説明

消耗電極式溶接トーチ

【課題】500Hz以上の高い振動数で溶接ワイヤを振動させ溶滴移行を確実に行い、スパッタの発生を抑制できる消耗電極式溶接トーチを提供する。
【解決手段】トーチ本体に中空状の取付ジグが設けられ、この取付ジグに消耗電極である溶接ワイヤ2を保持する長尺のチップボディ4が設けられている消耗電極式溶接トーチ1において、チップボディ4は、取付ジグの内部に弾性支持部材11を介して支持され、この弾性支持部材11はチップボディ4の自由状態における曲げ1次の振動モードの節部Nを支持しており、チップボディ4には、当該チップボディ4を曲げ1次の振動モードで共振させる圧電素子8が設けられている構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消耗電極式溶接、特に消耗電極を使用したガスシールドアーク溶接に使用する消耗電極式溶接トーチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、消耗電極を用いたガスシールドアーク溶接において、消耗電極である溶接ワイヤを振動させることにより、スパッタの発生を抑制する方法が提案されている。その技術の一つとして、特許文献1や特許文献2がある。
特許文献1の溶接トーチは、溶接ワイヤを軸線方向に振動させることにより、溶滴を溶接ワイヤ先端から容易に離脱させ、大粒のスパッタの発生を抑制させるものである。通常の溶接下での溶滴移行回数(溶滴発生回数)は1秒間に50回から100回と言われており、この溶滴移行のタイミングに合わせた高周波数で振動させることで、確実な溶滴移行を行わせスパッタの発生等を抑制するものとなっている。高周波で振動させる機構としては、特許文献1の図2に示すように、溶接トーチ内にワイヤガイドを設け、ワイヤガイドに連結した駆動装置によりワイヤガイドを揺動させ、ワイヤを軸線方向に振動させるものとなっている。
【0003】
特許文献2に開示された溶接トーチは、トーチの先端に設けられているスプリングと、このスプリングを支点として揺動するように基端が当該スプリングに取付けられ且つ先端にはチップが取付けられているチップボディ(ワイヤ供給ノズル)と、このチップボディの対向側面に配設された一対の磁性金属と、磁性金属の外側にコイル中心が一致するように配設された一対の電磁コイルと、電磁コイルに電圧を印加する電圧発生装置とを備えている。この溶接トーチにおいて、一対の電磁コイルに交互に電圧を印加することによりチップボディがスプリングを支点として数十Hzの高速振動を実現可能とし、適切な溶接ビードを形成するようにしている。
【0004】
一方、本願出願人は、溶接ワイヤを500Hz以上の高い振動数でワイヤ軸線直角方向に振動させれば、溶接ワイヤ先端での溶滴移行がスムーズに行われ、スパッタを低減できることを明らかにし、特許文献3として出願済みである。
【特許文献1】特開2003−10970号公報
【特許文献2】特許3117288号公報
【特許文献3】特開2007−190564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の溶接トーチはトーチ内部にワイヤガイドを設けるといった構造上、トーチの小型化が難しい。また、トーチ内部で溶接ワイヤが屈曲した構造となる為に、溶接ワイヤの滑らかな送給が困難となる等、実使用に際しての構造上の難点が多い。
また、特許文献2の技術は、チップボディがその基部に配置されたスプリングを支点として、電磁力により強制的にチップボディ全体をワイヤ軸線直角方向に振動させる構造となっているため、当業者であれば、かかる溶接トーチにおいて、スパッタ抑制に効果的な500Hz以上の高周波振動を安定して発現させることは難しいことは十分予見できる。
【0006】
