説明

液体吐出装置

【課題】より簡単な機構でノズルからの液体の溶媒の揮発をより効果的に抑制することが可能な液体吐出装置を提供する。
【解決手段】記録ヘッドのノズル形成面に、液体の透過を阻止する保護材としての保護液を塗布する塗布手段としてのワイパーブレード53を有するワイピング機構を備え、ワイパーブレードは、ノズル37からインクを吐出しない非吐出状態に移行する場合にノズル形成面に保護液を塗布し、保護液からなる保護膜によりノズルの開口部を封止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばインクジェット式記録装置等の液体吐出装置に関するものであり、特に、ノズル近傍の液体の増粘を抑制する液体吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置は液体吐出ヘッドを備え、この液体吐出ヘッドから各種の液体を吐出する装置である。この液体吐出装置の代表的なものとして、例えば、液体吐出ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)を備え、この記録ヘッドから吐出対象物としての記録紙等に対して液体状のインクを液滴として吐出・着弾させてドットを形成することで記録を行うインクジェット式記録装置(以下、単にプリンターという)等の画像記録装置を挙げることができる。この液体吐出装置は、近年においては、画像記録装置に限らず、例えばディスプレー製造装置等の各種の製造装置にも応用されている。
【0003】
このような液体吐出装置では、印刷動作中においてはノズルが大気に晒される。このため、ノズルを通じて液体の溶媒成分が揮発する。その結果、ノズル付近で液体の粘度が上昇し、これにより、吐出されるインクの重量が低下したりインクの飛翔速度が低下したりする等の不具合が生じる虞がある。このような液体の増粘による不具合を抑制すべく、液体吐出装置では、種々の対策が講じられている。例えば、上記のインクジェット式プリンターを例に挙げると、ノズル形成面を封止するキャップ部材に洗浄液タンクとポンプを接続してキャップ部材内に洗浄液を供給・排出できるようにし、非記録動作時に記録ヘッドのノズルを洗浄液により洗浄した後、キャップ部材内に洗浄液を保持させることでキャップ部材内を高湿度に維持することにより、ノズル近傍のインク溶媒の揮発を抑制する構成が提案されている(特許文献1参照。)。また、ノズルに対応する位置に貫通穴が設けられたスペーサーを間に介在させた状態で、同じくノズルに対応する位置に貫通穴が設けられたノズル保護部材をノズル形成面に取り付けてノズルの吐出側に空間部を形成することにより、空気の流れを制限してインクの溶媒の揮発を抑制する構成も提案されている(特許文献2参照。)。さらに、水を収容した水槽を設け、記録ヘッドが待機状態にあるときにノズル面を水槽内の水に浸漬させることで、インク非吐出時のインク増粘を防止する構成も提案されている(特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−209897号公報
【特許文献2】特開2008−023866号公報
【特許文献3】特開2009−012344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の構成では、洗浄液を循環させるための大がかりな機構が必要であるため、その分コストが上昇するという問題があった。特許文献2の構成では、印刷時の記録紙との干渉を防止するために記録ヘッドとプラテンとの距離(所謂プラテンギャップ)を、スペーサーと保護部材の分だけ大きく採る必要があるため、記録紙に対するインクの着弾精度が悪化する可能性があった。また、インクを吐出した際に、スペーサーやノズル保護部材にインクが接触する虞もあった。特許文献3の構成では、供給用タンク、水槽、及び排出用タンクや、これらの間で水を循環させる機構が必要となり、その分設置スペースを要する問題があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、より簡単な機構でノズルからの液体の溶媒の揮発をより効果的に抑制することが可能な液体吐出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、液体を吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドを備えた液体吐出装置であって、
