説明

消化ガスの脱酸素方法及び装置

【課題】本発明は、高圧水吸収法により精製されたガス中に残存する酸素を除去するに際し、高温を要することもなく、また、少なくともHSによる触媒の劣化を防止することで触媒の長寿命化を可能とする消化ガスの脱酸素方法及び装置を提供することを目的とする。
【解決手段】吸収塔3から出た精製ガス中に除去しきれずに残留するHSとシロキサン化合物を水分とともに除去する機能を有した吸着塔9と、前記精製ガスに水素を添加するための水電解装置6と、水素が添加された精製ガスを受入れ、水素が添加された精製ガス中に残存する酸素を水に変換するPd触媒7が充填された触媒塔8と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性廃棄物をメタン発酵させることにより発生した消化ガスを精製したメタンガス中に残存する酸素を除去する消化ガスの脱酸素方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
比較的水分の多い有機性廃棄物の処理には、現在、メタン発酵処理が多用されている。このメタン発酵処理され、発生したガスは通常「消化ガス」と呼ばれ、この消化ガス中の成分は、メタンが約60容量%及び二酸化炭素が約40容量%である。さらに、微量の不純物として、通常100〜3000ppmの硫化水素(以下、「HS」という)等の硫黄系不純物や約0.3容量%の酸素も含まれている。この消化ガスは、燃料ガスとして利用される。例えば、発電用のガスエンジン、ガスタービン、燃料電池等、温水や蒸気を製造するボイラー等の燃料である。近年では、さらにこの消化ガスを精製し、都市ガスとして供給されることが待ち望まれている。しかし、この消化ガスを精製し、都市ガスとして利用するためには、上記HS等の硫黄系不純物や酸素が除去される必要がある。また、有機硫黄化合物と酸素を除去する技術としては、例えば、特許文献1に記載されたようなものが知られている。
【0003】
この特許文献1に開示された有機硫黄化合物と酸素を除去する技術は、以下のようなものである。この技術は、反応器の中にパラジウムを含む第1触媒と、モリブデン、ニッケルまたはコバルトの少なくとも1つを含む第2触媒とを備え、有機硫黄化合物と酸素を含むメタンガス中から300〜450℃で有機硫黄化合物と酸素を同時に除去するものである。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示された有機硫黄化合物と酸素を除去する技術は、まず有機硫黄化合物の脱硫を阻害する酸素を第1触媒上で水蒸気へ変換し、次いで第2触媒上で有機硫黄化合物をHSへ変換するものであるため、消化ガスを精製し、この精製されたガス中に残存する酸素を除去するに際し、高温を要し、かつ、精製されたガス中にはHSが多く残存する。出願人は、これらの問題を解決する発明として、すでに新たな特許出願を提出済みである(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58−215488号公報
【特許文献2】特願2008−218511号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献2に記載された発明によれば、高圧水吸収法により消化ガスを精製し、この精製されたメタンガス中に残存する酸素を除去するに際し、高温を要することもない。また、この高圧水吸収法により精製されたメタンガス中に除去しきれずに残存するHSやシロキサン化合物も、極僅かである。
【0007】
しかし、HSは極僅かではあっても、触媒塔に充填された触媒を被毒し続けると、徐々に触媒の性能も劣化してしまう。このように触媒の性能が劣化してくることは、結果として消化ガスの脱酸素装置の長寿命化を図る上で障害となる。
【0008】
本発明の目的は、高圧水吸収法により精製されたメタンガス中に残存する酸素を除去するに際し、高温を要することもなく、また、少なくともHSによる触媒の劣化を防止することで触媒の長寿命化を可能とする消化ガスの脱酸素方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の発明は、
有機性廃棄物をメタン発酵させることにより発生した消化ガスを圧縮機で圧縮し昇圧し、前記昇圧した消化ガスを吸収塔へ供給して、前記吸収塔内で前記昇圧した消化ガスと水とを高圧状態で接触させることにより、前記昇圧した消化ガスに含まれる二酸化炭素及び硫黄系不純物を高圧水に溶解し前記昇圧した消化ガスから前記二酸化炭素及び硫黄系不純物を分離し、メタンガスを精製する工程と、
