説明

液体噴射ヘッドの製造方法、圧電素子の製造方法

【課題】保護膜と第2電極との密着性が向上した圧電素子を有する液体噴射ヘッドの製造方法及び圧電素子の製造方法を提供する。
【解決手段】圧電体層70上方に第2電極80を形成する工程と、塩素を含有するガスを第2電極に接触させて、第2電極の上面に凸部83を形成する工程と、第2電極の上面の前記凸部が形成された面に保護膜100を形成する工程とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドの製造方法、圧電素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
第1電極と第2電極との間に圧電体層を設けた圧電素子は、第1電極と第2電極との間
に電圧を印加することにより撓み変形する。このような圧電素子は、例えば、液体噴射ヘ
ッドにおける圧力発生手段として用いられている。液体噴射ヘッドの代表例としては、圧
電素子の変位による圧力を利用してノズル開口からインク滴を吐出するインクジェット式
記録ヘッドがある。
【0003】
ここで、圧電素子は、例えば、湿気等の外部環境に起因して破壊され易い。そこで、こ
のような圧電素子の破壊を防止すると共に圧電素子の変形を阻害しないように、圧電素子
を構成する第2電極の表面を耐湿性の保護膜(絶縁膜)で覆うと共に、第2電極の表面の
中央部が露出するようにこの保護膜に開口を設けたものが知られている(例えば、特許文
献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−216429号公報(図1等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の構成では、圧電素子が撓み変形した際に、保護膜が第2電
極から剥がれてしまうことがあるという問題がある。このように保護膜の第2電極からの
剥がれが生じると、絶縁性を確保できず、かつ、剥がれた保護膜が異物となってしまう可
能性がある。
【0006】
このような剥がれは、第2電極と保護膜との熱膨張係数差等から、撓み変形とは関係な
く保護膜を有する圧電素子で生じる問題である。ただし、インクを吐出するために圧電素
子の大きな撓み変形が要求されるインクジェット式記録ヘッドなどの液体噴射ヘッドでは
、特に問題となりやすい。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑み、保護膜と第2電極との密着性を向上させる圧電素子を
有する液体噴射ヘッドの製造方法及び圧電素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液体噴射ヘッドの製造方法は、ノズル開口に連通する圧力発生室、及び第1電
極と、該第1電極上方に形成された圧電体層と、該圧電体層上方に形成され、ランタンを
含む金属酸化物からなる金属酸化物層を含む第2電極と、該金属酸化物層上に形成された
絶縁膜を有する圧電素子を備える液体噴射ヘッドの製造方法であって、前記圧電体層上方
に前記第2電極を形成する工程と、塩素を含有するガスを前記金属酸化物層に接触させて
、前記金属酸化物層に凸部を形成する工程と、該金属酸化物層の前記凸部が形成された面
に前記絶縁膜を形成する工程とを具備することを特徴とする。
【0009】
本発明では、塩素含有ガスを第2電極の前記金属酸化物層に接触させて、前記金属酸化
物層に凸部を形成することで、第2電極と絶縁膜との密着性を向上させることができる。
このときに、塩素含有ガスを金属酸化物層に接触させるだけで簡易にこの凸部を形成する
ことができる。これにより、簡易に絶縁膜の剥がれが抑制された液体噴射ヘッドを作製す
ることが可能である。なお、本発明では上方とは直上も、間に他の部材が介在した状態も
含むものである。
【0010】
前記金属酸化物層を形成する前に、前記圧電体層上に前記ランタンを含む金属酸化物よ
りも電気伝導度の高い金属からなる導電層を形成することが好ましい。このように構成さ
れることで、電気抵抗の上昇を抑制し、第2電極に電極として好ましい機能を付与するこ
とが可能である。
【0011】
本発明の好ましい実施形態としては、前記塩素含有ガスが、塩素ガスとアルゴンガスと
の混合ガスであることが挙げられる。
【0012】
前記凸部を形成する前に、前記第2電極の上面に凹凸を形成する工程をさらに具備し、
該凹凸が形成された前記第2電極上に前記凸部を形成することが好ましい。このように
凹凸が形成された部分にさらに凸部を形成することで、より圧電体層と絶縁層との密着性
を向上させることができる。
【0013】
本発明の圧電素子の製造方法は、第1電極と、該第1電極上方に形成された圧電体層と
、該圧電体層上方に形成され、ランタンを含む金属酸化物からなる金属酸化物層を含む第
2電極と、該金属酸化物層上に形成された絶縁膜とを有する圧電素子の製造方法であって
、前記圧電体層上方に前記第2電極を形成する工程と、塩素を含有するガスを前記金属酸
化物層に接触させて、前記金属酸化物層に凸部を形成する工程と、該第2電極の前記凸部
が形成された面に前記絶縁膜を形成する工程とを具備することを特徴とする。
【0014】
本発明では、塩素含有ガスに前記第2電極の上面を接触させて、前記第2電極の上面に
凸部を形成することで、第2電極と絶縁膜との密着性を向上させることができる。そして
、塩素含有ガスを第2電極の上面に接触させるだけで簡易にこの凸部を形成することがで
きる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】記録ヘッドの(a)要部平面図(b)断面図である。
【図3】記録ヘッドのX−X線での断面図である。
【図4】本実施形態にかかる圧電素子のSEM画像である。
【図5】記録ヘッドの製造工程を示す一部断面模式図である。
【図6】記録ヘッドの製造工程を示す一部断面模式図である。
