説明

液体噴射装置の制御方法

【課題】噴射される液体の量を正確にコントロールし、印刷物の色合いの変化を抑制する液体噴射装置の制御方法を提供すること。
【解決手段】補正駆動信号の駆動パルスPSで噴射されるインク重量差が少ないため、液体重量の増減による色合いの変化は少なくなり、これによって、出力された画像の色ムラが起こりにくくなる。また、インク重量の増減が少なくなることで、インク量のカウント精度が向上して、液体の無駄な消費や液体の不足などを抑制することができる。したがって、印刷画質の向上と、無駄なインク量を削減可能なプリンターを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射装置の制御方法に関し、特に、駆動信号に含まれる噴射パルスを圧力発生手段に印加することにより当該圧力発生手段を駆動させ、ノズルに連通する圧力室内の液体に圧力変動を生じさせることでノズルから液体を噴射させる液体噴射装置の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置は噴射ヘッドを備え、この噴射ヘッドから各種の液体を噴射する装置である。この液体噴射装置としては、例えば、インクジェット式プリンターやインクジェット式プロッター等の画像記録装置があるが、最近ではごく少量の液体を所定位置に正確に着弾させることができるという特長を生かして各種の製造装置にも応用されている。
例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターを製造するディスプレイ製造装置、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイやFED(面発光ディスプレイ)等の電極を形成する電極形成装置、バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置に応用されている。そして、画像記録装置用の記録ヘッドでは液状のインクを噴射し、ディスプレイ製造装置用の色材噴射ヘッドではR(Red)、G(Green)、B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極形成装置用の電極材噴射ヘッドでは液状の電極材料を噴射し、チップ製造装置用の生体有機物噴射ヘッドでは生体有機物の溶液を噴射する。
【0003】
インクジェット式プリンターとしては、ノズルからインク滴を吐出するドット数をカウントすることで、インク消費量を把握し、インクカートリッジ等の貯留手段のインク残量を把握するようにしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−280343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記の噴射ヘッドでは、同一のノズルから連続して液体を噴射させるときの噴射間隔である噴射周波数に応じてノズルから噴射される液体の量(重量または体積)が増減する特性がある。
【0006】
例えば、インクジェット式プリンターで画像を印刷しようとする時に、印刷する画像によって、一定の面積に対するインク滴の数は異なり、噴射周波数は変化する。それに伴って吐出されるインク滴の重量も変化する。したがって、印刷する画像によってインク滴の数だけでなくインク滴の量も増減することで、印刷する画像に出力したい色と異なって見える(色合い変わる)という課題がある。
また、インク滴の量が増減すると、インクカートリッジ等の貯留手段のインク残量を把握するときに、インクが残っているにも拘わらずインク不足と通知されることや、インクが不足しているにも拘わらずインク不足が通知されないという課題もある。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑み、噴射される液体の量を正確にコントロールし、印刷物の色合いの変化を抑制する液体噴射装置の制御方法を提供することを目的とする。
また、噴射される液体の量を正確にコントロールすることで、液体の量のカウント精度を向上させて、液体の無駄な消費や液体の不足などを抑制することができる液体噴射装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]
