説明

液体タンク、燃料電池および電子機器

【課題】手動で燃料などの液体を供給する際に、過剰な供給を抑制することが可能な燃料タンクおよびこれを用いた燃料電池ならびに電子機器を提供する。
【解決手段】燃料タンク1は、内部に液体燃料12を収容する筐体10の一部に、外部圧力によって変形可能な変形部10Aを有する。変形部10Aは、筐体10の上面Sに対して外部方向に突出した形状であり、筐体10の上面Sに屈曲部10A−2を介して平坦面10A−1が設けられた構成となっている。この変形部10Aの平坦面10A−1を指や棒などで押して変形部10Aに外圧を加えることにより、変形部10Aが筐体10の上面Sに対して反転するように変形する。筐体10内部の容積が変化して、液体燃料12が押し出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電部へ供給される燃料を貯蔵する液体タンク、燃料電池および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料電極(アノード電極)と酸素電極(カソード電極)との間に電解質が配置された構成を有し、燃料電極には燃料、酸素電極には酸化剤がそれぞれ供給される。このとき、燃料および酸化剤がそれぞれ酸化および還元され、燃料がもっていた化学エネルギーが電気エネルギーに変換されて取り出される。この際、燃料電極への燃料の供給は、燃料タンクからポンプなどの補器類を用いて行われている。
【0003】
このような燃料電池は、リチウムイオン電池などの蓄電池やキャパシタなどの補助電源と組み合わされて使用される。例えば、燃料電池起動時には、ポンプなどの補器類等で必要とされる電力に応じて補助電源から電力が供給され、燃料が発電部へ供給されて発電がなされるようになっている。このようにして発生した電力は、駆動機器(負荷)側へ出力され、余剰電力は補助電源に保持される。また、高負荷時には補助電源から電力が駆動機器へ出力される。補助電源を設けることにより、燃料電池が電力を発生するまでの起動機器への電力供給を可能にし、また燃料電池を一定電力で発電させることができるため、利用効率を向上させることができる。
【0004】
ところが、駆動機器の高負荷使用による過度な補助電源の消費や、燃料電池を長い間使用していなかった場合の自己放電などにより、補助電源の電圧が低下することがある。このように補助電源が消耗してしまった場合には、ポンプが起動せず、燃料電池から電力を取り出せなくなってしまう。そこで、特許文献1,2には、電子機器などに内蔵される燃料電池に対して手動ポンプを用いて燃料を供給することができる燃料電池システムが提案されている。
【特許文献1】特開2005−19371号公報
【特許文献2】特開2007−80731号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の構成では、手動でポンプを押して燃料を発電部まで送り込むため、ポンプの押し具合によって燃料の供給量が異なってくる。このため、1回の供給で燃料が必要以上に供給されることがあり、その結果、燃料漏れなどの不具合が生じるという問題があった。また、特許文献2の構成では、サブタンクを設けて供給量を所定量にする試みがなされているが、サブタンクに供給するポンプが必要となるなど、構造が複雑になり、小型化に不利となる。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、手動で燃料などの液体を供給する際に、過剰な供給を抑制することが可能な液体タンクおよびこれを用いた燃料電池ならびに電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の液体タンクは、内部に液体を収容すると共に、液体を外部へ送出するための送出口を有する筐体と、筐体の少なくとも一部に設けられ、外部圧力により変形可能な変形部と、変形部の変形量が一定量を超えないように制限する制限手段とを備えたものである。
【0008】
本発明の燃料電池は、発電部と上記本発明の液体タンクを備えたものである。
【0009】
本発明の電子機器は、上記本発明の燃料電池を搭載するものである。
【0010】
