説明

液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置

【課題】液体の増粘に伴うノズル開口の目詰まりを抑制するとともにインクが無駄に消費されることを抑えることが可能な液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置を提供する。
【解決手段】本発明の液体噴射ヘッド4は、ノズル面17にインクを噴射する複数のノズル開口16Aからなるノズル開口列Lが複数形成された液体噴射ヘッドであって、ノズル開口列Lごとに当該ノズル開口列Lと平行に配置され、ノズル開口列Lを露出させるように互いに離間した第1の状態と、外周面どうしが接触する第2の状態との間で変形可能な一対の可撓性チューブ51,51と、可撓性チューブ51,51内の圧力を制御することによって当該可撓性チューブ51,51を第1の状態と第2の状態との間で弾性変形させるアクチュエーター54と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液体噴射装置の一種としてインクジェット式プリンタ(以下、「プリンタ」という)がある。このプリンタは、キャリッジに搭載された液体噴射ヘッド(以下、「ヘッド」という)の複数のノズルからプラテン上に配置された記録媒体にインク(液体)を噴射することで印刷を行っている。
【0003】
このようなプリンタにあっては、ノズルにおける紙粉及びゴミ等の異物の付着、非吐出ノズルにおけるノズル開口からのインク溶媒の蒸発に起因するインク粘度の上昇や、インクの固化、塵埃の付着、さらには気泡の混入などによりノズル開口に目詰まりを発生し、印刷不良を起こすという問題がある。そこで、このようなプリンタでは、記録紙に対して行われるインクの噴射とは別に、ノズル開口内のインクを強制的に吐出させるフラッシング動作を行うようにしている。
【0004】
インクの増粘を抑制する方法としては、例えば、ノズル面に油を供給することによってノズル開口を保湿し、ノズル開口の乾燥を防ぐ方法(特許文献1)や、ノズル面上を摺動するとともにノズル開口に対して進退する進退部材を有し、この進退部材によってノズル開口を閉塞する方法(特許文献2)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−274418号公報
【特許文献2】特開2009−274257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、フラッシング動作において排出されたインクはそのまま廃棄されるため、インクにかかるランニングコストが高くなるという問題がある。特に、少数の異常ノズルを復旧させるために多数のノズル開口からインクが吸引される場合は、印刷に使用されるべきインクが無駄に消費されることになる。
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであって、液体の増粘に伴うノズル開口の目詰まりを抑制するとともにインクが無駄に消費されることを抑えることが可能な液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液体噴射ヘッドは、ノズル面に液体を噴射する複数のノズル開口からなるノズル開口列が複数形成された液体噴射ヘッドであって、前記ノズル開口列ごとに当該ノズル開口列と平行にして前記ノズル面上に配置され、前記ノズル開口列を露出させる第1の状態と前記ノズル開口列を閉塞する第2の状態との間で変形可能な一対のチューブと、前記チューブ内の圧力を制御することによって当該チューブを前記第1の状態と前記第2の状態との間で変形させる制御部と、を有する閉塞手段を備えてなる。
【0009】
これによれば、制御部の作用により、ノズル開口列ごとに設けられた一対のチューブを、ノズル開口列を露出させる第1の状態と、ノズル開口列を閉塞する第2の状態と、の間で変形させることにより、ノズル開口列を構成する複数のノズル開口から液体を噴射しないときは、ノズル開口における液体の乾燥を防いで、液体の増粘を抑制することができる。また、増粘した液体に起因して生じるノズル開口の目詰まりが抑制される。このため、目詰まり解消のために行われるフラッシング動作時の廃棄液体量を減らすことができる。これにより、印刷に使用されるべき液体が無駄に消費されるのを防いで、液体にかかるランニングコストを低く抑えられる。また、フラッシング動作時間の短縮が図れ、さらにはフラッシング動作自体を無くすことも可能である。
