説明

液体カートリッジ

【課題】液体カートリッジのインク収容室の負圧の如何に関わり無く液体カートリッジの負圧が液体噴射ヘッドに影響するのを防止すること。
【解決手段】液体噴射装置へ装着されることにより液体を供給する液体カートリッジであって、液体収容室と供給部160との間に設けられてこれらを連通させる連通孔910を有する隔壁970と、隔壁970の供給部側に配され、液体収容室と供給部との連通、非連通を制御する膜弁900と、膜弁900が閉弁状態を形成でき、かつ供給部側の圧力が上昇することによる膜弁900の収容室側への弾性変形を規制する変形規制部904とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負圧が維持された状態で液体を収容し、差圧手段を介して一定の負圧を維持しながら供給部から液体噴射ヘッドに液体を供給する液体カートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
差圧弁を用いてインク供給口の圧力をインク漏れが生じない程度の負圧に維持しながらインクを供給するインクカートリッジは、包装袋に減圧状態で封止されて流通されるため、使用開始時点ではインク供給口からインク収容室まで大気圧よりも圧力が低い状態に維持されている。
これにより、カートリッジから新しいインクを液体噴射ヘッドであるインクジェットヘッドに供給すると、カートリッジ着脱によりインクジェットヘッドやインク供給針に侵入した気泡を、カートリッジから供給した脱気状態のインクにより容易に溶解させてインク滴の吐出特性を、気泡の侵入に関わり無く維持することができるという利点がある。
一方、カートリッジのインク供給口がインク供給針に接続された時点で、カートリッジの負圧がインクジェットヘッドにそのまま作用するため、インクジェットヘッドのノズル開口のメニスカスが引き込まれてしまい、インク滴の吐出特性に悪い影響を与える恐れがある。
このため、このようなインクカートリッジは、特許文献1に見られるように、液体噴射ヘッドに連通するインク供給針がインク供給口に連通する以前に、インク収容室を大気に開放させる構造が採用されている。
【特許文献1】欧州特許公開番号1199179号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記構成によれば、ホルダの大気開放弁を開放するための構造や、カートリッジの大気開放弁の位置に制約があり、ホルダの構造が複雑化したり、液体カートリッジの構造が複雑化するという問題がある。
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところはインク供給針の直前に大気開放弁を開放させるといった特別なホルダの構造を不要として、液体カートリッジのインク収容室の負圧の如何に関わり無く液体カートリッジの負圧が液体噴射ヘッドに影響するのを防止した液体カートリッジを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このような課題を達成するために本発明の請求項1の発明は、液体噴射装置へ装着されることにより前記液体噴射装置に液体を供給する液体カートリッジであって、液体を収容する液体収容室と、前記液体収容室に収容された液体を、前記液体噴射装置に供給する供給部と、前記液体収容室と前記供給部との間に設けられ、前記液体収容室と前記供給部とを連通する連通孔を有する隔壁と、前記隔壁の供給部側に配され、前記液体収容室と前記供給部との連通、非連通を制御する膜弁と、前記膜弁が閉弁状態を形成でき、かつ前記供給部側の圧力が上昇することによる前記膜弁の前記収容室側への弾性変形を規制する変形規制部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
請求項1の発明によれば、供給部が液体噴射装置に接合されて膜弁が差圧により弾性変形しようとしても、膜弁が、変形規制部に当接して所定の位置で強制的に停止させられるため、液体噴射ヘッドのノズル開口のメニスカスを液滴が形成できる位置に留めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図1は、液体噴射装置の液体噴射ヘッドに液体を供給するのに適した液体カートリッジの一例を、インクジェット式記録装置用のインクカートリッジ100に例を採り、その構造を斜め上方からみた状態で示す正面斜視図である。
【0007】
なお、本発明でいう液体噴射装置における液体噴射ヘッドとは、インクジェット式記録装置のインクジェットヘッドだけではなく、液晶ディスプレイのカラーフィルタを製造するカラーフィルタ製造装置の色剤液体噴射ヘッドや、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極を形成する電極材(導電ペースト)液体噴射ヘッド、さらにはバイオチップを製造するバイオチップ製造装置の生体有機物液体噴射ヘッド及び精密ピペットしての試料液体噴射ヘッドなどを含む。