前記精製されたメタンガス(以下、「精製ガス」という)を少なくともHSを水分とともに除去する機能を有した第1の除湿器に通すことにより、前記精製ガス中に除去しきれずに残留するHSを水分とともに除去する工程と、
前記第1の除湿器を通過した精製ガスに水素を添加する工程と、
前記水素が添加された精製ガスを触媒が充填された触媒塔へ供給し、前記水素が添加された精製ガス中に残存する酸素を触媒反応により水に変換する工程と、
前記触媒塔で残存する酸素が水に変換された精製ガスを少なくとも水分を除去する機能を有した第2の除湿器に通すことにより、前記酸素が水に変換された精製ガス中から少なくとも水分を除去する工程と、
を備えたことを特徴とする消化ガスの脱酸素方法である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記精製ガス中に除去しきれずに残留するHSを水分とともに除去する工程において、前記精製ガス中に除去しきれずにさらにシロキサン化合物も残留する場合は、前記第1の除湿器にHSとシロキサン化合物を水分とともに除去する機能を有したものを利用したことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、
前記第1の除湿器と前記触媒塔との間にはガスホルダーが介在し、前記第1の除湿器を通過した精製ガスが前記ガスホルダーで貯蔵される工程を有したことを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発明において、前記触媒塔へ供給される前記水素が添加された精製ガスの触媒層空間速度SVは、7,000h−1以下(ただし、ゼロは含まない)であることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の発明において、前記第1の除湿器を通過した精製ガスに水素を添加する工程で、水素の添加量を前記精製ガス中に残存する酸素量に対して、モル比で2以上にしたことを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明は、
有機性廃棄物をメタン発酵させることにより発生した消化ガスを圧縮し昇圧する圧縮機と、
前記圧縮機で昇圧した消化ガスと水とを受入れ、高圧状態で接触させることにより、前記昇圧した消化ガスに含まれる二酸化炭素及び硫黄系不純物を高圧水に溶解して前記昇圧した消化ガスから前記二酸化炭素及び硫黄系不純物を分離し、メタンガスを精製するための吸収塔と、
前記精製されたメタンガス(以下、「精製ガス」という)を受入れ、前記精製ガス中に除去しきれずに残留するHSを水分とともに少なくとも除去する機能を有した第1の除湿器と、
前記第1の除湿器を通過した精製ガスに水素を添加するための水素供給手段と、
前記水素供給手段により水素が添加された精製ガスを受入れ、前記水素が添加された精製ガス中に残存する酸素を触媒反応により水に変換するための触媒が充填された触媒塔と、
前記触媒塔で残存する酸素が水に変換された精製ガスを受入れ、前記酸素が水に変換された精製ガス中から少なくとも水分を除去する機能を有した第2の除湿器と、
を備えたことを特徴とする消化ガスの脱酸素装置である。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、
前記精製ガス中に除去しきれずにさらにシロキサン化合物も残留する場合には、前記第1の除湿器が、HSとシロキサン化合物を水分とともに除去する機能を有していることを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の発明は、請求項6または7に記載の発明において
前記第1の除湿器を通過した精製ガスを貯蔵する前記第1の除湿器と前記触媒塔との間に介在されたガスホルダーを有したことを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載の発明は、請求項6乃至8のいずれか1項に記載の発明において、前記触媒塔へ供給される前記水素が添加された精製ガスの触媒層空間速度SVは、7,000h−1以下(ただし、ゼロは含まない)であることを特徴とする。
【0018】
請求項10に記載の発明は、請求項6乃至9のいずれか1項に記載の発明において、前記第1の除湿器を通過した精製ガス中に残存する酸素量に対して、前記水素供給手段により添加する水素量は、モル比で2以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明に係る消化ガスの脱酸素方法によれば、
