液位推定装置
【課題】液面に振動が生じたときに液位を正確に推定することのできる液位推定装置を提供する。
【解決手段】液位推定装置は、液体の貯留される燃料タンク2の底面から液面までの距離である液位Hを推定するものであり、液面に発生した波の伝播速度Vに基づいて、液面に波が発生していないときの液位Hを推定する推定手段を備える。
【解決手段】液位推定装置は、液体の貯留される燃料タンク2の底面から液面までの距離である液位Hを推定するものであり、液面に発生した波の伝播速度Vに基づいて、液面に波が発生していないときの液位Hを推定する推定手段を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液体の貯留される容器の底面から液面までの距離である液位について、これを推定する液位推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の液位推定装置では、液位に応じた電圧を出力する液位センサにより液位を検出するようにしている。なお、その他の液位推定装置としては、例えば特許文献1に記載のものが知られている。
【特許文献1】特開2000−65623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記従来の装置によれば、液面に振動が生じた場合にはセンサの出力値がこれに応じて変動するため、正確な液位を推定することが困難となる。すなわち、センサによる液位の検出対象となる液面の振動の振幅が増大した場合には、本来の液位、すなわち振動が生じていないときの液位に応じた電圧よりも大きな電圧が出力されるため、検出される液位も本来の液位よりも高いものとなる。
【0004】
本発明はこうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、液面に振動が生じたときに液位を正確に推定することのできる液位推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
(1)請求項1に記載の発明は、液体の貯留される容器の底面から液面までの距離である液位について、これを推定する液位推定装置において、液面に発生した波の伝播速度に基づいて、液面に波が発生していないときの液位を推定する推定手段を備えることをその要旨としている。
【0006】
上記発明によれば、液面に発生した波の挙動を積極的に利用した液位の推定を行っているため、液面に振動が発生したときに液位を正確に推定することができるようになる。
(2)請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の液位推定装置において、前記推定手段は、波の伝播速度を「V」とし、重力加速度を「g」とし、波が発生していないときの液位を「H」として、下記演算式(A)により液位を算出することをその要旨としている。
H=V2 /g …(A)
上記発明によれば、波の伝播速度及び重力加速度を把握しさえすれば液位の推定を行うことが可能となるため、液位の推定にかかる処理を簡易なものにすることができるようになる。
【0007】
(3)請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の液位推定装置において、前記推定手段は、波の伝播速度を「V」とし、波の振幅を「h」とし、重力加速度を「g」とし、波が発生していないときの液位を「H」として、下記演算式(B)により液位を算出することをその要旨としている。
H=(V2 /g)−h …(B)
上記演算式(A)によれば、波が発生していないときの液位に対する実際の波の振幅が大きいときには、これに起因して液位の推定精度が大きく低下することが確認されている。この点、上記発明ではこうした波の振幅が推定精度に及ぼす影響が上記演算式(A)よりも小さくなる上記演算式(B)により液位の推定を行うようにしているため、波が発生していないときの液位に対する実際の波の振幅が大きい場合にあっても液位を正確に推定することができるようになる。
【0008】
(4)請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の液位推定装置において、前記推定手段は、波の伝播速度を「V」とし、波の振幅を「h」とし、重力加速度を「g」とし、波が発生していないときの液位を「H」として、まずは下記演算式(A)により液位を算出し、
H=V2 /g …(A)
次に、ここで算出した「H」を用いて、下記演算式(C)の「h/H」の項が「1」よりも小さな値として設定される所定値未満か否かを判定し、
V=(H・g(1+h/H))1/2 …(C)
この判定により所定値未満である旨の結果が得られるときには前記演算式(A)による「H」を最終的な液位の推定値とし、前記判定により所定値以上である旨の結果が得られるときには下記演算式(B)により「H」を算出してこれを最終的な液位の推定値とすることをその要旨としている。
H=(V2 /g)−h …(B)
ここで上記演算式(C)は、波の伝播速度と液位との関係を示す演算式としての基本的なものであって、上記演算式(B)はこれを変形して左辺に液位のみを存在させたものに相当し、また上記演算式(A)は「h/H」の項を「0」に置き換えたうえでこれを変形して左辺に液位のみを存在させたものに相当する。そして上記発明では、「h/H」の項が上記所定値未満のとき、すなわち「h/H」の項を「0」とみなして上記演算式(A)による液位の推定を行ってもその精度に大きな影響がないときには、同式(A)により液位を算出し、また「h/H」の項を無視することのできないときには上記演算式(B)により液位を算出するようにしているため、上記演算式(A)のみにより液位の推定を行うときに比べて推定精度を高めることができるようになる。
【0009】
(5)請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の液位推定装置において、前記推定手段は、前記容器の代表長さを「L」とし、液面の波がこの代表長さを伝播するために要する時間である伝播時間を「T」として、下記演算式(D)により前記波の伝播速度を算出することをその要旨としている。
V=L/T …(D)
上記発明によれば、容器の代表長さ及び伝播時間を把握しさえすれば波の伝播速度を算出することが可能となるため、波の伝播速度の算出にかかる処理を簡易なものにすることができるようになる。なお、容器の代表長さは容器固有のものであり、これを予め設定すれば、液位の推定に際してモニタする必要のあるパラメータは伝播時間のみとなり、これによって波の伝播速度の算出にかかる処理をより簡易なものにすることができるようになる。
【0010】
(6)請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の液位推定装置において、前記推定手段は、実際の液位に応じた信号を出力するセンサからの出力信号に基づいて液面に発生した波の1周期を算出し、これを前記伝播時間とすることをその要旨としている。
【0011】
(7)請求項7に記載の発明は、請求項5に記載の液位推定装置において、前記推定手段は、実際の液位に応じた信号を出力するセンサからの出力信号に基づいて液面に発生した波のN周期(Nは2以上の整数)を算出し、これを前記伝播時間とし、これに併せて前記代表長さをN倍し、これら伝播時間及び代表長さを前記演算式(D)に適用して前記波の伝播速度を算出することをその要旨としている。
【0012】
上記発明によれば、液面に発生した波のN周期を算出し、これを伝播時間とし、これに併せて代表長さを上記N倍し、これら伝播時間及び代表長さを上記演算式(D)に適用して波の伝播速度を算出している。このため、請求項6に記載の発明、すなわち液面の波の1周期を伝播時間とし、同伝播時間と代表長さとに基づいて波の伝播速度を算出するものと比較して、液面の波の1周期である伝播時間のばらつきの影響が小さくなるため、波の伝播時間ひいては液位をより正確に推定することができるようになる。
【0013】
(8)請求項8に記載の発明は、請求項5に記載の液位推定装置において、前記推定手段は、複数の振動成分を含む波について最も大きい振動成分からなる波の固有振動数を「F」とし、実際の液位に応じた信号を出力するセンサからの出力信号を周波数解析して前記固有振動数を算出し、そのうえで下記演算式(E)により前記伝播時間を算出することをその要旨としている。
T=1/F …(E)
上記発明によれば、実際の液位に応じた信号を出力するセンサからの出力信号を周波数解析し、複数の振動成分を含む波について最も大きい振動成分からなる波の固有振動数を算出し、そのうえでこの固有振動数の逆数により波の伝播時間を算出している。このため、液面に生じる波が複数の振動成分を含む波であることに起因して液面の波の伝播時間を正確に算出することが困難な状況においても、これを正確に算出することができる。従って、複数の振動成分を含む波が生じたときに液位を正確に推定することができるようになる。
【0014】
(9)請求項9に記載の発明は、請求項1〜8のいずれか一項に記載の液位推定装置において、前記推定手段を第1の推定手段とし、この推定手段による液位の推定とは別に、液面に波が発生していないときの液位の推定を行う第2の推定手段をさらに備えることをその要旨としている。
【0015】
(10)請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の液位推定装置において、前記第1の推定手段による液位の推定値と前記第2の推定手段による液位の推定値との乖離度合が所定の度合よりも大きいことに基づいて、当該推定装置に異常が生じている旨判定することをその要旨としている。
【0016】
液位推定装置が正常であるときには、それぞれの推定手段による液位の推定値は近い値を示すため、それぞれの推定手段による推定値の乖離度合が所定の度合よりも大きいときにはこれをもって液位推定装置のいずれかの部位に異常が生じている旨判定することができる。
