説明

液体吐出ヘッド及び電気配線基板

【課題】 フレキシブルプリント基板の面積を削減するために論理信号を伝送する配線や電圧供給電圧を印加するための配線を高密度に設けると、スイッチングノイズが論理信号に影響を与え、液体吐出ヘッドの誤動作を生じる懸念がある。
【解決手段】 液体吐出ヘッド用基板120と液体吐出装置とを接続するフレキシブルプリント基板20を有する液体吐出ヘッド2において、フレキシブルプリント基板20の一方の面に前記液体吐出ヘッド用基板に差動伝送信号を伝送する一対の差動伝送配線を設け、他方の面に前ネルギー発生素子を駆動するための電圧を供給する電圧供給配線を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド及び電気配線基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置などの精密機器の分野で使用されるデータ転送方式として差動伝送方式の1つであるLVDS(Low Voltage Differential Signal)伝送方式が知られている。LVDS伝送方式は、一対の差動伝送配線を用いてデータを転送する方式であり、一般的に用いられている1つの配線でデータを転送する方式(以下、シングルエンド伝送方式と呼ぶこととする。)に比べてはるかに低い電位差で高速にデータを転送することができる。
【0003】
特許文献1には液体を吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子を駆動するための記録データ信号やクロック信号等の論理信号を、LVDS伝送方式を用いて高速で送る構成が開示されている。この信号は液体吐出装置から、液体吐出ヘッドに設けられた柔軟性を有する材料からなる電気配線基板(以下フレキシブルプリント基板又はフレキシブル基板とも称する)内の差動伝送配線を経由してエネルギー発生素子を備えた液体吐出ヘッド用基板に送られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−199665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、LVDS伝送方式を使用して論理信号を転送する際の電圧は、エネルギー発生素子からのエネルギー発生に利用される電圧に比べて小さい。そのため、一対の差動伝送配線の信号の差分を取ることによりノイズの影響を受けにくいLVDS伝送方式であっても、エネルギー発生素子に電圧をかける際のスイッチングノイズが論理信号の伝達に影響を及ぼす可能性がある。そのため特許文献1に記載された液体吐出ヘッドではスイッチングノイズの影響を受けて論理信号の伝達が正常に行われず、動作が不安定になることが懸念される。
【0006】
特に印刷産業の分野に使用されるような、被記録媒体の記録幅全体に渡って設けられた液体の吐出口から一斉に吐出を行って短時間で記録を行う液体吐出ヘッドでは、同時に駆動されるエネルギー発生素子の数が増加する。そのためフレキシブル基板に流れる電流も大きくなり、スイッチングノイズの影響が顕著となると考えられる。LVDS伝送方式に使用される差動伝送配線をエネルギー発生用の電圧を印加するために利用する配線から遠ざけることでノイズの影響を軽減することは、フレキシブル基板の大型化、ひいては装置の大型化を招くので現実的とは言えない。
【0007】
そこで本発明は、LVDS伝送方式を使用してデータの転送を行う際のノイズの影響が軽減された電気配線基板を、電気配線基板の大型化を抑制しつつ提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液体吐出ヘッドは、液体を吐出する吐出口と、該吐出口から液体を吐出するためのエネルギーを発生する複数のエネルギー発生素子と、を備えた液体吐出ヘッド用基板と、前記エネルギー発生素子を駆動するための論理信号として用いられる差動伝送信号を前記液体吐出ヘッド用基板に伝送するための一対の差動伝送配線と、前記エネルギーを得るために前記エネルギー発生素子に印加される電圧を前記液体吐出ヘッド用基板に供給するための電圧供給配線と、を備え、柔軟性を有する電気配線基板と、を有し、前記一対の差動伝送配線は前記電気配線基板の一方の側に設けられ、前記電圧供給配線は前記電気配線基板の、前記一方の面の裏面である他方の面の側に設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
