説明

液体吐出装置

【課題】ノズル内の液体が増粘し難い液体吐出装置を実現する。
【解決手段】筐体内に設けられ、液体を吐出するためのノズルと、前記ノズル内の前記液体の増粘を抑えるために前記筐体内の温度を低下させるための温度低下機構と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出するためのノズルを有する液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を吐出するノズルを有する液体吐出装置としては、液体としてのインクを吐出して媒体に画像を形成するインクジェットプリンタが知られている。インクジェットプリンタは、複数のノズルを有し、例えば入力された印刷信号に基づいて所定の位置に配置されたノズルから適宜インクを吐出することにより画像を形成する(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−225484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、インクジェットプリンタが長時間または長期間、印刷しない状態で放置されると、ノズル内で外気に触れているインクの溶媒が蒸発し粘性が高くなり、次に印刷しようとした際にインクを吐出しようとしてもノズルからインクが適切に吐出されない畏れがあるという課題がある。
【0004】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ノズル内の液体が増粘し難い液体吐出装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
主たる発明は、筐体内に設けられ、液体を吐出するためのノズルと、前記ノズル内の前記液体の増粘を抑えるために前記筐体内の温度を低下させるための温度低下機構と、を有することを特徴とする液体吐出装置である。
本発明の他の特徴は、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本明細書の記載、及び添付図面の記載により、少なくとも次のことが明らかにされる。
【0007】
筐体内に設けられ、液体を吐出するためのノズルと、前記ノズル内の前記液体の増粘を抑えるために前記筐体内の温度を低下させるための温度低下機構と、を有することを特徴とする液体吐出装置である。
このような液体吐出装置によれば、ノズル内の液体の増粘を抑えるために筐体内の温度を低下させるための温度低下機構を有しているので、筐体内の温度が低下されることにより筐体内の空気に含まれる水蒸気が飽和状態に近づく。このため、筐体内の空気に晒されているノズル内の液体の水分が、筐体内の空気によって吸収され難くなり、もって、筐体内に設けられたノズル内の液体の増粘を抑えることが可能である。すなわち、筐体内に配置されているだけで、ノズルにキャップ等の覆いをすることなく、ノズル内の液体の増粘を抑えることが可能である。
【0008】
かかる液体吐出装置において、前記筐体内に前記ノズルを覆う覆い部材を有し、前記温度低下機構は、前記ノズルが前記覆い部材に覆われて形成される密閉空間内の温度を低下させることが望ましい。
このような液体吐出装置によれば、温度低下機構は、ノズルが覆い部材に覆われて形成される密閉空間内の温度を低下させるので、限られた密閉空間のみの温度を低下させるだけで効率良くノズル内の液体の増粘を抑えることが可能である。
【0009】
かかる液体吐出装置において、前記ノズルは、液体を吐出する液体吐出領域と液体を吐出しない液体非吐出領域とを移動可能に設けられ、前記液体非吐出領域に移動した際に前記覆い部材により覆われることが望ましい。
このような液体吐出装置によれば、ノズルは液体非吐出領域に移動した際に覆い部材により覆われるので、液体吐出領域においてノズルから液体を吐出する際には覆い部材が障害となることはない。
【0010】
かかる液体吐出装置において、前記筐体内に前記ノズルが収容される区画された密閉空間を有し、前記温度低下機構は、前記密閉空間内の温度を低下させることが望ましい。
このような液体吐出装置によれば、温度低下機構は、ノズルが収容される区画された密閉空間内の温度を低下させるので、限られた密閉空間のみの温度を低下させるだけで効率良くノズル内の液体の増粘を抑えることが可能である。
【0011】
かかる液体吐出装置において、前記筐体は、前記ノズルが液体を吐出しない際に密閉されることが望ましい。
このような液体吐出装置によれば、液体を吐出しない際にはノズル内の液体が蒸発しやすいが、液体を吐出しない際に、温度低下機構にて筐体内の温度を低下させることにより、筐体内に設けられているノズル内の液体の増粘を抑えることが可能である。
【0012】
