説明

液体噴射装置およびメンテナンス方法

【課題】大気連通口から入り込んだ液体が流通路内で固化するのを防止可能な液体噴射装置およびメンテナンス方法を提供すること。
【解決手段】色剤を含むインクを噴射する第1噴射ノズル列43aを有すると共に、インクに含まれている色剤を溶解させることが可能な洗浄液を噴射する第2噴射ノズル列43bを有する噴射ヘッド41と、噴射ヘッド41のノズル形成面41aに当接して密閉空間を形成すると共に、第1噴射ノズル列43aと第2噴射ノズル列43bのうち少なくとも一方から噴射されるインクおよび/または洗浄液を受け止めるキャップ51と、密閉空間の吸引口511から吸引を行う吸引手段53,56と、密閉空間の大気連通口512から大気開放を行う大気開放手段57,59と、を具備し、第2噴射ノズル列43bは、第1噴射ノズル列43aよりも大気連通口512に近接している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射装置およびメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット式のプリンターは、印刷ヘッドのノズルからインク滴を噴射することにより、印刷用紙等に印刷画像を形成するが、ノズル内部でインクが増粘したり、固化すると、インク滴の噴射不良となってしまう。このような噴射不良を防止するために、一般に、インクジェット式のプリンターは、特許文献1に開示されているように、キャップを有するメンテナンス手段を具備している。
【0003】
ここで、特許文献1に開示されているキャップには、大気連通口が設けられていて、この大気連通口にはチューブが連結されていて、さらに大気連通口またはチューブの中途部分には、大気連通弁が設けられている。また、キャップには、吸引口が設けられていて、この吸引口は吸引装置に接続されている。そして、特許文献1においては、キャップ内に残留したインクが固化し、いわゆる穴詰まりを解決するために、キャップを封止する封止板を設け、大気連通弁を介してクリーニング液を供給し、吸引口からクリーニング液を吸引または排出する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−240000号公報(要約、図4、図5等参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、キャップを印刷ヘッドのノズル形成面に当接させて、吸引装置を作動させると、大気連通口に連結されているチューブも、負圧の作用によって収縮する。ここで、大気開放時にキャップ内の負圧が解消される際には、上述のチューブの収縮も解消するが、その収縮の解消時に、微量のインクをキャップ内から吸い込んでしまう。そして、大気連通口から入り込んだインクが固化することによって、チューブ等の流路が塞がれてしまうことがある。また、大気連通口から入り込んだインクが膜状となり、その膜状のまま固まってしまう場合もある。それらの場合、大気連通弁を開放側に切り換えても、キャップ内に空気が流れ込むのが阻害されることがある。
【0006】
このような問題は、上述の特許文献1の構成を採用した場合でも解消されない。
【0007】
本発明は上記の事情にもとづきなされたもので、その目的とするところは、大気連通口から入り込んだ液体が流通路内で固化するのを防止可能な液体噴射装置およびメンテナンス方法を提供しよう、とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の液体噴射装置は、色剤を含むインクを噴射する第1噴射ノズル列を有すると共に、インクに含まれている色剤を溶解させることが可能な洗浄液を噴射する第2噴射ノズル列を有する噴射ヘッドと、噴射ヘッドのノズル形成面に当接して密閉空間を形成すると共に、第1噴射ノズル列と第2噴射ノズル列のうち少なくとも一方から噴射されるインクおよび/または洗浄液を受け止めるキャップと、密閉空間の吸引口から吸引を行う吸引手段と、密閉空間の大気連通口から大気開放を行う大気開放手段と、を具備し、第2噴射ノズル列は、第1噴射ノズル列よりも大気連通口に近接しているものである。
【0009】
このように構成する場合には、第2噴射ノズル列は、第1噴射ノズル列よりも大気連通口に近接して設けられているため、大気連通口の近傍に存在する液体は、第2噴射ノズル列から噴射された洗浄液が多い状態となる。それにより、大気連通口から液体が入り込んだとしても、その液体は、洗浄液が多い状態となるため、この大気連通口よりも流通路内の下流側においては、インクのような固化が生じるどころか、逆に洗浄液が多いことにより、過去に固化した固化体が溶け、液体の流通性をより確保することが可能となる。このため、大気連通口から入り込んだ液体が流通路内で固化するのを良好に防止可能となる。
【0010】
また、本発明の他の側面は、上述の発明において、第1噴射ノズル列は、インクの種類に対応させて複数設けられていると共に、複数の第1噴射ノズル列のそれぞれから噴射されるインクの粘度が低いもの程、第1噴射ノズル列を通る直線であってインクの噴射方向に平行な直線と大気連通口との間の距離が短く設けられていることが好ましい。
【0011】
このように構成する場合には、第1噴射ノズル列の並びは、インクの粘度が低いもの程、大気連通口に近くなるように設けられているため、粘度の高いインクが大気連通口から遠ざけられる。それにより、粘度の高いインクが大気連通口から流入するのを良好に防止可能となる。
【0012】
さらに、本発明の他の側面は、上述の発明において、複数の第1噴射ノズル列の中には、白色インクを噴射する第1噴射ノズル列が設けられていることが好ましい。
【0013】
このように構成する場合には、大気連通口の近傍に存在する液体には、洗浄液の成分が多い状態となるため、この大気連通口よりも流通路内の下流側においては、白色インクが大気連通口から入り込んで固化するのを良好に防止可能となる。加えて、白色インクは、複数の第1噴射ノズル列の中でも、大気連通口から遠ざけられる位置に配置されるため、粘度の高い白色インクが大気連通口から入り込むのを良好に防止可能となる。
【0014】
また、本発明の他の側面は、上述の各発明において、複数の第1噴射ノズル列のうちの少なくとも1つの第1噴射ノズル列から噴射されるインクは、着色材と、水と、アルコール溶剤と、ポリグリコール溶剤とを少なくとも含んでなると共に、アルコール溶剤が、難水溶性のアルカンジオールを含み、かつポリグリコール溶剤が、ポリアルキレングリコールを含んでなることが好ましい。
【0015】
このように構成する場合には、インクは高粘度のインクとなるが、このような高粘度のインクが大気連通口から入り込むと、それより下流側の流通路内で固化してしまう。しかしながら、大気連通口の近傍に存在する液体には、洗浄液の成分が多い状態となるため、この大気連通口よりも流通路内の下流側においては、高粘度のインクが大気連通口から入り込んで固化するのを良好に防止可能となる。
【0016】
さらに、本発明の他の側面は、上述の各発明において、噴射ヘッドは、制御部により制御駆動させられると共に、制御部のメンテナンス時の制御モードには、密閉空間が形成されている状態で、または密閉空間が形成されていなくても噴射ヘッドとキャップとが対向する状態で、第1噴射ノズル列からインクを噴射させるのと同時に、第2噴射ノズル列から洗浄液を噴射させる制御モードが存在することが好ましい。
【0017】
このように構成する場合には、制御部のメンテナンス時の制御モードには、第1噴射ノズル列からインクを噴射させるのと同時に、第2噴射ノズル列から洗浄液を噴射させられる制御モードが存在する。これにより、たとえばフラッシングといったメンテナンス動作においても、第2噴射ノズルから洗浄液が噴射されるため、大気連通口の近傍に存在する液体は、第2噴射ノズル列から噴射された洗浄液が多い状態となる。それにより、大気連通口から液体が入り込んでも、その液体が流通路内で固化するのを良好に防止可能となる。
【0018】
また、本発明の他の側面は、上述の各発明において、吸引手段は、吸引口に接続されている第1チューブと、この第1チューブの中途部に設けられる開閉可能な排出弁と、第1チューブの中途部であって排出弁よりも密閉空間から離間する側に設けられ、駆動することによって密閉空間に負圧を及ぼさせる吸引ポンプと、を具備すると共に、大気開放手段は、大気連通口に接続されている第2チューブと、この第2チューブの中途部に設けられると共に大気開放可能な大気開放弁と、を具備することが好ましい。
【0019】
このように構成する場合には、第2チューブの内部で、液体が入り込んで、固化が生じるのを良好に防止可能となる。
【0020】
また、本発明の他の側面であるメンテナンス方法は、色剤を含むインクを噴射する第1噴射ノズル列を有すると共に、インクに含まれている色剤を溶解させることが可能な洗浄液を噴射する第2噴射ノズル列を有する噴射ヘッドと、噴射ヘッドのノズル形成面に当接して密閉空間を形成すると共に、第1噴射ノズル列と上記第2噴射ノズル列のうち少なくとも一方から噴射されるインクおよび/または洗浄液を受け止めるキャップと、密閉空間の吸引口から吸引を行う吸引手段と、密閉空間の大気連通口から大気開放を行う大気開放手段と、を具備し、第2噴射ノズル列は、第1噴射ノズル列よりも大気連通口に近接していて、第1噴射ノズル列からインクが吸引されまたは噴射されることによるメンテナンス動作の際には、第2噴射ノズル列からも洗浄液を吸引されまたは噴射される、ことが好ましい。
【0021】
このように構成する場合には、第2噴射ノズル列は、第1噴射ノズル列よりも大気連通口に近接して設けられているため、大気連通口の近傍に存在する液体は、第2噴射ノズル列から噴射された洗浄液が多い状態となる。それにより、第1噴射ノズル列からインクが吸引されまたは噴射されることによるメンテナンス動作の際には、第2噴射ノズル列からも洗浄液を吸引されまたは噴射されるため、大気連通口から液体が入り込んだとしても、その液体は、洗浄液が多い状態となる。それにより、大気連通口よりも流通路内の下流側においては、インクのような固化が生じるどころか、逆に洗浄液が多いことにより、過去に固化した固化体が溶け、液体の流通性をより確保することが可能となる。このため、大気連通口から入り込んだ液体が流通路内で固化するのを良好に防止可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施の形態に係るプリンターの構成を示す概略図である。
【図2】図1のプリンターにおけるラインヘッドの構成を示す概略図である。
【図3】短尺ヘッドと吸引機構の構成を示す概略図である。
【図4】ノズルと大気連通口との位置関係を示す図である。
【図5】吸引ポンプが作動する場合の処理フローを示す図である。
【図6】第2チューブの湾曲により液体が溜まっている状態を示す図である。
【図7】図6に示す場合よりも液体が少ない状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施の形態に係る、液体噴射装置としてのプリンター10について、図1から図7に基づいて説明する。
【0024】
<プリンターの概略構成>
最初に、プリンター10の構成の概略について説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係るプリンター10の概略構成を示す図である。プリンター10は、紙送り機構20と、インク供給機構30と、ラインヘッド40と、吸引機構50と、制御部70とを具備している。
【0025】
紙送り機構20は、紙送りモーター(PFモーター)21と、この紙送りモーター21からの駆動力が伝達される給紙ローラー22等を具備していて、印刷用紙等の印刷媒体Pを、供給部位から排紙側に向けて搬送可能となっている。また、インク供給機構30は、カートリッジホルダー31と、カートリッジ32と、インク供給路33とを具備している。これらのうち、カートリッジホルダー31には、カートリッジ32が着脱自在に装着されている。そのため、本実施の形態のプリンター10は、いわゆるオフキャリッジタイプの構成となっている。ここで、カートリッジ32には、印刷時に印刷媒体Pに噴射されて印刷画像を形成するためのインクを貯留するカートリッジ32aと、キャップ51に噴射する洗浄液を貯留するカートリッジ32bとが存在している。なお、これらカートリッジ32aとカートリッジ32bとを区別する必要がない場合には、両者をカートリッジ32と称する。
【0026】
また、カートリッジ32とラインヘッド40との間には、インク供給路33が設けられている。このインク供給路33を介することにより、カートリッジ32aからラインヘッド40にインクを供給可能とすると共に、カートリッジ32bからラインヘッド40に洗浄液を供給可能としている。
【0027】
また、ラインヘッド40は、印刷媒体Pよりも幅広の長さ寸法を有している。このラインヘッド40は、図2に示すように、複数の短尺ヘッド(噴射ヘッドの一例に対応)41が、副走査方向(Y方向;ライン方向に対する直交方向)において交互に前後しつつ、主走査方向(X方向;ライン方向)に沿って並ぶように配列されている。また、図1に示すように、個々の短尺ヘッド41には、インク噴射箇所としてのノズル42が印刷媒体Pの搬送方向と直交する方向(印刷媒体Pの幅方向)に列状に配置されている。
【0028】
ここで、各短尺ヘッド41には、ライン方向(X方向)において隣り合う短尺ヘッド41のノズル42と重なり合う領域が存在している。また、短尺ヘッド41は、ノズル42がライン方向(X方向)に列を為すことにより、ノズル列43を構成している。このノズル列43には、シアン、マゼンタ、イエロー、およびブラックの着色されたインク(印刷用のインク)を噴射するノズル列43(以下、ノズル列43aとする。;このノズル列43aは、第1噴射ノズル列の一例に対応)が設けられている。なお、短尺ヘッド41のうち、ノズル列43が設けられている面を、ノズル形成面41aと称する。
【0029】
なお、インクは、粘度が後述する洗浄液よりも高いが、かかるインクの中でも、通常の印刷用のインクよりも粘度の高いものを用いるようにしても良い。なお、本願で言う高粘度とは、使用時におけるインクの粘度が5mPa・s以上15mPa・s以下の範囲を粘度を言う。また、このような高粘度のインクについては、後述する。