液体を噴射するノズルに連通した圧力室と、該圧力室に圧力を加えるアクチュエーターと、該アクチュエーターに補正駆動信号を送る制御部とを有する液体噴射装置の制御方法であって、CPUから送られてきた画像情報信号を入力信号とし、前記画像情報信号を、前記アクチュエーターを駆動する複数の駆動パルスを含む駆動信号に変換する第1工程と、前記駆動パルスに補正をかけた前記補正駆動信号に変換する第2工程とを含み、前記第2工程は、前記駆動パルス間の最短時間間隔に対応する基準周波数を設定する第3工程と、補正をかける駆動パルスと他の駆動パルスから補正用周波数を決定する第4工程と、前記第4工程の前記補正用周波数において噴射される液体重量と前記基準周波数において噴射される液体重量との液体重量差を求める第5工程と、前記液体重量差が少なくなる補正を前記駆動パルスに対して行い、前記補正駆動信号を生成する第6工程とを含むことを特徴とする液体噴射装置の制御方法。
【0010】
この適用例によれば、駆動パルスによって噴射される液体重量と基準周波数において噴射される液体重量との液体重量差が少なくなるように、補正駆動信号が生成されるので、駆動パルスで噴射される液体重量の差が少なくなる。したがって、液体重量の増減による色合いの変化は少なくなり、これによって、出力された画像の色ムラが起こりにくくなる。
また、液体重量の増減が少なくなることで、液体量のカウント精度が向上して、液体の無駄な消費や液体の不足などを抑制することができる。
したがって、印刷画質の向上と、無駄な液体量を削減可能な液体噴射装置を提供することができる。
【0011】
[適用例2]
上記液体噴射装置の制御方法において、前記補正用周波数において噴射される液体重量と前記基準周波数において噴射される液体重量とを、前記アクチュエーターにおける周波数と噴射される液体重量との関係を予め測定して得られたテーブルから求めることを特徴とする液体噴射装置の制御方法。
この適用例では、補正用周波数および基準周波数において噴射される液体重量を、実際に使用するアクチュエーターで測定したテーブルから求めるので、補正駆動信号の駆動パルスで噴射される液体重量差がより少なくなる。したがって、印刷画質がより向上し、無駄な液体量をより削減可能な液体噴射装置を提供することができる。
【0012】
[適用例3]
上記液体噴射装置の制御方法において、補正をかける駆動パルスと前の直近の駆動パルスとの時間間隔から前記補正用周波数を決定することを特徴とする液体噴射装置の制御方法。
この適用例では、直前の駆動パルスからの時間間隔によって液体重量が変化するが、時間間隔から補正用周波数を求めているので、補正駆動信号の駆動パルスで噴射される液体重量差がより少なくなる。
【0013】
[適用例4]
上記液体噴射装置の制御方法において、所定の時間内の駆動パルス数をカウントして前記補正用周波数を決定することを特徴とする液体噴射装置の制御方法。
この適用例では、第4工程の補正周波数決定の頻度が少なくなるため、処理を早くすることができ、CPUの演算処理をスムーズに行うことができる。従って、印刷の高速化にも対応することができる。
【0014】
[適用例5]
上記液体噴射装置の制御方法において、前記液体重量差に対応する補正は、前記駆動バルスの波高電圧を変更することにより行うことを特徴とする液体噴射装置の制御方法。
この適用例では、液体重量を調整することが容易であるため、駆動パルスの構成を単純にすることができ、CPUの演算処理をスムーズに行うことができる。従って、印刷の高速化にも対応することができる。
【0015】
[適用例6]
上記液体噴射装置の制御方法において、前記液体重量差に対応する補正は、前記駆動パルスのパルス幅を変更することにより行うことを特徴とする液体噴射装置の制御方法。
この適用例では、液体重量を調整することが容易であるため、駆動パルスの構成を単純にすることができ、CPUの演算処理をスムーズに行うことができる。従って、印刷の高速化にも対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】プリンターの構成を示す概略斜視図。
【図2】記録ヘッドの構成を示す要部断面図。
【図3】ノズルプレートの構成を説明する平面図。
【図4】プリンターの電気的構成を説明するブロック図。
【図5】プリンターの制御方法を示すフロー図。
