説明

消波型ケーソン、および消波型ケーソンに用いるパラペット

【課題】良好な越波量低減効果を奏するケーソンを提供する。
【解決手段】開口102を介し海10より海水20を流入させて滞留させ、海水20の水勢を低減する遊水室103と、この遊水室103の上部空間104と前記海10の海面上13とを連通する連通路105とを消波型ケーソン100に備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消波型ケーソン、消波型ケーソンに用いるパラペットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、防波性能を向上させる技術がいくつか提案されている。例えば、防波堤の防波性能および港内の水質改善機能を向上させうる防波堤ケーソンを提供することを目的とした、外海側のケーソンの前面に海水の流入口が形成され、ケーソンの上面に前記流入口から流入された海水を流出させうる流出口が形成されており、前記流入口と前記流出口とをそれぞれ連結しながら全体的に曲線をなし、かつ前記流出口側の後面の壁と前記ケーソンの上面とのなす角が90°以下である水路を1つ以上具備して、流入された海水を外海側へ逆流させうる防波堤ケーソン(特許文献1参照)などが提案されている。
【0003】
また、防波堤において、海水位が変動しても確実に透水機能を作用させて閉鎖的水域における海水の流通性を向上し、内海での海水の汚れを防止することを課題とした、外海と内海を区画するように海底に設置された防波堤本体と、前記外海に対向して該防波堤本体に設けられた高さの異なる複数の逆流防止壁と、該各逆流防止壁の前記内海側に設けられた複数の遊水部と、該各遊水部と前記内海とを連通するように前記防波堤本体の下部に設けられた複数の導水部とを具えたことを特徴とする防波堤(特許文献2参照)なども提案されている。
【特許文献1】特開平7−259045号公報
【特許文献2】特開2004−19279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来型のケーソンにおいては越波量低減についての考慮が十分でなかった。そのため、高潮位時における越波量を効率よく抑制する技術が望まれていた。そこで本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、良好な越波量低減効果を奏するケーソンの提供を主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成する本発明の消波型ケーソンは、開口を介し海より海水を流入させて滞留させ、海水の水勢を低減する遊水室と、この遊水室の上部空間と前記海の海面上とを連通する連通路とを備えることを特徴とする。これによれば、前記遊水室に海水を流入させることで当該海水の水勢を低減する一方で、水勢に伴って遊水室内を上方にせり上がる海水が、遊水室上部空間(未水没)を狭めることで前記連通路から海面方向に向かう排気流を生じさせる。
【0006】
この排気流は、前記海から連通路(の海側開口)に向かって打ち寄せる海水に対向する流れとなり、ケーソンを越波しようとする海水の勢いを低減することができる。また更に、遊水室内に流れ込む海水の水勢がより強ければ、遊水室をせり上がった海水が前記連通路にまで流れ込み、連通路から海面方向に向かう排水流を生じさせる。この排水流は、前記海から連通路(の海側開口)に向かって打ち寄せる海水に対向する流れとなり、ケーソンを越波しようとする海水の勢いを低減することができる。
【0007】
消波型ケーソンに打ち寄せる海水の水勢が大きくなるに従って、前記連通路の海側開口から排出される前記排気流ないし前記排水流の勢いも大きくなり、効率的に越波量の低減が図れることとなる。したがって本発明の消波型ケーソンによれば、良好な越波量低減効果を奏する。
【0008】
また、本発明のパラペットは、開口を介し海より海水を流入させて滞留させ、海水の水勢を低減する遊水室を備える消波型ケーソンを構成するパラペットであって、前記遊水室頂版の開口と前記海の海面上に対向する開口とを連通する連通路を内蔵することを特徴とする。これによれば、前記排気流や排水流による効果的な越波量低減が実現されるため、従来よりも堤体高さを低減した消波型ケーソンやパラペットを採用することができ、消波型ケーソンの設計・設置コストや環境負荷の低減を図れる。したがって、良好な越波量低減効果を奏する消波型ケーソンを構成することが可能となる。
【0009】
その他、本願が開示する課題、及びその解決方法は、発明の実施の形態の欄、及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、良好な越波量低減効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
−−−消波型ケーソンの構造−−−
以下に本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は本実施形態における消波型ケーソンの、(a)斜視図、(b)側断面図である。本実施形態では一例として、外海10に対向し、その外海10から打ち寄せる波浪11を適宜受け止めて後背地12への越波を抑制する消波型ケーソン100を想定する。この消波型ケーソン100は、コンクリート躯体で形成された構造物であり、適宜間隔をもって配置した柱状の反射体101と、この反射体101の間のスリット状の空間であり、前記外海10より波浪11に伴う海水を流入させる開口102と、この開口102から流入してきた海水20を滞留させ、当該海水20の水勢を低減する遊水室103とを備える。
【0012】
また前記消波型ケーソン100は、前記遊水室103の上部空間104と前記外海10の海面上13とを連通する連通路105を備える。この連通路105は、消波型ケーソン100の上部工であるパラペット106の内部に備わるものとすれば好適である。こうした形態のパラペット106における前記連通路105は、前記遊水室103の頂版107の開口108と前記外海10の海面上13に対向する開口109とを連通する経路となる。
【0013】
前記遊水室103に海水20が流入すると、海水20の各波が遊水室内でぶつかり合ったり、遊水室内壁にぶつかることで当該海水20の水勢を低減することができる。また、水勢に伴って遊水室内を上方にせり上がり、遊水室内での水位上昇をみた海水20が、未水没の遊水室上部空間110を狭める働きをし、前記連通路105から前記海面上13の方向に向かう排気流111を生じさせることとなる。
