説明

液体含浸多孔性固形物の製造方法

【課題】含浸される液体の定量性が高く、また得られた含浸固形物の強度低下を防止し得る液体含浸多孔性固形物を容易に製造し得る方法を提供すること。
【解決手段】(a)粉体原料を圧縮成形してなる水溶性及び/又は水分散性の多孔性固形物11と、(b)多孔性固形物11中の空隙体積の95体積%以下の量の該多孔性固形物11を実質的に溶解又は分散させず、かつ多孔性固形物11の表面との接触角θが0°≦θ<90°である液体12とを、液体12に対して非透過性の包装体10内に密閉封入し、包装体10内で多孔性固形物11に液体12を接触させることで、液体12を多孔性固形物11に含浸させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体が含浸された多孔性固形物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固形物に液体を含有させる技術が多数知られている。例えば、本出願人は先に、液油等を予めカプセル化した後、カプセルを粉体と混合して両者を一緒に成形する方法を提案した(特許文献1参照)。この方法によれば、液状の有効成分の染み出しや分解がなく、また成形物が経時的に安定であるという利点がある。しかし、この方法は手間がかかり、またコスト高になることがある。
【0003】
また、予め粉体と液体を混合し、両者の混合物を用いて成形する方法も知られている(特許文献2参照)。しかし、成形前の混合物の物性(成形性)を考慮すると、この方法では液体の配合量は全体の2〜3重量%以下であり、多量に配合することが困難である。また、この方法によって得られた固形物はその強度が低くなりがちである。
【0004】
一方、粉体を成形して固形物を得た後に、該固形物と液体とを接触させて液体を含浸させる方法も知られている(特許文献3参照)。しかし、この方法では、固形物に含浸させる液体の量の制御が容易でないうえ、含浸工程の間に次の工程に進むことができないため、全体として製造時間が長くなってしまう。含浸時間を短縮する方法として減圧法が知られているが(特許文献4参照)、そのためには真空設備が必要となり、設備の大型化やコスト高が避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−69864号公報
【特許文献2】特開平8−109366号公報
【特許文献3】特開2007−707号公報
【特許文献4】特開平9−201168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る液体含浸多孔性固形物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、(a)粉体原料を圧縮成形してなる水溶性及び/又は水分散性の多孔性固形物と、(b)該多孔性固形物中の空隙体積の95体積%以下の量の、該多孔性固形物を実質的に溶解又は分散させず、かつ該多孔性固形物の表面との接触角θが0°≦θ<90°である液体とを、該液体に対して非透過性の包装体内に密閉封入し、該包装体内で該多孔性固形物に該液体を接触させることで、該液体を該多孔性固形物に含浸させる液体含浸多孔性固形物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、含浸される液体の定量性が高く、また得られた含浸固形物の強度低下を防止し得る液体含浸多孔性固形物が容易に提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1(a)ないし(d)は、本発明の製造方法の一実施形態を表す工程図である。
【図2】図2は、本発明で用いられる包装体の一例を示す模式図である。
【図3】図3(a)及び(b)は、本発明の製造方法の別の実施形態を表す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には、本発明の一実施形態を示す工程図が示されている。本実施形態においては、包装体内において、多孔性固形物に液体を含浸させることで、目的とする液体含浸多孔性固形物を得る。以下、具体的な工程を説明する。
【0011】
先ず、図1(a)に示すように、包装体10を用意する。包装体10は、多孔性固形物及びこれに含浸させる液体を入れる前の状態において、開口10aを有する袋状の形状をしている。本実施形態で用いられている包装体10は、可撓性のシート材料からなる筒状体の一方の開口端をヒートシール等の封止手段10bによって封止してなる、いわゆるピロー包装体である。しかし、包装体10の種類はこれに限定されるものではなく、例えばカプセル包装体やPTP包装体を用いることもできる。
