説明

液体供給系の異常判定装置及び方法ならびにインクジェット記録装置

【課題】液体供給系に異常が発生した場合に早急な修復を可能とし、安定した液体供給を実現する。
【解決手段】液体供給系の異常判定装置であって、液体タンク内の液体を供給流路へ供給する供給ポンプ104と、供給流路中の液体を所定の温度に温調する温調手段106と、温調手段による温調後の液体の温度を計測可能な複数の温度センサ100A、110Bであって、液体供給系のそれぞれ異なる位置に備えられた複数の温度センサと、供給ポンプによる液体の供給開始前であって温調手段による温調開始前に、複数の温度センサから各位置における送液前温度を取得する送液前温度取得手段と、供給ポンプによる液体の供給開始後であって、温調手段による温調開始後に、複数の温度センサから各位置における送液後温度を取得する送液後温度取得手段と、取得した送液前温度及び送液後温度に基づいて、液体供給系の異常判断及び異常箇所の特定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体供給系の異常判定装置及び方法ならびにインクジェット記録装置に係り、特に、液体タンクから液体吐出ヘッドに液体流路を通じて液体を供給する液体供給系において異常判断及び異常箇所の特定を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にインクジェット記録装置には、記録ヘッド(インクジェットヘッド)にインクを供給するためのインク供給装置が設けられている。インク供給装置は、主として、インクが収容されるインクタンクと、記録ヘッドとインクタンクとの間を接続するインク供給路と、インク供給路に配設されたポンプとを備え、当該ポンプの駆動に応じて、インクタンクから記録ヘッドにインク供給路を通じてインク供給が行われるようになっている。
【0003】
ところで、インク供給装置に異常が発生すると正常な印刷ができなくなるというばかりでなく、装置外部にインクが漏れ出してしまうというトラブルが発生する可能性がある。
【0004】
特に大サイズの印刷物を高速で印刷を行うことが可能な生産性の高いインクジェット記録装置では、記録ヘッドで消費されるのに十分なインクを高流量で供給しなければならず、インク供給装置にトラブルが発生すると、より大量のインクが装置外部に漏れ出してしまう恐れがある。また、異常発生後に早急に修復できるようにするために、異常箇所を速やかに特定できるようにすることが必要とされる。
【0005】
このため、インクジェット記録装置では、安定な印刷を保証しつつ、インク供給装置の各デバイスの異常を早期に検知して、インク漏れ等のトラブルを未然に防ぎ、さらに異常発生時には早急に修復できるよう異常箇所を速やかに特定できるようにすることが重要な技術的課題の1つとされている。そして、これまでに様々なインク供給に関する技術が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0006】
特許文献1には、検知された異常の種類に応じて、記録ヘッドへのインク供給を停止するとともに溶剤を供給して停止する第1の停止制御手段と、記録ヘッドへのインク供給を止めて直ちに停止する第2の停止制御手段とを選択的に機能させることにより、インクが溢れ出すような異常状態が発生してもインクの溢れ出しによる汚損を最小限に防止するようにした技術が記載されている。
【0007】
特許文献2には、記録ヘッドの温度変化を温度変化検出手段によって検出し、その温度変化が一定値以上にある場合に、前記記録ヘッドの駆動停止、あるいは告知動作の停止等を行い、制御系の故障などによる記録ヘッドの破損を未然に防止することができるとともに、ユーザに確実に故障の発生を認識させることができる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3203930号公報
【特許文献2】特開2000−238287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載される技術では、異常検知方法の具体的な記載がなく、異常箇所を特定することはできない。
【0010】
また、特許文献2に記載される技術では、検知できる異常はヘッドの異常のみであり、ヘッドに至るまでのインク供給経路における異常は検知することができない。
【0011】
このように従来の技術では、インク供給装置に生じている異常箇所を具体的に特定することはできず、異常発生後、インク供給装置の修復を早急に行うことは困難であるという問題がある。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、液体供給系に異常が発生した場合に早急な修復を可能とし、安定した液体供給を実現することのできる液体供給系の異常判定装置及び方法ならびにインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために請求項1に記載の液体供給系の異常判定装置は、液体タンクから液体吐出ヘッドに供給流路を通じて液体を供給する液体供給系の異常判定装置であって、前記液体タンク内の液体を前記供給流路へ供給する供給ポンプと、前記供給流路中の液体を所定の温度に温調する温調手段と、前記温調手段による温調後の液体の温度を計測可能な複数の温度センサであって、前記液体供給系のそれぞれ異なる位置に備えられた複数の温度センサと、前記供給ポンプによる液体の供給開始前であって前記温調手段による温調開始前に、前記複数の温度センサから各位置における送液前温度を取得する送液前温度取得手段と、前記供給ポンプによる液体の供給開始後であって、前記温調手段による温調開始後に、前記複数の温度センサから各位置における送液後温度を取得する送液後温度取得手段と、前記取得した送液前温度及び送液後温度に基づいて、前記液体供給系の異常判断及び異常箇所の特定を行う異常判定手段とを備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、液体供給系のそれぞれ異なる位置に備えられた複数の温度センサによって、供給ポンプによる液体の供給前であって温調手段による温調前に各位置における送液前温度を取得し、供給ポンプによる液体の供給開始後であって温調手段による温調後に各位置における送液後温度を取得し、取得した送液前温度及び送液後温度に基づいて、前記液体供給系の異常判断及び異常箇所の特定を行うようにしたので、液体供給系の異常の有無を判断するだけでなく、異常箇所を特定することが可能となる。
【0015】
請求項2に示すように請求項1に記載の液体供給系の異常判定装置において、前記異常判定手段は、前記各位置における送液前温度がそれぞれ略同じ温度であり、且つ各位置における送液後温度が前記温調手段の温調温度と略同じ温度であり、且つそれぞれの位置において送液前温度と送液後温度とに変化がある場合に、前記液体供給系を正常と判断することを特徴とする。
【0016】
このように、送液前温度と送液後温度に基づいて、液体供給系が正常であることを判断することができる。したがって、正常と判断されない場合には、液体供給系が異常であることを判断することができる。
【0017】
請求項3に示すように請求項1又は2に記載の液体供給系の異常判定装置において、前記異常判定手段は、前記各位置における送液前温度がそれぞれ略同じ温度でない場合に、前記複数の温度センサを異常個所として特定することを特徴とする。
【0018】
請求項4に示すように請求項1から3のいずれかに記載の液体供給系の異常判定装置において、前記異常判定手段は、前記各位置における送液前温度がそれぞれ略同じ温度であり、且つ各位置における送液後温度がそれぞれ略同じ温度であり、且つそれぞれの位置において送液前温度と送液後温度とに変化がない場合に、前記供給流路、前記供給ポンプ、前記温調手段を異常個所として特定することを特徴とする。
【0019】
請求項5に示すように請求項1から4のいずれかに記載の液体供給系の異常判定装置において、前記異常判定手段は、前記各位置における送液前温度がそれぞれ略同じ温度であり、且つ送液後温度が前記温調手段の温調温度と略同じ温度である第1の位置と前記温調手段の温調温度とは異なる温度である第2の位置とがある場合に、前記第1の位置と前記第2の位置との間を異常個所として特定することを特徴とする。
【0020】
このように、異常箇所を具体的に特定することができるので、異常発生後、液体供給系の修復を早急に行うことができる。
【0021】
請求項6に示すように請求項1から5のいずれかに記載の液体供給系の異常判定装置において、前記複数の温度センサのうち、少なくとも1つは前記液体吐出ヘッドに備えられており、前記異常判定手段は、前記液体吐出ヘッドを異常個所として特定可能なことを特徴とする。
【0022】
液体吐出ヘッドに温度センサを備えることにより、液体吐出ヘッドを異常個所として特定することができる。
【0023】
請求項7に示すように請求項1から6のいずれかに記載の液体供給系の異常判定装置において、前記液体吐出ヘッドは複数のヘッドモジュールからなるラインヘッドであり、前記供給流路には、ヘッドモジュール毎に設けられた分岐流路を介して前記複数のヘッドモジュールがそれぞれ接続され、前記複数のヘッドモジュールは、ヘッドモジュール毎に少なくとも1つの温度センサを備え、前記異常判定手段は、前記ヘッドモジュールを異常個所として特定可能なことを特徴とする。
【0024】
液体吐出ヘッドが複数のヘッドモジュールからなるラインヘッドである場合に、ヘッドモジュールを異常個所として特定することができる。
【0025】
請求項8に示すように請求項1から7のいずれかに記載の液体供給系の異常判定装置において、前記供給流路を開閉可能に構成された電磁バルブを備え、前記異常判定手段は、前記電磁バルブを異常箇所として特定可能なことを特徴とする。