【0017】
(11)請求項11に記載の発明は、請求項9または10に記載の液位推定装置において、前記第2の推定手段は、前記第1の推定手段とは異なる手法により液位の推定を行うことをその要旨としている。
【0018】
上記発明によれば、第1の推定手段と第2の推定手段とが異なる手法により液位の推定を行うため、当該推定装置のいずれかの部位に異常が生じているときには、これが第1の推定手段による推定値と第2の推定手段による推定値とのずれとしてより顕著に反映されるようになる。従って、第1の推定手段及び第2の推定手段が同一の手法により液位の推定を行うものと比較して、当該装置の異常をより的確に判定することができるようになる。
【0019】
(12)請求項12に記載の発明は、請求項11に記載の液位推定装置において、前記第2の推定手段は、液位を検出するセンサの出力信号をなまし処理して液位を推定することをその要旨としている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
<第1実施形態>
図1〜図5を参照して、本発明にかかる液位推定装置を車載内燃機関の燃料タンクの液位推定装置として具体介した第1実施形態について説明する。
【0021】
図1に示すように、車両には燃料タンク2、及びこのタンク2内の燃料の液位、すなわち燃料タンク2の底面から燃料の液面までの距離を推定する電子制御装置6、及び車両の加速度Gに応じた信号を出力する加速度センサ8が設けられている。
【0022】
燃料タンク2は直方体形状をなし、その長手方向が車両の前後方向に一致するように設けられている。ここで、燃料タンク2における車両の前後方向の長さを「代表長さL」とする。また、燃料タンク2の内部には、実際の液位に応じた信号を出力する液位センサ4が設けられている。液位センサ4は、液面に浮揚するフロート42を備えており、同フロート42の鉛直方向の位置に応じた信号、すなわち液位に応じた信号を出力する。
【0023】
電子制御装置6は、中央処理制御装置(CPU)、各種プログラムやマップ等を予め記憶した読出専用メモリ(ROM)、CPUの演算結果等を一時記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)、タイマカウンタ、入力インターフェース及び出力インターフェース等を備えたマイクロコンピュータを中心に構成されている。
【0024】
そして、液位センサ4の出力信号Sに基づいて液面に発生した波の伝播速度Vを算出し、同伝播速度Vに基づいて、液面に波が発生していないときの液位Hを推定する。
次に、図2〜図4を参照して液位の推定方法の詳細について説明する。なお図2は、液面に波が発生しているときのフロート42及び波の様子を模式的に示し、また図3は、液位センサ4による出力信号Sの時間変化の一例を示している。また図4は、液面に波が発生したときのフロート42及び波の様子であって、(a)は振幅hに対して液位Hが大きいときの様子を、(b)は振幅hに対して液位Hが小さいときの様子をそれぞれ示している。
【0025】
図2に示されるように、車両の前進時において前側に進行する波が液面に発生したとき、波の伝播にともないフロート42は上下方向に変位するようになる。このため、図3に示されるように、液位センサ4からの出力信号Sは、フロート42の上下方向への変位に応じて所定値S0、すなわち液面に波が生じていないときの出力信号を中心に最大値S1から最小値S2までの間で変動するようになる。
【0026】
ここで液位の推定に際しては、出力信号が最大値S1に達したときの時刻を「t1」とし、その後に再び最大値S1に達したときの時刻を「t2」とし、その後に再び最大値S1に達したときの時刻を「t3」とするとき、これらのうち時刻t1から時刻t3までの期間、すなわち液面に発生した波の2周期を算出し、これを伝播時間2Tとして採用する。また、これに併せて上記代表長さLを2倍し、この2倍された代表長さ2L及び上記伝播時間2Tを、下記演算式(D)に適用して波の伝播速度Vを算出する。
V=L/T …(D)
そして、このように算出された伝播速度Vと、重力加速度gとを下記演算式(A)に適用して波が発生していないときの液位Hを算出する。
H=V2 /g …(A)
また、図3に示されるように、出力信号Sの最小値S2を検出し、この最小値S2と上記最大値S1とを下記演算式(F)に適用して波の振幅hを算出する。
h=(S1−S2)/2…(F)
ここで、上記演算式(A)により算出される液位Hと、上記演算式(F)により算出される振幅hとの関係が、下記関係式(G)を満たすとき、すなわち実際の液位Hと振幅hとの関係が図4(a)に示される状態にあると推定されるときには、上記演算式(A)により算出される値を最終的な液位Hとする。
h/H<C (C<1)…(G)
一方、上記演算式(A)により算出される液位Hと、上記演算式(F)により算出される振幅hとの関係が、上記関係式式(G)を満たさないとき、すなわち実際の液位Hと振幅hとの関係が図4(b)に示される状態にあると推定されるときには、上記演算式(A)により算出される値に代えて、下記演算式(B)により算出される値を最終的な液位Hとする。
H=(V2 /g)−h …(B)
上記関係式(G)は、下記演算式(C)における「h/H」の項が波の伝播速度Vに及ぼす影響の大小について判別するものである。なお、上記演算式(B)は波の伝播速度と液位との関係を示す演算式としての基本的なものである下記演算式(C)の変形により得られるものである。
V=(H・g(1+h/H))1/2 …(C)
上記演算式(C)において、上記関係式(G)が満たされる場合には上記「h/H」の項が波の伝播速度V(液面H)に及ぼす影響が小さく、上記関係式(G)が満たされない場合には上記「h/H」の項が波の伝播速度V(液面H)に及ぼす影響が大きいものとなる。従って、「h/H」の項が上記所定値C未満のときには、「h/H」の項を「0」に置き換えたうえで上記演算式(C)を変形して得られる上記演算式(A)により液位の推定を行い、また「h/H」の項が上記所定値C以上のときにはこれを維持したうえで上記演算式(B)により液位の推定を行うようにしている。
【0027】
図5を参照して、上述した液位の推定方法を電子制御装置6による処理として具体化した「液位推定処理」の処理手順について説明する。なお、この処理は、電子制御装置6により所定の周期をもって繰り返し実行される。なお、電子制御装置6によるこの液位推定処理が推定手段(第1の推定手段)に相当する。
【0028】
この一連の処理では、まず、車両の加速度Gが所定値G1以上であるか否かを判断する(ステップS1)。ここで、車両の加速度Gが所定値G1未満である場合(ステップS1:「NO」)には液面に波が発生していないものとして、この処理を一旦終了する。一方、車両の加速度Gが所定値G1以上である場合(ステップS1:「YES」)には液面に波が発生しているものとして、次に、そのときの液位センサ4の出力信号Sから上記伝播時間2Tを算出する(ステップS2)。次に、上記演算式(A)により液位H1を算出する(ステップS3)。次に、上記演算式(F)により振幅hを算出し(ステップS4)、この振幅hを上記液位H1で除した値、すなわち「h/H1」が所定値C(C<1)未満であるか否かを判断する(ステップS5)。
【0029】
そしてこの結果、この除算値h/H1が所定値C未満である場合(ステップS5:「YES」)には、図4(a)に示されるように、上記演算式(A)により算出される液位H1に対して振幅hが無視できるほど小さいものとして、上記演算式(A)により算出された液位H1を最終的な液位Hとして(ステップ6)、本推定処理を一旦終了する。
【0030】
一方、先のステップS5の判断処理において、除算値「h/H1」が所定値C以上である場合(ステップS5:「NO」)には、図4(b)に示されるように、上記演算式(A)により算出される液位H1に対して振幅hが無視できないほど大きいものであるとして、上記演算式(B)により液位Hを算出する(ステップ7)。そして、この算出した液位H2を最終的な液位Hとして(ステップ8)、本推定処理を一旦終了する。
【0031】
本実施形態にかかる液位推定装置によれば、以下に示す作用効果が得られるようになる。
(1)液位推定装置は、液面に発生した波の伝播速度Vに基づいて、液面に波が発生していないときの液位Hを推定する推定手段を備えるものとした。このように、液面に発生した波の挙動を積極的に利用した液位Hの推定を行っているため、液面に振動が生じたときに液位Hを正確に推定することができるようになる。
【0032】
(2)推定手段は、上記演算式(A)により液位Hを算出するものとした。このように、波の伝播速度V及び重力加速度gを把握しさえすれば液位Hの推定を行うことが可能となるため、液位Hの推定にかかる処理を簡易なものにすることができるようになる。
【0033】
(3)上記演算式(A)によれば、波が発生していないときの液位H1に対する実際の波の振幅hが大きいときには、これに起因して液位H1の推定精度が大きく低下することが確認されている。この点、推定手段は、こうした波の振幅hが推定精度に及ぼす影響が上記演算式(A)よりも小さくなる上記演算式(B)により液位H2の推定を行うものとした。このため、波が発生していないときの液位Hに対する実際の波の振幅hが大きい場合にあっても液位Hを正確に推定することができるようになる。
【0034】
(4)推定手段は、上記演算式(C)の「h/H」の項が上記所定値C未満のとき、すなわち「h/H」の項を「0」とみなして上記演算式(A)による液位H1の推定を行ってもその精度に大きな影響がないときには、同式(A)により液位H1を算出し、また「h/H」の項を無視することのできないときには上記演算式(B)により液位H2を算出するものとした。このため、上記演算式(A)のみにより液位H1の推定を行うときに比べて推定精度を高めることができるようになる。
