説明

液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置

【課題】ノズルの目詰まりを抑制してインク(液体)の良好な噴射性を確保した液体噴射ヘッドと、これを備えた液体噴射装置を提供する。
【解決手段】液体を噴射するノズル開口47aを形成したノズルプレート43を有する液体噴射ヘッド110である。ノズルプレート43に設けられた撥水性の絶縁部50と、絶縁部50から露出して配置され、電圧を印加する電圧印加手段に接続される第1電極52と、絶縁部50により覆われ、電圧印加手段に接続される第2電極53と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インク滴をインクジェットヘッド(液体噴射ヘッド)のノズルから記録紙(媒体)に対して噴射する液体噴射装置として、インクジェット式プリンター(以下、「プリンター」と記す。)が広く知られている。このようなプリンターにおいては、液体噴射ヘッドのノズルからインクが蒸発することによるインクの増粘などにより、ノズルに目詰まりが生じるという問題があった。
【0003】
このような問題に対処するため、特許文献1では、ノズルを覆わなくてもノズル内の液体が増粘し難い流体噴射装置を実現するべく、筐体内に設けられ、液体を吐出するためのノズルと、前記ノズル内の前記液体の増粘を抑えるために、前記ノズル外の液体を加熱または噴霧して前記筐体内を加湿するための加湿機構を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−6682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に記載の液体吐出装置では、広い範囲の筐体内を加湿するため、多くの蒸発媒体(水等)やエネルギーや必要であるという問題がある。特に、ラインヘッド式プリンターや大型プリンターといった大きな容積を持つプリンターでは、この問題はいっそう顕著である。また、筐体内を加湿するため、印刷紙面や大気中の紙へも加湿されることになり、紙内部の湿度が上昇するため、印刷で噴射されたインクが乾燥しにくいという問題もある。
【0006】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、多くの蒸発媒体を用いることなく、ノズルの目詰まりを抑制してインク(液体)の良好な噴射性を確保した液体噴射ヘッドと、これを備えた液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の液体噴射ヘッドは、液体を噴射するノズル開口を形成したノズルプレートを有する液体噴射ヘッドであって、前記ノズルプレートに設けられた撥水性の絶縁部と、前記絶縁部から露出して配置され、電圧を印加する電圧印加手段に接続される第1電極と、前記絶縁部により覆われ、前記電圧印加手段に接続される第2電極と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この液体噴射ヘッドによれば、ノズルプレートに撥水性の絶縁部を設けるとともに、絶縁部から露出して第1電極を配置し、絶縁層で覆って第2電極を設けているので、第1電極と第2電極との間に電圧を印加することにより、エレクトロウェッティングの原理によって絶縁部を撥水性から親水性に変化させることができ、また、電圧印加手段をオフにして電圧の印加を停止することにより、絶縁部を再度撥水性に戻すことができる。
したがって、第1電極と第2電極との間に電圧を印加して絶縁部を撥水性から親水性に変化させ、その状態で例えばメンテナンス時にノズルプレート面を噴射用の液体(インク)で濡らしておくことにより、前記絶縁部上に液体を保持することが可能になる。よって、このように絶縁部上に液体を保持しておくことにより、ノズル開口近傍での液体(インク)蒸気濃度を高めることができ、これによってノズル内での液体の増粘を抑制することができる。したがって、従来のように多くの蒸発媒体を用いることなく、ノズルの目詰まりを抑制して液体の良好な噴射性を確保することができる。また、印刷紙面に対する過度な加湿もないため、液体(インク)の乾燥に対する影響もほとんどない。
また、絶縁部上に保持された液体により、ノズル開口から液体を噴射した際に発生するミストを吸収することができる。
【0009】
また、前記液体噴射ヘッドにおいては、前記ノズル開口が複数整列配置されてノズル列を形成してなり、前記第1電極は前記ノズル列に沿ってその両側に配置され、前記第2電極は前記第1電極に沿って少なくとも前記ノズル列と反対の側に配置されているのが好ましい。
複数のノズル開口からなるノズル列を有することにより、噴射量を多くして印刷スピードを速くすることができる。
【0010】
