説明

液体噴射へッド、液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置

【課題】接着力を向上すると共に、液体の侵入による破壊や接着剤が異物となるのを抑制できる液体噴射へッド、液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】シリコン酸化膜50側に圧電素子300が形成された第1の基板と、一方面にシリコン酸化膜32が形成された第2の基板30と、を有し、第1の基板と前記第2の基板30とが、それぞれシリコン酸化膜50、32側が互いに接着剤35を介して接合された接合領域Sを有し、接合領域Sには、シリコン酸化膜50、32同士が互いに接着剤35を介して接合された第1接合領域S1と、第1の基板10のシリコン酸化膜50側に設けられて、圧電素子300及び圧電素子300に接続された配線と同じ層構造であって、少なくとも圧電素子300及び配線とは電気的に接続されていない積層体400が設けられた第2接合領域S2と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口から液体を噴射する液体噴射へッド、液体噴射ヘッドユニット及
び液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドであるインクジェット式記録ヘッドとしては、例えば、ノズル開口に連
通する圧力発生室とこの圧力発生室の長手方向一端部側に圧力発生室の短手方向に亘って
設けられて各圧力発生室に連通する連通部とが形成される流路形成基板と、この流路形成
基板の一方面側に形成される圧電素子と、流路形成基板の圧電素子側の面に接着剤を介し
て接合されて、連通部と共にリザーバーの一部を構成するリザーバー部を有するリザーバ
ー形成基板(保護基板)とを具備するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−219243号公報(第3〜5図、第6〜8頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、流路形成基板と保護基板とを接着する際の押圧力によって、接着剤が薄
くなり、接合領域の接着剤不足から接着強度が低下すると共に、接合領域の接着剤不足か
ら接合領域を介してインクが侵入し、圧電素子等の圧力発生手段が破壊されてしまうとい
う問題がある。
【0005】
また、接合領域から押圧力によってはみ出した接着剤が圧電素子等の圧力発生手段に付
着して、圧力発生手段の変形を阻害する要因となると共に、はみ出した接着剤が異物とな
ってノズル開口の目詰まり等の不具合が発生してしまうという問題がある。
【0006】
なお、このような問題はインクジェット式記録ヘッドだけではなく、インク以外の液体
を噴射する液体噴射へッドにおいても同様に存在する。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑み、接着力を向上すると共に、液体の侵入による破壊や接
着剤が異物となるのを抑制することができる液体噴射へッド、液体噴射ヘッドユニット及
び液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の態様は、液体を噴射するノズル開口に連通する第1の流路
が形成された基板の一方面にシリコン酸化膜を形成し、当該シリコン酸化膜側に圧電素子
が形成された第1の基板と、前記第1の流路に連通する第2の流路を有すると共に、一方
面にシリコン酸化膜が形成された第2の基板と、を有し、前記第1の基板と前記第2の基
板とが、それぞれ前記シリコン酸化膜側が互いに接着剤を介して接合された接合領域を有
し、前記接合領域には、前記シリコン酸化膜同士が互いに接着剤を介して接合された第1
接合領域と、前記第1の基板の前記シリコン酸化膜側に設けられて、前記圧電素子及び当
該圧電素子に接続された配線と同じ層構造であって、少なくとも前記圧電素子及び前記配
線とは電気的に接続されていない積層体が設けられた第2接合領域と、を具備することを
特徴とする液体噴射へッドにある。
かかる態様では、積層体を設けることによって、第2接合領域の接着剤の厚さを確保す
ることができ、接合強度を向上すると共に、接合領域を介した液体の侵入を抑制すること
ができる。
【0009】
ここで、前記積層体は、側面が前記配線と同じ層構造で覆われていることが好ましい。
これによれば、積層体の側面を配線と同じ層構造で覆うことで、接着剤と基板との界面に
配線が設けられることとなり、配線によって液体の侵入を抑制して、積層体の層間剥離を
抑制することができる。
【0010】
また、本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射へッドを2以上有することを特徴とす
る液体噴射ヘッドユニットにある。
かかる態様では、耐久性及び信頼性を向上した液体噴射ヘッドユニットを実現できる。
【0011】
さらに、本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射へッドを具備することを特徴とする
液体噴射装置にある。
かかる態様では、耐久性及び信頼性を向上した液体噴射装置を実現できる。
【0012】
ここで、前記液体噴射へッドを2以上有することが好ましい。これによれば、異なる液
体を噴射する液体噴射装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの要部拡大断面図である。