電気配線基板の一方の面に差動伝送配線を、他方の面に電圧供給配線を設けることで、電気配線基板が大型化することなく、LVDS伝送方式を用いてデータ転送を行う際のノイズの影響を軽減できる信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の液体吐出ヘッドを用いることができる液体吐出装置の模式的斜視図である。
【図2】本発明の一例の液体吐出ヘッドの模式図である。
【図3】本発明の液体吐出ヘッド用基板の模式図である。
【図4】本発明の液体吐出ヘッド用基板の配線のブロック図である。
【図5】シングルエンド伝送方式及びLVDS伝送方式におけるノイズの影響を説明する図である。
【図6】第一の実施形態に係る液体吐出ヘッドの一部を示した図である。
【図7】差動伝送配線と電圧供給配線とが交差する部分の一例を示した図である。
【図8】第二の実施形態に係る液体吐出ヘッドの一部を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第一の実施形態)
図面を参照して本発明の実施形態を具体的に説明する。
【0012】
本明細書内で用いられる「記録」とは、文字や図形などの意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与することだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を付与することも意味する。
【0013】
さらに「インク」とは広く解釈されるべきものであり、被記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成、被記録媒体の加工、或いはインクまたは被記録媒体の処理に供される液体を言うものとする。ここで、インクまたは被記録媒体の処理としては、例えば、被記録媒体に付与されるインク中の色材の凝固または不溶化による定着性の向上や、記録品位ないし発色性の向上、画像耐久性の向上などのことを言う。
【0014】
〈液体吐出装置について〉
図1(a)は実施形態に係る液体吐出装置1001の記録部を中心とした主要部の構成を示す斜視図であり、図1(b)は図1(a)の断面構造を示す断面図である。本実施形態の記録装置は、長尺のラインヘッドを用いて、シートを搬送方向(第1方向)に連続搬送しながらプリントを行なうラインプリンタである。ロール状に巻かれた連続紙などのシート1004を保持するホルダ、シート1004を所定速度で第1方向に搬送する搬送機構1007、シート1004に対してラインヘッドで記録を行なう記録部1003を備える。なお、シート1004は連続したロールシートに限らず、カットシートであってもよい。液体吐出装置1は更に、液体吐出ヘッドのノズル面をワイピングによってクリーニングするクリーニング部1006を備えることもできる。さらに、シート搬送路に沿って、記録部1003の下流にはシート1004を切断するカッタユニット、シートを強制乾燥する乾燥ユニット、排出トレイを備えている。
【0015】
記録部1003は、異なるインク色にそれぞれ対応した複数の液体吐出ヘッド2を備える。本例ではCMYKの4色に対応した4つの液体吐出ヘッド2としているが、色数はこれには限定されない。各色のインクはインクタンク(不図示)からそれぞれインクチューブを介して液体吐出ヘッド2に供給される。複数の液体吐出ヘッド2はヘッドホルダ1005で一体に保持されており複数の液体吐出ヘッド2とシート1004の表面との間の距離を変更できるよう、ヘッドホルダ1005が上下移動することができる。
【0016】
〈液体吐出ヘッドについて〉
図2は1つの液体吐出ヘッド2の構造を示す。本発明の液体吐出ヘッドに用いることのできる液体を吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子は、発熱素子を用いた方式、ピエゾ素子を用いた方式、静電素子を用いた方式、MEMS素子を用いた方式等を採用することができる。ここでは、発熱素子の一例を用いて説明する。
【0017】