すなわち、通常考えられる溶接トーチや溶接ワイヤの現実的な質量、剛性では、500Hz以上もの高い振動数の加振力を与えると、チップボディ根本のスプリングは支点として作用はせず、溶接トーチ自体にも振動が生じると共にチップボディ自体も曲げ変形を生じ、特許文献2で期待される振動形態とはならないことが十分予想される。さらに、チップボディのスプリング側(基端側)に加振力を与える構成では、チップ先端のワイヤはほとんど揺れず、基端側のみ振動するという自体も想定されるため、特許文献2の溶接トーチは、500Hz以上の高周波振動を伴いながらの溶接には適用が困難であると思われる。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題点を鑑み、500Hz以上の高い振動数で溶接ワイヤを振動させ溶滴移行を確実に行い、スパッタの発生を抑制できる消耗電極式溶接トーチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明に係る消耗電極式溶接トーチは、トーチ本体に中空状の取付ジグが設けられ、該取付ジグ内に消耗電極である溶接ワイヤを保持する長尺のチップボディが設けられているものであって、前記チップボディは、前記取付ジグの内部に弾性支持部材を介して支持され、該弾性支持部材は前記チップボディの自由状態における曲げ1次の振動モードの節部を支持しており、前記チップボディには、当該チップボディを曲げ1次の振動モードで共振させる圧電素子が設けられていることを特徴とする。
【0009】
これによれば、圧電素子の加振により、チップボディが曲げ1次の振動モード形状で共振状態となり、チップ先端から突出している溶接ワイヤを500Hz以上の高い振動数で軸直角方向に振動させることができるようになる。それにより、溶滴移行を確実に行い、スパッタの発生を抑制可能となる。
なお好ましくは、前記チップボディは、中心部に溶接ワイヤが貫通し、先端部に前記溶接ワイヤを保持するチップを有し、中途部には当該チップボディの径方向に突出状の鍔部材がチップボディの軸心方向に沿って一対備えられていて、前記圧電素子は、その伸縮方向が前記チップボディの軸心方向に沿うように前記一対の鍔部材の間に少なくとも1つ設けられている構成とするとよい。
【0010】
こうすることで、溶接トーチのコンパクト化が図れるようになる。
さらに好ましくは、前記チップボディの曲げ1次モードの固有振動数の変化に前記圧電素子の伸縮の周波数を追従させるべく、圧電素子の駆動周波数を可変とする自動追尾手段を備えているとよい。
こうすることで、溶接時に本溶接トーチの温度変化により固有振動数が変化したとしても、常に共振状態を維持して効率的に溶接ワイヤを振動させることができる。
また好ましくは、前記鍔部材、圧電素子、チップボディの少なくともいずれか1つを冷却する冷却手段を有しているとよい。
【0011】
これにより、溶接中で高温となった溶接トーチにおいても、チップボディ、鍔部材、それに支持される圧電素子の温度上昇を確実に抑えることが可能となる。
特に好ましくは、前記冷却手段は、内部を冷却液が流通可能となっている管状部材と、冷却液が流通可能となっている中空部を備えた前記鍔部材とを有し、前記管状部材が鍔部材の中空部に連通しているとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る消耗電極式溶接トーチを用いることで、高い振動数で溶接ワイヤを振動させ溶滴移行を確実に行い、スパッタの発生を確実に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る消耗電極式溶接トーチの実施の形態を、図を基に説明する。
[第1実施形態]
図1には、消耗電極式溶接トーチ1の第1実施形態の正面断面図が示されている。
消耗電極式溶接トーチ1(以下、単に溶接トーチと呼ぶこともある)は、溶接ワイヤ2を保持すると共に溶接ワイヤ2に電流を供給するチップ3と、このチップ3が先端部に取り付けられた棒状長尺のチップボディ4を有している。チップボディ4及びチップ3の中心部を溶接ワイヤ2が貫通している。また、溶接トーチ1は、シールドガスを供給して溶接部を大気から保護するノズル5と、ノズル5やチップボディ4を保持すると共に、溶接ワイヤ2への給電や送給、冷却水の供給などのための装置が組み込まれたトーチボディ6(トーチ本体)を備えている。
