説明

浸透促進型貯留施設

【課題】貯留した雨水の地中への浸透能力の向上及び貯留能力の早期回復が可能な浸透促進型貯留施設を提供する。
【解決手段】表土層2中に配置され、初期処理槽6から溢れ出た雨水が流入する高水位維持槽8と、高水位維持槽8から溢れ出た雨水が流入する貯留槽10を備えた浸透促進型貯留施設1において、浸透促進型貯留施設1より下方の不透水層36aの下部に存在する砂礫層34と高水位維持槽8とを連通する浸透手段28と、貯留槽10内の水位が高水位維持槽8内の水位よりも高いときに、貯留槽10から高水位維持槽8への雨水の移動を許容する貯留槽側移動許容手段42を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、地上から流下した雨水等の液体を貯留し、この貯留した液体を地中に浸透及び下水管へ流出させる浸透促進型貯留施設に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、都市部等では、降雨強度の大きな豪雨が生じた場合等に、大量の雨水によって生じる浸水被害を低減するための施設として、下水道管網に雨水を排水する排水システムが整備されている。
また、例えば、下水道管網の排水能力を超える豪雨に対しては、一般的に、豪雨時に降った大量の雨水のうち、排水能力を超えた雨水を地中に設けられた貯留施設に貯留する貯留浸透施設がある。
【0003】
このような構成の貯留浸透施設は、例えば、流域の各戸や道路の側溝等に、浸透枡や貯留浸透枡を配置して構成されており、この浸透枡や貯留浸透枡によって、雨水に対する流出抑制対策が講じられている。
しかしながら、例えば、図10に示すように、周囲を高台に囲まれた低地や窪地等、急峻な地形を有する地形では、計画通りに雨水を取水し、下水道管網に排水することが困難である。このため、他の部分よりも低い地域に雨水が溜まって浸水を惹起するおそれがあり、このような地形的に不利な地域が、浸水の常襲地帯となっている。なお、図10は、都市における浸水現象の一形態を示す図である。
【0004】
したがって、窪地等、他の部分よりも低い地域に対してスポット的な対策を講ずることが、大量の雨水に対する浸水対策として効果的であると考えられるが、一般的な流出抑制対策の手法である貯留対策は、都市域の敷地制約上、小規模な施設しか設置することができない場合が多い。このため、必要な規模を満足することが困難であるという問題が生じるおそれがある。
【0005】
このような問題を解決するために、例えば、特許文献1に記載されているように、地上から流下した雨水を、地中に設けられた貯留施設に貯留するとともに、地中に浸透させる貯留浸透施設が提案されている。
【特許文献1】特開2006−322148号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1に記載されている貯留浸透施設を含め、従来の貯留浸透施設では、地表面付近における浸透処理を考慮して構成されているため、降雨時に地表面付近の土壌が飽和した場合には、十分な浸透能力が得られないという問題が生じるおそれがある。また、地表面付近の土壌において、表土層の地下水位が上昇した場合には、雨水の浸透に必要な十分な水位差が得られず、十分な浸透能力が得られないという問題が生じるおそれがある。
【0007】
また、連続して発生する豪雨等、比較的短時間に、降雨強度のピークが複数回あるような降雨状態では、1降雨目で貯留した雨水の地表面付近への浸透、あるいは下水道管網への排水に時間を要するため、貯留能力が回復していない状態で、次のピークが発生した場合、貯留施設として十分な機能を発揮することが困難である。
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたもので、貯留した雨水の地中への浸透能力を向上させるとともに、貯留能力の早期回復が可能な浸透促進型貯留施設を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のうち、請求項1に記載した発明は、地中に配置され、地上から流下した液体を貯留し地中に浸透及び下水管へ流出させる浸透促進型貯留施設であって、
地上から流下した液体を貯留可能であるとともに前記下水管と連通する初期処理槽と、前記初期処理槽から溢れ出た液体が流入する高水位維持槽と、前記高水位維持槽から溢れ出た液体が流入する貯留槽と、前記高水位維持槽内の液体を、浸透促進型貯留施設より下方の不透水層の下部に存在する透水層に流す浸透手段と、を備えることを特徴とするものである。
【0009】
本発明によると、浸透手段によって、高水位維持槽内の液体を、浸透促進型貯留施設より下方の不透水層の下部に存在する透水層に流すことが可能となるため、初期処理槽から溢れ出て高水位維持槽へ流入した液体を、高水位維持槽から透水層へ降下させて浸透させることが可能となる。
このため、初期処理槽から溢れ出て高水位維持槽へ流入した液体を、高水位維持槽から降下させて透水層へ浸透させることが可能となり、浸透促進型貯留施設の浸透処理能力を向上させることが可能となるとともに、貯留能力の早期回復が可能となる。
【0010】
また、本発明によると、浸透促進型貯留施設が、初期処理槽から溢れ出た液体が流入する高水位維持槽と、高水位維持槽から溢れ出た液体が流入する貯留槽を備えている。
このため、浸透促進型貯留施設が配置される空間において、貯留槽の容積を増加させる、すなわち、高水位維持槽の容積を減少させることにより、初期処理槽から流入した液体を、高水位維持槽において短時間で高水位とすることが可能となり、高水位維持槽における液体の水位と、透水層の地下水位との水位差を、高水位に維持することが可能となる。
【0011】
なお、高水位維持槽の容積は、例えば、高水位維持槽から降下した液体が浸透する透水層の透水性(液体の通り易さ)や、地上から流下すると予測される液体の量等、浸透促進型貯留施設が設置される場所の現場条件に応じて、透水層中に浸透させる液体の量を算出し、この量に応じた規模(個数等)の浸透手段を設置可能な最小の容積とすることが好適である。
また、本発明によると、高水位維持槽から降下した液体が浸透する透水層が、浸透促進型貯留施設より下方の不透水層の下部に存在するため、この透水層の地下水位が、降雨の影響で即座に上昇することが抑制され、高水位維持槽における液体の水位と、透水層の地下水位との水位差を、高水位に維持することが可能となる。
【0012】
次に、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した発明であって、前記浸透手段は、前記高水位維持槽と前記透水層とを連通する中空部材であることを特徴とするものである。
本発明によると、浸透手段が、高水位維持槽と透水層とを連通する中空部材であるため、初期処理槽から溢れ出て高水位維持槽へ流入した液体が、中空部材の内部を移動して、高水位維持槽から透水性の地層へ降下して浸透する。
