説明

浸炭、窒化および/または炭窒化に先立って、鉄または非鉄金属不動態の製品を活性化する方法

本発明は、窒素および炭素を含有する、少なくとも一つの化合物を加熱することにより、鉄または非鉄金属不動態の製品を活性化する方法に関する。活性化した製品は、より短時間、より低温で、引き続いて浸炭、窒化、または炭窒化することができ、非活性化製品と比較して、より優れた機械的性質をもたらすことができ、また、ステンレス鋼、ニッケル合金、コバルト合金またはチタン系材料でさえも、浸炭、窒化または炭窒化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄または非鉄金属不動態の製品を活性化する方法に関する。本発明はまた、本発明に従って活性化した製品を、浸炭、窒化または炭窒化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒素または炭素を運搬するガスによる、鉄および鋼の熱化学的表面処理は、それぞれ窒化または浸炭と呼ばれ、よく知られている方法である。炭窒化は、炭素と窒素のいずれもを運搬するガスを使用する方法である。これらの方法は、鉄および低合金鋼製品の硬度および耐摩耗性を向上させるために、伝統的に用いられている。鋼製品を、一定時間高温で、炭素および/または窒素運搬ガスに曝すと、ガスは分解し、炭素および/または窒素原子は、鋼の表面を通って鋼材料に拡散する。表面に近い最外部の材料は、改善された硬度を有する層に変化し、層の厚さは、処理温度、処理時間、およびガス混合物の組成に依存する。
【0003】
特許文献1(ヒルシュ)は、鉄またはモリブデン鋼の製品を、尿素を用いてるつぼ中で窒化する方法を開示している。この方法では、製品と尿素をるつぼに一緒に導入し、ついで、尿素から発生期の窒素を放出するのに十分な温度まで加熱する。
【0004】
非特許文献1(ダン他)は、尿素を使用して鋼を窒化する方法を開示している。尿素は、取り扱いや貯蔵が簡単であり、加熱によりアンモニアを放出する安価な材料であるので選択されている。一つの方法では、窒化炉中で、固体尿素を鋼製品と一緒に加熱している。他の改良された方法では、尿素を外部の発電機で加熱し、放出したアンモニアを、鋼製品を入れてある炉に投入する。
【0005】
非特許文献2(チェン他)は、570℃で90分間、尿素で処理することによる、鋳鉄の炭窒化方法を開示している。非特許文献2によれば、500〜600℃の間で、尿素は、一酸化炭素、発生期の窒素および水素に解離する。
【0006】
非特許文献3(シェイバー他)は、開放容器で尿素の熱分解について分析しており、133〜350℃で加熱することにより、シアン酸、シアヌル酸、アンメリド、ビウレット、アンメリン、およびメラミンを含む様々な分解生成物が得られることを発見している。さらに、様々な分解副反応により、相当量のNH3が生成される。250℃より高い温度では、かなりの昇華と、さらなる分解生成物の形成が起こる。
【0007】
しかし、尿素の分解中に、尿素を500℃まで加熱した場合に、どの中間生成物が生成し、さらなる分解が起こるまでに、中間生成物のそれぞれが、どれくらい長く存在するのかについては、完全には分かっていない。
【0008】
非特許文献4(カタルド他)では、ホルムアミド(HCONH2)の熱分解を分析している。反応はかなり複雑で、HCN、NH3およびCOの分解生成物を含んでいる。
【0009】
窒化処理および炭窒化処理の実践においては、実際の処理に先立つ表面の活性化は、通常は350℃から、窒化/炭窒化温度の直下の温度範囲の温度で酸化処理を行うことにより、しばしば達成される。高合金、自己不動態化材料にとって、前酸化温度は非常に高く、窒化物元素の合金化を妨げることなく窒化/炭窒化が実施できる温度よりもかなり高い。自己不動態化ステンレス鋼の活性化のための様々な代替案が提案されている。
【0010】
特許文献2(タハラ他)は、オーステナイト系ステンレス鋼を、フッ素またはフッ化物を含有するガス雰囲気下で、活性化のために加熱し、次いで、フッ素化したオーステナイト系ステンレス鋼を、窒化雰囲気下で、450℃よりも低い温度に加熱することによって、オーステナイト系ステンレス鋼の表面層に窒化層を形成することを含む、オーステナイト系ステンレス鋼を窒化する方法を開示している。この2段階の方法では、ステンレス鋼表面の不動態層が、含フッ素表面層に変換されるが、これは、その後の窒化段階において、窒素原子の透過することができる。フッ素またはフッ化物含有ガス雰囲気自体は、ステンレス鋼製品を窒化しない。活性化のためにハロゲンまたはハロゲン含有ガスを添加することは、一般的な方法であり、プロセス機器内部に攻撃的に作用することが知られており、炉、据え付け器具、およびアーマチュアの深刻な点食を惹き起こすおそれがある。
【0011】
特許文献3(サマーズ他)は、炭素および/または窒素原子が製品の表面を通して拡散し、炭素および/または窒素を含むガスにより、炭化物および/または窒化物が生成する温度よりも低い温度で、ステンレス鋼製品を表面硬化する方法を開示している。この方法は、製品表面の活性化を含み、再不動態化を防止するために活性化された表面上に表面層を用いることを含んでいる。最上層には、ガスの分解を触媒する金属が含まれている。
【0012】
特許文献4(サマーズおよびクリスチャンセン)は、不飽和炭化水素ガスの雰囲気下で、10重量%以上のクロムを含有する合金を、低温浸炭するための方法を開示している。不飽和炭化水素ガスは、酸化層を除去することによって効果的に表面を活性化し、その後の、または同時の浸炭用炭素源として機能する。記載されている例では、アセチレンが使用され、持続時間は、14時間から72時間に及んでいる。浸炭媒体として、および活性化剤として、不飽和炭化水素ガスを使用することによる本質的な欠点は、スーチングの傾向が強いことであり、そのため、浸炭処理を遅くし、かつ鋼中の炭素含有量の制御を妨げている。スーチング傾向を抑制するためには、温度を低下させなければならず、そのため処理時間は長くなる(上記参照のこと)。
