説明

消臭性ポリエステル布帛およびその製造方法および繊維製品

【課題】ポリエステル布帛として本来持っているソフトな風合いを損なうことなく、アルデヒド類やタバコ臭などに対し優れた消臭性を耐久性よく有する消臭性ポリエステル布帛、およびその製造方法、および該消臭性ポリエステル布帛を用いてなる繊維製品を提供する。
【解決手段】ポリエステル布帛の表側表面および裏側表面のうちどちらか一方にのみ消臭剤を付与した後、該ポリエステルを乾燥する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル布帛として本来持っているソフトな風合いを損なうことなく、アルデヒド類やタバコ臭などに対し優れた消臭性を耐久性よく有する消臭性ポリエステル布帛、およびその製造方法、および該消臭性ポリエステル布帛を用いてなる繊維製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル繊維からなるポリエステル布帛に消臭性を付与する方法として、ポリエステル布帛にポリビニルアミン化合物やヒドラジド化合物などからなる消臭剤を付着させる方法が知られている(例えば特許文献1、特許文献2参照)。さらには、消臭性の耐久性を向上させるために、ヒドラジド化合物と多官能性との架橋体を繊維表面に付着させることも提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0003】
しかしながら、かかる消臭性ポリエステル布帛においては、付着した消臭剤により布帛のソフトな表面タッチや表面品位が損われるという問題があった。さらには、使用開始当初は優れた消臭性を呈するものの、使用中に布帛表面が擦過されることにより消臭剤が脱落し消臭効果が低下するという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特許第3806491号公報
【特許文献2】特開平9−273077号公報
【特許文献3】特開平9−78452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、ポリエステル布帛として本来持っているソフトな風合いを損うことなく、アルデヒド類やタバコ臭などに対し優れた消臭性を耐久性よく有する消臭性ポリエステル布帛、およびその製造方法、および該消臭性ポリエステル布帛を用いてなる繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、ポリエステル布帛の表側表面と裏側表面のうちどちらか一方にのみ消臭剤を付着させることにより、他方の面においては、ポリエステル布帛として本来持っているソフトな風合いを損なうことなく、消臭性を耐久性よく呈することを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明に想到した。
【0007】
かくして、本発明によれば「ポリエステル布帛のどちらか一方表面にのみ消臭剤が付着していることを特徴とする消臭性ポリエステル布帛。」が提供される。
【0008】
その際、前記消臭剤が、ヒドラジド基を有するヒドラジド化合物(a)と、グリシジル基を有するグリシジル化合物、イソシアネート基を有するイソシアネート化合物、およびカルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物からなる群より選択されるいずれかの化合物(b)とからなる消臭剤であることが好ましい。前記ヒドラジド化合物(a)としては、脂肪族カルボン酸ヒドラジドおよび芳香族カルボン酸ヒドラジドからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。また、前記グリシジル化合物としては、アルキレングリコールジグリシジルエーテル、ポリオキシアルキレングリコールジグリシジルエーテル、およびトリメチロールプロパントリグリシジルエーテルからなる群より選択されるいずれかであることが好ましい。また、前記イソシアネート化合物が、イソシアネート基を3個以上有し、かつ数平均分子量が500より大きいポリイソシアネート化合物であることが好ましい。
【0009】
本発明の消臭性ポリエステル布帛において、ポリエステル布帛がポリエチレンテレフタレート繊維で構成されることが好ましい。また、ポリエステル布帛がカットパイルおよび/またはループパイルからなる立毛部と地組織部とで構成される立毛布帛であって、前記地組織部側表面にのみ前記消臭剤が付着していることが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、前記の消臭性ポリエステル布帛を用いてなる、椅子やソファーの表皮材、カーペット、カーシート地、インテリア用品からなる群より選択されるいずれかの繊維製品が提供される。
