説明

液体収容容器への液体注入方法、液体収容容器の製造方法、液体収容容器

【課題】液体収容容器の機能を損なうことなく、液体収容容器に液体を再注入する。
【解決手段】カートリッジ本体10に、気泡トラップ流路400に隣接して連通する種々のインク収容室や流路を避けて、例えば、バッファ室440に注入口720を形成する。そして、液体供給部50を閉じると共に、大気開放孔100を開放し、注入口720からインクを注入し、上流側にインクを注入する。そして、液体供給部50を開けると共に、大気開放孔100を閉じて、注入口720からインクを注入し、下流側にインクを充填する。そして、注入口720を封止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体消費装置へ供給する液体を収容する液体収容容器に、液体を注入する液体注入技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットプリンタにおいては、インクカートリッジのインクが消費され、その残量がなくなると、インクカートリッジは、新たな製品に取り替えられていた。カートリッジは、リサイクル材としてリサイクルされているものの、さらなる資源の有効利用についての取り組みも検討されている。このような状況において、使用済みのインクカートリッジにインクを再注入する使用方法、いわゆるリフィルが行われることがある。インクカートリッジのリフィルを行う方法として、例えば、下記特許文献1の技術が知られている。
【0003】
特許文献1では、インクカートリッジのインク排出口を栓で封じた上で、インクカートリッジの外壁にドリル等で貫通穴を形成し、当該貫通穴から注入器によりインク貯留部にインクを再注入し、注入後に貫通穴を封じることで、リフィルを行う技術を開示している。なお、インクカートリッジ内の空気は、インクが再注入されるに従い、注入器よりも大きく形成した貫通穴から外部に自然排気するものとしている。
【0004】
【特許文献1】特開2007−508160号公報
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、インク排出口を封止し、インクの注入に伴ってインクカートリッジ内の空気を貫通穴から排気することから、インク貯留部とインク排出口の間の流路には、インクが進入できず、効率的なリフィルが行えなかった。また、近年のインクカートリッジは、内部構造の複雑化・高度化が進んでおり、特許文献1の技術を単純に適用することができなくなっている。例えば、インクカートリッジが、圧電素子を用いてインク残量を検知するインクセンサを備えている場合には、センサ部への空気の混入によるセンサの誤動作を回避するために、インク流路構成が特に複雑化されており、貫通穴を形成する際に発生する容器の屑が、容器内部の液体に混入すると、インクカートリッジの機能を損ねる場合があった。
【0006】
かかる問題は、プリンタ用のインクカートリッジに限らず、例えば、金属を含む液体材料を噴射して半導体上に電極層を形成する噴射装置に液体材料を供給する液体収容体など、液体消費装置に液体を供給するための液体収容容器に共通する問題であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の問題を踏まえ、本発明が解決しようとする課題は、液体収容容器の機能を損なうことなく、液体収容容器に液体を再注入することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]液体消費装置に装着可能で、該液体消費装置へ供給する液体を収容する液体収容容器に、前記液体を注入する液体注入方法であって、
前記液体収容容器は、
前記液体を収容するためのタンク室と、
前記タンク室より、前記液体の流通経路の前記液体消費装置側である下流側に位置し、該タンク室と連通する、液体を収容するためのエンド室と、
該エンド室より下流側に位置し、前記液体の消費または残量状態を検出するためのセンサを収容可能なセンサ部と、
前記センサ部より下流側に位置し、前記タンク室及び前記エンド室に収容される液体を前記液体消費装置に供給するための液体供給部と、
前記タンク室を大気と大気連通路を介して連通させるための大気開放部と、
前記センサ部より上流側であって、前記エンド室より下流側に位置し、前記液体収容容器の前記液体消費装置への装着姿勢において円筒形流路が上方に折り返して形成された、気泡を捕捉するための気泡トラップ流路と、
前記気泡トラップ流路より下流側であって、前記センサ部より上流側に位置し、気泡を捕捉するための気泡トラップ室と、
を備え、
前記液体の流通経路上で前記気泡トラップ流路に隣接して連通する区画を避けて、注入口を形成する形成工程と、
前記注入口から前記液体を注入する注入工程と、
該注入後に、前記注入口を封止する封止工程と、
を備えた液体収容容器への液体注入方法。
【0010】
かかる液体注入方法は、液体の流通経路上で気泡トラップ流路に隣接して連通する区画を避けて、液体の流通経路に液体を注入するので、注入口を形成する際に発生する液体収容容器の屑が、液体収容容器の内部の液体に混入する場合であっても、当該混入箇所は、気泡トラップ流路に隣接していないため、混入した屑が気泡トラップ室に達しにくい。したがって、気泡トラップ室の流路への屑の付着に伴う、流路の閉塞や流路抵抗の増大を抑制できる。また、気泡トラップ室の流路への屑の付着に伴い、円筒形流路内にエッジを発生させ、液体の逆流防止機能が低下することを抑制することができる。すなわち、液体収容容器の機能を損なうことなく、液体を注入することができる。なお、本願において、「気泡トラップ流路に隣接して連通する区画」とは、液体の流通経路内において、内壁により区切られた液体の種々の収容室や、流路そのものをいう。
【0011】
[適用例2]液体消費装置に装着可能で、液体消費装置へ供給する液体を収容した液体収容容器の製造方法であって、液体を収容するためのタンク室と、タンク室より、液体の流通経路の液体消費装置側である下流側に位置し、タンク室と連通する、液体を収容するためのエンド室と、エンド室より下流側に位置し、液体の消費または残量状態を検出するためのセンサを収容可能なセンサ部と、センサ部より下流側に位置し、タンク室及びエンド室に収容される液体を液体消費装置に供給するための液体供給部と、タンク室を大気と大気連通路を介して連通させるための大気開放部と、センサ部より上流側であって、エンド室より下流側に位置し、液体収容容器の液体消費装置への装着姿勢において円筒形流路が上方に折り返して形成された、気泡を捕捉するための気泡トラップ流路と、気泡トラップ流路より下流側であって、センサ部より上流側に位置し、気泡を捕捉するための気泡トラップ室とを備えた液体収容容器を用意する工程と、液体の流通経路上で気泡トラップ流路に隣接して連通する区画を避けて、注入口を形成する形成工程と、注入口から液体を注入する注入工程と、注入後に、注入口を封止する封止工程とを備えた液体収容容器の製造方法。
かかる製造方法は、適用例1と同様に、液体収容容器の機能を損なうことなく、液体収容容器を製造することができる。
【0012】
