液体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びに圧電素子
【課題】環境負荷が小さく且つクラックの発生が抑制された液体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びに圧電素子を提供する。
【解決手段】ノズル開口に連通する圧力発生室と、圧電体層及び該圧電体層に設けられた電極を備えた圧電素子と、を具備し、前記圧電体層は、鉄酸ビスマス、チタン酸バリウム、及び亜鉛酸チタン酸ビスマスを含む複合酸化物からなる。
【解決手段】ノズル開口に連通する圧力発生室と、圧電体層及び該圧電体層に設けられた電極を備えた圧電素子と、を具備し、前記圧電体層は、鉄酸ビスマス、チタン酸バリウム、及び亜鉛酸チタン酸ビスマスを含む複合酸化物からなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口に連通する圧力発生室に圧力変化を生じさせ、圧電体層と圧電体層に電圧を印加する電極を有する圧電素子を具備する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びに圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドに用いられる圧電素子としては、電気的機械変換機能を呈する圧電材料、例えば、結晶化した誘電材料からなる圧電体層を、2つの電極で挟んで構成されたものがある。このような圧電素子は、例えば撓み振動モードのアクチュエーター装置として液体噴射ヘッドに搭載される。ここで、液体噴射ヘッドの代表例としては、例えば、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴として吐出させるインクジェット式記録ヘッドがある。
【0003】
このような圧電素子を構成する圧電セラミックス膜には高い圧電特性が求められており、圧電材料の代表例として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が挙げられる(特許文献1参照)。しかしながら、チタン酸ジルコン酸鉛には鉛が含まれており、環境問題の観点から、鉛を含有しない圧電材料が求められている。そこで、鉛を含有しない圧電材料として、例えば、ビスマス及び鉄を含む鉄酸ビスマス系(BiFeO3系)のペロブスカイト型構造を有する圧電材料が提案されている。具体例としては、Bi(Fe,Mn)O3等の鉄酸マンガン酸ビスマスとBaTiO3等のチタン酸バリウムとの混晶として表される複合酸化物がある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−223404号公報
【特許文献2】特開2009−252789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような鉄酸ビスマス系の圧電材料は、鉛を含有する圧電材料からなる圧電体層と比較して、クラックが発生しやすいという問題があった。特に、膜厚の厚い圧電体層(例えば、750nm以上の圧電体層)を形成する際にクラックが発生しやすく、鉄酸ビスマス系の材料からなる圧電体層は厚く形成するのが難しいという問題があった。
【0006】
なお、このような問題は、インクジェット式記録ヘッドだけではなく、勿論、インク以外の液滴を吐出する他の液体噴射ヘッドにおいても同様に存在し、また、液体噴射ヘッド以外に用いられる圧電素子においても同様に存在する。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑み、環境負荷が小さく且つクラックの発生が抑制された液体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びにこれを供する圧電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室と、圧電体層及び該圧電体層に設けられた電極を備えた圧電素子と、を具備し、前記圧電体層は、鉄酸ビスマス、チタン酸バリウム、及び亜鉛酸チタン酸ビスマスを含む複合酸化物からなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる態様では、鉄酸ビスマスとチタン酸バリウムと亜鉛酸チタン酸ビスマスを含む複合酸化物からなる圧電体層とすることにより、クラックの発生を抑制することができる。これにより、膜厚が比較的厚い鉄酸ビスマス系の圧電材料からなる圧電体層、例えば、膜厚が750nm以上の圧電体層とすることができる。さらに、鉛の含有量を抑えられるため、環境への負荷を低減することができる。
【0009】
前記複合酸化物は、前記チタン酸バリウムが10モル%以上30モル%以下であり、前記亜鉛酸チタン酸ビスマスが2モル%以上30モル%以下であり、残りが前記鉄酸ビスマスであるのが好ましい。これによれば、より確実に圧電体層のクラックの発生を抑制することができる。また、ペロブスカイト型構造単相の複合酸化物からなる圧電体層とすることができる。
【0010】
前記鉄酸ビスマスはさらにマンガンを含み、前記複合酸化物は、下記一般式(1)で表されるものであるのが好ましい。
(1−x−y)Bi(Fe,Mn)O3−xBaTiO3−yBi(Zn,Ti)O3 (1)
(0.10≦x≦0.30,0.02≦y≦0.30)
これによれば、さらに、リーク電流の発生を抑制することができる。
【0011】
また、前記複合酸化物は、前記チタン酸バリウムが10モル%以上25モル%以下であるのが好ましい。これによれば、結晶状態に優れたものとすることができ、圧電素子の駆動に伴う圧電体層のクラックの発生を抑制することができる。
【0012】
前記複合酸化物は、前記亜鉛酸チタン酸ビスマスが10モル%以上30モル%以下であるのが好ましい。これによれば、より確実にクラックの発生を抑制することができ、より膜厚が厚い鉄酸ビスマス系の圧電材料からなる圧電体層とすることができる。
【0013】
前記複合酸化物は、前記亜鉛酸チタン酸ビスマスが15モル%以上30モル%以下であるのが好ましい。これによれば、より確実にクラックの発生を抑制することができ、より膜厚が厚い鉄酸ビスマス系の圧電材料からなる圧電体層とすることができる。
【0014】
前記複合酸化物は、前記亜鉛酸チタン酸ビスマスが20モル%以上30モル%以下であるのが好ましい。これによれば、より確実にクラックの発生を抑制することができ、より膜厚が厚い鉄酸ビスマス系の圧電材料からなる圧電体層とすることができる。
【0015】
本発明の他の態様は、上記液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる態様では、環境への負荷を低減し且つクラックの発生が抑制された圧電素子を具備するため、信頼性に優れた液体噴射装置を実現することができる。
【0016】
本発明の他の態様は、圧電体層と、前記圧電体層に設けられた電極とを備えた圧電素子であって、前記圧電体層は、鉄酸ビスマス、チタン酸バリウム、及び亜鉛酸チタン酸ビスマスを含む複合酸化物からなることを特徴とする圧電素子にある。
かかる態様では、鉄酸ビスマス、チタン酸バリウム、及び亜鉛酸チタン酸ビスマスを含む複合酸化物からなる圧電体層とすることにより、クラックの発生を抑制することができる。これにより、膜厚が比較的厚い鉄酸ビスマス系の圧電材料からなる圧電体層、例えば、膜厚が750nm以上の圧電体層とすることができる。さらに、鉛の含有量を抑えられるため、環境への負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図6】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図7】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図8】実施例及び比較例のX線回折パターンを表す図。
【図9】実施例1の圧電体層の表面を金属顕微鏡で観察した写真。
【図10】比較例1の圧電体層の表面を金属顕微鏡で観察した写真。
【図11】本発明の一実施形態に係る記録装置の概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A′線断面図である。
【0019】
流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板のマニホールド部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールドの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。本実施形態では、流路形成基板10には、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が設けられていることになる。
【0020】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
【0021】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55が形成されている。
【0022】
さらに絶縁体膜55上には、第1電極60と、第1電極60の上方に設けられて厚さが3μm以下、好ましくは0.3〜1.5μmの薄膜である圧電体層70と、圧電体層70の上方に設けられた第2電極80とが、積層形成されて、圧電素子300を構成している。なお、ここでいう上方とは、直上も、間に他の部材が介在した状態も含むものである。ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では、第1電極60を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、変位可能に設けられた圧電素子300をアクチュエーター装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び第1電極60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0023】
そして、本実施形態においては、圧電体層70を構成する圧電材料は、鉄酸ビスマス、チタン酸バリウム、及び亜鉛酸チタン酸ビスマスを含む複合酸化物からなる。この複合酸化物は、鉄酸ビスマスとチタン酸バリウムと亜鉛酸チタン酸ビスマスとの混晶として表される複合酸化物からなる。この複合酸化物は、鉄酸ビスマスと、チタン酸バリウムと、亜鉛酸チタン酸ビスマスとが均一に固溶して単一結晶(混晶)となっている。言い換えれば、この複合酸化物は、鉄酸ビスマス及びチタン酸バリウムに、亜鉛酸チタン酸ビスマスを添加するという技術思想に基づくものであり、鉄酸ビスマス、チタン酸バリウム、及び亜鉛酸チタン酸ビスマスそれぞれが存在することなく、単一結晶(混晶)となっている。これにより、亜鉛酸チタン酸ビスマスを含有していない系、すなわち、鉄酸ビスマスとチタン酸バリウムの混晶として表される複合酸化物と比較して、クラックの発生を抑制することができる。したがって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、信頼性に優れたものとなる。さらに、本実施形態では、圧電体層70が鉛を含有していないため、環境への負荷を低減することができる。
【0024】
圧電体層70は、上述した複合酸化物からなるものとすることにより、膜厚を厚くすることができ、例えば、750nm以上とすることができる。鉄酸マンガン酸ビスマス系の複合酸化物からなる圧電体層の場合、例えば、鉄酸マンガン酸ビスマスとチタン酸バリウムの混晶として表される複合酸化物からなる圧電体層の場合、厚く形成すると製造時又は製造から数日経過後にクラックが発生しやすいが、上述した構成からなる複合酸化物からなる圧電体層は、厚く形成しても製造時又は製造から数日経過後にクラックが発生するのを抑制することができる。このように圧電体層70を厚く形成することにより、圧電変位量を向上させることができる。
【0025】
上述した複合酸化物は、他の化合物を含んでいてもよく、また、鉄酸ビスマスが他の金属を含んでいてもよい。例えば、鉄酸ビスマスにおけるビスマスの一部が、ランタン(La)、セリウム(Ce)、サマリウム(Sm)等の一以上の金属により置換されていてもよく、鉄酸ビスマスにおける鉄の一部が、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、クロム(Cr)等の一以上の金属により置換されていてもよい。また、上述した複合酸化物は、例えば、(Bi,K)TiO3、(Bi,Na)TiO3、(Li,Na,K)(Ta,Nb)O3を添加したものであってもよい。
【0026】
このような複合酸化物は、チタン酸バリウムが10モル%以上30モル%以下であり、亜鉛酸チタン酸ビスマスが2モル%以上30モル%以下であり、残りが鉄酸ビスマスであるのが好ましい。このような複合酸化物からなる圧電体層70は、より確実にクラックの発生が抑制される。上記値を満たすことにより、後述する実施例に示すように、パイロクロア相等の異相を有さず、ペロブスカイト型構造単相の複合酸化物からなる圧電体層70となる。なお、亜鉛酸チタン酸ビスマスが2モル%未満となるとクラックの発生を抑制する効果が十分に得られなくなる虞があり、亜鉛酸チタン酸ビスマスが30モル%より多くなると異相が存在する複合酸化物となる虞がある。ここでいう「異相を有さない」とは、例えば、X線回折法(XRD)によって圧電体層70を測定した際に、異相のピークが観察されず、ペロブスカイト型構造に起因するピークのみが観察されることを意味する。
【0027】