【0014】
なお、図1においる右側すなわち溶接が行われる側を実際の装置での前側又は先端側と呼び、図1での左側を実際の装置での後側又は後端側と呼ぶものとする。図1における上下を実際の装置での上下と呼ぶ。
チップボディ4の後部側には、一対の円板状の鍔部材7A,7Bが当該チップボディ4と同軸状に設けられている。鍔部材7A,7Bはチップボディ4の径外方向に張り出すように設けられている。一方の鍔部材7Aはチップボディ4の後端側と略面一に設けられ、他方の鍔部材7Bは一方の鍔部材7Aと所定間隔だけ離れた前側に設けられるものとなっている。鍔部材7A,7Bはチップボディ4と一体成形もしくはネジ構造とし、チップボディ4にしっかりと固定される構造とする。なお、鍔部材7A,7Bをネジ式とする場合には、接着剤やダブルナットで固定する等、振動によりネジが緩まない様にすることが望ましい。
【0015】
一対の鍔部材7A,7B間であって鍔部材7A,7Bの周縁側には圧電素子8が設けられている。圧電素子8は、積層形の圧電素子8であって印加電圧の周波数に連動し長手方向に伸縮する。その伸縮方向がチップボディ4の前後方向(チップボディ4に沿った方向)となるように1つ以上設けられている。本実施形態の場合、圧電素子8は鍔部材7A,7Bの上部側に1つ設けられているが、下側に設けられていてもよく、上下に一対設けられていてもよい。上下一対の場合は両圧電素子8,8には逆位相の変動電圧を与えるとよい。圧電素子8を上下2個配置することで、単独配置に比して小型の圧電素子8を利用でき、装置全体をコンパクトにできる。
【0016】
圧電素子8と鍔部材7A,7Bとの間には、溶接時の圧電素子8の温度上昇の抑制を目的として断熱材9を設けている。また、前後一対の鍔部材7A,7Bで圧電素子8に圧縮荷重を与えた状態で固定している。断熱材9は、圧電素子8の伸縮を鍔部材7A,7Bに確実に伝えるために、セラミック等の剛性の高い部材を用いるとよい。鍔部材7A,7B自体を剛性や強度が十分に高い断熱材で製作することも可能である。
なお、本実施形態のチップボディ4に関しては、自由状態(フリー状態)での曲げ1次モードの振動が図2の如くなるように、チップボディ4及び鍔部材7A,7Bの寸法、形状、重量等が選択されている。振動モードの算出、それに基づく各部材の寸法などの設計は、梁の振動理論や既存の振動モデル等を用いるとよい。
【0017】
図1に示すように、チップボディ4においては、一対の鍔部材7A,7B間の略中央、及びチップ3の後側が振動の節(節部N)となる。一対の鍔部材7A,7B間略中央に現れる節部Nの位置において、チップボディ4をトーチボディ6の先端に設けられた筒状ジグ10(取付ジグ)と連結するようにしている。具体的には左右方向に延びる弾性支持部材11(長方形の平板)を介して取り付ける。弾性支持部材11にステンレスや鋼、銅、アルミなどの金属材料を利用することにより、筒状ジグ10からチップボディ4に溶接用の電流を供給できる。
【0018】
図2に示されている如く、チップボディ4の後端側は先端側に比べて質量が大きくなるために、その振動振幅が小さくなる。一方、溶接ワイヤ2の先端においては、節部Nから離れた位置かつ弾性変形の効果からより大きな振動が発現する。このようなチップボディ4の曲げ1次モードを利用することにより、圧電素子8自体で発生する小振幅の振動で溶接ワイヤ2先端での大振幅の振動(溶接ワイヤ2先端の振幅:約0.1mm)を実現している。
ところで、曲げ1次モードの節部Nにおいては、水平方向の変位は小さいものの回転方向の変位(図2の×に対し紙面垂直な軸心周りの捩れ変位)は比較的大きく生じる。そこで、かかる回転変位を拘束しないように、弾性支持部材11としては「ねじれ剛性」が低くなる平板を利用している。しかしながら、弾性支持部材11の剛性があまりにも低いとチップボディ4にふら付きが生じるため、適度な堅さ(剛性)が必要である。目安としては、弾性支持部材11の変形によるチップボディ4の固有振動数が、チップボディ4単体の固有振動数の1/2〜1/3より低く、かつ、チップボディ4のふら付きが問題とならない剛性とする。なお、本発明では500Hz以上の振動数を目標としている為、この条件は容易に実現できる。
