説明

液体噴射装置

【課題】圧電素子の経時的変化のばらつきに起因して液体噴射結果に濃淡ムラが発生していた。
【解決手段】複数のノズル毎に設けられた圧電素子を駆動させることにより各ノズルから液体を噴射可能な液体噴射装置であって、上記圧電素子の駆動回数を計測する駆動回数計測部と、上記計測された駆動回数が他の圧電素子と比較して少ない圧電素子に対し、上記計測された駆動回数の差に応じた駆動条件で駆動を実行させる駆動指示部とを備える構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のインク吐出用のノズル毎に設けられた圧電素子を夫々駆動させることにより各ノズルからインクを吐出可能な印刷ヘッドを搭載した、インクジェット式プリンタが知られている。インクジェット式プリンタでは、例えば、印刷ヘッドの下方に供給される印刷用紙に対し各ノズルからインクが吐出されて印刷が行なわれる。
【0003】
また、記録ヘッドのヘルムホルツ周期に応じて放電パルスの継続時間Twd1を変更することにより、ヘルムホルツ周期がばらついている記録ヘッド毎のインク滴速度を一定にし、かつ、各記録ヘッドのインク重量が一定となるように圧電素子に印加する電圧を調整するインクジェット式記録装置が知られている(特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平11‐58729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような印刷ヘッドにおいては、使用期間に応じて圧電素子に経時的変化が生じる。経時的変化とは、製品出荷後において長期間に渡って圧電素子の駆動を何度も繰り返すことで生じる、圧電素子の変形特性の変化である。かかる変化は、ノズルから吐出されるインク滴(ドット)の速度やドットの重量に大きな影響を与える。
ここで、プリンタで印刷される内容はプリンタのユーザによって多種多様であり、印刷内容を表す印刷データによって、多用されるインク色(ノズル列)やノズルの位置の傾向も様々である。従って、ユーザがプリンタを使用し続けることで、徐々に各圧電素子の駆動回数にばらつきが生まれ、結果、吐出されるドットの速度や重量もノズルによって大きくばらつくようになる。このようなばらつきは、印刷結果における濃度ムラや色相のずれを発生させてしまう。
【0005】
また上記文献1は、上述したような製品出荷後における各圧電素子の駆動回数のばらつきに起因する、各ノズルのインク吐出特性のばらつきを解消するものではない。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたもので、圧電素子の経時的変化のばらつきに起因して発生し得る液体噴射結果の濃淡ムラなどを防ぐことが可能な液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明にかかる液体噴射装置は、複数のノズル毎に設けられた圧電素子を駆動させることにより各ノズルから液体を噴射可能であり、駆動回数計測部が、上記圧電素子の駆動回数を計測し、駆動指示部が、上記計測された駆動回数が他の圧電素子と比較して少ない圧電素子に対し、上記計測された駆動回数の差に応じた駆動条件で駆動を実行させる。
本発明によれば、計測された駆動回数が少ない圧電素子については、その計測結果に応じた駆動条件で強制的に駆動が行なわれる。ここで言う駆動条件とは、例えば、駆動回数や駆動電圧が該当する。この結果、例えば各圧電素子の駆動回数が統一され、各圧電素子の駆動回数のばらつきに起因する各ノズルの液体噴射特性のばらつきが解消される。
【0008】
本発明の他の構成として、上記駆動指示部は、上記計測された駆動回数が最多である圧電素子についての駆動回数と、他の圧電素子についての計測された駆動回数との間に所定のしきい値以上の差が生じた場合に、上記駆動回数が最多である圧電素子以外の各圧電素子に対し、それぞれの上記計測された駆動回数と上記駆動回数が最高である圧電素子についての駆動回数との差に応じた駆動条件で駆動を実行させるとしてもよい。当該構成によれば、いずれかの圧電素子にかかる駆動回数が、他の圧電素子よりもある程度突出している場合に、自動的に各圧電素子の駆動回数が統一され、各ノズルの液体噴射特性のばらつきが解消される。
【0009】
本発明の他の構成として、上記駆動指示部は、所定の期間が経過する度に、その時点で上記計測された駆動回数が最多である圧電素子を特定するとともに、当該特定した圧電素子以外の各圧電素子に対し、それぞれの上記計測された駆動回数と上記駆動回数が最多である圧電素子についての駆動回数との差に応じた駆動条件で駆動を実行させるとしてもよい。当該構成によれば、所定の期間毎に、自動的に各圧電素子の駆動回数が統一され、各ノズルの液体噴射特性のばらつきが解消される。