【0011】
さらに、本発明によれば、ポリエステル布帛の表側表面および裏側表面のうちどちらか一方にのみ消臭剤を付与した後、該ポリエステルを乾燥することを特徴とする、前記の消臭性ポリエステル布帛の製造方法が提供される。
【0012】
その際、前記消臭剤が、ヒドラジド基を有するヒドラジド化合物(a)と、グリシジル基を有するグリシジル化合物、イソシアネート基を有するイソシアネート化合物、およびカルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物からなる群より選択されるいずれかの化合物(b)とを含む消臭剤であることが好ましい。前記ヒドラジド化合物(a)としては、脂肪族カルボン酸ヒドラジドおよび芳香族カルボン酸ヒドラジドからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。また、前記グリシジル化合物としては、アルキレングリコールジグリシジルエーテル、ポリオキシアルキレングリコールジグリシジルエーテル、およびトリメチロールプロパントリグリシジルエーテルからなる群より選択されるいずれかであることが好ましい。また、前記イソシアネート化合物が、イソシアネート基を3個以上有し、かつ数平均分子量が500より大きいポリイソシアネート化合物であることが好ましい。また、前記ヒドラジド化合物(a)のヒドラジド基と、前記化合物(b)のグリシジル基またはイソシアネート基またはカルボジイミド基との官能基数比率が前者:後者で1:0.9〜1:0.1の範囲内であることが好ましい。また、前記ポリエステル布帛がポリエチレンテレフタレート繊維で構成されることが好ましい。また、前記ポリエステル布帛が立毛部と地組織部とで構成される立毛布帛であって、前記地組織部側表面にのみ前記消臭剤が付着していることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ポリエステル布帛として本来持っているソフトな風合いを損なうことなく、各種内装材に使用される合成接着剤臭の主成分であるアルデヒド類や、タバコ臭などに対し優れた消臭性を耐久性よく有する消臭性ポリエステル布帛、およびその製造方法、および該消臭性ポリエステル布帛を用いてなる繊維製品が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の消臭性ポリエステル布帛は、ポリエステル布帛に消臭剤が付着した消臭性ポリエステル布帛であって、ポリエステル布帛の表側表面および裏側表面のうちどちらか一方にのみ前記消臭剤が付着している。なお、表側表面とは、ポリエステル布帛を使用する際に外気側に位置する表面であり、裏側表面とは、ポリエステル布帛を使用する際に内部側に位置する表面である。ここで、ポリエステル布帛の裏側表面にのみ消臭剤が付着していると、消臭剤が付着していない表側表面でソフトな風合いを呈し、同時に裏側表面に付着した消臭剤により消臭効果を呈することができ好ましい。
【0015】
本発明において、ポリステル布帛に付着する消臭剤の種類は特に限定されないが、各種内装材に使用される合成接着剤臭の主成分であるアルデヒド類や、タバコ臭などに対し優れた消臭性を得る上で、ヒドラジド基を有するヒドラジド化合物(a)と、グリシジル基を有するグリシジル化合物、イソシアネート基を有するイソシアネート化合物、およびカルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物からなる群より選択されるいずれかの化合物(b)とからなる消臭剤であることが好ましい。
【0016】
その際、前記ヒドラジド化合物(a)としては、脂肪族カルボン酸ヒドラジドおよび芳香族カルボン酸ヒドラジドからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド等のカルボン酸ジヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、ピロメリット酸トリヒドラジド等のカルボン酸トリヒドラジド等、ピロメリット酸テトラヒドラジドなどが例示される。特にヒドラジド基を二個以上有するヒドラジド化合物が好ましく挙げられる。
【0017】
また、グリシジル化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル(例えば、商品名エポライト40−E、共栄社化学社製)、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名エポライト100−E、400−E、共栄社化学社製)などのポリアルキレングリコールグリシジルエーテルが好適である。