前記液体吐出ヘッドのノズル形成面に、液体の透過を阻止する保護材を塗布する塗布手段を備え、
前記塗布手段は、ノズルから液体を吐出しない非吐出状態に移行する場合に前記ノズル形成面に保護材を塗布し、当該保護材によりノズルの開口部を封止することを特徴とする。
なお、「非吐出状態」とは、ノズルから液体が吐出されない状態であって、ノズル近傍の液体の粘度増加により液体の吐出に悪影響が生じる程度まで継続して液体の吐出が行われない可能性にある状態を意味し、具体的には、液体吐出装置の電源がオフされてから次回電源がオンされるまで状態、或いは電源オンの状態において一定時間以上液体の吐出が行われない状態を意味する。また、液体噴射対象に対する噴射動作中に液体の噴射が行われないノズル群がある場合には、当該ノズル群が液体を噴射しない期間も非吐出状態に含まれる。
【0008】
上記構成によれば、液体吐出ヘッドのノズル形成面に、液体の透過を阻止する保護材を塗布する塗布手段を備え、塗布手段が、ノズルから液体を吐出しない非吐出状態に移行する場合に前記ノズル形成面に保護材を塗布し、当該保護材によりノズルの開口部を封止するので、大がかりな循環機構やプラテンギャップを拡大する部品が必要無く、簡単な構成でノズルから液体の溶媒が揮発することをより効果的に抑制することができる。
【0009】
上記構成において、前記塗布手段が、電源オフの指示により非吐出状態に移行する場合に前記ノズル形成面に保護材を塗布する構成を採用することが望ましい。
【0010】
これにより、電源オフ後、長期間に亘って液体の吐出が行われない場合において、ノズル近傍の液体の増粘を防止することができる。
【0011】
また、上記構成において、前記ノズル形成面に塗布された保護材を除去する除去手段を備え、
前記除去手段が、液体の吐出を開始する前にノズル形成面から保護材を除去する構成を採用することが望ましい。
【0012】
この構成において、前記除去手段が、ノズル形成面に摺接して保護材を拭き取る構成を採用することができる。
【0013】
また、前記除去手段は、前記保護材の溶解を促進する除去剤を塗布しつつ当該保護材を拭き取る構成を採用することもできる。
この構成によれば、除去剤により保護材の溶解を促進しながら拭き取るので、ノズル形成面から保護材をより確実に除去することができる。
【0014】
上記構成において、前記塗布手段は、前記ノズル形成面に保護材を供給する供給部と、前記供給部から供給された保護材を前記ノズル形成面に塗布する塗布部と、を有する構成を採用することができる。
【0015】
この構成において、前記塗布部が、ノズル形成面に接触して該ノズル形成面を払拭する払拭部材からなる構成を採用することができる。
【0016】
この構成によれば、ノズル形成面を払拭してクリーニングする払拭部材が塗布部として利用されるので、払拭部材の他に塗布部を別途設ける必要が無い。
【0017】
さらに、前記液体吐出ヘッドは、複数のノズルを列設してなるノズル群を複数備え、
前記塗布手段は、各ノズル群のうち、液体吐出対象に対する吐出動作に使用されないノズル群に対して選択的に保護材を塗布する構成を採用することが望ましい。
【0018】
上記構成によれば、塗布手段が、各ノズル群のうち液体吐出対象に対する吐出動作に使用されないノズル群に対して選択的に保護材を塗布するので、吐出動作に使用されないノズル群に属するノズルからインクの溶媒が揮発することが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】プリンターの構成を説明する斜視図である。
【図2】記録ヘッドの構成を説明する要部断面図である。
【図3】ワイパーブレードの構成を説明する斜視図である。
【図4】(a)はワイピング機構の構成、(b)はキャッピング機構の構成を説明する断面図である。
【図5】ワイピング機構及びキャッピング機構周辺の構成を説明する平面図である。
【図6】プリンターの処理を説明するフローチャートである。
【図7】(a)〜(c)はノズル形成面に保護液を塗布する処理を説明する図である。
【図8】(a)〜(c)は特定のノズル列に選択的に保護液を塗布する処理を説明する図である。
【図9】(a)〜(c)はノズル形成面の保護膜を除去する処理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体吐出装置として、インクジェット式記録装置(以下、プリンター)を例に挙げて説明する。