【0010】
上記駆動指示部は、同一種類の液体の噴射に用いられるノズル群に属する圧電素子同士で、上記計測された駆動回数の比較を行い、同一のノズル群に属する各圧電素子の中で上記計測された駆動回数が少ない圧電素子に対し、上記計測の結果に応じた駆動条件で駆動を実行させるとしてもよい。当該構成によれば、同一種類の液体(例えば、同一色のインク)の噴射に用いられるノズル群内における圧電素子の駆動回数が略統一され、その結果、ノズル群内の各ノズルのインク吐出特性を統一することができる。
【0011】
本発明の他の構成として、上記駆動回数計測部は、複数の圧電素子からなる圧電素子群のうちの所定の1つの圧電素子を代表圧電素子として計測し、上記駆動指示部は、前記代表圧電素子を駆動する場合に、該代表圧電素子を含む圧電素子群に含まれる該代表圧電素子以外の圧電素子も該代表圧電素子と同じ駆動条件で駆動させるとしてもよい。
また、上記圧電素子群に含まれる圧電素子は、同一種類の液体の噴射に用いられる圧電素子であるとしてもよい。当該構成によれば、各種類の液体(例えば、各色のインク)の噴射にそれぞれ用いられる各圧電素子群の特性を、圧電素子群同士で略統一することができる。
【0012】
本発明の他の構成として、上記駆動指示部は、上記液体の連続噴射のために圧電素子に印加される駆動信号と同一波形の駆動信号を、上記駆動の対象とした圧電素子に印加して駆動させるとしてもよい。かかる構成とすれば圧電素子に不具合が起きにくく、安全に駆動回数の統一を行なうことができる。ただし上記駆動指示部は、上記液体の連続噴射のために圧電素子に印加される駆動信号よりもパルス波形が密に並んだ特定の駆動信号を、上記駆動の対象とした圧電素子に印加して駆動させるとしてもよい。上記特定の駆動信号を用いることにより、駆動回数の統一を短時間で行なうことができる。
【0013】
また、上記駆動指示部は、液体噴射装置が出力媒体に液体を噴射しない状態である時に圧電素子を駆動させるとしてもよい。つまり駆動指示部は、圧電素子に空打ち(液体が無い状態での駆動)をさせる。
さらに本願においては、上述した各液体噴射装置の各部に対応する処理工程を備えた液体噴射装置の制御(調整)方法の発明や、上述した各液体噴射装置の各部に対応する機能をコンピュータに実行させる液体噴射装置の制御(調整)プログラムの発明も、それぞれ把握可能であることは言うまでも無い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施形態を以下の順に従って、図面を参照しながら説明する。
(1)プリンタの概略構成
(2)第1の実施例
(3)第2の実施例
【0015】
(1)プリンタの概略構成
図1は、本実施形態にかるプリンタ10の概略構成を、ブロック図により示している。プリンタ10は、印刷ヘッドユニット20を搭載したインクジェット式プリンタであり、プリンタ10や印刷ヘッドユニット20は、液体噴射装置の一例に該当する。プリン10では、CPU(Central Processing Unit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13、通信I/F14、紙送り機構15、キャリッジ機構16、ヘッド駆動部17、印刷ヘッドユニット20、等がバス10aを介して接続され、CPU11がROM12に書き込まれたプログラムに従って各部を制御する。
【0016】
通信I/F14は、図示しないコンピュータとプリンタ10とを通信可能に接続するインターフェースであり、接続したコンピュータから、印刷指示および印刷内容を表した印刷データ(インク色別のラスタデータ)の送信などを受付ける。ただしプリンタ10は、所定のカードインターフェースを介して記録メディア(例えば、メモリカード等)から画像データを取得し、この画像データに基づいてラスタデータを生成し印刷を行う、いわゆるダイレクトプリントに対応した機種であってもよい。
【0017】
キャリッジ機構16は、CPU11に制御されて、プリンタ10が備える図示しないガイドレールに沿って不図示のキャリッジを往復動させる駆動装置である。キャリッジには印刷ヘッドユニット20が搭載されている。紙送り機構15は、CPU11に制御されることにより、不図示の紙送りローラによって印刷用紙をキャリッジの往復動方向(主走査方向)と略直交する向き(紙送り方向)に所定の速度で搬送する。
【0018】