【図4】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図7】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図8】一実施形態に係るインクジェット式記録装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例を示す分解斜視図であり、図
2は、図1の平面図及び断面図である。図示するように、本実施形態の第1の基板である
流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には予め熱酸化により
形成した二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。流路形成基板10には、
第1の流路である圧力発生室12がその幅方向に複数並設されている。また、流路形成基
板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には、インク供給路14と連通路13とが
隔壁によって区画されている。
【0015】
このような流路形成基板10は、シリコンウェハーである流路形成基板用ウェハーに複
数個が一体的に形成され、詳しくは後述するが、この流路形成基板用ウェハーに圧力発生
室12等を形成した後、この流路形成基板用ウェハーを分割することによって形成される

【0016】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反
対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱
溶着フィルム等を介して固着されている。なお、ノズルプレート20は、ガラスセラミッ
クス、シリコン単結晶基板又はステンレス鋼などからなる。
【0017】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜5
0が形成され、この弾性膜50上には、例えば、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55
が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、第1電極60と圧電体層70と第
2電極80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。
なお、本実施形態では、シリコン酸化膜である弾性膜50上に絶縁体膜55を介して圧電
素子300が形成されているが、シリコン酸化膜側に圧電素子300が形成されていると
は、シリコン酸化膜の直上に圧電素子が形成されたものも、また、シリコン酸化膜上に他
の膜(本実施形態では絶縁体膜55)が形成され、他の膜上に圧電素子300が形成され
たものも含むものである。ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び
第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通
電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成す
る。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成さ
れ、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部320という。本
実施形態では、第1電極60は圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子
300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。
何れの場合においても、各圧力発生室毎に圧電体能動部320が形成されていることにな
る。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振
動板とを合わせて圧電アクチュエーターと称する。なお、上述した例では、弾性膜50、
絶縁体膜55及び第1電極60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるもので
はなく、例えば、弾性膜50及び 絶縁体膜55を設けずに、第1電極60のみが振動板
として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねる
ようにしてもよい。
【0018】
また、圧電素子300は、耐湿性を有する絶縁材料からなる保護膜200によって覆わ
れている。本実施形態では、保護膜200を圧電体層70の側面と第2電極80の側面及
び上面の周縁部を覆い、且つ複数の圧電素子300に亘って連続して設けるようにした。
すなわち、第2電極80の上面の略中心領域である主要部は、保護膜200が設けられて
おらず、第2電極80の上面の主要部を開口する開口部201が設けられている。
【0019】
開口部201は、保護膜200を厚さ方向に貫通して圧電素子300の長手方向に沿っ
て矩形状に開口するものであり、例えば、流路形成基板10上の全面に亘って保護膜20
0を形成した後、選択的にパターニングすることで形成することができる。
【0020】
このように圧電素子300を保護膜200で覆うことにより、大気中の水分等に起因す
る圧電素子300の破壊を防止することができる。ここで、このような保護膜200の材
料としては、耐湿性を有する材料であればよいが、例えば、酸化シリコン(SiOx)、
酸化タンタル(TaOx)、酸化アルミニウム(AlOx)等の無機絶縁材料、または、
ポリイミド(PI)等の有機絶縁材料を用いることができる。
【0021】
また、保護膜200に開口部201を設けることにより、保護膜200が圧電素子30
0の変位を阻害することなく、インク吐出特性を良好に保持することができる。