また、前記液体噴射ヘッドにおいては、前記ノズル列が複数形成されてなり、前記第1電極は前記各ノズル列に沿ってそれぞれの両側に配置され、前記第2電極は前記各第1電極に沿って該第1電極のそれぞれに対して配置されているのが好ましい。
ノズル列が複数形成されたことにより、噴射量をさらに多くして印刷スピードをより速くすることができる。
【0011】
また、前記液体噴射ヘッドにおいては、前記第1電極と前記第2電極との少なくとも一方が、前記ノズル列に沿う方向で複数に分割されているのが好ましい。
このようにすれば、第1電極と第2電極との間に電圧を印加して絶縁層上に液体を保持している状態から、分割された電極に対して例えばノズル列の中心部から外側に向かって電圧が印加されている状態から順次非印加状態となるように、制御部によって電圧印加手段のオンオフ制御を行うことにより、絶縁層上に保持された液体をノズルの目詰まりが生じ易いノズル列の端部側に移動させることができる。これにより、ノズル列の端部側のノズルの目詰まりをより良好に抑制することができる。
【0012】
本発明の液体噴射装置は、前記液体噴射ヘッドと、前記第1電極、前記第2電極に接続する前記電圧印加手段と、を備えることを特徴としている。
この液体噴射装置によれば、従来のように多くの蒸発媒体を用いることなく、ノズルの目詰まりを抑制して液体の良好な噴射性を確保することができる。また、液体(インク)の乾燥に対する影響もほとんどない。さらに、絶縁部上に保持された液体により、ノズル開口から液体を噴射した際に発生するミストを吸収することができるので、ミストに起因する印刷不良も抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態に係るプリンターの構成を示す図である。
【図2】ヘッドの内部構成を示す断面図である
【図3】(a)はノズルプレートの噴射面の要部を示す図、(b)は(a)のA−A線矢視断面図である。
【図4】インク供給系の構造を示す図である。
【図5】プリンターの電気的な構成を示すブロック図である。
【図6】(a)〜(c)はノズルプレートの作用の説明図である。
【図7】(a)はノズルプレートの噴射面の要部を示す図、(b)は(a)のB−B線矢視断面図である。
【図8】ノズルプレートの噴射面の要部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、各図においては、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材毎に縮尺を異ならせている。
【0015】
図1は本発明の液体噴射装置の一実施形態の概略構成を示す図であり、図1中符号100は液体噴射装置としてのインクジェット方式のプリンターである。このプリンター100は、例えば紙、プラスチックシートなどのシート状の媒体Mを搬送しつつ印刷処理を行う装置である。プリンター100は、筐体101と、媒体Mにインクを噴射するインクジェット機構102と、該インクジェット機構102にインクを供給するインク供給機構103と、媒体Mを搬送する搬送機構104と、インクジェット機構102の保全動作を行うメンテナンス機構105と、これら各機構を制御する制御装置(制御部)106とを備えている。
【0016】
以下、XYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を適宜参照しつつ各構成要素の位置関係を説明する。本実施形態では、液体の噴射方向をZ方向とし、ヘッドの移動方向をY方向とし、Z方向とY方向とに直交する方向をX方向とした。
【0017】
筐体101は、Y方向を長手とするように形成されている。筐体101には、前記のインクジェット機構102、インク供給機構103、搬送機構104、メンテナンス機構105及び制御装置106の各部が設けられている。また、筐体101には、プラテン13が設けられている。プラテン13は、媒体Mを支持する支持部材であり、筐体101内のX方向中央部に配置されている。プラテン13は、+Z方向に向けられた平坦面(図示せず)を有しており、この平坦面は、媒体Mを支持する支持面として用いられる。
【0018】
搬送機構104は、搬送ローラーや該搬送ローラーを駆動するモーターなどを有して構成されている。この搬送機構104は、筐体101の−X側から該筐体101の内部に媒体Mを搬送し、該筐体101の+X側から該筐体101の外部に排出する。また、搬送機構104は、筐体101の内部において、媒体Mがプラテン13上を通過するように該媒体Mを搬送する。さらに、搬送機構104は、制御装置106によって搬送のタイミングや搬送量などが制御されるようになっている。
【0019】
インクジェット機構102は、プラテン13上に送り出された媒体Mに向けてインク(液体)を噴射するヘッド(液体噴射ヘッド)110と、該ヘッド110を保持して移動させるヘッド移動機構107とを有している。ここで、ヘッド110から噴射されるインクは、本実施形態では電解質を含有した導電性で水性のものである。
