説明

液体吐出装置、及び、その制御方法

【課題】高粘度液体を吐出する場合にミスト等の発生を抑えて、ドットの分離を防止することが可能な液体吐出装置、及び、その制御方法を提供する。
【解決手段】ノズル開口に連通する圧力発生室、及び、この圧力発生室の液体に圧力変動を生じさせる圧電振動子を有する記録ヘッドと、圧電振動子を駆動する駆動パルスDPを含む一連の駆動信号を発生する駆動信号発生回路と、を備える液体吐出装置であって、駆動信号発生回路が発生する駆動パルスには、圧力発生室を膨張させてメニスカスを引き込む複数の膨張要素と、膨張した圧力発生室を収縮させるように電圧を変化させて液滴を吐出させる第1収縮要素p5及び第2収縮要素p7とを含み、膨張要素は、第1膨張要素p1と、第1膨張要素とは異なる電圧変化率でメニスカスを引き込む第2膨張要素p3とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式プリンター等の液体吐出装置、及び、その制御方法に関するものであり、特に、ノズル開口に連通する圧力発生室に圧力変動を与えて、圧力発生室内の液体をノズル開口から吐出させる液体吐出ヘッドを備える液体吐出装置、及び、その制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置は、液体を吐出可能な液体吐出ヘッドを備え、この液体吐出ヘッドから各種の液体を吐出する装置である。この液体吐出装置の代表的なものとして、例えば、液体吐出ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)を備え、この記録ヘッドのノズルから液体状のインクを記録紙等の記録媒体(着弾対象物)に対して吐出・着弾させることで画像等の記録を行うインクジェット式プリンター(以下、単にプリンターという。)等の画像記録装置を挙げることができる。また、近年においては、この画像記録装置に限らず、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造装置等、各種の製造装置にも液体吐出装置が応用されている。
【0003】
上記液体吐出装置には、吐出駆動パルスを圧力発生素子(例えば、圧電振動子や発熱素子等)に印加してこれを駆動することにより圧力発生室内の液体に圧力変化を与え、この圧力変化を利用して圧力発生室に連通したノズルから液体を吐出させるように構成されたものがある。このような液体吐出装置では、圧力発生室内の液体に与える圧力振動の振幅を大きくすることで、吐出される液体の量を増加させることができる。言い換えれば、吐出駆動パルスの駆動電圧を大きくすることで、吐出される液体の量を増やすことができる(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−94656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、この液体吐出装置では、例えばUVインク(紫外線硬化型インク)等の従来扱われていた液体よりも粘度の高い液体(以下、高粘度液体ともいう。)を吐出する試みがなされている。すなわち、従来は水のように粘度が低い液体を対象にしていたが、近年では6ミリパスカル秒以上の高粘度液体を吐出する試みがなされている。この高粘度液体を吐出する際に十分な吐出量を得るためには、吐出量に応じた大きさの圧力変化を圧力発生室内の液体に与える必要がある。しかし、圧力変化を大きくすると液体の飛行速度も高くなり、この液体の後端部分が尾のように伸びる現象が生じ易くなる傾向にある。そして、この尾の部分が液滴本体から分離して飛翔し、着弾対象物において正規の位置(望ましい位置)に着弾しない虞があった。例えば、インクジェットプリンターでは、尾の部分がミストになって正規の位置からずれて着弾してドットが分離し、これにより、画質の劣化が生じるという問題があった。特に、高粘度液体では、尾の部分が幾つにも分離することにより、これらの複数に分離した部分(サテライトインク滴或いはミスト)が画質を著しく低下させる原因となっていた。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高粘度液体を吐出する場合にミスト等の発生を抑えて、ドットの分離を防止することが可能な液体吐出装置、及び、その制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、ノズル開口に連通する圧力発生室、及び、この圧力発生室の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生素子を有する液体吐出ヘッドと、