液体吐出ヘッド2は、使用が想定されるシートの最大幅をカバーする範囲でインクジェット方式の吐出口列が形成されたライン型液体吐出ヘッドである。吐出口列の並び方向は、第1方向と交差する方向(第2方向)、例えば直交する方向である。大きな支持基板120の上に、複数の液体吐出ヘッド用基板120が第2方向に沿って並んでいる。図2(b)に示すように、同一寸法且つ同一構造の複数(本例では8個)の液体吐出ヘッド用基板120が2列の千鳥配列で規則的に幅方向全域に渡って形成されている。すなわち、液体吐出ヘッド2は、それぞれが吐出口列を有する複数の第1液体吐出ヘッド用基板と複数の第2液体吐出ヘッド用基板が、異なる列として第2方向に沿って並べられている。さらに隣接する第1液体吐出ヘッド用基板と第2液体吐出ヘッド用基板は前記第2方向でずれた位置関係となっている。隣接する第1液体吐出ヘッド用基板と第2液体吐出ヘッド用基板は、これらに含まれる吐出口列の一部が、第2方向においてオーバーラップするように設けられている。
【0018】
〈液体吐出ヘッド用基板〉
図3は本発明の液体吐出ヘッド2に用いることのできる液体吐出ヘッド用基板の模式的斜視図の一例である。液体吐出ヘッド用基板120は、エネルギー発生素子153を備えた基体150と、基体150に接して設けられた流路部材146とを有している。基体150には、液体を供給するための供給口149が基体150を貫通して設けられている。供給口149の両側には、複数のエネルギー発生素子153を一列に並べた素子列が設けられている。ここでは供給口149が2列設けられた液体吐出ヘッド用基板120を用いて説明しているが、2列以上の供給口149を設けることもできる。基体150の端部には、エネルギー発生素子153を駆動するために用いられる論理信号や電源電位を供給するため複数のパッド9が設けられている。ここでは2列の供給口149が設けられている例を示す。
【0019】
流路部材146は、エネルギー発生素子153により発生するエネルギーを用いて液体を吐出することができる吐出口147を、其々のエネルギー発生素子153に対向する位置に有している。流路部材146はさらに、吐出口147と供給口149とを連通する流路148の面となる部分148aを有しており、基体150と接することで流路148が構成されている。
【0020】
図4は、このような液体吐出ヘッド用基板120の配線のブロック図である。液体吐出ヘッド用基板120は、差動伝送信号(以下、LVDS伝送信号とも称する)の受信を行うためのLVDSレシーバ23、24を有している。差動伝送信号からなるクロック信号を入力するために用いられる端子25(CLK−)と、端子26(CLK+)がLVDSレシーバ23に接続されている。さらに、エネルギー発生素子153を駆動するための差動伝送信号からなる画像データを入力するために用いられる端子27(DATA−)、端子28(DATA+)がLVDSレシーバ24に接続されている。この2つのLVDSレシーバによって液体吐出ヘッド用基板120上に配置されるMOS−FET等からなる領域32のスイッチング素子を選択駆動するための記録信号を高速で転送することができる。
【0021】
LVDSレシーバ23、24は、端子25,26,27,28から入力されたクロック信号や記録信号等の論理信号のデータを展開し、内部でパラレル処理する駆動制御回路29と接続されている。駆動制御回路29に設けられた同期クロック発生回路50は、LVDSレシーバ23から出力されたCLK信号を分周することができる。LVDSレシーバ24は、端子27,28から入力されたシリアル信号を、各素子列に対応した記録データ信号及びブロック制御信号に変換することができる。
【0022】
このブロック制御データ信号は、ラッチ回路53を介してデコーダ回路55に接続されているシフトレジスタ回路51に送られ、記録データ信号がシフトレジスタ回路52に送られる。さらにLT信号が入力されることで、シフトレジスタに保持されていたブロック制御データはデコーダ回路55に接続するラッチ回路53に保持され、記録データ信号はラッチ回路54に保持される。ラッチ回路53から出力されたブロック制御データ信号は、デコーダ回路55に入力され、駆動すべきエネルギー発生素子153のブロックを選択し、時分割駆動を行うためのブロック選択信号として出力される。このブロック選択信号と記録データ信号とがAND回路33によって論理積されることにより、駆動するエネルギー発生素子153を選択することができる。さらに、AND回路33から出力された選択信号は、エネルギー発生素子153を駆動するための領域32に設けられたMOS−FET等のスイッチング素子に送られる。スイッチング素子は選択信号に基づいて、エネルギー発生素子153に駆動電圧が印加することで、液体を吐出口から吐出することができる。以上のようなLVDS伝送方式を用いると、従来のLVDS伝送方式以外での方式と比べて4倍の画像データを送ることができ、高速で吐出動作を行うことができる。
【0023】