有機性廃棄物をメタン発酵させることにより発生した消化ガスを圧縮機で圧縮し昇圧し、前記昇圧した消化ガスを吸収塔へ供給して、前記吸収塔内で前記昇圧した消化ガスと水とを高圧状態で接触させることにより、前記昇圧した消化ガスに含まれる二酸化炭素及び硫黄系不純物を高圧水に溶解し前記昇圧した消化ガスから前記二酸化炭素及び硫黄系不純物を分離し、メタンガスを精製する工程と、
前記精製されたメタンガス(以下、「精製ガス」という)を少なくともHSを水分とともに除去する機能を有した第1の除湿器に通すことにより、前記精製ガス中に除去しきれずに残留するHSを水分とともに除去する工程と、
前記第1の除湿器を通過した精製ガスに水素を添加する工程と、
前記水素が添加された精製ガスを触媒が充填された触媒塔へ供給し、前記水素が添加された精製ガス中に残存する酸素を触媒反応により水に変換する工程と、
前記触媒塔で残存する酸素が水に変換された精製ガスを少なくとも水分を除去する機能を有した第2の除湿器に通すことにより、前記酸素が水に変換された精製ガス中から少なくとも水分を除去する工程と、
を備えているため、以下のような作用効果を奏する。
1)高圧水吸収法を用い、消化ガス中の二酸化炭素及び硫黄系不純物の大部分を予め分離し、メタンガスを精製する工程を有するため、硫黄系不純物と酸素を同時に除去する必要がなくなる。したがって、精製されたメタンガス中に残存する酸素を除去するに際し、触媒反応に300〜450℃という高温を要することもなく、水素を添加し常温で触媒反応を進めるだけで十分な脱酸素が可能な方法を実現できる。
2)また、高圧水吸収法により精製されたメタンガス中に除去しきれずに極僅かに残存するHSも、前記精製ガスを吸収塔の後段に設けられた第1の除湿器に通すことにより、前記精製ガス中に除去しきれずに残留するHSを少なくとも水分とともに予め除去する工程を有するため、触媒が前記HSにより被毒されず、触媒の劣化が防止され、触媒の長寿命化を可能とする消化ガスの脱酸素方法を実現できる。また、高圧水吸収法により精製されたメタンガス中に除去しきれずに極僅かに残存するHSも触媒塔に入る前に予め除去されてしまうため、結果として最終段階で高純度なメタンガスを得ることが可能となる。
【0020】
また、本発明に係る消化ガスの脱酸素装置によれば、
有機性廃棄物をメタン発酵させることにより発生した消化ガスを圧縮し昇圧する圧縮機と、
前記圧縮機で昇圧した消化ガスと水とを受入れ、高圧状態で接触させることにより、前記昇圧した消化ガスに含まれる二酸化炭素及び硫黄系不純物を高圧水に溶解して前記昇圧した消化ガスから前記二酸化炭素及び硫黄系不純物を分離し、メタンガスを精製するための吸収塔と、
前記精製されたメタンガス(以下、「精製ガス」という)を受入れ、前記精製ガス中に除去しきれずに残留するHSを水分とともに少なくとも除去する機能を有した第1の除湿器と、
前記第1の除湿器を通過した精製ガスに水素を添加するための水素供給手段と、
前記水素供給手段により水素が添加された精製ガスを受入れ、前記水素が添加された精製ガス中に残存する酸素を触媒反応により水に変換するための触媒が充填された触媒塔と、
前記触媒塔で残存する酸素が水に変換された精製ガスを受入れ、前記酸素が水に変換された精製ガス中から少なくとも水分を除去する機能を有した第2の除湿器と、
を備えているため、以下のような作用効果を奏する。
1)高圧水吸収法を用い、吸収塔で消化ガス中の二酸化炭素及び硫黄系不純物の大部分を予め分離し、メタンガスを精製することができるため、硫黄系不純物と酸素を同時に除去する必要がなくなる。したがって、精製されたメタンガス中に残存する酸素を除去するに際し、触媒塔に300〜450℃という高温を要することもなく、水素を添加し常温で触媒反応を進めることができる脱酸素装置を実現できる。
2)また、高圧水吸収法により精製されたメタンガス中に除去しきれずに極僅かに残存するHSも、前記精製ガスを吸収塔の後段に設けられた前記HSを水分とともに少なくとも除去可能な機能を有した第1の除湿器に通すことにより、前記精製ガス中に除去しきれずに残留するHSが予め除去されるため、触媒が前記HSにより被毒されず、触媒の劣化が防止され、触媒の長寿命化を可能とする消化ガスの脱酸素装置を実現できる。また、高圧水吸収法により精製されたメタンガス中に除去しきれずに極僅かに残存するHSも触媒塔に入る前に予め除去されてしまうため、結果として最終段階で高純度なメタンガスを得ることが可能な消化ガスの脱酸素装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態1の消化ガスの脱酸素装置の全体構成を模式的に説明する説明図である。