前記圧力発生素子を駆動する駆動パルスを含む一連の駆動信号を発生する駆動信号発生手段と、
を備える液体吐出装置であって、
前記駆動信号発生手段が発生する前記駆動パルスには、前記圧力発生室を膨張させてメニスカスを引き込む複数の膨張要素と、
前記膨張した圧力発生室を収縮させるように電圧を変化させて液滴を吐出させる吐出要素とを含み、
前記膨張要素は、第1膨張要素と、前記第1膨張要素とは異なる電圧変化率でメニスカスを引き込む第2膨張要素とを含むことを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、ノズル開口に連通する圧力発生室、及び、この圧力発生室の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生素子を有する液体吐出ヘッドと、圧力発生素子を駆動する駆動パルスを含む一連の駆動信号を発生する駆動信号発生手段と、を備える液体吐出装置であって、駆動信号発生手段が発生する駆動パルスには、圧力発生室を膨張させてメニスカスを引き込む複数の膨張要素と、膨張した圧力発生室を収縮させるように電圧を変化させて液滴を吐出させる吐出要素とを含み、膨張要素は、第1膨張要素と、第1膨張要素とは異なる電圧変化率でメニスカスを引き込む第2膨張要素とを含むので、粘度が比較的高い液体(高粘度液体)を圧力発生室側に引き込む際に、ノズル開口におけるメニスカスの周縁部(ノズル開口の内周に近い側)が中心部分に比べて動き難く、圧力変動に追従し難い場合でも、メニスカスの中心部分の液体とメニスカスの外周縁側の液体とが、寄り添うようにタイミングを合わせることができる。これにより、その後の圧力発生室の収縮による液滴の吐出の際に、ノズル開口におけるメニスカスの中心部分とメニスカスの外周縁側とが逆位相になることを抑制されるので、吐出された液体の後端部が尾のように伸びる現象を抑えることができ、可及的に球形に近い形状にすることができる。この結果、着弾対象物上で液体が複数に分離して着弾することを防止することができる。また、逆位相によって生じる液滴の飛翔速度の低下を抑えることができる。
【0009】
上記構成において、前記第1膨張要素の電圧変化率を、前記第2膨張要素の電圧変化率よりも小さく設定することが望ましい。
【0010】
この構成によれば、第1膨張要素の電圧変化率を、第2膨張要素の電圧変化率よりも小さく設定したので、第1膨張要素の電圧の間に、ノズル開口におけるメニスカスの中心部分に比べてメニスカスの外周縁側が遅れる現象を抑えることができる。これにより、圧力発生室の収縮による液滴の吐出の際に、メニスカスの中心部分とメニスカスの外周縁側とが逆位相になることを抑えて、吐出された液体に付随する尾の成長を抑制することができる。
【0011】
上記構成において、前記第1膨張要素と前記第2膨張要素との間に、前記第1膨張要素の後端で電圧を一定時間維持する膨張ホールド要素を含むことが望ましい。
【0012】
上記構成によれば、第1膨張要素と第2膨張要素との間に、第1膨張要素の後端で電圧を一定時間維持する膨張ホールド要素を含むので、電圧を維持している間に、ノズル開口におけるメニスカスの中心部分に比べてメニスカスの外周縁側が遅れる現象をより抑えることができる。これにより、圧力発生室の収縮による液滴の吐出の際に、メニスカスの中心部分とメニスカスの外周縁側とが逆位相になることを抑えて、吐出された液体に付随する尾の成長を抑制することができる。
【0013】
上記構成において、前記吐出要素は、第1吐出要素と、前記第1吐出素とは異なる電圧変化率で前記圧力発生室を収縮させる第2吐出要素とを含むことが望ましい。
【0014】
上記構成によれば、吐出要素は、第1吐出要素と、第1吐出素とは異なる電圧変化率で圧力発生室を収縮させる第2吐出要素とを含むので、ノズル開口におけるメニスカスの中心部分とメニスカスの外周縁側とが逆位相になることを抑えられた状態で、圧力発生室の収縮による液滴の吐出の際に、ノズル開口におけるメニスカスの中心部分とメニスカスの外周縁側とが、寄り添うようにタイミングを合わせることができる。これにより、吐出された液体に付随する尾の成長を抑制することができ、着弾対象物上で液体が複数に分離して着弾することを防止することができる。
【0015】
上記構成において、前記第1吐出要素と前記第2吐出要素との間に、前記第1吐出要素の後端で電圧を一定時間維持する吐出ホールド要素を含むことが望ましい。
