説明

液体噴射ヘッド、および、液体噴射装置

【課題】液体貯留部材を取り付ける際等に発生する衝撃が流路内の液体を伝播することによりメニスカスが破壊されることを抑制できる液体噴射ヘッド、および、液体噴射装置を提供する。
【解決手段】液体貯留部材3内の液体を液体導入部21から液体流路を通じて圧力室43に液体を供給し、圧力発生手段46の作動によって圧力室43内の液体をノズル44から液滴として噴射可能な液体噴射ヘッド2であって、前記液体流路の一部に、弾性部材35で形成した弾性流路部36を設け、該弾性流路部36に下端部が対向すると共に、上端部が液体貯留部材3に当接する当接部材29を備え、該当接部材29は、前記液体貯留部材3の姿勢の変化に応じて上下に移動可能に構成され、該当接部材29の移動により、該当接部材29の下端部が前記弾性流路部36を押し潰して内部の流路を縮小させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録ヘッド等の液体噴射ヘッドに係り、特に、液体貯留部材に貯留された液体を液体導入針を介して圧力室に導入し、この圧力室内に導入した液体をノズルから液滴として吐出する液体噴射ヘッド、および、液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧力室内の液体に圧力変動を生じさせることでノズルから液滴として噴射させる液体噴射ヘッドとしては、例えば、インクジェット式記録装置(以下、単にプリンターという)などの画像記録装置に用いられるインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)、液晶ディスプレイなどのカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)などの電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッドなどがある。
【0003】
例えば、上記のような記録ヘッドでは、図7に示すように、液体状のインクを封入した液体貯留部材としてのインクカートリッジ91に、液体導入部の一種であるインク導入針92を挿入することで、インクカートリッジ91内のインクを記録ヘッド93内のインク流路(インク導入針92内からケース流路95、リザーバー96、インク供給口97、圧力室98を介してノズル99に至る一連の流路)に導入している。これにより、インク流路をインクで満たしている。そして、圧力発生手段(図示せず)の作動によって圧力室98内のインクをノズル99から液滴として噴射している。
【0004】
ところが、インク導入針92にインクカートリッジ91を挿入する際に加わる押圧力や、インク導入針92をインクカートリッジ91に挿入した後のインクカートリッジ91に加わる外的作用(衝撃)等により、インク導入針92に衝撃が加えられるおそれがある。特に、インクカートリッジ91が装着部に対して傾いた状態(図7(a)に示す破線の状態)で取り付けられると、押圧力が偏るおそれがあり、より強い衝撃が発生するおそれがあった。この衝撃による圧力が、インク導入針92内のインクに伝播し、さらにインク流路を介してノズル99に伝播することにより(図7(b)の白矢印)、ノズル99に形成されているメニスカス100が破壊されるおそれがあった。その結果、インクの噴射(吐出)不良が起きるおそれがあった。
【0005】
上記のような不具合を防止するための方法として、インク流路内に弁を設け、衝撃による圧力変動が発生したときに弁を閉じることで、ノズルに衝撃が伝わらないようにすることが挙げられる。このような構造として、例えば、特許文献1には、インク流路内に板ばねにより閉状態に保持された弁体と、下流側が減圧したときに、弁体に当接して該弁体を開状態に変位させるフイルムと、を備え、インク流路内の圧力変動に応じて、弁を開閉する構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−149646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような構造では、インク流路内の圧力に応じたフイルムの変動と板ばねの付勢力により弁を開閉しているため、急激な圧力変動に対応することができなかった。このため、インク導入針にインクカートリッジを挿入する際等に、インク導入針内に急激な圧力変動が発生したとしても、この圧力変動がノズルに伝播することを防ぐことができず、メニスカスの破壊を防ぐことができなかった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、液体貯留部材を取り付ける際等に発生する衝撃が流路内の液体を伝播することによりメニスカスが破壊されることを抑制できる液体噴射ヘッド、および、液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の液体噴射ヘッドは、上記目的を達成するために提案されたものであり、液体貯留部材内の液体を液体導入部から液体流路を通じて圧力室に液体を供給し、圧力発生手段の作動によって圧力室内の液体をノズルから液滴として噴射可能な液体噴射ヘッドであって、