印刷ヘッドユニット20は、複数のインク色(図の例では、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)。)にそれぞれ対応する印刷ヘッド20a,20b,20c,20dの集合体である。印刷ヘッドユニット20を構成する印刷ヘッドの数や、印刷ヘッドが対応するインクの種類は特に限られない。印刷ヘッドユニット20には、上記複数のインク色に対応するインクカートリッジ18が搭載される。印刷ヘッド20a〜20dにはそれぞれ、複数のインクジェットノズル(単にノズルと呼ぶ。)が設けられているとともに、ノズルのそれぞれに対応して圧電素子(ピエゾ素子)が設けられている。
【0019】
図2は、印刷ヘッドユニット20の下面22を示している。下面22は印刷用紙(出力媒体)と相対する面である。下面22においては、複数のノズルが紙送り方向に沿って並んだ列(ノズル列)が複数形成されている。図2では、各インク色C,M,Y,Kそれぞれに対応したノズル列を示している。ノズル列を構成するノズル数は特に限られないが、例えば1つのノズル列は、360個のノズル♯1〜♯360からなる。下面22におけるインク色ごとのノズルの列は、1色につき図2に示すように1列でもよいし、複数列であってもよい。また、ノズルは千鳥状に配列していてもよい。本実施形態では、ノズル番号♯1,♯2…は、紙送り方向における位置が異なるノズルに対して、紙送り方向の下流側から上流側に向けて1から順に番号を付すようにしている。また、ノズル番号の付け方は、各インク色のノズル列とも共通である。
【0020】
図3は、一つのノズルと、ノズルに対応するピエゾ素子とを簡易的に示している。図3に示すように、ピエゾ素子PEは、ノズルNzまでインク(液体)を導くインク通路25bに接する位置に設置されている。ピエゾ素子PEの両端に設けられた電極間に所定時間幅のパルス電圧(駆動信号DRV)が印加されるとピエゾ素子PEは駆動する。つまり、ピエゾ素子は、電圧の印加時間だけ伸張(変形)し、インク通路25bの一側壁を変形させる。この結果、インク通路25bの体積はピエゾ素子PEの伸張に応じて収縮し、インク通路25b内にインクが存在している場合には、この収縮分に相当するインクがインク滴(ドット)IpとなってノズルNzの先端から高速に吐出される。
【0021】
CPU11は、上記ラスタデータに対応する印加電圧データを生成し、当該印加電圧データをヘッド駆動部17に出力する。印加電圧データは、画素毎のドットのオン・オフを規定したデータである。ヘッド駆動部17は、印加電圧データに基づいて、印刷ヘッド20a〜20dに内蔵された各ピエゾ素子への駆動信号DRVを生成するとともに、この生成した駆動信号DRVを印刷ヘッド20a〜20dに供給することにより、印刷ヘッド20a〜20dのノズルからドットを吐出させる。その結果、印刷用紙にドットが着弾し、上記ラスタデータに対応する画像が印刷される。
【0022】
(2)第1の実施例
上述したプリンタ10の構成を用いて行う第1の実施例について説明する。
図4は、プリンタ10の製品出荷時における、ノズルとノズルから吐出されるドットの重量Iwとの関係を示している。図4では、横軸をノズル番号♯1〜♯360とし、縦軸を重量Iwとしている。また、K,C,Mそれぞれのノズル列における各ノズルと重量Iwとの関係を同時に示している。図4から判るように、プリンタ10の出荷時においては、インク色間ではドットの重量Iwに差が多少あるものの、いずれのインクにかかるノズル列も、同じ列内での重量Iwのばらつきはほとんど無い。
【0023】
一方、図5は、プリンタ10が出荷されてからある程度の期間が経過した後のノズルとドットの重量Iwとの関係を示している。図5においても図4と同様に、横軸をノズル番号♯1〜♯360とし、縦軸を重量Iwとし、また、K,C,Mそれぞれのノズル列における各ノズルと重量Iwとの関係を示している。図5に示すように、プリンタ10が出荷されてしばらく期間が経過すると、共通のノズル列に属する各ノズルから吐出されるドットの重量Iwに差が生じてくる。かかる差は、各ノズルの使用頻度の差に起因する。各ノズルがそれぞれ対応するピエゾ素子は、その駆動回数(以下では、変形回数とも言う。)の増加に伴い、一回毎の変形時の変形量(伸張の度合い)が徐々に低下する性質を持っており、一回の変形あたりの変形量が低下すれば、ノズルから吐出されるドットの重量Iwも減少する。
【0024】
そのため、各ピエゾ素子の変形回数にばらつきが生じれば、このばらつきに応じ、各ピエゾ素子が対応する各ノズルから吐出されるドットの重量Iwにも差が出てくる。ユーザがプリンタ10をある程度の期間、任意に使用すれば、各ノズルの使用頻度には自然と差が出てくるものであり、また、このような使用頻度の差はユーザが印刷する画像や文書の内容の影響を受ける。そこで第1の実施例では、プリンタ10が以下の中間エージング処理を実行することにより、図5に示したようなノズル間でのインク重量Iwのばらつきを解消する。