【0012】
包装体10は、多孔性固形物11に含浸させる液体に対して非透過性の材料から構成されている。そのような材料としては、液体の種類に応じて適切なものが選択される。例えば、多孔性固形物11に含浸させる液体、水、その他ガス等を透過させないような各種フィルム(例えばポリエチレン、ポリプロピレン等)や、積層型フィルム等を用いることができる。また、アルミニウムなどの金属やシリカ蒸着フィルム等も用いることができる。積層型フィルムの例としては、KOP/PE積層フィルム(KOPはポリ塩化ビニリデンをコートしたポリプロピレンフィルムである)、KOP/CPP積層フィルム(CPPは無延伸フィルムである)、OPET/Al箔/CPP積層フィルム(OPETは延伸ポリエチレンテレフタレートである)等が挙げられる。その厚みは、例えばピロー包装体では5〜200μm程度、特に5〜50μm程度とすることが好ましい。
【0013】
次に、図1(b)に示すように、包装体10内に多孔性固形物11を入れる。多孔性固形物11は、その全体が包装体10内に収容される。
【0014】
多孔性固形物11の外観形状は、目的とする含浸多孔性固形物の具体的な用途に応じて適切な形状が選択される。多孔性固形物11の形状としては、例えばタブレット状、円柱状、円盤状、角柱状、リング状などが挙げられる。多孔性固形物11の表面に凹凸を付与してもよい。
【0015】
多孔性固形物11は、粉体原料を圧縮成形して製造されたものである。したがって、多孔性固形物11は、これを構成する粒子間に空隙を有し、多孔体を形成している。液体は、主としてこの空隙内に保持される。多孔性固形物11は、その空隙率、すなわち多孔性固形物11の見かけの体積に対する空隙の総和の割合が、多孔性固形物11の具体的な用途や、多孔性固形物11を圧縮成形するときの成形条件にもよるが、一般に0.1〜0.5、特に0.15〜0.4であることが好ましい。多孔性固形物11の空隙率は以下の方法で測定される。
【0016】
〔多孔性固形物11の空隙率の測定方法〕
空隙率=[{多孔性固形物の体積−(多孔性固形物の重量/多孔性固形物を構成する粉体原料の真比重)}/多孔性固形物の体積]
なお、多孔性固形物の体積は多孔性固形物の寸法から計算し求める。真比重は例えば真比重測定機((株)島津製作所製アキュピックII1340)により求めることができる。
【0017】
多孔性固形物11は、これを構成する粉体原料の種類に起因して、水溶性及び/又は水分散性のものである。ここでいう水溶性とは、多孔性固形物11と同一の粉体原料1gを直径10mm、多孔性固形物11と同一の空隙率になるような厚みの円盤状固形物になるように圧縮し、この固形物を日本薬局方に定められた崩壊試験法に準拠した崩壊試験器(富山産業(株)製NT−1HM)を使用し、25℃の水を用いて崩壊試験した場合、1時間以内にこの固形物が完全に溶解する程度の溶解性を有していることをいう。水分散性とは、前記の定義にいう水溶性の程度の溶解性を有さないが、前記の固形物が1時間以内に元の形状をとどめない程度まで、例えば崩壊物の粒径が1mm以下になるまで崩壊することをいう。
【0018】
多孔性固形物11が包装体10内に収容されたら、図1(c)に示すように、包装体10内に液体12を注入する。液体12としては、多孔性固形物11との接触角θが0°≦θ<90°、好ましくは0°≦θ≦50°、更に好ましくは0°≦θ≦10°であるものを用いる。この範囲の接触角を有する液体12を用いることで、該液体12の全量を首尾良く多孔性固形物11中に含浸保持させることが可能となる。液体12の接触角θの測定方法は次のとおりである。
【0019】
〔液体12の接触角θの測定方法〕
測定温度は、液体12を多孔性固形物11中に含浸させる温度とする。この温度下に、多孔性固形物11と同一の粉体原料1gを直径10mm、多孔性固形物11と同一の空隙率になるような厚みの円盤状固形物になるように圧縮したものを、例えば接触角計(協和界面科学(株)社製DropMaster DM−701)を用いて、該固形物表面に液体12を滴下し、滴下1秒後の液滴形状から接触角を求める。
【0020】
液体12としては、多孔性固形物11との接触角θが上述の範囲であることに加え、多孔性固形物11を実質的に溶解又は分散させないものが用いられる。このような種類の液体12を用いることで、多孔性固形物11の形状を実質的に変えることなく、該多孔性固形物11中に液体12を含浸させることが可能となる。したがって、この観点から、多孔性固形物11を実質的に溶解又は分散させないとは、多孔性固形物11と同一の粉体原料1gを直径10mm、多孔性固形物11と同一の空隙率になるような厚みの円盤状固形物になるように圧縮し、この固形物を日本薬局方に定められた崩壊試験法に準拠した崩壊試験器(富山産業(株)製NT−1HM)を使用し、25℃の液体12を用いて崩壊試験した場合、1時間を超えても固形物の元の形状が実質的に維持される程度に、多孔質固形物11に対する液体12の溶解性又は崩壊性が低いことをいう。