かかる液体吐出装置において、前記液体は、前記筐体内を通過する媒体に向かって吐出され、前記筐体が密閉される際には、前記媒体の前記筐体内への入口及び前記筐体からの出口が閉塞されることが望ましい。
このような液体吐出装置によれば、筐体内を通過する媒体に向かって液体が吐出される場合には、液体吐出装置は媒体の筐体内への入口及び筐体からの出口が外部と連通することになる。そこで、筐体が密閉される際には、媒体の筐体内への入口及び筐体からの出口を閉塞することとしたので、筐体内を通過する媒体に向かって液体を吐出する液体吐出装置であっても、筐体内を密閉性が高い密閉空間とすることが可能であり、もって効率よく筐体内の温度を低下させることが可能である。
【0013】
かかる液体吐出装置において、前記温度低下機構は、前記ノズルから液体が吐出される際に温度を低下させることが望ましい。
このような液体吐出装置によれば、ノズルから液体が吐出される際に温度が低下されるので、液体の吐出中及び液体を吐出し終わった直後であっても筐体内は温度が低い状態に保たれる。このため、ノズル内の液体がより増粘し難い液体吐出装置を提供することが可能である。
【0014】
かかる液体吐出装置において、前記ノズルから吐出される液体はインクであり、前記インクが媒体に吐出されることにより画像が形成されることが望ましい。
このような液体吐出装置によれば、ノズル内のインクの増粘を抑えるために、筐体内の温度を低下させるための温度低下機構を有しているので、筐体内の温度が低下されることにより筐体内の空気に含まれる水蒸気は飽和状態に近づく。このため、筐体内の空気に晒されているノズル内のインクの水分が、筐体内の空気によって吸収されにくくなり、もって、筐体内に設けられたノズル内のインクの増粘を抑えることが可能である。そして、印刷動作を実行していない場合はもちろんのこと、印刷中であっても筐体内の温度は低下されているので、印刷動作中にインクを吐出しないノズル内のインクの増粘を抑えることが可能である。よって、インクを吐出しないノズルを定期的に印刷領域から待避させて強制的液体を吐出させるフラッシング等の動作を行わないので、インクの浪費を抑えるとともに印刷に費やす時間を短縮することが可能である。
【0015】
===プリンタの構成===
<インクジェットプリンタの構成>
図1Aは、本実施形態に係るプリンタの排紙トレイを開いた状態を示す外観図である。図1Bは、本実施形態に係るプリンタの排紙トレイを閉じた状態を示す外観図である。図2は、本実施形態に係るプリンタの全体構成のブロック図である。図3Aは、本実施形態に係るプリンタの内部構成を説明するための概略図である。また、図3Bは、本実施形態に係るプリンタを説明するための概略断面図である。以下、本実施形態のプリンタの基本的な構成について説明する。
【0016】
本実施形態のプリンタ1は、筐体としてのカバー10内に搬送ユニット20、キャリッジユニット30、ヘッドユニット40、検出器群50、コントローラ60、及び温度低下機構としての冷却ユニット70を有する。外部装置であるコンピュータ110から印刷データを受信したプリンタ1は、コントローラ60によって各ユニット(搬送ユニット20、キャリッジユニット30、ヘッドユニット40、冷却ユニット70)を制御する。コントローラ60は、コンピュータ110から受信した印刷データに基づいて、各ユニットを制御し、紙に画像を印刷する。プリンタ1内の状況は検出器群50によって監視されており、検出器群50は、検出結果をコントローラ60に出力する。コントローラ60は、検出器群50から出力された検出結果に基づいて、各ユニットを制御する。
【0017】
カバー10は、プリンタ1の外周のほぼ全体を形成するカバー本体10aと、プリンタ1の正面側に設けられ、印刷される媒体としての例えば紙Sが排出された際に載置される排紙トレイ10bと、給紙部にて紙Sの入口としての給紙口11となる開口を閉塞するためのシャッター10cとを有している。
【0018】
カバー本体10aは、複数のパーツが組み合わされて構成されているが、各パーツの接合部にはシール材が設けられて気密に接合されている。
【0019】
排紙トレイ10bは、プリンタ1の正面側下部にて回動自在に設けられており、紙Sが排出される紙Sの出口としての排紙口12を開閉自在に構成されている。すなわち、排紙トレイ10bの上端側がカバー本体10aから離れる方向に排紙トレイ10bを回動すると、排紙トレイ10bはプリンタ1の正面側下部にてほぼ平坦な姿勢をなして排出された紙Sが載置されるトレイとして機能し、排紙トレイ10bをカバー本体10a側に回動させてカバー本体10aに接触させると、排紙口12を閉塞するように構成されている。カバー本体10aと排紙トレイ10bとの接合部にもシール材が設けられており、排紙トレイ10bを閉じた状態では、カバー本体10aと排紙トレイ10bとが気密に当接される。
【0020】