[適用例3]液体消費装置に装着可能で、液体消費装置へ供給する液体を収容する液体収容容器であって、液体を収容するためのタンク室と、タンク室より、液体の流通経路の液体消費装置側である下流側に位置し、タンク室と連通する、液体を収容するためのエンド室と、エンド室より下流側に位置し、液体の消費または残量状態を検出するためのセンサを収容可能なセンサ部と、センサ部より下流側に位置し、タンク室及びエンド室に収容される液体を液体消費装置に供給するための液体供給部と、タンク室を大気と大気連通路を介して連通させるための大気開放部と、センサ部より上流側であって、エンド室より下流側に位置し、液体収容容器の液体消費装置への装着姿勢において円筒形流路が上方に折り返して形成された、気泡を捕捉するための気泡トラップ流路と、気泡トラップ流路より下流側であって、センサ部より上流側に位置し、気泡を捕捉するための気泡トラップ室と、液体の流通経路上で気泡トラップ流路に隣接して連通する区画を避けて形成された、液体を注入可能な注入口と、注入口を封止する封止部とを備えた液体収容容器。
【0013】
かかる液体収容容器は、注入に際して、適用例1の効果を得ることができる。また、注入口が封止されているので、注入口に起因して機能が損なわれることがない。また、封止部の脱着により、何度でも、注入口から液体を注入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施例について説明する。
A.インクカートリッジの構成:
図1は、本発明の実施例としてのインクカートリッジ製造処理に用いるインクカートリッジ1の第1の外観斜視図である。図2は、実施例としてのインクカートリッジ1の第2の外観斜視図である。図2は、図1とは反対方向からみた図を示している。図3は、図1に対応するインクカートリッジ1の分解斜視図である。図4は、図2に対応した方向から示す、インクカートリッジ1の分解斜視図である。図4は、図3とは反対方向からみた図を示している。図5は、インクカートリッジ1のひとつがキャリッジに取り付けられた状態を示す図である。なお、図1〜図5には、方向を特定するため、XYZ軸が図示されている。
【0015】
インクカートリッジ1は、内部に液体のインクを収容する。図5に示すように、インクカートリッジ1は、インクジェットプリンタのキャリッジ200に装着され、当該インクジェットプリンタにインクを供給する。
【0016】
図1及び図2に示すようにインクカートリッジ1は、略直方体形状を有し、Z軸正方向側の面1aと、Z軸負方向側の面1bと、X軸正方向側の面1cと、X軸負方向側の面1dと、Y軸正方向側の面1eと、Y軸負方向側の面1fとを有している。以下では、説明の便宜上、面1aを上面、面1bを底面、面1cを右側面、面1dを左側面、面1eを正面、面1fを背面とも呼ぶ。また、これらの面1a〜1fのある側を、それぞれ上面側、底面側、右側面側、左側面側、正面側、背面側とも呼ぶ。
【0017】
底面1bには、インクジェットプリンタにインクを供給するための供給孔を有する液体供給部50(請求項の液体供給部に該当)が設けられている。底面1bには、さらに、インクカートリッジ1の内部に大気を導入するための大気開放孔100が開口している(図4)。
【0018】
大気開放孔100は、インクジェットプリンタのキャリッジ200に形成された突起230(図5)が所定の隙間を有するように余裕を持って嵌るような深さと径を有している。ユーザは、大気開放孔100を気密に封止する封止フィルム90を剥がしてから、インクカートリッジ1をキャリッジ200に装着する。突起230は、封止フィルム90の剥がし忘れを防止するために設けられている。
【0019】
図1及び図2に示すように、左側面1dには、係合レバー11が設けられている。係合レバー11には、突起11aが形成されている。突起11aが、キャリッジ200への装着時にキャリッジ200に形成された凹部210と係合することによりキャリッジ200に対してインクカートリッジ1が固定される(図5)。以上から解るように、キャリッジ200はインクカートリッジ1が装着される装着部である。インクジェットプリンタの印刷時には、キャリッジ200は、印刷ヘッド(図示省略)と一体になって、印刷媒体の紙巾方向(主走査方向)に往復移動する。主走査方向は、図5においてY軸方向である。
【0020】
左側面1dの係合レバー11の下方には、回路基板35が設けられている(図2)。回路基板35上には、複数の電極端子35aが形成されており、これらの電極端子35aは、キャリッジ200に設けられた電極端子(図示省略)を介して、インクジェットプリンタと電気的に接続される。
【0021】
インクカートリッジ1の上面(面1a)と背面(面1f)には、外表面フィルム60が貼り付けられている。
【0022】
さらに、図3、図4を参照しながら、インクカートリッジ1の内部構成、部品構成について説明していく。インクカートリッジ1は、カートリッジ本体10と、カートリッジ本体10の正面側(面1e側)を覆う蓋部材20とを有している。
【0023】
カートリッジ本体10の正面側には、様々な形状を有するリブ10aが形成されている(図3)。カートリッジ本体10と蓋部材20との間には、カートリッジ本体10の正面側を覆うフィルム80が設けられている。フィルム80は、カートリッジ本体10のリブ10aの正面側の端面に隙間が生じないように緻密に貼り付けられている。これらのリブ10aとフィルム80により、複数の小部屋、例えば、後述するエンド室、バッファ室がインクカートリッジ1の内部に区画形成される。
【0024】
カートリッジ本体10の背面側には、差圧弁収容室40aと気液分離室70aとが形成されている(図4)。差圧弁収容室40aは、バルブ部材41とバネ42とバネ座43とからなる差圧弁40を収容する。気液分離室70aの底面を囲む内壁には土手70bが形成され、気液分離膜71が、当該土手70bに貼着されており、全体で気液分離フィルタ70を構成している。
【0025】
カートリッジ本体10の背面側には、さらに、複数の溝10bが形成されている(図4)。これらの溝10bは、カートリッジ本体10の背面側の略全体を覆うように外表面フィルム60が貼り付けられたときに、カートリッジ本体10と外表面フィルム60との間に後述する各種の流路、例えば、インクや大気が流動するための流路を形成する。
【0026】
次に、上述した回路基板35周辺の構造を説明する。カートリッジ本体10の右側面(面1c)の底面側(面1b側)には、センサ収容室30a(請求項のセンサ部に該当)が形成されている(図4)。センサ収容室30aには、液体残量センサ31が収容され、フィルム32により接着されている。センサ収容室30aの右側面側の開口は、カバー部材33によって覆われ、カバー部材33の外表面33aに、中継端子34を介して、上述した回路基板35が固定される。センサ収容室30aと、液体残量センサ31と、フィルム32と、カバー部材33と、中継端子34と、回路基板35とを全体で、センサ部30とも呼ぶ。
【0027】
詳細な図示は省略するが、液体残量センサ31は、後述するインク流動部の一部を形成するキャビティと、キャビティの壁面の一部を形成する振動板と、振動板上に配置された圧電素子とを備えている。圧電素子の端子は、電気的に回路基板35の電極端子の一部に接続されており、インクジェットプリンタにインクカートリッジ1が装着されたとき、圧電素子の端子は、回路基板35の電極端子を介してインクジェットプリンタと電気的に接続される。インクジェットプリンタは、圧電素子に電気エネルギを与えることにより、圧電素子を介して振動板を振動させることができる。その後、振動板の残留振動の特性(周波数等)を、圧電素子を介して検出することにより、インクジェットプリンタはキャビティにおけるインクの有無を検出することができる。具体的には、カートリッジ本体10に収容されていたインクが消尽されることにより、インクが満たされた状態から大気が満たされた状態に、キャビティの内部の状態が変化すると、振動板の残留振動の特性が変化する。かかる振動特性の変化を、液体残量センサ31を介して検出することにより、インクジェットプリンタは、キャビティにおけるインクの有無すなわち、インクカートリッジ1におけるインクの消費または残量状態を検出することができる。
