説明

液体噴射ヘッドの製造方法

【課題】振動板と流路形成基板との相対的な位置ずれの検査精度が低下してしまうという課題がある。
【解決手段】圧電振動子が接合されるための島部38の周囲をエッチング処理し、島部38より薄い層からなる薄膜部を有する振動板を形成する振動板エッチング処理工程と、島部38に対応する領域に形成され、ノズル開口に通じる圧力室となるための空部を形成する隔壁44と、振動板との相対的な位置の基準となる基準パターン46(46a,46b,46c)と、を有する流路形成基板をエッチング処理により形成する流路形成基板エッチング処理工程と、振動板と流路形成基板とを接合する接合工程と、を含み、流路形成基板エッチング処理工程では、隔壁44と基準パターン46とを形成するための一つのマスクパターンを用いて1回の露光処理により、隔壁44と基準パターン46とを形成する液体噴射ヘッド1の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置として、液体噴射ヘッドに形成された複数のノズルから紙などの記録媒体に液滴としてのインクを噴射するインクジェット式記録装置が知られている。例えば、圧力室に対応する圧電振動子を備えたアクチュエーターユニットと、液体噴射ヘッドの外部から供給される液体の貯留室、貯留室から各圧力室に液体が供給される複数の液体供給路を備えた流路ユニット等から構成される液体噴射ヘッドがある。流路ユニットは、圧力室や貯留室となるための空部や液体供給路となるための溝部が形成された流路形成基板と、これらの空部や溝部が形成された流路形成基板の一方の面を封止する振動板と、ノズル開口が形成され、流路形成基板の他方の面を封止するノズルプレートとが積層されて構成される。
【0003】
振動板の圧力室と反対側の面には、圧電振動子の変形に伴って弾性変形するダイヤフラム部が形成される。このダイヤフラム部は、圧電振動子の先端面が接続される部分を島部として残した状態でその周囲をエッチング処理によって除去して弾性薄膜部のみとすることで構成されている。圧電振動子を駆動して圧電振動子の長手方向に伸縮させると、島部が圧力室に近接する方向または離隔する方向に変位する。これにより、圧力室の容積が変化し、圧力室内の液体に圧力変動が生じて、ノズル開口から液体が噴射される。
【0004】
振動板と流路形成基板との相対的な位置がずれた状態で積層された液体噴射ヘッドでは、圧力室に対する島部の位置が正常な位置からずれてしまう虞がある。そのため、ノズル開口から噴射される液滴の経路が曲がってしまったり、規定量の液滴が噴射されなかったりする場合がある。そこで、特許文献1では、圧力室となるための空部を構成する流路形成基板の隔壁に基準パターンを設け、振動板と流路形成基板とが積層された状態において、振動板に形成された島部と流路形成基板の隔壁に形成された基準パターンとの位置ずれを検査することにより、振動板と流路形成基板との相対的な位置ずれの検査の精度を向上させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−264159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、流路形成基板の隔壁に形成される基準パターンの位置がずれてしまうと、振動板に形成された島部と基準パターンとの位置ずれの検査精度が低下してしまう。そのため、振動板と流路形成基板との相対的な位置ずれの検査精度が低下してしまうという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]圧電振動子が接合されるための島部の周囲をエッチング処理し、前記島部より薄い層からなる薄膜部を有する振動板を形成する振動板エッチング処理工程と、前記島部に対応する領域に形成され、ノズル開口に通じる圧力室となるための空部を形成する隔壁と、前記振動板との相対的な位置の基準となる基準パターンと、を有する流路形成基板をエッチング処理により形成する流路形成基板エッチング処理工程と、前記振動板と前記流路形成基板とを接合する接合工程と、を含み、前記流路形成基板エッチング処理工程では、前記隔壁と前記基準パターンとを形成するための一つのマスクパターンを用いた1回の露光処理により、前記隔壁と前記基準パターンとを形成することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【0009】