【0016】
上記構成によれば、第1吐出要素と第2吐出要素との間に、第1吐出要素の後端で電圧を一定時間維持する吐出ホールド要素を含むので、ノズル開口におけるメニスカスの中心部分とメニスカスの外周縁側とが逆位相になることを抑えた状態で、圧力発生室の収縮による液滴の吐出の際に、ノズル開口におけるメニスカスの中心部分とメニスカスの外周縁側とが、寄り添うようにタイミングを合わせることができる。これにより、吐出された液体に付随する尾の成長を抑制することができ、着弾対象物上で液体が複数に分離して着弾することを防止することができる。
【0017】
また、本発明の液体吐出装置の制御方法は、ノズル開口に連通する圧力発生室、及び、この圧力発生室の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生素子を有し、当該圧力発生素子の作動によって前記ノズル開口から液体を吐出可能な液体吐出ヘッドと、
前記圧力発生素子を駆動する駆動パルスを含む一連の駆動信号を発生する駆動信号発生手段と、
を備える液体吐出装置の制御方法であって、
前記圧力発生室を膨張させてメニスカスを引き込む複数の膨張工程と、
前記膨張工程で膨張した圧力発生室を収縮させるように電圧を変化させて液滴を吐出させる吐出工程とを含み、
前記膨張工程には、第1膨張工程と、前記第1膨張工程とは異なる電圧変化率でメニスカスを引き込む第2膨張工程とを含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】プリンターの電気的構成を説明するブロック図である。
【図2】記録ヘッドの構成を説明する要部断面図である。
【図3】吐出パルスの構成を説明する波形図である。
【図4】(a)〜(f)は、インク滴を吐出する際のメニスカスの動きを示す図である。
【図5】吐出パルスの変形例を説明する波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体吐出装置として、インクジェット式記録装置(以下、プリンター)を例に挙げて説明する。
【0020】
図1はプリンターの電気的な構成を示すブロック図である。このプリンターは、プリンターコントローラー1とプリントエンジン2とで概略構成されている。プリンターコントローラー1は、ホストコンピューター等の外部装置との間でデータの授受を行う外部インターフェース(外部I/F)3と、各種データ等を記憶するRAM4と、各種データ処理のための制御ルーチン等を記憶したROM5と、各部の制御を行う制御部6と、クロック信号を発生する発振回路7と、記録ヘッド10へ供給する駆動信号を発生する駆動信号発生回路8と、ドットパターンデータや駆動信号等を記録ヘッド10に出力するための内部インターフェース(内部I/F)9とを備えている。
【0021】
制御部6は、各部の制御を行うほか、外部装置から外部I/F3を通じて受信した印刷データを、ドットパターンデータに変換し、このドットパターンデータを内部I/F9を通じて記録ヘッド10側に出力する。このドットパターンデータは、階調データをデコード(翻訳)することにより得られる印字データによって構成してある。また、制御部6は、発振回路7からのクロック信号に基づいて記録ヘッド10に対してラッチ信号やチャンネル信号等を供給する。これらのラッチ信号やチャンネル信号に含まれるラッチパルスやチャンネルパルスは、駆動信号を構成する各パルスの供給タイミングを規定する。
【0022】
駆動信号発生回路8は、制御部6によって制御され、圧電振動子20(図2参照)を駆動するための駆動信号を発生する。本実施形態における駆動信号発生回路8は、インク滴(液滴の一種)を吐出して、吐出対象物の一種としての記録紙上にドットを形成するための吐出パルスや、ノズル開口32(図2参照)に露出したインク(液体の一種)の自由表面、即ちメニスカスを微振動させてインクを攪拌するための微振動パルス等を一記録周期内に含む駆動信号COMを発生するように構成されている。
【0023】
