説明

海苔養殖用殺藻殺菌処理剤、殺藻殺菌処理剤及び養殖海苔の処理方法

【課題】 養殖海苔に発生する病害や雑藻を駆除することができる海苔養殖用殺藻殺菌処理剤を提供する。
【解決手段】 下記(A)〜(G)からなる群から選択される一種又は二種以上と、乳酸とを含有し、海苔養殖の殺藻殺菌処理時に海苔への傷害の状態を色変わりにより判別することを特徴とする海苔養殖用殺藻殺菌処理剤。(A)炭素数6〜14の飽和脂肪酸、その塩及びそのエステル化合物(B)炭素数6〜11の不飽和脂肪酸、その塩及びそのエステル化合物(C)芳香族カルボン酸、その塩及びそのエステル化合物(D)脂環式カルボン酸、その塩及びそのエステル化合物(E)複素環式カルボン酸、その塩及びそのエステル化合物(F)チオグリコ−ル酸、チオ酢酸、チオ乳酸、チオリンゴ酸、メルカプトプロピオン酸、その塩及びそのエステル化合物(G)炭素数3〜11のケトン酸、その塩及びそのエステル化合物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養殖海苔に発生する病害又は養殖海苔に付着する雑藻を駆除する際に、海苔への傷害の状態を色変わりにより判別する海苔養殖用殺藻殺菌処理剤、殺藻殺菌処理液及び養殖海苔の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、海苔養殖中に、珪藻、アオノリ等の雑藻が海苔葉体又は海苔網に大量に付着すると海苔の生育が阻害される。また、海苔養殖中に赤腐れ菌、壺状菌、付着細菌等の発生により海苔が腐敗し乾海苔の生産枚数が低下する場合もある。
このため、雑藻、雑菌の駆除を目的として酸性の液に、海苔網を浸す酸性処理という作業が行われている。
【0003】
従来から行われている海苔養殖用の酸処理には、例えば、乳酸を0.1〜2重量%含む処理液をpH1.5〜2.0に調整した海苔用処理液(例えば、特許文献1参照)や、乳酸を42〜50重量%と酢酸を3〜9重量%、合計45〜59重量%又は乳酸を9〜18重量%と酢酸を25〜36重量%、合計34〜54重量%使用し、pHを酸性域に調整した海苔用処理剤(例えば、特許文献2参照)などを用いることが知られている。
【0004】
上記各文献に記載される海苔用処理液や処理剤は、共に有効成分としての有機酸を多く使用する技術である。
このように有機酸の濃度を高くすることによって養殖海苔に発生する病害及び養殖海苔に付着する雑藻はより短時間で駆除できるようになる。
【0005】
しかしながら、雑菌及び雑藻の駆除率の向上と共に、海苔も傷みやすくなる。これは、有機酸濃度を高くして養殖海苔の雑菌及び雑藻の駆除を行うと、雑菌及び雑藻の駆除に要する時間と海苔に傷害が発生するまでの時間の差が短くなる。そのため、雑菌及び雑藻は駆除できても海苔が傷んでしまい、海苔の収穫量又は品質の低下を招き、海苔生産者の水揚げ金額が低下するという課題が生じることとなる。
現在市販されている処理剤では、必要以上に有機酸濃度が高かったり、必要以上に長い、所謂強い処理をした場合に、海苔に強い傷害が発生しても処理中にそのことが分からない場合がある。そのために、作業者が気づかずにそのまま強い処理を続けて大きな被害が生じる場合がある。一回に処理する量は、海苔網100枚以上に及ぶ場合もあり、海苔の傷害により流失するなどの大きな被害になる場合がある。
【0006】
このような事態を避けるために、養殖海苔の雑菌及び雑藻の駆除を行う際に、海苔に強い傷害が発生する前にそのことを分かり易く予測できる技術が求められている。すなわち養殖海苔の雑菌及び雑藻の駆除を行う際に、海苔に強い傷害が発生する前に何らかの目印が分かれば、その時点で処理時間や有機酸濃度を調節する等の処置をして海苔が傷まないようにすることができる。
養殖海苔の雑菌及び雑藻の駆除を目的とした現在の処理剤については、処理中の海苔の状態を見ながら処理液の濃度や処理時間を調節できる処理剤は認められていない。そのため、有機酸濃度が少ないと十分な雑菌及び雑藻の駆除効果が得られず、逆に有機酸濃度が高いと処理時間のどの段階で雑菌及び雑藻を駆除できたか判然とせず、海苔を傷めるまで処理をしてしまうことがあるのが現状である。
