説明

消波機能付き堤体補強構造

【課題】 仮設工事等の工程を必要とせず、少ない工程で短期間に、堤防、護岸等となる既存の堤体に消波機能を付与するとともに補強する。
【解決手段】 既設の堤体1の海側に、堤体1に沿って堤体1の側面と前後に間隔を開けて略平行となるように鋼管杭2を並べて設置する。この際に、鋼管杭2と堤体1との間に所定間隔をあけるとともに、隣り合う鋼管杭2をその径より長い所定間隔をあけて設置する。堤体1と、鋼管杭2との間の空間の上部を覆うとともに、堤体1と鋼管杭2の列との間に架け渡され、かつ、堤体1と鋼管杭2とにそれぞれ連結される天板部7を設ける。天板部7上には、遊歩道、サイクリングロード、緑地帯、釣り公園等の親水施設12を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設の堤体に消波機能を付加して補強することができる消波機能付き堤体補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
海岸に設置された堤防、護岸、岸壁等を形成する既設の比較的古い堤体(例えば、重力式壁体等のコンクリート系構造物)においては、必ずしも、高潮、波浪(高波)等に対して所要の機能が確保できておらず、補強を必要とするものがある。従来、このような既設の堤体を補強する場合には、まず、堤体の海(水域)側に設置された消波ブロックを一旦撤去する。この際には、消波ブロックを仮置きする場所を確保して、消波ブロックを再利用可能に仮置きする。次ぎに、既設の堤体の前側(海側)と後側(陸側)とにそれぞれ既設の堤体に沿って仮締切矢板壁を構築し、矢板壁の互いに対向する面にそれぞれ腹起しを取り付け、対向する腹起し間に切梁を架け渡して設置する。
【0003】
すなわち、既設の堤体の周囲を囲む仮締切を構築し、内部の海水を排水して堤体及びその周囲をドライ化する。また、埋設された状態の堤体の下部を床付け面まで掘削する。そして、既設の堤体の厚みを増すとともに高さを嵩上げするために、既設の堤体の例えば前方や上方に鉄筋を配筋し、堤体の前面側と上部とを囲むように型枠を設置する。そして、型枠内にコンクリートを打設する。そして、コンクリートを養生後、型枠を撤去して掘削部分の埋戻しを行う。次ぎに、仮締切を撤去し、仮置きしていた消波ブロックを再設置する。なお、消波ブロックの設置においては、必要に応じて新たに消波ブロックを足して、十分は消波機能が得られる高さまで積み上げる。以上のように既設の堤体を厚く高くするような補強を行うだけでも、多くの工程(工種)を必要とするとともに長い工期を必要とする。
【0004】
ここで、岸壁となる消波式構築物を嵩上げする際に、嵩上げされた高さに対応して消波機能を維持するとともに、容易に嵩上げができるように、構築物本体から頂版を撤去し、頂版の縁切り面に嵩上げ部を継ぎ足し、しかる後に、嵩上げした頂版を構築物本体に再設置する工法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
この工法によれば、少ない工程で、消波式の岸壁の嵩上げを行うことができる。
【特許文献1】特開2001−207424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記工法では、嵩上げ可能な消波式構築物の構造が極めて限定されたものとなっており、一般的な堤防、護岸、岸壁等に応用することができない。また、消波式構造物の嵩上げは可能であるが、必ずしも補強とはなっていないなどの問題がある。
従って、一般的な堤防、護岸、岸壁においては、上述のように締切して排水し、堤体の厚みを増して嵩上げするようにコンクリートを打設する必要があり、工費の増大、工期の長期化といった問題が未だ存在する。また、既設の堤体に代えて消波機能を有し、かつ、既存の堤体より強度が高くかつ背の高い堤体を構築する場合にも、上述のように締切して排水する必要があるとともに、さらに、既存の堤体の少なくとも一部を撤去することが必要となり、廃材が発生してしまう。
また、消波ブロックを一旦撤去して再設置するものとした場合に、消波ブロックが互いに噛み合った状態に設置されていることから、消波ブロックを損傷させずに撤去することが困難である。また、再設置した消波ブロックは、台風等により移動して損傷・流失するため、消波ブロックによる消波機能を維持管理するのにコストがかかる。
【0006】