【0008】
図2及び図3は、図1のインクカートリッジ100を斜め下方からみた背面斜視図で、図2は、インクカートリッジ100の表面にフィルム110が貼り付けられる前の状態を示す図であり、図3は、インクカートリッジ100にフィルム110が貼り付けられた状態を示す図である。さらに図4、図5は、インクカートリッジを構成する部材を分解して示す組み立て斜視図である。
【0009】
インクカートリッジ100は、図4に示すように開口部122を有する有底の略筐体形状のカートリッジ本体120、この開口部122のほぼ全面を覆うフィルム130、及びこのフィルム130の外側を覆う蓋体140を備えている。インクカートリッジ本体120の内部は、後述するようにリブや壁により区画されていると共に、インクカートリッジ本体120の開口部122のほぼ全面をフィルム130により内部を密閉状態となるように封止し、さらにフィルム130の外側を蓋体140により非密閉状態で被覆するように固定されている。
【0010】
カートリッジ本体120は、インク収容領域及びインク流路からなるインク流路部と、インク収容領域を大気に連通させるインク側通路230、大気弁収容室及び大気側通路210からなる大気連通部とを備えている。
【0011】
図6、7はカートリッジ本体120の内部を説明するための図であり、図7はカートリッジ本体120の開口部をフィルム130により封止(斜線部で示す領域)した状態を示す図である。
インク収容領域は、図6、7に示したように水平方向に延びる壁272により、上部と下部とに大きく分割され、下部には連通孔242により大気と連通可能な大気側収容室270が、また上部には大気から遮断された2つの第1供給側収容室292及び第2供給側収容室294からなる供給側収容室290が形成されている。供給側収容室290は、壁272の近傍(下部領域)に連通部276を有する斜めの壁271により2つに分割され、第1供給側収容室292及び第2供給側収容室が形成されている。また、第2供給側収容室294に周りを囲まれるように、流路部296が形成されている。流路部296は下部の連通部278を介して、第2供給側収容室294と接続されるとともに、通路298、300及び通孔918を介して後述する膜弁を有する差圧弁を備えたインク供給制御手段150に接続されている。
また、インク供給制御手段150の下流側は、インク供給制御手段150と連通する連通孔910、この連通孔910と連通する流路321、流路321の一端に形成され、表面側に向けて形成された通孔323、通孔323と一端が連通した流路304、流路304と連通するインク供給部160が形成されている。
【0012】
大気側収容室270と第1供給側収容室292とは垂直に延びる連通路295により連通されていて、インク供給部160からのインクの消費に対応して大気側収容室270のインクを第1供給側収容室292に吸い上げ、ここから第2供給側収容室294、流路部296等を介してインク供給制御手段150に流れ込ませるように構成されている。
【0013】
一方、大気弁部250は、大気弁254が収容される大気弁収容室である中空部232を有し、中空部232の下方の壁面には、大気弁254の軸部264の径より若干径が大きく連通流路をも兼ねる連通孔239を有し、ここに大気弁254の軸部264がバネ255により常時、カートリッジの底面に向かって付勢されて摺動自在に挿入されて、カートリッジが装置本体に装着されていない場合に大気弁254によって連通孔239を封止している。
図7に示すように、ハッチングで示した領域がフィルム130により封止されることにより、大気側収容室270と供給側収容室290からなるインク収容室111、大気弁部250及びそれらを接続するインク流路、大気流路が形成される。
【0014】
上述した連通孔239を境として大気と連通する側である大気側通路210は、開口212、蛇行した通路214、フィルタ収容室216、連通孔218および連通部222、連通部222の底面に形成された連通孔253、連通部224により構成されている。
詳細には、図8に示すように、カートリッジ本体120の表側に形成された迷路状に蛇行した1本の通路214は、その一端を開口212として大気に開放され、また他端を撥インク性と通気性との機能を備えたフィルタ215(図4、図5)を収容したフィルタ収容室216に接続されている。フィルタ収容室216は、カートリッジ本体120の表側から裏側に貫通する連通孔218と連通する。連通孔218は、カートリッジ本体120の裏側において連通部222、連通部222を区画する部屋の底部に形成された連通孔253を介して連通部224と接続している。通路214の途中には、凹部からなるチャンバー930が設けられている。このチャンバー930により、通路214の流体抵抗をチャンバー930が形成されていない状態よりも下げ、液体カートリッジを初回使用時におけるカートリッジ内の減圧解除を素早く行うことができる。また、フィルタ収容室216に対するフィルタ215の固定が不十分な場合にインクが通路214に漏れてきた場合でも、チャンバー930によりインクをトラップして外部への漏れ出しを防止することができる。