【0022】
なお、保護膜200は、圧電素子300の少なくとも圧電体層70の表面を覆うように
設ければよく、各圧電素子300毎に保護膜を設け、複数の圧電素子300に亘って不連
続となるようにしてもよい。
【0023】
この保護膜200上には、リード電極90が設けられている。リード電極90は、本実
施形態では、例えば、保護膜200上に設けられたニッケル−クロムからなる密着層91
と、密着層91上に設けられて金(Au)等からなる導電層92とを有する。このような
リード電極90は、保護膜200に設けられた連通孔202を介して一端部が第2電極8
0に接続されると共に、他端部が流路形成基板10のインク供給路14とは反対側まで延
設され、延設された先端部が、後述する圧電素子300を駆動する駆動回路120と接続
配線121を介して接続されている。
【0024】
また、流路形成基板10上の圧電素子300側の面には、圧電素子300に相対向する
領域に、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部31が設
けられた第2の基板である保護基板30が接着剤35を介して接着されている。なお、圧
電素子保持部31は、圧電素子300の運動を損害しない程度の空間を有していればよく
、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0025】
また、保護基板30の圧電素子保持部31は、リード電極90の端部を露出する大きさ
で設けられており、保護基板30から露出されたリード電極90の端部が配線121を介
して駆動回路120と接続される。なお、保護基板30の材料としては、例えば、ガラス
、セラミックス材料、金属、樹脂等が挙げられるが、流路形成基板10の熱膨張率と略同
一の材料で形成されていることがより好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同
一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0026】
また、保護基板30の表面には、シリコン単結晶基板を熱酸化することにより形成され
た二酸化シリコンからなる保護基板用保護膜32が設けられている。この保護基板用保護
膜32は、保護基板30に圧電素子保持部31を異方性エッチングで形成する際のマスク
としても使用することができる。
【0027】
このような保護基板30は、流路形成基板10の圧電素子300側の面に接着剤35を
介して接合されている。
【0028】
ここで、図3に示すように、保護基板30と流路形成基板10との接合領域の内、後述
するインク流路が設けられた連通路13側の接合領域Sには、流路形成基板10上に設け
られて圧電素子300及び圧電素子300に接続された配線(本実施形態ではリード電極
90)と同じ層構造を有するが圧電素子300とは電気的に接続されていない積層体40
0が設けられた第1接合領域S1と、二酸化シリコンからなる弾性膜50と、保護基板用
保護膜32とが接着剤35によって直接接着された第2接合領域S2とを有する。
【0029】
すなわち、流路形成基板10上の接合領域S1には、第1電極60と同一層からなるが
、第1電極60と不連続な第1電極積層部61と、圧電体層70と同一層からなるが圧電
体層70と不連続な圧電体層積層部71と、第2電極80と同一層からなるが第2電極8
0と不連続な第2電極積層部81と、が積層されている。また、第2電極積層部81上に
は、保護膜200と同一層からなるが、保護膜200とは不連続な保護膜積層部203と
、リード電極90を構成する密着層91及び導電層92と同一層からなるが、リード電極
90とは不連続となるリード電極積層部93(密着層積層部94及び導電層積層部95)
とが設けられている。
【0030】
そして、これら第1電極積層部61、圧電体層積層部71、第2電極積層部81、保護
膜積層部203、リード電極積層部93によって積層体400が構成されている。具体的
には、積層体400は、第1電極積層部61、圧電体層積層部71、第2電極積層部81
、保護膜積層部203、リード電極積層部93が順次積層されたものであり、リード電極
積層部93は、保護膜積層部203上から積層体400の側面を覆い弾性膜50上まで延
設されている。
【0031】
第2接合領域S2では、流路形成基板10上の絶縁体膜55が除去されて、弾性膜50
が露出されており、流路形成基板10の弾性膜50と保護基板30の保護基板用保護膜3
2とが、接着剤を介して直接接合されている。すなわち、流路形成基板10と保護基板3
0とは、2つのシリコン酸化膜である弾性膜50及び保護基板用保護膜32が直接接着剤
35を介して接合されている。
【0032】
このような第1接合領域S1及び第2接合領域S2の接合領域Sは、第2接合領域S2
がインク流路であるリザーバー105側となり、第1接合領域S1が圧電素子保持部31
側となるように配置されている。
【0033】
このように、接合領域Sに積層体400を設けた第1接合領域S1を設けることで、積
層体400によって、第2接合領域S2の流路形成基板10と保護基板30とのギャップ
を確保し、第2接合領域S2において接着剤35の厚さを確保して、接合強度を向上する
ことができる。また、積層体400を設けることによって、接着剤35を第2接合領域S
2に残存させることができるため、接着剤35が接合領域Sから外側の余分な領域に流出
する量を減少させることができる。これにより、余分な接着剤35の付着による圧電素子
300の変位低下や、接着剤の異物化によるノズル開口21の目詰まり等の不具合を抑制
することができる。
【0034】
また、第2接合領域S2において、シリコン酸化膜である弾性膜50と保護基板用保護