次に、プリントエンジン2側の構成について説明する。プリントエンジン2は、記録ヘッド10と、キャリッジ移動機構12と、紙送り機構13と、リニアエンコーダ14とから構成されている。記録ヘッド10は、シフトレジスター(SR)15、ラッチ16、デコーダー17、レベルシフター18、スイッチ19、及び圧電振動子20を備えている。プリンターコントローラー1からのドットパターンデータ(SI)は、発振回路7からのクロック信号(CK)に同期して、シフトレジスター15にシリアル伝送される。このドットパターンデータは、2ビットのデータであり、例えば、非記録(微振動)、小ドット、中ドット、大ドットからなる4階調の記録階調(吐出階調)を表す階調情報によって構成されている。具体的には、非記録は階調情報「00」、小ドットは階調情報「01」、中ドットが階調情報「10」、大ドットが階調情報「11」と表される。
【0024】
シフトレジスター15には、ラッチ16が電気的に接続されており、プリンターコントローラー1からのラッチ信号(LAT)がラッチ16に入力されると、シフトレジスタ15のドットパターンデータをラッチする。このラッチ16にラッチされたドットパターンデータは、デコーダー17に入力される。このデコーダー17は、2ビットのドットパターンデータを翻訳してパルス選択データを生成する。このパルス選択データは、駆動信号COMを構成する各パルスに各ビットを夫々対応させることで構成されている。そして、各ビットの内容、例えば、「0」,「1」に応じて圧電振動子20に対する吐出パルスの供給又は非供給が選択される。
【0025】
そして、デコーダー17は、ラッチ信号(LAT)又はチャンネル信号(CH)の受信を契機にパルス選択データをレベルシフター18に出力する。この場合、パルス選択データは、上位ビットから順にレベルシフター18に入力される。このレベルシフター18は、電圧増幅器として機能し、パルス選択データが「1」の場合、スイッチ19を駆動できる電圧、例えば数十ボルト程度の電圧に昇圧された電気信号を出力する。レベルシフター18で昇圧された「1」のパルス選択データは、スイッチ19に供給される。このスイッチ19の入力側には、駆動信号発生回路8からの駆動信号COMが供給されており、スイッチ19の出力側には、圧電振動子20が接続されている。
【0026】
そして、パルス選択データは、スイッチ19の作動、つまり、駆動信号中の駆動パルスの圧電振動子20への供給を制御する。例えば、スイッチ19に入力されるパルス選択データが「1」である期間中は、スイッチ19が接続状態になって、対応する吐出パルスが圧電振動子20に供給され、この吐出パルスの波形に倣って圧電振動子20の電位レベルが変化する。一方、パルス選択データが「0」である期間中は、レベルシフター18からはスイッチ19を作動させるための電気信号が出力されない。このため、スイッチ19は切断状態となり、圧電振動子20へは吐出パルスが供給されない。
【0027】
このような動作を行うデコーダー17、レベルシフター18、スイッチ19、制御部6、及び駆動信号発生回路8は、本発明における駆動手段として機能し、ドットパターンデータに基づき、駆動信号の中から必要な吐出パルスを選択して圧電振動子20に印加(供給)する。その結果、圧電振動子20が伸張又は収縮し、この圧電振動子20の伸縮に伴って圧力発生室35(図2参照)が膨張又は収縮することにより、ドットパターンデータを構成する階調情報に応じた量のインク滴がノズル開口32から吐出される。
【0028】
図2は上記の記録ヘッド10の要部断面図である。本実施形態における記録ヘッド10は、圧電振動子群22、固定板23、及び、フレキシブルケーブル24等をユニット化した振動子ユニット25と、この振動子ユニット25を収納可能なヘッドケース26と、共通インク室(共通液体室)から圧力発生室35を通りノズル開口32に至る一連のインク流路(液体流路)を形成する流路ユニット27とを備えて構成される。
【0029】
まず、振動子ユニット25について説明する。圧電振動子群22を構成する圧電振動子20(本発明における圧力発生素子の一種)は、縦方向に細長い櫛歯状に形成されており、数十μm程度の極めて細い幅に切り分けられている。そして、この圧電振動子20は縦方向に伸縮可能な縦振動型の圧電振動子として構成されている。各圧電振動子20は、固定端部を固定板23上に接合することにより、自由端部を固定板23の先端縁よりも外側に突出させて所謂片持ち梁の状態で固定されている。そして、各圧電振動子20における自由端部の先端は、後述するように、それぞれ流路ユニット27におけるダイヤフラム部38を構成する島部40に接合される。フレキシブルケーブル24は、固定板23とは反対側となる固定端部の側面で圧電振動子20と電気的に接続されている。また、各圧電振動子20を支持する固定板23は、圧電振動子20からの反力を受け止め得る剛性を備えた金属製の板材によって構成される。
【0030】
