説明

液体供給装置及び液体噴射装置

【課題】液体収容部と液体噴射ヘッドとを接続する複数本の流路の途中に設けられた各ポンプを共通の動力源で駆動する構成としても、比較的簡単な構成で、各ポンプの出力側の液圧のばらつきを小さく抑えることができる液体供給装置及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】電動モーター55の駆動により回転する磁石回転体54は、その外周部にN極とS極が交互に配列された磁極部54aを有する。磁石回転体54の周囲にはギアポンプ41の磁性体からなる駆動ギア51が配置されている。磁石回転体54が回転すると、磁力により駆動ギア51が回転し、ギアポンプ41はインクを吸引して記録ヘッド22側へ吐出する。記録ヘッド22のインク消費量の少ないギアポンプ41ではその吐出流路47側のインク圧が高くなって駆動ギア51が受ける負荷が大きくなるため、磁石回転体54と駆動ギア51との間の接続に滑りが発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体収容部と液体噴射ヘッドとを接続する供給流路の途中にポンプを備えた液体供給装置及び液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の液体噴射装置の一例として、例えば記録ヘッド(液体噴射ヘッド)のノズルから用紙等の媒体にインク(液体)を噴射して印刷を行うインクジェット式プリンターが広く知られている(例えば特許文献1)。この種のプリンターには、インクカートリッジ(液体収容部)から記録ヘッドへインクを供給するインク供給装置(液体供給装置)が設けられている。例えば特許文献1には、インクカートリッジと記録ヘッドとの間の供給流路の途中にダイヤフラム式ポンプを備えたインク供給装置が開示されている。
【0003】
近年、比較的粘度の高いインクが使用される場合があるが、ダイヤフラム式ポンプのような往復式ポンプは、高粘度のインクを確実に圧送することがやや困難な場合があった。このため、高粘度のインクを扱うプリンターでは、インクを確実に圧送できるギアポンプ等の回転式ポンプが使用される。例えば特許文献2では、サブタンクと記録ヘッドとを接続する流路(循環流路)の途中にギアポンプ(循環ポンプ)が設けられたプリンターが開示されている。また、特許文献3には、インクタンクと記録ヘッドとをインクの色数と同数の複数本の流路で接続し、各流路の途中にギアポンプがそれぞれ設けられたインクジェット式プリンターが開示されている。
【0004】
ところで、複数のインクカートリッジと記録ヘッドとを接続するインク色と同数の複数本の流路の途中に1個ずつギアポンプを設ける構成において、ギアポンプ毎に、モーター(動力源)と伝達ギアを設けると、部品点数が増え、配設スペース及びコストが増大する。このため、複数のギアポンプを1つの共通の動力源で駆動させる構成とし、部品点数の低減を図ることが望ましい。
【0005】
この場合、プリンターが印刷中、全てのギアポンプが常に回転することになる。プリンターは印刷する色により使用するインクが異なるため、必ずしも各色一定の消費量にならない。そのため、消費量の多い色に合わせた回転速度でギアポンプを駆動させると、使用量の少ないインクはギアポンプの出力側(吐出側)のインク圧が上がり過ぎてしまう。ポンプの出力側のインク圧が上がり過ぎると、インクの1ドット当たりの噴射量が増え、印刷された画像の色目が変わってしまう。
【0006】
この種の問題を解決するため、例えば特許文献4には、動力源とポンプ(チューブポンプ)との間にソレノイド式のクラッチを備えたインク供給装置が開示されている。すなわち、このインク供給装置では、インク収容部と記録ヘッドとの間を接続する複数本の流路の途中に設けられたポンプ毎に、その出力側(吐出側)のインク圧を検出する圧力センサーと、動力源と各ポンプとの間の動力伝達経路をポンプ毎に個別に接続/遮断するソレノイド式のクラッチが設けられていた。そして、ポンプの出力側のインク圧が閾値を超えると、そのポンプに対応するクラッチを遮断してポンプの駆動が停止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−166473号公報(図1等)
【特許文献2】特開2006−159811号公報(図6等)
【特許文献3】特開平6−328723号公報(図1、図2等)
【特許文献4】特開2009−51050号公報(図5、図7等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献4に開示されたインク供給装置では、インク圧を検出する圧力センサーやソレノイド式のクラッチをポンプ毎に設ける必要がある。このため、部品点数の増加によりインク供給装置の構造が複雑になるうえ、制御部が圧力センサーの検出圧に応じてクラッチを切り換える制御をポンプ毎に行う必要があるので、インク供給装置の制御が複雑になって制御部の負担が増大するという問題がある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、複数の液体収容部と液体噴射ヘッドとを接続する複数の供給流路の途中に設けられた各ポンプを共通の動力源で駆動する構成としても、比較的簡単な構成で、各ポンプの出力側の液圧の流路間のばらつきを小さく抑えることができる液体供給装置及び液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の態様の一つは、液体収容部から液体噴射ヘッドへ液体を供給する液体供給装置であって、複数の前記液体収容部と前記液体噴射ヘッドとの間を接続する複数の供給流路の途中に一つずつ設けられた複数の回転式のポンプと、複数の前記ポンプを駆動する共通の動力源と、前記動力源から前記各ポンプに伝達される動力を調整する動力伝達調整手段であって、前記供給流路のうち前記ポンプから液体が吐出される吐出流路内の液圧により前記ポンプが受ける負荷が、接続限界以下であるうちは前記動力源からの動力を前記ポンプに伝達可能に接続され、前記負荷が前記接続限界を超えると、前記動力源からの動力を前記ポンプに伝達するための接続に滑りが発生して、前記動力の伝達を遮断もしくは伝達される動力を低減する前記動力伝達調整手段と、を備えたことを要旨とする。