ヘッド110は、本発明の液体噴射ヘッドの一実施形態となるもので、図2に示すようにヘッドケース18、流路ユニット19及びアクチュエータユニット20を備えている。
【0020】
ヘッドケース18は、中空部を有するように箱型に形成されている。ヘッドケース18の下端面には、流路ユニット19が接合されている。ヘッドケース18の内部に形成された中空部37内には、アクチュエータユニット20が収容されている。ヘッドケース18の内部には、高さ方向を貫通してケース流路25が設けられている。
ケース流路25の上端は、図1に示したサブタンク2に接続されている。ケース流路25の下端は、流路ユニット19内の共通液体室44に連通されている。このような構成によって図1に示したインクカートリッジ6からのインクは、図2に示すケース流路25を通って共通液体室44側に供給される。
【0021】
アクチュエータユニット20は、櫛歯状に配置された複数の圧電振動子38と、該圧電振動子38を保持する固定板39と、圧電振動子38に対して制御装置106からの駆動信号を供給するフレキシブルケーブル40とを有している。圧電振動子38は、図2中下側端部が固定板39の下端面から突出するように固定されている。固定板39のうち圧電振動子38の固定された面とは異なる面が中空部37を区画するケース内壁面に接着されている。
【0022】
流路ユニット19は、振動板41、流路基板42及びノズルプレート43を有している。振動板41、流路基板42及びノズルプレート43は、積層された状態で接着されている。流路ユニット19は、共通液体室44から液体供給口45、圧力室46を通り、ノズルプレート43に形成されたノズル47に至るまでの一連の液体流路を構成している。圧力室46は、ノズル47の配列方向(ノズル列方向)に対して直交する方向が長手方向となるように形成されている。
【0023】
ノズルプレート43は、ヘッド110の噴射面110aを形成するもので、本実施形態では該ノズルプレート43の噴射面110aの要部を示す図3(a)に示すように、多数のノズル47が一列に整列配置されてなるノズル列48を形成している。ノズル47は、ノズルプレート43の噴射面110aに、インク(液体)を噴射するための開口(ノズル開口)47aを有している。ノズル開口47aは、例えば20〜30μm程度の径に形成されている。
【0024】
また、このノズルプレート43には、その要部側断面図である図3(b)に示すように、噴射面110aに絶縁層(絶縁部)50が形成されている。絶縁層50は、ノズルプレート43の噴射面110aにおいて、ノズル開口47aと、ノズル列48の列方向に沿ってその両側に形成された溝状の開口51と、を除いたほぼ全面に形成されている。すなわち、絶縁層50はノズル開口47aの周囲に形成されている。この絶縁層50は、絶縁性であるとともに撥水性であり、したがって通常時には、導電性で水性のインクに対して濡れ性が低く、その接触角が大きくなるようになっている。このような絶縁層50としては、例えばテフロン(登録商標)等のフッ素樹脂膜や、化学蒸着法で形成されるパレリン膜等が用いられる。絶縁層50の厚さとしては、後述する第2電極によってその表面(ヘッド110の噴射面110a)側が十分に帯電するような厚さとされる。
【0025】
溝状の開口51内には、第1電極52が絶縁層50から露出した状態に設けられている。第1電極52は、ノズル列48の列方向に沿ってその両側にそれぞれ形成されたもので、線幅が例えば数十μm〜数百μm程度に形成されている。また、ノズル列48との間の距離(ノズル開口47aの内側の端縁と第1電極の内側の端縁との間の距離)は、例えばノズル開口47aの径の数倍から数十倍(例えば20倍)程度となっている。第1電極52は、後述するようにインクと直接接触することから、耐腐食性の高い金属、例えば金、白金、銀、チタン等によって形成されているのが好ましい。なお、これら第1電極52は、それぞれ配線(図示せず)を介して後述する制御部に接続され、さらに該制御部を介して電源(電圧印加手段)に接続されている。
【0026】
また、これら第1電極52の外側、すなわちノズル列48と反対の側には、それぞれ第2電極53が形成されている。第2電極53は、絶縁層50の内面側、すなわちヘッド110の噴射面110aと反対の面側にて、該絶縁層50に当接して設けられている。このように絶縁層50に当接することで、第2電極53は該絶縁層50と電気的に接続し、その表面(ヘッド110の噴射面110a)側を帯電させるようになっている。なお、これら第2電極53も、それぞれ配線(図示せず)を介して後述する制御部に接続され、さらに該制御部を介して電源(電圧印加手段)に接続されている。また、これら第2電極53も、例えば第1電極52と同様に金等の金属からなっている。
