説明

液体噴射ヘッド及び液体噴射装置

【課題】部品点数を減少させて材料コスト及び組み立てコストを低減し、小型化が可能で且つ液体漏れを抑制できる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】背圧制御ユニットは、外周で分割可能なカバーと流路部材とを具備し、カバーはベース部とカバー部32とを具備し、ベース部とカバー部32とを外周側で当接して固定しており、流路部材にはカバー部32側に開口する溝状の蛇路と、外部からの供給管が接続される接続口と、ヘッド本体に液体を供給する液体流路とが設けられており、カバー部32には、ベース部と当接する領域に設けられて保持部を封止する第1シール部34と、蛇路のカバー部32側の開口を封止する第2シール部35と、接続口の周囲とカバー部32との隙間を封止する第3シール部36と、が配置されていると共に、カバー部32と第1シール部34、第2シール部35及び第3シール部36が2色成形によって形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口から液体を噴射する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関し、特に液体としてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドには、ノズル開口と連通する圧力発生室に圧力変化を生じさせてノズル開口からインク滴を吐出する。
【0003】
ここで、インクジェット式記録ヘッドには、バルブユニット(背圧制御ユニット)が設けられたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−260948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような背圧制御ユニットは、分割可能なカバーと、カバーの内部に設けられた流路部材とで構成されており、分割されたカバーの境界にはゴム等のシール部材が保持されている。
【0006】
しかしながら、背圧制御ユニットのシール部材は、単体で分割されたカバーの分割領域の封止、溝状に開口する蛇路の開口の封止及び外部の液体貯留手段が接続される接続口の周囲の封止等を行う必要があるため、カバーの外周の継ぎ目である封止領域、蛇路の開口の封止領域及び接続口の周囲の封止領域を全て同じ高さで配置しなくてはならず、配置の自由度が低く、背圧制御ユニットが大型化してしまうという問題がある。
【0007】
また、シール部材は、単体で3つの封止領域を封止するため、複雑な形状を有し、シール部材を位置決めする必要があるため、組み立て作業が煩雑であると共に、シール部材の位置決め不良によるインク漏れが発生する虞があるなど問題がある。
【0008】
なお、このような問題はインクジェット式記録ヘッドだけではなく、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑み、部品点数を減少させて材料コスト及び組み立てコストを低減することができると共に、小型化が可能で且つ液体漏れを抑制することができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の態様は、液体を噴射するヘッド本体と、該ヘッド本体が固定された背圧制御ユニットと、を具備し、前記背圧制御ユニットは、外周で分割可能なカバーと、該カバーの内部の保持部に保持された流路部材と、を具備し、前記カバーは、ベース部と、該ベース部に固定されたカバー部とを具備し、前記ベース部と前記カバー部とを外周側で当接されて固定されており、前記流路部材には、前記カバー部側に開口する溝状の蛇路と、外部からの供給管が接続される接続口と、該接続口に連通してヘッド本体に液体を供給する液体流路と、が設けられており、前記カバー部には、外周縁部の前記ベース部と当接する領域に設けられて前記保持部を封止する第1シール部と、前記蛇路の前記カバー部側の開口を封止する第2シール部と、前記接続口の周囲と前記カバー部との隙間を封止する第3シール部と、が分離して配置されていると共に、前記カバー部と前記第1シール部、第2シール部及び第3シール部とが2色成形によって形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる態様では、カバー部と、第1シール部、第2シール部及び第3シール部とが、2色成形によって一体化されることで、部品点数を減らすことができる。また、カバー部と各シール部との位置決めが不要となり、組み立てを簡略化することができると共にシール部の位置ずれによる液体の漏れを抑制することができる。さらに、第1シール部、第2シール部及び第3シール部を分離することで、各シール部を互いにカバー部の異なる高さに配置することができるため、背圧制御ユニットの無理な設計が不要となり、小型化を図ることができる。