【0011】
上記構成によれば、複数の液体収容部から液体噴射ヘッドへの液体の供給は、液体収容部と液体噴射ヘッドとの間を接続する複数の供給流路の途中に一つずつ設けられた複数の回転式のポンプが駆動されることにより行われる。複数のポンプは、共通の動力源からの動力により駆動される。このとき、ポンプの吐出流路(液体噴射ヘッド側の流路)内の液圧は、各流路の液体が液体噴射ヘッドから噴射された消費量の違いにより異なる。ここで、仮に各ポンプから一律の量の液体が吐出されたとすると、液体噴射ヘッドにおける液体消費量の少ない吐出流路内の液圧が相対的に高くなり、液体噴射ヘッドにおける液体消費量の多い吐出流路内の液圧が相対的に低くなる。このため、各ポンプと液体噴射ヘッドとを接続する部分の供給流路内の液圧にばらつきが発生する。この供給流路間の液圧のばらつきは、液体噴射ヘッドにおける供給流路別の噴射口(例えばノズル)からの液体噴射量のばらつきの原因になる。しかし、本発明の一実施態様によれば、吐出流路内の液圧によりポンプが受ける負荷が、接続限界以下であるポンプについては、動力伝達調整手段が動力源からの動力をポンプに伝達可能に接続される。一方、ポンプが受ける駆動負荷が接続限界を超えるポンプについては、動力源からの動力をポンプに伝達するための動力伝達調整手段の接続に滑りが発生して、動力の伝達が遮断もしくは伝達される動力が低減される。従って、複数の供給流路の途中に設けられた各ポンプを共通の動力源で駆動する構成としても、比較的簡単な構成で、ポンプの出力側の液圧の流路間のばらつきを小さく抑えることができる。なお、動力伝達調整手段による動力を伝達する接続は、磁力を利用して動力を伝達する非接触な接続でもよいし、摩擦面を介して動力を伝達する摩擦クラッチ等による接続でもよい。
【0012】
本発明の態様の一つである液体供給装置では、前記ポンプは、ポンプ室内に回転可能に設けられたポンプ駆動体を有し、前記動力伝達調整手段は、前記動力源からの動力によって回転するとともに外周面に異なる磁極が交互に設けられた磁極部を有する1つ又は複数の磁石回転体と、前記各ポンプ駆動体の少なくとも外周部に設けられた磁性体とを備え、複数の前記ポンプ駆動体は前記磁石回転体の磁極部との間に磁力が作用しうる間隔をあけて配置され、前記磁石回転体と前記ポンプ駆動体とは前記磁力を介して動力伝達可能に接続されることが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、動力源からの動力によって1つ又は複数の磁石回転体が回転すると、磁石回転体の外周面に異なる磁極が交互に設けられた磁極部と、各ポンプ駆動体の少なくとも外周部に設けられた磁性体との間に発生する磁力を介して磁石回転体とポンプ駆動体とは動力伝達可能に接続される。ポンプの吐出流路側の液圧が高くなってポンプ駆動体にかかる負荷が接続限界を超えると、磁力を介した接続に滑りが発生し、ポンプの駆動が減速又は停止する。一方、ポンプの吐出流路側の液圧が低く負荷が接続限界以下の場合は、磁力を介して動力伝達可能に接続され、ポンプは駆動する。そして、ポンプ室の外部から磁力を介して非接触でポンプ駆動体に動力を伝達できるので、ポンプ室からの液漏れが発生しにくくなる。
【0014】
本発明の態様の一つである液体供給装置では、前記磁石回転体は1つ設けられ、前記各ポンプを構成する複数の前記ポンプ駆動体は、1つの前記磁石回転体の前記磁極部との間に磁力が作用しうる間隔をあけた状態で当該磁石回転体の外周面に沿って配列されていることが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、1つの磁石回転体が回転することにより、各ポンプを構成する複数のポンプ駆動体に磁力を介して非接触で動力を伝達できるので、動力伝達調整手段の部品点数も少なく済む。
【0016】
本発明の態様の一つである液体供給装置では、前記ポンプは、ポンプ室内に回転可能に設けられたポンプ駆動体を有し、前記動力伝達調整手段は、前記動力源の動力を前記各ポンプ駆動体へ個別に伝達する動力伝達経路上に設けられた摩擦クラッチであることが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、液体消費量の少ない液体噴射ヘッドに対応するポンプにおいてその吐出流路側の液圧が高くなってポンプ駆動体が受ける負荷が大きくなると、摩擦クラッチの接続に滑りが発生し、ポンプが減速又は停止する。一方、ポンプの吐出流路側の液圧が低くなってポンプが受ける負荷が小さくなると、摩擦クラッチが滑りなく接続した状態でポンプが駆動される。動力伝達調整手段が摩擦クラッチなので、比較的簡単な構成で動力伝達調整を実現できる。
【0018】
本発明の態様の一つである液体供給装置では、前記摩擦クラッチは、前記動力源の動力により回転する回転軸と、前記回転軸に相対回転可能に設けられた前記ポンプ駆動体との間に介装されていることが好ましい。
【0019】
上記構成によれば、摩擦クラッチは、動力源の動力により回転する回転軸と、前記回転軸に相対回転可能に設けられたポンプ駆動体との間に介装されているので、比較的コンパクトに構成できる。
【0020】
本発明の態様の一つである液体供給装置では、流路用の溝が形成された流路形成部材と当該流路形成部材における前記溝が形成された面に接着されたフィルムとを有し、前記溝と前記フィルムとにより区画形成された吸引流路と前記吐出流路との間に前記各ポンプが内蔵された基体を備え、前記基体には、1つの磁石回転体が内蔵され、複数の前記ポンプは前記磁石回転体を中心として放射状に配置されていることが好ましい。
【0021】
上記構成によれば、複数のポンプを備えた液体供給装置の薄型化を実現できる。
本発明の態様の一つは、液体噴射ヘッドと、液体収容部から供給流路を通じて送られてきた液体を前記ポンプが吐出することにより前記液体噴射ヘッドへ液体を供給する上記発明に係る液体供給装置と、前記液体噴射ヘッドが液体を噴射する対象とする媒体を搬送する搬送手段と、を備えたことを要旨とする。上記液体噴射装置によれば、液体供給装置を備えるので、液体供給装置と同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1実施形態におけるプリンターの概略平面図。