【0028】
また、回路基板35には、EEPROM(Electronically Erasable and Programmable Read Only Memory)などの書き換え可能な不揮発性メモリが設けられており、インクジェットプリンタのインク消費量などが記録される。
【0029】
カートリッジ本体10の底面側には、上述した液体供給部50と大気開放孔100と共に、減圧孔110が設けられている(図4)。減圧孔110は、インクカートリッジ1の製造工程においてインクを注入する際に、空気を吸い出してインクカートリッジ1内部を減圧するために用いられる。
【0030】
液体供給部50、大気開放孔100、減圧孔110は、インクカートリッジ1が製造された直後には、それぞれ封止フィルム54、90、98によって開口部が封止されている。このうち、封止フィルム90は、上述したようにインクカートリッジ1がインクジェットプリンタのキャリッジ200に装着される前にユーザによって剥離される。これにより、大気開放孔100は外部と連通し、インクカートリッジ1の内部に大気が導入される。また、封止フィルム54は、インクカートリッジ1がインクジェットプリンタのキャリッジ200に装着された際に、キャリッジ200に備えられたインク供給針240によって破られるように構成されている。
【0031】
液体供給部50の内部には、内部側から順に、閉塞バネ53と、バネ座52と、シール部材51とが収容されている(図4)。シール部材51は、液体供給部50にインク供給針240が挿入されているときに、液体供給部50の内壁とインク供給針240の外壁との間に隙間が生じないようにシールする。バネ座52は、インクカートリッジ1がキャリッジ200に装着されていないときに、シール部材51の内壁に当接して液体供給部50を閉塞する。閉塞バネ53は、バネ座52をシール部材51の内壁に当接させる方向に付勢する。キャリッジ200のインク供給針240が液体供給部50に挿入されると、インク供給針240の上端がバネ座52を押し上げ、バネ座52とシール部材51との間に隙間が生じ、当該隙間からインク供給針240にインクが供給される。
【0032】
インクカートリッジ1の内部構造について説明する前に、理解の便を図って、大気開放孔100から液体供給部50に至る経路を、図6を参照して概念的に説明する。
【0033】
大気開放孔100から液体供給部50に至るまでの経路は、インクを収容するためのインク収容部と、インク収容部の上流側の大気導入部と、インク収容部の下流側のインク流動部とに大きく分けられる。
【0034】
大気導入部は、上流側から順に、大気開放孔100と、蛇行路310と、上述した気液分離膜71を収納する気液分離室70aと、気液分離室70aとインク収容部とを連結する空気室320〜360とから構成される。蛇行路310は、上流端が大気開放孔100と連通し、下流端が気液分離室70aと連通している。蛇行路310は、大気開放孔100からインク収容部までの距離を長くするために細長く蛇行して形成されている。これにより、インク収容部内のインク中の水分の蒸発を抑制することができる。気液分離膜71は、気体の透過を許容すると共に、液体の透過を許容しない素材で構成されている。気液分離膜71を、気液分離室70aの上流側と下流側との間に配置することにより、インク収容部から逆流してきたインクが、気液分離室70aより上流に進入することを抑制することができる。空気室320〜360の具体的構成は、後述する。
【0035】
インク収容部は、上流から順に、タンク室370と、連通路380と、エンド室390とから構成される。連通路380の上流側はタンク室370と連通し、連通路380の下流側はエンド室390と連通している。なお、タンク室370とエンド室390とは一体的な構成であってもよい。タンク室370、エンド室390は、それぞれ、請求項のタンク室、エンド室に該当する。
【0036】
インク流動部は、上流側から順に、気泡トラップ流路400と、気泡トラップ室410と、第1流動路420と、上述したセンサ部30と、第2流動路430と、バッファ室440と、上述した差圧弁40を収容する差圧弁収容室40aと、第3流動路450と、第4流動路460とから構成されている。なお、気泡トラップ流路400及び気泡トラップ室410は、それぞれ、請求項の気泡トラップ流路、気泡トラップ室に該当する。
【0037】
気泡トラップ流路400は、複数の屈曲部を立体的に有し、折り返し階段形状に形成されている。気泡トラップ流路400の詳細な構成について、図7〜10を参照して説明する。図7は後述する図11に示すインクカートリッジを7−7線によって切断した断面図である。図8は本実施例における気泡トラップ流路400の特徴を説明するための説明図である。図9は本実施例における気泡トラップ流路400の特徴を説明するために対比例を示す説明図である。図10は本実施例に係るインクカートリッジの姿勢と関連する気泡トラップ流路400の特徴を説明するための説明図である。
【0038】
気泡トラップ流路400は、4つの円筒流路部、第1の円筒流路部404a〜第4の円筒流路部404dと3つの接続流路部、第1の接続流路部405a〜第3の接続流路部405cを備えている。各円筒流路部404a〜404dは、鉛直方向に交差して形成(配置)されている(図8参照)と共に鉛直方向に千鳥状に配置されている(図11参照)。具体的には、各円筒流路部404a〜404dは、インクカートリッジ1の底面に対して平行に厚さ方向(Y方向)に横断し、かつそれぞれ鉛直方向(高さ方向)に異なる高さで配置されている。本実施例では、4つの円筒流路部404a〜404dは、鉛直方向に重なる2つのグループ、すなわち、第1の円筒流路部404aと第3の円筒流路部404c、および第2の円筒流路部404bと第4の円筒流路部404dを構成している。各円筒流路部404a〜404dの鉛直方向の高さは、第1の円筒流路部404aから第4の円筒流路部404dに向かって順次高くなる。
【0039】
接続流路部405は、インクカートリッジ1の両側面側において斜め上方に2つの円筒流路部404を接続することによって導入部401から導出部402にわたる1つの連通路として気泡トラップ流路400を形成する。なお、2つの接続流路部405が配置される側面側においては、2つの接続流路部405が平行となるように2つの円筒流路部404が接続される。具体的には、第1の側面側(図11に示す側)において、第2の円筒流路部404bの一端と第3の円筒流路部404cの一端が第1の接続流路部405aによって接続される。また、第2の側面側(図12に示す側)において、第1の円筒流路部404aの他端と第2の円筒流路部404bの他端が第2の接続流路部405bによって接続され、第3の円筒流路部404cの他端と第4の円筒流路部404dの他端とが第3の接続流路部405cによって接続される。この結果、導入部401から導出部402に向かって鉛直方向に折り返し階段状(あるいは螺旋状)に繋がる気泡トラップ流路400が形成される。なお、第1の接続流路部405a〜第3の接続流路部405cは、外表面フィルム60およびフィルム80が貼り付けられることによって、流路部として機能するので、第1〜第3の接続流路部形成部と呼ぶこともできる。また、第1の接続流路部405a〜第3の接続流路部405cは、エッジ部を有しない断面が半円形状または曲線形状であることが望ましい。流路に侵入した気泡は表面張力により球になろうとするが、流路にエッジ部を有するとエッジ部と気泡の曲線部との間に隙間が生じ、インクの封止が困難になるためである。これにより、気泡は流路の形状に追随しやすくなり、気泡と接続流路部との隙間がなくなり、気泡を残したままインクのみが下流から上流へ排出されることを防止することができる。