【0010】
また、前記チューブ内には液体あるいは空気が充填されており、前記制御部は、前記チューブ内を減圧あるいは加圧することで前記チューブ内の前記液体あるいは前記空気の量を制御する機能を有する構成としてもよい。
【0011】
これによれば、チューブ内に充填されている液体あるいは空気の量を制御することによって、チューブの形状を第1の状態と第2の状態との間で容易に変形させることが可能である。
【0012】
また、前記一対のチューブにおける前記第1の状態と前記第2の状態との間の変形が、前記一対のチューブの外周面どうしが離れている状態と、前記一対のチューブの前記外周面どうしが接触した状態との間の変形である構成としてもよい。
【0013】
ここでは、一対のチューブを、それぞれの外周面どうしが離れている第1の状態と、外周面どうしが接触している第2の状態との間で変形させることにより、ノズル開口列の開閉(露出あるいは閉塞)を行っている。つまり、ノズル面上に設けられた一対のチューブを拡径あるいは縮径させることによってノズル開口列の開閉を行うことにより、ノズル開口列が閉塞された第2の状態において、ノズル開口列のノズル開口における液体の乾燥を抑制することができる。
【0014】
また、前記ノズル面上に、複数の前記ノズル開口列を露出させる複数の開口部を有した保持部材が設けられており、各開口部内に前記一対のチューブが保持されている構成としてもよい。
【0015】
これによれば、保持部材の開口部内に一対のチューブを配置することにより、第1の状態と第2の状態との間で変形する一対のチューブの位置を規制することができるので、これら一対のチューブによってノズル開口列を確実に閉塞させることが可能となる。また、開口部内に配置された一対のチューブを所定の大きさまで拡径させることで、外周面どうしを圧接させることが可能となる。これにより、外周面間に隙間が生じることがなく、ノズル開口列におけるノズル開口の液体の乾燥抑制効果が高まる。
【0016】
また、前記制御部は、前記ノズル開口列ごとに設けられた前記一対のチューブを選択的に変形させる機能を有する構成としてもよい。
【0017】
これによれば、ノズル開口列ごとに設けられた一対のチューブを選択的に変形させることにより、印刷時に未使用となるノズル開口列におけるノズル開口の液体の乾燥を抑制することができる。
【0018】
また、前記第2の状態において前記一対のチューブどうしが圧接している構成としてもよい。
【0019】
これによれば、振動等が生じた場合でも一対のチューブの外周面同士の間に隙間が生じることがないため、ノズル開口列におけるノズル開口の液体の乾燥抑制効果が高まる。
【0020】
本発明の液体噴射装置は、上記の液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドが搭載されたキャリッジと、前記液体噴射ヘッドに対してメンテナンス処理を実施するメンテナンス装置と、を備え、前記メンテナンス装置は、前記液体噴射ヘッドの前記ノズル開口から前記液体を排出させるキャッピング装置を含んでいる。
【0021】
これによれば、上記した本発明の閉塞手段を備えた液体噴射ヘッドを備えていることから、液体噴射ヘッドにおける液体の噴射不良が抑制される。このため、噴射不良改善のために実施されるフラッシング動作時の廃棄液体量を減らすことができる。これにより、印刷に使用されるべき液体が無駄に消費されるのを防いで、液体にかかるランニングコストを低く抑えられる。また、フラッシング動作自体を無くすことも可能である。
【0022】
また、前記液体噴射ヘッドにおける前記閉塞手段の前記制御部は、前記液体噴射ヘッドの前記ノズル面を閉塞したキャッピング装置内が減圧された際に、前記一対のチューブを前記第1の状態から前記第2の状態へと変形させる構成としてもよい。
【0023】