【0026】
これにより、電磁バルブを異常個所として特定することができる。
【0027】
請求項9に示すように請求項1から8のいずれかに記載の液体供給系の異常判定装置において、前記液体吐出ヘッドから前記液体タンクに液体を回収するための回収流路と、前記液体吐出ヘッド内の液体を前記回収流路へ回収する回収ポンプとを備え、前記異常判定手段は、前記回収流路及び前記回収ポンプを異常箇所として特定可能なことを特徴とする。
【0028】
これにより、回収流路と回収ポンプを異常個所として特定することができる。
【0029】
請求項10に示すように請求項9に記載の液体供給系の異常判定装置において、前記液体吐出ヘッドを介さずに前記供給流路と前記回収流路との間を直接接続するバイパス流路と、前記バイパス流路を開閉可能に構成されたバイパス流路用電磁バルブとを備え、前記異常判定手段は、前記バイパス流路及び前記バイパス流路用電磁バルブを異常箇所として特定可能なことを特徴とする。
【0030】
これにより、バイパス流路とバイパス流路用電磁バルブを異常個所として特定することができる。
【0031】
請求項11に示すように請求項1から10のいずれかに記載の液体供給系の異常判定装置において、前記異常判定手段は、前記液体供給系の本稼働が開始される前に異常判断及び異常箇所の特定を行うことを特徴とする。
【0032】
これにより、本稼動前に異常個所を知ることができる。
【0033】
前記目的を達成するために請求項12に記載のインクジェット記録装置は、請求項1から11のいずれかに記載の液体供給系の異常判定装置をインク供給部に有することを特徴とする。
【0034】
これにより、インクジェット記録装置において、安定したインク供給を実現することができる。
【0035】
前記目的を達成するために請求項13に記載の液体供給系の異常判定方法は、液体タンクから液体吐出ヘッドに供給流路を通じて液体を供給する液体供給系の異常判定方法であって、前記液体供給系は、前記液体タンク内の液体を前記供給流路へ供給する供給ポンプと、前記供給流路中の液体を所定の温度に温調する温調手段と、前記温調手段による温調後の液体の温度を計測可能な複数の温度センサであって、前記液体供給系のそれぞれ異なる位置に備えられた複数の温度センサとから構成され、前記供給ポンプによる液体の供給開始前であって前記温調手段による温調開始前に、前記複数の温度センサから各位置における送液前温度を取得する工程と、前記供給ポンプによる液体の供給開始後であって、前記温調手段による温調開始後に、前記複数の温度センサから各位置における送液後温度を取得する工程と、前記取得した送液前温度及び送液後温度に基づいて、前記液体供給系の異常判断及び異常箇所の特定を行う工程とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、液体供給系のそれぞれ異なる位置に備えられた複数の温度センサによって、供給ポンプによる液体の供給前であって温調手段による温調前に各位置における送液前温度を取得し、供給ポンプによる液体の供給開始後であって温調手段による温調後に各位置における送液後温度を取得し、取得した送液前温度及び送液後温度に基づいて、前記液体供給系の異常判断及び異常箇所の特定を行うようにしたので、液体供給系の異常の有無を判断するだけでなく、異常箇所を特定することが可能となる。これにより、液体供給系に異常が発生した場合には早急な修復が可能となり、安定且つ信頼性の高い液体供給を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】インクジェット記録装置の概略を示した全体構成図
【図2】インクジェット記録装置の印字部周辺を示した要部平面図
【図3】ヘッドの構造例を示す平面透視図
【図4】インク室ユニットの立体的構成を示す断面図
【図5】インクジェット記録装置の制御系を示す要部ブロック図
【図6】第1の実施形態に係るインク供給系の構成例を示した模式図
【図7】第1の実施形態に係るインク供給系の動作フローの一例を示したフローチャート図
【図8】図7に示したフローチャートにおいて異常箇所を特定するために用いられる異常箇所特定判断表を示した図
【図9】第2の実施形態に係るインク供給系の構成例を示した模式図
【図10】第2の実施形態において異常箇所を特定するために用いられる異常箇所特定判断表を示した図
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
【0039】
<第1の実施形態>
〔インクジェット記録装置の全体構成〕
図1は、本発明に係る画像形成装置の一実施形態としてインクジェット記録装置の概略を示した全体構成図である。同図に示すように、このインクジェット記録装置10は、インクの色毎に設けられた複数の記録ヘッド(以下、単に「ヘッド」ともいう。)12K、12C、12M、12Yを有する印字部12と、各ヘッド12K、12C、12M、12Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部14と、記録紙16を供給する給紙部18と、記録紙16のカールを除去するデカール処理部20と、前記印字部12のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙16の平面性を保持しながら記録紙16を搬送する吸着ベルト搬送部22と、印字部12による印字結果を読み取る印字検出部24と、印画済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部26と、を備えている。
【0040】
図1では、給紙部18の一例としてロール紙(連続用紙)のマガジンが示されているが、紙幅や紙質等が異なる複数のマガジンを併設してもよい。また、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給してもよい。
【0041】
ロール紙を使用する装置構成の場合、図1のように、裁断用のカッター28が設けられており、該カッター28によってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター28は、記録紙16の搬送路幅以上の長さを有する固定刃28Aと、該固定刃28Aに沿って移動する丸刃28Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃28Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃28Bが配置されている。なお、カット紙を使用する場合には、カッター28は不要である。
【0042】
複数種類の記録紙を利用可能な構成にした場合、紙の種類情報を記録したバーコードあるいは無線タグ等の情報記録体をマガジンに取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される用紙の種類を自動的に判別し、用紙の種類に応じて適切なインク吐出を実現するようにインク吐出制御を行うことが好ましい。
【0043】
給紙部18から送り出される記録紙16はマガジンに装填されていたことによる巻き癖が残り、カールする。このカールを除去するために、デカール処理部20においてマガジンの巻き癖方向と逆方向に加熱ドラム30で記録紙16に熱を与える。このとき、多少印字面が外側に弱いカールとなるように加熱温度を制御するとより好ましい。
【0044】
デカール処理後、カットされた記録紙16は、吸着ベルト搬送部22へと送られる。吸着ベルト搬送部22は、ローラー31、32間に無端状のベルト33が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する部分が平面をなすように構成されている。
【0045】
ベルト33は、記録紙16の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引孔(不図示)が形成されている。図1に示した通り、ローラー31、32間に掛け渡されたベルト33の内側において印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバー34が設けられており、この吸着チャンバー34をファン35で吸引して負圧にすることによってベルト33上の記録紙16が吸着保持される。
【0046】
ベルト33が巻かれているローラー31、32の少なくとも一方にモータ(不図示)の動力が伝達されることにより、ベルト33は図1において、時計回り方向に駆動され、ベルト33上に保持された記録紙16は、図1の左から右へと搬送される。
【0047】
縁無しプリント等を印字するとベルト33上にもインクが付着するので、ベルト33の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部36が設けられている。ベルト清掃部36の構成について詳細は図示しないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、あるいはこれらの組み合わせなどがある。清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラー線速度を変えると清掃効果が大きい。
【0048】
なお、吸着ベルト搬送部22に代えて、ローラー・ニップ搬送機構を用いる態様も考えられるが、印字領域をローラー・ニップ搬送すると、印字直後に用紙の印字面にローラーが接触するので、画像が滲み易いという問題がある。したがって、本例のように、印字領域では画像面と接触させない吸着ベルト搬送が好ましい。
【0049】