【0025】
図6は、プリンタ10が実行する中間エージング処理をフローチャートにより示している。当該処理は、ユーザによるプリンタ10の使用と一部並行して行われる。
ステップS(以下、ステップの表記は省略。)100では、プリンタ10は、印刷ヘッドユニット20が有するノズルがそれぞれ対応するピエゾ素子毎の変形回数の計測を継続的に行う。つまり、ドット吐出のための動作をこれまでに何回行ったかをノズル毎(ピエゾ素子毎)にカウントする。なお、プリンタ10の出荷時には上記カウント数はいずれのピエゾ素子に関しても「0」である。
【0026】
変形回数の計測方法は様々な方法が考えられ、例えばCPU11は、各ピエゾ素子に対してヘッド駆動部17が供給した駆動信号DRVのパルス波形の数を、ピエゾ素子別に取得する。この場合の前提として、ヘッド駆動部17は、印刷ヘッドユニット20が備えるメモリ21や、あるいはRAM13等に、ピエゾ素子毎の変形回数を記録するための領域を確保している。そして、ヘッド駆動部17は、ピエゾ素子に駆動信号DRVを供給する度に、供給した駆動信号DRVにおけるパルス波形の数を、当該供給先のピエゾ素子について上記メモリ21やRAM13等にこれまでに記録した変形回数に加えることにより、情報を随時更新する。
【0027】
CPU11は、定期的に上記メモリ21またはRAM13にアクセスし、その時点で記録されているピエゾ素子別の最新の変形回数を取得する。このように上記S100の処理を実行する点で、プリンタ10は駆動回数計測部を備えていると言える。
S110では、CPU11は、上記計測(取得)したピエゾ素子毎の変形回数に基づいて、その時点で他のノズルよりも駆動回数が突出しているノズルが存在するか否か判断する。
【0028】
上記S110における判断は、例えば以下のように行なう。CPU11は、同一色のインクの吐出に用いられるノズル群のそれぞれにおいて、ピエゾ素子の変形回数が最も多いノズル(最多回数ノズルと呼ぶ。)を特定する。図2に示したようにインク色毎に1つのノズル列が存在する場合には、ノズル列毎に最多回数ノズルが特定されることになる。次に、CPU11は、上記特定した最多回数ノズルにかかる変形回数と、同じノズル群に属する他のいずれかのノズルにかかる変形回数との間に、所定のしきい値TH1以上の差が生じているか否か判断する。例えば、Cインクに対応するノズル群内の最多回数ノズルにかかる変形回数が2億回であり、上記しきい値TH1が1億回であるとする。この場合、Cインクに対応するノズル群内に、変形回数が1億回未満のノズルが存在すれば、Cインクに対応するノズル群内には、駆動回数が突出したノズルが存在する(Yes)と判断する。このような判断は、各インク色に対応するノズル群毎に行なう。
【0029】
上記の判断手法はあくまで一例である。CPU11は、同じノズル群内において変形回数が最多のノズルと変形回数が最少のノズルとの変形回数の差を求め、当該差が所定のしきい値TH2以上である場合に、当該ノズル群内に駆動回数が突出したノズルが存在すると判断してもよい。S110において、いずれかのインク色にかかるノズル群について、駆動回数が突出したノズルが存在すると判断した場合にはS120に進み、一方、いずれのインク色にかかるノズル群についても、駆動回数が突出したノズルは存在しないと判断した場合には、上記S100の計測を続ける。上記しきい値TH1,TH2の値は特に限定されるものではない。しきい値TH1,TH2は、例えばROM12に予め記録されており、CPU11は適宜この記録されたしきい値TH1,TH2を利用する。
【0030】
S120では、CPU11は、上記S110において駆動回数が突出したノズルが存在すると判断されたノズル群に属する各ノズルを対象として、エージング量(空打ちの回数)を設定する。CPU11は、上記最多回数ノズルにかかる変形回数と、他のノズルにかかる変形回数との差を、他のノズルについてのエージング量として設定する。このように設定されたエージング量は、本発明における駆動条件に該当する。
【0031】
図7は、ノズルとエージング量との関係を示している。図7では、横軸をノズル番号♯1〜♯360とし、縦軸をエージング量としている。また、K,C,Mそれぞれのノズル列における各ノズルとエージング量との関係を同時に示している(つまり、K,C,Mインクに対応する各ノズル列にそれぞれ駆動回数が突出したノズルが存在すると上記S110で判断された場合を想定している。)。ここで一例として、Cインクに対応するノズル列を対象として設定されたエージング量について説明する。図5に示したCインクに対応する曲線では、ノズル番号♯Nについてのドット重量Iwが最も低い値を示している。つまり、Cインクのノズル列では、ノズル番号♯Nのノズルが最多回数ノズルとなり、このノズル番号♯N以外のノズルに対して、それぞれの変形回数とノズル番号♯Nのノズルの変形回数との差分に応じた空打ち回数がエージング量として設定される。