これによれば、一対のチューブとノズル面との間に形成される隙間が減圧状態となるので、ノズル開口列の液体の乾燥をより確実に抑制することができる。この場合には、液体噴射ヘッドに対するフラッシング動作をなくすことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態に係るプリンタの構成を示す斜視図。
【図2】実施形態に係るプリンタの構成を示す平面図。
【図3】液体噴射ヘッドの断面図。
【図4】(a)は、液体噴射ヘッドをノズル面側から視た平面構成を示す図であって、閉塞手段の概略構成を示す平面図、(b)は液体噴射ヘッドの概略構成を示す断面図。
【図5】ノズル開口列の閉状態(閉塞状態)を示す図。
【図6】ノズル開口列の開状態(噴射可能状態)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る流体噴射装置の実施形態について、図を参照して説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。本実施形態においては、流体噴射装置の一例として、記録媒体である記録紙にインク(流体)の滴を吐出(噴射)して、その記録紙に対する記録を実行するインクジェットプリンタ(以下、プリンタと称す)について説明する。
【0026】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態に係るプリンタの構成を示す斜視図、図2は、本実施形態に係るプリンタの構成を示す平面図である。
図1及び図2に示すように、プリンタ(液体噴射装置)1は、インク(液体)により記録紙に対する記録を実行する記録ユニット2と、記録紙を搬送する記録紙搬送機構3とを備えている。
記録ユニット2は、インクを噴射する液体噴射ヘッド4と、液体噴射ヘッド4を支持しながら移動可能なキャリッジ5と、液体噴射ヘッド4及びキャリッジ5と対向する位置に配置され、インクが噴射される記録紙を支持するプラテン6とを含む。
【0027】
プリンタ1は、キャリッジ5を移動するモータ等を含むキャリッジ駆動装置7と、キャリッジ5の移動を案内するキャリッジガイド部材とを備えている。
キャリッジ5は、キャリッジガイド部材に案内されながら、キャリッジ駆動装置7によって、主走査方向に移動する。記録紙は、記録紙搬送機構3により、記録ユニット2に対して、主走査方向と交差する副走査方向に移動する。
【0028】
また、プリンタ1は、記録紙を収容する給紙カセット9を備えている。
給紙カセット9は、プリンタ1の本体の背面側に、着脱可能に設けられている。給紙カセット9は、積層された複数の記録紙を収容可能に設けられている。
【0029】
記録紙搬送機構3は、給紙カセット9の記録紙を搬出するための給紙ローラと、給紙ローラを駆動するモータ等を含む給紙ローラ駆動装置10と、記録紙の移動を案内する記録紙ガイド部材11と、給紙ローラに対して搬送方向の下流側に配置されている搬送ローラと、搬送ローラを駆動する搬送ローラ駆動装置と、記録ユニット2に対して搬送方向の下流側に配置されている排出ローラとを有している。
【0030】
給紙ローラは、給紙カセット9に積層されている複数の記録紙のうち、最も上側に配置されている記録紙をピックアップし、給紙カセット9より搬出可能に構成されている。給紙カセット9の記録紙は、記録紙ガイド部材11に案内されながら、給紙ローラ駆動装置10によって駆動する給紙ローラによって、搬送ローラに送られる。搬送ローラに送られた記録紙は、搬送ローラ駆動装置によって駆動する搬送ローラにより、搬送方向の下流側に配置された記録ユニット2に搬送される。
【0031】
記録ユニット2のプラテン6は、液体噴射ヘッド4及びキャリッジ5と対向する位置に配置され、記録紙の下面を支持する。液体噴射ヘッド4及びキャリッジ5は、プラテン6の上方に配置されている。記録紙搬送機構3は、記録ユニット2による記録動作と連動して、記録紙を副走査方向に搬送する。記録ユニット2で記録された記録紙は、排出ローラを含む記録紙搬送機構3によって、プリンタ1の正面側から排出される。
【0032】
また、プリンタ1は、インクカートリッジ(液体貯留部)のインクをキャリッジ5の液体噴射ヘッド4に供給するインク供給チューブ12を備えている。インクカートリッジのインクは、インク供給針を介してインク供給路に供給され、そのインク供給路より、インク供給チューブ12を介して、キャリッジ5の液体噴射ヘッド4に供給される。また、プリンタ1は、液体噴射ヘッド4をメンテナンス可能なメンテナンス装置13を備えている。