【0035】
(5)推定手段は、上記演算式(D)により波の伝播速度Vを算出するものとした。これにより、燃料タンク2の代表長さL及び伝播時間Tを把握しさえすれば波の伝播速度Vを算出することが可能となるため、波の伝播速度Vの算出にかかる処理を簡易なものにすることができるようになる。なお、燃料タンク2の代表長さLはタンク2固有のものであり、これを予め設定すれば、液位Hの推定に際してモニタする必要のあるパラメータは伝播時間Tのみとなり、これによって波の伝播速度Vの算出にかかる処理をより簡易なものにすることができるようになる。
【0036】
(6)推定手段は、実際の液位に応じた信号を出力する液位センサ4からの出力信号Sに基づいて液面に発生した波の2周期を算出し、これを伝播時間2Tとし、これに併せて代表長さLを2倍し、これら伝播時間2T及び代表長さ2Lを上記演算式(D)に適用して波の伝播速度Vを算出するものとした。これにより、液面の波の1周期を伝播時間Tとし、同伝播時間Tと代表長さLとに基づいて波の伝播速度Vを算出するものと比較して、液面の波の1周期である伝播時間Tのばらつきの影響が小さくなるため、波の伝播時間Tひいては液位Hをより正確に推定することができるようになる。
【0037】
(7)従来の液位推定装置としては、液位を正確に把握するために、液位センサ4の出力信号Sをなまし処理するようにしたものも提案されている。しかし、こうした推定装置によれば、それぞれ異なるタイミングで行われた液位の推定による複数の推定結果について、その推定精度が波の振幅の変動の影響を受けて大きく異なることもあるため、推定精度の信頼性に過度のばらつきが生じることが避けられないものとなる。
【0038】
ここで、上記従来の液体推定装置により2回の液位推定が行われた場合を想定する。この2回の推定について、最初の推定を第1の推定とし、次の推定を第2の推定とする。また第2の推定は、第1の推定よりも波の振幅が十分に大きい期間において得られた液位センサ4の出力信号Sに基づいて行われたものとする。
【0039】
上記想定した状況によれば、第1の推定により得られた推定結果である液位X1について、その推定精度(液面に波が発生していないときの液位Hからの乖離度合を示すもの)を基準精度としたとき、第2の推定により得られた推定結果である液位X2について、その推定精度のレベルは波の振幅の影響を上記基準精度よりも過度に大きく受けたものとなる。
【0040】
一方で、上述したような推定精度のばらつきを極力小さなものとするうえで、例えば液位センサ4による液位のサンプリング期間を十分に大きく設定することも考えられるが、この場合には推定精度の維持と引き替えに1回の推定に必要となる時間の増大が避けられないものとなる。
【0041】
このように、上記推定装置によれば、推定精度のレベルを極力一定に維持することと、1回の推定に必要となる時間を小さなものに設定することとの両立を図ることが困難となる。
【0042】
これに対して本実施形態の液位推定装置では、液位センサ4の出力信号Sにより波の2周期2Tを算出し、これに基づいて液位Hを推定するようにしているため、波の振幅の変動度合が大きい状況においてもこれに起因して推定精度のばらつきが増大することが抑制される。また、車両の走行時に発生する液面の波の2周期2Tは比較的短いものとなるため、液位の1回の推定に必要となる時間もこれに応じて短くなる。すなわち、推定精度を極力一定に維持することと、1回の推定に必要となる時間を短くすることとの両立を図ることができるようになる。
【0043】
<第2実施形態>
図6及び図7を参照して、本発明にかかる液位推定装置の第2実施形態について説明する。
【0044】
本実施形態は、先の第1実施形態に対して主に次の変更を加えたものとなっている。すなわち、液位センサ4とは別に、液面に応じた信号を出力する液位センサ5を備え、電子制御装置6は先の「液位推定処理」とは別途の処理である「なまし推定処理」においてその出力信号Xをなまし処理し、これによって液面に波が発生していないときの液位Hbを推定する。
【0045】
そして、第1の推定手段としての「液位推定処理」による液位の推定値Haと、第2の推定手段としての「なまし推定処理」による液位の推定値Hbとの乖離度合が所定の度合よりも大きいことに基づいて、液位センサ4及びその周辺装置及び液位センサ5及びその周辺装置をはじめとした当該液位推定装置のいずれかの部位に異常が生じている旨判定する。なお、本実施形態では、「なまし推定処理」により推定される液位Hbを運転者に報知する燃料タンク2の液位とし、「液位推定処理」により推定される液位Haは上記異常判定にのみ用いるものとしている。
【0046】
図6に示されるように、燃料タンク2の内部には、実際の液位に応じた信号Xを出力する液位センサ5が設けられている。液位センサ5も液位センサ4と同様に、液面に浮揚するフロート52を備えており、同フロート52の鉛直方向の位置に応じた信号すなわち液位に応じた信号を出力する。
【0047】
電子制御装置6は、「液位推定処理」と「なまし推定処理」とを並行して実行し、後者においては液位センサ5の出力信号Xをなまし処理し、すなわち出力信号Xを所定の期間にわたりサンプリングしてそれら複数の出力信号Xの平均値を算出することにより液位を推定する。また、上記各処理に併せて「異常判定処理」を実行し、この処理においては「液位推定処理」による液位の推定値Haと「なまし推定処理」による液位の推定値Hbとを比較し、この結果に基づいて当該推定装置に異常が生じているか否かを判定する。
【0048】
図7を参照して「異常判定処理」の具体的な処理手順について説明する。この処理は、電子制御装置6によって所定の周期をもって繰り返し実行される。
この一連の処理では、まず、「液位推定処理」により推定されたそのときの液位Haを読み込む(ステップS11)。次に、「なまし推定処理」により推定されたそのときの液位Hbを読み込む(ステップS12)。次に、「液位推定処理」による推定値Haと「なまし推定処理」による推定値Hbとの差の絶対値|Ha−Hb|が予め設定された判定値Dよりも大きいか否かを判断する(ステップS13)。
【0049】
そしてこの結果、上記絶対値|Ha−Hb|が予め設定された判定値Dよりも大きい場合(ステップS13:「YES」)には、当該装置に異常が生じている旨判定して、本異常判定処理を一旦終了する。一方、ステップS13の判断処理において、上記絶対値|Ha−Hb|が予め設定された判定値D以下である場合(ステップS13:「NO」)には、当該装置に格別の異常は生じていない旨判定して、本異常判定処理を一旦終了する。
【0050】
本実施形態にかかる液位推定装置によれば、上記第1実施形態の効果(1)〜(7)に加えて、以下に示す作用効果が得られるようになる。
(8)「液位推定処理」による液位の推定値Haと「なまし推定処理」による液位の推定値Hbとの乖離度合である差の絶対値|Ha−Hb|が所定の判定値Dよりも大きいことに基づいて、当該推定装置のいずれかの部位に異常が生じている旨判定するものとした。液位推定装置が正常であるときには、それぞれの推定処理による液位の推定値Ha,Hbは近い値を示すため、それぞれの推定処理による推定値Ha,Hbの差の絶対値|Ha−Hb|が所定の判定値Dよりも大きいときにはこれをもって液位推定装置のいずれかの部位に異常が生じている旨判定することができる。
【0051】
(9)第2の推定手段である「なまし推定処理」は、第1の推定手段である「液位推定処理」とは異なる手法により液位の推定を行うものとした。これにより、当該推定装置のいずれかの部位に異常が生じているときには、これが「液位推定処理」による推定値Haと「なまし推定処理」による推定値Hbとのずれとしてより顕著に反映されるようになる。従って、第1の推定手段及び第2の推定手段が同一の手法により液位の推定を行うものと比較して、当該装置の異常をより的確に判定することができるようになる。
【0052】
<その他の実施形態>
なお、本発明にかかる液位推定装置の実施態様は、上記実施形態にて例示した構成に限定されるものではなく、これを適宜変更した例えば次のような形態として実施することもできる。
【0053】
・上記第2実施形態では、「液位推定処理」の役割を、当該液位推定装置に異常が生じていることを判定するものに設定し、同処理による液位Haは燃料タンク2の燃料の残量を運転者に報知するためのものとして用いない構成としたが、「液位推定処理」の役割を例えば次のように変更することもできる。すなわち、車両の走行時に「液位推定処理」及び「なまし推定処理」による液位推定を並行して実行し、これらによる液位の推定結果を加味して最終的な液位の推定値を算出し、これに基づいて燃料タンク2内の燃料の残量を運転者に報知することもできる。またあるいは、「液位推定処理」及び「なまし推定処理」による推定結果のいずれか一方を選択し、これに基づいて燃料タンク2内の燃料の残量を運転者に報知することもできる。
【0054】
・上記第2実施形態にさらに以下の構成を採用することもできる。すなわち、「液位推定処理」は、液面に生じる波の挙動を積極的に利用して液位の推定を行うものであること、及び「なまし推定処理」は、液面に波が発生していないときに最も正確に液位を推定することができるものであることの双方に鑑み、燃料タンク2の振動態様に応じてそのときどきに液位Hの推定に用いる推定処理を切り替えることもできる。換言すると、推定または検出した燃料タンク2の振動態様に基づいて、「液位推定処理」と「なまし推定処理」とのいずれを用いればより高い推定精度を確保できるかについて判定し、この判定結果に応じてそのときどきにいずれか一方のみの推定処理を通じて液位の推定を行うこともできる。
【0055】
