説明

液体吐出ノズル、及び液体吐出ノズルにおける撥水層の再生方法

【課題】目詰まりを防止すると共に、撥水層が剥がれたり付着物が付着したりしても容易に撥水層を再生し得ることにより、結果的に長寿命を確保し得る液体吐出ノズル、及び液体吐出ノズルにおける撥水層の再生方法を提供する。
【解決手段】吐出液を収容する液溜容器10と、液溜容器10の下側に連通する吐出筒20とを備える。吐出筒20の吐出口先端20a、吐出筒20の内壁面20b、及び液溜容器10の内壁面10aには撥水層5が設けられている。撥水層5は、フッ素系撥水層からなっている。フッ素系撥水層の下地層として、酸化アルミ層と酸化ケイ素層との積層膜が用いられている。積層された酸化アルミ層、酸化ケイ素層及びフッ素系撥水層の総膜厚は25nm以下であり、フッ素系撥水層の膜厚は1〜4nmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ノズル、及び液体吐出ノズルにおける撥水層の再生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液体吐出ヘッドのノズルから吐出される液滴に対し、ノズルの吐出口先端での液溜まりを抑制する方法として、撥水膜を形成したノズルが用いられている。このノズルは、分注を行う液体定量吐出装置を用い、ノズルを通して液体を塗布する。ノズルは通常、ステンレス等の非腐食性金属により作製されている。このため、これらのノズルをそのまま使用したり撥水膜が剥がれてきたりすると、ノズルの吐出口先端に液体が付着し易くなり、分注の際に最初の滴下量が大きくなることにより滴下量及び液滴形状が不良となる問題がある。この現象は、蛍光体を含有するLED封止や接着面積を問われるカメラモジュール等に分注する際に特に問題となる。
【0003】
このようなノズルの吐出口先端の液溜まりをなくす方法として、液体定量吐出装置にサクションバックと呼ばれる減圧機構を取り付け、ノズル先端の液溜まりを引き戻す方法が採用されている。しかしながら、サクションバックを用いてもノズル先端に付着した液溜まりを充分に取り除くことはできない。この結果、連続して液滴吐出を続けていくうちに、撥水膜でもあっても経時的な汚れが付着したり、液体中の粒子によって撥水膜が物理的に剥がれてノズルの吐出口先端に液体が付着したりして液溜まりが発生し、吐出量及び液滴形状が不均一となることは避けられない。また、ノズルの内外壁の表面粗さ及びノズルの先端部の肉厚によっても液溜まりに影響する。一方、ノズルの加工精度を上げたものとして、金属以外にルビー又はセラミックス等の非金属材料を用いるケースが多いが、ノズルが高価になってしまうことから、安価でかつ塗布を均一に行い得る技術が望まれている。
【0004】
そこで、この問題を解決するために、例えば、特許文献1〜3に開示された液体吐出ヘッドでは、図5に示すように、撥水膜の耐久性を得るため、ノズルプレート101の表面に、下地層102を設け、その表面にフッ素を添加しためっき膜や有機性の撥水膜103を成膜したノズル100が開示されている。また、その他の技術として、ノズルプレートの表面に、フッ素系撥水剤又はシリコーン系撥水剤をコーティングしたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−75739号公報(2004年3月11日公開)
【特許文献2】特開2003−327909号公報(2003年11月19日公開)
【特許文献3】特開2010−76422号公報(2010年4月8日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の液体吐出ヘッドでは、連続して液滴吐出を続けていくうちに、長期的には撥水膜であっても経時的な汚れが付着したり、液体中の粒子によって撥水膜が物理的に剥がれたりして、ノズル先端に液溜まりが発生するという問題点を有している。また、撥水膜に液滴が固化した場合、又は撥水膜に他の付着物が付着した場合においても、このような付着物等は容易には取り除くことができないので、結果的に、ノズル先端に液溜まりが発生する。