【図2】プリンターのインク供給系を示す模式断面図。
【図3】インク供給装置を示す概略平面図。
【図4】インク供給装置を示す概略底面図。
【図5】ギアポンプの駆動原理を説明する部分平面図。
【図6】第2実施形態におけるインク供給装置を示す模式断面図。
【図7】ギアポンプの概略構成を示す模式平面図。
【図8】変形例におけるインク供給装置を示す概略側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1実施形態)
以下、本発明の液体噴射装置をインクジェット式プリンターに具体化した第1実施形態を、図1〜図5を用いて説明する。
【0024】
図1に示すように、液体噴射装置としてのインクジェット式プリンター11は平面視矩形状をなす本体フレーム12を備えており、この本体フレーム12内には支持台13が主走査方向X(図1では左右方向)に沿って延設されている。本体フレーム12の側端部に配設された搬送モーター14の動力により搬送ローラー対15,16が駆動されることにより用紙P(図1では二点鎖線で示す)が支持台13上を副走査方向Y(図1では下方向)に沿って搬送される。なお、本実施形態では、搬送モーター14及び搬送ローラー対15,16等により、搬送手段の一例が構成される。
【0025】
また、本体フレーム12内の支持台13の上方位置には、主走査方向Xに延びる棒状のガイド軸17が架設されている。このガイド軸17には、キャリッジ18が主走査方向Xに沿って往復移動可能な状態で支持されている。キャリッジ18は、本体フレーム12の後壁内面に設けられた一対のプーリー19a,19b間に掛装された無端状のタイミングベルト20の所定箇所に固定されている。一方のプーリー19aは、本体フレーム12の背面に配設されたキャリッジモーター21の出力軸が連結されている。したがって、キャリッジ18は、キャリッジモーター21が正逆転駆動されることにより、ガイド軸17に沿って往復移動する。
【0026】
図1に示すように、キャリッジ18における支持台13と対向する下面側には、液体噴射ヘッドの一例である記録ヘッド22が取り付けられている。また、キャリッジ18には、記録ヘッド22に供給される液体の一例であるインクの圧力調整等を行うバルブユニット23がインク色と同数搭載されている。記録ヘッド22の下面をなすノズル形成面22aには、複数のノズル24(いずれも図2参照)が開口しており、記録ヘッド22がノズル24から支持台13上に搬送された用紙Pにインク滴を噴射することで印刷が行われる。
【0027】
本体フレーム12内の図1における右端部にはカートリッジホルダー25が設けられており、カートリッジホルダー25には、互いに種類(色)の異なるインクを収容した複数個(本実施形態では6個)の液体収容部の一例であるインクカートリッジ26がそれぞれ着脱自在に装着されている。カートリッジホルダー25は、その下側に配置されたポンプシステムからなるインク供給装置27と複数本(本実施形態では6本)のインク供給チューブ28(図2参照)を通じて接続されている。そして、インク供給装置27は、キャリッジ18に搭載されたバルブユニット23と複数本(本実施形態では6本)のインク供給チューブ29を通じて接続されている。そして、各インクカートリッジ26がカートリッジホルダー25に装着された状態では、各インクカートリッジ26が各インク供給チューブ28を通じてインク供給装置27と連通され、さらにインク供給装置27は各インク供給チューブ29を通じてバルブユニット23を介して記録ヘッド22と連通する。インク供給装置27は、各インクカートリッジ26からのインクを吸引して記録ヘッド22側へ吐出する。なお、本実施形態では、インク供給装置27が液体供給装置の一例となる。
【0028】
また、図1に示すように、本体フレーム12内における右端部寄りの位置であって、キャリッジ18の非印刷時の待機位置となるホームポジション領域には、記録ヘッド22のクリーニング等のメンテナンスを行うメンテナンス装置30が設けられている。メンテナンス装置30は、記録ヘッド22のノズル形成面22a(図2参照)に当接して各ノズル24の開口を囲う状態にキャッピングするキャップ31を備えている。
【0029】
次に、インク供給装置27を備えたインク供給系の構成を図2に従って説明する。なお、図2は便宜上、一つのインク供給系のみ示している。
図2に示すように、インクカートリッジ26は、インクIが収容された略箱体形状のケース32を備え、ケース32の下壁からインク室32a内に連通するように下方に向けて突出する筒部33の開口端(下端)が、インクIを導出可能なインク供給口33aとなっている。そして、カートリッジホルダー25の上面に突設されたインク供給針25aが、インクカートリッジ26のインク供給口33aに挿入されることにより、インクカートリッジ26はカートリッジホルダー25及びインク供給チューブ28を通じてインク供給装置27と連通している。
【0030】
インク供給装置27は、ギアポンプ方式を採用するポンプシステムであり、その四角板状の基体40には、インクカートリッジ26の個々に対応する複数個(本例では6個)のギアポンプ41(但し図2では2個のみ図示)が内蔵されている。なお、本実施形態では、ギアポンプ41により、回転式のポンプの一例が構成される。
【0031】
基体40の図2における上面の一端部(図2では右端部)には、複数(6つ)の吸引管部42が突出している。また、基体40の図2における上面の他端部(図2では左端部)には複数(6つ)の吐出管部43が突出している。吸引管部42には、カートリッジホルダー25の下面からインク供給針25aと連通する状態で下方へ突出する各管部25bに一端部が接続されたインク供給チューブ28の他端部が接続されている。また、吐出管部43には、キャリッジ18に搭載されたバルブユニット23に一端部が接続されたインク供給チューブ29の他端部が接続されている。
【0032】