この構成によれば、流路形成基板エッチング処理工程では、隔壁と基準パターンとを形成するための一つのマスクパターンを用いた1回の露光処理により、隔壁と基準パターンとを形成する。これにより、流路形成基板の隔壁に形成される基準パターンの位置がずれてしまうことが抑制される。そのため、振動板に形成された島部と基準パターンとの位置ずれの検査精度の低下が抑制され、振動板と流路形成基板との相対的な位置ずれの検査精度の低下が抑制される。
【0010】
[適用例2]前記振動板に形成される前記薄膜部は半透明性を有し、前記基準パターンは、前記隔壁における前記薄膜部との接合面に形成されることを特徴とする上記液体噴射ヘッドの製造方法。
【0011】
この構成によれば、振動板と流路形成基板とが接合された状態において、流路形成基板の隔壁に形成された基準パターンを振動板側から視認することができる。
【0012】
[適用例3]前記基準パターンは、前記島部の長手方向の端部に対応する位置に形成されることを特徴とする上記液体噴射ヘッドの製造方法。
【0013】
この構成によれば、島部の長手方向における振動板と流路形成基板との位置ずれを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】インクジェット式液体噴射ヘッドの構成を説明する分解斜視図。
【図2】インクジェット式液体噴射ヘッドの構成を説明する要部断面図。
【図3】流路ユニットの構成を説明する分解斜視図。
【図4】流路形成基板と振動板の接合状態を説明する平面図。
【図5】(a)は図4におけるA−A線断面図、(b)は図4におけるB−B線断面図。
【図6】図4における領域Xの拡大図。
【図7】流路ユニットの製造方法におけるフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態について図面を参照しつつ説明する。以下の説明は、インクジェット式液体噴射装置(以下、プリンターという)に搭載されるインクジェット式液体噴射ヘッド(以下、液体噴射ヘッドという)を例に挙げて行う。
【0016】
図1は、本実施形態における液体噴射ヘッド1の分解斜視図、図2は、液体噴射ヘッド1の要部断面図である。液体噴射ヘッド1は、カートリッジ基台2(以下、「基台」という)、駆動用基板5、ケース10、流路ユニット11、及び、アクチュエーターユニット13を主な構成要素としている。なお、以下においては、便宜上、液体噴射ヘッド1を構成する各部材の積層方向を上下方向として説明する。
【0017】
上記基台2は、例えば、エポキシ系樹脂等の合成樹脂によって成型されており、その上面にはフィルター3を介在させた状態でインク導入針4が複数取り付けられている。これらのインク導入針4には、インク(液体の一種)を貯留したインクカートリッジ(図示せず)が装着されるようになっている。
【0018】
駆動用基板5は、図示せぬプリンター本体側からの駆動信号を図2の圧電振動子19へ供給するための配線パターン(不図示)が形成されると共に、プリンター本体側との接続のためのコネクター6や電子部品8等を実装している。コネクター6にはFFC(フレキシブルフラットケーブル)等の配線部材(不図示)が接続され、駆動用基板5は、このFFCを介してプリンター本体側から駆動信号を受けるようになっている。そして、この駆動用基板5は、パッキンとして機能するエラストマー等の弾性シート7を介在させた状態で、インク導入針4とは反対側の基台2の底面側に配置される。
【0019】
ケース10は、合成樹脂製の中空箱体状部材であり、先端面(下面)には流路ユニット11を接合し、内部に形成された収容空部12内にはアクチュエーターユニット13を収容し、流路ユニット11側とは反対側の基板取付面14には駆動用基板5を取り付けるようになっている。
【0020】
また、このケース10の先端面側には、金属製の薄板部材によって作製されたヘッドカバー16が、流路ユニット11の外側からその周縁部を包囲する状態に取り付けられる。このヘッドカバー16は、流路ユニット11やケース10を保護すると共に、流路ユニット11のノズル形成基板25を接地電位に調整し、記録紙等から発生する静電気によるノイズ等の障害を防止する機能を果たす。
【0021】
アクチュエーターユニット13は、櫛歯状に列設された複数の圧電振動子19と、圧電振動子19が接合される固定板20と、駆動用基板5からの駆動信号を圧電振動子19に伝達するための、TCP(テープキャリアパッケージ)等の配線部材21等から構成される。各圧電振動子19は、固定端部側が固定板20上に接合され、自由端部側が固定板20の先端面よりも外側に突出している。即ち、各圧電振動子19は、所謂片持ち梁の状態で固定板20上に取り付けられている。
