説明

浸漬型膜モジュールの保存方法および取り外し方法

【課題】 膜モジュール全体を容器内に収納することを必要とせず、また保存液の使用量を減らすことができ、低コストで浸漬型膜モジュール内の分離膜の乾燥を防止できる保存方法を提供する。浸漬型膜ろ過装置において、浸漬型膜モジュール内の分離膜の乾燥を防止しつつ効率的に膜モジュール交換作業することができる交換方法を提供する。
【解決手段】 被処理液を貯留した浸漬槽内に浸漬させてろ過に使用される浸漬型膜モジュール1を保存する際、該浸漬型膜モジュール1内の分離膜2の透過水側4を液体封入状態とし、かつ、分離膜の被処理水側を液体封入しない状態とする。透過水側には、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の保湿作用を有する化合物を含む液体や、次亜塩素酸ナトリウム、ヒノキチオール、ポリリジン、ソルビン酸等の防菌・防カビ作用成分を含む水溶液を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸漬型膜モジュールの保存時における乾燥を防止するために有効な保存方法、および、その交換時の取り外し方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中空糸膜等の分離膜を用いた膜分離技術は、上水道における飲料用水製造分野、工業用水、工業用超純水、食品、医療といった産業用水製造分野、都市下水の浄化および工業廃水処理といった下廃水処理分野などの幅広い分野に利用されている。また、膜分離に用いられる分離膜モジュールは、処理分野に拘らず加圧型と浸漬型に分類される。
【0003】
浸漬型の分離膜モジュールは、浸漬槽内に浸漬設置され、吸引圧あるいは水頭差による圧力を駆動力として、分離膜によるろ過を行うものであり、浸漬槽内の被処理液から膜ろ過水(透過水)を得る浸漬型膜分離手段として用いられる。この浸漬型モジュールは、分離膜の被処理水側の表面と、浸漬槽内の被処理水とを接触させるために、分離膜の外側をケースで覆わないことが多い。ケースで覆う場合でも、被処理水が流通できる孔を多く設けたケースで覆われている。
【0004】
一方、この膜モジュールの中には、乾燥すると分離膜機能が大きく損なわれる分離膜が設置されているため、膜モジュールの保管時の管理には、分離膜が乾燥しないよう、細心の注意が払われる。分離膜の乾燥により生ずる問題点は、具体的には、透水性能が大幅に低下する、もしくは発現しなくなることが挙げられる。これは、いったん乾燥により膜細孔内が空気で置換されると、その後、水や水性媒体のろ過時に水を吸引しても水の表面張力により細孔内には水が入らず透過不能になるからである。このような乾燥状態になった後には、通常の運転圧力での膜ろ過運転を再開し続けても膜透水性はほとんど回復しない。なお、膜が乾燥した場合でも、より大きな圧力で水を吸引させると水を透過できるようになる。しかし、これを行うためには、膜の孔径や疎水性の程度によって極めて大きな圧力が必要であり、そのために大きなポンプ、配管設備が必要となる上、極めて大きな圧力で水を吸引する際の水圧により膜の構造破壊が引き起こされ易いという問題があり、工業的実施するには現実的でない。。
【0005】
そこで、分離膜や膜モジュールを保管する際に、膜の乾燥を防止するための方法が種々提案されている。例えば、加圧型膜モジュールの場合において、膜モジュール内に、ヒノキ科植物抽出成分の溶液(特許文献1)やポリリジン溶液(特許文献2)などの保存液を充填させ、その状態で、モジュール内の分離膜を保存する方法が提案されている。このような保存液をモジュール内に充填させる方法は、分離膜の外周がケースで覆われている加圧型膜モジュールの場合には容易に適用することができる。しかし、浸漬型膜モジュールの場合には、膜モジュール内に保存液を充填した状態に保つために、膜モジュールを容器内に収納させることが必要であり、保存用の容器作製の点でコスト的に不利である。さらに、膜モジュール内よりも容積の大きい容器内に保存液を満たす必要があるために重量の面や保存液の使用量の面で不利である。
