説明

浸水対策用ネットワーク避難施設

【課題】広いエリアの住民等が確実に避難できるようにし、また、その避難施設が日常管理の行き届いたものとするとともに、避難者が最終避難場所に確実に到達できるようにする。
【解決手段】街路10に沿って長い歩道橋1を設けて、その歩道橋1の途中の適宜の箇所に人が昇降できる昇降施設2を設けたので、広いエリアの住民等が確実に水の届かない高所に避難できるようになる。また、その歩道橋1を、日常の通路として供用したので、その歩道橋が、横方向に移動可能な歩行者用通路、いわゆるペデストリアンデッキとして機能して常に多くの人が行き交うようになり日常管理が円滑に図られるようになり得る。
さらに、その歩道橋1を最終避難場所11にまで伸ばすとともに、その最終避難場所11に至る歩道橋1のルートを複数設けたので、一のルートが絶たれても、避難者は、他のルートを通って最終避難場所11へ自力で到達できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、津波や洪水等が発生した際に、付近の住民や街路の通行者等をいち早く高所へ避難させるとともに、避難者を予め設定された避難場所へと導く浸水対策用避難施設に関するものである。
【背景技術】
【0002】
津波や洪水等の浸水による災害が発生した際に、その浸水地域の住民等をいち早く避難させるための施設として、例えば、タワー(塔)形式の避難施設が挙げられる。この避難施設は、周辺の地盤よりも高い床面を持つ建造物を予め構築しておくことにより、万が一の浸水災害が発生した際に、住民をいち早く高所に避難させて浸水の被害から人命を守ることを目的とするものである(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−339920号公報
【特許文献2】特開平9−184323号公報
【0004】
また、昇降体に搭乗してタワー形式の中継避難場所へ避難した避難者が、さらに高所にある最終避難場所へと避難できるように、その中継避難場所と最終避難場所とを結ぶ斜行階段を設けた技術も開示されている(例えば、特許文献3の第19頁第1図参照)。
さらに、住居地域にある複数の家屋全体を覆う巨大な高床式の構造物を設置して、避難者がその高床上で避難生活ができるようにし、併せて、その構造物と近くの山とを繋ぐ連絡路を設けた技術も開示されている(例えば、特許文献3の第22頁第31図参照)。
【0005】
【特許文献3】特開2004−305737号公報(第19頁第1図、第22頁第31図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1及び特許文献2に記載のいわゆるタワー形式の避難施設は、特に、津波の際には、避難命令が発令されてから津波が到達するまでわずかな時間しかないため、その設置箇所近辺の住民等は、避難施設までの距離が近いので確実に避難できるものの、その設置箇所から離れたエリアの住民等は、その避難が間に合わないケースが想定される。また、そのタワーに設けられる床面積が小さいため、多くの避難者を収容することができないという問題もある。
このため、すべての住民等が確実に避難できるように、また、多数の住民等が避難できるように、上記タワーを一定の間隔毎に多数設ける手法も考えられる。
【0007】
しかし、この種のタワーは非常時以外は全く使用しないため、そのような施設は、日常、誰の目にも触れることなく、メンテナンスや治安の維持が行き届かない場合も考えられる。
さらに、その浸水、あるいは復旧に要する期間が長期に亘ることとなった場合、各タワー上の避難者を、短期避難生活ができるような別の避難場所(最終避難場所)に再避難させる必要も生じ得る。この再避難は、浸水地域の性格上、滞水や各種障害物によって道路が使用できない場合が多いため、救援活動に従事する者あるいはその避難者自身にとって、非常に時間と労力を費やす結果となる。
【0008】
その点、特許文献3に記載の避難施設は、避難者が自力で昇降できるタワー式の避難施設(中継避難場所)と、上記最終避難場所とを結ぶ連絡路を備えているので、避難者は、浸水地域外である山の上などの高所に設けた最終避難場所に自力で到達できる。
【0009】
しかし、その連絡路を備えた避難施設であっても、特許文献1及び特許文献2の場合と同様に、その設置場所から離れたエリアの住民等は、その避難が間に合わないという問題は依然として残る。
また、それらの避難施設が、日常、誰の目にも触れることなく、メンテナンスや治安の維持等の日常管理が行き届かないという問題が残るのも同様である。
さらに、水圧や流木等により施設が破壊されてその連絡路が絶たれると、避難者は最終避難場所へ自力で到達することはできない。
【0010】