【図2】本発明の実施の形態2の消化ガスの脱酸素装置の全体構成を模式的に説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。
【0023】
(実施の形態1)
図1は本発明の消化ガスの脱酸素方法を実施するための実施の形態1に係る消化ガスの脱酸素装置の全体構成を模式的に説明する説明図である。
【0024】
図1において、1はミストセパレータ、2a、2bは消化ガス圧縮機、3は吸収塔(スクラバー)、4は給水槽、5は水補給用ポンプ、6は水素供給手段としての水電解装置、7はパラジウム(Pd)触媒、8はPd触媒7が充填された触媒塔、9はHSとシロキサン化合物を水分とともに除去する機能を有した第1の除湿器としてのモレキュラーシーブ等の吸着剤を用いた吸着塔、10は少なくとも水分を除去する機能を有した第2の除湿器としてのモレキュラーシーブ等の吸着剤を用いた吸着塔である。
【0025】
次に、本発明に係る消化ガスの脱酸素装置の運転動作について、図1を参照しながら説明する。
【0026】
有機性汚泥、有機性廃水等の有機性廃棄物をメタン発酵させることにより発生した消化ガスは、ミストセパレータ1によって消化ガス中のミスト(水分)、ダストが除去される。このミストセパレータ1を通過後の消化ガス中の成分は、メタンが約60容量%、二酸化炭素が約40容量%、酸素が約0.3容量%、硫黄系不純物としてのHSが100〜3000ppm、その他の不純物(例えば、シロキサン化合物)が極微量である。この消化ガスを直列接続された消化ガス圧縮機2a、2bによって圧縮し、大気圧より高い所定の圧力まで昇圧される。消化ガス圧縮機2a、2bによって昇圧された消化ガスは、吸収塔3の下部に導入される。一方、吸収塔3の上部からは、下水処理場の最終沈殿池の下流に設けられている処理水の砂ろ過設備からの砂ろ過水が貯留された給水槽4から水補給用ポンプ5により汲み上げられ、昇圧された状態で供給されるようになっている。このとき用いられる水としては、上記下水処理場の最終沈殿池の下流に設けられている処理水の砂ろ過設備からの砂ろ過水が利用される以外にも、水道水、井水、または、下水等の排水を処理して得られる処理水を利用することも可能である。
【0027】
このように、消化ガス圧縮機2a、2bにより消化ガスを昇圧して吸収塔3内へその下部より送り込むとともに、水補給用ポンプ5により水を昇圧して吸収塔3内へその上部より送り込むことにより、吸収塔3内を0.55〜2.0MPaGの範囲を満たす高圧状態に保持し、吸収塔3内において消化ガスと水とを前記圧力範囲を満たす高圧状態で接触させるようにしている。なお、吸収塔3内には、消化ガスと水とを十分に接触させるためにラシヒリング等の充填物が充填されている。
【0028】
吸収塔3内において消化ガスと水とを0.55〜2.0MPaGの範囲を満たす高圧状態で接触させることにより、消化ガス中に気体状態で含まれていた二酸化炭素及びHS等の硫黄系不純物は、高圧の水に溶解して吸収される一方、メタンガスは、高圧の水にほとんど溶解することなく、吸収塔3の頂部から取り出される。また、消化ガスから二酸化炭素及びHS等の硫黄系不純物を分離し、メタンガスを精製するに際し、消化ガスと水とを0.55〜2.0MPaGの範囲を満たす高圧状態で接触させるのがよい。この範囲より低圧力雰囲気では、二酸化炭素及びHS等の硫黄系不純物が十分に分離除去されず、また、この範囲より高圧力雰囲気にしても二酸化炭素及びHS等の硫黄系不純物の除去率がそれほど向上せず、運転コストや、高圧化仕様による装置コストの増加などの点から好ましくない。なお、除去率、運転コスト及び装置コストの点から、消化ガスと水とを0.7MPaG以上1.0MPaG未満の範囲を満たす高圧状態で接触させることがより好ましい。
【0029】
なお、上記のように消化ガスと水とを0.55MPaG以上の高圧状態で接触させることにより、吸収塔3の頂部から取り出される高濃度のメタンガスを有する精製ガス中からは大半のHS等の硫黄系不純物とシロキサン化合物が除去される。しかし、この吸収塔3の頂部から取り出される高濃度のメタンガスを有する精製ガス中には、依然として酸素が約0.3容量%残存したままであるため、このままではまだ都市ガスとしては利用できない。