【特許文献1】特許第3243425号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特許第3643345号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の課題及び現状等に鑑み、これを解消しようとするものであり、養殖海苔に発生する病害又は養殖海苔に付着する雑藻を駆除する際に、海苔が枯死又は海苔に強い傷害が生じる前に海苔の傷害の程度を肉眼で確認・判別することで、海苔の収穫量又は品質の低下を防ぐことができる海苔養殖用殺藻殺菌剤、殺藻殺菌処理液及び養殖海苔の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記従来の課題及び現状等について、鋭意検討した結果、海苔自体に害を与えることなく、海苔の傷害の状態を色変わりにより判別できる有効成分と、殺藻殺菌成分である乳酸とを少なくとも含有することにより、上記目的の海苔養殖用殺藻殺菌処理剤、殺藻殺菌処理液及び養殖海苔の処理方法が得られることを見い出し、本発明を完成するに至ったのである。
すなわち、本発明は、次の(1)〜(9)に存する。
(1) 下記(A)〜(G)からなる群から選択される一種又は二種以上と、乳酸とを含有し、海苔養殖の殺藻殺菌処理時に海苔への傷害の状態を色変わりにより判別することを特徴とする海苔養殖用殺藻殺菌処理剤。
(A)炭素数6〜14の飽和脂肪酸、その塩及びそのエステル化合物
(B)炭素数6〜11の不飽和脂肪酸、その塩及びそのエステル化合物
(C)芳香族カルボン酸、その塩及びそのエステル化合物
(D)脂環式カルボン酸、その塩及びそのエステル化合物
(E)複素環式カルボン酸、その塩及びそのエステル化合物
(F)チオグリコ−ル酸、チオ酢酸、チオ乳酸、チオリンゴ酸、メルカプトプロピオン酸、その塩及びそのエステル化合物
(G)炭素数3〜11のケトン酸、その塩及びそのエステル化合物
(2) 処理時の海苔の色がJIS Z 8729−1980で規定するLab表色のL値が41.81〜81.06、a値が14.17〜64.71、b値が−30.59〜63.00を示すことを特徴とする上記(1)に記載の海苔養殖用殺藻殺菌処理剤。
(3) pH調整剤を一種以上含有することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の海苔養殖用殺藻殺菌処理剤。
(4) pH調整剤として用いる有機酸の総量が1〜90重量%であることを特徴とする上記(3)に記載の海苔養殖用殺藻殺菌処理剤。
(5) 溶解助剤が含有されていることを特徴とする上記(1)〜(4)の何れか一つに記載の海苔養殖用殺藻殺菌処理剤。
(6) 上記(1)〜(5)の何れか一つに記載の殺藻殺菌剤が、水及び/又は海水で希釈されてなることを特徴とする海苔養殖用殺藻殺菌処理液。
(7) pHが1〜3に調整されてなることを特徴とする上記(6)に記載の海苔養殖用殺藻殺菌処理液。
(8) 無機塩類を添加することを特徴とする上記(6)又は(7)に記載の海苔養殖用殺藻殺菌処理液。
(9) 上記(6)〜(8)の何れか一つに記載の殺藻殺菌処理液と、海苔又は海苔が付着した養殖具とを所定時間接触させることを特徴とする養殖海苔の処理方法。
【発明の効果】
【0009】
請求項1乃至4に係る発明では、養殖海苔に発生する病害や雑藻を駆除することができると共に、視認により殺藻殺菌処理時の海苔の傷害の状態を色変わりで簡単に判別することができ、海苔の収穫量の向上及び品質の向上に寄与することができる海苔養殖用殺藻殺菌処理剤を提供することができる。
請求項5に係る発明では、水に溶けにくい本発明の有効成分を水に溶解することができるので、海苔の傷害の状態を色変わりで簡単に判別することができる海苔養殖用殺藻殺菌処理剤を提供することができる。
請求項6に係る発明では、養殖海苔に発生する病害や雑藻を駆除することができると共に、肉眼により殺藻殺菌処理時の海苔の傷害の状態を色変わりで簡単に判別することができ、海苔の収穫量の向上及び品質の向上に寄与することができる海苔養殖用殺藻殺菌処理液を提供することができる。
請求項7及び8に係る発明では、養殖海苔に発生する病害や雑藻を更に効果的に駆除することができ、海苔の傷害の状態を色変わりで簡単に判別することができる海苔養殖用殺藻殺菌処理液を提供することができる。
請求項9に係る発明では、養殖海苔に発生する病害や雑藻を駆除することができると共に、肉眼により殺藻殺菌処理時の海苔の傷害の状態を色変わりで簡単に判断することができる養殖海苔の処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態を発明毎に詳しく説明する。
本発明の海苔養殖用殺藻殺菌処理剤は、下記(A)〜(G)からなる群から選択される一種又は二種以上と、乳酸とを含有し、海苔養殖の殺藻殺菌処理時に海苔への傷害の状態を色変わりにより判別することを特徴とするものである。
(A)炭素数6〜14の飽和脂肪酸、その塩及びそのエステル化合物
(B)炭素数6〜11の不飽和脂肪酸、その塩及びそのエステル化合物
(C)芳香族カルボン酸、その塩及びそのエステル化合物
(D)脂環式カルボン酸、その塩及びそのエステル化合物