【0022】
また、各圧電振動子19を支持する固定板20は、例えば厚さ1mm程度のステンレス鋼によって構成されている。そして、アクチュエーターユニット13は、固定板20の背面を、収容空部12を区画するケース内壁面に接着することで収容空部12内に収納され固定されている。なお、圧電振動子列の両端に位置する圧電振動子19は、駆動信号が供給されず実際には駆動しないダミー圧電振動子となっている。
【0023】
図3は、本実施形態における流路ユニット11の構成を説明する分解斜視図である。流路ユニット11は、振動板23、流路形成基板24、及びノズル形成基板25からなる各流路ユニット構成部材を積層した状態で接合して一体化することにより作製されている。
【0024】
図2の貯留室としての共通インク室27には、図1のインク導入針4を介して、液体噴射ヘッド1の外部に備えられたインクカートリッジからインクが供給されて貯留される。共通インク室27から液体供給路としての図2のインク供給口28及び圧力室29を通りノズル開口30に至るまでの一連の液体流路が形成されている。
【0025】
図3の流路ユニット11の最下部に配置されるノズル形成基板25は、ドット形成密度に対応したピッチ(例えば180dpi)で複数のノズル開口30を、紙送り方向(副走査方向)に列状に開設した金属製の薄い板材であり、本実施形態においてはステンレス鋼によって作製されている。また、ノズル形成基板25においては、180個のノズル開口30によって1つのノズル列が形成されている。
【0026】
ノズル形成基板25と振動板23との間に配置される流路形成基板24は、液体流路となる部分、具体的には、共通インク室27となる空部33、インク供給口28となる溝部34、及び、圧力室29となる空部35が区画形成された板状の部材であり、本実施形態においては、結晶性を有する基材であるシリコンウェハーを異方性エッチング処理することによって作製されている。
【0027】
また、流路形成基板24には、流路ユニット構成部材間を接合する際の余分な接着剤或いは気泡を導入する逃げ穴としても機能する逃げ穴36が、同様にエッチング処理によって複数開設されている。この逃げ穴36を設けることで、部材間の接合境界部分からはみ出した接着剤が液体流路側に流れ込んだり、各部材間に気泡が入ることで接着不良が発生したりするのを防止することができる。また、この逃げ穴36内に導入された接着剤が固化するとアンカーとして機能するので、接合強度を高めることができる。
【0028】
ノズル形成基板25とは反対側の流路形成基板24の上面に配置される振動板23は、例えばステンレス鋼等の金属製の支持板23aの表面にPPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂フィルムを弾性薄膜部23bとしてラミネートした複合板材によって構成されている。
【0029】
図2の振動板23の圧力室29に対応する領域には、圧電振動子19の作動に応じて変形して圧力室29内のインクに圧力変動を生じさせ得るダイヤフラム部37が形成されている。ダイヤフラム部37は、圧電振動子19の先端面が接続される部分を島部38として残した状態でその周囲の支持板23aをエッチング処理で除去して弾性薄膜部23bのみとすることで構成されている。
【0030】
また、振動板23には、流路形成基板24の空部33の一方の開口面を封止し、共通インク室27の一部を区画するコンプライアンス部39が形成されている。コンプライアンス部39は、共通インク室27(空部33)に対応する領域の支持板23aを、エッチング処理によって除去することにより、弾性薄膜部23bのみとされている。コンプライアンス部39は、圧電振動子19の駆動時の液体流路内のインクの圧力変動を緩和するダンパーとして機能する。
【0031】
上記流路ユニット構成部材、即ち、振動板23、流路形成基板24、及びノズル形成基板25には、基準ピン41に挿通可能な基準穴42(42a,42b,42c)が各部材の厚さ方向を貫通してそれぞれ開設されている。そして、各流路ユニット構成部材は、各々の基準穴42に基準ピン41を挿通することで相対的な位置が合わされた上で接着剤等によって接合され、ノズル形成基板25を下側にした姿勢でケース10に固定される。
【0032】