液体吐出ヘッド用基板120には、エネルギー発生素子153を駆動するための駆動電圧を印加するための電源配線(以下、VH配線とも称する)とその接地配線(以下、GNDH配線とも称する)とが設けられており、パッド9に接続されている。
【0024】
〈フレキシブルプリント基板について〉
図2(c)は、複数の液体吐出ヘッド用基板120と、液体吐出ヘッド用基板と液体吐出装置とを接続し柔軟性を有する材料からなるフレキシブルプリント基板20(電気配線基板)を、液体吐出ヘッドの支持基板124に接続する前の模式図を示している。図6(a)は、図2(c)に示す液体吐出ヘッドのフレキシブルプリント基板20の領域Aの一例を示したものである。
【0025】
電気配線基板として用いられるフレキシブルプリント基板20は、各液体吐出ヘッド用基板120の周囲を囲むように設けられている。クッロック信号やデータ信号等の論理信号等のLVDS伝送信号を送るための差動伝送配線(以下、LVDS配線とも称する)と、電源配線及び接地配線等の電圧供給配線4とが設けられている。さらに、差動伝送配線及び電圧供給配線4と液体吐出装置とを接続するコンタクト部30が設けられている。差動伝送配線及び電圧供給配線4が液体吐出ヘッド用基板120のパッド9と接続されることで、液体吐出装置1から液体吐出ヘッド用基板120に論理信号及び電源電圧が供給される。液体吐出ヘッド用基板120のパッド9とフレキシブルプリント基板20とは、金などからなる細い配線19で接続されている(ワイヤーボンディング)。さらに配線19の上側は、樹脂などからなる部材でインクが接しないように封止されている(不図示)。
【0026】
電気配線基板としては、アルミナ基板を複数積層して設けるような多層基板を用いて液体吐出ヘッド用基板と液体吐出装置とを電気的に接続させることもできる。しかし、フィルム状の柔軟なフレキシブルプリント基板を用いることで、確実に電気的接続が行われる、安価で信頼性高い液体吐出ヘッドを設けることができる。また、フレキシブルプリント基板の絶縁体をインクのような液体が接触したとしても腐食しない材料で設けることで、さらに信頼性の高い液体吐出ヘッドを設けることができる。
【0027】
フレキシブルプリント基板20は、表面(一方の面)に差動信号配線を設け、裏面(他方の面)に電圧供給配線4が設けられた両面フレキシブルプリント基板20となっている。このように両面に配線を設けることにより、フレキシブルプリント基板の面積を削減することができ、液体吐出装置をコンパクトに設けることができる。
【0028】
駆動電圧を印加するための電圧供給配線4は、コンタクト部30と1つの液体吐出ヘッド用基板120とを接続する主幹配線部4aから、液体吐出ヘッド用基板120の両端部に接続するための2つの準主幹配線部4bに分岐して設けられている。さらに準主幹配線部4bは、素子列ごとに接続する分割配線部4cに分岐して設けられている。なお、図2(c)に示す液体吐出ヘッドには、2列の供給口149を有する液体吐出ヘッド用基板120を用いた一例を図示している。
【0029】
主幹配線部4aには、1つの液体吐出ヘッド用基板120を駆動するための全ての電流が流れ、準主幹配線部4bの其々には主幹配線部4aの半分の電流が流れる。さらに2列の供給口149の両側に素子列が設けられている場合には分割配線部4cに準主幹配線部4bの四分の一の電流が流れる。つまり分割配線部4bは最大1A程度の電流が流れるように設けられているため、4列の供給口149が設けられている構成においては準主幹配線部4bには最大4A程度の電流が流れ、主幹配線部4aには最大8A程度の電流が流れることになる。
【0030】
〈ノイズについて〉
次に、LVDS伝送方式と、従来のシングルエンド伝送方式におけるノイズによる影響について説明する。図5(a)はLVDS伝送方式におけるノイズによる影響を示した図である。図5(b)は、シングルエンド伝送方式におけるノーマルモードノイズによる影響を示した図である。液体吐出ヘッドにおいては、論理信号配線とエネルギー発生素子を駆動するための駆動電位を供給する電源配線及び接地配線とが設けられている。そのため、エネルギー発生素子のON/OFFに伴う電流値の変動による誘導起電力の影響でノイズが生じることになる。
【0031】
(シングルエンド伝送方式について)
従来のシングルエンド伝送方式におけるノイズによる影響を説明する。エネルギー発生素子が数千個配置された大型の液体吐出ヘッドは、大電流を流すエネルギー発生素子の制御回路を有し、さらにCMOSトランジスタもしくはTTL回路等の論理ゲート回路部を有している。