【0019】
なお、節部Nの位置と弾性支持部材11の取り付け位置とを厳密に一致させる必要はない。なぜならば、取り付け位置が若干ずれていても、弾性支持部材11が曲げ変形をするためチップボディ4の回転変位の拘束が起こらず、曲げ1次モードへの影響は生じないからである。
図1に示される如く、チップボディ4が弾性支持部材11を介して内部に取り付けられている筒状ジグ10に関しては、その後端側が溶接トーチ1に取り付けられ、先端側には漏斗形状のインシュレータ12が設けられている。このインシュレータ12の先端にはチップ3が内部貫通状となるようにノズル5が設けられている。
【0020】
インシュレータ12には樹脂やセラミック材料が用いられ、ノズル5を固定すると共にノズル5自体の電気的絶縁を行う。筒状ジグ10との結合部が絶縁構造となっていれば、インシュレータ12は金属材料で構成されていてもよい。
なお、トーチボディ6からノズル5までの構造は、シールドガスを溶接部へ送る役目も兼ねている為に密閉配管状とする。すなわち、トーチボディ6側から供給されたCO2等のシールドガスは、筒状ジグ10→インシュレータ12→ノズル5を通ってノズル5先端から溶接ワイヤ2を取り囲むように噴出される。筒状ジグ10内を通るシールドガスは圧電素子8や鍔部材7A,7Bを冷却する効果も有する。シールドガスをトーチボディ6→チップボディ4の内部→チップボディ4の側面に設けた数箇所の穴(図示せず)→インシュレータ12→ノズル5と供給するようにしてもよい。
【0021】
上述した溶接トーチ1を使用するに際しては、まず、筒状ジグ10内に配備されたチップボディ4に溶接ワイヤ2を挿入・貫通させる。その後、チップボディ4の先端にチップ3をしっかりと締結する。その後、チップ3を介して溶接ワイヤ2に電流を供給し溶接を行うようにする。その際、筒状ジグ10内にトーチボディ6側からCO2ガスなどのシールドガスを供給するようにする。これにより、溶接部近傍において酸素が遮断されたガスシールド状態となる。
溶接ワイヤ2の振動数は、圧電素子8及び圧電素子8を取り付ける為の鍔部材7A,7Bを含めたチップボディ系Sの固有振動数により決まる。チップボディ系Sの固有振動数は、チップボディ4の長さや径、鍔部材7A,7Bの質量等を変更することで容易に調整でき、500Hz以上の高い固有振動数を持たせることが可能である。
【0022】
溶接時には、鍔部材7A,7B間に配備された圧電素子8に、チップボディ系Sの固有振動数と同じ周波数を有する駆動電圧を印加する。すると、チップ3とチップボディ4とは一体で振動し圧電素子8により共振状態となる。したがって、チップボディ系Sの固有振動数及び圧電素子8の駆動電圧を調整することにより、高周波で溶接ワイヤ2の先端を軸心直角方向に振動させ溶滴移行を確実に行い、スパッタの発生を抑制できることとなる。
チップボディ4は、ガタの無い一体型構造とされているため、振動の減衰が小さく大きな共振倍率が得られる。加えて、曲げ1次モードの節部Nが弾性支持されているため、チップボディ系Sの固有振動特性はほとんど変化しておらず、弾性支持部材11(支持点)からトーチボディ6ヘの振動エネルギ流出が最小限に抑えられるものとなっている。
【0023】
なお、弾性支持部材11の剛性を低くすれば(柔支持すれば)、チップボディ4の振動の大きな箇所(腹部)の支持でも同様の効果(固有振動数の変化小、エネルギ流出小)が得られるが、柔支持に伴い拘束力が弱い為に、チップボディ4が下方に傾いたり溶接トーチ1を移動させる際にふらついたりすることにより、ワイヤ先端の位置決め精度が低下する。そのため、節部Nでの支持が必要不可欠である。