【0006】
膜モジュール内に保存液を充填させる方法の問題点を解決する方法として、モジュール内の水を抜き出した後、湿潤状態の膜モジュールを、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂、ナイロン樹脂のうち少なくとも一種を含むフィルムで包装する方法が提案されている(特許文献3)。しかしながら、特にフッ素含有樹脂からなる疎水性分離膜は細孔内に空気が浸透して蓄積し易いので、このような疎水性分離膜を用いた浸漬型膜モジュールの場合、膜モジュール内の水が抜き出されて湿潤状態にある分離膜をこのようなフィルムで包装しただけでは、包装フィルムの内側に存在する空気や溶存空気が膜細孔内に浸透して蓄積し分離膜機能が悪化し易いという問題がある。
【0007】
【特許文献1】特開平07−289862号公報
【特許文献2】特開平07−328398号公報
【特許文献3】特開平06−246138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、膜モジュール全体を容器内に収納することを必要とせず、また保存液の使用量を減らすことができ、低コストで浸漬型膜モジュール内の分離膜の乾燥を防止できる保存方法を提供すること、および、浸漬型膜ろ過装置において、浸漬型膜モジュール内の分離膜の乾燥を防止しつつ効率的に交換作業することができる浸漬型膜モジュールの交換方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、次の事項で特定されるものである。
(1)被処理液を貯留した浸漬槽内に浸漬させてろ過に使用される浸漬型膜モジュールを保存する際、該浸漬型膜モジュール内の分離膜の透過水側に液体が封入された状態とすることを特徴とする浸漬型膜モジュールの保存方法。
(2)浸漬型膜モジュール内の分離膜の透過水側に封入させる液体が、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及び、その他保湿作用を有する化合物のうちの1種以上を含有する液体であることを特徴とする上記(1)に記載の浸漬型膜モジュールの保存方法。
(3)浸漬型膜モジュール内の分離膜の透過水側に封入させる液体が、次亜塩素酸ナトリウム、ヒノキチオール、ポリリジン、ソルビン酸、及び、その他防菌・防カビ作用を有する化合物のうちの1種以上を含有する水溶液であることを特徴とする上記(1)に記載の浸漬型膜モジュールの保存方法。
【0010】
(4)浸漬型膜モジュール内の分離膜の透過水側に液体を封入した後、該浸漬型膜モジュールの少なくとも側面を、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂、及びナイロン樹脂のうちの少なくとも一種からなるフィルム材で包装することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の浸漬型膜モジュールの保存方法。
(5)浸漬型膜モジュール内の分離膜がポリフッ化ビニリデン製中空糸膜であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の浸漬型膜モジュールの保存方法。
(6)被処理液を貯留した浸漬槽内に浸漬型膜モジュールを浸漬させ、吸引ポンプによる吸引あるいは水頭圧によってろ過を行う浸漬型膜ろ過装置において、浸漬型膜モジュールを取り外す際、膜モジュールから透過水を取り出す配管の途中に配設された開閉弁を閉にした後、この閉の位置よりも下流側で配管を分断させることにより、浸漬型膜モジュールを取り外すことを特徴とする浸漬型膜モジュールの取り外し方法。
