説明

液体吐出装置、及び、液体吐出装置の制御方法

【課題】高粘度液体を吐出する場合に液滴の微小化を図ると共にミスト等の発生を抑えてドットの分離を防止することが可能な液体吐出装置、及び、液体吐出装置の制御方法を提供する。
【解決手段】吐出駆動パルスDPは、第1の圧力発生室膨張要素p1と、第1収縮要素p3と、第2の圧力発生室膨張要素p5と、を含むパルス波形であり、第2の圧力発生室膨張要素は、第1収縮要素によって収縮された圧力発生室を第1中間膨張容積まで膨張させてメニスカスを圧力発生室側に引き込む第1の引き込み要素p5aと、圧力発生室の第1中間膨張容積を一定時間維持する中間維持要素p5bと、第1中間膨張容積から第2中間膨張容積まで膨張させてメニスカスをさらに引き込む第2の引き込み要素p5cとからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式プリンター等の液体吐出装置、及び、液体吐出装置の制御方法に関するものであり、特に、駆動信号に含まれる駆動パルスを圧力発生素子に印加することにより液体の吐出を制御可能な液体吐出装置、及び、液体吐出装置の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置は、液体を吐出可能な液体吐出ヘッドを備え、この液体吐出ヘッドから各種の液体を吐出する装置である。この液体吐出装置の代表的なものとして、例えば、液体吐出ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)を備え、この記録ヘッドのノズルから液体状のインクを記録紙等の記録媒体(着弾対象物)に対して吐出・着弾させることで画像等の記録を行うインクジェット式プリンター(以下、単にプリンターという。)等の画像記録装置を挙げることができる。また、近年においては、この画像記録装置に限らず、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造装置等、各種の製造装置にも液体吐出装置が応用されている。
【0003】
上記プリンターは、吐出駆動パルスを圧力発生素子(例えば、圧電振動子や発熱素子等)に印加してこれを駆動することにより圧力発生室内の液体に圧力変化を与え、この圧力変化を利用して圧力発生室に連通したノズルから液体を吐出させるように構成されたものがある。この種のプリンターでは、記録画像の高画質化の要請に伴い、吐出するインク滴の微小化が進んでいる。即ち、インク滴を微小化することにより、記録紙等の記録媒体に記録されるドットの径を小さくして、記録画像の高解像度化や、低濃度領域における粒状感(視覚的に感じる画像の粗さ)の低減を図っている。このようなインク滴の微小化のためには、ノズルの径を小さくすることが考えられるが、ノズルの径を小さくすると、加工が困難になってコストが高くなるうえ、精度も低下しやすくなる。また、ノズル近傍のインクが乾燥することによる目詰まりが生じやすくなるという問題があるため、ノズルの小径化には限界があった。
【0004】
このため、圧電素子を駆動するための駆動信号を工夫することにより、インク滴を吐出する際のメニスカスの挙動を制御して、ノズルのサイズを変えることなくインク滴の微小化を図る技術が提案されている。例えば、特許文献1に開示されているプリンターでは、圧力発生室を予備的に膨張させた状態から収縮させることでノズルのメニスカスの中央領域を盛り上げる収縮工程と、圧力発生室を再度膨張させて、メニスカスの中央領域の外縁部を引き込ませる膨張工程と、を経て、メニスカスの中央領域の微小部分のインクを、極めて微小なインク滴として吐出させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3275965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来家庭などで使用されていたインクジェットプリンターにおけるインク等の液体よりも粘度の高い液体(以下、高粘度液体ともいう。)を用いた場合、上記膨張工程において急激に圧力発生室側に引き込むと、メニスカス中央領域の盛り上がった部分が必要以上に長くなってしまい、この部分がノズルから吐出された際にインクの後端部が尾のように伸びる現象(尾曳)がより顕著になる傾向にある。