(E)複素環式カルボン酸、その塩及びそのエステル化合物
(F)チオグリコ−ル酸、チオ酢酸、チオ乳酸、チオリンゴ酸、メルカプトプロピオン酸、その塩及びそのエステル化合物
(G)炭素数3〜11のケトン酸、その塩及びそのエステル化合物
(以下の記載において、上記の(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)及び(G)を「上記したカルボン酸」として称する。)
【0011】
本発明に用いる(A)成分の炭素数6〜14の飽和脂肪酸としては、例えば、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸などを例示できる。
また、用いる(B)成分の炭素数6〜11の不飽和脂肪酸としては、例えば、ヘキセン酸、ヘプテン酸、オクテン酸、ノネン酸、デセン酸、ウンデシレン酸、シトロネル酸、ゲラン酸などを例示でき、同じく(C)成分の芳香族カルボン酸としては、例えば、アニス酸、バニリン酸、フェノキシ酢酸、フェニル酢酸、フェニルプロピオン酸、p−クレゾキシ酢酸、安息香酸、桂皮酸などを例示でき、同じく(D)成分の脂環式カルボン酸としては、例えば、テトラヒドロカルボン酸、シクロヘキシルプロピオン酸、シクロペンテン酢酸、ヘキサヒドロ安息香酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロサリチル酸、ヘキサヒドロトルイル酸などを例示できる。
更に用いる(E)成分の複素環式カルボン酸としては、例えば、2−フランカルボン酸などを例示でき、同じく(G)成分の炭素数3〜11のケトン酸としては、例えば、ピルビン酸、アセト酢酸、レブリン酸などを例示できる。
上記したカルボン酸の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが用いられる。また、上記したカルボン酸のエステルとしては、例えば、メチルエステル、エチルエステル、フェニルエステルなどが例示されるが、特に限定されるものではない。
【0012】
本発明では、上記したカルボン酸のうちの一種類を単独で含有することもでき、また、二種以上を混合して含有させることもできる。
上記したカルボン酸の中で、色変わりが分り易い点、コスト、製剤化しやすいなどの点から、好ましくは、ラウリン酸、シトロネル酸、ゲラン酸、バニリン酸、安息香酸、テトラヒドロカルボン酸、ピルビン酸、レブリン酸の使用が望ましい
上記したカルボン酸の処理剤中の合計含有量は、後記するpH調整剤や溶解助剤の含有量によって調整することができ、上記(A)、(B)、(C)、(F)及び(G)成分については、0.01〜1重量%が好ましく、また、上記(D)、(E)成分については、0.1〜5重量%が好ましい。
上記したカルボン酸の合計含有量が上記0.01又は0.1重量%未満であると、目的の効果を発揮することができず、一方、1又は5重量%を超えると、効果が認められても海苔が傷む場合があり、好ましくない。
また、本発明では、養殖海苔に発生する病害及び雑藻を効果的に駆除する成分として乳酸が必須成分として含有される。
乳酸の含有量は、後記するpH調整剤や溶解助剤の含有量によって調整することができ、1〜90重量%が好ましく、特に好ましくは、10〜70重量%が望ましい。
この乳酸の含有量が1重量%未満であると、目的の効果を発揮することができず、一方、90重量%を超えると、効果が認められても海苔が傷む場合があり、好ましくない。
【0013】
本発明の殺藻殺菌処理剤では、上記したカルボン酸と乳酸以外の成分として、更に本発明の効果を発揮せしめる点から、pH調整剤や溶解助剤を含有せしめることが好ましい。
用いることができるpH調整剤としては、有機酸及び/又は無機酸が挙げられる。
有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸、フマル酸、イタコン酸、シュウ酸、グリコール酸、マロン酸、マレイン酸、コハク酸、アジピン酸、ケトグルタル酸、フィチン酸などを例示できる。また、無機酸としては、例えば、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸などを例示できる。
好ましいpH調整剤としては、上記したカルボン酸を溶解する性能、コストの点から、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、リン酸、塩酸、硫酸が望ましい。
これらのpH調整剤は、一種を単独で含有させることもでき、二種以上を混合して含有させることもできる。
【0014】