【0027】
このような構成のもとに第2電極53と前記第1電極52との間には、制御部を介して接続される電源によって所定の電圧が印加されるようになっている。所定電圧としては、第1電極52と第2電極53との電位差が後述するエレクトロウェッティング現象を生じさせるのに必要な大きさとなるように設定され、例えば220Vとされる。
【0028】
なお、第1電極52、第2電極53の形成法としては、例えば蒸着法やスパッタ法等の薄膜形成法と、エッチング等によるパターニング法とが好適に採用される。薄膜形成法によって金等の金属膜を形成した後、エッチングによって第1電極52及びこれに接続する配線パターン(図示せず)と、第2電極53及びこれに接続する配線パターン(図示せず)とをそれぞれ形成する。その後、これらを覆って絶縁層50を形成し、エッチングによって開口51を形成することにより、該開口51を有する絶縁層50と、該開口51内に露出する第1電極52と、絶縁層50の内面に当接する第2電極53とを、それぞれ形成することができる。
【0029】
図1に示すようにヘッド移動機構107は、キャリッジ4を有しており、該キャリッジ4には前記ヘッド110が固定されている。キャリッジ4は、筐体101の長手方向(Y方向)に架けられたガイド軸8に当接されている。ヘッド110及びキャリッジ4は、プラテン13の上方(+Z方向)に配置されている。
【0030】
ヘッド移動機構107は、キャリッジ4の他、パルスモーター9と、該パルスモーター9によって回転駆動される駆動プーリー10と、駆動プーリー10とは筐体101の幅方向の反対側に設けられた遊転プーリー11と、駆動プーリー10と遊転プーリー11との間に掛け渡されてキャリッジ4に接続されたタイミングベルト12とを有している。
【0031】
キャリッジ4は、タイミングベルト12に接続されており、該タイミングベルト12の回転に伴ってY方向に移動可能に設けられている。Y方向へ移動する際、キャリッジ4は、ガイド軸8によって案内されるようになっている。
【0032】
インク供給機構103は、ヘッド110にインクを供給するためのものである。インク供給機構103には、複数のインクカートリッジ6が収容されている。本実施形態のプリンター100は、インクカートリッジ6がヘッド110とは異なる位置に収容される構成(オフキャリッジ型)である。インク供給機構103は、ヘッド110とインクカートリッジ6とを接続する供給チューブTBを有している。インク供給機構103は、該供給チューブTBを介してインクカートリッジ6内に貯留されるインクをヘッド110に供給する、ポンプ機構(図示せず)を有している。
【0033】
メンテナンス機構105は、ヘッド110のホームポジションに配置されている。このホームポジションは、媒体Mに対して印刷が行われる領域から外れた領域に設定されている。本実施形態では、プラテン13の−Y側にホームポジションが設定されている。ホームポジションは、例えばプリンター100の電源がオフである時や長時間に亘って記録が行われない時、あるいはメンテナス作業を行う際にヘッド110が待機する場所である。
【0034】
メンテナンス機構105は、ヘッド110の噴射面110aを払拭するワイピング機構111と、該噴射面110aを覆うキャッピング機構112と、ヘッド110のノズル47からインクを噴射するフラッシング処理を行うためのフラッシング機構115と、を有している。
【0035】
ワイピング機構111は、ヘッド110の噴射面110aと対向可能なワイピング部材(図示せず)を備えており、ワイピング部材によって噴射面110aを拭き取ることにより、該噴射面110aに残留したインクや該噴射面110aに付着している異物を除去する。本実施形態においては、ワイピング部材として、図3(a)に示すノズルプレート43の噴射面110aのうち、第1電極52、52間に位置する第1領域54のみを選択的に拭き取る第1ワイピング部材と、ノズルプレート43の噴射面110a全体を拭き取る従来の第2ワイピング部材との2種類が用意されている。そして、制御装置106により、これら2種類のワイピング部材が適宜選択されて用いられるようになっている。
【0036】
図1に示すようにキャッピング機構112には、例えば吸引ポンプなどの吸引機構113が接続されている。この吸引機構113によってキャッピング機構112は、ヘッド110の噴射面110aを覆いつつ、該噴射面110a上の空間を吸引できるようになっている。このように吸引を行うと、ヘッド110内のインクがノズル47を通って吸引される。その際、インクは噴射面110a全体を濡らすようになる。したがって、このような吸引動作の後、前記のワイピング機構111によって噴射面110aをワイピングする。なお、ヘッド110からメンテナンス機構105側に排出された廃インクは、例えば廃液回収機構(図示せず)において回収されるようになっている。