【0007】
さらに、吐出液が、インクジェットのような低粘度のインクではなく、インクよりも高粘度の樹脂である場合には、液体吐出ノズルにおいて液の濡れ面積が大きいときには、容易に吐出することができず、或いは目詰まりが発生し易くなるという問題点を有している。
【0008】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、目詰まりを防止すると共に、撥水層が剥がれたり付着物が付着したりしても容易に撥水層を再生し得ることにより、結果的に長寿命を確保し得る液体吐出ノズル、及び液体吐出ノズルにおける撥水層の再生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の液体吐出ノズルは、上記課題を解決するために、吐出液を収容する液溜容器と、該液溜容器の下側に連通する吐出部とを備え、上記吐出部の吐出口先端、吐出部の内壁面、及び液溜容器の内壁面には撥水層が設けられていると共に、上記撥水層は、フッ素系撥水層からなっており、上記フッ素系撥水層の下地層として、酸化アルミ層と酸化ケイ素層との積層膜が用いられており、積層された上記酸化アルミ層、酸化ケイ素層及びフッ素系撥水層の総膜厚は25nm以下であり、上記フッ素系撥水層の膜厚は1〜4nmであることを特徴としている。
【0010】
上記の発明によれば、吐出液を収容する液溜容器と、該液溜容器の下側に連通する吐出部とを備えており、吐出部の吐出口先端、吐出部の内壁面、及び液溜容器の内壁面には撥水層が設けられている。そして、撥水層は、フッ素系撥水層からなっており、フッ素系撥水層の下地層として、酸化アルミ層と酸化ケイ素層との積層膜が用いられている。
【0011】
すなわち、一般的に、液体吐出ノズルにおいては、吐出部の吐出口先端には撥水層を設けるが、吐出部の内壁面には撥水層を設けない。この理由は、本来、ノズルの液溜まりが問題となるのは、吐出口の出口である吐出口先端に液溜まりが発生するためである。また、吐出部の内壁面は、一般に、液の流速が速く、撥水層が剥がれ易いためである。
【0012】
これに対して、本発明では、吐出部の内壁面及び液溜容器の内壁面にも撥水層を設けている。これは、吐出液が、例えば、インクジェットのような低粘度のインクではなく、インクよりも高粘度の樹脂である場合には、吐出部等の内壁面の界面張力を大きくした方が、樹脂の濡れ面積が小さくなり、吐出部等の内壁面と樹脂との表面密着力及び摩擦が小さくなり、樹脂の流動性がよくなるためである。
【0013】
このように、本発明では、吐出部の内壁面及び液溜容器の内壁面にも撥水層を設けているので、液体吐出ノズルの内部において、粘性の高い吐出液であっても、流動性がよくなるというメリットを有している。
【0014】
ここで、吐出部の内壁面は、液の流速が速い場合又は液体中の粒子によって撥水層が物理的に剥がれ易いという問題は依然として残る。
【0015】
そこで、本発明では、撥水層には、酸化アルミ層と酸化ケイ素層との積層膜からなる下地層を設けている。この結果、撥水層の付着強度が高まり、撥水層が容易に剥がれることがないので、耐久性が高まる。
【0016】
また、本発明では、積層された上記酸化アルミ層、酸化ケイ素層及びフッ素系撥水層の総膜厚は25nm以下であり、フッ素系撥水層の膜厚は1〜4nmとなっている。
【0017】
ところで、従来の液体吐出ノズルにおける撥水層の膜厚では、耐久性をよくするために例えばディップ(浸漬)処理によるテフロン(登録商標)コーティングでは、100μm程度のものがある。しかしながら、例えば、吐出部の内壁面に総膜厚100μm程度の撥水層を設けた場合に、吐出部の内径が大きく変化し、膜厚のばらつきも大きくノズルの内径形状への影響がある。この結果、吐出量にも変化をもたらす。
【0018】