このため、高水位維持槽内の液体を浸透させる浸透先として好適な、透水性の大きな透水層に、高水位維持槽内の液体を、直接流すことが可能となる。
【0013】
次に、請求項3に記載した発明は、請求項1または2に記載した発明であって、前記貯留槽から前記高水位維持槽への液体の移動を許容し、且つ前記高水位維持槽から前記貯留槽への液体の移動を規制する貯留槽側移動許容手段を備え、
前記貯留槽側移動許容手段は、前記貯留槽内の水位が前記高水位維持槽内の水位よりも高いときに、前記貯留槽から前記高水位維持槽への液体の移動を許容することを特徴とするものである。
本発明によると、貯留槽内に液体が存在しているとともに、高水位維持槽内の液体の水位が低下して、貯留槽内の水位が高水位維持槽内の水位よりも高いときに、貯留槽内の液体が高水位維持槽へ移動する。
【0014】
このため、高水位維持槽内の液体が透水層へ降下し、高水位維持槽内の水位が低下しても、高水位維持槽における液体の水位が、短時間のうちに高水位となる。そして、高水位に維持された状態で、高水位維持槽内の液体を、効率的に高水位維持槽から透水性の地層へ降下させることが可能となるため、浸透促進型貯留施設の浸透処理能力を向上させることが可能となる。
また、本発明によると、貯留槽と高水位維持槽との水位の状態に応じて、貯留槽内の液体を自動的に高水位維持槽へ移動させることが可能となり、貯留槽内の液体を、効率的に高水位維持槽へ移動させることが可能となる。
【0015】
次に、請求項4に記載した発明は、請求項1から3のうちいずれか1項に記載した発明であって、前記高水位維持槽から前記初期処理槽への液体の移動を許容し、且つ前記初期処理槽から前記高水位維持槽への液体の移動を規制する高水位維持槽側移動許容手段を備え、
前記高水位維持槽側移動許容手段は、前記高水位維持槽内の水位が前記初期処理槽内の水位よりも高いときに、前記高水位維持槽から前記初期処理槽への液体の移動を許容することを特徴とするものである。
本発明によると、高水位維持槽内に液体が存在しているとともに、高水位維持槽内の水位が初期処理槽内の水位よりも高いときに、高水位維持槽内の液体が下水管へ移動する。
このため、高水位維持槽と初期処理槽との水位の状態に応じて、高水位維持槽内の液体を自動的に初期処理槽へ移動させることが可能となり、高水位維持槽内の液体を、効率的に初期処理槽へ移動させることが可能となる。
【0016】
次に、請求項5に記載した発明は、請求項1から4のうちいずれか1項に記載した発明であって、前記初期処理槽、前記高水位維持槽及び前記貯留槽のうち少なくとも一つは、底部のうち少なくとも一部に、前記槽内の液体を前記浸透促進型貯留施設が配置される透水層中に浸透可能な浸透部を有していることを特徴とするものである。
本発明によると、初期処理槽、高水位維持槽及び貯留槽のうち少なくとも一つが、底部のうち少なくとも一部に、槽内の液体を、浸透促進型貯留施設が配置される透水層中に浸透可能な浸透部を有している。
このため、槽内の液体を、効率的に透水層中へ浸透させることが可能となるとともに、浸透促進型貯留施設の貯留能力を、短時間で回復させることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高水位維持槽内の液体を、浸透促進型貯留施設より下方の不透水層の下部に存在する透水層へ降下させて浸透させることが可能となるため、貯留した液体の地中への浸透能力を向上させることが可能となるとともに、貯留能力の早期回復が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
まず、図1及び図2を参照して本実施形態の構成を説明する。
図1は本実施形態の浸透促進型貯留施設1の構成の概念を示す図である。
図1に示すように、本実施形態の浸透促進型貯留施設1は、地中(具体的には透水性の地層である表土層2中)に配置されており、泥溜め枡4と、初期処理槽6と、高水位維持槽8と、貯留槽10を備えている。
【0019】
泥溜め枡4は、例えば、地表面(路面等)に形成されたグレーチング12の下方に配置されて、地上から液体が流下する位置に配置されている。
また、泥溜め枡4は、泥溜め枡4と初期処理槽6とを区分する泥溜め枡側隔壁14を備えている。泥溜め枡側隔壁14の泥溜め枡4の底面からの高さは、地上から流下した液体、特に、降雨初期に路面等を流れてくる流出水中に含まれている、地表面に堆積している泥、有機物、重金属等の汚濁物質の、泥溜め枡4内への貯留量に応じた高さに設定されている。
【0020】
初期処理槽6は、泥溜め枡4から溢れ出た液体、具体的には、泥溜め枡4内から、泥溜め枡側隔壁14の上端部を越えて、初期処理槽6側へ移動した液体が、その内部へ流入する位置に配置されている。初期処理槽6の底面は、泥溜め枡4の底面よりも低くなっている。
また、初期処理槽6は、初期処理槽側隔壁16と、初期処理槽側移動許容手段18を備えている。
初期処理槽側隔壁16は、泥溜め枡側隔壁14の下方に配置されており、泥溜め枡側隔壁14と連続して形成されている。また、初期処理槽側隔壁16は、図外の下水道管網に連通する下水管20と初期処理槽6とを区分しており、その下端には、初期処理槽6と下水管20とを連通する初期処理槽側連通孔22が形成されている。下水管20は、表土層2中において、泥溜め枡4の底面よりも下方に配置されている。
【0021】
初期処理槽側移動許容手段18は、初期処理槽側隔壁16のうち、初期処理槽側連通孔22の上端付近に取り付けられて、初期処理槽側隔壁16の下端に配置されている。なお、本実施形態では、一例として、初期処理槽側移動許容手段18を、一方向にのみ開閉するフラップ弁によって形成した場合を説明する。
また、初期処理槽側移動許容手段18は、初期処理槽6内の水圧が下水管20内の水圧を超えている状態で、初期処理槽側連通孔22を開放した状態となり、初期処理槽6と下水管20とを連通させて、初期処理槽6から下水管20への液体の移動を許容する構成となっている。
【0022】
一方、初期処理槽側移動許容手段18は、下水道管網の排水能力が低下している状態等、初期処理槽6内の水圧が下水管20内の水圧を超えていない状態で、初期処理槽側連通孔22を閉塞した状態となり、下水管20から初期処理槽6への液体の移動を規制して、初期処理槽6から下水管20への液体の流出を防止する構成となっている。
初期処理槽6から下水管20への液体の流出が防止されている状態では、泥溜め枡4から溢れ出た液体が、初期処理槽6へ貯留される。
【0023】
高水位維持槽8は、初期処理槽6から溢れ出た液体、具体的には、初期処理槽6内から、後述する高水位維持槽側隔壁24の上端部を越えて高水位維持槽8側へ移動した液体が、その内部へ流入する位置に配置されている。
