説明

涙中の問題の被分析物を検定するための方法およびキット

本発明は、一態様において、涙採集用の一片を提供する。該片は、第一末端、および反対側の第二末端を有し、好ましくは、第一末端から第二末端まで実質的に均一な断面を有する。該片は、実質的に乾燥状態にあるヒドロゲル材料でできている。該片は、涙液が充分に浸透したとき、該ヒドロゲル片沿いに第一末端から第二末端へと実質的に均一な膨潤を有すること、および該片による涙取込みの量と、該片の該浸透した末端部分の長さとの間に相関関係を有することを特徴とする。本発明の一片は、涙液中の問題の被分析物のアッセーに役立つ。本発明は、問題の被分析物(たとえばラクトフェリン、グルコース、単純ヘルペスウイルス、ホルモン等々)を検定するための方法およびキットも提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、涙採集装置、涙中の問題の被分析物を検定するための方法およびキットに関するものである。
【0002】
乾性角結膜炎(KCS)または「ドライアイ」は、目の1種類またはそれ以上の眼液成分の不足もしくは不均衡によって定義される、眼科上の状態である。そのような不均衡には、水性涙液、結膜ムチンおよび/または涙液脂質が関与する。KCSは、しばしば、目の解剖学的完全性に脅威を与えて、結膜および角膜のびらんを生じさせることが多い。「ドライアイ」は、年齢45歳過ぎの女性に最も多く生じる、シェーグレン症候群の約25%における所見である。シェーグレン症候群は、しばしば、身体の免疫系に有害な影響を及ぼし;そのため、早期の検出および処置が重要である。米国だけで7百万人がKCSに冒されると推計される。そのようなKCSの症例の90%は、シェーグレン症候群によるものである。KCSは、イヌ科のいくつかの種も一般的に苦しめている。
【0003】
KCSに対する最近の診断法の一つは、ラクトフェリンのアッセーに基づく。ラクトフェリンは、リゾチーム、涙特異的なプレアルブミンおよびリポカリンと並んで、涙腺が合成かつ分泌する主要な涙タンパク質の一つである。ラクトフェリンは、主および付属涙腺組織の双方の胞状上皮細胞内に存在することが、免疫蛍光組織化学によって、文献中に報告されている[Gillette, et al., Am. J. Ophthalmol., 90:30-37 (1980)]。ラクトフェリン、リゾチームおよび涙特異性プレアルブミンは、すべて、KCSの患者の涙では減少していることも報告されている[Jannsen & van Bijsterveld, Clin. Chim. Acta, 114:207-208 (1981)]。ラクトフェリン濃度が0.9mg/mlに等しいか、それより低いならば、涙不足、すなわちドライアイとして分類されると一般的に考えられている。
【0004】
現在、それが涙膜内に生成するラクトフェリンの量によって、涙腺の機能を査定するための二つの試験が存在する。一つは、ラクトプレート試験であって、ヒトラクトフェリンに対するウサギ抗体を含有するアガロースゲル中で実施される、免疫拡散アッセーである。濾紙の環状の円盤を、下結膜嚢に入れると、そこで涙に「浸漬」される。それを、寒天に乗せ、3日間温置する。この方法は、中程度から重症までのドライアイ状態では正確であるが、過度に面倒で、遅く、比較的高価であり、検査者の経験に制約される。
【0005】
もう一つのラクトフェリン試験は、ラクトカード試験であって、涙2μlのみを必要とする固相ELISA試験である。この試験は、2μl入り毛細管を側方下部涙液メニスカスに外傷を生じるよう適用して、涙サンプルを採集することによって実施し、次いで、涙サンプル中のラクトフェリン濃度を、精密な反射率分光光度計によって比色的に測定する。この試験は、診察室での使用に適し、涙ラクトフェリン濃度を決定するのにラクトプレートと同程度に正確であることが示されている。ラクトカード試験は、臨床医の診察室で最小限の訓練によって容易に実施されるが、毛細管による涙の採集は、侵襲性または刺激性であり得る。より安全ではるかに迅速な、かつより刺激の少ない涙採集装置であることができる、代替的な涙採集装置に対する必要性が存在する。
【0006】
発明の要約
本発明の一つの目的は、より侵襲性が低く、使用しやすい新規な涙採集装置を提供することである。
【0007】
本発明のもう一つの目的は、涙液中のラクトフェリン濃度を検定するための方法およびキットを提供することである。そのような方法およびキットは、比較的高い感度および信頼性を有し、患者がより簡便かつ個別的な方式で(たとえば、検眼者の診察室または自宅で)、ラクトフェリンアッセーを実施するのに適している。
【0008】
本発明の更に一つの目的は、問題の被分析物(たとえばラクトフェリン、グルコース、単純ヘルペスウイルス、ホルモン等々)を検定するための方性およびキットを提供することである。
【0009】
本発明のこれらおよびその他の目的は、本明細書に記載された本発明の様々な態様によって満たされる。
【0010】
本発明は、一態様においては、涙採集用の一片を提供する。該片は、第一末端、および反対側の第二末端を有し、好ましくは、第一末端から第二末端まで実質的に均一な断面を有する。該片は、実質的に乾燥状態にあるヒドロゲル材料でできている。該片は、涙液が充分に浸透したとき、該ヒドロゲル片沿いに第一末端から第二末端へと実質的に均一な膨潤を有すること、および該片による涙取込みの量と、該片の浸透した末端部分の長さとの間に相関関係を有することを特徴とする。
【0011】
本発明は、もう一つの態様においては、目の涙液中の問題の被分析物を検定するための方法を提供する。該方法は、実質的に乾燥状態にあるヒドロゲル材料でできており、好ましくは、第一末端から第二末端まで実質的に均一な断面を有する一片(涙液が充分に浸透したとき、該ヒドロゲル片沿いに第一末端から第二末端へと実質的に均一な膨潤を有すること、および該片による涙取込みの量と、該片の涙が浸透した末端部分の長さとの間に規定された相関関係を有することを特徴とする)の末端部分を、眼内の目の角膜から離れた位置に置いて、ある量の涙液を浸透(吸収)させる工程と;該片の涙が浸透した末端部分の断片または全部を残りの部分から分離する工程と;該片の涙が浸透した末端部分の断片または全部を用いて、問題の被分析物の存在または量を決定する段階とを含む。
【0012】