【0040】
気泡トラップ流路400は、上記形状を有することにより、外部環境変化、例えば、外気温の変動、外気圧に起因する、気泡トラップ室410に対する気泡の進入を抑制することができる。具体的には、例えば、外気温の低下によってインクが凍結する場合、気泡トラップ室410を満たしているインクは、体積の増大によってエンド室へと流動する。インクが解凍すると体積は元に戻る(減少する)が、インクカートリッジ1の姿勢によっては気泡トラップ室410の導入口とエンド室390内の空気と接触した状態でインクが解凍することもある。この場合、気泡トラップ室410にエンド室390内の空気が流入し、気泡トラップ室410内に気泡が発生する。これに対して、本実施例では、気泡トラップ流路400の体積を、気泡トラップ室410〜バッファ室440間を満たしているインクが凍結した際に増大する体積よりも大きな体積とすることによって、インクの解凍後であっても気泡トラップ流路400内にインクを残留させて、気泡トラップ室410への空気(気泡)の進入を抑制または防止している。なお、バッファ室440もインクの体積増加を考慮して設計されている。
【0041】
本実施例における各円筒流路部404はさらに、図7および図8に示すように、接続流路部405と接続される端部に円筒流路部404の他の部分および接続流路部405の流路径よりも径が小さい絞り部404Tを有する。この結果、接続流路部405から円筒流路部404に対するインクの流動が防止または抑制される。なお、円筒流路部404の他の部分の流路径と接続流路部405の流路径とは同一であってもよく、あるいは、いずれか一方が小さく(あるいは大きく)ても良い。
【0042】
円筒流路部が絞り部を有しない場合には、図9に示すように、接続流路部405’に気泡Bが存在する場合であっても、円筒流路部404’と接続流路部405’とは、気泡Bの曲線部と接続流路部405’との間にできる隙間CNで連通されている。したがって、インクはこの隙間CNを介してエンド室390と気泡トラップ室410との間を流動することができるため、上流側(気泡トラップ室410側)から圧力を受けるとエンド室に向かって流れ出てしまう。一方、気泡Bは、隙間CNを介したインクの流動が可能であるため移動せず、上流側から更に移動してくる気泡Bと共に下流側に貯まっていく。この結果、気泡トラップ流路400には気泡が貯まりやすくなる。
【0043】
これに対して、円筒流路部が絞り部を有する場合には、図8に示すように、絞り部404Tの径は円筒流路部404の他の部位の径および接続流路部405の径よりも小さいので、接続流路部405に進入した気泡Bは円筒流路部404の絞り部404Tよりも大きな径を有する。したがって、絞り部404Tによって、気泡Bの曲線部と接続流路部405との間にできる隙間と円筒流路部404との連通が妨げられ、円筒流路部404は気泡Bによって封止された状態となる。すなわち、接続流路部405に進入した気泡Bは下流側からの圧力によって上流側の円筒流路部404に押し出されるので、円筒流路部404(絞り部404T)は気泡Bによって封止される。この結果、インクはエンド室390と気泡トラップ室410との間を流動することができず、インクのエンド室390への流出を抑制または防止することができる。
【0044】
さらに、図10に示すように、気泡トラップ流路400は、インクカートリッジ1がインクジェットプリンタに装着される姿勢以外の姿勢、すなわち、インクカートリッジ1の底部1bが下側を向く姿勢以外の姿勢の場合に、気泡が重力方向に移動しなければ気泡トラップ室410に移動できない流路構成を有している。
【0045】
具体的には、第1の接続流路部405aと第3の接続流路部405cとが図10に示すインクカートリッジ1の姿勢においてV字状をなすように形成されている。すなわち、少なくとも、鉛直方向において気泡トラップ室410から斜め下方(第1の方向)に下がる接続流路部Aと、接続流路部Aと接続されていると共に接続流路部Aと線対称の斜め下方(第2の方向)に下がる接続流路部Bを有するように構成されていれば良い。
【0046】
この構成を有する気泡トラップ流路400によれば、インクジェットプリンタから取り外されたインクカートリッジ1の姿勢によらず気泡トラップ室410に対する気泡の移動(流動)を抑制または防止することができる。すなわち、インクカートリッジ1がインクジェットプリンタに装着される姿勢においては、エンド室390の最下部に位置する気泡トラップ流路400の導入部401は空気に晒されず、そもそも気泡トラップ流路400に対する気泡の流動は生じない。一方、その他の姿勢においては、気泡が重力方向に移動しなければ気泡トラップ室410に移動できない流路構成となるため、気泡の移動が抑制または防止される。この結果、インクカートリッジ1の保管姿勢によらず、気泡トラップ流路400から気泡トラップ室410への気泡の移動を抑制または防止することができる。なお、気泡トラップ流路400は、上述の構成により、他のインク流通経路と比べて、流路抵抗が大きくなっている。
【0047】
気泡トラップ室410は、気泡トラップ室410に形成された連通孔412により第1流動路420と連通しており、第1流動路420は、下流端がセンサ部30に連通している。気泡トラップ室410は、気泡トラップ流路400から流入したインクに含まれる気泡を分離し、センサ部30に対する気泡の移動を抑制または防止する。具体的には、気泡トラップ室410は、上方(Z方向)に形成されている気泡トラップ流路400の導出部402を介してインクを、下方に形成されている第2流動路430を介してセンサ部30へ導出する構成を備えている。この構成を備えることによって、気泡トラップ流路400から気泡トラップ室410に流入した気泡を含有するインクは、気泡トラップ室410の上方に止まる気体成分(含有されている空気)と、気泡トラップ室410の内壁面を伝って気泡トラップ室410の下方へ移動する液体成分であるインクとに分離される。すなわち、気体と液体の比重の差を利用して、気泡トラップ室410の上面側で気泡が捕捉される。気泡は、空気またはインクのいずれか一方を取り除けば発生しないので、空気とインクを分離することによって、センサ部30に気泡が進入し、液体残量センサ31が誤検出する事態を抑制または防止することができる。具体的には、インクカートリッジ1にインクが残存している場合に、気泡がセンサ部30に進入することによってインク切れを検出する場合、または、インクカートリッジ1にインクが残存していない場合に、毛管作用によって空気と共にわずかに残留するインクがセンサ部30に吸引され、すなわち気泡を含有する液体としてセンサ部30に吸引されてインク有りを検出する場合がある。前者の場合には、インクが残存しているにもかかわらず印刷を実行することができず、後者の場合にはインクが残存していないにもかかわらず印刷を実行して印刷ヘッドの損傷を招く可能性がある。
【0048】