【0030】
また、上述のインクとしては、他の色のインクよりも粘度の高い白色のインクを用いるようにしても良い。かかる粘度の高い白色のインクを用いる場合、高粘度の白色のインクを貯留するカートリッジ32が設けられると共に、ノズル列43aの中には、高粘度の白色のインクを噴射するものが存在する。
【0031】
また、ノズル列43には、上述の印刷用のインクではなく洗浄液を噴射するノズル列43bが設けられている。洗浄液を噴射するノズル列43bは、本実施の形態では、後述するキャップ51の一端側に位置するように設けられている。すなわち、カートリッジ32bからインク供給路33を介してノズル列43bに存在するノズル42に洗浄液が供給され、このノズル42から洗浄液が噴射される。なお、噴射された洗浄液は、インク吸収体52のうち、キャップ51内の大気連通口512の近傍に位置する部分に着弾させられる。また、ノズル列43bは、第2噴射ノズル列の一例に対応する。
【0032】
なお、以下の説明においては、印刷用のインクを噴射するノズル列43aに存在するノズル42を、ノズル42aと称する。また、洗浄液を噴射するノズル列43bに存在するノズル42を、ノズル42bと称する。また、上述のノズル列43aは、4色分に限られるものではなく、6色、7色および8色等、何色分であっても良い。
【0033】
<洗浄液について>
また、カートリッジ32bからキャップ51内に供給される洗浄液としては、インクに用いられている色剤を溶解させるものが用いられる。
【0034】
上記インクが水性インクである場合、洗浄液として、水溶性低揮発性有機溶剤と界面活性剤とを含む液体を用いるのが好ましい。水性インクに用いられる有機溶媒としては、グリコール化合物、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールを例示できる。例えば水性インクがエチレングリコールを含有している場合、洗浄液にもエチレングリコールを用いる。これにより、キャップ51内の洗浄に際し、水性インクの色材と混じり合い、洗浄効果が増すと共に、キャップ51内の溶媒の乾燥によるインク色材の固化を防止できる。さらに、界面活性剤を重量比1%程度添加することで、さらに洗浄効果を増すことができる。
【0035】
上記インクが油性インクである場合、洗浄液として、油性低揮発性有機溶剤を含む液体を用いるのが好ましい。油性インクに用いられる有機溶媒としては、好ましくは極性有機溶媒、例えば、アルコール類(例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、又はフッ化アルコール等)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、又はシクロヘキサノン等)、カルボン酸エステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、又はプロピオン酸エチル等)、又はエーテル類(例えば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、又はジオキサン等)等を例示できる。
【0036】
例えばジエチルエーテルが油性インクを含有している場合、洗浄液にもジエチルエーテルを用いる。これにより、キャップ51内の洗浄に際し、油性インクの色材と混じり合い、洗浄効果が増すと共に、キャップ51内の溶媒の乾燥によるインク色材の固化を防止できる。
【0037】
<吸引機構の構成>
続いて、吸引機構50の構成について、図3に基づいて説明する。プリンター10には、図3に示すような吸引機構50が設けられている。吸引機構50は、キャップ51と、インク吸収体52と、第1チューブ53と、廃液タンク54と、排出弁55と、吸引ポンプ56と、第2チューブ57と、廃液受け58と、大気開放弁59と、を備えている。なお、第1チューブ53と、排出弁55と、吸引ポンプ56とは、吸引手段を構成し、第2チューブ57と、大気開放弁59とは、大気開放手段を構成する。
【0038】
これらのうち、キャップ51は、短尺ヘッド41のノズル形成面41aを外部から封止する部分であるものの、外部から封止される部位である凹部51aは、第1チューブ53と連通している。この第1チューブ53がキャップ51に取り付けられる部分が、吸引口511となっていて、当該凹部51aの開放側とは反対側に向かって凹部51aの底部から突出している。そして、この吸引口511の管路状の部分が、第1チューブ53の一端側に差し込まれる等によって接続されている。
【0039】
また、キャップ51には、上述の吸引口511と共に、大気連通口512が設けられている。大気連通口512は、上述の吸引口511と同様に、当該凹部51aの開放側とは反対側に向かって凹部51aの底部から突出している。そして、大気連通口512の管路状の部分が、第2チューブ57に差し込まれる等によって接続されている。ここで、図3に示すように、吸引口511は、凹部51a内のインク吸収体52において、ノズル42bから噴射された洗浄液が着弾する部位よりも、ノズル42aから噴射されたインクが着弾する部位の方が近くなるように設けられている。
【0040】
また、図3に示すように、大気連通口512は、凹部51a内において、ノズル42aから噴射されたインクが着弾する部位よりも、ノズル42bから噴射された洗浄液が着弾する部位の方が近くなるように設けられている。
【0041】
このような吸引口511と大気連通口512との位置関係により、凹部51a内のインク吸収体52にインクと共に洗浄液が噴射されると、大気連通口512の周囲は洗浄液が多い状態となる。そのため、大気連通口512から液体が入り込むとしても、その液体中に、洗浄液が多い状態とすることが可能となる。
【0042】
また、図4に、ノズル列43a,43bと、大気連通口512との位置関係を示す。この図4に示すように、ノズル列43aにおいては、当該ノズル列43aを通る直線であってインクの噴射方向に平行な直線X1〜Xnと大気連通口512(大気連通口512の中心線P)との間の距離L1〜Lnが、噴射されるインクの粘度が低いもの程、近接するように設けられている。すなわち、距離L1〜Lnの値は、インクの粘度が低いもの程、小さくなっている(図4では、距離が小さいものから順に、距離l1、L2,・・・,Lnとなっている。)。また、インクよりも洗浄液の粘度が低いため、ノズル列43bを通る直線であって洗浄液の噴射方向に平行な直線Yと大気連通口512との間の距離Mは、上述の距離L1〜Lnのいずれの値よりも小さくなっている。ここで、直線Yは、大気連通口512を通過することが好ましく、距離Mが大気連通口512の開口部分の半径以下である、または半径よりも小さいことが好ましい。
【0043】
また、本実施の形態では、図3に示すように、キャップ51の凹部51aには、インク吸収体52が設けられている。インク吸収体52は、たとえばフェルト等の不織布から形成されていて、インクを吸収可能となっている。
【0044】
また、第1チューブ53は、可撓性を有する中空の管部材であり、その中空の部分が凹部51aと廃液タンク54とを結ぶ流路となっている。
【0045】
廃液タンク54は、吸引ポンプ56の作動等によって排出されるインクを蓄える容器である。また、排出弁55は、第1チューブ53の中途部分に設けられている、電気的な制御が可能な弁であり、開弁状態では第1チューブ53におけるインク(または洗浄液またはこれらの混合液)の流通が可能となると共に、閉弁状態では第1チューブ53におけるインクの流通が不能となる。また、吸引ポンプ56は、第1チューブ53に負圧を発生させることが可能に設けられていて、この吸引ポンプ56が作動すると、第1チューブ53を介して、インク(または洗浄液またはこれらの混合液)が廃液タンク54に排出される。
【0046】
また、第2チューブ57は、上述の第1チューブ53と同様に、可撓性を有する中空の管部材であり、その中空の部分が凹部51aと廃液タンク54とを結ぶ流路となっている。なお、第2チューブ57の一端側には、上述の大気連通口512が差し込まれる等によって接続されている。また、第2チューブ57の他端側には、廃液タンク54と同様の廃液受け58が設けられていて、第2チューブ57を流通してきた液体を受け止めることが可能となっている。しかしながら、第2チューブ57の内部を流通する液体の量がさほど多くないことに鑑みて、第2チューブ57の他端側に廃液受け58を設けないようにしても良い。
【0047】
また、大気開放弁59は、第2チューブ57の中途部分に設けられている、電気的な制御が可能な弁であり、開弁状態では第2チューブ57を介して凹部51a(密閉空間)の大気開放を可能とすると共に、閉弁状態では第2チューブ57を介しての大気開放が不能となる。
【0048】
<制御部の構成>
続いて、制御部70の構成について、図1に基づいて説明する。制御部70は、不図示のCPU、メモリー(ROM、RAM、不揮発性メモリー等)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、バス、タイマー、インターフェース72(図1参照)等を有している。
【0049】
この制御部70には、各種センサーからの信号が入力されると共に、このセンサーからの信号に基づいて、制御部70は、PFモーター21、短尺ヘッド41(ラインヘッド40)、排出弁55、吸引ポンプ56、大気開放弁59等の駆動を司る。
【0050】
かかる制御部70での駆動制御により、吸引機構50は、後述するようなシーケンスを実行可能となっている。また、本実施の形態の制御部70においては、印刷とは関係なくインクを噴射するという、メンテナンス時の制御モードを実行可能である。ここで、メンテナンス時の制御モードには、キャップ51がノズル形成面41aに当接して密閉空間が形成されている状態で、または密閉空間が形成されていなくても短尺ヘッド41とキャップ51とが対向する状態で、ノズル列43aからインクを噴射させるのと同時に、ノズル列43bから洗浄液を噴射させるようにするものがある。なお、このようなメンテナンス時の制御モードは、上述した制御部70の各構成、およびROMまたは不揮発性メモリーに記憶させられているプログラム、データが協働することにより実行される。
【0051】
また、上述の制御部70は、コネクター71を介してコンピューター100に接続されていて、通信を行う。それにより、プリンター10がコンピューター100側から印刷信号PSを受け取ると、その印刷信号PSに基づいて、プリンター10で印刷のための処理が開始される。
【0052】
<高粘度のインクの成分に関して>
次に、本実施の形態で用いる高粘度のインクの成分について説明する。本実施の形態におけるインクの組成物(インク組成物)は、着色材と、水と、アルコール溶剤と、ポリグリコール溶剤とを少なくとも含んでなるインクジェット記録用インク組成物であって、前記アルコール溶剤が、難水溶性のアルカンジオールを含み、かつ前記ポリグリコール溶剤がポリアルキレングリコールを含んでなるものである。以下、各成分について説明する。
【0053】
<定義>
本実施の形態において、アルカンジオールは、直鎖または分枝鎖のいずれであってもよい。
【0054】
また、水溶性とは、20℃での、水への溶解度(水100gに対する溶質の量)が、10.0g以上であることを意味し、難水溶性とは、水への溶解度(水100gに対する溶質の量)が、1.0g未満であることを意味する。混和性とは、20℃での、水への溶解度(水100gに対する溶質の量)が、10.0gの場合に、半透明な溶液であることを意味する。
【0055】
本実施の形態におけるインク組成物に用いられるアルコール溶剤が難水溶性のアルカンジオールを含み、かつポリグリコール溶剤がポリアルキレングリコールを含む、少なくとも二種類の有機溶剤を含む。これら二種類の有機溶剤を必須成分として含むことにより、印刷用紙において、インク組成物のビーディングが抑制され、低解像度にて印刷した場合でも、ブリーディングやビーディングのない高品質な画像が実現でき、噴射の安定性にも優れたインク組成物を実現できる。なお、本実施の形態において、ビーディングとは、面として印刷した際(例えば6インチ四方に単色(インクの色数のことではない)で印刷した際)に発生する、局所的な同系色の濃度斑のことを意味し、印刷媒体表面がインクによって被覆されない部分が残存することを意味するものではない。また、色材のブリーディングとは、各単色を隣接面として印刷した際(例えば3インチ四方に各単色を隣接面として印刷した際)に、境界線近傍において、混合色が発生してしまう現象を意味する。また、溶剤のブリーディングとは、各単色を隣接面として印刷した際(例えば3インチ四方に各単色を隣接面として印刷した際)に、境界線近傍において、溶剤の滲み出しによる色材の移動等により被覆状態が変化し、同系色の濃度斑が発生してしまう現象を意味する。
【0056】
また、本実施の形態においては、上記のような印刷媒体において、米坪が73.3〜104.7g/mまたは104.7〜209.2g/mの薄い印刷用紙等を用いた場合、好ましくは米坪が73.3〜104.7g/mの薄い印刷用紙を用いた場合であっても、印字面が内側に反り返る、いわゆるカールの発生を抑制できる。
【0057】
上記のように、難水溶性のアルカンジオールに加え、ポリアルキレングリコールを必須成分として添加することにより、ブリーディングやビーディングのない高品質な画像が実現できる理由は定かではないが、以下のように考えられる。
【0058】
印刷用紙に記録する場合に発生するインクのビーディングは、インクドットの表面張力が高いために、結果として、印刷用紙表面とインク滴との接触角が高くなり、インク滴が印刷用紙に弾かれることが原因であると考えられる。弾かれたインク滴は、隣接するインク滴と相互流動し、結合しあうので、ビーディングが発生する。よって、インクのビーディングを抑制するには、インク滴の表面張力を低くし、インク滴の流動性を抑制することが好ましいと考えられる。
【0059】
また、印刷用紙に記録する場合に発生するインクのブリーディングは、インクドットの表面張力が異なるために、印刷用紙表面に付着した表面張力の低いインクドットが、表面張力の高いインクドットに濡れ広がり、インクが流動することが原因であると考えられる。このインク流動は、隣接するインクドット同士の付着時間差や付着時の液滴の大きさなども影響すると考えられる。