本発明は、更に一つの態様においては、目の涙液中の問題の被分析物を検定するためのキットを提供する。該キットは、第一末端、および反対側の第二末端を有し、好ましくは、第一末端から第二末端まで実質的に均一な断面を有する、涙液採集用の一片(実質的に乾燥状態にあるヒドロゲル材料でできており、涙液が充分に浸透したとき、該ヒドロゲル片沿いに第一末端から第二末端へと実質的に均一な膨潤を有すること、および該片による涙取込みの量と、該片の涙が浸透した末端部分の長さとの間に相関関係を有することを特徴とする)と;問題の被分析物と特異的に反応するか、または相互作用して、検出できるシグナルを形成する、試験剤組成物とを含む。
【0013】
好適実施態様の詳細な説明
ここで、本発明の実施態様を詳しく参照して、その一つまたはそれ以上の実施例を以下に説明する。実施例は、それぞれ、本発明の説明のために与えられ、本発明の限定ではない。事実、当業者には、本発明の範囲および精神からの逸脱することなく、様々な変更および変化を本発明に加えられることが明らかであると思われる。たとえば、一実施態様の部分として例示または記載された特徴は、もう一つの実施態様に用いて、さらに一つの実施態様を生じることができる。したがって、本発明は、そのような変更および変化を、付記されたクレームおよびそれらの等価体の範囲内にあるとして網羅することが意図される。本発明のその他の目的、特徴および態様は、下記の詳細な説明に開示されているか、またはそれから自明である。当業者は、本考察が例示的な実施態様のみの説明であるにすぎず、本発明の更に広義の態様を限定するとは意図されないことを理解しなければならない。
【0014】
別途定義されない限り、本明細書に用いられる技術および学術用語は、すべて、本発明が属する当技術分野の通常の技量を有する者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。概して、本明細書に用いられる命名法、および研究室の手順は、当技術分野に周知であり、一般的に用いられる。これらの手順のためには、慣用の方法、たとえば、当技術および様々な一般的参考文献中に与えられるものが用いられる。ある用語が単数形で与えられる場合、本発明者らは、その用語の複数形も意図している。この開示の全体を通して用いられるとおり、以下の用語は、別途指示されない限り、以下の意味を有するものと理解しなければならない。
【0015】
本発明は、一態様においては、涙採集用の一片を提供する。該片は、実質的に乾燥状態にあるヒドロゲル材料でできており、好ましくは、均一な断面を有する。本発明のヒドロゲル片は、涙液が充分に浸透したとき、該ヒドロゲル片沿いに実質的に均一な膨潤を有することを特徴とし、該片による涙取込みの量と、該片の涙が浸透した末端部分の長さとの間に相関関係を有することを特徴とする。
【0016】
ヒドロゲル材料は、涙採集用の一片(または芯材)を作成するのに充分適することが発見されている。ここで、(1)ポリ(ビニルアルコール)(すなわちPVA)片の浸透部分の長さは、該PVA片による取込みの量と、充分に相関し;(2)涙液中の問題の被分析物(たとえばグルコース)は、PVA片によって吸収され、該PVA片の涙浸透部分全体に、PVA片沿いに横方向に充分に規定された様式で分配されることができ;(3)涙液および/または問題の被分析物は、涙浸透PVA片から実質的に回収できることが見出された。そのような特徴により、ヒドロゲル片は、ガラス毛細管に置き換わる、涙採集装置の代替的形態として充分に機能することができる。
【0017】
涙採集装置としてのヒドロゲル片は、ガラス毛細管に勝るいくつかの利点をもたらすことができる。第一に、ヒドロゲル片を扱うことは、ガラス毛細管を扱うことよりはるかに容易である。ガラス毛細管は、取扱いおよび輸送の際に破損することがあり、傷害を生じかねない。ガラス毛細管に含まれた液体は、事故によってこぼれ出て(または落下して)、何らかの健康または環境上の懸念を生じる可能性がある。対照的に、ヒドロゲル片は、脆くはない。涙液は、吸収されたならば、ヒドロゲル片によって閉じ込められるため、液体のこぼれ出しに付随する問題が排除されるか、少なくとも最小化される。第二に、涙液を採集するのにヒドロゲル片を用いることは、ガラス毛細管を用いることより安全であり、はるかに迅速であり、刺激することが少ない。
毛細管は、その断面の寸法が小さく、壁が薄いため、概して、硬く、比較的尖鋭である。しかし、ヒドロゲルは、特に水和されたとき(すなわち涙液を吸収した後)、軟らかく、コンタクトレンズに広く用いられている。ガラス毛細管に比して、ヒドロゲル片は、目に損傷を生じる可能性が少なく、充分訓練された専門家ではない人物が用いることができる。更に、問題の1種類またはそれ以上の被分析物についてのアッセーは、ヒドロゲル片の涙浸透部分の区分された一つまたはそれ以上の小片の上または中で直接実施することができる。あるいは、ヒドロゲル片が吸収した涙液は、当業者に公知の方法によって実質的に回収することができる。
【0018】
「ヒドロゲル材料」は、完全に水和されたとき、少なくとも10重量%の水を吸収できる、重合体性材料を意味する。一般に、ヒドロゲル材料は、少なくとも1種類の親水性単量体の、追加の単量体および/またはマクロマーの存在もしくは不在下での重合もしくは共重合によって得られる。
【0019】
「単量体」は、重合させることができる低分子量化合物を意味する。低分子量は、代表的には、700ダルトン未満の平均分子量を意味する。
【0020】
「マクロマー」は、更に重合ができる官能基を有する、中および高分子量の化合物または重合体を意味する。中および高分子量は、代表的には、700ダルトンより大きい平均分子量を意味する。
【0021】
