説明

液体処理用筒型フィルター、ならびに液体中の油分を捕捉除去する方法、飲料液体を製造する方法及び筒型フィルターの有するオイルグラムライフ測定方法

【課題】大容量液体(特に、飲料液体)中の固形分と油分を連続ラインで捕捉除去するに適する筒型フィルターを提供することにある。
【解決手段】不織布層を補強用ネットシートと共に巻き込んで構成してなる筒型フィルターであって、該補強用ネットシートが、網目寸法が6メッシュから35メッシュの範囲であり、厚さが寸法0.3mmから2.0mmの範囲である部分を含む液体処理用筒型フィルターとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は液体処理用筒型フィルターならびに飲料液体を処理する方法、飲料液体を製造する方法及び筒型フィルターの有するオイルグラムライフ測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体中の固形分を捕捉除去する濾過用筒型フィルターが知られている。例えば、特許文献1には、多孔性コアに連続的に目の粗いネットを支持体として張力をかけ巻き込みながら、その支持体であるネット上に平均繊維径及び平均孔径の異なる不織布を供給しつつ、不織布自体に張力を一切かけずに巻き込むフィルターが、記載されている。
【0003】
特許文献2には、液体又はガスから汚染を取り除くための筒型フィルターであって、フィルター媒体(不織布層)と拡散媒体(ネット)の交互の層を備え、フィルター媒体の層の少なくとも一つはバイパス孔を備えたフィルターが、記載されている。
【0004】
特許文献3には、飲料コーヒーの液体用フィルター(バック型)が記載され、フィルター材料として、所定の関係式を満たす不織布を用いると、コーヒー液体中のコーヒー固形分のみならず油分を吸着しうることが、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平01−170417号公報
【特許文献2】特表2004−500229号公報
【特許文献3】特開平03−229606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の筒型フィルターでは、液体中の固形分を十分に捕捉除去し得るが、液体中の油分を効果的に捕捉除去することは考慮されていない。一方、コーヒー用バック型フィルターは、コーヒーカップ数杯分を処理するもので、工場生産ラインでの大容量液体の処理には適さない。
【0007】
本開示の目的は、大容量液体(特に、飲料液体)中の固形分と油分(飲料液体中の油分含む)を連続ラインで捕捉除去するに適する筒型フィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、
(a)本開示の第一の態様では、不織布層を補強用ネットシートと共に巻き込んで構成してなる筒型フィルターであって、該補強用ネットシートが、該不織布層との相互作用で油分捕捉性を有するネット部分を含む液体処理用筒型フィルターを提供する。
【0009】
(b)本開示の第二の態様では、不織布層を補強用ネットシートと共に巻き込んで構成してなる筒型フィルターであって、該補強用ネットシートが、網目寸法が6メッシュから35メッシュの範囲であり、厚さが寸法0.3mmから2.0mmの範囲である部分を含む液体処理用筒型フィルターを提供する。
【0010】
(c)本開示の第三の態様では、補強用ネットシートにより不織布層を巻き込んで構成してなる筒型フィルターであって、さらに、該不織布層との相互作用で油分捕捉性を有するネットシート小片を有する液体処理用筒型フィルターを提供する。
【0011】
(d)本開示の第四の態様では、補強用ネットシートにより不織布層を巻き込んで構成してなる筒型フィルターであって、さらに、ネットシート小片を有し、該ネットシート小片の網目寸法が6メッシュから35メッシュの範囲であり、厚さが寸法0.3mmから2.0mmの範囲である液体処理用筒型フィルターを提供する。
【0012】
(e)本開示の第五の態様では、不織布層と、ネットシートの油分捕捉性を有するネット部分もしくは網目寸法が6メッシュから35メッシュの範囲であり、厚さが寸法0.3mmから2.0mmの範囲である部分との重なり部の面積が、1cm2以上、不織布層全面積以下の範囲にある、前記(a)乃至(d)のいずれかに記載の液体処理用筒型フィルターを提供する。
【0013】