【0011】
ここで、前記第1シール部、前記第2シール部及び前記第3シール部は、前記カバー部において、互いに高さが異なる位置に設けられていることが好ましい。これによれば、シール部同士の距離を離して、液体の漏出を確実に抑制することができると共に、背圧制御ユニットの無理な設計が不要となり、小型化を図ることができる。
【0012】
また、前記流路部材が、複数の板状部材が積層されて構成されていることが好ましい。これによれば、複雑な液体流路を容易に且つ低コストで形成することができると共に、複雑な液体流路によって小型化を図ることができる。
【0013】
さらに、本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる態様では、液体漏れを抑制して信頼性を向上し、且つ小型化した液体噴射装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る流路部材の分解斜視図である。
【図3】本発明の実施形態1に係る背圧制御ユニットの断面図である。
【図4】本発明の実施形態1に係る背圧制御ユニットの要部分解斜視図である。
【図5】本発明の実施形態1に係るカバー部の平面図及び断面図である。
【図6】本発明の実施形態1に係る保護板の平面図及び要部を拡大した図である。
【図7】本発明の実施形態1に係る記録装置の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、図2は、流路部材の分解斜視図であり、図3は、背圧制御ユニットの断面図であり、図4は、背圧制御ユニットの要部の分解斜視図であり、図5は、カバー部の平面図及びそのA−A′断面図であり、図6は、保護板の平面図及び要部を拡大した図である。
【0016】
図1に示すように、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッド10は、背圧制御ユニット20と、背圧制御ユニットの底面に設けられた回路基板60と、回路基板60の背圧制御ユニット20とは反対側に設けられたヘッドケース70と、ヘッドケース70に固定された複数のヘッド本体80と、を具備する。
【0017】
背圧制御ユニット20は、外部のインクが貯留されたインクタンクなどの液体貯留手段からのインクをヘッド本体80に供給するものである。
【0018】
ここで、背圧制御ユニット20について詳細に説明する。背圧制御ユニット20は、中空状の箱状部材からなるカバー30と、カバー30の内部に設けられた流路部材40と、を具備する。
【0019】
カバー30は、上下に分割されたベース部31とカバー部32とを具備する。ベース部31は、カバー部32側に開口する凹形状を有する第1保持部311と、第1保持部311の一端部側に設けられて厚さ方向に貫通する配線挿通孔312が設けられた支持部313と、を具備する。
【0020】
また、ベース部31の第1保持部311の底面には、厚さ方向に貫通してヘッド本体にインクを供給する複数の供給口314が設けられている。本実施形態では、ベース部31の底面に7個の供給口314を設けた。
【0021】
カバー部32は、図1及び図4に示すように、ベース部31の第1保持部311を覆う大きさを有し、ベース部31の第1保持部311に相対向してベース部31側に開口する凹形状を有する第2保持部321を有する。
【0022】
そして、図3に示すように、ベース部31とカバー部32とは、第1保持部311と第2保持部321とを相対向させて固定されることで、内部に第1保持部311と第2保持部321とによって画成された空間である保持部33を有する。
【0023】
ここで、ベース部31には、第1保持部311の側面を画成する第1壁部315が設けられている。また、カバー部32には、第2保持部321の側面を画成する第2壁部322が設けられている。そして、これらベース部31とカバー部32とは、第1壁部315の先端面と第2壁部322の先端面とを互いに当接させて固定されている。
【0024】
このとき、詳しくは後述するが、第1壁部315と第2壁部322との間には、ゴムやエラストマー等からなる第1シール部34が挟持される。
【0025】
また、カバー部32には、第2保持部321の底面に連通して厚さ方向に貫通する開口部323が設けられている。開口部323は、カバー部32の外周面に開口すると共に、第2保持部321の底面に設けられて、第2保持部321の側面を画成する第2壁部322よりも低く突出した突起部324に開口して設けられている。
【0026】