次に、流路ユニット27について説明する。流路ユニット27は、ノズルプレート29、流路形成基板30、及び振動板31から構成され、ノズルプレート29を流路形成基板30の一方の表面に、振動板31をノズルプレート29とは反対側となる流路形成基板30の他方の表面にそれぞれ配置して積層し、接着等により一体化することで構成されている。ノズルプレート29は、ドット形成密度に対応したピッチで複数のノズル開口32を列状に開設したステンレス鋼製の薄いプレートである。本実施形態では、例えば、180個のノズル開口32を列状に開設し、これらのノズル開口32によってノズル列(ノズル群)を構成している。そして、このノズル列を横並びに2列設けている。なお、本実施形態のノズル開口32は、流路形成基板30に接合されたノズルプレート29における圧力発生室35とは反対側(吐出面側)に配されるストレート部42と、当該ストレート部42から圧力発生室35側に向って拡径する拡径部43とから構成されている。
【0031】
流路形成基板30は、リザーバー33、インク供給口34、及び圧力発生室35からなる一連のインク流路(液体流路の一種)を形成する板状部材である。具体的には、この流路形成基板30は、各ノズル開口32に対応させて圧力発生室35となる空部を隔壁で区画した状態で複数形成すると共に、インク供給口34およびリザーバー33となる空部を形成した板状の部材である。そして、本実施形態の流路形成基板30は、シリコンウェハーをエッチング処理することで作製されている。上記の圧力発生室35は、ノズル開口32の列設方向(ノズル列方向)に対して直交する方向に細長い室として形成され、インク供給口34は、圧力発生室35とリザーバー33との間を連通する流路幅の狭い狭窄部として形成されている。また、リザーバー33は、インクカートリッジ(図示せず)に貯留されたインクを各圧力発生室35に供給するための室であり、インク供給口34を通じて対応する各圧力発生室35に連通している。
【0032】
振動板31は、ステンレス鋼等の金属製の支持板36上にPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の樹脂フィルム37をラミネート加工した二重構造の複合板材であり、圧力発生室35の一方の開口面を封止してこの圧力発生室25の容積を変動させるためのダイヤフラム部38を有すると共に、リザーバー33の一方の開口面を封止するコンプライアンス部39が形成された部材である。そして、ダイヤフラム部38は、圧力発生室35に対応した部分の支持板36にエッチング加工を施し、当該部分を環状に除去して圧電振動子20の自由端部の先端を接合するための島部40を形成することで構成されている。この島部40は、圧力発生室35の平面形状と同様に、ノズル開口32の列設方向と直交する方向に細長いブロック状であり、この島部40の周りの樹脂フィルム37が弾性体膜として機能する。また、コンプライアンス部39として機能する部分、すなわちリザーバー33に対応する部分は、このリザーバー33の開口形状に倣って支持板36がエッチング加工で除去されて樹脂フィルム37のみとなっている。
【0033】
上記構成の記録ヘッド10では、圧電振動子20を変形させることで対応する圧力発生室35が収縮或いは膨張し、圧力発生室35内のインクに圧力変動が生じる。このインク圧力を制御することで、ノズル開口32からインク(インク滴)を吐出させることができる。インクを吐出するのに先だって定常容積の圧力発生室35を予備的に膨張させるとリザーバー33側からインク供給口34を通じて圧力発生室35内にインクが供給される。また、予備膨張の後に圧力発生室35を急激に収縮させるとノズル開口32からインクが吐出される。
【0034】
図3は、上記構成の駆動信号発生回路8が発生する駆動信号COMに含まれる吐出パルスDPの構成を説明する波形図である。例示した吐出パルスDPは、本実施形態におけるプリンターにおいて吐出可能なインク滴のうち最もサイズの小さいインク滴を吐出するための吐出パルスである。この吐出パルスDPは、基準電位VHBから第1中間電位VM1まで一定勾配(電圧変化率)θ1で電位を上昇させる第1膨張要素p1(本発明における膨張要素に相当)と、第1膨張要素p1の後端電位である第1中間電位VM1を短い時間維持する第1ホールド要素p2(本発明における膨張ホールド要素に相当)と、第1中間電位VM1から最高電位VHまで比較的急峻な勾配θ2(θ2>θ1)で電位を上昇させる第2膨張要素p3(本発明における膨張要素に相当)と、最高電位VHを短い時間維持する第2ホールド要素p4と、最高電位VHから第2中間電位VM2まで比較的急峻な一定勾配θ3で電位を降下させる第1収縮要素p5(本発明における第1吐出要素に相当)と、第2中間電位VM2を一定時間維持する第3ホールド要素p6(本発明における吐出ホールド要素に相当)と、第2中間電位VM2から基準電位VHBまで一定勾配θ4(θ4<θ3)で電位を降下させる第2収縮要素p7(本発明における第2吐出要素に相当)とから構成されている。