【図7】記録ヘッドの製造工程を示す一部断面模式図である。
【図8】本実施形態に係る記録装置の概略構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解
斜視図であり、図2(a)は、インクジェット式記録ヘッドの要部平面図であり、図2(
b)は、図2(a)のA−A′断面図である。
【0017】
図示するように、インクジェット式記録ヘッドIの流路形成基板10は、シリコン単結
晶基板からなり、その一方の面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、
厚さ0.5〜2μmの弾性膜50が形成されている。流路形成基板10には、隔壁11に
よって区画された複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成
基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13
と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12に設けられたインク供給路14を介して連通
されている。なお、連通部13は、後述する保護基板のリザーバー部と連通して各圧力発
生室12の共通のインク室となるリザーバーの一部を構成する。インク供給路14は、圧
力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入する
インクの流路抵抗を一定に保持している。
【0018】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反
対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、後述する
マスク膜を介して接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。
【0019】
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように、二酸化シリコンか
らなり厚さが例えば、約1.0μmの弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、例
えば、酸化ジルコニウム(ZrO)等からなる絶縁体膜55が積層形成されている。ま
た、絶縁体膜55上には、第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80とからなる圧
電素子300が形成されている。
【0020】
ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分
をいう。さらには、本実施形態では、圧電素子300は、後述する保護膜(絶縁膜)10
0も含むものである。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、
他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして
、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極
への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部320という。本実施形態で
は、第1電極60を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個
別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合
においても、各圧力発生室12毎に圧電体能動部320が形成されていることになる。
【0021】
また、本実施形態では、第1電極60の圧力発生室12の長手方向の端部を圧力発生室
12に相対向する領域内に設けることで、圧電素子300の実質的な駆動部となる圧電体
能動部320の長手方向の端部(長さ)を規定している。また、圧電体層70及び第2電
極80の圧力発生室12の幅方向の端部を圧力発生室12に相対向する領域内に設けるこ
とで、圧電体能動部320の短手方向の端部(幅)を規定している。すなわち、圧電体能
動部320は、パターニングされた第1電極60及び第2電極80によって、圧力発生室
12に相対向する領域にのみ設けられていることになる。
【0022】
なお、本実施形態では、第1電極60を複数の圧電素子300の並設方向に亘って設け
、第1電極60の圧力発生室12の長手方向の端部を、圧力発生室12に相対向する位置
となるように設けた。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び第1電極6
0が圧電素子300と共に変形する振動板として作用するが、勿論これに限定されるもの
ではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、第1電極60のみが振動板
として作用するようにしてもよい。
【0023】
本実施形態では、図3に示すように、第2電極80は、圧電体層70側にはイリジウム
(Ir)等の導電性に優れた材料からなるイリジウム層(導電層)81と、このイリジウ
ム層81上に形成されたランタンニッケル酸化物(LNO)からなるLNO層(金属酸化
物層)82とからなる。詳しくは後述するように、第2電極80と保護膜との密着性を高
めるために第2電極80の上面側に凸部83が設けられているが、この凸部83を簡易に
形成するために、第2電極80の少なくとも上面をLNOからなるLNO層82により覆
っている。そして、本実施形態では、このLNO層82だけでは電気抵抗が高すぎる虞が
あるので、さらにイリジウム層81を設けることで、第2電極80全体の導電性を向上さ
せている。
【0024】
