説明

液体吐出ヘッド用キャップ、およびそれを用いた液体吐出ヘッドの保存方法

【課題】液体吐出ヘッドの複数の吐出孔が位置している吐出孔面を保護する液体吐出ヘッド用キャップ、およびそれを用いた液体吐出ヘッドの保存方法を提供する。
【解決手段】支持体62と、支持体62との間に空間70を開けて配置されており、外周部で支持体62に接合されているとともに、支持体62と接合されている面と反対側の面の外周部の全周にわたって突起部64aが設けられている弾性膜64と、突起部64aに当接するように配置されている保護膜66とを有し、吐出孔8が開口している吐出孔面4−1を有する液体吐出ヘッド2の吐出孔面4−1を保護する液体吐出ヘッド用キャップ60であって、空間70は外部と繋がっており、支持体62には、空間70に繋がる孔が開いていない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体吐出ヘッドを保管・輸送する際などに用いられる、液体吐出ヘッドの吐出孔を保護する液体吐出ヘッド用キャップ、およびそれを用いた液体吐出ヘッドの保管方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットプリンタやインクジェットプロッタなどの、インクジェット記録方式を利用した記録装置が、一般消費者向けのプリンタだけでなく、例えば電子回路の形成や液晶ディスプレイ用のカラーフィルタの製造、有機ELディスプレイの製造といった工業用途にも広く利用されている。
【0003】
このようなインクジェット方式などで液体を吐出させる液体吐出ヘッドでは、液体を吐出する吐出孔付近に、異物や、吐出する液体に含まれる固形分が付着すると、液体が吐出されなくなったり、所望の吐出方向の精度や吐出速度が得られないことがある。そのため、液体吐出ヘッドを保管する際には、液体が吐出される吐出孔を保護することが行なわれている。例えば、特許文献1では、吐出孔が開口している面にシール部材を貼り付け、その上から弾性体で押圧するキャップを使用して、吐出孔を保護している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−73158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のキャップでは、外部からの異物の侵入は抑制できると考えられるものの、吐出孔の開口のエッジ部分は、シール部材と吐出孔の内壁とで構成される角部に位置するため、吐出する液体に含まれる固形分や、異物が付着して、所望の吐出が得られないおそれがあった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、液体吐出ヘッドの複数の吐出孔が位置している吐出孔面を保護する液体吐出ヘッド用キャップ、およびそれを用いた液体吐出ヘッドの保存方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の液体吐出ヘッド用キャップは、支持体と、前記支持体との間に空間を開けて配置されており、外周部で前記支持体に接合されているとともに、前記支持体と接合されている面と反対側の面の外周部の全周にわたって突起部が設けられている弾性膜と、前記突起部に当接するように配置されている保護膜とを有し、複数の吐出孔が位置している吐出孔面を有する液体吐出ヘッドの前記吐出孔面を保護する液体吐出ヘッド用キャップであって、前記空間は外部と繋がっており、前記支持体には、前記空間に繋がる孔が開いていないことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の液体吐出ヘッドの保存方法は、複数の吐出孔が位置している吐出孔面を有する液体吐出ヘッドの内部に保存液を入れ、前記液体吐出ヘッド用キャップに、前記吐出孔面が、前記保護膜を介して前記突起部に当たるように取り付けて、前記吐出孔面と前記保護膜の間に保存液がある状態して保存することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液体吐出ヘッド用キャップを、保存液が入れられた液体吐出ヘッドに取り付ければ、吐出孔面と保護膜との間に保存液が安定的に保持されるので、吐出孔の付近に異物などが付着し難い。その結果、液体吐出ヘッドを使用する際に、安定した吐出ができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)は、本発明の一実施の形態に係る液体吐出ヘッド用キャップの平面図であり、(b)は、(a)の液体吐出ヘッド用キャップに取り付ける液体吐出ヘッドの一例であり、(c)、(d)は(b)の液体吐出ヘッドに(a)の液体吐出ヘッド用キャップを取り付けて保存している状態の、短手方向に沿った縦断面図および長手方向に沿った縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1(a)は、本発明の一実施の形態に係る液体吐出ヘッド用キャップ(以下で単にキャップと言うことがある)60の平面図であり、図1(b)は、キャップ60に取り付ける液体吐出ヘッド2の一例である。図1(c)は、液体吐出ヘッド2にキャップ60を取り付けて保存している状態の短手方向に沿った縦断面図であり、図1(d)は、同じ状態の長手方向に沿った縦断面図である。
【0012】