液体噴射ヘッド1では、駆動用基板5から配線部材21を通じて圧電振動子19に駆動信号が供給されると、圧電振動子19が素子長手方向に伸縮し、これに伴いダイヤフラム部37の島部38が圧力室29に近接する方向或いは離隔する方向に移動する。これにより、圧力室29の容積が変化し、圧力室29内のインクに圧力変動が生じる。この圧力変動によって圧力室29内のインクがノズル開口30からインク滴(液滴の一種)として吐出される。
【0033】
圧力室29等の液体流路やダイヤフラム部37の島部38等の各部位は、非常に微細な形状に作製されているため、流路ユニット構成部材の位置決めについては、数μmオーダーの高い精度が要求される。特に、圧電振動子19が接続される島部38の位置決め精度は、ヘッドを高密度化することで圧電振動子の数が増加するのに伴って、より高い精度が求められる。本実施形態における液体噴射ヘッド1では、上述のように、各部材の基準穴42に基準ピン41を挿通することで各流路ユニット構成部材の相対的な位置が規定されるように構成されているが、基準穴42と基準ピン41との間に寸法誤差がある場合には、位置決め精度が低下してしまう。特に、流路形成基板24と振動板23との位置ずれに起因して島部38と圧力室29との相対的な位置が正常な位置からずれてしまうと、インク滴の吐出特性に悪影響を及ぼす虞がある。
【0034】
そのため、上記液体噴射ヘッド1では、流路ユニット構成部材を接合した後、流路形成基板24と振動板23の接合状態の検査、より具体的には、圧力室29に対する島部38の位置ずれの検査が行われる。そして、液体噴射ヘッド1では、振動板23に接合して振動板23における圧力室29を区画する、流路形成基板24に形成された隔壁44の振動板23に接合される側の端面45に、流路形成基板24と振動板23の相対的な位置の基準となる基準パターン46が設けられており、基準パターン46に対する島部38の位置を測定することによって、高い精度で位置ずれの検査を行うことができるようになっている。以下、この点について説明する。
【0035】
図4は、流路形成基板24と振動板23の接合状態を説明する平面図、図5(a)は、図4におけるA−A線断面図、図5(b)は、図4におけるB−B線断面図である。また、図6は、図4における領域Xの拡大図である。なお、弾性薄膜部23bは、支持板23aより薄い半透明のシートであるため、図4では、流路形成基板24と振動板23の接合状態において、弾性薄膜部23bを透過して流路形成基板24と流路形成基板24に形成された基準パターン46を視認することができる。
【0036】
ここで、本実施形態において、圧力室29の列における両端に位置する圧力室は、インク滴の吐出には直接関与しないダミー圧力室29´となっている。ダミー圧力室29´に対応する島部は、上記ダミー圧電振動子が接続されるダミー島部38´となっている。そして、本実施形態においては、各ダミー圧力室29´を区画する隔壁44の端面45、即ち、振動板23が配置される側の上端面に、それぞれ島部38の長手方向(圧力室列設方向とは直交する方向)に沿って基準パターン46が複数設けられている。より具体的には、各ダミー圧力室29´を区画する隔壁のうち圧力室列設方向の隔壁44(以下、圧力室長手方向の両側の隔壁44と区別するため、適宜、隔壁44´ともいう)の端面45に、島部38の長手方向の両端部毎にそれぞれ3つずつ基準パターン46(46a,46b,46c)が形成されている。即ち、1つのダミー圧力室29´に対して合計6つの基準パターン46が、島部の両端部に対応してそれぞれ形成されている。これらの基準パターン46は、圧力室29に対する島部38(ダミー島部38´)の長手方向の位置を検査する際の基準として用いられる。
【0037】
基準パターン46は、図6に示すように、平面視において多角形、本実施形態では略六角形状の微小な穴であり、圧力室29等と同様にエッチング処理によって流路形成基板24の厚さ方向の途中まで穿設されている。そして、この多角形状の基準パターン46のうち、中央に配置されている基準パターン46bの頂点Pが、流路形成基板24と振動板23との相対的な位置の基準点、即ち、本実施形態においては島部38の長手方向の端の位置を測定するための基準点となっている。つまり、この中央の基準パターン46bの頂点Pから圧力室列設方向に延した仮想線Lと島部38の端が一致する状態が最も望ましい状態である。
【0038】