(f)本開示の第六の態様では、液体中の油分のヘキサン抽出を利用したフィルター評価法によって測定されるフィルターのオイルグラムライフに関し、処理開始40分後の測定の評価値が、処理開始時の評価値の50%の減少内にある、前記(a)乃至(e)のいずれかに記載の液体処理用筒型フィルターを提供する。
【0014】
(g)本開示の第七の態様では、液体処理用筒型フィルターが、飲料液体処理用筒型フィルターである、前記(a)乃至(f)のいずれかに記載の液体処理用筒型フィルターを提供する。
【0015】
(h)本開示の第八の態様では、前記(a)乃至(g)のいずれかに記載の筒型フィルターを用いて液体中の油分を捕捉除去する液体処理方法を提供する。
【0016】
(i)本開示の第九の態様では、前記(a)乃至(g)のいずれかに記載の筒型フィルターを用いて飲料液体を製造する方法を提供する。
【0017】
(j)本開示の第十の態様では、前記(a)乃至(g)のいずれかに記載の筒型フィルターの有するオイルグラムライフをヘキサン抽出により測定する方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本開示に係る筒型フィルターは、不織布層を補強用ネットシートと共に巻き込んで構成してなる筒型フィルターであって、該補強用ネットシートが、該不織布層との相互作用で油分捕捉性を有するネット部分を含む液体処理用筒型フィルターとして構成されるから、液体の濾過処理において、1)主に不織布層で液体中の固形分を捕捉除去でき、2)不織布層と油分捕捉性を有するネット部分との相互作用で主に液体中の油分を良好に捕捉除去することができ、かつ、十分な濾過能力を発揮する。これにより、本開示に係る筒型フィルターは、大容量液体処理用として液体中の固形分及び油分を効率良く濾過することを可能にした。
【0019】
また、本開示に係る筒型フィルターによれば、従来確立されている固形分の捕捉除去手段に加え、油分の捕捉除去手段が明確になったことで、筒型フィルターの構成部材の選定及び組み合わせにより、濾過後の液体の“油分”を所望の範囲に調整することが可能となった。これにより、例えば、飲料液体(コーヒー、アルコール飲料等)の有する“旨み・風味”を調整することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本開示の実施態様による筒型フィルターの斜視図である。
【図2】図1に示す筒型フィルターのI―I矢視線に沿った縦断面図であって、 図2(a)はタイプ1の筒型フィルターの横断面図を示し、 図2(b)はタイプ2の筒型フィルターの横断面図を示す。
【図3】油分を捕捉した不織布層とネットシートの積層体を示す部分断面を有する斜視図である。
【図4】図3に示す不織布層とネットシートの積層体のII―II矢視線に沿った断面図である。
【図5】前記タイプ1の筒型フィルター本体の作製工程の一部を示す工程図である。
【図6】前記タイプ2の筒型フィルター本体の作製工程の一部を示す工程図である。
【図7】本開示の飲料液体の製造に用いるコーヒー飲料液体製造装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照にして本開示の実施の態様を詳細に説明する。
【0022】
図1〜図2は、本開示に係る筒型フィルターの二つのタイプの実施態様(タイプ1及びタイプ2)を示す。二つのタイプの筒型フィルター100は、ともに、フィルター本体10、有孔コア部材60及びシール部材70,72から構成される。図1〜図2に示すように、具体的には、“渦巻状”に巻かれた筒状の不織布層12と、これら不織布層の最外周、最内周、及び、これら不織布層の隙間に配置されたネットシート14、15、16とを、適宜に組み合わせて構成される筒型のフィルター本体10を備え、フィルター本体10の中心には、必要に応じ、有孔筒状壁を有する有孔コア部材60が設置され、筒型フィルター内側に、その軸線方向へ貫通する中空部80が形成される。
【0023】
さらに、筒型フィルター100は、不織布層、ネットシートから構成されるフィルター本体10の軸線方向両端に固定的に設置される一対のシール部材70,72を備える。各シール部材70,72は、中心開口を有する板状の部材であり、フィルター本体の軸線方向の両端に、接着、熱溶着等の手段によって固定される。なお、フィルター本体が外形形状を維持しうるものであれば、有孔コア部材を有しない筒型フィルターであっても良い。
【0024】