【0032】
S130では、CPU11は、ノズルの空打ちを行なうための準備として、印刷ヘッド20a〜20d内に残留しているインクを抜くための制御処理を行なう。この場合、少なくとも直近のS120においてエージング量の設定が行なわれたインク色にかかる印刷ヘッドからインクを抜くようにする。印刷ヘッド20a〜20dからインクを抜くための手法は特に限られないが、例えば次のような手法が考えられる。
【0033】
インクカートリッジ18から各ノズルまでインクを導くための印刷ヘッド20a〜20d内に形成されたインク供給路の所定箇所には、通常、インクの供給を止めることが可能な封止弁が設けられている。そこでCPU11は、印刷ヘッド20a〜20dを制御してこの封止弁によって上記供給路を封止状態とした上で、下面22に対し、プリンタ10が備える図示しない吸引ポンプを当接させて吸引させることにより、ノズル側から印刷ヘッド20a〜20dの内部に負圧を与える。そして、ある程度の負圧が発生した状態で、上記封止弁による封止状態を解除させる。すると、印刷ヘッド20a〜20d内に残留していたインクが一気にノズルから外部(吸引ポンプ)へと排出され、印刷ヘッド20a〜20d内が空の状態となる。
【0034】
S140では、CPU11はヘッド駆動部17を制御して、上記S120において設定したノズル毎のエージング量に基づいたノズル毎の駆動信号を生成させるとともに、当該生成したノズル毎の駆動信号を、対応するピエゾ素子に供給させる。S140で生成される駆動信号は、エージング量が示す空打ち回数分のパルス波形を連続的に有した駆動信号である。このような駆動信号の供給を受けたピエゾ素子は、駆動信号が含むパルス波形の数だけ変形(空打ち)を繰り返すことになる。
S140の結果、上記S110において駆動回数が突出したノズルが存在すると判断されたノズル群に関し、共通のノズル群に属する全てのノズルのピエゾ素子の変形回数が統一される。
【0035】
なお、上記空打ちのためにヘッド駆動部17が生成する駆動信号は、プリンタ10による印刷時においてノズルからドットを連続的に吐出させるために生成する駆動信号と同じ信号であってもよいし、上記ドットの連続吐出に用いる駆動信号とは異なる空打ち専用の駆動信号であってもよい。つまり、ドットの連続吐出の際に実際にピエゾ素子に印加する駆動信号をそのまま上記空打ちにも用いれば、印刷ヘッドに不具合が生じにくく、空打ち時の安全性が確保される。一方、上記空打ち専用の駆動信号として、上記ドットの連続吐出に用いられる駆動信号よりも、ピエゾ素子を変形させるパルス波形が密に並んだ特定の駆動信号を用いれば、上記空打ちを短時間で終わらせることができ、ユーザがプリンタ10を使用できない期間を短縮することがきる。
【0036】
このようにS110〜S140の処理を実行する点で、プリンタ10は駆動指示部を備えていると言える。
S150では、CPU11は、上記メモリ21等に記録されたピエゾ素子毎の変形回数のうち、上記S140において空打ちの対象としたノズル群に属する全てのピエゾ素子の変形回数を「0」にリセットし、上記S100に戻る。つまり、エージング量に基づいて空打ちを行なったノズル群については、ノズル群内の各ノズルの駆動回数が同数に統一されているため、それまでの計測で得られた変形回数を0に戻して、上記計測を再開する。
【0037】
図8は、上記中間エージング処理後における、上記空打ちの対象としたノズル群(ノズル列)の各ノズルと、各ノズルから吐出されるドットの重量Iwとの関係を示している。図8も図4と同様に、横軸をノズル番号♯1〜♯360とし、縦軸を重量Iwとしている。また、K,C,Mそれぞれのノズル列における各ノズルと重量Iwとの関係を同時に示している。図8から判るように、中間エージング処理後においては、製品の出荷直後と同様に、いずれのインクにかかるノズル列も同一列内での重量Iwのばらつきはほとんど無い状態となる。
【0038】
中間エージング処理の内容は、上述したフローチャートに限られない。
上記では、最多回数ノズルのピエゾ素子の変形回数と、他のノズルのピエゾ素子の変形回数との差がある基準を超えたことを条件として、最多回数ノズル以外のノズルの空打ちを行なうとした。そのため、ノズル間で看過できないほどのインクの重量Iwのばらつきが生じ得る状況においては、すぐさま上記空打ちが行なわれ、ユーザにとってプリンタ10のインク吐出性能が不適切である時期が殆ど無いという効果がある。しかしその一方で、上記空打ちが頻繁に行われるようにすると、ユーザのプリンタ10の使用が何度も妨げられてしまうという問題もある。そこで上記空打ち処理は、ある期間毎に定期的に行なうとしてもよい。