【0033】
メンテナンス装置13は、キャッピング装置14及びワイピング装置15を含んでいる。キャッピング装置14は、液体噴射ヘッド4のノズルからインクを強制的に排出させる吸引動作や、非印刷処理時におけるノズル16の乾燥を抑制するためのものである。また、ワイピング装置15は液体噴射ヘッド4のノズル基板表面を払拭するワイプ部材44を備えたものである。このワイプ部材44は、エラストマー等の弾性部材から構成されている。
【0034】
また、メンテナンス装置13は、キャリッジ5及び液体噴射ヘッド4のホームポジションに配置されている。ホームポジションは、キャリッジ5の移動領域内であって、記録ユニット2による記録動作が実行される記録領域の外側の端部領域に設定されている。電源が切断されている間、あるいは長時間に亘って記録動作が実行されない場合、キャリッジ5及び液体噴射ヘッド4は、ホームポジションに配置される。
【0035】
図3は、液体噴射ヘッドの断面図である。
図3に示すように、液体噴射ヘッド4は、ヘッド本体18と、振動板19、流路基板20、及びノズル基板21を含む流路形成ユニット22とを備えている。ノズル16は、ノズル基板21に形成されている。流路形成ユニット22は、振動板19、流路基板20、及びノズル基板21を積層し、接着剤等で接合して一体にしたものである。
【0036】
液体噴射ヘッド4は、ヘッド本体18の内部に形成された収容空間23と、収容空間23に配置された駆動ユニット24とを備えている。駆動ユニット24は、複数の圧電素子25と、圧電素子25の上端を支持する固定部材26と、駆動信号を圧電素子25に供給する柔軟なケーブル27とを備えている。圧電素子25は、複数のノズル16のそれぞれに対応するように設けられている。
【0037】
また、液体噴射ヘッド4は、ヘッド本体18の内部に形成され、インクカートリッジからインク供給チューブ12を介して供給されたインクが流れる内部流路28と、振動板19、流路基板20、及びノズル基板21を含む流路形成ユニット22によって形成され、内部流路28と接続された共通インク室29と、流路形成ユニット22によって形成され、共通インク室29と接続されたインク供給口30と、流路形成ユニット22によって形成され、インク供給口30と接続された圧力室31とを備えている。圧力室31は、複数のノズル16に対応するように複数設けられている。複数のノズル16のそれぞれは、複数の圧力室31のそれぞれに接続されている。
【0038】
ヘッド本体18は、合成樹脂で形成されている。振動板19は、ステンレス鋼等の金属製の支持板上に弾性フィルムをラミネート加工したものである。振動板19の圧力室31に対応する部分には、圧電素子25の下端と接合される島部32が形成されている。振動板19の少なくとも一部は、圧電素子25の駆動に応じて弾性変形する。振動板19と内部流路28の下端近傍との間にはコンプライアンス部33が形成されている。
流路基板20は、内部流路28の下端とノズル16とを接続する共通インク室29、インク供給口30、及び圧力室31それぞれの空間を形成するための凹部を有する。本実施形態においては、流路基板20は、シリコンを異方性エッチングすることで形成されている。
【0039】
ノズル基板21は、ステンレス鋼等の金属で形成された板状の部材であり、所定方向に所定間隔(ピッチ)で配置されたノズル16が複数形成されている。また、ノズル基板21の下面には、これらノズル16におけるノズル開口16Aが形成されている。このように、ノズル基板21の下面は、複数のノズル開口16Aを含むノズル面17を構成している。なお、本実施形態のノズル基板21は、ステンレス鋼等の金属で形成された板状の部材である。ノズル面17には、詳細について後述する閉塞手段50が設けられている。
【0040】
このように構成されたプリンタ1は、インクを貯留するインク貯留部(流体貯留部)として、不図示のインクカートリッジを有し、このインクカートリッジからインク供給チューブを介して供給されたインクが図3に示した内部流路28の上端に流入するように構成されている。内部流路28の下端は、共通インク室29に接続されており、インクカートリッジからインク供給チューブ12を介して内部流路28の上端に流入したインクは、内部流路28を流れた後、共通インク室29に供給される。共通インク室29に供給されたインクは、インク供給口30を介して、複数の圧力室31のそれぞれに分配されるように供給される。