【0013】
特許文献5は、窒化または浸炭に先行して、金属表面を活性化する方法を開示している。COやアセチレンなどの炭素含有ガスと、NH3などの窒素含有ガスとを炉に導入し、少なくとも300℃に加熱する。金属触媒との反応により、HCNが生成する。十分に高いHCN濃度(100 mg/m3)により、金属部材の不動態表面が活性化される。記載されている例は、ステンレス鋼の活性化を開示している。拡散処理を550℃で実施し、これにより窒化物または炭化物は析出される。炭素結合化合物とNH3との間に、十分な反応速度を得るためには、活性化のための温度は300℃よりも高くなければならないことが記載されている。従って、この方法によると、2つのガスを反応させるのに必要とされる温度が比較的高温であることが必要である。
【0014】
特許文献6は、気体混合物が炭素供給化合物、および窒素供給化合物を有し、混合物が150℃で気体であり、200℃より高い温度に加熱する表面硬化方法を開示している。炉に投入された触媒は、気体混合物をHCNへ変換し、このHCNは、次いで、金属製品の表面に作用して、表面の不動態皮膜を変化させ、活性化する。引き続いて、ガス窒化および/またはガス炭窒化を、400〜600℃で実施する。この方法は、別々のガスライン、バルブ、およびガス混合器のような複雑な装置を必要とする、共に気体である2つの別々の成分の供給を必要とする。さらに、この方法は、気体混合物をHCNに変換するのに適した触媒の存在に頼っている。この製品が触媒として使用された場合、結果として生じる気体組成物途HCNのレベルは、炉の中で処理された製品の表面領域および組成物に高く依存している。このことは、再現性および制御性の観点から望ましくないものである。
【0015】
特許文献7は、予備脱不動態化(すなわち活性化)処理を必要とすることなく、オーステナイト鋼およびステンレス鋼上に、窒化物表面を形成しうる方法に関する。この方法は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属化合物を、窒素または窒素および水素を用いて窒化している間、アンモニア等の、気体窒素放出物質雰囲気内に存在することを必要としている。アルカリ金属またはアルカリ土類金属化合物は、例えば、ナトリウムアミド(NaNH2)、またはカルシウムアミド(Ca(NH22)のようなアミドでもよい。アルカリまたはアルカリ土類金属化合物は、窒化温度である475〜600℃まで、鋼製品と一緒に単に加熱する。この化合物は、ステンレス鋼中の窒化物表面を形成するために使用される。窒化物の形成は、耐腐食性の喪失に関連付けられている。
【0016】
非特許文献5(ハーツ他)は、低温(350〜450℃)での浸炭および窒化を議論しており、酸化物層の拡散隔膜を認めている。この拡散隔膜を克服するために、製品を活性化するための好ましい方法は、NF3を用いるフッ素添加である。
【0017】
非特許文献6(ストック他)は、低温プラズマアシスト化学蒸着におけるTiN等の耐摩耗性コーティングの形成に関する。このようなコーティングを確立するためには、200〜500℃で、チタンアミド(Ti(N(CH3)3)4)を、鋼材料と一緒に使用することを示唆している。しかし、非特許文献6は、鋼の表面を活性化に先行する工程についてはなにも述べていない。非特許文献6は、専らコーティングの形成に関し、表面硬化、すなわち、拡散処理通じて既存の表面を加工することについては述べていない。
【0018】
上記の従来技術に鑑みると、浸炭、窒化、または炭窒化に先行する不動態製品の活性化方法は、依然として必要とされており、この活性化方法は、簡単で、エネルギー効率がよく、安全であることが求められている。
【0019】
したがって、本発明の第1の目的は、鉄または非鉄金属不動態の製品を活性化する、簡単で、エネルギー効率の高い方法を提供することである。
【0020】
本発明の第2の目的は、鉄または非鉄金属不動態の製品を活性化する安全な方法であって、健康上のリスクを最小限に抑えるようになっている方法を提供することである。
【0021】
本発明の弟3の目的は、浸炭、窒化、および炭窒化に先行して、改善した活性化をもたらす、鉄または非鉄金属不動態の製品を活性化する方法を提供することである。
【0022】
本発明の第4の目的は、後続する浸炭、窒化、または炭窒化と好適に組み合わせて、鉄または非鉄金属不動態の製品を活性化する方法を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】米国特許第1,772,866号明細書
【特許文献2】欧州特許第0588458号明細書
【特許文献3】欧州特許第1521861号明細書
【特許文献4】国際公開第2006/136166号公報
【特許文献5】欧州特許第1707646号明細書
【特許文献6】特開2005-232518号公報
【特許文献7】英国特許第610953号明細書
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】ダン他、“鋼を窒化する尿素プロセス”、A.S.M.議事録、1942年9月、776〜791頁
【非特許文献2】チェン他、Jornal of Materials Science 24(1989)、2833〜2838頁
【非特許文献3】シェイバー他、Thermochimica Acta 424(2004)131-142頁(エルゼビア)
【非特許文献4】カタルド他、Journal of Analytical and applied Pyrolysis 87(2010)、34〜44頁
【非特許文献5】ハーツ他、“オーステナイト系ステンレス鋼の浸炭と窒化低温ための技術”、 国際熱処理表面工学、第2巻、1号、2008年3月3日、33〜38頁