前記液体流路の一部に、弾性部材で形成した弾性流路部を設け、
該弾性流路部に一端部が当接すると共に他端部が液体貯留部材に当接し、前記弾性流路部に対して移動可能に構成された当接部材を備えることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、液体貯留部材の液体導入部への挿入や、液体導入部を液体貯留部材に挿入した後の液体貯留部材に加わる外的作用(衝撃)等により、液体導入部に急激な圧力変動が発生したとしても、当該外的作用による液体貯留部材の姿勢変化に応じて当接部材が移動し、この当接部材の移動により、衝撃が弾性流路部に伝わるよりも先に弾性流路部の流路の幅を縮小させるため、この圧力変動がノズル側に伝播することを抑制することができる。これにより、ノズルに形成されているメニスカスが破壊されることを防止でき、液体の噴射(吐出)不良を防止できる。
【0011】
上記構成において、前記弾性流路部の外周を囲む環状部材を備え、
該環状部材に少なくとも2つ以上の当接部材の他端部を接続し、
少なくとも1つの当接部材の移動により、前記環状部材の前記弾性流路部に対する傾きを変化させることで該環状部材を介して前記弾性流路部を変形させて、当該弾性流路部を押し潰して内部の流路を縮小させることが望ましい。
【0012】
この構成によれば、2つ以上の当接部材が共働して環状部材の姿勢を変化させることで当該環状部材を介して前記弾性流路部をより大きく変形させることができるので、圧力変動がノズル側に伝播することをより確実に抑制することができる。
【0013】
上記各構成において、当接部材の移動により、弾性流路部の内部の流路を遮断するまで縮小させることが望ましい。
【0014】
この構成によれば、弾性流路部の内部の流路を遮断させるため、液体導入部に発生する圧力変動がノズルに伝播することを確実に防ぐことができる。これにより、ノズルに形成されているメニスカスが破壊されることを更に防止でき、液体の噴射(吐出)不良を防止できる。
【0015】
そして、本発明の液体噴射装置は、上記各構成の液体噴射ヘッドを備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】プリンターの斜視図である。
【図2】インクカートリッジを装着した状態における記録ヘッドの断面図である。
【図3】インクカートリッジを傾いた状態で装着する際における記録ヘッドの断面図である。
【図4】アーム部材の移動による弾性流路部の変形を説明する図であり、(a)はアーム部材が移動していない状態の要部拡大図、(b)は一方のアーム部材が下方に移動した状態の要部拡大図である。
【図5】第2の実施形態のインクカートリッジを装着した状態における記録ヘッドの断面図である。
【図6】第2の実施形態のインクカートリッジを傾いた状態で装着する際における記録ヘッドの断面図である。
【図7】従来の記録ヘッドを説明する図であり、(a)は記録ヘッド内の流路の模式図、(b)は領域A拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、本実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッド2(以下、記録ヘッド)を例に挙げて説明する。
【0018】
プリンター1は、記録ヘッド2が取り付けられると共に、液体貯留部材の一種であるインクカートリッジ3が着脱可能に取り付けられるキャリッジ4と、記録ヘッド2の下方に配設されたプラテン5と、キャリッジ4を記録紙6(ノズル44から噴射された液体が着弾する着弾対象の一種)の紙幅方向に移動させるキャリッジ移動機構7と、紙幅方向に直交する方向である紙送り方向に記録紙6を搬送する紙送り機構8等を備えている。ここで、紙幅方向とは、主走査方向(記録ヘッド2の往復移動方向)であり、紙送り方向とは、副走査方向(即ち、記録ヘッド2の走査方向に直交する方向)である。
【0019】
