説明

浸水検知機能付きケーブル

【課題】浸水をより迅速に検知することができ、信頼性の高い浸水検知が可能な浸水検知ケーブルを提供する。
【解決手段】ケーブルコア1と絶縁被膜7との間に、少なくとも2本の浸水検知用導線4、4が設けられている浸水検知ケーブルであって、浸水検知用導線4の少なくとも一本に、他の浸水検知用導線4と絶縁するために、導体4aの外周に絶縁性を有する線条体4bを巻き付けた。また、導体4aの外周に絶縁性を有する網状体21を取り付けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブルコア上に設けられた浸水検知用導線間の絶縁抵抗から、ケーブル内への浸水を検知することが浸水検知機能付きケーブル(以下、「浸水検知ケーブル」という)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ケーブルコア上に2本の浸水検知用導線を設け、この浸水検知用導線の導体間の絶縁抵抗を測定することで、ケーブル内への浸水を検知する浸水検知ケーブルが知られている。この浸水検知ケーブルは、浸水検知用導線間の絶縁抵抗を測定すると、健全時(浸水していない状態)には導体間に介在する空気の抵抗値を示し、異常時(浸水している状態)には導体間が水で満たされて水の抵抗値を示すので、この抵抗値の違いを検出することで、浸水の有無を確認することができるというものである。
【0003】
特許文献1には、上述した浸水検知用導線として、導体上に絶縁皮膜が設けられたものを用いた浸水検知ケーブルが2種類記載されている。
一方の浸水検知ケーブルは、絶縁被膜が、例えばポリエチレン等で形成されており、その長手方向に間隔を開けて導体表面を表出させるための複数の透孔が形成されている。この浸水検知ケーブルは、前記透孔から水が侵入することで、2本の導体間に水が介在するようになるので、前記抵抗値が変化し浸水を検知できるというものである。
【0004】
他方の浸水検知ケーブルは、前記浸水検知用導線を水溶性セルロースエーテルなどで形成した絶縁被膜で覆ったものである。この浸水検知ケーブルは、浸水すると検知線の絶縁皮膜が溶解して、導体と水とがより広い面積で接触するので、前記抵抗値が変化し浸水を検知できるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−187840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記一方の浸水検知ケーブルは、透孔から表出している導体表面が水と接触するだけで、絶縁被覆で覆われている部分は水と接触しない。そのため、絶縁抵抗の変化が少なく検知し難いという問題があった。
また前記他方の浸水検知ケーブルは、浸水時に水溶性絶縁被膜がうまく溶けない場合がある。そのため、浸水がケーブルの長手方向に進んでもそれに応じて絶縁被膜がすぐに溶けず、検知する前に浸水がケーブルの長手方向に進行してしまうおそれがあった。
【0007】
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、浸水をより迅速に検知することができ、信頼性の高い浸水検知が可能な浸水検知ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述課題を解決する本発明の浸水検知ケーブルは、ケーブルコアと絶縁被膜との間に、少なくとも2本の浸水検知用導線が設けられている浸水検知ケーブルであって、前記浸水検知用導線の少なくとも一本に、他の浸水検知用導線と絶縁するために、導体の外周に絶縁性を有する線条体を巻き付けたものを用いたことを特徴とする。
【0009】
この浸水検知ケーブルは、巻き付けた絶縁性を有する線条体により2本の導体間には空間が形成されるので、健全時にはこの空間に空気が介在し、異常時には浸水した水が介在することになる。そのため、2本の導体間の抵抗を測定することにより、空気と水との絶縁抵抗の変化を検知し、浸水の有無を確認することができる。
【0010】
また、線条体を巻き付けた構造であるため、導体の周囲には螺旋状に連続した空間が形成されている。また、線状体間の隙間も広くすることが容易である。このため、浸水時には、線状体間に速やかに水が浸入し、水と導体とが大きな面積で接するようになる。そのため、従来技術と比較して、絶縁抵抗の変化を迅速に検知することができ、浸水の有無を迅速にかつ正確に把握することができる。
【0011】
さらに、浸水検知用導線は、導体に線条体を巻き付けて構成しているので、従来のように導体の外周に絶縁被膜を形成するものと比較して、容易に製作することができる。その結果、浸水検知用ケーブルのコストを低減することができる。
【0012】
