説明

液体供給構造および該構造を用いる液体吐出ヘッド

【課題】液体の吐出口に連通する液路を形成する複数の個別液室と、該複数の個別液室に共通に連通して液体を供給する共通液室とを有する液体吐出ヘッドにおいて、個別液室の内壁への気泡の付着を効果的に防止し得る液体供給構造を提供する。
【解決手段】複数の個別液室と共通液室との間にフィルタを設ける一方、そのフィルタに設けられる開口の最大寸法をRとしたとき、共通液室からフィルタを介して液体が供給される個別液室の内壁には、前記吐出に伴って流動する前記の流動方向に沿って、R以上で√2・R以下の空間周波数fをもって、最高部と最低部との高さの差Ryが√2・R/2以上である条件で凹凸が繰り返す凹凸部を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体供給構造および該構造を用いる液体吐出ヘッドに関し、例えばインクを吐出するインクジェット記録ヘッドや、これにインクを供給するインク供給部に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッド、例えばインクジェット記録装置に用いられる記録ヘッドに対して、気泡が混入した状態で液体(以下、インクともいう)が供給され、その気泡が滞留すると、記録ヘッドからのインクの吐出が不安定になったり、吐出量が変動したりする。気泡が混入ないしは滞留する原因としては、記録ヘッドおよびインク供給系の構造その他に応じて種々のものがある。
【0003】
近年、インクジェット記録装置は、記録の一層の高速化が要望されており、そのため記録ヘッドとしては多数の吐出口が配列されたものが用いられるようになってきている。すなわち、このように吐出口の数を配列方向に増大させることで、より広い記録幅を確保するのである。このように多数の吐出口が配列された記録ヘッドの構造としては、一般に、一端に吐出口を有し、この吐出口からインクを吐出させるための圧力を作用する圧力室を兼ねる複数の個別液室が形成されている。そして、複数の個別液室は、吐出口が設けられた一端とは反対側の他端部において、インクを各個別液室に供給するための共通液室が設けられている。さらに、インク供給方向の共通液室の上流側にはフィルタが設置され、インク供給に伴って共通液室から個別液室に異物が混入しないようにされている。
【0004】
このような構造では、共通液室を通して個別液室側に気泡が混入するのは、インクを記録ヘッドに充填する際、元々含まれていた空気などの気体がタンクからチューブ等の供給部材を通り、さらにフィルタを通過して共通液室側に流入することに起因することが多い。このように混入した気泡が共通液室から個別液室に気泡が流入し、その内壁に付着したり泡沫化したりすることで滞留すると、吐出圧力が正確に伝わらなくなり、吐出量の変動や吐出が不安定になる。
【0005】
そこで、共通液室から個別液室への気泡の流入を防止するために、特許文献1に記載されたような技術を適用することが考えられる。この特許文献1には、主インク室と副インク室を有し、副インク室内が仕切り板によって気泡溜め部分とインク貯留部分とに仕切られているインクタンクが開示されている。さらに、仕切り板には、気泡溜め部分からインク貯留部分にインクを導入するためのインク導入孔が設けられるとともに、気泡溜め部分に面している副インク室内表面には凹凸面が形成されている。そして、かかる構造のインクタンクでは、主インク室から気泡溜め部分に進入した気泡が凹凸面で捕捉され、捕捉された気泡が相互に結びついて大きくなることにより、インク液面と分離されて排出され易くなると記載されている。
【0006】
しかし、特許文献1の開示の技術では、気泡が相互に結びついて大きくなる物理化学的メカニズムは明らかにされておらず、気泡の十分な排出機能を実現する上で疑問が残る。つまり、特許文献1の開示の技術を共通液室側の構造に採用しても、個別液室への気泡の流入を効果的に防止できる保証はない。特に、流入した気泡が共通液室側の個別液室の内壁表面に付着すると、その近傍でのインクの流動が阻害され、個別液室へのインク供給不良が生じ、吐出量の変動や吐出が不安定になることが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−326731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
