説明

消音器の支持構造

【課題】消音器の支持構造において、車室内の振動騒音性能の向上、及び、車両衝突時の衝撃による消音器の周囲への干渉を防止することにある。
【解決手段】ブラケット(4)は、車体(1)の下部から下方へ延びる取付板(6)と基部(7A)が取付板(6)に固定されるとともに先端部が弾性部材(5)に形成した貫通孔(8)に挿入される円柱状のハンガーステー部(7)とから構成される。取付板(6)は、消音器(3)の長手方向から見て下端が消音器(3)の端板(11)と重なる位置まで延設される。ハンガーステー部(7)は、取付板(6)における消音器(3)の端板(11)と対向する面に固定される。消音器(3)の端板(11)には、消音器(3)の内側へ窪ませてハンガーステー部(7)の基部(7A)に対し所定の隙間を確保する凹部(12)を設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、消音器の支持構造に係り、特に車体に吊り下げられる消音器を支持する消音器の支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両における消音器の支持構造において、図10、図11に示すように、排気系部品101を構成する消音器102は、複数箇所で弾性部材(マウントゴム)103を介して車体104に吊り下げられて支持されている。この場合、車体104への消音器102の吊り下げ位置は、消音器102の振動モードや重量バランスを考慮してレイアウトされている。
また、消音器102が弾性部材103を介して車体104へ固定される構造上、消音器102は、エンジン振動や路面からの伝達力によって動きが発生する。この動きを吸収するためには、車体104と消音器102との間に一定の距離を確保する必要があるが、車室内空間のレイアウトを優先する傾向があり、消音器102側としては狭い空間の中でレイアウトを成立させる必要がある。
そこで、取付板105とハンガーステー部106とからなるマフラハンガブラケット107を設けた場合に、このマフラハンガブラケット107の固有振動数向上及び剛性確保の観点から、ハンガステー部106を取付板105と溶接する構造を採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−274812号
【特許文献2】特開昭62−166133号
【0004】
特許文献1に係る車両用消音器は、消音器の過大な変位を防止するように、消音器側突出部と車体側突出部とからなるストップ手段を設けたものである。
特許文献2に係る自動車用マフラは、車両後方からの衝突時に、衝突エネルギを吸収させるように、マフラの後端部にマフラハンガーと対向する凹所を設けたものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、図10、図11に示すような消音器102の支持構造にあっては、消音器102との隙間を確保するには、マフラハンガブラケット107自体を消音器102から離さなければならず、狭い空間でのレイアウトに不向きな形状となっていた。
また、図11に示すように、消音器102とマフラハンガブラケット107との間では、消音器102の振動による接触を回避するために、一定の距離Xを確保している。そのような状態で、マフラハンガブラケット107には、最小限でハンガーステー部106を配置している。この場合、上記の距離Xを確保するために、ハンガーステー部106は、取付部105よりも車両後方の面に取り付けられる。このため、弾性部材103を介して吊り下げられる消音器102側のハンガーステー108の長さYが長くなると、車室内の振動騒音が悪化するという不都合があった。
【0006】
そこで、この発明は、車室内の振動騒音性能の向上、及び、車両衝突時の衝撃による消音器の周囲への干渉を防止できる消音器の支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、長手方向が車両の前後方向に向けて配置される消音器を設け、この消音器はブラケットを介して車体に取り付けられた弾性部材に支持され、前記ブラケットは前記車体の下部から下方へ延びる取付板と基部が前記取付板に固定されるとともに先端部が前記弾性部材に形成した貫通孔に挿入される円柱状のハンガーステー部とから構成される消音器の支持構造において、前記取付板は前記消音器の長手方向から見て下端が前記消音器の端板と重なる位置まで延設され、前記ハンガーステー部は前記取付板における前記消音器の端板と対向する面に固設され、前記消音器の端板には前記消音器の内側へ窪ませて前記ハンガーステー部の基部に対し所定の隙間を確保する凹部を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明の消音器の支持構造は、車室内の振動騒音性能の向上、及び、車両衝突時の衝撃による消音器の周囲への干渉を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は車体に消音器を吊り下げた状態の正面図である。(実施例)
【図2】図2はブラケットと弾性部材との連結状態の正面図である。(実施例)
【図3】図3はブラケットの側面図である。(実施例)
【図4】図4はブラケットの正面図である。(実施例)
【図5】図5はブラケットの斜視図である。(実施例)
【図6】図6は消音器とブラケットとの各部位の位置関係を示す説明図である。(実施例)
【図7】図7は衝突時の消音器の動きを示す説明図である。(実施例)
【図8】図8は衝突時において消音器が下方へずれた場合を示す説明図である。(実施例)
【図9】図9は衝突時において消音器が上方へずれた場合を示す説明図である。(実施例)
【図10】図10はエンジンの排気系部品の側面図である。(従来例)
【図11】図11は図10の矢印X1におけるブラケットの取付部位の拡大図である。(従来例)
【図12】図12はブラケットの側面図である。(従来例)
【図13】図13はブラケットの正面図である。(従来例)
【図14】図14はブラケットの斜視図である。(従来例)
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明は、車室内の振動騒音性能の向上、及び、車両衝突時の衝撃による消音器の周囲への干渉を防止する目的を、消音器に凹部を設けて実現するものである。
【実施例】
【0011】