本発明の液体タンク、燃料電池および電子機器では、燃料タンクにおいて、外部圧力により変形可能な変形部が例えば指などで押されると、筐体の容積が縮小して内部に収容されている液体が送出口から外部へ向けて押し出される。このとき、制限手段により、筐体の容積変化量は一定量を超えないように制限される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の液体タンク、燃料電池および電子機器によれば、液体を収容する筐体の一部を変形可能な変形部とし、その変形量が一定量を超えないように制限手段を設けるようにしたので、変形部を指などで押して液体を手動で供給する場合であっても、過剰に液体が供給されることを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
[第1の実施の形態]
図1(A),(B)は、本発明の第1の実施の形態に係る燃料タンク1の断面構造を表すものである。この燃料タンク1は、燃料電池の発電部へ供給するための燃料を貯蔵しておくものであり、例えば、筐体10の内部にメタノールなどの液体燃料12が収容されている。筐体10の側面には、液体燃料12を発電部へ送出するためのバルブ(送出口)13が設けられている。
【0014】
筐体10は、その外形が例えば直方体形状であり、アルミニウム(Al)やステンレス鋼(SUS)などの金属材料、またはPET(ポリエチレンテレフタレート)あるいはポリプロピレン等の樹脂材料により構成されている。この筐体10の内部には、液体燃料12がパック容器11に封入された状態で収容されている。パック容器11は、例えばアルミラミネートフィルム等からなる袋状の容器である。
【0015】
この筐体10は、外部圧力(以下、単に外圧という)によって変形可能な変形部10Aを有している。変形部10Aは、筐体10の一部が外部方向に突出して成型されたものであり(図1(A))、筐体10の上面Sに屈曲部10A−2を介して平坦部10A−1が設けられた構成となっている。この平坦部10A−1が指や棒などで押される部分となる。また、このような変形部10Aは、筐体10の一面に例えばプレス加工を施すことにより成型することができる。
【0016】
変形部10Aの形状、すなわち平坦部10A−1の筐体10の上面Sからの高さa1や、平坦部10A−1および屈曲部10A−2の平面積などは、その変形量が一定量を超えないように設計される。例えば、以下の式(1)に示したように、変形部10Aの変形による筐体10の容積変化量が、危険送液量、もしくは燃料タンクから発電部までを接続する流路(後述)がある場合には、危険送液量からこの流路容積を差し引いた量を超えないように変形部10Aを設計する。また好ましくは、以下の式(2)に示したように、筐体10の容積変化量が、燃料電池システムを定常動作させるために必要なメタノール量を超えるように設計する。
(容積変化量)<(危険送液量)−(流路容積) ………(1)
(容積変化量)>(定常発電させるために必要なメタノール量) ………(2)
【0017】
上記のような燃料タンク1では、筐体10の変形部10Aの平坦部10A−1に、例えば指などで押して外圧を加えると、屈曲部10A−2が筐体10の内部方向に反転して凹む(図1(B))。これにより、筐体10内部の容積が縮小すると共に、パック容器11が押し潰されて、パック容器11に封入されている液体燃料12がバルブ13から押し出される。
【0018】
このとき、変形部10Aが例えば平坦部10A−1および屈曲部10A−2からなり、外圧によって筐体10の内部方向に反転するように構成され、かつこの変形部10Aの形状の変形量が一定量を超えないように設計されていることにより、平坦部10Aに加える外圧の大きさに拘らず、筐体10の容積変化量が制限される。また、変形部10Aは変形すると元の形状に戻りにくいため、一度手動で燃料供給を行った後は、連続した燃料供給ができない。
【0019】
以上により、燃料タンク1によれば、液体燃料12を収容する筐体10に変形可能な変形部10Aを設け、その変形量が一定量を超えないようにしたので、液体燃料12を手動で供給する場合であっても、過剰に液体燃料12が発電部へ供給されることを抑制することができる。
【0020】
また、上記燃料タンク1は、例えば次の図2(A),(B)に示したような燃料電池2に好適に用いることができる。
【0021】
燃料電池2は、メタノールと酸素との反応により発電を行う直接メタノール型の燃料電池であり、燃料電池本体2Aに燃料タンク1を着脱可能に装着したものである。
