説明

海藻エキスの製造方法

【課題】より簡便な方法で効率的に海藻エキスを製造する方法を提供する。
【解決手段】海藻エキスを製造する方法であって、(1)海藻を引きちぎることによって海藻を破砕する破砕工程、(2)破砕された海藻と食塩水を含む混合物を調製する混合工程及び(3)前記混合物を熟成することによって海藻エキスを含む抽出液を調製する抽出工程を含むことを特徴とする海藻エキスの製造方法に係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な海藻エキスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海藻にはカルシウム、マグネシウム、カリウム、鉄、ヨウ素等のミネラルが豊富に含まれることから、健康を維持・促進するための食材として種々の料理に利用されている。同様に、海藻から抽出されるエキス(海藻エキス)も、種々の食品、サプリメント等に添加する目的で重宝されている。例えば、食塩に海藻エキスを含む藻塩が知られている。これは、海藻エキスを食塩に均一に配合することによって製造されており、これまで種々の製造方法が提案されている。
【0003】
例えば、海水と海藻とを繰り返し接触させて前記海水中の水分を蒸発させることにより塩分が濃縮した鹹水を製造する鹹水製造工程と、得られた鹹水を濃縮する鹹水の濃縮工程と、濃縮した鹹水に海藻を焼却した藻灰を添加して溶解させる藻灰の溶解工程と、藻灰溶解鹹水を濾過して海藻エキス含有鹹水とする濾過工程と、得られた海藻エキス含有鹹水を煮詰める煮詰め工程と、該煮詰め工程で得られた混合物から水分を分離する脱水工程と、該脱水工程で得られた脱水塩を加熱して藻塩として回収する焼塩工程とを有することを特徴とする藻塩の製造方法が知られている(特許文献1)。
【0004】
また例えば、海藻を真水に投入したものを煮沸することによって海藻エキスを抽出し、該海藻エキスに真水を加えた希釈水に所定量の塩を加え、これを煮沸することにより全体がシャーベット状になる迄水分を蒸発させ、該シャーベット状の塩を乾燥させる海藻エキスを含む藻塩の製造方法がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−253126
【特許文献2】特開2007−49967
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、海水と海藻とを繰り返し接触させて前記海水中の水分を蒸発させることにより塩分が濃縮した鹹水を製造する鹹水製造工程は比較的時間がかかることから、この点においてさらなる改善の余地がある。また、特許文献2の方法では、海藻エキスを抽出するために海藻を煮沸することが必要であることから、エネルギーコストが大きくなるために工業的規模での生産に適していない。
【0007】
従って、本発明の主な目的は、より簡便な方法で効率的に海藻エキスを製造する方法を提供することにある。さらなる本発明の目的は、得られた海藻エキスを用いて藻塩を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の工程を採用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の海藻エキスの製造方法に係る。
1. 海藻エキスを製造する方法であって、
(1)海藻を引きちぎることによって海藻を破砕する破砕工程、
(2)破砕された海藻と食塩水を含む混合物を調製する混合工程及び
(3)前記混合物を熟成することによって海藻エキスを含む抽出液を調製する抽出工程
を含むことを特徴とする海藻エキスの製造方法。
2. 破砕工程を、互いに異なる速度V及びVで回転する2つのローラーの隙間に海藻を巻き込ませることにより実施する、請求項1に記載の製造方法。
3. 2つのローラーの少なくとも一方のローラー表面に溝部が形成されている、前記項2に記載の製造方法。
4. 前記項1〜3のいずれかに記載の製造方法により得られた抽出液と食塩とを混合する工程を含む藻塩の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、特定の方法によって海藻を破砕するので、海藻エキスを効率的に抽出することができる。すなわち、熟成工程において、加熱をしなくても所望の抽出効果を得ることができる。
【0011】
また、本発明により得られた海藻エキスを用いて藻塩を得ることもできる。すなわち、本発明の海藻エキスの製造方法の工程に加え、海藻エキスを食塩に添加する工程を含む方法によって、より効率的に藻塩を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の製造方法の破砕工程で用いる破砕搾取装置のローラーの構成を示す概略図である。