【0037】
フラッシング機構115は、例えばフラッシングボックス(図示せず)を備え、ヘッド110の各ノズル47から該フラッシングボックス内に向けてインクを強制的に噴射(排出)させることにより、インクが増粘することによる目詰まりを未然に防ぐようにしたものである。
【0038】
また、本実施形態に係るプリンター100は、図4に示すようにインクカートリッジ6内に設けられたインクパック6aを加圧することで、供給チューブTBを介してインクをヘッド110側に供給する供給システム300を有している。供給システム300は、膨縮することでインクパック6aを加圧可能な膨縮部材301と、ポンプ302と、ポンプ302から送られる空気を膨縮部材301に搬送する搬送チューブ303と、を備えている。なお、ポンプ302は制御装置106に電気的に接続されており、その駆動が制御装置106によって制御されるようになっている。
【0039】
ポンプ302は大気開放が可能な構成とされている。これによって供給システム300は、搬送チューブ303を介して圧縮空気を供給したことで膨らんだ膨縮部材301がインクパック6aを押圧する動作、及び大気開放によりインクパック6aを押圧する膨縮部材301が縮小する動作、を繰り返すことにより、インクパック6aから供給チューブTBを介してインクをヘッド110に効率良く圧送し、供給できるようになっている。搬送チューブ303にはバルブV1が設けられており、バルブV1は制御装置106によってその開閉動作が制御されるようになっている。
【0040】
制御装置106は、インクパック6aからヘッド110にインクを供給する際、前記バルブV1を開いた状態でポンプ302を駆動するようになっている。
また、制御装置106は、プリンター100の電源(図示せず)に接続されている。さらに、図1に示すように制御装置106には、ヘッド110に設けられた第1電極52と第2電極53との間に所定の電圧を印加するための電源(電圧印加手段)の、オンオフ制御をなす制御部106aが設けられている。
なお、第1電極52と第2電極53との間に所定の電圧を印加するための電源(電圧印加手段)は、プリンター100の電源から得るようになっている。
【0041】
図5は、プリンター100の電気的な構成を示すブロック図である。プリンター100は、プリンター100全体の動作を制御する制御装置106を備えている。制御装置106には、プリンター100の動作に関する各種情報を入力する入力装置IP、プリンター100の動作に関する各種情報を記憶した記憶装置MRなどが接続されており、前述した搬送機構104や、ヘッド移動機構107、メンテナンス機構105等が接続されている。また、制御装置106には制御部106aが備えられており、制御部106aは前述したようにヘッド110の第1電極52と第2電極53との間への電圧の印加のオンオフや、メンテナンス機構105のワイピング機構111、キャッピング機構112等を制御するようになっている。
【0042】
次に、前記構成のプリンター100におけるメンテナンス動作を説明する。
媒体Mへのインクの噴射(吐出)動作に先立つメンテナンス動作(初期動作)として、まず、キャッピング機構112によってキャッピングを行い、さらに吸引機構113によって吸引動作を行う。ただし、本実施形態ではこれに先立ち、制御部106aによってヘッド110の第1電極52と第2電極53との間に所定電圧を印加しておく。
【0043】
すると、図6(a)に示すようにヘッド110の噴射面110aは、第1電極52が例えば負の電位となり、第2電極53がその逆の電位、すなわち正の電位となる。また、第2電極53が正の電位となることで、これに当接する絶縁層50も正の電位となる。
【0044】
このような状態のもとでキャッピング機構112によってキャッピングを行い、さらに吸引機構113によって吸引動作を行うと、インクは噴射面110a全体を濡らすようになる。すると、図6(b)に示すように噴射面110aを濡らしたインクIは、その一部が露出した第1電極52に接触することで、全体が負の電位となる。これにより、インクIは、エレクトロウェッティングの原理によって第2電極53に当接する絶縁層50上に濡れ拡がり、ここに良好に保持される。
【0045】
ここで、エレクトロウェッティングの原理について説明する。エレクトロウェッティングとは、電極と電気的に接続されている絶縁膜によって、電極が導電性を有する液体から絶縁されている際に、電極と液体との間に電圧を印加すると、電極と液体との間に電位差が存在しない場合と比べて、絶縁膜表面と液体との間の接触角が小さくなる現象である。つまり、電極(第2電極53)と液体(インクI)との間に電圧を印加すると、電極53と液体Iとの間に電位差が存在しない場合と比べて、見かけ上、絶縁膜(絶縁層50)表面の撥水性が低下し、濡れ性が高くなる。