用いるpH調整剤の含有量は、特に限定されないが、有機酸を含有する場合、その有機酸量としては1〜90重量%、必須成分として用いる乳酸と合わせて10〜90重量%が好ましい。乳酸との合計有機酸量が10重量%未満では、海苔が傷まないために色変わりを判別する必要性がなく、一方、90重量%を超えると、製剤が作りにくくなる。無機酸を含有する場合は、その含有量は処理剤中0.1〜20重量%とされる。
【0015】
本発明に係る処理剤の製造については、上記したカルボン酸が水に溶けにくい場合に、溶解助剤を用いることができる。溶解助剤としては、例えば、プロピレングリコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブタンジオ−ル、ポリブチレングリコール、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、グリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコ−ル脂肪酸エステル、レシチン、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリビニルアルコ−ル、ポリビニルピロリドンなどを例示することができ、好ましくは、上記したカルボン酸を溶解する性能、使いやすさの点から、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、メチルアルコール、エチルアルコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリビニルアルコ−ルが望ましい。
溶解助剤を含有させる場合、その含有量は、特に限定されないが、処理剤全量中、0.01〜10重量%、更に好ましくは、0.1〜5重量%が望ましい。
【0016】
また、本発明の海苔養殖用殺藻殺菌処理剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要により、肥料成分として、アミノ酸、塩安、硝酸ソーダ、硝安、硝酸カリウム、リン酸ソーダ、燐安、リン酸カリウム、硫安、糖類等を適宜料含有することもできる。
以上説明した本発明に係る海苔養殖用殺藻殺菌処理剤は、実際に養殖中の海苔を処理する場合には、水又は海水などで希釈し処理液として使用される。
【0017】
このように構成される本発明の海苔養殖用殺藻殺菌処理剤では、養殖海苔に発生する病害や雑藻を駆除することができると共に、肉眼により殺藻殺菌処理時の海苔の傷害の状態を色変わりで簡単に判別することができ、海苔の収穫量の向上及び品質の向上に寄与することができるものとなる。
現在市販されている海苔養殖用処理剤では、必要以上に有機酸濃度が高かったり、必要以上に長い、所謂強い処理をした場合に海苔に強い傷害が発生しても処理中にそのことが分からない場合がある。そのために、作業者が気づかずにそのまま強い処理を続けて大きな被害が生じる場合がある。一回に処理する量は、通常、海苔網100枚以上に及ぶ場合もあり、海苔の傷害により流失するなどの大きな被害になる場合がある。
これに対して、本発明では、上記したカルボン酸を処理剤中に含有せしめることで海苔が枯死又は海苔に強い傷害が生じる前に海苔葉体が全体的又は部分的に赤くなる。この海苔の色変わりを肉眼で確認・判別することで、このまま処理液を濃くしたり、処理時間を長くしたりすると海苔に強い傷害が発生し、収穫量又は品質の低下に繋がると予測できるようになる。つまり、上記したカルボン酸を処理剤中に含有することで、海苔自体に悪影響を及ぼすことなく、海苔の色変わりが起こり、海苔が枯死又は海苔に強い傷害が生じる前の目印として色変わりを確認・判別できるようになる。
この時の処理時の海苔の色は、JIS Z 8729−1980で規定するLab表色のL値が41.81〜81.06、a値が14.17〜64.71、b値が−30.59〜63.00で示すことができる。なお、上記したL値、a値、b値の範囲にある色は、肉眼では、橙色〜赤色〜赤茶色に見えるものである。
このように赤く色変わりした海苔は、処理後、海水に戻ると数時間で元の状態に戻り、その後健全に生育し、収穫量や品質には何ら影響はしないものである。この色変わりは、その作用機構の詳細は定かでないが、処理によって海苔細胞が一時的に収縮し、細胞中の液胞が減少することにより、色変わりするものと推察される。
また、海苔の色変わりは、海苔の状態により異なり、葉体全体が赤く変わる場合もあり、部分的に点々と僅かに赤く変わる場合もある。いずれにしても処理中の作業者にとっては分かり易い目印となる。本発明では、養殖海苔の処理時の色変わりを分かり易くすることで、海苔に傷害を与えずに、海苔の殺藻殺菌ができ、海苔の収穫量又は品質の低下を防ぐことができる。また、溶解助剤を含有することにより、上記したカルボン酸が水に溶け難い成分を用いた場合にも、水に溶かすことができるので、養殖海苔の処理時の色変わりを分かり易くすることができる。