また、本実施形態において、一組の基準パターン46(46a,46b,46c)の配置ピッチは、流路形成基板24と振動板23の相対的な位置ずれ量の公差に一致するように設定されている。すなわち、図6に示すように、3つの基準パターン46(46a,46b,46c)のうち中央の基準パターン46bの頂点Pから、この中央の基準パターン46bの両側に位置する基準パターン46a,46cの頂点Pまでの距離dが、それぞれ上記公差(例えば、10μm)に一致するように設定されている。
【0039】
上記位置ずれの検査は、例えば非接触段差測定機を用いて行う。なお、以下では、適宜、圧力室列設方向を上下方向とし、これに直交する島部38の長手方向を左右方向として表現する。まず、上下両側のダミー島部38´のうちの一方について、左右両端の基準パターン46に対する位置ずれを一端ずつ検査する。即ち、例えば、図4における下側のダミー島部38´の左端の位置に関し、ダミー圧力室29´の隔壁44´の端面45の左側に設けられた中央の基準パターン46bの頂点Pを中心として、その左右両側の基準パターン46a,46cの各頂点Pまでの左右の距離dの範囲内に位置するか否か、つまり公差範囲内に入るか否かを検査する。
【0040】
上記非接触段差測定機を用いて検査を行う場合には、圧力室29同士を隔てる隔壁44´を測定機において平行に合わせる平行出しを行った上、測定機のターゲットマークをダミー島部38´の左端に位置させてこの位置を測定開始地点として設定し、この地点から中央の基準パターン46bの頂点Pまでターゲットマークを移動させることで、測定開始地点からの左右方向の距離がプラス又はマイナスの数値として測定機に表示される。これにより、中央の基準パターン46bの頂点Pに対するダミー島部38´の左右方向(島部長手方向)の位置ずれを測定することができる。そして、この位置ずれが公差範囲内であるか否かを検査する。同様にして、同島部38´の右端について、端面45の右側に設けられた基準パターン46に基づいて位置ずれ量が公差範囲内に入るか否かを検査する。
【0041】
一方のダミー島部38´の左右方向(島部長手方向)両端の基準パターン46に対する位置ずれを検査したならば、次に、他方(上側)のダミー島部38´についても同様にして、左右両端の基準パターン46に対する位置ずれを検査する。そして両方のダミー島部38´の両端の位置ずれが、何れも公差範囲内に入っていれば適合であると判断され、何れか一つでも公差範囲外となった場合には不適合とされる。なお、圧力室29に対する島部38の上下方向(圧力室列設方向)の位置ずれについては、圧力室29の隔壁44´からの距離で測定される。
【0042】
このように、上記液体噴射ヘッド1では、振動板23における圧力室29(ダミー圧力室29´)を区画する隔壁44(隔壁44´)の端面45に基準パターン46を設け、この基準パターン46に基づいて島部38(ダミー島部38´)の位置ずれを検査するので、基準パターン46と島部38との測定距離を可及的に短くすることができ、その結果、より高い精度で位置ずれの検査を行うことができる。これにより、圧力室に対する島部の位置ずれに起因して吐出不良等が生じる虞のある液体噴射ヘッドを未然に排除することができる。
【0043】
また、本実施形態においては、島部38の両端に対してそれぞれ複数の基準パターン46(46a,46b,46c)を設け、各基準パターン46の配置ピッチを流路形成基板24と振動板23の相対的な位置ずれ量の公差に一致するように設定しているので、位置ずれの検査を迅速且つ高い精度で行うことが可能となる。即ち、上記の非接触段差測定機等の高精度な顕微鏡を用いなくとも、位置ずれが公差範囲内であるか否かを一般的な顕微鏡によっても容易に判断することができる。
【0044】
さらに、本実施形態においては、インク滴の吐出に直接関与しない各ダミー圧力室29´の隔壁44´(隔壁44)の端面45に基準パターン46を設ける一方、インク滴の吐出に関わる圧力室29の隔壁44には、基準パターン46を設けない構成を採用している。これにより、ダミー圧力室29´以外の圧力室29における隔壁44の剛性を一律に揃えることができる。その結果、インク滴の吐出に関わる全ての圧力室29のインク滴吐出特性を揃えることができる。
【0045】
ところで、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。
【0046】
例えば、上記実施形態においては、各ダミー圧力室29´の隔壁44´の端面45に形成された基準パターン46に対するダミー島部38´の両端の位置ずれを検査する例を示したが、これに限らず、通常の圧力室29に対応する島部38の両端について上記基準パターン46に対する位置ずれを検査するようにしてもよい。つまり、ダミー圧力室29´を除く圧力室列の両端の圧力室29について、ダミー圧力室29´の隔壁44´の端面45に形成された基準パターン46に基づいて位置ずれを検査することもできる。この構成は、実際にインク滴の吐出に関わる圧力室29と島部38との位置ずれを検査するので、より好ましい。