また、第2の本発明の浸水検知ケーブルは、ケーブルコアと絶縁被膜との間に、少なくとも2本の浸水検知用導線が設けられている浸水検知ケーブルであって、前記浸水検知用導線の少なくとも一本に、他の浸水検知用導線と絶縁するために、導体の外周に絶縁性を有する網状体を取り付けたものを用いたことを特徴とする。
この浸水検知ケーブルにおいても、前述の線条体を用いたものと同様の作用効果が奏される。
【0013】
なお、前記浸水検知用導線は、前記導体に前記線条体または前記網状体が取り付けられた状態で、外周全体の表面積80%以上が外側に露出しているようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る浸水検知ケーブルは、浸水をより迅速に検知することができ、信頼性の高い浸水検知が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係る浸水検知及び浸水長推定可能ケーブルの断面図である。
【図2】図1の浸水検知用導線の正面図である。
【図3】2本の浸水検知用導線の斜視図であって、(a)は2本共にPET紐を巻き付けたもの、(b)は2本のうち1本のみにPET紐を巻き付けたものである。
【図4】浸水検知用導線の変形例であって、2本の導体に網状体を被覆したものを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態1>
以下、本発明の実施の形態に係る浸水検知及ケーブル10について、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る浸水検知ケーブル10の断面図である。
【0017】
浸水検知ケーブル10は、図1に示すように、ケーブルコア1と、このケーブルコア1の外周を覆う座床テープ2と、この座床テープ2のさらに外側に、ケーブルコア1の長手方向に沿って配置された複数の導線3を有するものである。
ケーブルコア1は、例えば、ケーブル導体に内部半導電層と絶縁層と外部半導電層が被覆されたものである。
前記複数の導線3の中には、2本の浸水検知用導線4、4が設けられている。この2本の浸水検知用導線4、4は、後述する絶縁抵抗の変化を測定するために、他の導線3と比較して、できるだけ近接するように配置されている。
【0018】
また、浸水検知ケーブル10は、この複数の導線3および浸水検知用導線4の外側に押さえテープ5が巻かれており、この押さえテープ5の外側を簡易遮水層6が覆い、この簡易遮水層6の外側をプラスチックシース7が覆っている。
上述した座床テープ2および押さえテープ5は半導電性のテープであり、複数の導線3間は電気的に導通している。
【0019】
図2は、浸水検知用導線4の正面図である。
浸水検知用導線4は、導体4aと、この導体4aの長手方向に沿って導体4aの外周に間隔Tをあけて螺旋状に巻き付けられたPET紐4bとで構成されている。この実施形態では、図3(a)に示すように、2本の浸水検知用導線4、4に、導体4aの両方にPET紐4bが巻き付けられたものを用いている。
【0020】
このPET紐4bは、ポリエチレンテレフタレート樹脂で形成された絶縁性を有するものであり、浸水検知用導線4が仮に接触したとしても、PET紐4b同士が接触することで2本の導体4aが直接接触しないようになっている。
また、PET紐4bは、所定の厚みを有している。この厚みは、隣り合う浸水検知用導線4同士が接触したとしても、2本の導体4aの間に空間が形成されるように形成されている。これにより、2本の導体4aは、2つの導体4a、4a間の空間に介在する空気によって絶縁されるようになる。また、この2本の導体4aの間の絶縁抵抗は、上述した空間に介在する空気の絶縁抵抗と等しくなる。
【0021】
また、PET紐4bの厚みによって確保される空間は螺旋状に形成されており、この空間には、異常時に浸水した水が入り込み、露出する導体4a、4aの外周面と水とが広い面積で接触する。このときの2本の導体4a、4a間の絶縁抵抗は、空気の固有の絶縁抵抗値から水の絶縁抵抗値へと低下することになる。この絶縁抵抗値の変化を検知することで、浸水の有無を確認することができる。
【0022】
この螺旋状に巻き付けられた隣り合うPET紐4bの間隔Tは、絶縁性が確保される範囲内でできるだけ大きくすることが好ましく、言い換えると、導体4aの外周面が外側に大きく露出しているのが好ましい。これにより、浸水時において、浸水時の水と露出する導体4aとの接触面積が大きくなり、浸水時に絶縁抵抗の低下がより迅速にかつ正確に測定することができるようになる。
なお、この露出させる接触面積は、例えば、導体4aの外周面の全体の、約50%以上とするのが好ましく、本実施例では、約80%以上が露出するようにしている。
【0023】
