説明

液体クロマトグラフ質量分析計

【課題】従来手動で行っていた測定条件の変更を自動で変化させることにより、擬分子イオンを得る事の出来る液体クロマトグラフ質量分析計の提供をその課題とする。
【解決手段】UV検出器に試料分子のピークが検出されて、質量分散の掃引を行っても質量分析計のデータ処理でマススペクトルが得られない時に、正のイオン導入から負のイオン導入電圧に変える。また、これでも質量分析計でマススペクトルが得られない時、次の質量掃引は分離カラムの出口にポストカラム方式用に設けてある注入口よりイオン化促進溶液を添加できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は液体クロマトグラフ質量分析計に係り、特に試料のイオン化しづらい有機物に好適なクロマトグラフ質量分析計に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来の液体クロマトグラフ質量分析計は、液体クロマトグラフと質量分析計と組み合わせたものから構成されてきた(Kato et al, J.Chromatogr.562,81(1991))。すなわち、従来の装置は、クロマトグラフによって試料成分は各成分毎に分離された後、分離成分毎にイオン化され質量分析計に導入され、各成分イオン毎に質量分散され、質量スペクトルとして検出されていた。
【0003】しかし、試料成分によっては、その官能基の違いにより、正のイオンだけ生成されたり、または負のイオンのみが生成され、時には試料イオン生成前にアンモニアイオンや塩素イオンを生成させ、それらのイオンを試料分子に付加してイオン化させていた為、それらの条件を変えて数回の測定を行い注入全成分の測定を行っていた。
【0004】正,負のイオン検出に関しては質量分析計に試料イオンを導くドリフト電圧,イオン加速電圧および質量分散をさせる掃引電圧等の電圧の極性を反転させれば各々のスペクトルは得られるが、付加イオンに関しては、アンモニア付加イオンを生成したい時は、移動相に酢酸アンモニウム等を添加する。また、それらの事を行ってもスペクトルが得られない場合、試料の官能基によっては、塩素付加イオンの方がイオン化効率が高いと思われる成分には移動相にクロロホルム等を添加し、塩素付加イオンの生成を試みる等、擬分子イオンが検出されるまでいくつかの方法を試みていたが、移動相にイオン化促進のための溶液を添加する方式の為に、各成分の分離を低下させるという悪影響が出ていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記正,負イオンの検出の他、ポストカラム法を用いて、いくつかの付加イオン生成用溶液を手動で導入し、擬分子イオンスペクトルを得る従来方式は、試料の持つ官能基によっては同一試料の情報を得る為に二度以上の測定を行わなければマススペクトルを得る事が出来ないという問題点があった。
【0006】すなわち従来法は、一度目の試料測定でUV検出器で検出されたクロマトピークに対応するマススペクトルを検討し、すべてのピークの擬分子イオンが検出されているかを確認し、マススペクトルが得られていない成分があった場合、次々と条件を変更し測定を行う為、測定時間に長時間を要していた。
【0007】本発明の目的は、上記の問題点を解決するために、それらの条件を自動で変化させ、擬分子イオンを得る事の出来る液体クロマトグラフ質量分析計を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、クロマトグラフとクロマトグラフによって分離された試料成分を検出するUV検出器と試料成分をイオン化するイオン化手段と、イオン化時に擬分子イオン等を感度良く生成するための溶液をポストカラム方式等で導入する装置と、生成したイオンの正のイオンまたは負のイオンのみを選別して質量分析計に導入する手段と、質量分析計,データ処理装置を備え、UV検出器に試料分子のピークが検出されて、質量分散の掃引を行っても質量分析計のデータ処理でマススペクトルが得られない時に、正のイオン導入から負のイオン導入電圧に変えるものである。
【0009】試料イオンの生成は分子の持つ官能基等によりある分子は正負両イオン、またあるものは正イオンまたは負イオンが大量に生成される。正イオンの測定には負の電位を掛けて質量分析計に引き込み、負イオンの検出には正の電位で引き込む方法が一般的である。
【0010】また、これでも質量分析計でマススペクトルが得られない時、次の質量掃引は分離カラムの出口にポストカラム方式用に設けてある注入口よりイオン化促進溶液を添加できる制御装置を設けている液体クロマトグラフ質量分析計である。
【0011】