(7)浸漬型膜モジュールを取り外す際、膜モジュールから透過水を取り出す配管の途中に配設された開閉弁を閉にする前に、配管の下流側から薬液もしくは薬剤成分含有液体を分離膜内へと逆流方向に注入することを特徴とする上記(6)に記載の浸漬型膜モジュールの取り外し方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明法によれば、浸漬膜モジュールを保存する際に、浸漬型膜モジュールを保存液で満たした容器内に入れたりすることなしに、膜モジュール内の分離膜の乾燥を防止することができる。さらに、浸漬型膜ろ過装置において、浸漬型膜モジュール内の分離膜の乾燥を防止しつつ効率的に膜モジュールを取り外して交換することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の望ましい実施の形態を図面を用いて説明する。ただし、本発明の範囲がこれらに限られるものではない。
【0013】
図1は、本発明における浸漬型膜モジュールの一実施態様を示す概略断面図である。
【0014】
本発明における浸漬型膜モジュールとは、単独あるいは複数の分離膜を内部に配設して構成したものであって、分離膜の外周が露出しているものをいう。分離膜の形状には、中空糸膜、チューブラー膜、平膜等がある。ここで、中空糸膜とは直径2mm未満の円管状の分離膜、チューブラー膜とは直径2mm以上の円管状の膜をいう。本発明においては、いずれの形状の分離膜を用いても構わないが、透過水側に乾燥防止用の液体を封入した際に、その封入液体の保持が容易であり、大きな膜面積を確保し易いことから、円管状の中空糸膜やチューブラー膜が好適である。即ち、平膜の場合は、保持した液体からの圧力により、膜の支持体からの剥離が引き起こされ易いが、円管状の中空糸膜やチューブラー膜の場合は、保持した液体からの圧力が膜の全方向に均一にかかり、膜の剥離等が引き起こされ難いからである。
【0015】
また、中空糸膜を用いた浸漬型膜モジュール1としては、図1に示すように、通常数百本から数万本の中空糸膜2(中空糸膜は線でもって模式的に示されている)を束ねた中空糸膜束の両端が接着固定されてなる膜モジュール構造が採られる。その接着固定部3の片端側(図1の上側)は中空糸膜端面が開口した状態で接着固定されている。もう一方の片端側(図1の下側)の接着固定部3′は中空糸膜端面が閉塞された状態で接着固定されている。
【0016】
中空糸膜2としては、多孔質の膜面を有する中空糸状の分離膜であれば、特に限定しないが、ポリアクリロニトリル、ポリフェニルスルホン、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスルホン、ポリビニルアルコール、酢酸セルロース等の有機素材や、セラミック等の無機素材からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる中空糸膜であることが好ましく、さらに膜強度の点からポリフッ化ビニリデン製中空糸膜がより好ましい。中空糸膜表面の細孔径についても特に限定されないが、0.001μm〜1μmの範囲内で適宜選択すればよい。また、中空糸膜2の外径についても特に限定されないが、中空糸膜の揺動性が高く、洗浄性に優れるため、250μm〜2000μmの範囲内であることが好ましい。
【0017】
また、中空糸膜束の両側端部を接着剤で接着固定する際の接着剤については、特に限定されないが、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。
【0018】
また、中空糸膜束の両端にそれぞれ形成された接着固定部3と接着固定部3′とは、その間に存在する多数本の中空糸膜2を介して繋がっており、その多数本の中空糸膜2では中空糸膜が並列に引き揃えられた状態にあり、この中空糸膜2の部分で膜ろ過機能が発揮される。この多数本の中空糸膜部分における並列引き揃え束は、特に補強部材を介在させない構造であってもよいし、また、補強手段を介在させた構造であってもよい。
【0019】
その補強手段を介在させた構造としては、例えば、断面積3〜700mmの好ましくは円筒形のステー(金属棒等)を1〜30本程度、中空糸の引き揃え束の外周や内部に配置し、接着固定部同士がステーによっても連結している構造や、ネット等の多孔板を接着固定部間の中空糸膜引き揃え束の外周を覆うように配置した構造が挙げられる。なお、補強手段を介在させた構造の一例として、図2に、ネット状多孔板材からなる多孔筒状体5を、接着固定部間の中空糸膜引き揃え束の外周を覆うように配置した構造を示す。ここで、多孔筒状体5としては、例えば、メッシュ状の多孔板からなる筒状体であって、樹脂成形により製造されたものが挙げられる。