【非特許文献6】ストック他、“プラズマアシスト化学蒸着表面と前駆体としてのチタンアミド”、表面コーティング技術、エルゼビア(オランダ国 アムステルダム)、第46巻、第1号、1991年5月30日、15〜23頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
上記目的の1つまたは複数を解決しようとする、本発明による新規で独特の方法は、鉄または非鉄金属不動態の製品を活性化する方法であって、活性化が、製品を第1の温度まで加熱することと、窒素と炭素とを含む少なくとも一つの化合物(以下、N/C化合物という)を、1つまたは複数のガス種を提供するために、第2の温度まで加熱することと、製品をガス種に接触させることを含み、ここで、N/C化合物は少なくとも4つの元素を含んでいる。
【0026】
本発明は、別の態様においては、鉄または非鉄金属不動態の製品を、浸炭、窒化、または炭窒化する方法に関し、この、製品は、浸炭、窒化、または炭窒化に先行して、本発明の方法に従って活性化されている。
【0027】
[定義]
本明細書において、用語「活性化」は、鉄または非鉄材料不動態の製品表面上の拡散隔膜を、完全にまたは部分的に除去することを意味している。通常、拡散隔膜は、1つまたは複数の酸化物層を含み、酸化物層は、拡散層の形成の障害物として作用し、そのため、浸炭、窒化、または炭窒化の間、窒素、および/または炭素が、製品表面へ侵入して拡散するのが阻害される。
【0028】
本明細書において、用語「N/C化合物」は、化学物質を意味し、少なくとも1つの炭素原子と、少なくとも1つの窒素原子とを含む、分子を指す。
【0029】
本明細書において、「ガス種」は、気体分子を意味し、固相または液相とは異なる、気相中に存在する、1つまたは複数の化学物質を意味している。
【0030】
アミドは、酸性ヒドロキシ基が、アミノ基、または置換アミノ基で置換されたオキソ酸の誘導体である。
【課題を解決するための手段】
【0031】
第1の態様において、本発明は、鉄または非鉄金属不動態の製品を活性化する方法であって、この活性化は、製品を第1の温度に加熱することと、窒素および炭素を含む少なくとも一つの化合物(以下、N/C化合物という)を、一つ又は複数のガス種を提供するために第2の温度に加熱することと、製品をガス種と接触させることとを含んでなる方法に関する。ここで、N/C化合物は、少なくとも4つの原子を含んでいる。この独創的な方法は、その後の浸炭、窒化または炭窒化による表面硬化に先だって製品を活性化するために用いられるのが好ましい。一般に、本発明の活性化の方法で使用されるN/C化合物は、一重、二重または三重の炭素−窒素結合を有する化合物の中から選択するのがよい。好ましくは、N/C化合物は、室温(25℃)および大気圧下(1bar)で、液体または固体である。これは、N/C化合物の取扱と、本発明の方法に用いられる加熱装置への導入を容易にする。本発明のN/C化合物は、少なくとも4つの原子を有するため、HCN等の毒性の高い化合物は除外されている。N/C化合物の加熱時には、HCNが、N/C化合物の分解生成物として放出されるおそれがある。しかし、これは、通常、炉のような閉鎖空間で起こり、このことは、本発明の方法が、HCNの外部処理が不要となったために、公知の活性化方法よりも安全であることを示している。
【0032】
加熱によりN/C化合物から放出されるガス種は、一般に、N/C化合物の分解生成物、又は、気体形のN/C化合物自体である。ガス種は、通常、拡散および/または対流ガスの輸送によって製品に運ばれ、製品と接触する。第1および第2の温度は、500℃よりも低いことが好ましい。この方法により、窒化物または炭化物の形成を防止することができる。これは特に、窒化物または炭化物が生成した場合に、腐食耐性を失う可能性があるステンレス鋼、および同様の合金に関して言うことができる。第1の温度と第2の温度は、同じであってもよい。
【0033】
製品は、ステンレス鋼、ニッケル合金、コバルト合金、チタン系材料、またはそれらの組み合わせからなっている。このような材料に対しては、従来技術においては、浸炭、窒化、または炭窒化することが不可能または困難である。本発明の活性化方法は、ステンレス鋼やチタン系材料のような、不動態化金属および自己不動態化金属の処理に使用できることがわかった。不動態化した材料とは、先行する製造プロセスの結果として(非意図的に)不動態化された材料である。自己不動態化材料とは、一般に、NとCを製品内部に取込むことを効果的に妨げる酸化物層を、表面上に形成することにより、自分自身を不動態化した材料である。不動態化する機能または酸化物層は、本発明の方法のN/C化合物から誘導されたガス種と接触する間に、効果的に取り除かれ、変化すると考えられる。このように、不動態化する機能または酸化物層が取り除かれると、すぐに窒化/浸炭/炭窒化による表面硬化に必要な、材料の内部への窒素と炭素の取込みが可能となる。
【0034】
好ましい実施形態によれば、第1の温度は、第2の温度よりも高い。具体的には、尿素をN/C化合物として用いた場合、N/C化合物を、加熱製品の第1の温度よりも低い第2の温度(好ましくは250℃未満)に加熱すれば、活性化が大幅に向上することが、驚くべきことに見出されている。理論に束縛されることなく、第2の温度がより低いことが、N/C化合物の加熱により発生するガス種の、より長い寿命に寄与すると考えられている。典型的には、N/C化合物の分解生成物である、N/C化合物由来のガス種は、実際の表面硬化処理に先だって、製品を活性化する。第1の温度と第2の温度の差は、好ましくは少なくとも50℃であり、より好ましくは少なくとも100℃である。
【0035】
本発明の他の実施形態によれば、製品とN/C化合物は、加熱装置中で加熱される。加熱装置は、るつぼ、炉または同様のものである。
【0036】