吸着ベルト搬送部22により形成される用紙搬送路上において印字部12の上流側には、加熱ファン40が設けられている。加熱ファン40は、印字前の記録紙16に加熱空気を吹きつけ、記録紙16を加熱する。印字直前に記録紙16を加熱しておくことにより、インクが着弾後乾き易くなる。
【0050】
印字部12は、最大紙幅に対応する長さを有するライン型ヘッドを紙搬送方向(副走査方向)と直交する方向(主走査方向)に配置した、いわゆるフルライン型のヘッドとなっている。印字部12を構成する各ヘッド12K、12C、12M、12Yは、本インクジェット記録装置10が対象とする最大サイズの記録紙16の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が複数配列されたライン型ヘッドで構成されている(図2参照)。
【0051】
記録紙16の搬送方向(紙搬送方向)に沿って上流側(図1の左側)から黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の順に各色インクに対応したヘッド12K、12C、12M、12Yが配置されている。記録紙16を搬送しつつ各ヘッド12K、12C、12M、12Yからそれぞれ色インクを吐出することにより記録紙16上にカラー画像を形成し得る。
【0052】
このように、紙幅の全域をカバーするフルラインヘッドがインク色毎に設けられてなる印字部12によれば、紙搬送方向(副走査方向)について記録紙16と印字部12を相対的に移動させる動作を一回行うだけで(すなわち、一回の副走査で)記録紙16の全面に画像を記録することができる。これにより、ヘッドが紙搬送方向と直交する方向(主走査方向)に往復動作するシャトル型ヘッドに比べて高速印字が可能であり、生産性を向上させることができる。
【0053】
なお本例では、KCMYの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態には限定されず、必要に応じて淡インク、濃インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタ等のライト系インクを吐出するヘッドを追加する構成も可能である。
【0054】
図1に示したように、インク貯蔵/装填部14は、各ヘッド12K、12C、12M、12Yに対応する色のインクを貯蔵するタンクを有し、各タンクは図示を省略した管路を介して各ヘッド12K、12C、12M、12Yと連通されている。また、インク貯蔵/装填部14は、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段等)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。
【0055】
印字検出部24は、印字部12の打滴結果を撮像するためのイメージセンサ(ラインセンサ等)を含み、該イメージセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まりその他の吐出不良をチェックする手段として機能する。
【0056】
本例の印字検出部24は、少なくとも各ヘッド12K、12C、12M、12Yによるインク吐出幅(画像記録幅)よりも幅の広い受光素子列を有するラインセンサで構成される。このラインセンサは、赤(R)の色フィルタが設けられた光電変換素子(画素)がライン状に配列されたRセンサ列と、緑(G)の色フィルタが設けられたGセンサ列と、青(B)の色フィルタが設けられたBセンサ列とからなる色分解ラインCCDセンサで構成されている。なお、ラインセンサに代えて、受光素子が二次元配列されて成るエリアセンサを用いることも可能である。
【0057】
印字検出部24は、各色のヘッド12K、12C、12M、12Yにより印字されたテストパターンを読み取り、各ヘッドの吐出検出を行う。吐出判定は、吐出の有無、ドットサイズの測定、ドット着弾位置の測定等で構成される。
【0058】
印字検出部24の後段には、後乾燥部42が設けられている。後乾燥部42は、印字された画像面を乾燥させる手段であり、例えば、加熱ファンが用いられる。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けたほうが好ましいので、熱風を吹きつける方式が好ましい。
【0059】
多孔質のペーパに染料系インクで印字した場合などでは、加圧によりペーパの孔を塞ぐことでオゾンなど、染料分子を壊す原因となるものと接触することを防ぐことで画像の耐候性がアップする効果がある。
【0060】
後乾燥部42の後段には、加熱・加圧部44が設けられている。加熱・加圧部44は、画像表面の光沢度を制御するための手段であり、画像面を加熱しながら所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラー45で加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
【0061】
このようにして生成されたプリント物は、排紙部26から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット記録装置10では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部26A、26Bへと送るために排紙経路を切り換える選別手段(不図示)が設けられている。なお、大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列に形成する場合は、カッター(第2のカッター)48によってテスト印字の部分を切り離す。カッター48は、排紙部26の直前に設けられており、画像余白部にテスト印字を行った場合に、本画像とテスト印字部を切断するためのものである。カッター48の構造は前述した第1のカッター28と同様であり、固定刃48Aと丸刃48Bとから構成されている。
【0062】
また、図示を省略したが、本画像の排出部26Aには、オーダー別に画像を集積するソーターが設けられている。
【0063】
〔ヘッドの構造〕
次に、ヘッド12K、12C、12M、12Yの構造について説明する。なお、各ヘッド12K、12C、12M、12Yの構造は共通しているので、以下では、これらを代表して符号50によってヘッドを示すものとする。
【0064】
図3(a)は、ヘッド50の構造例を示す平面透視図であり、図3(b)は、その一部の拡大図である。また、図3(c)は、ヘッド50の他の構造例を示す平面透視図である。図4は、インク室ユニットの立体的構成を示す断面図(図3(a)、(b)中、IV−IV線に沿う断面図)である。
【0065】
記録紙面上に形成されるドットピッチを高密度化するためには、ヘッド50におけるノズルピッチを高密度化する必要がある。本例のヘッド50は、図3(a)、(b)に示すように、インク滴の吐出孔であるノズル51と、各ノズル51に対応する圧力室52等からなる複数のインク室ユニット53を千鳥でマトリクス状に(2次元的に)配置させた構造を有し、これにより、ヘッド長手方向(紙搬送方向と直交する主走査方向)に沿って並ぶように投影される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
【0066】
紙搬送方向と略直交する方向に記録紙16の全幅に対応する長さにわたり1列以上のノズル列を構成する形態は本例に限定されない。例えば、図3(a)の構成に代えて、図3(c)に示すように、複数のノズル51が2次元に配列された短尺のヘッドモジュール(ヘッドチップ)50’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせることで記録紙16の全幅に対応する長さのノズル列を有するラインヘッドを構成してもよい。また、図示は省略するが、短尺のヘッドを一列に並べてラインヘッドを構成してもよい。
【0067】
各ノズル51に対応して設けられている圧力室52は、その平面形状が概略正方形となっており、対角線上の両隅部にノズル51とインク流入口54が設けられている。各圧力室52はインク流入口54を介して共通流路55と連通されている。
【0068】
圧力室52の天面を構成し共通電極と兼用される振動板56には個別電極57を備えた圧電素子58が接合されており、個別電極57に駆動電圧を印加することによって圧電素子58が変形して圧力室52内のインクが加圧され、当該圧力室52に連通するノズル51からインクが吐出される。インクが吐出されると、共通流路55からインク流入口54を通って新しいインクが圧力室52に供給される。
【0069】
本例では、ヘッド50に設けられたノズル51から吐出させるインクの吐出力発生手段として圧電素子58を適用したが、圧力室52内にヒータを備え、ヒータの加熱による膜沸騰の圧力を利用してインクを吐出させるサーマル方式を適用することも可能である。
【0070】
かかる構造を有するインク室ユニット53を図3(b)に示す如く、主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向に沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。
【0071】
即ち、主走査方向に対してある角度θの方向に沿ってインク室ユニット53を一定のピッチdで複数配列する構造により、主走査方向に並ぶように投影されたノズルのピッチPはd× cosθとなり、主走査方向については、各ノズル51が一定のピッチPで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。このような構成により、主走査方向に並ぶように投影されるノズル列が1インチ当たり2400個(2400ノズル/インチ)におよぶ高密度のノズル構成を実現することが可能になる。
【0072】