この場合、S110では、他のノズルよりも駆動回数が突出するノズルが存在するか否かという判断を行なうのではなく、例えば「前回のカウント開始日から所定の日数が経過したか?」という判断を行なう。
【0039】
前回のカウント開始日とは、例えば直近のS150の処理を行なった日であり、またプリンタ10の出荷当初は、プリンタ10の出荷日が該当する。この出荷日の情報は、例えば印刷ヘッドユニット20のメモリ21等に記録されており、また、S150の処理を行なう度に、CPU11はカウント開始日を書き換える。また上記所定の日数とは、例えば1年などといった日数であり、この所定の日数を定義する情報も例えばROM12等に予め記録されている。CPU11は、プリンタ10が内蔵するタイマに基づく日時情報に基づいて、前回のカウント開始日から所定の日数が経過していると判断した場合には、S120に進む。S120ではCPU11は、図6のフローチャートのように駆動回数が突出したノズルが存在すると判断されたノズル群だけを対象として各ノズルのエージング量を設定するのではなく、全てのノズル群をそれぞれ対象として各ノズルのエージング量を設定する。この結果、S140では基本的に、各ノズル群の最多回数ノズルに対応するピエゾ素子以外の全てのピエゾ素子に対して、対応するエージング量に基づく駆動信号が供給され、空打ちが実行される。
【0040】
このように第1の実施例によれば、ユーザが所望の印刷を繰り返すことにより各ノズルのピエゾ素子の変形回数にある所定の差が生じたタイミングにて、あるいは、予め定めた所定期間毎に、同一色のインクの吐出に用いられるノズルの集合であるノズル群内でピエゾ素子の変形回数が統一されるように、各ピエゾ素子の空打ちを実行するとした。その結果、同じ色のインクの吐出に用いられる各ノズルについて、ピエゾ素子の変形特性が均一化され、吐出されるドットの重量Iwやドット速度も均一化される。よって、従来の印刷結果において見られていたような、ピエゾ素子の変形回数のばらつきに起因する濃淡ムラなどを無くすことができる。
【0041】
ただし上記第1の実施例において、印刷ヘッドユニット20が有する全てのピエゾ素子の変形回数を統一するように空打ちを行なうとしてもよい。つまり、印刷ヘッドユニット20が有する全てのノズルの中でピエゾ素子の変形回数が最も多いノズルを特定し、この特定したノズルのピエゾ素子の変形回数との差を埋めるエージング量を、吐出するインク色の違いによらず他の全てのノズルに対して夫々設定する。このような構成とすれば、印刷ヘッドユニット20が有する全てのノズルから吐出されるドットの重量Iwやドット速度を均一化することができる。
なお、当該第1の実施例では、1つ1つのピエゾ素子別に駆動回数の計測を行なうとしたが、駆動回数の計測は、所定条件を満たす駆動の回数を計測するものであればよい。例えば、所定本数(2本以上)のノズルに対応する複数のピエゾ素子を一つのグループとし、かかるグループ毎に駆動回数を計測してもよい。この場合、駆動回数の比較やエージング量の設定も、グループ単位で行なうこととなる。
【0042】
(3)第2の実施例
プリンタ10の構成を用いて行なう第2の実施例について説明する。
第2の実施例では、各インク色(C,M,Y,K)のノズル群をそれぞれ一つの単位として、各単位のピエゾ素子の駆動回数を計測する。
【0043】
図9は、プリンタ10が実行する第2の実施例にかかる中間エージング処理をフローチャートにより示している。
S200では、プリンタ10は、ノズル群毎のピエゾ素子の変形回数の計測を継続的に行なう。ノズル群毎のピエゾ素子の変形回数とは、共通のノズル群に属するノズルのピエゾ素子(圧電素子群)の変形回数の合計値である。上記第1の実施例で説明したように、メモリ21等においては、ピエゾ素子毎の最新の変形回数がヘッド駆動部17によって随時更新されている。そこでCPU11は、定期的に上記メモリ21等にアクセスし、その時点で記録されているピエゾ素子別の最新の変形回数を取得するとともに、取得したピエゾ素子毎の変形回数を、ノズル群が共通する(対応するインク色が共通する)もの同士で合計する。その結果、Cインクに対応するピエゾ素子の変形回数の合計値、Mインクに対応するピエゾ素子の変形回数の合計値、Yインクに対応するピエゾ素子の変形回数の合計値、Kインクに対応するピエゾ素子の変形回数の合計値、といった情報が得られる。
【0044】
