(4)電気伝導度の推算(S3)
(4−1)観測の概要
まず、2006年6月14日から7月24日まで(以下、観測期間と呼ぶ)の筑後川流量と雨量との変動を図12に示す。図12から、2006年夏季においては6月24日周辺と7月5日と7月19日から22日との3回、筑後川から大規模な出水が生じていたことが分かった。なお、観測期間における受信電力データを収集した海洋レーダの設置位置及び視線方向は図9と同じであった。
【0256】
また、有明海湾奥部における塩分の既存の観測結果によると、2006年6月26日の時点で湾内が成層化しており、表層の塩分が15程度に低下していたことが分かった。さらに、7月6日と7月20日とには出水によって表層塩分が低下していたことが分かった。特に、7月20日の塩分の低下幅は大きく、表層塩分が5程度まで低下していたことが分かった(濱田孝治 他:有明海奥部における流れと懸濁物質輸送−現地観測と数値モデルによる考察−,佐賀大学有明海総合研究プロジェクト成果報告集,第3巻,pp.87-92,2007年 ; 濱田孝治 他:有明海奥部における貧酸素水塊の形成・解消課程の観測,第54巻,pp.1121-1125,2007年 ; 吉野健児 他:有明海湾奥部における貧酸素水塊がベントス群集に与える影響,佐賀大学有明海総合研究プロジェクト成果報告集,第4巻,pp.15-21,2008年)。
【0257】
また、観測海域における観測の結果から、観測期間中の表層水温の変動は約3℃程度であり、変動は小さかったことが分かった。さらに、表層の水温は中・底層とほぼ同じであることから、温度成層は形成されていなかったと推測された。このことから、観測期間における電気伝導度の変動は主に表層塩分の変動に起因するものと考えられた。
【0258】
(4−2)基準電力の算出
次に、河川流量が少なく且つ降雨がない状態の6月18日から22日(193回分の観測データ)を基準時間として基準電力を求めた。観測海域における観測の結果によると、6月13日の段階では有明海奥部及び諫早湾湾口部の表層塩分は32程度であった。このことから、6月13日時点では湾内で塩分成層は形成されていないと考えられた。図12から、6月13日から22日までは大きな降雨や出水は発生していないので、6月22日までは塩分成層は形成されていなかったと推測された。これらのことも踏まえ、基準時間の平均値は、表層塩分が32で一様な場の値であると仮定した。
【0259】
また、基準時間における風速から、算出された基準電力は風速が約2ms-1程度の受信電力を代表していると考えられた。
【0260】
(4−3)初期値の設定
表層塩分を推定するには、水温が既知である必要がある。本実施例では、観測期間中の表層水温が一定であると仮定した。すなわち、受信電力の変動は塩分の変化に伴う電気伝導度の変動に全て起因するものとし、表層塩分の推定を行った。観測海域における観測の結果から、図12に示す期間(即ち観測期間)の水温の変動は最大で2℃であり、塩分の変動は約17であったことが確認された。図5より、表層塩分が電気伝導度に及ぼす影響が水温に比べて十分に大きいので、観測期間の電気伝導度の変動は塩分が支配的であり、水温の変動は無視できると考えられた。また、波浪スペクトル項の影響も考慮しないことにした。なお、観測期間中の雲仙局及び荒尾局の風速は概ね2ms-1以上の風速が大半を占めていたことが確認され、このことから、波浪スペクトルの極端な低下は少なかったと考えられた。
【0261】
基準時間の表層水温については、観測海域における観測の結果から、観測結果を基に23℃とした。また、基準時間における電気伝導度は、塩分が約32,水温が約23℃であること、及び、2007年のCTDの観測結果を基に、4.6Sm-1とした(吉井匠 他:海洋レーダ観測における表層塩分の影響,電力中央研究所研究報告,V09003,2009年)。
【0262】
これらの値を用いて、基準時間における塩分を推定すると約33.6になり、計測値である約32とほぼ対応することが確認された。このことから、これらの設定値は妥当な値であると判断された。
【0263】
(5)表層塩分の推算(S6)〜1次散乱強度を用いた場合
2006年6月22日から7月14日までについて、受信電力の1次散乱強度を用いて表層塩分を推算すると共に日平均し、図13及び図14に示す結果が得られた。
【0264】
図12から、観測期間中には6月23日から27日、及び7月5日から10日にかけて筑後川の出水があり、それ以外の期間は平水時の流量であったことが確認された。また、前述の通り、6月22日時点では有明海内全域で塩分が高い状態であったことが観測結果から確認されていたので、塩分成層は形成されていなかったと推測された。
【0265】
そして、本発明の推算結果が、6月22日の時点では観測海域内の塩分が高いことを示していることが確認された(図13(a)参照)。本発明の推算結果は、さらに、6月23日から27日にかけての出水時における表層塩分の低下も示していることが確認された(同図(b),(c),(d)参照)。
【0266】
また、平水時になった後については、本発明の推算結果は、6月22日の状態までは表層塩分は回復せず、湾内全体で表層塩分が低い状態が継続したことを示していることが確認された(同図(e),(f)参照)。これは、6月23日からの筑後川の出水によって海域内に塩分成層が形成され、表層の塩分が低下した状態が継続したことを的確に再現しているものであると判断された。
【0267】
そして、同様の傾向は7月5日から10日にかけての出水時にも確認された(図14(a)−(f)参照)。また、河川流量が平水時程度に低下した7月10日以降において、表層塩分はやや回復するものの、6月28日から7月4日までの期間よりも湾内の表層塩分が低下したことを示していることが確認された。これは、出水によって塩分成層が強くなり、表層塩分が更に低下したためと考えられた。
【0268】
また、表層塩分の推算結果が、有明海奥部(即ち、筑後川河口がある北側)に向かうにつれて表層塩分が低下しており、さらに、出水に伴って塩分の低下が南側へと伝播してくる過程も示していることが確認された。これは、海域内の塩分の低下は筑後川の出水が主な原因であると考えられるので、表層塩分が北側から徐々に低下してくることを的確に再現しているものであると判断された。
【0269】
以上より、海洋レーダの観測結果を用いて推算した表層塩分は、少なくとも定性的に海域の塩分成層の形成及び発達過程を捉えていることが確認された。
【0270】
(6)表層塩分の推算(S6)〜ノイズフロアを用いた場合
また、受信電力のノイズフロアを用いて表層塩分を推算すると共に日平均し、図15及び図16に示す結果が得られた。
【0271】
欠測になる場合の1次散乱強度はノイズフロア以下であるので、海域の塩分はノイズフロアを受信電力として用いて推算した塩分よりも低いと考えられる。そこで、ノイズフロアを受信電力として用いた場合の塩分値を最大表層塩分値と呼ぶ。
【0272】
図13及び図14と図15及び図16とで同日の推算結果を南北に連なるものとしてみると、図15,図16に示される北側の推算結果として、図13及び図14に示される南側の推算結果と著しく不連続になることのない結果が得られており、最大表層塩分値として妥当な値が得られていることが確認された。
【0273】
以上の結果から、本発明の海洋表層の塩分計測方法は海域の塩分の推算を的確に行えることが確認された。
【実施例2】
【0274】
上述の本発明の海洋表層の水温計測方法による水温算定結果の妥当性を検証するため、本発明を用いた水温の算定結果と実測結果との比較を行った。なお、本実施例では、電気伝導度ECk=4.0Sm-1,温度補正係数α=0.02とした。
【0275】
本実施例では、海洋レーダの観測データとして、長崎県雲仙市に設置(図17中 雲仙の表示直上の丸印位置)された海洋レーダを用いて諫早湾湾口部において2006年12月から2008年3月(この期間を本実施例の計測時間とする)にかけて実施された観測の結果を用いた。
【0276】
実施例2の海洋レーダの計測範囲は図17に示す通りであった。そして、実施例2では、雲仙局の<ビーム6・10km地点>を対象として水温の推算を行った。なお、観測に用いた海洋レーダや送受信方法や1次散乱の検出等は実施例1と同様であった。
【0277】