【図2】本発明の製造方法の破砕工程で用いる破砕搾取装置のローラー表面の溝部を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の製造方法は、海藻エキスを製造する方法であって、
(1)海藻を引きちぎることによって海藻を破砕する破砕工程、
(2)破砕された海藻と食塩水を含む混合物を調製する混合工程及び
(3)前記混合物を熟成することによって海藻エキスを含む抽出液を調製する抽出工程
を含むことを特徴とする。以下、各工程について説明する。
【0014】
破砕工程
破砕工程では、海藻を引きちぎることによって海藻を破砕する。
【0015】
使用できる海藻は特に限定されず、例えばナガアオサ、アナアオサ、ウスバアオノリ等の緑藻;ハバノリ、ワタモ、ワカメ、アラメ、ホンダワラ、ヒジキ、マコンブ等の褐藻;フサノリ、シマテングサ、オニクサ等の紅藻等を挙げることができる。これらは、生のまま又は乾燥品のいずれであっても良いが、破断工程による効果を高めるために海藻を生のまま破断工程に供することが好ましい。従って、海藻が乾燥品である場合は、水又は海水で戻した後に破砕工程に供することが好ましい。
【0016】
本発明では、海藻を引きちぎることによって破砕する。すなわち、刃物による切断ではなく、引きちぎることによって、ランダムな破断面を形成することができる。その結果、破断面の組織から海藻エキスを効果的に抽出することが可能となる。引きちぎる方法は、手指で直接引きちぎる方法、公知の引張装置で両端を引っ張る方法等のいずれも採用することができる。
【0017】
特に、本発明の破砕方法としては、互いに異なる速度V及びVで回転する2つのローラーの隙間に海藻を巻き込ませる方法によって、より効率的に海藻を破砕することができる。ここにいう速度Vは、ローラーの接線方向の速度であり、V=rw(但し、rはローラーの半径、wは角速度を示す。)で示されるものである。このように、異なる速度で回転する2つのローラーの隙間に海藻を導入することによって、海藻の葉、茎、枝等をすりつぶすようにして引きちぎることができる。ローラー間を通過させる回数は、所望の破砕程度等に応じて1回又は2回以上とすれば良い。
【0018】
また、2つのローラーの大きさ(半径r)は、互いに同じであっても良いし、異なっていても良い。例えば、第1ローラーとそれよりも半径の大きな第2ローラーとの組合せであっても良い。特に、後記の実施例で示すように、第1ローラーとそれよりも半径の大きな第2ローラーとの組合せであって、前記第1ローラーの速度Vを第2ローラーの速度Vよりも速く設定することができる。
【0019】
さらに、本発明では、2つのローラーの少なくとも一方のローラー表面に溝部が形成されていることが望ましい。溝部の深さは通常0.5〜2mmの範囲内とすれば良い。溝部の断面形状は、V字状、U字状、凹状等のいずれであっても良い。また、溝部の全体形状は、格子状、ランダム状、円形状(ドット状)等のいずれも選択することができる。本発明では、半径の小さい方のローラーに溝部を形成することが好ましい。より具体的には、後記の実施例1でも示すように、第1ローラーとそれよりも半径の大きな第2ローラーとの組合せであって、1)少なくとも前記第1ローラーの表面に溝部が形成されており、2)前記第1ローラーの速度Vが前記第2ローラーの速度Vよりも速く設定することにより、効率的に海藻を破砕することができる。
【0020】
破砕の程度は特に限定されず、使用する海藻の種類等に応じて適宜設定すれば良い。例えば、全長1m以上の達するような海藻(例えばホンダワラ)であれば、長さが通常30cm以下、特に20cm以下となるように破砕すれば良い。
【0021】
混合工程
混合工程では、破砕された海藻と食塩水を含む混合物を調製する。
【0022】
混合物の調製方法は特に制限されず、例えば破砕された海藻と食塩水とを均一に混合すれば良い。食塩水は、海水をそのまま使用することもできるが、水に食塩を溶解させて調製する方法、海水に食塩を溶解させて調製する方法等により製造することもできる。混合物の塩分濃度は適宜変更することができるが、一般的には海水塩分濃度又はそれ以上の濃度とすることが好ましい。より具体的には、塩分濃度8〜15%、特に8〜10%の範囲内とすることが好ましい。このような範囲内に設定することによって、後記の抽出工程において浸透圧作用を効果的に利用することができる。
【0023】
抽出工程
抽出工程では、前記混合物を熟成することによって海藻エキスを含む抽出液を調製する。すなわち、抽出工程では、浸透圧作用を利用することによって海藻エキスを抽出することができる。
【0024】
熟成条件は、所望の海藻エキス濃度等に応じて調整することができる。特に、熟成温度は通常は40℃以下、特に15〜35℃程度とすれば良い。また、熟成時間も制約されないが、一般的には12時間〜5日の範囲内で適宜設定することができる。このようにして、海藻エキスを含む抽出液を得ることができる。
【0025】