【0018】
また、前記イソシアネート化合物としては、多価アルコールの脂肪族ジイソシアネート付加物を主成分とする商品名バーノックDNW−5000(大日本インキ化学社製)、商品名アクアネート100、210(日本ポリウレタン社製)などの、イソシアネート基を3個以上有し、かつ数平均分子量が500より大きいポリイソシアネート化合物が好ましい。
【0019】
また、カルボジイミド化合物としては、商品名カルボジライトSV−02、E−01、 V−04(日清紡社製)などが好ましい。
【0020】
前記ヒドラジド化合物(a)と化合物(b)とは、ヒドラジド化合物(a)のヒドラジド基と化合物(b)の官能基(グリシジル基またはイソシアネート基またはカルボジイミド基)とにより架橋していると、ポリエステル布帛に強固に固着し好ましい。
【0021】
本発明の消臭性ポリエステル布帛において、布帛を構成するポリエステル繊維としては、テレフタル酸を主たるジカルボン酸成分とし、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールから選ばれた少なくとも1種のアルキレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルからなるポリエステル繊維が好適である。特にポリエチレンテレフタレート繊維が好ましい。該ポリエステルには、必要に応じて第3成分が共重合及び/又はブレンドされていてもよい。
【0022】
さらには、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、艶消し剤、微細孔形成剤(例えば、有機スルホン酸金属塩など)、カチオン染料可染化剤(例えば、イソフタル酸スルホニウム塩など)、酸化防止剤(例えば、ヒンダーフェノール系酸化防止剤など)、熱安定剤、難燃剤(例えば、三酸化二アンチモンなど)、蛍光増白剤、着色剤、帯電防止剤(例えば、スルホン酸金属塩など)、吸湿剤(例えば、ポリオキシアルキレングリコールなど)などが添加剤として1種または2種以上、ポリエステル繊維中に含まれていてもよい。
【0023】
ポリエステル繊維の単糸繊維の形態は特に限定されず、長繊維(マルチフィラメント)であってもよいし、短繊維(ステープル)であってもよい。該単糸繊維の横断面形状は、その用途に応じて丸、三角、扁平、中空など適宜選定される。かかる繊維の単糸繊維としては特に限定されないが0.2〜3dtexの範囲内であることが好ましい。ポリエステル繊維糸条のフィラメント数としては20〜200本の範囲であることが好ましい。
【0024】
ポリエステル布帛の形態としては、特に限定はないが、目付け50〜800g/m程度の織物か編物であることが好ましい。なかでも、図1に模式的に示すような立毛部と地組織部とで構成される立毛布帛であって、前記地組織部側表面にのみ前記消臭剤が付着していることが好ましい。このように地組織部側表面にのみ消臭剤を付着させ、立毛部側表面が表側表面(外気側表面)となるように使用するとソフトな表面タッチを呈し、かつ優れた消臭効果を呈する。しかも、使用中に表側表面が擦過されても消臭効果が低下することがない。なお、前記ポリエステル布帛には、通常のアルカリ減量加工や染色仕上げ加工が施されていても何らさしつかえない。
【0025】
本発明の消臭性ポリエステル布帛は、例えば以下の製造方法により製造することができる。すなわち、まずポリエステル繊維を用いて常法によりポリエステル布帛を製編織する。かかるポリエステル布帛としては、前述のようにポリエステル布帛がカットパイルおよび/またはループパイルからなる立毛部と地組織部とで構成される立毛布帛が好ましい。また、前述のとおり通常のアルカリ減量加工や染色仕上げ加工をポリエステル布帛に施してもよい。
【0026】
次いで、かかるポリエステル布帛の表側表面および裏側表面のうちどちらか一方にのみ消臭剤を付与する。使用する消臭剤としては、前述のとおり、ヒドラジド基を有するヒドラジド化合物(a)と、グリシジル基を有するグリシジル化合物、イソシアネート基を有するイソシアネート化合物、およびカルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物からなる群より選択されるいずれかの化合物(b)とを含む消臭剤であることが好ましい。また、前述のとおり、前記ヒドラジド化合物(a)が、脂肪族カルボン酸ヒドラジドおよび芳香族カルボン酸ヒドラジドからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。