なお、本発明の実施に際してノズルの配置構造は図示の例に限定されず、副走査方向に1列のノズル列を有する配置構造など、様々なノズル配置構造を適用できる。
【0073】
また、本発明の適用範囲はライン型ヘッドによる印字方式に限定されず、記録紙16の幅方向(主走査方向)の長さに満たない短尺のヘッドを記録紙16の幅方向に走査させて当該幅方向の印字を行い、1回の幅方向の印字が終わると記録紙16を幅方向と直交する方向(副走査方向)に所定量だけ移動させて、次の印字領域の記録紙16の幅方向の印字を行い、この動作を繰り返して記録紙16の印字領域の全面にわたって印字を行うシリアル方式を適用してもよい。
【0074】
〔制御系の構成〕
図5は、インクジェット記録装置10の制御系を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置10は、通信インターフェース70、システムコントローラ72、メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78、プリント制御部80、画像バッファメモリ82、ヘッドドライバ84等を備えている。
【0075】
通信インターフェース70は、ホストコンピュータ86から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース70にはUSB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。
【0076】
ホストコンピュータ86から送り出された画像データは通信インターフェース70を介してインクジェット記録装置10に取り込まれ、一旦メモリ74に記憶される。メモリ74は、通信インターフェース70を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ72を通じてデータの読み書きが行われる。メモリ74は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
【0077】
システムコントローラ72は、通信インターフェース70、メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78等の各部を制御する制御部である。システムコントローラ72は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、ホストコンピュータ86との間の通信制御、メモリ74の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ88やヒータ89を制御する制御信号を生成する。
【0078】
メモリ74には、システムコントローラ72のCPUが実行するプログラム及び制御に必要な各種データなどが格納されている。なお、メモリ74は、書換不能な記憶手段であってもよいし、EEPROMのような書換可能な記憶手段であってもよい。メモリ74は、画像データの一時記憶領域として利用されるとともに、プログラムの展開領域及びCPUの演算作業領域としても利用される。
【0079】
プログラム格納部90には各種制御プログラムが格納されており、システムコントローラ72の指令に応じて、制御プログラムが読み出され、実行される。プログラム格納部90はROMやEEPROMなどの半導体メモリを用いてもよいし、磁気ディスクなどを用いてもよい。外部インターフェースを備え、メモリカードやPCカードを用いてもよい。もちろん、これらの記録媒体のうち、複数の記録媒体を備えてもよい。なお、プログラム格納部90は動作パラメータ等の記録手段(不図示)と兼用してもよい。
【0080】
モータドライバ76は、システムコントローラ72からの指示に従ってモータ88を駆動するドライバ(駆動回路)である。ヒータドライバ78は、システムコントローラ72からの指示に従って後乾燥部42その他各部のヒータ89を駆動するドライバである。
【0081】
ポンプドライバ92は、システムコントローラ72からの指示に従ってポンプ94を駆動するドライバである。図5に示すポンプ94には、図6の供給ポンプ104や図9の供給ポンプ204A、回収ポンプ204Bが含まれる。
【0082】
温度調整部106は、ヘッド50に供給されるインクを温調するための加熱冷却器であり、調制御部96は、システムコントローラ72の指示に従って温度調整部106を制御する。弁制御部98は、システムコントローラ72の指示に従ってバルブ99を制御する。なお、図5に示したバルブ99には、図6のヘッドバルブ108や図9の第1のヘッドバルブ208A、第2のヘッドバルブ208B、バイパスバルブ208Cが含まれる。
【0083】
センサ85は、装置内の各部に設けられる各種センサ類であり、圧力センサ、温度センサ、位置検出センサ等が含まれている。なお、温度センサには、図6の第1の温度センサ110A、第2の温度センサ110Bや図9の第1の温度センサ210A、第2の温度センサ210B、第3の温度センサ210Cが含まれる。センサ85の出力信号はシステムコントローラ72に送られ、システムコントローラ72は該出力信号に基づいて装置各部に対して制御信号を送り、装置各部の制御が行われている。
【0084】
プリント制御部80は、システムコントローラ72の制御に従い、メモリ74内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字制御信号(ドットデータ)をヘッドドライバ84に供給する制御部である。プリント制御部80において所要の信号処理が施され、該画像データに基づいてヘッドドライバ84を介してヘッド50のインク滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
【0085】
プリント制御部80には画像バッファメモリ82が備えられており、プリント制御部80における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ82に一時的に格納される。なお、図5において画像バッファメモリ82はプリント制御部80に付随する態様で示されているが、メモリ74と兼用することも可能である。また、プリント制御部80とシステムコントローラ72とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
【0086】
ヘッドドライバ84は、プリント制御部80から与えられるドットデータに基づいて各色のヘッド50の圧電素子58(図4参照)を駆動するための駆動信号を生成し、圧電素子58に生成した駆動信号を供給する。ヘッドドライバ84にはヘッド50の駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
【0087】
印字検出部24は、図1で説明したように、ラインセンサを含むブロックであり、記録紙16に印字された画像を読み取り、所要の信号処理などを行って印字状況(吐出の有無、打滴のばらつきなど)を検出し、その検出結果をプリント制御部80に提供する。
【0088】
プリント制御部80は、必要に応じて印字検出部24から得られる情報に基づいてヘッド50に対する各種補正を行う。
【0089】
〔インク供給系の構成〕
図6は、インクジェット記録装置10のインク供給系の要部構成を示した模式図である。なお、同図では、説明の便宜上、1色についてのインク供給系のみを示しているが、複数色の場合には同一構成のものが複数備えられる。また、同図に示したヘッド50は、上述したように複数のヘッドモジュール50’(図3(c)参照)から構成されていてもよいのはもちろんのことである。
【0090】
図6に示すように、インクジェット記録装置10のインク供給系(インク供給装置)は、主として、インクタンク100、供給流路102、供給ポンプ104、温度調整部106、ヘッドバルブ108、第1の温度センサ110A、第2の温度センサ110Bを備えて構成される。
【0091】
インクタンク100は、ヘッド50に供給されるインクが収容される基タンク(インク供給源)であり、図1に示したインク貯蔵/装填部14に配置されるタンクに相当するものである。
【0092】
供給流路102は、インクタンク100とヘッド50との間を接続する液体流路(インク供給路)であり、その流路の途中には供給ポンプ104が配設されている。供給ポンプ104は双方向(正転方向及び逆転方向)に駆動可能な液体ポンプであり、図5に示したポンプドライバ92を介してシステムコントローラ72によって駆動制御される。例えば、供給ポンプ104が正転方向に駆動されると、インクタンク100からヘッド50に供給流路102を通じてインクが供給されるようになっている。
【0093】
供給流路102における供給ポンプ104よりも下流側(ヘッド50側)には、温度調整部106が設けられている。温度調整部106は、供給流路102を流れるインクの温度を所定の温度に調整するための加熱冷却器であり、図5に示した温調制御部96によってその温度が制御される。
【0094】
供給流路102における温度調整部106よりもさらに下流側には、ヘッドバルブ108が設けられている。ヘッドバルブ108は供給流路102を開閉可能に構成された流路開閉手段であり、図5に示したシステムコントローラ72によってその開閉動作が制御される。ヘッドバルブ108が開状態の時にインクタンク100からヘッド50に対してインク供給が可能な状態となり、閉状態の時にインク供給が不可能な状態となる。
【0095】
ヘッドバルブ108は特に限定されるものではないが、電磁バルブが好ましく用いられる。電磁バルブを用いる態様によれば、他方式のバルブ(例えば電動バルブ等)に比べて、異常検出時に行われる停止処理において供給流路102を瞬時に開状態から閉状態に遷移させることができ、インク漏れ等のトラブルを迅速且つ確実に防止することができる。
【0096】