そこで、この発明は、広いエリアの住民等が確実に避難できるようにすることを第一の課題とし、その施設が、日常管理の行き届いたものとすることを第二の課題とし、さらに、破壊等により連絡路が絶たれても避難者が最終避難場所に自力で到達できるようにすることを第三の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の第一の課題を解決するために、この発明は、街路に沿って長い歩道橋を設けて、その歩道橋の途中の適宜の箇所に人が昇降できる昇降施設を設けたのである。
一般に、街路は、住居地域を網の目のように広く網羅しているので、その街路に沿って歩道橋を設けてどのエリアからも歩道橋上に昇ることができるようにすれば、広いエリアの住民等が確実に水の届かない高所に避難できるようになる。
また、このようにすれば、災害時に、滞水や漂流物など各種障害物によって街路が通行困難な状態である場合に、その街路を使わずに歩道橋上を通って各被災地へ容易にアクセスできるという効果も発揮し得る。
【0012】
つぎに、第二の課題を解決するために、この発明は、その街路に沿って設けた歩道橋を、日常の通路として供用したのである。
このようにすれば、街路に沿って長い上記避難施設が、横方向に移動可能な歩行者用通路、いわゆるペデストリアンデッキ(ペデストリアンモール)として機能するので、常に多くの人が行き交うようになる。多くの人が行き交えば治安の維持が図られ、また、施設が多くの人の目に触れれば、メンテナンスの行き届いたものとなりやすく日常管理が円滑に図られるようになり得る。
【0013】
さらに、第三の課題を解決するために、この発明は、上記街路に沿って設けた歩道橋を最終避難場所にまで伸ばすとともに、その最終避難場所に至る歩道橋のルートを複数設けたのである。
このようにすれば、水圧や流木等により一のルートの連絡路が絶たれても、避難者は、他のルートの連絡路を通って最終避難場所へ自力で到達できる。
【発明の効果】
【0014】
この発明は、街路に沿って長い歩道橋を設けて、その歩道橋の途中の適宜の箇所に昇降施設を設けたので、広いエリアの住民等が確実に避難できるようになるとともに、被災によって街路が通行困難である場合にも、各被災地へ容易にアクセスできるようになる。また、その街路に沿って設けた歩道橋を日常の通路として供用したので、その施設が、日常管理の行き届いたものとなる。さらに、その街路に沿って設けた歩道橋を最終避難場所にまで伸ばすとともに、その最終避難場所に至るルートを複数設けたので、破壊等により一の連絡路が絶たれても避難者は最終避難場所に自力で到達できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
一実施形態を図1乃至図3に基づいて説明する。
この実施形態の浸水対策用ネットワーク避難施設は、図1に示すように、市街地において格子状に配置された街路10に沿って、人や自転車等の軽車両が通行できる歩道橋1をその街路10と同じく格子状に配置したものである。
【0016】
この歩道橋1は、上記街路10の歩道上に多数の支柱3を建てて、その支柱3で床版を支えて通路5を形成したものである。床版は、街路10の建築限界を阻害しない高さで且つ浸水予想高さ以上に設けられ、その通路5の両側には適宜の欄干4が設けられている。この実施形態では、歩道橋1を街路10の歩道の上空に設けているが、自動車の交通を妨げない限りにおいて車道の上空に設けることも差し支えない。
【0017】
この歩道橋1には、人が昇降できる昇降施設2が複数の箇所に設けられている。例えば、図1に示す符号21は階段、符号22はエレベータである。
街路10は、市街地を網の目のように広く網羅しているので、その街路10に沿ってどのエリアからも前記昇降施設2を使って歩道橋1上に昇ることができる。したがって、広いエリアの住民、通行人等が、素早く確実に浸水時の水が届かない高さの通路5上に避難できるようになる。
【0018】
また、歩道橋1は、図2に示すように、道路横断方向の歩道橋1’を介して沿道のビル12の2階以上のフロアに接続されている。このフロアは、浸水予想高さ以上の床面を有するフロアである。そのビル12には、階段23が設けられているので、この階段23が上記昇降施設2としても機能するようになっている。
【0019】
この歩道橋1,1’及び上記昇降施設2等は、災害時のみならず常に人が使用できる状態に開放されているので、この避難施設が、市街地全体を面的にカバーする歩車分離型のネットワーク通路として機能する。したがって、この通路5上を日常多くの人が行き交うようになる。多くの人が行き交う施設であれば、その施設の日常管理は、円滑に図られるようになり得る。
【0020】
また、この歩道橋1は、図1に示すように、浸水予想地域外である山間に設けた最終避難場所11にまで伸びている。その最終避難場所11へ通じる歩道橋1のルートは、その歩道橋1沿いの特定の位置から複数設けている。