また、前記グリシジル化合物が、アルキレングルコールジグリシジルエーテル、ポリオキシアルキレングリコールジグリシジルエーテル、およびトリメチロールプロパントリグリシジルエーテルからなる群より選択されるいずれかであることが好ましい。また、前記イソシアネート化合物が、イソシアネート基を3個以上有し、かつ数平均分子量が500より大きいポリイソシアネート化合物であることが好ましい。さらには、前記ヒドラジド化合物(a)のヒドラジド基と、前記化合物(b)のグリシジル基またはイソシアネート基またはカルボジイミド基との官能基数比率が前者:後者で1:0.9〜1:0.1の範囲内であることが好ましい。該官能基数比率がかかる範囲内であると、優れた消臭性と消臭剤のポリエステル布帛に対する強固な固着性とが両立し好ましい。
【0027】
さらには、固着性をより強固にする場合、あるいは毛抜け防止目的の機能を付与させる場合等には、前記消臭剤に合成樹脂バインダーが添加できる。かかる合成樹脂バインダーとしては、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂等が挙げられる。例えば、ウレタン樹脂(ハイドラン HW−930)、アクリル樹脂(ボンコート R−3310)、ビニル樹脂(エバデイック EP−11)が挙げられる。また、二酸化硅素、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム等や、ゼオライト、シリカゲル、活性炭等の多孔質物質、あるいは銅、亜鉛、銀、鉄、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、コバルト等の金属酸化物、水酸化物、塩化物、さらに硫酸塩、硝酸塩等の無機塩をアルデヒド以外の臭気成分の消臭剤として、あるいは臭気成分の吸着能を活用した消臭補助成分として、前記の消臭剤に混合しても差し支えない。
【0028】
前記の消臭剤、必要によって添加される樹脂バインダー、および、二酸化硅素等の多孔質物質類、金属酸化物類、無機塩類、更には、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルローズ等の増粘剤類は、所定濃度、所定粘度の水溶液もしくは水分散液に調製し、グラビアロールコーター、ナイフオンロールコーター、フローテイングナイフコーター、ロータリープリント、スプレー等により、ポリエステル布帛の一方の面に塗工する方法が挙げられる。消臭剤の塗工において、消臭が非塗工面(他方の表面)に露出しない方法であれば、これらの方法に限定されるものでない。
【0029】
次いで、消臭剤が塗工されたポリエステル布帛を乾燥する。該乾燥の方法としては、室内が温度100〜140℃に加熱されたチャンバーで1〜10分間乾燥することが好ましい。さらに、消臭剤が、前述のような、ヒドラジド基を有するヒドラジド化合物(a)と、グリシジル基を有するグリシジル化合物、イソシアネート基を有するイソシアネート化合物、およびカルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物からなる群より選択されるいずれかの化合物(b)とを含む消臭剤である場合、ヒドラジド化合物(a)のヒドラジド基と、化合物(b)の官能基(すなわち、グリシジル基またはイソシアネート基またはカルボジイミド基)とを架橋せしめるために150〜180℃の温度で1〜5分間熱処理する。消臭剤の付着量としては、ポリエステル布帛の表面積に対して0.1〜50g/m2の範囲内であることが好ましく、より好ましくは1〜10g/m2である。また、図2に模式的に示すように、ポリエステル布帛の厚み方向において、消臭剤が付着している部分の厚みh2のポリエステル布帛の全厚みh1に対する比率(=h2/h1×100(%))としてはh1の大小によって変動するが0.001〜80%の範囲内であることが好ましい。
【0030】
かくして得られた消臭性ポリエステル布帛において、ポリエステル布帛の表側表面および裏側表面のうちどちらか一方にのみ前記消臭剤が付着しているので、ポリエステル布帛として本来持っているソフトな風合いを損うことなく、各種内装材に使用される合成接着剤臭の主成分であるアルデヒド類や、タバコ臭などに対し優れた消臭性を耐久性よく有する。特に、ポリエステル布帛が立毛部と地組織部とで構成される立毛布帛であり、前記地組織部側表面にのみ前記消臭剤が付着しているとその効果が顕著であり好ましい。
【0031】
次に、本発明によれば、かかる立毛布帛を用いてなる、椅子やソファーの表皮材、カーペット、カーシート地、インテリア用品からなる群より選択されるいずれかの繊維製品が提供される。該繊維製品は、前記の立毛布帛を用いているのでソフトな風合いを損うことなく優れた消臭性を耐久性よく有する。