そして、この尾の部分がインク滴本体から分離して飛翔し、着弾対象物において正規の位置(本来目標とする着弾位置)に着弾しない虞があった。例えば、インクジェットプリンターでは、尾の部分がミストになって正規の位置からずれて着弾してドットが分離し、これにより、画質の劣化が生じるという問題があった。特に、高粘度液体では、尾の部分が幾つにも分離することにより、これらの複数に分離した部分(サテライトインク滴或いはミスト)が画質を著しく低下させる原因となっていた。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高粘度液体を吐出する場合に液滴の微小化を図ると共にミスト等の発生を抑えてドットの分離を防止することが可能な液体吐出装置、及び、液体吐出装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、ノズル、当該ノズルに連通する圧力発生室、及び、当該圧力発生室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生素子を有し、当該圧力発生素子の作動によってノズルから液体を吐出可能な液体吐出ヘッドと、
圧力発生素子を駆動してノズルから液体を吐出させる吐出駆動パルスを含む駆動信号を繰り返し発生する駆動信号発生手段と、
を備える液体吐出装置であって、
前記吐出駆動パルスは、圧力発生室を膨張させてメニスカスを圧力発生室側に引き込む第1の圧力発生室膨張要素と、当該第1の圧力発生室膨張要素によって膨張された圧力発生室を収縮させてメニスカスを吐出側に押し出す圧力発生室収縮要素と、当該圧力発生室収縮要素によって収縮された圧力発生室を膨張させてメニスカスを圧力発生室側に引き込む第2の圧力発生室膨張要素と、を含むパルス波形であり、
前記第2の圧力発生室膨張要素は、前記圧力発生室収縮要素によって収縮された圧力発生室を第1中間膨張容積まで膨張させてメニスカスを圧力発生室側に引き込む第1の引き込み要素と、圧力発生室の第1中間膨張容積を一定時間維持する中間維持要素と、第1中間膨張容積から第2中間膨張容積まで膨張させてメニスカスをさらに引き込む第2の引き込み要素とからなることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、粘度が比較的高い液体(高粘度液体)を吐出する際に、吐出された液体の後端部が尾のように伸びる現象を抑制することができ、可及的に球形に近い形状の液体を吐出させることができる。これにより、着弾対象物上で液体が複数に分離して着弾することを防止することができる。即ち、圧力発生室収縮要素によってメニスカスが吐出側に押し出されてメニスカス中央部が盛り上がった状態で第1の引き込み要素により圧力発生室が膨張されることで、吐出側に盛り上がったメニスカス中央部(液柱部)の周囲が急激に引き込まれるので、液柱部を小さくすることができる。その後、一定の時間を置いてから第2の引き込み要素により圧力発生室を再膨張させることにより、第1の引き込み要素による液柱部の周囲部の引き込み過ぎを抑制しつつ、第2の引き込み要素によって液柱部の途中を分断させることができる。これにより、分離された液柱部、即ち、液滴の微小化を図りつつ、当該液滴の後端部が尾のように伸びる現象、即ち、尾曳を抑制することができる。これにより、液滴の微小化を図ることができると共に、ミスト等の発生を抑えてドットの分離を防止することが可能となる。
【0010】
上記構成において、前記第1の引き込み要素によるメニスカスの引き込みの後、メニスカス中央部に液柱部が形成される途中で、第2の引き込み要素が前記圧力発生素子に印加されるように前記中間維持要素の発生時間を設定する構成を採用することが望ましい。
また、この構成において、前記中間維持要素の発生時間が、前記圧力発生室内の液体の固有振動周期Tcの1/2以下であり、第2の引き込み要素の発生時間がTcの1/2以下である構成を採用することが望ましい。
【0011】
この構成によれば、より適切なタイミングで第2の引き込み要素が圧力発生素子に印加されるので、より効果的に尾の成長を抑えることができる。
【0012】