以上述べた溶接トーチ1の実施形態の別例として、図3に示すようなものも考えられる。すなわち、一対の鍔部材7A,7Bを側面視で矩形状の凸状部材としている。この凸状の鍔部材7A,7Bをチップボディ4と一体成形や溶接により完全に固定した上で、鍔部材7Aに設けた押しネジ13を利用して、鍔部材7A,7B間に圧電素子8を押圧状態で設置している。
[第2実施形態]
次に本発明に係る消耗電極式溶接トーチの第2実施形態について述べる。
【0024】
図4,図5に示すように、第2実施形態が第1実施形態と大きく異なる点は、チップボディ4の曲げ1次モードの固有振動数の変化に圧電素子8の伸縮の周波数を追従させるべく、圧電素子8が当該圧電素子8の駆動周波数を可変とする自動追尾手段20に接続されていることにある。他の構成は第1実施形態と略同一である。
チップ3およびチップボディ4は溶接時には温度が上がり、それらを構成する金属のヤング率の低下などによりチップボディ系Sの固有振動数が変化する。固有振動数からある程度離れた周波数で圧電素子8を加振している場合は、温度変化等に伴う固有振動数の変化の影響は大きく無いが、共振状態で加振を行う場合は、固有振動数の変化に応じて溶接ワイヤ2の振動振幅は大きく変化する。チップボディ系Sの固有振動数の変化に応じて、圧電素子8の駆動周波数を変化させる自動追尾を行うことにより、かかる状況に柔軟に対応することができる。
【0025】
図4は、本実施形態の溶接トーチ1を示したものである。
溶接トーチ1に設けられた鍔部材7Aには、振動周波数等を検出可能な振動センサ21が設けられていて、実測された周波数は自動追尾手段20へ送られるようになっている。自動追尾手段20は、制御回路22、周波数発生器23、圧電素子駆動アンプ24から構成されている。
自動追尾手段20の制御回路22に送られた「チップボディ4の振動周波数の実測信号」は、圧電素子駆動アンプ24の出力信号と比較され、それらの位相差が一定になるように共振周波数が算出される(PLL制御)。算出された共振周波数は周波数発生器23に送られ、かかる共振周波数を有する正弦波が発生される。この正弦波は圧電素子駆動アンプ24へ送られて増幅され出力信号となり、圧電素子8を駆動するようになる。
【0026】
このようにすることで、チップ3およびチップボディ4の温度が変化したとしても、常に圧電素子8はチップボディ4を共振状態とすることができ、溶接ワイヤ2を大きく振動させ溶滴移行を確実に行うことができる。
なお、振動センサ21は、チップボディ4の節部N以外であればどの位置に取り付けてもよい。
図5は、本実施形態にかかる別の溶接トーチ1を示したものである。
本実施形態のチップボディ4には、振動センサ21が設けられておらず、制御回路22へは、圧電素子8から発生する電流情報(電流値)が入力されるようになっている。共振時には、回路に流れる電流の位相が電圧の位相と一致することが明らかとなっているため、自動追尾手段20の制御回路22に送られた「圧電素子8の電流信号」は、圧電素子駆動アンプ24の電圧信号と比較され、それらの位相差が一致するように共振周波数が算出される(PLL制御)。算出された共振周波数は周波数発生器23に送られ、かかる共振周波数を有する正弦波が発生される。この正弦波は圧電素子駆動アンプ24へ送られて増幅され出力信号となり、圧電素子8を駆動するようになる。
【0027】
これにより、チップ3およびチップボディ4の温度が変化したとしても、常に圧電素子8はチップボディ4の共振状態とすることができ、溶接ワイヤ2を大きく振動させ溶滴移行を確実に行うことができる。
なお、共振時には、回路の電流値が最大となり、反共振時に電流値が最小となることも判っているため、圧電素子8の電流値を測定して最大または最小となるように共振周波数を制御してもよい。
[第3実施形態]
次に本発明に係る消耗電極式溶接トーチ1の第3実施形態について述べる。
【0028】
第3実施形態が第1実施形態と大きく異なる点は、チップボディ4、鍔部材7A,7B、圧電素子8を冷却する冷却手段30を有していることにある。他の構成は第1実施形態と略同一である。