【0041】
ケーブル27を介して圧電素子25に駆動信号が入力されると、圧電素子25が伸縮する。これにより、振動板19が圧力室31に接近する方向及び離れる方向に変形(移動)する。これにより、圧力室31の容積が変化し、インクを収容した圧力室31の圧力が変動する。この圧力の変動によって、ノズル16から、インクが噴射(吐出)される。
このように、本実施形態の圧電素子25は、ノズル16よりインクを噴射するために、入力される駆動信号に基づいて、ノズル16に接続された圧力室31の圧力を変動させる。
【0042】
図4(a)は、液体噴射ヘッドをノズル面側から視た平面構成を示す図であって、閉塞手段の概略構成を示す平面図、図4(b)は液体噴射ヘッドの概略構成を示す断面図である。図5は、ノズル開口列の閉状態(閉塞状態)を示す図である。図6は、ノズル開口列の開状態(噴射可能状態)を示す図である。
【0043】
図4(a),(b)に示すように、ノズル開口16Aは、ノズル面17の長手方向に沿って複数配置されることでノズル開口列Lを構成している。本実施形態においては、ノズル面17にノズル開口列Lが4列形成されている。このような液体噴射ヘッド4には、各ノズル開口列Lを選択的に閉塞可能な閉塞手段50が設けられている。
【0044】
閉塞手段50は、複数の可撓性チューブ(チューブ)51と、これら複数の可撓性チューブ51をノズル開口列Lと平行に保持する保持部材52とを備える。可撓性チューブ51は弾性部材からなり、内部に充填された液体あるいは空気の量を調整することによって、膨張(拡径)あるいは縮径(収縮)する構成となっている。このような可撓性チューブ51は、ノズル開口列Lごとに一対(一組)ずつ設けられ、本実施形態では4列のノズル開口列Lに対応して4組(合計8つ)の可撓性チューブ51が設けられている。保持部材52は、ノズル開口列Lに沿って延在するとともに各ノズル開口列Lを露出させる4つの開口部53を有しており、各開口部53の幅方向両側における内壁面53a,53aのそれぞれに可撓性チューブ51が弾性変形自在な状態で固定されている。ここでは、可撓性チューブ51の外周面の一部が開口部53の内壁面53aに接着されている。
開口部53内に固定された一対の可撓性チューブ51は、通常の状態(拡径あるいは縮径していない状態)で互いに所定の間隔をおいて配置されている。
【0045】
閉塞手段50は、可撓性チューブ51の内部圧力を制御するアクチュエーター(制御部)54をさらに有する。このアクチュエーター54は、可撓性チューブ51の内部空間内の圧力を制御して液体あるいは空気の出し入れを行うことにより、可撓性チューブ51を、ノズル開口列Lを露出させる第1の状態(通常の状態)と、ノズル開口列Lを閉塞する第2の状態との間で弾性変形させるよう機能する。
ここで言う第1の状態とは、図4(a)、(b)に示すように、拡径あるいは縮径していない通常の状態であって、開口部53内に配置された一対の可撓性チューブ51,51の外周面51a,51a同士が離れており、これら可撓性チューブ51,51の間からノズル開口列Lが露出した状態である。
また、第2の状態とは拡径した状態であって、図5(a)、(b)に示すように、開口部53内に配置された一対の可撓性チューブ51,51の外周面51a,51a同士が接触(圧接)しており、ノズル開口列Lが閉塞された状態である。
つまり、アクチュエーター54の作用によって、可撓性チューブ51の内部空間内を減圧あるいは加圧することで液体あるいは空気の量を制御し、可撓性チューブ51を拡径(図5)させて第1の状態から第2の状態にし、さらに、拡径させた可撓性チューブ51を縮径(図6)させて第2の状態から第1の状態に弾性復帰させることができる構成となっている。
なお、通常の状態における可撓性チューブ51の本来の外径よりも縮径させることも勿論可能である。
【0046】