基準電力には、2007年6月23日から7月2日まで(この期間を本実施例の基準時間とする)の観測における受信電力の平均値(吉井匠 他:海洋レーダ観測における表層塩分の影響,電力中央研究所研究報告,V09003,2009年)を用いた。この期間の表層塩分及び水温の実測結果を参照すると、表層水温は約24℃,電気伝導度は約4.7Sm-1,塩分は約31であり、基準時間における塩分と水温との変動は殆どないことが確認された。
【0278】
有明海においては、河川からの大規模な出水は夏季に集中しており、夏季以外での海域の表層塩分は約30〜32で殆ど変化がない。このため、基準時間と計測時間とにおいて塩分が31で一定であると仮定し、水温の推算には数式14を用いることとした。
【0279】
一方、実測結果としては、1995年から2000年に亘って観測された有明海の水温データを用いた(川口修 他:有明海熊本沿岸におけるノリ不作年度の水質環境の特徴,海の研究,11(2),pp.543-548,2002年)。
【0280】
受信電力から推算された水温値と実測された水温データとを比較整理して図18に示す結果が得られた(推算値:灰線 / 実測値:記号○,黒線)。
【0281】
図18の比較整理の結果から、海洋レーダの受信電力を用いて推算した表層水温は海水温の季節的な変動を少なくとも定性的に捉えていることが確認された。以上の結果から、本発明の海洋表層の水温計測方法は海域の水温の推算を的確に行えることが確認された。
【符号の説明】
【0282】
10 水質計測装置
11 制御部
12 記憶部
13 入力部
14 表示部
15 メモリ
16 データサーバ
17 海洋表層の塩分計測プログラム
18 海洋表層の水温計測プログラム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と前記計測時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算するステップと、前記基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と前記電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度に与える影響との変化分Δs'を推算するステップと、前記電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力の1次散乱強度から前記変化分Δs'を差し引いた受信電力の1次散乱強度と前記電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定するステップと、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:前記基準時間帯における電気伝導度)を用いて前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算するステップと、前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出するステップと、前記水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出するステップと、前記電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出するステップとを有することを特徴とする海洋表層の塩分計測方法。
【請求項2】
海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と前記計測時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段と、前記基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と前記電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度に与える影響との変化分Δs'を推算する手段と、前記電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力の1次散乱強度から前記変化分Δs'を差し引いた受信電力の1次散乱強度と前記電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段と、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:前記基準時間帯における電気伝導度)を用いて前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段と、前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出する手段と、前記水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出する手段と、前記電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出する手段とを有することを特徴とする海洋表層の塩分計測装置。
【請求項3】
水質計測対象の海域において海洋レーダによって観測される受信電力の値を用いて前記海域の塩分の推算を行う際に、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と前記計測時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段、前記基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と前記電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度に与える影響との変化分Δs'を推算する手段、前記電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力の1次散乱強度から前記変化分Δs'を差し引いた受信電力の1次散乱強度と前記電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:前記基準時間帯における電気伝導度)を用いて前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段、前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出する手段、前記水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出する手段、前記電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出する手段としてコンピュータを機能させるための海洋表層の塩分計測プログラム。
【請求項4】
海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と前記計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算するステップと、前記基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と前記電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算するステップと、前記電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から前記変化分Δs'を差し引いた受信電力と前記電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定するステップと、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:前記基準時間帯における電気伝導度)を用いて前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算するステップと、σc=σ0{1+α(Tc−T0)}(ただし、T0:前記基準時間帯における水温,α:温度補正係数)を用いて前記計測時間帯における水温Tcの値を推算するステップとを有することを特徴とする海洋表層の水温計測方法。
【請求項5】