【0060】
よって、インクのブリーディングを抑制するには、各々のインク滴の表面張力を全て同じにすることが好ましいと考えられる。しかしながら、隣接するインク滴同士の付着時間差や付着時の液滴の大きさまでを同じにすることは困難であるので、インク滴の流動性を低くすることが好ましいと考えられる。
【0061】
したがって、インクのビーディングとブリーディングのない、高品質な画像を実現するためには、表面張力を低くし、かつ流動性の低いインクドットを、印刷用紙に付着させることが好ましいと考えられる。
【0062】
<ポリグリコール溶剤>
本実施の形態におけるインク組成物は、ポリグリコール溶剤として、ポリアルキレングリコールを含んでなるものである。好ましくは、さらに凝集を抑制するために、水混和性のポリアルキレングリコールを含有させてもよい。
【0063】
凝集が抑制される理由は定かではないが、インク滴の乾燥工程において、水混和性のポリアルキレングリコールが、難水溶性のアルカンジオールを微細な油層に分離すると考えられる。このような分離層において、水層には水分散性の分散樹脂によって分散状態にある顔料が存在するが、油層にはそれが存在できない。水層にある顔料の流動が、この油層の壁によって抑制されると考えられる。無数の微細な油滴が水の流動性を抑制していると考えられる。
【0064】
インクが着滴した瞬間は、未だ油滴が水に分散された状態であるが、乾燥過程において、水が先に失われ、O/WからW/Oの状態に層転移すると考えられる。したがって、インク滴全体での流動性も瞬時に失われると考えられる。
【0065】
本実施の形態におけるインク組成物に含まれるポリアルキレングリコールは、特に限定されないが、好ましくはポリプロピレングリコールである。そのポリプロピレングリコールは、特に限定されないが、生態毒性や環境毒性の観点から、ジオール型であることが好ましい。また、前記ポリプロピレングリコールの重量平均分子量は、特に限定されないが、難水溶性のアルカンジオールを水層から分離させる観点から、その重量平均分子量は400〜700であることが好ましく、400であることが、より好ましい。
【0066】
本実施の形態におけるインク組成物に含まれるポリグリコール溶剤は、高温低湿放置下においても乾燥しにくいため、50℃/15%HMの目詰まり回復性も改善される。
【0067】
本実施の形態におけるポリアルキレングリコールは、インク組成物全体に対し、4〜10重量%含有されていることが好ましく、より好ましくは5〜8重量%である。4重量%以上とすることで、難水溶性のアルカンジオールをインク滴の乾燥工程で良好に油層に分離することができ好ましい。一方、10重量%以下とすることで、インクの初期粘度が高くなりすぎず、通常のインク保存状態において、油層に分離することを有効に防止でき、インクの保存性の観点から好ましい。
【0068】
<アルコール溶剤>
本実施の形態におけるインク組成物は、アルコール溶剤として、難水溶性のアルカンジオールを含んでなるものである。
【0069】
本実施の形態における難水溶性のアルカンジオールは、炭素数7以上のアルカンジオールが好ましく、より好ましくは炭素数7〜10のアルカンジオールである。さらに好ましくは難水溶性の1,2−アルカンジオールであり、ビーディングを抑制できる。難水溶性の1,2−アルカンジオールとしては、例えば、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、5−メチル−1,2−ヘキサンジオール、4−メチル−1,2−ヘキサンジオール、または4,4−ジメチル−1,2−ペンタンジオール等が挙げられる。これらの中でも、1,2−オクタンジオールがより好ましい。ビーディングを抑制することができる理由は定かではないが、インク滴の表面張力を低くすることで、ビーディングを抑制できると考えられる。
【0070】
本実施の形態における難水溶性のアルカンジオールは、インク組成物全体に対し、1〜4重量%含有されていることが好ましく、より好ましくは2〜4重量%であり、さらに好ましくは2.5〜3.5重量%である。1重量%以上とすることで、ビーディング発生の抑制を十分なものとすることができ、一方、4重量%以下とすることで、インクの初期粘度が高くなりすぎず、通常のインク保存状態において、油層に分離することを有効に防止でき、インクの保存性の観点から好ましい。
【0071】
また、必須成分である難水溶性のアルカンジオールおよびポリアルキレングリコールに加え、対称型両末端アルカンジオールを添加することにより、溶剤のブリーディング発生がさらに抑制できる。その理由は、定かではないが以下のように考えられる。
【0072】
難水溶性のアルカンジオールは、表面張力が極めて低く、蒸発乾燥性も低い為に、色材の動きが止まった後も、インク溶液の濡れ拡がりが継続していると考えられる。よって、単位面積あたりのインク付着量の差異が大きい分布を有する記録画像の場合、インク付着量が多い部分から少ない部分への溶剤の滲み出しが発生する。このような溶剤のブリーディングを抑制するには、表面張力が高い対象型両末端アルカンジオールを添加することが好ましい。
【0073】
この対称型両末端アルカンジオールの含有量が少なすぎると、インク付着量の差異が大きい分布を有する記録画像の場合、溶剤のブリーディングをさらに抑制できない場合がある。また、対称型両末端アルカンジオールの含有量が多すぎると、難水溶性のアルカンジオールを溶解し過ぎてしまい、ビーディングがさらに抑制できない場合がある。理由は定かではないが、対称型両末端アルカンジオールは、難水溶性のアルカンジオールとポリアルキレングリコールとを溶解する能力が高いため、インク滴の乾燥工程において、水混和性のポリアルキレングリコールが、難水溶性のアルカンジオールを微細な油層に分離することを阻害するためと考えられる。
【0074】
本実施の形態における水溶性の対称型両末端アルカンジオールは、インク組成物全体に対し、0.1〜4重量%含有されていることが好ましく、より好ましくは、0.6〜1.4重量%である。0.1重量%以上とすることで、噴射安定性を十分なものとすることができ、またワイピング耐久性が劣化しないため好ましい。ワイピング性能とは、クリーニング操作を繰り返し実施した場合に発生する、インクノズルの周辺面の撥水劣化に起因するインク滴の着弾精度劣化を意味する。理由は定かではないが、難水溶性のアルカンジオールとポリアルキレングリコールとが、インクノズルの周辺面に析出していると考えられる。一方、4重量%以下とすることで、難水溶性のアルカンジオールとポリアルキレングリコールとを過度に溶解しないため好ましい。
【0075】
本実施の形態において使用する水溶性の対称型両末端アルカンジオールは、水溶性の対称型両末端アルカンジオールはグリセリンよりも低い表面張力を示す浸透性湿潤剤である。例えば、10%水溶液とした場合の1,6−ヘキサンジオールの表面張力は41.5mN/mであり、また、10%水溶液とした場合の2−メチル−1,3−プロパンジオールの表面張力は57.5mN/mであり、また、10%水溶液とした場合の3−メチル−1,5−ブタンジオールの表面張力は45.8mN/mである。
【0076】
また、本実施の形態における水溶性の対称型両末端アルカンジオールとしては、主鎖の炭素数が3以上のアルカンジオールが好ましく、より好ましくは主鎖の炭素数が4〜6である。また、水溶性の対称型両末端アルカンジオールは、分枝鎖を有していても良い。なお、本明細書中、「対称型」とは、アルキル鎖の両末端に水酸基を有するアルカンジオールにおいて、1,5−ペンタンジオールのように、両水酸基から等距離にある炭素を対称軸とする、両末端アルカンジオールを意味する。本実施の形態における水溶性の対称型両末端アルカンジオールとして、より好ましくは2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールである。これらの中でも、噴射安定性の観点からは、炭素数の多い水溶性の対称型両末端アルカンジオールが好ましく用いられる。炭素数が6の水溶性の対称型両末端アルカンジオール、例えば、3−メチル−1,5−ペンタンジオールおよび1,6−ヘキサンジオールは、難水溶性のアルカンジオールを水に溶解させる能力に優れるため、噴射安定性が向上する。
【0077】
特に、1,6−ヘキサンジオールは、水易溶性であり、常温において固形であることから、目詰まり回復性の能力に優れるため、より好ましい。理由は定かではないが、ノズル近傍の固形化インクに、水易溶性の固形の1,6−ヘキサンジオールが含有されることにより、クリーニング操作によって、液体のインクが接触した際に、1,6−ヘキサンジオールの溶解が目詰まり回復のきっかけになると考えられる。
【0078】
本実施の形態におけるアルコール溶剤とポリグリコール溶剤において、前記水溶性の対称型両末端アルカンジオールとポリアルキレングリコールとの含有量比が、1:1〜1:100であることが好ましい。この範囲とすることにより、重量平均分子量2000以下の前記ポリアルキレングリコールをインク中に安定的に溶解させることができ、噴射安定性が向上する。水溶性対称型両末端アルカンジオールの割合が上記範囲よりも多くなると、インク初期粘度の低減とビーディング斑低減が困難になる。一方、水混和性の水溶性対称型両末端アルカンジオールの割合が上記範囲よりも少なくなると、ポリアルキレングリコールをインク中に安定的に溶解させることが困難となり、経過時の粘度変化を抑制したり保存安定性を維持したりすることが困難となる。また、ワイピング耐久性が劣化する。
【0079】
上記範囲内において、水溶性対称型両末端アルカンジオールの割合が少ない場合は、ポリアルキレングリコールの分子量は、700以下であることが、ワイピング耐久性の観点から、より好ましい。
【0080】
また、本実施の形態における水溶性の対称型両末端アルカンジオールと難水溶性のアルカンジオールとの含有量比は、それぞれ1:80〜4:1であることが好ましく、より好ましくはそれぞれ1:40〜2:1である。この範囲とすることにより、インクの噴射安定性を向上させることができる。水溶性の対称型両末端アルカンジオールの割合が上記範囲よりも多くなると、インク初期粘度が高くなり、ビーディング斑低減が困難になる。一方、水溶性対称型両末端アルカンジオールの割合が上記範囲よりも少なくなると、難水溶性のアルカンジオールをインク中に安定的に溶解させることが困難となり、経過時の粘度変化を抑制したり保存安定性を維持したりすることが困難となる。また、本実施の形態における水溶性の対称型両末端アルカンジオールと難水溶性のアルカンジオールとの含有量比を上記範囲内とすることにより、ワイピング耐久性が向上する。
【0081】
さらに、本実施の形態における難水溶性のアルカンジオールとポリアルキレングリコールとの含有量比が、それぞれ1:1〜1:10であることが好ましく、より好ましくはそれぞれ1:1〜1:5である。この範囲とすることにより、インクの噴射安定性を向上させることができる。
【0082】
また、前記対称型両末端アルカンジオールをX、前記難水溶性のアルカンジオールをY、前記ポリアルキレングリコールをZとした場合に、含有量比が、X:(Y+Z)=1:140〜4:5が好ましい。この範囲にすることで、噴射安定性と保存安定性、ワイピング耐久性を確保できる。また、理由は定かではないが、乾燥過程において、水が先に失われ、O/WからW/Oの状態に層転移する機構が発現できると考えられる。上記範囲内であり、かつ、X:Y=1:80〜4:1の範囲内において、難水溶性のアルカンジオールの割合が多い場合は、ポリアルキレングリコールの分子量は、700以下であることが、ワイピング耐久性の観点で、より好ましい。
【0083】
このような層転移は、乾燥過程において、低分子量の水は即座に乾燥するが、難水溶性のアルカンジオールとポリアルキレングリコールとは、乾燥しないで残るために発現すると考えられる。顔料に吸着した樹脂は、流動性に優れた分散状態から、急激に水が失われるのと同時に、油層に取り残されるので、凝集状態の高粘調性の樹脂に変化すると考えられる。
【0084】
また、本実施の形態における難水溶性のアルカンジオールとポリアルキレングリコールとの含有量の和が、インク組成物に対し14重量%以下であることが好ましい。この範囲とすることにより、インクの初期粘度を低く抑えられ、印刷用紙のようなインク吸収性の低い印刷媒体においてビーディングを生じることなく、色材のブリーディングにも優れる。
【0085】
また、本実施の形態においては、難水溶性のアルカンジオールと、ポリアルキレングリコールと、水溶性の対称型両末端アルカンジオールとの含有量の和が、インク組成物に対し18重量%以下であることが好ましい。この範囲とすることにより、インクの初期粘度を低く抑えられ、印刷用紙のようなインク吸収性の低い印刷媒体においてビーディング斑を生じることなく、色材のブリーディングだけでなく、溶剤のブリーディングにも優れる。特に、溶剤のブリーディングに優れるので、水の吸収能力が殆どない、合成紙への記録性に優れる。
【0086】
本実施の形態におけるアルコール溶剤として、更に1,2−ヘキサンジオールを0.1〜4重量%含んでなることが好ましい。1,2−ヘキサンジオールを0.1〜4重量%含むことにより、さらにブリーディングやビーディングのない高品質な画像が実現できる。また、顔料種や樹脂量により噴射性能が異なる場合の調整剤として効果的である。
【0087】
また、本実施の形態におけるアルコール溶剤として、更に4−メチル−1,2−ペンタンジオールを0.1〜4重量%含んでなることが好ましい。1,2−ヘキサンジオールを0.1〜4重量%含むことにより、さらにブリーディングやビーディングのない高品質な画像が実現できる。また、顔料種や樹脂量により噴射性能が異なる場合の調整剤として効果的である。
【0088】
<着色材>
本実施の形態におけるインクジェット記録用インク組成物に用いられる着色材(色剤)としては、染料および顔料のいずれも使用することができるが、耐光性や耐水性の観点から顔料を好適に使用できる。
【0089】