図6,図7に示すように、前記冷却手段30は、内部を冷却液が流通可能となっている管状部材(供給管32、排出管33)と、冷却液(冷却水)が流通可能となっている中空部31を備えた鍔部材7A,7Bとを有し、前記管状部材32,33が鍔部材7A,7Bの中空部31に連通する構成となっている。
【0029】
図6は、前側の鍔部材7Bのみ水冷する構成となっている。
すなわち、チップ3側に近い鍔部材7Bの内部に中空部31が形成されている。この中空部31には、鍔部材7Bの側面側から、冷却水を供給する供給管32の先端が連通していて、冷却水を鍔部材7Bの中空部31へ導くものとなっている。一方、前側の鍔部材7Bの側面であって、供給管32が連接する位置とは上下(又は左右)反対位置側には、中空部31内の冷却水を外部に排出する排出管33が設けられている。中空部31内に供給された冷却水は、かかる排出管33を通ってトーチボディ6側へ戻ってゆくようになっている。
【0030】
なお、供給管32、排出管33とも筒状ジグ10を貫通する形で当該筒状ジグ10に固定されているため、チップボディ4を支持する弾性支持部材11の役目を兼ねる。特に、図6に示すように、チップボディ4の曲げの1次モードの節部N近傍で直角に曲がる構造(節部Nと屈曲部34とが対応する構造)としている。こうすることで、配管自体の捩れ剛性は比較的高いものの、鍔部材7Bの側面〜屈曲部34に亘る配管32,33の曲げ変形(片持ち状態にある配管の曲げ変形)により、「配管32,33の捩れ剛性に伴う拘束の影響」を軽減でき、チップボディ4は振動的にはフリーに近い状態では筒状ジグ10に支持されるものとなる。
【0031】
このように、溶接部に近い前側の鍔部材7Bを冷却することにより、圧電素子8に溶接による熱はほとんど伝達しない状況下となり、圧電素子8と鍔部材7Bとの間に配備された断熱材9を不要とすることも可能となる。鍔部材7Bの冷却によりチップボディ4自体も冷却されトーチボディ6側への伝熱も軽減されるようになる。
図7は、前後一対の鍔部材7A,7Bの両方を水冷する構成となっている。
すなわち、両鍔部材7A,7Bの内部に中空部31が形成されている。一方、筒状ジグ10の側面を貫通し内部に入り込むように設けられた供給管32は、途中で二股に分かれ、各先端部が両鍔部材7A,7Bの側面につながっており、それぞれの鍔部材7A,7Bの中空部31に連通していて、トーチボディ6側から供給された冷却水を当該中空部31へ導入可能となっている。
【0032】
鍔部材7A,7Bの側面であって、供給管32が連接する位置とは上下(又は左右)反対位置側には、中空部31内の冷却水を外部に排出する排出管33が設けられている。この排出管33は途中で一本の排出管33となり(すなわち、排出管33も二股形状である)、筒状ジグ10の側面を貫通し外部に導出される構造となっている。中空部31内に供給された冷却水は、かかる排出管33を通って再びトーチボディ6側へ戻ってゆく。
なお、二股に分かれる前の供給管32、二股に分かれる前の排出管33とも筒状ジグ10を貫通する形で当該筒状ジグ10に固定されていため、チップボディ4を支持する弾性支持部材11の役目を兼ねる。前述した「前側の鍔部材7Bのみ水冷する構成」と同様に、チップボディ4の曲げの1次モードの節部N近傍で直角に曲がる構造(節部Nと屈曲部34とが対応する構造)としている。ゆえに、チップボディ4は振動的にはフリーに近い状態では筒状ジグ10に支持されるものとなる。
【0033】
このように、両鍔部材7A,7Bを冷却することにより、圧電素子8には溶接に起因する熱はほとんど伝達しない状況となり、断熱材9を不要とすることも可能となる。鍔部材7A,7Bの冷却によりチップボディ4自体も冷却されトーチボディ6側への伝熱も軽減される。
総括するならば、圧電素子8は鍔部材7A,7Bを介してチップボディ4にしっかりと固定されているために溶接時の熱が伝わる。一般に、圧電素子8の許容温度は85℃から150℃度程度(圧電素子製造メーカーのカタログから)であり、溶接時にはチップボディ4の温度はこの圧電素子8の許容温度以上になる。