【0022】
燃料電池本体2Aは、外装部材60の内部に発電部40を収容すると共に、燃料タンク1を収容するためのスペースを有している。外装部材60は、例えばステンレス鋼あるいはアルミニウム等の金属材料、またはPET(ポリエチレンテレフタレート)あるいはポリプロピレン等の樹脂材料により構成されている。この外装部材60の内部には、燃料タンク1を接続するためのコネクタ53が設けられている。コネクタ53には、燃料タンク1のバルブ13に挿入されるバルブ接続用管が設置されており、燃料タンク1から送出される液体燃料12を後述の発電部40の側へ供給するための流路52(後述)に連通している。
【0023】
燃料タンク1は、上記燃料電池本体2Aに対して変形部10Aを露出させた状態(図2(A))、あるいは外部に露出しないような状態(図2(B))で装着される。特に、図2(B)の構成では、外装部材60の変形部10Aに対応する領域に貫通窓56を設け、この貫通窓56を介して、変形部10Aに外圧を加えられるようになっている。これにより、変形部10Aを誤って押してしまうなどの誤動作を防止することができ、より安全性が向上する。なお、燃料タンク1は、燃料電池本体2Aに対して交換可能としてもよく、燃料電池本体2Aに内蔵されていてもよい。
【0024】
図3は、燃料タンク1が装着される燃料電池2の断面構成を表したものである。燃料電池2では、発電部40と燃料タンク1との間に、ポンプ50および燃料気化部51が設けられ、それぞれが流路52により接続されている。発電部40と燃料気化部51とは封止層46によって封止されている。
【0025】
発電部40は、燃料電極42および酸素電極44を有する一つまたは複数の単位セルを、セルプレート41,45で挟んだ構成を有している。セルプレート41,45は、発電部40の燃料電極42および酸素電極44の位置をそれぞれ固定する固定部材であり、それぞれ、例えばステンレス鋼またはアルミニウム等により構成されている。セルプレート41には燃料を通過させるための貫通孔41a、セルプレート45には酸化剤としての空気(酸素)を通過させるための貫通孔45aがそれぞれ設けられている。
【0026】
燃料電極42および酸素電極44は、例えば、カーボンペーパーなどよりなる拡散部材に、白金(Pt)あるいはルテニウム(Ru)などの触媒を含む触媒層が形成された構成を有している。触媒層は、例えば、触媒を担持させたカーボンブラックなどの担持体をポリパーフルオロアルキルスルホン酸系プロトン伝導材料などに分散させたものにより構成されている。なお、酸素電極44には図示しない空気供給ポンプが接続されていてもよい。
【0027】
電解質膜43は、例えば、スルホン酸基(−SO3 H)を有するプロトン伝導材料により構成されている。プロトン伝導材料としては、ポリパーフルオロアルキルスルホン酸系プロトン伝導材料(例えば、デュポン社製「Nafion(登録商標)」)、ポリイミドスルホン酸などの炭化水素系プロトン伝導材料、またはフラーレン系プロトン伝導材料などが挙げられる。
【0028】
ポンプ50は、例えば圧電体50Aとこの圧電体50Aの支持体50Bとによりなり、燃料タンク1に収容された液体燃料12を吸い上げる機能を有するものである。このポンプ50は、定常運転時において主として補助電源(図示せず)からの電力供給によって動作するようになっている。
【0029】
燃料気化部51は、セルプレート41の下方に貫通孔41aに対向配置され、ポンプ50によって吸い上げられた燃料を拡散および気化させる燃料拡散板によって構成されている。液体燃料12は、この燃料気化部51において拡散、気化され、セルプレート41の貫通孔41aを通過して燃料電極42側へ供給される。
【0030】
ここで、燃料タンク1からポンプ50までの流路52には、アクティブバルブ54が設けられると共に、この流路52から分岐してリリースバルブ55が設けられている。通常時は、アクティブバルブ54が開、リリースバルブ55が閉の状態となっている。但し、リリースバルブ55は手動で開閉が可能となっており、アクティブバルブ54が閉の状態、すなわち補器類が作動しない緊急時に使用されるものである。
【0031】
この燃料電池2は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0032】