本発明の他の実施形態によれば、加熱装置は、第1の加熱ゾーンと第2の加熱ゾーンとを有し、製品を、第1の加熱ゾーンで第1の温度に加熱し、N/C化合物を、第2の加熱ゾーンで第2の温度に加熱し、第1の温度は、第2の温度よりも高くなっている。特に、N/C化合物として尿素を用いた場合には、N/C化合物と製品とを、同じ温度に加熱した場合と比べて、活性化が大幅に向上することが、驚くべきことに発見された。
【0037】
本発明の他の実施形態によれば、加熱装置は、加熱装置中にガスの通路を提供するためのガス導入口とガス排出口とを有する。理想的には、製品は、N/C化合物の下流に配置されている。このようにして、N/C化合物由来のガス種は、製品に接触させるために、製品へと運ばれる。ガスの通路は、水素、アルゴンおよび窒素のような、製品を酸化しない適切なキャリアガスを用いて設けられる。使用可能なキャリアガスは、処理する製品に非酸化的に作用する適宜のガスでよい。N/C化合物は、キャリアガス法により加熱装置に導入してもよい。また、N/C化合物由来のガス種は、ガス通路により加熱装置全体に分散させてもよい。これにより、炉全体へガス種が良好に分配されて、処理の均一性を向上させられると考えられる。
【0038】
本発明の他の実施形態によれば、N/C化合物を加熱装置に導入する前に、製品を第1の温度に加熱する。N/C化合物は、液体スプレーとして、またはキャリアガスを使用して固体粒子として、炉内に、連続的にまたは不連続的に供給してもよい。製品を、例えば400〜500℃に保持された炉内に設置する。続いて、気体、液体または固体状態で、1つまたは複数のN/C化合物を、炉内へ導入する。このことは、N/C化合物の急速で、ほとんど瞬間的な加熱をもたらす。理論に束縛されることなく、急速で、ほとんど瞬間的なN/C化合物の加熱が、N/C化合物由来のガス種の有益な組成物をもたらしうると考えられる。通常、生成したガス種は、製品を加熱するのに使用した温度と同じ温度では、短い寿命を有すると予測される。従って、第1および第2の温度が同じである実施形態、すなわち製品を加熱する温度とN/C化合物を加熱する温度の間に差異がない場合、N/C化合物は、できるだけ急速に加熱することが好ましい。
【0039】
N/C化合物由来のガス種の生成速度は、温度に依存するだけでなく、加熱装置内での、または連続的に、もしくは非連続的に加熱装置に導入されるN/C化合物のスプレー中での、キャリアガスの使用によっても変更しうる。
【0040】
本発明の好ましい実施形態によれば、N/C化合物はアミドである。前記アミドは、無金属であることが好ましい。
【0041】
本発明のより好ましい実施形態によれば、N/C化合物は、尿素、アセトアミド、およびホルムアミドから選択される。
【0042】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、N/C化合物は尿素である。尿素を用いて行った実験に基づき、尿素をN/C化合物として用い、特に135〜250℃に加熱した時に、特に活性なガス種が生成することが分かった。
【0043】
本発明は、不動態化した製品を、加熱した尿素などのN/C化合物由来のガス種に曝露する条件で、実施した実験に基づいている。ここで尿素は、加熱により部分的に分解されている。製品の不動態化した表面は、1つまたは複数のガス種の分解生成物により、非不動態化すると考えられる。活性な化合物は、フリーラジカル、および/またはCとNの両方を含む化合物、例えばHNCOまたはHCNであると、仮説的に考えられる。
【0044】
本発明の他の実施形態によれば、第1の温度は500℃よりも低い。製品のガス種との接触が、500℃以下の温度で実施される時、N/C化合物の分解の間も含めた反応時間は十分に減少し、より反応性の低い最終分解生成物の最終的な生成を遅らせると考えられる。
【0045】
本発明の他の実施形態によれば、第1の温度は250〜300℃である。具体的には、N/C化合物として尿素を使用した場合、これが、最良の活性化結果を得られる温度範囲であることがわかった。
【0046】
本発明の他の実施形態によれば、第2の温度は、250℃よりも低い。具体的には、N/C化合物として尿素を用いた場合、この比較的低温の方法は、最良の活性化結果を得ることが、驚くべきことに発見された。これにより、結果として生ずるガス種の性質、および組成物に関連すると考えられる。N/C化合物の加熱温度は、250℃未満であることが好ましく、さらに好ましくは、200℃未満であり、最も好ましいのは、135〜170℃である。
【0047】
本発明の他の実施形態によれば、製品を、少なくとも1時間ガス種と接触させている。不動態化した表面を、浸炭、窒化、または炭窒化環境に曝露する前に、十分な時間、好ましくは少なくとも1時間は、このような活性な化合物で処理することが重要である。
【0048】
本発明の活性化方法は、化学蒸着や物理的蒸着などによるコーティングと同様に、浸炭、窒化、および炭窒化以外の熱化学処理を含む、他の表面処理のための活性化処理としても用いることができる。さらに、本発明の方法は、浸炭、窒化、または炭窒化と、後続のコーティング、または硬化層の変換、または組み合わせた一連の処理における第一段階とすることもできる。
【0049】
本発明の他の局面では、浸炭、窒化、または炭窒化処理に先だって、本発明の方法により、製品が、活性化されていることを特徴とする、鉄または非鉄金属製品を浸炭、窒化または炭窒化する方法に関する。本発明の主要な利点は、本発明の活性化方法により、処理中に合金化元素が窒化物、または炭化物を形成しない温度で、あとに続く浸炭、窒化、または炭窒化を実施することができることを発見したことである。このことは、ステンレス鋼、ニッケル超合金、並びにコバルト合金の製品、および比較的多量の成分を含む他の製品の処理にも、本発明の方法を適用することができることを意味している。これらの製品を。高い温度で、長時間処理した場合、合金成分は耐腐食性などの、それにより固溶体固有の性質を失わせる、製品中の固溶体から取り出される窒化物や炭化物のような化合物を形成する傾向を有する。