「親水性ビニル系単量体」は、代表的には、水溶性であるか、または少なくとも10重量%の水を吸収することができる重合体を単独重合体として生じる、単量体を意味する。適切な親水性ビニル共単量体は、ヒドロキシル置換低級アルキル=アクリラートおよびメタクリラート、アクリルアミド、メタクリルアミド、低級アルキル−アクリルアミドおよびメタクリルアミド、エトキシ化されたアクリラートおよびメタクリラート、ヒドロキシル置換低級アルキル−アクリルアミドおよび−メタクリルアミド、ヒドロキシ置換低級アルキルビニルエーテル、エチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸ナトリウム、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、N−ビニルピロール、N−ビニルスクシンイミド、N−ビニルピロリドン、2−または4−ビニルピリジン、アクリル酸、メタクリル酸、アミノ−(ここで、用語「アミノ」は、第4級アンモニウムも包含する)、モノ低級アルキルアミノ−またはジ低級アルキルアミノ−低級アルキル=アクリラートおよび=メタクリラート、アリルアルコールなどを、限定ではなく包含する。好ましいのは、たとえば、ヒドロキシ置換C2〜C4アルキル=(メタ)アクリラート、五ないし七員N−ビニルラクタム、N,N−ジ−C1〜C4アルキルメタクリルアミド、および合計3〜5個の炭素原子を有するビニル性不飽和カルボン酸である。適切な親水性ビニル共単量体の例は、ヒドロキシエチル=メタクリラート、ヒドロキシエチル=アクリラート、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、アリルアルコール、ビニルピリジン、ビニルピロリドン、グリセロール=メタクリラート、N−(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)アクリルアミドなどを包含する。
【0022】
本発明には、公知の適切ないかなるヒドロゲルも用いることができる。例示的なヒドロゲルは、ポリ(ビニルアルコール)(PVA);改質ポリビニルアルコール(たとえば、EP-A-641806に開示されたような、架橋結合性ポリビニルアルコールに基づくヒドロゲル、たとえばnelfilcon A)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリラート)単独および共重合体;ポリ(ビニルピロリドン);ポリカルボン酸を有するPVA(たとえばcarbopol)、ポリアルキレンオキシド、たとえばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールまたはポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロック共重合体;たとえばEP-A-0,932,635、EP-A-0,958,315、EP-A-0,961,941またはEP-A-1,017,734に開示されたような、架橋結合性ポリアルキレンオキシドから誘導される単独または共重合体;ポリアクリルアミド;ポリメタクリルアミド;シリコーン含有ヒドロゲル、ポリウレタン、ポリ尿素などを包含するが、これらに限定されない。ヒドロゲルは、当業者に公知のいかなる方法に従っても製造することができる。
【0023】
好ましくは、一片を、目の外眼角付近の位置に置いて、涙液を採集する。「外眼角」は、目の二つの眼角のうちの、鼻から離れて位置する一方を意味する。
【0024】
本発明のヒドロゲル片は、涙液を採集するのに適したいかなる寸法も有することができる。本発明のヒドロゲル片は、最小量(たとえば少なくとも約1μl)の涙を吸収するのに充分に長い長さを有する。本発明のヒドロゲル片は、好ましくは、長さが少なくとも15mm、より好ましくは長さが少なくとも30mm以上である。
【0025】
ヒドロゲル片の断面が、あまりに小さい寸法(たとえば直径、幅、高さ等々)を有するために、尖鋭となり、目の組織に損傷を生じかねないか、かつ/または構造的に安定しないことは望ましくない。
【0026】
ヒドロゲル片の断面が、あまりに大きい寸法(たとえば直径、幅、高さ等々)を有するために、外眼角に到達できないことも望ましくない。
【0027】
本発明のヒドロゲル片は、好ましくは、該片沿いに均一な断面を有する。本発明のヒドロゲル片の断面は、いかなる幾何学的形状、たとえば矩形、方形、円形、三角形、環状の輪などを有することもできる。好ましくは、ヒドロゲル片の断面は、矩形の形状を有する。矩形の断面は、約1〜約3mm、好ましくは1.5〜2mmの幅、および0.5〜1.5mm、好ましくは0.8〜1.2mmの高さを有する。本発明のヒドロゲル片の断面が円形である場合は、円形断面の直径は、好ましくは、1〜3mm、より好ましくは1.5〜2.2mmである。
【0028】
「涙液が充分に浸透したとき、ヒドロゲル片沿いに実質的に均一に膨潤する」は、本発明のヒドロゲル片に流体(たとえば涙)が充分に浸透したとき、該片がヒドロゲル片の長さ沿いに体積の実質的に均一な増加を有し、その幾何学的形状の有意な変化を観察することが全くできないことを意味する。
【0029】
該片による流体(たとえば涙、血清または尿)の取込みの量と、該片の流体が浸透した末端部分の長さとの間の相関関係は、好ましくは、実質的に線形の関係である。実質的に線形の関係により、本発明のヒドロゲル片による涙取込みの量は、容易に定量することができる。好適実施態様では、涙取込みの量は、本発明のヒドロゲル片上に目立つように刻印することができる。
【0030】
たとえば、本発明の好適実施態様によるヒドロゲル片を、図1に模式的に示す。この好適実施態様では、ヒドロゲル片の断面は、矩形であり、ヒドロゲル片は、幅1.5mm、高さ1.0mm、長さ30mmの寸法を有する。該片による涙取込みおよび血清取込みの目盛は、それぞれ、該片の上部および側方に付けられる。
【0031】
本発明は、もう一つの態様では、目の涙液中の問題の被分析物を検定する方法を提供する。この方法は、実質的に乾燥状態にあるヒドロゲル材料でできており、好ましくは、一端から他端まで実質的に均一な断面を有する一片(涙液が充分に浸透したとき、該ヒドロゲル片沿いに一端から他端へと実質的に均一な膨潤を有すること、および該片による涙取込みの量と、該片の涙が浸透した末端部分の長さとの間に規定された相関関係を有することを特徴とする)の末端部分を、眼内の目の角膜から離れた位置に置いて、ある量の涙液を浸透(吸収)させる工程と;該片の涙浸透末端部分の断片または全部を残りの部分から分離する工程と;該片の涙浸透末端部分の断片または全部を用いて、問題の被分析物の存在または量を決定する段階とを含む。
【0032】