そこで、本発明では、積層された上記酸化アルミ層、酸化ケイ素層及びフッ素系撥水層の総膜厚は25nm以下となっている。
【0019】
この結果、長期間の使用により、撥水層であっても経時的な汚れが付着したり、液体中の粒子によって物理的に撥水層が剥がれたときにおいても、吐出部の径が大きく変化することがなくなる。
【0020】
また、本発明では、フッ素系撥水層の膜厚は1〜4nmである。すなわち、このように膜厚を薄くしておけば、撥水層の一部が剥がれた場合、又は撥水層に液滴が固化した場合、若しくは撥水層に他の付着物が付着した場合においても、例えば、プラズマ処理をして、撥水層、及び撥水層の付着物を容易に剥がし取り、再度、撥水層を設けることが可能である。
【0021】
この結果、撥水層を容易に再生処理することにより、液体吐出ノズルの寿命を延ばすことができる。
【0022】
したがって、粘性の高い吐出液であっても、流動性をよくし、目詰まりを防止すると共に、撥水層が剥がれたり付着物が付着したりしても容易に撥水層を再生し得ることにより、結果的に長寿命を確保し得る液体吐出ノズルを提供することができる。
【0023】
本発明の液体吐出ノズルでは、前記吐出液は、樹脂材料であるとすることができる。
【0024】
これにより、樹脂材料はインクに比べて粘性が高いので、本発明の液体吐出ノズルの吐出媒体とすることによって、本発明の効果をより大きく得ることができる。
【0025】
本発明における液体吐出ノズルの撥水層の再生方法は、上記記載の液体吐出ノズルの撥水層の再生方法であって、前記撥水層に付着した付着物及び該撥水層を、プラズマ、紫外線照射、又はアルカリ洗浄の少なくとも1つ以上の方法により削除した後、再度、撥水層を形成することを特徴としている。
【0026】
すなわち、撥水層の一部が剥がれた場合、又は撥水層に液滴が固化した場合、若しくは撥水層に他の付着物が付着した場合には、プラズマ、紫外線照射、又はアルカリ洗浄の少なくとも1つ以上の方法により、化学的な結合を切断することによって、撥水層及び撥水層の付着物を容易に剥がし取り、削除することができる。そして、撥水層の膜厚も1〜4nmというように薄いものであるので、撥水層を容易に再塗布することができる。
【0027】
したがって、目詰まりを防止すると共に、撥水層が剥がれたり付着物が付着したりしても容易に撥水層を再生し得ることにより、結果的に長寿命を確保し得る液体吐出ノズルにおける撥水層の再生方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の液体吐出ノズルは、以上のように、吐出液を収容する液溜容器と、該液溜容器の下側に連通する吐出部とを備え、上記吐出部の吐出口先端、吐出部の内壁面、及び液溜容器の内壁面には撥水層が設けられていると共に、上記撥水層は、フッ素系撥水層からなっており、上記フッ素系撥水層の下地層として、酸化アルミ層と酸化ケイ素層との積層膜が用いられており、積層された上記酸化アルミ層、酸化ケイ素層及びフッ素系撥水層の総膜厚は25nm以下であり、上記フッ素系撥水層の膜厚は1〜4nmである。
【0029】
また、本発明の液体吐出ノズルの撥水層の再生方法は、以上のように、上記記載の液体吐出ノズルの撥水層の再生方法であって、前記撥水層に付着した付着物及び該撥水層を、プラズマ、紫外線照射、又はアルカリ洗浄の少なくとも1つ以上の方法により削除した後、再度、撥水層を形成する方法である。
【0030】
それゆえ、目詰まりを防止すると共に、撥水層が剥がれたり付着物が付着したりしても容易に撥水層を再生し得ることにより、結果的に長寿命を確保し得る液体吐出ノズル、及び液体吐出ノズルにおける撥水層の再生方法を提供するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】(a)は本発明における液体吐出ノズルの実施の一形態を示すものであって、円錐状液溜容器と吐出筒とを有する液体吐出ノズルの構成を示す断面図であり、(b)は吐出筒の吐出口先端、吐出筒の内壁面、及び液溜容器の内壁面に形成された撥水層を示す断面図である。