供給流路102におけるヘッドバルブ108の上下流側には、第1及び第2の温度センサ110A、110Bが設けられている。これらの温度センサ110A、110Bは、インク温度を計測する温度計測手段であり、本実施形態においては、温度センサ110Aはヘッド50内に設けられており、温度センサ110Bは供給流路102における温度調節部106とヘッドバルブ108との間に設けられている。この2つの温度センサによって計測された温度(計測値)は、図5に示したシステムコントローラ72に通知される。システムコントローラ72は、第1及び第2の温度センサ110A、110Bによる計測値に基づいて、後述するインク供給系の異常判断及び異常箇所の特定を行う。
【0097】
インクジェット記録装置10によって印刷動作が行われているときのインク供給系のインク供給動作としては、システムコントローラ72は、ヘッドバルブ108を開状態にして、供給ポンプ104の駆動を制御することにより、インクタンク100からヘッド50に供給流路102を通じてインク供給を行う。その際、供給流路102内の液体圧力は、図示しない圧力センサによって計測されて、その結果がシステムコントローラ72に通知される。そして、システムコントローラ72は、圧力センサによる計測値が所定の基準圧力(目標圧力)に近づくように供給ポンプ104の駆動を制御する。これにより、インク吐出に伴うヘッド50のインク消費量に応じて、インクタンク100からヘッド50にインク供給が行われる。
【0098】
本実施形態では、インク供給系の本稼働が開始される前に、異常判断及び異常箇所の特定を行う処理が行われる。
【0099】
図7は、第1の実施形態に係るインク供給系の動作フローの一例を示したフローチャート図である。図8は、図7に示したフローチャートにおいて異常箇所を特定するために用いられる異常箇所特定判断表である。以下、図7及び図8を参照しながら、本実施形態における異常判断及び異常箇所の特定を行う処理について説明する。なお、図7に示したフローチャートの各処理は、特に断らない場合は図5に示したシステムコントローラ72によって行われるものとする。
【0100】
図7に示すように、まず始めに(インク供給系の)電源がオン状態になったか否かを判断する(ステップS10)。電源がオン状態になった場合には、次のステップS12に進む。一方、電源がオフ状態の場合には、電源がオン状態となるまでステップS10の判断を繰り返す。
【0101】
ステップS10にて電源がオン状態になったと判断されると、インク供給系の初期設定を実行する(ステップS12)。この初期設定には、全バルブ(ヘッドバルブ108を含む)を閉状態にする処理が含まれる。
【0102】
次に、第1及び第2の温度センサ110A、110Bによってインクの温度を計測する(ステップS14)。このとき、第1及び第2の温度センサ110A、110Bによって計測されたインク温度(送液前温度)をそれぞれP1、Q1とする。
【0103】
次に、温度調整部106を駆動してインクを所定温度に温調するとともに、ヘッドバルブ108を開状態にし、供給ポンプ104を正転方向に一定時間駆動(CW駆動)する(ステップS16)。これにより、インクタンク100内に収容されるインクが順方向(インクタンク100からヘッド50に向かう方向)に向かってヘッド50に送液される。なお、温度調整部106におけるインクの温調温度は、インクジェット記録装置10が置かれている環境温度とは十分異なるものとする。
【0104】
次に、所定時間が経過したか否かを判断する(ステップS18)。ここでは、先のステップS16が完了してから所定時間が経過するまで待機状態となる。この時設定される所定時間は、正常に温調されたインクがヘッド50に送液された場合に、ヘッド50が環境温度からインク温度に馴染むまでに必要十分な時間であり、実験又は経験的に求められる値である。所定時間が経過するまでステップS18の判断を繰り返し、所定時間が経過した場合には次のステップS20に進む。
【0105】
所定時間が経過後、再び第1及び第2の温度センサ110A、110Bによってインクの温度を計測する(ステップS20)。このとき、第1及び第2の温度センサ110A、110Bによって計測されたインク温度(送液後温度)をそれぞれP2、Q2とする。
【0106】
次に、異常判定処理を行う(ステップS22)。ここでは、先のステップS14、S20で計測されたインク温度P1、P2、Q1、Q2を用いて、図8に示した異常箇所特定判断表に従ってインク供給系の異常判定及び異常箇所の特定を行う。
【0107】
具体的には、図8に示すように、以下の条件式(M1)〜(M4)の成否に基づき、異常判定及び異常箇所の特定を行う。なお、同図では、それぞれの条件式が成立する場合は「○」、不成立の場合は「×」で表している。
【0108】
P1≒P2 ・・・(M1)
Q1≒Q2 ・・・(M2)
P1≒Q1 ・・・(M3)
P2≒Q2 ・・・(M4)
上記の条件式において、左辺側の温度と右辺側の温度とが略同一であるとみなせる範囲は、温度調整部106において温調されたインクが正常にヘッド50に送液された場合の温度の変動許容範囲であるものとする。本実施形態では、左辺側の温度の±1℃(好ましくは±0.5℃)の範囲に右辺側の温度があれば、これらのインク温度は略同一であるものとしている。
【0109】
ここで、条件式(M1)〜(M4)の成否と異常箇所との対応関係について説明する。
【0110】
まず、条件式(M1)(M2)が不成立、且つ、条件式(M3)(M4)が成立の場合(図8のPT1)、インク供給系は正常であると判断される。
【0111】
送液前は、温度調整部106が動作していないため、第1及び第2の温度センサ110A、110Bの動作が正常であれば、送液前温度P1、Q1は、ともにインクジェット記録装置10が置かれている環境温度と同様の値となる。したがって、条件式(M3)が成立する。
【0112】
また、送液開始後は、温度調整部106において温調された供給流路102内のインクが、供給ポンプ104によりヘッドバルブ108を介してヘッド50へ送液される。したがって、これらの動作が正常であれば、送液後温度P2、Q2は、ともに温度調整部106の温調温度と同様の温度となる。したがって、条件式(M4)が成立する。
【0113】
ここで、環境温度と温調温度とは異なることから、全ての動作が正常であれば、条件式(M1)(M2)は不成立となる。
【0114】
このように、図8のPT1の場合にはインク供給系は正常であると判断され、条件式(M1)〜(M4)の成否がPT1と異なる場合には、インク供給系が異常であると判断される。
【0115】
ただし、条件式(M1)〜(M4)の成否がPT1と同様であっても、送液後温度P2、Q2が所望のインクの温調温度と異なる場合には、温度調整部106の温調不良が推測され、温度調整部106が異常箇所として特定される(図8のPT7)。
【0116】
これに対し、条件式(M2)(M3)(M4)が不成立、且つ、条件式(M1)が成立の場合(図8のPT2)、第1のセンサ110Aが異常箇所として特定される。同様に、条件式(M1)(M3)(M4)が不成立、且つ、条件式(M2)が成立の場合(図8のPT3)、第2のセンサ110Bが異常箇所として特定される。
【0117】
ここで特定される第1及び第2の温度センサ110A、110Bの異常は、故障モードが断線又はショートの場合であり、時間によって出力値の変化がないことから検知される。
【0118】
また、条件式(M2)(M4)が不成立、且つ、条件式(M1)(M3)が成立の場合(図8のPT4)、ヘッド50までの過程で供給流路102の外側にインクが漏れていることにより(インク漏れ)、インクがヘッド50まで到達していないと推定され、第2の温度センサ110Bよりも下流側であって、第1の温度センサ110Aよりも上流側が異常箇所として特定される。
【0119】
次に、図8のPT6の判定であるが、ここではヘッドバルブ108を開閉動作させ、送液後温度P2、Q2を再測定する。なお、この際には、第1及び第2の温度センサ110A、110Bの計測値が安定するまで所定時間待機する必要がある。
【0120】
まず、ヘッドバルブ108を閉状態にし、所定時間待機する。その後、送液後温度P2、Q2を測定する。ヘッドバルブ108の閉動作が正常であれば、条件式(M2)(M4)が不成立、且つ、条件式(M1)(M3)が成立となる(図8のPT5)。すなわち、図8のPT4の場合と同様になる。
【0121】
その後、ヘッドバルブ108を開状態にし、所定時間待機する。その後、送液後温度P2、Q2を測定する。ヘッドバルブ108の開動作が正常であれば、条件式(M1)(M2)が不成立、且つ、条件式(M3)(M4)が成立となる(図8のPT5)。すなわち、図8のPT1の場合と同様になる。
【0122】
したがって、ヘッドバルブ108の閉状態及び開状態において、上記PT5に該当する場合はヘッドバルブ108は正常であり、PT5以外の場合はヘッドバルブ108が異常箇所として特定される。
【0123】
次に、条件式(M1)(M2)(M3)(M4)が成立の場合(図8のPT6)、第2の温度センサ110Bの上流側において供給流路102の外側にインクが漏れている、又は供給流路102の詰まりによりインクが供給流路102を流れていない、又は供給ポンプ104が動作していないことによりインクが供給流路102を流れていない、又は温度調整部106が正常に動作していないためにインクの温度が変化していないと推定され、供給流路102のいずれかの箇所、又は供給ポンプ104又は温度調整部106が異常箇所として特定される。
【0124】