海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と前記計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段と、前記基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と前記電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算する手段と、前記電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から前記変化分Δs'を差し引いた受信電力と前記電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段と、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:前記基準時間帯における電気伝導度)を用いて前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段と、σc=σ0{1+α(Tc−T0)}(ただし、T0:前記基準時間帯における水温,α:温度補正係数)を用いて前記計測時間帯における水温Tcの値を推算する手段とを有することを特徴とする海洋表層の水温計測装置。
【請求項6】
水質計測対象の海域において海洋レーダによって観測される受信電力の値を用いて前記海域の水温の推算を行う際に、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と前記計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段、前記基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と前記電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算する手段、前記電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から前記変化分Δs'を差し引いた受信電力と前記電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:前記基準時間帯における電気伝導度)を用いて前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段、σc=σ0{1+α(Tc−T0)}(ただし、T0:前記基準時間帯における水温,α:温度補正係数)を用いて前記計測時間帯における水温Tcの値を推算する手段としてコンピュータを機能させるための海洋表層の水温計測プログラム。
【請求項7】
海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と前記計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算するステップと、前記基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と前記電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算するステップと、前記電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から前記変化分Δs'を差し引いた受信電力と前記電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定するステップと、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:前記基準時間帯における電気伝導度)を用いて前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算するステップと、K15=σc/[σKCl(15){1+α(Tc−15)}] と PS=0.008−0.1692K150.5+25.3851K15+14.0941K151.5−7.0261K152+2.7081K152.5(ただし、σKCl(15):15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度,α:温度補正係数,PS:計測時間帯における塩分)とを用いて前記計測時間帯における水温Tcの値を推算するステップとを有することを特徴とする海洋表層の水温計測方法。
【請求項8】
海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と前記計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段と、前記基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と前記電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算する手段と、前記電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から前記変化分Δs'を差し引いた受信電力と前記電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段と、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:前記基準時間帯における電気伝導度)を用いて前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段と、K15=σc/[σKCl(15){1+α(Tc−15)}] と PS=0.008−0.1692K150.5+25.3851K15+14.0941K151.5−7.0261K152+2.7081K152.5(ただし、σKCl(15):15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度,α:温度補正係数,PS:計測時間帯における塩分)とを用いて前記計測時間帯における水温Tcの値を推算する手段とを有することを特徴とする海洋表層の水温計測装置。
【請求項9】
水質計測対象の海域において海洋レーダによって観測される受信電力の値を用いて前記海域の水温の推算を行う際に、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と前記計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段、前記基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と前記電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算する手段、前記電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から前記変化分Δs'を差し引いた受信電力と前記電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:前記基準時間帯における電気伝導度)を用いて前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段、K15=σc/[σKCl(15){1+α(Tc−15)}] と PS=0.008−0.1692K150.5+25.3851K15+14.0941K151.5−7.0261K152+2.7081K152.5(ただし、σKCl(15):15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度,α:温度補正係数,PS:計測時間帯における塩分)とを用いて前記計測時間帯における水温Tcの値を推算する手段としてコンピュータを機能させるための海洋表層の水温計測プログラム。
【請求項10】