用語「被分析物」は、試験しようとする物質を意味する。例示的な問題の被分析物は、電解質および小分子(たとえばナトリウム、カリウム、塩化物、フェニルアラニン、尿酸、ガラクトース、グルコース、システイン、ホモシステイン、カルシウム、エタノール、アセチルコリンおよびアセチルコリン類似体、オルニチン、血中尿素の窒素、クレアチニン)、金属元素(たとえば鉄、銅、マグネシウム)、ポリペプチドホルモン(たとえば甲状腺刺激ホルモン、成長ホルモン、インスリン、黄体形成ホルモン、絨毛性性腺刺激ホルモン、肥満ホルモン、たとえばレプチン、セロトニンなど)、長期的に投与される医薬(たとえばジランチン、フェノバルビタール、プロプラノロール)、短期的に投与される医薬(たとえばコカイン、ヘロイン、ケタミン)、小分子ホルモン(たとえば甲状腺ホルモン、ACTH、エストロゲン、コルチゾール、エストロゲンなどの代謝ステロイド)、炎症および/もしくはアレルギーの指標(たとえばヒスタミン、IgE、サイトカイン)、脂質(たとえばコレステロール)、タンパク質および酵素(たとえばラクトフェリン、リゾチーム、涙特異的プレアルブミン、アルブミン、補体、凝固因子、肝機能酵素、心損傷酵素、フェリチン)、感染の指標(たとえばウイルス成分、免疫グロブリン、たとえばIgM、IgG等々、プロテアーゼ、プロテアーゼインヒビター)、ならびに/または代謝物(たとえば乳酸塩、ケトン体)を包含するが、これらに限定されない。
【0033】
問題の被分析物は、該片の涙浸透部分の断片もしくは全部上で直接にか、または初めに該片の浸透部分から涙試料を回収し、次いで、回収された涙試料中の問題の1種類もしくはそれ以上の被分析物を検定することによって検定することができる。
【0034】
当業者には、問題の被分析物のアッセーは、問題の被分析物と特異的に反応するか、または相互作用して、検出できるシグナルの形成へと導く、試験剤組成物を援用して実施できることが周知である。検出できるシグナルは、たとえば、電気的シグナル(電気化学的アッセー)、または光学的シグナル(酵素アッセー、免疫アッセーまたは競合的結合アッセー)であることができる。例示的な電気的シグナルは、電位および電流である。光学的シグナルは、色の形成、色の変化、蛍光、ルミネセンス、化学ルミネセンス、蛍光またはルミネセンス強度の変化、蛍光もしくはルミネセンス持続時間、蛍光異方性または偏光、発光スペクトルのスペクトルシフト、時間分解性異方性壊変の変化などを包含するが、これらに限定されない、光学的特性の変化を意味する。
【0035】
問題の被分析物の電気化学的アッセーは、主として、変換器の活性表面に吸着された酵素の薄層からなる、酵素電極(またはバイオセンサー)を用いることによって実施される。適切な参照電極および回路とともに、バイオセンサーが、(電位測定のために)二つの電極間に発生する電位差、または(電流滴定の測定のために)二つの電極間を流れる電流のいずれかを測定するのを可能とする。バイオセンサーの例は、グルコースバイオセンサーであって、グルコース酸化酵素およびメジエーターの混合物を含有する電導性コーティングを有する、炭素電極からなる。作用電極の表面では、グルコース酸化酵素なる酵素によってグルコースが酸化される。この反応は、メジエーターが還元されるようにする。二つの電極間に印加された固定電位では、メジエーターが酸化されて、試料中のグルコース濃度と相関する、シグナル応答を発生させる。
【0036】
ヒドロゲル片は、電気化学的アッセーを実施するための媒体として役立つ。たとえば、涙液中の問題の被分析物の電気化学的アッセーは、初めに、本発明のヒドロゲル片を用いて、ある量の涙液を採集し、次いで、ヒドロゲル片の涙浸透部分の全体または断片を酵素電極および参照電極に直接接触させ、最後に、二つの電極間に固定電位を印加して、問題の被分析物の濃度と相関する電流滴定シグナル(電流)を得ることによって実施することができる。
【0037】
免疫アッセーは、生物学的流体、たとえば尿または血清中の問題の被分析物の定量に広く用いられている。たとえば、ラクトフェリンは、ラクトカード試験用のそれに似た固相ELISA試験によって検定することができる。もう一つの例では、グルコースを、トリンダー(Trinder)反応に基づいて検定することができる。トリンダー反応では、代表的には、グルコース酸化酵素が、酸素の存在下で、グルコースを酸化して、グルコン酸および過酸化水素を形成し、次いでこれが、過酸化酵素の存在下で、発色性酸化/還元指示薬(たとえばフェノール、3−ヒドロキシ−2,4,6−トリヨード安息香酸、3−ヒドロキシ−2,4,6−トリブロモ安息香酸等々)と反応して、その本来の色とは異なる色を形成するか、または化学ルミネセンスを発生する。トリンダー反応は、被分析物特異的な酸化酵素を入手かつ使用することができる限り、その他の問題の被分析物を決定するのに用いることができる。
【0038】
結合アッセーおよび競合的結合アッセーは、試料中の問題の被分析物の定量に広く用いられている。代表的には、(いかなる競合体もなしの)結合アッセーは、概して、該試料中の該被分析物(リガンド)と結合し、検出できる光学的シグナル(または他の検出できるシグナル)を有する(レセプターとしての)タンパク質もしくはそのフラグメント、または化学的化合物を用いることによって実施されて、このシグナルが、該タンパク質が該被分析物に結合したときに、濃度依存的な方式で変化する。競合的結合アッセーは、レセプター(たとえば抗体、レセプター、輸送タンパク質、化学的化合物)との反応の際の、標識化されたリガンド(被分析物)またはリガンド類似体(被分析物類似体)と非標識化リガンド(被分析物)との間の競合に基づく。
【0039】
検出できる光学的シグナルは、レセプターおよび/または競合体に付随する一つもしくはそれ以上の標識から生じる。標識は、レセプターまたは競合体に、共有結合でか、または非共有結合で結合してよい。「レセプター」は、試料中の問題の被分析物に可逆的に結合することができるタンパク質もしくはそのフラグメント、または化学的化合物を意味する。「競合体」は、レセプターとの結合について問題の被分析物と競合する、分子または部分を意味する。
【0040】
広範囲の適切な標識が公知である。たとえば、標識は、蛍光標識であってよい。「蛍光標識」は、少なくとも一つの発蛍光団を含み、ある分子に結合したとき、そのような分子を蛍光性検出手段を用いて検出できるようにする部分を意味する。例示的な発蛍光団は、キサンテン型染料、フルオレセイン型染料、ローダミン型染料、シアニン型染料などを包含する。発蛍光団は、フィコビリタンパク質のような蛍光性タンパク質であることもできる。
【0041】