本発明の課題は、仮設工事等の工程を必要とせず、少ない工程で短期間に、堤防、護岸等となる既存の堤体に消波機能を付与するとともに補強することができる消波機能付き堤体補強構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するため、請求項1記載の発明は、例えば、図1,2に示すように、岸に設けられた既設の堤体1を補強するとともに消波機能を付加するための消波機能付き堤体補強構造であって、前記堤体1の水域側に、前記堤体1に沿って当該堤体の側面と前後に間隔を開けて略平行となるように鋼管杭2,…を並べて設置し、かつ、前記鋼管杭2,…と前記堤体1との間に所定間隔をあけるとともに、隣り合う鋼管杭2,…をその径より長い所定間隔をあけて設置することを特徴とする。
【0008】
請求項1記載の発明によれば、既存の堤体1の前側(水域側)に、当該堤体1と間隔をあけた状態で、当該堤体1と並行に鋼管杭2,…が互いに間隔をあけて並べられた状態となる。なお、鋼管杭2,…は、その下部が地盤内に埋設され、その上部が少なくとも堤体1とほぼ同じ高さもしくは堤体1より高い高さに配置されていることが好ましい。
このように、複数の鋼管杭2,…を互いに間隔をあけて堤体1の前側に配置することで、堤体1より先に鋼管杭2,…が波が当ることになり、鋼管杭2,…により波力が減少した後に、波が堤体1に当ることになる。すなわち、鋼管杭2,…により消波され、堤体1が補強された状態となる。
【0009】
また、このような構成では、上述のように互い間隔をあけて並べられた鋼管杭2,…により波力が減少し、また、既存の堤体1とこの堤体1から間隔をあけて列状に配置された鋼管杭2,…との間に形成される空間(遊水室10)により波力が減少し、さらに、既存の堤体1により波力が減少することになる。また、後述するように消波ブロック6,…が残されていれば、既存の消波ブロック6,…によりさらに波力が減少することなる。すなわち、本発明の消波機能付き堤体補強構造によれば、四重に波力が減少させられ、必要十分な消波機能を得ることができる。
【0010】
また、鋼管杭2,…の施工は、例えば、周知の既設の鋼管杭2…から反力をとって鋼管杭2,…を圧入可能な杭圧入引抜機を用いて行うことが可能である。ここで、杭圧入引抜機は、圧入された鋼管杭2,…上で順次新たに鋼管杭2,…を圧入しながら移動可能であり、水面上の作業が可能となっているので、施工現場を締め切って排水する必要がなく、仮設工事を必要としない。すなわち、施工前のほぼ現状のまま鋼管杭2,…の圧入を開始できるので、仮設用の工程を無くして、少ない工程で短期間に施工することができる。なお、例えば、陸側から鋼管杭を打設するなどにより、排水せずに鋼管杭2,…を設置可能であれば、必ずしも前記杭圧入引抜機を用いなくても良い。
【0011】
また、鋼管杭2,…をその軸回りに回転させながら圧入可能な杭圧入引抜機を用いると後述のようにコンクリート製の消波ブロック6,…を貫入(貫通)して鋼管杭2,…を地盤に圧入することも可能であり、基本的には、鋼管杭2,…を圧入する範囲の消波ブロックを撤去する必要がなく、工期の短縮を図ることができる。
また、以上のことから、施工中も既存の堤体1及び消波ブロック6,…による防護機能が損なわれることがなく現状が維持されることになる。また、既存の堤体1及び消波ブロック6,…がほぼ現状のままとなるので、施工中の環境変化等がほとんどない。すなわち、施工による環境への影響を最小限度のものとすることができ、現状の自然環境を保全することができる。また、既存の構造物がそのまま維持されるので廃材が発生することもない。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の消波機能付き堤体補強構造において、既設の前記堤体1と、前記堤体1の水域側に並んで設置された鋼管杭2,…との間の空間の上部を覆うとともに、前記堤体1と前記鋼管杭2,…の列との間に架け渡され、かつ、前記堤体1と前記鋼管杭2,…とにそれぞれ連結される鉄筋コンクリート製の天板部7を設けることを特徴とする。
【0013】