高水位維持槽8の容積は、後述する砂礫層34の透水性(液体の通り易さ)や、地上から流下すると予測される液体の量等、浸透促進型貯留施設1が設置される場所の現場条件に応じて、砂礫層34中に浸透させる液体の量を算出し、この量に応じた規模(個数等)の後述する浸透手段28を、設置可能な最小の容積に設定されている。高水位維持槽8の底面は、初期処理槽6の底面よりも高くなっている。
【0024】
また、高水位維持槽8は、高水位維持槽側隔壁24と、高水位維持槽側移動許容手段26と、浸透手段28を備えている。
高水位維持槽側隔壁24は、初期処理槽6と高水位維持槽8とを区分しており、その下端には、高水位維持槽8と初期処理槽6とを連通する高水位維持槽側連通孔30が形成されている。すなわち、高水位維持槽側連通孔30は、初期処理槽側連通孔22よりも高い位置に配置されている。
【0025】
高水位維持槽側隔壁24の初期処理槽6の底面からの高さは、泥溜め枡側隔壁14の初期処理槽6の底面からの高さよりも低くなっている。
高水位維持槽側移動許容手段26は、高水位維持槽側隔壁24のうち、高水位維持槽側連通孔30の上端付近に取り付けられて、高水位維持槽側隔壁24の下端に配置されている。なお、本実施形態では、初期処理槽側移動許容手段18と同様に、一例として、高水位維持槽側移動許容手段26を、一方向にのみ開閉するフラップ弁によって形成した場合を説明する。
【0026】
また、高水位維持槽側移動許容手段26は、高水位維持槽8内の水位が初期処理槽6内の水位よりも高いときに、高水位維持槽側連通孔30を開放した状態となり、高水位維持槽8と初期処理槽6とを連通させて、高水位維持槽8から初期処理槽6への液体の移動を許容する構成となっている。
一方、高水位維持槽側移動許容手段26は、高水位維持槽8内の水位が初期処理槽6内の水位以下であるときに、高水位維持槽側連通孔30を閉塞した状態となり、初期処理槽6から高水位維持槽8への液体の移動を規制して、高水位維持槽8から初期処理槽6への液体の流出を防止する構成となっている。
【0027】
高水位維持槽8から初期処理槽6への液体の流出が防止されている状態では、初期処理槽6から溢れ出た液体が、高水位維持槽8へ貯留される。
浸透手段28は、鋼管等の中空部材によって形成されており、軸を上下方向へ向けて配置されている。
浸透手段28の両端部のうち上方に配置される端部は、高水位維持槽8の底面を貫通して、高水位維持槽8内に配置されている。浸透手段28のうち高水位維持槽8内に配置されている部分の上端には、上方へ開口する開口部32が形成されている。
【0028】
浸透手段28の両端部のうち下方に配置される端部は、砂礫層34を貫通して、砂礫層34よりも下方に存在する粘土層等の不透水層36に達している。浸透手段28のうち砂礫層34内に配置されている部分には、浸透手段28の壁面を貫通する貫通孔によって形成された、複数の浸透孔38が形成されている。
したがって、浸透手段28は、砂礫層34と高水位維持槽8とを連通しており、高水位維持槽8内の液体を、浸透促進型貯留施設1より下方の不透水層36の下部に存在する砂礫層34に流す機能を有している。なお、図1中に示した実線の矢印は、浸透手段28内の液体が砂礫層34に浸透する際の経路を示している。
【0029】
なお、砂礫層34は、浸透促進型貯留施設1が配置されている表土層2より下方の不透水層36よりも、下部に存在している透水性の地層である。また、図1中では、説明のために、砂礫層34の上方に存在する不透水層36を、不透水層36aとして表し、砂礫層34の下方に存在する不透水層36を、不透水層36bとして表している。
貯留槽10は、高水位維持槽8よりも容積が大きく、高水位維持槽8から溢れ出た液体、具体的には、高水位維持槽8内から、後述する貯留槽側隔壁40の上端部を越えて貯留槽10側へ移動した液体が、その内部へ流入する位置に配置されている。貯留槽10の底面は、高水位維持槽8の底面と同じ高さとなっている。
【0030】
また、貯留槽10は、貯留槽側隔壁40と、貯留槽側移動許容手段42を備えている。
貯留槽側隔壁40は、高水位維持槽8と貯留槽10とを区分しており、その下端には、高水位維持槽8と貯留槽10とを連通する貯留槽側連通孔44が形成されている。すなわち、貯留槽側連通孔44は、高水位維持槽側連通孔30と同じ高さに配置されている。
貯留槽側隔壁40の高水位維持槽8の底面からの高さは、高水位維持槽側隔壁24の高水位維持槽8の底面からの高さよりも低くなっている。
【0031】
貯留槽側移動許容手段42は、貯留槽側隔壁40のうち、貯留槽側連通孔44の上端付近に取り付けられて、貯留槽側隔壁40の下端に配置されている。なお、本実施形態では、初期処理槽側移動許容手段18と同様に、一例として、貯留槽側移動許容手段42を、一方向にのみ開閉するフラップ弁によって形成した場合を説明する。
また、貯留槽側移動許容手段42は、貯留槽10内の水位が高水位維持槽8内の水位よりも高いときに、貯留槽側連通孔44を開放した状態となり、高水位維持槽8と貯留槽10とを連通させて、貯留槽10から高水位維持槽8への液体の移動を許容する構成となっている。
【0032】
一方、貯留槽側移動許容手段42は、貯留槽10内の水位が高水位維持槽8内の水位以下のときに、貯留槽側連通孔44を閉塞した状態となり、高水位維持槽8から貯留槽10への液体の移動を規制して、貯留槽10から高水位維持槽8への液体の流出を防止する構成となっている。
貯留槽10から高水位維持槽8への液体の流出が防止されている状態では、高水位維持槽8から溢れ出た液体が、貯留槽10へ貯留される。
【0033】
図2は、図1中に枠IIで囲んだ範囲及びその周辺の拡大図である。
図2中に示すように、初期処理槽6の底部は、全面に亘って、表土層2の上に多数の砕石46が充填されて形成されており、初期処理槽6内の液体を、地中、具体的には、表土層2中に浸透可能な浸透部48を構成している。すなわち、初期処理槽6は、その底部に、初期処理槽6内の液体を、浸透促進型貯留施設1が配置される表土層2中に浸透可能な浸透部48を有している。なお、図2中では、泥溜め枡4内へ貯留されている、大気中の浮遊物質等や汚濁物質等からなる貯留物を、符号50を付して表している。
【0034】
次に、図1及び図2を参照しつつ、図3から図5を用いて、上記の構成を備えた浸透促進型貯留施設1の作用・効果等を説明する。なお、以下の説明では、浸透促進型貯留施設1が、路面の地下(地中)に配置されているとともに、液体を雨水とした場合を例に挙げて説明する。
図3は、本実施形態の浸透促進型貯留施設1の設置例を示す図であり、図4は、図3のIV−IV線断面図、図5は、図3のV−V線断面図である。なお、図3から図5中に示した破線の矢印は、雨水の移動経路を示しており、図3及び図4中に示した実線の矢印は、雨水の浸透経路を示している。