【0018】
本発明に係る海苔養殖用殺藻殺菌処理液は、上述の殺藻殺菌処理剤を水又は海水などで希釈することにより調製される。
処理剤の希釈は、処理方法、海水等の温度、海水比重、天候、海苔の状態に応じて調製することができ、上記したカルボン酸合計含有量が、処理液全量中に、上記(A)、(B)、(C)、(F)及び(G)成分については、0.00005〜0.05重量%が好ましく、上記(D)及び(E)成分については、0.0005〜0.25重量%が好ましい。また、乳酸の含有量が、処理液全量中に、0.005〜4.5重量%、好ましくは、0.05〜3.5重量%となるように、海水などで希釈することにより調製される。
また、本発明に係る処理液のpHは、上記したカルボン酸やpH調整剤の種類、或いは含有量や処理方法の違いによって適宜希釈調整することができるが、本発明の効果を更に発揮せしめる点から、好ましくは、pH1〜3程度、更に好ましくは、1.5〜2.5に調整することが好ましい。
この処理液のpHが1未満であると、海苔葉体や周囲の環境に悪影響を及ぼす場合があり、一方、3を越えると、本発明の効果を発揮できない場合がある。
更に、溶解助剤を含有する場合は、溶解助剤の含有量は、処理液全量中、0.00005〜0.5重量%となるよう調製される。
【0019】
本発明に係る海苔養殖用殺藻殺菌処理液には、更に、無機塩類を含有することができる。無機塩類を含有することで、前記したように海苔が枯死又は海苔に強い傷害が発生する前の海苔葉体の色変わりがより分かり易くなる。
用いられる無機塩類としては、具体的には塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、塩化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄、リン酸ナトリウム、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウムの中から選ばれた1種または2種以上のものを用いることができる。
なお、無機塩類を添加する場合、処理液の比重を1.03〜1.20の範囲に調整することが好ましい。この比重が1.03未満の場合には、無機塩類を添加した効果が発現し難く、一方、比重が1.20を越えると、比重が高くなり過ぎて通常の処理操作でも海苔が傷む場合がある。
このように構成される海苔養殖用殺藻殺菌処理液では、養殖海苔に発生する病害や雑藻を駆除することができると共に、肉眼により殺藻殺菌処理時の海苔の傷害の状態を色変わりで簡単に判別することができる。
【0020】
次に、本発明の養殖海苔の処理方法は、上記したカルボン酸と乳酸とを少なくとも含有する殺藻殺菌処理液と、海苔又は海苔が付着した養殖具とを所定時間接触させることを特徴とするものであり、例えば、上記構成となる殺藻殺菌処理液中に海苔又は海苔が付着した養殖具を5秒〜2分間浸漬することにより処理することができる。処理手段等としては、従来から行われている手段等を用いることができ、例えば、モグリ船による処理(海苔の養殖網の下に船を潜らせて処理液に網を素通ししながら行う処理)、小型船による素通し処理などが挙げられる。
本発明の処理方法によれば、養殖海苔に発生する病害や雑藻を駆除することができると共に、肉眼により殺藻殺菌処理時の海苔の傷害の状態を色変わりで簡単に判断することができるものとなる。
【実施例】
【0021】
次に、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0022】
〔実施例1〜28及び比較例1〜7〕
下記表1〜8に示す配合組成(残部:海水)で調製した処理液に、赤腐れ菌が感染した海苔を10秒、20秒、30秒、40秒、50秒、60秒、70秒、80秒、90秒、100秒、110秒、120秒、130秒、140秒、150秒、160秒浸漬後、清浄な海水で処理液を良く洗い落として、それぞれの処理後の海苔を清浄な海水中で通気培養した。
赤腐れ菌の駆除効果は、2日後に顕微鏡で評価した。海苔の処理時間と海苔の色変わりが認められた時間との関係を調べた。処理前の海苔の色、120秒処理した海苔の色、180秒処理した海苔の色をカラーメータCS−CM1000(凸版印刷社製)により測定した。更に、処理2日後の処理時間と海苔が死滅する時間との関係についても調べた。
これらの結果を下記表1〜表8に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
【表3】