また、本発明は、ノズル、当該ノズルに連通する圧力発生室、及び、当該圧力発生室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生素子を有し、当該圧力発生素子の作動によってノズルから液体を吐出可能な液体吐出ヘッドと、圧力発生素子を駆動してノズルから液体を吐出させる吐出駆動パルスを複数含む駆動信号を繰り返し発生する駆動信号発生手段と、を備える液体吐出装置の制御方法であって、
前記吐出駆動パルスを前記圧力発生素子に印加することによる吐出動作は、前記圧力発生室を膨張させてメニスカスを圧力発生室側に引き込む第1の圧力発生室膨張工程と、前記圧力発生室を収縮させてメニスカスを吐出側に押し出す圧力発生室収縮工程と、前記圧力発生室を膨張させてメニスカスを圧力発生室側に引き込む第2の圧力発生室膨張工程と、を含み、
前記第2の圧力発生室膨張工程は、前記第1の圧力発生室膨張工程で収縮された圧力発生室を第1中間膨張容積まで膨張させてメニスカスを圧力発生室側に引き込む第1の引き込み工程と、圧力発生室の第1中間膨張容積を一定時間維持する中間維持工程と、第1中間膨張容積から第2中間膨張容積まで膨張させてメニスカスをさらに引き込む第2の引き込み工程とを含むことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、粘度が比較的高い液体(高粘度液体)を吐出する際に、吐出された液体の後端部が尾のように伸びる現象を抑制することができ、可及的に球形に近い形状の液体を吐出させることができる。これにより、着弾対象物上で液体が複数に分離して着弾することを防止することができる。即ち、圧力発生室収縮要素によってメニスカスが吐出側に押し出されてメニスカス中央部が盛り上がった状態で第1の引き込み要素により圧力発生室が膨張されることで、吐出側に盛り上がったメニスカス中央部(液柱部)の周囲が急激に引き込まれるので、液柱部を小さくすることができる。その後、一定の時間を置いてから第2の引き込み要素により圧力発生室を再膨張させることにより、第1の引き込み要素による液柱部の周囲部の引き込み過ぎを抑制しつつ、第2の引き込み要素によって液柱部の途中を分断させることができる。これにより、分離された液柱部、即ち、液滴の微小化を図りつつ、当該液滴の後端部が尾のように伸びる現象、即ち、尾曳を抑制することができる。これにより、液滴の微小化を図ることができると共に、ミスト等の発生を抑えてドットの分離を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】プリンターの電気的な構成を説明するブロック図である。
【図2】記録ヘッドの構成を説明する要部断面図である。
【図3】振動子ユニットの構成を説明する斜視図である。
【図4】吐出駆動パルスの構成を説明する波形図である。
【図5】(a)〜(e)は、インク滴を吐出する際のメニスカスの動きを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体吐出装置として、インクジェット式記録装置(以下、プリンター)を例に挙げて説明する。
【0016】
図1はプリンターの電気的な構成を示すブロック図である。このプリンターは、プリンターコントローラー1とプリントエンジン2とで概略構成されている。プリンターコントローラー1は、ホストコンピューター等の外部装置との間でデータの授受を行う外部インターフェース(外部I/F)3と、各種データ等を記憶するRAM4と、各種データ処理のための制御ルーチン等を記憶したROM5と、各部の制御を行う制御部6と、クロック信号を発生する発振回路7と、記録ヘッド10へ供給する駆動信号を発生する駆動信号発生回路8と、ドットパターンデータや駆動信号等を記録ヘッド10に出力するための内部インターフェース(内部I/F)9とを備えている。
【0017】
制御部6は、各部の制御を行うほか、外部装置から外部I/F3を通じて受信した印刷データを、ドットパターンデータに変換し、このドットパターンデータを内部I/F9を通じて記録ヘッド10側に出力する。このドットパターンデータは、階調データをデコード(翻訳)することにより得られる印字データによって構成してある。また、制御部6は、発振回路7からのクロック信号に基づいて記録ヘッド10に対してラッチ信号やチャンネル信号等を供給する。これらのラッチ信号やチャンネル信号に含まれるラッチパルスやチャンネルパルスは、駆動信号を構成する各パルスの供給タイミングを規定する。