【0035】
上記吐出パルスDPが圧電振動子20に供給されると次のように作用する。まず、第1膨張要素p1が圧電振動子20に供給されると、当該圧電振動子20が素子長手方向に収縮して、これにより、基準電位VHBに対応する基準容積から第1中間電位VM1に対応する容積まで圧力発生室35が膨張する(第1膨張工程)。この第1膨張工程における圧力発生室35の収縮は、後の第2膨張工程における圧力発生室35の膨張動作よりも穏やかに行われる。これにより、図4(a)に示すように、ノズル開口32のストレート部42におけるメニスカスが徐々に圧力発生室35側に引き込まれ始め、そして、図4(b)に示すように、ノズル開口32のストレート部42において特に中心部分が周縁部分よりも先に圧力発生室35側に引き込まれ、その圧力発生室35側の先端部分は拡径部43内に浸入する。これは、メニスカスの中心部分の方が、メニスカスの周縁部(ノズル開口32の内周に近い側)と比べて動き易く、圧力変動に追従し易いためである。このため、本実施形態では前記追従の遅れを解消するために、基準電位VHBから第1中間電位VM1までの勾配θ1を、第1中間電位VM1から最高電位VHまでの勾配θ2よりも小さく(緩く)設定している。これにより、第1膨張工程における圧力発生室35の膨張によって、ノズル開口32のストレート部42におけるメニスカスの外周縁側が、メニスカスの中心部分に比べて、遅れて到達することを抑制させることができる。
【0036】
そして、第1膨張工程における圧力発生室35の膨張状態は、第1ホールド要素p2の供給期間中に亘って一定に維持される(膨張維持工程)。これにより、第1膨張工程における圧力発生室35の膨張によって、ノズル開口32のストレート部42におけるメニスカスの中心部分のインクに比べて、メニスカスの外周縁側のインクが、遅れて到達することをさらに抑制させることができる。その間に、ノズル開口32のストレート部42内におけるメニスカスの外周縁側が、メニスカスの中心部分に続いて、拡径部43内に徐々に浸入する。
【0037】
第1ホールド要素p2の後に続いて第2膨張要素p3が圧電振動子20に供給されると、当該圧電振動子20が素子長手方向に第1膨張工程よりもさらに急激に収縮して、これにより、圧力発生室35が、第1中間電位VM1に対応する容積から最高電位VHで規定される容積に急激に膨張する(第2膨張工程)。これにより、図4(c)に示すように、ノズル開口32におけるストレート部42から拡径部43内に浸入したメニスカスの外周縁側が、インクの引き込み方向に沿って拡径する拡径部43の内周面に沿って拡径部43内に急速に浸入し、メニスカスの中心部分及び外周縁面側を、圧力発生室35側により大きく引き込むことができる。そして、この第2膨張工程における圧力発生室35の膨張状態は、第2ホールド要素p4の供給期間中に亘って維持される。
【0038】
その後、第1収縮要素p5が圧電振動子20に供給されることにより当該圧電振動子20が伸長して最高電位VHに対応する容積から第2中間電位VM2に対応する容積まで圧力発生室35が急激に収縮する(第1吐出収縮工程)。この圧力発生室35の急激な収縮によって圧力発生室35内のインクが加圧され、これにより、図4(d)に示すように、ノズル開口32における拡径部43内のメニスカスの中心部分が柱状に盛り上がる。これは、メニスカスの中心部分が、圧力発生室35から離れる方向に進行しているのに対して、メニスカスの外周縁側が、圧力発生室35側に引き込まれているためである。つまり、メニスカスの中心部分と、メニスカスの外周縁側とは、逆位相の状態となっている。
【0039】
そして、第3ホールド要素p6が圧電振動子20に供給されて、第2中間電位VM2が一定時間維持される(吐出収縮維持工程)。そして、この圧力発生室35の収縮状態は、第3ホールド要素p6の供給期間に亘って一定時間維持される。この間に、図4(e)に示すように、メニスカスの中心部分と、メニスカスの外周縁側とが、圧力発生室35側から離れる方向に同位相の状態となり、前記した膨張行程と同様に、特に中心部分が拡径部43側からストレート部42に向って進行し、その柱状中心部分の先端部分がその周りの部分よりも先にストレート部42内に浸入する。