【図6】一例としての駆動信号を示す図。
【図7】噴射周波数と噴射されるインク重量との関係を、アクチュエーターを用いて予め測定して得られたテーブルとしてのグラフ。
【図8】噴射パルスPSの波形例を説明する図。
【図9】一例としての記録ヘッドでの駆動電圧(V)とインク重量(ng)との関係を示す図。
【図10】一例としての記録ヘッドでのパルス幅(μs)とインク重量(ng)との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。
なお、以下に述べる実施形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体噴射装置として、インクジェット式プリンター(以下、プリンター1)を例に挙げて説明する。
【0018】
図1は、プリンター1の構成を示す概略斜視図である。
プリンター1は、噴射ヘッドの一種である記録ヘッド2から、記録紙、布、フィルム等の着弾対象である記録媒体に向けて、液体の一種であるインクを噴射する。
プリンター1は、記録ヘッド2が取り付けられると共に、液体供給源の一種であるインクカートリッジ3が着脱可能に取り付けられるキャリッジ4と、記録動作時の記録ヘッド2の下方に配設されたプラテン5と、キャリッジ4を記録紙6の紙幅方向、即ち、主走査方向に往復移動させるキャリッジ移動機構7と、主走査方向に直交する副走査方向に記録紙6を搬送する紙送り機構8とを備えて概略構成されている。
【0019】
キャリッジ4は、主走査方向に架設されたガイドロッド9に軸支された状態で取り付けられており、キャリッジ移動機構7の作動により、ガイドロッド9に沿って主走査方向に移動するように構成されている。
キャリッジ4の主走査方向の位置は、リニアエンコーダー10によって検出される。その検出信号、即ち、エンコーダーパルスは、後述するプリンターコントローラー36のCPU38に送信される(図4参照)。リニアエンコーダー10は位置情報出力手段の一種であり、記録ヘッド2の走査位置に応じたエンコーダーパルスを、主走査方向における位置情報として出力する。このため、CPU38は、受信したエンコーダーパルスに基づいてキャリッジ4に搭載された記録ヘッド2の走査位置を認識できる。即ち、例えば、受信したエンコーダーパルスをカウントすることで、キャリッジ4の位置を認識することができる。これにより、CPU38はこのリニアエンコーダー10からのエンコーダーパルスに基づいて、記録ヘッド2が取り付けられたキャリッジ4の走査位置を認識しながら、記録ヘッド2による記録動作を制御することができる。
【0020】
キャリッジ4の移動範囲内における記録領域よりも外側の端部領域には、キャリッジ4の走査の基点となるホームポジションが設定されている。実施形態におけるホームポジションには、記録ヘッド2のノズル形成面(ノズルプレート21:図3参照)を封止するキャッピング部材11と、ノズル形成面を払拭するためのワイパー部材12とが配置されている。そして、プリンター1は、このホームポジションから反対側の端部へ向けてキャリッジ4が移動する往動時と、反対側の端部からホームポジション側にキャリッジ4が戻る復動時との双方向で記録紙6上に文字や画像等を記録する双方向記録を行う。
【0021】
図2は、記録ヘッド2の構成を示す要部断面図である。この記録ヘッド2は、ケース13と、ケース13内に収納される振動子ユニット14と、ケース13の底面(先端面)に接合される流路ユニット15等を備えている。
ケース13は、例えば、エポキシ系樹脂により作製され、その内部には振動子ユニット14を収納するための収納空部16が形成されている。振動子ユニット14は、圧力発生手段の一種として機能する圧電振動子17と、この圧電振動子17が接合される固定板18と、圧電振動子17に駆動信号等を供給するためのフレキシブルケーブル19とを備えている。圧電振動子17は、圧電体層と電極層とを交互に積層した圧電板を櫛歯状に切り分けることで作製された積層型であって、積層方向に直交する方向に伸縮可能な縦振動モードの圧電振動子17である。
【0022】