【0046】
よって、噴射面110a上に濡れているインクIが絶縁層50から露出している第1電極52と接触して負の電位になると、第2電極53に当接する絶縁層50との間で電位差が生じ、これによって該絶縁層50表面はその撥水性が見かけ上低下し、濡れ性が高くなって親水性となる。これにより、噴射面110a上に濡れたインクIは、第2電極53に当接する絶縁層50に良好に保持されるようになる。なお、このようなエレクトロウェッティング現象は、第1電極52を正の電位にし、第2電極53を負の電位にしても、同様に起こる。
【0047】
一方、第2電極53に当接しない絶縁層50は、前記のエレクトロウェッティングの原理が働かないため、該絶縁層50は撥水性の状態に維持され、したがってインクIは液滴となって撥水膜(絶縁層50)上に点在するようになる。すなわち、第2電極53に当接しない絶縁層50は、従来のように噴射面110aに単に撥水膜(絶縁層)が形成されている場合と同じ構成となっているため、インクIの接触角が非常に大きくなることから、インクIは液滴となって撥水膜(絶縁層50)上に点在するようになる。
【0048】
すると、噴射面110aは下方に向いていることから、液滴が大きくなると垂れてしまい、そのまま印刷を行うと媒体M上に落下してこれを汚してしまう可能性がある。したがって、従来ではこれを抑制するため、ワイピング機構111によって噴射面110a上に残ったインクIを拭き取り、除去している。
【0049】
本実施形態においても、このように第2電極53に当接しない絶縁層50上では、従来と同様にインクIが液滴状に点在する。そこで、この第2電極53に当接しない絶縁層50上、すなわち図3(a)に示した第1電極52、52間に位置する第1領域54のみを、前記の第1ワイピング部材を用いて選択的に拭き取る。これにより、図3(c)に示すように第1領域54では絶縁層50上からインクIが除去される。一方、第2電極53が形成された領域の絶縁層50上には、インクIが該絶縁層50に良好に保持された状態のまま残る。
【0050】
なお、フラッシング動作については、後述するようにノズル47内のインクIの増粘が抑制されるため、これを省略し、またはその頻度を従来に比べ少なくすることができる。
そして、このように第2電極53が形成された領域の絶縁層50上にインクIを保持させたまま、ヘッド110を従来と同様に噴射(吐出)動作させ、媒体Mに対して印刷を行う。
すると、絶縁層50上にインクIが保持されていることにより、ノズル開口47a近傍でのインクI(液体)の蒸気濃度(インクIの溶剤の蒸気濃度)が高くなっているため、ノズル47内でのインクI(液体)の増粘が抑制される。
【0051】
したがって、本実施形態のヘッド110およびこれを有するプリンター100にあっては、従来のように多くの蒸発媒体を用いることなく、第2電極53に当接する絶縁層50上に保持したインクIによってノズル47の目詰まりを抑制し、インクIの良好な噴射性を確保することができる。また、媒体Mとして紙を用いた場合にも、該紙に対する過度な加湿がないため、従来と異なり、インクの乾燥に対する影響もほとんどない。
また、前記絶縁層50上に保持されたインクIにより、ノズル開口47aからインクIを噴射した際に発生するミストを吸収することができる。すなわち、発生したミストは、インクIとの親和性が高いため、大気中から絶縁層50上に保持されたインクI中に引きつけられ、ここに吸収される。
【0052】
なお、第2電極53が形成された領域の絶縁層50上に保持されたインクIは、その溶剤が蒸気となって放出され、ノズル47内のインクIを保湿するように作用する。したがって、絶縁層50上に保持されたインクIは、時間の経過とともにその溶剤濃度が低くなり、増粘する。
【0053】
そこで、本実施形態では、印刷動作の間にメンテナンス動作を繰り返す際に、予め設定した所定回数のうちの一回は、ノズルプレート43の噴射面110a全体を拭き取る従来の第2ワイピング部材によってワイピングを行い、絶縁層50上に保持されて増粘したインクIを拭き取る。ただし、このように第2ワイピング部材によってワイピングを行うに先だち、制御部106aにより、ヘッド110の第1電極52と第2電極53との間への所定電圧の印加を停止しておく。
【0054】
すると、第2電極53に当接する絶縁層50も、第2電極53に当接しない絶縁層50と同様にエレクトロウェッティングの原理が働かなくなるため、第2ワイピング部材によってワイピングがなされることにより、第2電極53に当接する絶縁層50上のインクIは該絶縁層50上から容易に拭き取られ、除去される。したがって、このように増粘したインクIを一旦拭き取った後、再度制御部106aによってヘッド110の第1電極52と第2電極53との間に所定電圧を印加する。
【0055】