【0020】
図3は浸漬型膜モジュールを浸漬槽内に配置した浸漬型膜ろ過装置の概略を示す図である。流入原水7は、浸漬槽6内に原水供給口から連続的あるいは断続的に流入される。流入した原水(被処理水)は、浸漬槽6内で液相6aと、沈降した懸濁物質を高濃度で含む沈降汚泥相6bに分離される。浸漬槽6内には浸漬型膜モジュール1が浸漬設置されており、透過水配管の下流側に配設された吸引ポンプ9による吸引によって、浸漬型膜モジュール1内の分離膜、透過水配管8、及びろ過弁10を介して、液相6a内の被処理水が膜ろ過され、透過水(膜ろ過水)が取り出される(ろ過工程)。なお、この際、配管途中の開閉弁20は開状態であり、配管着脱部21は配管接続されている。このろ過工程において浸漬槽6内は静置状態におかれるために、液相6a中から懸濁物質が沈降して液相6a中の懸濁物質濃度が低減し、浸漬型膜モジュール1の分離膜への懸濁物質負荷が低減する。
【0021】
ろ過工程を所定時間単独で行った後、吸引ポンプ9を停止し、ろ過弁10を閉じ、ろ過工程を停止する。引き続き、逆洗弁13を開き、逆洗ポンプ12によって逆洗水配管11を介して浸漬型膜モジュール1へ逆洗水を送り込み、中空糸膜の逆流洗浄を行う(逆洗工程)。同時に、空洗弁16を開き、空洗エア配管15と、浸漬型膜モジュール1の下部に設置した散気装置17とを介して、ブロワ14から供給される空気を液相6a内に送出させ、気泡を浸漬型膜モジュール1内に散気して中空糸膜を空気洗浄する(空洗工程)。逆流洗浄と空気洗浄とによって、浸漬型膜モジュール1内の中空糸膜を揺動させたり、中空糸膜の表面や中空糸膜間の流路に蓄積した懸濁物質を剥離、除去したりする。このとき、中空糸膜の表面や中空糸膜間の流路に蓄積した懸濁物質が液相6a中に舞い戻り、さらに、液相6a中を沈降途中あるいはいったん沈降した懸濁物質が舞い上がるので、液相6a中の懸濁物質濃度が上昇する。
【0022】
一方、逆洗工程と空洗工程を行う前の時点では、ろ過工程を単独で行う時間、すなわち浸漬槽6内が静置状態となってからの液相6a中の懸濁物質の沈降時間が最も長くなっていて、沈降汚泥相6b内の懸濁物質量が最大となり、沈降した懸濁物質の濃縮が最も進んで懸濁物質濃度が最高となっている。従って、この時点に、浸漬槽6の底部に設けた排泥弁19を開き、沈降汚泥相6b中の沈降した懸濁物質を汚泥として、排泥配管18を介して浸漬槽外へと引抜く(排泥工程)。よって、排泥工程は、ろ過工程に次ぐ工程として、逆洗工程と空洗工程の前工程として行う。
【0023】
ここで、静置状態とは、例えば、浸漬型分離膜モジュールの下方に設置された散気装置からの散気によって生ずる気液混相流による浸漬槽内での主に上下方向への循環流がなく、さらに、浸漬槽内への原水流入によって生ずる主に上下方向への水流の乱れや偏流などが少なく、水流による懸濁物質の沈降阻害が小さい状態をいう。例えば、浸漬槽内の水流の平均流速が0.4m/min以下であり、かつ浸漬槽内の水流の平均上昇流速が80mm/min以下である状態をいう。
【0024】
浸漬型膜モジュール内の分離膜(中空糸膜)の乾燥が生じる状況下での保存としては、例えば、浸漬型膜モジュールの運搬時あるいは膜モジュール取り外し交換時が挙げられる。膜モジュール内の分離膜の乾燥は、膜の細孔内や膜の透過水側表面に存在する液体が空気と置換されることが主たる発生原因であるので、分離膜の乾燥を防止するためには、膜の細孔内や膜の透過水側表面への空気の侵入を防ぐことが有効である。膜の透過水側4を液体封入状態に保持して膜モジュールを保存すれば、膜細孔や膜内部への空気の侵入を防ぐことができ、浸漬型膜モジュールの乾燥を防止することができる。
【0025】
また、中空糸膜2の透過水側4に封入する液体は、例えば膜モジュール運搬時のような長時間外気に触れる状況下で保存する場合と、膜モジュール交換時のような短時間外気に触れる状況下で保存する場合とでは、好適な液体の種類が異なる。
【0026】