まず、発電部40を形成する。まず、上述した材料よりなる燃料電極42と酸素電極44との間に、上述した材料よりなる電解質膜43を挟み、熱圧着により接合し、図示しない金属メッシュなどの集電体およびガスケットを用いて、直列配置する。続いて、上述した材料よりなるセルプレート41,45を用意し、燃料電極42側にセルプレート41、酸素電極44側にセルプレート45を配置する。これにより、発電部40が形成される。
【0033】
次いで、上述した材料よりなる外装部材60の内部に発電部40を収容し、燃料気化部51、ポンプ50を介して発電部40とコネクタ53との間に流路52を配設する。これにより、燃料電池本体2Aが完成する。
【0034】
このようにして完成させた燃料電池本体2Aに燃料タンク1を装着する。具体的には、燃料電池本体2Aのコネクタ53のバルブ接続用管に、燃料タンク1のバルブ13を挿入することにより装着する。以上により、図2,3に示した燃料電池2を完成する。
【0035】
次に、上記のような燃料電池2の作用、効果について説明する。
【0036】
ここで、図4に、燃料電池2が適用される燃料電池システムの一例を示す。この燃料電池システムでは、起動時に発電部40、ポンプ50で必要とされる電力に応じて、制御部60の制御により補助電源61から電力が供給され、燃料タンク1に収容された液体燃料12がポンプ50によって吸い上げられる。吸い上げられた液体燃料12は、燃料気化部51(図4には図示せず)において拡散、気化され、発電部40の燃料電極42へ供給される。
【0037】
一方、酸素電極44には、セルプレート45の貫通孔45から酸素が供給される。これにより、燃料電極42、電解質膜43および酸素電極44の間で酸化還元反応が起こり、燃料の持つ化学エネルギーが電気エネルギーに変換され電力として取り出される。このようにして発電部10で発生した電力は、制御部60の制御によって、駆動機器62側へ出力され、その過不足分を補助電源61が担う。すなわち、発電余剰電力が発生した場合は、補助電源61に保持され、駆動機器62の高負荷時には、補助電源61により電力不足分が補われ駆動機器62側へ出力されるようになっている。
【0038】
ところが、上記補助電源61が消耗した場合には、起動時にポンプ50が動作せず、液体燃料12の供給が停止して電力を取り出せなくなってしまう。
【0039】
このような場合に、燃料タンク1の変形部10Aを指や棒などで押すと、上述したように、燃料タンク1に収容された液体燃料12は発電部40へ向けて供給される。よって、補助電源61の消耗などによってポンプ50が作動しない場合などの緊急時に、手動で電力を取り出すことができるようになる。また、アクティブバルブ54が閉じている場合には、リリースバルブ55を手動で開状態とすることにより、発電部40への送液が可能となる。
【0040】
(変形例1)
図5(A),(B)は、上記燃料タンク1の変形例に係る燃料タンク3の断面構造を表すものである。この燃料タンク3は、筐体の側面に空気取込口14が設けられていること以外は、上記燃料タンク1と同様の構成となっている。よって、上記燃料タンク1と同様の構成要素については同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0041】
空気取込口14は、筐体10の内部に空気を取込み、筐体10の内部圧力を調整するために設けられるものである。この空気取込口14には、空気および液体燃料12の流れを一方向に制限する逆流防止弁(図示せず)が設けられている。逆流防止弁は、空気を取り込みつつ液体燃料12の逆流を防止するためのものであり、例えば、シリコーン樹脂により構成されている。
【0042】
燃料タンク3では、図5(A)に示した状態から、変形部10Aを指などで押して外圧を加え、図5(B)に示したように変形部10Aを変形させた場合に、空気取込み口14の逆流防止弁を閉じることにより、筐体10の内圧を上昇させて、パック容器11から燃料が排出される。また、空気取込み口14の逆流防止弁を開けることにより、再び図5(A)に示したような状態に戻すことができる。よって、空気取込口14を設けることで、手動で繰り返し燃料を供給することが可能となる。また、空気取込み口14の口径を調節することで、一度変形した変形部10Aの形状を再び元の形状に戻すまでの時間を制御することができる。例えば、空気取込み口14の口径を小さくすることで、形状復元までに要する時間を長めに設定することができる。このようにすれば、連続供給により燃料が過剰に供給されることを抑制することができる。