より具体的には、車両の走行状態に基づいて燃料タンク2に過度に大きな振動が生じているか否かを判定し、すなわち燃料タンク2の振動に起因して「なまし推定処理」による液位の推定精度が許容範囲よりも低いものとなるか否かを判定し、許容判定より低い旨の判定結果が得られたときには「液位推定処理」による液位の推定を行い、許容判定よりも高い旨の判定結果が得られたときには「なまし推定処理」による液位の推定を行うこともできる。
【0056】
・上記各実施形態では、加速度センサ8により車両の加速度Gを検出し、これに基づいて液面に振動が生じているか否かを判断するようにしているが、液面に振動が生じているか否かを判断するための構成はこれに限られるものではない。例えば、液面に生じている振動を直接的に検出するセンサを用いることもできる。
【0057】
・上記各実施形態では、そのときの液位センサ4の出力信号Sの変化態様から上記伝播時間2Tを直接的に算出するようにしているが、これに代えて、液位センサ4からの出力信号Sを周波数解析して固有振動数Fを算出し、その上で、下記演算式(E)により伝播時間Tを間接的に算出するようにしてもよい。
T=1/F …(E)
ここで、液面に発生する波が複数の振動成分を含むものである場合には、最も大きい振動成分からなる波の固有振動数Fを採用すればよい。これにより、液面に生じる波が複数の振動成分を含む波であることに起因して液面の波の伝播時間Tを正確に算出することが困難な状況においても、これを正確に算出することができる。従って、複数の振動成分を含む波が生じたときに液位Hを正確に推定することができるようになる。
【0058】
・上記各実施形態では、液位センサ4からの出力信号Sに基づいて液面に発生した波の2周期を算出し、これを伝播時間2Tとしているが、これに代えて、波のN周期(Nは3以上の整数)を算出し、これを伝播時間3Tとしてもよい。また、これに代えて、波の1周期を算出し、これを伝播時間Tとしてもよい。
【0059】
・上記各実施形態では、液面に浮揚するフロート42,52の鉛直方向の位置、すなわち液位に応じた信号を出力する液位センサ4,5について例示しているが、液位センサはこれに限られるものではなく、他に例えば、超音波や光波を利用して液面に接触することなく液位を検出するものなどに変更することも可能である。
【0060】
・上記第1実施形態では、燃料タンク2の代表長さLと波の伝播時間Tとを上記演算式(D)に適用することより、波の伝播速度Vを間接的に算出するようにしているが、これとは異なる手法により波の伝播速度Vを検出するようにしてもよい。
【0061】
・上記各実施形態では、上記関係式(G)が満たされるときには上記演算式(A)による液位H1を最終的な液位Hとし、上記関係式(G)が満たされないときには上記演算式(B)による液位H2を最終的な液位とする推定態様を採用したが、これに代えて、上記関係式(G)を満たすか否かに拘わらず、常に、上記演算式(B)による液位H2を最終的な液位Hとする推定態様に変更することもできる。
【0062】
・上記各実施形態では、上記演算式(A)及び上記演算式(B)のいずれか一方により波が発生していないときの液位Hを推定するようにしているが、液位の推定方法はこれに限られるものではない。要するに、液面に発生した波の伝播速度Vに基づいて、液面に波が発生していないときの液位を推定する方法であればその具体的な態様は適宜変更することができる。
【0063】
・上記各実施形態では、直方体形状の燃料タンク2について例示しているが、燃料タンクの形状はこれに限られるものではなく、他に例えば円柱形状などこれを任意の形状に変更することも可能である。
【0064】
・上記各実施形態では、液面に浮揚するフロート42,52の鉛直方向の位置、すなわち液位に応じた信号を出力する液位センサ4,5について例示しているが、液位の検出方法はこれに限られるものではなく、他に例えば、超音波や光波を利用して液面に接触することなく液位を検出するものなどに変更することも可能である。
【0065】
・上記各実施形態では、本発明の液位推定装置を車載内燃機関の燃料タンク2に貯留される燃料の液位を推定する液位推定装置に具体化したものについて例示しているが、本発明の液位推定装置の適用対象は燃料タンク2に貯留される燃料の液位に限られるものではなく、液体の貯留される容器の底面から液面までの距離である液位であればこれを任意に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる液位検出装置の概略構成を示す模式図。
【図2】同実施形態の液位検出装置について、液面に波が発生しているときのフロート及び波の様子を示す模式図。
【図3】同実施形態の液検出装置について、センサによる出力信号の時間変化の一例を示すタイムチャート。
【図4】同実施形態の液位検出装置について、液面に波が発生しているときのフロート及び波の様子を示す模式図であって、(a)振幅と比較して液位が大きいときの模式図、及び(b)振幅と比較して液位が小さいときの模式図。
【図5】同実施形態の液位検出装置による液位推定処理について、その具体的な処理手順を示すフローチャート。
【図6】本発明の第2実施形態にかかる液位検出装置の概略構成を示した模式図。
【図7】同実施形態の液位検出装置による異常判定処理について、その具体的な処理手順を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0067】
2…燃料タンク、4,5…液位センサ、42,52…フロート、6…電子制御装置、8…加速度センサ。
【技術分野】
【0001】
この発明は、液体の貯留される容器の底面から液面までの距離である液位について、これを推定する液位推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の液位推定装置では、液位に応じた電圧を出力する液位センサにより液位を検出するようにしている。なお、その他の液位推定装置としては、例えば特許文献1に記載のものが知られている。
【特許文献1】特開2000−65623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記従来の装置によれば、液面に振動が生じた場合にはセンサの出力値がこれに応じて変動するため、正確な液位を推定することが困難となる。すなわち、センサによる液位の検出対象となる液面の振動の振幅が増大した場合には、本来の液位、すなわち振動が生じていないときの液位に応じた電圧よりも大きな電圧が出力されるため、検出される液位も本来の液位よりも高いものとなる。
【0004】
本発明はこうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、液面に振動が生じたときに液位を正確に推定することのできる液位推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
(1)請求項1に記載の発明は、液体の貯留される容器の底面から液面までの距離である液位について、これを推定する液位推定装置において、液面に発生した波の伝播速度に基づいて、液面に波が発生していないときの液位を推定する推定手段を備えることをその要旨としている。
【0006】
上記発明によれば、液面に発生した波の挙動を積極的に利用した液位の推定を行っているため、液面に振動が発生したときに液位を正確に推定することができるようになる。
(2)請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の液位推定装置において、前記推定手段は、波の伝播速度を「V」とし、重力加速度を「g」とし、波が発生していないときの液位を「H」として、下記演算式(A)により液位を算出することをその要旨としている。
H=V2 /g …(A)
上記発明によれば、波の伝播速度及び重力加速度を把握しさえすれば液位の推定を行うことが可能となるため、液位の推定にかかる処理を簡易なものにすることができるようになる。
【0007】
(3)請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の液位推定装置において、前記推定手段は、波の伝播速度を「V」とし、波の振幅を「h」とし、重力加速度を「g」とし、波が発生していないときの液位を「H」として、下記演算式(B)により液位を算出することをその要旨としている。
H=(V2 /g)−h …(B)
上記演算式(A)によれば、波が発生していないときの液位に対する実際の波の振幅が大きいときには、これに起因して液位の推定精度が大きく低下することが確認されている。この点、上記発明ではこうした波の振幅が推定精度に及ぼす影響が上記演算式(A)よりも小さくなる上記演算式(B)により液位の推定を行うようにしているため、波が発生していないときの液位に対する実際の波の振幅が大きい場合にあっても液位を正確に推定することができるようになる。
【0008】
(4)請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の液位推定装置において、前記推定手段は、波の伝播速度を「V」とし、波の振幅を「h」とし、重力加速度を「g」とし、波が発生していないときの液位を「H」として、まずは下記演算式(A)により液位を算出し、
H=V2 /g …(A)
次に、ここで算出した「H」を用いて、下記演算式(C)の「h/H」の項が「1」よりも小さな値として設定される所定値未満か否かを判定し、
V=(H・g(1+h/H))1/2 …(C)
この判定により所定値未満である旨の結果が得られるときには前記演算式(A)による「H」を最終的な液位の推定値とし、前記判定により所定値以上である旨の結果が得られるときには下記演算式(B)により「H」を算出してこれを最終的な液位の推定値とすることをその要旨としている。
H=(V2 /g)−h …(B)