流路ユニット15は、流路形成基板20の一方の面にノズルプレート21を、流路形成基板20の他方の面に振動板22をそれぞれ接合して構成されている。この流路ユニット15には、リザーバー23(共通液室)と、インク供給口24と、圧力室25と、ノズル連通口26と、ノズル27とが設けられている。そして、インク供給口24から圧力室25及びノズル連通口26を経てノズル27に至る一連のインク流路が、ノズル27毎に対応して形成されている。
【0023】
図3は、ノズルプレート21の構成を説明する平面図である。なお、各ノズル27には、それぞれを区別するために模式的に通し番号(#1〜#360)を付してある。実施形態におけるノズルプレート21は、インクを噴射するノズル27が、図1に示した記録紙6の搬送方向と平行に360個が並ぶノズル列(ノズル群の一種)を構成している。実施形態におけるノズル列は、ノズル27が例えば360dpi(dot per inch)の形成ピッチで開設されている。なお、図3では、ノズル列が1列のみ図示されているが、これには限られず、記録ヘッド2が噴射可能なインクの種類に応じた数のノズル列がノズルプレート21に形成される。また、1つのノズル列を構成するノズル27の数とノズル27の間隔に関しても図3に例示したものには限られない。
【0024】
図2において、振動板22は、支持板28の表面に弾性体膜29を積層した二重構造である。実施形態では、例えば、金属板の一種であるステンレス板を支持板28とし、この支持板28の表面に樹脂フィルムを弾性体膜29としてラミネートした複合板材を用いて振動板22を作製している。この振動板22には、圧力室25の容積を変化させるダイヤフラム部30が設けられている。また、この振動板22には、リザーバー23の一部を封止するコンプライアンス部31が設けられている。
【0025】
ダイヤフラム部30は、エッチング加工等によって支持板28を部分的に除去することで作製される。即ち、このダイヤフラム部30は、圧電振動子17の先端面が接合される島部32と、この島部32の周囲の支持板28を除去して形成された薄肉弾性部とからなる。上記のコンプライアンス部31は、リザーバー23の開口面に対向する領域の支持板28を、ダイヤフラム部30と同様にエッチング加工等によって除去することにより作製され、リザーバー23に貯留されたインクの圧力変動を吸収するダンパーとして機能する。
【0026】
そして、上記の島部32には圧電振動子17の先端面が接合されており、この圧電振動子17の自由端部を伸縮させることで圧力室25の容積を変動させることができる。この容積変動に伴って圧力室25内のインクに圧力変動が生じる。そして、記録ヘッド2は、この圧力変動を利用してノズル27からインクを噴射させる。
圧電振動子17とダイヤフラム部30とを含む部分をアクチュエーター100と呼ぶ。
【0027】
次に、プリンター1の電気的構成を説明する。
図4は、プリンター1の電気的な構成を説明するブロック図である。外部装置35は、例えばコンピューターやデジタルカメラなどの画像を取り扱う電子機器である。この外部装置35は、プリンター1と通信可能に接続されており、プリンター1において記録紙等の記録媒体に画像やテキストを印刷させるため、その画像等に応じた印刷データをプリンター1に送信する。
【0028】
図4において、プリンター1は、図1に示した紙送り機構8、キャリッジ移動機構7、リニアエンコーダー10、記録ヘッド2、ヘッド制御部53および図1には図示しなかったプリンターコントローラー36を有する。
【0029】
プリンターコントローラー36は、本発明における制御手段の一種であり、プリンター1の各部の制御を行う制御ユニットである。プリンターコントローラー36は、インターフェイス(I/F)部37と、CPU38と、記憶部39と、駆動信号生成部40とを有する。
インターフェイス部37は、外部装置35からプリンター1への印刷データや印刷命令を受け取ったり、外部装置35にプリンター1の状態情報を送ったりする等プリンター1の状態データの送受信を行う。
CPU38は、プリンター1全体の制御を行うための演算処理装置である。記憶部39は、CPU38のプログラムや各種制御に用いられるデータを記憶する素子であり、ROM、RAM、NVRAM(不揮発性記憶素子)を含む。CPU38は、記憶部39に記憶されているプログラムに従って、各ユニットを制御する。
【0030】
CPU38は、リニアエンコーダー10から出力されるエンコーダーパルスEPからタイミングパルスPTSを生成する、タイミングパルス生成手段として機能する。