顔料としては、無機顔料および有機顔料を使用することができ、それぞれ単独または複数種を混合して用いることができる。前記無機顔料としては、例えば、酸化チタンおよび酸化鉄の他に、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造されたカーボンブラックが使用できる。また、前記有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等を含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料等)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等が使用できる。
【0090】
顔料の具体例は、得ようとするインク組成物の種類(色)に応じて適宜挙げられる。例えば、イエローインク組成物用の顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1,2,3,12,14,16,17,73,74,75,83,93,95,97,98,109,110,114,128,129,138,139,147,150,151,154,155,180,185等が挙げられ、これらの1種または2種以上が用いられる。これらのうち、特にC.I.ピグメントイエロー74,110,128、および129からなる群から選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましい。また、マゼンタインク組成物用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド5,7,12,48(Ca),48(Mn),57(Ca),57:1,112,122,123,168,184,202,209;C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられ、これらの1種または2種以上が用いられる。これらのうち、特にC.I.ピグメントレッド122,202,209、およびC.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましく、これらの固溶体であってもよい。また、シアンインク組成物用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー1,2,3,15:3,15:4,15:34,16,22,60;C.I.バットブルー4,60等が挙げられ、これらの1種または2種以上が用いられる。これらのうち、特にC.I.ピグメントブルー15:3および/または15:4を用いることが好ましく、とりわけ、C.I.ピグメントブルー15:3を用いることが好ましい。
【0091】
また、ブラックインク組成物用の顔料としては、例えば、ランプブラック(C.I.ピグメントブラック6)、アセチレンブラック、ファーネスブラック(C.I.ピグメントブラック7)、チャンネルブラック(C.I.ピグメントブラック7)、カーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)等の炭素類、酸化鉄顔料等の無機顔料;アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料等が挙げられるが、本実施の形態においては、カーボンブラックが好ましく用いられる。カーボンブラックとして、具体的には、#2650、#2600、#2300、#2200、#1000、#980、#970、#966、#960、#950、#900、#850、MCF-88、#55、#52、#47、#45、#45L、#44、#33、#32、#30、(以上、三菱化学(株)製)、SpecialBlaek4A、550、Printex95、90、85、80、75、45、40(以上、デグッサ社製)、Regal660、RmogulL、monarch1400、1300、1100、800、900(以上、キャボット社製)、Raven7000、5750、5250、3500、3500、2500ULTRA、2000、1500、1255、1200、1190ULTRA、1170、1100ULTRA、Raven5000UIII、(以上、コロンビアン社製)等が挙げられる。
【0092】
顔料の濃度は、インク組成物を調製した際に適宜な顔料濃度(含有量)に調整すればよいため特に限定されないが、本実施の形態においては、顔料の固形分濃度を7重量%以上とすることが好ましく、10重量%以上とすることがより好ましい。印刷媒体上にインク液滴が付着すると、印刷媒体の表面でインクが濡れ拡がるが、顔料固形濃度を7%重量%以上と高くすることにより、濡れ拡がりが留まった後のインクの流動性が早期に失われるため、印刷用紙等の印刷媒体に低解像度で印刷した場合に、より滲みを抑制することができる。すなわち、上記した特定の二種の有機溶剤を組み合わせて使用することにより、インク吸収性の低い印刷媒体上でもインクが濡れ拡がり、併せて、インクの固形分濃度を高くすることにより、印刷媒体上でのインクの流動性を下げて、滲みを抑制することができると考えられる。特に、インク滴の1滴の重量が6ng以上の場合において、ビーディングとブリーディングの抑制効果が顕著である。
【0093】
前記顔料は、後記する分散剤との混練処理がされた顔料であることが画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点から好ましい。
【0094】
<分散剤>
本実施の形態におけるインク組成物は、着色材を分散させるための分散剤としては、スチレン−アクリル酸系共重合樹脂、オキシエチルアクリレート系樹脂、ウレタン系樹脂、およびフルオレン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含んでなることが好ましく、より好ましくは、オキシエチルアクリレート系樹脂およびフルオレン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含んでなる。これら共重合樹脂は、顔料に吸着して分散性を向上させる。
【0095】
共重合体樹脂における疎水性モノマーの具体例としては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、iso−プロピルアクリレート、iso−プロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、sec−ブチルアクリレート、sec−ブチルメタクリレート、tert−ブチルアクリレート、tert−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルアクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、n−オクチルアクリレート、n−オクチルメタクリレート、iso−オクチルアクリレート、iso−オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ジメチルアミノエチルアクリレート、2−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2−ジエチルアミノエチルアクリレート、2−ジエチルアミノエチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルアクリレート、フエニルメタクリレート、ノニルフェニルアクリレート、ノニルフェニルメタクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルメタクリレート、ボルニルアクリレート、ボルニルメタクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、グリセロールアクリレート、グリセロールメタクリレート、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、ヒドロキシエチル化オルトフェニルフェノールアクリレートなどを挙げることができる。これらは、単独でまたは2種以上を混合して用いてもよい。
【0096】
親水性モノマーの具体例としては、たとえばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸などを挙げることができる。
【0097】
前記疎水性モノマーと親水性モノマーとの共重合樹脂は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合樹脂、スチレン−メチルスチレン−(メタ)アクリル酸共重合樹脂、またはスチレン−マレイン酸共重合樹脂、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂、またはスチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂、ヒドロキシエチル化オルトフェニルフェノールアクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合樹脂の少なくともいずれかであることが好ましい。
【0098】
前記共重合樹脂は、スチレンと、アクリル酸またはアクリル酸のエステルと、を反応して得られる重合体を含む樹脂(スチレン−アクリル酸樹脂)であってもよい。あるいは、前記共重合樹脂は、アクリル酸系水溶性樹脂であってもよい。またはこれらのナトリウム、カリウム、アンモニウム、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン等の塩であってもよい。
【0099】
前記共重合樹脂の酸価は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは50〜320であり、一層好ましくは100〜250である。
【0100】
前記共重合樹脂の重量平均分子量(Mw)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは2,000〜3万であり、より好ましくは2,000〜2万である。
【0101】
前記共重合樹脂のガラス転移温度(Tg;JISK6900に従い測定)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは30℃以上であり、一層好しくは50〜130℃である。
【0102】
前記共重合樹脂は、顔料分散液中において顔料に吸着している場合と、遊離している場合とがあり、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記共重合樹脂の最大粒径は0.3μm以下であることが好ましく、平均粒径は0.2μm以下(さらに好ましくは0.1μm以下)であることが一層好ましい。なお、平均粒径とは、顔料が実際に分散液中で形成している粒子としての分散径(累積50%径)の平均値であり、例えば、マイクロトラックUPA(MicrotracInc.社)を使用して測定することができる。
【0103】
前記共重合樹脂の含有量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100重量部に対して、好ましくは20〜50重量部であり、一層好ましくは20〜40重量部である。
【0104】
本実施の形態においては、前記共重合樹脂として、オキシエチルアクリレート系樹脂を使用することもできる。使用することにより、インクの初期粘度の低減、高温時の保存安定性、目詰まり回復性に優れるので、より好ましい。
【0105】
上記オキシエチルアクリレート系樹脂は、特に限定されないが、好ましくは下記式(I)で表される化合物である。下記式(I)で表される化合物は、例えば、モノマーモル比として、CAS No.72009−86−0のオルト-ヒドロキシエチル化フェニルフェノールアクリレートを45〜55%と、CAS No.79−10−7のアクリル酸を20〜30%と、CAS No.79−41−4のメタクリル酸を20〜30%と含む樹脂が挙げられる。これらは、単独でもまたは二種以上を混合して用いてもよい。また、上記モノマー構成比は、特に限定されないが、好ましくはCAS No.72009−86−0のオルト-ヒドロキシエチル化フェニルフェノールアクリレートが70〜85%、CAS No.79−10−7のアクリル酸が5〜15%、CAS No.79−41−4のメタクリル酸が10〜20%である。
【0106】
【化1】

(R1および/またはR3は水素原子またはメチル基であって、R2はアルキル基またはアリール基である。nは1以上の整数である。)
【0107】
上記式(I)で表される化合物は、好ましくはノニルフェノキシポリエチレングリコールアクリレートまたはポリプロピレングリコール#700アクリレート等が挙げられる。
【0108】
前記オキシエチルアクリレート系樹脂の含有量は、インク組成物の初期粘度およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに、凝集斑を抑制し、埋まり性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100重量部に対して、好ましくは10〜40重量部であり、一層好ましくは15〜25重量部である。
【0109】
前記オキシエチルアクリレート系樹脂に占めるアクリル酸とメタクリル酸の群から選ばれる水酸基を有するモノマー由来の樹脂構成比の合計は、インク組成物の初期粘度およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに、目詰まり回復性の観点からは、好ましくは30〜70%であり、一層好ましくは40〜60%である。
【0110】
前記オキシエチルアクリレート系樹脂の架橋前の数平均分子量(Mn)は、インク組成物の初期粘度およびインク組成物の保存安定性を両立する観点からは、好ましくは4000〜9000であり、より好ましくは5000〜8000である。Mnは、例えば、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定する。
【0111】