図3から図5に示すように、この浸透促進型貯留施設1は、初期処理槽側隔壁16が泥溜め枡側隔壁14と独立している点と、各四つの泥溜め枡4、初期処理槽6及び高水位維持槽8に対し、貯留槽10が一つのみ備えられている点を除き、図1及び図2に示した浸透促進型貯留施設1と、同様の概念によって構成されている。
【0035】
以下、降雨時において、浸透促進型貯留施設1によって処理される雨水の状態について説明する。
豪雨時等、降雨時に大量の雨水が降ると、この大量の雨水が、グレーチング12を通過して泥溜め枡4へ流下する。この状態では、高水位維持槽側連通孔30は、高水位維持槽側移動許容手段26によって閉塞されている。また、貯留槽側移動許容手段42は、貯留槽側連通孔44によって閉塞されている。
このとき、泥溜め枡側隔壁14の泥溜め枡4の底面からの高さは、降雨初期に路面等を流れてくる流出水中に含まれている汚濁物質の、泥溜め枡4内への貯留量に応じた高さに設定されているため、貯留物50は、泥溜め枡4内へ貯留される(図2参照)。
【0036】
泥溜め枡4内における雨水の水位が上昇して、泥溜め枡4から雨水が溢れ出ると、この溢れ出た雨水は、泥溜め枡側隔壁14の上端部を越えて初期処理槽6側へ移動し、初期処理槽6内へ流入する。
このとき、初期処理槽側移動許容手段18は、初期処理槽6内の水圧が下水管20内の水圧を超えている状態で、初期処理槽側連通孔22を開放した状態となり、初期処理槽6と下水管20とを連通させて、初期処理槽6から下水管20への雨水の移動を許容する。
【0037】
このため、初期処理槽6内の水圧が下水管20内の水圧を超えている状態では、泥溜め枡4から初期処理槽6の内部へ流入した雨水は、初期処理槽6から下水管20へ流出して、図外の下水道管網へ排水される。
また、初期処理槽6の底部は、初期処理槽6内の液体を、表土層2中に浸透させる浸透部48を構成しているため、表土層2中における地下水の水位が初期処理槽6の底面を超えてない状態等、表土層2に大量の雨水が浸透していない状態では、初期処理槽6内の雨水を、効率的に表土層2中へ浸透させることが可能となる(図2参照)。
【0038】
初期処理槽6から下水管20への雨水の流出が継続された場合等、下水道管網の排水能力が低下し、初期処理槽6内の水圧が下水管20内の水圧を超えていない状態となると、初期処理槽側移動許容手段18は、初期処理槽側連通孔22を閉塞した状態となり、初期処理槽6から下水管20への液体の流出が防止される。
初期処理槽6から下水管20への液体の流出が防止された状態では、泥溜め枡4から溢れ出た雨水が、初期処理槽6内に流入して貯留される。なお、この場合、表土層2中における地下水の水位が初期処理槽6の底面を超えている状態等、表土層2に大量の雨水が浸透している状態となると、初期処理槽6内の雨水の、表土層2中への浸透が中断される。
【0039】
泥溜め枡4から初期処理槽6の内部への雨水の流入が継続され、初期処理槽6内の水位が上昇して、高水位維持槽8の底面の高さを超えると、高水位維持槽8内の水位が初期処理槽6内の水位以下となる。
この状態で、さらに、初期処理槽6内の水位が上昇して、初期処理槽6から雨水が溢れ出ると、この溢れ出た雨水は、初期処理槽側隔壁16の上端部を越えて高水位維持槽8側へ移動し、高水位維持槽8内へ流入する。
【0040】
ここで、高水位維持槽側連通孔30は、高水位維持槽側移動許容手段26によって閉塞されているため、初期処理槽6から高水位維持槽8への雨水の移動が規制されており、初期処理槽6から高水位維持槽8へ雨水が流入するにつれて、高水位維持槽8内の水位が上昇する。
また、初期処理槽6から高水位維持槽8へ雨水が流入し、高水位維持槽8内の水位が上昇して、浸透手段28に形成された開口部32の高さを超えると、高水位維持槽8内の雨水は、浸透手段28内を降下して砂礫層34へ到達し、砂礫層34中へ浸透する(図1参照)。
【0041】
このとき、高水位維持槽8の容積は、砂礫層34中に浸透させる液体の量に応じた規模の浸透手段28を、設置可能な最小の容積に設定されているため、初期処理槽6から流入した雨水は、高水位維持槽8において短時間で高水位となり、高水位維持槽8における雨水の水位と、砂礫層34の地下水位との水位差が、高水位に維持される。
ここで、下水道管網の排水能力が回復した場合等、初期処理槽6内の水圧が下水管20内の水圧を超えている状態となると、初期処理槽側連通孔22が開放され、初期処理槽6から下水管20へ雨水が流出し、初期処理槽6内の水位が低下する。
【0042】
初期処理槽6内の水位が低下して、高水位維持槽8内の水位が初期処理槽6内の水位よりも高くなると、高水位維持槽側連通孔30が開放され、高水位維持槽8から初期処理槽6へ雨水が移動するとともに、高水位維持槽8内の雨水が砂礫層34中へ浸透する。そして、高水位維持槽8内の水位が低下して、開口部32の高さよりも低くなると、高水位維持槽8内の雨水の、砂礫層34中への浸透が中断される。
【0043】
一方、高水位維持槽8内の水位が上昇して、高水位維持槽8から雨水が溢れ出ると、この溢れ出た雨水は、高水位維持槽側隔壁24の上端部を越えて貯留槽10側へ移動し、貯留槽10内へ流入する。
ここで、貯留槽側連通孔44は、貯留槽側移動許容手段42によって閉塞されているため、高水位維持槽8から貯留槽10への雨水の移動が規制されており、高水位維持槽8から貯留槽10へ雨水が流入するにつれて、貯留槽10内の水位が上昇する。
【0044】
高水位維持槽8から貯留槽10へ雨水が流入している状態で、砂礫層34における地下水位が低下した場合等には、再び、高水位維持槽8内の雨水が砂礫層34中へ浸透する。
このとき、高水位維持槽8内の雨水が砂礫層34中へ浸透するにつれて、高水位維持槽8内の水位が減少すると、貯留槽10内の水位が高水位維持槽8内の水位よりも高くなる。
【0045】
このため、貯留槽側移動許容手段42は、貯留槽側連通孔44を開放した状態となり、貯留槽10内の雨水が、貯留槽側連通孔44を通過して高水位維持槽8へ移動する。そして、高水位維持槽8内の雨水が砂礫層34中へ浸透するにつれて、高水位維持槽8内の水位は、貯留槽10内の水位と同じ高さを保持した状態で低下するため、高水位維持槽8内の水位は、高水位を維持した状態から、徐々に低下することとなる。
【0046】
ここで、下水道管網の排水能力が回復した場合等、初期処理槽6から下水管20へ雨水が流出し、高水位維持槽8から初期処理槽6へ雨水が移動して、高水位維持槽8内の水位が低下すると、高水位維持槽8内の雨水の砂礫層34中への浸透が継続されるとともに、高水位維持槽8内の雨水が初期処理槽6へ移動する。
したがって、本実施形態の浸透促進型貯留施設1であれば、浸透手段28が、砂礫層34と高水位維持槽8とを連通しているため、初期処理槽6から溢れ出て高水位維持槽8へ流入した雨水が、浸透手段28によって、高水位維持槽8から砂礫層34へ降下して浸透する。
【0047】