例えば、図1に示すように、ルートA,B,Cの3ルートの歩道橋1が設けられているので、このうち一つのルートの歩道橋1が、浸水時の水圧や流木等の漂流物等により破壊されて通行不可能な状態になっても、避難者は、その破壊されたルートとは異なるルートの歩道橋1を通って前記最終避難場所11へ到達できる。
【0021】
また、特に浸水災害の場合、滞水や上記漂流物等の各種障害物によって道路(街路10)が通行困難である場合が多いため、救援活動、復旧活動に従事する者にとって、被災地へのアクセスは非常に時間と労力を費やすものとなる。しかし、このように街路10に沿って長い歩道橋1があり、且つその歩道橋1の途中の適宜の箇所に人が昇降できる昇降施設2があれば、街路10が通行困難な状態であっても、その街路10を使わずに歩道橋1上を通って点在する各被災地へアクセスできる。
【0022】
また、この実施形態の浸水対策用ネットワーク避難施設は、その歩道橋1が、図3に示すように、歩道橋1’を介して上記街路10よりも高い位置にある人工地盤13aを有する展望台13に接続されている。展望台13は、津波等による大きな水圧にも耐えうる強度を有するよう築造されている。
【0023】
その展望台13は、上記街路10と上記人工地盤13aとの間を自動車が昇降できるスロープ14を備えているので、例えば、地震発生時や津波警報が発令された際には街路10を通行する自動車Mが展望台13上に避難することも可能である。
なお、その展望台13には、商業施設15が併設されており、その商業施設15も上記と同じく津波等による大きな水圧にも耐えうる強度を有するよう築造されているので、災害時には、避難者が避難生活を送るのに必要な食糧の供給や、公衆衛生の用に供することができる。また、災害時を除く平常時は、その展望台13に観光客等を誘致して地域の活性化に期することも可能である。
例えば、その展望台13を海沿いに配置し、上記商業施設15をフィッシャーマンズワーフとして、その施設内に海産物や工芸品、名産品等の販売施設や、あるいは飲食施設等を備えて地域の観光スポットとして活用する。災害時には、その施設を活用して避難者のための食事を調理して提供するとともに、災害時にも使用可能な温泉設備、あるいはトイレ等を備えて公衆衛生の用に供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】一実施形態の浸水対策用ネットワーク避難施設の全体図
【図2】同実施形態の浸水対策用ネットワーク避難施設の詳細図
【図3】同実施形態の浸水対策用ネットワーク避難施設に接続された展望台の詳細図
【符号の説明】
【0025】
1,1’ 歩道橋(避難施設)
2 昇降施設
3 支柱
4 欄干
5 通路
10 街路
11 最終避難場所
12 ビル
13 展望台
13a 展望台人工地盤
14 スロープ
15 商業施設
21 階段(昇降施設)
22 エレベータ(昇降施設)
23 ビル階段(昇降施設)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
街路10上にその街路10に沿って長い歩道橋1を設け、その歩道橋1に沿って複数の箇所に昇降施設2を設け、その各昇降施設2により、前記街路10の浸水時に、人が前記街路10から歩道橋1上に昇ることができるようにしたことを特徴とする浸水対策用ネットワーク避難施設。
【請求項2】
上記歩道橋1を、上記浸水時以外の日常も使用できるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の浸水対策用ネットワーク避難施設。
【請求項3】
上記歩道橋1を、上記浸水地域外に設けた最終避難場所11にまで伸ばすとともに、前記歩道橋1沿いの特定の位置から前記最終避難場所11に至る前記歩道橋1のルートを複数設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の浸水対策用ネットワーク避難施設。
【請求項4】
上記歩道橋1を、上記街路10に沿って設けられたビル12のフロアに接続したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の浸水対策用ネットワーク避難施設。
【請求項5】
上記歩道橋1を、上記街路10よりも高い人工地盤13aを有する展望台13に接続したことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の浸水対策用ネットワーク避難施設。
【請求項6】
上記展望台13は、上記街路10と上記人工地盤13aとの間を自動車が昇降できるスロープ14を備えたことを特徴とする請求項5に記載の浸水対策用ネットワーク避難施設。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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