【0032】
図5(b)に示すように、ドライバ15とレシーバ16との伝送中にノイズ17が生じると、ノイズも信号とともに伝送されることになる。ノイズによる誘導起電力E[V]は、配線の自己インダクタンスLを100[nH]、パルス駆動されるエネルギー発生素子への通電立ち上り時間tを100[nsec]、その時に流れる集中電流iを1[A]程度とした場合、E=―L(di/dt)と表される。この演算結果は1[V]以上の誘導電圧がノイズとして生じることになる。このノイズ17が、閾値電圧レベル以上となると、このノイズ17により誤ったタイミングで記録動作が行われてしまう可能性がある。例えば3.3[V]程度という電圧で伝送する論理信号の場合、この誘導電圧によるノイズが1〔V〕程度となると、誤動作を起こしてしまう可能性があるといえる。
【0033】
(LVDS伝送方式について)
シングルエンド伝送方式で用いる電位差は3.3V程度であるのに対し、LVDS伝送方式で用いる電位差は350mV程度であり、シングルエンド伝送方式に比べかなり小さい。このような小さな電位差を用いることができるためLVDS伝送方式はシングルエンド伝送方式に比べ、高速でデータをおくることができる。
【0034】
次に、LVDS伝送方式におけるノイズ14による影響を説明する。記録装置のLVDSドライバ12から発信された高速データは、論理信号配線として用いられる一対の差動伝送配線を伝送され、液体吐出ヘッド用基板のLVDSレシーバ13に送られる。このようなLVDS伝送方式においては、一対の差動伝送配線で伝送された信号の電圧の差を取ることでデータとするため、2本の配線に同じようなノイズ14が生じても相殺されるため、データにはノイズが残らない。図5(a)の一対の差動伝送配線の一方DATA+(第一のLVDS配線)と、他方DATA−(第二のLVDS配線)にノイズが発生するが、LVDSレシーバ13ではDATA+とDATA−との差分で判断するためノイズの影響は無視することができる。従って、コモンモードノイズ同様、ノーマルモードノイズについても影響なくデータを伝送することができる。なお、このようなVLDS伝送配線においては、DATA+の配線とDATA−の配線とは隣接する位置に設けることが好ましい。隣接する位置に設けることで、ほぼ同じ大きさの誘導電圧の影響を受けるため、電圧の差分をとることで確実にノイズの影響を低減させることができる。フレキシブルプリント基板においては、約80μmの幅が設けられている程度に隣接させて設けることが好ましい。
【0035】
図6(a)に示すようにフレキシブルプリント基板20には、LVDS伝送方式を用いたCLK信号及びDATA信号と、エネルギー発生素子に電力を供給するための電圧供給配線とが用いられている。フレキシブルプリント基板20には、第一のCLK信号配線5(一方)と第二のCLK信号配線6(他方)とが対となるように隣接するように設けられている。さらにLVDS伝送方式を用いた第一のDATA信号配線7と第二のDATA信号配線8とが対となるように隣接するように設けられている。
【0036】
LVDS伝送方式を用いた配線と電圧供給配線の準主幹配線部4bとは、交差するように設けられている。第一のCLK信号配線5と第一のDATA信号配線7とを第一のLVDS配線(DATA+)とし、第二のCLK信号配線6と第二のDATA信号配線8とを第二のLVDS配線(DATA−)と称する。
【0037】
このときフレキシブルプリント基板20は、第一のLVDS配線と準主幹配線部4bとが重なり合う(交差する)面積と、第二のLVDS配線と準主幹配線部4bとが重なり合う(交差する)面積とが、同じとなるように設けられている。このように設けることで、対となる第一のLVDS配線と第二のLVDS配線とに影響を与える、準主幹配線部4bを流れる電流による誘導起電力のノイズの大きさが等しくなる。これにより、第一のLVDS配線のデータと第二のLVDS配線のデータとの差分を取ることでのデータ信号に生じたノイズの影響を低減させることができる。なお、交差する部分の準主幹配線部4bに流れる電流を低減させることで、さらにノイズの影響を低減させることができる。図6(a)に示す準主幹配線部4bは、3つの分割配線部4cに分岐しているため少しでも低電流が流れる準主幹配線部4aの部分と一対のLVDS配線とが重なり合うように設けることが好ましい。
【0038】