第2流動路430は、上流端がセンサ部30に連通し、下流端がバッファ室440に連通している。バッファ室440は、直接的に差圧弁収容室40aに連通している。差圧弁収容室40aにおいて、差圧弁40は、液体供給部50からインク消費装置への供給に伴い、差圧弁40より下流側のインクが負圧になり、負圧が差圧弁40の閉じている力を超えると、その超えている間だけ差圧弁40が開き上流側のインクが下流側に流れるように構成されている。即ち、差圧弁40は、上流側から下流側への一方向のインクの流れを可能とするものであり、例えば、インク供給部50からインクを注入するなどして差圧弁40の下流側のインクが正圧になった場合は、差圧弁40には弁を閉じる方向の力がかかり、差圧弁40の下流側から上流側へのインクの逆流を防止するようになっている。第3流動路450は、上流端が差圧弁収容室40aに連通し、下流端が第4流動路460を介して液体供給部50に連通している。
【0049】
インクは、インクカートリッジ1の製造時には、図6において破線ML1で液面を概念的に示すように、タンク室370まで充填されている。インクカートリッジ1の内部のインクが、インクジェットプリンタによって消費されていくと、液面は下流側に移動し、その代わりに大気開放孔100を介して上流から大気がインクカートリッジ1の内部に流入する。そして、インクの消費が進むと、図6において破線ML2で液面を概念的に示すように、液面がセンサ部30にまで到達する。そうすると、センサ部30に大気が導入され、液体残量センサ31により、インク切れが検出される。インク切れが検出されると、インクカートリッジ1は、センサ部30より下流側(バッファ室440等)に存在するインクが完全に消費されるより前の段階で、印刷を停止し、ユーザにインク切れを通知する。こうすることで、印刷ヘッドに空気が混入した状態で、印刷することがない。
【0050】
以上の説明を踏まえて、大気開放孔100から液体供給部50に至るまでの経路の各構成要素のインクカートリッジ1内における具体的構成を、図11〜13を参照して説明する。図11は、カートリッジ本体10を正面側から見た図である。図12は、カートリッジ本体10を背面側から見た図である。図13(a)は、図11を簡略化した模式図である。図13(b)は、図12を簡略化した模式図である。
【0051】
インク収容部のうち、タンク室370及びエンド室390は、カートリッジ本体10の正面側に形成されている。タンク室370及びエンド室390は、図11及び図13(a)において、それぞれ、シングルハッチング及びクロスハッチングで示されている。エンド室390の内壁は、液体供給部50と大気開放孔100との間に亘っては、カートリッジ本体10の底面を構成している。連通路380は、図12及び図13(b)に示すように、カートリッジ本体10の背面側の中央部付近に形成されている。連通孔371は連通路380の上流端とタンク室370とを連通させる孔であり、連通孔391は連通路380の下流端とエンド室390とを連通させる孔である。
【0052】
大気導入部のうち、蛇行路310及び気液分離室70aは、図12及び図13(b)に示すように、カートリッジ本体10の背面側のうち右側面側の位置にそれぞれ形成されている。連通孔102は、蛇行路310の上流端と大気開放孔100とを連通する孔である。蛇行路310の下流端は、気液分離室70aの側壁を貫通して気液分離室70aに連通している。
【0053】
図6に示した大気導入部の空気室320〜360は、カートリッジ本体10の正面側に配置された空気室320,340,350(図11及び図13(a)参照)と、カートリッジ本体10の背面側に配置された空気室330,360(図12及び図13(b)参照)とから構成され、各空間は上流から符合の順に直列に一本の流路を形成している。空気室320及び330の内壁の一部は、カートリッジ本体10の上面を形成し、空気室340、350の内壁の一部は、カートリッジ本体10の右側面を形成している。連通孔322は、気液分離室70aと空気室320とを連通する孔である。連通孔321、341は、空気室320と空気室330との間、空気室330と空気室340との間を、それぞれ連通する孔である。空気室340と空気室350との間は、空気室340と空気室350を隔てるリブに形成された切欠342により連通している。連通孔351、372は、空気室350と空気室360との間、空気室360とタンク室370との間を、それぞれ連通する孔である。このように、複数に区画され、立体的に構成された空気室を設けることで、タンク室370から気液分離室70aへ、インクが逆流することを抑制することができる。
【0054】
インク流動部のうち、気泡トラップ流路400、気泡トラップ室410は、図11及び図13(a)に示すように、カートリッジ本体10の正面側の、液体供給部50に近接する位置に形成されている。エンド室390には、気泡トラップ流路400に連通する導入部401が形成されている。気泡トラップ流路400は、円筒形の流路が、カートリッジ本体10の背面側と正面側との間を折り返しながら上面側に進み、導出部402を介して、気泡トラップ室410に連通するように形成されている。センサ部30は、図4を参照して説明したように、カートリッジ本体10の左側面の底面側に配置されている(図11〜図13)。
【0055】
気泡トラップ室410とセンサ部30とを連通する第1流動路420、センサ部30とバッファ室440とを連通する第2流動路430は、図12及び図13(b)に示すように、カートリッジ本体10の背面側にそれぞれ形成されている。気泡トラップ室410には、連通孔412が形成され、気泡トラップ室410と第1流動路420との間を連通している。連通孔311は、第1流動路420とセンサ部30との間を連通する孔である。また、連通孔312、441は、センサ部30と第2流動路430との間、第2流動路430とバッファ室440との間を連通する孔である。
【0056】
バッファ室440、第3流動路450及び第4流動路460は、図11及び図13(a)に示すように、カートリッジ本体10の正面側のうち、左側面側にそれぞれ形成されている。連通孔441は、第2流動路430の下流端とバッファ室440とを連通する孔である。連通孔442は、バッファ室440と差圧弁収容室40aとを直接に連通する孔である。連通孔451は、差圧弁収容室40aと第3流動路450との間を連通する孔である。連通孔452は、第3流動路450と液体供給部50内部に形成された第4流動路460との間を連通する孔である。
【0057】
また、図11及び図13(a)に示す空間501及び503は、インクが充填されない未充填室である。未充填室501及び503は、大気開放孔100から液体供給部50に至る経路上にはなく、独立している。未充填室501の背面側には、大気と連通する大気連通孔502が設けられている。同様に、未充填室503の背面側には、大気と連通する大気連通孔504が設けられている。未充填室501及び503は、インクカートリッジ1を減圧パックにより包装した時に、負圧を蓄圧した脱気室となる。これにより、インクカートリッジ1は包装された状態で、カートリッジ本体10内部の気圧が規定値以下に保たれ、溶存空気の少ないインクを供給することができる。
【0058】
B.インクカートリッジの製造方法:
本発明の実施例としての、インクカートリッジ1の製造方法について、図14を用いて説明する。この処理は、インクカートリッジ1に収容されるインクが消費されて、インク残量が所定量以下となった場合に、インクカートリッジ1をプリンタのキャリッジ200から取り外し、インクカートリッジ1に再度インクを注入して、新たなインクカートリッジ1を製造する処理(いわゆるリフィル処理)である。インクカートリッジ製造処理においては、まず、インクが消費されたインクカートリッジ1を用意する(ステップS600)。そして、インクカートリッジ1から蓋部材20を取り外し、カートリッジ本体10の左側面上であって、係合レバー11よりも正面側のエリアに、未充填室501の内壁を貫通してバッファ室440に連通する注入口720a及び720bを形成する(ステップS610)。具体的には、図15に示すカートリッジ本体10の左側面のうち、ハッチングを施した注入口形成エリア710に注入口を形成すればよく、未充填室501及び503の内壁を貫通してもよい。本実施例においては、電動ドリルにより、直径6mmの注入口720を形成した。なお、エリア710は、図13(a)の左側面側に太線で示した断面に対応している。
【0059】
注入口720を形成すると、液体供給部50を閉じると共に、大気開放孔100を開放する(ステップS620)。なお、通常であれば、大気開放孔100を封止する封止フィルム90は、キャリッジ200への装着時に剥がされているので、大気開放孔100は、開放された状態となっている。また、液体供給部50は、閉塞バネ53により付勢されたバネ座52とシール部材51とにより閉じられた状態となっている。すなわち、この工程は必須ではない。
【0060】
液体供給部50を閉じ、大気開放孔100を開放すると、注入口720からインクを注入する(ステップS630)。本実施例においては、図16に示すように、注入口720aからシールゴム付きチューブ840を挿入し、シールゴムを注入口720bに当接させ、これに、チューブを介して、バルブ830、ポンプ820、インクタンク810を接続し、ポンプ820を稼働させ、バルブ830を調節することで、インクタンク810に貯留されたインクをバッファ室440に注入した。なお、注入口720bをシールしながらインクを注入することは、必須ではないが、こうすることで、インク注入が効率的に行え、また、インクがカートリッジ本体10の外部に漏れることがない。インクの注入量は、タンク室370の所定位置まで充填されるまでとした。本実施例においては、フィルム80が透明フィルムであるため、上述の所定位置は、目視で確認するものとしたが、注入を自動化する場合や、フィルム80が透明でない場合などには、予め定めた量を注入するものとしてもよい。なお、液体供給部50を閉じているので、インクは、バッファ室440よりも下流側には進入しない。
【0061】
なお、上述の注入方法は、一例に過ぎず、注射器を用いて注入する方法など、種々の方法によりインクを注入すればよい。
【0062】
インクを注入すると、液体供給部50を開けると共に、大気開放孔100を閉じる(ステップS640)。本実施例においては、図17に示すように、シールキャップ850を用いて大気開放孔100を封止することで、大気開放孔100を閉じることとした。また、キャリッジ200に用いるインク供給針240と同一形状のインク供給針890を液体供給部50に挿入することで、閉塞バネ53により底面側に付勢されているバネ座52を上面側に押し込むことで、閉塞バネ53とバネ座52の間に隙間を生じさせ、液体供給部50を開けるものとした。
【0063】
液体供給部50を開け、大気開放孔100を閉じると、再び、注入口720からインクを注入する(ステップS650)。大気開放孔100を閉じているので、注入されたインクは、タンク室370側へは進入せず、液体供給部50を開いているので、注入したインクは、下流側へ進入する。そこで、液体供給部50までインクが充填された状態となるまで、インクを注入するのである。
【0064】
インクを注入すると、シールキャップ850を大気開放孔100から外すと共に、所定の封止部材を用いて、注入口720を封止し、蓋部材20をカートリッジ本体10に装着する(ステップS660)。本実施例においては、カートリッジ本体10の左側面側の注入口720b及びその周辺に、合成樹脂フィルムを接着剤で接着することで、注入口を封止する構成としたが、封止方法は、これに限るものではなく、注入口720bを気密に封止できるものであればよい。例えば、フィルムを溶着してもよいし、ゴム、合成樹脂などで形成される封止栓をはめ込んでもよいし、注入口720b及びその周辺に接着剤などを固着させてもよい。こうして、インクカートリッジ製造処理は完了する。なお、本実施例においては、上述の注入口720aは、ステップS660の作業性を考慮し、注入口720bよりも大きく形成している。
【0065】
かかるインクカートリッジの製造方法は、気泡トラップ流路400に隣接して連通しない(すなわち、気泡トラップ室410、第1流動路420、第2流動路430を介して気泡トラップ流路400に連通する)バッファ室440にインクを注入する。したがって、図14に示したインクカートリッジ製造処理において、注入口720a,720bの形成時にカートリッジ本体10の削り屑等が発生し、それが、バッファ室440内に進入して、注入したインクに屑が混入しても、バッファ室440から気泡トラップ流路400までの経路は、距離が長く、また、立体的に構成されているので、混入した屑が気泡トラップ流路400に達することを抑制することができる。その結果、屑が気泡トラップ流路400に付着するなどして、比較的流路径が小さい気泡トラップ流路400の閉塞や流路抵抗の増大を招いたり、円筒形の流路にエッジ部が生じて、上述した気泡トラップ流路400の機能を低下させたりすることを抑制することができる。すなわち、カートリッジ本体10の機能を損なうことなく、インクの注入が行える。
【0066】
また、かかるインクカートリッジの製造方法は、液体供給部50を開け、大気開放孔100を閉じた状態でインクを注入するので、注入口720bから注入したインクを、バッファ室440から液体供給部50側のインク流通経路に円滑に導くことができる。また、液体供給部50を閉じ、大気開放孔100を開けた状態でインクを注入するので、注入口720bから注入したインクを、バッファ室440からタンク室370に円滑に導くことができる。
【0067】
また、かかるインクカートリッジの製造方法でインクが注入されたインクカートリッジ1は、形成された注入口720bがフィルムで封止されているので、インクカートリッジ1の機能を損なうことがない。また、当該フィルムを剥がせば、何度でも、注入口720bからインクを注入することができる。
【0068】
C.変形例:
C−1.変形例1:
実施例のインクカートリッジ製造処理においては、インクの注入に際して、大気開放孔100の開閉を行ったが、大気開放孔100は常に閉じておき、空気室320〜360に穴を開けて、当該穴を開閉してもよい。こうすれば、平面上に形成された穴を開閉することができるので、大気開放孔100のように凹凸のある部分を開閉するよりも容易に開閉が行える。
【0069】
C−2.変形例2:
実施例のインクカートリッジ製造処理においては、先にバッファ室440の上流側にインクを充填し(ステップS630)、その後にバッファ室440の下流側にインクを充填する(ステップS650)手順としたが、これらの順序は、逆であってもよい。先に、下流側にインクを充填する手順とすれば、注入口720bから混入した屑は、注入したインクの流れに伴って、下流側に移動することも考えられ、その場合、屑が気泡トラップ流路400から遠ざかり、あるいは、液体供給部50から排出されるので、屑が気泡トラップ流路400に達することを抑制する効果を高めることができる。また、かかる場合には、液体供給部50に針を挿入するなどして、真空ポンプなどを用いて、容器内の空気等を吸引しながら、液体を注入してもよい。こうすれば、屑の排出性が高まり、上述の効果をさらに高めることができるからである。さらに、このように、屑が液体供給部50から排出できる場合には、気泡トラップ流路400より上流側へのインクの充填に際しても、上流側(大気開放孔100など)から、容器内の空気等を吸引しながら、液体を注入してもよい。こうすれば、より円滑かつ迅速に、液体を上流側に注入することができる。なお、上述した上流側及び下流側へのインクの注入工程は、いずれか一方のみの工程であってもよい。
【0070】
C−3.変形例3:
実施例のインクカートリッジ製造処理においては、カートリッジ本体10の左側面の注入口形成エリア710に、バッファ室440に連通する注入口720a,720bを形成するものとしたが、バッファ室440に連通する注入口の形成箇所は、これに限られるものではない。注入口の形成箇所は、具体的には、例えば、図18(a)にハッチングで示すように、カートリッジ本体10の正面に貼られたフィルム80上に形成してもよい。また、図18(b)にハッチングで示すように、カートリッジ本体10の背面に貼られた外表面フィルム60上のエリア910に形成してもよい。
【0071】
C−4.変形例4:
上述の実施例及び変形例におけるインクカートリッジ製造処理においては、バッファ室440にインクを注入する手順について示したが、インクの注入箇所は、バッファ室440に限られるものではなく、例えば、タンク室370に注入してもよい。 注入口の形成箇所は、具体的には、例えば、図19(a)にハッチングで示すように、カートリッジ本体10の正面に貼られたフィルム80上に形成してもよい。また、図19(b)にハッチングで示すように、カートリッジ本体10の背面に貼られた外表面フィルム60上のエリア920に形成してもよい。
【0072】
また、注入口は、例えば、図20(a)に示すように、カートリッジ本体10の右側面のエリア930に、空気室350、または、空気室340及び320を貫通する注入口を、右側面及び空気室350とタンク室370との間に形成された内壁、または、右側面並びに空気室340と空気室320との間に形成された内壁及び空気室320とタンク室370との間に形成された内壁に形成してもよい。あるいは、図20(b)に示すように、カートリッジ本体10の上面のエリア940に、タンク室370に直接的に連通する、または、空気室330を貫通する注入口720を形成してもよい。あるいは、図20(c)に示すように、カートリッジ本体10の左側面のエリア950に、タンク室370に直接的に連通する注入口720を形成してもよい。なお、このようにタンク室370に注入口720を形成することができるタンク室370の断面を、図19(a)に太線で例示している。
【0073】
このように、注入口は、気泡トラップ流路400に隣接して連通する種々のインク収容室や流路(実施例の構成では、エンド室390と気泡トラップ室410)を避けて形成すればよく、特に限定するものではない。気泡トラップ流路400に隣接して連通する種々のインク収容室や流路を避ければ、注入口の形成の伴い混入した屑が気泡トラップ流路400に達することを抑制できるからである。
【0074】
C−5.変形例5:
実施例においては、図1〜9に示したインクカートリッジ1についての、インクカートリッジ製造処理を示したが、本発明のインクカートリッジ製造処理に用いるインクカートリッジ1は、実施例に示した構造に限られるものではない。第2の構造例としてのインクカートリッジ1cを図21に示す。図21は、インクカートリッジ1cを構成するカートリッジ本体10cの正面側から見た模式図である。図中の符号は、図11または図13に示した部位と同一の部位については、図11または図13と同一の符号の末尾に「c」を付して示している。概略構成は、実施例と類似しており、詳しい説明は省略するが、大きくは、タンク室370cが底面側に、エンド室390cが上面側に配置されている点、実施例で示した空気室350が、空気室350cと空気室355cとに分離されている点、センサ部30cは、気泡トラップ室410cの背後に配置されている点(図示せず)、底面及び上面がY軸方向に長い点が異なっている。また、気泡トラップ流路400cについても、実施例では、カートリッジ本体10の正面側と背面側の間を、底面に略並行に流れる4本の流路が上面側に折り返して繋がる構成として示したが、本変形例では、底面に略並行に流れる2本の流路が上面側に折り返して繋がる構成としている。
【0075】
かかるカートリッジ本体10cにおいては、例えば、図21に示すように、底面側や右側面側(図中の太線の断面エリア)に注入口を形成してもよい。あるいは、図21にハッチングで示すように、注入口は、カートリッジ本体10cの正面に貼られたフィルム80c上に形成してもよい。
【0076】
このように、本発明のインクカートリッジ製造処理に用いるインクカートリッジは、実施例に示した構造に限定するものではなく、気泡トラップ流路400を備えたものであればよい。また、気泡トラップ流路400の構成についても、上述した機能が発揮されるものであればよく、カートリッジ本体10のプリンタへの装着姿勢において円筒形流路が上方に折り返して形成されたものであればよい。
【0077】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を脱しない範囲において、種々なる態様で実施できることは勿論である。例えば、本発明の液体収容容器の製造方法は、液体収容容器や液体注入方法としても実現することができる。また、実施例に示したインクジェット式プリンタに用いるインクカートリッジへの適用のほか、インク以外の種々の液体の収容容器への適用が可能である。具体的には、例えば、液晶ディスプレイ、ELディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料の液状体、バイオチップ製造に用いられる生体有機物、精密ピペットとして用いられ試料となる液体、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで噴射される潤滑油、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために噴射される紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液、基板などをエッチングするための酸又はアルカリ等のエッチング液などの収容容器に関するものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】インクカートリッジ1の第1の外観斜視図である。
【図2】インクカートリッジ1の第2の外観斜視図である。
【図3】インクカートリッジ1の第1の分解斜視図である。
【図4】インクカートリッジ1の第2の分解斜視図である。
【図5】インクカートリッジ1がキャリッジ200に取り付けられた状態を示す図である。
【図6】大気開放孔100から液体供給部50に至る経路を概念的に示す図である。
【図7】図11に示すインクカートリッジを7−7線によって切断した断面図である。
【図8】本実施例における気泡トラップ流路400の特徴を説明するための説明図である。
【図9】本実施例における気泡トラップ流路400の特徴を説明するために対比例を示す説明図である。