液体吐出ヘッド2は、例えば、印刷に使用されるものであり、カラープリンタなどに組み込まれて、記録用紙に向けて液滴を吐出することで、記録用紙に画像を記録できる。液体吐出ヘッド2は、例えば、第1の流路部材4、第2の流路部材40および筐体90を含んでいる。第1の流路部材4の下面は、複数の吐出孔8が開口している吐出孔面4−1となっており、吐出孔8は吐出孔面4−1において、2次元的に広がって配置されている。
【0013】
印刷などに使用する液体は、第2の流路部材40に設けられた図示しない開口をから供給され、第2の流路部材40を通って、第1の流路部材4に供給される。第1の流路部材4の流路には流路内の液体を加圧する加圧部が設けられており、加圧部により加圧された液体は、吐出孔8から吐出される。加圧部としては、圧電変形するものや、液体を加熱することにより体積膨張をさせるものが使用できる。
【0014】
このような液体吐出ヘッド2を一度使用した後に保存する場合、使用した液体に含まれていた固形分や異物が吐出孔8の内部や吐出孔8付近の吐出孔面4−1に付着してしまい、再使用する際に、吐出できなくなったり、所望の吐出精度が得られないことがある。そのようなことを抑制するために、キャップ60を取り付けた状態で保存する。また、液体吐出ヘッド2、あるいはそれを組み込んだプリンタなどを販売する場合に、出荷する前に、吐出状態を調べることが行なわれるが、一度使用すると完全に洗浄するのは難しいため、キャップ60を取り付けた状態で、保管・輸送などが行なわれる。その際、乾燥した状態にすると、使用した液体あるいは液体に含まれていた固形分が残りやすいため、吐出孔8および吐出孔8の周囲の吐出孔面4−1は液体に濡れた状態にする。保管する際の液体は、印刷などで使用していた液体を使用してもよいが、使用していた液体よりも固形分の少ない液体を使用する方が好ましい。使用していた液体よりも固形分の少ない液体を使用する場合、液体吐出ヘッド2内の液体を入れ替えるのが好ましい。以下で、保存する際に使用する液体を、印刷などで使用していた液体であるかどうかにかかわらず保存液と言う。
【0015】
キャップ60は、支持体62の上に弾性膜64を配置し、その上に保護膜66が配置されている構造を有している。支持体62は、平板状で、平面形状が吐出孔面4−1より大きくなっており、材質は金属などである。
【0016】
弾性膜64はゴムなどの弾性変形可能な材質で作られている。弾性膜64の支持体62側には、外周部の全周にわたって裏面突起部64bが設けられており、裏面突起部64aと支持体62とは接着層65で接着されている。これにより、弾性膜64と支持体62との間には空間70が設けられ、弾性膜64の中央部分は上下に変形可能になる。裏面突起部64bを設けずに、支持体62に凹部を設けることにより、空間70を設けてもよい。
【0017】
支持体62とは反対側の弾性膜64の表面には、外周部の全周にわたって突起部64aが設けられている。突起部64aの先端の平面形状は、吐出孔面4−1に内包される形状であり、吐出孔面4−1に設けられている吐出孔8が形成されている領域を内包する形状になっている。
【0018】
保護膜66は、弾性膜64に設けられた突起部64aの上に配置される。保護膜66は保存液が透過しない材質のものが用いられ、例えば樹脂、特にポリテトラフルオロエチレンは、多くの保存液が透過し難く、発塵性も低いので好ましい。保護膜66の両端は、支持体62に取り付けられた、第2の流路部材40が取り付けられる部分である台座68と支持体62に間に挟まれている。これにより、保護膜66は、突起部64a上で移動しないようになるともに、ある程度、張った状態にされる。また、その状態を維持し易いように、支持体には凸部62aが設けられており、凸部62aと台座68とに挟まれてることで、保護膜66は動き難くなっている。凸部62aは矩形状の弾性膜64の、長手方向・短手方向のいずれの方向においても外側の4カ所設けると、突起部64a全体に保護膜66が押さえつけられるようになり好ましい。
【0019】
キャップ60に液体吐出ヘッド2を取り付ける際には、例えば、液体吐出ヘッド2の内部が保存液で満たされた状態にし、第2の流路部材に設けらて開口を閉じて、液体が外部に出ないようにし、突起部64aの内側の保護膜66の上に保存液を供給し、その上に、液体吐出ヘッド2の吐出孔面4−1を押し付ける。台座68は、液体吐出ヘッド2が保護膜66を介して突起部64aに当接した状態で、台座68と液体吐出ヘッド2との間が、まだ空いている寸法にされている。その後、液体吐出ヘッド2をネジ留めするなどして、液体吐出ヘッド2が台座68に当接するまで押し付けられるようにすることで、突起部64が変形し、保護膜66と吐出孔面4−1との間がほぼ密閉され、保存液が保持されるようになる。突起部64の断面形状は、先端にいくほど小さくなる形状であることにより、吐出孔面4−1と保護膜66との密着がより強固になる。
【0020】
このようにして保存することにより、吐出孔8の内壁だけでなく、吐出孔8の開口の縁や吐出孔8の周囲の吐出孔面4−1が保存液に濡れた状態になるため、異物や、保存液の中の固形分が付着し難くなる。なお、ここで言う保存液の中の固形分は、印刷などに使用していた液体と異なる液体を保存液として使う際において、印刷などに使用していた液体に含まれていた固形分の一部が、保存液に置換した後も保存液中に残っているものも含む。
