説明

消臭組成物及び鋳物用砂

【課題】 鋳物製造工程において発生し、また、排気ガスに含有する不快な臭気による作業環境及び周辺環境の悪化を防止し、改善できる消臭組成物を提供する。
【解決手段】 乳酸、リンゴ酸、クエン酸等のヒドロキシ酸10〜70質量%と、ナトリウムミョウバン、カリウムミョウバン、アンモニウムミョウバン等のミョウバンから0.1〜10質量%を含有する水性溶液からなる消臭組成物とし、また、この消臭組成物を添加、被覆する等して鋳物用砂に含ませる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋳物製造時に鋳物用砂等から発生する不快臭気の除去低減に有効な消臭組成物及び前記不快臭の発生の少ない鋳物用砂に関する。
【0002】
更に詳しくは、鋳造時に鋳造用砂の粘結剤や硬化剤の役割として使用されるトリメチルアミン、ジメチルアミン、ヘキサメチレンテトラミン等のアミン類や、ホルムアルデヒド等のアルデヒド類や、フェノール類等により発生する不快臭、特に臭閾値が低いアンモニアやトリメチルアミン等の塩基性ガス、ホルムアルデヒドやフェノール類等により発生する不快臭を除去低減し、作業環境の悪化防止乃至改善を図れる消臭組成物及び前記不快臭の発生の少ない鋳物用砂に関する。
また、工場にて発生するガスを排気する際に混入されているガスの消臭及び中和反応の役割を担い臭気対策として有効な消臭組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、鋳物の製造方法としては、RCS法、CB法、AP法、MDI法、フラン法等の各種製造方法が知られている。代表的なRCS法を例に説明すれば、鋳物の製造に際し、ケイ砂等の耐火性骨材の表面にノボラック型フェノール樹脂等のバインダーや、ヘキサメチレンテトラミン等の硬化剤や、ステアリン酸カルシウム等の滑材その他の添加剤を被膜ないしは付着させてなる鋳物用砂が広く用いられている。
【0004】
前記RCS法では、120〜170℃に余熱された耐火性骨材(ケイ砂)とノボラック型フェノール樹脂、ヘキサメチレンテトラミン等を混練して砂に樹脂をコーティングした鋳物用砂の一種であるレジンコーテッドサンド(RCS)を用いるが、このRCSを使って鋳型を造形する際、シェルモールド法では250〜350℃に加熱して金型内で熱硬化させている。また、コールドボックス法では室温付近で鋳型を瞬時に硬化させるため、触媒として有毒なトリエチルアミンガスを金型内に添加している。
これらの工程において、樹脂中の未反応のフェノールや、ヘキサメチレンテトラミン、トリエチルアミン(0.0054ppm)、或いは、これらの熱分解物により発生する臭閾値が低いアンモニア(0.59ppm)、トリメチルアミン(0.0014ppm)等のアミン類や、ホルムアルデヒド(1.9ppm)に起因した刺激性のある不快な臭気を放って作業環境を悪化させるため、従来から排気ダクト等の設置対応のほか、種々の防止対策が採られている。
【0005】
例えば、硬化剤のヘキサメチレンテトラミンを全く乃至少量しか使用しなくても熱硬化性を発現するレゾール型フェノール樹脂をバインダーとして用いる方法は、或る程度の消臭効果は得られるもののその効果は未だ充分ではなく、更なる改善の余地が残されている。
また、消臭剤による臭気の軽減、例えば臭気を中和して臭気を軽減できる脱臭剤として特許文献1に開示されているオレンジオイル、テレビンオイル、シダーウッドオイルを主成分とするRCS用消臭剤や、特許文献2や特許文献3に開示されているα,β−不飽和ケトン及びα,β−不飽和アルデヒドを含有する香料系消臭剤は、或る程度の消臭効果は認められるものの、その原理は香料による悪臭物質のマスキング効果によるもので根本的な解決策とは言い難い。
【0006】
更に、鋳物造形工程において触媒として用いたトリエチルアミン等は作用後その他の塩基性ガスと共に型枠から排出されるが、このまま排気ダクト等を通して大気中へ放出することは環境上好ましくなく、排ガス処理装置で回収して無臭状態にしてから大気中へ放出する必要がある。この排ガス処理装置として、洗浄搭やスクラバーなどがある。これらへ水またはリン酸水溶液、硫酸水溶液等の酸性水溶液を満たしてアミン等の塩基性ガスを吸収させるのが一般的であるが、水に塩基性ガスを吸収させても臭気は弱まるが完全に消臭することはできず、またリン酸水溶液等酸性水溶液を用いれば中和反応により塩基性ガスは吸収され或る程度効果的な消臭効果が認められるが、処理液は有害性が高くその廃棄は専門の業者に委ねざるを得ないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−38748号公報