カバー30の保持部33に保持される流路部材40は、図2及び図3に示すように、本実施形態では、ベース部31側に設けられた第1流路部材41と、第1流路部材41上に設けられた第2流路部材42と、第2流路部材42上に設けられた圧力室形成部材43と、圧力室形成部材43上に設けられた保護板44と、が積層されて構成されている。
【0027】
これら第1流路部材41、第2流路部材42、圧力室形成部材43及び保護板44のそれぞれは、樹脂材料や金属材料等からなる板状部材で形成されている。そして、これらの第1流路部材41、第2流路部材42、圧力室形成部材43及び保護板44は、積層された状態で、カバー30の保持部33内に保持される。
【0028】
このような流路部材40を構成する第1流路部材41、第2流路部材42及び圧力室形成部材43には、外部のインクが貯留された液体貯留手段からのインクをヘッド本体80に供給する液体流路50が設けられている。
【0029】
具体的には、液体流路50は、図3に示すように、液体貯留手段に一端側が接続されたチューブ等の管状部材である供給管(図示なし)の他端部が接続される接続口51を有する導入路52と、導入路52からのインクが供給されるチャンバー53と、チャンバー53からのインクをヘッド本体80に供給する供給路54と、を具備する。
【0030】
ここで、接続口51は、第2流路部材42の上面にカバー部32の開口部323内に開口して設けられたものである。このような接続口51は、複数のインクに対応して複数個設けられている。本実施形態では、接続口51を7個設けるようにした(図1及び図2参照)。
【0031】
このような接続口51を有する導入路52は、第2流路部材42や第1流路部材41を貫通する流路や、第2流路部材42と第1流路部材41との間の流路や、第1流路部材41とベース部31との間の流路などで構成されている。
【0032】
ここで、本実施形態の導入路52は、図3(a)に示す第1導入路55と、図3(b)に示す第2導入路56との2つの経路を具備する。
【0033】
第1導入路55は、図3(a)に示すように、第2流路部材42と第1流路部材41とを厚さ方向に貫通した第1導入流路551と、第1流路部材41の底面に凹部状に形成されて第1導入流路551に一端部が連通する第2導入流路552と、第2導入流路552の他端部側に連通して第1流路部材41を貫通して設けられた第3導入流路553と、第1流路部材41と第2流路部材42との間に設けられて第3導入流路553に連通する第1フィルター室554と、第1フィルター室554に連通して第2流路部材42を貫通して設けられた第4導入流路555と、を具備する。
【0034】
第2導入路56は、図3(b)に示すように、接続口51に連通して第2流路部材42を厚さ方向に貫通した第5導入流路561と、第1流路部材41と第2流路部材42との間に設けられた凹形状を有する第6導入流路562と、第6導入流路562に連通する第1フィルター室563と、第1フィルター室563に連通して第2流路部材42を厚さ方向に貫通して設けられた第7導入流路564と、を具備する。
【0035】
すなわち、第1導入路55は、第1流路部材41とベース部31との間を通過してチャンバー53に達する。これに対して、第2導入路56は第1流路部材41とベース部31との間を通過することなく、第1流路部材41と第2流路部材42との間を通過して、チャンバー53に達する。
【0036】
また、第1導入路55及び第2導入路56のそれぞれの途中に設けられた第1フィルター室554、563には、インク中に含まれるゴミや気泡等の異物を除去するフィルター57が設けられている。
【0037】
ここで、第1導入路55の途中の第1フィルター室554には、第3導入流路553と第4導入流路555とが、第1フィルター室554のフィルター57を挟んだ両側にそれぞれ連通している。これにより、第3導入流路553から供給されたインクはフィルター57を通過して第4導入流路555に供給される。
【0038】
同様に、第2導入路56の途中に設けられた第1フィルター室563には、第6導入流路562と第7導入流路564とがフィルター57を挟んだ両側にそれぞれ連通している。これにより、第6導入流路562から供給されたインクはフィルター57を通過して第7導入流路564に供給される。
【0039】
ちなみに、本実施形態では、図2に示すように、接続口51を7個設け、この7個の接続口51に対応して7個の導入路52を設けた。そして7個の導入路52の内、第1導入路55を4個設け、第2導入路56を3個設けるようにした。
【0040】