膜32とを接着剤35で直接接着することによって、接合強度を向上することができる。
ちなみに、シリコン酸化膜同士の接着は、酸化ジルコニウムである絶縁体膜55を用いた
場合よりもその強度が高く、また、その他の圧電素子300を構成する各層や配線層に比
べても強度が高い。
【0035】
さらに、第1接合領域S1には、積層体400として、圧電素子300と同一層の第1
電極積層部61、圧電体層積層部71及び第2電極積層部81を積層し、その上に積層体
400の側面を覆い流路形成基板10上に至るまでリード電極と同一層のリード電極積層
部93を設けるようにした。このため、積層体400は、接着剤35と接触する領域の略
全てがリード電極積層部93、特に金(Au)の導電層92と同一層の導電層積層部95
となっている。このように金(Au)からなる導電層積層部95と接着剤35との接着力
は強く、接着強度を確保することができる。また、たとえインクが流路形成基板10や保
護基板30の接着剤35との界面を伝って侵入したとしても、金(Au)からなる導電層
積層部95が圧電素子保持部31側へのインクの侵入を抑制することができると共に、導
電層積層部95が積層体400の層間にインクが侵入するのを抑制して層間剥離を抑制す
ることができる。
【0036】
流路形成基板10及び保護基板30の連通路13側には、これらとは別部材の封止部材
100が設けられており、封止部材100と流路形成基板10及び保護基板30との間に
、連通路13に連通する連通部15と、第2の流路であるリザーバー部33とが画成され
ている。このリザーバー部33は、本実施形態では、保護基板30の側方に厚さ方向に亘
って延設され、上述したように流路形成基板10の連通部15と連通されて各圧力発生室
12の共通のインク室となるリザーバー105を構成している。すなわち、本実施形態で
は、保護基板30の側面によってリザーバー部33の内側面が画成されていることから、
保護基板30に第2の流路であるリザーバー部33が形成されていることになる。
【0037】
さらに、保護基板30及び封止部材100の上側には、これらを跨ぐように、封止膜4
1及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。封止膜41は
、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド
(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバー部33の一方面が封
止されている。また、固定板42は、ステンレス鋼(SUS)等の金属等の硬質の材料で
形成される。この固定板42のリザーバー105に対向する領域は、厚さ方向に完全に除
去された開口部43となっているため、リザーバー105の一方面は可撓性を有する封止
膜41のみで封止されている。
【0038】
なお、このようなインクジェット式記録ヘッドは、図示しない外部インク供給手段から
インクを取り込み、リザーバー105からノズル開口21に至るまで内部をインクで満た
した後、図示しない駆動回路からの記録信号に従い、外部配線を介して圧力発生室12に
対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶
縁体膜55、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生
室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0039】
以下、このような本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法について説
明する。なお、図4〜図7は、インクジェット式記録ヘッドの製造工程を説明する図であ
り、圧力発生室の長手方向の断面図である。
【0040】
まず、図4(a)に示すように、シリコンウェハーである流路形成基板用ウェハー11
0を約1100℃の拡散炉で熱酸化し、その表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン
膜52を形成する。
【0041】
次いで、図4(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜52)上に、ジルコ
ニウム(Zr)層を形成後、例えば、500〜1200℃の拡散炉で熱酸化して酸化ジル
コニウム(ZrO)からなる絶縁体膜55を形成する。また、第2接合領域S2となる
領域の絶縁体膜55を除去して弾性膜50を露出させる。
【0042】
次いで、図4(c)に示すように、例えば、白金とイリジウムとを絶縁体膜55上に積
層することにより第1電極60を形成後、この第1電極60を所定形状にパターニングす
る。このとき、第1電極60の一部を残留させて、積層体400を構成する第1電極積層
部61を同時に形成する。
【0043】
次に、図4(d)に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる
圧電体層70と、例えば、イリジウム(Ir)からなる第2電極80とを流路形成基板用
ウェハー110の全面に形成し、圧電体層70及び第2電極80をパターニングして、各
圧力発生室12となる領域に圧電素子300を形成する。このとき、同時に圧電体層70
及び第2電極80の一部を第1電極積層部61上に残留させることで、圧電体層積層部7
1と第2電極積層部81とを形成する。
【0044】
次いで、図5(a)に示すように、保護膜200を流路形成基板10の全面に亘って形
成し、所定形状にパターニングすると共に開口部201及び連通孔202を形成する。ま
た、このとき、同時に保護膜200の一部を第2電極積層部81上に残留させることで、