可撓性チューブ51に対して行う液体あるいは空気の供給量は、ノズル開口列Lの両側に配置された一対の可撓性チューブ51,51どうしが互いの外周面51a,51aを接触させた状態で、保持部材52の開口部53内で互いに押圧(反発)し合うような大きさになるまで拡張させることのできる量に設定される。つまり、可撓性チューブ51,51どうしの接触部分において隙間が生じないようにする必要がある。ここで重要なのは、単に外周面51a,51aどうしが接触していればいいというのではなく、振動等によって外周面51a,51a間に隙間が生じることのない接触圧になるまで可撓性チューブ51,51を拡径させることである。
これにより、ノズル開口列Lを構成する複数のノズル開口16Aが1組の可撓性チューブ51,51によって閉塞され、ノズル16内のインクの乾燥が抑制される。
【0047】
また、アクチュエーター54は、全ての可撓性チューブ51を同時に変形させることが可能であるとともに、1組の可撓性チューブ51,51ごとに独立して変形させることも可能となっている。
非印刷時には、図5(a),(b)に示すように、アクチュエーター54の制御により、全ての可撓性チューブ51の内部を同時に加圧して所定量の液体あるいは空気を供給することにより拡径させ、全てのノズル開口列Lを閉塞する。このとき、液体噴射ヘッド4のノズル面17は、保持部材52と複数の可撓性チューブ51とによって覆われた状態となる。このように、全ての可撓性チューブ51を同時に拡径変形させて全てのノズル開口列Lを同時に閉塞することにより、プリンタ未使用時におけるノズル開口16A内のインクの乾燥を抑制することができる。
【0048】
また、可撓性チューブ51,51によって閉塞されたノズル開口列Lを使用して印刷を行う場合には、図6(a),(b)に示すように、可撓性チューブ51,51の内部を減圧して所定量(供給時と同量)の液体あるいは空気を引き抜くことにより、拡径した可撓性チューブ51,51を縮径させ、ノズル開口列Lを露出させるようにする。これによって、ノズル開口列Lからインクの噴射が可能となる。
【0049】
また、印刷時には、アクチュエーター54の制御により任意の組の可撓性チューブ51,51を拡径変形させて、複数のノズル開口列Lのうち任意のノズル開口列Lを選択的に閉塞することにより、印刷中における未使用ノズルのインクの乾燥を抑制できる。印刷時に使用するノズル開口列Lに対応する可撓性チューブ51,51に対しては、液体あるいは空気の加圧供給を行わないためこれら可撓性チューブ51,51間からノズル開口列Lが露出し、インク噴射が可能な状態で維持される。
【0050】
可撓性チューブ51としては、内部空間内に供給されるものが気体である場合には、ガスバリア性の高い材料からなるチューブが選択され、一方、内部空間内に供給されるものが液体である場合には、防湿性の高いチューブが選択される。
【0051】
上述したように、本実施形態のプリンタ1は、閉塞手段50を有する液体噴射ヘッド4を備えている。この閉塞手段50は、アクチュエーター54の作用によって液体あるいは空気を可撓性チューブ51,51内に供給することによって、外周面51a,51aどうしが互いに押圧し合うような接触圧で接触するまで拡径させてノズル開口列Lを閉塞することとなっている。
【0052】
これにより、未使用のノズル開口列Lが外気に晒されることがなくなり、各ノズル開口16Aにおけるインクの乾燥を防いで、乾燥に起因するインクの増粘をより抑制することができる。その結果、増粘したインクに起因するノズルの目詰まりを抑制することができる。また、目詰まりを解消するために行われるフラッシング動作時の廃棄インク量を減らすことができるだけでなく、フラッシング動作の実施回数も減らすことができる。よって、印刷に使用されるべきインクが無駄に消費されるのを防いで、インクにかかるランニングコストを低く抑えられる。
【0053】
また、可撓性チューブ51内には液体あるいは気体が充填されており、アクチュエーター54により可撓性チューブ51内を減圧あるいは加圧することで、内部の液体あるいは空気の量を制御するようになっていることから、可撓性チューブ51を第1の状態から第2の状態との間で容易に変形させることができる。また、可撓性チューブ51の変形量も容易に調整することができる。
上述したように、ノズル開口列Lを閉塞する第1の状態とは、可撓性チューブ51,51の外周面51a,51aどうしが離れている拡径前の状態であって、第2の状態とは、互いの外周面51a,51aどうしが接触した拡径後の状態である。