【0021】
図1(c)に示すように、液体12は、包装体10内に収容されている多孔性固形物に直接滴下され、それによって液体12が多孔性固形物11に直接接触するようにする。このような注入方式を採用することで、注入した液体12を確実に多孔性固形物11に含浸させることができる。
【0022】
液体12の注入方式に特に制限はなく、図1(c)に示すように、ノズル13を用いて、液体12の液滴を不連続に滴下してもよい。あるいは、ノズル13を用いて液体12を連続して注入してもよい。また、液体12の注入手段はノズル13に限られず、その他の注入手段、例えばスプレーノズルによる噴霧、多孔ノズル、シャットノズルによる注入等を用いてもよい。液体12を注入する時間は、本実施形態において臨界的ではなく、例えばごく短時間終了する一括注入でもよく、あるいは一定の時間にわたって徐々に注入してもよい。
【0023】
本実施形態は、液体12の注入量に特徴の一つを有している。詳細には、本実施形態においては、液体12の注入量(注入体積)を、これが含浸される多孔性固形物11の空隙体積の95体積%以下、好ましくは90体積%以下、更に好ましくは80体積%以下に設定している。液体12の注入量をこのように設定することで、包装体10内において液体12を多孔性固形物11と接触させるというだけの簡単な操作で、液体12の全量を多孔性固形物11中に含浸させることが可能となる。しかも、液体12の含浸量にばらつきが生じさせることなく、該液体12を含浸させることができる。換言すれば、液体12の含浸の定量性が高くなる。その上、含浸された液体12は、多孔性固形物10中に均一に行き渡る。なお、液体12の注入量(注入体積)とは、液体12の含浸温度における体積のことである。また、多孔性固形物11の空隙体積は、先に述べた空隙率の測定を行う途中で測定される。
【0024】
液体12の注入量の上限値は上述のとおりであるところ、注入量の下限値は、目的とする液体含浸多孔性固形物の具体的な用途に応じて適切な値が選択される。尤も、液体12の注入量が少ない場合には、本実施形態の方法を実施する実益が減殺されてしまう。したがって、液体の注入量は、多孔性固形物11の空隙体積の1体積%以上、特に10体積%以上に設定することが好ましく、更に20体積%以上に設定することが好ましい。
【0025】
所定量の液体12の注入が完了したら、図1(d)に示すように、包装体10の開口10をヒートシール等の封止手段10cによって封止し、包装体10内を密封する。包装体10の密封後、これを静置しておくと、包装体10内に注入された液体12と多孔性固形物11との接触が進行し、多孔性固形物11中に存在する多数の空隙に起因する毛細管現象によって、液体12が多孔性固形物11内に徐々に含浸される。液体12が全量含浸されるまでの時間は、例えば環境温度が25℃である場合、静置状態で通常1〜170時間程度、特に24〜96時間程度である。
【0026】
注入した液体12の全量を完全に含浸させるまでの時間は、例えば液体12の表面張力や、多孔性固形物11中に存在する空隙の大きさ、換言すれば毛細管力を制御することによって短縮化させることが可能である。
【0027】
液体12による含浸を確実に行う観点から、包装体10の開口10aを密閉した後に、包装体10を図1(d)に示す状態から90度横に寝かせる操作を行ってもよい。同様の観点から、包装体10の開口10aと対向する底部の形状を多孔性固形物11の外観形状に沿う形状、例えば、図2に示すように、中央域の方が周縁域よりも低くなるような形状を採用してもよい。この場合には、包装体10を横に寝かす操作を行わなくてもよい。
【0028】
前記と同様の観点から、多孔性固形物11として、その外形の最大長さDが好ましくは3mm≦D≦200mm、更に好ましくは10mm≦D≦100mmであるものを用い、かつ多孔性固形物11及び液体12として、それらの物性が以下の関係式を満たすように調整されたものを用いることが有効であることが、本発明者らの検討の結果判明した。
【0029】
【数1】

【0030】