ここで、本実施形態にかかる圧電体層70は、ペロブスカイト型構造である、すなわち、ABO3型構造であり、この構造のAサイトは酸素が12配位しており、また、Bサイトは酸素が6配位して8面体(オクタヘドロン)をつくっている。そして、このAサイトにビスマス(Bi)及びバリウム(Ba)が、Bサイトに鉄(Fe)、チタン(Ti)、及び亜鉛(Zn)が位置している。すなわち、この複合酸化物は、鉄酸ビスマスと、チタン酸バリウムと、亜鉛酸チタン酸ビスマスとが均一に固溶して単一結晶(混晶)となっている。
【0028】
本実施形態では、鉄酸ビスマスがマンガンを含むものとした。すなわち、複合酸化物が、鉄酸マンガン酸ビスマス(Bi(Fe,Mn)O3)とチタン酸バリウム(BaTiO3)と亜鉛酸チタン酸ビスマス(Bi(Zn,Ti)O3)との混晶として表されるものとした。この複合酸化物は、例えば、下記一般式(1)で表されるものであるのが好ましい。すなわち、下記一般式(1)で表す組成比を満たすものであるのが好ましい。ただし、下記一般式(1)の記述は化学量論に基づく組成表記であり、元素拡散、格子不整合、酸素欠損等による不可避な組成ずれは許容される。
(1−x−y)Bi(Fe,Mn)O3−xBaTiO3−yBi(Zn,Ti)O3 (1)
(0.10≦x≦0.30,0.02≦y≦0.30)
【0029】
このような複合酸化物からなる圧電体層70は、より確実にクラックの発生が抑制されると共に、リーク電流の発生を抑制することができる。また、パイロクロア相等の異相を有さず、ペロブスカイト型構造単相の複合酸化物からなる圧電体層70となる。本実施形態にかかる圧電体層70は、ペロブスカイト型構造である、すなわち、ABO3型構造であり、この構造のAサイトは酸素が12配位しており、また、Bサイトは酸素が6配位して8面体(オクタヘドロン)をつくっている。そして、このAサイトにビスマス(Bi)及びバリウム(Ba)が、Bサイトに鉄(Fe)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、及び亜鉛(Zn)が位置している。
【0030】
また、圧電体層70を構成する複合酸化物は、チタン酸バリウムが10モル%以上30モル%以下であり、10モル%以上25モル%以下であるのが好ましい。複合酸化物におけるチタン酸バリウムの組成比を10モル%以上25モル%と以下することにより、結晶粒が比較的揃い結晶状態に優れた圧電体層70とすることができるためである。これにより、圧電素子300の駆動に伴う圧電体層70のクラックの発生を抑制したものとすることができる。なお、チタン酸バリウムが25モル%より多くなると、結晶が異常成長して表面の平滑性が低下する虞がある。一方、チタン酸バリウムが10モル%未満となると、変位特性が低下する虞がある。
【0031】
また、圧電体層70を構成する複合酸化物は、亜鉛酸チタン酸ビスマスが2モル%以上30モル%以下であり、10モル%以上30モル%以下であるのが好ましく、15モル%以上30モル%以下であるのがより好ましく、特に好ましくは20モル%以上30モル%以下である。複合酸化物におけるチタン酸バリウムの組成比を上述した値とすることにより、より容易に圧電体層70のクラックの発生が抑制されるためである。亜鉛酸チタン酸ビスマスを2モル%以上30モル%以下とすることにより、製造条件、例えば、圧電体層70の成膜条件、焼成温度等を変更することにより、クラックの発生を抑制して膜厚の厚い圧電体層70を形成することができるが、亜鉛酸チタン酸ビスマスを10モル%以上30モル%以下とすることにより、より確実にクラックの発生を抑制することができ、より膜厚の厚い圧電体層70とすることができる。また、亜鉛酸チタン酸ビスマスを15モル%以上30モル%以下、20モル%以上30モル%以下とすることにより、より膜厚の厚い圧電体層70としてもクラックを抑制することができる。
【0032】
複合酸化物は、亜鉛酸チタン酸ビスマス(Bi(Zn,Ti)O3)における亜鉛とチタンとのモル比(Zn/Ti)は特に限定されるものではないが、例えば、0.67以上1.5以下であるものが挙げられる。すなわち、上記一般式において、鉄酸マンガン酸ビスマスは、Bi(Znβ,Ti1−β)O3で表され、0.4≦β≦0.6であるものが挙げられる。本実施形態では、β=0.5、すなわち、Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3とした。
【0033】
本実施形態にかかる複合酸化物は、鉄酸ビスマスがマンガンを含むものとしたが、上記一般式(1)において、マンガンと鉄とのモル比(Mn/Fe)は特に限定されるものではなく、鉄酸マンガン酸ビスマスがペロブスカイト型構造の圧電材料として通常使用される際にとり得る範囲であればよく、例えば、0以上0.10以下であるものが挙げられる。すなわち、上記一般式において、鉄酸マンガン酸ビスマスは、Bi(Feα,Mn1−α)O3で表され、0.90≦α≦1であるものが挙げられる。
【0034】
このような圧電素子300の個別電極である各第2電極80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、弾性膜50上や必要に応じて設ける絶縁体膜上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
【0035】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60、弾性膜50や必要に応じて設ける絶縁体膜及びリード電極90上には、マニホールド100の少なくとも一部を構成するマニホールド部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このマニホールド部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールド100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、マニホールド部31のみをマニホールドとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にマニホールド100と各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
【0036】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0037】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0038】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
【0039】
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
【0040】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってマニホールド部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0041】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIでは、図示しない外部のインク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、マニホールド100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。そして、本発明においては、耐圧が高いため、高い電圧を印加しても圧電素子300の絶縁破壊が生じない。したがって、高い電圧を印加して駆動することができる。
【0042】
次に、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法の一例について、図3〜図7を参照して説明する。なお、図3〜図7は、圧力発生室の長手方向の断面図である。
【0043】
まず、図3(a)に示すように、シリコンウェハーである流路形成基板用ウェハー110の表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン(SiO2)等からなる二酸化シリコン膜を熱酸化等で形成する。次いで、図3(b)に示すように、弾性膜50上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。
【0044】
次に、図4(a)に示すように、絶縁体膜55上の全面に亘って第1電極60を形成する。具体的には、絶縁体膜55上に白金、イリジウム、酸化イリジウム又はこれらの積層構造等からなるからなる第1電極60を形成する。なお、第1電極60は、例えば、スパッタリング法や蒸着法により形成することができる。次に、図4(b)に示すように、第1電極60上に所定形状のレジスト(図示無し)をマスクとして第1電極60の側面が傾斜するように同時にパターニングする。
【0045】
次いで、レジストを剥離した後、第1電極60上(及び絶縁体膜55)に、圧電体層70を積層する。圧電体層70の製造方法は特に限定されないが、例えば、金属錯体を含む溶液を塗布乾燥し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層(圧電体膜)を得るMOD(Metal−Organic Decomposition)法やゾル−ゲル法等の化学溶液法を用いて圧電体層70を製造できる。その他、レーザーアブレーション法、スパッタリング法、パルス・レーザー・デポジション法(PLD法)、CVD法、エアロゾル・デポジション法など、液相法でも固相法でも気相法でも圧電体層70を製造することもできる。
【0046】
圧電体層70を化学溶液法で形成する場合の具体的な形成手順例としては、まず、図4(c)に示すように、第1電極60上に、金属錯体、具体的には、Bi、Fe、Mn、Ba、Ti及びZnを含有する金属錯体を含むMOD溶液やゾルからなる圧電体膜形成用組成物(前駆体溶液)をスピンコート法などを用いて、塗布して圧電体前駆体膜71を形成する(塗布工程)。
【0047】
塗布する前駆体溶液は、焼成によりBi、Fe、Mn、Ba、Ti及びZnを含む複合酸化物を形成しうる金属錯体混合物を、有機溶媒に溶解または分散させたものである。かかる金属錯体混合物は、複合酸化物を構成する金属のうち一以上の金属を含む金属錯体の混合物であり、各金属が所望のモル比となるように金属錯体が混合されている。Bi、Fe、Mn、Ba、Ti、Znをそれぞれ含む金属錯体の混合割合は、所望の鉄酸マンガン酸ビスマスとチタン酸バリウムと亜鉛酸チタン酸ビスマスとの混晶として表される複合酸化物となるような割合とする。このとき、下記一般式(1)を満たすものとなるように金属錯体を混合するのが好ましい。
【0048】
[式1]
(1−x−y)Bi(Fe,Mn)O3−xBaTiO3−yBi(Zn,Ti)O3 (1)
(0.10≦x≦0.30,0.02≦y≦0.30)
【0049】
Bi、Fe、Mn、Ba、Ti、Znをそれぞれ含む金属錯体としては、例えば、アルコキシド、有機酸塩、βジケトン錯体などを用いることができる。Biを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸ビスマス、酢酸ビスマスなどが挙げられる。Feを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸鉄、酢酸鉄などが挙げられる。Mnを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸マンガン、酢酸マンガンなどが挙げられる。Baを含む金属錯体としては、例えばバリウムイソプロポキシド、2−エチルヘキサン酸バリウム、バリウムアセチルアセトナートなどが挙げられる。Tiを含有する金属錯体としては、例えばチタニウムイソプロポキシド、2−エチルヘキサン酸チタン、チタン(ジ−i−プロポキシド)ビス(アセチルアセトナート)などが挙げられる。Znを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸亜鉛などが挙げられる。勿論、Bi、Fe、Mn、Ba、Ti、Znを二種以上含む金属錯体を用いてもよい。
【0050】
また、溶媒は、金属錯体混合物を溶解又は分散させるものであればよく、特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、オクタン、エチレングリコール、2−メトキシエタノール、ブタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸、水、等の様々な溶媒が挙げられる。勿論、これらを2種以上用いてもよい。
【0051】
次いで、この圧電体前駆体膜71を所定温度(例えば130〜200℃)に加熱して一定時間乾燥させる(乾燥工程)。次に、乾燥した圧電体前駆体膜71を所定温度(例えば350〜450℃)に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。ここで言う脱脂とは、圧電体前駆体膜71に含まれる有機成分を、例えば、NO2、CO2、H2O等として離脱させることである。乾燥工程や脱脂工程の雰囲気は限定されず、大気中、酸素雰囲気中や、不活性ガス中でもよい。なお、塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程を複数回行ってもよい。
【0052】
次に、図5(a)に示すように、圧電体前駆体膜71を所定温度、例えば600〜850℃程度に加熱して、一定時間、例えば、1〜10分間保持することによって結晶化させ、鉄酸マンガン酸ビスマスとチタン酸バリウムと亜鉛酸チタン酸ビスマスとの混晶として表される複合酸化物を含む圧電材料からなる圧電体膜72を形成する(焼成工程)。この焼成工程においても、雰囲気は限定されず、大気中、酸素雰囲気中や、不活性ガス中でもよい。
【0053】
乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、赤外線ランプの照射により加熱するRTA(Rapid Thermal Annealing)装置やホットプレート等が挙げられる。
