説明

浸漬管

【課題】 耐火材の亀裂の発生が抑えられた浸漬管を提供すること。
【解決手段】 本発明の浸漬管4は、耐熱性金属よりなる筒状の芯管40と、芯管40の内側及び外側に配置される耐火材42,43と、を有し、内部を溶湯が流れる浸漬管4であって、芯管40と耐火材42,43との間に、断熱モルタル41を配していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部を金属溶湯が流れる浸漬管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、溶鋼などの金属溶湯を真空室に吸引することにより、溶鋼などの金属溶湯を脱ガス処理する真空脱ガス装置が提供されている。
【0003】
真空脱ガス装置は、真空室を形成する炉体と、炉体の下部に2個並設された浸漬管と、各浸漬管の上部に配置された環流管と、を備えている。溶鋼等の金属溶湯を脱ガス処理するときには、取鍋の溶鋼などの金属溶湯に各浸漬管の先端部を浸漬させた状態で、一方の浸漬管及び環流管を経て、溶鋼などの金属溶湯を真空室に吸引して脱ガスする。脱ガスされた溶鋼などの金属溶湯は、他方の環流管及び浸漬管を経て取鍋に戻る。
【0004】
そして、浸漬管は、筒状の芯管と芯管の内側及び外側に一体的に形成された耐火材とをもつように形成されている。
【0005】
この浸漬管は、金属溶湯にその先端部が浸漬されて内部を金属溶湯が流れることが繰り返されると、浸漬管の筒状の芯管が広がる方向に変形を生じ、外表面を形成する耐火材に亀裂が発生し、亀裂から金属溶湯が侵入したり、亀裂が進展して耐火材が脱落するという問題が発生していた。
【0006】
このような問題に対して、たとえば、特許文献1では、芯金(芯管)の下端部に断面形状が三日月型の冷却通路(冷却構造)を形成することが開示されている。しかしながら、特許文献1に記載の構造は、芯管の変形を抑えることの効果を発揮できるが、その製造にコストがかかるという問題があった。
【0007】
また、特許文献2〜3では、芯金(芯管)のまわりに断熱性のキャスタブル層を配することが記載されている。しかしながら、芯管のまわりにキャスタブル層を配することは、芯管の変形を抑えることの効果を発揮できるが、その製造にコストがかかるという問題があった。具体的には、キャスタブル層の形成には、芯管の周囲にキャスタブルを施工するための枠組みを形成する必要がある。このとき、芯管の外周面にはスタッドが溶接されており、スタッドが(後に施工される)外側のキャスタブルをつなぎ止めるように突出させるように枠組みを形作ることは、かなり困難であった。その上、キャスタブルの硬化には、24時間程度の時間が要求されている。さらに、キャスタブル層の表面上に、外側のキャスタブルを施工する必要がある。このように、断熱性のキャスタブル層の形成には、多大なコストがかかっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−226092号公報
【特許文献2】特開平7−224319号公報
【特許文献3】特開平9−41026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、耐火材の亀裂の発生が抑えられた浸漬管を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明者等は、耐火材の亀裂の発生が、浸漬管を流れる金属溶湯からの熱が芯管を変形させることに着目し、本発明をなすに到った。
【0011】
すなわち、本発明の浸漬管は、耐熱性金属よりなる筒状の芯管と、芯管の内側及び外側に配置される耐火材と、を有し、内部を溶湯が流れる浸漬管であって、芯管と耐火材との間に、断熱モルタルを配していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の浸漬管は、耐火材と芯管との間に断熱モルタルを配している。このことにより、浸漬管内を溶湯が流れるときに溶湯から芯管に伝わる熱量が小さくなり、芯管の変形が小さくなる。この結果、芯管が熱膨張したときに耐火材に加える応力が小さくなり、耐火材に亀裂が発生する不具合が発生しにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例の真空脱ガス装置の構成を示した図である。
【図2】浸漬管の構成を示した図である。
【図3】断熱モルタルの評価試験結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の浸漬管は、耐熱性金属よりなる筒状の芯管と、芯管の内側及び外側に配置される耐火材と、を有し、内部を溶湯が流れる部材である。
【0015】
本発明の浸漬管における芯管は、鋼や合金鋼等の従来公知の耐熱性金属で構成される筒状(管状)の部材である。また、一般的な芯管の断面形状は略円形であるが、特にこれに限定されるものではなく、楕円形等であってもよい。
【0016】