【特許文献2】特開2002−210538公報
【特許文献3】特開2004−51652公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、鋳物製造工程において発生し、また、排気ガスに含有する不快な臭気による作業環境及び周辺環境の悪化を防止し、改善するためになされたものであり、第1の目的は、特に臭閾値が低いアンモニアやトリメチルアミン等の塩基性ガス、ホルムアルデヒドやフェノール類等の刺激臭の除去低減に有効な消臭組成物を提供することである。また、第2の目的は環境負荷の小さいこの消臭成物を洗浄搭やスクラバーへ利用しリン酸処理の代替品とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、特にアンモニアやトリメチルアミンなどの塩基性ガス、ホルムアルデヒドやフェノール類等に起因する悪臭の除去低減化について消臭剤及びリン酸代替の観点から鋭意検討を行った結果、ヒドロキシ酸とミョウバンを含有する消臭組成物が上記の課題解決に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明はかかる知見に基づきなされたもので、本発明の消臭組成物は、請求項1記載の通り、ヒドロキシ酸10〜70質量%及びミョウバン0.1〜10質量%を含有する水性溶液からなることを特徴とする。
また、請求項2記載の消臭組成物は、請求項1記載の消臭組成物において、前記ヒドロキシ酸が乳酸、リンゴ酸、クエン酸から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする。
また、請求項3記載の消臭組成物は、請求項1又は2記載の消臭組成物において、前記ミョウバンがナトリウムミョウバン、カリウムミョウバン、アンモニウムミョウバンから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする。
また、請求項4記載の消臭組成物は、請求項1乃至3の何れかに記載の消臭組成物であって、前記消臭組成物が鋳物鋳造時に発生する不快臭気の除去低減に用いられるものであることを特徴とする。
また、本発明の鋳物用砂は、請求項5記載の通り、前記請求項1乃至4の何れか1項に記載の消臭組成物を含ませてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の消臭組成物によれば、鋳物用砂等の鋳型材料の製造工程(混練工程)及びこの鋳型材料(製造法としてRCS法、CB法、AP法、MDI法、フラン法等)による鋳型の造型において生じるアミンやホルムアルデヒド等に起因する悪臭を大幅に軽減できる。
また、中和槽やスクラバーなど排ガス処理装置用に用いることで作業現場から排出されるアミン類やアルデヒド類等の不快悪臭ガスと反応させることができる。更に、アミンガス等との反応後の処理液は有害性が低くその廃棄は地方自治体の定める規制に従った方法の採用が期待できる。以上のことより作業環境の悪化を防止または改善し、更に大気や排水等周辺環境の改善に寄与することができる。
更に、本発明の消臭組成物は、上述したような鋳物材料への適用に留まらず、例えば、水で適当な倍率に希釈して鋳物関連材料や、設備への浸責や散布、作業空間への散布、工場の廃棄口での散布等、同様の消臭効果を必要とする分野に適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次ぎに本発明の消臭組成物の実施の形態につき説明する。
本発明に係る消臭組成物は、ヒドロキシ酸10〜70質量%及びミョウバン0.1〜10質量%を含有する水性溶液からなる。
前記ヒドロキシ酸としては、乳酸、グリコール酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、セリン、トレオニン等が挙げられ、これらは単独で用いても2種以上混合して用いてもよい。
また、ミョウバンとしてはナトリウムミョウバン、カリウムミョウバン、アンモニウムミョウバン、鉄ミョウバン、鉄アンモニウムミョウバン等が挙げられ、これらは単独で用いても2種以上混合して用いてもよい。