【0021】
支持体62に、空間70に繋がる孔は設けられていないことにより、外部から尖ったものが当たってきたとしても、吐出孔面4−1に傷が付き難く、傷により吐出特性に影響が出ることが抑制できる。また、空間70が外部と繋がっていることにより、例えば、航空機などによる輸送中などに、外部の気圧に変化があった場合でも、弾性膜64が変形することにより、弾性膜64と保護膜66とで囲まれた第2空間72の体積が変わり、保存液の加わる圧力を緩衝する。これにより、保護膜66と吐出孔面4−1との間から、外部の気体が入ったり、保存液が漏れたりすることを抑制できる。外部の気体が入り、その気体が吐出孔8付近に付くと、その部分が保存液に濡れていない状態になるので、異物や固形分が付きやすくなってしまう。保存液が漏れると、周囲の他の物品に影響を与えるおそれ
があるし、保存液の量が少なくなると、再度気圧の変化があった場合に、気体が侵入するおそれが増すことになる。
【0022】
空間70と外部とを繋ぐには、裏面突起部64bに切り欠き入れることなどで実現できるが、そのような構造では、その部分の上部の突起部64aと保護膜66との間の押圧が、周囲と比較して弱くなってしまい、気体の侵入や保存液の漏れのおそれが増す。弾性膜64の外周部の全周にわたって設けられている裏面突起64bと支持体62は、接着層65により接合されているが、その全周の一部で接着層65で接合しない部分を設けることにより、その部分で空間70と外部とを繋ぐことができる。より具体的には、接着層65により接合される部分を点状に離散的にすればよい。図では接着層65が分かるように示しているが、接着層65の厚みは100μm以下であり、その有無は、圧力差に大きな影響を与えない。
【0023】
また、空間70と外部とを繋ぐには、接着層65として、通気性のあるものを用いてもよい。ここで通気性があるとは、通気性のあるものと比較した場合、弾性膜64を外部から押した場合に、弾性膜64の変形が大きくなるものである。通気性があるものとしては、接着層65の材質そのものが通気性があるものを用いてもよいし、通気性のある多孔質のテープの上下面に接着剤を付けたものを用いて、中間の多孔質のテープにより通気性を持たせてももよい。
【0024】
保護膜66の上にさらに別の保護膜を重ねるようにすることで、外部気圧の変化に対する緩衝が、より段階的になることで、気体の侵入あるいは保存液の漏れをより抑制できる。この効果をより大きくするためには、弾性膜64側の保護膜をより変形しやすいものにするのが好ましい。より具体的には、弾性膜64側の保護膜の材質をより柔らかいものにしたり、弾性膜64側の保護膜の厚さを薄いものすればよい。
【符号の説明】
【0025】
2・・・液体吐出ヘッド
4・・・第1の流路部材
4−1・・・吐出孔面
8・・・吐出孔
40・・・第2の流路部材
60・・・液体吐出ヘッド用キャップ
62・・・支持体
64・・・弾性膜
64a・・・突起部
64b・・・裏面突起部
65・・・接着層
66・・・保護膜
68・・・台座
70・・・空間
72・・・第2空間
90・・・筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、
前記支持体との間に空間を開けて配置されており、外周部で前記支持体に接合されているとともに、前記支持体と接合されている面と反対側の面の外周部の全周にわたって突起部が設けられている弾性膜と、
前記突起部に当接するように配置されている保護膜と
を有し、複数の吐出孔が位置している吐出孔面を有する液体吐出ヘッドの前記吐出孔面を保護する液体吐出ヘッド用キャップであって、
前記空間は外部と繋がっており、前記支持体には、前記空間に繋がる孔が開いていないことを特徴とする液体吐出ヘッド用キャップ。
【請求項2】
前記保護膜の上に別の保護膜が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド用キャップ。
【請求項3】
前記弾性膜の外周部に前記支持体と接合されていない部位があり、前記空間は、その部位と前記支持体との間を通して、外部と繋がっていることを特徴とする請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド用キャップ。
【請求項4】
前記弾性膜の外周部と前記支持体とは、通気性のある接着層を介して接合されていることを特徴とする請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド用キャップ。
【請求項5】
複数の吐出孔が位置している吐出孔面を有する液体吐出ヘッドの内部に保存液を入れ、請求項1〜4のいずれかに記載の液体吐出ヘッド用キャップに、前記吐出孔面が、前記保護膜を介して前記突起部に当接するように取り付けて、前記吐出孔面と前記保護膜の間に保存液がある状態して保存することを特徴とする液体吐出ヘッドの保存方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−22873(P2013−22873A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161072(P2011−161072)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】