請求項2記載の発明によれば、請求項1と同様の効果を奏することができるとともに、鋼管杭2,…と既存の堤体1を天板部7により連結した状態とすることで、既存の堤体1をより強固に補強することができる。また、鋼管杭2,…の列と既存の堤体1との間に形成される遊水室10から撥ねる水が堤体1を超えて陸側を濡らすのを防止することができる。また、天板部7が鋼管杭2,…から既存の堤体1まで配置されることで、天板部7の幅は、既存の堤体1の上面より広くなり、この天板部7上に、遊歩道等の親水施設12を配置して有効利用を図ることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の消波機能付き堤体補強構造において、前記天板部7上に親水施設12が設けられていることを特徴とする。
請求項3に記載の発明によれば、天板部7上に親水施設12が設けられるので、新たに構築された消波機能付き堤体補強構造により、人々が海岸沿いの環境を有効に利用することができる。なお、親水施設12は、遊歩道やサイクリングロードや緑地帯や釣り公園や、親水公園等であり、また、これらを組合わせたものであっても良い。すなわち、親水施設12は、水辺の環境を楽しむことが可能な設備ならばどのようなものであっても良く、公衆の海岸の適正な利用が確保できるものであることが好ましい。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の消波機能付き堤体補強構造において、前記鋼管杭2,…の上端を前記堤体1上端より高くし、前記天板部7を前記堤体1上に設けることを特徴する。
請求項4に記載の発明によれば、請求項2に記載の天板部7の効果に加えて、天板部7の上面が既存の堤体1より高くなり、既存の堤体1が嵩上げされるように補強された状態となる。すなわち、既存の堤体1が天板部7により嵩上げされ、より高い高波に対応可能に補強されることになる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の消波機能付き堤体補強構造において、前記鋼管杭2,…は、前記堤体1の水域側に既設の消波ブロック6,…が配置された状態で、前記消波ブロック6,…を貫入した状態に水域側の地盤に圧入されていることを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、消波ブロック6,…を撤去して再設置する必要がないので、コストの低減及び工期の短縮を図ることができる。また、施工中も消波ブロック6,…によって波力が減少され、施工中の防護機能を確保することができる。また、施工後も既存の消波ブロック6,…によって波力を減少することができる。
また、消波ブロック6,…の一部が鋼管杭2,…が貫入されることで固定され、台風等による消波ブロック6,…の損傷や流失を防止することができる。
なお、全ての鋼管杭2,…が消波ブロック6,…に貫入した状態となっている必要はなく、一部の鋼管杭2,…が消波ブロックに貫入した状態となっていれば良い。また、上述のように消波ブロック6,…が鋼管杭2,…の圧入が困難な状態に配置されている場合には、一部の消波ブロック6,…を撤去もしくは移動しても良い。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の消波機能付き堤体補強構造において、前記鋼管杭2,…を略垂直に設置するとともに、前記鋼管杭2,…に対して斜めとなる傾斜鋼管杭11を前記鋼管杭2,…の上端部から前記堤体1下部に向かって斜めに設置することを特徴とする。
【0019】
請求項6に記載の発明によれば、傾斜鋼管杭11により鋼管杭2,…の補強を行うことができ、また、既存の堤体1の補強も可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、仮設工程を必要とせずに少ない工程で短期間に既存の堤体に消波機能を付与するとともに既存の堤体を補強することができる。また、廃材も発生せず、施工中の環境への影響をほとんどなく、現状の環境を保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図1(A)、(B)を参照して、本発明の実施の形態の消波機能付き堤体補強構造を説明する。
図1に示すように、消波機能付き堤体補強構造は、既存の堤体1に消波機能を付加するとともに、既存の堤体1を補強するためのものであり、堤体1の前方の水域側に、堤体1に沿って当該堤体1の水域側の側面と前後に間隔を開けて略平行となるように複数の鋼管杭2,…を並べて設置し、かつ、鋼管杭2,…と堤体1との間に所定間隔をあけるとともに、隣り合う鋼管杭2,…をその径より長い所定間隔をあけて設置したものである。