【0050】
本発明の方法のさらに重要な特徴は、層または領域が、既存の材料の中へ成長する後続の処理を可能とすることである。化合物層が生成しない場合、後続の浸炭、窒化または炭窒化において、Nおよび/またはCは、既存の結晶格子の格子間位置に拡散する。このことは、硬化領域と、柔らかい出発物質との間に優れた結合を提供する。金属の性質が硬化領域の性質へ段階的に推移することは、特に本発明が炭窒化に先だって実施される場合において、本発明の方法により可能となる、重要な特徴である。
【0051】
最良の性能を得るには、段階的でそして急すぎない、非常に硬い部分を支持する支圧強度を増大させる遷移が必要である。これは、窒素下の炭素濃度分布と共に得られる。炭素の溶解度は、窒素の溶解性よりもかなり低く、炭素は、通常最深部に存在する。
【0052】
実験に基づいて、所望の段階的な遷移が、本発明の方法による活性化と、後続の、尿素または他のN/C化合物を用いた炭窒化により得られることが分かった。
【0053】
本発明の方法は、通常、表面に酸化物皮膜または層を形成する、自己不動態化金属の窒化または炭窒化に、特に適している、このような酸化皮膜は、材料が、周囲の液体や気体へ再溶解するのを阻害する。このように、自己不動態化金属の窒化、およびそれほどではないにせよ、炭窒化は、活性化および後続の窒化/炭窒化処理で、同一の化合物を用いた処理の基づく、従来技術の方法によっては、困難であるか、不可能であった。
【0054】
自己不動態化金属にとっての上記の状況は、例えば、切断後の前処理によって切削油を用いた切断後の局所的な不動態化や、ひどい表面変形のような前処理により不動態化した材料の場合にも、関連している。しかし、現在の洗浄方法では、完全には除去できない場合もある。材料の処理中に起こるこの種の不動態化は、通常は、処理後に除去される、しかし、現在の洗浄方法では、完全に取り除かれないこともある。局所的に不動態化した、このような材料の浸炭、窒化および炭窒化は、500℃よりも低い温度を用いる従来の方法では、均一な表面を得ることができない。しかし、より低い温度で開始する本発明の方法では、どのような不動態層も除去し、出発N/C化合物とその第一分解組成物中間体の作用により、表面よりの共雑物もまた除去される。このように、浸炭/窒化/炭窒化段階は、非処理領域を有することなく、より均一な表面処理がなされる。
【0055】
本発明の他の形態によれば、浸炭、窒化、または炭窒化と、先行する活性化は、1つの加熱装置中で連続して実施され、浸炭、窒化、または炭窒化は、第1の温度と同じくらい高い第3の温度に、製品を加熱することにより実施される。活性化は、最終的な浸炭、窒化または炭窒化温度、即ち第3の温度に加熱し続ける間に行われるのが有利である。第3の温度は、第1および第2の温度よりも高いのが好ましい。このように連続する浸炭、窒化、または炭窒化は、温度が上昇すると加速されるが、これは、浸炭、窒化、または炭窒化の反応速度論において主要な役割を果たし、N/Cの固体状態の拡散が、上昇した温度では加速されるためである。活性化が完了した後、製品の温度が第3の温度に上昇し、窒化/炭窒化/浸炭が行われるのが有利である。
【0056】
本発明の他の実施形態によれば、第3の温度は500℃よりも低い。本発明の活性化方法は、浸炭、窒化または炭窒化時に、このような比較的低温であってもよい。この方法は、総処理時間が従来技術の窒化および炭窒化方法と比較して、短くなり、かつ、処理された製品にとって技術的特徴の優れた組み合わせがもたらされる。
【0057】
窒化物、炭化物、または炭窒化物をからなる化合物層の形成が所望される材料の処理のためには、材料が、低温での活性化の第1段階において、予め十分に非不動態化されている場合には、窒化/炭窒化段階の最終温度は、500℃を超えてもよい。
【0058】
他の実施形態によれば、活性化と、後続の浸炭、窒化または炭窒化との両方に、同一のN/C化合物を使用する。例えば、尿素は、不動態製品と一緒に加熱装置中においてもよく、すぐに、製品の活性化のために、尿素を100〜200℃に加熱し、製品を250〜300℃にする。活性化が完了した後、炭窒化試薬として尿素を使用する、表面硬化のために、製品を450〜500℃に加熱する。この場合、窒化または炭窒化を行う実際の化合物は、(部分的に)分解されていると考えられる。いずれにせよ、同一の出発物質を、活性化と、後続の窒化、または炭窒化を含む全ての処理の間、使用することができる。同じ炉と、同じ装置と、同じ化合物を用い、温度だけが経時的に変化するため、全ての処理は、低価格で単純な方法で行われる。
【0059】
他の実施形態においては、処理する製品と固体の尿素粉末を、いずれも室温で炉に投入し、例えば、水素、等のキャリアガスが放出したガス種を、炉全体に分散している間に、炉を、最終温度である400〜500℃に、継続的に加熱する。第1の加熱部分で、尿素粉末は蒸発し、続いて段階的に、製品の表面を活性化(非不動態化)するガス中間体への分解が起こる。その後、温度が上昇すると、ガス中間体は、活性化表面の最終的な窒化、および/または炭窒化を提供する分解組成物へと、さらに分解される。このようなさらなる分解は、温度が500℃を超えたとき、加速される。
【0060】
他の実施形態によれば、処理する製品を炉中に置き、350〜500℃に保持して、ホルムアミド等のC/N化合物を、キャリアガスまたはドーザーにより炉内に導入する。液体型のホルムアミドは、電子注入器または加圧注入システムにより、炉に投入する。液体が、高温の炉内に入ると、急速に蒸発し、製品を活性化するガス種を生成する。製品を活性化した後、同一のガス混合物、または異なるガス混合物中で炭窒化が実施される。ホルムアミドの場合、活性化および炭窒化の主要な活性種は、HCNである。
【0061】