ここで上記演算式(C)は、波の伝播速度と液位との関係を示す演算式としての基本的なものであって、上記演算式(B)はこれを変形して左辺に液位のみを存在させたものに相当し、また上記演算式(A)は「h/H」の項を「0」に置き換えたうえでこれを変形して左辺に液位のみを存在させたものに相当する。そして上記発明では、「h/H」の項が上記所定値未満のとき、すなわち「h/H」の項を「0」とみなして上記演算式(A)による液位の推定を行ってもその精度に大きな影響がないときには、同式(A)により液位を算出し、また「h/H」の項を無視することのできないときには上記演算式(B)により液位を算出するようにしているため、上記演算式(A)のみにより液位の推定を行うときに比べて推定精度を高めることができるようになる。
【0009】
(5)請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の液位推定装置において、前記推定手段は、前記容器の代表長さを「L」とし、液面の波がこの代表長さを伝播するために要する時間である伝播時間を「T」として、下記演算式(D)により前記波の伝播速度を算出することをその要旨としている。
V=L/T …(D)
上記発明によれば、容器の代表長さ及び伝播時間を把握しさえすれば波の伝播速度を算出することが可能となるため、波の伝播速度の算出にかかる処理を簡易なものにすることができるようになる。なお、容器の代表長さは容器固有のものであり、これを予め設定すれば、液位の推定に際してモニタする必要のあるパラメータは伝播時間のみとなり、これによって波の伝播速度の算出にかかる処理をより簡易なものにすることができるようになる。
【0010】
(6)請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の液位推定装置において、前記推定手段は、実際の液位に応じた信号を出力するセンサからの出力信号に基づいて液面に発生した波の1周期を算出し、これを前記伝播時間とすることをその要旨としている。
【0011】
(7)請求項7に記載の発明は、請求項5に記載の液位推定装置において、前記推定手段は、実際の液位に応じた信号を出力するセンサからの出力信号に基づいて液面に発生した波のN周期(Nは2以上の整数)を算出し、これを前記伝播時間とし、これに併せて前記代表長さをN倍し、これら伝播時間及び代表長さを前記演算式(D)に適用して前記波の伝播速度を算出することをその要旨としている。
【0012】
上記発明によれば、液面に発生した波のN周期を算出し、これを伝播時間とし、これに併せて代表長さを上記N倍し、これら伝播時間及び代表長さを上記演算式(D)に適用して波の伝播速度を算出している。このため、請求項6に記載の発明、すなわち液面の波の1周期を伝播時間とし、同伝播時間と代表長さとに基づいて波の伝播速度を算出するものと比較して、液面の波の1周期である伝播時間のばらつきの影響が小さくなるため、波の伝播時間ひいては液位をより正確に推定することができるようになる。
【0013】
(8)請求項8に記載の発明は、請求項5に記載の液位推定装置において、前記推定手段は、複数の振動成分を含む波について最も大きい振動成分からなる波の固有振動数を「F」とし、実際の液位に応じた信号を出力するセンサからの出力信号を周波数解析して前記固有振動数を算出し、そのうえで下記演算式(E)により前記伝播時間を算出することをその要旨としている。
T=1/F …(E)
上記発明によれば、実際の液位に応じた信号を出力するセンサからの出力信号を周波数解析し、複数の振動成分を含む波について最も大きい振動成分からなる波の固有振動数を算出し、そのうえでこの固有振動数の逆数により波の伝播時間を算出している。このため、液面に生じる波が複数の振動成分を含む波であることに起因して液面の波の伝播時間を正確に算出することが困難な状況においても、これを正確に算出することができる。従って、複数の振動成分を含む波が生じたときに液位を正確に推定することができるようになる。
【0014】
(9)請求項9に記載の発明は、請求項1〜8のいずれか一項に記載の液位推定装置において、前記推定手段を第1の推定手段とし、この推定手段による液位の推定とは別に、液面に波が発生していないときの液位の推定を行う第2の推定手段をさらに備えることをその要旨としている。
【0015】
(10)請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の液位推定装置において、前記第1の推定手段による液位の推定値と前記第2の推定手段による液位の推定値との乖離度合が所定の度合よりも大きいことに基づいて、当該推定装置に異常が生じている旨判定することをその要旨としている。
【0016】
液位推定装置が正常であるときには、それぞれの推定手段による液位の推定値は近い値を示すため、それぞれの推定手段による推定値の乖離度合が所定の度合よりも大きいときにはこれをもって液位推定装置のいずれかの部位に異常が生じている旨判定することができる。
【0017】
(11)請求項11に記載の発明は、請求項9または10に記載の液位推定装置において、前記第2の推定手段は、前記第1の推定手段とは異なる手法により液位の推定を行うことをその要旨としている。
【0018】
上記発明によれば、第1の推定手段と第2の推定手段とが異なる手法により液位の推定を行うため、当該推定装置のいずれかの部位に異常が生じているときには、これが第1の推定手段による推定値と第2の推定手段による推定値とのずれとしてより顕著に反映されるようになる。従って、第1の推定手段及び第2の推定手段が同一の手法により液位の推定を行うものと比較して、当該装置の異常をより的確に判定することができるようになる。
【0019】
(12)請求項12に記載の発明は、請求項11に記載の液位推定装置において、前記第2の推定手段は、液位を検出するセンサの出力信号をなまし処理して液位を推定することをその要旨としている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
<第1実施形態>
図1〜図5を参照して、本発明にかかる液位推定装置を車載内燃機関の燃料タンクの液位推定装置として具体介した第1実施形態について説明する。
【0021】
図1に示すように、車両には燃料タンク2、及びこのタンク2内の燃料の液位、すなわち燃料タンク2の底面から燃料の液面までの距離を推定する電子制御装置6、及び車両の加速度Gに応じた信号を出力する加速度センサ8が設けられている。
【0022】
燃料タンク2は直方体形状をなし、その長手方向が車両の前後方向に一致するように設けられている。ここで、燃料タンク2における車両の前後方向の長さを「代表長さL」とする。また、燃料タンク2の内部には、実際の液位に応じた信号を出力する液位センサ4が設けられている。液位センサ4は、液面に浮揚するフロート42を備えており、同フロート42の鉛直方向の位置に応じた信号、すなわち液位に応じた信号を出力する。
【0023】
電子制御装置6は、中央処理制御装置(CPU)、各種プログラムやマップ等を予め記憶した読出専用メモリ(ROM)、CPUの演算結果等を一時記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)、タイマカウンタ、入力インターフェース及び出力インターフェース等を備えたマイクロコンピュータを中心に構成されている。
【0024】
そして、液位センサ4の出力信号Sに基づいて液面に発生した波の伝播速度Vを算出し、同伝播速度Vに基づいて、液面に波が発生していないときの液位Hを推定する。
次に、図2〜図4を参照して液位の推定方法の詳細について説明する。なお図2は、液面に波が発生しているときのフロート42及び波の様子を模式的に示し、また図3は、液位センサ4による出力信号Sの時間変化の一例を示している。また図4は、液面に波が発生したときのフロート42及び波の様子であって、(a)は振幅hに対して液位Hが大きいときの様子を、(b)は振幅hに対して液位Hが小さいときの様子をそれぞれ示している。
【0025】
図2に示されるように、車両の前進時において前側に進行する波が液面に発生したとき、波の伝播にともないフロート42は上下方向に変位するようになる。このため、図3に示されるように、液位センサ4からの出力信号Sは、フロート42の上下方向への変位に応じて所定値S0、すなわち液面に波が生じていないときの出力信号を中心に最大値S1から最小値S2までの間で変動するようになる。
【0026】
ここで液位の推定に際しては、出力信号が最大値S1に達したときの時刻を「t1」とし、その後に再び最大値S1に達したときの時刻を「t2」とし、その後に再び最大値S1に達したときの時刻を「t3」とするとき、これらのうち時刻t1から時刻t3までの期間、すなわち液面に発生した波の2周期を算出し、これを伝播時間2Tとして採用する。また、これに併せて上記代表長さLを2倍し、この2倍された代表長さ2L及び上記伝播時間2Tを、下記演算式(D)に適用して波の伝播速度Vを算出する。
V=L/T …(D)
そして、このように算出された伝播速度Vと、重力加速度gとを下記演算式(A)に適用して波が発生していないときの液位Hを算出する。
H=V2 /g …(A)
また、図3に示されるように、出力信号Sの最小値S2を検出し、この最小値S2と上記最大値S1とを下記演算式(F)に適用して波の振幅hを算出する。
h=(S1−S2)/2…(F)
ここで、上記演算式(A)により算出される液位Hと、上記演算式(F)により算出される振幅hとの関係が、下記関係式(G)を満たすとき、すなわち実際の液位Hと振幅hとの関係が図4(a)に示される状態にあると推定されるときには、上記演算式(A)により算出される値を最終的な液位Hとする。
h/H<C (C<1)…(G)
一方、上記演算式(A)により算出される液位Hと、上記演算式(F)により算出される振幅hとの関係が、上記関係式式(G)を満たさないとき、すなわち実際の液位Hと振幅hとの関係が図4(b)に示される状態にあると推定されるときには、上記演算式(A)により算出される値に代えて、下記演算式(B)により算出される値を最終的な液位Hとする。
H=(V2 /g)−h …(B)