既設の堤体1は、ここで、例えば、重力式壁体に代表されるコンクリート構造物であり、下部が地盤内に埋設された状態となっている。
なお、図1は、海岸の断面を示すものであり、図中既設の堤体1の左側が海となっており、右側が陸となっている。そして、堤体1の裏側となる堤体に隣設する部分は、道路4等として利用可能な状態となっており、さらに、後方側には家屋3等が有るものとなっている。また、道路4と家屋3との境界部分に排水溝5が形成されている。一方、堤体1の海側は、傾斜面となっており、傾斜面は潮位にもよるが水面下となっている。そして、堤体1の海側には、多数の既設の消波ブロック6,…が配置された状態となっている。
【0022】
鋼管杭2,…は、周知のものであり、例えば、後述するように杭圧入引抜機20により軸回りに回転させられながら圧入されたものであり、その下部が地盤内に圧入され、上部が地盤より上方に略垂直に延出した状態となっている。鋼管杭2,…は、波力等に対して十分な強度が得られる深さまで地盤に圧入されている。また、鋼管杭2,…は、地盤上に配置された消波ブロック6,…を貫通した状態で地盤に圧入されるようになっている。
【0023】
すなわち、鋼管杭2,…を回転させながら圧入することで、鋼管杭2,…の下端部がコンクリート製の消波ブロック6,…に円形状の穴を開けながら貫入されていくことになる。なお、鋼管杭2,…の下端部に消波ブロック6,…等のコンクリート製構造物に容易に穴を開けられるように刃口を取り付けるものとしても良い。
また、鋼管杭2,…は設置された状態で、その上端が既設の堤体1の上端より高くされている。また、鋼管杭2,…と既設堤体1との間隔(例えば、堤体1上部の側面と、鋼管杭2の外周面との最短距離)は、例えば、1〜3m程度とされており、例えば、鋼管杭2,…の径程度から鋼管杭2,…の径の数倍程度までの間隔とされている。
【0024】
また、鋼管杭2,…は、既設の堤体1の延在方向にそって一列に並べて配置されるとともに、ほぼ等間隔で配置されている。また、隣り合う鋼管杭2,…同士の間隔(例えば、鋼管杭2,…の中心間の距離)は、鋼管杭2の径の1.5倍程度から2倍程度となっている。すなわち、鋼管杭2,…同士の間隙は、鋼管杭2,…の半径から直径程度の距離となっている。
【0025】
また、列状に配置された鋼管杭2,…の上端部と、堤体1の上端部との間には、既設の堤体1に対して新設のコンクリート構造物である天板部7が架け渡された状態に設けられている。天板部7は、堤体1上において、堤体1とほぼ同じ前後幅を有する状態で、堤体1を堤体1より高い鋼管杭2,…の高さまで嵩上げする嵩上げ部71と、嵩上げ部71の上部から鋼管杭2、…の側面の外周面に向かってスラブ状に略水平に延出する延出板部72とが一体に形成された状態となっている。
すなわち、既設の堤体1と、堤体1の水域側に並んで設置された鋼管杭2,…との間の空間(遊水室10)の上部を覆うとともに、堤体1と鋼管杭2,…の列との間に架け渡され、かつ、堤体1と鋼管杭2,…とにそれぞれ連結される鉄筋コンクリート製の天板部7を設けている。
また、鋼管杭2,…の上端を堤体1上端より高くし、天板部7を堤体1上に設けていることになる。
【0026】
また、鋼管杭2,…の外周の上端部には、複数のスタッド8,…が溶接され、このスタッド8,…を用いて鋼管杭2,…とコンクリート製の天板部7とを接合するようになっている。また、堤体1の上面にアンカーを挿入する複数の穴が形成され、該穴に下部を挿入されて固定された状態にケミカルアンカー9,…を取り付け、これらケミカルアンカー9,…により既設の堤体1と新設の天板部7とが接合されるようになっている。
【0027】
図2は、本発明の消波機能付き堤体補強構造の変形例を示すものであり、図1に示された上述の構成に加えて、垂直に設置された鋼管杭2,…に対して傾斜した傾斜鋼管杭11が設置されている。傾斜鋼管杭11も鋼管杭2,…と同様に回転させならが圧入されることになる。また、傾斜鋼管杭11の上端の位置が鋼管杭2,…の上端の位置と略等しくされ、傾斜鋼管杭11の下部は、堤体1に貫入された状態に圧入されるようになっている。
すなわち、鋼管杭2,…を略垂直に設置するとともに、鋼管杭2,…に対して斜めとなる傾斜鋼管杭11,…を鋼管杭2,…の上端部から堤体1下部に向かって斜めに設置することになる。これにより、鋼管杭2,…及び堤体1が補強される。
【0028】