そして、キャッピング機構112によってキャッピングを行い、さらに吸引機構113によって吸引動作を行い、その後第1ワイピング部材を用いて第1電極52、52間に位置する第1領域54のみを選択的に拭き取ることにより、第2電極53が形成された領域の絶縁層50上にインクIを選択的に残す。
これにより、前記したようにノズル47の目詰まりを抑制してインクIの良好な噴射性を確保することができる。
【0056】
図7(a)、(b)は本発明の液体噴射装置の他の実施形態を説明するための図である。図7(a)、(b)において符号120はヘッド(液体噴射ヘッド)、60はノズルプレートである。このヘッド120が図3(a)、(b)に示したヘッド110と異なるところは、主にノズルプレート60に設けられた第1電極61、第2電極62の構成にある。
【0057】
すなわち、本実施形態のノズルプレート60には、その噴射面に形成された絶縁層50の開口51内に、該絶縁層50から露出した状態で第1電極61が形成されている。第1電極61は、前記実施形態の第1電極52と同様に、ノズル列48の列方向に沿ってその両側に形成されており、したがってノズル開口47aの近傍に配置されている。これら第1電極61は、前記実施形態と同様に、金等の耐腐食性の高い金属によって形成されているのが好ましい。なお、これら第1電極61も、それぞれ配線(図示せず)を介して制御部106aに接続され、さらに該制御部106aを介して電源(電圧印加手段)に接続されている。
【0058】
また、第1電極61および絶縁層50の内面(裏面)には、第2絶縁層63が設けられている。第2絶縁層63は、前記絶縁層50と異なり、その表面にインクI(液体)が接触しないため、撥水性である必要はない。したがって、例えばSiO等の一般的な絶縁材料からなっている。
【0059】
第2絶縁層63の内面(裏面)には、第2電極62が設けられている。第2電極62は、第2絶縁層63を介して第1電極61上に配置されたことにより、該第1電極61とは絶縁されている。一方、絶縁層50とは、第2絶縁層63を介して当接することにより、電気的に接続した状態となっている。すなわち、絶縁層50と第2絶縁層63とは接合していることにより、一層の絶縁層として機能し、これによって前記実施形態において第2電極53に直接当接する絶縁層50と同様に機能する。
【0060】
また、第2電極62は、本実施形態では図7(a)に示すようにノズル列48に沿う方向にて多数(複数)に分割されている。すなわち、第2電極62は、ノズル列48に沿う方向に配列された多数の単位電極62aによって構成されている。これら単位電極62a間は、前記第2絶縁層63によって絶縁されている。また、これら単位電極62aには、それぞれに独立して配線(図示せず)が接続されている。そして、該配線を介して単位電極62aは制御部106aに接続され、さらに該制御部106aを介して電源(電圧印加手段)に接続されている。また、これら単位電極62a(第2電極62)は、第1電極61と同様に金等の金属からなっていてもよく、アルミニウム等からなっていてもよい。
【0061】
このような構成のもとに各単位電極62aと前記第1電極61との間には、制御部106aを介して接続される電源(電圧印加手段)により、所定の電圧が印加されるようになっている。所定電圧としては、前記実施形態と同様に、単位電極62aと第1電極61との電位差がエレクトロウェッティング現象を生じさせるのに必要な大きさとなるように設定され、例えば220Vとされる。
【0062】
なお、第1電極61、第2電極62(単位電極62a)の形成法としては、前記実施形態と同様に、蒸着法やスパッタ法等の薄膜形成法と、エッチング等によるパターニング法とが好適に採用される。薄膜形成法によって金属膜を形成した後、エッチングによって単位電極62aをパターニングし、これによって第2電極62を形成する。続いて、第2絶縁層63を形成し、さらにその上に第1電極61を形成する。その後、これらを覆って絶縁層50を形成し、エッチングによって開口51を形成することにより、該開口51を有する絶縁層50と、該開口51内に露出する第1電極61と、該第1電極61および絶縁層50の内面に当接する第2絶縁層63と、該第2絶縁層63の内面に当接する第2電極62とを、それぞれ形成することができる。
【0063】
このような構成のヘッド120を備えたプリンターにあっても、前記実施形態と同様に、エレクトロウェッティングの原理によってインクIを、第2絶縁層63を介して第2電極62に当接する絶縁層50上に保持することができる。ここで、図7(a)に示したようなノズル列48を有するヘッド120にあっては、該ノズル列48の中央部のノズル47に比べ、両側端部に位置するノズル47の方がノズル47内のインクIの増粘が起こり易くなる。これは、両側端部に位置するノズル47の方が、インクIの噴射頻度が少なくなるためである。
【0064】