図2aに示したタイプ1の筒型フィルターと、図2bに示したタイプ2の筒型フィルターとは、フィルター本体において、タイプ1のものは、良好な油分捕捉性を有するネット部分を含むネットシート14と不織布層12から構成されている。これに対し、タイプ2のものは、第一のネットシート15(油分捕捉性を有するもの、有しないものいずれであっても良い)と不織布層12と、油分捕捉性を有するネット部分を含む第二のネットシート16から構成されているものである点で相違する。両タイプは、製造方法を考慮すれば、その相違は明らかであるが、この点については、〔0038〕〜〔0039〕において述べる。
【0025】
なお、筒型フィルターの不織布層とネットの積層数は、通常1巻きから30巻の範囲である。これはフィルター製品自体の製品ライフと製品のコンパクト化を考慮したものである。
【0026】
本開示に係るフィルターの不織布層の不織布材料としては、有機材料、無機材料のいずれのものも適用できるが、フィルターの使用目的が飲料液体の処理用の場合、有機材料のものが好ましい。有機材料としては、(1)ポリプロピレン(PP)やポリエチレン等のポリオレフィン、ナイロン(登録商標)等の熱可塑性ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、アクリル、ポリスチレン、ポリフェニレンスルファイド、フッ素樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリアクリロニトリル等の熱可塑性有機材料、(2)ポリウレタン等の熱硬化性有機材料、(3)レーヨン、アセテート、ウッドパルプ、セルロース等の天然素材や半合成素材を挙げることができる。これらの材料から、筒型フィルターの使用条件・使用環境に応じて、最適な材料を選択し、単独繊維もしくは複合繊維として形成した上で、有機材料製不織布を作製することができる。これらのうち、ポリプロピレンやポリエチレンなどの親油性があり熱融着するポリオレフィンを主構成とする材料を用いることが好ましい。
【0027】
熱融着性ポリオレフィン樹脂を主構成とする有機材料製の不織布層12は、フィルター本体10において、その材料によって決まるシート成形温度に加熱されるとともに所定圧力を加えながら筒状に巻き回すことで、重なり合った不織布同士がネットとともに熱融着して、フィルター本体10に所要の剛性を付与することもできる。このような特性を有する不織布層12は、シート成形温度への加熱によって平均流量孔径や平均厚み等が変化するから、成形後の濾過精度を予測して不織布の材料、寸法等を選定することが望ましい。
【0028】
不織布層12の繊維の径は、0.1μmから100μmの範囲で、筒型フィルター100の適用(使用条件・使用環境)に応じて決められる。
【0029】
不織布層12は、例えば、単位面積当たりの通気度が、例えば3CFM/ft2以上600CFM/ft2以下、あるいは、例えば5CFM/ft2以上420CFM/ft2以下の不織布から形成できる。不織布層は、厚み方向へ55kPaの圧力を印加したときに、0.3mm〜5.0mmの範囲の平均厚みを有するものとして形成できる。
【0030】
筒型フィルターの不織布層12の積層において、不織布の平均繊維径は、筒型フィルターの内側から外側に向け太くなるように配置され、また、不織布層の圧力損失は筒型フィルターの内側から外側に向け低くなるように設計されている(このような設計を“勾配構造(Gradient)”と呼ぶ)。このようにすることで、フィルターは、被濾過物により短時間で目詰まりを起こすことなく、製品ライフの長寿命化を図ることができる。
【0031】
本開示に係るフィルターのネットシートは、いずれも、網目構造として形成できる。網目の開口形状は、正方格子、長方形格子、菱形格子、多角形格子等のいずれの矩形格子であっても、円形格子、楕円形格子等であっても良い。これらの形状の内、一般に、ネットの作製上の利便さ、フィルター濾過特性の均一化の面から、正方格子の網目のものが用いられる。また、ネットシートは、単に、織布としての態様のもの、織糸の交点を、例えば熱融着で合体した態様のもの等いずれの形態のものも用いることができる。
【0032】
本開示に係るフィルターのネットの構成糸の材料としては、不織布層の不織布材料と同様の材料から形成できる。あるいは、ケブラー(登録商標)やノーメックス(登録商標)として知られるアラミド繊維から、形成することもできる。
【0033】
本開示に係るフィルターにおいて“油分捕捉性を有するネット”とは、不織布層のみを具備する筒型フィルターに比し、同じ構成の不織布層に積層してネットシートを具備する筒型フィルターが、より良好な油分捕捉除去効果を有する場合に、当該ネットを意味する。本開示における当該ネットは、具体的には、後述するように、網目寸法が6メッシュから35メッシュの範囲であり、かつ、厚さが寸法0.3mmから2.0mmの範囲であるネットを意味する。