【0043】
[第2の実施の形態]
図6(A),(B)は、本発明の第2の実施の形態に係る燃料タンク4の断面構造を表すものである。この燃料タンク4は、筐体20の上面に設けられた変形部20Aの構成以外は、上記第1の実施の形態に係る燃料タンク1と同様の構成となっている。よって、上記燃料タンク1と同様の構成要素については同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0044】
燃料タンク4は、筐体20内部に直接に液体燃料12が注入されたものであり、筐体20の上面Sに変形部20Aを有し、筐体20内部には突起(制限部材)21を有している。制限部材21の先端には逆円錐台形状の係合部21−2が設けられ、これに対応して変形部20Aの内側の面に同形状の溝部(係合部21−1)が設けられている。
【0045】
変形部20Aは、筐体20と一体的に成型されると共に、外圧によって筐体20の内部方向に向けて撓む性質を有する材料、例えばPET(ポリエチレンテレフタラート)のようなポリエステル材料や、ポリアクリルニトリル、COC(シクロオレフィンコポリマー)あるいはポリプロピレン等のメタノール耐性の高い樹脂材料により構成されている。また、メタノールバリア性を高めるために、上記材料にアルミナやシリカなどの蒸着層やアルミ箔などを複合させて用いることが望ましい。
【0046】
制限部材21は、変形部20Aの中央位置に向かい合うように設置されている。この制限部材21は、例えば筐体20と同様の材料によって構成され、形状は例えば図7(A)に示したように円柱状であってもよく、図7(B)に示したように直方体状であってもよい。なお、図7(A),(B)は、変形部20Aの側からみた筐体20内部構造を表すものである。
【0047】
このような変形部20Aの平面積や制限部材21の高さa2などは、上記第1の実施の形態の変形部10Aと同様、上記式(1),(2)を満たすように一定の変形量を超えないように設計されている。
【0048】
このような燃料タンク4では、図6(A)に示した状態から、変形部20Aを指などで押して外圧を加えると、図6(B)に示したように変形部20Aが筐体20の内部方向に制限部材21の先端位置まで撓む。このように、外圧により撓むように変形する変形部20Aを設けることで、上記第1の実施の形態の燃料タンク1と同様に、筐体20の容積を変化させて液体燃料12をバルブ13から押し出すことができる。またこのとき、筐体20内部に所定の高さa2の制限部材21を設置しておくことで、変形部20Aの撓み(変形)は、制限部材21の先端位置において抑制され、液体燃料12が過剰に供給されることがなくなる。よって、上記第1の実施の形態の燃料タンク1を同等の効果を得ることができる。
【0049】
また、変形部20Aに係合部21−1、制限部材21の先端に係合部21−2をそれぞれ設けることで、変形部20Aが外圧により撓むと、変形部20Aの係合部21−1の溝部分が拡がり、制限部材21の係合部21−2に嵌め込まれて固定される。これにより、変形部20Aの形状の復元性をなくし、一度手動で燃料供給を行った後は、連続した燃料供給ができないようにすることができる。
【0050】
なお、上記第2の実施の形態では、筐体20の上面全体が撓むように変形する構成を例に挙げて説明したが、面全体が変形しなくともよく、面の一部の領域のみが撓むように構成してもよい。
【0051】
(変形例2)
図8(A),(B)は、上記第2の実施の形態の燃料タンク4の変形例に係る燃料タンク5の断面構造を表すものである。この燃料タンク5は、上記燃料タンク4の筐体20の側面に、上述した変形例1に係る燃料タンク3の空気取込口14を設けたものである。但し、燃料タンク5における変形部20Aおよび制限部材23には、上記燃料タンク4のような係合部21−1,21−2は設けられていない構成となっている。
【0052】