【発明の実施の形態】図1は本発明の装置構成および擬分子イオンのスペクトルパターンであり、図2は質量掃引およびイオン化電圧,イオン促進溶液バルブのタイミングチャートである。
【0012】図1において、試料は試料注入口2より注入され、試料分離用ポンプ1によりカラムオーブン3のカラム4へと送液される。カラム4で各成分に分離された後、UV検出器5で検出される。そして、UV検出器5を通った後、試料イオン化部7で各成分が順次イオン化された後、質量分析部8で質量分散され、データステーション16から質量スペクトルとして検出される。
【0013】まず、イオン化電圧発生電源10の設定が正イオン検出の場合、UV検出器で検出された成分が一回目の質量掃引で質量スペクトルが検出されなければ、二回目の質量掃引でイオン化電源変更スイッチ11により負イオン検出に切り替える。それでもUV検出器5ではピークが検出されているにも関らず、質量スペクトルが検出されなければ、次の質量掃引でイオン化促進溶液切り替えバルブ13,14,15を開き、イオン化促進溶液送液ポンプ12によりイオン化促進溶液混合バルブ6へイオン化促進溶液(クロロホルム,酢酸アンモニウム等)を送液する。
【0014】例えば、クロロホルムをイオン化促進溶液に用いた場合、擬分子イオンは、その対象物質の分子量に塩素が付加したイオンが生成される。すなわち、その結果、質量スペクトルが検出されれば、ピークが検出されなくなるまで、その条件を保持し質量掃引を繰り返す。そして、ピークが検出されなくなると元の条件に戻し、次にピークが検出されるまで初期条件で質量掃引を繰り返す。
【0015】すなわち、UV検出器でピーク検出後、一回目の質量掃引でイオンが検出されなければ、二回目でイオン化電源を反転させる。これでも、イオンが検出されなければ、三回目の質量掃引でイオン化促進溶液を送液する。この時イオンが検出されれば、条件を保持し、マススペクトルを得る。以上のように、図2に示したタイミングチャートにより条件変更の自動化を行う。
【0016】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の質量分析計はクロマトグラフのUV検出器が試料を検出している間に、質量分散させても質量分析計の検出器にマススペクトルが得られない時に、次の質量掃引時には、正のイオン検出から負のイオン検出に変える。これでもマススペクトルが得られない場合、次の質量掃引でポストカラム法でよりイオン化促進溶液を入れる等を自動的に行うため、一度の試料注入ですべての試料成分のマススペクトルが得られるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の装置を示す構成図である。
【図2】本発明のタイミングチャートである。
【符号の説明】
1…試料分離用ポンプ、2…試料注入口、3…カラムオーブン、4…試料分離用カラム、5…UV検出器、6…イオン化促進溶液混合バルブ、7…試料イオン化部、8…質量分析部、9…質量掃引電源、10…イオン化電圧発生電源、11…イオン化電圧変更用スイッチ、12…イオン化促進溶液送液用ポンプ、13,14,15…イオン化促進溶液切り替えバルブ、16…データステーション、17…レコーダー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】クロマトグラフと該クロマトグラフによって分離された試料成分をイオン化するイオン化手段と、該イオン化に必要な電圧を印加する電源と該試料イオンを質量分散させ、マススペクトルを得るための質量分析装置において、クロマトグラフのUV検出器に検出されても試料のイオン化が困難で試料イオンの質量掃引を行っても試料イオンのTICが得られない時、イオン化促進溶液をインタフェース部へ注入する制御装置を設けられている事を特徴とした液体クロマトグラフ質量分析計。
【請求項2】上記イオン化を行っても試料イオンが得られない時、生成されるイオンは正または負のイオンのみ生成されることも多くあるので、試料イオンの質量分析挿入電圧(イオン化電圧)の極性を自動的に反転させ質量掃引を行う事を特徴とした請求項1記載の質量分析計。
【請求項3】イオン化促進溶液の注入、イオン化電圧の極性反転等を行い質量掃引毎に質量スペクトルが得られたら、その条件のまま試料イオンの取得を行い、UV検出器での試料感度がある一定レベルより下がったら、また元の測定条件に戻し測定を開始する事を特徴とした請求項1記載の質量分析計。

【図2】
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【図1】
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