【0034】
ここに、ネットにかかる“メッシュ”とは、ネットの網目寸法を示す単位であって、一辺1インチ(25.4mm)の正方格子を基本単位として、この正方格子のそれぞれの辺を等間隔で分断する構成糸の本数を意味する。よって、“メッシュ”は、ネットの構成糸のピッチと、次の関係を有する。
メッシュ= 25.4(mm) ÷ ピッチ (mm)
【0035】
また、ネットにかかる“厚さ”とは、ネットの網目の構成糸の交絡部の厚さを意味する。
【0036】
本開示に係るフィルターにおいて“油分捕捉性を有しないネット”とは、不織布層のみを具備する筒型フィルターに比し、同じ構成の不織布層に積層してネットシートを具備する筒型フィルターが、油分捕捉除去効果において、特段の効果を有しない(有していてもその効果が極めて小さい)場合に、当該ネットを意味する。具体的には、網目寸法が4メッシュ、もしくは、それ以上の粗い網目を有するネットを意味する。
【0037】
本開示に係る“不織布層との相互作用で油分捕捉性を有するネット部分を含むネットシート”とは、ネットシートの一部分が、前記“油分捕捉性を有するネット”から構成され、また、ネットシートの他の部分が、“油分捕捉性を有しないネット”から構成されたネットシートを意味する。
【0038】
具体的には、例えば、図2aに示したタイプ1の筒型フィルターのネットシートは、その全長にわたって、不織布層との相互作用で油分捕捉性を有するネット部分からのみ構成されるネットシートであっても良いし、また、一部だけが油分捕捉性を有するネット部分から構成されるネットシートであっても良い。
【0039】
一方、例えば、図2bに示したタイプ2の筒型フィルターのネットシートでは、第一のネットシートは、その全長にわたって、“油分捕捉性を有しないネット”シートであり、第二のネットシートは、その全長にわたって、不織布層との相互作用で油分捕捉性を有するネット部分からのみ構成されるネットシートであっても良いし、また、一部だけが油分捕捉性を有するネット部分から構成されるネットシートであっても良い。
【0040】
ネットの網目寸法は、油分捕捉性を有するネットと油分捕捉性を有しない(もしくは、捕捉性が極めて小さい)補強用ネットとの間で異なる。
【0041】
油分捕捉性を有しないネットは、従来、主として、不織布層を渦巻き状に巻き回す目的の為使用するものであり、1)引き回しのための張力に十分耐え、かつ、2)ネットの使用により、フィルター本体10の飲料液体中の固形分の濾過能力に影響を及ぼすことのないように、大きな開口の網目を有するネット、すなわち一般的に4メッシュより粗い開口のものが用いられる。濾過工程中の対象飲料用液体の圧力によるフィルター本体の変形をできるだけ防止するべく、不織布層を有孔コア部材にきつく巻き付けることが要求されており、したがって、ネットは、そのような巻付け工程で負荷される張力によって容易には破断しない引張り強さを有する構成糸を用いて作製されている。
【0042】
なお、従来の筒型フィルターにおいても、4メッシュより細かい開口のものを用いる例もあったが、この場合、フィルター本体の不織布層にバイパス孔を設け、フィルターの濾過抵抗を必要以上に上昇させることのないように対策を採って使用されているものであった。
【0043】
一方、本開示に係る良好な油分捕捉性を有するネットは、網目寸法が、上記のネットより細かい開口を有するネットである。具体的には、6メッシュから35メッシュ、好ましくは、8メッシュから20メッシュ、さらに好ましくは、10メッシュから15メッシュのものを有するものである。油分捕捉性を有するネットにおいては、濾過対象液体の流量面の濾過量減少及び圧力面の濾過抵抗の増加を生ずることがあっても、不織布層との相互作用で、液体中の油分を好適に濾過し得るものが好ましいからである。
【0044】
また、細かい開口を有するネットは、ネットの単位面積(25.4mm2)当たりのネット構成糸141の全長によっても、次の換算式のもと表示できる。
ネット構成糸の全長=メッシュ数×2×25.4(mm)
この換算式によれば、そのネット構成糸全長が、304.8mmから1778mm、好ましくは、406.4mmから1016mm、さらに好ましくは508mmから762mmの場合に、油分捕捉性を効果的に有するとネットとなる。
【0045】