このように、第1導入流路551〜第4導入流路555で構成される第1導入路55と、第5導入流路561〜第7導入流路564で構成される第2導入路56との2種類の導入路52を設けることで、図中下向きにインクが流れる導入路52から図中上向きにインクが流れる導入路52への接続に使用する第2導入流路552と第6導入流路562とを第1流路部材41とベース部31との間と、第1流路部材41と第2流路部材42との間との異なる位置に配置することができる。これにより、第2導入流路552と第6導入流路562を設ける面積を狭くすることができるため、背圧制御ユニット20を小型化することができる。なお、これらの各導入路52は、圧力室形成部材43に設けられた各チャンバー53に連通する。
【0041】
チャンバー53は、板状部材である圧力室形成部材43の第2流路部材42とは反対側に開口する凹形状を有する。また、チャンバー53は、長手方向の一端部側の底面で導入路52に連通し、他端部側の底面で供給路54と連通している。
【0042】
このようなチャンバー53は、圧力室形成部材43の開口面に設けられたフィルム部材45によって封止されている。ここで、フィルム部材45は、可撓性を有する薄膜状のフィルムであり、圧力室形成部材43の表面に熱溶着等によって固定されている。また、フィルム部材45は、チャンバー53内にドーム状に撓んだ状態となるように加圧成形されている。
【0043】
さらに、圧力室形成部材43のチャンバー53内には、フィルム部材45側に配置された弾性板46が設けられている。弾性板46は、一端部側が圧力室形成部材43の表面側に固定された状態でチャンバー53内に突出して設けられており、その先端はチャンバー53内で自由端となっている。本実施形態では、図2に示すように、弾性板46を固定端側で複数の弾性板46が共通する共通部46aと、チャンバー53内に突出するスリット46bによって分割された弾性部46cと、で構成されたいわゆる櫛歯形状を有するものとした。
【0044】
このような弾性板46は、共通部46aがチャンバー53の開口面側に保持されることで固定されている。なお、弾性板46としては、弾性を有し、且つ耐インク性を有する板状部材であればよく、本実施形態では、ステンレス板を用いた。
【0045】
供給路54は、第2流路部材42を厚さ方向に貫通して設けられた第2フィルター室541と、第2フィルター室541に連通して第1流路部材41を貫通して設けられた第1供給流路542と、第1流路部材41とベース部31との間に設けられた第2供給流路543と、を有する。すなわち、チャンバー53からのインクは、第2フィルター室541と、第1供給流路542と、第2供給流路543とを介してベース部31に設けられた供給口314に供給される。
【0046】
また、第2フィルター室541には、上述した第1フィルター室554と同様にインクに含まれるゴミや気泡などの異物を除去するためのフィルター57が設けられている。すなわち、チャンバー53からのインクは、フィルター57を通過して第1供給流路542と第2供給流路543とを介してヘッド本体80に供給される。
【0047】
また、保護板44の圧力室形成部材43側の面には、各チャンバー53に相対向してフィルム部材45の変形を許容する空間である凹形状を有するフィルム保持部58が設けられている。
【0048】
また、背圧制御ユニット20には、フィルム保持部58の雰囲気を大気開放する外部に連通した大気開放路59が設けられている。
【0049】
ここで、大気開放路59について図2、図4及び図6を参照して詳細に説明する。
【0050】
大気開放路59は、保護板44のフィルム保持部58の底面に開口する厚さ方向に貫通した貫通孔591と、保護板44の圧力室形成部材43とは反対側の面に設けられた第1狭わい路592と、保護板44の第1狭わい路592と同じ面に設けられて第1狭わい路592と連通する第2狭わい路593と、第2狭わい路593に連通する蛇路594と、カバー部32に設けられた外部連通孔595(図3参照)と、を具備する。
【0051】
第1狭わい路592は、保護板44の圧力室形成部材43とは反対側の面に、各フィルム保持部58に対応して設けられた凹形状を有する第1溝部592aと、図4に示すカバー部32の第1溝部592aに対応して設けられた凸形状を有する凸部592bとによって画成されている。そして、フィルム保持部58と第1狭わい路592とは、チャンバー53の長手方向一端部に設けられた貫通孔591によって連通している。
【0052】
第2狭わい路593は、図6に示すように、第1狭わい路592を画成する第1溝部592aの間に設けられた凹形状を有する。また、第2狭わい路593は、カバー部32側の開口が凸部592bによって封止されている。また、第1狭わい路592と、第2狭わい路593とは、貫通孔591とは長手方向の反対側の端部で連通している。詳しくは、凸部592bには、図4に示すように、貫通孔591とは反対側で第1狭わい路592の側面に開口する開口部592cが設けられている。また、凸部592bは、第2狭わい路593の両端部以外を封止している。これにより、開口部592cを介して第1狭わい路592と第2狭わい路593とが貫通孔591とは反対側で連通している。