【0015】
図2に示したように、連通部224は、カートリッジ本体120の底面に凹部257として形成され、大気弁254の作動棹である軸部264を露出させ、かつ大気弁254を収容する中空部232との連通が可能な連通孔239と、連通部222に連通する連通孔253が凹部257内に形成され、凹部257の外面を第1のインク注入口161、第2のインク注入口162を封止するフィルム132により封止して形成されている。
このフィルム132は、ホルダ200に設けられた操作部材202(図13)の押圧力により弾性変形可能なものが選択されている。
【0016】
一方、図6に示したように、上述した連通孔239を境として大気側収容室270と連通するインク側通路230は、中空部232、通孔234a、連通室234b、連通部234c、連通室234d、連通部236、連通室237および連通孔238、連通溝240、連通孔242とで形成されている。
詳細には、中空部232の上部の壁には通孔234aが形成されており、この通孔234aを介して連通室234b、連通室234bの上部の壁の切り欠きによって形成された連通部234c、連通部234cと連通する連通室234d、連通室234dの上部の壁の切り欠きによって形成された連通部236、下方に連通孔238が形成された連通室237と順に連通する大気通路が形成されている。
なお、図6において図中符号232、234b、234、237、及び222で示す部材の領域の、太線の矢印は、I、IIの順で大気側から大気側収容室270へと大気が流れる方向を示すものである。
カートリッジ本体120の裏側から表側に貫通する連通孔238は、連通孔238と連通する連通溝240、連通溝240と連通すると共にカートリッジ本体120の表側から裏側に貫通する連通孔242を介して大気側収容室270と連通する。
これら、大気側収容室270、供給側収容室290、大気弁部250、及び大気側通路210、インク側通路230は、それぞれを区画する壁にフィルム130、110を熱溶着などの方法で貼着することにより大気と隔離された領域となる。
フィルム130は、図9(ロ)に示したように最内層950、強度層952、及び透過防止層954との3層構造を有し、大気側収容室270、供給側収容室290、大気弁部250、及び大気側通路210の圧力と大気圧との差圧で、或る程度弾性変形できるように構成されている。
【0017】
最内層950は、インク収容領域に接するように配置されるもので、カートリッジ本体120を構成する材質と同一の材料、例えばポリプロピレンにより形成するのが望ましい。最内層950の材質をカートリッジ本体120の材質とを同一にすることにより、フィルム130をカートリッジ本体120の開口部に熱溶着により確実に接着することができる。
【0018】
強度層952は、中間層として形成され、最内層950よりも強度が高く、最内層950を補強する目的で形成される。透過防止層954は、インクの蒸気や、大気が透過するのを阻止するもので、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)等を使用してもよい。
また、図10に示すように、カートリッジ本体120の開口部に貼着されたフィルム130の外面は、フィルム130との間の空間135の容積が可及的に少なくなるように略密着した状態で蓋体140が嵌着されていて、後述する減圧袋101に収容された場合にフィルム130が無用に膨張したり、また突起などの衝突による破損を防止するように構成されている。
【0019】
次に、カートリッジ本体120のインク供給部160には、図9に示すように、ホルダのインク供給針に押圧されて摺動、開弁する供給弁13と、インク供給針の周囲に嵌合して挿入口26を有するエラストマ等の弾性材料からなるシール部材12と、供給弁13をシール部材12に向けて付勢するコイルバネからなる付勢部14とを有する。これらは、付勢部14を装填し、次いでシール部材12を供給部160に嵌合させ、最後に供給弁10を挿入口26から押し込むことにより組み立てられている。これにより、組み立て時のバネ押さえ工程を不要として装填作業だけで組み立てることができる。
【0020】
