説明

液体の表面物性の異方性評価方法およびそれに用いる装置

【課題】液体の表面物性の異方性を評価する方法を提供する。
【解決手段】偏光波面が一致している入射光と参照光を、試料液体の表面の同じ照射位置に互いに異なる入射角で入射させ、試料液体表面から鏡面反射された参照光とその方向に散乱された入射光の散乱光とを干渉させて光ヘテロダイン信号を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の表面物性の異方性を評価する方法とそれに用いる装置に関する。特に、化合物を溶解した溶液の表面における該化合物の配向性や異方性を評価する方法とそれに用いる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非接触で遠隔的に液体表面の熱物性値を計測する技術として、リプロンによるブリリュアン散乱を利用する方法が知られている。すなわち、液体の表面は、巨視的には一様な温度であっても、微視的には熱的なゆらぎが常に存在するため完全な平面ではなく、微細な変形が生じている。この表面の変形は、熱的に励起されたランダムな表面波の重ね合わせとして考えることができ、各々の波は100μm程度の波長と1nm程度の振幅を持っており、さざ波の量子としてリプロンと呼ばれている。この液体表面に入射光としてレーザ光を照射すると、通常の鏡面反射成分の周りに散乱光が観察される。この散乱光にはリプロンの周波数や減衰率の情報が含まれており、これを解析して分散関係式を用いることにより、液体の表面張力と粘性率を求めることが可能であることが知られている。従来、リプロンによる反射側へ出る散乱光の周波数分布を光ヘテロダイン法により求め、その中心周波数と半値幅とリプロンの波数とを求めることにより、液体サンプルの表面張力と粘性率を求める装置が提案されている(非特許文献1参照)。この場合、ヘテロダイン検出のための参照光として、入射光から回折格子により回折された回折光を用い、かつ、レンズにより再度その回折光が液面で入射光位置に集まるようにして、リプロンの波数を求めやすくしている。また、透明試料のリプロンによる透過側へ出る散乱光の周波数分布を光ヘテロダイン法により求め、その中心周波数と半値幅とリプロンの波数とを求めることにより、同様に透明液体サンプルの表面張力と粘性率を求める装置が提案されている(非特許文献2、特許文献1参照)。これらの場合、ヘテロダイン検出のための参照光として入射光から分割された光を用い、反射鏡により再度その参照光が液面で入射光位置に一致するようにしている。
【特許文献1】特開2001−318042号公報
【非特許文献1】日本機械学会論文集(B編)59巻560号(1993−4)pp.185〜191
【非特許文献2】Rev.Sci.Instrum.Vol.62,No.5,pp.1192〜1195;Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997),pp.2951〜2954
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の光へテロダイン法を用いた方法で計測される熱物性は、たとえば表面張力や動粘性率などであり、それらの値は液体表面上においては面方向においては等方的な物性値で異方向性はなく、表面活性剤のような液膜表面に選択的に多く吸着するポリマー、モノマーの表面での配向性のみを液膜状態で測定するのは困難であった。たとえば、液膜状態での異方性を評価する方法として、偏光顕微鏡などを用いて光配向性を観察することはできるものの、液膜表面のみの情報を取り出すことは難しい。表面に吸着した分子の異方性の評価としては、ラングミュアーブロジェット法を使って単分子膜を作製する方法(Arthur W. Adamson, Alice P. Cast: Physical Chemistry of Surfaces (Wiley-Interscience, 1997) p.557)があるが、配向の評価には作成した単分子膜を基板上に引き上げる必要があるため、液膜表面の評価としては正しいものでなかった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
これまでの光ヘテロダイン法では、レーザー光を直線偏光させるために偏光板等が用いられているものの(S.Hard and R. D. Neuman: J. Colloid & Interface Sci. 120(1987))、偏光面を精密に調整し、かつ偏光方向を意図的に活用して、新たな表面情報を抽出しようとした例はない。また、液体状態での表面物性の異方性を計測することは、偏光フィルムなどの機能性フィルムの開発、特に高い機能性を生みだす素材開発において非常に重要である。そこで、測定法の改良について鋭意検討を行った結果、光へテロダイン法を用いた光学系に改良を加えたレーザー表面光散乱法を用いて、液膜の表面物性の異方性を計測する方法を発明するに至った。すなわち、従来技術の課題を解決するための手段として、以下の本発明を提供するに至った。
【0005】
[1] 試料液体の表面物性の異方性を評価する方法であって、
偏光波面が一致している入射光と参照光を、前記試料液体の表面の同じ照射位置に互いに異なる入射角で入射させ、前記試料液体表面から鏡面反射された参照光とその方向に散乱された入射光の散乱光とを干渉させて光ヘテロダイン信号を検出することにより、前記試料液体の表面物性の異方性を評価することを特徴とする方法。