【0030】
また、この吸収塔3の頂部から取り出される高濃度のメタンガスを有する精製ガス中には、上述した高圧水吸収法により除去しきれずにHSとシロキサン化合物が極僅か残存する。このように、極僅かではあっても、HSやシロキサン化合物が触媒塔8に充填されたPd触媒7を被毒し続けると、徐々にPd触媒7の性能が劣化してしまい、結果として消化ガスの脱酸素装置の長寿命化を図る上での障害となる。
【0031】
そこで、吸収塔3の頂部から取り出される高濃度のメタンガスを有する精製ガスに水電解装置6より水素(H)を添加し、この水素が添加された精製ガスをPd触媒7が充填された触媒塔8に送り込み、常温で下記式(1)に示すような触媒反応を進行させ、精製ガス中の酸素を水に変換させる前に下記のような処理を予め行なっておく。
+2H→ 2HO ――― 式(1)
【0032】
すなわち、吸収塔3の後段に設けられた吸着塔9に吸収塔3の頂部から取り出される高濃度のメタンガスを有する精製ガスを通し、この精製ガス中に除去しきれずに残留するHSとシロキサン化合物を水分とともに予め除去した上で、水電解装置6より水素を添加し、Pd触媒7が充填された触媒塔8に送り込むようにする。このような構成を採用することで、Pd触媒7が前記両物質により被毒されず、Pd触媒7の劣化が防止可能となる。このような構成は、消化ガスの脱酸素装置の長寿命化に顕著な効果をもたらす。そればかりか、精製ガス中の酸素濃度を所定の要求性能である、例えば、0.01容量%(100ppm)以下まで除去可能である。
【0033】
また、水素は、上記反応式(1)より、酸素の2倍のモル量が必要である。よって、酸素に対して水素をモル比で2以上添加することにより、精製されたメタンガス中に残存する酸素を0.01容量%(100ppm)以下に制御することが可能である。酸素に対する水素の添加量は、モル比で2〜約3.3とするのが好ましい。これにより、残存する酸素を所定の基準値以下まで除去しながらも、必要以上に水素を消費するのを防止できる。
【0034】
また、上記水素が添加された精製ガスのPd触媒7層空間速度(SV)は、7,000h−1以下(ただし、ゼロは含まない)の範囲で変更可能であり、好ましくは、3,000〜6,000h−1の範囲である。これにより、残存する酸素を所定の基準値以下まで除去しながらも、使用するPd触媒7の量がいたずらに多くならない。したがって、触媒塔8の大きさを抑制可能である。
【0035】
この酸素が低減した精製ガスが吸着塔10に送られ、水分が十分に吸着除去された後、都市ガス導管へ接続される。また、消化ガスから分離した二酸化炭素及び硫化水素等の硫黄系不純物が溶解した高圧水は、吸収塔3の底部から抜き出されて、弁V1を介して水処理設備へ供給される。
【0036】
以上のような構成であるため、本発明に係る消化ガスの脱酸素方法及び装置においては、以下のような作用効果を奏する。
1)高圧水吸収法を用い、消化ガス中の二酸化炭素及び硫黄系不純物の大部分を予め分離し、メタンガスを精製する工程を有するため、硫黄系不純物と酸素を同時に除去する必要がなくなる。したがって、精製されたメタンガス中に残存する酸素を除去するに際し、触媒反応に300〜450℃という高温を要することもなく、水素を添加し常温で触媒反応を進めるだけで十分な脱酸素が可能な方法を実現できる。
2)また、高圧水吸収法により精製されたメタンガス中に除去しきれずに極僅かに残存するHSも、前記精製ガスを吸収塔の後段に設けられた第1の除湿器に通すことにより、前記精製ガス中に除去しきれずに残留するHSを少なくとも水分とともに予め除去する工程を有するため、触媒が前記HSにより被毒されず、触媒の劣化が防止され、触媒の長寿命化を可能とする消化ガスの脱酸素方法を実現できる。また、高圧水吸収法により精製されたメタンガス中に除去しきれずに極僅かに残存するHSも触媒塔に入る前に予め除去されてしまうため、結果として最終段階で高純度なメタンガスを得ることが可能となる。
3)また、水の電気分解により得られる水素は高純度であるため、不純物の混入が少なく、精製されたメタンガスの純度を容易に維持できる。
【0037】