シャッター10cは、図3Bに示すように、給紙ローラ21より内部側に設けられたカバー本体10aの壁部10eとカバー本体10aに一体に設けられた給紙トレイ10dとの間の給紙口11を閉塞可能に上下にスライドすべく設けられている。シャッター10cが降下されてシャッター10cの下端が給紙トレイ10dに当接されると、壁部10eと給紙トレイ10dとの間の給紙口11も気密に閉塞されるように構成されている。
【0021】
搬送ユニット20は、媒体(例えば、紙Sなど)を所定の方向(以下、搬送方向という)に搬送させるためのものである。この搬送ユニット20は、給紙ローラ21と、搬送モータ22(PFモータとも言う)と、搬送ローラ23と、プラテン24と、排紙ローラ25とを有する。給紙ローラ21は、紙挿入口に挿入された紙をプリンタ1内に給紙するためのローラである。搬送ローラ23は、給紙ローラ21によって給紙された紙Sを印刷可能な領域まで搬送するローラであり、搬送モータ22によって駆動される。プラテン24は、印刷中の紙Sを支持する。排紙ローラ25は、紙Sをプリンタ1の外部に排出するローラであり、印刷可能な領域に対して搬送方向下流側に設けられている。
【0022】
キャリッジユニット30は、ヘッド41を所定の方向(以下、移動方向という)に移動させるためのものである。キャリッジユニット30は、キャリッジ31と、キャリッジモータ32(CRモータとも言う)とを有する。キャリッジ31は、駆動ベルト33により伝達されるキャリッジモータ32の動力により駆動シャフト34に沿って移動方向に往復移動可能である。また、キャリッジ31は、インクを収容するインクカートリッジを着脱可能に保持している。
【0023】
ヘッドユニット40は、紙Sにインクを吐出するためのものである。ヘッドユニット40は、複数のノズルを有するヘッド41を備える。このヘッド41はキャリッジ31に設けられているため、キャリッジ31が移動方向に移動すると、ヘッド41も移動方向に移動する。そして、ヘッド41が移動方向に移動中にインクを断続的に吐出することによって、移動方向に沿ったドットライン(ラスタライン)が紙に形成される。ここで、キャッリッジ31の移動可能な領域のうち、印刷するためにノズルからインクを吐出可能な領域をインク吐出領域といい、ホームポジションや待機位置などインクを吐出しない領域をインク非吐出領域という。
【0024】
検出器群50には、リニア式エンコーダ51、ロータリー式エンコーダ52、紙検出センサ53、および光学センサ54等が含まれる。リニア式エンコーダ51は、キャリッジ31の移動方向の位置を検出する。ロータリー式エンコーダ52は、搬送ローラ23の回転量を検出する。紙検出センサ53は、給紙中の紙の先端の位置を検出する。光学センサ54は、キャリッジ31に取付けられている発光部と受光部により、紙の有無を検出する。そして、光学センサ54は、キャリッジ31によって移動しながら紙の端部の位置を検出し、紙の幅を検出することができる。また、光学センサ54は、状況に応じて、紙の先端(搬送方向下流側の端部であり、上端ともいう)・後端(搬送方向上流側の端部であり、下端ともいう)も検出できる。
【0025】
コントローラ60は、プリンタ1の制御を行うための制御ユニット(制御部)である。コントローラ60は、インターフェース部61と、CPU62と、メモリ63と、ユニット制御回路64とを有する。インターフェース部61は、外部装置であるコンピュータ110とプリンタ1との間でデータの送受信を行う。CPU62は、プリンタ1全体の制御を行うための演算処理装置である。メモリ63は、CPU62のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものであり、RAM、EEPROM等の記憶素子を有する。CPU62は、メモリ63に格納されているプログラムに従って、ユニット制御回路64を介して各ユニットを制御する。
【0026】
冷却ユニット70は、圧縮機、凝縮器、膨張弁、蒸発器を有する所謂冷凍サイクルを実現する冷却装置であり、膨張弁及び蒸発器を有する冷却部71はカバー10内においてヘッド41が設けられている空間と同じ空間内に設けられており、圧縮機72及び凝縮器73はカバー10内においてヘッド41が設けられている空間と異なる空間、例えば、外部と連通されヘッド41が設けられた空間とは隔離された空間75に設けられている。このため、冷却ユニット70は、冷却部71が設けられている空間、すなわちカバー10内においてヘッド41が設けられている空間と同じ空間内を冷却する。
【0027】
<ノズルについて>
図4は、ヘッドの下面におけるノズルの配列を示す説明図である。ヘッド41の下面には、ブラックインクノズル群Kと、シアンインクノズル群Cと、マゼンタインクノズル群Mと、イエローインクノズル群Yが形成されている。各ノズル群は、各色のインクを吐出するための吐出口であるノズルを複数個(本実施形態では180個)備えている。