長時間外気に触れる状況下で保存する場合には、分離膜の膜面における保湿性が維持できるようにすることが望ましく、また、微生物繁殖を防止する防菌・防カビ機能が発揮されるようにすることが望ましい。よって、分離膜の透過水側4に封入する液体としては、保湿作用を有する液体、あるいは防菌・防カビ作用を有する液体を用いることが好ましい。
【0027】
分離膜の透過水側4に封入する保湿作用を有する液体としては、保湿作用を有していれば、特に限定しないが、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の保湿作用を有する物質を含有する液体であることが好ましい。なかでも、グリセリンを含有する水性液であることがより好ましい。また、分離膜の透過水側4に封入する防菌・防カビ作用を有する液体としては、防菌・防カビ作用を有していれば、特に限定しないが、次亜塩素酸ナトリウム溶液、ヒノキチオール溶液、ポリリジン溶液、ソルビン酸化合物溶液等の薬剤水溶液が好ましい。なかでも、次亜塩素酸ナトリウム水溶液がより好ましい。
【0028】
また、浸漬槽内に設置された膜モジュールを取り外して交換する場合のように、短時間外気に触れる状況下で浸漬型膜モジュールを保存する場合には、分離膜の透過水側4に封入する液体として、薬剤等を添加していないイオン交換水あるいは蒸留水等の液体を用いることもでき、また、逆流洗浄に用いる透過水を用いることもできる。
【0029】
例えば、浸漬槽中に複数の膜モジュールを浸漬させて膜ろ過運転を継続している途中に、使用中の膜モジュールの1本のみを交換する場合には、逆流洗浄用の透過水を、装置中の逆流洗浄水供給ラインから供給することにより、膜モジュール内の透過水側を液体封入状態にしてもよい。また、例えば、膜モジュールの運搬時ほど長時間ではないが、膜モジュール交換時よりも長い時間外気に触れる状態下で膜モジュールを保存する場合には、分離膜の透過水側4に保湿作用を有する液体を封入することが好ましい。
【0030】
また、製造した浸漬型膜モジュールを運搬する場合のように、長時間外気に触れる状況下で膜モジュールを保存する場合には、浸漬型膜モジュール1に配管等が接続されない状態で運搬、保存されることが多い。配管を接続しない状態で浸漬型膜モジュールを運搬、保存する場合には、分離膜の透過水側4に液体を封入させるためには、膜モジュール上部の透過水出口から液体を供給し、接着固定部3とモジュールキャップ22との間にできた空間内にも液体を満たした状態とし、そして、モジュールキャップの上端の透過水取り出し口に栓23をして密閉することが好ましい(図4a、図4b)。その後、さらにこの浸漬型膜モジュール1の少なくとも側面を、フィルム材で包装すると、分離膜の透過水側4に封入した液体が、膜表面を介して蒸発することを防ぐことが可能となるので、分離膜の乾燥防止効果をより高めることができる。フィルム材で浸漬型膜モジュールを包装する場合には、例えば、図5に示すように、浸漬型膜モジュール1の側面外周にフィルム24を隙間なく巻きつけることによって包装すればよい。また、フィルム材を袋状にしたフィルム袋を用いる場合には、フィルム袋内に浸漬型膜モジュール1を入れた後に、フィルム袋の開口端部をヒートシールする方法で包装すればよい(参照図なし)。
【0031】
浸漬型膜モジュール1を包装するためのフィルム材としては、空気や水蒸気を実質的に透過せず、密閉性を保てるものであれば、特に限定しないが、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂、ナイロン樹脂のうち少なくとも一種からなるフィルム材であることが好ましい。
【0032】
浸漬槽内に設置されている膜モジュールを交換や移設等のために取り外す場合のように、短時間外気に触れる状況下で浸漬型膜モジュールを保存する場合には、分離膜の透過水側及びその下流側を、液体が封入された状態とした後に、膜モジュールの下流側の配管を閉止し、閉止位置の下流側で配管を分断させ、膜モジュールを配管付きで取り外せばよい。
【0033】