【0054】
次いで、レジストを剥離した後、上述した塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程や、塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程を所望の膜厚等に応じて複数回繰り返して複数の圧電体膜72を形成することで、図5(b)に示すように複数層の圧電体膜72からなる所定厚さの圧電体層70を形成する。なお、本実施形態では、圧電体膜72を積層して設けたが、1層のみでもよい。
【0055】
このように圧電体層70を形成した後は、図6(a)に示すように、圧電体層70上に白金等からなる第2電極80をスパッタリング法等で形成し、各圧力発生室12に対向する領域に圧電体層70及び第2電極80を同時にパターニングして、第1電極60と圧電体層70と第2電極80からなる圧電素子300を形成する。なお、圧電体層70と第2電極80とのパターニングでは、所定形状に形成したレジスト(図示なし)を介してドライエッチングすることにより一括して行うことができる。その後、必要に応じて、600℃〜800℃の温度域でポストアニールを行ってもよい。これにより、圧電体層70と第1電極60や第2電極80との良好な界面を形成することができ、かつ、圧電体層70の結晶性を改善することができる。
【0056】
次に、図6(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の全面に亘って、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して各圧電素子300毎にパターニングする。
【0057】
次に、図6(c)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の圧電素子300側に、シリコンウェハーであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハー130を接着剤35を介して接合した後に、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚さに薄くする。
【0058】
次に、図7(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110上に、マスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。
【0059】
そして、図7(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110をマスク膜52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等を形成する。
【0060】
その後は、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハー110の保護基板用ウェハー130とは反対側の面のマスク膜52を除去した後にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハー130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハー110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIとする。
【0061】
以下、実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
まず、(100)に配向した単結晶シリコン(Si)基板の表面に熱酸化により、膜厚1200nmの二酸化シリコン(SiO2)膜を形成した。次に、SiO2膜上にRFマグネトロンスパッタ法により膜厚40nmのチタン膜を作製し、熱酸化することで酸化チタン膜を形成した。次に、酸化チタン膜上にRFマグネトロンスパッタ法により、(111)面に配向し厚さ100nmの白金膜(第1電極60)を形成した。
【0063】
次いで、第1電極60上に圧電体層70をスピンコート法により形成した。その手法は以下のとおりである。まず、2−エチルヘキサン酸ビスマス、2−エチルヘキサン酸鉄、2−エチルヘキサン酸マンガン、2−エチルヘキサン酸バリウム、2−エチルヘキサン酸チタン及び2−エチルヘキサン酸亜鉛のn−オクタン溶液を所定の割合で混合して、前駆体溶液を調製した。
【0064】
そしてこの前駆体溶液を、酸化チタン膜及び白金膜が形成された上記基板上に滴下し、3000rpmで基板を回転させてスピンコート法により圧電体前駆体膜を形成した(塗布工程)。次に、ホットプレート上に基板を載せ、180℃で2分間乾燥した(乾燥工程)。次いで、450℃で2分間脱脂を行った(脱脂工程)。この塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程からなる工程をもう一度行った後に、酸素雰囲気中で、RTA(Rapid Thermal Annealing)装置で750℃、5分間焼成を行った(焼成工程)。次いで、この塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程を4回繰り返した後に一括して焼成する焼成工程を行う工程を2回繰り返し、さらに、塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程を2回繰り返した後に一括して焼成する焼成工程を行う工程を1回行い、計12回の塗布により全体で厚さ750nmの圧電体層70を形成した。
【0065】
その後、圧電体層70上に、第2電極80としてスパッタ法により厚さ100nmの白金膜(第2電極)を形成した後、酸素雰囲気中で、RTA装置を用いて750℃、5分間焼成を行うことで、鉄酸マンガン酸ビスマスとチタン酸バリウムと亜鉛酸チタン酸ビスマスとの混晶として表される複合酸化物からなる圧電材料、具体的には、0.73{Bi(Fe0.93,Mn0.07)O3}−0.25{BaTiO3}−0.02{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とする圧電素子300を形成した。
【0066】
(実施例2)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.85{Bi(Fe0.94,Mn0.06)O3}−0.10{BaTiO3}−0.05{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物からなる圧電体層70とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0067】
(実施例3)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.80{Bi(Fe0.94,Mn0.06)O3}−0.15{BaTiO3}−0.05{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0068】
(実施例4)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.75{Bi(Fe0.93,Mn0.07)O3}−0.20{BaTiO3}−0.05{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0069】
(実施例5)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.70{Bi(Fe0.93,Mn0.07)O3}−0.25{BaTiO3}−0.05{Bi(Zn,Ti)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0070】
(実施例6)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.65{Bi(Fe0.93,Mn0.07)O3}−0.25{BaTiO3}−0.10{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0071】
(実施例7)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.60{Bi(Fe0.92,Mn0.08)O3}−0.25{BaTiO3}−0.15{Bi(Zn,Ti)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0072】
(実施例8)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変え、さらに、後述する方法により圧電体層を形成することにより、0.65{Bi(Fe0.95,Mn0.05)O3}−0.20{BaTiO3}−0.15{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物からなり、厚さ1000nmの圧電体層70とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0073】
<圧電体層の形成方法>
実施例1に記載した塗布工程、乾燥工程、及び脱脂工程からなる工程を2回繰り返した後に一括して焼成工程を行い、次に、塗布工程、乾燥工程、及び脱脂工程からなる工程を4回繰り返した後に一括して焼成工程を行う工程を3回行い、最後に、塗布工程、乾燥工程、及び脱脂工程からなる工程を2回繰り返した後に一括して焼成工程を行う工程を1回行い、計16回の塗布により全体で厚さ1000nmの圧電体層70を形成した。
【0074】
(実施例9)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.65{Bi(Fe0.95,Mn0.05)O3}−0.15{BaTiO3}−0.20{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例8と同様の操作を行った。
【0075】
(実施例10)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.60{Bi(Fe0.95,Mn0.05)O3}−0.20{BaTiO3}−0.20{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例8と同様の操作を行った。
【0076】
(実施例11)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.50{Bi(Fe0.93,Mn0.07)O3}−0.30{BaTiO3}−0.20{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例8と同様の操作を行った。
【0077】
(実施例12)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.55{Bi(Fe0.94,Mn0.06)O3}−0.20{BaTiO3}−0.25{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例8と同様の操作を行った。
【0078】
(実施例13)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.50{Bi(Fe0.93,Mn0.07)O3}−0.20{BaTiO3}−0.30{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例8と同様の操作を行った。
【0079】
(実施例14)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変え、さらに、後述する方法により圧電体層を形成することにより、0.65{Bi(Fe0.95,Mn0.05)O3}−0.20{BaTiO3}−0.15{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物からなり、厚さ1250nmの圧電体層70とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0080】
<圧電体層の形成方法>
実施例1に記載した塗布工程、乾燥工程、及び脱脂工程からなる工程を2回繰り返した後に一括して焼成工程を行い、次に、塗布工程、乾燥工程、及び脱脂工程からなる工程を4回繰り返した後に一括して焼成工程を行う工程を4回行い、最後に、塗布工程、乾燥工程、及び脱脂工程からなる工程を2回繰り返した後に一括して焼成工程を行う工程を1回行い、計20回の塗布により全体で厚さ1250nmの圧電体層70を形成した。
【0081】
(実施例15)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.60{Bi(Fe0.95,Mn0.05)O3}−0.20{BaTiO3}−0.20{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例14と同様の操作を行った。
【0082】
(実施例16)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.55{Bi(Fe0.95,Mn0.05)O3}−0.20{BaTiO3}−0.25{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例14と同様の操作を行った。
【0083】
(実施例17)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.50{Bi(Fe0.93,Mn0.07)O3}−0.20{BaTiO3}−0.30{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例14と同様の操作を行った。