そして、圧電素子300を構成する第1電極60、圧電体層70及び第2電極80は、
耐湿性を有する絶縁材料からなる保護膜100によって覆われている。具体的には、保護
膜100は、圧電体層70の側面と第2電極80の上面の周縁を覆うように設けられてい
る。すなわち、第2電極80の上面の主要部は、保護膜100が設けられておらず、第2
電極80の上面の主要部を露出するための開口部101が設けられている。開口部101
は、保護膜100を厚さ方向に貫通して圧電素子300の長手方向(圧力発生室12の長
手方向)に沿って矩形状に開口するものであり、例えば、流路形成基板10上の全面に亘
って保護膜100を形成した後、選択的にパターニングすることで形成することができる

【0025】
このように圧電素子300を保護膜100で覆うことにより、大気中の水分等に起因す
る圧電素子300の破壊を抑制することができる。ここで、このような保護膜100の材
料としては、耐湿性を有する材料であればよいが、例えば、公知の絶縁性無機材料または
絶縁性樹脂材料などが好適に用いられる。公知の絶縁性無機材料としては、例えば、酸化
シリコン(SiO)、酸化タンタル(TaO)、酸化アルミニウム(AlO)等を
用いるのが好ましく、特に、無機アモルファス材料である酸化アルミニウム(AlO
、例えば、アルミナ(Al)を用いるのが好ましい。公知の絶縁性樹脂材料として
は、例えば、公知の感光性樹脂材料を用いてもよいし、非感光性樹脂材料を用いてもよい
。絶縁性樹脂材料が、感光性樹脂材料である場合、公知の不飽和結合含有重合性化合物、
光重合開始剤等も含んでいてもよい。具体的には、絶縁性樹脂材料は、フォトレジストで
あってもよいし、ポリイミド、サイクロテン、ベンゾシクロブテン(BCB)、ポリビニ
ルアルコール誘導体等の樹脂組成物であってもよい。保護膜100の材料として酸化アル
ミニウムを用いた場合、保護膜100の膜厚を100nm程度と比較的薄くしても、高湿
度環境下での水分透過を十分に防ぐことができる。また、保護膜100に開口部101が
設けられていることで、圧電素子300の変位を阻害することがなく、インク吐出特性を
良好に保持することができる。
【0026】
ここで、保護膜100は、例えば熱膨張係数の違いや圧電素子300駆動時の変位など
により第2電極80から剥がれてしまうことが考えられるので、このような保護膜100
の第2電極80からの剥がれを抑制するために、本実施形態では、第2電極80の保護膜
との接触領域、即ちLNO層82には、凹凸が設けてあり、これにより第2電極80と保
護膜100との密着性を高めている。この点について、図3を用いて説明する。
【0027】
図3は、図2(a)におけるX−X線での断面図である。図3に示すように、第2電極
80の上面のLNO層82の全面に亘って凸部83が形成されている。このように第2電
極80の上面に凸部83が形成されていることで、第2電極80の表面積が増大して第2
電極80と第2電極80上に形成された保護膜100との密着性が向上する。これにより
、第2電極80からの保護膜100の剥がれを抑制することができる。
【0028】
本実施形態におけるこの凸部83は、詳しくは後述するように塩素を含有する塩素含有
ガスをLNO層82の表面に接触させてその表面で塩素ガスとランタンとが反応し隆起し
た凸部83が形成されたものである。このような反応により本実施形態でのLNO層82
の表面状態は、例えば図4に示すようなものとなる。図4に示すように、LNO層82を
有する第2電極80の表面には塩素ガスとランタンとが反応して凸部83が不規則に形成
されている。このように、本実施形態ではランタンの塩素ガスによる腐食反応を利用する
ために第2電極80の最上面にランタンを含有するLNO層82を形成している。
【0029】
なお、本実施形態では、保護膜100を図2(b)に示すように、複数の圧電素子30
0(圧電体能動部320)に亘って連続して設けるようにしたが、特にこれに限定されず
、例えば、保護膜100を各圧電素子300毎に設けるようにしてもよい。
【0030】
保護膜100上には、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が設けられている
。リード電極90は、保護膜100に設けられた別の開口部100aを介して一端部が第
2電極80に接続される。
【0031】
また、圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、圧電素子300に対向す
る領域に、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部31を
有する保護基板30が、接着剤35によって接合されている。なお、圧電素子保持部31
は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封
されていても、密封されていなくてもよい。
【0032】
また、保護基板30には、連通部13に対向する領域にリザーバー部32が設けられて
おり、このリザーバー部32は、上述したように、流路形成基板10の連通部13と連通
されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバー111を構成している。また
、保護基板30の圧電素子保持部31とリザーバー部32との間の領域には、保護基板3
0を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられ、この貫通孔33内に第1電極60の一部
及びリード電極90の先端部が露出されている。この先端部は、後述する圧電素子300
を駆動する駆動回路と接続配線を介して接続されている。
【0033】
また、保護基板30上には、圧電素子300を駆動するための駆動回路200が固定さ