PET紐4bは、導体4aの全長に亘って螺旋状に巻き付けられていてもよく、導体4a同士が接触するおそれのない部分(例えば、浸水検知ケーブル10が直線的に配置されるような部分の一部分)にはPET紐4bを巻くピッチを広くしてもよい。さらには、浸水検知ケーブル10を屈曲させて敷設する部分では、PET紐4bの螺旋状の間隔Tを狭めにしておき、取り付けられたときに直線部分の間隔Tと同じ間隔に広がるように構成してもよい。
【0024】
次に、本実施の形態における浸水検知ケーブル10を用いて浸水長を測定する方法について説明する。このような浸水長の測定は、浸水をより迅速に検知することができる本発明の浸水検知ケーブル10を使用することによって実現することができる。
【0025】
以下の説明では、一例として、浸水検知ケーブル10を海底ケーブルとして使用した場合を想定し、浸水する水は海水であるものとする。
なお、この海底ケーブルの特徴としては、浸水が生じた場合、海水の圧力によってそのケーブルの長手方向への浸水速度が速くなり、浸水長さが長くなることにある。そのため、浸水検知および浸水長を迅速に把握することは重要である。
【0026】
ここで、例示として、10km設置された浸水検知ケーブル10のうち、6kmが浸水した場合を仮定する。また、測定は、2本の浸水検知用導線4の導体4a間の絶縁抵抗を測定することによって行われる。
【0027】
海水が浸水していない状態では、2本の導体4aの間には空気が介在することになり、導体4a間の絶縁抵抗は空気の絶縁抵抗Aと等しい値になる。一方、浸水した状態では、2本の導体4aの間には海水が入り込み、導体4a間の絶縁抵抗は海水の絶縁抵抗Bと等しくなる。これらの絶縁抵抗A,Bは、大きく異なる値であるため、まずは、この値の変化によって、浸水の有無を確認することができる。
【0028】
また、導体4aの抵抗の値を0Ωと仮定し、海水が1kmだけ浸水しているときの絶縁抵抗の値をCΩとした場合、上述のように6kmが浸水している場合の絶縁抵抗の値は、C/6Ωとなる。これは、本発明の浸水検知ケーブル10の浸水検知用導線4のように、浸水時の絶縁抵抗の低下が迅速に測定できるものを使用することによって測定できるものである。また、海水のイオン濃度は一定であることから、絶縁抵抗は、浸水距離と反比例して減少してゆく。これにより、浸水検知ケーブル10の浸水長を概算で把握することができる。
【0029】
本発明の実施の形態に係る浸水検知ケーブル10によれば、浸水検知用導線4の少なくとも一本に、他の浸水検知用導線4と絶縁するために、導体4aの外周に絶縁性を有するPET紐4bを巻き付けたものを用いているので、2本の浸水検知用導線4が接触した場合であっても、PET紐4bによって2本の導体4a、4aが接触することがなく、2本の導体4a、4a同士を絶縁することができる。また、2本の導体4a間には空間が形成されるので、健全時にはこの空間に空気が介在し、異常時には浸水した水が介在することになる。そのため、2本の導体4a、4a間の抵抗を測定することにより、空気と水との絶縁抵抗の変化を検知し、浸水の有無を確認することができる。
また、PET紐4bを巻き付けた構造であるため、導体4aの周囲には螺旋状に連続した空間が形成されている。また、PET紐4b間の隙間も容易に広くすることができる。このため、浸水時には、PET紐4b間に速やかに水が浸入し、水と導体4aとが大きな面積で接するようになる。そのため、この浸水検知ケーブルでは、従来技術と比較して、絶縁抵抗の変化を迅速に検知することができるので、浸水の有無を迅速にかつ正確に把握することができる。
さらに、浸水検知用導線4は、導体4aにPET紐4bを巻き付けて構成しているので、従来のように導体4aの外周に絶縁被膜を形成するものと比較して、容易に製作することができる。その結果、浸水検知用ケーブルのコストを低減することができる。
【0030】
また、浸水検知用導線4は、導体4aにPET紐4bが取り付けられた状態で、外周全体の表面積の80%以上が外側に露出しているので、浸水時に水と導体4aとが大きい面積で接触するようになる。そのため、従来技術と比較して、絶縁抵抗値の変化を迅速にかつ正確に把握することができる。その結果、浸水の有無を確認することができるとともに、浸水長をより迅速に推定することができる。
【0031】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施の形態に係る浸水検知及び浸水長推定可能ケーブルについて述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