また、これらヒドロキシ酸とミョウバンは、イオン交換水等に溶解させて水性溶液として用いる。
【0013】
前記ヒドロキシ酸とミョウバンの配合割合を前記割合としたのは、次の理由による。
ヒドロキシ酸が10質量%より少ないと充分な消臭効果が得られにくく、また70質量%を越えると溶媒として使用する水に対する溶解度が十分とならないからである。前記観点から、好ましくは20〜50質量%である。
また、ミョウバンが0.1質量%より少ないと充分な効果が得られにくく、また10質量%を越えると消臭効果は向上するが労安法で定める物質であることを考慮すると最大で10質量%程度となるからである。前記観点から、好ましくは0.5〜2質量%である。
また、必要に応じて種々の抗菌剤や抗カビ剤を添加してもよい。
【0014】
本発明に係る消臭組成物の調製方法は、例えば、イオン交換水等の清澄な水にヒドロキシ酸成分とミョウバン成分の混合物を同時に添加し、完全に溶解するまで撹拌を行うか、または初めにヒドロキシ酸成分を添加し完全に溶解してから次いでミョウバン成分を添加して完全に溶解すればよく、出来上がった消臭組成物に変わりはない。
【0015】
本発明の消臭組成物は、例えば、水性溶液のまま鋳物用消臭剤として用いてもよいし、また、従来のリン酸溶液の代替品として用いてもよく、或いは、鋳物用砂に含ませて鋳物用砂として構成してもよい。このように鋳物用砂として構成した場合、別途消臭剤を用意する必要がないので便利なものとなる。
【実施例】
【0016】
<実験例1>
次に、本発明を参考例1乃至4、実施例1乃至4及び比較例1,2についての実験例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
本実験例1及び実験例2では、下記に詳述する通り調整した参考例、実施例及び比較例の消臭組成物について、消臭剤及びリン酸代替品としての機能・効果を下記の通り確認するものとした。
【0017】
(1)臭気の官能試験
(a)RCSを製造する際、及び(b)250℃に温調された金型内にRCSをブロー充填した後60秒間成形体を成形して型開き(シェルモールド法)した際、(c)洗浄搭に使用した際の臭気を下記の評価方法及び評価基準に基づく官能評価で評価した。
(i)評価方法
温度20℃、相対湿度60%の条件下で、15名(内女性5名)の臭気パネラーが官能評価し、得られた官能評価レベルの平均レベルで優劣を評価した。なお、このレベルが高いほど消臭効果が高いことを意味する。
(ii)評価基準
レベル4:刺激臭はほとんど感じられない。
レベル3:刺激臭はやや感じられるが実用上支障はない。
レベル2:刺激臭はやや強く感じる。
レベル1:刺激臭は非常に強く感じる。
【0018】
(2)臭気濃度測定
(i)出来上がった直後のRCSについて、消臭組成物を添加したサンプルと未添加のサンプルを一定量秤量し、アミン臭気濃度を検知管を用いて測定した。また、このRCSを使って250℃に加熱後、発生するアミンガスの濃度についても検知管を用いて測定した。
(ii)洗浄搭に消臭組成物を使用した際、一定時間塩基性ガスを吸収させた後の処理液を秤量し、アミン臭気濃度を検知管を用いて測定した。
【0019】
(参考例1)
スピードミキサー内に約140〜150℃に予熱したケイ砂を5000gr、ノボラック型フェノール樹脂125gr入れて50秒間混練した後、予め冷却水125grにヘキサメチレンテトラミン18.8grと表1に示す成分から構成された消臭剤I15gr混合して作製した硬化剤水溶液を全量添加するとともに、形成された魂状物が粒状になるまで送風冷却し、最後にステアリン酸カルシウム5grを添加した後、15秒間混合してRCSを得た。その後、前記した通り、臭気の官能試験と臭気濃度測定を行った。その結果を表9に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
(参考例2〜4)
前記参考例1の消臭剤Iをそれぞれ表2〜4に示す成分構成の消臭剤II〜IVに変更すること以外は、前記参考例1と同様にして3種類のRCSを得た。その後、前記した通り、臭気の官能試験と臭気濃度測定を行った。その結果を表9に示す。
【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
【表4】

