説明

浸漬塗布装置

【課題】対象物を蓄えられた塗布液に浸漬して塗布を行う浸漬塗布装置において、塗布液の均質化を図る。
【解決手段】塗布液が蓄えられる塗布槽12の底部に攪拌装置26を配置する。また、塗布槽12の底部には、塗布液がポンプ20により送り込まれる。この送り込まれた塗布液の流れ受ける位置に攪拌装置26が配置され、攪拌装置26は流れを受けて回転して、塗布液を攪拌する。攪拌することにより塗布液が均質化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は浸漬塗布装置に係り、塗布液の均質性の維持に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真用の定着部材は、ロール、ベルトなどの基体の表面に離型のための層を形成して構成される。この離型のための層の形成方法として、離型性材料を含む塗布液を塗布槽に蓄え、この塗布液に、基体を浸けて塗布する浸漬塗布法が知られている。浸漬塗布法により塗布を行う装置の例が、下記特許文献1に記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003-323070号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
離型性の層となる塗布液は、反応性の液体であることがあり、時間経過とともに特性、特に粘度が変化する。定着部材を順次製造する場合に、塗布液の特性が変化してしまうと、先に製造された定着部材と、後に製造された定着部材ではその特性が違ってしまう場合がある。また、塗布槽内で塗布液の均一性が保たれなくなると、一つの定着部材の中で、場所によって特性が異なってしまう場合がある。例えば、塗布液の粘度が変化すると、形成された離型性の層の厚さが異なるものが製造されたり、一つの定着部材において部位ごとに厚さが異なるものが製造されたりしてしまう場合がある。
【0005】
本発明は、特性が経時的に変化する塗布液を塗布する際に、特性変化の影響を少なくする浸漬塗布装置を提供する。本発明は前述の定着部材製造に限らず、電子写真用の感光体製造のように、反応性塗布液を浸漬塗布により塗布する工法全般に適用できるものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる浸漬塗布装置は、塗布液を蓄えた塗布槽に外部より同様の塗布液を供給する際に、発生する流れを受けて動く攪拌部材が塗布槽内に設けられている。これにより塗布槽内に局所的な滞留が発生することを防止し、塗布により形成される層の均一化を図ることができる。
【0007】
また、本発明にかかる他の浸漬塗布装置は、塗布液を蓄えた塗布槽に、塗布液を供給し、また塗布槽からあふれた液を回収して再度塗布槽に送り込む塗布液循環を行うものであり、この循環の流れを受けて動く撹拌部材が塗布槽内に設けられている。
【0008】
また、前述の攪拌部材はプロペラ形状とすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の構成をとることにより、特性が経時的に変化する塗布液を塗布する際に、特性変化の影響を少なくする浸漬塗布装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。図1は、本実施形態の浸漬塗布装置10の概略構成を示す図である。塗布槽12には塗布液14が蓄えられている。塗布槽12の底部には、供給配管16およびフィルタ18を介してポンプ20が接続されている。また、塗布槽12の上部は開口しており、その周囲は受け皿22に囲われている。受け皿22は塗布槽12よりあふれた塗布液を受け、回収する。受け皿22の底には、戻し配管24が接続され、この戻し配管24の他方の端は、前述のポンプ20に接続されている。また、塗布槽12の底部には、攪拌装置26が配置されている。この撹拌装置26は、ポンプ20により送り出される塗布液の流れを受けて、回転し、これにより塗布槽内の塗布液を攪拌する。撹拌装置26の詳しい構成については後述する。
【0011】
ポンプ20は、所定量の塗布液を塗布槽12に送り込み、その分塗布槽12から塗布液があふれ出す。あふれた塗布液は、受け皿22で受けられて、戻し配管24によりポンプ20に戻される。このように、塗布液は、所定の流量で循環しており、塗布液を均質に保ち、また循環経路の途中にフィルタを設けることで、ゴミなど粒子状の汚染物質を濾過されている。
【0012】
塗布液が循環している状態で、定着部材の基体28が塗布槽20内の塗布液に浸漬される。基体28は、保持装置30により保持され、この保持装置30は、不図示のアクチュエータにより上下に駆動される。保持装置30に保持された基体28は、アクチュエータに駆動されて、塗布槽20内の塗布液に浸漬され、その後、所定の速度で引き上げられる。引き上げ速度を制御することにより、塗布液の塗布厚さを所定の値になるようにしている。