また、ネットの厚さ寸法は、0.3mmから2.0mmの範囲であるものが好ましい。後述するように、その理由は、不織布層とネットとの相互作用による油分捕捉除去過程において、油分が堆積する箇所としては、必要十分であり、かつ、ネット自体も、十分な柔軟性を有するからである。
【0046】
ここで、“不織布層とネットとの相互作用”による油分捕捉除去の過程は、例えば、油分とフィルターを構成する不織布層・ネットとの関係で図3を用いて以下のように説明できる。しかし、油分捕捉除去の過程は、この説明に限定されるものではない。
1) フィルター内において、濾過対象の液体は、不織布層に対し、ほぼ垂直に導入されそのまま透過する。
2) 不織布層上に細かい網目のネットの構成糸141が張り巡らされていると、ネットの構成糸141の周辺で、液体の流速が小さくなり、また、不織布層表面とネットの構成糸が密着している周辺では、液体が滞留しやすいために、油分同士が凝集を起こしやすい。それに伴って、例えば図3及び図4に示すように、ネット構成糸の側面(ネットの厚さに相当)と不織布層の接触部にこれらの凝集物は吸着もしくは付着し、最終的に油分の堆積物145を生じ、油分は、捕捉除去されることになる。
3) なお、油分は、不織布層自体の表面及び内部において多少吸着捕捉除去されるがあっても良い。
【0047】
不織布層と油分捕捉性を有するネットの重なり部の面積は、加工することが可能な最小面積、具体的には、1cm2以上、より好ましくは、筒形フィルターの2次側面積以上、不織布面積以下の範囲にあり、求められる濾過程度に応じて決められる。例えば、不織布層と油分捕捉性を有するネットの重なり程度が高密度のものが求められる場合、ネットの網目サイズが、6メッシュ以上、好ましくは8メッシュ以上、より好ましくは10メッシュ以上であって、不織布層と油分捕捉性を有するネットの接触している全面積が、十分大きいものが、良好な油分の捕捉除去ができるものとして選択される。ここに、2次側面積とは、有効コア部材の全外周を巻く不織布層の面積をいう。
【0048】
なお、細かい開口を有するネットとなる程、粒子除去寿命が低下し、フィルターとして実使用に耐えなくなる。そのため、本開示に係るフィルターとしては、例えば、ネットの網目サイズとしては、8メッシュ〜20メッシュのものが実際に使用される。
【0049】
次に、筒型フィルター本体の作製方法について以下に説明する。
【0050】
図5は、その段落〔0038〕に記載したタイプ1の筒型フィルター本体の不織布層及び油分捕捉用ネットの積層状態を示すものである。まず、1)図5に示したように、縦長の油分捕捉性を有するネット部分を含むネットシート14上に不織布層12を互いに一部重なり合うようにして配置する。その後、2)これら不織布層とネットの積層をロール上に渦巻き状に巻き上げることで作製される。
【0051】
図6は、段落〔0039〕に記載したタイプ2の筒型フィルター本体の作製方法を示すものである。1)図6に示したように、縦長の第一のネットシート15(油分捕捉性を有するネット、あるいは有しないネットいずれであっても良い)上に不織布層12を互いに一部重なり合うように、あるいは重ねずにして配置する、2)ネット上に、さらに油分捕捉性を有する第二のネットシート16を配置し、これらネットシートと不織布層を渦巻き状に重ね巻きする、ことで作製される。
【0052】
筒型フィルター本体の作製は、上記したフィルター本体10の作製方法を適宜改変して、以下に示すように作製することもできる。
【0053】
例えば、筒型フィルター本体の作製の態様として、a)“油分捕捉性を有しないネット”上に幅狭の“油分捕捉性を有するネット”を重ね巻きする、また、b)“油分捕捉性を有しないネット”と“油分捕捉性を有するネット”を交互に有するネットシートと不織布層を重ね巻きする、c)“油分捕捉性を有しないネット”を巻いた後、“油分捕捉性を有するネット”を巻く、等することができる。このようにすることで、不織布層と油分捕捉性を有するネットの重なり割合を適宜変更でき、多種の油分捕捉特性を有したフィルターを作製することができる。
【0054】
次に本開示にかかる筒型フィルターを大容量飲料液体の処理工程で用いる例について以下に説明する。尚、本開示は、飲料液体の処理に限定されることなく、各種の油分除去、具体的には、水性インク、水性塗料、水性化粧品、水性入れ歯安定剤、排水の油分除去のための液体の処理等に適用できることは言うまでもない。
【0055】