【実施例】
【0032】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
(1)アルデヒド消臭性
アセトアルデヒドを70ppm含む6リットルガラスビン中に、立毛面を外側に消臭剤付着面を内側に二重折にし周囲を縫い付けたタテ5cm・ヨコ5cmの布帛試料を封入し、120分後のアセトアルデヒド残留濃度をガス検知管(ガステック社製検知管 No.92M,No.92L)で測定した。
(2)チョークマーク
布帛品位の代用特性として、布帛試料の立毛面を未削鉛筆の先端で引っ掻きチョークマークの出方を観察し、チョークマークなしを○、少しありを△、明らかにありを×とした。
(3)消臭剤の固着割合
布帛試料の断面をマイクロスコープ(キーエンス社製)で100倍拡大観察し、地組織表面側(裏側表面)から消臭剤が付着している部分の厚みh2のポリエステル布帛の全厚みh1に対する比率(=h2/h1×100(%))を測定し消臭剤の固着割合とした。
(4)布帛の厚み
JIS L1018により布帛の厚みを測定した。
(5)布帛の目付け
JIS L1018により布帛の単位面積当りの質量を測定し目付けとした。
(6)風合い
試験者3人により風合いを官能評価し、ソフトであるを○、普通を△、硬いを×とした。
【0033】
[実施例1〜12、比較例1]
起毛部用繊維として84デシテックス/36フイラメントのポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント、一方、地組織部用繊維として145デシテックス/60フイラメントのポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントを用いて、常法によりループパイル部と地組織部とからなるトリコット編物を編成した後、前記ループパイル部をカット起毛、シャーリングし、全体の厚みが1.9〜2.0mm、立毛長Lが1.4〜1.5mm、目付が400g/mの立毛布帛を得た。
【0034】
次いで、消臭剤組成物を表1、表2に示すようにグラビアロールコーター、ナイフオンロールコーター、フローテイング、ナイフコーター、および含浸・絞りの三方法でヒドラジド固形分付着量3g/mになるよう、前期立毛布帛の地組織部表面側から付着させ温度110℃で5分間乾燥した後、評価した。評価結果を表1、表2に示す。表1、表2の薬剤使用量は、混合物全量の重量部100部に対する部数で示した。表1、表2の官能基比は、ヒドラジドに対する各々の官能基のモル数比率を示した。また、熱水通しは、500mLガラスビーカーに80℃熱湯を400mL入れ、タテ10cm・ヨコ5cmの布帛試料を緩く攪拌しながら3分間浸漬し、自然乾燥した。また、使用薬剤の説明は下記の通りである。
【0035】
ADH:アジピン酸ジヒドラジド
IDH:イソフタル酸ジヒドラジド
エポライト 40−E :エチレングリコールジグリシジルエーテル(共栄社化学)
バーノック DNW−5000 : 分子量500以上の脂肪族ポリイソシアネート(大日本インキ化学工業)
カルボジライト V−04 :ポリカルボジイミド水溶液(日清紡)
ハイドラン HW−930 :ポリウレタン水分散液(大日本インキ化学工業)
ボンコート V−E : ポリ(メタ)アクリル酸エステル系エマルジョン(大日本インキ化学工業)
【0036】
また、実施例1で得られた立毛布帛(ポリエステル布帛)を用いて、起毛部側表面が表側表面(すなわち、地組織部表面が裏側表面)となるようカーシート地を得た。該カーシート地において、消臭剤が裏側表面(地組織部表面)にのみ付着しており表側表面(起毛部表面)には付着していないので、ソフトな風合いを呈するものであった。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、ポリエステル布帛として本来持っているソフトな風合いを損うことなく、各種内装材に使用される合成接着剤臭の主成分であるアルデヒド類や、タバコ臭などに対し優れた消臭性を耐久性よく有する消臭性ポリエステル布帛、およびその製造方法、および該消臭性ポリエステル布帛を用いてなる繊維製品が得られ、その工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】立毛部と地組織部とで構成される立毛布帛を模式的に示す図である。
【図2】消臭剤の固着割合を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0041】
1:立毛部
2:起毛部側表面