れている。この駆動回路200としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等
を用いることができる。そして、駆動回路200とリード電極90とはボンディングワイ
ヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線210を介して電気的に接続されている。
【0034】
保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス
、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一
材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0035】
保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40
が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚
さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜4
1によってリザーバー部32の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の
硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この
固定板42のリザーバーに対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43とな
っているため、リザーバーの一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0036】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給
手段からインクを取り込み、リザーバー111からノズル開口21に至るまで内部をイン
クで満たした後、駆動回路200からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれ
ぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、第1電極60及
び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズ
ル開口21からインク滴が吐出する。
【0037】
(製造方法)
本発明の圧電素子の製造方法について、液体噴射ヘッドに設けられている場合を例にと
り説明する。
【0038】
まず、図5(a)に示すように、シリコンウェハーである流路形成基板用ウェハー11
0の表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン(SiO2)からなる二酸化シリコン膜
51を形成する。次いで、図5(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜51
)上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。次いで、図5(c)に示す
ように、絶縁体膜55上の全面に第1電極60を形成すると共に、図示しないが所定形状
にパターニングする。この第1電極60の材料は、特に限定されないが、圧電体層70と
してチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いる場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変
化が少ない材料であることが望ましい。このため、第1電極60の材料としては白金、イ
リジウム等が好適に用いられる。
【0039】
次に、図6(a)に示すように、第1電極60上に圧電体層70及び第2電極80を順
次積層形成する。圧電体層70は、本実施形態では、有機金属化合物を溶媒に溶解・分散
したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物から
なる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて形成している。なお、圧電体層
70の製造方法は、ゾル−ゲル法に限定されず、例えば、MOD(Metal-Organic Decomp
osition)法、スパッタリング法又はレーザーアブレーション法等のPVD(Physical Va
por Deposition)法等を用いてもよい。また、はじめに導電性を確保するためにイリジウ
ム層81を形成し、その後、LNO層82を形成することで第2電極80は形成される。
【0040】
次に、図6(b)に示すように、圧電体層70及び第2電極80を同時にパターニング
することで、圧電素子300を形成する。具体的には、圧電体層70及び第2電極80を
パターニングすることで、流路形成基板用ウェハー110の各圧力発生室12が形成され
る領域に相対向する領域に圧電素子300を形成する。
【0041】
この後、本実施形態における凸部83を第2電極80の上面に形成する。図7(a)に
示すように、LNO層82の上面を塩素含有ガスに曝すことで、凸部83を形成する。本
実施形態では、塩素含有ガスとしては、塩素ガスとアルゴンガスの混合ガスを用いた。こ
の場合の混合ガスは、成膜室内の圧力が1.0Pa以下において混合ガスの流量が100
sccmとなればよい。これを満たす混合比であれば、例えば、成膜室圧力1.0Paに
おいて塩素ガス(Clガス)のみで100sccmを成膜室に導入してもよいし、塩素
ガスを10sccm、ある言語ガスを90sccmで成膜室に導入してもよい。その結果
、図7(a)に示すように、LNO層82の上面には凸部83が形成された。従来の液体