図7は、原料コーヒー豆を効率良く利用し、かつ高濃度のコーヒー抽出液を得ることが可能なコーヒー飲料製造装置・ラインの一例を示したものである。この製造装置・ラインは、1)原料タンク201,202からの原料を混合タンク203で混合し、焙煎済みのコーヒー豆と抽出用液体とを共存させた状態で粉砕を行なう第1工程204(一次粉砕機),205(二次粉砕機)と、2)該抽出用液体中で抽出を行なう第2工程206(ホルジンクタンク)と、遠心分離によりコーヒー豆の抽出残さと抽出液とを分離する第3工程207(分離装置),208(再抽出タンク)とを含む工程からなる。このラインにおいて、再抽出タンク208から抽出ガス209が抽出され、また本開示にかかる筒型フィルター100は、例えば、ラインの最終工程の、分離装置207と抽出製品210載積コーナーの中間位置に設置される。
【0056】
次に、例えば、上記製造装置・ラインを用いるフィルターの選定について、説明する。
(1)予め、種々の油分捕捉性を有するフィルターを複数準備する。
(2)次に、以下の方法で、各種フィルターのオイルグラムライフを測定し、フィルターの油分濾過性能のグレード分けをする。
【0057】
ここに、“オイルグラムライフ”とは、フィルターの油分捕捉除去性能を評価する一つの指標であって、オイルグラムライフの処理開始時の値(0分)が、大きい程、前記フィルターの捕捉量の面での油分捕捉特性が良く、前記フィルターの油分捕捉除去性能が高いことを意味する。また、オイルグラムライフの40分後の値が、処理開始時の値に比し、50%の減少内にある場合、フィルターの既捕捉油分の保持特性が良く、該フィルターの油分捕捉除去性能が高いことを意味する。
【0058】
(オイルグラムライフの測定手順)
A)フィルターカートリッジを、任意の時間、油中に浸漬する。
B)上記A)で得られたフィルターを、網で包み込み、攪拌機にて回転させカートリッジ表面の余分な油を取り除く。
C)上記B)で得られたフィルターをハウジングに設置し、一次側より水を供給することで、任意量の水処理によりフィルターに吸着している油を取り除く。
D)上記C)で得られたフィルターをオーブンにて水分を乾燥させる。
E)上記D)で得られたフィルターへヘキサンを加え、フィルター上に残った油分をヘキサン中に抽出させる。
F)上記E)で得られたヘキサン抽出液に硫酸ナトリウムを加え、残っている水分を完全に捕捉除去する。
G)上記F)で得られたヘキサン抽出液と硫酸ナトリウムの混合物を1μmのグラスフィルターを用いてろ過する。
H)上記G)で得られたヘキサン抽出液を蒸発させる。
I)上記F)で得られた油分の重量を測定する。
J)上記G)で得られた値から、任意の水処理量において、フィルターカートリッジ上に吸着され残っている油分量を得る。この値をオイルグラムライフとする。
(3)製造装置・ラインに濾過後の抽出製品の旨み(風味)を、確認し、旨みが薄ければ、フィルターをオイルグラムライフ値の小さなフィルターに変更し、一方、旨みが濃ければ、オイルグラムライフ値の大きなフィルターに変更する。
【実施例】
【0059】
以下において、実施例に基づき、本開示をさらに説明する。ただし、本開示に示された実施例に、限定されない。
【0060】
(実験1)
不織布層を補強用ネットシートと共に巻き込んで構成してなる筒型フィルターであって、該補強用ネットシートが、該不織布層との相互作用で油分捕捉性を有するネット部分を含む液体処理用筒型フィルターを各種作製し、これらフィルターの性能を評価した。
【0061】
実施例1−1として、内径28mm、外径33mmのポリプロピレン製多孔性コア部材の外側に、ネットシート(0.8 mm厚で12メッシュのポリプロピレン製ネットシート)を熱溶着して固定した。ネットシートの巻取り方向内側の表面に、下記表1のポリプロピレン製不織布をそれぞれ1から順番に重ねていき、表1に示す不織布4〜8においては、各不織布を二枚重ね、ネットシートを引張りながら不織布を巻き付け、この場合の不織布とネットシートの重なり面積を4064cm2/10インチとした。最後にネットシートの端部を熱溶着してフィルター本体を作製した。表1に、この実施例1−1に用いた不織布層の各層の圧力損失をしめした。また、表2にフィルター作製条件、フィルターの評価結果を、まとめて記載した。
【0062】
【表1】

【0063】
1.フィルター評価内容。
フィルター評価(オイルグラムライフの測定)、粒子捕捉除去性能評価は次の方法で行ったものである。
(1)オイルグラムライフの測定
1)試験条件
オイル:サラダ油
水:市水(0.02μmろ過水、25℃)
流量:1 L/min
2)試験手順