上記関係式(G)は、下記演算式(C)における「h/H」の項が波の伝播速度Vに及ぼす影響の大小について判別するものである。なお、上記演算式(B)は波の伝播速度と液位との関係を示す演算式としての基本的なものである下記演算式(C)の変形により得られるものである。
V=(H・g(1+h/H))1/2 …(C)
上記演算式(C)において、上記関係式(G)が満たされる場合には上記「h/H」の項が波の伝播速度V(液面H)に及ぼす影響が小さく、上記関係式(G)が満たされない場合には上記「h/H」の項が波の伝播速度V(液面H)に及ぼす影響が大きいものとなる。従って、「h/H」の項が上記所定値C未満のときには、「h/H」の項を「0」に置き換えたうえで上記演算式(C)を変形して得られる上記演算式(A)により液位の推定を行い、また「h/H」の項が上記所定値C以上のときにはこれを維持したうえで上記演算式(B)により液位の推定を行うようにしている。
【0027】
図5を参照して、上述した液位の推定方法を電子制御装置6による処理として具体化した「液位推定処理」の処理手順について説明する。なお、この処理は、電子制御装置6により所定の周期をもって繰り返し実行される。なお、電子制御装置6によるこの液位推定処理が推定手段(第1の推定手段)に相当する。
【0028】
この一連の処理では、まず、車両の加速度Gが所定値G1以上であるか否かを判断する(ステップS1)。ここで、車両の加速度Gが所定値G1未満である場合(ステップS1:「NO」)には液面に波が発生していないものとして、この処理を一旦終了する。一方、車両の加速度Gが所定値G1以上である場合(ステップS1:「YES」)には液面に波が発生しているものとして、次に、そのときの液位センサ4の出力信号Sから上記伝播時間2Tを算出する(ステップS2)。次に、上記演算式(A)により液位H1を算出する(ステップS3)。次に、上記演算式(F)により振幅hを算出し(ステップS4)、この振幅hを上記液位H1で除した値、すなわち「h/H1」が所定値C(C<1)未満であるか否かを判断する(ステップS5)。
【0029】
そしてこの結果、この除算値h/H1が所定値C未満である場合(ステップS5:「YES」)には、図4(a)に示されるように、上記演算式(A)により算出される液位H1に対して振幅hが無視できるほど小さいものとして、上記演算式(A)により算出された液位H1を最終的な液位Hとして(ステップ6)、本推定処理を一旦終了する。
【0030】
一方、先のステップS5の判断処理において、除算値「h/H1」が所定値C以上である場合(ステップS5:「NO」)には、図4(b)に示されるように、上記演算式(A)により算出される液位H1に対して振幅hが無視できないほど大きいものであるとして、上記演算式(B)により液位Hを算出する(ステップ7)。そして、この算出した液位H2を最終的な液位Hとして(ステップ8)、本推定処理を一旦終了する。
【0031】
本実施形態にかかる液位推定装置によれば、以下に示す作用効果が得られるようになる。
(1)液位推定装置は、液面に発生した波の伝播速度Vに基づいて、液面に波が発生していないときの液位Hを推定する推定手段を備えるものとした。このように、液面に発生した波の挙動を積極的に利用した液位Hの推定を行っているため、液面に振動が生じたときに液位Hを正確に推定することができるようになる。
【0032】
(2)推定手段は、上記演算式(A)により液位Hを算出するものとした。このように、波の伝播速度V及び重力加速度gを把握しさえすれば液位Hの推定を行うことが可能となるため、液位Hの推定にかかる処理を簡易なものにすることができるようになる。
【0033】
(3)上記演算式(A)によれば、波が発生していないときの液位H1に対する実際の波の振幅hが大きいときには、これに起因して液位H1の推定精度が大きく低下することが確認されている。この点、推定手段は、こうした波の振幅hが推定精度に及ぼす影響が上記演算式(A)よりも小さくなる上記演算式(B)により液位H2の推定を行うものとした。このため、波が発生していないときの液位Hに対する実際の波の振幅hが大きい場合にあっても液位Hを正確に推定することができるようになる。
【0034】
(4)推定手段は、上記演算式(C)の「h/H」の項が上記所定値C未満のとき、すなわち「h/H」の項を「0」とみなして上記演算式(A)による液位H1の推定を行ってもその精度に大きな影響がないときには、同式(A)により液位H1を算出し、また「h/H」の項を無視することのできないときには上記演算式(B)により液位H2を算出するものとした。このため、上記演算式(A)のみにより液位H1の推定を行うときに比べて推定精度を高めることができるようになる。
【0035】
(5)推定手段は、上記演算式(D)により波の伝播速度Vを算出するものとした。これにより、燃料タンク2の代表長さL及び伝播時間Tを把握しさえすれば波の伝播速度Vを算出することが可能となるため、波の伝播速度Vの算出にかかる処理を簡易なものにすることができるようになる。なお、燃料タンク2の代表長さLはタンク2固有のものであり、これを予め設定すれば、液位Hの推定に際してモニタする必要のあるパラメータは伝播時間Tのみとなり、これによって波の伝播速度Vの算出にかかる処理をより簡易なものにすることができるようになる。
【0036】
(6)推定手段は、実際の液位に応じた信号を出力する液位センサ4からの出力信号Sに基づいて液面に発生した波の2周期を算出し、これを伝播時間2Tとし、これに併せて代表長さLを2倍し、これら伝播時間2T及び代表長さ2Lを上記演算式(D)に適用して波の伝播速度Vを算出するものとした。これにより、液面の波の1周期を伝播時間Tとし、同伝播時間Tと代表長さLとに基づいて波の伝播速度Vを算出するものと比較して、液面の波の1周期である伝播時間Tのばらつきの影響が小さくなるため、波の伝播時間Tひいては液位Hをより正確に推定することができるようになる。
【0037】
(7)従来の液位推定装置としては、液位を正確に把握するために、液位センサ4の出力信号Sをなまし処理するようにしたものも提案されている。しかし、こうした推定装置によれば、それぞれ異なるタイミングで行われた液位の推定による複数の推定結果について、その推定精度が波の振幅の変動の影響を受けて大きく異なることもあるため、推定精度の信頼性に過度のばらつきが生じることが避けられないものとなる。
【0038】
ここで、上記従来の液体推定装置により2回の液位推定が行われた場合を想定する。この2回の推定について、最初の推定を第1の推定とし、次の推定を第2の推定とする。また第2の推定は、第1の推定よりも波の振幅が十分に大きい期間において得られた液位センサ4の出力信号Sに基づいて行われたものとする。
【0039】
上記想定した状況によれば、第1の推定により得られた推定結果である液位X1について、その推定精度(液面に波が発生していないときの液位Hからの乖離度合を示すもの)を基準精度としたとき、第2の推定により得られた推定結果である液位X2について、その推定精度のレベルは波の振幅の影響を上記基準精度よりも過度に大きく受けたものとなる。
【0040】
一方で、上述したような推定精度のばらつきを極力小さなものとするうえで、例えば液位センサ4による液位のサンプリング期間を十分に大きく設定することも考えられるが、この場合には推定精度の維持と引き替えに1回の推定に必要となる時間の増大が避けられないものとなる。
【0041】
このように、上記推定装置によれば、推定精度のレベルを極力一定に維持することと、1回の推定に必要となる時間を小さなものに設定することとの両立を図ることが困難となる。
【0042】
これに対して本実施形態の液位推定装置では、液位センサ4の出力信号Sにより波の2周期2Tを算出し、これに基づいて液位Hを推定するようにしているため、波の振幅の変動度合が大きい状況においてもこれに起因して推定精度のばらつきが増大することが抑制される。また、車両の走行時に発生する液面の波の2周期2Tは比較的短いものとなるため、液位の1回の推定に必要となる時間もこれに応じて短くなる。すなわち、推定精度を極力一定に維持することと、1回の推定に必要となる時間を短くすることとの両立を図ることができるようになる。
【0043】
<第2実施形態>
図6及び図7を参照して、本発明にかかる液位推定装置の第2実施形態について説明する。
【0044】
本実施形態は、先の第1実施形態に対して主に次の変更を加えたものとなっている。すなわち、液位センサ4とは別に、液面に応じた信号を出力する液位センサ5を備え、電子制御装置6は先の「液位推定処理」とは別途の処理である「なまし推定処理」においてその出力信号Xをなまし処理し、これによって液面に波が発生していないときの液位Hbを推定する。
【0045】
そして、第1の推定手段としての「液位推定処理」による液位の推定値Haと、第2の推定手段としての「なまし推定処理」による液位の推定値Hbとの乖離度合が所定の度合よりも大きいことに基づいて、液位センサ4及びその周辺装置及び液位センサ5及びその周辺装置をはじめとした当該液位推定装置のいずれかの部位に異常が生じている旨判定する。なお、本実施形態では、「なまし推定処理」により推定される液位Hbを運転者に報知する燃料タンク2の液位とし、「液位推定処理」により推定される液位Haは上記異常判定にのみ用いるものとしている。
【0046】
図6に示されるように、燃料タンク2の内部には、実際の液位に応じた信号Xを出力する液位センサ5が設けられている。液位センサ5も液位センサ4と同様に、液面に浮揚するフロート52を備えており、同フロート52の鉛直方向の位置に応じた信号すなわち液位に応じた信号を出力する。
【0047】