他の実施形態によれば、後続の浸炭、窒化又は炭窒化による表面硬化は、製品の活性化に用いたN/C化合物を用いては実施されない。このように、浸炭、窒化または炭窒化に使用可能であることが知られている、どのような窒素、および/または炭素を含む材料でも、活性化後に使用することができる。処理する実際の製品、および所望の最終性質によって、この実施形態をさらに変更させることができる。
【0062】
さらに、本発明は、本発明による浸炭、窒化、または炭窒化方法によって得られる鉄または非鉄金属製品にも関する。本発明の方法により活性化され、浸炭、窒化または炭窒化によって得られる製品の重要な特徴は、硬度が高くなり、特に硬度プロファイルが高くなることである。化学修飾は、機械的性質を局所的に変化させ、従って、材料全体の性能を変化させる。組成物プロファイルは、硬度プロファイルと残留圧縮応力プロファイルの何れをも導いている。硬度プロファイルは、摺動特性(即ち、摩擦、潤滑および摩耗)を高め、適切な残留圧縮応力プロファイルは疲労強度を改善する。
【0063】
本発明を、実施例および図面に基づいて、さらに詳しく説明する。しかし、各実施例は、好ましい実施形態を説明するためのものにすぎず、また、本発明範囲内における様々な変更や修正は、当業者であれば、本明細書に基づいて行いうることは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施例1における、活性化後、アルゴン中で、尿素を用いて炭窒化したオーステナイト系ステンレス鋼製品の断面の顕微鏡写真である。
【図2a】実施例2における、活性化後、水素中で、尿素を用いて炭窒化したオーステナイト系ステンレス鋼製品の断面の顕微鏡写真である。
【図2b】図2aと同じ製品の、グロー放電発光分光分析(GDOES)デプスプロファイルである。
【図3】実施例3における、活性化後、水素中で、尿素を用いて炭窒化したマルテンサイト系ステンレス鋼製品の断面の顕微鏡写真である。
【図4a】実施例4における、活性化後、水素中で、尿素を用いて炭窒化したマルテンサイト系ステンレス鋼製品の断面の顕微鏡写真である。
【図4b】図4aと同じおける、グロー放電発光分光分析(GDOES)デプスプロファイルである。
【図5】実施例5における、活性化後、水素中で、尿素を用いて炭窒化した析出硬化型ステンレス鋼製品の断面の顕微鏡写真である。
【図6】実施例6における、活性化後、水素中で、尿素を用いて炭窒化したチタン製品の断面の顕微鏡写真である。
【図7】実施例7における、活性化後、尿素を用いて炭窒化したAISI 316オーステナイト系ステンレス鋼製品の断面の顕微鏡写真である。
【図8】実施例8における、活性化後、ホルムアミドを用いて炭窒化したAISI 316オーステナイト系ステンレス鋼製品の断面の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0065】
[実施例1]
純粋尿素ガスおよび不活性アルゴンキャリアガス中の炭窒化:オーステナイト系ステンレス鋼AISI 316
オーステナイト系ステンレス鋼AISI 316製品を、管状炉内で、アルゴンガスの導入と当初固体の尿素により、室温から440℃まで45分以内で加熱して、炭窒化した。当初固体の尿素は、管状炉の注入口に配置した。440℃に到達すると、製品をアルゴンガス(Ar)中、10分以内で、製品を室温に冷却した。硬化領域の総厚さは約10μmであった。
【0066】
図1は、厚さ10μmの拡張オーステナイト層を示す断面顕微鏡写真である。拡張オーステナイト層の最も外側の層は、窒素拡張オーステナイトであり、最も内側の層は、炭素拡張オーステナイトである。処理の実施が、ガスによるものか、プラズマ支援の処理によるものかどうかにかかわらず、この温度と、このような短時間と、この大きな厚さでの、明確に定義された拡張オーステナイト層の形成に関する、オーステナイト系ステンレス鋼の窒化/炭窒化(または浸炭)における公知の従来知識では、匹敵するものがないため、従来のオーステナイト系ステンレス鋼の窒化/炭窒化(または浸炭)処理における、公知の従来知識では匹敵するものがないため、この結果は非常に驚くべきことである。
【0067】
[実施例2]
尿素ガスおよび水素ガス中の炭窒化:オーステナイト系ステンレス鋼AISI 316
オーステナイト系ステンレス鋼AISI 316の製品を、管状炉中、当初は固体の尿素を介して水素ガスを導入することにより、45分以内で室温から490℃に加熱して、炭窒化した。当初固体の尿素は、管状炉の注入口に配置した。490℃に到達した時、製品を、アルゴンガス(Ar)中、10分以内で室温まで冷却した。硬化領域の総厚さは約22μmである。表面の微小硬度は、1500 HV(負荷25gで測定時)であった。未処理のステンレス鋼の硬度は、200〜300 HVであった。
【0068】
図2aおよび図2bは、それぞれ、断面顕微鏡写真およびグロー放電発光分光分析(GDOES)のデプスプロファイルであり、最も外側の層は、窒素拡張オーステナイトであり、最も内側の層は、炭素拡張オーステナイトであることを示している。
【0069】
この例は、処理の実施がガスによるものかプラズマ支援の処理によるものかどうかにかかわらず、この温度でも、このような短時間でもなく、この厚さの明確に定義された拡張オーステナイト層の形成に関する、オーステナイト系ステンレス鋼の窒化/炭窒化(浸炭)における公知の従来知識に対して、非常に驚くべき結果を示した。この厚さは、通常、450℃よりも低い温度で、20時間よりも長い時間処理することで達成される。
【0070】
[実施例3]
尿素ガスおよび水素ガス中の窒化:マルテンサイト系ステンレス鋼 AISI 420