キャリッジ4は、主走査方向に架設されたガイドロッド9に軸支された状態で取り付けられており、キャリッジ移動機構7の作動により、ガイドロッド9に沿って主走査方向に移動するように構成されている。キャリッジ4の主走査方向の位置は、リニアエンコーダー10によって検出され、検出信号が位置情報として制御部(図示せず)に送信される。これにより、制御部はこのリニアエンコーダー10からの位置情報に基づいてキャリッジ4(記録ヘッド2)の走査位置を認識しながら、記録ヘッド2による記録動作(噴射動作)等を制御することができる。
【0020】
次に、インクカートリッジ3および記録ヘッド2の構成について説明する。図2は、インクカートリッジ3を装着した状態における記録ヘッド2の断面図である。インクカートリッジ3は、例えば熱可塑性プラスチック等の成型により作製された箱状のケース12を備え、このケース12内には収容室13が形成されている。この収容室13には、インク保持材が収容されている。インク保持材は、本発明における液体の一種であるインクを吸収し保持する。このインク保持材としては、例えば、スポンジ状の発泡素材14が好適に用いられる。また、インクカートリッジ3(ケース12)の底面部には、記録ヘッド2のインク導入針21が挿入される針挿入部15と、後述するアーム部材29(本発明における当接部材に相当)の上端面が当接するアーム当接部16と、が形成されている。針挿入部15は、開口部分の内周面にパッキン17が設けられている。このパッキン17は、針挿入部15内にインク導入針21が挿入されると、インク導入針21の外周面に液密状態で密着し、インクカートリッジ3内に貯留されたインクがカートリッジ外部に漏れ出すことを防止する。アーム当接部16は、針挿入部15を挟んだ副走査方向の両側に合計2箇所設けられており、下方(記録ヘッド2側)に向けて凸状に形成されている。このアーム当接部16の下端面にアーム部材29の上端面が当接する。後述するようにアーム部材29はバネ部材31によって上方(カートリッジ装着部20から離隔する側)に付勢されている。さらに、副走査方向側のケース12の両側面には、後述する保持部材27の突起部27bに係合される係合受け部18が内側に凹んだ状態で形成されている。したがって、インクカートリッジ3は、カートリッジ装着部20に装着されると、アーム部材29からの付勢力を受けつつ保持部材27の突起部27bが係合受け部18に嵌合することによって所定の位置に保持される。なお、インクカートリッジ3(液体貯留部材)に関し、例示したものには限られず、種々の構成のものを用いることができる。
【0021】
記録ヘッド2は、カートリッジ装着部20に立設されたインク導入針21(本発明における液体導入部に相当)を有する導入針ホルダー22と、この導入針ホルダー22の下部に接続される記録ヘッド本体23と、を備えている。
【0022】
導入針ホルダー22は、上面を形成する上板部22aと、その周縁部から下方に向けて延出し、下端が記録ヘッド本体23に当接する側板部22bと、を有する中空箱体状に作製され、例えば合成樹脂によって形成される。この導入針ホルダー22の上板部22aの上面には、図2に示すように、複数のカートリッジ装着部20が設けられている。各カートリッジ装着部20には、先端側が先細り形状(円錐形状)に形成されたインク導入針21が、先端部を上方に突出させた状態でそれぞれ取り付けられている。このインク導入針21は、内部にフィルター24を備えた導入針流路25が形成されており、その先端部にはインクカートリッジ3内のインクを導入針流路25に導入するインク導入孔26が複数開設されている。また、カートリッジ装着部20の副走査方向における両側には、インクカートリッジ3を把持する保持部材27が設けられている。各保持部材27は、薄板状の板部27aをカートリッジ装着部20から上側(インクカートリッジ3側)に向けて延出しており、その先端部分にインクカートリッジ3の係合受け部18に係合する突起部27bをインクカートリッジ3側へ向けて突出している。互いに対向する突起部27bの先端同士の距離は、インクカートリッジ3の奥行き(副走査方向に対応する方向の寸法)よりも少し短く設定されている。そして、これらの保持部材27は、インクカートリッジ3が上方から押し込まれて、カートリッジ装着部20に取り付けられる際に、少なくとも一方の板部27aが、インクカートリッジ3からの押圧を受けて撓んで(あるいは、突起部27bが変形して)、インクカートリッジ3の下端部の挿入を許容する。その後インクカートリッジ3がカートリッジ装着部20側にさらに押し込まれると、係合受け部18に突起部27bが係合し、この時点で、保持部材27がその弾性により元の形状に復帰する。なお、各カートリッジ装着部20には、各種インク(例えば、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、ブラックインク)を貯留したインクカートリッジ3が装着される。