【0028】
各ノズル群の複数のノズルは、搬送方向に沿って、一定の間隔(ノズルピッチ:k・D)でそれぞれ整列している。ここで、Dは、搬送方向における最小のドットピッチ(つまり、紙Sに形成されるドットの最高解像度での間隔)である。また、kは、1以上の整数である。例えば、ノズルピッチが180dpi(1/180インチ)であって、搬送方向のドットピッチが720dpi(1/720インチ)である場合、k=4である。
【0029】
各ノズル群のノズルは、下流側のノズルほど小さい数の番号が付されている(♯1〜♯180)。つまり、ノズル♯1は、ノズル♯180よりも搬送方向の下流側に位置している。
各ノズルには、それぞれインクチャンバー(不図示)と、ピエゾ素子が設けられている。ピエゾ素子の駆動によってインクチャンバーが伸縮・膨張し、ノズルからインク滴が吐出される。
【0030】
<印刷動作について>
図5は、印刷時の処理のフロー図である。以下に説明される各処理は、プリンタ1が、接続されたコンピュータ110と、プリンタ1とによりメモリ内に記憶されたプログラムに従って、各ユニットを制御することにより実行される。このプログラムは、各処理を実行するためのコードを有する。
【0031】
アプリケーションプログラムが動作中のコンピュータ110が印刷命令を検出すると(S101)、プリンタドライバに画像データを出力すると、プリンタドライバは、アプリケーションプログラムから受け取った画像データを印刷する際の解像度に変換する解像度変換処理を実行する(S102)。
【0032】
次に、解像度変換処理後のRGB画像データの各RGB画素データを、CMYK色空間により表される多段階(例えば256段階)の階調値を有するデータに変換する色変換処理を実行する(S103)。
【0033】
そして、色変換処理後の多段階の階調値を有するCMYK画素データを、プリンタ1が表現可能な、少段階の階調値を有するCMYK画素データに変換するハーフトーン処理を実行する(S104)。
【0034】
次に、ハーフトーン処理されたCMYK画像データを、プリンタ1に転送すべきデータ順に変更するラスタライズ処理を実行する(S105)。ラスタライズ処理されたデータは、前述した印刷データとしてプリンタ1に出力される(S106)。プリンタ1は、入力された印刷データに基づいて、紙Sを搬送しつつ適宜タイミングにて所定のノズルからインクを吐出して紙Sに画像を形成する。このため、印刷状態であっても、常にすべてのノズルからインクが吐出されているわけではない。
【0035】
<プリンタ内の冷却>
従来のプリンタは、電源OFF時、また電源が投入されている状態であっても、ヘッドのノズルが設けられている部位をキャップにて覆うことによりノズル内のインクの粘性が高まること(増粘)を抑えていた。そしてキャップをしていても、ノズル内のインクが増粘してしまった際には、ノズル内のインクを強制的に吐出させたり、キャップにて覆われた状態にてノズル内のインクを吸引していた。このため、印刷以外の目的にてインクを消費しなければならない場合もあった。
【0036】
そこで本実施形態のプリンタ1は、カバー10内の空気を冷却する冷却ユニット70を備え、カバー10内の空気を冷却することによりヘッド41周辺の空気に含まれる水分量を飽和状態に近づけて、ノズル内のインクからの水分の蒸発を抑えることとした。このため、カバー10内は、ヘッド41に設けられている複数のノズルが常に露出して空気に晒されている状態であってもノズル内のインクが増粘し難い状態となる。
【0037】
本実施形態の冷却ユニット70は、例えば、電源が投入されると稼働してカバー10内を冷却し、電源が切られると冷却が停止するように構成されている。すなわち、電源が投入されている間は、印刷中、待機中にかかわらず常にカバー10内が冷却され、待機中などのノズルからインクが吐出されていないときはもちろんのこと、印刷中であってもカバー10内が冷却されている。このため、印刷中にインクを吐出しないノズルが存在しても、冷却ユニット70にてカバー10内が冷却されていることによりノズル内のインクの増粘が抑えられる。よって、印刷中もカバー10内は冷却されてノズル内のインクも増粘し難いので、印刷中にインクを吐出しないノズルが存在しても、印刷の途中で印刷動作を一旦停止し印刷領域の外側にヘッド41を移動させて、すべてのノズルからインクを吐出する、所謂フラッシングをする必要がない。このため、印刷に費やされる時間を短縮することが可能である。
【0038】