検出できる光学的シグナルは、一対の発蛍光団、すなわち第一発蛍光団および第二発蛍光団から誘導することができる。二つの発蛍光団の一方、たとえば第一発蛍光団は、エネルギー供与体であることができて、その吸収スペクトル内の励起波長で励起されると、エネルギーを吸収し、その発光スペクトル内の波長でエネルギーを放出し、他方の発蛍光団、たとえば第二発蛍光団は、エネルギー受容体であることができて、その吸収スペクトル内の波長で供与体が放出したエネルギーを受容し、その発光スペクトル内の波長でエネルギーを放出する。供与体発蛍光団の吸収最大値の波長は、受容体発蛍光団の吸収最大値の波長より短く;供与体発蛍光団の発光最大値の波長は、受容体発蛍光団の発光最大値の波長より短い。エネルギー移動効率は、供与体の発光スペクトルと受容体の吸収スペクトルとのスペクトル重複、供与体発蛍光団と受容体発蛍光団との空間的距離、供与体発蛍光団と受容体発蛍光団との相対的配向、供与体の量子収率、および供与体の励起状態の寿命のような、いくつかの要因に依存することが公知である。当業者には、供与体発蛍光団および受容体発蛍光団の選び方が周知である。結合アッセー系では、エネルギー供与体発蛍光団およびエネルギー受容体発蛍光団は、それぞれ、レセプターに結合させ、レセプターが被分析物に結合されたときに、検出できる光学的シグナルが存在するように間隔をあけることができる。競合的結合アッセー系では、エネルギー供与体発蛍光団およびエネルギー受容体発蛍光団の一方を、レセプターに結合させることができ、他方を競合体に結合させることができる。
【0042】
上記のエネルギー受容体発蛍光団は、たとえば、受容体の吸収スペクトル内の波長で供与体発蛍光団が放出したエネルギーを受容するが、蛍光またはルミネセンスの形態ではエネルギーを放出しない染料のような、非蛍光性エネルギー移動受容体で置き換え得ることが理解される。
【0043】
蛍光標識は、本来的にレセプターの一部であることができる。たとえば、レセプターは、蛍光タンパク質の少なくとも蛍光を発する部分、およびレセプタータンパク質の少なくとも結合する部分を含む、融合タンパク質であることができる。これに代えて、蛍光標識は、レセプター部分に天然には付随しないが、化学的結合、たとえば共有結合によって結合される、蛍光標識であることもできる。
【0044】
蛍光ラベルは、本来的に競合体の一部であることができる。これに代えて、蛍光標識は、競合体部分に天然には付随しないが、化学的結合、たとえば共有結合によって結合される、蛍光標識であることもできる。
【0045】
結合アッセーの一例は、米国特許第6,197,534号明細書に開示された、グルコースについてのアッセーであって、以前に記載されたような[Scholle, et al., Mol. Gen. Genet., 208:247-253 (1987)]大腸菌グルコース/ガラクトース結合タンパク質(「GGBP」)、または機能的に等価のそのフラグメントを用いる。グルコース追跡センサーとして、GGBPは、単一のグルコース結合部位、およびグルコースに対する高い親和性(GGBPは、ほぼ0.8μMの解離定数でグルコースと結合する)を包含する、いくつかの有利な特徴を有する。他の細菌からの類似の輸送タンパク質と同様に、GGBPは、グルコース/ガラクトースとの結合に極めて特異的である。グルコースまたはガラクトース以外の糖に対するGGBPの見かけの結合親和性は、代表的には100〜1,00倍も弱い[Boos, et al., J. Biol. Chem., 247(3):917-924 (1972);Boos, W., J. Biol. Chem., 247(17):5414-5424 (1972);Strange & Koshland, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 73(3):762-766 (1976);Zukin, et al., Biochemistry, 16(3):381-386 (1977)]。グルコースに対する高い親和性は、涙液中のμMでのグルコース濃度を測定することも可能とする。GGBPは、その二つの特異的位置で、一つの蛍光エネルギー供与体部分、および一つの蛍光エネルギー受容体によって、GGBPがグルコースと結合したとき、検出できるスペクトル変化(たとえば蛍光の強度または寿命の変化)が存在するような方式で標識化することができる。
【0046】
競合的結合アッセーの一例は、EP-A-1206213に開示された、グルコースについてのアッセーであって、レセプターとしてテトラメチルローダミン=イソチオシアナート−コンカナバリンA(TRITC−ConA)、競合体としてフルオレセイン=イソチオシアナート−デキストラン(FITC−デキストラン)を含む、グルコース感知系を用いる。FITC−デキストランがTRITC−ConAに結合する間に、FITCの蛍光が、蛍光共鳴エネルギー移動を介してTRITCによって消光される。グルコース濃度の上昇は、FITC−デキストランを遊離させ、グルコース濃度に比例する蛍光を生じる。
【0047】
ヒドロゲル片は、問題の被分析物と特異的に反応するか、または相互作用して、検出できるシグナルを形成する、試験剤組成物を用いた、結合アッセーまたは競合的結合アッセーを実施するための媒体として役立てることができる。
【0048】
涙液中の問題の被分析物を結合アッセーに基づいて検定する場合、試験剤組成物は、好ましくはレセプターを含んでいて、それは、該問題の被分析物と結合することができ、タンパク質またはそのフラグメントが該被分析物と結合したときに、濃度依存的方式で変化する、検出できる光学的シグナルを有し、該検出できる光学的シグナルは、該レセプターに付随する一つまたはそれ以上の標識から生じる。より好ましくは、該試験剤組成物は、(1)蛍光エネルギー供与体および蛍光エネルギー受容体;または(2)蛍光エネルギー供与体および非蛍光エネルギー受容体を含む。
【0049】
涙液中の問題の被分析物を競合的結合アッセーに基づいて検定する場合、試験剤組成物は、好ましくは、それに付随する第一標識を有するレセプター、それに付随する第二標識を有する競合体を含んでいて、第一および第二標識の一方は、蛍光性エネルギー供与体であり、他方は蛍光性または非蛍光性エネルギー受容体である。被分析物/競合体結合部位との、競合体および被分析物の双方の結合は、可逆的である。
【0050】
試験剤組成物は、溶液であることができるか、または本発明の一片に部分的にか、もしくは全体的に組み込むことができる。たとえば、レセプターは、該片の材料に共有結合で結合させることができる。レセプターは、公知の適切ないかなる方法に従っても、該片材料に共有結合で結合させることができる。
【0051】