[2] 前記光ヘテロダイン信号を検出する工程を、前記試料液体を回転させることにより前記照射位置における前記入射光と反射光の偏光波面に対する測定方向を変えて複数回行い、それぞれの工程で得られる光ヘテロダイン信号の違いにより前記試料液体の表面物性の異方性を評価することを特徴とする[1]に記載の方法。
[3] 前記ヘテロダイン信号を検出する工程を、前記試料液体を90度回転させる前後でそれぞれ行うことを特徴とする[2]に記載の方法。
[4] 前記光ヘテロダイン信号のStokes成分とanti-Stokes成分を一度に測定することを特徴とする[1]に記載の方法。
[5] 直線偏光レーザを2分して、一方を前記入射光として使用し、他方を前記参照光として使用することを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載の方法。
[6] 検出された前記ヘテロダイン信号をフーリエ変換して得られたパワースペクトルから液体面のリプロンの周波数と減衰率とを求め、また、前記入射光の入射角と前記散乱光の散乱角と前記入射光の波数とからリプロンの波数を求め、求められたリプロンの周波数と前記減衰率と前記入射光の波数とから表面張力と動粘性率を推算し、求められた表面張力と動粘性率の少なくとも一方を用いて前記試料液体の表面物性の異方性を評価することを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載の方法。
【0006】
[7] 素材の液体表面における異方性発現能を評価する方法であって、
前記素材を溶剤に溶解させた試料溶液に対して[1]〜[6]のいずれか一項に記載の方法を行うことにより、前記試料溶液の表面に発現した異方性を評価することを特徴とする方法。
[8] 前記素材が光配向基を有する化合物であることを特徴とする[7]に記載の方法。
[9] 前記素材がアゾ基を有する化合物であることを特徴とする[7]または[8]に記載の方法。
【0007】
[10] 試料液体の表面物性の異方性を評価する装置であって、
偏光波面が一致している入射光と参照光を、前記試料液体の表面の同じ照射位置に互いに異なる入射角で入射させる光照射機構と、
前記試料液体表面から鏡面反射された参照光とその方向に散乱された入射光の散乱光とを干渉させて得られる光ヘテロダイン信号を検出する検出機構と、
を備えることを特徴とする装置。
[11] 前記試料液体を回転させることにより前記照射位置における前記入射光と反射光の偏光波面に対する測定方向を変えることができる回転機構をさらに備えることを特徴とする[10]に記載の装置。
[12] 光照射機構により前記入射光と前記参照光を前記試料液体の表面に照射し、前記検出機構により光ヘテロダイン信号を検出した後、前記回転機構により前記試料液体を回転させ、さらに回転後の状態で光照射機構により前記入射光と前記参照光を前記試料液体の表面に照射し、前記検出機構により光ヘテロダイン信号を検出するように制御する制御機構をさらに備えることを特徴とする[11]に記載の装置。
[13] 測定方向を変えて得られる各光ヘテロダイン信号を記録する記録機構をさらに備えることを特徴とする[11]または[12]に記載の装置。
[14] 音響光学素子を少なくとも1つ備えており、光ヘテロダイン信号のStokes成分とanti-Stokes成分を一度に測定することができることを特徴とする[10]に記載の装置。
[15] 前記光照射機構が、直線偏光レーザを2分して、一方を前記入射光として使用し、他方を前記参照光として使用するものであることを特徴とする[10]〜[14]のいずれか一項に記載の装置。
[16] λ/2板を2つ以上備えており、そのうちの1つが前記入射光と前記散乱光の強度を調整するために用いられることを特徴とする[10]〜[15]のいずれか一項に記載の装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によれば、液体の表面物性の異方性を非接触で評価することができる。また、本発明の装置によれば、そのような液体の表面物性の異方性を簡単な操作で評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下において、本発明の液体表面の異方性を評価する方法とそれに用いる装置について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0010】
[液体表面の異方性を評価する方法]
本発明の液体の表面物性の異方性を評価する方法は、偏光波面が一致している入射光と参照光を、試料液体の表面の同じ照射位置に互いに異なる入射角で入射させ、試料液体表面から鏡面反射された参照光とその方向に散乱された入射光の散乱光とを干渉させて光ヘテロダイン信号を検出することを基本工程とする。ここで、光ヘテロダイン信号のStokes成分とanti-Stokes成分を一度に測定すれば、異方性を簡単に評価することができる。
【0011】
また、試料液体を回転させることにより、照射位置における入射光と反射光の偏光波面に対する測定方向を変えて複数回光ヘテロダイン信号を検出し、各検出信号を比較することにより評価することもできる。この方法によれば、どの方向に強く配向しているのかを容易に知ることができる。回転は、照射位置を軸とする回転であっても、それ以外の位置を軸とする回転であっても構わないが、配向している方向(角度)を正確に知りたい場合には、照射位置を軸とする回転を行うことが好ましい。簡易な方法は、照射位置を軸として90度回転させ、光ヘテロダイン信号をその回転の前後で測定する方法である。