そして、CPU38は、このタイミングパルスPTSに同期させて印刷データの転送や、駆動信号生成部40による駆動信号COMの生成等を制御する。
また、CPU38は、タイミングパルスPTSに基づいて、ラッチ信号LAT等のタイミング信号を生成して記録ヘッド2の制御部としてのヘッド制御部53に出力する。
【0031】
駆動信号生成部40は、駆動パルス発生手段として機能する部分であり、駆動信号の波形に関する波形データに基づいて、アナログの電圧信号を生成する。
また、駆動信号生成部40は、アナログの電圧信号を増幅して駆動信号COMを生成する。この駆動信号COMは、記録媒体に対する印刷処理(記録処理或いは噴射処理)時に記録ヘッド2の圧力発生手段である圧電振動子17に印加されるものであり、繰り返し周期である単位期間内に、噴射パルスPSを少なくとも1つ以上含む一連の信号である。ここで、噴射パルスPSとは、駆動パルスに相当し、記録ヘッド2のノズル27から液滴状のインクを噴射させるべく圧電振動子17に所定の動作を行わせるものである。
【0032】
図5は、プリンター1の制御方法を示すフロー図である。
図5において、プリンター1の制御方法は、第1工程としての信号変換工程と、第2工程としての補正工程とを含み、補正工程は、第3工程としての基準周波数設定工程と、第4工程としての補正用周波数決定工程と、第5工程としての液体重量差を求める工程と、第6工程としての補正駆動信号生成工程とを含む。
【0033】
信号変換工程では、ヘッド制御部53は、プリンターコントローラー36からの画像情報信号としてのヘッド制御信号(印刷データおよびタイミング信号)を入力信号とし、ヘッド制御信号を、記録ヘッド2のアクチュエーター100の圧電振動子17に対する駆動信号COMの駆動パルスとしての噴射パルスPSの印加制御等を行う駆動信号に変換する。
【0034】
補正工程では、ヘッド制御信号を、噴射パルスPSに補正をかけた補正駆動信号に変換する。
補正工程の基準周波数設定工程では、噴射パルスPS間の最短時間間隔に対応する基準周波数を設定する。
図6は、一例としての駆動信号を示す図である。横方向は時刻で縦方向は電圧を示している。
図6において、駆動信号の中で噴射パルスPS間の時間間隔t0、t1、t2が存在し、時間間隔t0が最も短いとき、1/t0を基準周波数として設定する。
【0035】
補正工程の補正用周波数決定工程では、補正をかける噴射パルスと他の噴射パルスから補正用周波数を決定する。
例えば、補正をかける噴射パルスPSと前の直近の噴射パルスPSとの時間間隔から補正用周波数を決定する。
図6において、例えば、補正をかける噴射パルスPSを噴射パルスPS2とすると、直近の噴射パルスPS1と噴射パルスPS2との時間間隔t0または噴射パルスPS2と直近の噴射パルスPS2との時間間隔t1から補正用周波数1/t0または1/t1を決定する。
その他の方法として、所定の時間内の噴射パルスPSの数をカウントして補正用周波数を決定する。例えば、図6において、所定の時間T内に一つの噴射パルスPS1、二つの噴射パルスPS2、一つの噴射パルスPS3がある場合、4/Tを補正用周波数として決定する。
【0036】
補正工程の液体重量差を求める工程では、補正用周波数において噴射される液体重量と基準周波数において噴射される液体重量との液体重量差を求める。
図7は、インクの噴射周波数(kHz)と、ノズル27から噴射されるインクの重量(ng)との関係(インク重量についての周波数特性)を示すグラフである。
このグラフは、所定範囲の噴射周波数でそれぞれインクを噴射したときの一滴当たりのインク重量の測定結果をプロットしたものである。
補正用周波数において噴射される液体重量および基準周波数において噴射される液体重量は、図7に示したグラフから求めることができる。
【0037】
補正工程の補正駆動信号生成工程では、液体重量差が少なくなる補正を噴射パルスPSに対して行い、補正駆動信号を生成する。
図8は、駆動信号生成部40によって生成される駆動信号COMに含まれる噴射パルスPSの波形例を説明する図である。
駆動信号COMは、繰り返し周期である単位期間ごとに駆動信号生成部40から繰り返し生成される。
単位期間は、記録紙6に印刷する画像等の1画素分に対応する距離だけノズル27が移動する間の期間に対応する。