基体40の内部には、6つの吸引管部42と6つの吐出管部43とをそれぞれ個別に連通する6本のインク流路44が形成されている。そして、6本のインク流路44の途中に、それぞれ1個ずつのギアポンプ41が配置されている。詳しくは、インク流路44は、吸引管部42からギアポンプ41のポンプ室45までを連通する吸引流路46と、ポンプ室45から吐出管部43までを連通する吐出流路47とを備える。
【0033】
ポンプ室45内には、ギアポンプ41を構成する駆動ギア51と従動ギア52とが、互いの歯部51a,52aを噛み合わせた状態、且つそれぞれ回転可能な状態で収容されている。駆動ギア51が回転すると、歯部51a,52aの噛み合いを介して伝達される回転力により、従動ギア52が駆動ギア51と同期して回転する。
【0034】
基体40の中央位置に形成された円筒状の収容室53には、円板状の磁石回転体54(マグネット回転体)が、その軸心を各ギア51,52の軸心と平行にする姿勢に配置された状態で且つ回転可能な状態で収容されている。この磁石回転体54の軸心部には、動力源の一例である電動モーター55の出力軸55aが連結されている。よって、電動モーター55が駆動されることにより磁石回転体54は回転する。磁石回転体54の外周部には、N極とS極が周方向に沿って交互に着磁されてなる磁極部54aが形成されている。本実施形態では、磁石回転体54の外周面に、複数の磁石片を表面がN極とS極で交互に変わる配列で接着することで磁極部54aが形成されている。もちろん、円板状の磁性体の外周面に着磁用コイルを接近させて配置し、着磁用コイルに電流を流し、その磁性体の外周面を着磁してN極とS極が交互に配列される磁極部54aを形成した構成も採用できる。なお、制御部Cは、プリンター11の印刷中において、電動モーター55を予め決められた一定の駆動速度で駆動する。
【0035】
一方、駆動ギア51は磁性体からなり、本例では鉄製の金属焼結体により形成される。駆動ギア51はその全体を磁性体としているが、少なくとも歯部51aが磁性体であれば足りる。各駆動ギア51は、磁石回転体54との間に磁力が作用しうる所定のギャップを隔てた状態で、磁石回転体54の外周面と対向する位置にそれぞれ配置されている。なお、本実施形態では、磁石回転体54と、駆動ギア51のうち磁力線が通る歯部51aを含む部分とにより、動力伝達調整手段が構成される。
【0036】
そして、磁石回転体54が回転すると、磁極部54aと歯部51aとの間に発生する磁力の作用により、駆動ギア51が連れ回りする。こうして駆動ギア51が回転することでギアポンプ41が駆動する。ギアポンプ41が駆動すると、吸引流路46側のインクIが吸引口67(図3参照)からポンプ室45内へ吸引されるとともに、ポンプ室45において歯部51a,52aの噛合箇所を挟んで吸引口67と反対側に位置する吐出口68(図3参照)から吐出流路47へ向かってインクIが吐出される。そして、ギアポンプ41が吐出流路47へ吐出したインクIは、インク供給チューブ29を通じてキャリッジ18に搭載されたバルブユニット23に供給される。
【0037】
図2に示すように、インク供給装置27からバルブユニット23に供給されたインクは、各バルブユニット23の調圧機能により所定のインク圧に調整されつつ記録ヘッド22へ供給される。記録ヘッド22のノズル形成面22aには、インクカートリッジ26の個数と同数の6列のノズル24が開口しており、各バルブユニット23からのインクはそれぞれノズル24に連通するインク室に供給される。6列のノズル24は、図2における紙面直交方向に一定のノズルピッチで配列された1列当たり複数個(例えば180個)ずつ設けられている。
【0038】
記録ヘッド22内には、ノズル24に連通するインク室に隣接して、例えば圧電素子、静電素子あるいはヒーターよりなる噴射駆動素子(図示せず)がノズル24毎に設けられている。噴射駆動素子に通電されると、噴射駆動素子がインク室内のインクに噴射圧を付与し、この噴射圧によりインク室に連通するノズル24からインク滴が噴射される。ノズル24から噴射されるインク滴のサイズは、噴射圧が付与される直前にノズル24内に溜まっているインク量に依存する。このため、バルブユニット23の上流側のインク圧が高く、バルブユニット23の開弁時に相対的に多量のインクが記録ヘッド22側へ供給された場合には、ノズル24内に溜まるインク量が相対的に多くなる傾向がある。
【0039】
本例のバルブユニット23は、インク供給装置27から供給される各インクを所定のインク圧に調整しつつ記録ヘッド22側へ供給するバルブ23aを備える。このバルブ23aは、ノズル24からインクを噴射して消費されたインク量に相当する分量のインクを補給する開閉弁である。本実施形態のバルブ23aは、弁室内のインク圧と、弁室の一部を形成するダイヤフラムの外側の大気圧との差圧を利用して開閉するダイヤフラム式の差圧弁である。もちろん、バルブ23aは、インクの補充機能と調圧機能とを有していればその他の構造の差圧弁でもよい。
【0040】
バルブ23aは、インクが消費されて弁室内のインク圧が低下すると、差圧によって弁体が開弁位置に変位することで、弁室に上流側(ギアポンプ41側)のインクが流入する。このため、インク色別の複数のバルブ23aのうち、ノズル24から噴射されるインク消費量が相対的に少ないバルブ23aでは、ギアポンプ41の出力側(吐出側)(吐出流路47側)のインク圧(液圧)が過剰に高くなり、その開弁時に弁室へ流入するインク量が正常圧のときに比べ増大し、弁室からノズル24までのインク流路35内のインク量が増える。この場合、噴射直前のノズル24内に溜まったインク量が過剰な状態でインクの噴射が行われることになるため、ノズル24からの1回当たりのインク噴射量が多くなる。なお、バルブユニット23と記録ヘッド22との間にさらに他の差圧弁が存在する場合も、その差圧弁の上流側のインク圧が過剰に高くなったときには、同様にノズル24内に溜まるインク量が増大する。なお、本実施形態では、インク供給チューブ28,29と、インク供給装置27内のインク流路44(吸引流路46と吐出流路47)と、インク流路35とにより、供給流路の一例が構成される。
【0041】