また、条件式(M1)(M2)が不成立、且つ、条件式(M3)(M4)が成立の場合(図8のPT1)から、その後条件式(M4)が不成立に遷移した場合(図8のPT8)、ヘッド50のリークによる第1の温度センサ110Aへのインク流入が推定され、ヘッド50が異常箇所として特定される。なお、ヘッド50内部に設けられた第1の温度センサ110Aにサーミスタを使用している場合には、ヘッド50にリークが発生すると、インクによりサーミスタがショートし、送液後温度P2が本来のインクの温度より高めに測定される。
【0125】
このようにして異常判定処理を行った後、その判定結果に従ってインク供給系に異常があるか否かを判断する(ステップS24)。そして、異常がない場合にはステップS26に進み、異常がある場合にはステップS32に進む。
【0126】
先のステップS24にてインク供給系に異常がないと判断した場合、インク供給系の本稼働を開始する(ステップS26)。
【0127】
続いて、印刷が終了したか否かを判断する(ステップS28)。印刷が終了していない場合には、印刷終了となるまでステップS28の判断を繰り返す。印刷が終了した場合には、インク供給系の停止処理を行う(ステップS30)。
【0128】
一方、先のステップS24においてインク供給系に異常があると判断した場合には、異常箇所の通知を行う(ステップS32)。異常箇所の通知形態は、インク供給系の異常箇所をユーザが認識可能な形態であれば特に限定されるものではいが、例えば、図5のホストコンピュータ86に付随される表示手段(不図示)に文字、記号、又は図形などを用いて異常箇所を表示する態様が好ましく採用される。そして、異常箇所の通知を行った後、インク供給系の停止処理を行う(ステップS30)。
【0129】
以上説明したように第1の実施形態によれば、インクタンク100からヘッド50に供給流路102を通じてインク供給が行われるインク供給系において、温度調整部106においてインクが温調されるとともに供給ポンプ104によりインクが供給され、送液前後における供給流路102内のインクの温度が第1及び第2の温度センサ110A、110Bによって計測される。そして、第1及び第2の温度センサ110A、110Bにより計測された送液前後のインク温度を比較することにより、インク供給系の異常の有無を判断するだけでなく、異常箇所を特定することが可能となる。これにより、インク供給系に異常が発生した場合には早急な修復が可能となり、安定且つ信頼性の高いインク供給を実現することができる。また、インクジェット記録装置10の安定した印刷も保証することが可能となる。
【0130】
また、本実施形態のようにインク供給系の異常判断及び異常箇所の特定を行う処理は、インク供給系の本稼働が開始される前に行われる態様が好ましい。インク漏れ等のトラブルを未然に防止することができる。
【0131】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。以下、第1の実施形態と共通する部分については説明を省略し、本実施形態の特徴的な部分を中心に説明する。
【0132】
図9は、第2の実施形態に係るインク供給系の要部構成を示した模式図である。なお、同図では、説明の便宜上、1色についてのインク供給系のみを示しているが、複数色の場合には同一構成のものが複数備えられる。
【0133】
図9に示すように、第2の実施形態で用いられるヘッド150は、複数のヘッドモジュール152(152A、152B)から構成されている。図示は省略するが、ヘッドモジュール152には、第1の実施形態で説明したヘッド50と同様に、ノズル、圧力室、圧電素子、及び共通流路が設けられており、圧電素子の変形に応じて圧力室内のインクが加圧されて、当該圧力室に連通するノズルからインクが吐出される。
【0134】
また、ヘッドモジュール152には、インク供給系から供給されるインクをヘッド内部(圧力室や共通流路などのインク流路)に導入するための導入口と、当該導入口から導入されたインクのうち、ノズルから吐出されずにヘッド内部を循環したインクをヘッド外部に排出するための排出口とが設けられている。
【0135】
本実施形態に係るインク供給系(インク供給装置)は、主として、インクタンク200、供給流路202、供給ポンプ204A、回収ポンプ204B、温度調整部206、第1のヘッドバルブ208A、第2のヘッドバルブ208B、バイパスバルブ208C、第1の温度センサ210A、第2の温度センサ210B、第3の温度センサ210C、分岐流路212、214、及びバイパス流路216を備えて構成される。
【0136】
供給流路202は、各ヘッドモジュール152の供給口にインクを供給するためのメイン流路であり、その一端はインクタンク200に接続される。供給流路202の他端側(インクタンク200側とは反対側)は複数の分岐流路212が分岐接続されており、各分岐流路212の先端部はそれぞれ対応するヘッドモジュール152の供給口に接続される。
【0137】
供給流路202には、各分岐流路212が分岐接続される位置よりもインクタンク200側に供給ポンプ204Aが設けられている。供給ポンプ204Aは、図5に示したポンプドライバ92を介してシステムコントローラ72によって駆動制御される。
【0138】
回収流路218は、各ヘッドモジュール152の排出口から排出されたインクを回収するためのメイン流路であり、その一端はインクタンク200に接続される。回収流路218の他端側(インクタンク200側とは反対側)は複数の分岐流路214が分岐接続されており、各分岐流路214の先端部はそれぞれ対応するヘッドモジュール152の排出口に接続される。
【0139】
回収流路218には、各分岐流路214が分岐接続される位置よりもインクタンク200側に回収ポンプ204Bが設けられている。上述した供給ポンプ204Aと同様に、回収ポンプ204Bは、図5に示したポンプドライバ92を介してシステムコントローラ72によって駆動制御される。
【0140】
各分岐流路212、214には、それぞれ第1のヘッドバルブ208A、第2のヘッドバルブ208Bが設けられている。第1及び第2のヘッドバルブ208A、208Bは、それぞれ対応する分岐流路212又は214を開閉可能に構成された流路開閉手段であり、図5に示したシステムコントローラ72によってその開閉動作が制御されるようになっている。システムコントローラ72は、各ヘッドバルブ208A、208Bを選択的に開閉することによって、各ヘッドモジュール152に対するインク循環を個別に行うことが可能となっている。
【0141】
供給流路202における温度調整部206の下流側には、第1の温度センサ210Aが設けられている。また、各ヘッドモジュール152A、152Bには、それぞれ第2の温度センサ210B及び第3の温度センサ21Cが設けられている。これらの温度センサ210A〜210Cは、インク温度を計測する温度計測手段であり、これらの温度センサによって計測された温度(計測値)は、図5に示したシステムコントローラ72に通知される。システムコントローラ72は、これらの温度センサによる計測値に基づいて、後述するインク供給系の異常判断及び異常箇所の特定を行う。
【0142】
ここで、本実施形態で行われる圧力制御について説明を行う。
【0143】
本実施形態では、システムコントローラ72による圧力制御によって、インクタンク200から供給流路202、分岐流路212を通じてヘッドモジュール152の供給口にインク供給が行われる。ヘッドモジュール152に供給されたインクは、ヘッドモジュール152内部に形成されるインク流路(共通流路、圧力室、ノズル流路など)を循環して、一部のインクはノズル(吐出口)から吐出され、残りのインクは排出口から排出される。ヘッドモジュール152の排出口から排出されたインクは、分岐流路214、回収流路218を通じてインクタンク200に回収されて、インクタンク200からヘッドモジュール152に再び循環されるようになっている。
【0144】
このようなインク循環を実現するために、システムコントローラ72は、ヘッドモジュール152内のインクに所定の背圧(負圧)が付与されつつ、供給流路202の液体圧力が回収流路218の液体圧力よりも相対的に高くなるように、供給ポンプ204A及び回収ポンプ204Bの駆動を制御している。
【0145】
このように圧力制御を行うことによって、ヘッドモジュール152のインク吐出動作の有無にかかわらず、ヘッドモジュール152内部(特にノズル近傍)で常にインク循環が行われるようにすることができる。これにより、インク増粘等による吐出不良を防止でき、良好な印刷品質を長時間にわたって維持することができる。
【0146】
本実施形態のようにインク循環が行われるインク供給系では、ヘッドモジュール152の数が多くなるにつれて、供給流路202や回収流路218の流路長が長くなる。そのため、インクタンク200の反対側(インクタンク200とは離れた流路の末端側)の供給流路202、回収流路218内のインクの流速が遅くなってくる。
【0147】
インクの流速が遅くなると、供給流路202内のインクが外気の温度の影響を受けやすくなる。その結果、インクタンク200の反対側のヘッドモジュール152内部のインクの温度がインクタンク200側のヘッドモジュール152内部のインクの温度と異なってきてしまい、各ヘッドモジュール152間における温度ばらつきが発生する。インクの粘度は温度によって変化するため、ヘッドモジュール152間に温度ばらつきが生じると、各ヘッドモジュール152のインク吐出にばらつきが生じてしまう。
【0148】
そこで本実施形態では、供給流路202の末端側においてもインクの流量を確保するためにバイパス流路216が設けられている。このバイパス流路216は供給流路202と回収流路218の他端同士を接続する流路であり、インクタンク200から供給流路202を通じて供給されるインクの一部が、各ヘッドモジュール152を経由することなく、バイパス流路216を介して回収流路218に直接導かれるようになっている。
【0149】