図1〜図9は、この発明の実施例を示すものである。
図1において、1は車両の車体、2は車体底部である。
この車体底部2には、長手方向が車両の前後方向に向けて配置される消音器3が吊り下げて設けられる。この消音器3は、排気系部品を構成するものであって、図2に示すように、断面が楕円形状に形成され、ブラケット4を介して車体1に取り付けられた弾性部材(マウントゴム)5・5に支持される。
ブラケット4は、車体1の下部から下方へ延びる取付板6と、基部7Aが取付板6に固定されるとともに先端部7B・7Bが弾性部材5・5に形成したブラケット側貫通孔8・8に挿入される円柱状のハンガーステー部7とから構成され、車体底部2に所定の固定手段で固定される。
また、図1、図2に示すように、弾性部材5・5には、消音器3に固定した消音器3側のハンガーステー9を挿入する消音器側貫通孔10・10が形成されている。
取付板6は、図1に示すように、消音器3の長手方向から見たとき、下端が消音器3の端板11と重なる位置まで延設されている。
ハンガーステー部7の基部7Aは、図6に示すように、取付板6よりも車両前方で、取付板6における消音器3の端板11と対向する面に固設されている。
図6に示すように、消音器3の端板11には、消音器3の内側へ窪ませてハンガーステー部7の基部7Aに対し所定の隙間を確保する凹部12を設けている。
【0012】
図6に示すように、消音器3とブラケット4との各部位の位置関係においては、消音器3の端板11の表面とブラケットの取付板6の上下方向の面との距離がA、消音器3側のハンガーステー9の長さがB、凹部の深面とブラケット4のハンガーステー部7との距離がC、ハンガーステー部7の直径がD、凹部12の深さがE、凹部12の高さがFに、それぞれ設定されている。
具体的には、消音器3の端板11の表面とブラケットの取付板6の上下方向の面との距離Aは、上記のハンガーステー部7の基部7Aに対し所定の隙間であって、従来の図11距離Xと同一に確保されている(A=X)。そして、ブラケット4のハンガーステー部7に対向する消音器3の端板11には凹部12が設けられていることから、消音器3とハンガーステー部7との距離Cは、消音器3の端板11の表面とブラケット4の取付板6の上下方向の面との距離A以上(C≧A)に確保されている。つまり、消音器3とブラケット4との距離は、縮まっていない。また、弾性部材5を介して吊り下げられる消音器3側のハンガーステー9の長さBは、従来の図11の距離Yよりも短くなっている(B<Y)。これにより、車室内の振動騒音性能において、有利とすることができる。
【0013】
このような構造において、消音器3に凹部12を設けることで、消音器3の端板11とブラケット4との間の距離が縮まり、弾性部材5の位置を消音器3に近づけ、消音器3側のハンガーステー9の長さを短くすることができ、これにより、車室内の振動騒音性能を向上できる。
また、図7〜図9に示すように、車両の前面衝突で、排気系部品全体が後方に押されたときに、ブラケット4の取付板6が消音器3の後退を位置規制するとともに、ハンガーステー部7が凹部12内に入って消音器3の上下方向の位置規制ができ、消音器3の車体への干渉、路面への干渉を防止することができる。さらに、車両の衝突時等で大きな力が作用しても、ブラケット4のハンガーステー部7が消音器3のかしめ部3Aのストッパとなり、消音器3が路面へ接触することを防止できる。
【0014】
また、ブラケット4のハンガーステー部7は、図1に示すように、消音器3の長手方向から見たときに(正面視)、消音器3の端板11に全体が重なるように、つまり、消音器3の外形線P内に収まるように形成されている。
このような構造により、ハンガーステー部7が消音器3の外筒端部に跨がらないため、消音器3の端板11とブラケット4との距離が縮まり、消音器3側のハンガーステー9の長さを短くすることができ、車室内の振動騒音性能を向上できる。
【0015】
さらに、消音器3の凹部12の深さEは、図6に示すように、ブラケット4のハンガーステー部7の直径D以上(E≧D)と設定されている。
このような構造により、凹部12の深さEがハンガーステー部7の直径D以上となり、消音器3とハンガーステー部7とが車両前後方向で干渉せず、消音器3の上下方向の位置規制が確実にできる。
【産業上の利用可能性】
【0016】
この発明に係る消音器の支持構造を、各種車両に適用可能である。
【符号の説明】
【0017】
1 車体
2 車体底部
3 消音器
4 ブラケット
5 弾性部材
6 取付板
7 ハンガーステー部
7A ハンガーステー部の基部
7B ハンガーステー部の先端部
8 ブラケット側貫通孔
9 消音器側のハンガーステー
10 消音器側貫通孔
11 消音器の端板
12 消音器の凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向が車両の前後方向に向けて配置される消音器を設け、この消音器はブラケットを介して車体に取り付けられた弾性部材に支持され、前記ブラケットは前記車体の下部から下方へ延びる取付板と基部が前記取付板に固定されるとともに先端部が前記弾性部材に形成した貫通孔に挿入される円柱状のハンガーステー部とから構成される消音器の支持構造において、前記取付板は前記消音器の長手方向から見て下端が前記消音器の端板と重なる位置まで延設され、前記ハンガーステー部は前記取付板における前記消音器の端板と対向する面に固設され、前記消音器の端板には前記消音器の内側へ窪ませて前記ハンガーステー部の基部に対し所定の隙間を確保する凹部を設けたことを特徴とする消音器の支持構造。
【請求項2】
前記ブラケットのハンガーステー部は、前記消音器の長手方向から見たときに、全体が前記消音器の端板に重なるように形成されていることを特徴とする請求項1の消音器の支持構造。
【請求項3】
前記消音器の凹部の深さは、前記ブラケットのハンガーステー部の直径以上の大きさに設定されたことを特徴とする請求項2の消音器の支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−96395(P2013−96395A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243326(P2011−243326)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】