また、CLK信号配線として用いられる一対のLVDS配線5,6と、DATA信号配線として用いられる一対のLVDS配線7,8との間には、ガード配線11を設けることが好ましい。このようなガード配線11を設けることにより、他のLVDS配線からのノイズを低減することができる。このガード配線はLVDSレシーバ13の接地端子に接続することで、グランド電位とすることができる。さらに、フレキシブルプリント基板20に余剰領域がある場合も、このガード配線を設けることで,ノイズを低減させることができる。さらに液体吐出ヘッド用基板120のパッド9に、ガードパターン用のパッドを用意させることもできる。
【0039】
またLVDS配線と比較的大きな電流が流れる電圧供給配線とを平行に設ける場合には、2本のLVDS配線に影響する誘導起電力の大きさが異なり、差分をとったときにノイズを除去できない可能性もあるため、なるべく距離を離して設けることが好ましい。具体的には3つの分割配線部4cに接続する準主幹配線部4bの部分と、2つの分割配線部4cに接続する準主幹配線部4bの部分と比較すると、2つの分割配線部4cに接続する準主幹配線部4bの方がLVDS配線と近くなるように設ける。
【0040】
図6(b)は、このような液体吐出ヘッドのフレキシブルプリント基板20の断面図Bを示したもので、図6(a)のLVDS配線と電圧供給配線とが交差している部分の断面構成である。フレキシブルプリント基板20には、厚さ約30μmの絶縁材料からなるベース基材100の表面に銅からなるLVDS配線が設けられ、裏面に銅からなる電圧供給配線が設けられている。これらの配線は、厚さ約3〜5μmの銅箔101設け、さらにこの銅箔101をシード層として用いてめっき法で厚さ約3〜5μmの銅を析出させることで設けられている。このような銅からなる配線は、厚さ30〜50μm程度のカバーレイ接着剤103で覆われており、さらにその上に厚さ3〜5μmの被腹部104が設けられている。LVDS配線はそれぞれフレキシブルプリント基板20の面に平行な方向に関して、約50μmの幅で設けられている。第一のCLK信号配線5と第二のCLK信号配線6とは、約80μm間隔をあけて設けられており、同じく第一のDATA信号配線7と第二のDATA信号配線8とは、約80μmの間隔をあけて設けられている。また、CLK信号配線とDATA信号配線との相互干渉を防止するために、第二のCLK信号配線6と第一のDATA信号配線7との間には、銅配線を用いてガード配線11が設けられている。このようにガード配線11を設けることでノイズを低減させることができる。なおこのようなLVDS方式を用いる場合には、配線の特性インピーダンスが常に100Ω程度になるように設けることが好ましい。
【0041】
以上のように、ベース基材100を介してLVDS配線と電圧供給配線とをフレキシブルプリント基板20の両面に設けることにより、フレキシブルプリント基板20の面積を削減することができる。また、絶縁材料からなるベース基材100を介して設けていることにより電圧供給配線によるLVDS配線への誘導起電力の影響を低減することができる。
【0042】
さらに、第一のLVDS配線5,7と駆動電圧を供給する電圧供給配線4とが積層する部分と、第二のLVDS配線6,8と電圧供給配線4との積層する部分と、の面積を一致させることにより、誘導起電力のノイズの大きさを等しくすることができる。これにより差分をとるとノイズを相殺され、データからノイズの影響を除去することができ、信頼性の高い記録動作を行うことができる。
【0043】
なお図7(a)に示すように電圧供給配線とLVDS配線とを、直交するように交差させるのみならず、図7(b)に示すように斜めの状態で交差することで、面積を一致させることもできる。
【0044】
(第二の実施形態)
本実施形態においては、電圧供給配線と一対のLVDS配線とが交差する部分の他の例を説明する。その他の構成については、第一の実施形態と同様である。
【0045】
図8は、図2(c)に示す液体吐出ヘッドのフレキシブルプリント基板20の領域Aの一例を示したものである。第一の実施形態においては、準主幹配線4aとLVDS配線とが交差していたが、本実施形態は準主幹配線4aから更に分岐した分割配線部4bとLVDS配線とが交差している。分割配線部4cには、供給口149に隣接して設けられた2列の素子列に供給される電流しか流れておらず、準主幹配線部4aと交差する場合に比べ、さらに誘導起電力の大きさを小さくすることができる。
【0046】
これにより第一の実施形態と同様に、第一のLVDS配線のデータと第二のLVDS配線のデータの差分をとって、ノイズを相殺させることで、データからノイズの影響を除去することができ、信頼性の高い記録動作を行うことができる。