前記の式において、多孔性固形物11の外形の最大長さDは、多孔性固形物11を横切る長さが最も大きくなる線分における当該長さのことである。また、液体12の表面張力は、自動粉体浸透速度計(協和界面科学(株)社製PHW−S)で白金プレートを使用し、Wilhelmy法によって測定される。更に、多孔性固形物11の毛管半径は、多孔性固形物11の空隙率εと多孔性固形物11の体積基準比表面積Sから前述の式により求められる。多孔性固形物11の体積基準比表面積は、自動比表面積/細孔分布測定装置((株)島津製作所社製TriStar3000)によって測定される。
【0031】
このようにして、包装体10内に密閉収容された液体含浸多孔性固形物20が得られる。この液体含浸多孔性固形物20の外観形状は、液体12を含浸させる前の状態の多孔性固形物11の外観形状と概ね一致している。また、液体含浸多孔性固形物20の硬度は、液体12を含浸させる前の状態の多孔性固形物11の硬度と比較してほとんど低下しない。更に、液体含浸多孔性固形物20の水への溶解性又は分散性は、液体12を含浸させる前の状態の多孔性固形物11の水への溶解性又は分散性とほぼ同程度に維持される。
【0032】
以上のとおり、本実施形態の方法によれば、液体を含む粉体原料を圧縮成形するときに起こりやすい3大トラブルである(イ)キャッピング(圧縮成形体が、圧縮方向と直交する方向にわたって、蓋が外れるように割れる現象)、(ロ)粉体原料の杵への付着、(ハ)粉体原料の充填不良という問題を回避して、圧縮成形体の液体含浸物を得ることができる。また、圧縮成形体を包装体内に収容して商品形態とするときに、注液するだけの簡単な操作で液体の含浸が可能なので、生産性がよく、製造経費を大幅に低減することが可能になる。また、香り違い品や色違い品などの多種の製品を製造する場合、液体の種類を変更するだけで、香り違い品や色違い品を製造することができるので、圧縮成形工程までは製品の種類によらず共通化することが可能である。これによっても、製造経費を大幅に低減することが可能になる。
【0033】
このようにして得られた含浸多孔性固形物20は、例えば浴用剤、化粧品、医薬品、医薬部外品、食品等の分野に用いられる。
【0034】
次に、本実施形態で用いられる多孔性固形物11及び液体12の詳細について説明する。多孔性固形物11は、先に述べたとおり、粉体原料を圧縮成形して製造されたものである。粉体原料としては、有機粉体、無機粉体、金属材料又はこれらの複合体からなる粉体を用いることができる。粉体を構成する粒子の粒径は、含浸多孔性固形物20の具体的な用途や、多孔性固形物11中に存在する空隙の大きさ等に応じて適切な範囲が選択される。粉体原料には、粉体の他に液体成分、例えば結合剤等を少量含有していてもよい。
【0035】
含浸多孔性固形物20が、例えば浴用剤である場合には、粉体原料は、炭酸塩及び有機酸を含むことが好ましい。炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カリウムなどが用いられる。有機酸としては、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、アジピン酸、酒石酸、安息香酸、クエン酸、ピロリドンカルボン酸、サリチル酸などの水溶性でかつ35℃で固体の酸を用いることが好ましい。
【0036】
多孔性固形物11の空隙率については先に述べたとおりであるところ、この空隙率に関連して、多孔性固形物11の密度は、含浸多孔性固形物20の具体的な用途や、多孔性固形物11を製造するための粉体原料に応じて適切な範囲が設定される。含浸多孔性固形物20が、例えば浴用剤である場合には、多孔性固形物11の密度は、0.90〜1.65g/cm3、特に1.10〜1.55g/cm3であることが好ましい。
【0037】
多孔性固形物11を圧縮成形する方法に特に制限はない。例えば油圧プレス打錠機を用いた乾式打錠や湿式打錠によって圧縮成形を行うことができる。また、本出願人の先の出願に係る特開2007−210985号公報に記載の超音波打錠機を用いて圧縮成形を行うこともできる。粉体原料は、一般的な造粒方法、例えば押出造粒、流動層造粒、転動造粒、乾式造粒などで造粒したもの、あるいはそれぞれを組み合わせた造粒方法で造粒したものを用いることができる。また、粉体原料の各成分を混合した後に前記の造粒方法にて造粒してもよい。造粒した後又は混合した後の粉体原料は、篩い分けによって粒径を調整してもよい。一般的な混合・攪拌方法の例としては、ヘンシェルミキサー、リボン型混合機、ナウターミキサー等が挙げられる。
【0038】