【0023】
また、カートリッジ装着部20の副走査方向における両側であって、保持部材27とインク導入針21の間には、アーム部材29が挿通されるアーム挿通孔30が、外側(保持部材27側)から内側(後述する流路形成管32の弾性流路部36側)に向けて斜めに上板部22aを貫通した状態で、それぞれ2つ形成されている。アーム部材29は、インクカートリッジ3の姿勢の変化に応じて上下方向(斜めも含む)に移動可能に構成され、下端部が弾性流路部36に対向すると共に、上端部がインクカートリッジ3に当接する棒状の部材である。本実施形態のアーム部材29は、下端部が後述する環状部材37に接続される棒状部29aと、その上端部においてフランジ状に形成された当接部29bと、から構成される。この当接部29bの上面にインクカートリッジ3のアーム当接部16が当接する。また、当接部29bの下面と上板部22aにおけるアーム挿通孔30の開口周縁部との間には、棒状部29aの周囲に巻かれたバネ部材31が設けられている。このバネ部材31の一端は、アーム挿通孔30の開口周縁部に当接され、バネ部材31の他端は、アーム挿通孔30の縁に当接されている。このバネ部材31の付勢力と図示しないストッパーによって、アーム部材29は所定の高さに保持されている。そして、インクカートリッジ3を装着する際に、インクカートリッジ3およびアーム部材29が所定位置よりも下方に移動したとしても、バネ部材31の付勢力によって、インクカートリッジ3およびアーム部材29を所定の位置まで押し戻すことができる。
【0024】
さらに、上記カートリッジ装着部20とは反対側となるインク導入針21の下面には、複数のインク導入針21に対応して、記録ヘッド本体23に向けて管状の流路形成管32が複数形成されている。この流路形成管32の内部には、上流側で導入針流路25に連通し、下流側で後述するヘッドケース39のケース流路40と連通する連通流路33が形成されている。本実施形態では、流路形成管32は、上板部22aの下面から、鉛直下方向に延出した鉛直部分と、その下端部から対応するヘッドケース39のケース流路40に向けて、副走査方向および主走査方向に傾斜した傾斜部分とから構成されている。そして、流路形成管32の鉛直部分の一部に、管自体がゴム等の弾性部材35で形成された弾性流路部36が設けられている。この弾性流路部36の上下(インク流下方向)略中央部分の周囲には、該弾性流路部36の外周を囲む環状部材37が設けられている。この環状部材37には、上記したアーム部材29の棒状部29aの下端部が2つ接続されている。アーム部材29が移動していない状態では、環状部材37が、カートリッジ装着部20(導入針ホルダー22の上板部22a)に対して平行な状態で弾性流路部36の中央部に保持される。本実施形態の環状部材37は、弾性流路部36を挟んだ副走査方向の両側に、2本の棒状部29aの下端部がそれぞれ接続されている。また、環状部材37の内径は、弾性流路部36の側部において上下動可能なように、流路形成管32の外形よりも僅かに大きく形成されている。そして、インクカートリッジ3に押圧されてアーム部材29が移動すると、アーム部材29の下端部が環状部材37を介して弾性流路部36を押し潰し、内部の流路を縮小させる。この点に関しては、後で説明する。
【0025】
記録ヘッド本体23は、合成樹脂製のヘッドケース39を備え、ヘッドケース39の内部には、ケース流路40と、該ケース流路40と連通するリザーバー41、インク供給口42、圧力室43、及びノズル44に至るまでのインク流路と、圧力発生手段の一種として機能する圧電振動子46と、が設けられている。なお、本実施形態では、インク導入針21の導入針流路25から、連通流路33、ケース流路40、リザーバー41、およびインク供給口42を介して圧力室43に至る一連のインク流路が本発明の液体流路に相当する。
【0026】
ケース流路40は、一端(上流端)が連通流路33に連通し、他端がリザーバー41に連通した流路である。本実施形態のケース流路40は、鉛直方向(カートリッジ装着部20(導入針ホルダー22の上板部22a)に対して垂直な方向)に延在している。リザーバー41は、複数の圧力室43に共通の空部であり、インクの種類、即ち、インクの色毎に設けられている。各圧力室43は、インク供給口42を介してリザーバー41と連通している。したがって、リザーバー41内のインクは、インク供給口42を通じて圧力室43に供給される。インク供給口42は、圧力室43よりも狭い幅で形成されており、リザーバー41から圧力室43に流入するインクに対して一定の流路抵抗を付与する。また、圧力室43は、ノズル44の列設方向(ノズル列方向)に対して直交する方向に細長い室として形成されている。