【0018】
駆動信号発生回路8は、制御部6によって制御され、圧電振動子20を駆動するための駆動信号を発生する。本実施形態における駆動信号発生回路8は、インク滴(液滴の一種)を吐出して記録紙(着弾対象物の一種)上にドットを形成するための吐出駆動パルスや、ノズル37(図2参照)に露出したインク(液体の一種)の自由表面、即ち、メニスカスを微振動させてインクを攪拌するための微振動パルス等を一記録周期内に含む駆動信号COMを発生するように構成されている。
【0019】
次に、プリントエンジン2側の構成について説明する。プリントエンジン2は、記録ヘッド10と、キャリッジ移動機構12と、紙送り機13と、リニアーエンコーダー14とから構成されている。記録ヘッド10は、シフトレジスター(SR)15、ラッチ16、デコーダー17、レベルシフター(LS)18、スイッチ19、及び圧電振動子20を備えている。プリンターコントローラー1からのドットパターンデータSIは、発振回路7からのクロック信号CKに同期して、シフトレジスター15にシリアル伝送される。このドットパターンデータは、2ビットのデータであり、例えば、非記録(微振動)、小ドット、中ドット、大ドットからなる4階調の記録階調(吐出階調)を表す階調情報によって構成されている。具体的には、非記録は階調情報「00」、小ドットは階調情報「01」、中ドットが階調情報「10」、大ドットが階調情報「11」と表される。
【0020】
シフトレジスター15には、ラッチ16が電気的に接続されており、プリンターコントローラー1からのラッチ信号(LAT)がラッチ16に入力されると、シフトレジスター15のドットパターンデータをラッチする。このラッチ16にラッチされたドットパターンデータは、デコーダー17に入力される。このデコーダー17は、2ビットのドットパターンデータを翻訳してパルス選択データを生成する。このパルス選択データは、駆動信号COMを構成する各パルスに各ビットを夫々対応させることで構成されている。そして、各ビットの内容、例えば、「0」,「1」に応じて圧電振動子20に対する吐出駆動パルスの供給又は非供給が選択される。
【0021】
そして、デコーダー17は、ラッチ信号(LAT)又はチャンネル信号(CH)の受信を契機にパルス選択データをレベルシフター18に出力する。この場合、パルス選択データは、上位ビットから順にレベルシフター18に入力される。このレベルシフター18は、電圧増幅器として機能し、パルス選択データが「1」の場合、スイッチ19を駆動できる電圧、例えば数十ボルト程度の電圧に昇圧された電気信号を出力する。レベルシフター18で昇圧された「1」のパルス選択データは、スイッチ19に供給される。このスイッチ19の入力側には、駆動信号発生回路8からの駆動信号COMが供給されており、スイッチ19の出力側には、圧電振動子20が接続されている。
【0022】
そして、パルス選択データは、スイッチ19の作動、つまり、駆動信号中の駆動パルスの圧電振動子20への供給を制御する。例えば、スイッチ19に入力されるパルス選択データが「1」である期間中は、スイッチ19が接続状態になって、対応する吐出駆動パルスが圧電振動子20に供給され、この吐出駆動パルスの波形に倣って圧電振動子20の電位レベルが変化する。一方、パルス選択データが「0」である期間中は、レベルシフター18からはスイッチ19を作動させるための電気信号が出力されない。このため、スイッチ19は切断状態となり、圧電振動子20へは吐出駆動パルスが供給されない。
【0023】
このような動作を行うデコーダー17、レベルシフター18、スイッチ19、制御部6、及び駆動信号発生回路8は、吐出制御手段として機能し、ドットパターンデータに基づき、駆動信号の中から必要な吐出駆動パルスを選択して圧電振動子20に印加(供給)する。その結果、圧電振動子20が伸張又は収縮し、この圧電振動子20の伸縮に伴って圧力発生室35(図2参照)が膨張又は収縮することにより、ドットパターンデータを構成する階調情報に応じた量のインク滴がノズルから吐出される。
【0024】