本実施形態のインク供給装置27は、回転する磁石回転体54と駆動ギア51との間に発生する磁力を介してギアポンプ41が駆動される方式であるので、ギアポンプ41の出力側のインク圧が高くなって駆動ギア51が受けるその高いインク圧に起因する駆動負荷が接続限界を超えると、磁石回転体54と駆動ギア51との間の接続に滑りが発生する。このため、その滑りによりギアポンプ41の回転速度が相対的に低下し、そのギアポンプ41のインク吐出量が低減する。このため、ギアポンプ41の出力側のインク圧が過剰に高くなることが回避される。
【0042】
次に、インク供給装置27の詳細な構成を図2〜5に基づいて説明する。
図2に示すように、インク供給装置27を構成する基体40は、四角板状の合成樹脂製の流路形成部材61と、流路形成部材61にポンプ室45及び収容室53のために形成された凹部61aに蓋をする蓋体62と、流路形成部材61にインク流路44のために形成された溝61bの形成面(裏面)に溶着により貼り付けられたフィルム63とを備える。流路形成部材61は、図2における上面右端部に突設された吸引管部42と、その上面左端部に突設された吐出管部43とを有している。
【0043】
凹部61aは、各ポンプ室45の一部を形成する6個(但し、図2では2個)のポンプ室用の凹部65と、収容室53の一部を形成する1個の収容室用の凹部66とを含む。各凹部65内に駆動ギア51と従動ギア52が噛合する状態で収容され、流路形成部材61の中央位置に形成された凹部66には、磁石回転体54が回転可能な状態で収容されている。そして、流路形成部材61の凹部61aに板状の蓋体62が固定されることで、基体40内にポンプ室45と収容室53とが区画形成される。電動モーター55の出力軸55aは、蓋体62の略中央位置に貫通する挿通孔62aに挿通されている。蓋体62は、その周縁部で流路形成部材61に対して液密状態にシールされている。
【0044】
図3に示すように、ポンプ室用の凹部65は、流路形成部材61の一方の面(表面)に、平面視で2つの円を一部重ねた外形形状をなしている。そして、6つの凹部65は、収容室用の凹部66を中心として、その長手方向(凹部65に収容された際の各ギア51,52の軸線を結んだ方向)が放射方向と一致する向きで、放射状に配置されている。そして、凹部65内には、凹部66側に駆動ギア51、凹部66から離れた側に従動ギア52が位置するように、両ギア51,52がそれぞれ収容されている。収容室用の凹部66と、ポンプ室用の凹部65との間の隔壁は、凹部66に収容された磁石回転体54の磁極部54aの磁力が、各凹部65に収容された駆動ギア51に及びうる所定のギャップが、磁石回転体54と駆動ギア51との間に確保できる厚さに設定されている。また、複数個の駆動ギア51を、磁石回転体54の周囲に放射状に配置することで、各駆動ギア51に動力(磁力)を伝達する磁石回転体54が、各駆動ギア51に共通の1つで済むようにしている。
【0045】
図3に示すように、ポンプ室45の底面には、各ギア51,52の噛合箇所を挟んだ両側に吸引口67と吐出口68が開口している。ギアポンプ41が駆動されたときには、吸引流路46内のインクが吸引口67からポンプ室45内に吸引されるとともに、ポンプ室45内のインクが吐出口68から吐出流路47へ吐出される。
【0046】
図4に示すように、流路形成部材61の他の面(裏面)には、吸引管部42とポンプ室45との間を連通する吸引流路46の一部を形成する6本の溝71と、吐出管部43とポンプ室45との間を連通する吐出流路47の一部を形成する6本の溝72とが形成されている。
【0047】
溝71の両端部は、吸引管部42と相対する位置で流路形成部材61を厚み方向に貫通して吸引管部42と連通する貫通孔46aと、吸引口67と相対する位置で流路形成部材61を厚み方向に貫通して吸引口67と連通する貫通孔46bとに連通している。また、溝72の両端部は、吐出口68と相対する位置で流路形成部材61を厚み方向に貫通して吐出口68と連通する貫通孔47aと、吐出管部43と相対する位置で流路形成部材61を厚み方向に貫通して吐出管部43と連通する貫通孔47bとに連通している。そして、流路形成部材61の裏面にフィルム63が例えば熱溶着で接合されることにより、溝71とフィルム63とで囲み形成された部分と、貫通孔46a,46bとにより、吸引流路46が形成されている。また、溝72とフィルム63とで囲み形成された部分と、貫通孔47a,47bとにより、吐出流路47が形成されている。なお、流路を形成するフィルム63には、フィルムを空気がガス透過してインク中に溶解することを効果的に防止できるガス透過性材料(例えばアルミ蒸着フィルム)が使用されている。
【0048】
また、駆動ギア51の軸部51bが、流路形成部材61の凹部65の底面と蓋体62の内面との対応する位置に設けられた各軸穴に挿通されることにより、駆動ギア51はポンプ室45内に回転可能な状態で保持される。また、従動ギア52についてもその軸部52bが、流路形成部材61の凹部65の底面と蓋体62の内面との対応する位置に設けられた各軸穴に挿通されることにより、従動ギア52はポンプ室45内に回転可能な状態で保持される。
【0049】
図5に示すように、磁極部54aのN極とS極は、駆動ギア51の歯部51aのピッチと同ピッチで形成されている。このため、図5に示すように、駆動ギア51の歯部51aと磁石回転体54の磁極部54aとの対向箇所において、磁極部54aの隣合うN極とS極との間に、駆動ギア51の隣合う2つの歯部51aを経由する経路で磁力線が形成される。すなわち、N極からその対向する歯部51aに入って隣の歯部51aからS極に戻る経路で磁力線が形成される。この磁力線により磁極部54aと歯部51aとの間に吸引力が働き、磁石回転体54の回転に伴い磁力線の形成される歯部51aが順次移動して、吸引力が連続的に働くことで、磁石回転体54の回転と共に駆動ギア51が連れ回りする。
【0050】
次に、上記のように構成されるインク供給装置27を備えたプリンター11の作用を説明する。
プリンター11が印刷中のときには、電動モーター55は制御部Cにより印刷モードに応じた一定の回転速度で駆動される。つまり、印刷中においては、電動モーター55は常に駆動される。電動モーター55が駆動されることにより磁石回転体54が回転する。磁石回転体54の磁極部54aと、駆動ギア51の歯部51aとの間に作用する磁力によって駆動ギア51は磁石回転体54と非接触で連れ回りする。