よって本発明は、個別液室に気泡が流入したとしても、個別液室内での滞留を効果的に防止し得る液体供給構造を提供することで、個別液室へのインク供給性を良好にし、ひいては吐出量および吐出動作を安定化できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのために、本発明は、液体の吐出口に連通する液路を形成する複数の個別液室と、該複数の個別液室に共通に連通して前記液体を供給する共通液室と、前記個別液室と前記共通液室との連通部に設けられたフィルタと具えた液体吐出ヘッドの前記個別液室に適用される液体供給構造であって、
前記フィルタに設けられる開口の最大寸法をRとしたとき、前記共通液室から前記フィルタを介して前記液体が供給される前記個別液室の内壁には、前記吐出に伴って液体が流動する方向に沿って、R以上で√2・R以下の空間周波数fをもって、最高部と最低部との高さの差Ryが√2・R/2以上である条件で凹凸が繰り返す凹凸部が設けられていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上記液体供給構造を具えた液体吐出ヘッドに存する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、個別液室に気泡が流入したとしても、個別液室内での滞留を効果的に防止し得る液体供給構造を提供でき、個別液室へのインク供給性を良好にし、ひいては吐出量および吐出動作を安定化できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を適用可能なインクジェット記録装置のインクの供給および循環系の概略構成例を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態を説明するための、共通液室と個別液室との連通部付近を示す模式的断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態を説明するための、共通液室と個別液室との連通部付近を示す模式的断面図である。
【図4】本発明のさらに他の実施形態を説明するための、共通液室と個別液室との連通部付近を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
なお、以下では液体であるインクを吐出するインクジェット記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドとも言う)の形態の液体吐出装置について例示する。しかし本発明の「液体」とは、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、あるいはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。また、その液体の「付与」とは、文字,図形等有意の情報を形成することを目的とする場合のみを含むものではない。すなわち、有意無意を問わず、また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。さらにその付与の対象となる「媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布,プラスチック・フィルム,金属板,ガラス,セラミックス,木材,皮革等、液体を受容可能なものも表すものとする。すなわち本発明は、ガラスやプラスチックなどの基板上にカラーフィルタや電極配線などを形成するために使用される液体吐出ヘッドや液体吐出装置にも適用が可能なものである。
【0014】
1.液体吐出装置の構成例
次に、本発明を適用可能な液体吐出装置の一実施形態について説明する。ここで説明する液体吐出装置は、記録媒体に対しインクを吐出することで記録を行うインクジェット記録装置である。
【0015】
図1は、インクジェット記録装置のインクの供給および循環系の概略構成例を示す模式図である。図4において、31は、記録媒体搬送機構(不図示)により搬送される記録媒体(不図示)に対して、吐出口からインクを吐出することで記録を行う記録ヘッドである。32は記録ヘッド31に対して供給するインクの供給源をなすメインタンクであり、これらは両者を繋ぐ流路の途中に介在する負圧ユニット33を介して接続されている。そして、必要に応じてメインタンク32内のインクが負圧ユニット33を介して記録ヘッド31に供給され、また、記録ヘッド31内のインクが負圧ユニット33に回収される。負圧ユニット33は、基本的には記録ヘッド31のノズルに形成されるメニスカスの保持力と平衡して、インク吐出部からのインク漏れを防止するに十分で、かつ記録ヘッドのインク吐出動作が可能な範囲にある適切な負圧を発生させる機能を持つ。メインタンク32に収容されているインクは、負圧ユニット33に移送され、一時的に貯留されてから記録ヘッド31に供給される。メインタンク32から負圧ユニット33へのインク供給と、負圧ユニット33から記録ヘッド31へのインク供給とは、柔軟性を有する供給チューブ35を通して行われる。