【0084】
(実施例18)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.45{Bi(Fe0.92,Mn0.08)O3}−0.20{BaTiO3}−0.35{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例14と同様の操作を行った。
【0085】
(実施例19)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、さらに、後述する方法により圧電体層を形成することにより、0.60{Bi(Fe0.96,Mn0.04)O3}−0.25{BaTiO3}−0.15{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物からなり、厚さ825nmの圧電体層70とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0086】
<圧電体層の形成方法>
実施例1に記載した塗布工程、乾燥工程、及び脱脂工程からなる工程を2回繰り返した後に一括して焼成工程を行い、次に、塗布工程、乾燥工程、及び脱脂工程からなる工程を4回繰り返した後に一括して焼成工程を行う工程を2回行い、最後に、塗布工程、乾燥工程、及び脱脂工程からなる工程を2回繰り返した後に一括して焼成工程を行う工程を2回行い、計14回の塗布により全体で厚さ825nmの圧電体層70を形成した。
【0087】
(実施例20)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.60{Bi(Fe0.94,Mn0.06)O3}−0.25{BaTiO3}−0.15{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例19と同様の操作を行った。
【0088】
(実施例21)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.60{Bi(Fe0.92,Mn0.08)O3}−0.25{BaTiO3}−0.15{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例19と同様の操作を行った。
【0089】
(比較例1)
前駆体溶液へ2−エチルヘキサン酸亜鉛を添加せず、また、各種金属錯体の配合量を変えて、0.90{Bi(Fe0.94,Mn0.06)O3}−0.10{BaTiO3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0090】
(比較例2)
前駆体溶液へ2−エチルヘキサン酸亜鉛を添加せず、また、各種金属錯体の配合量を変えて、0.85{Bi(Fe0.94,Mn0.06)O3}−0.15{BaTiO3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0091】
(比較例3)
前駆体溶液へ2−エチルヘキサン酸亜鉛を添加せず、また、各種金属錯体の配合量を変えて、0.80{Bi(Fe0.94,Mn0.06)O3}−0.20{BaTiO3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0092】
(比較例4)
前駆体溶液へ2−エチルヘキサン酸亜鉛を添加せず、また、各種金属錯体の配合量を変えて、0.75{Bi(Fe0.93,Mn0.07)O3}−0.25{BaTiO3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0093】
(比較例5)
前駆体溶液へ2−エチルヘキサン酸亜鉛を添加せず、また、各種金属錯体の配合量を変えて、0.75{Bi(Fe0.96,Mn0.04)O3}−0.20{BaTiO3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例8と同様の操作を行った。
【0094】
(比較例6)
前駆体溶液へ2−エチルヘキサン酸亜鉛を添加せず、また、各種金属錯体の配合量を変えて、0.75{Bi(Fe0.96,Mn0.04)O3}−0.25{BaTiO3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例14と同様の操作を行った。
【0095】
(試験例1)
実施例1〜21及び比較例1〜6の各圧電素子について、Bruker AXS社製の「D8 Discover」を用い、X線源にCuKα線を使用し、室温(25℃)で、圧電体層70のX線回折パターンを求めた。結果の一例として、実施例17及び実施例18、並びに比較例6のX線回折パターンを図8に示す。また、表1〜4には、X線回折パターンにより確認した異相の有無を示す。なお、ペロブスカイト型構造単相のみが観察された場合を○、ペロブスカイト型構造と共にペロブスカイト型構造以外の異相が確認された場合を△とした。
【0096】
この結果、実施例1〜21及び比較例1〜6の全てにおいて、ペロブスカイト型構造に起因するピークと基板由来のピークが観測された。そして、実施例1〜17及び19〜21、並びに比較例1〜6では、ペロブスカイト型構造以外の相に起因するピークは確認されなかった。すなわち、実施例1〜17及び19〜21、並びに比較例1〜6では、異相は観察されず、ペロブスカイト型構造単相であることがわかった。これに対し、実施例18では、21°付近や30°付近にペロブスカイト型構造以外のピークが確認された。
【0097】
(試験例2)
実施例1〜21及び比較例1〜6において、第2電極80を形成していない状態の圧電体層70について、圧電体層70の形成後40日経過までのクラックの発生の有無を確認した。結果を表1〜4に示す。なお、クラックが発生した場合はクラックが発生した日数(形成後の日数)を表記した。表1〜4におけるxの値及びyの値は、下記一般式(1)のx及びyであり、表1〜4ではチタン酸バリウム(BaTiO3)をBT、亜鉛酸チタン酸ビスマス(Bi(Zn,Ti)O3)をBZTと表記した。
(1−x−y)Bi(Fe,Mn)O3−xBaTiO3−yBi(Zn,Ti)O3 (1)
【0098】
また、実施例1及び比較例1については、圧電体層70の形成後1日経過後の圧電体層70の表面を、金属顕微鏡を用いて倍率1000倍に設定し暗視野で観察した結果を示す。実施例1の結果を図9に、比較例1の結果を図10に示す。図9に示すように、実施例1では、クラックが観察されなかった。一方、図10に示すように、比較例1では、クラックが発生していた。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
【表3】
【0102】
【表4】
【0103】
表1〜4に示すように、BZTを添加することにより、すなわち、鉄酸マンガン酸ビスマスとチタン酸バリウムと亜鉛酸チタン酸ビスマスとの混晶として表される複合酸化物とすることにより、クラックの発生が抑制されることが確認された。
【0104】
具体的には、表1に示すように、圧電体層70の複合酸化物におけるBZTの組成比を2〜5モル%とした実施例1〜5では、BZTを添加していない比較例1〜4と比較してクラックが発生する日数が長くなっており、クラックに対する耐性が向上したことが確認された。さらに、圧電体層70の複合酸化物におけるBZTの組成比をそれぞれ10モル%,15モル%とした実施例6,7では、クラックが発生しなかった。
【0105】
また、表2に示すように、BZTを添加していない比較例5ではすぐにクラックが発生したのに対し、圧電体層70の複合酸化物におけるBZTの組成比を15〜30モル%とした実施例8〜13では、厚さを1000nmとしてもクラックが発生しなかった。
【0106】
表3に示すように、圧電体層70の複合酸化物におけるBTの組成比を20モル%とし、BZTの組成比を20〜35モル%とした実施例15〜18では、厚さを1250nmとしてもクラックが発生しなかった。
【0107】
また、表1〜4に示すように、比較例1〜6、並びに0.02≦y≦0.30を満たす複合酸化物からなる実施例1〜17及び19〜21では、ペロブスカイト型構造単相のみからなる複合酸化物であることが確認された。これに対し、y=0.35、すなわち、BZTの組成比が35モル%である実施例18では、ペロブスカイト型構造の結晶の他に、異相が確認された。これより、複合酸化物におけるBZTの組成比は30モル%以下であるのが好ましいと考えられる。
【0108】
また、x=0.30、すなわち、BTの組成比が30モル%である実施例11では、クラックは発生しなかったが、結晶の異常成長と見られる外観上の異常が確認された。これより、複合酸化物におけるBTの組成比は30モル%未満であるのが好ましいと考えられる。
【0109】
表4に示すように、実施例19〜21ではクラックの発生が確認されなかった。これより、圧電体層70の複合酸化物におけるマンガンの割合に左右されることなく、クラックの発生が抑制されることが確認された。
【0110】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態では、流路形成基板10として、シリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
【0111】
さらに、上述した実施形態では、基板(流路形成基板10)上に第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を順次積層した圧電素子300を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電素子にも本発明を適用することができる。
【0112】
また、これら実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図11は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0113】
図11に示すインクジェット式記録装置IIにおいて、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0114】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0115】
なお、上述した実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【0116】
また、本発明は、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドに搭載される圧電素子に限られず、超音波発信機等の超音波デバイス、超音波モーター、赤外センサー、超音波センサー、感熱センサー、圧力センサー、焦電センサー、加速度センサー、ジャイロセンサー等の各種センサー等の圧電素子にも適用することができる。また、本発明は強誘電体メモリー等の強誘電体素子や、マイクロ液体ポンプ、薄膜セラミックスコンデンサー、ゲート絶縁膜等にも同様に適応することができる。
【符号の説明】
【0117】
I インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 II インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 マニホールド部、 32 圧電素子保持部、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 60 第1電極、 70 圧電体層、 80 第2電極、 90 リード電極、 100 マニホールド、 120 駆動回路、 300 圧電素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口に連通する圧力発生室に圧力変化を生じさせ、圧電体層と圧電体層に電圧を印加する電極を有する圧電素子を具備する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びに圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドに用いられる圧電素子としては、電気的機械変換機能を呈する圧電材料、例えば、結晶化した誘電材料からなる圧電体層を、2つの電極で挟んで構成されたものがある。このような圧電素子は、例えば撓み振動モードのアクチュエーター装置として液体噴射ヘッドに搭載される。ここで、液体噴射ヘッドの代表例としては、例えば、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴として吐出させるインクジェット式記録ヘッドがある。
【0003】
このような圧電素子を構成する圧電セラミックス膜には高い圧電特性が求められており、圧電材料の代表例として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が挙げられる(特許文献1参照)。しかしながら、チタン酸ジルコン酸鉛には鉛が含まれており、環境問題の観点から、鉛を含有しない圧電材料が求められている。そこで、鉛を含有しない圧電材料として、例えば、ビスマス及び鉄を含む鉄酸ビスマス系(BiFeO3系)のペロブスカイト型構造を有する圧電材料が提案されている。具体例としては、Bi(Fe,Mn)O3等の鉄酸マンガン酸ビスマスとBaTiO3等のチタン酸バリウムとの混晶として表される複合酸化物がある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−223404号公報