【0021】
図1に示したプリンター1は、インクカートリッジ5が取り付けられるカートリッジ装着部2を有し、記録ヘッド3(本発明における液体吐出ヘッドの一種)を搭載するキャリッジ4を備えている。そして、キャリッジ4は、ガイドロッド6に軸支された状態で、駆動プーリー8と遊転プーリー9との間に架設したタイミングベルト10に接続されている。そして、この駆動プーリー8はパルスモーター11の回転軸に接合されており、このパルスモーター11の作動によってキャリッジ4が記録紙7(記録媒体又は吐出対象の一種。)の幅方向、即ち、主走査方向に移動するようになっている。
【0022】
ガイドロッド6の下方には、このガイドロッド6と平行に紙送りローラー12が配置されている。この紙送りローラー12は、紙送りモーター13からの駆動力によって回転されて、プラテン14上の記録紙7を副走査方向へ搬送するように構成されている。
【0023】
キャリッジ4の移動範囲内であって、記録紙等の吐出対象に対して画像等の印刷が行われる記録領域よりも外側の端部領域には、記録ヘッド3の移動の基点となるホームポジションが設定されている。このホームポジション側には、記録ヘッド3のノズル形成面をキャッピング(封止)可能なキャッピング機構15と、ノズル形成面をワイピングするためのワイピング機構16とが隣り合わせて配設されている。
【0024】
図2は、上記記録ヘッド3の構成を説明する要部断面図である。この記録ヘッド3は、ケース23と、このケース23内に収納される振動子ユニット24と、ケース23の底面(先端面)に接合される流路ユニット25等を備えている。上記のケース23は、例えば、エポキシ系樹脂により作製され、その内部には振動子ユニット24を収納するための収納空部26が形成されている。振動子ユニット24は、圧力発生手段の一種として機能する圧電振動子20と、この圧電振動子20が接合される固定板28と、圧電振動子20に駆動信号等を供給するためのフレキシブルケーブル29とを備えている。圧電振動子20は、圧電体層と電極層とを交互に積層した圧電板を櫛歯状に切り分けることで作製された積層型であって、積層方向(電界方向)に直交する方向に伸縮可能(電界横効果型)な縦振動モードの圧電振動子である。
【0025】
流路ユニット25は、流路基板30の一方の面にノズル基板31を、流路基板30の他方の面に振動板32をそれぞれ接合して構成されている。この流路ユニット25には、リザーバー33(共通液体室)と、インク供給口34と、圧力室35と、ノズル連通口36と、ノズル37とを設けている。そして、インク供給口34から圧力室35及びノズル連通口36を経てノズル37に至る一連のインク流路が、各ノズル37に対応して形成されている。
【0026】
上記ノズル基板31は、ドット形成密度に対応したピッチ(例えば180dpi)で複数のノズル37が列状に穿設されたステンレス等の金属製の薄いプレートである。このノズル基板31には、ノズル37を列設してノズル列(ノズル群)が複数設けられており、1つのノズル列は、例えば180個のノズル37によって構成される。
【0027】
上記振動板32は、支持板38の表面に弾性体膜39を積層した二重構造である。本実施形態では、金属板の一種であるステンレス板を支持板38とし、この支持板38の表面に樹脂フィルムを弾性体膜39としてラミネートした複合板材を用いて振動板32を作製している。この振動板32には、圧力室35の容積を変化させるダイヤフラム部40が設けられている。また、この振動板32には、リザーバー33の一部を封止するコンプライアンス部41が設けられている。
【0028】
上記のダイヤフラム部40は、エッチング加工等によって支持板38を部分的に除去することで作製される。即ち、このダイヤフラム部40は、圧電振動子20の自由端部の先端面が接合される島部42と、この島部42を囲む薄肉弾性部43とからなる。上記のコンプライアンス部41は、リザーバー33の開口面に対向する領域の支持板38を、ダイヤフラム部40と同様にエッチング加工等によって除去することにより作製され、リザーバー33に貯留された液体の圧力変動を吸収するダンパーとして機能する。
【0029】
そして、上記の島部42には圧電振動子20の先端面が接合されているので、この圧電振動子20の自由端部を伸縮させることで圧力室35の容積を変動させることができる。この容積変動に伴って圧力室35内のインクに圧力変動が生じる。そして、記録ヘッド3は、この圧力変動を利用してノズル37からインク滴を吐出させるようになっている。