このバイパス流路216により、供給流路202の末端側においてもインクの流量を確保できるため、外気の温度の影響を小さくすることができる。したがって、各ヘッドモジュール152間での温度差を小さくすることができる。
【0150】
また、バイパス流路216には、当該バイパス流路216を開閉可能に構成された流路開閉手段としてのバイパスバルブ208Cが設けられている。バイパスバルブ208Cの開閉動作は、図5に示したシステムコントローラ72によって制御される。このようにバイパス流路216にバイパスバルブ208Cを備えた構成によれば、バイパス流路216を経由したインク循環を選択的に行うことが可能となる。これにより、ヘッドモジュール152の数が少なく、ヘッドモジュール152間の温度差が小さくインク吐出に影響を及ぼさないような場合には、バイパス流路216を経由したインク循環を停止して、インクタンク200と各ヘッドモジュール152との間のインク循環効率を高めることも可能である。
【0151】
本実施形態におけるインク供給系の動作フローは、第1の実施形態におけるインク供給系の動作フローと同様であるので、ここではインク供給系の異常判定及び異常箇所の特定動作についてのみ説明する。
【0152】
本実施形態においては、温度センサを3つ備えているので、第1〜第3の温度センサ210A、210B、210Cによって計測された送液前のインク温度をそれぞれP1、Q1、R1とし、送液後のインク温度をそれぞれP2、Q2、R2とする。
【0153】
図10は、本実施形態において異常箇所を特定するために用いられる異常箇所特定判断表である。それぞれ計測されたインク温度P1、P2、Q1、Q2、R1、R2を用いて、図10に示した異常箇所特定判断表に従ってインク供給系の異常判定及び異常箇所の特定を行う。
【0154】
具体的には、図10に示すように、以下の条件式(N1)〜(N6)の成否に基づき、異常判定及び異常箇所の特定を行う。なお、同図では、それぞれの条件式が成立する場合は「○」、不成立の場合は「×」で表している。
【0155】
P1≒P2 ・・・(N1)
Q1≒Q2 ・・・(N2)
R1≒R2 ・・・(N3)
P2≒Q2 ・・・(N4)
P2≒R2 ・・・(N5)
P1≒Q1≒R1 ・・・(N6)
上記の条件式において、左辺側の温度と右辺側の温度とが略同一であるとみなせる範囲は、温度調整部206において温調されたインクが正常に各ヘッドモジュール152に送液された場合の温度の変動許容範囲であるものとする。本実施形態では、左辺側の温度の±1℃(好ましくは±0.5℃)の範囲に右辺側の温度があれば、これらのインク温度は略同一であるものとしている。
【0156】
なお、第1の実施形態と同様に、異常個所が第1〜第3の温度センサ210A、210B、210Cである場合は、故障モードが断線又はショートの場合であり、時間によって出力値の変化がない場合である。また、温度調整部206におけるインクの温調温度は、インクジェット記録装置10が置かれている環境温度とは十分異なるものとする。
【0157】
ここで、条件式(N1)〜(N6)の成否と異常箇所との対応関係について説明する。
【0158】
まず、条件式(N1)(N2)(N3)が不成立、且つ、条件式(N4)(N5)(N6)が成立の場合(図10のPT11)、インク供給系は正常であると判断される。
【0159】
送液前は、温度調整部206が動作していないため、第1〜第3の温度センサ210A、110B、210Cの動作が正常であれば、送液前温度P1、Q1、R1は、ともにインクジェット記録装置10が置かれている環境温度と同様の値となる。したがって、条件式(N6)が成立する。
【0160】
また、送液開始後は、温度調整部206において温調された供給流路202内のインクが、供給ポンプ204Aにより供給流路202から分岐流路212を介してヘッドモジュール152A、152Bへ送液される。したがって、これらの動作が正常であれば、送液後温度P2、Q2、R2は、ともに温度調整部206の温調温度と同様の温度となる。したがって、条件式(N4)(N5)が成立する。
【0161】
ここで、環境温度と温調温度とは異なることから、全ての動作が正常であれば、条件式(N1)(N2)(N3)は不成立となる。
【0162】
このように、図10のPT11の場合にはインク供給系は正常であると判断され、条件式(N1)〜(M6)の成否がPT11と異なる場合には、インク供給系が異常であると判断される。
【0163】
ただし、条件式(N1)〜(N6)の成否がPT11と同様であっても、送液後温度P2、Q2、R2が所望のインクの温調温度と異なる場合には、温度調整部206の温調不良が推測され、温度調整部206が異常箇所として特定される(図10のPT21)。
【0164】
これに対し、条件式(N2)(N3)(N4)(N5)(N6)が不成立、且つ、条件式(N1)が成立の場合(図10のPT12)、送液前温度P1、Q1、R1が一致していないことと、第1の温度センサ210Aにおいて送液前後の測定値が変化していないことから、第1のセンサ210Aが異常箇所として特定される。
【0165】
同様に、条件式(N1)(N3)(N4)(N6)が不成立、且つ、条件式(N2)(N5)が成立の場合(図10のPT13)、第2のセンサ210Bが異常箇所として特定され、条件式(N1)(N2)(N5)(N6)が不成立、且つ、条件式(N3)(N4)が成立の場合(図10のPT14)には、第3のセンサ210Cが異常箇所として特定される。
【0166】
次に、条件式(N1)(N3)(N4)が不成立、且つ、条件式(N2)(N5)(N6)が成立の場合(図10のPT15)、送液前温度P1、Q1、R1が一致しているにもかかわらず、第2の温度センサ210Bの送液前後の測定値だけが変化していないことから、ヘッドモジュール152Aの上流側がインク漏れと推定され、第1の温度センサ210Aよりも下流側であって、第2の温度センサ210Bよりも上流側が異常箇所として特定される。
【0167】
同様に、条件式(N1)(N2)(N5)が不成立、且つ、条件式(N3)(N4)(N6)が成立の場合(図10のPT16)、送液前温度P1、Q1、R1が一致しているにもかかわらず、第3の温度センサ210Cの送液前後の測定値だけが変化していないことから、ヘッドモジュール152Bの上流がインク漏れと推定され、第1の温度センサ210Aよりも下流側であって、第3の温度センサ210Cよりも上流側が異常箇所として特定される。
【0168】
次に、図10のPT17の判定であるが、ここでは第1のヘッドバルブ208Aを開閉動作させ、送液後温度P2、Q2、R2を再測定する。なお、この際には、第1〜第3の温度センサ210A、210B、210Cの計測値が安定するまで所定時間待機する必要がある。
【0169】
まず、第1のヘッドバルブ208Aを閉状態にし、所定時間待機する。その後、送液後温度P2、Q2、R2を測定する。第1のヘッドバルブ208Aの閉動作が正常であれば、条件式(N1)(N3)(N4)が不成立、且つ、条件式(N2)(N5)(N6)が成立となる(図10のPT17)。すなわち、図10のPT15の場合と同様になる。
【0170】
その後、第1のヘッドバルブ208Aを開状態にし、所定時間待機する。その後、送液後温度P2、Q2、R2を測定する。第1のヘッドバルブ208Aの開動作が正常であれば、条件式(N1)(N2)(N3)が不成立、且つ、条件式(N4)(N5)(N6)が成立となる(図10のPT17)。すなわち、図10のPT1の場合と同様になる。
【0171】
したがって、第1のヘッドバルブ208Aの閉状態及び開状態において、上記PT17に該当する場合は、第1のヘッドバルブ208Aは正常であり、PT17以外の場合は第1のヘッドバルブ208Aが異常箇所として特定される。
【0172】
第2のヘッドバルブ208Bの異常判定については、図10のPT18に示した通りであり、その判定の詳細については第1のヘッドバルブ208AにおけるPT17と同様であるので説明は省略する。
【0173】
次に、条件式(N1)(N2)(N3)(N4)が不成立、且つ、条件式(N5)(N6)が成立の場合(図10のPT19)、送液前後の第2の温度センサ210Bの出力値が変化しているものの、ヘッドモジュール152Aに正常な温度のインクが供給されていないことから、バイパス流路216を通したインク循環が正常でないと推測され、バイパスバルブ208C又はバイパス流路216が異常箇所として特定される。
【0174】
また、条件式(N1)(N2)(N3)(N4)(N5)(N6)が成立の場合(図10のPT20)、供給流路202における第1の温度センサ210Aより上流側のインク漏れ、又は供給流路202、回収流路218の詰まりによりインクが供給流路202、回収流路218を流れていない、又は供給ポンプ204A、回収ポンプ204Bが動作していないことによりインクが供給流路202、回収流路218を流れていない、又は温度調整部206が動作していないためにインクの温度が変化していないと推定され、供給流路202、回収流路218のいずれかの箇所、又は供給ポンプ204A、回収ポンプ204B、又は温度調整部206が異常箇所として特定される。
【0175】
また、条件式(N1)(N2)(N3)が不成立、且つ、条件式(N4)(N5)(N6)が成立の場合(図10のPT11)から、その後条件式(N4)が不成立に遷移した場合(図10のPT22)、ヘッドモジュール152Aのリークによる第2の温度センサ210Bへのインク流入が推定され、ヘッドモジュール152Aが異常箇所として特定される。同様に、条件式(N5)が不成立に遷移した場合(図10のPT22)は、ヘッドモジュール152Bのリークによる第3の温度センサ210Cへのインク流入が推定され、ヘッドモジュール152Bが異常箇所として特定される。
【0176】