【0051】
駆動ギア51が回転すると、互いの歯部51a,52aの噛合を介して従動ギア52が回転し、吸引口67からインクがポンプ室45内に吸引されるとともに、ポンプ室45内のインクが吐出口68から吐出される。こうしてギアポンプ41の吐出力によりインクカートリッジ26から記録ヘッド22側へインクが供給される。ノズル24からインクが噴射されてインクが消費されると、バルブ23aの弁室内のインクが減量して減圧し、その減圧による差圧に基づきバルブ23aが開弁し、記録ヘッド22側へインクが流入する。
【0052】
ここで、電動モーター55の駆動速度は、複数色(本例では6色)のインクのうち最もノズル24からインク消費量の多い色のインクに合わせて決められている。つまり、印刷モードに応じて決まる想定最大インク消費速度に応じて電動モーター55の駆動速度は決められる。このため、プリンター11が印刷中、全てのギアポンプ41が常に回転することになる。
【0053】
このため、ノズル24からの噴射によるインク消費量が相対的に少なく、ギアポンプ41の出力側のインク圧が高まって、その出力側のインク圧によりギアポンプ41が受ける駆動負荷が接続限界を超えると、磁力による磁極部54aと歯部51aとの間の接続に滑りが発生する。この結果、このギアポンプ41は、減速するか停止する。このため、ギアポンプ41の出力側のインク圧が過剰に高くなることが回避され、インク圧は許容範囲内の値に抑えられる。この結果、インクの1ドット当たりの噴射量のインク種間のばらつきが小さく抑えられ、印刷された画像の色目が変わってしまう不都合を回避できる。一方、ノズル24からの噴射によるインク消費量が相対的に多く、ギアポンプ41の出力側のインク圧がさほど高まらず、その出力側のインク圧によりギアポンプ41が受ける駆動負荷が接続限界以下のうちは、磁力による磁極部54aと歯部51aとの間の接続に滑りが発生しない。このため、ギアポンプ41は減速することなく規定速度で駆動され、必要なインク圧のインクを供給できる。
【0054】
以上詳述したように本実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)電動モーター55の動力を各ギアポンプ41へ伝達する伝達経路上に磁力式の動力伝達調整手段を設けた。このため、ギアポンプ41の駆動ギア51が吐出流路47内のインク圧により受ける駆動負荷が接続限界以下のうちは磁極部54aと歯部51aとの間に作用する磁力による接続がなされて動力が確実に伝達され、必要なインク圧でインクを供給できる。一方、駆動ギア51が受ける駆動負荷が接続限界を超えると、磁極部54aと歯部51aとの間に作用する磁力による接続に滑りが発生し、ギアポンプ41が減速又は停止する。この結果、記録ヘッド22におけるインク消費量が多く吐出流路47内のインク圧が相対的に低いギアポンプ41は駆動され、一方、記録ヘッド22におけるインク消費量が少なく吐出流路47内のインク圧が相対的に高いギアポンプ41は減速又は停止され、供給されるインクが減量又は停止される。この結果、各ギアポンプ41と記録ヘッド22とを接続する流路間のインク圧のばらつきを小さく抑えることができる。従って、記録ヘッド22のインク噴射量のインク間のばらつきを小さく抑えることができる。このため、印刷された画像に色目の変化が発生しにくく、高い印刷品質で印刷できる。
【0055】
(2)プリンター11が印刷中にあるときに常に電動モーター55を駆動させても、ギアポンプ41の出力側のインク圧が過剰に高くなることを防止できるので、記録ヘッド22へのインクの供給過多を回避できる。よって、例えばインク圧が過剰に高くなることを防止するために電動モーター55を速度制御する構成を採用した場合に必要になる、インク圧を検出するセンサーなどを設けなくて済む。このため、制御部Cは複数のセンサーの検出信号に基づいて電動モーター55を速度制御するなどの複雑な制御を行わずに済む。
【0056】
(3)電動モーター55の動力で回転する磁石回転体54の外周面に異なる磁極(N極とS極)が交互に配列された磁極部54aと、磁性体(金属焼結体)からなる駆動ギア51の歯部51aとが、磁力を介して接続される構成とした。このため、ポンプ室45の外側から磁力により非接触で動力を伝達できるので、ポンプ室45からのインク漏れを低減できる。
【0057】
(4)インク供給装置27は、インクカートリッジ26毎に1個ずつのギアポンプ41を設けた構成である。そして、全てのギアポンプ41に共通の1つの電動モーター55を設けている。このため、部品点数が少なく抑えられるうえ、配設スペース及びコストの増大を回避できる。
【0058】
(5)駆動ギア51を磁性体で形成するとともに、1つの磁石回転体54を設けただけなので、電動モーター55から駆動ギア51へ伝達される動力を調整する動力伝達調整手段を比較的簡単な構成で実現することができる。
【0059】
(6)インク供給装置27が、四角板状の基体40に複数個(例えば6個)のギアポンプ41を平面状に配置して内蔵させた薄型構造なので、配設スペースが少なく済み、例えばプリンター11の小型化に貢献できる。
【0060】
(第2実施形態)
次に第2実施形態を図6及び図7に基づいて説明する。第2実施形態では、動力伝達調整を摩擦クラッチにより実現した例である。なお、第1実施形態と同様の構成については同一の符号を付してその説明を省略し、特に異なる構成についてのみ説明する。
【0061】
図6に示すように、電動モーター55と各ギアポンプ41との間にはギア列から構成される動力伝達機構80が設けられている。動力伝達機構80は、電動モーター55の出力時55aに連結された大径の第1ギア81と、第1ギア81と噛合する状態で第1ギア81の周囲に沿って一定の間隔で配置された複数個(本例では6個)(但し、図6では2個のみ図示)の小径の第2ギア82とを備えている。各第2ギア82の軸心部に連結された各回転軸83は、蓋体62を貫通して各ギアポンプ41を構成する駆動ギア51の軸心部に連結されている。よって、電動モーター55が駆動されると、その動力が第1ギア81及び第2ギア82を介して駆動ギア51に伝達され、駆動ギア51と従動ギア52が回転する。