【0030】
次に、上記キャッピング機構15について説明する。図4は、キャッピング機構15及びワイピング機構16の要部を断面で示した模式図、図5は、キャッピング機構15及びワイピング機構16近傍の平面図である。なお、図4(a)においては、ワイパーブレード53と除去用ブレード64のうち、ワイパーブレード53のみを図示している。
キャッピング機構15は、凹状の負圧空部45を有し、記録ヘッド3のノズル形成面、即ち、ノズル基板31の吐出側の面を封止可能なキャップ部材19と、このキャップ部材19を上部に搭載し、プリンター1の装置底面に対し斜め上下方向に移動可能なスライド機46とにより構成されている。
【0031】
キャップ部材19は、平面視において略矩形状の箱体、詳しくは、上面側が開放されたトレイ状の部材であり、その全体が例えばエラストマーなどの弾性素材によって作製されている。このキャップ部材19の底面には、後述する排液チューブ50に連通される排液口47が形成されている。また、このキャップ部材19の内部には、吸液性・保湿性を有する吸液シート48を配設している。この吸液シート48は、例えばフェルト等によって構成される。
【0032】
スライド機46は、キャリッジ4のホームポジション側への移動に伴い、キャップ部材19を斜め上方にせり上げるように構成されている。そして、キャリッジ4がホームポジションに位置付けられると、キャップ部材19が記録ヘッド3のノズル形成面を封止するキャッピング状態となる。このキャッピング状態では、ノズル形成面に開設されたノズルがキャップ部材19の負圧空部45に臨み、且つ、キャップ部材19の上端縁とノズル形成面とが密着するようになっている。そして、キャップ部材19内には吸液シート48が配設されているので、負圧空部45内は高湿状態に保たれる。その結果、記録ヘッド3のノズルからのインク溶媒の蒸発が抑制され、インク粘度の上昇が抑制される。
【0033】
上記キャップ部材19の排液口47には、負圧空部45と排液タンク49とを連通する排液チューブ50が接続されている。また、排液チューブ50の途中には、ポンプユニット51が配置されている。そして、上述のキャッピング状態でこのポンプユニット51を作動させると、負圧空部45内が負圧化されるので、ノズル37を通じて記録ヘッド3内のインクを強制的に排出することができる。これにより、ノズル付近で増粘したインクを、排液チューブ50を通じて排液タンク49側に排出できる。
【0034】
スライド機46と記録領域(プラテン14)との間には、ワイピング機構16が設けられる。このワイピング機構16は、ワイパーブレード53(本発明における塗布手段、塗布部、及び、払拭部材の一種)と、除去用ブレード64(本発明における除去手段の一種)と、これらのブレード53,64を保持するブレードホルダー54とにより概略構成され、ワイパー移動機構53によって、ブレード53,64の先端部が記録ヘッド3の移動経路に重なるワイピング位置と、この移動経路から外れてブレード53,64の先端部が記録ヘッド3に接触しない退避位置とに進退可能となっている。
【0035】
図3は、ワイパーブレード53の外観を示す斜視図である。ワイパーブレード53は、例えばゴムやエラストマー等の弾性を有する材料で作製された板材である。このワイパーブレード53の先端面53´は、プラテン側(記録領域側)からキャッピング機構側に上り傾斜するような傾斜面となるように形成されている。図4に示すように、ワイパーブレード53の内部には、ノズル形成面に塗布する保護液(本発明における保護材の一種)が供給される供給路57がワイパーブレードの幅方向(即ち、ヘッド移動方向に直交する方向)に複数形成されている。各供給路57の上端は、ワイパーブレード53の先端面53´に吐出口58としてそれぞれ開口している。また、各供給路57の下端部は1つの流路に収束しており、その下端が接続口59としてブレードホルダー54の底面側に突出している。この接続口59には、可撓性を有する保護液供給チューブ60の一端部が液密状態で接続されており、この保護液供給チューブ60の他端部は、保護液を貯留した保護液パック61(保護液貯留部材の一種。図5参照。)に接続されている。保護液としては、液体、即ちインクの透過を阻止するものであって、常温でゲル状を呈し、不揮発性を有し、尚かつ、化学的に安定な物質であることが望ましく、例えば、ワセリン、シリコーングリース、流動パラフィン、ポリブデン等に粘度調整剤を混合したものが挙げられる。本実施形態においては、流動パラフィンが保護液として用いられる。なお、保護液の粘度に関し、ノズル形成面に塗布された後に当該ノズル形成面に留まり、尚かつ、後述する除去処理を行うことによってノズル形成面から取り除くことが可能な程度の粘度に調整される。