【0012】
検出された光ヘテロダイン信号の解析では、単純な信号の比較でも違いを評価することができるが、検出された光ヘテロダイン信号をフーリエ変換して得られたパワースペクトルから液体面のリプロンの周波数と減衰率とを求め、また、入射光の入射角と散乱光の散乱角と入射光の波数とからリプロンの波数を求め、求められたリプロンの周波数と減衰率と入射光の波数とから 推算された表面張力と動粘性率を用いると、表面物性値に基いた評価ができるので望ましい。ここで採用される基礎理論モデルと考え方については、特開2001−318042号公報を参照することができる。本計測法では、表面に吸着した分子がリプロン波へ影響する形、つまり流体的(波動)な変化が信号の変化に現れるが、この変化は添加した素材の表面での配向度、または分子の異方性、または光、伝熱の異方性にも影響している場合が多く、それらの配向性、異方性の間接的な評価方法として用いることもできる。
【0013】
本発明の方法は、特に素材の液体表面における異方性発現能を評価するために好ましく利用することができる。異方性は、例えば光、熱、電気、磁気などを素材に与えることにより発現させることができる。本発明では、こうして素材が発現する異方性を液体表面において検出し、それによって素材の液体表面における異方性発現能を評価することができる。例えば、特定の配向性化合物を液体に溶解した溶液の表面に、異方性を有する光を照射することにより、溶液の表面に化合物を配向させることができる。その配向の程度は化合物の種類によって異なることから、光照射後の各化合物の液体表面における配向状態(異方性)を本発明の方法により評価することにより、各化合物の異方性発現能を比較することができる。このような評価や比較は、熱、電気、磁気により異方性を発現する素材についても行うことができる。したがって、本発明を利用すれば、広範な素材のスクリーニングを効果的に行うことができる。
【0014】
本発明によれば、素材の異方性発現能だけでなく、素材による異方性(配向状態)の経時安定性を評価することもできる。すなわち、光、熱、電気、磁気などにより発現した異方性を時間をおいて評価することにより、異方性(配向状態)の持続性を知ることができる。あるいは、光、熱、電気、磁気などを持続的に与えた場合や断続的に与えた場合の異方性(配向状態)の変化を評価することにより、異方性(配向状態)の挙動を知ることもできる。
【0015】
評価対象となる素材の種類は特に制限されず、アゾ基などの光配向性基を有する化合物や、配向性を示すことが予想される化合物など多種多様な化合物を対象とすることができる。化合物を溶解する溶剤については特に制限されないが、沸点が200℃以下の有機溶剤、特に低沸点溶剤液を好ましく例示することができ、なかでもメチルエチルケトン、テトラヒドロフランが好ましい。化合物の濃度は0.001〜70質量%にすることが好ましく、0.001〜40質量%にすることがより好ましく、0.001〜5質量%にすることがさらに好ましい。
【0016】
[装置]
本発明の液体の表面物性の異方性を評価する方法は、偏光波面が一致している入射光と参照光を、試料液体の表面の同じ照射位置に互いに異なる入射角で入射させ、試料液体表面から鏡面反射された参照光とその方向に散乱された入射光の散乱光とを干渉させて光ヘテロダイン信号を検出する検出機構を備えた装置で実施することができる。
【0017】
具体的には、偏光波面が一致している入射光と参照光を、前記試料液体の表面の同じ照射位置に互いに異なる入射角で入射させる光照射機構と、前記試料液体表面から鏡面反射された参照光とその方向に散乱された入射光の散乱光とを干渉させて得られる光ヘテロダイン信号を検出する検出機構とを備える本発明の装置を好ましく用いることができる。
【0018】
光照射機構は、直線偏光レーザを2分して、一方を前記入射光として使用し、他方を前記参照光として使用するものであることが好ましい。また、光照射機構は、λ/2板を2つ以上備えていることが好ましい。λ/2板を二つ以上用いると、それぞれの偏光面を細かく調整できる他、光ヘテロダイン干渉の信号強度を高めるため、入射光と散乱光の強度(比率)を調整することに用いることができるので望ましい。
【0019】
光ヘテロダイン信号のStokes成分とanti-Stokes成分を一度に測定する場合は、光照射機構の中に音響光学素子(AOM)を少なくとも1つ組み込む。音響光学素子によって周波数シフトをさせることにより、光ヘテロダイン信号のStokes成分とanti-Stokes成分を一度に観察することが容易になり、測定偏光面での異方性も評価でき、液体表面の互いに直交する2軸(X方向とY方向)の同時評価が可能となる。
【0020】
本発明の装置は、試料液体を回転させることにより照射位置における入射光と反射光の偏光波面に対する測定方向を変えることができる回転機構をさらに備えていてもよい。これによって、測定方向を変えて光ヘテロダイン信号を検出することが可能になる。このような回転や光ヘテロダイン信号検出の一連の工程は制御機構により自動制御させることが好ましい。典型的な制御機構は、光照射機構により入射光と参照光を試料液体の表面に照射し、検出機構により光ヘテロダイン信号を検出した後、回転機構により試料液体を回転させ、さらに回転後の状態で光照射機構により入射光と参照光を試料液体の表面に照射し、検出機構により光ヘテロダイン信号を検出するように制御する。