【0047】
また、上記実施形態では、ダミー圧力室29´の隔壁44´の端面45に基準パターン46を設ける一方、インク滴の吐出に関わる圧力室29の隔壁44には、基準パターン46を設けない構成としたが、これには限らず、インク滴吐出特性への影響が少ないと判断される場合には、通常の圧力室29の隔壁44に基準パターン46を設ける構成を採用することも可能である。
【0048】
(液体噴射ヘッドの製造方法)
次に、液体噴射ヘッド1における流路ユニット11の製造方法について説明する。図7は、流路ユニット11の製造方法におけるフローチャートである。
【0049】
振動板エッチング処理工程S100では、ステンレス鋼等の金属製の支持板23aの表面にPPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂フィルムを弾性薄膜部23bとしてラミネートした複合板材によって構成された振動板23を用意する。
【0050】
そして、圧電振動子19が接合されるための島部38を残して、島部38の周囲の支持板23aをエッチング処理することにより、ステンレス鋼等の金属層を除去し、島部38より薄い層からなる樹脂フィルムで構成される弾性薄膜部23bを形成する。
【0051】
また、共通インク室27に対応する領域の支持板23aを、エッチング処理によって除去することにより、弾性薄膜部23bからなるコンプライアンス部39を形成する。
【0052】
また、エッチング処理により、金属製の支持板23aと弾性薄膜部23bを除去し、基準穴42aを形成する。
【0053】
流路形成基板エッチング処理工程S110では、空部35、基準パターン46(46a,46b,46c)、空部33、基準穴42b、溝部34、逃げ穴36が描かれた一つのマスクパターンを用いて、シリコンウェハーを露光する。
【0054】
次に、エッチング処理により空部や穴部や溝部を除去することにより、空部35、空部35を形成する隔壁44、基準パターン46(46a,46b,46c)、空部33、基準穴42b、溝部34、逃げ穴36を形成する。
【0055】
接合工程S120では、振動板23の基準穴42a、流路形成基板24の基準穴42bに基準ピン41を挿入し、接着剤を用いて、振動板23と流路形成基板24とを接続する。さらに、ノズル開口30が形成されたノズル形成基板25の基準穴42cに基準ピン41を挿入し、流路形成基板24とノズル形成基板25とを接着剤を用いて接合する。
【0056】
(比較例)
比較のため、液体噴射ヘッド1における流路ユニット11の製造方法について説明する。比較例における振動板エッチング処理工程と接合工程は、本実施形態における振動板エッチング処理工程S100と接合工程S120と同じである。
【0057】
比較例における流路形成基板エッチング処理工程では、流路形成基板24を貫通する空部33、空部35、基準穴42bを形成するための1回目のマスクパターンを用いて露光処理し、1回目のエッチング処理を行う。
【0058】
次に、流路形成基板24を貫通しない溝部34、逃げ穴36、基準パターン46(46a,46b,46c)を形成するための2回目のマスクパターンを用いて露光処理し、2回目のエッチング処理を行う。
【0059】
比較例における製造方法では、1回目のマスクパターンを用いて露光処理された空部35を形成する隔壁44の位置と、2回目のマスクパターンを用いて露光処理された基準パターン46(46a,46b,46c)の位置とのずれ量が大きくなってしまう場合がある。
【0060】
そのため、振動板23に形成された島部38と基準パターン46(46a,46b,46c)との位置ずれの検査精度が低下してしまう。従って、振動板23と流路形成基板24との相対的な位置ずれの検査精度が低下してしまう場合がある。
【0061】