同様に、競合体は、好ましくは柔軟なリンカーを介して、公知の適切ないかなる方法に従っても、該片材料に結合することができる。重合体または競合体もしくはレセプターへの柔軟なリンカーの導入は、当業者には公知である。
【0052】
レセプターの特定の被分析物/競合体結合部位への結合について被分析物と競合するような競合体を選ぶことは、やはり、充分に当業者の技量のうちにある。たとえば、上に開示された被分析物−レセプター結合対とともに用いることができる競合体は、フルオレセイン−デキストラン(コンカナバリンAとの結合についてグルコースと競合する)、2−デオキシ−D−グルコースまたはD−マンノースもしくはD−ガラクトース(グルコース酸化酵素との結合についてグルコースと競合する)、フルオレセイン−ポリ尿酸グルタミル(ウリカーゼとの結合について尿酸と競合する)、フルオレセインナノロール(アルコール脱水素酵素との結合についてアルコールと競合する)、フルオレセイン−グルタミン=フェニルアセタート(フェニルアラニン水酸化酵素との結合についてフェニルアラニンと競合する)、フルオレセイン−エリトロクプレイン(セルロプラスミンとの結合について銅と競合する)、フルオレセイン−2,3,6−トリ−O−メチルガラクトース(ガラクトキナーゼとの結合についてガラクトースと競合する)、フルオレセイン−S−アデノシルポリホモシステイン(シスタチオニン合成酵素との結合についてシステインおよびホモシステインと競合する)、フルオロポリグルタミル−プロスチグミン(アセチルコリンエステラーゼとの結合についてアセチルコリンと競合する)、およびフルオロスペルミン(ジアミン酸化酵素との結合についてオルニチンと競合する)を包含する。
【0053】
レセプターとして用いられる分子の性質は、検出しようとする特定の被分析物に依存するが、少なくとも、該分子の被分析物/競合体結合部位を含むのに充分な部分を包含する。たとえば、グルコースが検出しようとする被分析物であるならば、レセプターは、好ましくはコンカナバリンA[Mansouri & Schultz, Bio/Tech, 2, 385, 1984]もしくはグルコース酸化酵素(好ましくは非反応性形態)、ボロン酸、または遺伝子操作されたグルコース結合タンパク質であるが、他のレセプター、たとえば抗体を用いることもできる。
【0054】
フェニルアラニンが検出しようとする被分析物であるならば、レセプターは、好ましくは、フェニルアラニン水酸化酵素の活性部位を含む。その他の被分析物−レセプター部分結合対、たとえば尿酸−ウリカーゼ、アルコール−アルコール脱水素酵素、銅−セルロプラスミン、ガラクトース−ガラクトキナーゼ、システイン−および/またはホモシステイン−シスタチオニン合成酵素、アセチルコリン−アセチルコリンエステラーゼ、オルニチン−ジアミン酸化酵素などを決定することは、充分に、当技術の知見を有する者の技量のうちにある。
【0055】
好ましくは、競合的結合アッセーのための試験剤組成物中の競合体に付随する蛍光ラベルは、競合体が被分析物/競合体結合部位に結合しないとき、より容易に検出可能である。したがって、蛍光標識、たとえばフルオレセイン、インドシアニングリーン、マラカイトグリーン、ローダミン、Alexa Fluor(登録商標)染料(たとえばAlexa 488)、Oregon Green(登録商標)染料(たとえばOregon Green 488)、BODIPY(4,4−ジフルオロ−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン)なる発蛍光団、シアニン染料(たとえばCy2)およびフィコビリタンパク質は、競合体が結合したとき消光されるが、競合体が結合しないときは消光されず、本発明の実施態様によれば好適である。
【0056】
もう一つの実施態様では、本発明の一片は、その表面に、レセプター層、高分子電解質層および競合体層を含む。高分子電解質層は、多数のイオン性または電離性の官能基を有する、概して高分子量の重合体である1種類またはそれ以上の高分子電解質を含む。該高分子電解質層内の少なくとも一つの高分子電解質は、レセプターおよび競合体層の全体的な電荷とは反対の電荷を有する。適切な高分子電解質は、正に荷電したPDDA(ポリジアリルジメチルアンモニウム=クロリド)、および負に荷電したPAA(ポリアクリル酸)を包含する。層の組立は、反対に荷電した高分子イオンの逐次吸着に基づく。センサー、および間隔をあけるための高分子電解質は、多孔質のポリビニルアルコールまたはヒドロゲル基質に均一な薄膜(1〜10nm)として10〜15の沈着周期で沈着させる結果、わずか100〜500nmの厚さの、極めて生体適合性に富む、感知薄膜のためのコーティングを生じる。グルコース検出に適した本発明の一片を構成するための代表的な順序は、PDDA、PAA、PDDA、コンカナバリンA、PDDA、PAA、PDDA、フルオレセインデキストラン、PDDA、PAA、PDDA、PAA、コンカナバリンA、PAA、フルオレセインデキストラン、PAA等々からなる超薄(1〜10nm)薄膜の沈着周期を包含する。そのような層を含む眼用レンズを構成する技術は、たとえば、WO 99/35520に教示されている。
【0057】
標識は、当業者に公知のいかなる方法によっても検出することができる。たとえば、標識が発光標識であるならば、検出器はルミノメーターを包含してよく;標識が比色分析標識であるならば、検出器は比色計を包含してよく;標識が蛍光標識であるならば、検出器は蛍光光度計を包含してよい。そのような装置の構成は、当技術に周知である。蛍光標識を励起するような波長を有する光は、たとえば、レーザー、または発光ダイオードのような光源によって与えることができる。
【0058】
本発明は、更に一つの態様では、涙液中の問題の被分析物を検定するためのキットを提供し、該キットは、第一末端、および反対側の第二末端を有し、好ましくは、第一末端から第二末端まで実質的に均一な断面を有する、涙液採集用の一片(実質的に乾燥状態にあるヒドロゲル材料でできており、涙液が充分に浸透したとき、該ヒドロゲル片沿いに第一末端から第二末端へと実質的に均一な膨潤を有すること、および該片による涙取込みの量と、該片の涙が浸透した末端部分の長さとの間に相関関係を有することを特徴とする)と;問題の被分析物と特異的に反応して、検出できるシグナルを形成する、試験剤組成物とを含む。
【0059】