【図10】本実施例に係るインクカートリッジの姿勢と関連する気泡トラップ流路400の特徴を説明するための説明図である。
【図11】カートリッジ本体10を正面側から見た図である。
【図12】カートリッジ本体10を背面側から見た図である。
【図13】カートリッジ本体10の正面及び背面の概略図である。
【図14】インクカートリッジ製造処理の手順を示すフローチャートである。
【図15】カートリッジ本体10の底面において、注入口720を形成する注入口形成エリア710を示す説明図である。
【図16】インクカートリッジ製造処理におけるインク注入の状況を示す説明図である。
【図17】インクカートリッジ製造処理におけるインク注入の状況を示す説明図である。
【図18】変形例としての、注入口720の形成箇所を示す説明図である。
【図19】変形例としての、注入口720の形成箇所を示す説明図である。
【図20】変形例としての、注入口720の形成箇所を示す説明図である。
【図21】変形例としてのカートリッジ本体10cに、注入口720を形成する箇所を示す説明図である。
【符号の説明】
【0079】
1…インクカートリッジ
1a…上面
1b…底面
1c…右側面
1d…左側面
1e…正面
1f…背面
10…カートリッジ本体
10a…リブ
10b…溝
11…係合レバー
11a…突起
20…蓋部材
30…センサ部
30a…センサ収容室
31…液体残量センサ
32…フィルム
33…カバー部材
33a…カバー部材外表面
34…中継端子
35…回路基板
35a…電極端子
40…差圧弁
40a…差圧弁収容室
41…バルブ部材
42…バネ
43…バネ座
50…液体供給部
51…シール部材
52…バネ座
53…閉塞バネ
54…封止フィルム
60…外表面フィルム
70…気液分離フィルタ
70a…気液分離室
70b…土手
71…気液分離膜
80…フィルム
90…封止フィルム
100…大気開放孔
102…連通孔
110…減圧孔
200…キャリッジ
210…凹部
230…突起
240…インク供給針
310…蛇行路
311,312…連通孔
320,330,340,350,360…空気室
321,322,351,371,391…連通孔
342…切欠
370…タンク室
380…連通路
390…エンド室
400…気泡トラップ流路
401…導入部
402…導出部
404…円筒流路部
404T…絞り部
404a〜404d…第1の円筒流路部〜第4の円筒流路部
405…接続流路部
405a〜405c…第1の接続流路部〜第3の接続流路部
410…気泡トラップ室
412,441,442,451,452…連通孔
420…第1流動路
430…第2流動路
440…バッファ室
450…第3流動路
460…第4流動路
501,503…未充填室
502,504…大気連通孔
710,910〜950…注入口形成エリア
720,720a,720b…注入口
810…インクタンク
820…ポンプ
830…バルブ
840…シールゴム付きチューブ
850…シールキャップ
860…真空ポンプ
870…インクトラップ
880…バルブ
890…インク供給針

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体消費装置に装着可能で、該液体消費装置へ供給する液体を収容する液体収容容器に、前記液体を注入する液体注入方法であって、
前記液体収容容器は、
前記液体を収容するためのタンク室と、
前記タンク室より、前記液体の流通経路の前記液体消費装置側である下流側に位置し、該タンク室と連通する、液体を収容するためのエンド室と、
該エンド室より下流側に位置し、前記液体の消費または残量状態を検出するためのセンサを収容可能なセンサ部と、
前記センサ部より下流側に位置し、前記タンク室及び前記エンド室に収容される液体を前記液体消費装置に供給するための液体供給部と、
前記タンク室を大気と大気連通路を介して連通させるための大気開放部と、
前記センサ部より上流側であって、前記エンド室より下流側に位置し、前記液体収容容器の前記液体消費装置への装着姿勢において円筒形流路が上方に折り返して形成された、気泡を捕捉するための気泡トラップ流路と、
前記気泡トラップ流路より下流側であって、前記センサ部より上流側に位置し、気泡を捕捉するための気泡トラップ室と、
を備え、
前記液体の流通経路上で前記気泡トラップ流路に隣接して連通する区画を避けて、注入口を形成する形成工程と、
前記注入口から前記液体を注入する注入工程と、
該注入後に、前記注入口を封止する封止工程と、
を備えた液体収容容器への液体注入方法。
【請求項2】
液体消費装置に装着可能で、該液体消費装置へ供給する液体を収容した液体収容容器の製造方法であって、
前記液体を収容するためのタンク室と、前記タンク室より、前記液体の流通経路の前記液体消費装置側である下流側に位置し、該タンク室と連通する、液体を収容するためのエンド室と、該エンド室より下流側に位置し、前記液体の消費または残量状態を検出するためのセンサを収容可能なセンサ部と、前記センサ部より下流側に位置し、前記タンク室及び前記エンド室に収容される液体を前記液体消費装置に供給するための液体供給部と、前記タンク室を大気と大気連通路を介して連通させるための大気開放部と、前記センサ部より上流側であって、前記エンド室より下流側に位置し、前記液体収容容器の前記液体消費装置への装着姿勢において円筒形流路が上方に折り返して形成された、気泡を捕捉するための気泡トラップ流路と、前記気泡トラップ流路より下流側であって、前記センサ部より上流側に位置し、気泡を捕捉するための気泡トラップ室とを備えた液体収容容器を用意する工程と、
前記液体の流通経路上で前記気泡トラップ流路に隣接して連通する区画を避けて、注入口を形成する形成工程と、
前記注入口から前記液体を注入する注入工程と、
該注入後に、前記注入口を封止する封止工程と
を備えた液体収容容器の製造方法。
【請求項3】
液体消費装置に装着可能で、該液体消費装置へ供給する液体を収容する液体収容容器であって、
前記液体を収容するためのタンク室と、
前記タンク室より、前記液体の流通経路の前記液体消費装置側である下流側に位置し、該タンク室と連通する、液体を収容するためのエンド室と、
該エンド室より下流側に位置し、前記液体の消費または残量状態を検出するためのセンサを収容可能なセンサ部と、
前記センサ部より下流側に位置し、前記タンク室及び前記エンド室に収容される液体を前記液体消費装置に供給するための液体供給部と、
前記タンク室を大気と大気連通路を介して連通させるための大気開放部と、
前記センサ部より上流側であって、前記エンド室より下流側に位置し、前記液体収容容器の前記液体消費装置への装着姿勢において円筒形流路が上方に折り返して形成された、気泡を捕捉するための気泡トラップ流路と、
前記気泡トラップ流路より下流側であって、前記センサ部より上流側に位置し、気泡を捕捉するための気泡トラップ室と、
前記液体の流通経路上で前記気泡トラップ流路に隣接して連通する区画(室、流路)を避けて形成された、前記液体を注入可能な注入口と、
該注入口を封止する封止部と
を備えた液体収容容器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate


【公開番号】特開2010−5957(P2010−5957A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169071(P2008−169071)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】