【0036】
保護液パック61は、ワイピング時におけるワイパーブレード53に対して鉛直方向における上方に配置されている。そして、両者の高低差、即ち、水頭差を利用して、保護液パック61内に貯留された保護液が保護液供給チューブ60を通じてワイパーブレード53側に供給されるように構成されている。このような構成を採用することにより、例えば、ポンプなどの保護液を供給するための機構を別途設ける必要がない。このため、プリンター1の省スペース化に寄与することができる。なお、勿論、水頭差を利用した供給方法に限らず、ポンプなどの供給機構により保護液を供給する(圧送する)方法を採用することも可能である。
【0037】
保護液供給チューブ60の途中には開閉弁62が設けられている。この開閉弁62は、図示しないプリンターコントローラーにより制御され、ワイパーブレード53への保護液の供給又は非供給を切り替えることができるように構成されている。そして、ワイピング機構16が退避状態にある場合、或いは、保護液をノズル形成面に供給することなくノズル形成面を払拭する通常のワイピングを行う場合、開閉弁62が閉じられて、ワイパーブレード53の吐出口58からは保護液が吐出されない。また、後述するように、ノズル形成面に保護液を塗布する場合には、開閉弁62が開かれて、ワイパーブレード53の吐出口58から保護液が吐出可能な状態にされる。これにより、ワイパーブレード53によってノズル形成面に保護液を塗布することができる。
このように、保護液パック61、保護液供給チューブ60、開閉弁62、供給路57、及び、吐出口58は、本発明における供給部を構成している。
【0038】
ブレードホルダー54には、ワイパーブレード53に隣接して除去用ブレード64が立設されている。この除去用ブレード64は、ワイパーブレード53により塗布されたノズル形成面の保護液(保護膜63)を除去するためのブレードであり、本実施形態においては、ワイパーブレード53と同様の形状及び構造となっている。この除去用ブレード64の内部には、ノズル形成面の保護膜63を除去する除去液が供給される除去液供給路(図示せず)がブレードの幅方向に複数形成されている。各除去液供給路の上端は、除去用ブレード64の先端面に除去液吐出口65としてそれぞれ開口している。各除去液供給路には、除去処理時における除去用ブレード64に対して鉛直方向における上方に配置された除去液パック66(除去液貯留部材の一種。図5参照。)に貯留された除去液が除去液供給チューブ67を通じて供給される。除去液供給チューブ67の途中には図示しない開閉弁が設けられており、除去用ブレード64への除去液の供給又は非供給を切り替えることができるように構成されている。除去液としては、保護膜63の溶解を促進するものであれば良く、例えば、ヘキサンを主成分とした洗浄液が用いられる。
【0039】
次に、プリンターの動作について図6のフローチャートを用いて説明する。
プリンター1の電源がオンされると、まず、前回の電源オフ時等で記録ヘッド3のノズル形成面に保護液が塗布されているか否かの履歴が参照される(ステップS1)。ノズル形成面に保護液が塗布された履歴がある場合、ステップS2に進み、ノズル形成面の保護膜が除去される。この保護膜の除去処理の詳細については図9を用いて後述する。一方、ノズル形成面に保護液が塗布された履歴がない場合、ステップS3に進み、記録紙等の吐出対象に対する印刷処理(液体吐出動作に相当)においてインクを吐出しないノズル列があるか否かが判定される。
【0040】
即ち、例えば、主に写真専用紙に対する印刷に用いられるフォトブラックインクと、主に普通紙に対する印刷に用いられるマットブラックインクの2種類のブラックインクに対応するプリンターの場合、写真専用紙に対する印刷処理を行うときはマットブラックが使用されないので、当該マットブラックに対応するノズル列はインクが吐出されない。このように、印刷処理中にインクの吐出が行われないノズル列が存在する場合、ステップS4において該当するノズル列に対して選択的に保護液が塗布され、その旨の履歴が不揮発性記憶素子等の記憶手段に保存された後、ステップS5に進む。これにより、印刷処理中にインクの吐出が行われないノズル列に属するノズル37からインク溶媒が蒸発することが抑制される。この処理の詳細については図8を用いて後述する。