また、本実施形態のプリンタ1は、カバー本体10aを構成する複数のパーツの接合部、カバー本体10aと排紙トレイ10bとの接合部、壁部10e及び給紙トレイ10dとシャッター10cとの接合部にいずれもシール材が設けられており、排紙トレイ10bとシャッター10cとを閉じた状態では、カバー10内は気密に保たれる。このため、紙Sの出入口を有し紙Sが内部を通過するプリンタ1であっても、カバー10内を密閉空間とすることが可能である。そして、電源を切った後もカバー10内は密閉空間として維持されるのでカバー10内の冷却された空気は即座に温度が上昇することはなく、プリンタ1を使用しない場合であってもノズル内のインクが増粘することを抑えることが可能である。
【0039】
本実施形態においては、電源が投入されている間は、冷却ユニット70を稼働させてカバー10内を冷却する例について説明したが、印刷していない待機時のみ冷却したり、印刷時と待機時とで冷却ユニット70による冷却の設定温度を変更しても良い。
【0040】
また、図3においては、冷却ユニット70をキャリッジ31の移動領域の中で印刷範囲(紙の全幅にインクを吐出可能な移動領域:液体吐出領域)から外れた位置に配置したが、これに限らず、冷却ユニット70の配置はヘッド41周辺の空気を冷却できる位置であれば構わない。ここで、キャリッジ31の移動領域の中で液体吐出領域を除く領域が液体非吐出領域に相当する。
【0041】
図6は、プリンタの第1変形例を示す図である。
上記実施形態では、カバー10内全体を密閉空間とした例について説明したが、第1変形例のプリンタ2は、例えばカバー10内の一部を区画して密閉空間としてのヘッド収容部18を設け、印刷しない際にヘッド41をヘッド収容部18に収容して冷却ユニット70にてヘッド収容部18内を冷却することによりノズル周辺の空気を冷却しても良い。例えば図6に示すように、キャリッジモータ32に駆動されてヘッド41が移動可能な領域のうち、紙Sの搬送経路から外れた領域に、開閉可能なシャッター19を有し、シャッター19を閉じることにより、密閉されたヘッド収容部18が形成される。ヘッド収容部18は、カバー本体10aの内周面とカバー本体10aの下面から一体に垂設されて、ベースと連結された収容壁部18aと、収容壁部18aに沿ってスライドし開口を閉塞してヘッド収容部18を形成するシャッター19とによって区画される。図6では説明の便宜上、カバー本体10aの一部のみを示しているが、収容壁部18aはカバー本体10aと一体に構成されており、シャッター19は搬送方向に移動する。また、シャッター19と駆動ベルト33、駆動シャフト34との干渉部、及び、カバー本体との当接部には適宜なシール材が設けられており、シャッター19を閉じるとヘッド収容部18内は気密となるように構成されている。
【0042】
第1変形例のプリンタ2によれば、冷却ユニット70はノズルが設けられたヘッド41が収容される区画された密閉空間としてのヘッド収容部18内を冷却するので、カバー10内全体を冷却するより効率よくノズル周辺を冷却することが可能である。このヘッド収容部18には、印刷しない際にヘッド41が収容されるので、次の印刷までの間はヘッド収容部18に収容されているヘッド41のノズルが冷却ユニット70にて冷却されてノズル内のインクの増粘が抑えられている。このため、次の印刷を開始する場合には各ノズルから適切にインクを吐出させることが可能である。
【0043】
図7は、プリンタの第2変形例を説明するための図である。
第2変形例のプリンタ3には、印刷動作を行わない際に、プリンタ3内のヘッド41に設けられたノズルを覆うための覆い部材としてのヘッドキャップ35が設けられており、ヘッドキャップ35内には冷却ユニット70の冷却部71が設けられている。ヘッドキャップ35は、印刷時には降下してヘッド41から離れ、非印刷時には上昇してヘッド41に被せられる。このため、ヘッドキャップ35は、冷却部71とともに上下方向に移動可能に構成されている。
【0044】
ヘッドキャップ35は、気密性のあるキャップであり、印刷をしないときにヘッド41に被せてノズル内のインクの乾燥を抑える機能も有する。このため、ヘッドキャップ35は、キャリッジ31の待機位置、所謂ホームポジション側に、上下方向に移動可能に設けられている。そして、印刷しない際に上昇しホームポジション側に移動されたヘッド41に被せられて内部に密閉空間を形成し、印刷動作を行う際には、降下してヘッド41から離れた状態となる。
【0045】
また、ヘッド41にヘッドキャップ35が被せられると、ヘッドキャップ35とヘッド41とにて形成される密閉空間内にノズルが収容される。そして、ヘッドキャップ35内に設けられた冷却部71によりヘッド41とヘッドキャップ35とにて形成される密閉空間内が冷却される。このため、ヘッド41にヘッドキャップ35が被せられた状態では、密閉空間内の空気、すなわち、ヘッド41周辺の空気に含まれる水分量が飽和状態に近づけられて、ノズル内のインクからの水分の蒸発が抑えられることによりノズル内のインクの増粘が抑えられる。
【0046】