本発明の方法およびキットは、診断の目的に、たとえば、ドライアイを診断すること(患者の涙液中のラクトフェリン濃度を測定すること)、グルコース濃度を追跡すること、妊娠について試験すること(β−HCGを検出すること)、血液化学(電解質、Ca2PO4、マグネシウム、ビリルビン、アルカリ性ホスファターゼ、乳酸脱水素酵素、アラニンアミノ基移転酵素等々)を査定すること、および感染を(たとえばCMV、EBV、肝炎およびHIV、または細菌、たとえばブドウ球菌、連鎖球菌等々の成分を検出することによって)検出することに役立つ。また、潜在的な治療法として用いるための化合物を査定する途上で、試験化合物の血中濃度を追跡するのにも役立つ。
【0060】
ドライアイの患者は、本発明のヒドロゲル片で涙サンプルを採集することによって、自宅でか、または検眼者の診察室で診断することができよう。該片は、その上で比色分析アッセーを直接実施するための試験剤組成物を含有することができるか、または該片は、涙液中のラクトフェリン濃度を測定するためのアッセー系に直接入れることもできよう。これは、検眼者が各患者の来診ごとにドライアイを診断するのを可能とすると思われる。
【0061】
試験剤組成物の少なくとも一つの成分、または全成分を、場合により、本発明の一片に含浸させて、涙液中の問題の被分析物を検定することができる。
【0062】
先の開示は、当業者が本発明を実施するのを可能にすると思われる。読者が特定の実施態様およびその利点を理解するのを更に充分に可能にするため、以下の実施例への参照が示唆される。
【実施例1】
【0063】
ポリ(ビニルアルコール)(PVA)なる材料は、Ultracellによって供給された。芯材(片)は、図1に示したとおり、幅1.5mm、厚さ1.0mmおよび長さ30mmの寸法を有するように製造した。芯材の両端の一方を、既知量の試料、たとえば涙、血清またはリン酸緩衝液(PBS)(約pH7.2)に浸漬した。試料が芯材によって吸収された(浸透した)とき、芯材における取込みは、明確に視認できた。与えられた量の試料についての芯材の浸透部分の長さを測定した。この実験を20回反復した。図3に示したとおり、再現可能な線形曲線が得られた。PVA芯材の浸透部分の長さと、PVA芯材上の取込みの体積との線形の関係は、涙および血清について、それぞれ、L(μl)=0.6205xVol+0.7928、およびL(μl)=0.6036xVol+0.6699であった。涙および血清に対するR2値は、ともに0.99であった。取込量の再現性は、異なる直径(2.25mm、1.75mmおよび2.15mm)および同一の長さ(28mm)の三様の円筒形PVA芯材を包含する、他の三様の設計の反復法では、このように容易には観察されなかった。
【0064】
浸透部分の長さと取込みの量との間の、上に確立された線形の関係に基づき、表1に示したとおりに、目盛を確定することができた。そのような目盛を、芯材の側方または上部に刻印または押印して、採集された涙または血清の量を示すことができる。涙および血清には、別個の目盛が必要とされる。好ましくは、涙に対する目盛は芯材の上部に、また血清に対する目盛は芯材の側方に刻印するか、またはその逆にすることができる。
【0065】
【表1】

【実施例2】
【0066】
例1に記載されたとおりに、PVA芯材を製造した。グルコースを、それぞれ三様の媒体、すなわちPBS、涙および血清に溶解することによって、三様のグルコース溶液を調製した。グルコースの濃度は、100mlあたり150mgであった。芯材を、5μlのグルコース溶液に浸漬した。すべての溶液が芯材によって吸収された(浸透した)後、芯材の浸透部分を半分に切断した。次いで、各半分(図2に示す)を、Sigmaから商業的に入手できるトリンダーアッセーを用いて、グルコースについて検定した。
【0067】
結果を図4に示す。三様の溶液のそれぞれの中のグルコースが、芯材によって取り込まれた。しかし、下方の(すなわち芯材の浸漬末端を含む)半分と上半分との間で、グルコース取込みに差があった。そのような差は、研究下にあるグルコース溶液を調製するための媒体中の、たとえばタンパク質のような、その他の化学物質の存在に依存する。最大の差は、血清をグルコース溶液の調製に用いた場合に観察された。しかし、下半分と上半分との間のグルコース取込みの差は、グルコース溶液を調製するための与えられた媒体に関しては一貫しているように思われる。したがって、与えられた試料(涙または血清)について、芯材沿いのグルコース取込みを近似的に定義するためのアルゴリズムを確立することは、可能である。
【実施例3】
【0068】
総タンパク質について検定するために、被験者から涙試料を、PVA芯材およびガラス毛細管を用いて採集した。涙の採集は、芯材を用いると、はるかに容易かつ迅速であることが発見された。PVA芯材によって、ガラス毛細管に比してより多くの涙を、より短い時間で採集することができた。
【実施例4】
【0069】
PVA芯材を、様々な量の既知濃度のグルコース溶液に浸漬した。この溶液は、媒体、たとえばPBS、血清または涙のいずれかから調製した。次いで、取込みを含む芯材の部分全体を、トリンダーアッセーを用いてグルコースについて検定し、各条件下での回収百分率を求めた(図5)。回収率は、グルコース含有血清1μlの場合を除くほとんどの実験について、90%の範囲内であった。取り込まれた量が多ければそれだけ、回収率も高かった。グルコース含有血清1μlによる実験の結果は、おそらく、人為的な誤りによるものであって、それは、ガラス毛細管についてと同じである。グルコース濃度の回収は、採集された量の希釈法、およびその後の凍結乾燥を用いても観察した。この凍結乾燥法を用い、回収された凍結乾燥物を既知量(すなわち10μl)に溶解して、様々なグルコース濃度で80%を上回る回収率を観察した。全体として、この一連の実験から、芯材は、ガラス毛細管と置き換えるのに用い得ることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】1Aは、本発明の好適実施態様による一片の模式的側面図であり、1Bは、図1Aに示した一片の模式的平面図である。
【図2】本発明の好適実施態様による一片の浸透末端部分を示す。
【図3】本発明の一片の、流体試料が浸透した末端部分の長さと、該片による試料取込みとの間の関係を示す。
【図4】本発明の一片の浸透末端部分の下半分および上半分におけるグルコースの分布を示す。