【0040】
その後、第2収縮要素p7が圧電振動子20に供給されることにより当該圧電振動子20が第1吐出収縮工程よりもさらに伸長して、第2中間電位VM2に対応する容積から基準電位VHBに対応する容積まで圧力発生室35が収縮して復帰する(第2吐出収縮工程)。ここで、第2中間電位VM2から基準電位VHBまでの勾配θ4を、最高電位VHから第2中間電位VM2までの勾配θ3よりも緩く設定している。これにより、第1収縮工程における圧力発生室35の収縮によってストレート部42内に浸入したメニスカスの外周縁側が、メニスカスの中心部分に比べて、遅れて到達することを抑制させることができる。この間に、図4(f)に示すように、メニスカスの中心部分からノズル開口32外に排出され、その後、メニスカスの中心部分の柱状部分が千切れ、これが小ドットに対応する数plのインク滴としてノズル開口32から吐出される。
【0041】
以上のように説明した構成を採用することにより、例えば、紫外線等の光エネルギーの照射によって硬化する光硬化型インクのように従来のインクよりも粘度の高いインク(高粘度液体)を吐出する際に、変化率の異なる第1膨張要素p1及び第2膨張要素p2と、第1収縮要素p5及び第2収縮要素p7とを含む吐出パルスDPを圧電振動子20に供給することで、ノズル開口におけるメニスカスの中心部分とメニスカスの外周縁側とが逆位相になることを抑制されるので、吐出されたインクの後端部が尾のように伸びる現象を抑えることができ、可及的に球形に近い形状にすることができる。これにより、記録紙等の着弾対象物上でインクが複数に分離して着弾することを防止することができ、その結果、記録画像の画質の劣化を低減することができる。また、第1膨張要素p1と第2膨張要素p2との間に第1ホールド要素p2を、第1収縮要素p5と第2収縮要素p7との間に第3ホールド要素p6を、含むので、メニスカスの中心部分とメニスカスの外周縁側とが逆位相になることを抑え、吐出された液体に付随する尾の成長を抑制することができる。さらに、逆位相によって生じるインクの飛翔速度の低下を抑えることができる。
【0042】
ここで、何らの対策も施さない従来構成では、高粘度インクで中ドットを形成する場合に、インクの尾が引き易い傾向があり、この尾の部分が中ドットインク滴本体から分離することにより、これらの分離した部分(サテライトインク滴或いはミスト)が記録紙上でそれぞれ異なる位置に着弾する等して画質を著しく低下させる原因となっていた。このような不具合を防止するべく、基準電位VHBから第1中間電位VM1までの勾配θ1を、第1中間電位VM1から最高電位VHまでの勾配θ2よりも緩く設定するとともに、第2中間電位VM2から基準電位VHBまでの勾配θ4を、最高電位VHから第2中間電位VM2までの勾配θ3よりも緩く設定したので、ストレート部42内に浸入したメニスカスの外周縁側が、メニスカスの中心部分に比べて、遅れて到達することを抑制させることができる。
【0043】
ところで、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。
【0044】
図5は、吐出パルスの変形例を示す波形図である。上記実施形態では、本発明における吐出パルスの一例として、第1収縮要素p5及び第2収縮要素p7の2つの収縮要素を含んでいたが、吐出パルスの形状はこれには限られない。例えば、図5に示す吐出パルスDP´は、収縮要素として、最高電位VHから第3中間電位VM3まで一定勾配で電位を降下させる第3収縮要素p8(本発明における吐出要素に相当)と、第3中間電位VM3を一定時間維持する第4ホールド要素p9(本発明における吐出ホールド要素に相当)と、第3中間電位VM2から第4中間電位VM4まで一定勾配で電位を降下させる第4収縮要素p10(本発明における吐出要素に相当)と、第4中間電位VM4を一定時間維持する第5ホールド要素p11(本発明における吐出ホールド要素に相当)と、第4中間電位VM4から基準電位VHBまで一定勾配で電位を降下させる第2収縮要素p12(本発明における吐出要素に相当)との3つの収縮要素を含んでいても良い。
【0045】