【0016】
インクジェット記録装置には、記録ヘッド31の吐出量と記録媒体上のインク着弾精度などに影響を与える吐出性能を良好な状態に回復または維持させるために回復機構が備えられている。回復機構は、記録ヘッド31の吐出口形成面にキャップ36を被せた状態でポンプ37によって負圧を作用させ、吐出口からインクを吸引することで、液路ないしは吐出口の目詰まり等を解消する。
【0017】
キャップ36からポンプ37までのインク流路の途中には切り換え弁38が配置され、ここから負圧ユニット33に向う循環チューブ39が分岐している。そして、切り換え弁38を切り替えることにより、上記吸引したインクを、循環チューブ39を介して負圧ユニット33に移送することができる。このような循環系を用いることでインクの再利用が可能となり、インクの使用効率を上げることができる。また、記録ヘッド31と負圧ユニット33とは流体移送チューブ43を介して接続されており、そのチューブの途中にはポンプ41が配設されている。そして、このポンプ41を駆動することにより、記録ヘッド31内のインクを、流体移送チューブ43を通して負圧ユニット33に戻すことができる。
【0018】
記録ヘッド31には、供給チューブ35の接続部および移送チューブ43の接続部に、それぞれ、多数の開口を有したフィルタ44および42が配置されている。ここで、フィルタ42は、記録ヘッド31から負圧ユニット33へのインクの移送時に負圧ユニット33へ塵埃が侵入することを防止するために配置されているものであり、その開口径は移送チューブ43の内径よりも小さくされている。一方、フィルタ44は、負圧ユニット33から記録ヘッド31へのインク供給によって記録ヘッド31に塵埃が侵入することを防止するために配置されているものであり、その開口径は個別液室の液路ないしは吐出口の内径よりも小さくされている。
【0019】
記録ヘッド31は、記録媒体に対向する面に複数の吐出口を形成するプレート132と、各吐出口に連通する液路を形成する個別液室が設けられた個別液室部31aと、個別液室に共通に連通してインクを供給する共通液室31bとを有する。個別液室は、吐出口からインクを吐出させる圧力を発生する素子(不図示)が設けられる圧力発生室を兼ねている。
【0020】
2.インク供給構造の実施形態
次に、本発明液体供給構造を適用した記録ヘッド31の個別液室の実施形態を説明する。
【0021】
図2は、共通液室31bと、個別液室部31aを構成する1つの個別液室110との連通部付近の模式的断面図である。図2に示すように、共通液室31bと個別液室110との連通部には、塵埃などの異物除去のためにフィルタ13が設けられている。このため、液体の流動方向に対してフィルタ13の上方すなわち共通液室側に空気溜まりがあると、矢印Aで示す方向へのインクの流入に伴い、フィルタ13を通して気泡14が発生し、個別液室110内に進入し、インクとともに流動する。
【0022】
本実施形態においては、個別液室110の内壁表面は、吐出口に向うインクの流動方向Bに沿って(吐出動作に伴う液体の流動方向と平行に)、凸部すなわち山部11と凹部すなわち谷部12とが所定の空間周波数で繰り返す断面三角形状の凹凸部16を有している。凹凸部16は、金型を用いて個別液室の内壁表面に直接加工されたものでもよいし、金型を用いて別体の構造体として成形した上で個別液室の内壁に接合されたものでもよい。
【0023】
ここで、図示のような部位に配されるフィルタ13には種々のものが考えられるが、いずれにしても流動を阻害しない形状および寸法の開口が形成されていることが前提となる。フィルタ13を通過することで形成される気泡の直径は、フィルタ13に形成された開口の最大寸法によって規定され、その最大寸法は開口が円形であればその直径(開口径)、楕円形であれば長径、三角形であれば最長辺、矩形であれば対角線の長さ等となる。本発明は、このように気泡の大きさを規定するフィルタ開口の最大寸法を基準として、気泡が付着しにくい凹凸部の空間周波数および凸部の高さ(すなわち凹部の深さ)を規定する。なお、以下ではフィルタとして、最大寸法がほぼ一定である円形の開口が多数形成されたフィルタを用いるものとし、従ってその直径(開口径)Rを基準として凹凸部の空間周波数等の規定を行う。しかし開口形状が非円形であれば、その開口の最大寸法を開口径Rに置き換えればよい。また、開口の寸法に分布があるのであれば、その分布の中心付近もしくは平均的な寸法のものを基準とすることができる。