【特許文献2】特開2009−252789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような鉄酸ビスマス系の圧電材料は、鉛を含有する圧電材料からなる圧電体層と比較して、クラックが発生しやすいという問題があった。特に、膜厚の厚い圧電体層(例えば、750nm以上の圧電体層)を形成する際にクラックが発生しやすく、鉄酸ビスマス系の材料からなる圧電体層は厚く形成するのが難しいという問題があった。
【0006】
なお、このような問題は、インクジェット式記録ヘッドだけではなく、勿論、インク以外の液滴を吐出する他の液体噴射ヘッドにおいても同様に存在し、また、液体噴射ヘッド以外に用いられる圧電素子においても同様に存在する。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑み、環境負荷が小さく且つクラックの発生が抑制された液体噴射ヘッド及び液体噴射装置並びにこれを供する圧電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室と、圧電体層及び該圧電体層に設けられた電極を備えた圧電素子と、を具備し、前記圧電体層は、鉄酸ビスマス、チタン酸バリウム、及び亜鉛酸チタン酸ビスマスを含む複合酸化物からなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる態様では、鉄酸ビスマスとチタン酸バリウムと亜鉛酸チタン酸ビスマスを含む複合酸化物からなる圧電体層とすることにより、クラックの発生を抑制することができる。これにより、膜厚が比較的厚い鉄酸ビスマス系の圧電材料からなる圧電体層、例えば、膜厚が750nm以上の圧電体層とすることができる。さらに、鉛の含有量を抑えられるため、環境への負荷を低減することができる。
【0009】
前記複合酸化物は、前記チタン酸バリウムが10モル%以上30モル%以下であり、前記亜鉛酸チタン酸ビスマスが2モル%以上30モル%以下であり、残りが前記鉄酸ビスマスであるのが好ましい。これによれば、より確実に圧電体層のクラックの発生を抑制することができる。また、ペロブスカイト型構造単相の複合酸化物からなる圧電体層とすることができる。
【0010】
前記鉄酸ビスマスはさらにマンガンを含み、前記複合酸化物は、下記一般式(1)で表されるものであるのが好ましい。
(1−x−y)Bi(Fe,Mn)O3−xBaTiO3−yBi(Zn,Ti)O3 (1)
(0.10≦x≦0.30,0.02≦y≦0.30)
これによれば、さらに、リーク電流の発生を抑制することができる。
【0011】
また、前記複合酸化物は、前記チタン酸バリウムが10モル%以上25モル%以下であるのが好ましい。これによれば、結晶状態に優れたものとすることができ、圧電素子の駆動に伴う圧電体層のクラックの発生を抑制することができる。
【0012】
前記複合酸化物は、前記亜鉛酸チタン酸ビスマスが10モル%以上30モル%以下であるのが好ましい。これによれば、より確実にクラックの発生を抑制することができ、より膜厚が厚い鉄酸ビスマス系の圧電材料からなる圧電体層とすることができる。
【0013】
前記複合酸化物は、前記亜鉛酸チタン酸ビスマスが15モル%以上30モル%以下であるのが好ましい。これによれば、より確実にクラックの発生を抑制することができ、より膜厚が厚い鉄酸ビスマス系の圧電材料からなる圧電体層とすることができる。
【0014】
前記複合酸化物は、前記亜鉛酸チタン酸ビスマスが20モル%以上30モル%以下であるのが好ましい。これによれば、より確実にクラックの発生を抑制することができ、より膜厚が厚い鉄酸ビスマス系の圧電材料からなる圧電体層とすることができる。
【0015】
本発明の他の態様は、上記液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる態様では、環境への負荷を低減し且つクラックの発生が抑制された圧電素子を具備するため、信頼性に優れた液体噴射装置を実現することができる。
【0016】
本発明の他の態様は、圧電体層と、前記圧電体層に設けられた電極とを備えた圧電素子であって、前記圧電体層は、鉄酸ビスマス、チタン酸バリウム、及び亜鉛酸チタン酸ビスマスを含む複合酸化物からなることを特徴とする圧電素子にある。
かかる態様では、鉄酸ビスマス、チタン酸バリウム、及び亜鉛酸チタン酸ビスマスを含む複合酸化物からなる圧電体層とすることにより、クラックの発生を抑制することができる。これにより、膜厚が比較的厚い鉄酸ビスマス系の圧電材料からなる圧電体層、例えば、膜厚が750nm以上の圧電体層とすることができる。さらに、鉛の含有量を抑えられるため、環境への負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図6】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図7】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図8】実施例及び比較例のX線回折パターンを表す図。
【図9】実施例1の圧電体層の表面を金属顕微鏡で観察した写真。
【図10】比較例1の圧電体層の表面を金属顕微鏡で観察した写真。
【図11】本発明の一実施形態に係る記録装置の概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A′線断面図である。
【0019】
流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板のマニホールド部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールドの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。本実施形態では、流路形成基板10には、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が設けられていることになる。
【0020】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等からなる。
【0021】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55が形成されている。
【0022】
さらに絶縁体膜55上には、第1電極60と、第1電極60の上方に設けられて厚さが3μm以下、好ましくは0.3〜1.5μmの薄膜である圧電体層70と、圧電体層70の上方に設けられた第2電極80とが、積層形成されて、圧電素子300を構成している。なお、ここでいう上方とは、直上も、間に他の部材が介在した状態も含むものである。ここで、圧電素子300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では、第1電極60を圧電素子300の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、変位可能に設けられた圧電素子300をアクチュエーター装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び第1電極60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0023】
そして、本実施形態においては、圧電体層70を構成する圧電材料は、鉄酸ビスマス、チタン酸バリウム、及び亜鉛酸チタン酸ビスマスを含む複合酸化物からなる。この複合酸化物は、鉄酸ビスマスとチタン酸バリウムと亜鉛酸チタン酸ビスマスとの混晶として表される複合酸化物からなる。この複合酸化物は、鉄酸ビスマスと、チタン酸バリウムと、亜鉛酸チタン酸ビスマスとが均一に固溶して単一結晶(混晶)となっている。言い換えれば、この複合酸化物は、鉄酸ビスマス及びチタン酸バリウムに、亜鉛酸チタン酸ビスマスを添加するという技術思想に基づくものであり、鉄酸ビスマス、チタン酸バリウム、及び亜鉛酸チタン酸ビスマスそれぞれが存在することなく、単一結晶(混晶)となっている。これにより、亜鉛酸チタン酸ビスマスを含有していない系、すなわち、鉄酸ビスマスとチタン酸バリウムの混晶として表される複合酸化物と比較して、クラックの発生を抑制することができる。したがって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、信頼性に優れたものとなる。さらに、本実施形態では、圧電体層70が鉛を含有していないため、環境への負荷を低減することができる。
【0024】
圧電体層70は、上述した複合酸化物からなるものとすることにより、膜厚を厚くすることができ、例えば、750nm以上とすることができる。鉄酸マンガン酸ビスマス系の複合酸化物からなる圧電体層の場合、例えば、鉄酸マンガン酸ビスマスとチタン酸バリウムの混晶として表される複合酸化物からなる圧電体層の場合、厚く形成すると製造時又は製造から数日経過後にクラックが発生しやすいが、上述した構成からなる複合酸化物からなる圧電体層は、厚く形成しても製造時又は製造から数日経過後にクラックが発生するのを抑制することができる。このように圧電体層70を厚く形成することにより、圧電変位量を向上させることができる。
【0025】
上述した複合酸化物は、他の化合物を含んでいてもよく、また、鉄酸ビスマスが他の金属を含んでいてもよい。例えば、鉄酸ビスマスにおけるビスマスの一部が、ランタン(La)、セリウム(Ce)、サマリウム(Sm)等の一以上の金属により置換されていてもよく、鉄酸ビスマスにおける鉄の一部が、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、クロム(Cr)等の一以上の金属により置換されていてもよい。また、上述した複合酸化物は、例えば、(Bi,K)TiO3、(Bi,Na)TiO3、(Li,Na,K)(Ta,Nb)O3を添加したものであってもよい。
【0026】
このような複合酸化物は、チタン酸バリウムが10モル%以上30モル%以下であり、亜鉛酸チタン酸ビスマスが2モル%以上30モル%以下であり、残りが鉄酸ビスマスであるのが好ましい。このような複合酸化物からなる圧電体層70は、より確実にクラックの発生が抑制される。上記値を満たすことにより、後述する実施例に示すように、パイロクロア相等の異相を有さず、ペロブスカイト型構造単相の複合酸化物からなる圧電体層70となる。なお、亜鉛酸チタン酸ビスマスが2モル%未満となるとクラックの発生を抑制する効果が十分に得られなくなる虞があり、亜鉛酸チタン酸ビスマスが30モル%より多くなると異相が存在する複合酸化物となる虞がある。ここでいう「異相を有さない」とは、例えば、X線回折法(XRD)によって圧電体層70を測定した際に、異相のピークが観察されず、ペロブスカイト型構造に起因するピークのみが観察されることを意味する。
【0027】
ここで、本実施形態にかかる圧電体層70は、ペロブスカイト型構造である、すなわち、ABO3型構造であり、この構造のAサイトは酸素が12配位しており、また、Bサイトは酸素が6配位して8面体(オクタヘドロン)をつくっている。そして、このAサイトにビスマス(Bi)及びバリウム(Ba)が、Bサイトに鉄(Fe)、チタン(Ti)、及び亜鉛(Zn)が位置している。すなわち、この複合酸化物は、鉄酸ビスマスと、チタン酸バリウムと、亜鉛酸チタン酸ビスマスとが均一に固溶して単一結晶(混晶)となっている。
【0028】
本実施形態では、鉄酸ビスマスがマンガンを含むものとした。すなわち、複合酸化物が、鉄酸マンガン酸ビスマス(Bi(Fe,Mn)O3)とチタン酸バリウム(BaTiO3)と亜鉛酸チタン酸ビスマス(Bi(Zn,Ti)O3)との混晶として表されるものとした。この複合酸化物は、例えば、下記一般式(1)で表されるものであるのが好ましい。すなわち、下記一般式(1)で表す組成比を満たすものであるのが好ましい。ただし、下記一般式(1)の記述は化学量論に基づく組成表記であり、元素拡散、格子不整合、酸素欠損等による不可避な組成ずれは許容される。
(1−x−y)Bi(Fe,Mn)O3−xBaTiO3−yBi(Zn,Ti)O3 (1)
(0.10≦x≦0.30,0.02≦y≦0.30)
【0029】
このような複合酸化物からなる圧電体層70は、より確実にクラックの発生が抑制されると共に、リーク電流の発生を抑制することができる。また、パイロクロア相等の異相を有さず、ペロブスカイト型構造単相の複合酸化物からなる圧電体層70となる。本実施形態にかかる圧電体層70は、ペロブスカイト型構造である、すなわち、ABO3型構造であり、この構造のAサイトは酸素が12配位しており、また、Bサイトは酸素が6配位して8面体(オクタヘドロン)をつくっている。そして、このAサイトにビスマス(Bi)及びバリウム(Ba)が、Bサイトに鉄(Fe)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、及び亜鉛(Zn)が位置している。
【0030】
また、圧電体層70を構成する複合酸化物は、チタン酸バリウムが10モル%以上30モル%以下であり、10モル%以上25モル%以下であるのが好ましい。複合酸化物におけるチタン酸バリウムの組成比を10モル%以上25モル%と以下することにより、結晶粒が比較的揃い結晶状態に優れた圧電体層70とすることができるためである。これにより、圧電素子300の駆動に伴う圧電体層70のクラックの発生を抑制したものとすることができる。なお、チタン酸バリウムが25モル%より多くなると、結晶が異常成長して表面の平滑性が低下する虞がある。一方、チタン酸バリウムが10モル%未満となると、変位特性が低下する虞がある。
【0031】