多孔性固形物11に含浸させる液体12としては、多孔性固形物11の種類に応じて適切なものが選択される。液体12としては、一般に油性の液体が用いられる。そのような油性の液体としては特に制限は無く、食品、化粧品、医薬品、工業品などの分野で利用される公知の油性成分を用いることができ、例えば動植物油脂類、脂肪酸及びそのアルコールとのエステル、炭化水素類、飽和又は不飽和の高級アルコール、ワックス、エッセンシャルオイル、オレオレジン又はレジノイド、着香料、色素及びこれらを酵素的処理(加水分解、エステル交換等)や化学的処理(水素添加、エステル交換等)したもの等が挙げられる。これらの各成分は1種のみを用いてもよいし、複数を同時に用いてもよい。
【0039】
また、液体12としては、油性の液体だけではなく、食品、化粧品、医薬品、工業品などの分野で利用される公知の水性の液体や界面活性剤や水等のその他成分も、多孔性固形物11を実質的に溶解又は分散させず、接触角が0°≦θ<90°を満たす範囲で添加することができる。界面活性剤としてはイオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。また、用途から工業用界面活性剤、食品用乳化剤又は天然系界面活性剤などに分類され、そのいずれもが本発明において使用することができ、それらを1種のみを用いてもよいし、複数を同時に用いてもよい。
【0040】
含浸多孔性固形物20が、例えば浴用剤である場合には、液体12として、オクタン酸セチル、イソオクタン酸セチル、乳酸ミリスチル、乳酸セチル、ミリスチン酸イソプロピルw、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸イソセチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソステアリル、アジピン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸イソセチル、イソノナン酸イソトリデシル、オレイン酸デシル、イソステアリン酸コレステロール等の脂肪酸エステル類;大豆油、ヌカ油、ホホバ油、アボガド油、アーモンド油、オリーブ油、カカオ脂、ゴマ油、パーシック油、ヒマシ油、ヤシ油、ミンク油、牛脂、豚脂等の天然油脂、これらの天然油脂を水素添加して得られる硬化油及びミリスチン酸グリセリド、2−エチルヘキサン酸グリセリド等のグリセリド類;流動パラフィン、ワセリン、パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、セレシン、スクワラン、スクアレン、ジオクチルシクロヘキサン、ブリスタン等の炭化水素油;ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ラノリン酸、イソステアリン酸等の高級脂肪酸類;ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、コレステロール、2−ヘキシルデカノール等の高級アルコール類;ハッカ油、ジャスミン油、ショウ脳油、ヒノキ油、トウヒ油、リュウ油、テレピン油、ケイ皮油、ベルガモット油、ミカン油、ショウブ油、パイン油、ラベンダー油、ベイ油、クローブ油、ヒバ油、バラ油、ユーカリ油、レモン油、タイム油、ペパーミント油、ローズ油、セージ油、メントール、シネオール、オイゲノール、シトラール、シトロネラール、ボルネオール、リナロール、ゲラーオール、カンファー、チモール、スピラントール、ピネン、リモネン、テルペン系化合物等の精油;シリコーン油類;ブチルフタリド、ペンチルフタリド、オクチルフタリドなどのフタリド誘導体等を用いることが好ましい。
【0041】
図3には、本発明の別の実施形態が示されている。図3(a)及び(b)は、先に説明した図1(b)及び(c)に対応する工程である。先に説明した実施形態では、包装体10内に多孔性固形物11を入れた後、液体12を包装体10内に注入し、液体12を多孔性固形物11に接触させ、次いで包装体10を密閉したが、本実施形態においては、図3(a)に示すように、包装体10内に所定量の液体12を注入する。注入中あるいは注入が完了したら、図3(b)に示すように、多孔性固形物11を包装体10内に入れる。このとき、多孔性固形物11を液体12に接触させるように入れることで、液体12の含浸速度を高めることができる。その後は、図1に示す実施形態と同様の操作が行われる。
【0042】