図1、及び図5に典型的に示されているようにインクカートリッジ100は、一方の側面に、ホルダの所定の位置に位置規制するための位置決めブロック190が装着され、その正面の下方に表面に電極171が形成され、裏面に半導体記憶素子が実装された記憶装置である回路基板170が設けられている。回路基板170の記憶素子には、インクカートリッジの種類等の識別情報と、インクカートリッジが保持するインクの色の情報ならびにインクの現存量等の情報を格納している。
また、位置決めブロック190の上部には、後述するホルダ200のレバー204に係合してインク供給部160をホルダ側に押圧する凸部192を図13、14に示すように設けることもできる。
一方、位置決めブロック190と対向する他方の側面には、ホルダ200の係合部205に突起181により係合するレバーからなる係合部材180が、カートリッジ本体120の射出成形に合わせて一体的に成形されている。
【0021】
図10(イ)は、前述のインク供給制御手段150の一実施例を示すもので、隔壁970と、膜弁900と、本体側連通室912と、供給側連通室906及び908と、変形規制部980と、コイルバネ907とにより構成され、押え部材151によりカートリッジ本体120に固定されている。
隔壁970は、インク収容室111とインク供給部160との間の位置し、インク収容室111と連通する側に形成された本体側連通室912と、インク供給部160に連通するように形成された供給側連通室906及び908とに区画し、本体側連通室912と連通する連通孔918が周縁部に、前記膜弁900により封止される連通孔910が中心に位置するように形成されている。なお図4に示すように本体側連通室912には、インクろ過用のフィルタ310を収容することも可能で、これによりインクに紛れ込んだ異物をここで阻止して下流側への移動を阻止して、膜弁900の封止機能を保証するとともに、記録ヘッドの目詰まりを防止できる。
【0022】
この変形規制部980として機能する凸条904は、膜弁900の凸部913よりも高さが低く、かつ膜弁900の凸部913が連通孔910を確実に封止できるように間隙Δg(図10(ロ))を形成できる程度に選択されている。
【0023】
なお、膜弁900は、エラストマーなどにより弾性変形可能な材料により円形に構成され、中心部に連通孔910に当接してここを封止する凸部913が形成され、背面のバネ装着用凸部902に装填されたバネ907により連通孔910の側に、インク供給部160が一定の負圧を維持できる程度の圧力で付勢されている。このようにバネ907が封止用の凸部913と表裏をなす凸部902にバネ907の力が作用するため、周縁部の変形を可及的に防止して膜弁を平面に維持することができ、流路抵抗が上昇するのを防止できる。
【0024】
このように構成されたインクカートリッジ100は、インク供給部160に接続具を装填して供給弁13を押し込んで開弁させ、カートリッジ内部を排気する。この排気により膜弁900がバネ907に抗して変位するため、供給側収容室292、294の圧力が低下する。この状態で第1のインク注入口162からインクを注入すると供給側収容室292、294及び流路にインクが吸引されて充填できる。また第2のインク注入口161からインクを注入すると、大気側収容室270にインクが流れ込む。インクの充填が終了した時点で、インク供給部160にシール604を貼着する。更に減圧下で第1のインク注入口162及び第2のインク注入口161にシール132を貼着することにより、カートリッジ内部を大気圧よりも低い状態で密閉することができる。
【0025】
ついで、カートリッジを減圧袋101に収容してカートリッジ内部の圧力よりも低い圧力で減圧しつつ、袋の開口部を封止すると、図12に示したように減圧状態で梱包される。
この状態では大気弁254によりインク収容室111が外界との連通を遮断されているから、カートリッジ本体120の開口を封止しているフィルム130が膨張するが、これに近接して蓋体140が存在するため、フィルム130は蓋体140に規制されるため、外側への膨張量を可及的に小さく抑えられる。
【0026】
このようにフィルム130が若干膨張した状態となるから、収容室111のインク全体にフィルム130を介して減圧袋101の負圧が作用し、インクの脱気が進行する。この状態で流通ルートに乗せられ、インクカートリッジを構成するケースから徐々にインク収容室の空気が減圧袋とカートリッジの間の空間に漏洩し、インク収容室の圧力を大気圧以下に維持して、使用時までインクを脱気した状態で保存することができる。
【0027】
使用する際に、減圧袋101からインクカートリッジを取り出すと、インクカートリッジのフィルム130に大気圧が作用するから、フィルム130が、大気側収容室270との差圧により大気側収容室270の側に弾性変形して大気側収容室270の負圧の程度を低下させる。