以上のように、インク供給系の異常の有無と異常個所の特定を行い、異常がないと判断した場合にはインク供給系の本稼働を開始し、異常があると判断した場合には、異常箇所の通知を行う。
【0177】
以上説明したように第2の実施形態によれば、インクタンク200と複数のヘッドモジュール152との間でインク循環が行われるインク供給系において、本稼働が開始される前に、温度調整部206においてインクが温調されるとともに供給ポンプ204Aによりインクが供給され、回収ポンプ204Bによりインクが回収される。この送液前後における供給流路202の温度及び各ヘッドモジュール152の温度が第1〜第3の温度センサ210A、210B、210Cによって計測される。そして、第1〜第3の温度センサによるそれぞれの計測値を比較することにより、インク供給系の異常の有無を判断するだけでなく、異常箇所を特定することが可能となる。これにより、インク供給系に異常が発生した場合には早急な修復が可能となり、安定且つ信頼性の高いインク供給を実現することができる。また、インクジェット記録装置10の安定した印刷も保証することが可能となる。
【0178】
また、第2の実施形態に係るインク供給系では、ヘッドモジュール152内のインクに所定の背圧(負圧)が付与されつつ、供給流路202の液体圧力が回収流路218の液体圧力よりも相対的に高くなるように圧力制御が行われる。これにより、インクタンク200から供給されるインクは、インク吐出動作の有無にかかわらず、ヘッドモジュール152内部のインク流路(特にノズル近傍)を常に循環するようになり、インク増粘等による吐出不良を防止でき、良好な印刷品質を長時間にわたって維持することができる。
【0179】
なお、本実施形態では、ヘッド150は2つのヘッドモジュール152から構成されているが、3つ以上のヘッドモジュール152から構成されていてもよい。ヘッドモジュール毎に温度センサを有していれば、各ヘッドモジュールへの分岐流路でのインク漏れや、各ヘッドモジュールにおけるヘッドリークの検出が可能である。
【0180】
また本発明に用いる温度センサは、異常判定用に備えられたものでなくてもよい。例えば、温度調整部に設けられた温度センサや、インク流路内に予め設けられている圧力センサの校正用の温度センサ、ヘッドモジュール内に予め設けられている温度制御フィードバック用の温度センサ等を流用してもよい。
【0181】
以上、本発明の液体供給系の異常判定装置及び異常判定方法について詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0182】
10…インクジェット記録装置、50、150…ヘッド、72…システムコントローラ、100、200…インクタンク、102、202…供給流路、104、204A…供給ポンプ、106、206…温度調整部、108、208A、208B…ヘッドバルブ、110A、210A…第1の温度センサ、110B、210B…第2の温度センサ、152…ヘッドモジュール、204B…回収ポンプ、208C…バイパスバルブ、210C…第3の温度センサ、212、214…分岐流路、216…バイパス流路、218…回収流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体タンクから液体吐出ヘッドに供給流路を通じて液体を供給する液体供給系の異常判定装置であって、
前記液体タンク内の液体を前記供給流路へ供給する供給ポンプと、
前記供給流路中の液体を所定の温度に温調する温調手段と、
前記温調手段による温調後の液体の温度を計測可能な複数の温度センサであって、前記液体供給系のそれぞれ異なる位置に備えられた複数の温度センサと、
前記供給ポンプによる液体の供給開始前であって前記温調手段による温調開始前に、前記複数の温度センサから各位置における送液前温度を取得する送液前温度取得手段と、
前記供給ポンプによる液体の供給開始後であって、前記温調手段による温調開始後に、前記複数の温度センサから各位置における送液後温度を取得する送液後温度取得手段と、
前記取得した送液前温度及び送液後温度に基づいて、前記液体供給系の異常判断及び異常箇所の特定を行う異常判定手段と、
を備えたことを特徴とする液体供給系の異常判定装置。
【請求項2】
前記異常判定手段は、前記各位置における送液前温度がそれぞれ略同じ温度であり、且つ各位置における送液後温度が前記温調手段の温調温度と略同じ温度であり、且つそれぞれの位置において送液前温度と送液後温度とに変化がある場合に、前記液体供給系を正常と判断することを特徴とする請求項1に記載の液体供給系の異常判定装置。
【請求項3】
前記異常判定手段は、前記各位置における送液前温度がそれぞれ略同じ温度でない場合に、前記複数の温度センサを異常個所として特定することを特徴とする請求項1又は2に記載の液体供給系の異常判定装置。
【請求項4】
前記異常判定手段は、前記各位置における送液前温度がそれぞれ略同じ温度であり、且つ各位置における送液後温度がそれぞれ略同じ温度であり、且つそれぞれの位置において送液前温度と送液後温度とに変化がない場合に、前記供給流路、前記供給ポンプ、前記温調手段を異常個所として特定することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の液体供給系の異常判定装置。
【請求項5】
前記異常判定手段は、前記各位置における送液前温度がそれぞれ略同じ温度であり、且つ送液後温度が前記温調手段の温調温度と略同じ温度である第1の位置と前記温調手段の温調温度とは異なる温度である第2の位置とがある場合に、前記第1の位置と前記第2の位置との間を異常個所として特定することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の液体供給系の異常判定装置。
【請求項6】
前記複数の温度センサのうち、少なくとも1つは前記液体吐出ヘッドに備えられており、
前記異常判定手段は、前記液体吐出ヘッドを異常個所として特定可能なことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の液体供給系の異常判定装置。
【請求項7】
前記液体吐出ヘッドは複数のヘッドモジュールからなるラインヘッドであり、
前記供給流路には、ヘッドモジュール毎に設けられた分岐流路を介して前記複数のヘッドモジュールがそれぞれ接続され、
前記複数のヘッドモジュールは、ヘッドモジュール毎に少なくとも1つの温度センサを備え、
前記異常判定手段は、前記ヘッドモジュールを異常個所として特定可能なことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の液体供給系の異常判定装置。
【請求項8】
前記供給流路を開閉可能に構成された電磁バルブを備え、
前記異常判定手段は、前記電磁バルブを異常箇所として特定可能なことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の液体供給系の異常判定装置。
【請求項9】
前記液体吐出ヘッドから前記液体タンクに液体を回収するための回収流路と、
前記液体吐出ヘッド内の液体を前記回収流路へ回収する回収ポンプと、
を備え、
前記異常判定手段は、前記回収流路及び前記回収ポンプを異常箇所として特定可能なことを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の液体供給系の異常判定装置。
【請求項10】
前記液体吐出ヘッドを介さずに前記供給流路と前記回収流路との間を直接接続するバイパス流路と、
前記バイパス流路を開閉可能に構成されたバイパス流路用電磁バルブと、
を備え、
前記異常判定手段は、前記バイパス流路及び前記バイパス流路用電磁バルブを異常箇所として特定可能なことを特徴とする請求項9に記載の液体供給系の異常判定装置。
【請求項11】
前記異常判定手段は、前記液体供給系の本稼働が開始される前に異常判断及び異常箇所の特定を行うことを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の液体供給系の異常判定装置。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の液体供給系の異常判定装置をインク供給部に有することを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項13】
液体タンクから液体吐出ヘッドに供給流路を通じて液体を供給する液体供給系の異常判定方法であって、
前記液体供給系は、前記液体タンク内の液体を前記供給流路へ供給する供給ポンプと、前記供給流路中の液体を所定の温度に温調する温調手段と、前記温調手段による温調後の液体の温度を計測可能な複数の温度センサであって、前記液体供給系のそれぞれ異なる位置に備えられた複数の温度センサとから構成され、
前記供給ポンプによる液体の供給開始前であって前記温調手段による温調開始前に、前記複数の温度センサから各位置における送液前温度を取得する工程と、
前記供給ポンプによる液体の供給開始後であって、前記温調手段による温調開始後に、前記複数の温度センサから各位置における送液後温度を取得する工程と、
前記取得した送液前温度及び送液後温度に基づいて、前記液体供給系の異常判断及び異常箇所の特定を行う工程と、
を備えたことを特徴とする液体供給系の異常判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−189632(P2011−189632A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57870(P2010−57870)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】