【0041】
ステップS3において、インクを吐出しないノズル列が無いと判断された場合、ステップS5において印刷処理が行われる。一連の印刷処理が終了したならば、ステップS6において、電源オフの命令があったか否かが判断される。電源オフの指示があった場合、ノズルからインクが吐出されない非吐出状態に移行するので、ステップS8に進み、図7を用いて後述するようにノズル形成面に保護液が塗布され、全ノズル37の開口部分が保護液(保護膜)により封止される。ノズル形成面に保護液が塗布されたならば、その旨の履歴が保存され、また、キャッピング機構15によりノズル形成面がキャッピングされた後、一連の処理が終了される。これにより、次に電源がオンされて印刷処理が開始されるまでの非吐出状態においてノズル37からのインク溶媒の蒸発をより確実に防止することができる。
【0042】
一方、電源オフの指示がなかった場合、ステップS7において、印刷処理が終了してからインクを吐出しない状態の経過時間が規定時間以上になったか否かが判定される。規定時間は任意に定めることができ、例えば、数分〜数時間に設定される。そして、印刷処理が終了してからの経過時間が規定時間以上となった場合、非吐出状態に移行すると判断され、ステップS8において、ノズル形成面に保護液が塗布され、全ノズル37の開口部分が保護液により封止される。その後、プリンター1は、次の印刷処理の実行命令或いは電源オフの命令があるまで待機状態となる。この待機状態においても、ノズル37の開口部分が保護液(保護膜)により封止されているので、ズル37からのインク溶媒の蒸発を抑制することができる。
【0043】
次に、ステップS8の保護液の塗布処理(全ノズルに対する塗布処理)について図7を参照しながら説明する。なお、図7においては、記録ヘッド3の位置が固定されて、ワイピング機構16が図の右側から左側に移動しているように図示しているが、実際には、ワイピング機構16の位置が固定されて、記録ヘッド3が図における矢印の方向(図の左側から右側)に移動することにより塗布が行われる。なお、記録ヘッド3がホームポジション側から記録領域側に移動する際に保護液を塗布する構成を採用することもできる。この場合、ワイパーブレード53のヘッド移動方向に対する向きが図7に例示した向きとは逆となる。
【0044】
図7(a)に示すように、記録ヘッド3(キャリッジ4)が記録領域側からホームポジション側に向けて移動する。このとき、ワイピング機構16は、ワイパー移動機構53によって、ワイパーブレード53の先端部(先端面53´)が記録ヘッド3のノズル形成面、即ち、ノズル基板31のインク吐出側の面に接触可能な位置に位置付けられる。また、開閉弁62が開弁されて吐出口58から保護液56が吐出可能な状態となる。そして、ワイパーブレード53の先端部がノズル形成面に接触した状態で記録ヘッド3が記録領域側からホームポジション側に向けてさらに進行すると、ワイパーブレード53は、ノズル形成面に対して保護液56を吐出しつつ摺動する。このようにして記録ヘッド3がワイピング機構16の上方を通過すると、図7(c)に示すように、ノズル形成面に保護液56が均一な厚さに塗布されて当該保護液56からなる保護膜63が形成される。この保護膜63によってノズル37が封止されることにより、ノズル37からインクの溶媒が揮発することが抑制される。これにより、インクの吐出を長期間に亘って行わない非吐出状態においてもインクの増粘が防止される。
【0045】
なお、ワイパーブレード53のヘッド移動方向に対する向きを図7に例示した向きとは逆にして、記録ヘッド3が記録領域側からホームポジション側に移動することでノズル形成面に対して保護液を塗布した後、記録ヘッド3が記録領域側からホームポジション側に移動することでノズル形成面に塗布された保護液を均一な厚さにならす構成を採用することもできる。
【0046】
次に、ステップS4における特定のノズル列に対してのみに保護液を選択的に塗布する処理について図8を参照しながら説明する。なお、この例では、ノズル列37cにのみ保護液を塗布する場合について説明する。