本実施の形態における水電解装置6としては、水素を発生するものであれば利用可能であり、好ましい水電解装置としては、固体高分子電解質膜等を利用した水電解式水素発生装置が挙げられ、高純度の水素及び酸素を発生させる株式会社神鋼環境ソリューション製の水電解式高純度水素酸素発生装置(商品名:HHOG)を利用することが可能である。この水電解式高純度水素酸素発生装置を利用することで、高圧水素ボンベを用いて水素を予め貯蔵しておく必要がなく、純度の高い水素を電源のON/ OFF操作により、必要な時に必要な量だけ供給でき、安全である。また、メタンガス中の酸素濃度の変動に対して濃度を検知して水素の量を制御することが可能である。このように、精製されたメタンガス中に残存する酸素の除去量を制御することも可能である。また、後述するように同時に純度の高い酸素も供給可能である。
【0038】
また、本実施の形態においては、吸着塔9の前と吸着塔10の前にミストセパレータとしてのコアレッサーが図示されていないが、コアレッサーを設置するのが好ましい。このようにすることで、飛散する水分が除去できる。
【0039】
また、本実施の形態においては、除湿器としての吸着塔にHSとシロキサン化合物を水分とともに除去する機能を有したモレキュラーシーブを用いた例に説明したが、吸収塔3を出た精製ガス中にシロキサン化合物が残存しない場合は、HSを水分とともに除去する機能を有していればよい。すなわち、第1の除湿器としては、少なくともHSを水分とともに除去可能な機能を有していればよい。
【0040】
なお、本実施の形態においては、除湿器としての吸着塔10も吸着塔9と同様に、HSとシロキサン化合物を水分とともに除去する機能を有したモレキュラーシーブを用いた吸着塔を例に説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、モレキュラーシーブならば、例えば、少なくとも水分を除去する機能を有したモレキュラーシーブ3A、4A、5A、13Xのいずれかを使用することが可能であり、必要条件としては少なくとも水分を除去する機能を有した除湿器であればよい。また、吸着剤として、HSとシロキサン化合物を水分とともに除去する機能を有したモレキュラーシーブ等の吸着剤ではなく、例えば、水分吸着剤、HS吸着剤としてシリカライトまたは酸処理を施したシリカライト、シロキサン化合物吸着剤として酸処理したシリカゲルをそれぞれ用い、これらの吸着剤を吸着塔に入れた除湿器であってもよい。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の作用効果を確証するため、以下のラボ試験を実施した。
【0042】
(実施例1)
図1において、吸着塔9を通過した精製ガスに添加する水素量と触媒塔8から出た精製ガス中に残存する酸素量の関係を調べる試験を行った。吸着塔9を通過した精製ガス中からはHSとシロキサン化合物が水分とともに除去されるため、試験ガスとして、酸素濃度が0.3容量%、水素濃度が0.55〜1.0容量%、残りメタンガスから構成される乾燥したガスを用いた。この試験ガス中、水素濃度を0.55、0.6、0.8、1.0容量%にしたものをそれぞれ試験No.1、2、3、4とする(下記表1参照)。その他の試験条件は、以下の通りである。
触媒塔8の大きさ :直径27mm−長さ300mm
触媒7層の容積 :67mL(Lはリットルの意味)
上記試験ガスの流量:200L/h(SV=3,000h−1相当)
上記試験ガスの圧力:0.9MPaG
【0043】
【表1】

【0044】
上記表1に示すように、水素濃度が0.6、0.8、1.0容量%(試験No.2、3、4)の試験ガスを用いた場合は、触媒塔8から出た試験ガス中に残存する酸素量が0ppmとなり、所定の要求性能である、例えば、0.01容量%(100ppm)以下まで酸素を除去可能である。しかし、水素濃度が0.55容量%(試験No.1)では、触媒塔8から出た試験ガス中に残存する酸素量が200〜350ppmとなり、上記所定の要求性能を満足できない。したがって、精製ガス中に残存する酸素量に対して、添加する水素量は、モル比で2以上にする必要がある。ただし、酸素に対する水素の添加量は、必要以上に水素を消費させない点も考慮に入れると、モル比で2〜約3.3とするのが好ましい。
【0045】
(実施例2)
図1において、所定容積のPd触媒7層の基で、触媒塔8から出た精製ガス中に残存する酸素量が所定の要求性能(例えば、0.01容量%(100ppm)以下)を満足できるのは、水素が添加された吸着塔9を通過した精製ガス量が如何ほどまでかを調べる試験を行なった。上記実施例1同様に、吸着塔9を通過した精製ガス中からはHSとシロキサン化合物が水分とともに除去されるため、試験ガスとして、酸素濃度が0.3容量%、水素濃度が0.6容量%、残りメタンガスから構成される乾燥したガスを用いた。この試験ガスのガス量を制御し、SVが3,000、4,000、6,000、7,000h−1となるようにしたものをそれぞれ試験No.5、6、7、8とする(下記表2参照)。その他の試験条件は、上記実施例1に同じである。