また、浸透促進型貯留施設1が、初期処理槽6から溢れ出た液体が流入する高水位維持槽8と、高水位維持槽8から溢れ出た雨水が流入する貯留槽10を備えているため、初期処理槽6から流入した雨水を、高水位維持槽8において短時間で高水位とすることが可能となる。
このため、高水位維持槽8における雨水の水位と、砂礫層34の地下水位との水位差を、高水位に維持することが可能となり、初期処理槽6から溢れ出た雨水を、効率的に高水位維持槽8から降下させて砂礫層34へ浸透させることが可能となる。
【0048】
以上により、浸透促進型貯留施設1の単位時間当たりにおける浸透処理量を増加させることが可能となる。また、浸透促進型貯留施設1の単位時間当たりにおける浸透処理量が増加される時間を、長期間に亘って維持することが可能となる。
その結果、浸透促進型貯留施設1の浸透処理能力を向上させることが可能となるとともに、貯留能力の早期回復が可能となるため、降雨時に地表面付近の土壌が飽和した場合や、地表面付近の土壌において、表層の地下水位が上昇した場合等においても、従来と比較して、雨水の浸透能力を向上させることが可能となる。
【0049】
また、浸透促進型貯留施設1の浸透処理能力を向上させることが可能となるため、浸透促進型貯留施設1の設置計画規模に対する施設必要規模や、事業規模等を縮小することが可能となり、浸透促進型貯留施設1の設置に係る作業を減少させることが可能となるとともに、浸透促進型貯留施設1の設置に係るコストを低減することが可能となる。
また、本実施形態の浸透促進型貯留施設1であれば、浸透手段28が、浸透促進型貯留施設1より下方の不透水層36aを貫通して、不透水層36aの下部に存在する砂礫層34と、高水位維持槽8とを連通している。
【0050】
このため、砂礫層34の地下水位が、降雨の影響で即座に上昇することが防止され、高水位維持槽8における雨水の水位と、砂礫層34の地下水位との水位差を、高水位に維持することが可能となる。
その結果、浸透促進型貯留施設1の浸透処理能力を向上させることが可能となるとともに、浸透促進型貯留施設1の貯留能力を、早期回復させることが可能となる。
さらに、本実施形態の浸透促進型貯留施設1であれば、高水位維持槽8から溢れ出た雨水が流入する貯留槽10が、貯留槽10内の水位が高水位維持槽8内の水位よりも高いときに、貯留槽10から高水位維持槽8への雨水の移動を許容する貯留槽側移動許容手段42を備えている。
【0051】
このため、高水位維持槽8内の雨水が砂礫層34へ降下し、高水位維持槽8内の水位が低下して、貯留槽10内の水位が高水位維持槽8内の水位よりも高くなると、貯留槽10内の雨水が、貯留槽側連通孔44を通過して高水位維持槽8へ移動する。
そして、高水位維持槽8内の雨水が砂礫層34中へ浸透するにつれて、高水位維持槽8内の水位は、貯留槽10内の水位と同じ高さを保持した状態で低下するため、高水位維持槽8における雨水の水位が高水位に維持されるとともに、高水位維持槽8において雨水が高水位に維持される時間が長期化される。
このため、初期処理槽6から溢れ出た雨水を、効率的に高水位維持槽8から砂礫層34へ降下させることが可能となる。
【0052】
その結果、浸透促進型貯留施設1の浸透処理能力を向上させることが可能となるとともに、貯留能力の早期回復が可能となるため、比較的短時間にピークが複数回あるような降雨状態であっても、浸透促進型貯留施設1が、貯留施設として十分な機能を発揮することが可能となる。
また、貯留槽10と高水位維持槽8との水位の状態に応じて、貯留槽10内の液体を自動的に高水位維持槽8へ移動させることが可能となるため、貯留槽10内の雨水を、効率的に高水位維持槽8へ移動させることが可能となる。
【0053】
また、本実施形態の浸透促進型貯留施設1であれば、貯留槽側隔壁40の下端に、高水位維持槽8と貯留槽10とを連通する貯留槽側連通孔44が形成されており、貯留槽側移動許容手段42が、貯留槽側連通孔44の上端付近に取り付けられて、貯留槽側隔壁40の下端に配置されている。
このため、貯留槽10内の水位が高水位維持槽8内の水位よりも高いときに、貯留槽10から高水位維持槽8へ移動する雨水を、効率的に高水位維持槽8へ移動させることが可能となり、浸透促進型貯留施設1の浸透処理能力を向上させることが可能となる。
【0054】
また、本実施形態の浸透促進型貯留施設1であれば、初期処理槽6が、初期処理槽6内の水圧が下水管20内の水圧を超えている状態で、初期処理槽6から下水管20への液体の移動を許容する初期処理槽側移動許容手段18を備えている。
このため、初期処理槽6内の水圧が下水管20内の水圧を超えている状態では、初期処理槽6へ流入した雨水が、初期処理槽6から下水管20へ流出する。
【0055】
その結果、初期処理槽6内の水圧が下水管20内の水圧を超えていない状態から、初期処理槽6内の水圧が下水管20内の水圧を超えている状態となった場合、すなわち、下水道管網の排水能力が回復した場合等に、浸透促進型貯留施設1の貯留能力を、早期回復させることが可能となる。
また、初期処理槽6内の水圧が下水管20内の水圧を超えていない状態では、下水管20からへ初期処理槽6の液体の移動が規制されるため、下水管20内を流れる雨水に泥等の異物が混在している場合であっても、この異物が初期処理槽6内へ侵入することを防止可能となる。
【0056】
また、初期処理槽6と下水管20との水圧の状態に応じて、初期処理槽6内の液体を自動的に下水管20へ移動させることが可能となるため、初期処理槽6内の雨水を、効率的に下水管20へ流出させることが可能となる。
また、本実施形態の浸透促進型貯留施設1であれば、初期処理槽6の下端に、初期処理槽6と下水管20とを連通する初期処理槽側連通孔22が形成されており、初期処理槽側移動許容手段18が、初期処理槽側連通孔22の上端付近に取り付けられて、初期処理槽側隔壁16の下端に配置されている。
【0057】
このため、初期処理槽6内の水圧が下水管20内の水圧を超えている状態で、初期処理槽6から下水管20へ流出する雨水を、効率的に下水管20へ流出させることが可能となり、浸透促進型貯留施設1の貯留能力を、早期回復させることが可能となる。
また、本実施形態の浸透促進型貯留施設1であれば、高水位維持槽8が、高水位維持槽8内の水位が初期処理槽6内の水位よりも高いときに、高水位維持槽8から初期処理槽6への液体の移動を許容する高水位維持槽側移動許容手段26を備えている。また、高水位維持槽側隔壁24の下端に、高水位維持槽8と初期処理槽6とを連通する高水位維持槽側連通孔30が形成されており、高水位維持槽側移動許容手段26が、高水位維持槽側連通孔30の上端付近に取り付けられて、高水位維持槽側隔壁24の下端に配置されている。
【0058】
このため、高水位維持槽8内の水位が初期処理槽6内の水位よりも高いときに、高水位維持槽8から初期処理槽6へ移動する雨水を、効率的に初期処理槽6へ移動させることが可能となり、浸透促進型貯留施設1の貯留能力を、早期回復させることが可能となる。