まず、通常の保護液塗布処理と同様に、ワイパーブレード53の先端部(先端面53´)が記録ヘッド3のノズル形成面に接触可能な位置に位置付けられる。このとき、開閉弁62は閉弁されて吐出口58から保護液が吐出されない状態とされる。この状態で、記録ヘッド3が記録領域側からホームポジション側に向けて進行すると、図8(a)に示すように、ワイパーブレード53がノズル形成面に対して保護液を吐出することなく摺動する。そして、ワイパーブレード53の先端部が保護液の塗布対象のノズル列37cの直前に位置する時点で開閉弁62が開弁され、図8(b)に示すように、吐出口58から保護液56が吐出可能な状態となる。これにより、ノズル列37cを構成する各ノズル37に保護液56が塗布される。ワイパーブレード53がノズル列37cを通過した時点で、開閉弁62が再度閉弁される。これにより、それ以降においてはワイパーブレード53がノズル形成面に対して保護液を吐出することなく摺動する。このようにして記録ヘッド3がホームポジション側にさらに進行していくと、図8(c)に示すように、ノズル列37cを構成する各ノズル37のみが保護膜63によって封止される。これにより、印刷処理中において使用されないノズル列のノズル37からインクの溶媒が蒸発することが抑制される。
【0047】
続いて、ステップS2の保護膜を除去する処理について図9を参照しながら説明する。
まず、図9(a)に示すように、ワイパー移動機構55によって、除去用ブレード64の先端部が記録ヘッド3のノズル形成面に接触可能な位置に位置付けられる。また、除去液供給チューブ67に設けられた開閉弁が開弁されて除去用ブレード64の除去液吐出口65から除去液68が吐出可能な状態となる。そして、除去用ブレード64の先端部がノズル形成面に接触した状態で記録ヘッド3が記録領域側からホームポジション側に向けて進行すると、除去用ブレード64は、図9(b)に示すように、ノズル形成面の保護膜63に対して除去液68を吐出しつつ摺動する。この除去液68によって保護膜63の溶解が促進されるので、除去用ブレード64の摺動により保護膜63を容易に除去することができる。このようにして記録ヘッド3がホームポジション側にさらに進行していくと、図9(c)に示すように、保護膜63がノズル形成面から取り除かれる。このように、除去液を塗布しつつ除去用ブレード64によってノズル形成面の保護膜63を払拭することにより、保護膜63をより確実に除去することができる。
なお、必ずしも除去液を用いる必要はなく、除去用ブレード64によるノズル形成面に対する摺接のみで機械的に保護膜63を拭き取る構成を採用することもできる。この構成によれば、除去液を用いない分、除去液パック66、除去液供給チューブ67等の除去液を供給するための供給手段が不要となるため、省スペース化およびコスト削減に寄与することができる。
【0048】
以上のように、本発明に係るプリンター1では、ノズル37からインクを吐出しない非吐出状態に移行する場合にノズル形成面にワイパーブレード53によって保護液を塗布して保護膜63を形成することによりノズル37の開口部を封止する。これにより、従来のように大がかりな循環機構やプラテンギャップを拡大する部品が必要無く簡単な構成でノズル37からのインクの溶媒の揮発をより効果的に抑制することが可能できる。これにより、長時間インクの吐出が行われない非吐出状態においてもインクの増粘が抑制され、その結果、インクの増粘による不具合を防止することができる。
また、本実施形態においては、払拭部材の一種であるワイピング機構16を利用して、ノズル形成面に対して保護液56を塗布する構成を採用するので、簡単な設計変更で足り、塗布部(塗布手段)を別途設ける必要が無い。
【0049】
ところで、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。
上記ワイパーブレード53に関し、上記実施形態では、ワイパーブレード35と保護液の供給手段とが一体である構成を例示したが、これには限られない。例えば、ノズル形成面に対して保護液を供給する供給部と、ノズル形成面に供給された(付着された)保護液を均一な厚さに塗布する塗布部とを別体にする構成を採用することもできる。
また、ワイパーブレード35に関し、上記実施形態で例示した形状や材質には限られない。例えば、ワイパーブレード35の先端面に刷毛やウレタンフォーム等の多孔質部材からなる液体吸収保持部を設け、塗布処理において当該液体吸収保持部をノズル形成面に摺動させることによって保護液を塗布する構成を採用しても良い。