海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と前記電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度に与える影響との変化分Δs'を推算するステップと、前記電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力の1次散乱強度から前記変化分Δs'を差し引いた受信電力の1次散乱強度と前記電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定するステップと、海水の水質の計測を行う計測時間帯における受信電力のノイズフロアRSInm'とRSI0'−RSInm'=f(σ0)−f(σc)(ただし、σ0:前記基準時間帯における電気伝導度)とを用いて前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算するステップと、前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出するステップと、前記水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出するステップと、前記電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出するステップとを有することを特徴とする海洋表層の塩分計測方法。
【請求項11】
海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と前記電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度に与える影響との変化分Δs'を推算する手段と、前記電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力の1次散乱強度から前記変化分Δs'を差し引いた受信電力の1次散乱強度と前記電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段と、海水の水質の計測を行う計測時間帯における受信電力のノイズフロアRSInm'とRSI0'−RSInm'=f(σ0)−f(σc)(ただし、σ0:前記基準時間帯における電気伝導度)とを用いて前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段と、前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出する手段と、前記水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出する手段と、前記電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出する手段とを有することを特徴とする海洋表層の塩分計測装置。
【請求項12】
水質計測対象の海域において海洋レーダによって観測される受信電力の値を用いて前記海域の塩分の推算を行う際に、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と前記電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度に与える影響との変化分Δs'を推算する手段、前記電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力の1次散乱強度から前記変化分Δs'を差し引いた受信電力の1次散乱強度と前記電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段、海水の水質の計測を行う計測時間帯における受信電力のノイズフロアRSInm'とRSI0'−RSInm'=f(σ0)−f(σc)(ただし、σ0:前記基準時間帯における電気伝導度)とを用いて前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段、前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出する手段、前記水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出する手段、前記電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出する手段としてコンピュータを機能させるための海洋表層の塩分計測プログラム。
【請求項1】
海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と前記計測時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算するステップと、前記基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と前記電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度に与える影響との変化分Δs'を推算するステップと、前記電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力の1次散乱強度から前記変化分Δs'を差し引いた受信電力の1次散乱強度と前記電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定するステップと、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:前記基準時間帯における電気伝導度)を用いて前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算するステップと、前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出するステップと、前記水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出するステップと、前記電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出するステップとを有することを特徴とする海洋表層の塩分計測方法。
【請求項2】
海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と前記計測時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段と、前記基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と前記電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度に与える影響との変化分Δs'を推算する手段と、前記電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力の1次散乱強度から前記変化分Δs'を差し引いた受信電力の1次散乱強度と前記電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段と、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:前記基準時間帯における電気伝導度)を用いて前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段と、前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出する手段と、前記水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出する手段と、前記電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出する手段とを有することを特徴とする海洋表層の塩分計測装置。
【請求項3】