上述の図1及び図3に示す実施形態によれば、包装体10内での多孔性固形物11と液体12との接触が、包装体10の密閉前及び/又は密閉中に行われる。このような接触の態様に代えて、包装体10内での多孔性固形物11と液体12との接触を、包装体10の密閉後に行うことも可能である。具体的には、包装体10内に多孔性固形物11と液体12を接触しない状態で入れた後に密閉し、その後、包装体10を傾けるなどして多孔性固形物11と液体12を接触させるように静置状態をかえることが好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。なお、以下に述べる物性値に関し、それに温度依存性がある場合には、含浸時の温度における物性値を意味する。また、特にことわらない限り「%」は「質量%」を意味する。
【0044】
〔実施例1〕
図1に示す実施形態に従い、含浸多孔性固形物20としての浴用剤を製造した。含浸させる液体12としてパルミチン酸イソプロピル(表面張力30mN/m、密度0.86kg/m3(20℃))を用いた。
【0045】
多孔性固形物11の粉体原料として、炭酸水素ナトリウム25%、炭酸ナトリウム24%、フマル酸40%、ポリエチレングリコール(平均分子量6000)3.5%、デキストリン1%、色素微量、香料微量、ブドウ糖バランスを含むものを用いた。この粉体原料を、V型混合器((株)徳寿工作所社製のV−5)を用い、30rpmで10分間混合した。混合後の粉体原料50gを、60mmφのスミ角平錠剤用金型及び油圧式手動打錠機(理研精機(株)社製のPCS−700)を用いて圧縮成形した。打錠圧力は200kg/cm2程度とした。これによって多孔質固形物11を得た。この多孔質固形物11は、図1に示すタブレット状であり、直径60mm、厚さ15mm、最大長さD=61.85mmであった。また、この多孔質固形物11の空隙体積は14.5mm3、空隙率は0.346、密度は1.2g/cm3、硬度は147Nであった。この多孔質固形物11と、前記の液体(パルミチン酸イソプロピル)との接触角θは0°であった。更に、この多孔質固形物11の毛管半径は4.3×10-2μmであり、体積基準比表面積は2.46×1072/m3であった。
【0046】
これらの操作とは別に、100×100mmのOPET/Al箔/CPP積層フィルムを材質としたピロー包装体10を用意し、このピロー包装体10内に多孔質固形物11を収容した。次いで、液体12を多孔質固形物11に直接接触するように6g(=7mm3)滴下注入した。このときの液体12及び多孔質固形物11の温度は20℃であった。注入は1秒かけて行った。注入完了後、ピロー包装体10の開口をヒートシールによって密閉封止した。そして、密閉封止されたピロー包装体10内において、多孔質固形物11に液体12を含浸させ、目的とする浴用剤を得た。以上の含浸操作は温度20℃下に行った。
【0047】
〔比較例1〕
実施例1と同様の粉体原料及び液体を、同実施例と同量用いた。しかし、含浸多孔性固形物20の製造方法は、実施例1と異ならせた。詳細には、液体12を6g(=7mm3)、粉体原料中のデキストリン0.5gに吸油させ粉末化した後、残りの粉体原料とともにV型混合器によって30rpmで10分間混合した。混合後の粉体原料56gを、60mmφのスミ角平錠剤用金型及び油圧式手動打錠機を用いて圧縮成形した。打錠圧力は200kg/cm2程度とした。このようにして、目的とする浴用剤を得た。この浴用剤を、実施例1と同様のピロー包装体内に収容し、開口をヒートシールした。
【0048】
〔比較例2〕
実施例1と同様の粉体原料及び液体を用いた。しかし、含浸多孔性固形物20の製造方法は、実施例1と異ならせた。詳細には、粉体原料をV型混合器によって30rpmで10分間混合した。混合した後の粉体原料50gを、60mmφのスミ角平錠剤用金型及び油圧式手動打錠機を用いて圧縮成形した。打錠圧力は200kg/cm2程度とした。得られた多孔質固形物11を、液体を満たしたステンレスバケツ中に30分間浸漬した。次いで該固形物を取り出して、目的とする浴用剤を得た。この浴用剤を、実施例1と同様のピロー包装体内に収容し、開口をヒートシールした。
【0049】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた浴用剤について、以下の方法でキャッピングや欠けの発生の有無、スティッキングの発生の有無、硬度、液体の定量性、液体の均一分散性、成形時の液体の染み出しの有無、外観、製造工程の簡便さを、以下の方法で評価した。その結果を以下の表1に示す。
【0050】
〔キャッピングや欠けの発生の有無〕
10個のサンプルについて行った。目視検査によってキャッピングや欠けの発生の有無を判断し、キャッピングや欠けの発生したものの個数が0個の場合を○、1〜5個の場合を△、5個超の場合を×と評価した。
【0051】
〔スティッキングの発生の有無〕