油中にフィルター本体を浸漬する。その後、フィルターをハウジングに装着し、フィルターの1次側より水を供給することで、水流によりフィルターに吸着している油を取り除く。任意の処理量の水を供給後、フィルターを取り出し、オーブンにて水分を乾燥させることで、フィルター上に残った油分をヘキサン中に抽出させた。ヘキサンを蒸発させ、残った油分重量を測定し、任意の水処理量におけるフィルター上に吸着されている油分量を知ることが出来る。これをオイルグラムライフとした。
また、次の式に基づき、オイルグラムライフの保持率を求めた。
保持率(%)=初期(0分)におけるオイルグラムライフの測定値÷40分後のオイルグラムライフの測定値×100(%)
(2)粒子捕捉除去性能
1)試験条件
次の条件のもと試験を行った。
分散液:ISO TEST DAST 2.0103-1, A2. FINE 分散液(20 mg/L)
流量:40 L/min
2)試験手順
通液5分後の原液とろ液を採取し、評価に供した。
【0064】
実施例1−2として、ネットシートとして、厚さ0.5、メッシュ7.5、及び不織布とネットシートの重なり面積を7112cm2/10インチとした以外は、実施例1と同様にしてフィルター本体を作製した。表2に、作製条件、フィルターの評価結果を示す。
【0065】
実施例1−3として、ネットシートとして、厚さ0.5、メッシュ6、及び不織布とネットシートの重なり面積を7112cm2/10インチとした以外は、実施例1と同様にしてフィルター本体を作製した。表2に、実施例1−3による作製条件、フィルターの評価結果を示す。
【0066】
比較例1−1として、ネットシートとして、厚さ0.5、メッシュ4、及び不織布とネットシートの重なり面積を7112cm2/10インチとした以外は、実施例1と同様にしてフィルター本体を作製した。表2に、比較例1−1による作製条件、フィルターの評価結果を示す。
【0067】
表2の評価結果から、次のことが確認された。
ネットの網目寸法が、6メッシュより細かく、ネットと不織布層の重なり面積が約7000cm2/10インチ以上で、オイルグラムライフの保持率が50%以上となった。フィルターの作製条件により、当該保持率を90%以上とすることもできた。
【0068】
(実験2)
補強用ネットシートにより不織布層を巻き込んで構成してなる筒型フィルターであって、さらに、該不織布層との相互作用で油分捕捉性を有するネットシート小片を有する液体処理用筒型フィルターを各種作製し、性能を評価した。
【0069】
実施例2−1として、内径28mm、外径33mmのポリプロピレン製多孔性コア部材の外側に、補強用ネットシート(0.5 mm厚で4メッシュのポリプロピレン製ネットシート)と、ネットシート小片(0.8 mm厚で12メッシュのポリプロピレン製ネットシート、ナット・不織布の重なり面積508cm2/10インチ)を熱溶着して固定した。この場合、補強用ネットシートの巻取り方向内側の表面に、表1に示すポリプロピレン製不織布をそれぞれ1から順番に重ねていき、表1に示す不織布4〜8においては各不織布を二枚重ね、ネットシートを引張りながら不織布を巻き付け、不織布と補強用ネットシートの重なり面積を7112cm2/10インチとした。最後にネットシートの端部を熱溶着してフィルター本体を作製した。表1に、用いた不織布層の各層の圧力損失を示した。また、実施例2−1による表3にフィルター作製条件、フィルターの評価結果を、まとめて記載した。
【0070】
実施例2−2として、ネットシート小片として、厚さ0.8、メッシュ12、及び不織布とネットシート小片の重なり面積を1016cm2/10インチとした以外は、実施例2−1と同様にしてフィルター本体を作製した。表3に、実施例2−2による作製条件、フィルターの評価結果を示す。
【0071】
実施例2−3として、ネットシート小片として、厚さ0.8、メッシュ12、及び不織布とネットシート小片の重なり面積を1524cm2/10インチとした以外は、実施例2−1と同様にしてフィルター本体を作製した。表3に、実施例2−3による作製条件、フィルターの評価結果を示す。
【0072】
実施例2−4として、ネットシート小片として、厚さ0.8、メッシュ12、及び不織布とネットシート小片の重なり面積を2032cm2/10インチとした以外は、実施例2−1と同様にしてフィルター本体を作製した。表3に、実施例2−4による作製条件、フィルターの評価結果を示す。
【0073】