電子制御装置6は、「液位推定処理」と「なまし推定処理」とを並行して実行し、後者においては液位センサ5の出力信号Xをなまし処理し、すなわち出力信号Xを所定の期間にわたりサンプリングしてそれら複数の出力信号Xの平均値を算出することにより液位を推定する。また、上記各処理に併せて「異常判定処理」を実行し、この処理においては「液位推定処理」による液位の推定値Haと「なまし推定処理」による液位の推定値Hbとを比較し、この結果に基づいて当該推定装置に異常が生じているか否かを判定する。
【0048】
図7を参照して「異常判定処理」の具体的な処理手順について説明する。この処理は、電子制御装置6によって所定の周期をもって繰り返し実行される。
この一連の処理では、まず、「液位推定処理」により推定されたそのときの液位Haを読み込む(ステップS11)。次に、「なまし推定処理」により推定されたそのときの液位Hbを読み込む(ステップS12)。次に、「液位推定処理」による推定値Haと「なまし推定処理」による推定値Hbとの差の絶対値|Ha−Hb|が予め設定された判定値Dよりも大きいか否かを判断する(ステップS13)。
【0049】
そしてこの結果、上記絶対値|Ha−Hb|が予め設定された判定値Dよりも大きい場合(ステップS13:「YES」)には、当該装置に異常が生じている旨判定して、本異常判定処理を一旦終了する。一方、ステップS13の判断処理において、上記絶対値|Ha−Hb|が予め設定された判定値D以下である場合(ステップS13:「NO」)には、当該装置に格別の異常は生じていない旨判定して、本異常判定処理を一旦終了する。
【0050】
本実施形態にかかる液位推定装置によれば、上記第1実施形態の効果(1)〜(7)に加えて、以下に示す作用効果が得られるようになる。
(8)「液位推定処理」による液位の推定値Haと「なまし推定処理」による液位の推定値Hbとの乖離度合である差の絶対値|Ha−Hb|が所定の判定値Dよりも大きいことに基づいて、当該推定装置のいずれかの部位に異常が生じている旨判定するものとした。液位推定装置が正常であるときには、それぞれの推定処理による液位の推定値Ha,Hbは近い値を示すため、それぞれの推定処理による推定値Ha,Hbの差の絶対値|Ha−Hb|が所定の判定値Dよりも大きいときにはこれをもって液位推定装置のいずれかの部位に異常が生じている旨判定することができる。
【0051】
(9)第2の推定手段である「なまし推定処理」は、第1の推定手段である「液位推定処理」とは異なる手法により液位の推定を行うものとした。これにより、当該推定装置のいずれかの部位に異常が生じているときには、これが「液位推定処理」による推定値Haと「なまし推定処理」による推定値Hbとのずれとしてより顕著に反映されるようになる。従って、第1の推定手段及び第2の推定手段が同一の手法により液位の推定を行うものと比較して、当該装置の異常をより的確に判定することができるようになる。
【0052】
<その他の実施形態>
なお、本発明にかかる液位推定装置の実施態様は、上記実施形態にて例示した構成に限定されるものではなく、これを適宜変更した例えば次のような形態として実施することもできる。
【0053】
・上記第2実施形態では、「液位推定処理」の役割を、当該液位推定装置に異常が生じていることを判定するものに設定し、同処理による液位Haは燃料タンク2の燃料の残量を運転者に報知するためのものとして用いない構成としたが、「液位推定処理」の役割を例えば次のように変更することもできる。すなわち、車両の走行時に「液位推定処理」及び「なまし推定処理」による液位推定を並行して実行し、これらによる液位の推定結果を加味して最終的な液位の推定値を算出し、これに基づいて燃料タンク2内の燃料の残量を運転者に報知することもできる。またあるいは、「液位推定処理」及び「なまし推定処理」による推定結果のいずれか一方を選択し、これに基づいて燃料タンク2内の燃料の残量を運転者に報知することもできる。
【0054】
・上記第2実施形態にさらに以下の構成を採用することもできる。すなわち、「液位推定処理」は、液面に生じる波の挙動を積極的に利用して液位の推定を行うものであること、及び「なまし推定処理」は、液面に波が発生していないときに最も正確に液位を推定することができるものであることの双方に鑑み、燃料タンク2の振動態様に応じてそのときどきに液位Hの推定に用いる推定処理を切り替えることもできる。換言すると、推定または検出した燃料タンク2の振動態様に基づいて、「液位推定処理」と「なまし推定処理」とのいずれを用いればより高い推定精度を確保できるかについて判定し、この判定結果に応じてそのときどきにいずれか一方のみの推定処理を通じて液位の推定を行うこともできる。
【0055】
より具体的には、車両の走行状態に基づいて燃料タンク2に過度に大きな振動が生じているか否かを判定し、すなわち燃料タンク2の振動に起因して「なまし推定処理」による液位の推定精度が許容範囲よりも低いものとなるか否かを判定し、許容判定より低い旨の判定結果が得られたときには「液位推定処理」による液位の推定を行い、許容判定よりも高い旨の判定結果が得られたときには「なまし推定処理」による液位の推定を行うこともできる。
【0056】
・上記各実施形態では、加速度センサ8により車両の加速度Gを検出し、これに基づいて液面に振動が生じているか否かを判断するようにしているが、液面に振動が生じているか否かを判断するための構成はこれに限られるものではない。例えば、液面に生じている振動を直接的に検出するセンサを用いることもできる。
【0057】
・上記各実施形態では、そのときの液位センサ4の出力信号Sの変化態様から上記伝播時間2Tを直接的に算出するようにしているが、これに代えて、液位センサ4からの出力信号Sを周波数解析して固有振動数Fを算出し、その上で、下記演算式(E)により伝播時間Tを間接的に算出するようにしてもよい。
T=1/F …(E)
ここで、液面に発生する波が複数の振動成分を含むものである場合には、最も大きい振動成分からなる波の固有振動数Fを採用すればよい。これにより、液面に生じる波が複数の振動成分を含む波であることに起因して液面の波の伝播時間Tを正確に算出することが困難な状況においても、これを正確に算出することができる。従って、複数の振動成分を含む波が生じたときに液位Hを正確に推定することができるようになる。
【0058】
・上記各実施形態では、液位センサ4からの出力信号Sに基づいて液面に発生した波の2周期を算出し、これを伝播時間2Tとしているが、これに代えて、波のN周期(Nは3以上の整数)を算出し、これを伝播時間3Tとしてもよい。また、これに代えて、波の1周期を算出し、これを伝播時間Tとしてもよい。
【0059】
・上記各実施形態では、液面に浮揚するフロート42,52の鉛直方向の位置、すなわち液位に応じた信号を出力する液位センサ4,5について例示しているが、液位センサはこれに限られるものではなく、他に例えば、超音波や光波を利用して液面に接触することなく液位を検出するものなどに変更することも可能である。
【0060】
・上記第1実施形態では、燃料タンク2の代表長さLと波の伝播時間Tとを上記演算式(D)に適用することより、波の伝播速度Vを間接的に算出するようにしているが、これとは異なる手法により波の伝播速度Vを検出するようにしてもよい。
【0061】
・上記各実施形態では、上記関係式(G)が満たされるときには上記演算式(A)による液位H1を最終的な液位Hとし、上記関係式(G)が満たされないときには上記演算式(B)による液位H2を最終的な液位とする推定態様を採用したが、これに代えて、上記関係式(G)を満たすか否かに拘わらず、常に、上記演算式(B)による液位H2を最終的な液位Hとする推定態様に変更することもできる。
【0062】
・上記各実施形態では、上記演算式(A)及び上記演算式(B)のいずれか一方により波が発生していないときの液位Hを推定するようにしているが、液位の推定方法はこれに限られるものではない。要するに、液面に発生した波の伝播速度Vに基づいて、液面に波が発生していないときの液位を推定する方法であればその具体的な態様は適宜変更することができる。
【0063】
・上記各実施形態では、直方体形状の燃料タンク2について例示しているが、燃料タンクの形状はこれに限られるものではなく、他に例えば円柱形状などこれを任意の形状に変更することも可能である。
【0064】
・上記各実施形態では、液面に浮揚するフロート42,52の鉛直方向の位置、すなわち液位に応じた信号を出力する液位センサ4,5について例示しているが、液位の検出方法はこれに限られるものではなく、他に例えば、超音波や光波を利用して液面に接触することなく液位を検出するものなどに変更することも可能である。
【0065】
・上記各実施形態では、本発明の液位推定装置を車載内燃機関の燃料タンク2に貯留される燃料の液位を推定する液位推定装置に具体化したものについて例示しているが、本発明の液位推定装置の適用対象は燃料タンク2に貯留される燃料の液位に限られるものではなく、液体の貯留される容器の底面から液面までの距離である液位であればこれを任意に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる液位検出装置の概略構成を示す模式図。
【図2】同実施形態の液位検出装置について、液面に波が発生しているときのフロート及び波の様子を示す模式図。
【図3】同実施形態の液検出装置について、センサによる出力信号の時間変化の一例を示すタイムチャート。
【図4】同実施形態の液位検出装置について、液面に波が発生しているときのフロート及び波の様子を示す模式図であって、(a)振幅と比較して液位が大きいときの模式図、及び(b)振幅と比較して液位が小さいときの模式図。
【図5】同実施形態の液位検出装置による液位推定処理について、その具体的な処理手順を示すフローチャート。
【図6】本発明の第2実施形態にかかる液位検出装置の概略構成を示した模式図。
【図7】同実施形態の液位検出装置による異常判定処理について、その具体的な処理手順を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0067】