燃料タンク5では、図8(A)に示した状態から、変形部20Aを指などで押して外圧を加え、図8(B)に示したように変形部20Aを変形させた場合に、空気取込み口14の逆流防止弁を閉じることで、筐体10の内圧が上昇し、燃料が排出される。また、空気取込み口14の逆流防止弁を開け、空気を取り込むことで、再び図8(A)に示したような状態に戻すことができる。よって、空気取込口14を設けることで、手動で繰り返し燃料を供給することが可能となる。このとき、上記第1の実施の形態の変形例1と同様に、空気取込み口14の口径を小さくすることで、連続供給によって燃料が過剰に供給されることを抑制することができる。
【0053】
[第3の実施の形態]
図9(A),(B)は、本発明の第3の実施の形態に係る燃料タンク6の断面構造を表すものである。この燃料タンク6は、筐体30および変形部30Aの構成以外は、上記第2の実施の形態に係る燃料タンク4と同様の構成となっている。よって、上記燃料タンク4と同様の構成要素については同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0054】
燃料タンク6は、筐体30内部に直接に液体燃料12が注入されたものであり、筐体30の上面Sに、例えば指よりも細い押しピン32などを貫通させるための貫通孔30Bが形成されている。筐体30の内側には、この貫通孔30Bに対向するように変形部30Aが設けられ、変形部30Aの端縁に沿って形成された封止層30A−1によって筐体30の内部が封止されている。
【0055】
変形部30Aは、弾性を有する材料、例えばSUSやアルミニウムなどの金属材料を用いたドーム状の薄板ばね(金属ドーム)により構成され、ドーム状の凸面が貫通孔30Bの側に向くように配置されている。この変形部30Aに向かい合うように制限部材31が設置されている。
【0056】
制限部材31は、例えば筐体30の内側の側面に設置された棒状の部材である。また、その長手方向が例えば筐体30の上面Sから距離a3だけ離れた面内方向に沿うように配置されると共に、制限部材31の側部もしくは先端部分が貫通孔30Bに正対するように配置されている。この制限部材31は、例えば筐体30と同様の材料によって構成されている。
【0057】
このような変形部30Aの平面積や、制限部材31の上面Sからの距離a3などは、上記第1の実施の形態の変形部10Aと同様、上記式(1),(2)を満たすように一定の変形量を超えないように設計されている。
【0058】
上記燃料タンク6では、図9(A)に示したように、押しピン32を用いて貫通孔30Bを介して変形部30Aを押し、変形部30Aに外圧を加えると、図9(B)に示したように、変形部30Aが筐体30の内部に向けて凹むように歪む。これにより、筐体30の容積が縮小される。よって、上記第1の実施の形態の燃料タンク1と同様に、液体燃料12をバルブ13から送出させることができる。
【0059】
またこのとき、変形部30Aの下部に、筐体30の上面Sから距離a3の位置に制限部材31を設置しておくことで、変形部30Aの筐体30の内部方向への変形は、制限部材31によって抑制され、液体燃料12が過剰に供給されることがなくなる。よって、上記第1の実施の形態の燃料タンク1を同等の効果を得ることができる。
【0060】
さらに、押しピン32などを用いて筐体30の貫通孔30Bを介して変形部30Aを押す構造となっていることで、変形部30Aの誤動作を抑制することができる。
【0061】
(変形例3)
図10(A),(B)は、本発明の第3の実施の形態に係る燃料タンクの変形例に係る燃料タンク7の断面構造を表すものである。この燃料タンク7は、変形部33Aの構成以外は、上記第3の実施の形態に係る燃料タンク6と同様の構成となっている。よって、上記燃料タンク6と同様の構成要素については同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0062】
燃料タンク7は、貫通孔30Bを内側から覆うように変形部33Aを有している。この変形部33Aの端縁部30A−1は筐体30に固着され、筐体30内部が封止されるようになっている。
【0063】
変形部33Aは、弾性を有する材料、例えばフッ素ゴム、シリコンゴムおよびエチレンプロピレンゴムなどの合成ゴム材料により構成されている。この変形部30Aに向かい合うように制限部材31が設置されている。また、変形部33Aの平面積や、制限部材31の上面Sからの距離a3などは、上記第1の実施の形態の変形部10Aと同様、上記式(1),(2)を満たすように一定の変形量を超えないように設計されている。
【0064】