【0027】
ノズル44は、記録ヘッド本体23の底面(ノズル形成面45)にドット形成密度に対応したピッチ(例えば、180dpi)で主走査方向に沿って複数開設されている。詳しく説明すると、ノズル44は、ノズル形成面45側(記録紙6側)に向けて内径が縮径したテーパー部と、ノズル形成面45に対して軸が垂直となるように形成された内径が一定のストレート部と、を有している。テーパー部の一端(上端)は、圧力室43内に開口し、テーパー部の他端はストレート部と連通している。また、ストレート部のテーパー部とは反対側は、ノズル形成面45に開口している。そして、このストレート部にメニスカスが形成されている。なお、本実施形態では、例えば、180個のノズル44を列状に開設し、これらのノズル44によってノズル列を構成している。
【0028】
圧力室43の上面には、可撓性を有する作動面47が設けられている。この作動面47の圧力室43とは反対側の面には、圧電振動子46が形成されている。圧電振動子46は、例えば、所謂撓み振動モードの圧電振動子46であり、駆動電極48と共通電極49とによって圧電体50を挟んで構成されている。そして、圧電振動子46の駆動電極48に駆動電圧(駆動パルス)が印加されると、駆動電極48と共通電極49との間には電位差に応じた電場が発生する。この電場は圧電体50に付与され、圧電体50が付与された電場の強さに応じて変形する。即ち、駆動電極48の電位を高くする程、圧電体50の中央部が圧力室43の内側(ノズル44側)に撓み、圧力室43の容積を減少させるように作動面47を変形させる。一方、駆動電極48の電位を低くする程(0に近づける程)、圧電体50の中央部が圧力室43の外側(ノズル形成面45から離れる側)に撓み、圧力室43の容積を増加させるように作動面47を変形させる。なお、圧力発生手段としては、上記圧電振動子46以外にも、静電アクチュエーター、磁歪素子、発熱素子等を用いることができる。
【0029】
そして、上記のように圧電振動子46を作動させると、圧力室43の容積を変化させることができる。これにより、圧力室43内のインクに圧力変動が生じるので、当該圧力変動を利用してノズル44からインクを噴射させることができる。例えば、圧電振動子46を充電して圧力室43を膨張させ、その後、圧電振動子46を急激に放電して圧力室43を収縮させると、圧力室43の膨張によって圧力室43内に流入したインクが急激に加圧され、ノズル44からインク滴が噴射される。
【0030】
次に、インクカートリッジ3の上記のように構成した記録ヘッド2への装着について説明する。インクカートリッジ3は、上記したようにカートリッジ装着部20に装着される。このインクカートリッジ3の着脱は手動で行われるため、その底面をカートリッジ装着部20に対して平行な状態にして取り付けることは困難である。このため、インクカートリッジ3が、カートリッジ装着部20に対して傾いた状態で取り付けられることがある。例えば、図3に示すように、インクカートリッジ3を傾けた状態(図3では、左側が下方(記録ヘッド2側)に傾けた状態)でカートリッジ装着部20内に挿入すると、一方(図3における左側)の保持部材27がインクカートリッジ3からの押圧を受けて側方に向けて撓み、インクカートリッジ3の進入を許容する。さらに、インクカートリッジ3を下方向けて進入させれば、針挿入部15内にインク導入針21が挿入されると共に、アーム当接部16の下端にアーム部材29の上端(当接部29b)が当接し、バネ部材31の付勢力に抗しつつアーム部材29が下方に押し下げられる。このとき、図3に示すように、インクカートリッジ3が傾いているため、一方のアーム部材29には、他方のアーム部材29よりも強い押圧力がかかる。このため、図3または図4(b)に示すように、一方のアーム部材29が、他方のアーム部材29よりも下方に押し下げられる。これに伴って、環状部材37は、押し下げられたアーム部材29側の端部が下方に押し下げられ、弾性流路部36に対して傾斜する(平面(弾性流路部36の断面)に対する環状部材37の投影面積が減少する)。これにより、弾性流路部36が押圧されて変形し、内部の流路が押し潰されて、その幅を縮小させる。また、インクカートリッジ3の傾きがより大きい場合、一方のアーム部材29が下方に移動する一方で、他方のアーム部材29が上方に移動する。この場合、両方のアーム部材29が共働して環状部材37をより大きく傾けるので、その分、弾性流路部36の内部の流路の幅がより縮小される。