図2は、上記記録ヘッド10(液体吐出ヘッドの一種)の構成を説明する要部断面図である。この記録ヘッド10は、ケース23と、このケース23内に収納される振動子ユニット24と、ケース23の底面(先端面)に接合される流路ユニット25等を備えている。上記のケース23は、例えば、エポキシ系樹脂により作製され、その内部には振動子ユニット24を収納するための収納空部26が形成されている。振動子ユニット24は、圧力発生素子の一種として機能する圧電振動子20と、この圧電振動子20が接合される固定板28と、圧電振動子20に駆動信号等を供給するためのフレキシブルケーブル29とを備えている。図3に示すように、圧電振動子20は、圧電体層と電極層とを交互に積層した圧電板を櫛歯状に切り分けることで作製された積層型であって、積層方向(電界方向)に直交する方向に伸縮可能(電界横効果型)な縦振動モードの圧電振動子である。
【0025】
流路ユニット25は、流路形成基板30の一方の面にノズルプレート31を、流路形成基板30の他方の面に振動板32をそれぞれ接合して構成されている。この流路ユニット25には、リザーバー33(共通液体室)と、インク供給口34と、圧力発生室35と、ノズル連通口36と、ノズル37とを設けている。そして、インク供給口34から圧力発生室35及びノズル連通口36を経てノズル37に至る一連のインク流路が、各ノズル37に対応して形成されている。
【0026】
上記ノズルプレート31は、ドット形成密度に対応したピッチ(例えば360dpi)で複数のノズル37が列状に穿設されたステンレス等の金属製の薄いプレートである。このノズルプレート31には、ノズル37を列設してノズル列(ノズル群)が複数設けられており、1つのノズル列は、例えば360個のノズル37によって構成される。
【0027】
上記振動板32は、支持板38の表面に弾性体膜39を積層した二重構造である。本実施形態では、金属板の一種であるステンレス板を支持板38とし、この支持板38の表面に樹脂フィルムを弾性体膜39としてラミネートした複合板材を用いて振動板32を作製している。この振動板32には、圧力発生室35の容積を変化させるダイヤフラム部40が設けられている。また、この振動板32には、リザーバー33の一部を封止するコンプライアンス部41が設けられている。
【0028】
上記のダイヤフラム部40は、エッチング加工等によって支持板38を部分的に除去することで作製される。即ち、このダイヤフラム部40は、圧電振動子20の自由端部の先端面が接合される島部42と、この島部42を囲う薄肉弾性部43とからなる。上記のコンプライアンス部41は、リザーバー33の開口面に対向する領域の支持板38を、ダイヤフラム部40と同様にエッチング加工等によって除去することにより作製され、リザーバー33に貯留された液体の圧力変動を吸収するダンパーとして機能する。
【0029】
そして、上記の島部42には圧電振動子20の先端面が接合されているので、この圧電振動子20の自由端部を伸縮させることで圧力発生室35の容積を変動させることができる。この容積変動に伴って圧力発生室35内のインクに圧力変動が生じる。そして、記録ヘッド10は、この圧力変動を利用してノズル37からインク滴を吐出させるようになっている。
【0030】
図4は、上記構成の駆動信号発生回路8が発生する駆動信号COMに含まれる吐出駆動パルスDPの構成を説明する波形図である。例示した吐出駆動パルスDPは、本実施形態におけるプリンターにおいて吐出可能なインク滴のうち最もサイズの小さいインク滴を吐出するための吐出駆動パルス(小ドット吐出駆動パルス)である。この吐出駆動パルスDPは、基準電位VLから第1膨張電位VH1まで電位を上昇させて圧力発生室35を基準容積から最大膨張容積まで膨張させる第1の圧力発生室膨張要素p1と、圧力発生室35の膨張状態を一定時間維持する、第1膨張電位VH1で一定な第1ホールド要素p2と、第1膨張電位VH1から収縮電位VL2まで一定勾配で電位を降下させて圧力発生室35を収縮容積まで収縮させる第1収縮要素p3(圧力発生室収縮要素)と、圧力発生室35の収縮状態を維持する収縮電位VL2で一定な第2ホールド要素p4と、収縮電位VL2から第2膨張電位VH2まで電位を上昇させて圧力発生室35を膨張させる第2の圧力発生室膨張要素p5と、圧力発生室35の膨張状態を一定時間維持する第2膨張電位VH2で一定な第3ホールド要素p6と、第2膨張電位VH2から基準電位VLまで一定勾配で電位を降下させて圧力発生室35を収縮させて基準容積まで復帰させる第2収縮要素p7と、を含んで構成されている。