【0034】
圧電素子8を取り付ける鍔部材7A,7Bに断熱材9を設けると共に、シールドガスによる空冷効果により、圧電素子8の温度上昇はある程度抑制できるが、長時間の溶接での温度上昇により圧電素子8が損傷する可能性がある。しかしながら、溶接トーチ1に冷却手段30を設けることで、確実に圧電素子8の温度上昇を抑制できる。さらに、供給管32及び排出管33をチップボディ4を支持する弾性支持部材11とすることで、部品点数の削減、コストダウンを図ることが可能となる。
以上、本発明に係る消耗電極式溶接トーチは、上述した実施の形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】(a)は第1実施形態の正面断面図、(b)は同平面断面図、(c)は(b)におけるA−A線断面図である。
【図2】チップボディの振動状態(曲げ1次モード)を示した図である。
【図3】(a)は第1実施形態の別例の正面断面図、(b)同側面断面図である。
【図4】第2実施形態を示す図である。
【図5】第2実施形態の別例を示す図である。
【図6】第3実施形態の正面断面図である。
【図7】第3実施形態の別例の正面断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 消耗電極式溶接トーチ
2 溶接ワイヤ
3 チップ
4 チップボディ
5 ノズル
6 トーチボディ(トーチ本体)
7A 鍔部材
7B 鍔部材
8 圧電素子
9 断熱材
10 筒状ジグ(取付ジグ)
11 弾性支持部材
12 インシュレータ
13 押しネジ
20 自動追尾手段
21 振動センサ
22 制御回路
23 周波数発生器
24 圧電素子駆動アンプ
30 冷却手段
31 中空部
32 供給管
33 排出管
34 屈曲部
N 節部
S チップボディ系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーチ本体に中空状の取付ジグが設けられ、該取付ジグ内に消耗電極である溶接ワイヤを保持する長尺のチップボディが設けられている消耗電極式溶接トーチであって、
前記チップボディは、前記取付ジグの内部に弾性支持部材を介して支持され、該弾性支持部材は前記チップボディの自由状態における曲げ1次の振動モードの節部を支持しており、
前記チップボディには、当該チップボディを曲げ1次の振動モードで共振させる圧電素子が設けられていることを特徴とする消耗電極式溶接トーチ。
【請求項2】
前記チップボディは、中心部に溶接ワイヤが貫通し、先端部に前記溶接ワイヤを保持するチップを有し、中途部には当該チップボディの径方向に突出状の鍔部材がチップボディの軸心方向に沿って一対備えられていて、
前記圧電素子は、その伸縮方向が前記チップボディの軸心方向に沿うように前記一対の鍔部材の間に少なくとも1つ設けられていることを特徴とする請求項1に記載の消耗電極式溶接トーチ。
【請求項3】
前記チップボディの曲げ1次モードの固有振動数の変化に前記圧電素子の伸縮の周波数を追従させるべく、圧電素子の駆動周波数を可変とする自動追尾手段を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の消耗電極式溶接トーチ。
【請求項4】
前記鍔部材、圧電素子、チップボディの少なくともいずれか1つを冷却する冷却手段を有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の消耗電極式溶接トーチ。
【請求項5】
前記冷却手段は、内部を冷却液が流通可能となっている管状部材と、冷却液が流通可能となっている中空部を備えた前記鍔部材とを有し、前記管状部材が鍔部材の中空部に連通していることを特徴とする請求項4に記載の消耗電極式溶接トーチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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