2…燃料タンク、4,5…液位センサ、42,52…フロート、6…電子制御装置、8…加速度センサ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の貯留される容器の底面から液面までの距離である液位について、これを推定する液位推定装置において、
液面に発生した波の伝播速度に基づいて、液面に波が発生していないときの液位を推定する推定手段を備える
ことを特徴とする液位推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液位推定装置において、
前記推定手段は、波の伝播速度を「V」とし、重力加速度を「g」とし、波が発生していないときの液位を「H」として、下記演算式(A)により液位を算出する
H=V2 /g …(A)
ことを特徴とする液位推定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の液位推定装置において、
前記推定手段は、波の伝播速度を「V」とし、波の振幅を「h」とし、重力加速度を「g」とし、波が発生していないときの液位を「H」として、下記演算式(B)により液位を算出する
H=(V2 /g)−h …(B)
ことを特徴とする液位推定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の液位推定装置において、
前記推定手段は、波の伝播速度を「V」とし、波の振幅を「h」とし、重力加速度を「g」とし、波が発生していないときの液位を「H」として、まずは下記演算式(A)により液位を算出し、
H=V2 /g …(A)
次に、ここで算出した「H」を用いて、下記演算式(C)の「h/H」の項が「1」よりも小さな値として設定される所定値未満か否かを判定し、
V=(H・g(1+h/H))1/2 …(C)
この判定により所定値未満である旨の結果が得られるときには前記演算式(A)による「H」を最終的な液位の推定値とし、前記判定により所定値以上である旨の結果が得られるときには下記演算式(B)により「H」を算出してこれを最終的な液位の推定値とする
H=(V2 /g)−h …(B)
ことを特徴とする液位推定装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の液位推定装置において、
前記推定手段は、前記容器の代表長さを「L」とし、液面の波がこの代表長さを伝播するために要する時間である伝播時間を「T」として、下記演算式(D)により前記波の伝播速度を算出する
V=L/T …(D)
ことを特徴とする液位推定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の液位推定装置において、
前記推定手段は、実際の液位に応じた信号を出力するセンサからの出力信号に基づいて液面に発生した波の1周期を算出し、これを前記伝播時間とする
ことを特徴とする液位推定装置。
【請求項7】
請求項5に記載の液位推定装置において、
前記推定手段は、実際の液位に応じた信号を出力するセンサからの出力信号に基づいて液面に発生した波のN周期(Nは2以上の整数)を算出し、これを前記伝播時間とし、これに併せて前記代表長さをN倍し、これら伝播時間及び代表長さを前記演算式(D)に適用して前記波の伝播速度を算出する
ことを特徴とする液位推定装置。
【請求項8】
請求項5に記載の液位推定装置において、
前記推定手段は、複数の振動成分を含む波において最も大きい振動成分からなる波の固有振動数を「F」とし、実際の液位を検出するセンサからの出力信号を周波数解析して前記固有振動数を算出し、そのうえで下記演算式(E)により前記伝播時間を算出する
T=1/F …(E)
ことを特徴とする液位推定装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の液位推定装置において、
前記推定手段を第1の推定手段とし、この推定手段による液位の推定とは別に、液面に波が発生していないときの液位の推定を行う第2の推定手段をさらに備える
ことを特徴とする液位推定装置。
【請求項10】
請求項9に記載の液位推定装置において、
前記第1の推定手段による液位の推定値と前記第2の推定手段による液位の推定値との乖離度合が所定の度合よりも大きいことに基づいて、当該推定装置に異常が生じている旨判定する
ことを特徴とする液位推定装置。
【請求項11】
請求項9または10に記載の液位推定装置において、
前記第2の推定手段は、前記第1の推定手段とは異なる手法により液位の推定を行う
ことを特徴とする液位推定装置。
【請求項12】
請求項11に記載の液位推定装置において、
前記第2の推定手段は、液位を検出するセンサの出力信号をなまし処理して液位を推定する
ことを特徴とする液位推定装置。
【請求項1】
液体の貯留される容器の底面から液面までの距離である液位について、これを推定する液位推定装置において、
液面に発生した波の伝播速度に基づいて、液面に波が発生していないときの液位を推定する推定手段を備える
ことを特徴とする液位推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液位推定装置において、
前記推定手段は、波の伝播速度を「V」とし、重力加速度を「g」とし、波が発生していないときの液位を「H」として、下記演算式(A)により液位を算出する
H=V2 /g …(A)
ことを特徴とする液位推定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の液位推定装置において、
前記推定手段は、波の伝播速度を「V」とし、波の振幅を「h」とし、重力加速度を「g」とし、波が発生していないときの液位を「H」として、下記演算式(B)により液位を算出する
H=(V2 /g)−h …(B)
ことを特徴とする液位推定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の液位推定装置において、
前記推定手段は、波の伝播速度を「V」とし、波の振幅を「h」とし、重力加速度を「g」とし、波が発生していないときの液位を「H」として、まずは下記演算式(A)により液位を算出し、
H=V2 /g …(A)
次に、ここで算出した「H」を用いて、下記演算式(C)の「h/H」の項が「1」よりも小さな値として設定される所定値未満か否かを判定し、
V=(H・g(1+h/H))1/2 …(C)
この判定により所定値未満である旨の結果が得られるときには前記演算式(A)による「H」を最終的な液位の推定値とし、前記判定により所定値以上である旨の結果が得られるときには下記演算式(B)により「H」を算出してこれを最終的な液位の推定値とする
H=(V2 /g)−h …(B)
ことを特徴とする液位推定装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の液位推定装置において、
前記推定手段は、前記容器の代表長さを「L」とし、液面の波がこの代表長さを伝播するために要する時間である伝播時間を「T」として、下記演算式(D)により前記波の伝播速度を算出する
V=L/T …(D)
ことを特徴とする液位推定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の液位推定装置において、
前記推定手段は、実際の液位に応じた信号を出力するセンサからの出力信号に基づいて液面に発生した波の1周期を算出し、これを前記伝播時間とする
ことを特徴とする液位推定装置。
【請求項7】
請求項5に記載の液位推定装置において、
前記推定手段は、実際の液位に応じた信号を出力するセンサからの出力信号に基づいて液面に発生した波のN周期(Nは2以上の整数)を算出し、これを前記伝播時間とし、これに併せて前記代表長さをN倍し、これら伝播時間及び代表長さを前記演算式(D)に適用して前記波の伝播速度を算出する
ことを特徴とする液位推定装置。
【請求項8】
請求項5に記載の液位推定装置において、
前記推定手段は、複数の振動成分を含む波において最も大きい振動成分からなる波の固有振動数を「F」とし、実際の液位を検出するセンサからの出力信号を周波数解析して前記固有振動数を算出し、そのうえで下記演算式(E)により前記伝播時間を算出する
T=1/F …(E)
ことを特徴とする液位推定装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の液位推定装置において、
前記推定手段を第1の推定手段とし、この推定手段による液位の推定とは別に、液面に波が発生していないときの液位の推定を行う第2の推定手段をさらに備える
ことを特徴とする液位推定装置。
【請求項10】
請求項9に記載の液位推定装置において、
前記第1の推定手段による液位の推定値と前記第2の推定手段による液位の推定値との乖離度合が所定の度合よりも大きいことに基づいて、当該推定装置に異常が生じている旨判定する
ことを特徴とする液位推定装置。
【請求項11】
請求項9または10に記載の液位推定装置において、
前記第2の推定手段は、前記第1の推定手段とは異なる手法により液位の推定を行う
ことを特徴とする液位推定装置。
【請求項12】
請求項11に記載の液位推定装置において、
前記第2の推定手段は、液位を検出するセンサの出力信号をなまし処理して液位を推定する
ことを特徴とする液位推定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2009−139260(P2009−139260A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316855(P2007−316855)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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