比較例2−1として、ネットシート小片を用いることなく、不織布とネットシートの重なり面積を0cm2/10インチとした以外は、実施例2−1と同様にしてフィルター本体を作製した。表3に、比較例2−1による作製条件、フィルターの評価結果を示す。
【0074】
表3の評価結果から、次のことが確認された。
ネットシート小片の網目寸法が、12メッシュとした場合、ネットと不織布層の重なり面積が約500cm2/インチで、オイルグラムライフの保持率が80%となった。さらに、当該ネットと不織布層の重なり面積を増加した場合、当該保持率を90%以上とすることもできた。
【0075】
【表2】

【0076】
【表3】

【符号の説明】
【0077】
100 筒型フィルター
10 フィルター本体
12 不織布層
14 補強用ネットシート(油分捕捉性を有するもの)
15 補強用ネットシート(油分捕捉性を有するもの、有しないものいずれであっても良い)
16 油分捕捉性ネットシート小片
60 有孔コア部材
70,72 シール部材
80 中空部
141 ネットの構成糸
145 油分の堆積物
201、202 原料タンク
203 混合用タンク
204 一次粉砕機
205 二次粉砕機
206 ホルジングタンク
207 分離装置
208 再抽出タンク
209 抽出ガス
210 抽出製品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布層を補強用ネットシートと共に巻き込んで構成してなる筒型フィルターであって、該補強用ネットシートが、該不織布層との相互作用で油分捕捉性を有するネット部分を含む液体処理用筒型フィルター。
【請求項2】
不織布層を補強用ネットシートと共に巻き込んで構成してなる筒型フィルターであって、該補強用ネットシートが、網目寸法が6メッシュから35メッシュの範囲であり、厚さが寸法0.3mmから2.0mmの範囲である部分を含む液体処理用筒型フィルター。
【請求項3】
補強用ネットシートにより不織布層を巻き込んで構成してなる筒型フィルターであって、さらに、該不織布層との相互作用で油分捕捉性を有するネットシート小片を有する液体処理用筒型フィルター。
【請求項4】
補強用ネットシートにより不織布層を巻き込んで構成してなる筒型フィルターであって、さらに、ネットシート小片を有し、該ネットシート小片の網目寸法が6メッシュから35メッシュの範囲であり、厚さが寸法0.3mmから2.0mmの範囲である液体処理用筒型フィルター。
【請求項5】
前記不織布層と、前記ネットシートの油分捕捉性を有するネット部分もしくは網目寸法が6メッシュから35メッシュの範囲であり、厚さが寸法0.3mmから2.0mmの範囲であるネットシート部分との重なり部の面積が、1cm2以上、不織布層全面積以下の範囲にある、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の液体処理用筒型フィルター。
【請求項6】
液体中の油分のヘキサン抽出を利用したフィルター評価法によって測定されるフィルターのオイルグラムライフにおいて、処理開始40分後の測定の評価値が、処理開始時の評価値の50%の減少内にある、請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の液体処理用筒型フィルター。
【請求項7】
前記液体処理用筒型フィルターが、飲料液体処理用筒型フィルターである、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の液体処理用筒型フィルター。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の筒型フィルターを用いて液体中の油分を捕捉除去する液体処理方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の筒型フィルターを用いて飲料液体を製造する方法。
【請求項10】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の筒型フィルターの有するオイルグラムライフを、ヘキサン抽出過程を用いて測定する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−104471(P2011−104471A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259541(P2009−259541)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】