前記オキシエチルアクリレート系樹脂は、顔料分散液中において顔料に吸着している場合と、遊離している場合とがあり、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記共重合樹脂の最大粒径は0.3μm以下であることが好ましく、平均粒径は0.2μm以下(さらに好ましくは0.1μm以下)であることが一層好ましい。なお、平均粒径とは、顔料が実際に分散液中で形成している粒子としての分散径(累積50%径)の平均値であり、例えば、マイクロトラックUPA(MicrotracInc.社)を使用して測定することができる。
【0112】
前記オキシエチルアクリレート系樹脂の含有量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100重量部に対して、好ましくは20〜50重量部であり、一層好ましくは20〜40重量部である。
【0113】
また、本実施の形態においては、定着性顔料分散剤として、ウレタン系樹脂を用いることにより、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる。ウレタン系樹脂とは、ジイソシアネート化合物と、ジオール化合物とを反応して得られる重合体を含む樹脂であるが、本実施の形態においては、ウレタン結合および/またはアミド結合と、酸性基とを有する樹脂であることが好ましい。
【0114】
ジイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の芳香脂肪族ジイソシアネート化合物、トルイレンジイソシアネート、フェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物、これらの変性物が挙げられる。
【0115】
ジオール化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテル系、ポリエチレンアジベート、ポリブチレンアジベート等のポリエステル系、ポリカーボネート系が挙げられる。
【0116】
前記ウレタン系樹脂の酸価は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは10〜300であり、一層好ましくは20〜100である。なお、酸価は、樹脂1gを中和させるのに必要なKOHのmg量である。
【0117】
前記ウレタン樹脂の架橋前の重量平均分子量(Mw)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは100〜20万であり、より好ましくは1000〜5万である。Mwは、例えば、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定する。
【0118】
前記ウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg;JISK6900に従い測定)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、好ましくは−50〜200℃であり、一層好ましくは−50〜100℃である。
【0119】
前記ウレタン系樹脂は、カルボキシル基を有することが好ましい。
【0120】
前記ウレタン系樹脂の含有量は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100重量部に対して、好ましくは20〜50重量部であり、一層好ましくは20〜40重量部である。
【0121】
さらに、本実施の形態においては、定着性顔料分散剤として、フルオレン系樹脂を使用することもできる。使用することにより、インクの初期粘度の低減、高温時の保存安定性、印刷用紙への定着性に優れるので、より好ましい。
【0122】
また、前記フルオレン系樹脂は、フルオレン骨格を有する樹脂であれば何ら制限されるものではなく、例えば、下記のモノマー単位を共重合することにより得ることができる。
シクロヘキサン、5−イソシアネート−1−(イソシアネートメチル)−1,3,3−トリメチル(CAS No.4098−71−9)
エタノール、2,2‘−[9H−フルオレン−9−イリデンビス(4,1−フェニレンオキシ)]ビス(CAS No.117344−32−8)
プロピオン酸、3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)−2−メチル(CAS No.4767−03−7)
エタンアミン、N,N−ジエチル−(CAS No.121−44−8)
【0123】
上記フルオレン系樹脂は、特に限定されないが、例えば、モノマー構成比は、特に限定されないが、好ましくはCAS No.4098−71−9が35〜45%、CAS No.117344−32−8が40〜50%、CAS No.4767−03−7が5〜15%、CAS No.121−44−8が5〜10%である。
【0124】
前記フルオレン系樹脂の架橋前の数平均分子量(Mn)は、インク組成物の初期粘度およびインク組成物の保存安定性を両立する観点からは、好ましくは2000〜5000であり、より好ましくは3000〜4000である。Mnは、例えば、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定する。
【0125】
前記フルオレン系樹脂は、顔料分散液中において顔料に吸着している場合と、遊離している場合と、があり、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記共重合樹脂の最大粒径は0.3μm以下であることが好ましく、平均粒径は0.2μm以下(さらに好ましくは0.1μm以下)であることが一層好ましい。なお、平均粒径とは、顔料が実際に分散液中で形成している粒子としての分散径(累積50%径)の平均値であり、例えば、マイクロトラックUPA(MicrotracInc.社)を使用して測定することができる。
【0126】
前記フルオレン系樹脂の含有量は、カラー画像の定着性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層定着性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、前記顔料100重量部に対して、好ましくは20〜50重量部であり、一層好ましくは20〜40重量部である。
【0127】
前記共重合樹脂および前記定着性顔料分散剤の重量比(前者/後者)は、1/2〜2/1が好ましいが、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、1/1.5〜1.5/1であることが一層好ましい。
【0128】
前記顔料の固形分と、前記共重合樹脂および前記定着性顔料分散剤の固形分との重量比(前者/後者)は、カラー画像の光沢性、ブロンズ防止、およびインク組成物の保存安定性を両立するとともに一層光沢性に優れたカラー画像を形成できる観点からは、100/40〜100/100であることが好ましい。
【0129】
また、分散剤として、界面活性剤を用いてもよい。このような界面活性剤としては、脂肪酸塩類、高級アルキルジカルボン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩類、高級アルキルスルホン酸塩、高級脂肪酸とアミノ酸の縮合物、スルホ琥珀酸エステル塩、ナフテン酸塩、液体脂肪油硫酸エステル塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類などの陰イオン界面活性剤;脂肪酸アミン塩、第四アンモニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウムなどの陽イオン界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類などの非イオン性界面活性剤等を挙げることができる。上記した界面活性剤はインク組成物に添加されることで、界面活性剤としての機能をも果たすことは言うまでもない。
【0130】
<界面活性剤>
本実施の形態におけるインクジェット記録用インク組成物は、界面活性剤を含んでもよい。印刷媒体として、その表面にインクを受容するための樹脂がコーティングされたものに対して、界面活性剤を用いることにより、光沢感がより重視される写真紙等の印刷媒体においても、優れた光沢を有する画像を実現することができる。とりわけ、印刷用紙のように、表面の受容層に油性インクを受容するための塗布層が設けられているような印刷媒体を用いた場合であっても、色間の滲み(ブリーディング)を防止できるとともに、インク付着量の増加に伴い発生する光の反射光による白化を防止することができる。
【0131】
本実施の形態において用いられる界面活性剤としては、ポリオルガノシロキサン系界面活性剤を好適に使用でき、記録画像を形成する際に、印刷媒体表面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることができる。ポリオルガノシロキサン系界面活性剤を用いた場合、上記したような1種類のアルコール溶剤と1種類のポリグリコール溶剤を含有するため、界面活性剤のインク中への溶解性が向上し、不溶物等の発生を抑制できるため、噴射安定性がより優れるインク組成物を実現できる。
【0132】
上記のような界面活性剤は市販されているものを用いてもよく、例えば、オルフィンPD−501(日信化学工業株式会社製)、オルフィンPD−570(日信化学工業株式会社製)、BYK−347(ビックケミー株式会社製)、BYK−348(ビックケミー株式会社製)等を用いることができる。
【0133】
また、ポリオルガノシロキサン系界面活性剤として、下記式(II):
【化2】

(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、aは7〜11の整数を表し、mは30〜50の整数を表し、nは3〜5の整数を表す。)
で表される一種または二種以上の化合物を含んでなるか、または、上記式(II)の化合物において、式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、aは9〜13の整数を表し、mは2〜4の整数を表し、nは1〜2の整数である一種または二種以上の化合物を含んでなることがより好ましい。また、上記式(II)の化合物において、Rは水素原子またはメチル基を表し、aは6〜18の整数を表し、mは0の整数を表し、nは1の整数である一種または二種以上の化合物を含んでなることがより好ましい。このような特定のポリオルガノシロキサン系界面活性剤を使用することにより、印刷媒体として印刷用紙に印刷した場合であっても、インクのビーディングとブリーディングがより改善される。
【0134】
上記式(II)の化合物においては、Rがメチル基の化合物を使用することによって、さらにインクのビーディングが改善できる。
【0135】
また、上記式(II)の化合物においては、Rが水素原子の化合物を併用することにより、さらにインクのブリーディングが改善できる。
【0136】
上記界面活性剤は、本実施の形態におけるインク組成物中に、好ましくは0.01〜1.0重量%、より好ましくは0.05〜0.50重量%含有される。特に、Rがメチル基である上記界面活性剤を使用する場合は、RがHである上記界面活性剤を用いた場合よりも、含有量を多くすることが好ましい。
【0137】
本実施の形態におけるインク組成物には、その他の界面活性剤、具体的には、アセチレングリコール系界面活性剤、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤等をさらに添加しても良い。
【0138】
これらのうち、アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、または3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オール、2,4−ジメチル−5−ヘキシン−3−オールなどが挙げられる。また、アセチレングリコール系界面活性剤は市販品も利用することができ、例えば、オルフィンE1010、STG、Y(商品名、日信化学社製)、サーフィノール61、104,82,465,485あるいはTG(商品名、Air Products and Chemicals Inc.製)が挙げられる。
【0139】
<水、その他の成分>
本実施の形態におけるインク組成物は、上記した特定のアルコール溶剤、特定のポリグリコール溶剤、および界面活性剤、その他の各種添加剤を含有するとともに、溶媒として水を含有する。水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水を用いることが好ましい。特に、これらの水を、紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、長期間に亘ってカビやバクテリアの発生が防止されるので好ましい。
【0140】
また、本実施の形態におけるインク組成物は、上記成分に加えて、浸透剤を含んでなることが好ましい。
【0141】
浸透剤としては、グリコールエーテル類を好適に使用できる。
【0142】
グリコールエーテル類の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノールなどが挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物として用いることができる。
【0143】
上記グリコールエーテル類のなかでも、多価アルコールのアルキルエーテルが好ましく、特にエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルまたはトリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルが好ましい。より好ましくは、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルである。
【0144】
上記浸透剤の添加量は適宜決定されてよいが、0.1〜30重量%程度が好ましく、より好ましくは1〜20重量%程度である。
【0145】
また、本実施の形態におけるインク組成物は、上記成分に加えて、印刷媒体溶解剤を含んでなることが好ましい。
【0146】
印刷媒体溶解剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの、ピロリドン類を好適に使用できる。上記印刷媒体溶解剤の添加量は適宜決定されてよいが、0.1〜30重量%程度が好ましく、より好ましくは1〜20重量%程度である。