【0031】
その後、手動によるインクカートリッジ3に対する押圧が解除されると、インクカートリッジ3は、バネ部材31の付勢力により、それぞれのアーム部材29の当接部29bを介して上方に押圧される。これにより、その姿勢がカートリッジ装着部20に対して平行になると共に、係合受け部18が保持部材27の突起部27bに係合して、インクカートリッジ3が所定の位置に保持される。また、これに伴い、環状部材37は、元の姿勢(すなわち、カートリッジ装着部20に対して平行な姿勢)に復帰し、弾性流路部36の押圧を解除する。なお、本実施形態では、手動によるインクカートリッジ3の取り付け時に当該インクカートリッジ3の姿勢が傾斜する場合について例示したが、振動などの他の外的作用によりインクカートリッジ3の姿勢が傾斜した場合においても、アーム部材29や環状部材37等が上記したような作用を奏する。
【0032】
このように、例えば、インクカートリッジ3のインク導入針21への挿入や、インク導入針21をインクカートリッジ3に挿入した後のインクカートリッジ3に加わる外的作用(衝撃)等により、インク導入針21に急激な圧力変動が発生したとしても、インクカートリッジ3に当接するアーム部材29が、インクカートリッジ3の姿勢の変化に応じて移動し、このアーム部材29の移動により、衝撃が弾性流路部36に伝わるよりも先に弾性流路部36の流路の幅を縮小させる。このため、インク導入針21内のインクに生じた圧力変動がノズル44側のインクに伝播することを抑制することができる。これにより、ノズル44に形成されているメニスカスが破壊されることを防止でき、液体の噴射(吐出)不良を防止できる。なお、環状部材37の傾き変位量に対して、弾性流路部36の内部の流路の幅を十分細くすることにより、弾性流路部36の内部の流路を遮断するまで縮小させることもできる。このようにすれば、インク導入針21に発生する圧力変動がノズル44に伝播することを確実に防ぐことができる。これにより、ノズル44に形成されているメニスカスが破壊されることを更に防止でき、液体の噴射(吐出)不良を防止できる。
【0033】
また、本実施形態では、インクカートリッジ3の姿勢変化に応じて、各アーム部材29が共働して環状部材37の姿勢を変化させることで当該環状部材37を介して弾性流路部36をより大きく変形させることができるので、圧力変動がノズル側44に伝播することをより確実に抑制することができる。
【0034】
ところで、上記第1の実施形態では、弾性流路部36を流路形成管32の鉛直部分の一部に設けたが、これには限られない。例えば、図5に示す、第2の実施形態は、ケース流路40′の一部に弾性流路部36′を設けている点、アーム部材29′の下端部に環状部材37を設けず、アーム部材29′の下端部を弾性流路部36′に直接対向させている点等において、第1の実施形態と異なる。
【0035】
詳しく説明すると、流路形成管32′は、導入針ホルダー22の上板部22aの下面から対応するヘッドケース39のケース流路40′の開口に向けて、アーム部材29′と干渉しないように副走査方向および主走査方向に傾斜した傾斜部分のみから構成されている。また、ケース流路40′は、断面においてカートリッジ装着部20(導入針ホルダー22の上板部22a)に対して平行な方向に延在した横流路40a′と、横流路40a′より下流側に位置し、横流路40a′に対して垂直な方向に延在した縦流路40b′とから構成されている。この縦流路40b′の下側(ノズル形成面45側)の端部は、リザーバー41に向けて屈曲してリザーバー41と連通している。また、横流路40a′の上流側の一部には流路形成管32′に対応して開口部40c′が形成され、この開口部40c′を介して連通流路33′の下端と横流路40a′が液密に連通している。そして、この開口部40c′より下流側(縦流路40b′側)であって、横流路40a′の一部には、その流路の上面のみを弾性部材35′で形成した弾性流路部36′が設けられている。この弾性流路部36′の上壁部(弾性部材35′)の上面にアーム部材29′の下端部が直接当接されている。なお、アーム部材29′の下端部は、必ずしも弾性流路部36′に当接させる必要は無く、間隙を設けても良い。この間隙を調節することで、アーム部材29′の移動に対する遊びを調節することができる。なお、その他の構成は、第1の実施形態と同じであるため、説明を省略する。