水質計測対象の海域において海洋レーダによって観測される受信電力の値を用いて前記海域の塩分の推算を行う際に、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と前記計測時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段、前記基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と前記電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度に与える影響との変化分Δs'を推算する手段、前記電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力の1次散乱強度から前記変化分Δs'を差し引いた受信電力の1次散乱強度と前記電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:前記基準時間帯における電気伝導度)を用いて前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段、前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出する手段、前記水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出する手段、前記電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出する手段としてコンピュータを機能させるための海洋表層の塩分計測プログラム。
【請求項4】
海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と前記計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算するステップと、前記基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と前記電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算するステップと、前記電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から前記変化分Δs'を差し引いた受信電力と前記電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定するステップと、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:前記基準時間帯における電気伝導度)を用いて前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算するステップと、σc=σ0{1+α(Tc−T0)}(ただし、T0:前記基準時間帯における水温,α:温度補正係数)を用いて前記計測時間帯における水温Tcの値を推算するステップとを有することを特徴とする海洋表層の水温計測方法。
【請求項5】
海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と前記計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段と、前記基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と前記電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算する手段と、前記電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から前記変化分Δs'を差し引いた受信電力と前記電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段と、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:前記基準時間帯における電気伝導度)を用いて前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段と、σc=σ0{1+α(Tc−T0)}(ただし、T0:前記基準時間帯における水温,α:温度補正係数)を用いて前記計測時間帯における水温Tcの値を推算する手段とを有することを特徴とする海洋表層の水温計測装置。
【請求項6】
水質計測対象の海域において海洋レーダによって観測される受信電力の値を用いて前記海域の水温の推算を行う際に、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と前記計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段、前記基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と前記電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算する手段、前記電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から前記変化分Δs'を差し引いた受信電力と前記電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:前記基準時間帯における電気伝導度)を用いて前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段、σc=σ0{1+α(Tc−T0)}(ただし、T0:前記基準時間帯における水温,α:温度補正係数)を用いて前記計測時間帯における水温Tcの値を推算する手段としてコンピュータを機能させるための海洋表層の水温計測プログラム。
【請求項7】
海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と前記計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算するステップと、前記基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と前記電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算するステップと、前記電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から前記変化分Δs'を差し引いた受信電力と前記電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定するステップと、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:前記基準時間帯における電気伝導度)を用いて前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算するステップと、K15=σc/[σKCl(15){1+α(Tc−15)}] と PS=0.008−0.1692K150.5+25.3851K15+14.0941K151.5−7.0261K152+2.7081K152.5(ただし、σKCl(15):15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度,α:温度補正係数,PS:計測時間帯における塩分)とを用いて前記計測時間帯における水温Tcの値を推算するステップとを有することを特徴とする海洋表層の水温計測方法。
【請求項8】
海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と前記計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段と、前記基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と前記電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算する手段と、前記電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から前記変化分Δs'を差し引いた受信電力と前記電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段と、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:前記基準時間帯における電気伝導度)を用いて前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段と、K15=σc/[σKCl(15){1+α(Tc−15)}] と PS=0.008−0.1692K150.5+25.3851K15+14.0941K151.5−7.0261K152+2.7081K152.5(ただし、σKCl(15):15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度,α:温度補正係数,PS:計測時間帯における塩分)とを用いて前記計測時間帯における水温Tcの値を推算する手段とを有することを特徴とする海洋表層の水温計測装置。