以上、前述した本実施形態の液体噴射ヘッド1の製造方法によれば、圧電振動子19が接合されるための島部38の周囲をエッチング処理し、島部38より薄い層からなる弾性薄膜部23bを有する振動板23を形成する振動板エッチング処理工程S100と、島部38に対応する領域に形成され、ノズル開口30に通じる圧力室29となるための空部35を形成する隔壁44と、振動板23との相対的な位置の基準となる基準パターン46(46a,46b,46c)と、を有する流路形成基板24をエッチング処理により形成する流路形成基板エッチング処理工程S110と、振動板23と流路形成基板24とを接合する接合工程S120と、を含み、流路形成基板エッチング処理工程S110では、隔壁44と基準パターン46とを形成するための一つのマスクパターンを用いた1回の露光処理により、隔壁44と基準パターン46とを形成する。
【0062】
この構成によれば、流路形成基板エッチング処理工程S110では、隔壁44と基準パターン46とを形成するための一つのマスクパターンを用いて、隔壁44と基準パターン46とを同時に露光する。これにより、流路形成基板24の隔壁44の端面45に形成される基準パターン46の位置がずれてしまうことが抑制される。そのため、振動板23に形成された島部38と基準パターン46との位置ずれの検査精度の低下が抑制され、振動板23と流路形成基板24との相対的な位置ずれの検査精度の低下が抑制される。
【0063】
従って、振動板23と流路形成基板24との相対的な位置ずれの検査によって選択された液体噴射ヘッドでは、振動板23と流路形成基板24との相対的な位置ずれが小さいので、圧力室29に対する島部38の位置のずれが小さい。そのため、ノズル開口30から噴射される液滴の経路が曲がってしまったり、規定量の液滴が噴射されなかったりすることが抑制される。
【0064】
また、振動板23に形成される弾性薄膜部23bは半透明性を有し、基準パターン46は、隔壁44における弾性薄膜部23bとの接合面に形成される。
【0065】
この構成によれば、振動板23と流路形成基板24とが接合された状態において、流路形成基板24の隔壁44の端面45に形成された基準パターン46を振動板23側から視認することができる。
【0066】
また、基準パターン46は、島部38の長手方向の端部に対応する位置に形成される。
【0067】
この構成によれば、島部38の長手方向における振動板23と流路形成基板24との位置ずれを検出することができる。
【0068】
また、以上、液体噴射ヘッドとして、インクジェット式液体噴射ヘッド1を例に挙げて説明したが、本発明は他の液体噴射ヘッドにも適用することができる。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1…液体噴射ヘッド、19…圧電振動子、23…振動板、23b…弾性薄膜部、24…流路形成基板、29…圧力室、30…ノズル開口、35…空部、38…島部、44…隔壁、46,46a,46b,46c…基準パターン、S100…振動板エッチング処理工程、S110…流路形成基板エッチング処理工程、S120…接合工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電振動子が接合されるための島部の周囲をエッチング処理し、前記島部より薄い層からなる薄膜部を有する振動板を形成する振動板エッチング処理工程と、
前記島部に対応する領域に形成され、ノズル開口に通じる圧力室となるための空部を形成する隔壁と、前記振動板との相対的な位置の基準となる基準パターンと、を有する流路形成基板をエッチング処理により形成する流路形成基板エッチング処理工程と、
前記振動板と前記流路形成基板とを接合する接合工程と、を含み、
前記流路形成基板エッチング処理工程では、前記隔壁と前記基準パターンとを形成するための一つのマスクパターンを用いた1回の露光処理により、前記隔壁と前記基準パターンとを形成することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドの製造方法であって、
前記振動板に形成される前記薄膜部は半透明性を有し、前記基準パターンは、前記隔壁における前記薄膜部との接合面に形成されることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の液体噴射ヘッドの製造方法であって、
前記基準パターンは、前記島部の長手方向の端部に対応する位置に形成されることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−101982(P2011−101982A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257710(P2009−257710)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】