【0031】
ここで、この吐出駆動パルスDPにおける第2の圧力発生室膨張要素p5は、第1の引き込み要素p5aと、中間維持要素p5bと、第2の引き込み要素p5cと、から構成されている点に特徴を有している。第1の引き込み要素p5aは、収縮電位VL2から第1中間電位VMまで電位を上昇させて圧力発生室35を収縮容積から第1中間膨張容積まで膨張させる波形要素である。中間維持要素p5bは、第1中間電位VMで一定な波形要素であり、圧力発生室35の第1中間膨張容積状態を一定時間維持する。第2の引き込み要素p5cは、第1中間電位VMから第2膨張電位VH2(第2中間電位)まで電位を上昇させて圧力発生室35を第1中間膨張容積から第2中間膨張容積まで膨張させる波形要素である。なお、基準電位VLから第1膨張電位VH1までの電位差Vd1、基準電位VLから第1中間電位VMまでの電位差Vd2、及び、基準電位VLから第2膨張電位VH2(第2中間電位)までの電位差Vd3の大きさに関し、Vd1>Vd3>Vd2となっている。即ち、最大膨張容積Cmx、第1中間膨張容積C1、及び、第2中間膨張容積C2に関し、Cmx>C2>C1となっている。また、基準電位VLは、収縮電位VL2から第1膨張電位VH1までの間の値を採ることもできる。
【0032】
上記吐出駆動パルスDPが圧電振動子20に印加されると次のように作用する。まず、第1の圧力発生室膨張要素p1により圧電振動子20が収縮して、基準電位VLに対応する最小容積から最大膨張容積までインクが吐出されない程度に圧力発生室35が膨張する(第1の圧力発生室膨張工程)。これにより、図5(a)に示すように、メニスカスが圧力発生室35側に大きく引き込まれる。なお、図における矢印はメニスカスの移動方向を示す。この圧力発生室35の膨張状態は、第1ホールド要素p2の供給期間中に亘って維持される。その後、第1収縮要素p3が圧電振動子20に印加されることにより圧電振動子20が急激に伸長して圧力発生室35の容積が最大膨張容積から収縮電位VL2に対応する収縮容積まで収縮する(圧力発生室収縮工程)。この圧力発生室35の急激な収縮によって圧力発生室35内のインクが加圧され、これにより、図5(b)に示すように、圧力変動に追従し易いメニスカスの中心部分が吐出側に押し出されて柱状に盛り上がる(以下、この部分を液柱部という。)。そして、圧力発生室35の収縮状態は、第2ホールド要素p4の供給期間に亘って維持される。
【0033】
その後、第2の圧力発生室膨張要素p5によって圧力発生室35が再膨張される(第2の圧力発生室膨張工程)。この工程では、まず、第1の引き込み要素p5aが圧電振動子20に印加され、これにより、圧電振動子20が収縮して圧力発生室35が収縮容積から中間電位VMに対応する第1中間膨張容積まで膨張する(第1の引き込み工程)。これにより、図5(c)に示すように、メニスカスにおける液柱部の周囲が、圧力発生室35側に引き込まれる。一方、液柱部は、圧力発生室収縮工程で吐出側に押し出されたときの慣性力により吐出側に移動を続ける。続いて、中間維持要素p5bが圧電振動子20に印加されて、第1中間膨張容積が一定時間維持される。この間に、液柱部が吐出側にさらに伸びる。この液柱部の成長の途中で、第2の引き込み要素p5cが圧電振動子20に印加され、これにより、圧力発生室35が第1中間膨張容積から第2中間膨張容積まで膨張する(第2の引き込み工程)。これにより、図5(d)に示すように、メニスカスにおいて液柱部の周囲が、圧力発生室35側に再度引き込まれる。これにより、液柱部は、途中で分断され、図5(e)に示すように、分離された部分がノズル37の内径よりも小さい径の微小な数plのインク滴としてノズル37から吐出される。このときの圧力発生室35の膨張状態は、第3ホールド要素p6の供給期間中に亘って維持される。この第2の圧力発生室膨張工程では、収縮容積から第2中間膨張容積まで一気に膨張させることなく、第1の引き込み工程において第1中間膨張容積まで膨張させた後、僅かな時間を置いてから第2の引き込み工程において第1中間膨張容積から第2中間膨張容積まで膨張させるので、第1の引き込み工程におけるメニスカスにおける液柱部の周囲部の引き込み過ぎを抑制しつつ第2の引き込み工程において液柱部の途中を分断させることができる。これにより、分離された液柱、即ち、インク滴の微小化を図りつつ、当該インク滴の後端部が尾のように伸びる現象、即ち、尾曳を抑制することができる。