本発明の浸漬管における耐火材は、芯管の内側及び外側に配置され、浸漬管を流れる溶湯からの熱が直接芯管に流れることを防止する部材である。耐火材としては、従来公知の耐火材を用いることができ、例えば、マグネシア−クロム質、マグネシア−カーボン質、アルミナ−クロム質、アルミナ−カーボン質、アルミナ−マグネシア質、アルミナ−マグネシア−カーボン質、アルミナ−スピネル−カーボン質等の耐火材料を使用することができる。
【0017】
そして、本発明の浸漬管は、芯管と耐火材との間に、断熱モルタルを配している。この断熱モルタルにより、浸漬管内を溶湯が流れるときに溶湯から芯管に伝わる熱量が小さくなり、芯管の変形が小さくなる。この結果、芯管が熱膨張したときに耐火材に加える応力が小さくなり、耐火材に亀裂が発生する不具合が発生しにくくなる。
【0018】
本発明において、芯管と耐火材との間に、断熱モルタルを配することで、芯金の表面にペースト状のモルタルを塗布した後に固化して配置することができ、断熱モルタルを簡単に配置することができる。
【0019】
本発明において断熱モルタルは、樹脂練り、水練りのいずれであっても、気硬性、熱硬性のいずれであってもよい。ペースト状のモルタルを塗布して放置しておけばよいことから、断熱モルタルは、水練り性の気硬性断熱モルタルであることが好ましい。
【0020】
断熱材の厚さは、特に限定されるものではなく、浸漬管の使用条件により適宜決定することができる。断熱材の厚さが厚くなるほど、芯管に伝わる熱が小さくなり、より断熱材の配置の効果が得られる。ペースト状の断熱モルタルの塗布厚さを2mm以上とすることがより好ましい。
【0021】
断熱材は、芯管の内側と外側のいずれか一方のみに配置しても、耐火材の損傷が抑えられるが、芯管の内側と外側の両側に配置することがより好ましい。芯管の内側と外側の両側に断熱材を配置することで、浸漬管の内側を流れる金属溶湯からの熱を断熱するだけでなく、金属溶湯が貯留する取鍋からの輻射等による浸漬管の外側の熱を断熱することができる。
【0022】
本発明の浸漬管は、芯管と耐火材との間に断熱材を配する構成となっていれば、それ以外の構成は、従来公知の浸漬管と同様の構成とすることができる。
【0023】
芯管は、特に限定されるものではなく、二重管であっても、内周と外周の少なくとも一方に定型耐火物を一部あるいは全部用いる場合であっても、いずれの構成であってもよい。
【0024】
本発明の浸漬管において、芯管の外周面には、外方に向かって突出するスタッドが接合されていることが好ましい。スタッドは、鋼や合金鋼等の金属製の円管状、丸棒状、角棒状、板状の部材を用いて構成させることができる。このスタッドの形状は特に限定されるものではないが、耐火材を効果的に支持するためには、耐火材との間に大きな接触抵抗が生じる形状が望ましく、例えば、V字形、T字形、L字形、Y字形等の屈曲・分岐した形状とすることができる。
【0025】
また、スタッドは、複数設けられ、芯管の表面に広く分散するように設けることが好ましい。これにより、耐火材を広い面積で支持することが可能となる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。
【0027】
本発明の実施例として、浸漬管を備えた真空脱ガス装置を製造した。
【0028】
(真空脱ガス装置)
本実施例の真空脱ガス装置の全体構造は、図1に示したように、減圧室1を有する炉体2と、炉体2の底部に設けられた2個の環流管3と、各環流管3の下部に連設された浸漬管4とを備えている。
【0029】
図1に示したように、高温の金属溶湯5は、一方の浸漬管4、その上方に配置されている一方の環流管3の溶湯通過路6から減圧室1に移動し、減圧室1で真空脱ガス処理された後、他方の環流管3の溶湯通過路6から他方の浸漬管4を経て吐出され、取鍋に戻される。これを繰り返すことにより、容器内の金属溶湯の脱ガス処理が実行される。
【0030】
図2に本実施例における浸漬管の断面図を示した。浸漬管4は、円筒状をなす芯管40と、芯管40の内側及び外側の表面に形成された断熱モルタルよりなる断熱材層41と、芯管40及び断熱材層41の内側にほぼ円筒形状に形成された耐火材よりなる内筒部42と、芯管40及び断熱材層41の外側および下端面を一体的に覆う耐火材よりなる円筒形状をなす外筒部43と、をもつ。
【0031】
芯管40は、炭素鋼である金属板により円筒形状に形成されている。芯管40の下端部には、内筒部42を受ける取付板44が溶接されている。また、芯管40には、V字形状のスタッド45が複数個、溶接により芯管40の外周面に固定されている。
【0032】
断熱材層41は、芯管40の内側及び外側の表面に、断熱モルタルペーストを塗布し、固化して形成される。断熱材層41は、芯管40と内筒部42及び外筒部43との間にもうけられている。
【0033】
内筒部42の内周面42aにより、高温の溶湯が通過する垂直方向に延びる溶湯通路46が形成されている。内筒部42を形成する耐火材は、MgO−Cr質のレンガを組み合わせて形成されている。
【0034】