各ノズル開口列Lに対応する一対の可撓性チューブ51,51は、保持部材52の各開口部53内に保持されているため、第1の状態と第2の状態との間で変形する際の位置が規制されて、対応するノズル開口列Lを確実に閉塞することができる。また、開口部53内に配置された可撓性チューブ51,51を所定の大きさまで拡径させることで、これらの外周面51a,51aどうしを圧接させることが可能となる。これにより、外周面51a,51aの界面に隙間が生じることがなく、ノズル開口列を確実に閉塞することができ、ノズル開口のインクの乾燥抑制効果が高まる。
【0054】
また、本実施形態では、ノズル開口列Lごとに設けられた一組の可撓性チューブ51,51を独立して変形させることが可能であるため、印刷時に使用しないノズル開口列Lを選択的に閉塞しておくことができる。モノカラー印刷の場合、カラーノズルは噴射不要のため、カラーノズル列を閉塞しておくことによってインクの乾燥を抑制できる。また、カラーノズル列に対して行われるフラッシング動作の実施回数を減らすことができる。
【0055】
液体噴射ヘッド4に対するフラッシング動作は、キャッピング装置14によって閉塞手段50側を含むノズル面17を閉塞して、キャッピング装置14内を減圧することによって開状態のノズル開口列Lからインクが吸引(排出)される。可撓性チューブ51,51によって閉状態とされたノズル開口列Lからは、可撓性チューブ51,51の抵抗によってインクは吸引(排出)されない。このように、列単位でのメンテナンスが可能となる。つまり、目詰まりの生じた特定のノズル開口列Lに対してのみフラッシング動作を実施することが可能となり、フラッシング対象ではないノズル開口列Lからインクが無駄に排出されてしまうのを抑制することができる。
【0056】
ノズル開口列Lの各ノズル開口16Aと可撓性チューブ51,51との間には隙間が形成されることになるが、非常に小さいためインクが乾燥して増粘するまでは至らない。これによれば、従来、ノズル面17全体をキャッピング装置14によって閉塞した際に、ノズル面17とキャッピング装置14との間に形成される空間の空気の容積と比べると格段に小さいことから、従来よりもインクの増粘抑制効果が高いものとなっている。
【0057】
また、ノズル開口16Aが空気に触れないようにするためには、キャッピング装置14によって、液体噴射ヘッド4の閉塞手段50を含むノズル面17全体を閉塞して、ノズル面17および閉塞手段50とキャッピング装置14との間に形成される空間を真空状態にしてから、可撓性チューブ51,51を拡径させればよい。このように、キャッピング装置14内を減圧状態(あるいは真空)にしてから可撓性チューブ51,51を拡径させてノズル開口列Lを閉じることにより、ノズル開口16Aと可撓性チューブ51,51との間に空気が介在せず、ノズル開口16Aが空気に触れることがないので、より確実にインクの乾燥を抑制できる。さらに、この場合には、液体噴射ヘッド4に対するフラッシング動作をなくすことが可能である。
【0058】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0059】
例えば、可撓性チューブ51の内壁の厚みを部分的に異ならせてもよい。保持部材52の開口部53の内壁面53aに固定される側の肉厚を厚くし、それ以外を薄い肉厚にしておくことによって、液体あるいは空気の供給によって変形しやすくなる。これにより、印刷時のノズル開口列Lの選択動作(開状態あるいは閉状態)を迅速に実施できるようになり、印刷動作にスムーズに対応できる。
【0060】
また、可撓性チューブ51を保持部材52の開口部53に固定するのではなく、ノズル面17に直接固定させても良い。
【0061】