また、圧電体層70を構成する複合酸化物は、亜鉛酸チタン酸ビスマスが2モル%以上30モル%以下であり、10モル%以上30モル%以下であるのが好ましく、15モル%以上30モル%以下であるのがより好ましく、特に好ましくは20モル%以上30モル%以下である。複合酸化物におけるチタン酸バリウムの組成比を上述した値とすることにより、より容易に圧電体層70のクラックの発生が抑制されるためである。亜鉛酸チタン酸ビスマスを2モル%以上30モル%以下とすることにより、製造条件、例えば、圧電体層70の成膜条件、焼成温度等を変更することにより、クラックの発生を抑制して膜厚の厚い圧電体層70を形成することができるが、亜鉛酸チタン酸ビスマスを10モル%以上30モル%以下とすることにより、より確実にクラックの発生を抑制することができ、より膜厚の厚い圧電体層70とすることができる。また、亜鉛酸チタン酸ビスマスを15モル%以上30モル%以下、20モル%以上30モル%以下とすることにより、より膜厚の厚い圧電体層70としてもクラックを抑制することができる。
【0032】
複合酸化物は、亜鉛酸チタン酸ビスマス(Bi(Zn,Ti)O3)における亜鉛とチタンとのモル比(Zn/Ti)は特に限定されるものではないが、例えば、0.67以上1.5以下であるものが挙げられる。すなわち、上記一般式において、鉄酸マンガン酸ビスマスは、Bi(Znβ,Ti1−β)O3で表され、0.4≦β≦0.6であるものが挙げられる。本実施形態では、β=0.5、すなわち、Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3とした。
【0033】
本実施形態にかかる複合酸化物は、鉄酸ビスマスがマンガンを含むものとしたが、上記一般式(1)において、マンガンと鉄とのモル比(Mn/Fe)は特に限定されるものではなく、鉄酸マンガン酸ビスマスがペロブスカイト型構造の圧電材料として通常使用される際にとり得る範囲であればよく、例えば、0以上0.10以下であるものが挙げられる。すなわち、上記一般式において、鉄酸マンガン酸ビスマスは、Bi(Feα,Mn1−α)O3で表され、0.90≦α≦1であるものが挙げられる。
【0034】
このような圧電素子300の個別電極である各第2電極80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、弾性膜50上や必要に応じて設ける絶縁体膜上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
【0035】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60、弾性膜50や必要に応じて設ける絶縁体膜及びリード電極90上には、マニホールド100の少なくとも一部を構成するマニホールド部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このマニホールド部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールド100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、マニホールド部31のみをマニホールドとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にマニホールド100と各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
【0036】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0037】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0038】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
【0039】
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
【0040】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってマニホールド部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0041】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIでは、図示しない外部のインク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、マニホールド100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性膜50、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。そして、本発明においては、耐圧が高いため、高い電圧を印加しても圧電素子300の絶縁破壊が生じない。したがって、高い電圧を印加して駆動することができる。
【0042】
次に、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法の一例について、図3〜図7を参照して説明する。なお、図3〜図7は、圧力発生室の長手方向の断面図である。
【0043】
まず、図3(a)に示すように、シリコンウェハーである流路形成基板用ウェハー110の表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン(SiO2)等からなる二酸化シリコン膜を熱酸化等で形成する。次いで、図3(b)に示すように、弾性膜50上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。
【0044】
次に、図4(a)に示すように、絶縁体膜55上の全面に亘って第1電極60を形成する。具体的には、絶縁体膜55上に白金、イリジウム、酸化イリジウム又はこれらの積層構造等からなるからなる第1電極60を形成する。なお、第1電極60は、例えば、スパッタリング法や蒸着法により形成することができる。次に、図4(b)に示すように、第1電極60上に所定形状のレジスト(図示無し)をマスクとして第1電極60の側面が傾斜するように同時にパターニングする。
【0045】
次いで、レジストを剥離した後、第1電極60上(及び絶縁体膜55)に、圧電体層70を積層する。圧電体層70の製造方法は特に限定されないが、例えば、金属錯体を含む溶液を塗布乾燥し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層(圧電体膜)を得るMOD(Metal−Organic Decomposition)法やゾル−ゲル法等の化学溶液法を用いて圧電体層70を製造できる。その他、レーザーアブレーション法、スパッタリング法、パルス・レーザー・デポジション法(PLD法)、CVD法、エアロゾル・デポジション法など、液相法でも固相法でも気相法でも圧電体層70を製造することもできる。
【0046】
圧電体層70を化学溶液法で形成する場合の具体的な形成手順例としては、まず、図4(c)に示すように、第1電極60上に、金属錯体、具体的には、Bi、Fe、Mn、Ba、Ti及びZnを含有する金属錯体を含むMOD溶液やゾルからなる圧電体膜形成用組成物(前駆体溶液)をスピンコート法などを用いて、塗布して圧電体前駆体膜71を形成する(塗布工程)。
【0047】
塗布する前駆体溶液は、焼成によりBi、Fe、Mn、Ba、Ti及びZnを含む複合酸化物を形成しうる金属錯体混合物を、有機溶媒に溶解または分散させたものである。かかる金属錯体混合物は、複合酸化物を構成する金属のうち一以上の金属を含む金属錯体の混合物であり、各金属が所望のモル比となるように金属錯体が混合されている。Bi、Fe、Mn、Ba、Ti、Znをそれぞれ含む金属錯体の混合割合は、所望の鉄酸マンガン酸ビスマスとチタン酸バリウムと亜鉛酸チタン酸ビスマスとの混晶として表される複合酸化物となるような割合とする。このとき、下記一般式(1)を満たすものとなるように金属錯体を混合するのが好ましい。
【0048】
[式1]
(1−x−y)Bi(Fe,Mn)O3−xBaTiO3−yBi(Zn,Ti)O3 (1)
(0.10≦x≦0.30,0.02≦y≦0.30)
【0049】
Bi、Fe、Mn、Ba、Ti、Znをそれぞれ含む金属錯体としては、例えば、アルコキシド、有機酸塩、βジケトン錯体などを用いることができる。Biを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸ビスマス、酢酸ビスマスなどが挙げられる。Feを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸鉄、酢酸鉄などが挙げられる。Mnを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸マンガン、酢酸マンガンなどが挙げられる。Baを含む金属錯体としては、例えばバリウムイソプロポキシド、2−エチルヘキサン酸バリウム、バリウムアセチルアセトナートなどが挙げられる。Tiを含有する金属錯体としては、例えばチタニウムイソプロポキシド、2−エチルヘキサン酸チタン、チタン(ジ−i−プロポキシド)ビス(アセチルアセトナート)などが挙げられる。Znを含む金属錯体としては、例えば2−エチルヘキサン酸亜鉛などが挙げられる。勿論、Bi、Fe、Mn、Ba、Ti、Znを二種以上含む金属錯体を用いてもよい。
【0050】
また、溶媒は、金属錯体混合物を溶解又は分散させるものであればよく、特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、オクタン、エチレングリコール、2−メトキシエタノール、ブタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸、水、等の様々な溶媒が挙げられる。勿論、これらを2種以上用いてもよい。
【0051】
次いで、この圧電体前駆体膜71を所定温度(例えば130〜200℃)に加熱して一定時間乾燥させる(乾燥工程)。次に、乾燥した圧電体前駆体膜71を所定温度(例えば350〜450℃)に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。ここで言う脱脂とは、圧電体前駆体膜71に含まれる有機成分を、例えば、NO2、CO2、H2O等として離脱させることである。乾燥工程や脱脂工程の雰囲気は限定されず、大気中、酸素雰囲気中や、不活性ガス中でもよい。なお、塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程を複数回行ってもよい。
【0052】
次に、図5(a)に示すように、圧電体前駆体膜71を所定温度、例えば600〜850℃程度に加熱して、一定時間、例えば、1〜10分間保持することによって結晶化させ、鉄酸マンガン酸ビスマスとチタン酸バリウムと亜鉛酸チタン酸ビスマスとの混晶として表される複合酸化物を含む圧電材料からなる圧電体膜72を形成する(焼成工程)。この焼成工程においても、雰囲気は限定されず、大気中、酸素雰囲気中や、不活性ガス中でもよい。
【0053】
乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、赤外線ランプの照射により加熱するRTA(Rapid Thermal Annealing)装置やホットプレート等が挙げられる。
【0054】
次いで、レジストを剥離した後、上述した塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程や、塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程を所望の膜厚等に応じて複数回繰り返して複数の圧電体膜72を形成することで、図5(b)に示すように複数層の圧電体膜72からなる所定厚さの圧電体層70を形成する。なお、本実施形態では、圧電体膜72を積層して設けたが、1層のみでもよい。
【0055】
このように圧電体層70を形成した後は、図6(a)に示すように、圧電体層70上に白金等からなる第2電極80をスパッタリング法等で形成し、各圧力発生室12に対向する領域に圧電体層70及び第2電極80を同時にパターニングして、第1電極60と圧電体層70と第2電極80からなる圧電素子300を形成する。なお、圧電体層70と第2電極80とのパターニングでは、所定形状に形成したレジスト(図示なし)を介してドライエッチングすることにより一括して行うことができる。その後、必要に応じて、600℃〜800℃の温度域でポストアニールを行ってもよい。これにより、圧電体層70と第1電極60や第2電極80との良好な界面を形成することができ、かつ、圧電体層70の結晶性を改善することができる。
【0056】
次に、図6(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の全面に亘って、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して各圧電素子300毎にパターニングする。
【0057】
次に、図6(c)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の圧電素子300側に、シリコンウェハーであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハー130を接着剤35を介して接合した後に、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚さに薄くする。
【0058】
次に、図7(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110上に、マスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。
【0059】
そして、図7(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110をマスク膜52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等を形成する。
【0060】