【0053】
また、保護板44には、凸部592bの開口部592cとは反対側に、蛇行した凹形状を有する溝である蛇路594が設けられている。この蛇路594は、一端部が第2狭わい路593に連通し、他端部がカバー部32に厚さ方向に貫通して設けられた外部連通孔595に連通する。すなわち、フィルム部材45のチャンバー53とは反対側の空間を画成するフィルム保持部58は、貫通孔591、第1狭わい路592、第2狭わい路593、蛇路594及び外部連通孔595からなる大気開放路59によって外部に連通している。このように、フィルム部材45のチャンバー53とは反対側のフィルム保持部58を大気開放路59によって大気開放することで、チャンバー53内部の圧力と大気圧との差圧でフィルム部材45を変形させることができる。また、大気開放路59を、貫通孔591、第1狭わい路592、第2狭わい路593、蛇路594及び外部連通孔595で構成することで、大気開放路59を狭い断面積で経路を長く形成することができる。これにより、大気開放路59に拡散抵抗を付与して、フィルム部材45からの水分蒸発を抑制することができる。ちなみに、チャンバー53内に充填されたインクの水分はフィルム部材45を透過するため、拡散抵抗を付与していない大気開放路を設けると、フィルム部材45を透過したインクの水分は蒸発し易くなり、インクの粘度が高くなるなどの不具合が生じてしまう。本実施形態では、フィルム部材45を透過するインクの水分の蒸発を抑制することができるため、インクの粘度が高くなるなどの不具合が発生するのを抑制することができる。
【0054】
また、カバー部32には、ゴム、エラストマー等からなる第1シール部34、第2シール部35、第3シール部36が互いに分離した状態で設けられている。
【0055】
第1シール部34は、上述したように、カバー部32の第2壁部322の先端面に亘って設けられて、ベース部31とカバー部32との外周の継ぎ目を第1シール部34によって封止して、カバー30の保持部33内のインクが外部に流出するのを抑制するためのものである。
【0056】
第2シール部35は、カバー部32の蛇路594に相対向する位置に設けられたものであり、蛇路594のカバー部32側の開口を封止する。なお、第2シール部35には、大気開放路59の外部連通孔595に連通する連通孔35aが設けられており、第2シール部35は、実際には、蛇路594の連通孔35a以外の領域を封止する。
【0057】
第3シール部36は、上述した開口部323が設けられた突起部324の保護板44側の面に、開口部323の周囲に亘って設けられたものである。この第3シール部36は、流路部材40の接続口51の周囲でカバー部32との隙間を封止するためのものである。この第3シール部36によって、開口部323に固定されることで、接続口51に接続された供給管の着脱時などに漏れたインクが保持部33内に流入するのを抑制することができると共に、保持部33内のインクが接続口51の周囲のカバー部32との隙間から漏れ出るのを抑制することができる。
【0058】
このような第1シール部34、第2シール部35、第3シール部36は、カバー部32にそれぞれ高さの異なる位置に設けられている。詳しくは、第1シール部34は、上述のようにカバー部32の第2壁部322の先端面に設けられている。また、第2シール部35は、カバー部32の第2保持部321の底面(保護板44に相対向する面)に設けられている。さらに、第3シール部36は、カバー部32の第2壁部322よりも低く突出した突起部324の先端面に設けられている。したがって、第1シール部34、第2シール部35及び第3シール部36は、カバー部32の高さが異なる位置に設けられている。ここで、カバー部32の高さとは、ベース部31とカバー部32との積層方向での厚さ方向のことを言う。したがって、第1シール部34、第2シール部35及び第3シール部36は、カバー部32の積層方向で異なる位置に設けられていることになる。
【0059】