上記燃料タンク7では、図10(A)に示したように、押しピン32を用いて貫通孔30Bを介して変形部33Aを押し、変形部33Aに外圧を加えると、図10(B)に示したように、変形部33Aが筐体30の内部に向けて伸びるように変形する。これにより、筐体30の容積が縮小される。またこのとき、上述したように容積変形量が制限部材31によって一定量以下に制限される。よって、本変形例のような構成によっても、上記第1の実施の形態の燃料タンク6と同様の効果を得ることができる。
【0065】
(適用例)
図11は、上記第1の実施の形態で説明した燃料電池2を搭載した電子機器100の外観を表したものである。この電子機器100は、例えばノート型パーソナルコンピュータである機器本体110と、燃料電池2とを備えたポータブル電子機器であり、燃料電池2で発電される電気エネルギーにより機器本体110が駆動されるようになっている。
【0066】
機器本体110は、例えば、文字等の入力操作のためのキーボード等を含む入力部111と、画像を表示するための開閉可能な表示部112とを有している。なお、図9では、表示部112を開いた状態を表している。燃料電池2は、例えば機器本体110の後面に取り付けられている。
【0067】
なお、燃料電池2が搭載される電子機器は、上記ノート型パーソナルコンピュータに限らず、他の電子機器、例えば携帯電話、電子写真機、電子手帳、カムコーダ、携帯型ゲーム機、携帯型ビデオプレーヤー、ヘッドフォンステレオまたはPDA(Personal Digital Assistants )等の携帯型の電子機器であってもよい。
【0068】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形することができる。例えば、上記実施の形態では、変形部を筐体の上面に設けた例を挙げて説明したが、変形部の配置は筐体の上面に限らず、筐体の下面や側面などいずれの面に設けるようにしてもよい。
【0069】
また、上記実施の形態では、直方体形状の筐体の複数の面のうち、一つの面においてのみ、変形が可能である場合を例に挙げて説明したが、2つ以上の面を変形可能となるように構成してもよい。但し、この場合には、変形可能な面の変形量それぞれを制御し、全体として危険送液量以上の容積変化が生じないように制御するようにする。
【0070】
また、筐体の変形部が設けられている面を保護用のシールなどで被覆し、通常時には変形部を押すことができないような構成としてもよい。これにより、緊急時のみシールを剥がして変形部を押すようにすれば、変形部の誤動作を防止することができ、より安全性が向上する。
【0071】
また、上記第2および第3の実施の形態では、筐体の変形量を制限するための制限部材として、突起を例に挙げて説明したが、制限部材はこの突起に限定されず他の部材を用いてもよい。また、1つの突起が変形部の中央付近に向かい合うように配置された構成を例に挙げて説明したが、突起の数は2つ以上であってもよく、また突起の一部が変形部の変形を制御できるような構成であれば、筐体内部のいずれの位置に配置されていてもよい。
【0072】
また、例えば、上記実施の形態において説明した各構成要素の材料および厚み、または燃料電池の発電条件などは限定されるものではなく、他の材料および厚みとしてもよく、または他の発電条件としてもよい。例えば、液体燃料21は、メタノールのほか、エタノールやジメチルエーテルなどの他の液体燃料でもよい。
【0073】
更に、本発明の液体タンクは、燃料電池に限らず、灯油,軽油あるいはガソリンなど燃焼用燃料を使用する機器(照明用トーチ,ヒータあるいはエンジンなど)の燃料タンク、インクジェットプリンタにおけるインクカートリッジ、スプレーガン、または香水瓶などにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る燃料タンクの概略構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した燃料タンクを用いた燃料電池の概略構成を表す模式図である。
【図3】図2に示した燃料電池の概略構成を表す断面図である。
【図4】図2に示した燃料電池を用いた燃料電池システムの全体構成を表す図である。
【図5】第1の実施形態の変形例に係る燃料タンクの概略構成を表す断面図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る燃料タンクの概略構成を表す断面図である。