また、膜モジュールを取り外し交換する場合で代表されるような、短時間外気に触れる状況に浸漬型膜モジュールを保存する場合には、取り外し保存する膜モジュールには透過水取り出し用の配管等を接続させておき、配管途中を分断させて取り外すことが好ましい。配管が付随的に接続された状態で膜モジュールを取り外す場合において、膜モジュール内の透過水側が液体充填された状態を作り出すためには、付随している配管内も液体を満たす必要がある。そこで、この場合には、図3に示すように、透過水配管8の途中の浸漬型膜モジュールに近い位置に、バルブ等で代表される開閉弁20を設置し、さらにその近傍の下流側に、配管を分離/接続可能にする配管着脱部21を設置する。そして、膜ろ過運転を停止した後に膜モジュールを取り外す場合には、分離膜の透過水側4から透過水配管8内までが透過水で充填されている状態で、開閉弁20を閉にし、次いで、配管着脱部21でもって配管を分断させ、膜モジュール1を配管付きのまま、取り外し、浸漬槽の外に取り出す。浸漬型膜モジュールの場合、分離膜の周囲が実質的な開放状態となっているので、被処理水から取り出すと、分離膜の周囲(被処理水側)には液体が存在しない状態となるが、分離膜の透過水側には液体が充填された状態が保持される。
【0034】
なお、透過水配管の途中に配設した開閉弁20は、閉状態とした時に配管内の液体流通を分断することができれば、その装置構造は特に限定されず、例えば、ボールバルブ、ニードルバルブ、コック等を用いることが好ましい。同様に配管着脱部21も、分離・接続が可能であれば、その装置構造は特に限定されず、例えば、フランジ、ユニオン等を用いることが好ましい。
【0035】
図3に示すような膜ろ過設備から膜モジュールを取り外すにあたり、まず、開閉弁20を閉とするが、この開閉弁20を閉とする前に、分離膜の透過水側4に液体を封入させる操作を行うことが好ましい。例えば、逆流洗浄用の水(逆洗水)を封入させる場合には、膜ろ過運転を停止した後に逆洗工程を行ない、開閉弁20を閉じ、続いて逆洗ポンプ12を停止し、逆洗弁13を閉じる。その後、配管着脱部21で配管を分離させ、膜モジュールの取り外しを行う。
【0036】
一方、図6に示す膜ろ過設備のように、透過水配管8途中に、薬液や薬剤を供給することができる薬液・薬剤注入ライン(配管25、弁27、ポンプ26)を配設した場合には、分離膜の透過水側4の空間内に、保湿作用を有する液体や防菌・防カビ作用を有する成分を含有する溶液のような薬液・薬剤成分含有液体を充填させることができる。即ち、膜ろ過運転を停止した後に、必要に応じて逆洗工程を行ない、その後に、薬液・薬剤注入弁27を開け、注入ポンプ26を起動させて透過水配管8途中から、薬液や薬剤含有液を供給する。この際、ろ過弁10も逆洗弁13も閉止されているので、薬液や薬剤含有液は上流側に向かって流れ、分離膜の透過水側4の空間内に封入される。薬液や薬剤含有液が封入された後、閉止弁20を閉じ、続いて薬剤・薬液注入ポンプ26を停止し、薬液・薬剤注入弁27を閉じる。その後、配管着脱部21で配管を分離させ、膜モジュールの取り外しを行う。
【実施例】
【0037】
本発明を、以下の実施例を用いてさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例1、2及び比較例1においては、外径1.5mm、公称孔径0.05μmのポリフッ化ビニリデン製中空糸膜3500本が収納され、その上接着端側が開口し、下接着端側が封止された状態で接着固定されている、図2に示す構造の円筒形状浸漬型中空糸膜モジュール(長さ1m、有効膜面積17m)を用いた。この浸漬型中空糸膜モジュールは、中空糸膜3500本からなる中空糸膜束の両端を接着剤で固定し、その接着固定部の一端側の一部を切断して中空糸膜内部を開口させ、上接着端の上に、透過水出口のあるモジュールキャップを被せることによりを作製した。
【0038】
このように作製した浸漬型中空糸膜モジュールを、上部、下部、横上部、横下部のそれぞれに水出入口(ノズル)があるケース内に挿入し、外圧式により初期純水透水量を測定したところ、供給圧50kPa、水温25℃換算で6.34m/hであった。
【0039】
〈実施例1〉