10個のサンプルについて行った。目視検査によって、スティッキングの発生の有無を判断し、スティッキングの発生したものの個数が0個の場合を○、1〜5個の場合を△、5個超の場合を×と評価した。
【0052】
〔硬度〕
10個のサンプルについて行った。引張・圧縮試験機(エー・アンド・デイ社製 テンシロンRTC-1150A)を用い、浴用剤の半径方向を圧縮して浴用剤が破壊した時の荷重を硬度とした。そして10個のサンプルの平均値を求めた。
【0053】
〔液体の定量性〕
10個のサンプルについて、浴用剤全体の液体量を定量分析し、10個のサンプルの液体量の平均値と目標となる6gとの重量の差の平均値が、5%未満の場合を○、5%以上、10%未満の場合を△、10%以上の場合を×とした。
【0054】
〔液体の均一分散性〕
1つの浴用剤を格子状(約10mm×10mm×15mm)に切断し、切断面の10箇所サンプリングした。サンプリング箇所の液体を定量分析し、各箇所の液体の含有率を測定した。含有率のばらつきが10%未満の場合を○、10%以上、20%未満の場合を△、20%以上の場合を×と評価した。
【0055】
〔成形時の液体の染み出しの有無〕
10個のサンプルについて行った。目視検査によって圧縮成形時の染み出しの発生の有無を判断し、染み出しの発生したものの個数が0個の場合を○、1〜5個の場合を△、5個以上の場合を×と評価した。
【0056】
〔外観〕
10個のサンプルについて目視評価した。粉体中の色素の発色が良い場合を○、発色がやや弱い場合を△、発色が弱い場合を×と評価した。
【0057】
【表1】

【0058】
表1に示す結果から明らかなように、本発明の方法に従い製造された実施例1の浴用剤は、キャッピングや欠けやスティッキングが生じず、液体含浸前の硬度(147N)と比較して硬度の低下が小さく、液体の定量性や均一分散性に優れ、成形時の液体の染み出しがもたらされないことが判る。更に、液体含浸による濡れ感が付与される、粉体に混合した色素の発色が著しく良好となる等外観が良好であり、且つ、製造工程が簡便である液体を混合せずに成形した硬度(147N)と比較して大きく低下することが判る。更に、液体を均一に分散させづらく、液体のしみ出しも起こることが判る。その上、上記のような外観は得られない。比較例2では、液体の定量性に劣り、且つ、また製造工程が簡便でない。
【符号の説明】
【0059】
10 包装体
11 多孔性固形物
12 液体
13 ノズル
20 含浸多孔性固形物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)粉体原料を圧縮成形してなる水溶性及び/又は水分散性の多孔性固形物と、(b)該多孔性固形物中の空隙体積の95体積%以下の量の、該多孔性固形物を実質的に溶解又は分散させず、かつ該多孔性固形物の表面との接触角θが0°≦θ<90°である液体とを、該液体に対して非透過性の包装体内に密閉封入し、該包装体内で該多孔性固形物に該液体を接触させることで、該液体を該多孔性固形物に含浸させる液体含浸多孔性固形物の製造方法。
【請求項2】
前記多孔性固形物として、その外形の最大長さDが3mm≦D≦200mmであるものを用い、かつ
前記多孔性固形物及び前記液体として、それらの物性が以下の関係式を満たすように調整されたものを用いる請求項1記載の製造方法。
【数1】

【請求項3】
前記包装体内での前記多孔性固形物と前記液体との接触が、該包装体の密閉後である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記包装体内での前記多孔性固形物と前記液体との接触が、該包装体の密閉前及び/又は密閉中である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項5】
前記包装体内に前記多孔性固形物を入れた後、前記液体を該多孔性固形物に接触させながら該包装体内に注入し、次いで該包装体を密閉する請求項1、2又は4記載の製造方法。
【請求項6】
前記包装体内に前記液体を注入した後、前記多孔性固形物を該液体に接触させながら該包装体内に入れ、次いで該包装体を密閉する請求項1、2又は4記載の製造方法。
【請求項7】
前記液体含浸多孔性固形物が浴用剤である請求項1ないし6のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−260800(P2010−260800A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111515(P2009−111515)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】