【図2】(a)は上記液体吐出ノズルの構成を示す正面図であり、(b)は上記液体吐出ノズルの構成を示す底面図である。
【図3】(a)はテーパタイプの液体吐出ノズルを示す断面図であり、(b)はテーパー+ストレートタイプの液体吐出ノズルを示す断面図であり、(c)はテーパー+段付き+ストレートタイプの液体吐出ノズルを示す断面図である。
【図4】液体材料と液体吐出方式との関係を示すグラフである。
【図5】従来の液体吐出ノズルの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の一実施形態について図1ないし図4に基づいて説明すれば、以下のとおりである。
【0033】
(液体吐出ノズルの構成)
本実施の形態の液体吐出ノズルの構成について、図1(a)(b)及び図2(a)(b)に基づいて説明する。図1(a)は、上記液体吐出ノズルにおける円錐状液溜容器と吐出筒とを有する上記液体吐出ノズルの構成を示す断面図であり、図1(b)は吐出筒の吐出口先端、吐出筒の内壁面、及び液溜容器の内壁面に形成された撥水層を示す断面図である。また、図2(a)は上記液体吐出ノズルの構成を示す正面図であり、図2(b)は上記液体吐出ノズルの構成を示す底面図である。
【0034】
本実施の形態の液体吐出ノズル1は、例えば、LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)の蛍光体の樹脂を塗布するために使用されるものであり、図2(a)(b)に示すように、吐出液を収容する液溜容器10と、該液溜容器10の下側に連通する吐出筒20とを備えている。
【0035】
上記液溜容器10は、上側に形成された筒状液溜容器11と下側に形成された円錐状液溜容器12とからなっている。
【0036】
上記筒状液溜容器11は下側の円錐状液溜容器12に合わせて円筒に形成され、吐出部としての吐出筒20も円錐状液溜容器12に合わせてあわせて円筒に形成されている。ただし、必ずしも円筒に限らず、全体的に角筒であってもよい。
【0037】
上記液体吐出ノズル1の高さH1は例えば18mmであり、円錐状液溜容器12と吐出筒20とを合わせた高さH2は例えば6.5mmとなっている。また、筒状液溜容器11の外径Dは例えば6mmとなっている。液体吐出ノズル1の筒状液溜容器11の正面及び背面は平坦面に形成されており、この平坦面には、例えば液滴吐出量が記載されている。
【0038】
上記液溜容器10の円錐状液溜容器12は、図1(a)に示すように、該円錐状液溜容器12の下側に設けられた吐出筒20に連通していると共に、吐出筒20は円錐状液溜容器12の内径よりも細い内径を有している。
【0039】
本実施の形態の液体吐出ノズル1では、図1(b)に示すように、円錐状液溜容器12及び吐出筒20の内外壁面2には撥水層5が設けられている。尚、本発明では、少なくとも吐出筒20の吐出口先端20a、吐出筒の内壁面20b、及び液溜容器10の内壁面10aに撥水層5が設けられていれば足りる。
【0040】
詳細には、円錐状液溜容器12及び吐出筒20の内外壁面2に形成された撥水層5は、フッ素系撥水層からなっていると共に、フッ素系撥水層からなる撥水層5の下地層としての酸化アルミニウム(Al)層3、及び該酸化アルミニウム(Al)層3に積層された下地層としての酸化ケイ素(SiO)層4が設けられている。
【0041】
尚、本実施の形態の液体吐出ノズル1では、円錐状液溜容器12及び吐出筒20の内外壁面2に撥水層5が設けられている。しかし、本発明においては必ずしもこれに限らず、撥水層5は少なくとも円錐状液溜容器12及び吐出筒20の内壁面に形成されていればよい。
【0042】