【0013】
図2は、撹拌装置26の詳細な構成を示す図である。塗布槽12の下部、または塗布槽12に繋がる供給配管16の塗布槽12に隣接する領域に、円筒形のスリーブ32が配置される。スリーブ32は、塗布槽下部又は供給配管の内周面に、その外周面を対向または接するように配置される。スリーブ32の円筒内を縦ロッド34が貫通しており、縦ロッド34の下端には、横ロッド36が、上端にはプロペラ38が結合されている。
【0014】
縦ロッド34の直径は、スリーブ32の内径より十分に小さくされ、この内径部分を流れる塗布液の流れを妨げないようにしている。横ロッド36は、縦ロッド34と共に全体としてT字形となっている。図2においては倒立したT字形となっている。また横ロッド36は、スリーブ32より塗布液の流れの上流側に位置し、その長さがスリーブ32の内径より長く、スリーブ32の上流側の端面に当接することにより、撹拌装置26の可動部分が抜けないようにしている。縦ロッド34の下流側の端、図において上端には、撹拌部材としてプロペラ38が結合されている。プロペラ38は、塗布槽12の底部に位置し、供給される塗布液の流れにより回転する。このために、プロペラ38は、複数の、この実施形態においては2枚のパドル状の翼40を有し、これらの翼40は供給配管16から吐出される塗布液の流れを受けて、プロペラ38を回転させる形状を有している。また、翼40にあたった塗布液は、その流れの向きが変更される。プロペラ38の回転に伴って、塗布槽12内の塗布液の流れの形態も変わり、これにより塗布槽内の塗布液の撹拌が行われる。
【0015】
なお、図2に示す攪拌装置において、プロペラ38の各種パラメーターは攪拌性能に最も寄与するものであり、攪拌する溶剤の供給配管16から塗布槽12へ流れ込む際の流速、塗布液の粘度、および塗布液の量、塗布層12の底部内径などによって適宜に設定される。
【0016】
プロぺラ38の翼40は、図3に示すように、回転方向の前方に向けて上向きに、いわゆる迎え角θ1を有するように取り付けられている。図3は、翼40を、その長手方向よりみた図であり、矢印Rが回転方向を示している。翼40は、回転方向の前方を角度θ1だけ上げるように取り付けられている。これにより、塗布層12内での塗布液の上昇流が効率よく発生できる。この迎え角θ1は、塗布液の上昇流が効率および、拡散性を考慮すると5°以上60°以下が好ましく、10°以上30°以下がさらに好ましい。迎え角θ1が5°よりも小さい場合には、塗布液の上昇流が効率よく発生できない場合があり、傾斜角θ1が60°よりも大きい場合には、塗布液の拡散性が低下する場合がある。
【0017】
また塗布液の塗布槽12への流れ込みをプロペラ38で阻害せず、かつ、塗布液の拡散性を考慮し、プロペラ38は縦ロッド34に対して傾斜角θ2を持つことが好ましい。
【0018】
具体的には図4に示すように、V字状となるように塗布槽12の上部に向かってスリーブ32の延長軸線に対して傾斜角θ2を有した状態で具備されるのが好ましい。すなわち、傾斜角θ2は、塗布液の上昇流が効率および、拡散性を考慮すると30°以上90°以下が好ましく、40°以上70°以下がさらに好ましい。傾斜角θ2が30°より小さいと塗布液の拡散性が低下する場合があり、90°より大きいと、塗布液の上昇流が効率よく発生できない場合がある。
【0019】
塗布槽12へ流れ込む際の流速は、20〜150mm/minが好ましく、60〜100mm/minがさらに好ましい。流速が20mm/minより小さいと拡散効率が低下する場合があり、150mm/minより大きいと塗布槽液面が不安定になり、塗布ムラが発生する場合がある。
【0020】
さらに、プロペラ38、横ロッド36、およびスリーブ32の材質は、溶剤に対する耐性や、プロペラ38とスリーブ32との摺動を考慮した耐磨耗を満足したものでなければならず、適宜設定される。
【実施例1】
【0021】
塗布の対象物である定着部材の基体は、チューブ状ベルト部材とすることができ、材質はポリイミド系重合体を用いることができる。より詳しくは、熱可塑性ポリイミド系樹脂にアセチレンブラックを、重量比で80対20(ポリイミド系樹脂対アセチレンブラック)となるように分散させた材料であり、これを筒状フィルムとして形成する。この筒の円形が直径168mm、幅130mmで、熱伝導性および耐熱性の点から、厚さ90μmのシームレスベルトである。
【0022】
この基体の表面に離型層となるゴム層が形成される。ゴム層は、具体的には、信越化学工業株式会社のフッ素エラストマSIFEL610系フルオロカーボンシロキサンゴムを、その材料として用いることができる。フルオロカーボンシロキサンゴム層を外表面に具備することで、シリコーンゴムと同等以上のトナー離型性を保持しながら、ベルト表面硬度を適当に設定することが可能となので、トナーの凹凸に沿ってベルト表面層が変形して追従し、トナーを均一に溶融させることで、高光沢カラーコピーを実現できる。また、画像記録媒体の透明樹脂層中にトナーを埋め込む方式の定着システムにおいても、フルオロカーボンシロキサンゴム層の硬度を適宜最適化することで、有効な定着が可能である。