【0147】
また、本実施の形態におけるインクジェット記録用インク組成物においては、湿潤剤を実質的に含まないことが好ましい。湿潤剤は、インクジェットノズル等において、インクが乾燥して固化するのを防ぐ機能を有するものであるため、インク吸収性能が特に低い合成紙にインクを滴下すると、インクが乾燥せず、高速印刷の際に問題となる場合がある。また、湿潤剤は含まれるインクを用いた場合、吸収されないインクが印刷媒体表面に存在している状態で、次のインクが印刷媒体上に付着するため、ビーディング斑が発生する場合がある。そのため、本実施の形態においては、このようなインク吸収性能が特に低い印刷媒体を用いる場合に、湿潤剤を実質的に含まないことが好ましい。なお、ノズル42においてインクが乾燥固化してしまった場合であっても、湿潤剤を含む溶液を適用することにより、固化したインクを再溶解させることができる。
【0148】
特に、本実施の形態においては、25℃における蒸気圧が2mPa以下である湿潤剤を、実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、これら湿潤剤の添加量が、インク組成物に対して1重量%未満であることを意味する。
【0149】
25℃における蒸気圧が2mPa以下である湿潤剤の含有量が、インクに対して1重量%未満となることにより、印刷用紙等のインク吸収性の低い印刷媒体だけでなく、インク吸収能のまったくない金属やプラスチックに対しても、インクジェット記録方式により印刷することが可能となる。なお、上記した浸透溶剤の一部は、湿潤剤としても作用することは、当業者にとって明らかであるが、本明細書においては、上記した浸透溶剤は、湿潤剤には含まれないものとする。また、本明細書においては、上記したアルコール溶剤およびポリグリコール溶剤は、湿潤剤に含まれないものとする。
【0150】
湿潤剤としては、通常のインクジェット記録用のインクに用いられている湿潤剤が挙げられ、具体的には、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン等が挙げられる。本実施の形態の好ましい態様としては、インク組成物に対して、グリセリンを0.1〜8重量%以下含んでなる。印刷媒体が、インク吸収性能の特に低い印刷用紙等の場合には、適宜、これら湿潤剤を添加することができる。
【0151】
本実施の形態におけるインク組成物は、さらにノズルの目詰まり防止剤、防腐剤、酸化防止剤、導電率調整剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、酸素吸収剤などを添加することができる。
【0152】
防腐剤・防かび剤の例としては、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジンチアゾリン−3−オン(ICI社のプロキセルCRL、プロキセルBND、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)等を挙げることができる。
【0153】
さらに、pH調整剤、溶解助剤、または酸化防止剤の例として、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、モルホリンなどのアミン類およびそれらの変成物、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどの無機塩類、水酸化アンモニウム、四級アンモニウム水酸化物(テトラメチルアンモニウムなど)、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムなどの炭酸塩類その他燐酸塩など、あるいはN−メチル−2−ピロリドン、尿素、チオ尿素、テトラメチル尿素などの尿素類、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類など、L−アスコルビン酸およびその塩を挙げることができる。
【0154】
また、本実施の形態におけるインク組成物は、酸化防止剤および紫外線吸収剤を含んでいてもよく、その例としては、チバ・スペシャリティーケミカルズ社のTinuvin
328、900、1130、384、292、123、144、622、770、292、Irgacor 252 153、Irganox 1010、1076、1035、MD1024、ランタニドの酸化物等を挙げることができる。
【0155】
本実施の形態におけるインク組成物は、上記の各成分を適当な方法で分散・混合することよって製造することができる。好ましくは、まず顔料と高分子分散剤と水とを適当な分散機(例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータミル、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、ジェットミル、オングミルなど)で混合し、均一な顔料分散液を調製し、次いで、別途調製した樹脂(樹脂エマルジョン)、水、水溶性有機溶媒、糖、pH調製剤、防腐剤、防かび剤等を加えて十分溶解させてインク溶液を調製する。十分に攪拌した後、目詰まりの原因となる粗大粒径および異物を除去するためにろ過を行って目的のインク組成物を得ることができる。
【実施例】
【0156】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、これら実施例により本発明が限定されるものではない。
【0157】
<インク組成物の調製>
下記表1の組成に従い各成分を混合し、10μmのメンブランフィルターでろ過することにより、各インクを調製した。なお、表中のオキシエチルアクリレート系樹脂は、CAS No.72009−86−0で示されるオキシエチルアクリレート構造を有するモノマーをモノマー構成比率略75重量%含有する、分子量6900の樹脂である。
フルオレン系樹脂は、CAS No.117344−32−8で示されるフルオレン骨格を有するモノマーをモノマー構成比率略50重量%含有する、分子量3300の樹脂である。
さらに、用いた界面活性剤は、ポリオルガノシロキサン系界面活性剤であり、上記の式(II)において、Rがメチル基であり、aが6〜18の整数であり、mが0の整数であり、nが1の整数である化合物と、上記の式(II)において、Rが水素原子であり、aが7〜11の整数であり、mが30〜50の整数であり、nが3〜5の整数である化合物と、上記の式(II)において、Rがメチル基であり、aが9〜13の整数であり、mが2〜4の整数であり、nが1〜2の整数である化合物とからなる界面活性剤である。
【0158】
<表1>

<表1(つづき)>

<表1(つづき)>

【0159】
実施例9〜16および比較例2
また、上記の実施例1〜8のインクセットおよび比較例1のインクセットのアルコール溶剤である1,2−オクタンジオールを2重量%から4重量%に変更した以外は同様にして、実施例9〜16および比較例2のインクセットを調製した。
【0160】
実施例17〜32
さらに、上記の実施例1〜16のインクセットのポリグリコール溶剤であるジオール型のポリプロピレングリコール(重量平均分子量400)(和光純薬工業株式会社製)を、ジオール型のポリプロピレングリコール(重量平均分子量1000)(和光純薬工業株式会社製)に変更した以外は同様にして、実施例17〜32のインクセットを調製した。
【0161】
実施例33〜48
また、上記の実施例1〜16のインクセットのアルコール溶剤である1,2−オクタンジオールを2重量%または4重量%から1重量%に変更した以外は同様にして、実施例33〜48のインクセットを調製した。
【0162】
さらに、上記の比較例1のアルコール溶剤である1,2−オクタンジオールを2重量%から1重量%に変更した以外は同様にして、比較例3のインクセットを調製した。
【0163】
<評価>
インクブリーディング(画質)の評価(その1)(ブリーディング1)
上記で得られたY、M、C、およびKの各インクをインクセットとして、インクジェットプリンター(PX−G920、セイコーエプソン社製)のインクカートリッジに装着し、主走査(ヘッド駆動)方向に720dpiでかつ副走査(記録媒体搬送)方向に360dpiで記録できるようにした。次に、着弾時のドットサイズが概ね7ngになるようにプリンタヘッドのピエゾ素子に与える電圧を調整し、一駆動が720×360dpiで、約128g/平米のOKT+(王子製紙株式会社製)に、720×720dpiのベタ画像を記録した。記録は、低温高湿(15℃、65%湿度)環境下において実施した。この際、単色のDuty100%のインク付着量は概ね3.6mg/inch平米であった。なお、記録用紙と記録ヘッドとの間の距離は3mmであった。
記録画像は、Duty60%同士のDuty120%の2次色に、Duty60%の1次色の2〜8ピクセル罫線を接触させた画像である。
【0164】
得られた画像について、下記の基準により評価を行った。
A:2/720インチの罫線がブリーディングなく、再現できている。
B:4/720インチの罫線がブリーディングなく、再現できているが、2/720インチの罫線がブリーディングして、再現できていない。
C:6/720インチの罫線がブリーディングなく、再現できているが、4/720インチの罫線がブリーディングして、再現できていない。
D:8/720インチの罫線がブリーディングして、再現できていない。
評価結果は、下記の表2に示される通りであった。
【0165】
インクブリーディング(画質)の評価(その2)(ブリーディング2)
上記で得られたY、M、C、およびKの各インクをインクセットとして、インクジェットプリンター(PX−G920、セイコーエプソン社製)のインクカートリッジに装着し、主走査(ヘッド駆動)方向に720dpiでかつ副走査(記録媒体搬送)方向に360dpiで記録できるようにした。次に、着弾時のドットサイズが概ね7ngになるようにプリンタヘッドのピエゾ素子に与える電圧を調整し、一駆動が720×360dpiで、約128g/平米のOKT+(王子製紙株式会社製)に、720×720dpiのベタ画像を記録した。記録は、低温高湿(15℃、65%湿度)環境下において実施した。この際、単色のDuty100%のインク付着量は概ね3.6mg/inch平米であった。なお、記録用紙と記録ヘッドとの間の距離は3mmであった。
記録画像は、Duty60%同士のDuty180%の3次色に、Duty60%の1次色の2〜8ピクセル罫線を接触させた画像である。
【0166】
得られた画像について、下記の基準により評価を行った。
A:2/720インチの罫線がブリーディングなく、再現できている。
B:4/720インチの罫線がブリーディングなく、再現できているが、2/720インチの罫線がブリーディングして、再現できていない。
C:6/720インチの罫線がブリーディングなく、再現できているが、4/720インチの罫線がブリーディングして、再現できていない。
D:8/720インチの罫線がブリーディングして、再現できていない。
【0167】
インクブリーディング(画質)の評価(その3)(ブリーディング3)
上記で得られたY、M、C、およびKの各インクをインクセットとして、インクジェットプリンター(PX−G920、セイコーエプソン社製)のインクカートリッジに装着し、主走査(ヘッド駆動)方向に720dpiでかつ副走査(記録媒体搬送)方向に360dpiで記録できるようにした。次に、着弾時のドットサイズが概ね3ngになるようにプリンタヘッドのピエゾ素子に与える電圧を調整し、一駆動が720×360dpiで、約128g/平米のOKT+(王子製紙株式会社製)に、720×720dpiのベタ画像を記録した。記録は、低温高湿(15℃、65%湿度)環境下において実施した。この際、単色のDuty100%のインク付着量は概ね1.6mg/inch平米であった。なお、記録用紙と記録ヘッドとの間の距離は3mmであった。
記録画像は、Duty60%同士のDuty120%の2次色に、Duty60%の1次色の2〜8ピクセル罫線を接触させた画像である。
【0168】
得られた画像について、下記の基準により評価を行った。
A:2/720インチの罫線がブリーディングなく、再現できている。
B:4/720インチの罫線がブリーディングなく、再現できているが、2/720インチの罫線がブリーディングして、再現できていない。
C:6/720インチの罫線がブリーディングなく、再現できているが、4/720インチの罫線がブリーディングして、再現できていない。
D:8/720インチの罫線がブリーディングして、再現できていない。
評価結果は、下記の表2に示される通りであった。
【0169】
インクブリーディング(画質)の評価(その4)(ブリーディング4)
上記で得られたY、M、C、およびKの各インクをインクセットとして、インクジェットプリンター(PX−G920、セイコーエプソン社製)のインクカートリッジに装着し、主走査(ヘッド駆動)方向に720dpiでかつ副走査(記録媒体搬送)方向に360dpiで記録できるようにした。次に、着弾時のドットサイズが概ね3ngになるようにプリンタヘッドのピエゾ素子に与える電圧を調整し、一駆動が720×360dpiで、約128g/平米のOKT+(王子製紙株式会社製)に、720×720dpiのベタ画像を記録した。記録は、低温高湿(15℃、65%湿度)環境下において実施した。この際、単色のDuty100%のインク付着量は概ね1.6mg/inch平米であった。なお、記録用紙と記録ヘッドとの間の距離は3mmであった。
記録画像は、Duty60%同士のDuty180%の3次色に、Duty60%の1次色の2〜8ピクセル罫線を接触させた画像である。
【0170】
得られた画像について、下記の基準により評価を行った。
A:2/720インチの罫線がブリーディングなく、再現できている。
B:4/720インチの罫線がブリーディングなく、再現できているが、2/720インチの罫線がブリーディングして、再現できていない。
C:8/720インチの罫線がブリーディングして、再現できていない。
評価結果は、下記の表2に示される通りであった。
【0171】
インクビーディング(画質)の評価(その1)(ビーディング1)