なお、カバー部32の第2壁部322の高さを、第2シール部35が設けられたカバー部32の底面や、第3シール部36の設けられた突起部324と同じ高さにするのは困難である。これは、例えば、第2壁部322の高さを、第2シール部35が設けられたカバー部32の底面と同じ高さにしてしまうと、第2保持部321を十分に確保することができないからである。また、保持部33を確保するために、ベース部31の第1保持部311を画成する第1壁部315を高くしたとしても、ベース部31の底面(ヘッド本体側)から挿通したねじ部材(図示なし)をカバー部32に螺合させる領域が不十分となり、ベース部31とカバー部32とを確実に固定することが困難になってしまうからである。また、例えば、第2壁部322の高さを、第3シール部36が設けられた突起部324と同じ高さにしてしまうと、第3シール部36と第2シール部35とが近くなり、接続口51から漏れでたインクが第3シール部36及び第2シール部35を介して外部に漏出し易くなってしまうという問題がある。また、突起部324の高さを第2壁部322と同じ高さとすると、流路部材40側で接続口51の位置を変更しなくてはならず、流路部材40の接続口51を設けるための面積が必要になって大型化してしまうなどの問題がある。
【0060】
本実施形態では、第1シール部34、第2シール部35、第3シール部36をカバー部32の高さが異なる位置に設けることで、第2保持部321を十分に確保した状態で、ベース部31とカバー部32とを強固に固定することができると共に、第1シール部34と第3シール部36との距離を離して、保持部33内のインクが外部に漏出し難くすることができる。また、第1シール部34、第2シール部35及び第3シール部36をカバー部32の高さが異なる位置に設けることができるため、背圧制御ユニット20のカバー30の境目、接続口51及び蛇路594の位置を異なる高さに設けることができ、設計自由度が高く小型化が可能となる。
【0061】
また、第1シール部34、第2シール部35及び第3シール部36は、カバー部32と共に2色成形によって一体的に形成されている。本実施形態では、カバー部32を樹脂材料を成形することで形成した後、カバー部32の所定の位置にゴム材料を成形することで、両者を一体的に形成した。
【0062】
このように、カバー部32と、第1シール部34、第2シール部35及び第3シール部36とを2色成形によって一体的に形成することで、第1シール部34、第2シール部35及び第3シール部36の位置決めが不要となり、背圧制御ユニット20の組み立て作業を簡略化して、コストを低減することができる。特に本実施形態のように、第1シール部34、第2シール部35及び第3シール部36をカバー部32の高さが異なる位置に設けた際に、位置決め作業が不要となって、組み立て作業を簡略化することができると共に、第1シール部34、第2シール部35及び第3シール部36の位置ずれによるインクの漏れの発生を抑制することができる。
【0063】
また、カバー部32と第1シール部34、第2シール部35及び第3シール部36とを2色成形によって一体的に形成することで、別体となる板状のシール部材を用いた場合に比べて、部品点数を低減することができ、製造コスト及び組み立てコストを低減することができる。
【0064】
また、図3に示すように、導入路52とチャンバー53との間には、両者の連通状態を開閉する弁体100が設けられている。
【0065】
具体的には、圧力室形成部材43の底面には、導入路52(第4導入流路555及び第7導入流路564)内に上下に伸びる円筒状のケース部101が形成されている。ケース部101の下面は、第4導入流路555及び第7導入流路564の底面に当接している。また、ケース部101の内部は、チャンバー53に連通しており、ケース部101の側面には、ケース部101の内外を連通するスリット102が設けられている。これにより、チャンバー53と導入路52とは、ケース部101の内部を介して連通している。
【0066】
また、ケース部101内には、弁体100が設けられている。この弁体100は、ケース部101の内部とチャンバー53とを連通する挿通孔103に挿通された円柱状の軸部104と、ケース部101内において軸部104の下端部に設けられた軸部104の外径よりも大きい外径を有する円盤状の鍔部105と、を有する。軸部104の下端は鍔部105の上面における中心に連結されていると共に、軸部104の上端は弾性板46の下面(チャンバー53側の面)に当接している。
【0067】
鍔部105の外径は、挿通孔103の内径よりも大きく、且つケース部101の内径よりも僅かに小さくなっている。また、鍔部105の下面(第2流路部材42側の面)と第4導入流路555及び第7導入流路564の底面との間には付勢部材の一例であるコイルばね106が介装されている。
【0068】
このコイルばね106は、弁体100を常に閉弁状態となる方向である上方(フィルム部材45側)に向かって付勢するようになっている。そして、この弁体100の閉弁状態では、鍔部105がケース部101内の上壁面に密着して挿通孔103が閉鎖された状態、すなわちケース部101内と導入路52とが連通していない非連通状態になっている。