【0050】
また、以上では、液体吐出装置の一種であるインクジェット式プリンターを例に挙げて説明したが、本発明は他の液体吐出装置にも適用することができる。例えば、液晶ディスプレー等のカラーフィルタを製造するディスプレー製造装置,有機EL(Electro
Luminescence)ディスプレーやFED(面発光ディスプレー)等の電極を形成する電極製造装置,バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置,極く少量の試料溶液を正確な量供給するマイクロピペットにも適用することができる。そして、ディスプレー製造装置では、色材吐出ヘッドからR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を吐出する。また、電極製造装置では、電極材吐出ヘッドから液状の電極材料を吐出する。チップ製造装置では、生体有機物吐出ヘッドから生体有機物の溶液を吐出する。
【符号の説明】
【0051】
1…プリンター,3…記録ヘッド,15…キャッピング機構,16…ワイピング機構,31…ノズル基板,37…ノズル,53…ワイパーブレード,54…ブレードホルダー,55…ワイパー移動機構,56…保護液,57…供給路,58…吐出口,60…保護液供給チューブ,61…保護液パック,62…開閉弁,63…保護膜,64…除去用ブレード,65…除去液吐出口,66…除去液パック,67…除去液供給チューブ,68…除去液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドを備えた液体吐出装置であって、
前記液体吐出ヘッドのノズル形成面に、液体の透過を阻止する保護材を塗布する塗布手段を備え、
前記塗布手段は、ノズルから液体を吐出しない非吐出状態に移行する場合に前記ノズル形成面に保護材を塗布し、当該保護材によりノズルの開口部を封止することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記塗布手段は、電源オフの指示により非吐出状態に移行する場合に前記ノズル形成面に保護材を塗布することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記ノズル形成面に塗布された保護材を除去する除去手段を備え、
前記除去手段は、液体の吐出を開始する前にノズル形成面から保護材を除去することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記除去手段は、ノズル形成面に摺接して保護材を拭き取ることを特徴とする請求項3に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記除去手段は、前記保護材の溶解を促進する除去剤を塗布しつつ当該保護材を拭き取ることを特徴とする請求項4に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記塗布手段は、前記ノズル形成面に保護材を供給する供給部と、前記供給部から供給された保護材を前記ノズル形成面に塗布する塗布部と、を有することを特徴とする請求項1から請求項5の何れか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記塗布部は、ノズル形成面に接触して該ノズル形成面を払拭する払拭部材からなることを特徴とする請求項6に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記液体吐出ヘッドは、複数のノズルを列設してなるノズル群を複数備え、
前記塗布手段は、各ノズル群のうち、液体吐出対象に対する液体吐出対象に対する吐出動作に使用されないノズル群に対して選択的に保護材を塗布することを特徴とする請求項1から請求項7の何れか一項に記載の液体吐出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−62869(P2011−62869A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214139(P2009−214139)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】