【図5】本発明の一片の浸透部分からのグルコース回収の百分率を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一末端、および反対側の第二末端を有する、涙採集用の一片であって、該片が、実質的に乾燥状態にあるヒドロゲル材料でできており、涙液が充分に浸透したとき、該ヒドロゲル片沿いに第一末端から第二末端へと実質的に均一な膨潤を有することを特徴とし、該片による涙取込みの量と、該片の涙が浸透した末端部分の長さとの間に規定された相関関係を有することを特徴とする一片。
【請求項2】
該片が第一末端から第二末端まで実質的に均一な断面を有する、請求項1記載の一片。
【請求項3】
該ヒドロゲル材料が、ポリ(ビニルアルコール)、改質ポリビニルアルコール、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリラート)の単独および共重合体、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリカルボン酸とのポリ(ビニルアルコール)、ポリアルキレンオキシド、架橋結合性ポリアルキレンオキシドから誘導される単独または共重合体、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、含シリコーンヒドロゲル、ポリウレタン、ポリ尿素、ならびにそれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項1または2記載の一片。
【請求項4】
該片の断面が矩形の形状を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の一片。
【請求項5】
該片の断面が、約1〜約3mmの幅、および0.5〜1.5mmの高さを有する、請求項4記載の一片。
【請求項6】
該片の断面が、1.5〜2mmの幅、および0.8〜1.2mmの高さを有する、請求項4記載の一片。
【請求項7】
該片の断面が円形であり、円形断面の直径が1〜3mmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の一片。
【請求項8】
該片による涙取込みの量と、該片の涙が浸透した末端部分の長さとの間の該規定された相関関係が、実質的に線形の関係である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の一片。
【請求項9】
該片が、その上に記号を有し、該記号が、それぞれ、該片のその記号まで末端部分が吸収した涙液の量を示す、請求項1〜8のいずれか一項に記載の一片。
【請求項10】
目の涙液中の問題の被分析物を検定する方法であって、
請求項1〜9のいずれか一項に記載の一片の末端部分を、眼内の目の角膜から離れた位置に置いて、ある量の涙液を浸透(吸収)させる工程と;
該片の涙が浸透した末端部分の断片または全部を残りの部分から分離する工程と;
該片の涙が浸透した末端部分の断片または全部を用いて、問題の被分析物の存在または量を決定する段階と
を含む方法。
【請求項11】
該片を目の外眼角付近の位置に置いて、涙液を採集する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
該問題の被分析物が、電解質、金属元素、ポリペプチドホルモン、長期的に投与される医薬、短期的に投与される医薬、小分子ホルモン、炎症の指標、アレルギーの指標、脂質、タンパク質、感染の指標、および代謝物からなる群から選ばれる、請求項10または11記載の方法。
【請求項13】
該問題の被分析物がラクトフェリンまたはグルコースである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
目の涙液中の問題の被分析物を検定するためのキットであって、請求項1〜9のいずれか一項に記載の一片と、問題の被分析物と特異的に反応して、検出できるシグナルを形成する試験剤組成物とを含むキット。
【請求項15】
該問題の被分析物が、電解質、金属元素、ポリペプチドホルモン、長期的に投与される医薬、短期的に投与される医薬、小分子ホルモン、炎症の指標、アレルギーの指標、脂質、タンパク質、感染の指標、および代謝物からなる群から選ばれる、請求項14記載のキット。
【請求項16】
該問題の被分析物がラクトフェリンまたはグルコースである、請求項15記載のキット。
【請求項17】
該試験剤組成物が、該問題の被分析物と可逆的に結合することができるレセプターを含み、該レセプターが該被分析物に結合したときに濃度依存的な方式で変化する、検出できる光学的シグナルを有し、該検出できる光学的シグナルが、該レセプターに付随する一つまたはそれ以上の標識から生じる、請求項15または16記載のキット。
【請求項18】
該検出できる光学的シグナルが、蛍光減衰時間、蛍光強度、蛍光異方性、蛍光偏光性の変化、発光スペクトルのスペクトルシフト、および時間分解性異方性壊変の変化からなる群から選ばれる、請求項17記載のキット。
【請求項19】
試験剤組成物が、(1)蛍光性エネルギー供与体および蛍光性エネルギー受容体;または(2)蛍光性エネルギー供与体および非蛍光性エネルギー受容体を含む、請求項14〜18のいずれか一項に記載のキット。
【請求項20】
試験剤組成物が、それに付随する第一標識を有するレセプター、それに付随する第二標識を有する競合体を含んでおり、第一および第二標識の一方が、蛍光性エネルギー供与体であり、他方が蛍光性または非蛍光性エネルギー受容体であって、該試験剤組成物が、レセプターおよび競合体を含み、該レセプターが、被分析物が可逆的に結合することができる被分析物/競合体結合部位を含む、請求項14〜19のいずれか一項に記載のキット。
【請求項21】
試験剤組成物が、一つもしくはそれ以上の溶液であるか、または該片に部分的にか、もしくは全体的に組み込まれている、請求項14〜20記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−501456(P2006−501456A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−540775(P2004−540775)
【出願日】平成15年10月2日(2003.10.2)
【国際出願番号】PCT/EP2003/010972
【国際公開番号】WO2004/030544
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【Fターム(参考)】