浸漬型中空糸膜モジュールの透過水側に、濃度60vol%に調製したグリセリン水溶液を封入した後、モジュールキャップの透過水出口を図4bに示すように栓22で密封した。このように透過水側に水溶液を封入した状態の中空糸膜モジュールを、フィルム等で密閉させることなく、平均気温25℃、平均相対湿度40%の空気環境下に1週間放置した。その後、中空糸膜モジュールの純水透過水量を上記と同じ手法により測定したところ、供給圧50kPa、水温25℃換算で6.27m/hであり、放置前の初期純水透過水量とほぼ同じ値を示した。
【0040】
〈実施例2〉
実施例1において空気環境下に1週間放置後に純水透過水量を測定した浸漬型中空糸膜モジュールを用い、さらに3週間の空気環境下での放置を行った。即ち、実施例1での測定に続いて、その膜モジュールの透過水側に、濃度60vol%に調製したグリセリン水溶液を封入した後、実施例1と同様、透過水出口を図4に示すように栓22で密封した。このように透過水側に水溶液を封入した状態の中空糸膜モジュールを、フィルム等で密閉させることなく、平均気温25℃、平均相対湿度40%の空気環境下に3週間放置した。この3週間放置後は、実施例1での放置時間と合わせて4週間放置になる。その後、中空糸膜モジュールの純水透過水量を上記と同じ手法により測定したところ、供給圧50kPa、水温25℃換算で6.27m/hであり、3週間放置前の純水透水量と同じ値であり、かつ放置前の初期純水透過水量とほぼ同じ値を示した。
【0041】
〈比較例1〉
実施例2の場合と同様、実施例1おいて1週間放置後に純水透過水量を測定した浸漬型中空糸膜モジュールを用いた。その膜モジュールの透過水側に残存した水を排出し、液体封入を行わず、膜モジュール内の透過水側の空間内に空気が存在する状態とした。この時、分離膜面は湿潤状態であった。この中空糸膜モジュールを、フィルム等で密閉させることなく、平均気温25℃、平均相対湿度40%の空気環境下に1週間放置した。その後、中空糸膜モジュールの純水透過水量を上記と同じ手法により測定したところ、供給圧50kPa、水温25℃換算で1.79m/hであり、試験前より純水透水量が大幅に(71.5%程度)低下した。
【0042】
(実施例3)
外径1.5mm、公称孔径0.05μmのポリフッ化ビニリデン製中空糸膜1800本が収納され、その上接着端側が開口し、下接着端側が封止された状態て接着固定されている、図1に示す構造の円筒形状浸漬型中空糸膜モジュール(長さ1m、有効膜面積7m)を用いた。この中空糸膜モジュールは、中空糸膜1800本からなる中空糸膜束の両端を接着剤で固定し、その接着固定部の一端側の一部を切断して中空糸膜内部を開口させ、上接着端の上に、透過水出口のあるモジュールキャップを被せることによりを作製した。
【0043】
この浸漬型中空糸膜モジュールの透過水側に、濃度100mg/Lに調製した次亜塩素酸ナトリウム水溶液を封入した後、モジュールキャップの透過水出口を図4aに示すように栓22で密封した。このように透過水側に水溶液を封入した状態の中空糸膜モジュールを、フィルム等で密閉させることなく、平均気温25℃、平均相対湿度40%の空気環境下に1週間放置した。その後、中空糸膜モジュールの純水透過水量を測定したところ、放置前の初期純水透過水量とほぼ同じ値を示した。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明法は、浸漬型膜モジュールを保存する際の分離膜の機能劣化を防止する方法に関するものであるので、水中から引き上げた状態で浸漬型膜モジュールを運搬する際や、浸漬型膜モジュールを交換する際に、有用である。この浸漬型膜モジュールは、例えば、上水道における飲料用水製造、工業用水、工業用超純水、食品、医療といった産業用水製造分野、都市下水の浄化および工業廃水処理といった下廃水処理分野などに使用することできるが、これら用途に限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明における浸漬型膜モジュールの一実施態様を示す概略断面図である。
【図2】図1に示す浸漬型膜モジュールに補強手段を介在させた構造の一実施態様を示す概略断面図である。
