説明

液体保存容器

【課題】 液体の注出によって減少する容積を栓に設けた風船部で置換することにより、液体と空気とを全く接触させずに液体を保存、使用することができる液体保存容器を提供する。
【解決手段】 容器本体10と、容器本体10の開口部外周を覆うように嵌入して容器を封止する弾性体の栓であって、中心部に断面が略U字型となるように一体成型された薄肉の風船部21を備えた栓20と、栓20の外周を覆うように嵌入して栓20と容器本体10とを固定する金属製の王冠であって、栓20の風船部21上部に通気用穴部31と、栓20の風船部21以外の外表面上部に液体吸引用穴部32を有する王冠30と、で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の薬品など、特に、少量の液体を充填して保存する液体保存容器に関する。
【背景技術】
【0002】
瓶に充填して搬送、保存される液体は、コルクや金属の栓などで封止する際、栓と液体との間に介在する空気により経時劣化することが従来より問題となっていた。特に、ワインや液体の薬品など、酸化すると品質が著しく劣化する商品では重要な課題となっていた。これを解決する方策としては、充填した液体が空気と接触することを防止するのは勿論、使用中に、注出した分量の容積が空気と置換することを防止する必要もある。一例として、従来、瓶内に中空体を装備したワインサーバーが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。このワインサーバーによれば、注出量に相当する容積の空気が瓶内の中空体へ送気され、中空体が膨張して液体が注出する。そのため、空気と接触させることなく、液体(ワイン)を保存、使用することができるというものである。
【0003】
ところで、ワクチンなど液体の薬品は、ワインなどと比較して搬送または保存の単位が少量であるため、専ら、一回の使用量を収容できる大きさの瓶(容器)を製造し、これに液体を充填し、密封して個々に提供する方法が主流となっていた。これは、開栓直後に液体を使い切れば、液体が長時間空気と接触することを回避でき、上記のワインサーバーのような装置上の対策を行わずとも簡単に酸化等による液体の品質劣化を防止できるからであった。
【0004】
しかしながら、1回の使用量に合致する大きさの容器を製造し、それに液体を充填して提供することは、製造コストが高くなるという問題に加え、製造に時間がかかるという重大な課題があった。特に、近年、世界的流行が脅威となっている新型インフルエンザでは、ワクチンの十分な確保が各国の喫緊の課題となっているが、わが国でも患者数の増加予測に対してワクチンの供給が追い付かない状況が懸念されている。その原因として薬品メーカーの生産能力不足が挙げられている。
【0005】
上記の通り、ワクチンのような液体の薬品は1回分ごとに小分けした提供が一般的であったが、たとえ容器内に液体が残ってもその液体が劣化せず、その後も随時液体を使用できるような対策が十分に講じられれば、複数回分のワクチンを1つの容器に充填して保存し、必要な都度液体を注出することができる。例えば、5回分のワクチンを1つの容器に充填できるとすると、容器の製造コストや1回分あたりの製造時間もおよそ5分の1程度に低減できる。つまり、単位時間あたりの製造、供給量を5倍程度まで向上させることも可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−334798号公報(第2頁〜第3頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、液体の注出によって減少する容積を栓に設けた風船部で置換することにより、液体と空気とを全く接触させずに液体を保存、使用することができる液体保存容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の液体保存容器は、容器本体と、前記容器本体の開口部外周を覆うように嵌入して容器を封止する弾性体の栓であって、中心部に断面が略U字型となるように一体成型された薄肉の風船部を備えた栓と、前記栓の外周を覆うように嵌入して前記栓と前記容器本体とを固定する金属製の王冠であって、前記栓の前記風船部上部に通気用穴部と、前記栓の前記風船部以外の外表面上部に液体吸引用穴部を有する王冠と、で構成されることを特徴とする。
上記構成によれば、注射針で吸引する液体の容積分が風船部に進入する空気で置換されるため、容器内に液体が充満している状態でも、液体が注出され一部が残っている状態でも、いつでも空気と接触させることなく液体を保存することができる。
【0009】
また、本発明の液体保存容器は、請求項1に記載の液体保存容器であって、前記風船部は、上端から所定の深さまで厚肉の円筒部分を有することを特徴とする。
上記構成によれば、風船部が、風船部の根元から膨張しはじめるのではなく、当該円筒部分より下で膨張する。そのため、液体を吸引するため容器内に刺入した注射針の先端が膨張した風船部に刺さりにくく、液体を最後まで吸引して使用することができる。
【0010】
また、本発明の液体保存容器は、請求項1又は2に記載の液体保存容器であって、前記栓の、前記液体吸引用穴部に対応する箇所は、その他の部分より厚肉になっていることを特徴とする。
上記構成によれば、液体を注出するために繰り返し注射針を刺入する栓の部分の耐久性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の液体保存容器によれば、保存中や使用中に液体と空気とが全く接触しないため、品質を劣化させることなく液体を長期間保存することができる。また、液体を複数回に分けて使用しても、残存する液体が劣化することなく、液体を最後まで使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】 本発明の実施の形態1における液体保存容器の形状を示す断面図である。
【図2】 本発明の実施の形態における液体保存容器の液体吸引の様子を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態における液体保存容器について、図面を用いて詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態1における液体保存容器の形状を示す断面図である。液体保存容器100は、主に、容器本体10、栓20、王冠30、で構成される。