3:地組織部側表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル布帛のどちらか一方表面にのみ消臭剤が付着していることを特徴とする消臭性ポリエステル布帛。
【請求項2】
前記消臭剤が、ヒドラジド基を有するヒドラジド化合物(a)と、グリシジル基を有するグリシジル化合物、イソシアネート基を有するイソシアネート化合物、およびカルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物からなる群より選択されるいずれかの化合物(b)とからなる消臭剤である、請求項1に記載の消臭性ポリエステル布帛。
【請求項3】
前記ヒドラジド化合物(a)が、脂肪族カルボン酸ヒドラジドおよび芳香族カルボン酸ヒドラジドからなる群より選択される1種以上である、請求項2に記載の消臭性ポリエステル布帛。
【請求項4】
前記グリシジル化合物が、アルキレングリコールジグリシジルエーテル、ポリオキシアルキレングリコールジグリシジルエーテル、およびトリメチロールプロパントリグリシジルエーテルからなる群より選択されるいずれかである、請求項2または請求項3に記載の消臭性ポリエステル布帛。
【請求項5】
前記イソシアネート化合物が、イソシアネート基を3個以上有し、かつ数平均分子量が500より大きいポリイソシアネート化合物である、請求項2〜4のいずれかに記載の消臭性ポリエステル布帛。
【請求項6】
ポリエステル布帛がポリエチレンテレフタレート繊維で構成される、請求項1〜5のいずれかに記載の消臭性ポリエステル布帛。
【請求項7】
ポリエステル布帛が立毛部と地組織部とで構成される立毛布帛であって、前記地組織部側表面にのみ前記消臭剤が付着している、請求項1〜6のいずれかに記載の消臭性ポリエステル布帛。
【請求項8】
請求項7に記載の消臭性ポリエステル布帛を用いてなる、椅子やソファーの表皮材、カーペット、カーシート地、インテリア用品からなる群より選択されるいずれかの繊維製品。
【請求項9】
ポリエステル布帛の表側表面および裏側表面のうちどちらか一方にのみ消臭剤を付与した後、該ポリエステルを乾燥することを特徴とする、請求項1に記載の消臭性ポリエステル布帛の製造方法。
【請求項10】
前記消臭剤が、ヒドラジド基を有するヒドラジド化合物(a)と、グリシジル基を有するグリシジル化合物、イソシアネート基を有するイソシアネート化合物、およびカルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物からなる群より選択されるいずれかの化合物(b)とを含む消臭剤である、請求項9に記載の消臭性ポリエステル布帛の製造方法。
【請求項11】
前記ヒドラジド化合物(a)が、脂肪族カルボン酸ヒドラジドおよび芳香族カルボン酸ヒドラジドからなる群より選択される1種以上である、請求項10に記載の消臭性ポリエステル布帛の製造方法。
【請求項12】
前記グリシジル化合物が、アルキレングリコールジグリシジルエーテル、ポリオキシアルキレングリコールジグリシジルエーテル、およびトリメチロールプロパントリグリシジルエーテルからなる群より選択されるいずれかである、請求項10または請求項11に記載の消臭性ポリエステル布帛の製造方法。
【請求項13】
前記イソシアネート化合物が、イソシアネート基を3個以上有し、かつ数平均分子量が500より大きいポリイソシアネート化合物である、請求項10〜12のいずれかに記載の消臭性ポリエステル布帛の製造方法。
【請求項14】
前記ヒドラジド化合物(a)のヒドラジド基と、前記化合物(b)のグリシジル基またはイソシアネート基またはカルボジイミド基との官能基数比率が前者:後者で1:0.9〜1:0.1の範囲内である、請求項10〜13のいずれかに記載の消臭性ポリエステル布帛の製造方法。
【請求項15】
ポリエステル布帛がポリエチレンテレフタレート繊維で構成される、請求項9〜14のいずれかに記載の消臭性ポリエステル布帛の製造方法。
【請求項16】
ポリエステル布帛が立毛部と地組織部とで構成される立毛布帛であって、前記地組織部側表面にのみ前記消臭剤が付着している、請求項9〜15のいずれかに記載の消臭性ポリエステル布帛の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−169525(P2008−169525A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−5770(P2007−5770)
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【出願人】(502014086)帝人ネステックス株式会社 (17)
【Fターム(参考)】