第2変形例のプリンタ3によれば、冷却ユニット70の冷却部71は、ヘッドキャップ35にて覆われたヘッド41とヘッドキャップ35とにて形成される密閉空間内の温度を低下させるので、限られた密閉空間のみの温度を下げるだけでノズル内のインクの増粘を効率よく抑えることが可能である。
【0047】
また、ノズルはインク非吐出領域に移動した際にヘッドキャップ35により覆われるので、インク吐出領域においてノズルから液体を吐出する際にヘッドキャップ35が障害となることはない。
【0048】
本実施形態では、ノズル内のインクの増粘を抑えるために、内部に冷却部71を備えたヘッドキャップ35を設けた例について説明したが、ヘッドキャップ35内と連通するパイプと、パイプを通してヘッドキャップ内の空気を排出するためのポンプとを備え、ノズルが詰まった際にノズル内のインクを吸引する機構を備えていても良い。
【0049】
上記実施形態では、紙Sの搬送方向に沿って配置された複数のノズルを有するヘッド41がキャリッジ31に搭載され、キャリッジ31を搬送方向と交差する移動方向に往復移動させつつノズルからインクを吐出することにより紙Sに画像を形成するプリンタ1を例に挙げて説明したが、これに限るものではない。例えば、紙Sの幅とほぼ同じ幅を有するヘッドを備え、ヘッドの幅方向に互いに間隔を隔てて複数のノズルを配置したノズル列を幅方向と交差する方向に複数列備えたヘッドを用いた所謂ラインプリンタであっても構わない。
【0050】
===その他の実施の形態===
上記の実施形態は、主としてプリンタについて記載されているが、その中には、液体吐出装置、液体吐出方法、印刷装置、印刷方法等の開示が含まれていることは言うまでもない。
また、一実施形態としてのプリンタを説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。
【0051】
<プリンタについて>
前記実施形態では、液体吐出装置をインクジェット式記録装置に具体化したが、この限りではなく、インク以外の他の液体(機能材料の粒子が分散されている液状体、ジェルのような流状体)を噴射したり吐出したりする液体吐出装置に具体化することもできる。例えば、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ及び面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散または溶解のかたちで含む液状体を吐出する液状体吐出装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を吐出する液体吐出装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を吐出する液体吐出装置であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を吐出する液体吐出装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に吐出する液体吐出装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を吐出する液体吐出装置、ジェルを吐出する流状体吐出装置であってもよい。そして、これらのうちいずれか一種の吐出装置に本発明を適用することができる。このような分野に本技術を適用しても、液体を対象物に向かって直接的に吐出(直描)することができるという特徴があるので、従来と比較して省材料、省工程、コストダウンを図ることができる。
【0052】
<液体について>
前述の実施形態は、プリンタを例に挙げて説明したので、染料インク又は顔料インクをノズルから吐出していた。しかし、ノズルから吐出する液体は、このようなインクに限られるものではない。例えば、金属材料、有機材料(特に高分子材料)、磁性材料、導電性材料、配線材料、成膜材料、電子インク、加工液、遺伝子溶液などを含む液体(水も含む)をノズルから吐出しても良い。このような液体を対象物に向かって直接的に吐出すれば、省材料、省工程、コストダウンを図ることができる。
【0053】
また、液体がインクの場合であっても、インク色は前述した実施形態のような、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロ(Y)、ブラック(K)の4色に限るものではない。例えばこれらインク色に加えて、ライトシアン(薄いシアン、LC)及びライトマゼンタ(薄いマゼンタ、LM)等のインクを用いて6色としたり、薄いブラックLK及びさらに薄いブラックLLKを用いて8色としても良い。さらに、4色のインクを用いて印刷するモードと6色または8色のインクを用いて印刷するモードを切り替えられるように設定されていても良い。また、逆に、上記4つのインク色のいずれか一つだけを用いて単色印刷を行っても良い。
【0054】