本実施の形態では、上記撥水層5の厚さは1〜4nmであり、撥水層5、並びに下地層としての酸化アルミニウム(Al)層3及び酸化ケイ素(SiO)層4の3層を合わせても例えば25nm以下となっている。好ましくは、20nm以下とすることが好ましい。この理由は、撥水層5、並びに下地層としての酸化アルミニウム(Al)層3及び酸化ケイ素(SiO)層4の3層の膜厚が25nmを越えると、長期間の使用により、吐出筒20の内径が変わってくるため、吐出筒20の形状に変化をもたらすためである。具体的には、試作品の液体吐出ノズル1における各層の厚さは、例えば、酸化アルミニウム(Al)層3が10.5nmであり、酸化ケイ素(SiO)層4が6.5nmであり、フッ素系撥水層からなる撥水層5が1.2nmであった。
【0043】
(液体吐出ノズルにおける撥水層の形成方法)
上記構成の液体吐出ノズル1における撥水層5の形成方法について説明する。
【0044】
すなわち、本実施の形態では、内外壁面2に下地層として酸化アルミニウム(Al)層3及び酸化ケイ素(SiO)層4を積層形成し、その上にフッ素系撥水層(自己組織化単分子)を形成する。これにより、3層の総膜厚が20nm程度となり、吐出筒20の内径形状への影響を与えない。
【0045】
まず、有機分子の気相成長法を用いて、チャンバー内に液体吐出ノズル1を設置し、液体吐出ノズル1の内外壁面2を、酸素プラズマを用いてクリーニングし、活性化させる。次いで、反応ガスを100℃に加熱し気化させて、予め55℃に加熱したチャンバー内に導入し、該チャンバー内で酸化アルミニウム(Al)層3を形成する。その後、該チャンバー内を3〜8Paとなるまで排気し、サイクルを繰り返すことによって、10nm程度の酸化アルミニウム(Al)層3を形成する。
【0046】
続いて、同一チャンバー内で、酸化アルミニウム(Al)層3の上面を、酸素プラズマを用いてクリーニングし、活性化させる。そして、反応ガスを100℃に加熱し気化させて、予め55℃に加熱したチャンバー内に導入して酸化ケイ素(SiO)層4を形成する。その後、該チャンバー内を3〜8Paとなるまで排気し、サイクルを繰り返すことによって、10nm程度の酸化ケイ素(SiO)層4を形成する。
【0047】
続いて、酸化ケイ素(SiO)層4の上面全域に、フッ素系撥水膜を形成する。これにより、膜厚は、1〜4nm程度の単分子膜となる。
【0048】
(液体吐出ノズルにおける撥水層の再生方法)
液体吐出ノズル1の撥水層5は、一般的に撥水性は高いが撥油性は万全ではなく、液体の吐出を繰り返していくうちに残渣が発生し、撥水性能が劣化してくる。これらは、例えばアセトン等による有機溶剤の洗浄、イソプロピルアルコール(IPA)等による超音波洗浄等を用いても完全には除去できない。そこで、残渣ごと内外壁面2の最表面に形成されているフッ素系撥水層だけを酸素プラズマによって除去し、下地層となっている酸化ケイ素(SiO)層4を露出させて、清浄化した状態で、再度、フッ素系撥水層を形成する。
【0049】
このように、本実施の形態の液体吐出ノズル1は、吐出液を収容する液溜容器10と、該液溜容器10の下側に連通する吐出筒20とを備えており、吐出筒20の吐出口先端20a、吐出筒20の内壁面20b、及び液溜容器10の内壁面10aには撥水層5が設けられている。そして、撥水層5は、フッ素系撥水層からなっており、フッ素系撥水層の下地層として、酸化アルミニウム(Al)層3と酸化ケイ素(SiO)層4との積層膜が用いられている。
【0050】
すなわち、一般的に、液体吐出ノズルにおいては、吐出筒の吐出口先端には撥水層を設けるが、吐出筒の内壁面には撥水層を設けない。この理由は、本来、ノズルの液溜まりが問題となるのは、吐出口の出口である吐出口先端に液溜まりが発生するためである。また、吐出筒の内壁面は、一般に、液の流速が速く、撥水層が剥がれ易いためである。
【0051】
これに対して、本実施の形態では、吐出筒20の内壁面20b及び液溜容器10の内壁面10aにも撥水層5を設けている。これは、吐出液が、例えば、インクジェットのような低粘度のインクではなく、インクよりも高粘度の樹脂である場合には、吐出筒20等の内壁面20bの界面張力を大きくした方が、樹脂の濡れ面積が小さくなり、吐出筒20等の内壁面20bと樹脂との表面密着力及び摩擦が小さくなり、樹脂の流動性がよくなるためである。