例えば、印刷解像度が720dpiの場合、単位期間Tは、ノズル27が記録紙6に対して1/720インチ移動するための期間に相当する。
そして、この単位期間内には、噴射パルスPSが発生する期間Tpが少なくとも1つ以上含まれている。即ち、駆動信号COMには、噴射パルスPSが少なくとも1つ以上含まれている。
なお、噴射パルスPSの形状は例示したものには限られず、ノズル27から噴射するインクの量等に応じて種々の波形のものが採用される。
【0038】
図8において、噴射パルスPSの波形の各点における座標e0〜e7が示されている。駆動信号COMが生成される際、プリンターコントローラー36からは、このような駆動信号の波形に関し(時間、電圧)を規定する座標データが送られる。即ち、座標データにおけるXは、e0を原点(基点)としたときの時間(経過時間)を示し、Yはその時間での電圧(電位)を示している。
駆動信号生成部40は、送られた座標データに基づいて座標点間を補間し、各座標データの座標がつなぎ合わされた波形の駆動信号を生成する。つまり、プリンターコントローラー36から送られる各座標データが変化させられると、これに応じて噴射パルスの波形も変化する。
なお、実際の噴射パルスPSにおいて、隣り合う座標点に相当する部分を互いに結んだ部分を波形要素とも言う。
【0039】
例えば、噴射パルスPSの振幅を大きくしたいときには、e2における電圧Y2及びe3における電圧Y3の値を高くし、e4における電圧Y4及びe5における電圧Y5の値を低くする。このようにすることで、噴射パルスPSの振幅が大きくなるので、印加される圧電振動子17の変位はより大きなものとなる。
また、噴射パルスPSの振幅を小さくしたいときには、e2における電圧Y2及びe3における電圧Y3の値を小さくし、e4における電圧Y4及びe5における電圧Y5の値を高くする。このようにすることで、噴射パルスPSの振幅が小さくなるので、印加される圧電振動子17の変位はより小さなものとなる。
図9は、一例としての記録ヘッド2での駆動電圧(V)とインク重量(ng)との関係を示す図である。
噴射パルスPSの振幅としての駆動電圧を変化させることで、噴射されるインク重量の調節が可能であり、所望の噴射パルスPSを生成することができる。
【0040】
また、駆動電圧を変えることなくパルス幅を変えることもできる。
例えば、噴射パルスPSのe3における時間X3の値を大きく(すなわち、時間を長く)したり、時間X3の値を小さく(すなわち、時間を短く)したりすることで、狙いのインク重量を噴射するための駆動信号に補正することが可能である。
図10は、一例としての記録ヘッド2でのパルス幅(μs)とインク重量(ng)との関係を示す図である。
噴射パルスPSのパルス幅を変化させることで、噴射されるインク重量の調節が可能であり、所望の噴射パルスPSを生成することができる。
【0041】
次に、上記のように構成された実施形態におけるプリンター1を用いた画像記録について説明し、得られる効果も述べる。
例えば、ノズル列を構成する各ノズル27に対応する圧電振動子17に対して上記の噴射パルスPSを印加して各ノズル27から記録紙6に向けてインクを噴射させる。これにより、各々の着弾領域にインクを着弾させてドットを形成し、このドットを主走査方向に複数列設することでノズル27毎に主走査ラインをそれぞれ形成する。
印刷する画像をCPU38で処理して、記録紙6の所望の位置にインクを着弾させるために、キャリッジ4が双方向に移動しながら、リニアエンコーダー10で所定の位置を読み取り、タイミングを合わせて、ノズルから噴射させている。このとき、画像によってノズルごとのパルス駆動のタイミングが異なり、インクの噴射周波数が変化する。
【0042】
図7に示すように、所定のノズル27におけるインクの噴射周波数を変化させると、これに伴って当該ノズル27から噴射されるインクの重量が増減することが判る。これは、ノズル27におけるメニスカスの振動状態に起因するものである。
【0043】
ここでは、15kHz以上を高周波数領域とし、15kHz未満を低周波数領域とする。
本実施形態では、紙面上をインクで埋めなければならないベタ印字を行うような時、連続でインクを吐出する場合には、インクの噴射周波数が30kHzに設定される。