【図3】本発明の浸漬型膜モジュールの交換方法を実施するための浸漬型膜ろ過装置の一実施態様を示す概略図である。
【図4】図1や図2に示す浸漬型膜モジュールの透過水側に液体を封入した状態を示す概略断面図である。
【図5】図4aに示す状態で浸漬型膜モジュールの外周部にフィルムを巻いて包装した状態を示す概略側面図である。
【図6】本発明の浸漬型膜モジュールの交換方法を実施するための浸漬型膜ろ過装置の別の一実施態様を示す概略図である。
【符号の説明】
【0046】
1:浸漬型膜モジュール
2:中空糸膜
3、3′:接着固定部
4:膜の透過側
5:多孔筒状体
6:浸漬槽
6a:液相
6b:沈降汚泥相
7:流入原水
8:透過水配管
9:吸引ポンプ
10:ろ過弁
11:逆洗水配管
12:逆洗ポンプ
13:逆洗弁
14:ブロワ
15:空洗エア配管
16:空洗弁
17:散気装置
18:排泥配管
19:排泥弁
20:開閉弁
21:配管着脱部
22:モジュールキャップ
23:栓
24:フィルム
25:薬液・薬剤注入配管
26:薬液・薬剤注入ポンプ
27:薬液・薬剤注入弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理液を貯留した浸漬槽内に浸漬させてろ過に使用される浸漬型膜モジュールを保存する際、該浸漬型膜モジュール内の分離膜の透過水側に液体が封入された状態とすることを特徴とする浸漬型膜モジュールの保存方法。
【請求項2】
浸漬型膜モジュール内の分離膜の透過水側に封入させる液体が、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及び、その他保湿作用を有する化合物のうちの1種以上を含有する液体であることを特徴とする請求項1に記載の浸漬型膜モジュールの保存方法。
【請求項3】
浸漬型膜モジュール内の分離膜の透過水側に封入させる液体が、次亜塩素酸ナトリウム、ヒノキチオール、ポリリジン、ソルビン酸、及び、その他防菌・防カビ作用を有する化合物のうちの1種以上を含有する水溶液であることを特徴とする請求項1に記載の浸漬型膜モジュールの保存方法。
【請求項4】
浸漬型膜モジュール内の分離膜の透過水側に液体を封入した後、該浸漬型膜モジュールの少なくとも側面を、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂、及びナイロン樹脂のうちの少なくとも一種からなるフィルム材で包装することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の浸漬型膜モジュールの保存方法。
【請求項5】
浸漬型膜モジュール内の分離膜がポリフッ化ビニリデン製中空糸膜であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の浸漬型膜モジュールの保存方法。
【請求項6】
被処理液を貯留した浸漬槽内に浸漬型膜モジュールを浸漬させ、吸引ポンプによる吸引あるいは水頭圧によってろ過を行う浸漬型膜ろ過装置において、浸漬型膜モジュールを取り外す際、膜モジュールから透過水を取り出す配管の途中に配設された開閉弁を閉にした後、この閉の位置よりも下流側で配管を分断させることにより、浸漬型膜モジュールを取り外すことを特徴とする浸漬型膜モジュールの取り外し方法。
【請求項7】
浸漬型膜モジュールを取り外す際、膜モジュールから透過水を取り出す配管の途中に配設された開閉弁を閉にする前に、配管の下流側から薬液もしくは薬剤成分含有液体を分離膜内へと逆流方向に注入することを特徴とする請求項6に記載の浸漬型膜モジュールの取り外し方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−137001(P2008−137001A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−287024(P2007−287024)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】