【0034】
なお、本実施形態において、中間維持要素p5bの発生時間t1、即ち、圧力発生室35の第1中間膨張容積を維持する時間t1、及び、第2の引き込み要素の発生時間t2は、圧力発生室35内のインクの固有振動周期Tcの1/2以下、に設定している。これにより、液柱部が吐出側に成長している途中で圧力発生室35が急峻に膨張するため、液柱部の後端部の余分なインクを圧力発生室35側により速やかに引き込むことができ、インク滴の尾曳をより効果的に抑制することができる。
【0035】
なお、圧力発生室35内におけるインクの振動周期Tcは、例えば特許文献2003−11352号公報に示されるように、次式(1)で表すことができる。
Tc=2π√[〔(Mn×Ms)/(Mn+Ms)〕×Cc]・・・(1)
但し、式(1)において、Mnはノズル37におけるイナータンス、Msはインク供給口34におけるイナータンス、Ccは圧力発生室35のコンプライアンス(単位圧力あたりの容積変化、柔らかさの度合いを示す。)である。上記式(1)において、イナータンスMとは、インク流路におけるインクの移動し易さを示し、単位断面積あたりのインクの質量である。そして、インクの密度をρ、流路のインク流れ方向と直交する面の断面積をS、流路の長さをLとしたとき、イナータンスMは次式(2)で近似して表すことができる。
イナータンスM=(密度ρ×長さL)/断面積S ・・・ (2)
また、Tcは、上記式(1)に限らず、圧力発生室35が有している振動周期であればよい。
【0036】
そして、第3ホールド要素p6の後に続いて、インク滴の吐出による反動でメニスカスが圧力発生室35側に引き込まれるタイミングで、第2収縮要素p7が圧電振動子20に印加されて圧電振動子20が伸張すると、圧力発生室35が第2中間膨張容積から基準容積まで収縮する(第2の収縮工程)。これにより、メニスカスが圧力発生室側に引き込まれることを抑えて、メニスカスの残留振動が抑制される。
【0037】
このように、第2の圧力発生室膨張工程では、第1の引き込み工程において第1中間膨張容積まで膨張させた後、僅かな時間を置いてから第2の引き込み工程において第1中間膨張容積から第2中間膨張容積まで膨張させるので、インク滴の微小化を図りつつ、当該インク滴の尾曳を抑制することができる。その結果、従来よりも高粘度のインクを用いる場合においても、ミスト等の発生が防止され、ドットの分離を抑制することができる。
【0038】
ところで、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。
【0039】
上記実施形態では、本発明における吐出駆動パルスの一例として、図4に示す吐出駆動パルスDPを挙げて説明したが、吐出駆動パルスの形状はこれには限られない。要は、少なくとも、圧力発生室を予備的に膨張させるための第1の圧力発生室膨張要素p1と、膨張した圧力発生室を収縮させてメニスカスを押し出すための第1収縮要素p3(圧力発生室収縮要素)と、その後圧力発生室を膨張させる第2の圧力発生室膨張要素p5とを含み、第2の圧力発生室膨張要素が、第1の引き込み要素p5aと、中間維持要素p5bと、第2の引き込み要素p5cと、を含む構成の吐出駆動パルスであれば、任意の波形のものを用いることができる。
また、上記各実施形態では、第2の圧力発生室膨張要素p5が2つの引き込み要素を含む構成、即ち、第2の圧力発生室膨張工程が2つの引き込み工程を含む構成を例示したが、これには限られず、例えば、第2の圧力発生室膨張要素p5が3つの引き込み要素を含む構成、即ち、第2の圧力発生室膨張工程が3つの引き込み工程を含む構成を採用することもできる。
【0040】
また、上記各実施形態では、圧力発生素子として、所謂縦振動型の圧電振動子20を例示したが、これには限られず、例えば、所謂撓み振動型の圧電振動子を採用することも可能である。この場合、例示した駆動信号に関し、電位の変化方向、つまり上下が反転した波形となる。
【0041】