S210では、CPU11は、上記計測(取得)したノズル群毎のピエゾ素子の変形回数(ノズル群毎の変形回数合計値と呼ぶ。)に基づいて、その時点で他のノズル群よりも駆動回数が突出しているノズル群が存在するか否か判断する。例えばCPU11は、ノズル群毎の変形回数合計値の中で最も値が多い合計値(最高合計値)を特定し、次に、当該最高合計値と他のいずれかのノズル群の変形回数合計値との間に、所定のしきい値TH3以上の差が生じているか否かにより判断する。あるいは、CPU11は、上記最高合計値と、ノズル群毎の変形回数合計値の中で最も値が低い合計値との差を求め、当該差が所定のしきい値TH4以上である場合に、駆動回数が突出したノズル群が存在すると判断してもよい。
【0045】
上記S210において、駆動回数が突出したノズル群が存在すると判断した場合、CPU11は、S220において、上記最高合計値と他のノズル群の変形回数合計値との差を、上記最高合計値が得られたノズル群以外の各ノズル群についてのエージング量として決定する。つまり、仮にCインクにかかるノズル群の変形回数合計値が最高合計値であれば、この最高合計値と、他のインク(例えばMインク)にかかるノズル群の変形回数合計値との差が、当該他のインク(Mインク)にかかるノズル群に対するエージング量となる。
【0046】
ただし、このように決定したエージング量は、あくまでノズル群全体に対する空打ち回数でるため、さらにそのノズル群を構成する各ノズルに対するエージング量を設定する必要がある。CPU11は、例えば、一つのノズル群に対するエージング量を当該一つのノズル群を構成するノズル数で割った値を、当該一つのノズル群を構成する各ノズルに対するエージング量として設定する。あるいは、CPU11は、一つのノズル群を構成するノズル毎の変形回数のばらつきを埋めるように、ノズル毎の変形回数に応じて、当該一つのノズル群に対するエージング量を各ノズルに配分することにより、各ノズルに対するエージング量を設定するとしてもよい。
【0047】
S230,S240の処理内容は、上記S130,S140と同様である。
S240までの処理の結果、上記最高合計値が得られたノズル群以外の各ノズル群において、各ノズルに対応するピエゾ素子の変形(空打ち)が行なわれ、その結果、ノズル群毎の変形回数の合計値が、全てのノズル群の間で統一される。
S250では、CPU11は、上記メモリ21等に記録されているピエゾ素子毎の変形回数を全て「0」にリセットし、上記S200に戻る。
【0048】
なお第2の実施例においても、上記空打ち処理を定期的に行なうとしてもよい。つまり、S210では、他のノズル群よりも駆動回数が突出したノズル群が存在するか否かという判断を行なうのではなく「前回のカウント開始日から所定の日数が経過したか?」という判断を行なう。S220以降の処理は図9の通りである。
【0049】
このように第2の実施例によれば、ユーザが所望の印刷を繰り返すことによりノズル群毎の変形回数合計値に所定の差が生じたタイミングにて、あるいは予め定めた所定期間毎に、ピエゾ素子の変形回数の合計が最も多いノズル群に、他のノズル群のピエゾ素子の変形回数の合計が追い付くように各ピエゾ素子の空打ちを実行するとした。その結果、各インク色に対応するノズル群同士のドット吐出特性(ドットの重量Iwやドット速度)がほぼ均一化され、印刷結果における色相のずれ等が防止される。
【0050】
また第2の実施例では、上記のようにインク色毎の各圧電素子群の変形回数合計値をそれぞれ計測するのではなく、各圧電素子群の代表圧電素子の変形回数(駆動回数)を計測するとしてもよい。代表圧電素子とは、例えば、各インク色の圧電素子群ごとに一つずつ、ノズル番号等で予め定められたピエゾ素子を言う。この場合プリンタ10は、S200では、インク色毎の各代表圧電素子の変形回数を計測し、S210では、かかる代表圧電素子同士の変形回数の比較結果に基づいて、その時点で他のノズル群よりも駆動回数が突出しているノズル群が存在するか否か判断(当該判断には、所定のしきい値を適宜用いる)する(あるいは、「前回のカウント開始日から所定の日数が経過したか?」という判断を行なう。)。そして、S220では、計測された変形回数が最多であった代表圧電素子の変形回数と、当該変形回数が最多であった代表圧電素子以外の各代表圧電素子の変形回数との差を、変形回数が最多であった代表圧電素子以外の各代表圧電素子についてのエージング量として夫々設定する。さらに、S220では、代表圧電素子以外の各ピエゾ素子に対し、そのピエゾ素子が属する圧電素子群の代表圧電素子に設定したエージング量と同一のエージング量を設定する。この結果、S240では、変形回数が最多であった代表圧電素子を含む圧電素子群以外の各圧電素子群において、圧電素子群別に設定された一つのエージング量(空打ち回数)にて各ピエゾ素子の空打ちが行なわれる。このように、代表圧電素子の変形回数だけを計測すれば、変形回数の計測処理およびエージング量の設定処理を簡易に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】プリンタの概略構成を示したブロック図である。