【0062】
また、図7に示すように、駆動ギア51は、回転軸83が連結された円筒状の内輪部材85と、内輪部材85の外周側に相対回転可能に組み付けられた円環状の外輪部材86とを備える。外輪部材86の外周部には、複数個の歯部51aが周に沿って一定ピッチで形成されている。そして、内輪部材85の外周面と、外輪部材86の内周面との間には、複数個(本例では3個)のばね87が、周方向に略等間隔の位置に配置された状態で介装されている。本例のばね87は、内輪部材85の外周面上に係止された、例えば断面U字形状の板ばねにより構成され、外輪部材86を外側に向かって付勢している。つまり、内輪部材85の外周面と、外輪部材86の内周面と、ばね87とにより、摩擦クラッチ88が構成されている。このため、駆動ギア51(外輪部材86)が受ける駆動負荷が接続限界以下のうちは、ばね87と外輪部材86の内周面(係合面)が摩擦係合し、その摩擦係合力により内輪部材85と外輪部材86は一体回転するようになっている。
【0063】
インクの消費量が少ないためにギアポンプ41の吐出流路側のインク圧が高まって駆動ギア51が受ける駆動負荷が接続限界を超えると、摩擦クラッチ88においてばね87と外輪部材86との間の接続に滑りが発生し、ギアポンプ41は減速又は停止する。このため、ギアポンプ41の吐出流路47側のインク圧が過剰に高まることがないので、インク滴のばらつきが小さく抑えられ、印刷された画像の色目が変化する不都合が発生しにくい。
【0064】
よって、第2実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(7)摩擦クラッチ88を用いるので、比較的簡単な構成で動力伝達調整を実現できる。特に駆動ギア51を回転軸83に一体回転可能に連結された円筒状の内輪部材85と、回転軸83(つまり内輪部材85)に対して相対回転可能に設けられた外輪部材86とにより構成し、内輪部材85の外周面と外輪部材86の内周面と、これら外周面と内周面との間に介装されたばね87とにより、摩擦クラッチ88が構成される。このため、摩擦クラッチ88の構成が簡単で済む。
【0065】
なお、上記実施形態は以下のような形態に変更することもできる。
・インク供給装置27は、図8に示すようにポンプギアが積層状態に配列された構造にすることもできる。すなわち、図8に示すように、1個ずつ形成されたポンプ室45内にギアポンプ41を収容する四角板状の複数個(本例では6個)の流路形成部材90は、それぞれが内蔵する各ギアポンプ41を構成する全ての駆動ギア51の軸線が一致する状態で、且つ駆動ギア51及び従動ギア52の軸線方向に積層されている。駆動ギア51は図7と同様の構成であり、内輪部材85と外輪部材86との間にばね87を介装してなる摩擦クラッチ88を備えている。電動モーター55の出力軸に連結された回転軸91は、複数(本例では6個)の駆動ギア51の各内輪部材85に連結されている。回転軸91が回転すると、内輪部材85が回転し、内輪部材85と共に摩擦クラッチ88を介して外輪部材86が一緒に回転するようになっている。なお、摩擦クラッチ88は液密状態にカバーされていることが好ましい。これは摩擦クラッチ88に付着したインクが乾燥あるいは増粘すると摩擦力が変化して、ギアポンプ41の出力側のインク圧がばらつく原因になるからである。
【0066】
・図8の構成において、摩擦クラッチ88に替えてマグネット式の動力伝達機構を採用してもよい。すなわち、内輪部材の外周面には周方向に沿ってN極とS極が交互に配列された磁極部が設けられ、外輪部材の内周面には磁極部のN極とS極のピッチと同ピッチの凸部が内周面に沿って形成されている。外輪部材が受けるインク圧に起因する負荷が大きくなって接続限界を超えると、内輪部材と外輪部材との磁力による接続に滑りが生じて、ギアポンプ41が減速又は停止する。なお、この構成では、外周部に磁極部が形成された内輪部材が、磁石回転体に相当する。このように磁石回転体は複数個設けられていてもよい。
【0067】
・1つの磁石回転体54から複数の駆動ギア51へ動力を伝達する構成に限定されず、駆動ギア毎に磁石回転体を設けてもよい。また、N個の駆動ギアをM個(但しM<N)の群に分け、群毎に1つの磁石回転体を設けた構成も採用できる。例えば2個の磁石回転体を基体40に内蔵し、2個の磁石回転体の周囲にギアポンプを例えば3個ずつ放射状に配列した構成とする。
【0068】
・摩擦クラッチは、図7に示す構造に限定されない。例えば歯車と、歯車と同軸状態に相対回動可能に取り付けられる円筒と、歯車を円筒に押しつけるように付勢するバネとを有し、歯車と円筒との接触面(クラッチ面)が所定の力で圧接されることで、摩擦係合状態に保持される構成の摩擦クラッチでもよい。
【0069】
・基体40に突設された吸引管部42に替えてインク供給針を設け、インク供給装置27がカートリッジホルダーを兼ねた構成としてもよい。
・回転式のポンプは、ギアポンプに限定されない。ねじポンプ、チューブポンプ、ベーンポンプなどを採用してもよい。
【0070】
・ポンプ駆動体の少なくとも外周部の材料である磁性体は、ニッケルやコバルトなどでもよい。また、駆動ギア51は金属焼結体に限定されず、金属材料(磁性体)をギア形状に加工したものでもよい。
【0071】
・磁石回転体の磁極部を磁石で構成する場合、磁石は、サマリウムコバルト磁石やネオジウム磁石などの希土類磁石を採用してもよい。フェライト磁石やアルニコ磁石を用いてもよい。
【0072】
・液体噴射装置は、シリアルプリンターに限定されず、インクジェット式ラインプリンターでもよい。この場合、記録ヘッドは、フルライン型記録ヘッドとマルチヘッド型記録ヘッドのどちらでもよい。
【0073】