また、先の実施形態では、互いに所定の間隔をおいて配置された一対の可撓性チューブ51,51をノズル開口列Lごとに備えており、通常の状態においてこれら可撓性チューブ51,51の間からノズル開口列Lが露出し、拡径した状態で対応するノズル開口列Lを閉塞させる構成となっている。ノズル開口列Lを可撓性チューブ51,51によって閉塞する構成はこれに限られたものではなく、例えば、通常の状態において互いの外周面51a,51aどうしが接触した状態にあり、アクチュエーター54の作用によって可撓性チューブ51,51内を減圧して内部に充填されている液体あるいは空気を引き抜くことによって、可撓性チューブ51,51を縮径させる構成としても良い。このように、通常の状態にある可撓性チューブ51,51によってノズル開口列Lを閉塞し、これら可撓性チューブ51,51を縮径変形させることによって、閉塞していたノズル開口列Lを露出させるようにしてもよい。
【0062】
また、液体噴射ヘッド4から噴射されるインクの粘度に応じて、可撓性チューブ51内に供給する液体あるいは空気の温度を調整しても良い。例えば、可撓性チューブ51内に供給する液体を加熱することにより、粘度の高いインクの増粘抑制効果が得られる。
【符号の説明】
【0063】
1…プリンタ(液体噴射装置)、4…液体噴射ヘッド、5…キャリッジ、L…ノズル開口列、S…内部空間、13…メンテナンス装置、14…キャッピング装置、16…ノズル、16A…ノズル開口、17…ノズル面、51…可撓性チューブ(チューブ)、51a…外周面、52…保持部材、53…開口部、54…アクチュエーター(制御部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル面に液体を噴射する複数のノズル開口からなるノズル開口列が複数形成された液体噴射ヘッドであって、
前記ノズル開口列ごとに当該ノズル開口列と平行にして前記ノズル面上に配置され、前記ノズル開口列を露出させる第1の状態と前記ノズル開口列を閉塞する第2の状態との間で変形可能な一対のチューブと、
前記チューブ内の圧力を制御することによって当該チューブを前記第1の状態と前記第2の状態との間で変形させる制御部と、を有する閉塞手段を備えてなる
液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記チューブ内には液体あるいは空気が充填されており、
前記制御部は、前記チューブ内を減圧あるいは加圧することで前記チューブ内の前記液体あるいは前記空気の量を制御する機能を有する
請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記第1の状態では前記一対のチューブの外周面同士が離れており、
前記第2の状態では前記一対のチューブの前記外周面どうしが接触している
請求項1または2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記ノズル面上に、複数の前記ノズル開口列を露出させる複数の開口部を有した保持部材が設けられており、
各開口部内に前記一対のチューブが保持されている
請求項1から3のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記制御部は、前記ノズル開口列ごとに設けられた前記一対のチューブを選択的に変形させる機能を有する
請求項1から4のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記第2の状態において前記一対のチューブどうしが圧接している
請求項1から5のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドが搭載されたキャリッジと、
前記液体噴射ヘッドに対してメンテナンス処理を実施するメンテナンス装置と、を備え、
前記メンテナンス装置は、前記液体噴射ヘッドの前記ノズル開口から前記液体を排出させるキャッピング装置を含んでいる
液体噴射装置。
【請求項8】
前記液体噴射ヘッドにおける前記閉塞手段の前記制御部は、
前記液体噴射ヘッドの前記ノズル面を閉塞したキャッピング装置内が減圧された際に、前記一対のチューブを前記第1の状態から前記第2の状態へと変形させる
請求項7に記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−121263(P2012−121263A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274911(P2010−274911)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】