【0023】
塗布液は、液状のフルオロカーボンシロキサンゴム組成物であり、より具体的には前述のフッ素エラストマSIFEL610系を希釈溶剤にて固形分割合が75%程度になるように希釈する。このときの液の粘度は、170〜200センチポアズである。この希釈液をポリイミド系重合体ベルトに塗布し、加熱硬化することによって、フルオロカーボンシロキサンゴム層を被覆する。具体的には、前述したフッ素エラストマSIFEL610系樹脂の希釈液を本実施形態の浸漬塗布装置10により、ベルトに塗布し、120℃、30分の1次加硫を行う。その後、200℃、2時間の2次加硫によりフルオロカーボンシロキサンゴム組成物を固化させ、同時にポリイミド系重合体に接着させる。上述した1次加硫および2次加硫の条件は、フルオロカーボンシロキサンゴム層の膜厚や、定着画像品質に影響を及ぼすフルオロカーボンシロキサンゴム層の硬度、または定着ベルト寿命の観点から要求されるフルオロカーボンシロキサンゴム層のポリイミド系重合体ベルトへの接着性寿命から決定されるものである。
【0024】
図1に示す浸漬塗布装置による塗布を行う場合、前述のように撹拌装置26のプロペラ38が塗布液の流れにより自動回転することで、効率的に塗布液が塗布槽12内に拡散する。効率的に拡散および撹拌が行われるように、プロペラの翼の形状、枚数等が適切に決定されるべきである。本実施例においては、プロペラ翼部分の一方面を塗布槽12の斜め上方に向くように迎え角θ1を10°とし、前述のプロペラ38の傾斜角θ2を60°とした。また塗布液であるフッ素エラストマSIFEL610系フルオロカーボンシロキサンゴムの液粘度を考慮し、プロペラ38の枚数は一対の2枚とした。また、塗布液の流速は、その粘度、ポンプ20の駆動周波数により決定される。本実施例においては、塗布液であるフッ素エラストマSIFEL610系フルオロカーボンシロキサンゴムの液粘度が150〜200センチポアズで管理され、ポンプ20の駆動周波数を45Hzに設定することで、塗布槽12内の適切な撹拌が達成された。その際のプロペラ38の回転速度は36rpmであり、塗布液流速はプロペラ38直上で約80mm/minであった。
【0025】
以上の実施例から明らかのように、塗布槽内に、塗布液の流れを受けて動き、塗布液を攪拌する攪拌部材が設けられたことで、反応性があり、特性が経時的に変化する塗布液を塗布する際に、特性変化の影響を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施形態の浸漬塗布装置の概略構成を示す図である。
【図2】攪拌部材の概略構成の一例を示す図である。
【図3】翼の取り付け角度を説明するための図である。
【図4】撹拌部材の概略構成の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
10 浸漬塗布装置、12 塗布槽、20 ポンプ、22 受け皿、26 攪拌装置、28 基体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布槽に蓄えられた塗布液に対象物を浸漬し、対象物に塗布液を塗布する浸漬塗布装置において、
塗布中にあっては、塗布槽内に外部より塗布液が供給されことにより流れが生じ、
塗布槽内に、前記塗布液の流れを受けて動き、塗布液を攪拌する攪拌部材が設けられた、
浸漬塗布装置。
【請求項2】
塗布槽に蓄えられた塗布液に対象物を浸漬し、対象物に塗布液を塗布する浸漬塗布装置において、
塗布中に、塗布槽に塗布液を送り、塗布槽からあふれた塗布液を回収して再度塗布槽に送り込む塗布液循環手段と、
塗布槽内に配置され、塗布液循環手段により形成された塗布槽内の塗布液の流れを受けて動作し、塗布液を攪拌する攪拌部材と、
を有する浸漬塗布装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の浸漬塗布装置において、前記撹拌部材はプロペラ形状である、浸漬塗布装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の浸漬塗布装置において、前記対象物は、電子写真用定着部材の基体であり、塗布液は、フルオロカーボンシロキサンゴム組成物である、浸漬塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−75781(P2007−75781A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−269834(P2005−269834)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】