【0014】
この排気流111は、前記外海10から連通路105の開口109に向かって打ち寄せる海水21に対向する流れとなり、当該消波型ケーソン100を越波しようとする海水21の勢いを低減することができるのである。
【0015】
また更に、遊水室内に流れ込む海水20の水勢がより強ければ、遊水室103をせり上がった海水20が前記連通路105にまで流れ込み、連通路105から海面上13の方向に向かう排水流112を生じさせることとなる。この排水流112は、前記外海10から連通路105の開口109に向かって打ち寄せる海水21に対向する流れとなり、消波型ケーソン100を越波しようとする海水21の勢いを低減することができるのである。
【0016】
消波型ケーソン100に打ち寄せる海水20の水勢が大きくなるに従って、前記連通路105の開口109から排出される前記排気流111ないし前記排水流112の勢いも大きくなり、効率的に前記海水21の水勢を抑えて越波量の低減が図れることとなる。
【0017】
−−−消波型ケーソンの設計−−−
次に、消波型ケーソンの一般的な設計手順について説明を行う。図2は、ケーソン設計手順の例を示す図である。ここで示す設計手順は従来型の消波型ケーソンの設計にも適用されている一般的な設計手法を示している。消波型ケーソンの設計にあたっては、まず、消波型ケーソンの設置地点(設計対象の地点)の設計波浪について、その波高H’(m)と周期T1/3(s)を決定する(s100)。
【0018】
次に、前記設置地点の許容越波量qを決定する(s101)。許容越波量とは、護岸幅1mあたり1秒間に越波してくる水の許容量(m)である。つまり、前記消波型ケーソン100を越えて後背地12に到達する海水の許容量を考慮する。また、パラペットの天端高さhを仮定する(s102)。更に、諸元から沖波波長L、波形勾配(h/H’)を計算する(s103)。
【0019】
次に、港湾技術基準の図表(直立護岸の越波流量推定図:「港湾の施設の技術上の基準・同解説」p119、社団法人日本港湾協会発行)を用いて、越波量qを算定する(s104)。ここで算出した越波量qが、許容越波量q以下であれば(s105:Yes)、これまでに定めたパラペットの天端高さhが設計値と決定され、設計作業は終了する。
【0020】
本願発明者らは、本実施形態の消波型ケーソン100の模型を作成した上で、水理実験を実施している。この水理実験によれば、前記遊水室103や連通路105などを備える本実施形態の消波型ケーソン100は、ある波浪条件において、従来型の消波型ケーソンと比較して、同じ天端高さのパラペットであっても約4割の越波量低減効果が認められた。図3のグラフ300は、前記水理実験における、連通路等の有無による越波量差異を示している。このグラフ300によれば、本実施形態の消波型ケーソン100での越波量qは、「0.029(m/m/s)」である一方、従来型の消波型ケーソン(遊水室103や連通路105が無し)では越波量qが「0.049(m/m/s)」であり、確かに4割ほど越波量の低減が図れることがわかる。
【0021】
このように、上述の消波型ケーソン100の設計手順の前記ステップs104において越波量qを従来型のものより予め4割減として、ステップs105の判定を行うことができる。
【0022】
また、設計波高H’:3.97m、周期T1/3:8.6秒、水深8.52m、海底勾配1/10、の条件で、本実施形態の消波型ケーソン100(遊水室103や連通路105を備える)の場合と、前記遊水室103や連通路105を備えない従来型の消波型ケーソンの場合とで、パラペット天端高さの比較算定を行った。ただし、本実施形態の消波型ケーソン100の越波量は、前記港湾技術基準の図表(直立護岸の越波流量推定図)において従来型より4割低減させたものを考慮している(直立護岸の越波流量推定図適用については従来手法と同様である)。
【0023】
図4にその結果を示す。これによれば、本実施形態の消波型ケーソン100においては、パラペット106の天端高さを従来型のものより1.5m下げることができる(従来型:10.5m、本実施形態の消波型ケーソン:9.0m)。本実施形態の消波型ケーソン100によれば、前記排気流111や排水流112による効果的な越波量低減が実現されるため、こうした従来型より天端高さを抑制したパラペット106を採用することができ、消波型ケーソンの設計・設置コストや環境負荷の低減を図れるのである。
【0024】
したがって、本実施形態によれば、良好な越波量低減効果を奏する。
【0025】
以上、本発明の実施の形態について、その実施の形態に基づき具体的に説明したが、これに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施形態における消波型ケーソンの、(a)斜視図、(b)側断面図である。
【図2】ケーソン設計手順の例を示す図である。
【図3】連通路等の有無による越波量差異を示すグラフである。
【図4】連通路等の有無による天端高さ差異を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
10 外海
11 波浪
12 後背地
13 海面上
20、21 海水
100 消波型ケーソン
101 反射体
102 開口
103 遊水室
104 遊水室の上部空間
105 連通路
106 パラペット
107 遊水室の頂版
108、109 開口
110 未水没の遊水室上部空間
111 排気流
112 排水流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を介し海より海水を流入させて滞留させ、海水の水勢を低減する遊水室と、この遊水室の上部空間と前記海の海面上とを連通する連通路とを備えることを特徴とする消波型ケーソン。
【請求項2】
開口を介し海より海水を流入させて滞留させ、海水の水勢を低減する遊水室を備える消波型ケーソンを構成するパラペットであって、前記遊水室頂版の開口と前記海の海面上に対向する開口とを連通する連通路を内蔵することを特徴とするパラペット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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