その後は、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハー110の保護基板用ウェハー130とは反対側の面のマスク膜52を除去した後にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハー130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハー110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIとする。
【0061】
以下、実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
まず、(100)に配向した単結晶シリコン(Si)基板の表面に熱酸化により、膜厚1200nmの二酸化シリコン(SiO2)膜を形成した。次に、SiO2膜上にRFマグネトロンスパッタ法により膜厚40nmのチタン膜を作製し、熱酸化することで酸化チタン膜を形成した。次に、酸化チタン膜上にRFマグネトロンスパッタ法により、(111)面に配向し厚さ100nmの白金膜(第1電極60)を形成した。
【0063】
次いで、第1電極60上に圧電体層70をスピンコート法により形成した。その手法は以下のとおりである。まず、2−エチルヘキサン酸ビスマス、2−エチルヘキサン酸鉄、2−エチルヘキサン酸マンガン、2−エチルヘキサン酸バリウム、2−エチルヘキサン酸チタン及び2−エチルヘキサン酸亜鉛のn−オクタン溶液を所定の割合で混合して、前駆体溶液を調製した。
【0064】
そしてこの前駆体溶液を、酸化チタン膜及び白金膜が形成された上記基板上に滴下し、3000rpmで基板を回転させてスピンコート法により圧電体前駆体膜を形成した(塗布工程)。次に、ホットプレート上に基板を載せ、180℃で2分間乾燥した(乾燥工程)。次いで、450℃で2分間脱脂を行った(脱脂工程)。この塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程からなる工程をもう一度行った後に、酸素雰囲気中で、RTA(Rapid Thermal Annealing)装置で750℃、5分間焼成を行った(焼成工程)。次いで、この塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程を4回繰り返した後に一括して焼成する焼成工程を行う工程を2回繰り返し、さらに、塗布工程、乾燥工程及び脱脂工程を2回繰り返した後に一括して焼成する焼成工程を行う工程を1回行い、計12回の塗布により全体で厚さ750nmの圧電体層70を形成した。
【0065】
その後、圧電体層70上に、第2電極80としてスパッタ法により厚さ100nmの白金膜(第2電極)を形成した後、酸素雰囲気中で、RTA装置を用いて750℃、5分間焼成を行うことで、鉄酸マンガン酸ビスマスとチタン酸バリウムと亜鉛酸チタン酸ビスマスとの混晶として表される複合酸化物からなる圧電材料、具体的には、0.73{Bi(Fe0.93,Mn0.07)O3}−0.25{BaTiO3}−0.02{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とする圧電素子300を形成した。
【0066】
(実施例2)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.85{Bi(Fe0.94,Mn0.06)O3}−0.10{BaTiO3}−0.05{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物からなる圧電体層70とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0067】
(実施例3)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.80{Bi(Fe0.94,Mn0.06)O3}−0.15{BaTiO3}−0.05{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0068】
(実施例4)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.75{Bi(Fe0.93,Mn0.07)O3}−0.20{BaTiO3}−0.05{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0069】
(実施例5)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.70{Bi(Fe0.93,Mn0.07)O3}−0.25{BaTiO3}−0.05{Bi(Zn,Ti)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0070】
(実施例6)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.65{Bi(Fe0.93,Mn0.07)O3}−0.25{BaTiO3}−0.10{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0071】
(実施例7)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.60{Bi(Fe0.92,Mn0.08)O3}−0.25{BaTiO3}−0.15{Bi(Zn,Ti)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0072】
(実施例8)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変え、さらに、後述する方法により圧電体層を形成することにより、0.65{Bi(Fe0.95,Mn0.05)O3}−0.20{BaTiO3}−0.15{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物からなり、厚さ1000nmの圧電体層70とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0073】
<圧電体層の形成方法>
実施例1に記載した塗布工程、乾燥工程、及び脱脂工程からなる工程を2回繰り返した後に一括して焼成工程を行い、次に、塗布工程、乾燥工程、及び脱脂工程からなる工程を4回繰り返した後に一括して焼成工程を行う工程を3回行い、最後に、塗布工程、乾燥工程、及び脱脂工程からなる工程を2回繰り返した後に一括して焼成工程を行う工程を1回行い、計16回の塗布により全体で厚さ1000nmの圧電体層70を形成した。
【0074】
(実施例9)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.65{Bi(Fe0.95,Mn0.05)O3}−0.15{BaTiO3}−0.20{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例8と同様の操作を行った。
【0075】
(実施例10)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.60{Bi(Fe0.95,Mn0.05)O3}−0.20{BaTiO3}−0.20{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例8と同様の操作を行った。
【0076】
(実施例11)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.50{Bi(Fe0.93,Mn0.07)O3}−0.30{BaTiO3}−0.20{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例8と同様の操作を行った。
【0077】
(実施例12)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.55{Bi(Fe0.94,Mn0.06)O3}−0.20{BaTiO3}−0.25{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例8と同様の操作を行った。
【0078】
(実施例13)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.50{Bi(Fe0.93,Mn0.07)O3}−0.20{BaTiO3}−0.30{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例8と同様の操作を行った。
【0079】
(実施例14)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変え、さらに、後述する方法により圧電体層を形成することにより、0.65{Bi(Fe0.95,Mn0.05)O3}−0.20{BaTiO3}−0.15{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物からなり、厚さ1250nmの圧電体層70とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0080】
<圧電体層の形成方法>
実施例1に記載した塗布工程、乾燥工程、及び脱脂工程からなる工程を2回繰り返した後に一括して焼成工程を行い、次に、塗布工程、乾燥工程、及び脱脂工程からなる工程を4回繰り返した後に一括して焼成工程を行う工程を4回行い、最後に、塗布工程、乾燥工程、及び脱脂工程からなる工程を2回繰り返した後に一括して焼成工程を行う工程を1回行い、計20回の塗布により全体で厚さ1250nmの圧電体層70を形成した。
【0081】
(実施例15)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.60{Bi(Fe0.95,Mn0.05)O3}−0.20{BaTiO3}−0.20{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例14と同様の操作を行った。
【0082】
(実施例16)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.55{Bi(Fe0.95,Mn0.05)O3}−0.20{BaTiO3}−0.25{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例14と同様の操作を行った。
【0083】
(実施例17)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.50{Bi(Fe0.93,Mn0.07)O3}−0.20{BaTiO3}−0.30{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例14と同様の操作を行った。
【0084】
(実施例18)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.45{Bi(Fe0.92,Mn0.08)O3}−0.20{BaTiO3}−0.35{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例14と同様の操作を行った。
【0085】
(実施例19)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、さらに、後述する方法により圧電体層を形成することにより、0.60{Bi(Fe0.96,Mn0.04)O3}−0.25{BaTiO3}−0.15{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物からなり、厚さ825nmの圧電体層70とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0086】
<圧電体層の形成方法>
実施例1に記載した塗布工程、乾燥工程、及び脱脂工程からなる工程を2回繰り返した後に一括して焼成工程を行い、次に、塗布工程、乾燥工程、及び脱脂工程からなる工程を4回繰り返した後に一括して焼成工程を行う工程を2回行い、最後に、塗布工程、乾燥工程、及び脱脂工程からなる工程を2回繰り返した後に一括して焼成工程を行う工程を2回行い、計14回の塗布により全体で厚さ825nmの圧電体層70を形成した。
【0087】
(実施例20)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.60{Bi(Fe0.94,Mn0.06)O3}−0.25{BaTiO3}−0.15{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例19と同様の操作を行った。
【0088】
(実施例21)
前駆体溶液への各種金属錯体の配合量を変えて、0.60{Bi(Fe0.92,Mn0.08)O3}−0.25{BaTiO3}−0.15{Bi(Zn0.5,Ti0.5)O3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例19と同様の操作を行った。
【0089】
(比較例1)
前駆体溶液へ2−エチルヘキサン酸亜鉛を添加せず、また、各種金属錯体の配合量を変えて、0.90{Bi(Fe0.94,Mn0.06)O3}−0.10{BaTiO3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0090】
(比較例2)
前駆体溶液へ2−エチルヘキサン酸亜鉛を添加せず、また、各種金属錯体の配合量を変えて、0.85{Bi(Fe0.94,Mn0.06)O3}−0.15{BaTiO3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0091】