【0025】
(実施例1〜4)
前記参考例1の消臭剤Iをそれぞれ表5〜8に示す成分構成の消臭剤V〜VIIIに変更すること以外は、前記参考例1と同様にして4種類のRCSを得た。その後、前記した通り、臭気の官能試験と臭気濃度測定を行った。その結果を表9に示す。
【0026】
【表5】

【0027】
【表6】

【0028】
【表7】

【0029】
【表8】

【0030】
(比較例1)
参考例1において、表1で示した消臭剤Iを使用しないようにした以外は、参考例1と同様にしてRCSを得た。その後、前記した通り、臭気の官能試験と臭気濃度測定を行った。その結果を表9に示す。
【0031】
(比較例2)
参考例1において、表1で示した消臭剤Iを天然植物性精油からなる市販の中和消臭剤に変更する以外は、参考例1と同様にしてRCSを得た。その後、前記した通り、臭気の官能試験と臭気濃度測定を行った。その結果を表9に示す。
【0032】
【表9】

【0033】
表9から明らかなように、本発明に係る消臭組成物を使用した場合、鋳物は、混練時及び鋳型の造型時の何れにおいても、参考例1乃至4並びに比較例1,2に比べ臭気官能試験と臭気濃度測定のどちらにおいても優れた結果を示し、臭気の軽減がなされていることが確認された。
【0034】
<実験例2>
(参考例1〜4・実施例1〜4)
前記表1〜8で示した参考例1乃至4及び実施例1乃至4の消臭剤I〜VIIIを20Kg調製し、洗浄搭にセットした。排出されてくるアミンガスを一定時間吸収させた後の臭気の官能試験と臭気濃度測定を行った。その結果を表10に示す。
【0035】
(比較例3)
消臭剤を使用せず水に変更した以外は前記と同様にして洗浄搭にセットした。排出されてくるアミンガスを一定時間吸収させた後の臭気の官能試験と臭気濃度測定を行った。その結果を表10に示す。
【0036】
(比較例4)
前記消臭剤に替え、消臭剤を75%−リン酸水溶液に変更する以外は前記と同様にして洗浄搭にセットした。排出されてくるアミンガスを一定時間吸収させた後の臭気の官能試験と臭気濃度測定を行った。その結果を表10に示す。
【0037】
【表10】

【0038】
表10から明らかなように、本発明に係る消臭組成物を中和槽に使用した場合、参考例1乃至4並びに比較例1,2に比べ、臭気官能試験と臭気濃度測定のどちらにおいても優れた結果を示し、臭気の軽減がなされていることが確認された。
【0039】
<実験例3>
実施例の消臭剤Vと、前記市販品の中和消臭剤について、イオン交換水を対照として用い、短時間での消臭効果確認試験を行った。その結果を表11に示す。
なお、臭気効果確認試験は次のようにして行った。
測定に用いる3リットル匂い袋にマグネット撹拌子を入れておく。対象ガスとして用いるトリエチルアミンはヘッドスペース臭気を封入しさらに空気を充填した。この時の濃度を初期濃度とした。消臭剤を添加し所定時間マグネティックスターラー上で撹拌後、ガス検知管を用いて臭気濃度を測定した。消臭評価にはアミン用検知管No.180、No.180Lを用いた。
【0040】
【表11】

【0041】
表11から明らかなように、本発明の消臭組成物は、市販品の中和消臭剤に比べ、短時間で消臭効果が現れることが確認された。
【0042】
<実験例4>
実施例Vの消臭剤と、75%リン酸を各々50倍に希釈し、アミンガスの吸収について、経過時間における濃度測定を行った。その結果を、消臭率とともに表12に示す。
なお、濃度測定は次のようにして行った。
測定は3リットルエアバックを用いた。対象ガスとして用いるトリエチルアミンはヘッドスペース臭気を封入しさらに空気を充填した。この時の濃度を初期濃度とした。消臭剤を添加し所定時間経過後、ガス検知管を用いて臭気濃度を測定した。消臭評価にはアミン用検知管No.180、No.180Lを用いた。
【0043】
【表12】

【0044】
表12から明らかなように、本発明の消臭組成物は、従来のリン酸水溶に比べ、短時間でアミンガスを中和できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の消臭組成物は鋳物製造時に鋳物用砂等から発生する不快臭気等の除去低減に有効な消臭剤や、前記不快臭の発生の少ない鋳物用砂を提供できて産業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシ酸10〜70質量%及びミョウバン0.1〜10質量%を含有する水性溶液からなる消臭組成物。
【請求項2】
前記ヒドロキシ酸が乳酸、リンゴ酸、クエン酸から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1記載の消臭組成物。
【請求項3】
前記ミョウバンがナトリウムミョウバン、カリウムミョウバン、アンモニウムミョウバンから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の消臭組成物。
【請求項4】
前記消臭組成物が鋳物製造時に発生する臭気の除去低減に用いられるものであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の消臭組成物。
【請求項5】
前記請求項1乃至4の何れか1項に記載の消臭組成物を含ませてなる鋳物用砂。

【公開番号】特開2012−210245(P2012−210245A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76554(P2011−76554)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(390015853)理研香料工業株式会社 (11)
【出願人】(511082229)旭トレーディング株式会社 (1)
【Fターム(参考)】