また、高水位維持槽8と初期処理槽6との水位の状態に応じて、高水位維持槽8内の液体を自動的に初期処理槽6へ移動させることが可能となるため、高水位維持槽8内の雨水を、効率的に初期処理槽6へ移動させることが可能となる。
【0059】
また、本実施形態の浸透促進型貯留施設1であれば、初期処理槽6の底部を、全面に亘り、表土層2の上に多数の砕石46を充填して形成することによって、初期処理槽6内の雨水を、表土層2中に浸透させる浸透部48としている。
このため、初期処理槽6内の雨水を効率的に表土層2中へ浸透させることが可能となり、降雨規模が小さい場合は、高水位維持槽8内及び貯留槽10内に雨水を流入させることなく、初期処理槽6のみによって雨水を処理することが可能となる。
【0060】
また、本実施形態の浸透促進型貯留施設1であれば、高水位維持槽8の底面が、初期処理槽6の底面よりも高くなっているとともに、高水位維持槽側連通孔30が、初期処理槽側連通孔22よりも高い位置に配置されている。
このため、初期処理槽6内の水圧が下水管20内の水圧を超えている状態では、初期処理槽6へ流入した雨水が、初期処理槽6から下水管20へ流出することとなり、降雨規模が小さい場合は、高水位維持槽8内及び貯留槽10内に雨水を流入させることなく、初期処理槽6のみによって雨水を処理することが可能となる。
【0061】
その結果、浸透促進型貯留施設1のメンテナンス作業を簡易なものとすることが可能となるとともに、浸透促進型貯留施設1のメンテナンスコストを低減することが可能となる。
また、本実施形態の浸透促進型貯留施設1であれば、初期処理槽側移動許容手段18、高水位維持槽側移動許容手段26、貯留槽側移動許容手段42を、それぞれ、一方向にのみ開閉するフラップ弁によって形成している。
【0062】
このため、モータ等のアクチュエータや、作業員等による手動操作を必要とせずに、下水管20、初期処理槽6、高水位維持槽8、貯留槽10の、それぞれの水圧または水位の状態に応じて、雨水の移動状態を制御することが可能となる。
その結果、浸透促進型貯留施設1の構成を簡易化することが可能となるため、浸透促進型貯留施設1のメンテナンス作業を簡易化することが可能となるとともに、浸透促進型貯留施設1のメンテナンスコストを低減することが可能となる。
【0063】
なお、本実施形態では、浸透促進型貯留施設1の構成を、泥溜め枡4と、初期処理槽6と、高水位維持槽8と、貯留槽10を備えた構成としたが、これに限定されるものではなく、浸透促進型貯留施設1の構成を、泥溜め枡4を備えておらず、地上から流下した雨水が、初期処理槽6へ流入する構成としてもよい。もっとも、本実施形態のように、浸透促進型貯留施設1の構成を、泥溜め枡4を備えた構成とすることが、特に、降雨初期に路面等を流れてくる流出水中に含まれている汚濁物質が取り除かれた雨水を、下水道管網へ排水することが可能となるため、好適である。
また、本実施形態の浸透促進型貯留施設1では、浸透手段28が、鋼管等の中空部材によって形成されている場合について説明したが、これに限定されるものではない。すなわち、浸透手段28が、例えば、内部に砕石等が充填されたチューブ等、内部を雨水が移動可能な中実の部材によって形成されていてもよい。
【0064】
さらに、本実施形態の浸透促進型貯留施設1では、貯留槽10内の水位が高水位維持槽8内の水位よりも高いときに、貯留槽10から高水位維持槽8への雨水の移動を許容する貯留槽側移動許容手段42を備えているが、これに限定されるものではなく、貯留槽側移動許容手段42を備えていない構成としてもよい。もっとも、本実施形態の浸透促進型貯留施設1のように、貯留槽側移動許容手段42を備えた構成とすることが、初期処理槽6から溢れ出た雨水を、効率的に高水位維持槽8から砂礫層34へ降下させることが可能となるため、好適である。また、貯留槽10と高水位維持槽8との水位の状態に応じて、貯留槽10内の液体を自動的に高水位維持槽8へ移動させることが可能となる。その結果、貯留槽10内の雨水を、効率的に高水位維持槽8へ移動させることが可能となるため、好適である。
【0065】
また、本実施形態の浸透促進型貯留施設1では、高水位維持槽8内の水位が初期処理槽6内の水位よりも高いときに、高水位維持槽8から初期処理槽6への液体の移動を許容する高水位維持槽側移動許容手段26を備えているが、これに限定されるものではなく、高水位維持槽側移動許容手段26を備えていない構成としてもよい。もっとも、本実施形態の浸透促進型貯留施設1のように、高水位維持槽側移動許容手段26を備えた構成とすることが、高水位維持槽8と初期処理槽6との水位の状態に応じて、高水位維持槽8内の液体を自動的に初期処理槽6へ移動させることが可能となる。その結果、高水位維持槽8内の雨水を、効率的に初期処理槽6へ移動させることが可能となるため、好適である。
【0066】
また、本実施形態の浸透促進型貯留施設1では、初期処理槽6内の水圧が下水管20内の水圧を超えている状態で、初期処理槽6から下水管20への液体の移動を許容する初期処理槽側移動許容手段18を備えているが、これに限定されるものではなく、初期処理槽側移動許容手段18を備えていない構成としてもよい。もっとも、本実施形態の浸透促進型貯留施設1のように、初期処理槽側移動許容手段18を備えた構成とすることが、初期処理槽6と下水管20との水圧の状態に応じて、初期処理槽6内の液体を自動的に下水管20へ移動させることが可能となる。その結果、初期処理槽6内の雨水を、効率的に下水管20へ流出させることが可能となるため、好適である。
【0067】
また、本実施形態の浸透促進型貯留施設1では、初期処理槽6の底部を、初期処理槽6内の雨水を、表土層2中に浸透させる浸透部48としているが、これに限定されるものではなく、例えば、初期処理槽6の底部をコンクリート等によって空隙や孔等の無い面とし、初期処理槽6内の雨水が表土層2中へ浸透しない構成としてもよい。もっとも、本実施形態の浸透促進型貯留施設1のように、初期処理槽6の底部を、初期処理槽6内の雨水を、表土層2中に浸透させる浸透部48とすることが、初期処理槽6内の雨水を効率的に表土層2中へ浸透させることが可能となるため、好適である。
【0068】
また、本実施形態の浸透促進型貯留施設1では、初期処理槽6のみの底部を、初期処理槽6内の雨水を、表土層2中に浸透させる浸透部48としているが、これに限定されるものではない。すなわち、例えば、初期処理槽6の底部だけでなく、高水位維持槽8及び貯留槽10の底部も、各槽内の雨水を、表土層2中に浸透させる浸透部48としてもよい。要は、初期処理槽6、高水位維持槽8及び貯留槽10のうち少なくとも一つの槽が、その底部に、槽内の雨水を表土層2中に浸透可能な浸透部48を有している構成であればよい。
【0069】