なお、傾斜鋼管杭11は、例えば、垂直な鋼管杭2,…と同様の間隔で、鋼管杭2,…と同数設置するものとしても良いが、鋼管杭2,…複数本に対して、傾斜鋼管杭11を1本設置するものとしても良い。また、傾斜鋼管杭11と鋼管杭2とにおいてそれぞれの径が略等しくなっていても良いし、異なるものとなっていても良く、鋼管杭2に対して傾斜鋼管杭11が細くなっていても良い。
また、傾斜鋼管杭11の上端部にもスタッド8が溶接され、傾斜鋼管杭11とコンクリート製の天板部7とが接合されている。これにより、消波機能付き堤体補強構造全体が傾斜鋼管杭11により補強される。
【0029】
また、図2に示す例においては、前記天板部7上に親水施設12として人の出入りが可能な緑地帯とサイクリングロード及び遊歩道として利用可能な縁道とが設けられている。なお、天板部7上にさらに例えばアスファルト等を打設したり、タイルや敷石等を配置することで、縁道を形成するとともに、例えば、縁道の左右の路肩部分に植栽を行って緑地帯を形成している。また、親水施設12の前後には手摺り13が設けられている。また、親水施設12に人の出入りが可能となるように、堤体1の陸側には、道路4から天板部7上の親水施設12に至る階段やスロープ等が設けられている。なお、海側の状況によっては、親水施設12から海岸に降りられるように階段やスロープを設けても良く、これにより親水性を高めることができる。
【0030】
以上のような消波機能付き堤体補強構造の施工方法を説明する。まず、堤体1の海岸側に鋼管杭2,…を所定間隔毎に一列に設置することになる。この場合には、図3に示す周知の杭圧入引抜機20を用いる。杭圧入引抜機20は、先に圧入された鋼管杭2,…の上端部内に挿入されて外側に押し開くことで前記鋼管杭2,…を掴む複数のクランプ21,…を備えたサドル22と、サドル22に対して前後動可能なスライドベース(図示略)と、スライドベース上で略垂直な回転軸回りに左右に旋回移動可能なマスト24と、マスト24の前面で杭圧入引抜機20の前後方向に沿った回転軸回りに回転可能な回動リーダ25と、回動リーダ25に沿ってスライド移動(昇降)するチャック装置27と、チャック装置27に設けられ、チャック装置27に対してリーダ方向に沿った回転軸回りに回転自在で鋼管杭2を外周側から掴む杭チャック28とを有するものである。
この杭圧入引抜機20は、先に圧入された鋼管杭2,…から反力を取って(最初の数本の鋼管杭2は、専用のカウンタウエイトや、反力を取るために設置された構造物等から反力を取る場合もある)、鋼管杭2をその軸回りに回転させながら地盤に圧入し、順次圧入された鋼管杭2,…上を移動しながら、さらに、鋼管杭2,…を圧入可能となっている。
【0031】
また、常時は、杭圧入引抜機20において、回動リーダ25を垂直方向に沿わせて略垂直に鋼管杭2を圧入する構成となっているが、回動リーダ25を傾けることで斜めに鋼管杭2(傾斜鋼管杭11)を圧入することも可能となっている。この場合も、傾斜鋼管杭11を回転させながら圧入可能となっている。
また、鋼管杭2(傾斜鋼管杭11)の先端部に刃口等を設けることで、鋼管杭2をコンクリート等の構造物に回転させながら貫入させることも可能となっている。
【0032】
上述の杭圧入引抜機20を用いて鋼管杭2を堤体1の海側に並べて圧入する場合には、杭圧入引抜機20が水面上に出た鋼管杭2の上にある状態で、鋼管杭2の圧入を行えることから現場で締切壁を構築して排水する必要がない。また、鋼管杭2は陸側からクレーンにより供給したり、鋼管杭2上を自走可能な周知のクレーンを用いることで、杭圧入引抜機に供給可能である。
従って、最初の数本の鋼管杭2,…を圧入する際に、反力を取るためにカウンタウエイトを設置したり構造物を構築したりする以外は、仮設構造物を必要とせず、仮設工事の工程及び工期が必要なく、コストの削減と工期の短縮を図ることができる。
【0033】
そして、杭圧入引抜機20により、上述のように堤体1から海側に離間して所定の間隔で鋼管杭2を圧入していく。この場合には、鋼管杭2を消波ブロック6,…に貫入させることが可能なことから、消波ブロック6,…を撤去することなく配置したまま、消波ブロック6,…を貫通するように鋼管杭2,…を圧入することができる。なお、消波ブロック6,…の配置によっては、鋼管杭2の圧入が困難な場合もあるので、その場合は、一部の消波ブロック6,…を撤去もしくは移動する。
【0034】