マルテンサイト系ステンレス鋼 AISI 420の製品を、管状炉中,当初は固体の尿素を介して水素ガスを導入することにより、45分間で、室温から470℃に加熱して、炭窒化した。当初固体の尿素は、管状炉の注入口に配置した。470℃に到達した後、製品を、アルゴンガス(Ar)中、10分以内で室温まで冷却した。硬化領域の厚さは、約30μmである。層は、X線回折で同定した通り、窒素拡張マルテンサイトであった。表面の微小硬度は、1800 HVよりも大きかった(負荷5gで測定時)。未処理のステンレス鋼の硬度は、400〜500 HVであった。
【0071】
図3は、製品の断面顕微鏡写真であり、拡張マルテンサイトの硬化領域を示している。
【0072】
この例でも、処理がガスにより実施されたか、プラズマ支援処理が実施されたかにかかわらず、この温度と、このような短時間での、マルテンサイト系ステンレス鋼上での、この大きな厚さの明確に定義された層の形成に関する、ステンレス鋼の窒化/炭窒化(および浸炭)についての公知の従来知識を考慮すれば、非常に驚くべき結果を示していることが分かる。
【0073】
[実施例4]
尿素と水素ガス中の窒化:マルテンサイト系ステンレス鋼 AISI 431
マルテンサイト系ステンレス鋼 AISI 431 の製品を、管状炉中、当初は固体の尿素を介して水素ガスを導入することにより、45分間で、室温から470℃に加熱して、炭窒化した。当初固体の尿素は、管状炉の注入口に配置した。470℃に到達した後、製品を、アルゴンガス(Ar)中、10分以内で室温まで冷却した。硬化領域の厚さは、約25μmである。
【0074】
図4aおよび図4bは、それぞれ、断面顕微鏡写真、およびGDOESのデプスプロファイルであり、層は主に窒素拡張マルテンサイトであり、炭素拡張マルテンサイトはほとんどなかった事を示している。この結果は、処理の実施が、ガスによるものか、プラズマ支援の処理によるものかどうかにかかわらず、この温度で、このような短い時間での、この大きな厚さの明確に定義されたマルテンサイト系ステンレス鋼上の層の形成に関する、ステンレス鋼の窒化/炭窒化(および浸炭)に関する従来の知識では、匹敵するものがないため、この結果は非常に驚くべきことである。
【0075】
[実施例5]
尿素ガスと水素ガスの炭窒化:析出硬化(PH)ステンレス鋼
析出硬化系ステンレス鋼(ウッデホルム社Corrax(登録商標))の製品を、管状炉中、当初は固体の尿素を介して水素ガスを導入することにより、45分間で、室温から450℃に加熱して、炭窒化した。当初固体の尿素は、管状炉の注入口に配置。450℃に到達した後、製品を、アルゴンガス(Ar)中、10分以内で室温まで冷却した。硬化領域の厚さは、約20μmである。
【0076】
図5は、断面顕微鏡写真であり、拡張マルテンサイト/オーステナイトの硬化領域だけでなく、相当な硬度の増加を示す(くぼみが小さいほど、硬度が高い)、いくつかの硬度のくぼみを示している。この結果は、短期処理の実施が、ガスによるものか、プラズマ支援の処理によるものか否かにかかわらず、このような短い時間で、この温度で、鋼を硬化する析出物上の、このような大きな厚みの明確に定義された層の形成に関する、ステンレス鋼の窒化/炭窒化(および浸炭)に関する公知の従来知識では、匹敵するものがないため、この結果は、非常に驚くべきことである。
【0077】
[実施例6]
尿素ガスおよび水素ガス中の炭窒化:チタン
チタン(非鉄自己不動態化金属)の製品を、管状炉中、当初は固体の尿素を介して水素ガスを導入することにより、45分間で、室温から連続して580℃に加熱し、炭窒化した。当初固体の尿素は、管状炉の注入口に配置した。580℃に到達した後、製品を、アルゴンガス(Ar)中、10分以内で室温まで冷却した。表面の微小硬度は1100 HV(負荷5g)よりも高い。未処理のチタンは200〜300 HVの硬度を有する。この例は、500℃よりも低い温度で第1に活性化される時、典型的な自己不動態化金属の炭窒化の可能性を示している。脱不動態化は250℃よりも低い温度でおこる一方、炭窒化は450〜470℃で始まると仮定すれば、実施例6では、非常に短いが、効果的な炭窒化処理が行われ、明らかに活動期の非不動態化を含んでいる。
【0078】
図6は、Ti中の窒素/炭素の固溶体を特徴とする、影響を受けた表面領域を示す断面の顕微鏡写真である。
【0079】
[実施例7]
純粋な尿素並びに不活性アルゴンキャリアガスを用いた活性化、および後続する純粋な尿素と不活性アルゴンキャリアガス用いた炭窒化:オーステナイト系ステンレス鋼 AISI 316
2つの異なる加熱ゾーンを持つ管状炉を使用した。すなわち、2つのゾーンは、2つの異なる温度で維持することが可能であった。不活性アルゴンガスは、制御可能なガス流量計による炉に導入された。当初は固体の尿素を、炉の入口の加熱ゾーンに配置し、AISI 316の製品を、第二の加熱ゾーンに配置した。管状炉は、純粋アルゴンガスでフラッシュし、固体尿素を150℃に加熱した。この温度では、尿素は液体である。そして、同時に製品を300℃に加熱した。使用いた昇温速度は、20K/分であった。実験の間中、尿素溶液を、150℃で保持した。この温度領域におけるガスの分解生成物は、HNCOを含んでいるとと考えられている。液体尿素からのガスの分解生成物は、不活性なArキャリアガスにより、下流の処理される製品に運んだ。製品は、表面を活性化するため、5時間、300℃に保持した。活性化時間後、製品を、炭窒化温である400℃に加熱した。製品を、12時間、炭窒化温度に保ち、液体尿素からの脱ガス生成物中で炭窒化した。室温までの冷却は、アルゴンガス(Ar)中、10分足らずで実施した。製品を、光学顕微鏡で分析した。全層厚は15μmであった。最外層は、窒素拡張オーステナイトであり、最も内側の層は炭素拡張オーステナイトであった。
【0080】
図7は、上記の通り、活性化した後に尿素を用いて炭窒化して得られたオーステナイト系ステンレス鋼 AISI 316の製品の断面顕微鏡写真である。
【0081】
[実施例8]
ホルムアミドおよび不活性窒素キャリアガスを用いた、活性化および後続する炭窒化:オーステナイト系ステンレス鋼AISI 316