【0052】
このように、本実施の形態では、吐出筒20の内壁面20b及び液溜容器10の内壁面10aにも撥水層5を設けているので、液体吐出ノズル1の内部において、粘性の高い吐出液であっても、流動性がよくなるというメリットを有している。
【0053】
ここで、吐出筒20の内壁面20bは、液の流速が速い場合又は液体中の粒子によって撥水層5が物理的に剥がれ易いという問題は依然として残る。
【0054】
そこで、本実施の形態では、撥水層5には、酸化アルミニウム(Al)層3と酸化ケイ素(SiO)層4との積層膜からなる下地層を設けている。この結果の、撥水層5の付着強度が高まり、撥水層5が容易に剥がれることがないので、耐久性が高まる。
【0055】
また、本実施の形態では、積層された酸化アルミニウム(Al)層3、酸化ケイ素(SiO)層4、及びフッ素系撥水層の総膜厚は25nm以下であり、フッ素系撥水層の膜厚は1〜4nmとなっている。尚、フッ素系撥水層の単分子膜を膜厚1nm未満に形成することは困難である。一方、フッ素系撥水層の膜厚が4nmを超えると、特許文献3に示すように分子鎖が絡まった層が厚くなる。しかし、このようになると、フッ素系撥水層が剥がれ易くなるので好ましくない。
【0056】
ところで、従来の液体吐出ノズルにおける撥水層の膜厚では、耐久性をよくするために例えばディップ(浸漬)処理によるテフロン(登録商標)コーティングでは、100μm程度のものがある。しかしながら、例えば、吐出筒の内壁面に総膜厚100μm程度の撥水層を設けた場合には、吐出部の内径が大きく変化し、膜厚のばらつきも大きくノズルの内径形状への影響がある。この結果、吐出量にも変化をもたらす。
【0057】
そこで、本実施の形態では、積層された酸化アルミニウム(Al)層3、酸化ケイ素(SiO)層4、及びフッ素系撥水層の総膜厚は25nm以下となっている。
【0058】
この結果、長期間の使用により、撥水層5であっても経時的な汚れが付着したり、液体中の粒子によって物理的に撥水層5が剥がれたときにおいても、吐出筒20の筒径が大きく変化することがなくなる。
【0059】
また、本実施の形態では、フッ素系撥水層の膜厚は1〜4nmである。すなわち、このように膜厚を薄くしておけば、撥水層5の一部が剥がれた場合、又は撥水層5に液滴が固化した場合、若しくは撥水層5に他の付着物が付着した場合においても、例えば、プラズマ処理をして、撥水層5、及び撥水層5の付着物を容易に剥がし取り、再度、撥水層5を設けることが可能である。
【0060】
この結果、撥水層5を容易に再生処理することにより、液体吐出ノズル1の寿命を延ばすことができる。
【0061】
したがって、粘性の高い吐出液であっても、流動性をよくし、目詰まりを防止すると共に、撥水層5が剥がれたり付着物が付着したりしても容易に撥水層5を再生し得ることにより、結果的に長寿命を確保し得る液体吐出ノズル1を提供することができる。
【0062】
また、本実施の形態の液体吐出ノズル1では、吐出液は、樹脂材料である。これにより、樹脂材料はインクに比べて粘性が高いので、本実施の形態の液体吐出ノズル1の吐出媒体とすることによって、本実施の形態の効果をより大きく得ることができる。
【0063】
さらに、本実施の形態における液体吐出ノズル1の撥水層5の再生方法は、撥水層5に付着した付着物及び該撥水層5を、プラズマ、紫外線照射、又はアルカリ洗浄の少なくとも1つ以上の方法により削除した後、再度、撥水層5を形成する。
【0064】
すなわち、液の繰り返し吐出により、撥水層5の一部が剥がれた場合、又は撥水層5に液滴が固化した場合、若しくは撥水層5に他の付着物が付着した場合には、物理的な機械加工、プラズマ、紫外線照射、又はアルカリ洗浄の少なくとも1つ以上の方法により、化学的な結合を切断することによって、撥水層5、及び撥水層5の付着物を容易に剥がし取り、削除することができる。そして、撥水層5の膜厚も1〜4nmというように薄いものであるので、撥水層5を容易に再塗布することができる。