噴射ヘッドの製造方法によれば、第2電極80の上面には凹凸をつけず平面(もしくは略
平面)であったことから、本実施形態のような第2電極80の上面を塩素ガスに接触させ
る工程はなかった。本実施形態では、従来の液体噴射ヘッドの製造方法において、凹凸を
つけるために途中でこのような第2電極80の上面を塩素含有ガスに接触させる工程を一
つ増やしている。このように、本実施形態では、従来の液体噴射ヘッドの製造方法におい
て、マスクパターン等も用いずに単に第2電極80の上面を塩素含有ガスに接触させるだ
けで、簡易に凸部83を形成して、第2電極80と保護膜との密着性を向上させているの
である。
【0042】
次いで、図7(b)に示すように、保護膜100を例えばスパッタリング法により形成
し、その後保護膜100にマスクを設けてエッチングして開口部101を形成する。なお
、保護膜100のエッチングは、例えば、イオンミリングや、反応性ドライエッチング(
RIE)等のドライエッチングにより行うことができる。
【0043】
その後は、リード電極を形成後、流路形成基板用ウェハーの圧電素子側に、シリコンウ
ェハーであり複数の保護基板となる保護基板用ウェハーを接着剤を介して接合し、流路形
成基板用ウェハーを所定の厚みに薄くする。次いで、流路形成基板用ウェハーを異方性エ
ッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子に対応する圧力発生室等を形
成する。
【0044】
その後は、流路形成基板用ウェハー及び保護基板用ウェハーの外周縁部の不要部分を、
例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウ
ェハーの保護基板用ウェハーとは反対側の面にノズル開口が穿設されたノズルプレートを
接合すると共に、保護基板用ウェハーにコンプライアンス基板を接合し、流路形成基板用
ウェハー等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割すること
によって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIとする。
【0045】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定される
ものではない。
【0046】
上述した実施形態では、第2電極80の上面にLNO層82を設けたが、これに限定さ
れず、例えば第2電極全体をLNO層82で形成してもよい。LNO層82単体で第2電
極を構成した場合には、電気抵抗が高くなってしまうが、高速駆動を行わないのであれば
十分に電極としての機能を発揮することができる。
【0047】
上述した実施形態では、LNO層82を第2電極の上面に設けているが、これに限定さ
れない。第2電極の上面に塩素含有ガスを接触させた場合に化学反応により体積を膨張さ
せる金属(上述した実施形態ではランタン)が含有されていればよい。また、第2電極8
0は、その他の金属(例えばバナジウム、パラジウム及びマグネシウムから選ばれた少な
くとも1種の金属、もしくはこれらから選ばれた少なくとも1種を含む合金)を含有して
いても良い。
【0048】
また、本実施形態では塩素含有ガスとして塩素ガスを用いたがこれに限定されず、塩素
を含有するガスであればよい。例えば、塩化水素等を用いても良く、さらに塩化水素とア
ルゴンガスとの混合ガスなどを用いても良い。
【0049】
上述した実施形態では、第2電極80にはイリジウム層81を設けたが、これに限定さ
れない。第2電極80にはLNO層82よりも電気伝導度の高い金属からなる層を設けれ
ば電気伝導度を高くすることができ、例えば、他の電極材料(例えばプラチナ等)を用い
てもよい。
【0050】
上述した実施形態では、凸部83は第2電極80の上面全体に亘って設けられているが
、これに限定されない。即ち、第2電極80の開口101から露出する領域(第2電極8
0の開口101と対向する領域)には凸部83は設けられていないように構成してもよい
。このように第2電極80の上面の保護膜100との接触がない領域には保護膜との密着
性を高める必要がないので凸部83を形成しないことで、第2電極80の剛性を高めるこ
ともなく、変位特性を大幅に変更させないで密着性のみを変更することができる。
【0051】
また、上述した実施形態では、第2電極80の上面には、塩素ガスとLNO層のランタ
ンとの反応により隆起した凸部83が形成されているのみであったが、これに限定されな
い。例えば、第2電極80のLNO層の上面にエッチングにより凹凸部を形成し、この凹
凸部が形成された面をさらに塩素ガスと接触させることでさらに第2電極80の上面の表
面積を増大させることも可能である。
【0052】
また、本発明では、上述した塩素含有ガスに第2電極80の上面を接触させる工程を、
第2電極80及び圧電体層70のエッチング後に行ったが、これに限定されない。例えば
、第2電極80となる膜を形成後、すぐに凸部83を形成し、その後第2電極80と圧電
体層70とのエッチングを行っても良い。
【0053】
また、上述した実施形態では、圧電素子保持部31を有する保護基板30を設けるよう
にしたが、圧電素子300は保護膜100によって覆われて外部環境に起因する破壊が防
止されているため、保護基板30を厚さ方向に貫通する圧電素子保持部としてもよく、ま
た保護基板を設けなくてもよい。
【0054】
また、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIは、インクカートリッジ等と連通す
るインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装
置IIに搭載される。図8は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である