・前記実施形態では、液体噴射装置をインクジェット式プリンターに具体化したが、この限りではなく、インク以外の他の液体や、機能材料の粒子が液体に分散又は混合されてなる液状体、ゲルのような流状体を含む)を噴射したり吐出したりする液体噴射装置に具体化することもできる。例えば、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ及び面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や色材(画素材料)などの材料を分散または溶解のかたちで含む液状体を噴射する液体噴射装置でもよい。また、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置であってもよい。さらに、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために熱硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置、ゲル(例えば物理ゲル)などの流状体を噴射する流状体噴射装置であってもよい。そして、これらのうちいずれか一種の流体噴射装置に本発明を適用することができる。このように媒体は、紙などのシート(連続紙や単票紙)に限定されず、素子や配線等がインクジェットで形成される基板でもよい。また、合成樹脂や金属からなるシートでもよい。なお、本明細書において「液体」には、液体(無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)等を含む)、液状体、流状体などが含まれる。
【符号の説明】
【0074】
11…液体噴射装置の一例であるプリンター、14…搬送手段の一例を構成する搬送装置、15,16…搬送手段の一例を構成する搬送ローラー対、18…キャリッジ、22…液体噴射ヘッドの一例である記録ヘッド、24…ノズル、25…カートリッジホルダー、26…液体収容部の一例であるインクカートリッジ、27…液体供給装置の一例であるインク供給装置、28,29…供給流路の一例を構成するインク供給チューブ、35…供給流路の一例を構成するインク流路、40…基体、41…回転式のポンプの一例であるギアポンプ、44…供給流路の一例を構成するインク流路、45…ポンプ室、46…供給流路の一例を構成する吸引流路、47…供給流路の一例を構成する吐出流路、51…動力伝達調整手段の一例を構成するとともにポンプ駆動体の一例である駆動ギア、51a…歯部、52…従動ギア、52a…歯部、54…動力伝達調整手段の一例を構成する磁石回転体、54a…磁極部、55…動力源の一例である電動モーター、61…流路形成部材、61b…溝、62…蓋体、63…フィルム、67…吸引口、68…吐出口、71,72…溝、80…動力伝達機構、83…回転軸、85…内輪部材、86…外輪部材、87…ばね、88…動力伝達調整手段の一例である摩擦クラッチ、91…回転軸、X…主走査方向、Y…副走査方向、P…媒体(ターゲット)の一例である用紙、I…液体の一例であるインク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体収容部から液体噴射ヘッドへ液体を供給する液体供給装置であって、
複数の前記液体収容部と前記液体噴射ヘッドとの間を接続する複数の供給流路の途中に一つずつ設けられた複数の回転式のポンプと、
複数の前記ポンプを駆動する共通の動力源と、
前記動力源から前記各ポンプに伝達される動力を調整する動力伝達調整手段であって、前記供給流路のうち前記ポンプから液体が吐出される吐出流路内の液圧により前記ポンプが受ける負荷が、接続限界以下であるうちは前記動力源からの動力を前記ポンプに伝達可能に接続され、前記負荷が前記接続限界を超えると、前記動力源からの動力を前記ポンプに伝達するための接続に滑りが発生して、前記動力の伝達を遮断もしくは伝達される動力を低減する前記動力伝達調整手段と、
を備えたことを特徴とする液体供給装置。
【請求項2】
前記ポンプは、ポンプ室内に回転可能に設けられたポンプ駆動体を有し、
前記動力伝達調整手段は、前記動力源からの動力によって回転するとともに外周面に異なる磁極が交互に設けられた磁極部を有する1つ又は複数の磁石回転体と、前記各ポンプ駆動体の少なくとも外周部に設けられた磁性体とを備え、複数の前記ポンプ駆動体は前記磁石回転体の前記磁極部との間に磁力が作用しうる間隔をあけて配置され、前記磁石回転体と前記ポンプ駆動体とは前記磁力を介して動力伝達可能に接続されることを特徴とする請求項1に記載の液体供給装置。
【請求項3】
前記磁石回転体は1つ設けられ、前記各ポンプを構成する複数の前記ポンプ駆動体は、1つの前記磁石回転体の前記磁極部との間に磁力が作用しうる間隔をあけた状態で当該磁石回転体の外周面に沿って配列されていることを特徴とする請求項2に記載の液体供給装置。
【請求項4】
前記ポンプは、ポンプ室内に回転可能に設けられたポンプ駆動体を有し、
前記動力伝達調整手段は、前記動力源の動力を前記各ポンプ駆動体へ個別に伝達する動力伝達経路上に設けられた摩擦クラッチであることを特徴とする請求項1に記載の液体供給装置。
【請求項5】
前記摩擦クラッチは、前記動力源の動力により回転する回転軸と、前記回転軸に相対回転可能に設けられた前記ポンプ駆動体との間に介装されていることを特徴とする請求項4に記載の液体供給装置。
【請求項6】
流路用の溝が形成された流路形成部材と当該流路形成部材における前記溝が形成された面に接着されたフィルムとを有し、前記溝と前記フィルムとにより区画形成された吸引流路と前記吐出流路との間に前記各ポンプが内蔵された基体を備え、
前記基体には、1つの磁石回転体が内蔵され、複数の前記ポンプは前記磁石回転体を中心として放射状に配置されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の液体供給装置。
【請求項7】
液体噴射ヘッドと、
液体収容部から供給流路を通じて送られてきた液体を前記ポンプが吐出することにより前記液体噴射ヘッドへ液体を供給する請求項1乃至6のうちいずれか一項に記載の液体供給装置と、
前記液体噴射ヘッドが液体を噴射する対象とする媒体を搬送する搬送手段と、
を備えたことを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−86348(P2013−86348A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228638(P2011−228638)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】