この大気側収容室270の負圧の程度がフィルム130の弾性変形によって低下することになり、インクカートリッジを、図14に示したようにホルダ200に装着したときの、インクカートリッジ内の負圧による液体噴射ヘッドのノズル開口に形成されたメニスカスの引き込みを低減することができる。
特に本実施例においては、インク収容室を構成する全ての領域をフィルム130により封止されているので、一部のインク収容室のみをフィルム130により封止するよりも素早く負圧の解除(圧力の上昇)を行うことができる。
【0028】
以下は上述のフィルム130を用いなかった場合、またはフィルム130の選択における制約等により十分な負圧の解除(圧力の上昇)ができない場合、またはより確実に負圧の解除を行うために有効な構成についての説明である。
インクカートリッジを、図13に示したようにホルダ200に装着し、図14に示したように装填レバー204を回動させて装填すると、インク供給部160にインク供給針201が進入し、続いて大気弁254が底面の操作部材202により開弁される。
インク供給針201が進入してインク供給部160がインク供給針201に接続した瞬間に、インク供給針201に連通する液体噴射ヘッド203を介して膜弁900の背面が大気に連通する。このときインク収容室側の圧力が低いため、膜弁900はインク供給部160の側に大気圧が作用し、膜弁900が隔壁970の側に弾性変形しようとするが、隔壁970に形成された変形規制部980に当接し所定の位置で停止する。
【0029】
もとより、この変形量は、変形規制部980、この実施例では隔壁970の凸条904により抑止されて間隙Δg程度と、変形規制部980が存在しない場合に比較して極めて少ないため、液体噴射ヘッド203のノズル開口のメニスカスは若干引き込まれるものの、液滴の形成に影響がない程度の位置で停止する。
【0030】
なお、膜弁900の封止用の凸部913の高さを小さくすることにより、膜弁900のわずかな変位で膜弁900の周辺部を隔壁970に当接させることも考えられるが、隔壁と膜弁との間隙が小さくなってインクの流路抵抗を上昇させてインクの供給能力の低下を招いたり、また凸部913の寸法を高い精度で管理する必要上、コストが掛かるという問題がある。
【0031】
このようにしてカートリッジ100の装着が完了して液体噴射ヘッド203でインクが消費されると、インク供給制御手段150のインク供給部160側の圧力が所定値以下に低下する。これにより、インク供給制御手段150を構成する膜弁900は、その背面の広い面積にインク供給部160の負圧を受ける(なお、連通孔910を介して供給部160の負圧が作用するが、連通孔910の開口面積が膜弁900の背面の面積に比較して極めて小さいため、変位を阻害することにはならない)。
【0032】
膜弁900の背面、つまり供給部160に連通する側の面に作用する負圧がバネ907に打ち勝つと、膜弁900は隔壁970から離れるため、流路部296のインクが隔壁970の連通孔918から膜弁900の側に流れ込み、隔壁970の連通孔910から連通部304を経由してインク供給部160に流れ込む。凸条904は、連通孔918の近傍が切り欠きにより開放されているため、流路抵抗の増加を受けることなく供給部160に流れ込む。
【0033】
大気側収容室270は、連通孔242を介して大気を引き込みながら、連通路295を経由して大気側収容室270のインクを第1供給側収容室292に吸い上げ連通部276から第2供給側収容室294にインクを補充する。
このようにして所定量のインクが供給部160に流れ込んで、膜弁900に作用する差圧がバネ907の圧力よりも小さくなると、膜弁900が隔壁側に押し戻され、流路が絶たれる。
以下、このような工程を繰り返すことにより、供給部160の圧力を所定の負圧に維持してインクを液体噴射ヘッドに供給することができる。
【0034】
なお、上述の実施例においては、カートリッジ100をインク供給針201に平行な方向に移動させて装填する場合について説明したが、図16に示したように位置決めブロック190を下方とし、かつこの領域を支点として回動させて装填する場合にあっては、供給部160がインク供給針201に係合する以前に大気弁254が操作部材202に当接させてインク収容室111を大気に開放することが可能となる。
詳細には、インクカートリッジ100が装着されると、大気弁部250の開放により大気側通路210からインク側通路230を介して大気側収容室270に大気が流れこみ、インクカートリッジ100内の減圧状態が解除される。この状態でインク供給部160にインクジェット式記録装置のインク供給針が進入すると、既にインクカートリッジ100内の減圧状態が緩和されているから、膜弁を境界にしてインク収容室側の圧力の方がインク供給口側の圧力よりも高くなり、記録液体噴射ヘッドのインクをインクカートリッジ100の側に引き込むことがなく、記録液体噴射ヘッドのノズル開口から空気を引き込むといった不都合を確実に防止できる。