また、本実施形態の浸透促進型貯留施設1では、初期処理槽6の底部を、全面に亘って、浸透部48としているが、これに限定されるものではなく、例えば、初期処理槽6の底部の中心付近等、初期処理槽6の底部の一部を、浸透部48としてもよい。もっとも、本実施形態の浸透促進型貯留施設1のように、初期処理槽6の底部を、全面に亘って、浸透部48とすることが、初期処理槽6内の雨水を効率的に表土層2中へ浸透させることが可能となるため、好適である。
【0070】
また、本実施形態の浸透促進型貯留施設1では、初期処理槽側移動許容手段18、高水位維持槽側移動許容手段26、貯留槽側移動許容手段42を、それぞれ、フラップ弁によって形成したが、これに限定されるものではない。すなわち、初期処理槽側移動許容手段18、高水位維持槽側移動許容手段26、貯留槽側移動許容手段42を、例えば、モータ等のアクチュエータによって作動する構成の弁によって形成してもよい。もっとも、本実施形態の浸透促進型貯留施設1のように、初期処理槽側移動許容手段18、高水位維持槽側移動許容手段26、貯留槽側移動許容手段42を、アクチュエータを必要とせずに作動することが可能なフラップ弁によって形成することが、浸透促進型貯留施設1の構成を簡易化することが可能となるため、好適である。また、初期処理槽側移動許容手段18、高水位維持槽側移動許容手段26、貯留槽側移動許容手段42を、それぞれ、逆止弁によって形成してもよい。
【0071】
また、本実施形態の浸透促進型貯留施設1では、初期処理槽側隔壁16の下端に、初期処理槽側連通孔22が形成されており、初期処理槽側移動許容手段18が、初期処理槽側連通孔22の上端付近に取り付けられて、初期処理槽側隔壁16の下端に配置されている構成としたが、これに限定されるものではない。すなわち、例えば、初期処理槽側連通孔22を初期処理槽側隔壁16の中心付近に形成し、初期処理槽側移動許容手段18が、初期処理槽側連通孔22の上端付近に取り付けられて、初期処理槽側隔壁16の中心付近に配置されている構成としてもよい。もっとも、本実施形態の浸透促進型貯留施設1のように、初期処理槽側連通孔22が初期処理槽側隔壁16の下端に形成され、初期処理槽側移動許容手段18が初期処理槽側隔壁16の下端に配置されている構成とすることが、初期処理槽6から下水管20へ流出する雨水を、効率的に下水管20へ流出させることが可能となるため、好適である。
【0072】
さらに、本実施形態の浸透促進型貯留施設1では、高水位維持槽側隔壁24の下端に、高水位維持槽側連通孔30が形成されており、高水位維持槽側移動許容手段26が、高水位維持槽側連通孔30の上端付近に取り付けられて、高水位維持槽側隔壁24の下端に配置されている構成としたが、これに限定されるものではない。すなわち、例えば、高水位維持槽側連通孔30を高水位維持槽側隔壁24の中心付近に形成し、高水位維持槽側移動許容手段26が、高水位維持槽側連通孔30の上端付近に取り付けられて、高水位維持槽側隔壁24の中心付近に配置されている構成としてもよい。もっとも、本実施形態の浸透促進型貯留施設1のように、高水位維持槽側連通孔30が高水位維持槽側隔壁24の下端に形成され、高水位維持槽側移動許容手段26が高水位維持槽側隔壁24の下端に配置されている構成とすることが、高水位維持槽8から初期処理槽6へ移動する雨水を、効率的に初期処理槽6へ移動させることが可能となるため、好適である。
【0073】
また、本実施形態の浸透促進型貯留施設1では、貯留槽側隔壁40の下端に、貯留槽側連通孔44が形成されており、貯留槽側移動許容手段42が、貯留槽側連通孔44の上端付近に取り付けられて、貯留槽側隔壁40の下端に配置されている構成としたが、これに限定されるものではない。すなわち、例えば、貯留槽側連通孔44を貯留槽側隔壁40の中心付近に形成し、貯留槽側移動許容手段42が、貯留槽側連通孔44の上端付近に取り付けられて、貯留槽側隔壁40の中心付近に配置されている構成としてもよい。もっとも、本実施形態の浸透促進型貯留施設1のように、貯留槽側連通孔44が貯留槽側隔壁40の下端に形成され、貯留槽側移動許容手段42が貯留槽側隔壁40の下端に配置されている構成とすることが、貯留槽10から高水位維持槽8へ移動する雨水を、効率的に高水位維持槽8へ移動させることが可能となるため、好適である。
【0074】
また、本実施形態の浸透促進型貯留施設1では、浸透手段28が、砂礫層34と高水位維持槽8とを連通しているが、これに限定されるものではなく、浸透手段28が、例えば、砂層や礫層等、砂礫層以外の地層と、高水位維持槽8とを連通していてもよい。要は、浸透手段28が、浸透促進型貯留施設1が配置されている表土層2の下方に存在する不透水層36aよりも下方に形成された透水性の地層と、高水位維持槽8とを連通していればよい。
【0075】
また、本実施形態の浸透促進型貯留施設1は、路面の地下に配置されるとともに、地上から流下する液体が、雨水である場合について適用したが、これに限定されるものではなく、例えば、工場等の地下に配置されるとともに、地上から流下する液体が、冷却水等の工業用水である場合について適用してもよい。
また、本実施形態の浸透促進型貯留施設1では、浸透手段28の両端部のうち上方に配置される端部が、高水位維持槽8の底面を貫通して、高水位維持槽8内に配置されており、その上端に、上方へ向けて開口する開口部32が形成されている構成としたが、これに限定されるものではない。すなわち、例えば、浸透手段28の両端部のうち上方に配置される端部の上端が、高水位維持槽8の底面と同じ高さになっており、高水位維持槽8の底面に、開口部32が配置されている構成としてもよい。
【0076】
また、本実施形態の浸透促進型貯留施設1では、泥溜め枡4の上方にのみ、グレーチング12によって形成された開口部が配置されている構成としたが、これに限定されるものではない。すなわち、例えば、高水位維持槽8の上方に、マンホール等の開閉可能な部材を設置してもよい。
この場合、災害時に、例えば、浸透手段28を介して地下水を汲み上げることにより、浸透促進型貯留施設1を、災害対処用の井戸として機能させることが可能となるため、浸透促進型貯留施設1に貯留されている雨水を、生活雑用水や、マンホールトイレ用水等に用いることが可能となる。
【0077】
このため、浸透促進型貯留施設1を、非常時用水の供給拠点として利用することが可能となる。
また、日常の晴天時等には、浸透促進型貯留施設1を、地下水を汲み上げる揚水井戸として機能させ、汲み上げた地下水を環境用水として利用することが可能となる。また、浸透手段28を介して地下水を汲み上げることにより、浸透手段28の洗浄を行い、長期に亘り高い浸透能力を維持することが可能となる。
また、本実施形態の浸透促進型貯留施設1では、高水位維持槽8の底面が、初期処理槽6の底面よりも高くなっているが、これに限定されるものではなく、高水位維持槽8の底面が、初期処理槽6の底面と同じ高さであってもよい。
【0078】