【0021】
また、本発明の装置は、このようにして測定方向を変えて得られる各光ヘテロダイン信号を記録する記録機構をさらに備えていてもよい。記録機構は、さらにプリンターやモニターなどの出力機構に接続していてもよい。
【0022】
本発明の装置の好ましい例を図1に示す。YAGレーザ1から発光された光は、λ/2板2を通って偏光ビームスプリッター8で2分され、一方はλ/2板13とピンホール14,15を通って試料22に照射され、もう一方はピンホール9.10を通って試料22に照射される。入射光の散乱光と参照光の干渉光はフォトマル19に導かれ、増幅器/フィルター18からFFTへと信号が送られる。
【0023】
本発明の装置の別の好ましい例を図2に示す。ここでは、図1のピンホール9,10の間と、ピンホール14,15の間に、それぞれ音響光学素子30,31が設けられている。この装置を用いれば、光ヘテロダイン信号のStokes成分とanti-Stokes成分を一度に容易に観察することができる。
【0024】
図1や図2に示す本発明の装置は、試料22を回転させる回転機構(図示せず)を有するものであることが好ましい。その他、必要な改変や追加を適宜行うことが可能である。
【実施例】
【0025】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0026】
(用いた化合物)
下記の化合物1および化合物2を用意して、以下において使用した。
【0027】
【化1】

【0028】
(評価方法1)
化合物1を脱水2−ブタノン(和光純薬工業製)に固形分濃度1質量%で溶解させた。その後、LED方式のUV照射器(キーエンス社製、UV−400、φ8mmプローブ、99%出力設定)を用いて、波長365±5nmの光を図3に示すように、XY面に対して15度傾斜した+X軸上の地点より液体表面に向けて照射した(+X方向からの照射)。照度は400mW/cm2、照射エネルギーは80000mJ/cm2とした。
また、同じ方法により化合物1のメチルエチルケトン溶液を調製した後、同じ光をXY面に対して15度傾斜した+Y軸上の地点より液体表面に向けて照射した(+Y方向からの照射)。
図1の装置(装置A1)を用いて、+X方向からの光照射により得られたサンプルと、+Y方向からの光照射により得られたサンプルの物性の違いをFFT処理後のスペクトルから算出して比較した。各サンプルについて、光照射前と光照射後について測定を行った。
【0029】
また、以上の比較を、化合物1のかわりに化合物2を用いて行った。
さらに図1の装置(装置A1)のかわりに、特開2001−318042号公報に記載されている光学系(装置B)を用いて同様の測定を行った。
結果を下記表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
(評価方法2)
上記評価方法1と同様にして、化合物1と化合物2の2−ブタノン溶液を調製し、光照射を行った。評価方法1と同様に+X方向から光照射を行い、このときのStokesとanti−Stokes(つまり+X方向と−X方向の波の進行方向の違い)を比較した。測定に際しては、図2に示す装置を用いた(装置A2)。すなわち、図1の光学系に音響工光学素子(AOM、Isomet社製1205−1054)30,31を挿入し周波数シフターとして用いた。各サンプルについて、光照射前と光照射後について測定を行った。
また、図2の装置(装置A2)のかわりに、特開2001−318042号公報に記載されている光学系(装置B)を用いて同様の測定を行った。
結果を下記表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
以上のように、本発明の方法によれば、表面物性の異方性を計測することが可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の方法によれば、液体の表面物性の異方性を非接触で評価することができる。また、本発明の装置によれば、そのような液体の表面物性の異方性を簡単な操作で評価することができる。このため、光学フィルムなどの機能性フィルムの製造において、溶剤中に溶解したポリマー、モノマーの表面(熱)物性の異方性を液膜状態で評価することが可能である。したがって、その異方性のデータから偏光等の光学異方性の評価を間接的に知ることも可能であり、より高機能な機能性素材の開発にも有効である。したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】液体表面の物性を測定するための装置を示す概略図である。
【図2】液体表面の物性を測定するための別の装置を示す概略図である。
【図3】光照射方向を説明する斜視図である。
【符号の説明】
【0036】
1 YAGレーザ
2,13 λ/2板
3,4,11,12,16,21 ミラー
8 偏光ビームスプリッター
9,10,14,15,20 ピンホール
17 FFT
18 増幅器/フィルター
19 フォトマル
22 試料
30,31 音響光学素子