【0024】
個別液室110の内壁表面の構造について詳述するに、フィルタ13の開口径をR(μm)としたとき、1周期f(μm)がR以上かつ√2・R以下の空間周波数で山部11と谷部12とが周期的に繰り返している。換言すれば、隣接する山部(または谷部)の中心間のピッチは、R以上かつ√2・R以下である。さらに、山部11の最大高さ(谷部12の最大深さ)すなわち最高部と最低部との高さの差Ryは、√2・R/2以上である。
【0025】
上記した周期ないしは空間周波数および最大高さないし最大深さの条件を満たす限り、内壁表面に形成される凸部および凹部形状および寸法は適宜定め得るものである。例えば、図3に示すように、液体の流動方向に沿って(すなわち流動方向と平行に)、凸部21と凹部22とが所定の空間周波数で繰り返す断面矩形状の凹凸形状であってもよい。図3に示すような内表面形状を得るための金型は、平面研削盤を用いて所望の溝形状が加工できるようにブレードの幅を選定し、所望の空間周波数と最大高さになるように平面研削盤のNC制御を行って加工することができる。しかし、エンドミルを取り付けたマシニングセンタで加工してもよい。
【0026】
さらに、凸部および凹部は断面台形状のものであってもよいし、また液体の流動方向に沿って同じ形状または寸法のものが繰り返し形成されたものだけでなく、異なる形状または寸法の凹凸を2種以上有する凹凸部が設けられたものであってもよい。例えば図4に示すように、最高部と最低部との高さの差(Ry1,Ry2)および空間周波数(f1,f2)が異なる非相似の2種の三角形状の凸部および凹部が設けられたものであってもよい。加えて、凸部および凹部は、液体の流動方向と直交する方向(すなわち図面に垂直な方向)に連続的に畝状に延在するものだけでなく、円柱形状,円錐形状,円錐台形状,角柱形状,角錐形状または角錐台形状の突起によって形成されるものでもよい。
【0027】
加えて、図2〜図4には、凹凸部16を供給液室との連通部付近の個別液室110の内壁表面、すなわちインクの流入方向Aにおいてフィルタ13に対向する部位に設けた構成を例示している。しかし気泡が内壁に付着したり泡沫化したりする不都合を効果的に防止できるのであれば、凹凸部16を設ける個別液室110の内壁の部分や範囲は適宜定め得るものである。また、図2〜図4には、共通液室からの液体の流入方向Aと、吐出動作に伴う個別液室内の液体の流動方向Bとがほぼ直角をなすものとして描かれている。しかしこれらの方向の関係は図示のものに限られず、またそれに適合するように凹凸部を必要部位に形成できることは勿論である。
【0028】
そして上記の条件で凹凸部が形成されていれば、後述する検証結果から明らかなように、個別液室110の内での滞留が発生せず、ひいては、液体吐出ヘッドからのインクの吐出量および吐出動作の安定化に資することができるようになる。この意味において、本発明は、特許文献1に開示された構成とは全く異なるものである。
【0029】
以上のような内壁表面の構造を有する個別液室110は、金型を用いて成形することができる。この金型は、個別液室110の内壁表面の形状に応じたエンドミルが取り付けられたマシニングセンタによって加工される。金型加工の際には、上記した空間周波数および最大高さが得られるように、マシニングセンタをNC制御して加工を行うことができる。
【0030】
また、凸部および凹部は断面三角形状の畝状のものに限られないことは上述のとおりであるが、いずれの場合も、金型表面が所望の形状になっているか否かは、光学的手法を用いた三次元形状測定機または触針式の測定機を用いて評価することが可能である。そして、測定した粗さ曲線のデータから周期的な構造の空間周波数解析を行うことができる。周波数解析としては、高速フーリエ変換(FFT)を用いたパワースペクトル解析法や相関関数解析法を用いることができる。最大高さRy(μm)は、JIS B 0601−1994の定義に基づいて求められる。
【0031】