この様な構成の装置であっても、カートリッジを無理矢理インク供給針に平行な方向に挿入するような装着ミス等によって大気開放がインク供給針のインク供給口への挿入よりも遅れた場合に有効である。
【0035】
なお、上述の実施例においては、変形規制部が切欠部を有する略環状に形成されているが、膜弁900が閉弁機能を損なわないように膜弁900の周辺部905に対向する隔壁970の面に複数個、分散して形成しても同様の作用を奏する。
【0036】
図17、図18は、それぞれ変形規制部980の他の実施例を、膜弁900の構造で示すものであって、連通孔910を封止する膜弁900の凸部913よりも周辺側に、隔壁970の連連通孔918と対向する領域が切り欠れた略環状の凸条914を形成しても同様の作用を奏する。なお、凸条914は、その高さh1が膜弁900の凸部913の高さh2よりも低く設定されていて、膜弁900が閉弁した状態では、図17(ロ)に示したように隔壁970との間に間隙Δgを形成できて、閉弁機能を阻害しないように構成されている。
【0037】
この実施例においても、インク供給針201が進入してインク供給部160がインク供給針201に接続した瞬間に、インク供給針201に連通する液体噴射ヘッド203を介して大気に連通するため、膜弁900はインク供給部160の側に大気圧を、また他方の面に大気側収容室270の負圧の作用を受け、図19(イ)、(ロ)に示したように膜弁900が隔壁970の側に弾性変形しようとするが、膜弁900の凸条914が隔壁970に当接して所定の位置で停止する。したがって、変形量が極めて少ないため、液体噴射ヘッド203のノズル開口のメニスカスは若干引き込まれるものの、液滴の形成に影響がない程度の位置で停止する。
【0038】
なお、上述の実施例においては、変形規制部が切欠部を有する略環状のものとして形成されているが、膜弁900の閉弁機能を損ないように隔壁970に複数の突起を分散して形成しても同様の作用を奏する。
【0039】
また上述の実施例においては、隔壁970の中央部に連通孔910を形成し、膜弁900をインク供給部側の圧力に応動させてこの連通孔910を開閉する形態の差圧弁構造を有するインクカートリッジについて説明をしたが、図20(イ)に示すように隔壁970の中央領域以外の領域に1つの連通孔918'を、また中央部に凸部990を、また膜弁900の中央には凸部990に弾接する連通孔992を形成して、常時はコイルバネ907により膜弁900の連通孔992を凸部990に当接させて連通孔992を封止させ、インク供給部の圧力が低下した時点で図20(ロ)に示したように膜弁900をコイルバネ907の弾性力に抗して膜弁900を凸部990から離反させて符号Aで示す線の流路のように膜弁900の連通孔992を介してインクを供給する形式の供給制御部に適用しても同様の作用を奏する。
【0040】
すなわち、隔壁970の膜弁900に対向する面には図21(イ)に示したように、凸部990よりも外側に連通孔918'の近傍に切り欠きを有する凸条904'を設けたり、また図21(ロ)に示したように膜弁900の隔壁970に対向する面には連通孔992を囲み、かつ隔壁970の連通孔918'に対向する領域に切り欠きを有する凸条914'を形成すると、これら凸条904'や凸条914'により膜弁900の過剰な隔壁側への変形を規制することができる。
【0041】
さらに、上述の実施例においては、インクカートリッジの記録装置との係合によってインク収容室を大気と連通させるための大気開放部の機構として大気弁を備えたインクカートリッジを例に採って説明したが、インクカートリッジと記録装置とが係合することによりインク収容室の大気側に連通する通路の一部に孔を開けさせて、インク収容室を大気に連通させる構造のインクカートリッジに適用しても上述した効果と同等の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】インクカートリッジを斜め上方からみた正面斜視図である。
【図2】インクカートリッジを斜め下方からみた背面斜視図である。
【図3】インクカートリッジを斜め下方からみた背面斜視図である。
【図4】インクカートリッジの一方の面から見た組み立て斜視図である。
【図5】インクカートリッジの他方の面から見た組み立て斜視図である。
【図6】カートリッジ本体の開口側から見た構造を、封止用フィルムを外した状態で示す平面図である。
【図7】カートリッジ本体の開口側から見た平面図である。
【図8】カートリッジ本体の表面側から見た構造を、膜弁押さえ部材、及びフィルムを外した上体で示す平面図である。
【図9】図(イ)、(ロ)は、それぞれインクカートリッジの供給部材近傍の断面を示す断面図と、開口を封止するフィルムの一実施例を示す断面図である。