そこで、本実施形態では、第2絶縁層63を介して第2電極62に当接する絶縁層50上にインクIを保持した後、単位電極62aに対して、ノズル列48の中心部から外側(両側端側)に向かってそれぞれ電圧が印加されている状態から順次非印加状態となるように、制御部106aによって電源(電圧印加手段)のオンオフ制御を行う。
【0065】
このようにオンオフ制御を行うと、ノズル列48の中心部から外側に向けて、その絶縁層50が順次親水性から撥水性に変わることにより、インクIが撥水性の領域(ノズル列48の中心部)から親水性の領域(ノズル列48の外側)に押し出されるようになる。これにより、絶縁層50上のインクIは、インクIの増粘が相対的に起こり難いノズル列48の中央部から、インクIの増粘が相対的に起こり易い外側に移動し、ここに保持される。
よって、本実施形態のヘッド120およびこれを有するプリンターにあっては、前記実施形態の効果に加えて、ノズル列48の外側(両端部側)のノズル47の目詰まりをより良好に抑制することができるという優れた効果を奏する。
【0066】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、図7(a)、(b)に示した実施形態では、第2電極62(単位電極62a)を第1電極61に重ねて形成したが、図3(a)、(b)に示した実施形態と同様に、第1電極61の外側に形成配置してもよい。その場合には、図3(a)、(b)に示した実施形態と同様に、第2絶縁層63の形成を省略することができる。
【0067】
また、図7(a)、(b)に示した実施形態では、第2電極62を複数(多数)の単位電極62aによって構成したが、これに代えて、第1電極61を複数(多数)の単位電極によって構成してもよい。さらに、第2電極62を複数(多数)の単位電極62aによって構成するとともに、これら単位電極62aに対応させて、第1電極61も複数(多数)の単位電極によって構成してもよい。
【0068】
また、ノズルプレートとしては、例えば図8に示すようにノズル列48が千鳥状に2列(複数)形成されていてもよい。このようにノズル列48が2列形成されている場合にも、例えば図3(a)、(b)に示したように第1電極51、第2電極53、絶縁層50、開口51を各ノズル列48毎にそれぞれ形成することにより、全てのノズル47内のインクの増粘を抑制し、目詰まりを抑制してインクIの良好な噴射性を確保することができる。
【符号の説明】
【0069】
43、60…ノズルプレート、47…ノズル、47a…ノズル開口、48…ノズル列、50…絶縁層(絶縁部)、51…開口、52、61…第1電極、53、62…第2電極、62a…単位電極、100…プリンター(液体噴射装置)、105…メンテナンス機構(メンテナンス装置)、106…制御装置、110、120…ヘッド(液体噴射ヘッド)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズル開口を形成したノズルプレートを有する液体噴射ヘッドであって、
前記ノズルプレートに設けられた撥水性の絶縁部と、
前記絶縁部から露出して配置され、電圧を印加する電圧印加手段に接続される第1電極と、
前記絶縁部により覆われ、前記電圧印加手段に接続される第2電極と、
を備えることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記ノズル開口が複数整列配置されてノズル列を形成してなり、
前記第1電極は前記ノズル列に沿ってその両側に配置され、
前記第2電極は前記第1電極に沿って少なくとも前記ノズル列と反対の側に配置されていることを特徴とする請求項1記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記ノズル列が複数形成されてなり、
前記第1電極は前記各ノズル列に沿ってそれぞれの両側に配置され、
前記第2電極は前記各第1電極に沿って該第1電極のそれぞれに対して配置されていることを特徴とする請求項2記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記第1電極と前記第2電極との少なくとも一方が、前記ノズル列に沿う方向で複数に分割されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドと、前記第1電極、前記第2電極に接続する前記電圧印加手段と、を備えることを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−196884(P2012−196884A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62535(P2011−62535)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】