【0026】
【表4】

【0027】
【表5】

【0028】
【表6】

【0029】
【表7】

【0030】
【表8】

【0031】
上記表1〜8の結果から明らかなように、上記したカルボン酸を添加した実施例1〜28において、120秒処理した試験区では、処理直後に海苔葉体が赤く色変わりすることが肉眼(視認)で認められた。
一方、上記カルボン酸を添加しなかった比較例1、4、6、7及びプロピオン酸、酪酸、クロトン酸を添加した比較例2、3、5では、180秒処理すると海苔葉体が赤く変色したが、160秒処理で海苔葉体の殆ど全体の細胞は既に枯死していた。つまり、上記したカルボン酸を添加しない場合及びプロピオン酸、酪酸、クロトン酸を処理剤に添加した場合では、海苔が枯死するまで長時間処理しても海苔が傷んでいることに気づかなかったこととなる。
これに対して、本発明となる実施例1〜28では、上記したカルボン酸を処理剤に配合すると、海苔が枯死する60秒前に赤腐れ菌は駆除できており、葉体が赤く色変わりするので、これ以上処理を続けると海苔が枯死することを予測でき、海苔の収穫量の向上及び品質の向上に寄与することができる処理剤であることが判った。
【0032】
次に、本発明に係る海苔養殖用殺藻殺菌処理剤の処方例を示す。
(処方例1)
80%酢酸50g、80%乳酸12.5g、ラウリン酸0.3gを水37.2gに添加し溶解せしめ、均一に混合して製剤とした。
【0033】
(処方例2)
80%酢酸50g、80%乳酸12.5g、ゲラン酸0.3g、ポリグリセリン脂肪酸エステル1gを水36.2gに添加し溶解せしめ、均一に混合して製剤とした。
【0034】
(処方例3)
80%酢酸50g、80%乳酸12.5g、レブリン酸0.3g、ポリグリセリン脂肪酸エステル1gを水36.2gに添加し溶解せしめ、均一に混合して製剤とした。
【0035】
(実施例29〜31)
上記の処方例1〜3の処理剤を、海水で100倍希釈して処理液を調製した。
この処理液を用いて、上記実施例1等と同様に、赤腐れ菌の駆除効果、海苔の処理時間と海苔の色変わりが認められた時間との関係、処理2日後の処理時間と海苔が死滅する時間との関係について調べた。
これらの結果を下記表9〜表10に示す。
【0036】
【表9】