上記で得られたY、M、C、およびKの各インクをインクセットとして、インクジェットプリンター(PX−G920、セイコーエプソン社製)のインクカートリッジに装着し、主走査(ヘッド駆動)方向に720dpiでかつ副走査(記録媒体搬送)方向に360dpiで記録できるようにした。次に、着弾時のドットサイズが概ね7ngになるようにプリンタヘッドのピエゾ素子に与える電圧を調整し、一駆動が720×360dpiで、約128g/平米のOKT+(王子製紙株式会社製)に、720×720dpiのベタ画像を記録した。記録は、低温高湿(15℃、65%湿度)環境下において実施した。この際、単色のDuty100%のインク付着量は概ね3.6mg/inch平米であった。なお、記録用紙と記録ヘッドとの間の距離は3mmであった。
記録画像は、同じDutyの単色同士を混合した2次色の画像である。
【0172】
得られた画像について、下記の基準により評価を行った。
AA:各単色Duty90%の2次色Duty180%までが、ビーディングなく再現できている。
A:各単色Duty80%の2次色Duty160%までが、ビーディングなく再現できている。
B:各単色Duty70%の2次色Duty140%までが、ビーディングなく再現できている。
C:各単色Duty60%の2次色Duty120%までが、ビーディングなく再現できている。
評価結果は、下記の表2に示される通りであった。
【0173】
インクビーディング(画質)の評価(その2)(ビーディング2)
上記で得られたY、M、C、およびKの各インクをインクセットとして、インクジェットプリンター(PX−G920、セイコーエプソン社製)のインクカートリッジに装着し、主走査(ヘッド駆動)方向に720dpiでかつ副走査(記録媒体搬送)方向に360dpiで記録できるようにした。次に、着弾時のドットサイズが概ね3ngになるようにプリンタヘッドのピエゾ素子に与える電圧を調整し、一駆動が720×360dpiで、約128g/平米のOKT+(王子製紙株式会社製)に、720×720dpiのベタ画像を記録した。記録は、低温高湿(15℃、65%湿度)環境下において実施した。この際、単色のDuty100%のインク付着量は概ね1.6mg/inch平米であった。なお、記録用紙と記録ヘッドとの間の距離は3mmであった。
記録画像は、同じDutyの単色同士を混合した2次色の画像である。
【0174】
得られた画像について、下記の基準により評価を行った。
AA:各単色Duty90%の2次色Duty180%までが、ビーディングなく再現できている。
A:各単色Duty80%の2次色Duty160%までが、ビーディングなく再現できている。
B:各単色Duty70%の2次色Duty140%までが、ビーディングなく再現できている。
C:各単色Duty60%の2次色Duty120%までが、ビーディングなく再現できている。
評価結果は、下記の表2に示される通りであった。
【0175】
ワイピング耐久の評価
上記のインクカートリッジおよびインクジェットプリンターを用いた。1回当たり各色で約0.25gのインクがキャップ内に廃棄され、その後、ヘッド面をワイパーがワイピングする動作を3000回繰り返し実施した。評価は、低温高湿(15℃、65%湿度)環境下において実施した。
A:濡れ曲がりが発生していない。
B:濡れ曲がりが発生している。
評価結果は、下記の表2に示される通りであった。
【0176】
インクの初期粘度の評価
上記のようにして得られた各インクについて、インク粘度の評価を行った。振動型粘度計(MV100型番、ヤマイチエレクトロニクス社製)を用い、インク調製後1時間経過後のインクの粘度を測定し、以下の基準により評価を行った。なお、測定温度は20℃とした。
A:粘度が3.5mPa・sを超え、4.5mPa・s以下である。
B:粘度が4.5mPa・sを超え、5.5mPa・s以下である。
C:粘度が5.5mPa・sを超える。
評価結果は、下記の表2に示される通りであった。
【0177】
目詰まり回復性の評価
上記のインクカートリッジおよびインクジェットプリンターを用い、インク交換ボタンを押してからコンセントを抜いた。このように、ヘッドキャップが外れた状態にしてから、プリンタを50℃15%RHの環境に2日間放置した。
【0178】
放置後、全ノズルが初期と同等に吐出するまでクリーニング動作を繰り返し、以下の判断基準により、回復しやすさを評価した。
AA:クリーニング操作を3回繰り返して目詰まりが回復する。
A:クリーニング操作を6回繰り返して目詰まりが回復する。
B:クリーニング操作を12回繰り返して目詰まりが回復する。
C:クリーニング操作を12回繰り返しても目詰まりが回復しない。
結果は下記の表2に示される通りであった。
【0179】
<表2>


<表2(つづき)>

【0180】
<クリーニングを行う際の動作について>
(1)吸引ポンプが作動する場合について
続いて、上述のような構成を有するプリンター10において、クリーニングを行う際の動作のうち、吸引ポンプ56が作動する場合の動作について、図5に基づいて説明する。なお、以下の動作説明においては、ステップS01〜ステップS05の各ステップを、順次実行可能としている。
【0181】
ステップS01:まず、制御部70の指令により、キャップ51の凹部51aの内部の排出動作が為される。このとき、制御部70の制御指令により、吸引ポンプ56が作動させられると共に、排出弁55が開放させられ、かつ大気開放弁59が開放させられる。それにより、凹部51aには、吸引口511および第1チューブ53を介して負圧が及ぼされ、その負圧の作用によって凹部51aに残存しているインクが、吸引口511および第1チューブ53を介して、廃液タンク54に排出させられる。なお、このステップS01の動作においては、キャップ51がノズル形成面41aに当接していても、当接していなくても、どちらでも良い。
【0182】
ステップS02:制御部70の指令により、ステップS01で作動させられていた吸引ポンプ56の作動が停止させられる。また、制御部70の指令により、排出弁55が閉じ状態とさせられると共に、大気開放弁59も閉じ状態とさせられる。
【0183】
ステップS03:次に、制御部70の指令により、排出弁55が開放させられると共に、大気開放弁59が閉じ状態とさせられる。この状態で、制御部70の指令により、吸引ポンプ56が作動させられる。このとき、キャップ51は、ノズル形成面41aに当接させられている。上述のステップS01において、キャップ51がノズル形成面41aに当接していない状態のときには、上述の吸引ポンプ56の作動に先立って、不図示のキャップ51を昇降させる機構が作動させられ、キャップ51がノズル形成面41aに当接させるための動作が実行される。
【0184】
このステップS03の動作を実行することにより、キャップ51の凹部51a(密閉空間)の内部が負圧となる。それにより、ノズル42aからインクが吸い出されると共に、ノズル42bから洗浄液が吸い出される。そして、吸い出されたインクまたは洗浄液は、インク吸収体52に付着し、それらインクまたは洗浄液がインク吸収体52の内部に浸透していく。このとき、吸引口511の近傍に位置するインク吸収体52は、インクを多く含浸している状態となる。また、大気連通口512の近傍に位置するインク吸収体52は、洗浄液を多く含浸している状態となる。
【0185】
また、上述のように、凹部51a(密閉空間)の内部が負圧となることにより、第1チューブ53のうち一端側から排出弁55にかけての領域にも負圧が及ぼされるため、この領域における第1チューブ53の内部空間の体積が小さくなるように、第1チューブ53が収縮する。同じく、第2チューブ57のうち一端側から大気開放弁59にかけての領域にも負圧が及ぼされるため、この領域における第2チューブ57の内部空間の体積が小さくなるように、第2チューブ57が収縮する。
【0186】
ステップS04:制御部70の指令により、ステップS03で作動させられていた吸引ポンプ56の作動が停止させられる。また、制御部70の指令により、排出弁55が閉じ状態とさせられると共に、大気開放弁59も閉じ状態とさせられる。
【0187】
ここで、吸引ポンプ56の作動が停止させられると、凹部51a(密閉空間)の内部の負圧は、徐々に小さくなっていく。すなわち、凹部51a(密閉空間)の内部の圧力は、徐々に大気圧に近づいていく。そのため、第2チューブ57のうち、一端側から大気開放弁59にかけての領域の収縮状態も、徐々に解かれていく。すなわち、負圧が徐々に小さくなることにより、第2チューブ57のうち、一端側から大気開放弁59にかけての領域は、徐々に膨らんでいく。この第2チューブ57の膨らみによって、インク吸収体52に含浸されている液体のうち大気連通口512の近傍に存在する液体が、第2チューブ57の内部に引き込まれていく。
【0188】
ここで、従来のキャップにおいては、インク吸収体52に含浸されている液体のうち大気連通口512の近傍に存在する液体は、ノズル42aから噴射されたインクであるため、インクが第2チューブ57の内部に入り込む。そして、大気連通口512から入り込んだインクが固化することにより、第2チューブ57の内部の流路が塞がれてしまうことがある。また、大気連通口512から入り込んだインクが膜状となり、その膜状のまま固まってしまう場合もある。そのため、大気開放弁59を開放側に切り換えても、第2チューブ57の内部の流路が閉塞されているため、キャップ内に空気が流れ込むのが阻害されることがある。
【0189】
しかしながら、本実施の形態では、大気連通口512の近傍に位置するインク吸収体52は、洗浄液を多く含浸している状態となっている。そのため、第2チューブ57の内部に液体が引き込まれたとしても、その液体は、洗浄液が多い状態となっている。このため、第2チューブ57の内部では、インクのような固化が生じるどころか、逆に洗浄液が流れ込むことにより、過去に第2チューブ57で固化した固化体が溶けてしまい、液体の流通性がより確保される状態となる。すなわち、洗浄液が多い液体が第2チューブ57に流入したとしても、第2チューブ57の内部における液体の流通性が保たれる。
【0190】
ステップS05:上述のステップS04の後に、ステップS01と同様の動作を実行する。すなわち、制御部70の指令により、キャップ51の凹部51aの内部の排出動作が為される。このとき、制御部70の制御指令により、吸引ポンプ56が作動させられると共に、排出弁55が開放させられ、かつ大気開放弁59が開放させられる。それにより、凹部51aには、吸引口511および第1チューブ53を介して負圧が及ぼされ、その負圧の作用によって凹部51aに残存している液体が、吸引口511および第1チューブ53を介して、廃液タンク54に排出させられる。
【0191】
ここで、従来の構成においては、ステップS05における吸引動作を実行したとしても、第2チューブ57に入り込んだ液体を、第1チューブ53を介して完全に排出することは困難となっている。
【0192】
この状態の一例のイメージを、図6に示す。図6に示すように、第2チューブ57に湾曲が生じていて、その湾曲によって、液体が溜まる部位が存在する場合を考える。この状態において、吸引ポンプ56の作動により吸引力を与える際に、液体がキャップ51側に排出されるのが望ましい。しかしながら、吸引ポンプ56の作動により吸引力を与えても、第2チューブ57の他端側から吸引される空気が、滞留している液体を気泡となって通過し、空気は排出されるものの、液体が排出されない場合も存在する。また、図7に示すように、図6に示す場合よりも、滞留する液体の量が少ない場合には、第2チューブ57の内部の流通路は、液体で塞がれることがないため、液体はキャップ51側に一層排出され難くなっている。
【0193】
このため、図6および図7に示すような場合には、第2チューブ57に入り込んだ液体を、第1チューブ53を介して完全に排出することは困難となっている。そして、たとえば図6に示すような液体が溜まる部位が乾燥する等して、固化すると、第2チューブ57の流通が阻害される。
【0194】
しかしながら、本実施の形態では、第2チューブ57の内部に液体が引き込まれたとしても、その液体は、洗浄液が多い状態となっている。そのため、第2チューブ57の内部では、インクのような固化が生じるどころか、逆に洗浄液が多いことにより、過去に第2チューブ57で固化した固化体が溶けてしまう。加えて、第2チューブ57の内部の液体で、廃液受け58に排出されない液体が存在しているとしても、その液体に占めるインクの量は従来と比較して大幅に少なくなる。すなわち、インクが大幅に薄められて第2チューブ57の内部に存在する状態となる。そのため、第2チューブ57の内部で固化した固化体の量を少なくすることが可能となっている。
【0195】
(2)フラッシングを行う場合の動作について
次に、上述のような構成を有するプリンター10において、クリーニングを行う際の動作のうち、フラッシングを行う動作について説明する。
【0196】
制御部70の制御指令により、メンテナンス等の制御モードに基づいてフラッシングの実行が指示されると、短尺ヘッド41の全てのノズル42aからインクが噴射させられると共に、全てのノズル42bから洗浄液が噴射させられる。
【0197】
すると、噴射させられたインクまたは洗浄液は、インク吸収体52に付着し、それらインクまたは洗浄液がインク吸収体52の内部に浸透していく。このとき、吸引口511の近傍に位置するインク吸収体52は、インクを多く含浸している状態となる。また、大気連通口512の近傍に位置するインク吸収体52は、洗浄液を多く含浸している状態となる。
【0198】
そのため、第2チューブ57の内部に液体が入り込んだとしても、その液体は、洗浄液が多い状態となっている。このため、第2チューブ57の内部では、インクのような固化が生じるどころか、逆に洗浄液が多いことにより、過去に第2チューブ57で固化した固化体が溶けてしまい、液体の流通性がより確保される状態となる。すなわち、洗浄液が多い液体が第2チューブ57に流入したとしても、第2チューブ57の内部における液体の流通性が保たれる。
【0199】
<効果>