【0055】
図8に示すように、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及
び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、
この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付け
られたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A
及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出する
ものとしている。
【0056】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を
介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキ
ャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5
に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙
等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになって
いる。
【0057】
また、上述した実施形態1では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘ
ッドを挙げて説明したが、本発明の圧電素子は、液体噴射ヘッド全般を対象としたもので
あり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その
他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の
記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド
、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極
材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる

【0058】
本発明の圧電素子は、このような液体噴射ヘッドに圧力発生手段として搭載される圧電
素子だけでなく、例えばメモリーやセンサー等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
I インクジェット式記録ヘッド、 II インクジェット式記録装置、 10 流路
形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 20 ノズ
ルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 圧電素子保持部、 32
リザーバー部、 40 コンプライアンス基板、 60 第1電極、 70 圧電体層
、 80 第2電極、 83 凸部、 90 リード電極、 100 保護膜、 101
開口部、 111 リザーバー、 200 駆動回路、 300 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル開口に連通する圧力発生室、及び
第1電極と、該第1電極上方に形成された圧電体層と、該圧電体層上方に形成され、ラ
ンタンを含む金属酸化物からなる金属酸化物層を含む第2電極と、該金属酸化物層上に形
成された絶縁膜とを有する圧電素子を備える液体噴射ヘッドの製造方法であって、
前記圧電体層上方に前記第2電極を形成する工程と、
塩素を含有するガスを前記金属酸化物層に接触させて、前記金属酸化物層に凸部を形成
する工程と、
該金属酸化物層の前記凸部が形成された面に前記絶縁膜を形成する工程とを具備するこ
とを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記金属酸化物層を形成する前に、前記圧電体層上に前記ランタンを含む金属酸化物よ
りも電気伝導度の高い金属からなる導電層を形成することを特徴とする請求項1記載の液
体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記塩素含有ガスが、塩素ガスとアルゴンガスとの混合ガスであることを特徴とする請
求項1又は2記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記凸部を形成する前に、前記第2電極の上面に凹凸を形成する工程をさらに具備し、
該凹凸が形成された前記第2電極上に前記凸部を形成することを特徴とする請求項1〜
3のいずれか一項に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項5】
第1電極と、該第1電極上方に形成された圧電体層と、該圧電体層上方に形成され、ラ
ンタンを含む金属酸化物からなる金属酸化物層を含む第2電極と、該金属酸化物層上に形
成された絶縁膜とを有する圧電素子の製造方法であって、
前記圧電体層上方に前記第2電極を形成する工程と、
塩素を含有するガスを前記金属酸化物層に接触させて、前記金属酸化物層に凸部を形成
する工程と、
該第2電極の前記凸部が形成された面に前記絶縁膜を形成する工程とを具備することを
特徴とする圧電素子の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−166419(P2012−166419A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28291(P2011−28291)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】