(比較例3)
前駆体溶液へ2−エチルヘキサン酸亜鉛を添加せず、また、各種金属錯体の配合量を変えて、0.80{Bi(Fe0.94,Mn0.06)O3}−0.20{BaTiO3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0092】
(比較例4)
前駆体溶液へ2−エチルヘキサン酸亜鉛を添加せず、また、各種金属錯体の配合量を変えて、0.75{Bi(Fe0.93,Mn0.07)O3}−0.25{BaTiO3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0093】
(比較例5)
前駆体溶液へ2−エチルヘキサン酸亜鉛を添加せず、また、各種金属錯体の配合量を変えて、0.75{Bi(Fe0.96,Mn0.04)O3}−0.20{BaTiO3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例8と同様の操作を行った。
【0094】
(比較例6)
前駆体溶液へ2−エチルヘキサン酸亜鉛を添加せず、また、各種金属錯体の配合量を変えて、0.75{Bi(Fe0.96,Mn0.04)O3}−0.25{BaTiO3}で表される混晶からなる複合酸化物を圧電体層70とした以外は、実施例14と同様の操作を行った。
【0095】
(試験例1)
実施例1〜21及び比較例1〜6の各圧電素子について、Bruker AXS社製の「D8 Discover」を用い、X線源にCuKα線を使用し、室温(25℃)で、圧電体層70のX線回折パターンを求めた。結果の一例として、実施例17及び実施例18、並びに比較例6のX線回折パターンを図8に示す。また、表1〜4には、X線回折パターンにより確認した異相の有無を示す。なお、ペロブスカイト型構造単相のみが観察された場合を○、ペロブスカイト型構造と共にペロブスカイト型構造以外の異相が確認された場合を△とした。
【0096】
この結果、実施例1〜21及び比較例1〜6の全てにおいて、ペロブスカイト型構造に起因するピークと基板由来のピークが観測された。そして、実施例1〜17及び19〜21、並びに比較例1〜6では、ペロブスカイト型構造以外の相に起因するピークは確認されなかった。すなわち、実施例1〜17及び19〜21、並びに比較例1〜6では、異相は観察されず、ペロブスカイト型構造単相であることがわかった。これに対し、実施例18では、21°付近や30°付近にペロブスカイト型構造以外のピークが確認された。
【0097】
(試験例2)
実施例1〜21及び比較例1〜6において、第2電極80を形成していない状態の圧電体層70について、圧電体層70の形成後40日経過までのクラックの発生の有無を確認した。結果を表1〜4に示す。なお、クラックが発生した場合はクラックが発生した日数(形成後の日数)を表記した。表1〜4におけるxの値及びyの値は、下記一般式(1)のx及びyであり、表1〜4ではチタン酸バリウム(BaTiO3)をBT、亜鉛酸チタン酸ビスマス(Bi(Zn,Ti)O3)をBZTと表記した。
(1−x−y)Bi(Fe,Mn)O3−xBaTiO3−yBi(Zn,Ti)O3 (1)
【0098】
また、実施例1及び比較例1については、圧電体層70の形成後1日経過後の圧電体層70の表面を、金属顕微鏡を用いて倍率1000倍に設定し暗視野で観察した結果を示す。実施例1の結果を図9に、比較例1の結果を図10に示す。図9に示すように、実施例1では、クラックが観察されなかった。一方、図10に示すように、比較例1では、クラックが発生していた。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
【表3】
【0102】
【表4】
【0103】
表1〜4に示すように、BZTを添加することにより、すなわち、鉄酸マンガン酸ビスマスとチタン酸バリウムと亜鉛酸チタン酸ビスマスとの混晶として表される複合酸化物とすることにより、クラックの発生が抑制されることが確認された。
【0104】
具体的には、表1に示すように、圧電体層70の複合酸化物におけるBZTの組成比を2〜5モル%とした実施例1〜5では、BZTを添加していない比較例1〜4と比較してクラックが発生する日数が長くなっており、クラックに対する耐性が向上したことが確認された。さらに、圧電体層70の複合酸化物におけるBZTの組成比をそれぞれ10モル%,15モル%とした実施例6,7では、クラックが発生しなかった。
【0105】
また、表2に示すように、BZTを添加していない比較例5ではすぐにクラックが発生したのに対し、圧電体層70の複合酸化物におけるBZTの組成比を15〜30モル%とした実施例8〜13では、厚さを1000nmとしてもクラックが発生しなかった。
【0106】
表3に示すように、圧電体層70の複合酸化物におけるBTの組成比を20モル%とし、BZTの組成比を20〜35モル%とした実施例15〜18では、厚さを1250nmとしてもクラックが発生しなかった。
【0107】
また、表1〜4に示すように、比較例1〜6、並びに0.02≦y≦0.30を満たす複合酸化物からなる実施例1〜17及び19〜21では、ペロブスカイト型構造単相のみからなる複合酸化物であることが確認された。これに対し、y=0.35、すなわち、BZTの組成比が35モル%である実施例18では、ペロブスカイト型構造の結晶の他に、異相が確認された。これより、複合酸化物におけるBZTの組成比は30モル%以下であるのが好ましいと考えられる。
【0108】
また、x=0.30、すなわち、BTの組成比が30モル%である実施例11では、クラックは発生しなかったが、結晶の異常成長と見られる外観上の異常が確認された。これより、複合酸化物におけるBTの組成比は30モル%未満であるのが好ましいと考えられる。
【0109】
表4に示すように、実施例19〜21ではクラックの発生が確認されなかった。これより、圧電体層70の複合酸化物におけるマンガンの割合に左右されることなく、クラックの発生が抑制されることが確認された。
【0110】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態では、流路形成基板10として、シリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
【0111】
さらに、上述した実施形態では、基板(流路形成基板10)上に第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を順次積層した圧電素子300を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電素子にも本発明を適用することができる。
【0112】
また、これら実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図11は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0113】
図11に示すインクジェット式記録装置IIにおいて、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0114】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0115】
なお、上述した実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【0116】
また、本発明は、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドに搭載される圧電素子に限られず、超音波発信機等の超音波デバイス、超音波モーター、赤外センサー、超音波センサー、感熱センサー、圧力センサー、焦電センサー、加速度センサー、ジャイロセンサー等の各種センサー等の圧電素子にも適用することができる。また、本発明は強誘電体メモリー等の強誘電体素子や、マイクロ液体ポンプ、薄膜セラミックスコンデンサー、ゲート絶縁膜等にも同様に適応することができる。
【符号の説明】
【0117】
I インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 II インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 マニホールド部、 32 圧電素子保持部、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 60 第1電極、 70 圧電体層、 80 第2電極、 90 リード電極、 100 マニホールド、 120 駆動回路、 300 圧電素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル開口に連通する圧力発生室と、
圧電体層及び該圧電体層に設けられた電極を備えた圧電素子と、を具備し、
前記圧電体層は、鉄酸ビスマス、チタン酸バリウム、及び亜鉛酸チタン酸ビスマスを含む複合酸化物からなることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記複合酸化物は、前記チタン酸バリウムが10モル%以上30モル%以下であり、前記亜鉛酸チタン酸ビスマスが2モル%以上30モル%以下であり、残りが前記鉄酸ビスマスであることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記鉄酸ビスマスはさらにマンガンを含み、前記複合酸化物は、下記一般式(1)で表されるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッド。
(1−x−y)Bi(Fe,Mn)O3−xBaTiO3−yBi(Zn,Ti)O3 (1)
(0.10≦x≦0.30,0.02≦y≦0.30)
【請求項4】
前記複合酸化物は、前記チタン酸バリウムが10モル%以上25モル%以下であることを特徴とする請求項2又は3に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記複合酸化物は、前記亜鉛酸チタン酸ビスマスが10モル%以上30モル%以下であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記複合酸化物は、前記亜鉛酸チタン酸ビスマスが15モル%以上30モル%以下であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記複合酸化物は、前記亜鉛酸チタン酸ビスマスが20モル%以上30モル%以下であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載する液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項9】
圧電体層と、前記圧電体層に設けられた電極と、を備えた圧電素子であって、
前記圧電体層は、鉄酸ビスマス、チタン酸バリウム、及び亜鉛酸チタン酸ビスマスを含む複合酸化物からなることを特徴とする圧電素子。
【請求項1】
ノズル開口に連通する圧力発生室と、
圧電体層及び該圧電体層に設けられた電極を備えた圧電素子と、を具備し、
前記圧電体層は、鉄酸ビスマス、チタン酸バリウム、及び亜鉛酸チタン酸ビスマスを含む複合酸化物からなることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記複合酸化物は、前記チタン酸バリウムが10モル%以上30モル%以下であり、前記亜鉛酸チタン酸ビスマスが2モル%以上30モル%以下であり、残りが前記鉄酸ビスマスであることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記鉄酸ビスマスはさらにマンガンを含み、前記複合酸化物は、下記一般式(1)で表されるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッド。
(1−x−y)Bi(Fe,Mn)O3−xBaTiO3−yBi(Zn,Ti)O3 (1)
(0.10≦x≦0.30,0.02≦y≦0.30)
【請求項4】
前記複合酸化物は、前記チタン酸バリウムが10モル%以上25モル%以下であることを特徴とする請求項2又は3に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記複合酸化物は、前記亜鉛酸チタン酸ビスマスが10モル%以上30モル%以下であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記複合酸化物は、前記亜鉛酸チタン酸ビスマスが15モル%以上30モル%以下であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記複合酸化物は、前記亜鉛酸チタン酸ビスマスが20モル%以上30モル%以下であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載する液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項9】
圧電体層と、前記圧電体層に設けられた電極と、を備えた圧電素子であって、
前記圧電体層は、鉄酸ビスマス、チタン酸バリウム、及び亜鉛酸チタン酸ビスマスを含む複合酸化物からなることを特徴とする圧電素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−175092(P2012−175092A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39041(P2011−39041)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]