【0047】
なお、本実施形態においても隣接するLVDS配線の間には、ガード配線を設けることでノイズを低減することができる。
【符号の説明】
【0048】
2 液体吐出ヘッド
4 電圧供給配線
5、6,7,8 差動伝送配線
20 電気配線基板
1001 記録装置
120 液体吐出ヘッド用基板
153 エネルギー発生素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する吐出口と、該吐出口から液体を吐出するためのエネルギーを発生する複数のエネルギー発生素子と、を備えた液体吐出ヘッド用基板と、
前記エネルギー発生素子を駆動するための論理信号として用いられる差動伝送信号を前記液体吐出ヘッド用基板に伝送するための一対の差動伝送配線と、前記エネルギーを得るために前記エネルギー発生素子に印加される電圧を前記液体吐出ヘッド用基板に供給するための電圧供給配線と、を備え、柔軟性を有する電気配線基板と、を有し、
前記一対の差動伝送配線は前記電気配線基板の一方の側に設けられ、前記電圧供給配線は前記電気配線基板の、前記一方の面の裏面である他方の面の側に設けられていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記一対の差動伝送配線は、絶縁材料からなるベース基材の一方の面の上に設けられ、前記電圧供給配線は前記ベース基材の前記一方の面の裏面である他方の面の上に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記一対の差動伝送配線と前記電圧供給配線とは、交差するように設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記一対の差動伝送配線の一方と前記電圧供給配線との交差する面積と、前記一対の差動伝送配線の他方と前記電圧供給配線との交差する面積とは、ほぼ等しいことを特徴とする請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記一方と前記他方とは、平行となるように設けられていることを特徴とする請求項4に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
液体を吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子を備えた液体吐出ヘッド用基板に対し、前記エネルギー発生素子を駆動するための論理信号として差動伝送信号を伝送するための一対の差動伝送配線と、
前記エネルギーを得るために前記エネルギー発生素子に印加される電圧を前記液体吐出ヘッド用基板に供給するための電圧供給配線と、
を備え、柔軟性を有する電気配線基板であって、
前記一対の差動伝送配線は前記電気配線基板の一方の面の側に設けられ、前記電圧供給配線は前記電気配線基板の、前記一方の面の裏面である他方の面の側に設けられていることを特徴とする電気配線基板。
【請求項7】
前記一対の差動伝送配線は、絶縁材料からなるベース基材の一方の面の上に設けられ、前記電圧供給配線は前記ベース基材の他方の面の上に設けられていることを特徴とする請求項6に記載の電気配線基板。
【請求項8】
前記一対の差動伝送配線と前記電圧供給配線とは、交差するように設けられていることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の電気配線基板。
【請求項9】
前記一対の差動伝送配線の一方と前記電圧供給配線との交差する面積と、前記一対の差動伝送配線の他方と前記電圧供給配線との交差する面積とは、等しいことを特徴とする請求項8に記載の電気配線基板。
【請求項10】
前記一方と前記他方とは、平行となるように設けられていることを特徴とする請求項9に記載の電気配線基板。
【請求項11】
複数の前記液体吐出ヘッド用基板との接続が可能であることを特徴とする請求項6乃至請求項10のいずれかに記載の電気配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−240627(P2011−240627A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115493(P2010−115493)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】