保護膜積層部203を形成する。
【0045】
次いで、図5(b)に示すように、リード電極90(密着層91及び導電層92)を流
路形成基板10の全面に亘って形成すると共に圧電素子300毎にパターニングする。こ
のとき、同時にリード電極90の一部を第2電極積層部81上に残留させることで、リー
ド電極積層部93(密着層積層部94及び導電層積層部95)を形成して、積層体400
を形成する。
【0046】
次に、図5(c)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の圧電素子300側に
、シリコンウェハーからなり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハー130を接着
剤35を介して接合する。保護基板30には、圧電素子保持部31が予め形成されている
と共に、保護基板用保護膜32が予め形成されている。この流路形成基板用ウェハー11
0と保護基板用ウェハー130とを接合することにより、両者の接合領域Sには、積層体
400が設けられた第1接合領域S1と、シリコン酸化膜である弾性膜50とシリコン酸
化膜である保護基板用保護膜32とが接着剤35で直接接着された第2接合領域S2とが
形成される。この両者の接着時において、流路形成基板用ウェハー110と保護基板用ウ
ェハー130との接合領域Sの第1接合領域S1には積層体400が設けられているため
、第2接合領域S2では、積層体400の厚さ以上の厚さの接着剤35を形成することが
できる。これにより、接合領域Sの接着剤35を確保して、接合強度を向上することがで
きると共に、接合領域Sを介したインクの侵入を抑制することができる。
【0047】
なお、保護基板用ウェハー130を接合することによって流路形成基板用ウェハー11
0の剛性は著しく向上することになる。
【0048】
次に、図6(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚さに薄くす
る。次いで、図6(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110上に、例えば、窒
化シリコン(SiN)からなるマスク膜51を新たに形成し、所定形状にパターニングす
る。
【0049】
そして、マスク膜51を介して流路形成基板用ウェハー110をアルカリ性のエッチン
グ溶液により異方性エッチングすることにより、図6(c)に示すように、流路形成基板
用ウェハー110に圧力発生室12、連通路13、インク供給路14等を形成する。
【0050】
次に、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130を図7(a)に示
すような一つのヘッドチップのサイズに分割する(流路形成基板10及び保護基板30と
なる)。このとき、連通部15及びリザーバー部33を画成する隔壁の一方側は、流路形
成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130から切り出す必要がないので、ヘ
ッドチップの取り数を10〜20%程度は増大することができる。
【0051】
次いで、図7(b)に示すように、各ヘッドチップに対応する流路形成基板10及び保
護基板30にノズルプレート20及び封止部材100を接着して固定し、さらに、保護基
板30と封止部材100とを跨ぐようにコンプライアンス基板40を接合してリザーバー
部33の上側を封止することにより、上述した連通部15及びリザーバー部33を封止し
、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとする。
【0052】
このように、本実施形態では、連通部15及びリザーバー部33の一部を封止する封止
部材100をウェハーから形成する流路形成基板10及び保護基板30とは別部材として
、ヘッドチップ毎に分割した後、接着するようにしたので、ウェハーでの取り数が増大し
、低コスト化を図ることができる。
【0053】
また、封止部材100は、連通部15及びリザーバー部33を封止するための部材とし
てもよいが、ヘッドチップを固定するケースヘッドに一体的に設けられたものとするのが
好ましい。これによれば、ヘッドチップをケースヘッドに固定する工程で、連通部15及
びリザーバー部33を封止することができ、工程数を省くことができる。
【0054】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに
限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1では、流路形成基板10と保護基
板30との接着領域の内、圧電素子保持部31とリザーバー105との間の接合領域Sに
積層体400を設けるようにしたが、積層体400は、少なくともインク流路であるリザ
ーバー105側に設けられていればよく、圧電素子保持部31の周囲に亘る全ての接着領
域に亘って積層体400を設けるようにしてもよい。
【0055】
また、上述した実施形態1では、保護基板30と封止部材100とが別部材となったイ
ンクジェット式記録ヘッドIを例示したが、特にこれに限定されず、保護基板30と封止
部材100とが一体のインクジェット式記録ヘッドであっても本発明を適用することで同
様の効果を奏することができる。
【0056】
さらに、上述した実施形態1のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等
と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット
式記録装置に搭載される。図8は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図で
ある。
【0057】
図8に示すように、インクジェット式記録ヘッドを有するインクジェット式記録ヘッド
ユニット(液体噴射ヘッドユニット)1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカート
リッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、このインクジェット式記録ヘッドユニット1
A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸
方向移動自在に設けられている。このインクジェット式記録ヘッドユニット1A及び1B
は、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとし
ている。
【0058】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を
介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキ
ャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5
に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙
等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになって
いる。
【0059】
なお、図8に示す例では、インクジェット式記録ヘッドユニット1A、1Bは、それぞ
れ1つのインクジェット式記録ヘッドIを有するものとしたが、特にこれに限定されず、
例えば、1つのインクジェット式記録ヘッドユニット1A又は1Bが2以上のインクジェ
ット式記録ヘッドIを有するようにしてもよい。
【0060】
また、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、
本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射す
る液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例
えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等
のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED
(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchi
p製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0061】
I インクジェット式記録ヘッド(液体噴射へッド)、 II インクジェット式記録
装置(液体噴射装置)、 S 接合領域、 S1 第1接合領域、 S2 第2接合領域
、 10 流路形成基板(第1の基板)、 12 圧力発生室(第1の流路)、 13
連通路、 14 インク供給路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30
保護基板(第2の基板)、 32 保護基板用保護膜(シリコン酸化膜)、 33 リ
ザーバー部(第2の流路)、 35 接着剤、 50 弾性膜(シリコン酸化膜)、 6
0 第1電極、 70 圧電体層、 80 第2電極、 100 封止部材、 105
リザーバー、 110 流路形成基板用ウェハー、 130 保護基板用ウェハー、 2
00 保護膜、 300 圧電素子、 400 積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズル開口に連通する第1の流路が形成された基板の一方面にシリコン
酸化膜を形成し、当該シリコン酸化膜側に圧電素子が形成された第1の基板と、
前記第1の流路に連通する第2の流路を有すると共に、一方面にシリコン酸化膜が形成
された第2の基板と、を有し、
前記第1の基板と前記第2の基板とが、それぞれ前記シリコン酸化膜側が互いに接着剤
を介して接合された接合領域を有し、
前記接合領域には、前記シリコン酸化膜同士が互いに接着剤を介して接合された第1接
合領域と、前記第1の基板の前記シリコン酸化膜側に設けられて、前記圧電素子及び当該
圧電素子に接続された配線と同じ層構造であって、少なくとも前記圧電素子及び前記配線
とは電気的に接続されていない積層体が設けられた第2接合領域と、を具備することを特
徴とする液体噴射へッド。
【請求項2】
前記積層体は、側面が前記配線と同じ層構造で覆われていることを特徴とする請求項1
記載の液体噴射へッド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液体噴射へッドを2以上有することを特徴とする液体噴射ヘッ
ドユニット。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の液体噴射へッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項5】
前記液体噴射へッドを2以上有することを特徴とする請求項4記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−148249(P2011−148249A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12891(P2010−12891)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】