また、本実施形態の浸透促進型貯留施設1では、貯留槽10が、高水位維持槽8よりも容積が大きくなるように形成されているが、これに限定されるものではなく、貯留槽10が、高水位維持槽8と同じ容積となるように形成されていてもよく、貯留槽10が、高水位維持槽8よりも容積が小さくなるように形成されていてもよい。
また、本実施形態の浸透促進型貯留施設1では、貯留槽10の底面が、高水位維持槽8の底面と同じ高さとなっているが、これに限定されるものではなく、貯留槽10の底面が、高水位維持槽8の底面よりも高くなっていてもよい。
【0079】
(実施例)
浸水多発箇所となっている窪地地形に対して、本発明例の貯留施設及び比較例の貯留施設を設置し、浸水状況の違いに関する設計解析を行った。
本発明例の貯留施設としては、図1及び図2に示すような、本発明の実施形態で説明したものと同様の構成を有する浸透促進型貯留施設を用いた。なお、浸透促進型貯留施設は、貯留容量が200m3であり、さらに、比較例の貯留施設と異なり、浸透手段からなる浸透促進機能を備えている。
比較例の貯留施設としては、浸透促進機能を備えていない構造の貯留施設を用いた。なお、比較例の貯留施設は、貯留容量が200m3である。
【0080】
図6は、設計解析を行う際に設定された、設計対象降雨の状況を示す図である。なお、図6の縦軸は、降雨量(mm/5分)を示しており、図6の横軸は、経過時間を示している。
図6中に示されているように、この設計対象降雨は、短時間の間に複数回の大規模な降雨が生じるものであり、特に、2回のピークが発生するものである。
本設計解析では、1降雨目に貯留施設が満杯となった状態において、2降雨目における貯留機能を解析した。
【0081】
図7は、対策実施前における浸水状況の解析結果を示す図であり、図8は、比較例の貯留施設を設置した場合における浸水状況の解析結果を示す図であり、図9は、本発明例の貯留施設を設置した場合における浸水状況の解析結果を示す図である。なお、図7から図9は、全て、2降雨目が降った際の状況を示す図である。
図8中に示されているように、比較例の貯留施設を設置した場合、1降雨目に貯留施設が満杯になると、2降雨目には貯留機能が十分に発揮されていない。
一方、図9中に示されているように、本発明例の貯留施設を設置した場合、降雨と降雨の間に貯留した雨水を地下浸透させることが可能となるため、貯留能力が回復しており、2降雨目に対しても貯留機能が発揮されていることが確認された。
【0082】
以上の解析結果から、本発明例の貯留施設を設置することにより、比較例の貯留施設を設置した場合や、図7中に示されているような対策実施前の状況と比較して、浸水多発箇所におけつ浸水被害が軽微となることが確認された。また、これにより、貯留施設を小規模な対策施設とすることが可能となり、コスト縮減効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の浸透促進型貯留施設の概念を示す図である。
【図2】図1中に枠IIで囲んだ範囲及びその周辺の拡大図である。
【図3】浸透促進型貯留施設の設置例を示す図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】図3のV−V線断面図である。
【図6】設計解析を行う際に設定された、設計対象降雨の状況を示す図である。
【図7】対策実施前における浸水状況の解析結果を示す図である。
【図8】比較例の貯留施設を設置した場合における浸水状況の解析結果を示す図である。
【図9】本発明例の貯留施設を設置した場合における浸水状況の解析結果を示す図である。
【図10】都市における浸水現象の一形態を示す図である。
【符号の説明】
【0084】
1 浸透促進型貯留施設
2 表土層
4 泥溜め枡
6 初期処理槽
8 高水位維持槽
10 貯留槽
12 グレーチング
14 泥溜め枡側隔壁
16 初期処理槽側隔壁
18 初期処理槽側移動許容手段
20 下水管
22 初期処理槽側連通孔
24 高水位維持槽側隔壁
26 高水位維持槽側移動許容手段
28 浸透手段
30 高水位維持槽側連通孔
32 開口部
34 砂礫層
36 不透水層
38 浸透孔
40 貯留槽側隔壁
42 貯留槽側移動許容手段
44 貯留槽側連通孔
46 砕石
48 浸透部
50 貯留物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に配置され、地上から流下した液体を貯留し地中に浸透及び下水管へ流出させる浸透促進型貯留施設であって、
地上から流下した液体を貯留可能であるとともに前記下水管と連通する初期処理槽と、前記初期処理槽から溢れ出た液体が流入する高水位維持槽と、前記高水位維持槽から溢れ出た液体が流入する貯留槽と、前記高水位維持槽内の液体を、浸透促進型貯留施設より下方の不透水層の下部に存在する透水層に流す浸透手段と、を備えることを特徴とする浸透促進型貯留施設。
【請求項2】
前記浸透手段は、前記高水位維持槽と前記透水層とを連通する中空部材であることを特徴とする請求項1に記載した浸透促進型貯留施設。
【請求項3】
前記貯留槽から前記高水位維持槽への液体の移動を許容し、且つ前記高水位維持槽から前記貯留槽への液体の移動を規制する貯留槽側移動許容手段を備え、
前記貯留槽側移動許容手段は、前記貯留槽内の水位が前記高水位維持槽内の水位よりも高いときに、前記貯留槽から前記高水位維持槽への液体の移動を許容することを特徴とする請求項1または2に記載した浸透促進型貯留施設。
【請求項4】
前記高水位維持槽から前記初期処理槽への液体の移動を許容し、且つ前記初期処理槽から前記高水位維持槽への液体の移動を規制する高水位維持槽側移動許容手段を備え、
前記高水位維持槽側移動許容手段は、前記高水位維持槽内の水位が前記初期処理槽内の水位よりも高いときに、前記高水位維持槽から前記初期処理槽への液体の移動を許容することを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項に記載した浸透促進型貯留施設。
【請求項5】
前記初期処理槽、前記高水位維持槽及び前記貯留槽のうち少なくとも一つは、底部のうち少なくとも一部に、前記槽内の液体を前記浸透促進型貯留施設が配置される透水層中に浸透可能な浸透部を有していることを特徴とする請求項1から4のうちいずれか1項に記載した浸透促進型貯留施設。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−285936(P2008−285936A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−133318(P2007−133318)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(591091087)株式会社建設技術研究所 (18)
【Fターム(参考)】