【請求項9】
水質計測対象の海域において海洋レーダによって観測される受信電力の値を用いて前記海域の水温の推算を行う際に、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の水質の計測を行う計測時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力RSI0'に与える影響と前記計測時間帯における波浪が受信電力RSIm'に与える影響との変化分ΔS'を推算する手段、前記基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が受信電力RSI0'に与える影響と前記電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力に与える影響との変化分Δs'を推算する手段、前記電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力から前記変化分Δs'を差し引いた受信電力と前記電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段、RSI0'−RSIm'=ΔS'+{f(σ0)−f(σc)}(ただし、σ0:前記基準時間帯における電気伝導度)を用いて前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段、K15=σc/[σKCl(15){1+α(Tc−15)}] と PS=0.008−0.1692K150.5+25.3851K15+14.0941K151.5−7.0261K152+2.7081K152.5(ただし、σKCl(15):15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度,α:温度補正係数,PS:計測時間帯における塩分)とを用いて前記計測時間帯における水温Tcの値を推算する手段としてコンピュータを機能させるための海洋表層の水温計測プログラム。
【請求項10】
海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と前記電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度に与える影響との変化分Δs'を推算するステップと、前記電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力の1次散乱強度から前記変化分Δs'を差し引いた受信電力の1次散乱強度と前記電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定するステップと、海水の水質の計測を行う計測時間帯における受信電力のノイズフロアRSInm'とRSI0'−RSInm'=f(σ0)−f(σc)(ただし、σ0:前記基準時間帯における電気伝導度)とを用いて前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算するステップと、前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出するステップと、前記水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出するステップと、前記電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出するステップとを有することを特徴とする海洋表層の塩分計測方法。
【請求項11】
海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と前記電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度に与える影響との変化分Δs'を推算する手段と、前記電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力の1次散乱強度から前記変化分Δs'を差し引いた受信電力の1次散乱強度と前記電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段と、海水の水質の計測を行う計測時間帯における受信電力のノイズフロアRSInm'とRSI0'−RSInm'=f(σ0)−f(σc)(ただし、σ0:前記基準時間帯における電気伝導度)とを用いて前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段と、前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出する手段と、前記水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出する手段と、前記電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出する手段とを有することを特徴とする海洋表層の塩分計測装置。
【請求項12】
水質計測対象の海域において海洋レーダによって観測される受信電力の値を用いて前記海域の塩分の推算を行う際に、海水の電気伝導度が変化しない基準時間帯における波浪若しくは風速のデータと海水の電気伝導度が変化する電気伝導度変動時間帯における波浪若しくは風速のデータとを用いて前記基準時間帯における波浪が海洋レーダによって観測される受信電力の1次散乱強度RSI0'に与える影響と前記電気伝導度変動時間帯における波浪が受信電力の1次散乱強度に与える影響との変化分Δs'を推算する手段、前記電気伝導度変動時間帯において海洋レーダによって観測された受信電力の1次散乱強度から前記変化分Δs'を差し引いた受信電力の1次散乱強度と前記電気伝導度変動時間帯における電気伝導度σとの間の関係の回帰関数f(σ)を推定する手段、海水の水質の計測を行う計測時間帯における受信電力のノイズフロアRSInm'とRSI0'−RSInm'=f(σ0)−f(σc)(ただし、σ0:前記基準時間帯における電気伝導度)とを用いて前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を推算する手段、前記計測時間帯における電気伝導度σcの値を用いて水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を算出する手段、前記水温15℃の場合の電気伝導度σ(15)を用いて15℃且つ1気圧の標準状態における塩化カリウムの標準液の電気伝導度に対する海水の電気伝導度σ(15)の比K15を算出する手段、前記電気伝導度の比K15の値を用いて実用塩分を算出する手段としてコンピュータを機能させるための海洋表層の塩分計測プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図17】
【図18】
【図10】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図17】
【図18】
【図10】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−27713(P2011−27713A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42059(P2010−42059)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
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