上記のように製作および評価した金型により、成形性や加工性が良好であるエンジニアリングプラスチック材料を用いて凹凸部16を成形することができる。凹凸部16が直接成形された、または接合された個別液室110の内壁表面は、液体や気泡14の流動方向と平行な方向に上記空間周波数fおよび最大高さRyを有する凹凸部を有したものとなる。つまり、例えば図2の場合、フィルタ13の開口径R以上√2・R以下の空間周波数fで、最大高さ(最大深さ)Ryが√2・R44/2以上の山部11と谷部12とが繰り返し形成されたものとなる。
【0032】
凹凸部16を形成するエンジニアリングプラスチック材料には、表面に疎水基を持たないポリアセタール(POM)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、尿素樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、ナイロン(NY)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などが良好に使用できる。また、ポリエチレン(PE)などの汎用プラスチックを用いることもできる。表面に疎水基を持たないエンジニアリングプラスチックは、その表面に気泡や泡沫が接したとき、インク等の液体に含有され、気泡や泡沫の表面で配向している界面活性剤と疎水性相互作用を持たないため、化学的にも気泡や泡沫が付着しにくいものである。表面に疎水基を持たないエンジニアリングプラスチックは、その表面に気泡や泡沫が接したとき、インク等の液体に含有し気泡や泡沫の表面で配向している界面活性剤と疎水性相互作用を持たないため化学的にも気泡や泡沫が付着しにくい。
【0033】
個別液室110に流入するインク中に存在している気泡は、上述した凹凸部16およびその形成材料による物理化学的作用によって、個別液室110の内壁に付着することなく、インクとともに流動する。上述のように、フィルタ13を通過することで形成される気泡の直径は、フィルタ13に形成された開口の最大寸法によって規定される。従って、気泡は個別液室110を閉塞したり、インク供給性を阻害するような滞留が生じたりすることなく、インクの吐出動作や回復動作に伴ってインクとともに円滑に排出されることになる。
【0034】
3.実施例
本発明の効果を検証するために、次のような個別液室を有した記録ヘッドを作製し、実験を行った。この際、凹凸部16は別体の構造体として成形したものを接着剤を用いて個別液室110の内面に接合したものとした。そして、個別液室部31aに接合される共通液室31bを透明な材料で形成して個別液室110の内部が観察できるようにし、凹凸部16への気泡の付着防止効果の検証や気泡の排出性の評価、個別液室部31への気泡の流入の評価が行えるようにした。記録ヘッド31は300個の吐出口ないし個別液室110が配列されたものとし、さらに、すべての個別液室へのインク充填後に液滴の吐出を行い、吐出口からの液滴の吐出状態を観察した。
【0035】
図2に示した個別液室110に本発明を適用した場合の効果を検証するために、凹凸部の空間周波数の1周期f(μm)と最大高さRy(μm)との組み合わせが異なる48種類の試作品を製作した。そして、それぞれについて内壁表面への気泡の付着状態と個別液室への気泡の流入状態を観察した。いずれの試作品においても、図2に示すフィルタ13として、開口径15μmのほぼ均一な開口を有するフィルタとした。
【0036】
具体的には、凹凸部16の空間周波数の1周期fと最大高さRyの組み合わせ条件は表1に示すとおりである。すなわち、空間周波数の1周期fについては、5〜30μmの範囲内で5μmずつ異ならせ、また、最大高さRyについては、5〜40μmの範囲内で5μmずつ異ならせたものとした。さらに、いずれの試作品における凹凸部16も金型を用いて成形したが、使用した金型の表面(凹凸部16を形成する面)は、エンドミルを取り付けたマシニングセンタを用いて加工した。また、材料にはポリアセタール(POM)を用いた。
【0037】
各試作品において、フィルタ13を通過して発生する気泡の内壁への付着状態を観察した。その観察結果を表1に示す。評価基準は、内壁表面への気泡の付着がほとんど観察されないものを◎、観察領域の中で15%未満の気泡の付着状態のものを○、15%以上30%未満の気泡の付着状態のものを△、30%以上の気泡の付着の場合を×とした。
【0038】
【表1】

【0039】
上記表1より、空間周波数の1周期fが15〜20μm、最大高さRyが15μm以上の試作品では気泡の付着がほとんど観察されず、気泡の付着防止性能が良好であることがわかった。また、全300個の個別液室110にインクを充填し、吐出動作を行わせたところ、すべての吐出口から液滴の正常な吐出が観察された。
【0040】