【0036】
第2の実施形態においては、図6に示すように、インクカートリッジ3を傾けた状態(図6では、左側が下方(記録ヘッド2側)に傾けた状態)でカートリッジ装着部20内に進入させると、アーム当接部16の下端にアーム部材29′の上端(当接部29b′)が当接し、一方(図6における左側)のアーム部材29′を下方に押し下げる。これにより、アーム部材29′の下端が弾性流路部36′を押圧し、弾性流路部36′の内部の流路を押し潰して、その幅を縮小させる。なお、本実施形態では、アーム部材29′の変位量に対し、横流路40a′(弾性流路部36′)を十分に細くしているため、弾性流路部36′の内部の流路を遮断するまで縮小させることができる。
【0037】
このように、例えば、インクカートリッジ3のインク導入針21への挿入や、インク導入針21をインクカートリッジ3に挿入した後のインクカートリッジ3に加わる外的作用(衝撃)等により、インク導入針21に急激な圧力変動が発生したとしても、インクカートリッジ3に当接するアーム部材29′が、インクカートリッジ3の姿勢の変化に応じて移動し、このアーム部材29′の移動により、衝撃が弾性流路部36′に伝わるよりも先に弾性流路部36′の流路の幅を縮小させる。このため、インク導入針21内のインクに生じた圧力変動がノズル44内のインクに伝播することを抑制することができる。これにより、ノズル44に形成されているメニスカスが破壊されることを防止でき、液体の噴射(吐出)不良を防止できる。また、本実施形態では、弾性流路部36′の内部の流路を遮断するまで縮小させているため、インク導入針21に発生する圧力変動がノズル44に伝播することを確実に防ぐことができる。これにより、ノズル44に形成されているメニスカスが破壊されることを更に防止でき、液体の噴射(吐出)不良を防止できる。
【0038】
なお、上記各実施形態では、アーム部材は2つ設けたが、これには限られない。第1の実施形態のように環状部材を設ける場合は、少なくとも2つ以上のアーム部材を設ければよく、第2の実施形態のように環状部材を設けない場合は、少なくとも1つ以上のアーム部材を設ければよい。
【0039】
また、以上の説明では、液体噴射ヘッドの一種である記録ヘッドを例に挙げて説明したが、本発明は、液体貯留部材からの液体を導入する構成を採用する他の液体噴射ヘッドにも適用することができる。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1…プリンター,2…記録ヘッド,3…インクカートリッジ,20…カートリッジ装着部,21…インク導入針,29…アーム部材,32…流路形成管,33…連通流路,35…弾性部材,36…弾性流路部,37…環状部材,40…ケース流路,43…圧力室,44…ノズル,46…圧電振動子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体貯留部材内の液体を液体導入部から液体流路を通じて圧力室に液体を供給し、圧力発生手段の作動によって圧力室内の液体をノズルから液滴として噴射可能な液体噴射ヘッドであって、
前記液体流路の一部に、弾性部材で形成した弾性流路部を設け、
該弾性流路部に一端部が当接すると共に他端部が液体貯留部材に当接し、前記弾性流路部に対して移動可能に構成された当接部材を備えることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記弾性流路部の外周を囲む環状部材を備え、
該環状部材に少なくとも2つ以上の当接部材の他端部を接続し、
少なくとも1つの当接部材の移動により、前記環状部材の前記弾性流路部に対する傾きを変化させることで該環状部材を介して前記弾性流路部を変形させて、当該弾性流路部を押し潰して内部の流路を縮小させることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
当接部材の移動により、弾性流路部の内部の流路を遮断するまで縮小させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドを備えることを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−218168(P2012−218168A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82509(P2011−82509)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】