【0046】
【表2】

【0047】
上記表2に示すように、試験ガスのSVが3,000、4,000、6,000h−1(試験No.5、6、7)の場合は、触媒塔8から出た試験ガス中に残存する酸素量が0ppmとなる。試験ガスのSVが7,000h−1(試験No.8)の場合は、触媒塔8から出た試験ガス中に残存する酸素量が100〜200ppmとなる。したがって、触媒塔8へ供給される水素が添加された吸着塔9を通過した精製ガスの触媒層空間速度SVは、7,000h−1以下(ただし、ゼロは含まない)にする必要がある。好ましくは、SVが3,000〜6,000h−1の範囲である。これにより、触媒塔8から出た精製ガス中に残存する酸素量を所定の基準値以下まで除去しながらも、使用する触媒7の量がいたずらに多くならない。よって、触媒塔8の大きさも抑制可能である。
【0048】
(実施の形態2)
図2は本発明の消化ガスの脱酸素方法を実施するための実施の形態2に係る消化ガスの脱酸素装置の全体構成を模式的に説明する説明図である。本実施の形態において、実施の形態1と同一の構成要素については、同一の番号を付与して詳細な説明は省略し、異なる部分のみ詳述する。
【0049】
図2において、11はガスホルダーである。本実施の形態において、実施の形態1と大きく異なる部分は、吸着塔9と触媒塔8の間にガスホルダー11が設置されている点にあるため、この部分を中心に詳述する。
【0050】
ガスホルダー11により、吸着塔9を通過した精製ガスをいったん貯蔵するため、触媒塔8への精製ガス流量を容易に調整可能である。また、ガスホルダー11の前段には吸着塔9が設けられているため、ガスホルダー11内の結露防止や腐食防止も可能である。
【0051】
また、本実施の形態においては、吸着塔9の前にミストセパレータとしてのコアレッサーが図示されていないが、コアレッサーを設置するのが好ましい。このようにすることで、飛散する水分が除去できる。
【0052】
なお、本実施の形態1、2においては、触媒塔8での触媒反応により、脱酸素反応が進行しても、触媒塔8を出た水分を含む精製ガスは、反応熱によりそれほど温度が上昇しない。しかし、もし触媒塔8を出た水分を含む精製ガスの反応熱による温度上昇が相当大きい場合は、触媒塔8と吸着塔10の間に熱交換器を設置すればよい。このような構成にすることで、温度が上昇した水分を含む精製ガスを熱交換器で冷却し、温度を低下させ、後段の吸着塔10における水分吸着能力を高くできる。このように、吸着塔10における水分吸着能力が高くなると、第2の除湿器としての吸着塔10をコンパクトにすることも可能になる。また、触媒塔8を出た水分を含む精製ガスの温度を低下させることで、精製ガス中の水分の一部が凝縮し、凝縮した水を吸着塔10の前段に設けられたドレントラップ(図示せず)にて分離し系外に排出することにより、吸着塔10に導入される精製ガス中の水分量も低減するので、第2の除湿器としての吸着塔10をさらにコンパクトにすることが可能となる。
【0053】
また、本実施の形態1、2におけるPd触媒7としては、金属パラジウム、酸化パラジウム、水酸化パラジウムなどのパラジウム化合物が利用可能である。また、触媒として、白金などの常温で酸素と水素との反応を促進させる作用を有するものであれば利用可能である。さらに、これらの触媒物質をアルミナ、ゼオライト等の担体に担持させたものも利用可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 ミストセパレータ
2a、2b 消化ガス圧縮機
3 吸収塔
4 給水槽
5 水補給用ポンプ
6 水電解装置
7 Pd触媒
8 触媒塔
9、10 吸着塔
11 ガスホルダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃棄物をメタン発酵させることにより発生した消化ガスを圧縮機で圧縮し昇圧し、前記昇圧した消化ガスを吸収塔へ供給して、前記吸収塔内で前記昇圧した消化ガスと水とを高圧状態で接触させることにより、前記昇圧した消化ガスに含まれる二酸化炭素及び硫黄系不純物を高圧水に溶解し前記昇圧した消化ガスから前記二酸化炭素及び硫黄系不純物を分離し、メタンガスを精製する工程と、