また、空間周波数の1周期fが5〜15μm、最大高さRyが5μm以上の試作品では、気泡の付着が多数観察され、時間の経過に伴い気泡同士が結合し泡沫化していくのが観察された。さらに、空間周波数の1周期fが25μm以上、最大高さRyが5μm以上の試作品でも、気泡の付着が多数観察され、時間の経過に伴い気泡同士が結合し泡沫化していくのが観察された。これらのように気泡の付着が確認された試作品に吐出動作を行わせたところ、300この吐出口の内、70〜80個の吐出口で吐出量の減少や不吐出が観察された。
【0041】
4.その他
なお、出口からインクを吐出させる圧力を発生する素子としては、例えば通電に応じて発熱し、インクを沸騰させることで気泡を生成し、その気泡の成長に伴う圧力により吐出口からインクを吐出させる発熱素子とすることができる。また、電圧の印加に応じて変位または変形することでノズル内容積を変化させ、その変化に伴う圧力変化によって吐出口からインクを吐出させるピエゾ素子とすることもできる。これらは、吐出すべきデータないしは記録データに応じてインク吐出の可否を定める所謂オンデマンド方式のインクジェット記録装置に適合したものである。しかし本発明は、コンティニュアス型の液体吐出方式のインクジェット記録装置にも適用可能である。この方式は、インクを常に加圧して吐出口から押し出し、さらに適宜加振を行うことで、ノズルから液体が規則正しく液滴として吐出される状態を作り、記録に使用する液滴と使用しない液滴を選別する機能を有するものである。
【0042】
さらに上例では、インク排出口116を介して記録ヘッド31内のインクが負圧ユニット33に回収される構成を有するインクジェット記録装置に適用される記録ヘッド(液体吐出ヘッド)に本発明を適用した場合について説明した。しかし本発明は、かかる回収経路を持たないインクジェット記録装置に適用される記録ヘッドにも適用可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0043】
10 液体供給部
11、21 山部(凸部)
12、22 谷部(凹部)
13 フィルタ
14 気泡
31 記録ヘッド
31a 個別液室部
31b 共通液室
110 個別液室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の吐出口に連通する液路を形成する複数の個別液室と、該複数の個別液室に共通に連通して前記液体を供給する共通液室と、前記個別液室と前記共通液室との連通部に設けられたフィルタと具えた液体吐出ヘッドの前記個別液室に適用される液体供給構造であって、
前記フィルタに設けられる開口の最大寸法をRとしたとき、前記共通液室から前記フィルタを介して前記液体が供給される前記個別液室の内壁には、前記吐出に伴って液体が流動する方向に沿って、R以上で√2・R以下の空間周波数fをもって、最高部と最低部との高さの差Ryが√2・R/2以上である条件で凹凸が繰り返す凹凸部が設けられていることを特徴とする液体供給構造。
【請求項2】
前記凹凸部は、前記条件を満たす前記凹凸を2種以上有することを特徴とする請求項1に記載の液体供給構造。
【請求項3】
前記凹凸部は、表面に疎水基を持たない材料によって形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の液体供給構造。
【請求項4】
前記疎水基を持たない材料が、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、ナイロン、ポリブチレンテレフタレートおよび尿素樹脂のいずれかであることを特徴とする請求項3に記載の液体供給構造。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の液体供給構造を具えたことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記個別液室は、前記液体の吐出を行うために利用される圧力を発生する素子が設けられる圧力発生室を兼ねていることを特徴とする請求項5に記載の液体吐出ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−230367(P2011−230367A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102586(P2010−102586)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】