【0065】
尚、上記各種の撥水層5等の除去方法においては、プラズマ処理には。酸素プラズマ処理、又はアルゴンプラズマ処理がある。また、紫外線照射にはオゾン処理が含まれる。このように、撥水層5等を削除するときには、物理的な機械加工、化学的な除去方法が適用できる。
【0066】
また、上記各種の撥水層5等の除去方法のうちでは、アルゴンプラズマ及び酸素プラズマが好ましく、酸素プラズマが最も好ましい。この理由は、撥水層5等を形成する場合には、真空チャンバー内で膜形成する。したがって、アルゴンプラズマ及び酸素プラズマ処理も同一の真空チャンバー内で行うことができるので、被膜形成対象の液体吐出ノズル1を途中で大気中に曝す必要がない。この結果、大気中の浮遊物が付着することが無いので、清浄な状態で膜形成ができるためである。さらに、アルゴンプラズマよりも酸素プラズマの方が一般的でであり、コストも安い。
【0067】
このように、液の繰り返し吐出による膜の劣化に伴う膜再生を、酸素プラズマ等の処理によって、表面のフッ素系撥水層のみを除去することにより、下地層である酸化ケイ素(SiO)層4が露出し、清浄化された状態で再びフッ素系撥水層を形成することができる。
【0068】
したがって、目詰まりを防止すると共に、撥水層5が剥がれたり付着物が付着したりしても容易に撥水層5を再生し得ることにより、結果的に長寿命を確保し得る液体吐出ノズル1における撥水層5の再生方法を提供することができる。
【0069】
尚、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変更が可能である。例えば、上記実施の形態では、液体吐出ノズル1は、下側が吐出筒20のように筒状になっていたが、必ずしもこれに限らない。すなわち、本発明の液体吐出ノズル1は、図3(a)(b)(c)に示す各タイプの液体吐出ノズルに適用することが可能である。
【0070】
すなわち、図3(a)に示す液体吐出ノズル1は、テーパタイプのものである。このタイプの液体吐出ノズル1は、吐出部がテーパー形状となっており、この吐出部において流速が増し、内部ストレートの配管抵抗の影響を受けないままの流速を保つ。このタイプの液体吐出ノズル1は、抵抗は少ない分、吐出液自体の不安定性が流速に悪影響を及ぼし、定量性が悪くなり易い。
【0071】
次に、図3(b)に示す液体吐出ノズル1は、テーパー+ストレートタイプである。このタイプの液体吐出ノズル1は、吐出部がストレートとなっており、上側のテーパー形状で流速が増すが、内径がストレートの吐出部における配管抵抗によって、速度が落ち、ある一定速度で流速が落ち着く。このタイプの液体吐出ノズル1は、抵抗は大きいが、定量性は高い。
【0072】
次に、図3(c)に示す液体吐出ノズル1は、本実施の形態で説明したものであり、テーパー+段付き+ストレートタイプである。このタイプの液体吐出ノズル1は、上側のテーパー形状の部分で流速を増すが、段差の影響で滞留を起こし、流速が落ちる。そして、流速が落ちたところに、内径がストレートの吐出部における配管抵抗が加わり、さらに流速が落ちる。このタイプの液体吐出ノズル1は、全体的に流動性が鈍り、吐出液の硬化が進む。
【0073】
また、上記の説明では、本実施の形態の液体吐出ノズル1は、LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)の蛍光体の樹脂を塗布するために使用されるものであるとして説明した。しかしながら、本発明の液体吐出ノズル1は、必ずしもこれに限らず、さらに幅広い液体材料に適用が可能である。
【0074】
すなわち、本実施の形態の液体吐出ノズル1の適用可能な液体材料について、図4に基づいて説明する。図4は、液体材料と液体吐出方式との関係を示すグラフである。