そして、本発明は、複数の駆動信号を用いて吐出制御が可能な液体吐出装置であれば、プリンターに限らず、プロッター、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置や、記録装置以外の液体吐出装置、例えば、ディスプレー製造装置、電極製造装置、チップ製造装置等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1…プリンターコントローラー,2…プリントエンジン,6…制御部,8…駆動信号発生回路,10…記録ヘッド,20…圧電振動子,24…振動子ユニット,35…圧力発生室,37…ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル、当該ノズルに連通する圧力発生室、及び、当該圧力発生室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生素子を有し、当該圧力発生素子の作動によってノズルから液体を吐出可能な液体吐出ヘッドと、
圧力発生素子を駆動してノズルから液体を吐出させる吐出駆動パルスを含む駆動信号を繰り返し発生する駆動信号発生手段と、
を備える液体吐出装置であって、
前記吐出駆動パルスは、圧力発生室を膨張させてメニスカスを圧力発生室側に引き込む第1の圧力発生室膨張要素と、当該第1の圧力発生室膨張要素によって膨張された圧力発生室を収縮させてメニスカスを吐出側に押し出す圧力発生室収縮要素と、当該圧力発生室収縮要素によって収縮された圧力発生室を膨張させてメニスカスを圧力発生室側に引き込む第2の圧力発生室膨張要素と、を含むパルス波形であり、
前記第2の圧力発生室膨張要素は、前記圧力発生室収縮要素によって収縮された圧力発生室を第1中間膨張容積まで膨張させてメニスカスを圧力発生室側に引き込む第1の引き込み要素と、圧力発生室の第1中間膨張容積を一定時間維持する中間維持要素と、第1中間膨張容積から第2中間膨張容積まで膨張させてメニスカスをさらに引き込む第2の引き込み要素とからなることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記第1の引き込み要素によるメニスカスの引き込みの後、メニスカス中央部に液柱が形成される途中で、第2の引き込み要素が前記圧力発生素子に印加されるように前記中間維持要素の発生時間が設定されたことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記中間維持要素の発生時間は、前記圧力発生室内の液体の固有振動周期Tcの1/2以下であり、第2の引き込み要素の発生時間はTcの1/2以下であることを特徴とする請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
ノズル、当該ノズルに連通する圧力発生室、及び、当該圧力発生室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生素子を有し、当該圧力発生素子の作動によってノズルから液体を吐出可能な液体吐出ヘッドと、圧力発生素子を駆動してノズルから液体を吐出させる吐出駆動パルスを複数含む駆動信号を繰り返し発生する駆動信号発生手段と、を備える液体吐出装置の制御方法であって、
前記吐出駆動パルスを前記圧力発生素子に印加することによる吐出動作は、前記圧力発生室を膨張させてメニスカスを圧力発生室側に引き込む第1の圧力発生室膨張工程と、前記圧力発生室を収縮させてメニスカスを吐出側に押し出す圧力発生室収縮工程と、前記圧力発生室を膨張させてメニスカスを圧力発生室側に引き込む第2の圧力発生室膨張工程と、を含み、
前記第2の圧力発生室膨張工程は、前記第1の圧力発生室膨張工程で収縮された圧力発生室を第1中間膨張容積まで膨張させてメニスカスを圧力発生室側に引き込む第1の引き込み工程と、圧力発生室の第1中間膨張容積を一定時間維持する中間維持工程と、第1中間膨張容積から第2中間膨張容積まで膨張させてメニスカスをさらに引き込む第2の引き込み工程とを含むことを特徴とする液体吐出装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−179585(P2010−179585A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25709(P2009−25709)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】