【図2】印刷ヘッドユニットの下面におけるノズル配列の例を示した図である。
【図3】ピエゾ素子の伸張でノズルからドットが吐出される様子を示した図である。
【図4】製品出荷時におけるノズルとインク重量との関係を示した図である。
【図5】製品出荷後のノズルとインク重量との関係を示した図である。
【図6】第1の実施例にかかる中間エージング処理を示したフローチャートである。
【図7】ノズルとエージング量との関係を示した図である。
【図8】中間エージング処理後のノズルとインク重量との関係を示した図である。
【図9】第2の実施例にかかる中間エージング処理を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0052】
10…プリンタ、11…CPU、12…ROM、13…RAM、17…ヘッド駆動部、18…インクカートリッジ、20…印刷ヘッドユニット、20a,20b,20c,20d…印刷ヘッド、21…メモリ、22…下面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズル毎に設けられた圧電素子を駆動させることにより各ノズルから液体を噴射可能な液体噴射装置であって、
上記圧電素子の駆動回数を計測する駆動回数計測部と、
上記計測された駆動回数が他の圧電素子と比較して少ない圧電素子に対し、上記計測された駆動回数の差に応じた駆動条件で駆動を実行させる駆動指示部と、
を備えることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
上記駆動指示部は、上記計測された駆動回数が最多である圧電素子についての駆動回数と、他の圧電素子についての計測された駆動回数との間に所定のしきい値以上の差が生じた場合に、上記駆動回数が最多である圧電素子以外の各圧電素子に対し、それぞれの上記計測された駆動回数と上記駆動回数が最高である圧電素子についての駆動回数との差に応じた駆動条件で駆動を実行させることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
上記駆動指示部は、所定の期間が経過する度に、その時点で上記計測された駆動回数が最多である圧電素子を特定するとともに、当該特定した圧電素子以外の各圧電素子に対し、それぞれの上記計測された駆動回数と上記駆動回数が最多である圧電素子についての駆動回数との差に応じた駆動条件で駆動を実行させることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
上記駆動指示部は、同一種類の液体の噴射に用いられるノズル群に属する圧電素子同士で、上記計測された駆動回数の比較を行い、同一のノズル群に属する各圧電素子の中で上記計測された駆動回数が少ない圧電素子に対し、上記計測の結果に応じた駆動条件で駆動を実行させることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の液体噴射装置。
【請求項5】
上記駆動回数計測部は、複数の圧電素子からなる圧電素子群のうちの所定の1つの圧電素子を代表圧電素子として計測し、
上記駆動指示部は、前記代表圧電素子を駆動する場合に、該代表圧電素子を含む圧電素子群に含まれる該代表圧電素子以外の圧電素子も該代表圧電素子と同じ駆動条件で駆動させることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の液体噴射装置。
【請求項6】
上記圧電素子群に含まれる圧電素子は、同一種類の液体の噴射に用いられる圧電素子であることを特徴とする請求項5に記載の液体噴射装置。
【請求項7】
上記駆動指示部は、上記液体の連続噴射のために圧電素子に印加される駆動信号と同一波形の駆動信号を、上記駆動の対象とした圧電素子に印加して駆動させることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の液体噴射装置。
【請求項8】
上記駆動指示部は、液体噴射装置が出力媒体に液体を噴射しない状態である時に圧電素子を駆動させることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−166273(P2009−166273A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4044(P2008−4044)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】