これにより、圧力発生室35の収縮による高粘度インクの吐出の際に、メニスカスの中心部分とメニスカスの外周縁側とが逆位相になることをさらに抑えて、吐出されたインクに付随する尾の成長を抑制することができる。さらに、逆位相によって生じる液滴の飛翔速度の低下を抑えることができる。即ち、吐出パルスDPは、少なくとも、第1膨張要素p1と、第1膨張要素p1とは変化率の異なる第2膨張要素p3とを含む構成の吐出パルスであれば、任意の波形のものを用いることができる。
【0046】
また、上記実施形態では、圧力発生手段として、所謂縦振動モードの圧電振動子20を例示したが、これには限られない。例えば、所謂撓み振動モードの圧電振動子を用いる場合にも本発明を適用することが可能である。なお、この撓み振動モードの圧電振動子を採用する場合は、図3に示した吐出パルスDPの波形が上下反転する。
【0047】
そして、本発明は、複数の駆動信号を用いて吐出制御が可能な液体吐出装置であれば、プリンターに限らず、プロッタ、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置や、記録装置以外の液体吐出装置、例えば、ディスプレー製造装置、電極製造装置、チップ製造装置等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
8…駆動信号発生回路,10…記録ヘッド,20…圧電振動子,32…ノズル開口,35…圧力発生室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル開口に連通する圧力発生室、及び、この圧力発生室の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生素子を有し、当該圧力発生素子の作動によって前記ノズル開口から液体を吐出可能な液体吐出ヘッドと、
前記圧力発生素子を駆動する駆動パルスを含む一連の駆動信号を発生する駆動信号発生手段と、
を備える液体吐出装置であって、
前記駆動信号発生手段が発生する前記駆動パルスには、前記圧力発生室を膨張させてメニスカスを引き込む複数の膨張要素と、
前記膨張した圧力発生室を収縮させるように電圧を変化させて液滴を吐出させる吐出要素とを含み、
前記膨張要素は、第1膨張要素と、前記第1膨張要素とは異なる電圧変化率でメニスカスを引き込む第2膨張要素とを含むことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記第1膨張要素の電圧変化率を、前記第2膨張要素の電圧変化率よりも小さく設定したことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記第1膨張要素と前記第2膨張要素との間に、前記第1膨張要素の後端で電圧を一定時間維持する膨張ホールド要素を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記吐出要素は、第1吐出要素と、前記第1吐出素とは異なる電圧変化率で前記圧力発生室を収縮させる第2吐出要素とを含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記第1吐出要素と前記第2吐出要素との間に、前記第1吐出要素の後端で電圧を一定時間維持する吐出ホールド要素を含むことを特徴とする請求項4に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
ノズル開口に連通する圧力発生室、及び、この圧力発生室の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生素子を有し、当該圧力発生素子の作動によって前記ノズル開口から液体を吐出可能な液体吐出ヘッドと、
前記圧力発生素子を駆動する駆動パルスを含む一連の駆動信号を発生する駆動信号発生手段と、
を備える液体吐出装置の制御方法であって、
前記圧力発生室を膨張させてメニスカスを引き込む複数の膨張工程と、
前記膨張工程で膨張した圧力発生室を収縮させるように電圧を変化させて液滴を吐出させる吐出工程とを含み、
前記膨張工程には、第1膨張工程と、前記第1膨張工程とは異なる電圧変化率でメニスカスを引き込む第2膨張工程とを含むことを特徴とする液体吐出装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−158843(P2010−158843A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2641(P2009−2641)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】