【0037】
【表10】

【0038】
上記表9及び10の結果から明らかなように、上記処方例1〜3の処理剤を希釈した各処理液も養殖海苔に発生する病害を駆除することができると共に、視認により殺藻殺菌処理時の海苔の傷害の状態を色変わりで簡単に判別することができ、海苔の収穫量の向上及び品質の向上に寄与することができることが判った。
【0039】
(実施例32〜35)
更に、本発明に係る無機塩類を添加した殺藻殺菌処理液の実施例を示す。
下記表11に示す各組成により無機塩類を添加した殺藻殺菌処理液を調製し、上記実施例1等と同様に、赤腐れ菌の駆除効果、海苔の処理時間と海苔の色変わりが認められた時間との関係、処理2日後の処理時間と海苔が死滅する時間との関係について調べた。
これらの結果を下記表11〜表12に示す。
【0040】
【表11】

【0041】
【表12】

【0042】
上記表11及び12の結果から明らかなように、無機塩類を添加した殺藻殺菌処理液も養殖海苔に発生する病害や雑藻を駆除することができると共に、視認により殺藻殺菌処理時の海苔の傷害の状態を色変わりで簡単に判別することができ、海苔の収穫量の向上及び品質の向上に寄与することができることが判明した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(G)からなる群から選択される一種又は二種以上と、乳酸とを含有し、海苔養殖の殺藻殺菌処理時に海苔への傷害の状態を色変わりにより判別することを特徴とする海苔養殖用殺藻殺菌処理剤。
(A)炭素数6〜14の飽和脂肪酸、その塩及びそのエステル化合物
(B)炭素数6〜11の不飽和脂肪酸、その塩及びそのエステル化合物
(C)芳香族カルボン酸、その塩及びそのエステル化合物
(D)脂環式カルボン酸、その塩及びそのエステル化合物
(E)複素環式カルボン酸、その塩及びそのエステル化合物
(F)チオグリコ−ル酸、チオ酢酸、チオ乳酸、チオリンゴ酸、メルカプトプロピオン酸、その塩及びそのエステル化合物
(G)炭素数3〜11のケトン酸、その塩及びそのエステル化合物
【請求項2】
処理時の海苔の色がJIS Z 8729−1980で規定するLab表色のL値が41.81〜81.06、a値が14.17〜64.71、b値が−30.59〜63.00を示すことを特徴とする請求項1に記載の海苔養殖用殺藻殺菌処理剤。
【請求項3】
pH調整剤を一種以上含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の海苔養殖用殺藻殺菌処理剤。
【請求項4】
pH調整剤として用いる有機酸の総量が1〜90重量%であることを特徴とする請求項3に記載の海苔養殖用殺藻殺菌処理剤。
【請求項5】
溶解助剤が含有されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか一つに記載の海苔養殖用殺藻殺菌処理剤。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一つに記載の殺藻殺菌剤が、水及び/又は海水で希釈されてなることを特徴とする海苔養殖用殺藻殺菌処理液。
【請求項7】
pHが1〜3に調整されてなることを特徴とする請求項6に記載の海苔養殖用殺藻殺菌処理液。
【請求項8】
無機塩類を添加することを特徴とする請求項6又は7に記載の海苔養殖用殺藻殺菌処理液。
【請求項9】
請求項6〜8の何れか一つに記載の殺藻殺菌処理液と、海苔又は海苔が付着した養殖具とを所定時間接触させることを特徴とする養殖海苔の処理方法。


【公開番号】特開2007−55947(P2007−55947A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−244034(P2005−244034)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(000208787)第一製網株式会社 (24)
【Fターム(参考)】