高周波数領域では、先のインクの噴射時から次のインクの噴射時までの時間が短いので、噴射直後における圧力室25内のインク(特に、メニスカス)の振動が十分に収束する前に次の噴射が行われることになり、残留振動の位相にもよるが、1滴当たりのインク重量が概ね増加する傾向となる。図7の例では、30kHzのときのインク重量が12.7ngとなっている。
一方、インクの噴射周波数が10kHzに設定された場合、先のインクの噴射時から次のインクの噴射時までの時間が、高周波数領域と比較して長くなる。
この場合、噴射直後における圧力室25内のインクの振動がある程度収束した状態で次の噴射が行われることになり、残留振動の位相にもよるが、1滴当たりのインク重量が概ね減少する傾向となる。
図7の例では、10kHzのときのインク重量が10.3ngであり、高周波数領域の場合と比較して2.4ng減少している。
【0044】
前述のように画像によって噴射周波数が変化することで、画像を形成するための狙いのインク重量が吐出されず(インク重量がばらつく)、色ムラが発生することがある。
また、プリンター1では、インク残量を判定することや、インク消費量を管理するために、インクを噴射した数をカウントしている。
噴射周波数によって、インク重量がばらつくことで、インク消費量にも誤差が出てしまう。その誤差が起きることで、インク重量が狙いよりも多い状態でインク噴射を続けると、カウント上でインク切れになる前に、インクカートリッジ3内のインクがなくなってしまう。
【0045】
従来、このようなインク不足になることを防ぐため、ばらつきの上限を考慮して、1カウントあたりのインク重量を決めている。
反対に、インク重量のばらつきのなかで、インク重量が少ない状態でインク噴射を続けると、カウント上ではインク切れになった場合でもインクカートリッジ3内にはインクが余った状態となる。
上記の誤差を小さくすることができれば、実際に使用するインク消費量は同等で、インクカートリッジ3内に充填しておくインク量を少なくすることができ、カートリッジ製造においてコストダウンに繋がる。
【0046】
実施形態では、誤差を小さくするために、記録ヘッド2に図7のような周波数特性があることを鑑みて、前述の制御方法を行ない、狙い通りのインク重量(ばらつきの少ない)を噴射させ続けることで、画像の色ムラが起こりにくくなり、狙いの画像の画質低下を防止することが可能である。
なおかつ、インクカウンターの精度が向上することで、インクの無駄な消費や、インク不足を防止することが可能である。
【0047】
ところで、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。
例えば、噴射パルスPSの波形に関し、図5に例示したものには限られず、種々の波形の噴射パルスを採用することができる。
【0048】
また、噴射パルスPSの補正に関し、上記実施形態では、電圧を高めたり、低くしたりする補正と、パルス幅を変えることで、インク重量の変動を補正する構成とを例示したが、これには限られない。
例えば、図8において、駆動電圧を変えることなく電位変化(波形要素)の傾きを変えることもできる。
e1における時間X1の値を大きく(すなわち、時間を長く)したり、e4における時間X4の値を小さく(すなわち、時間を短く)したりすることで、電位変化の傾きを急峻にすることができる。これにより、印加される圧電振動子17の変位がより急激になる。
逆に、e1における時間X1の値を小さくしたり、e4における時間X4の値を大きくしたりすることで、電位変化の傾きを緩やかにすることができる。これにより、印加される圧電振動子17の変位がより緩やかになる。
【0049】
また、e2における時間X2の値を大きく(すなわち、時間を長く)したり、e3における時間X3の値を小さく(すなわち、時間を短く)したりすることで、電位変化の傾きを緩やかにすることができる。これにより、印加される圧電振動子17の変位がより緩やかになる。
逆に、e2における時間X2の値を小さくしたり、e3における時間X3の値を大きくしたりすることで、電位変化の傾きを急峻にすることができる。これにより、印加される圧電振動子17の変位がより急峻になる。
【0050】
さらに、上記実施形態では、圧力発生手段として、所謂縦振動型の圧電振動子17を例示したが、これには限られず、例えば、所謂撓み振動型の圧電振動子を採用することも可能である。この場合、例示した駆動信号(噴射パルス)の波形に関し、電位の変化方向、つまり上下が反転した波形となる。