<ノズルについて>
前述の実施形態では、圧電素子を用いてインクを吐出していた。しかし、液体を吐出する方式は、これに限られるものではない。例えば、熱によりノズル内に泡を発生させる方式など、他の方式を用いてもよい
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1Aは、本実施形態に係るプリンタの排紙トレイを開いた状態を示す外観図である。図1Bは、本実施形態に係るプリンタの排紙トレイを閉じた状態を示す外観図である。
【図2】本実施形態に係るプリンタの全体構成のブロック図である。
【図3】図3Aは、本実施形態に係るプリンタの内部構成を説明するための概略図である。また、図3Bは、本実施形態に係るプリンタを説明するための概略断面図である。
【図4】ヘッドの下面におけるノズルの配列を示す説明図である。
【図5】印刷時の処理のフロー図である。
【図6】プリンタの第1変形例を示す図である。
【図7】プリンタの第2変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1 プリンタ、2 プリンタ、3 プリンタ、10 カバー、
10a カバー本体、10b 排紙トレイ、10c シャッター、
10d 給紙トレイ、10e 壁部、11 給紙口、12 排紙口、
18 ヘッド収容部、18a 収容壁部、19 シャッター、
20 搬送ユニット、21 給紙ローラ、22 搬送モータ、
23 搬送ローラ、24 プラテン、25 排紙ローラ、
30 キャリッジユニット、31 キャリッジ、32 キャリッジモータ、
33 駆動ベルト、34 駆動シャフト、35 ヘッドキャップ、
40 ヘッドユニット、41 ヘッド、50 検出器群、
51 リニア式エンコーダ、52 ロータリー式エンコーダ、
53 紙検出センサ、54 光学センサ、60 コントローラ、
61 インターフェース部、62 CPU、63 メモリ、
64 ユニット制御回路、70 冷却ユニット、71 冷却部、
72 圧縮機、73 凝縮器、75 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体内に設けられ、液体を吐出するためのノズルと、
前記ノズル内の前記液体の増粘を抑えるために前記筐体内の温度を低下させるための温度低下機構と、
を有することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出装置において、
前記筐体内に前記ノズルを覆う覆い部材を有し、
前記温度低下機構は、前記ノズルが前記覆い部材に覆われて形成される密閉空間内の温度を低下させることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の液体吐出装置において、
前記ノズルは、液体を吐出する液体吐出領域と液体を吐出しない液体非吐出領域とを移動可能に設けられ、前記液体非吐出領域に移動した際に前記覆い部材により覆われることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項4】
請求項1に記載の液体吐出装置において、
前記筐体内に前記ノズルが収容される区画された密閉空間を有し、
前記温度低下機構は、前記密閉空間内の温度を低下させることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項5】
請求項1に記載の液体吐出装置において、
前記筐体は、前記ノズルが液体を吐出しない際に密閉されることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項6】
請求項5に記載の液体吐出装置において、
前記液体は、前記筐体内を通過する媒体に向かって吐出され、
前記筐体が密閉される際には、前記媒体の前記筐体内への入口及び前記筐体からの出口が閉塞されることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の液体吐出装置において、
前記温度低下機構は、前記ノズルから液体が吐出される際に温度を低下させることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の液体吐出装置において、
前記ノズルから吐出される液体はインクであり、
前記インクが媒体に吐出されることにより画像が形成されることを特徴とする液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−6684(P2009−6684A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−172810(P2007−172810)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】