そして、鋼管杭2,…を堤体1に沿って一列に圧入した後に、天板部7を構築する。なお、さらに補強するために、天板部7を構築する前の鋼管杭2の圧入の際に、傾斜鋼管杭11を圧入しても良い。この場合には、略垂直に圧入された鋼管杭2から反力を取った状態で、上述の回動リーダ25を斜めにして傾斜鋼管杭11を圧入する。
【0035】
天板部7の構築に際しては、鋼管杭2(及び傾斜鋼管杭11)の上端部にスタッド8,…を溶接するとともに、既設の堤体1の天板部7の接合部上にアンカー用の穴をあけ、ケミカルアンカーを設置する。
そして、配筋を行うとともに型枠を建て込み、コンクリートを打設する。コンクリートの養生後型枠を撤去する。
また、天板部7上に縁道や緑地、手摺り13等からなる親水施設12を構築する。
【0036】
すなわち、天板部7を堤体1と該堤体1から離間した位置にある鋼管杭2の列との間に架け渡すことにより、既設の堤体1の上面より広い面積を天板部7上に確保することができ、遊歩道やサイクリングロードとして十分に広い面積を確保できるとともに、緑地帯や釣り公園や親水公園等の設備も構築可能となる。
【0037】
そして、以上のような消波機能付き堤体補強構造によれば、既設の消波ブロック6,…及び堤体1による波力の減少に加えて、互いに適度に間隔をあけて配置された鋼管杭2,…により波力が減少されるとともに、鋼管杭2,…と堤体1との間の空間を遊水室10とし、この遊水室10で波力を減少させることができる。また、天板部7を既設の堤体1上に設けることで、堤体1を嵩上げした状態となり、より高い高波に対応可能となる。
なお、鋼管杭2の列を一列としたが鋼管杭2を堤体1に沿って複数列に配置しても良い。また、天板部7を設けなくても、上述の波力の減少の効果を得ることができるが、堤体1を構造的に補強する上では、天板部1を設けた方が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態の消波機能付き堤体補強構造を示す図面である。
【図2】消波機能付き堤体補強構造の変形例を示す図面である。
【図3】消波機能付き堤体補強構造の鋼管杭、傾斜鋼管杭を圧入する杭圧入引抜機を示す図面である。
【符号の説明】
【0039】
1 既設の堤体
2 鋼管杭
6 消波ブロック
7 天板部
10 遊水室(堤体と鋼管杭との間の空間)
11 傾斜鋼管杭
12 親水施設

【特許請求の範囲】
【請求項1】
岸に設けられた既設の堤体を補強するとともに消波機能を付加するための消波機能付き堤体補強構造であって、
前記堤体の水域側に、前記堤体に沿って当該堤体の側面と前後に間隔を開けて略平行となるように鋼管杭を並べて設置し、
かつ、前記鋼管杭と前記堤体との間に所定間隔をあけるとともに、隣り合う鋼管杭をその径より長い所定間隔をあけて設置することを特徴とする消波機能付き堤体補強構造。
【請求項2】
既設の前記堤体と、前記堤体の水域側に並んで設置された鋼管杭との間の空間の上部を覆うとともに、前記堤体と前記鋼管杭の列との間に架け渡され、かつ、前記堤体と前記鋼管杭とにそれぞれ連結される鉄筋コンクリート製の天板部を設けることを特徴とする請求項1に記載の消波機能付き堤体補強構造。
【請求項3】
前記天板部上に親水施設が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の消波機能付き堤体補強構造。
【請求項4】
前記鋼管杭の上端を前記堤体上端より高くし、前記天板部を前記堤体上に設けることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の消波機能付き堤体補強構造。
【請求項5】
前記鋼管杭は、前記堤体の水域側に既設の消波ブロックが配置された状態で、前記消波ブロックを貫入した状態に水域側の地盤に圧入されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の消波機能付き堤体補強構造。
【請求項6】
前記鋼管杭を略垂直に設置するとともに、前記鋼管杭に対して斜めとなる傾斜鋼管杭を前記鋼管杭の上端部から前記堤体下部に向かって斜めに設置することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の消波機能付き堤体補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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