40 ランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液体の表面物性の異方性を評価する方法であって、
偏光波面が一致している入射光と参照光を、前記試料液体の表面の同じ照射位置に互いに異なる入射角で入射させ、前記試料液体表面から鏡面反射された参照光とその方向に散乱された入射光の散乱光とを干渉させて光ヘテロダイン信号を検出することにより、前記試料液体の表面物性の異方性を評価することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記光ヘテロダイン信号を検出する工程を、前記試料液体を回転させることにより前記照射位置における前記入射光と反射光の偏光波面に対する測定方向を変えて複数回行い、それぞれの工程で得られる光ヘテロダイン信号の違いにより前記試料液体の表面物性の異方性を評価することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヘテロダイン信号を検出する工程を、前記試料液体を90度回転させる前後でそれぞれ行うことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記光ヘテロダイン信号のStokes成分とanti-Stokes成分を一度に測定することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
直線偏光レーザを2分して、一方を前記入射光として使用し、他方を前記参照光として使用することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
検出された前記ヘテロダイン信号をフーリエ変換して得られたパワースペクトルから液体面のリプロンの周波数と減衰率とを求め、また、前記入射光の入射角と前記散乱光の散乱角と前記入射光の波数とからリプロンの波数を求め、求められたリプロンの周波数と前記減衰率と前記入射光の波数とから表面張力と動粘性率を推算し、求められた表面張力と動粘性率の少なくとも一方を用いて前記試料液体の表面物性の異方性を評価することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
素材の液体表面における異方性発現能を評価する方法であって、
前記素材を溶剤に溶解させた試料溶液に対して請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法を行うことにより、前記試料溶液の表面に発現した異方性を評価することを特徴とする方法。
【請求項8】
前記素材が光配向基を有する化合物であることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記素材がアゾ基を有する化合物であることを特徴とする請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
試料液体の表面物性の異方性を評価する装置であって、
偏光波面が一致している入射光と参照光を、前記試料液体の表面の同じ照射位置に互いに異なる入射角で入射させる光照射機構と、
前記試料液体表面から鏡面反射された参照光とその方向に散乱された入射光の散乱光とを干渉させて得られる光ヘテロダイン信号を検出する検出機構と、
を備えることを特徴とする装置。
【請求項11】
前記試料液体を回転させることにより前記照射位置における前記入射光と反射光の偏光波面に対する測定方向を変えることができる回転機構をさらに備えることを特徴とする請求項10に記載の装置。
【請求項12】
光照射機構により前記入射光と前記参照光を前記試料液体の表面に照射し、前記検出機構により光ヘテロダイン信号を検出した後、前記回転機構により前記試料液体を回転させ、さらに回転後の状態で光照射機構により前記入射光と前記参照光を前記試料液体の表面に照射し、前記検出機構により光ヘテロダイン信号を検出するように制御する制御機構をさらに備えることを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項13】
測定方向を変えて得られる各光ヘテロダイン信号を記録する記録機構をさらに備えることを特徴とする請求項11または12に記載の装置。
【請求項14】
音響光学素子を少なくとも1つ備えており、光ヘテロダイン信号のStokes成分とanti-Stokes成分を一度に測定することができることを特徴とする請求項10に記載の装置。
【請求項15】
前記光照射機構が、直線偏光レーザを2分して、一方を前記入射光として使用し、他方を前記参照光として使用するものであることを特徴とする請求項10〜14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
λ/2板を2つ以上備えており、そのうちの1つが前記入射光と前記散乱光の強度を調整するために用いられることを特徴とする請求項10〜15のいずれか一項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−276292(P2009−276292A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129957(P2008−129957)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【出願人】(508147289)
【Fターム(参考)】