【0075】
図4に示すように、液体吐出装置には、低塗布径のインクジェッットの他に、中〜高塗布径ためのエアパルス方式(バルブタイプ含む)、オーガポンプ方式(スクリュー)、ピストンポンプ方式(プランジャ)及びジェット方式が存在する。
【0076】
上記エアパルス方式(バルブタイプ含む)は、圧力と時間を調整して吐出を行なうものであり、オーガポンプ方式(スクリュー)はスクリューを回転させることにより液体の吐出を行なうものである。また、ピストンポンプ方式(プランジャ)はプランジャのストローク量をメカ的に調整(容積を計量)し、粘度変化に影響しないものである。さらに、ジェット方式はワークから離れた位置より非接触でノズルから液体を高速度で送出し、液体を噴射、射出するものである。
【0077】
ここで、本実施の形態の液体吐出ノズル1は、これら中〜高塗布径ためのエアパルス方式(バルブタイプ含む)、オーガポンプ方式(スクリュー)、ピストンポンプ方式(プランジャ)及びジェット方式に適用が可能である。すなわち、本実施の形態の液体吐出ノズル1では、吐出筒20の内壁面20b等に撥水層5を設けて液体の流動抵抗を小さくすることができる。したがって、特に、液の流速の速いジェット方式において、粘性の高い液体に適用することによって、負荷を軽減することが可能となる。一方、エアパルス方式(バルブタイプ含む)、オーガポンプ方式(スクリュー)、及びピストンポンプ方式(プランジャ)において、低粘度の液体でも液の流動抵抗を下げたい場合には、使用することが可能である。
【0078】
尚、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、本実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)の蛍光体の樹脂を塗布するための液体吐出ノズル、及び液体吐出ノズルにおける撥水層の再生方法に適用できる。
【0080】
すなわち、粘性の高い樹脂等の吐出液、又は表面張力が大きい吐出液に好適に適用することができる。また、低粘度の液体でも液の流動抵抗を下げたい場合に使用することが可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 液体吐出ノズル
2 内外壁面
3 酸化アルミニウム(Al)層
4 酸化ケイ素(SiO)層
5 撥水層
10 液溜容器
10a 液溜容器の内壁面
11 筒状液溜容器
12 円錐状液溜容器
20 吐出筒(吐出部)
20a 吐出口先端
20b 吐出筒の内壁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出液を収容する液溜容器と、該液溜容器の下側に連通する吐出部とを備え、
上記吐出部の吐出口先端、吐出部の内壁面、及び液溜容器の内壁面には撥水層が設けられていると共に、
上記撥水層は、フッ素系撥水層からなっており、
上記フッ素系撥水層の下地層として、酸化アルミ層と酸化ケイ素層との積層膜が用いられており、
積層された上記酸化アルミ層、酸化ケイ素層及びフッ素系撥水層の総膜厚は25nm以下であり、上記フッ素系撥水層の膜厚は1〜4nmであることを特徴とする液体吐出ノズル。
【請求項2】
前記吐出液は、樹脂材料であることを特徴とする請求項1記載の液体吐出ノズル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液体吐出ノズルの撥水層の再生方法であって、
前記撥水層に付着した付着物及び該撥水層を、プラズマ、紫外線照射、又はアルカリ洗浄の少なくとも1つ以上の方法により削除した後、再度、撥水層を形成することを特徴とする液体吐出ノズルの撥水層の再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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