【図7】図5に示した燃料タンクの内部構造を表す図である。
【図8】第2の実施形態の変形例に係る燃料タンクの概略構成を表す断面図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態に係る燃料タンクの概略構成を表す断面図である。
【図10】第3の実施形態の変形例に係る燃料タンクの概略構成を表す断面図である。
【図11】図2に示した燃料電池の一適用例に係る電子機器の外観を表す図である。
【符号の説明】
【0075】
1,3,4,5,6,7…燃料タンク、2…燃料電池、10,20,30…筐体、10A,20A,30A,33A…変形部、11…パック容器、12…液体燃料、13…バルブ、14…空気取込み孔、30B…貫通孔、21,23,31…制限部材、32…押しピン、40…発電部、50…ポンプ、52…流路、53…コネクタ、54…アクティブバルブ、55…リリースバルブ、60…制御部、61…補助電源、62…駆動機器、100…電子機器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に液体を収容すると共に、前記液体燃料を外部へ送出するための送出口を有する筐体と、
前記筐体の少なくとも一部に設けられ、外部圧力により変形可能な変形部と、
前記変形部の変形量が一定量を超えないように制限する制限手段とを備えた
ことを特徴とする液体タンク。
【請求項2】
前記液体は、前記筐体内部で袋状容器に封入されている
ことを特徴とする請求項1に記載の液体タンク。
【請求項3】
前記変形部は、前記筐体の一面から外部方向に突出した凸面部であり、前記凸面部が外部圧力により前記筐体の内部方向に反転するように変形する
ことを特徴とする請求項2に記載の液体タンク。
【請求項4】
前記筐体には、前記筐体の内壁と前記袋状容器との間に空気を取り込むための取込口が設けられている
ことを特徴とする請求項2記載の液体タンク。
【請求項5】
前記液体は、前記筐体内部に直接注入されている
ことを特徴とする請求項1に記載の液体タンク。
【請求項6】
前記変形部は、外部圧力により前記筐体の内部方向に撓むように変形し、
前記筐体内部には、前記変形部の撓み量が一定量を超えないように制限するための制限部材が設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の液体タンク。
【請求項7】
前記変形部と前記制限部材とが係合するようになっている
ことを特徴とする請求項6に記載の液体タンク。
【請求項8】
前記筐体には、内部に空気を取り込むための取込口が設けられている
ことを特徴とする請求項6に記載の液体タンク。
【請求項9】
前記筐体は貫通孔を有し、
前記変形部は、前記貫通孔を前記筐体の内側から封止するように設けられた弾性部材を有してなり、
前記筐体の内部には、前記変形部の変形量が一定量を超えないように制限するための制限部材が設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の液体タンク。
【請求項10】
発電部と燃料タンクとを備えた燃料電池であって、
前記燃料タンクは、
内部に液体燃料を収容すると共に、前記液体燃料を発電部へ送出するための送出口を有する筐体と、
前記筐体の少なくとも一部に設けられ、外部圧力により変形可能な変形部と、
前記変形部の変形量が一定量を超えないように制限する制限手段とを備えた
ことを特徴とする燃料電池。

【請求項11】
発電部と燃料タンクとを備えた燃料電池を搭載した電子機器であって、
前記燃料タンクは、
内部に液体燃料を収容すると共に、前記液体燃料を発電部へ送出するための送出口を有する筐体を備え、
前記筐体の少なくとも一部に設けられ、外部圧力により変形可能な変形部と、
前記変形部の変形量が一定量を超えないように制限する制限手段とを備えた
ことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−248993(P2009−248993A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98027(P2008−98027)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】