【0015】
容器本体10は、ガラスまたは合成樹脂製の円筒形の容器で、内部に液体を充満して液体を保持する。
【0016】
栓20は、弾性体で形成された円盤状の栓で、屹立させた外周を、容器本体10の開口部外周を覆うように嵌入して封止する。栓20は、断面が略U字型となるように一体成型された薄肉の風船部21をその中心部に有する。この風船部21は、後述するように、注射針で容器本体10内の液体を吸引するとき、液体の減少に応じて容易に膨らむ程度の高い伸縮性と膨張率を有している。風船部21の内径や深さなどの形状は、容器本体10の大きさや栓20の材質に応じて適切に決定してよい。なお、栓20は、液体と接触するため、弾性体を構成する材料の中でも、液体と反応したり、液体を変質させたりすることのない材質であることが好ましい。
【0017】
王冠30は、アルミニウムや鉄などの金属製で、外周を覆うように嵌入して栓20と容器本体10とを固定する。王冠30には、中央に通気用穴部31とその周辺の任意位置に液体吸引用穴部32が形成されている。通気用穴部31は、容器本体10に充填されている液体が吸引されて風船部21が膨張するときの空気の進入口となる。液体吸引用穴部32は、後述する注射針を刺入するための穴部である。
【0018】
上記構成の液体保存容器であれば、容器内に空気が入り込まないように、液体だけを充満して封止するという充填作業を容易に行うことができる。具体的には、まず、容器本体10にほぼ容器一杯となるように液体を注入する。次に、風船部21の先端から栓20を容器内へ挿入し、栓20を容器本体10に嵌入する。このとき、風船部21が挿入されるにつれて徐々に液体の液面が上昇し、栓20を嵌入する前に、容器本体10の開口部から液体が溢れ出す。そのため、空気が残留していない状態で栓20を嵌入することができる。最後に王冠30を嵌入して液体の充填作業が完了する。
【0019】
次に、図2は、本発明の実施の形態における液体保存容器の液体吸引の様子を説明するための図である。
【0020】
容器内に充填された液体を吸引する場合、液体吸引用穴部32から、注射器200のシリンダ210先端に装着した注射針220を刺入し、栓20を貫通して液体部分へ到達させる。その後、注射器のピストン230を引き抜き、一回分の使用量の液体を吸引する。図2に示すように、風船部21は通気用穴部31を介して外部から進入した空気で膨張し、吸引されて減少した分の容積は空気で置換される。
【0021】
なお、風船部21は、上端から所定の深さまで栓20の円板部分とほぼ同じ肉厚の円筒部分22を有している。これにより、風船部21は、風船部21の根元から膨張しはじめるのではなく、当該円筒部分22より下の方から膨張しはじめる。そのため、液体を吸引するため容器内に刺入した注射針の先端が膨張した風船部21に刺さりにくく、液体を最後まで吸引して使用することができる。
【0022】
また、栓20の、液体吸引用穴部32に対応する位置の栓の部分23は、注射針を繰り返し刺入しても弾性体が磨耗、破損等しないように、上方に肉盛りして厚肉に形成されている。
【0023】
ところで、風船部21が膨張して容器本体10の内壁と接触しても、液体が吸引される限りはどこかに液体の通路が確保されるので、接触部より下方の液体を排出することができなくなるといった不都合は生じない。なお、容器の内壁に線状または点状の凹凸を形成した容器本体10を用いれば、より一層上記の不都合を回避することができる。
【0024】
以上のように、本発明の実施の形態における液体保存容器によれば、保存中や使用中に液体と空気とが全く接触しないため、品質を劣化させることなく液体を長期間保存することができる。また、液体を複数回に分けて使用しても、残存する液体が劣化することなく、液体を最後まで使用することができる。特に、酸化等による品質劣化を嫌うワクチンなど、液体の薬品などの保存や供給において効果を発揮することが期待される。この容器の普及により、例えば、ワクチンを従来と比較して短時間に大量人員分製造することが可能となり、供給能力を向上させることができる。
【0025】
尚、上記の実施の形態において、容器本体は円筒形としたが、これに限定されるものではなく、矩形や楕円などの断面を有する容器や、開口部の形状と液体を充填する部分の断面の形状が異なる異形の容器であってもかまわない。また、液体を注出するために注射針を刺入する液体吸引用穴部は複数形成してもかまわない。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明に係る液体保存容器は、液体の経時劣化を効果的に防止するという効果を有し、酸化等により品質が著しく劣化する液体の保存容器として有用である。
【符号の説明】
【0027】
10 容器本体
20 栓
21 風船部
22 円筒部分
23 液体吸引用穴部に対応する位置の栓の部分
30 王冠
31 通気用穴部
32 液体吸引用穴部
100 液体保存容器
200 注射器
210 シリンダ
220 注射針
230 ピストン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器本体と、
前記容器本体の開口部外周を覆うように嵌入して容器を封止する弾性体の栓であって、中心部に断面が略U字型となるように一体成型された薄肉の風船部を備えた栓と、
前記栓の外周を覆うように嵌入して前記栓と前記容器本体とを固定する金属製の王冠であって、前記栓の前記風船部上部に通気用穴部と、前記栓の前記風船部以外の外表面上部に液体吸引用穴部を有する王冠と、で構成されることを特徴とする液体保存容器。
【請求項2】
前記風船部は、上端から所定の深さまで厚肉の円筒部分を有することを特徴とする請求項1に記載の液体保存容器。
【請求項3】
前記栓の、前記液体吸引用穴部に対応する箇所は、その他の部分より厚肉になっていることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体保存容器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−79574(P2011−79574A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−244902(P2009−244902)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(504204384)有限会社ユイット (32)
【Fターム(参考)】