外筒部43を構成する耐火材は、スタッド45に機械的に係合している。このため浸漬管の使用期間が長期化して外筒部43に亀裂が仮に発生したとしても、耐火材よりなる外筒部43の脱落がスタッド45により抑制される。この外筒部43は、不定形耐火材により形成される。
【0035】
外筒部43を構成する不定形耐火材は、アルミナ−マグネシア質とされており、耐火材粉粒体と水硬性セメントと水とを混練して形成されているため、固化前の状態では流動性をもつ。固化した不定形耐火材は、スタッド45と機械的に係合するため、外筒部43に亀裂が生じたときであっても、外筒部43の脱落が抑制される。
【0036】
本実施例の真空脱ガス装置の浸漬管4は、芯管40と耐火材よりなる内筒部42及び外筒部43との間に断熱材よりなる断熱材層41が形成されている。この断熱材層41により、浸漬管4内を高温の溶湯が流れても、溶湯からの熱が芯管40に伝わりにくくなっている。この結果、芯管40の熱膨張による変形が小さくなり、芯管40が熱膨張したときに内筒部42及び外筒部43に加える応力が小さくなり、耐火材よりなる内筒部42及び外筒部43に亀裂が発生することが抑えられる。
【0037】
このように、本実施例の浸漬管4は、耐火材の損傷が抑えられた浸漬管となっている。
【0038】
(評価)
芯管40と耐火材よりなる内筒部42及び外筒部43との間に断熱材層41をもうけることによる効果を、より具体的に説明する。
【0039】
(断熱性の評価)
厚さ16mmの鉄板(SS40)の一方の表面(片面)に断熱モルタルを塗布・固化して断熱材層を形成し、一方の表面側を1000℃に加熱したときの他方の表面側における温度変化を測定した。測定結果を図3に示した。ここで、断熱モルタルの塗布厚さは、0mm(塗布せず)、2mm、6mmで試験を行った。
【0040】
図3に示したように、断熱モルタルを塗布することで、塗布していない場合に比べて、鉄板に伝わる熱が小さくなっていることがわかる。さらに、断熱モルタルの塗布厚さが厚くなるほど、鉄板に伝わる熱が小さくなっていることがわかる。
【0041】
このように、実施例の真空脱ガス装置1は、浸漬管4が断熱材層41を有することで、浸漬管4の表面を区画する耐火材の損傷が抑えられたものとなっている。
【0042】
(その他の形態)
上記の実施例においては、浸漬管4に断熱材層41が形成されているが、浸漬管4のみだけではなく、金属溶湯5の高温が伝達される炉体2及び環流管3にも断熱材層を形成しても良い。
【0043】
本形態において、炉体2は、炉体形状を形成する鉄皮と、鉄皮の内側及び外側の表面に形成された断熱モルタルよりなる断熱材層と、鉄皮及び断熱材層の内側に形成された耐火材よりなる内面部と、鉄皮及び断熱材層の外側に形成された耐火材よりなる外面部と、をもつ。
【0044】
本形態において、環流管3は、芯管と、芯管の内側及び外側の表面に形成された断熱モルタルよりなる断熱材層と、芯管及び断熱材層の内側にほぼ円筒形状に形成された耐火材よりなる内筒部と、芯管及び断熱材層の外側および下端面を一体的に覆う耐火材よりなる円筒形状をなす外筒部と、をもつ。
【0045】
本形態において、炉体2、環流管3及び浸漬管4のそれぞれの断熱モルタルの塗布厚さは、2mmであった。
【0046】
本形態の真空脱ガス装置を用いて金属溶湯の処理(処理時間:30分)を繰り返して行い、所定回数後の炉体の鉄皮の状態を確認した。
【0047】
83サイクル後の炉体の鉄皮を確認したところ、下端(環流管が接続される側の端部)においては、11mmの拡径が確認された(800mmから811mm)。
【0048】
比較として、断熱モルタルを塗布していない真空脱ガス装置に同様の試験を行ったところ、72サイクル後の炉体の鉄皮の拡径は43mmであった(800mmから834mm)。
【0049】
この変形形態からも、断熱材層を有することで、耐火材の損傷が抑えられることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の浸漬管は、金属溶湯の処理を行う装置に適用可能となっている。
【符号の説明】
【0051】
1:真空脱ガス装置
2:炉体
3:環流管
4:浸漬管 40:芯管
41:断熱材層 42:内筒部
43:外筒部 44:取付板
45:スタッド 46:溶湯通路
5:金属溶湯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性金属よりなる筒状の芯管と、
該芯管の内側及び外側に配置される耐火材と、
を有し、内部を溶湯が流れる浸漬管であって、
該芯管と該耐火材との間に、断熱モルタルを配していることを特徴とする浸漬管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−168600(P2010−168600A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−9822(P2009−9822)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(000220767)東京窯業株式会社 (211)
【Fターム(参考)】