本発明では、抽出工程を実施した後、必要に応じて、抽出液を固液分離する工程、抽出液を濃縮する工程(濃縮工程)等を適宜実施することもできる。
【0026】
抽出液を固液分離する方法は、公知の方法と同様にすれば良い。例えば、ろ過、遠心分離等の方法を採用することができる。
【0027】
抽出液を濃縮する方法としては公知の方法に従えば良く、例えば抽出液を加熱して煮詰める方法等を好適に採用することができる。この場合、塩分濃度が飽和状態(70〜80%)になるまで濃縮することが好ましい。
【0028】
得られた抽出液は、公知の用途も含めて様々な用途に使用することができる。例えば、食品分野をはじめ、化学品、化粧品等の各種分野への応用が期待できる。従って、例えば抽出液を用いて藻塩を製造することができる。すなわち、食塩と抽出液とを混合する工程を含む方法によって藻塩を得ることができる。従って、かかる藻塩は、例えば、(1)海藻を引きちぎることによって海藻を破砕する破砕工程、(2)破砕された海藻と食塩水を含む混合物を調製する混合工程、(3)前記混合物を熟成することによって海藻エキスを含む抽出液を調製する抽出工程及び(4)前記抽出液と食塩とを混合する工程を含む方法によって好適に製造することができる。
【0029】
食塩に対する抽出液の添加量は、例えば抽出液の濃度(濃縮レベル)、所望の藻塩の組成等に応じて適宜調整することができる。両者を混合した後、必要に応じて乾燥処理等を施すこともできる。
【0030】
得られた藻塩は、公知又は市販の食塩と同様にして使用することができる。例えば麺類、刺身、焼き魚、豆腐、てんぷら、パスタ等の各種の料理に使用できるほか、ソース、スープ、だし、醤油、調味料等の食品添加用にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0032】
実施例1
海藻としてホンダワラを用いた。ホンダワラ1を図1に示すような破砕搾取装置の第1ローラー2と第2ローラー3との間に巻き込ませることにより、約10〜20cmの大きさに破砕した。前記装置の第1ローラー1及び第2ローラーとして、それぞれ直径約130mm×長さ700mmのステンレススチール製ローラー(第1ローラー)及び直径約150mm×長さ700mmのステンレススチール製ローラー(第2ローラー)であって、第1ローラーの表面には図2に示すようなランダム状の線状の溝部5(深さ約1mm)が形成されているものを使用した。第1ローラーと第2ローラーとの隙間しは約1mmに設定した。各ローラーには、それぞれモーターが個別に接続されており、各ローラーを互いに異なる速度V及びVで駆動することができる。第1ローラーの速度Vと第2ローラーの速度Vは、特にV>Vとなるようにホンダワラの破砕状況を見ながら適宜調節した。このように速度調整することによって、主として第1ローラーによる引きちぎり効果が得られると考えられる。
【0033】
次いで、破砕されたホンダワラ約100kg、海水約200kg及び食塩約10kgを混合することによって塩分濃度約8重量%の混合液を調製した。その後、混合液を常温下で約3日間熟成させた。続いて、混合液をろ過した後、得られたろ液をその体積が約10分の1になるまで煮詰めることによって、濃縮されたホンダワラエキスを含む抽出液を得た。
【0034】
さらに、香川県産の食塩約10kgに対し、前記抽出液を1.2〜1.5リットルの範囲内で混合した後、天日で乾燥させることによって藻塩を製造した。得られた藻塩の栄養成分を分析した。その結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1の結果からも明らかなように、得られた藻塩にはホンダワラに由来する種々のミネラル成分も含まれていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海藻エキスを製造する方法であって、
(1)海藻を引きちぎることによって海藻を破砕する破砕工程、
(2)破砕された海藻と食塩水を含む混合物を調製する混合工程及び
(3)前記混合物を熟成することによって海藻エキスを含む抽出液を調製する抽出工程
を含むことを特徴とする海藻エキスの製造方法。
【請求項2】
破砕工程を、互いに異なる速度V及びVで回転する2つのローラーの隙間に海藻を巻き込ませることにより実施する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
2つのローラーの少なくとも一方のローラー表面に溝部が形成されている、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により得られた抽出液と食塩とを混合する工程を含む藻塩の製造方法。

【図1】
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【図2】
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