以上のような構成のプリンター10によれば、ノズル列43bは、ノズル列43aよりも大気連通口512に近接して設けられている。そのため、大気連通口512の近傍に存在する液体には、ノズル列43bから噴射された洗浄液が多い状態となる。それにより、大気連通口512から液体が入り込んだとしても、その液体は、洗浄液が多い状態となる。そのため、この大気連通口512よりも第2チューブ57の流通路内の下流側においては、インクのような固化が生じるどころか、逆に洗浄液が多いことにより、過去に固化した固化体が溶け、液体の流通性をより確保することが可能となる。このため、大気連通口512から入り込んだ液体が流通路内で固化するのを良好に防止可能となる。
【0200】
また、本実施の形態では、ノズル列43aは、インクの種類に対応させて複数設けられていて、複数のノズル列43aのそれぞれから噴射されるインクの粘度が低いもの程、ノズル列43aを通りかつインクの噴射方向に平行な直線X1〜Xnと大気連通口512との間の距離L1〜Lnが短く設けられている。そのため、粘度の高いインクがインク吸収体52に付着する部位が大気連通口512から遠ざけられる。それにより、粘度の高いインクが大気連通口512から流入するのを良好に防止可能となる。
【0201】
さらに、本実施の形態では、複数のノズル列43aの中には、他の種類のインクよりも粘度の高い白色インクを噴射するものが設けられるようにしても良い。このように構成する場合、大気連通口512の近傍に存在する液体には、洗浄液の成分が多い状態となるため、この大気連通口512よりも第2チューブ57の流通路内の下流側においては、白色インクが大気連通口512から入り込んで固化するのを良好に防止可能となる。加えて、白色インクは、複数のノズル列43aの中でも、大気連通口512から遠ざけられる位置に配置されるため、粘度の高い白色インクが大気連通口512から入り込むのを良好に防止可能となる。
【0202】
また、本実施の形態では、複数のノズル列43aのうちの少なくとも1つから噴射されるインクは、着色材と、水と、アルコール溶剤と、ポリグリコール溶剤とを少なくとも含んでなると共に、アルコール溶剤が、難水溶性のアルカンジオールを含み、かつポリグリコール溶剤が、ポリアルキレングリコールを含んでなるようにしても良い。このように構成する場合、インクは高粘度のインクとなるが、このような高粘度のインクが大気連通口512から入り込むと、それより下流側の流通路内で固化してしまう。しかしながら、大気連通口512の近傍に存在する液体には、洗浄液の成分が多い状態となるため、この大気連通口512よりも第2チューブ57の流通路内の下流側においては、高粘度のインクが大気連通口512から入り込んで固化するのを良好に防止可能となる。
【0203】
さらに、本実施の形態では、制御部70のメンテナンス時の制御モードには、上述の密閉空間が形成されている状態で、または密閉空間が形成されていなくても短尺ヘッド41とキャップ51とが対向する状態で、ノズル列43aからインクを噴射させるのと同時に、ノズル列43bから洗浄液を噴射させる制御モードが存在している。このため、たとえばフラッシングといったメンテナンス動作においても、ノズル列43bから洗浄液が噴射されるため、大気連通口512の近傍に存在する液体は、ノズル列43bから噴射された洗浄液が多い状態となる。それにより、大気連通口512から液体が入り込んでも、その液体が流通路内で固化するのを良好に防止可能となる。
【0204】
また、本実施の形態では、吸引機構50には、吸引手段を構成するものとして、第1チューブ53と、排出弁55と、吸引ポンプ56と、を具備し、さらに、吸引機構50には、大気開放手段を構成するものとして、第2チューブ57と、大気開放弁59と、を具備している。このため、第2チューブ57の内部で、液体が入り込んで、固化が生じるのを良好に防止可能となっている。
【0205】
<変形例>
以上、本発明の一実施の形態について述べたが、本発明は、種々変形可能である。以下、それについて述べる。
【0206】
上述の実施の形態においては、複数の短尺ヘッド41から構成されるラインヘッド40を用いる場合について説明している。ここで、上述の実施の形態では、各短尺ヘッド41が噴射ヘッドに対応するものの一例としているが、ラインヘッド40を噴射ヘッドに対応させるようにしても良い。また、ラインヘッドは、複数の短尺ヘッドから構成されるものには限られず、印刷媒体Pの幅寸法よりも大きな幅寸法を有する長尺のラインヘッドを用いるようにしても良い。
【0207】
また、上述の実施の形態では、ラインヘッド40を用いると共に、複数の短尺ヘッド41のそれぞれが、噴射ヘッドに対応するものの一例としている。しかしながら、ラインヘッドではなく、主走査方向に沿って移動可能な印刷ヘッドを、噴射ヘッドに対応するものの一例としても良い。
【0208】
また、上述の実施の形態における吸引口511は、複数設ける構成を採用しても良く、大気連通口512を複数設ける構成を採用しても良い。
【0209】
また、上述の実施の形態では、洗浄液を噴射する、第2噴射ノズル列の一例に対応するノズル列43bは、キャップ51の一端側に位置するように設けられている。しかしながら、第2噴射ノズル列に対応するノズル列は、キャップ51の一端側のみならず、キャップ51の一端側と他端側の間の任意の位置に設けるようにしても良い。このように構成する場合であっても、第2噴射ノズル列は、上記第1噴射ノズル列よりも上記大気連通口に近接していることを満たしていれば、大気連通口512の近傍に存在する液体は、ノズル列43bから噴射された洗浄液が多い状態となる。それにより、大気連通口512から入り込んだ液体が流通路内で固化するのを良好に防止可能となる。
【0210】
また、上述の実施の形態における大気連通口512の周囲における鉛直方向の高さを、キャップ51の底部の他の部分よりも高くするようにしても良い。このように構成する場合、大気連通口512から液体が一層入り込み難い状態とすることが可能となる。
【0211】
また、上述の実施の形態では、短尺ヘッド41がキャップ51の上部に位置すると共に、上方から下方に向けてインク滴を噴射する場合について説明している。しかしながら、短尺ヘッド41とキャップとの間の位置関係は、上下方向に位置する場合には限られず、またインク滴の噴射方向は、上下方向とは限られない。たとえば、短尺ヘッド41のノズル形成面41aが上下方向に対して斜めを為す状態とした場合には、インク滴の噴射方向も斜めとなるが、その場合、ノズル42bから噴射される液体が大気連通口512の周囲に付着するように、位置関係が設定されることが好ましい。すなわち、インク滴の噴射方向に沿う直線であってノズル42bを通る直線は、インク滴の噴射方向に沿う直線であってノズル42aを通る直線よりも、大気連通口512に対する距離が短く設けられれば、短尺ヘッド41とキャップとの間の位置関係として、斜めを為すような配置となっていても良い。
【0212】
また、上述の実施の形態においては、制御部70は、ソフトウエア的に実現されるものでも良く、また回路的に実現される構成であっても良い。
【0213】
また、上述の実施の形態における液体噴射装置としては、プリンター10とコンピューター100の機能の両方を備えるものとしても良い。
【0214】
また、プリンター10は、印刷機能以外のスキャナー装置、ファックス装置、コピー装置等を備える複合機を、本発明のプリンターとしても良い。
【0215】
また、上述の実施の形態におけるプリンター10の概念には、インク以外の他の液体(液体そのものや、機能材料の粒子が液体に分散又は混合されてなる液状体、ゲルのような流動性を有する材質を含む)を噴射したり噴射したりする流体噴射装置を含むようにすることもできる。そのようなものとしては、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ及び面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や色材(画素材料)などの材料を分散または溶解のかたちで含む液体を噴射する液状体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する流体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する流体噴射装置等がある。
【0216】
さらに、本発明のプリンター10の概念に含まれるものとしては、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する流体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する流体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する流体噴射装置、ゲル(例えば物理ゲル)などの流状体を噴射する流状体噴射装置等がある。
【符号の説明】
【0217】
10…プリンター(液体噴射装置の一例に対応)、20…紙送り機構、21…PFモーター、22…給紙ローラー、30…インク供給機構、31…カートリッジホルダー、32,32a,32b…カートリッジ、33…インク供給路、40…ラインヘッド、41…短尺ヘッド(噴射ヘッドに対応)、41a…ノズル形成面、42,42a,42b…ノズル、43…ノズル列、43a…ノズル列(第1噴射ノズル列の一例に対応)、43b…ノズル列(第2噴射ノズル列の一例に対応)、50…吸引機構、51…キャップ、51a…凹部、52…インク吸収体、53…第1チューブ(吸引手段の一例の一部に対応)、54…廃液タンク、55…排出弁(吸引手段の一例の一部に対応)、56…吸引ポンプ(吸引手段の一例の一部に対応)、57…第2チューブ(大気開放手段の一例の一部に対応)、58…廃液受け、59…大気開放弁(大気開放手段の一例の一部に対応)、70…制御部、100…コンピューター、511…吸引口、512…大気連通口


【特許請求の範囲】
【請求項1】
色剤を含むインクを噴射する第1噴射ノズル列を有すると共に、インクに含まれている色剤を溶解させることが可能な洗浄液を噴射する第2噴射ノズル列を有する噴射ヘッドと、
上記噴射ヘッドのノズル形成面に当接して密閉空間を形成すると共に、上記第1噴射ノズル列と上記第2噴射ノズル列のうち少なくとも一方から噴射されるインクおよび/または洗浄液を受け止めるキャップと、
上記密閉空間の吸引口から吸引を行う吸引手段と、
上記密閉空間の大気連通口から大気開放を行う大気開放手段と、
を具備し、
上記第2噴射ノズル列は、上記第1噴射ノズル列よりも上記大気連通口に近接している、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
請求項1記載の液体噴射装置であって、
前記第1噴射ノズル列は、インクの種類に対応させて複数設けられていると共に、
複数の前記第1噴射ノズル列のそれぞれから噴射される前記インクの粘度が低いもの程、前記第1噴射ノズル列を通る直線であって前記インクの噴射方向に平行な直線と前記大気連通口との間の距離が短く設けられている、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項3】
請求項2記載の液体噴射装置であって、
複数の前記第1噴射ノズル列の中には、白色インクを噴射する前記第1噴射ノズル列が設けられている、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項4】
請求項2記載の液体噴射装置であって、
複数の前記第1噴射ノズル列のうちの少なくとも1つの前記第1噴射ノズル列から噴射されるインクは、
着色材と、水と、アルコール溶剤と、ポリグリコール溶剤とを少なくとも含んでなると共に、
前記アルコール溶剤が、難水溶性のアルカンジオールを含み、かつ前記ポリグリコール溶剤が、ポリアルキレングリコールを含んでなる、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の液体噴射装置であって、
前記噴射ヘッドは、制御部により制御駆動させられると共に、
上記制御部のメンテナンス時の制御モードには、前記密閉空間が形成されている状態で、または前記密閉空間が形成されていなくても前記噴射ヘッドと前記キャップとが対向する状態で、前記第1噴射ノズル列から前記インクを噴射させるのと同時に、前記第2噴射ノズル列から前記洗浄液を噴射させる制御モードが存在する、
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の液体噴射装置であって、
前記吸引手段は、前記吸引口に接続されている第1チューブと、この第1チューブの中途部に設けられる開閉可能な排出弁と、第1チューブの中途部であって上記排出弁よりも上記密閉空間から離間する側に設けられ、駆動することによって前記密閉空間に負圧を及ぼさせる吸引ポンプと、を具備すると共に、
前記大気開放手段は、前記大気連通口に接続されている第2チューブと、この第2チューブの中途部に設けられると共に大気開放可能な大気開放弁と、
を具備することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項7】
色剤を含むインクを噴射する第1噴射ノズル列を有すると共に、インクに含まれている色剤を溶解させることが可能な洗浄液を噴射する第2噴射ノズル列を有する噴射ヘッドと、上記噴射ヘッドのノズル形成面に当接して密閉空間を形成すると共に、上記第1噴射ノズル列と上記第2噴射ノズル列のうち少なくとも一方から噴射されるインクおよび/または洗浄液を受け止めるキャップと、上記密閉空間の吸引口から吸引を行う吸引手段と、上記密閉空間の大気連通口から大気開放を行う大気開放手段と、を具備し、
上記第2噴射ノズル列は、上記第1噴射ノズル列よりも上記大気連通口に近接していて、
上記第1噴射ノズル列から上記インクが吸引されまたは噴射されることによるメンテナンス動作の際には、上記第2噴射ノズル列からも上記洗浄液を吸引されまたは噴射される、
ことを特徴とするメンテナンス方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−148132(P2011−148132A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9808(P2010−9808)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】