前記精製されたメタンガス(以下、「精製ガス」という)を少なくともHSを水分とともに除去する機能を有した第1の除湿器に通すことにより、前記精製ガス中に除去しきれずに残留するHSを水分とともに除去する工程と、
前記第1の除湿器を通過した精製ガスに水素を添加する工程と、
前記水素が添加された精製ガスを触媒が充填された触媒塔へ供給し、前記水素が添加された精製ガス中に残存する酸素を触媒反応により水に変換する工程と、
前記触媒塔で残存する酸素が水に変換された精製ガスを少なくとも水分を除去する機能を有した第2の除湿器に通すことにより、前記酸素が水に変換された精製ガス中から少なくとも水分を除去する工程と、
を備えたことを特徴とする消化ガスの脱酸素方法。
【請求項2】
前記精製ガス中に除去しきれずに残留するHSを水分とともに除去する工程において、前記精製ガス中に除去しきれずにさらにシロキサン化合物も残留する場合は、前記第1の除湿器にHSとシロキサン化合物を水分とともに除去する機能を有したものを利用したことを特徴とする請求項1に記載の消化ガスの脱酸素方法。
【請求項3】
前記第1の除湿器と前記触媒塔との間にはガスホルダーが介在し、前記第1の除湿器を通過した精製ガスが前記ガスホルダーで貯蔵される工程を有したことを特徴とする請求項1または2に記載の消化ガスの脱酸素方法。
【請求項4】
前記触媒塔へ供給される前記水素が添加された精製ガスの触媒層空間速度SVは、7,000h−1以下(ただし、ゼロは含まない)であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の消化ガスの脱酸素方法。
【請求項5】
前記第1の除湿器を通過した精製ガスに水素を添加する工程において、水素の添加量を前記精製ガス中に残存する酸素量に対して、モル比で2以上にしたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の消化ガスの脱酸素方法。
【請求項6】
有機性廃棄物をメタン発酵させることにより発生した消化ガスを圧縮し昇圧する圧縮機と、
前記圧縮機で昇圧した消化ガスと水とを受入れ、高圧状態で接触させることにより、前記昇圧した消化ガスに含まれる二酸化炭素及び硫黄系不純物を高圧水に溶解して前記昇圧した消化ガスから前記二酸化炭素及び硫黄系不純物を分離し、メタンガスを精製するための吸収塔と、
前記精製されたメタンガス(以下、「精製ガス」という)を受入れ、前記精製ガス中に除去しきれずに残留するHSを水分とともに少なくとも除去する機能を有した第1の除湿器と、
前記第1の除湿器を通過した精製ガスに水素を添加するための水素供給手段と、
前記水素供給手段により水素が添加された精製ガスを受入れ、前記水素が添加された精製ガス中に残存する酸素を触媒反応により水に変換するための触媒が充填された触媒塔と、
前記触媒塔で残存する酸素が水に変換された精製ガスを受入れ、前記酸素が水に変換された精製ガス中から少なくとも水分を除去する機能を有した第2の除湿器と、
を備えたことを特徴とする消化ガスの脱酸素装置。
【請求項7】
前記精製ガス中に除去しきれずにさらにシロキサン化合物も残留する場合には、前記第1の除湿器が、HSとシロキサン化合物を水分とともに除去する機能を有していることを特徴とする請求項6に記載の消化ガスの脱酸素装置。
【請求項8】
前記第1の除湿器を通過した精製ガスを貯蔵する前記第1の除湿器と前記触媒塔との間に介在されたガスホルダーを有したことを特徴とする請求項6または7に記載の消化ガスの脱酸素装置。
【請求項9】
前記触媒塔へ供給される前記水素が添加された精製ガスの触媒層空間速度SVは、7,000h−1以下(ただし、ゼロは含まない)であることを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載の消化ガスの脱酸素装置。
【請求項10】
前記第1の除湿器を通過した精製ガス中に残存する酸素量に対して、前記水素供給手段により添加する水素量は、モル比で2以上であることを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載の消化ガスの脱酸素装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−229248(P2010−229248A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77037(P2009−77037)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】