例えば、本実施の形態では、図3(a)に示すように、2つの浸水検知用導線4の両方にPET紐4bを巻き付けたものを用いているが、図3(b)に示すように、2本のうちの1本のみにPET紐4bを巻き付けたものを用いて絶縁性を確保したものであってもよい。これによれば、浸水時において、PET紐4bを巻き付けていない導体4aからなる浸水検知要導体4と水との接触面積がさらに大きくなるので、さらに絶縁抵抗の低下がより迅速にかつ正確に検知できるようになる。
【0032】
また、導体4a間に空間が確保できるのであれば、PET紐4bの形状は紐状に限定されない。例えば、図4に示す浸水検知ケーブル20のように、導体4aの外周に絶縁性を有する網状体21を被覆し、導体4aの外周表面が網状体の網目から露出するようにして、所定の空間を確保するようにしてもよい。
この網状体21は、図4に示すように、線条体21aが格子状に一体に形成されたものであり、導体4aの外周面をその周方向全体に覆うものである。この網状体21は、筒状のもので、導体4aの長手方向に沿って挿入されるものでもよく、網状体21の長手方向に沿って切り込みを設けて、導体4aに横から嵌め込むように取り付けるものであってもよい。さらには、本実施の形態の浸水検知用導線4に、PET紐4bを逆側から巻き付けて網状に構成してもよい。
【0033】
これによれば、PET紐4bを巻き付けて構成したものと同様に、2本の浸水検知用導線4が接触した場合であっても、網状体21によって導体4a間が接触することがない。また、2本の導体4a間には空間が形成されるので、健全時にはこの空間に空気が介在し、異常時には浸水した水が介在することになる。そのため、2本の導体4a間の抵抗を測定することにより、空気と水との絶縁抵抗の変化を検知し、浸水の有無を確認することができる。
【0034】
さらに、本実施の形態における浸水検知用導線4は、PET紐4bを巻き付けて構成しているが、これに限定されるものではない。例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂ではなく、ポリプロピレン樹脂など他の絶縁性材料を用いた紐状部材を巻き付けるようにしてもよい。すなわち、隣り合う浸水検知用導線が近接または接触したとしても、この紐状部材によって絶縁性が確保され、かつ、導体4a間に導体4aの外周表面がより広く露出する所定の空間が確保できるものであれば本発明に使用することができる。これによれば、この空間に浸水時の水が入り込んだときに、浸水検知用導線4間の絶縁抵抗が低下するように構成することができ、本実施の形態と同様に浸水検知ケーブルへの浸水をより迅速に検知することができる。
【0035】
また、本実施の形態では、浸水検知用導線4を2本だけ設けているが、2本に限定されない。すなわち、少なくとも2本が設けられておればよく、3本以上であってもよい。このように、3本以上を設けて各浸水検知用導線4間の絶縁抵抗を複数測定することで、複数の位置での絶縁抵抗の変化を検知することができる。その結果、より精度良く浸水の有無および浸水長を確認することができる。なお、3本以上を設ける場合には、PET紐4bは、その全てに巻き付けるようにしてもよく、または、接触する可能性がある隣り合う少なくとも一方の導体4aに巻き付けてあればよい。
【符号の説明】
【0036】
1 ケーブルコア
2 座床テープ
3 導線
4 浸水検知用導線
4a 導体
4b PET紐(線条体)
5 押さえテープ
6 簡易遮水層
7 プラスチックシース(絶縁被膜)
10、20 浸水検知ケーブル
21 網状体
21a 線条体
T PET紐の巻付け間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーブルコアと絶縁被膜との間に、少なくとも2本の浸水検知用導線が設けられている浸水検知機能付きケーブルであって、
前記浸水検知用導線の少なくとも一本に、他の浸水検知用導線と絶縁するために、導体の外周に絶縁性を有する線条体を巻き付けたものを用いたことを特徴とする浸水検知機能付きケーブル。
【請求項2】
ケーブルコアと絶縁被膜との間に、少なくとも2本の浸水検知用導線が設けられている浸水検知機能付きケーブルであって、
前記浸水検知用導線の少なくとも一本に、他の浸水検知用導線と絶縁するために、導体の外周に絶縁性を有する網状体を取り付けたものを用いたことを特徴とする浸水検知機能付きケーブル。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−227006(P2012−227006A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94088(P2011−94088)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(502308387)株式会社ビスキャス (205)
【Fターム(参考)】