【0069】
そして、チャンバー53内がヘッド本体80へのインクの供給によって負圧になると、フィルム保持部58内部の大気圧との差圧によってフィルム部材45がチャンバー53側(第2流路部材42側)に撓むように変位する。このフィルム部材45の変位に伴って、弾性板46の弾性部46cが第2流路部材42側に向かって屈曲するように弾性変形する。
【0070】
この弾性板46の弾性変形により、軸部104がコイルばね106の付勢力に抗して弁体100を第2流路部材42側に押し下げることで、鍔部105が挿通孔103の開口する壁面から離反し、チャンバー53と導入路52とが連通する。
【0071】
このように、チャンバー53と導入路52とが連通すると、導入路52のインクがチャンバー53内に流れ込む。そして、チャンバー53及び供給路54内にインクが十分に充填されると、チャンバー53の負圧が解消されて、弾性板46が元の状態に戻ると共に、各コイルばね106の付勢力によって各弁体100がそれぞれ閉弁されることにより各チャンバー53内は常に一定の圧力に保たれる。
【0072】
このような背圧制御ユニット20のベース部31の底面には、ベース部31との間で回路基板60を保持するヘッドケース70と、ヘッドケース70の底面に設けられたヘッド本体80と、を具備する。
【0073】
ヘッドケース70は、ベース部31と略同じ面積を有し、ベース部31の底面に固定されて、ベース部31との間で回路基板60を保持する。
【0074】
回路基板60は、配線挿通孔312に相対向する領域に外部配線が接続されるコネクターが上向きとなるように配置される。このような回路基板60は、複数のヘッド本体80に共通して接続されるものを用いることができる。
【0075】
ヘッド本体80は、特に図示しないがノズル開口が並設された列が2列以上設けられており、各背圧制御ユニット20から供給された各種インクを各ノズル列から吐出可能に設けられている。本実施形態では、特に図示していないが、4つのヘッド本体を設け、3つのヘッド本体からは2色のインクが吐出されるようにすると共に1つのヘッド本体からは1色のインクが2列のノズル列から吐出されるようにした。これにより、7色のインクを吐出可能とした。なお、ヘッド本体80の数は配置は特にこれに限定されず、例えば、供給路54と同等の数のヘッド本体80を設けるようにしてもよい。
【0076】
また、ヘッド本体80内には、特に図示していないが、ノズル開口に連通する圧力発生室と圧力発生室に圧力変化を生じさせる圧力発生手段とが設けられている。かかる圧力発生手段としては、例えば、電気機械変換機能を呈する圧電材料を有する圧電アクチュエーターの変形によって圧力発生室の容積を変化させて圧力変化を生じさせて、ノズル開口からインク滴を吐出させるものや、圧力発生室内に発熱素子を配置して、発熱素子の発熱で発生するバブルによってノズル開口からインク滴を吐出するものや、振動板と電極との間に静電気を発生させて、静電気力によって振動板を変形させてノズル開口からインク滴を吐出させるいわゆる静電式アクチュエーターなどを使用することができる。
【0077】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1では、第1シール部34、第2シール部35及び第3シール部36をカバー部32側に2色成形により一体的に形成するようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、第1シール部34をベース部31の第1壁部315側等に2色成形で一体的になるように形成してもよい。同様に、第3シール部36を、第2流路部材42の接続口51の周囲に亘って一体的に形成するようにしてもよい。
【0078】
また、これら上述したインクジェット式記録ヘッド10は、インクジェット式記録装置に搭載される。図7は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略斜視図である。図7に示すように、本実施形態のインクジェット式記録装置1では、インクジェット式記録ヘッド10がキャリッジ2に搭載されている。そして、インクジェット式記録ヘッド10が搭載されたキャリッジ2は、装置本体7に取り付けられたキャリッジ軸2aに軸方向移動自在に設けられている。
【0079】
また、装置本体7には、インクが貯留されたタンクからなる貯留手段3が設けられており、貯留手段3からのインクは、キャリッジ2に搭載されたインクジェット式記録ヘッド10(背圧制御ユニット20)に供給管4を介して供給される。
【0080】