ガス炭窒化は、ガス流量を正確に制御するためのガスフローメータと、ホルムアミド流量を正確に制御するための液体フローメータとを装備した管状炉で行った。管状炉は、純粋窒素(N2)ガスでフラッシュし、処理するAISI 316製品は、460℃の温度まで、20K/分の昇温速度で加熱した。窒化温度に到達した後、液体のホルムアミドを、プローブにより管状炉のホットゾーンに直接導入し、そこですぐに蒸発させた。製品を、16時間炭窒化温度に保ち、純粋なホルムアミドガス/その分解生成物および不活性窒素ガス中で炭窒化した。室温まで冷却は、窒素ガス中で10分足らずで行った。製品を、光学顕微鏡で分析した。全体の層厚は35μmであった。最も外側の層は、窒素拡張オーステナイトであり、最も内側の層は、炭素拡張オーステナイトであった。
【0082】
図8は、上記の通り活性化し、続いてホルムアミドを用いて炭窒化した結果得られたAISI 316オーステナイト系ステンレス鋼製品の断面顕微鏡写真である。
【0083】
本明細書は、本発明を多くの方法に変えて実施しうることを示している。このような変更は、本発明の範囲から逸脱するものではなく、当業者に明らかであるすべての修正もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄または非鉄金属不動態の製品を活性化する方法であって、
−製品を第1の温度に加熱すること、
−少なくとも一つの窒素および炭素を含有する化合物(以下、N/C化合物という)を1つまたは2つのガス種を生成するために、第2の温度に加熱すること、および
−製品にガス種を接触させることを
含み、
N/C化合物は、少なくとも4以上の原子を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第1の温度は、前記第2の温度よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記製品と前記N/C化合物とを、加熱装置中で加熱することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
加熱装置は、加熱装置は第1の加熱ゾーンと第2の加熱ゾーンとを有し、製品を第1の加熱ゾーンで第1の温度に加熱し、N/C化合物を第2の加熱ゾーンで第2の温度に加熱し、第1の温度は、第2の温度より高いことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記加熱装置は、加熱装置全体にガスの通路を提供するための、ガス導入口とガス排出口とを有することを特徴とする請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記N/C化合物を加熱装置に導入する前に、製品を第1の温度に加熱することを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記N/C化合物は、アミドであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記N/C化合物は、尿素、アセトアミド、およびホルムアミドのいずれかから選択されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記N/C化合物は、尿素であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法
【請求項10】
前記第1の温度は、500℃未満であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の温度は、250〜350℃であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記第2の温度は、250℃未満であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記第2の温度は、135〜170℃であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記製品は、少なくとも1時間ガス種と接触することを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
鉄または非鉄金属不動態製品を、浸炭、窒化、または炭窒化する方法であって、前記製品は、浸炭、窒化、または炭窒化に先立って請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法で活性化されることを特徴とする方法。
【請求項16】
浸炭、窒化、または炭窒化、および先行する活性化処理を、一つの加熱装置内で連続して実施し、第1の温度と同じくらい高い第3の温度に加熱することにより、浸炭、窒化、または炭窒化を実施することを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第3の温度は500℃よりも低いことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
活性化と後続する浸炭、窒化または炭窒化との両方に、同一のN/C化合物を使用することを特徴とする、請求項15〜17のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−533687(P2012−533687A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520909(P2012−520909)
【出願日】平成22年7月19日(2010.7.19)
【国際出願番号】PCT/DK2010/050194
【国際公開番号】WO2011/009463
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(512015921)エクスパナイト アクティーゼルスカブ (1)
【Fターム(参考)】