【図10】図(イ)、(ロ)は、供給制御部の一実施例を示す断面図と、変形規制部の近傍を拡大して示す断面図である。
【図11】変形規制部の一実施例を隔壁の構造で示す斜視図である。
【図12】インクカートリッジを減圧袋に収容した状態を示す斜視図である。
【図13】インクカートリッジをホルダに装填した状態を示す図である。
【図14】インクカートリッジをホルダに装着した状態を示す図である。
【図15】図(イ)、(ロ)は、それぞれインクカートリッジがホルダに装着された瞬間の膜弁の形状を示す断面図、及び変形規制部を拡大して示す断面図である。
【図16】インクカートリッジの他の装着方法を示す図である。
【図17】図(イ)、(ロ)は、供給制御部の一実施例を示す断面図と、変形規制部の近傍を拡大して示す断面図である。
【図18】変形規制部の一実施例を膜弁の構造で示す斜視図である。
【図19】図(イ)、(ロ)は、それぞれインクカートリッジがホルダに装着された瞬間の膜弁の形状を示す断面図、及び変形規制部を拡大して示す断面図である。
【図20】図(イ)、(ロ)は、それぞれ本発明の適用可能な供給制御部を、非インク供給状態、及びインク供給状態で示す断面図である。
【図21】図(イ)、(ロ)は、それぞれ図20に示した供給制御部に適用される変形規制部の一実施例を、隔壁に対向する膜弁の面の構造、及び膜弁に対向する隔壁の面の構造で示す斜視図である。
【符号の説明】
【0043】
100 インクカートリッジ、 111 インク収容室、 120 カートリッジ本体、 110、130、132 フィルム、 140 蓋、 150 インク供給制御手段、 160 インク供給部、 170 記憶手段、 180 係合部材、 210 大気側通路、 212 開口、 214 通路、 216 フィルタ収容室、 218、224 連通孔、 230 インク側通路、 232 中空部、 236、240、274、276、278 連通部、 238、242 連通孔、 250 大気弁部、 270 大気側収容室、 272 壁、 290 供給側収容室、 292 第1供給側収容室、 294 第2供給側収容室、 296 流路部、 298、300 通路、 302、304 連通部、 900 膜弁、 902 中央部、 904 凸条、 905 周辺部、 906、908 供給側連通室、 912 本体側連通室、 914 凸条、 970 隔壁、 980 変形規制部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体噴射装置へ装着されることにより前記液体噴射装置に液体を供給する液体カートリッジであって、
液体を収容する液体収容室と、
前記液体収容室に収容された液体を、前記液体噴射装置に供給する供給部と、
前記液体収容室と前記供給部との間に設けられ、前記液体収容室と前記供給部とを連通する連通孔を有する隔壁と、
前記隔壁の供給部側に配され、前記液体収容室と前記供給部との連通、非連通を制御する膜弁と、
前記膜弁が閉弁状態を形成でき、かつ前記供給部側の圧力が上昇することによる前記膜弁の前記収容室側への弾性変形を規制する変形規制部と、
を備えたことを特徴とする液体カートリッジ。
【請求項2】
前記変形規制部は、前記隔壁の、前記膜弁の周縁領域に対向する位置に設けた突起部として構成されていることを特徴とする請求項1に記載の液体カートリッジ。
【請求項3】
前記変形規制部は、前記膜弁の前記隔壁に対向する面に設けられ、前記膜弁が閉じたときに前記隔壁と当接する肉厚部として形成されていることを特徴とする請求項1に記載の液体カートリッジ。
【請求項4】
前記変形規制部は、前記隔壁に形成された連通孔を結ぶ領域を切欠部とするように略環状の凸条として形成されている請求項1に記載の液体カートリッジ。
【請求項5】
前記連通孔に膜弁が当接することにより閉弁状態を形成することを特徴とする請求項1に記載の液体カートリッジ。
【請求項6】
前記膜弁に連通孔を備え、この連通孔を封止する封止部を前記隔壁に形成したことを特徴とする請求項1に記載の液体カートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2006−69223(P2006−69223A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−321709(P2005−321709)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【分割の表示】特願2003−301246(P2003−301246)の分割
【原出願日】平成15年8月26日(2003.8.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】