そして、駆動モーター8の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト8aを介してキャリッジ2に伝達されることで、インクジェット式記録ヘッド10を搭載したキャリッジ2はキャリッジ軸2aに沿って移動される。一方、装置本体7にはキャリッジ軸2aに沿ってプラテン9が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン9に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0081】
このようなインクジェット式記録装置1では、キャリッジ2がキャリッジ軸2aに沿って移動されると共にインクジェット式記録ヘッド10のヘッド本体80によってインクが吐出されて記録シートSに印刷される。
【0082】
また、上述したインクジェット式記録装置1では、インクジェット式記録ヘッド10がキャリッジ2に搭載されて主走査方向に移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、インクジェット式記録ヘッド10が装置本体7に固定されて、紙等の記録シートSを副走査方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
【0083】
なお、上記した例では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッド10を、また液体噴射装置の一例としてインクジェット式記録装置1を挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド及び液体噴射装置全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドや液体噴射装置にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられ、かかる液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0084】
1 インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 10 インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 20 背圧制御ユニット、 30 カバー、 31 ベース部、 32 カバー部、 40 流路部材、 41 第1流路部材、 42 第2流路部材、 43 圧力室形成部材、 44 保護板、 45 フィルム部材、 46 弾性板、 50 液体流路、 51 接続口、 52 導入路、 53 チャンバー、 54 供給路、 59 大気開放路、 60 回路基板、 70 ケースヘッド、 80 ヘッド本体、 100 弁体、 594 蛇路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するヘッド本体と、
該ヘッド本体が固定された背圧制御ユニットと、を具備し、
前記背圧制御ユニットは、外周で分割可能なカバーと、該カバーの内部の保持部に保持された流路部材と、を具備し、
前記カバーは、ベース部と、該ベース部に固定されたカバー部とを具備し、前記ベース部と前記カバー部とを外周側で当接されて固定されており、
前記流路部材には、前記カバー部側に開口する溝状の蛇路と、外部からの供給管が接続される接続口と、該接続口に連通してヘッド本体に液体を供給する液体流路と、が設けられており、
前記カバー部には、外周縁部の前記ベース部と当接する領域に設けられて前記保持部を封止する第1シール部と、前記蛇路の前記カバー部側の開口を封止する第2シール部と、前記接続口の周囲と前記カバー部との隙間を封止する第3シール部と、が分離して配置されていると共に、前記カバー部と前記第1シール部、第2シール部及び第3シール部とが2色成形によって形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記第1シール部、前記第2シール部及び前記第3シール部は、前記カバー部において、互いに高さが異なる位置に設けられていることを特徴とする請求項1記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記流路部材が、複数の板状部材が積層されて構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−126062(P2012−126062A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281033(P2010−281033)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】