【0051】
そして、本発明は、噴射パルスを用いて液体の噴射制御が可能な液体噴射装置であれば、プリンターに限らず、プロッター、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置や、記録装置以外の液体噴射装置、例えば、ディスプレイ製造装置、電極製造装置、チップ製造装置等にも適用することができる。そして、ディスプレイ製造装置では、色材噴射ヘッドからR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極製造装置では、電極材噴射ヘッドから液状の電極材料を噴射する。チップ製造装置では、生体有機物噴射ヘッドから生体有機物の溶液を噴射する。
【符号の説明】
【0052】
1…プリンター、2…記録ヘッド、6…記録紙、7…キャリッジ移動機構、8…紙送り機構、17…圧電振動子、21…ノズルプレート、25…圧力室、27…ノズル、36…プリンターコントローラー、38…CPU、39…記憶部、40…駆動信号生成部、53…ヘッド制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズルに連通した圧力室と、該圧力室に圧力を加えるアクチュエーターと、該アクチュエーターに補正駆動信号を送る制御部とを有する液体噴射装置の制御方法であって、
CPUから送られてきた画像情報信号を入力信号とし、前記画像情報信号を、前記アクチュエーターを駆動する複数の駆動パルスを含む駆動信号に変換する第1工程と、前記駆動パルスに補正をかけた前記補正駆動信号に変換する第2工程とを含み、
前記第2工程は、前記駆動パルス間の最短時間間隔に対応する基準周波数を設定する第3工程と、
補正をかける駆動パルスと他の駆動パルスから補正用周波数を決定する第4工程と、
前記第4工程の前記補正用周波数において噴射される液体重量と前記基準周波数において噴射される液体重量との液体重量差を求める第5工程と、
前記液体重量差が少なくなる補正を前記駆動パルスに対して行い、前記補正駆動信号を生成する第6工程とを含む
ことを特徴とする液体噴射装置の制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射装置の制御方法において、
前記補正用周波数において噴射される液体重量と前記基準周波数において噴射される液体重量とを、前記アクチュエーターにおける周波数と噴射される液体重量との関係を予め測定して得られたテーブルから求める
ことを特徴とする液体噴射装置の制御方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の液体噴射装置の制御方法において、
補正をかける駆動パルスと前の直近の駆動パルスとの時間間隔から前記補正用周波数を決定する
ことを特徴とする液体噴射装置の制御方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の液体噴射装置の制御方法において、
所定の時間内の駆動パルス数をカウントして前記補正用周波数を決定する
ことを特徴とする液体噴射装置の制御方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の液体噴射装置の制御方法において、
前記液体重量差に対応する補正は、前記駆動バルスの波高電圧を変更することにより行う
ことを特徴とする液体噴射装置の制御方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の液体噴射装置の制御方法において、
前記液体重量差に対応する補正は、前記駆動パルスのパルス幅を変更することにより行う
ことを特徴とする液体噴射装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−111895(P2013−111895A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261491(P2011−261491)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】